| Name | Dialogue |
| scene1 | 秘境の石盤 |
| ミクリオ | ガイ、クレス。ここから先は何があるかわからない。気を付けて進んでくれ |
| クレス | うん。忠告ありがとう、ミクリオ。今のところは魔物の気配もないし、大丈夫だよ |
| ガイ | しかし、ずいぶんと登ったなぁ。その秘境とやらはまだ先なのか? |
| ミクリオ | ああ、もう少しかかる。疲れたなら、一度休憩を… |
| ガイ | いや、俺は平気だ。ただ、お前が早く着きたいって顔してるもんだからさ |
| クレス | あはは。確かに、街にいる時より生き生きしているみたいだね |
| ミクリオ | …この辺りは、僕が知る限り、まだ本格的な調査がされていないんだ |
| ミクリオ | 未知の何かがあるかもしれないと思うと、つい気が急いて…ね |
| ガイ | やれやれ。ミクリオは本当にその未知ってヤツにご執心だな |
| ミクリオ | …ん?ガイ、止まってくれ。君の足元の花を少し調べたい |
| ガイ | 何だ、お前が花を気にするなんて珍しいな |
| クレス | 僕にはただの花しか見えないけど…。これがどうかしたのかい? |
| ミクリオ | … |
| ミクリオ | この花、図鑑で見た事がない種だ |
| ミクリオ | シロツメヤグルマソウの亜種か?いや、それにしては花弁の形が違う。という事は、やはりこれは… |
| ガイ | その花、そんなに珍しいものなのか? |
| ミクリオ | ああ。これはおそらく新種だ |
| ミクリオ | この植物を詳しく調べる事で、植物学だけではなく、薬学の進歩も望めるかもしれない |
| ミクリオ | この発見は、ラザリス様の望む平和な世界にとって大きな意味を持つ可能性だってある |
| ガイ | なるほど…そいつはすごいな。うっかり踏み潰さなくてよかったよ |
| クレス | 本来の目的とは違うけど、ミクリオの調査が実を結びそうで僕も嬉しいよ |
| ミクリオ | …それだけか?いつもはここでもっと、議論や推論を重ねて── |
| ガイ | いつも?俺達、議論なんてした事あったか? |
| ミクリオ | …! |
| ミクリオ | あ…いや、何でもない……忘れてくれ |
| ミクリオ | … |
| ミクリオ | …いつも付き合わせてしまってすまないな |
| クレス | そんな水臭い事を言わないでくれよ。僕達は友達じゃないか |
| ガイ | クレスの言う通りだ。今さら、遠慮する必要なんてないさ |
| ミクリオ | 二人共… |
| ミクリオ | よし、もう少し先まで進んでみよう。さっきみたいな発見がまだあるかもしれない |
| クレス | ああ、行こう! |
| scene2 | 秘境の石盤 |
| クレス | だいぶ奥まで進んで来たね |
| ガイ | そうだな…周囲の空気もどことなく重くなってきた気がする |
| ガイ | なあミクリオ、今回はそろそろ切り上げた方がいいんじゃないか? |
| ミクリオ | いや、もう少しだけ探させてくれ |
| クレス | 何か気になる事でもあるのかい? |
| ミクリオ | …確証があるわけではないんだ。ただ、土が… |
| ガイ | 土? |
| ミクリオ | ああ。この一帯の土は本来の山のものとは違うようなんだ |
| ミクリオ | 普通なら、局地的に地質が変わるなんて事は、まずありえない |
| ミクリオ | だが、自然物ではない何かの影響を受けたせいだという仮説を立てると、説明がつけられるようになるんだ |
| クレス | なるほど。ミクリオは、その先を調べたいんだね |
| ガイ | 俺にはどこも同じに見えるが… |
| ガイ | ま、ミクリオがまだ調べたいって言うなら、最後までとことん付き合うさ |
| クレス | そうだね。土の調査に、つちあうよ! |
| クレス | ──なんてね |
| ミクリオ | …… |
| ガイ | えーと…じゃあ、とりあえずこの辺をもう一周してみるか |
| ミクリオ | あ、ああ…そうだな… |
| ミクリオ | とはいえ、闇雲に見て回るのは── |
| ミクリオ | …! |
| ガイ | ん?どうしたんだ? |
| ミクリオ | これは… |
| ガイ | 泥だらけだが…石盤のように見えるな |
| ミクリオ | ああ!これは間違いなく人工的に造られた物だ…! |
| クレス | そうなのかい?僕にはただの平らな石に見えるけど… |
| ミクリオ | ほら、表面にこびりついた泥を払うと… |
| クレス | あ!何か紋様のようなものが…! |
| ミクリオ | やっぱり…。これは「人工遺物」だ |
| ガイ | 「人工遺物」…人が立ち入らないはずの秘境で、何故か見つかる謎の人工物、か |
| ミクリオ | ああ。本に載っていなければ、説明出来る学者もいない |
| ミクリオ | けれどこの世界には、確実に複数の「人工遺物」が存在している |
| ミクリオ | これもその一つだとしたら、間違いなく今日一番の大発見だ |
| ガイ | …なあ、ミクリオ。その石盤と同じような物、この前の調査で見つけなかったか? |
| クレス | ああ、以前ミクリオが「螺旋模様の石盤」って名付けた遺物の事だね |
| ミクリオ | …!そう言われれば、確かに似ているな… |
| ミクリオ | 見つかった場所が遠すぎるし、偶然だとは思うが…確証もなしに否定は出来ないな |
| ミクリオ | もし二つの石盤に関連性が見つかれば…人工遺物の研究が大きく進む事になるかもしれない |
| ミクリオ | 何にせよ、一度持ち帰って詳しく調べてみた方がよさそうだ |
| ガイ | まあ、何はともあれ、いいお土産が出来たな |
| クレス | それじゃあ、今日の調査はこの辺で終わりにしようか。遅くなると危険だしね |
| ミクリオ | ああ、そうだな。そろそろ戻ろう |
| | |
| クレス | 今日はいい発見があってよかったね、ミクリオ! |
| ミクリオ | ああ、二人共付き合ってくれてありがとう |
| ガイ | …なあ、ミクリオ |
| ミクリオ | 何だい? |
| ガイ | 俺やクレスは、ただの一般市民だ |
| ガイ | レイザベールの貴族の常識とか、しきたりについてはよくわからない |
| ガイ | だから偉そうな事を言う資格なんかないってわかっちゃいるんだが… |
| ミクリオ | …こんな風に好き勝手に遊んでいて大丈夫なのか、だろう? |
| ガイ | …あー、まあ、そんなところだな |
| クレス | 実際どうなんだい?いろいろと話を聞いていたから、僕も気になっていたんだ |
| ミクリオ | その辺はローエンが上手くやってくれている。心配はいらない |
| ミクリオ | そもそも僕がやっている事は、決して遊びなんかじゃない |
| クレス | うん。ミクリオが真剣に取り組んでる事はよく知っているよ |
| ミクリオ | 「人工遺物」の調査や研究は、いずれこの世界の発展に必要なものになる… |
| ミクリオ | 今はまだ成果は出ていないけれど、長い目で見れば、きっとラザリス様のお役に立つと思う |
| ガイ | そうか…。ま、問題ないならそれでいいんだ |
| ガイ | ミクリオがそこまで考えて判断してるなら、大丈夫だろ |
| クレス | そうだね。僕達はミクリオを応援するよ |
| ミクリオ | ああ。これからもよろしく頼む |
| | |
| | ガサッ |
| ガイ | おっと、話はここまでだな。そこの草むらに何かいるぞ! |
| | |
| | ガルルルル! |
| ミクリオ | 魔物だ!行くぞ、二人共! |
| scene1 | 優雅な?お茶会 |
| ガイ | 思ったよりも早く、レイザベールに戻って来られたな |
| クレス | そうだね。日が落ちるまでは、まだ時間がありそうだ |
| ミクリオ | それにしても、外から帰ってくるといつも思うがこの街は本当に人が多いな… |
| ガイ | レイザベールは帝都に次ぐ大都市だからな |
| ガイ | 貴族も一般市民も大勢いるとなれば、にぎやかなのも無理はないさ |
| ミクリオ | ん…? |
| 貴族の男 | くそ!また入隊試験に落ちた!何故だ!俺の何が白き獅子に相応しくないって言うんだ~! |
| ガイ | …ああいう輩まで「にぎやか」で済ますのは、ちょいとばかり難しいけどな |
| クレス | 荒れる気持ちもわかるけど、あまり感心は出来ないね |
| ガイ | あの家の当主は、今ごろ頭を抱えてるんだろうな |
| ミクリオ | …貴族の間では、白き獅子の一員になる事を尊ぶ風潮があるからね |
| クレス | 白き獅子の騎士となり、ラザリス様にお仕えする事が、何より大事…だったっけ |
| ガイ | 実際その思想通り、白き獅子にはレイザベール出身の騎士がたくさんいるって話だからすごいよな |
| ミクリオ | ああ。そうあるべきと努力して結果を残している点は僕も素直に尊敬する |
| ミクリオ | ただ、武力ばかりを重視して、他を軽視しているところはあまり共感出来ないけど… |
| ガイ | おいおい。そんな事言ったらまずいんじゃないか? |
| ミクリオ | そうだな、気を付けるよ |
| ミクリオ | さてと。僕はこれから博物館に顔を出しに行くけど、君達はどうする? |
| ガイ | 一緒に行きたいところだけど、この後少し用事があってな |
| クレス | 僕も剣の稽古が… |
| ミクリオ | わかった。それじゃあ、今日はこれで |
| ガイ | ああ、じゃあな |
| クレス | また何かあったら、声をかけてね |
| ミクリオ | …さて、戻るとするか |
| | |
| ローエン | お帰りなさいませ、ミクリオ様 |
| ミクリオ | ただいま、ローエン |
| ローエン | そろそろお戻りになられる頃だと思っておりました。今日の首尾はいかがでしたか? |
| ミクリオ | 大収穫だった。新種の植物と、新しい人工遺物の回収に成功した |
| ローエン | それはそれは…よかったですね |
| ミクリオ | 博物館の方はどう…って、聞くまでもないか |
| ローエン | ええ。これまでにミクリオ様が収集された人工遺物の管理は、いつも通り万全です |
| ローエン | 展示物の入れ替えも、随時行っておりますよ |
| ローエン | どれも倉庫の奥にしまい込んでおくには忍びない物ばかりですから |
| ミクリオ | …そうやって展示物を入れ替えたところで、客が来るとは思えないけれど |
| ローエン | いえいえ。こうして博物館を続ける事に、意義があるのですよ |
| ローエン | ミクリオ様の収集した品々は、市民の役に立っていると世間に周知する事が大事なのです |
| ミクリオ | ああ、わかっている。だけど人が来ないんじゃ… |
| ローエン | これからでございますよ |
| ローエン | いずれミクリオ様の調査と研究が実を結べば、この博物館にも大勢のお客様がいらっしゃいます |
| ローエン | その日が来るまで、このローエン、老骨に鞭を打ち、ミクリオ様を支える所存にございます |
| ミクリオ | …まあ、ここの運営については引き続きローエンに任せるよ |
| ローエン | かしこまりました。この後はどうなさいますか? |
| ミクリオ | そうだな…まだ日も高いし、せっかくだから今日見つけた石盤の調査を… |
| | |
| アニス | きゃわーん♪ミクリオ様、みーつけたー☆ |
| ミクリオ | …アニス |
| ローエン | ごきげんよう、アニスさん。ミクリオ様にどのようなご用でしょうか? |
| アニス | 今日は、約束をかなえてもらいに来ましたぁ |
| ミクリオ | 約束? |
| アニス | え~、忘れちゃったんですかぁ?アニスちゃんをお茶会に招待してくれる約束ですよ |
| ミクリオ | そんな約束をした覚えはないんだが… |
| アニス | しましたよ!生誕祭の時に、しっかりと! |
| ローエン | 勿論、覚えておりますよ |
| ローエン | しかし、日取りは特に決めてはいなかったかと存じますが… |
| アニス | そうですけどぉ、いつまでも招待してくれないから直接来ちゃいました♪ |
| アニス | 今日はご都合悪いですか? |
| ミクリオ | いや、特段用事はないが…。わかったよ、約束は約束だ。屋敷でお茶にしようか |
| アニス | きゃわーん!ありがとうございますぅ |
| アニス | それじゃ、早速ミクリオ様のお屋敷に向かいましょう! |
| ミクリオ | …すまないローエン。お茶会の支度を頼む |
| ローエン | かしこまりました |
| scene2 | 優雅な?お茶会 |
| アニス | はぁ…いつ見ても素敵なお庭ですねぇ |
| ミクリオ | ローエンが丹精込めて整えているからな |
| アニス | ローエンさんの淹れてくれたお茶も美味しいですし、最高の気分です |
| ローエン | ほっほっほっ。お褒めに預かり、光栄です |
| アニス | ミクリオ様のお嫁さんになる人は、毎日このお庭を眺めて、美味しいお茶を飲めるんですねぇ |
| ミクリオ | そんなに庭園に興味があるなら、アニスも自宅の庭に作ったらいいんじゃないか? |
| アニス | …もー!ミクリオ様のいじわるぅ!一般人には、こんな広い庭を持つ事すら難しいですよう! |
| ローエン | おやおや、ミクリオ様にかかればアニスさんも形なし、ですかな? |
| アニス | 貴族ってみんなこんな感じなの?むむ、思った以上に手強い… |
| ミクリオ | 今何か言ったかい? |
| アニス | いいえ、なーんにも! |
| アニス | それよりミクリオ様、知ってます?白き獅子の入隊試験に貴族がことごとく落ちてるって話 |
| ミクリオ | ああ、さっき街中で一人見かけたな。他にもそんなにいるのか |
| アニス | 生誕祭でのラザリス様襲撃の一件がきっかけで、白き獅子への入隊を志願する人が増えてるそうですよ |
| アニス | で、一般市民の増員に対抗して、貴族もどんどん試験を受けようって動きになってるみたいです |
| ローエン | とはいえ、白き獅子といえば、精鋭中の精鋭です。なかなかに狭き門と言えるでしょう |
| ミクリオ | 白き獅子は実力重視だからね。家柄だけではどうにもならないって事なんだろうな |
| アニス | 何だか他人事ですねぇ。ミクリオ様は志願しないんですか? |
| アニス | 貴族の方はみんな、白き獅子を目指すものだって聞きましたけど |
| アニス | アニスちゃん、ミクリオ様が白き獅子の隊服を着ているところ、見てみたいです! |
| アニス | きっとすごくお似合いでしょうねぇ。想像しただけで…うっとり♡ |
| ミクリオ | 確かに、白き獅子としてラザリス様にお仕えするのも一つの道だと思う |
| ミクリオ | けれど僕は、別の方法でもラザリス様に…この世界に貢献出来ると考えている |
| アニス | それが、人工遺物の調査と研究、ですか? |
| ミクリオ | ああ。人工遺物の謎の解明は、きっとこの世界の未来で役に立つ |
| ミクリオ | 僕は、ラザリス様の世界をよりよいものにしたいんだ |
| アニス | むぅ…ローエンさんはそれでいいんですか? |
| ローエン | ええ、勿論。ミクリオ様のお志は尊いものですよ |
| ローエン | ミクリオ様のお考えが素晴らしいと感じたからこそ、私も全力でお仕えしているのです |
| ミクリオ | ローエンには博物館や人工遺物の管理を一手に引き受けてもらって、いつも助かっている |
| ローエン | いえいえ、これくらいミクリオ様の執事として当然の事です |
| アニス | あ、博物館なら、アニスちゃんもよく行ってますよー |
| ミクリオ | 本当か…!? |
| アニス | はい!いいですよね、博物館! |
| ミクリオ | そうか…!まさかアニスが人工遺物に興味があるなんて思わなかったよ |
| ローエン | そうですねぇ。お蔭でミクリオ様とのお話も弾む事間違いありませんね |
| アニス | ふっふっふ、アニスちゃん結構勉強家なんですよ。可愛くて頭もいい!超お得物件です! |
| ミクリオ | アニス、よかったら君の感想を聞かせてくれないか?どの展示物に興味を引かれた? |
| アニス | ええと…全部、かな?どれも珍しくて、不思議だなーって |
| ミクリオ | …じゃあ、他に何か気付いた事は? |
| アニス | う、うーん…特には?その、掃除も行き届いていますしぃ、ごちゃごちゃしてなくて見やすいです |
| ミクリオ | …そうか |
| アニス | あれ?どうかしましたか? |
| ミクリオ | いや…何でもない |
| ミクリオ | …ローエン、アニス。二人に聞きたい事がある |
| アニス | 何ですかぁ?このアニスちゃんに、何でも聞いちゃってください! |
| ミクリオ | 街の人々が、博物館や、陳列されている人工遺物をどう思っているか、教えてくれないか |
| アニス | ええと…それは… |
| ローエン | そうですね…陳列されている人工遺物は、大半が日常的に目にするものが多いですから |
| ローエン | ただ並べているだけでは、ここでしか見られない、という特別感が少々足りないようです |
| ミクリオ | 初めて目にするような物もあるはずなんだが… |
| ローエン | おそらく、何のために作られたかわからないため、価値が伝わりにくいのでしょう |
| アニス | むぅ、確かに…。研究成果の資料も文字ばっかで取っ付きにくいですもんねぇ |
| ミクリオ | そうだったのか…。わかりやすくまとめたつもりだったんだが… |
| アニス | はぅあ!あ、あれ、ミクリオ様が作ってたんですかぁ!? |
| ローエン | おいたわしや、ミクリオ様…。夜なべして作られたというのに… |
| アニス | え、ええと…い、いっそ、ミクリオ様ご自身にまつわる物とかを展示したらどうでしょう! |
| アニス | きっと、女の子のお客さんが山のようにやって来ますよ! |
| ミクリオ | 僕の事を知ってもらっても何の意味もないだろう |
| ミクリオ | …はぁ。難しいものだな |
| ミクリオ | 人工遺物から得られた知識は、きっと世の中を発展させ、よりよい世界を作り上げるだろう |
| ミクリオ | そうする事が、ラザリス様の望む「永遠に続く平和と幸福の世界」へ繋がるはずだ |
| ミクリオ | そのためには、人工遺物の知識がもっと世の中に浸透しなければならない |
| ミクリオ | なのに、どうして誰も知ろうとしないんだ。僕だったら、毎日通い詰めてでも勉強するのに… |
| ローエン | …それは、ミクリオ様が興味を持つ事と、他の方が興味を持つ事が異なるからですよ |
| ローエン | 大事な物や根幹にある価値観は、人によって大きく違うものです |
| ローエン | その違いを踏まえた上で、どう工夫したらいいかを考えるのが、大切なのかもしれませんね |
| ミクリオ | そうだな…それは今後の課題にしよう |
| ローエン | ええ。ミクリオ様なら、きっと出来ますよ |
| アニス | 頑張ってくださいね!アニスちゃんも応援してますから! |
| ミクリオ | ああ。ありがとう、二人共。期待に応えられるよう努力する |
| ローエン | アニスさんはお帰りになりましたか |
| ミクリオ | ああ。門のところまで送って来た |
| ローエン | 素晴らしい。女性の扱い方も板についてきましたね |
| ミクリオ | からかわないでくれ。僕はただ礼を尽くしただけだよ |
| ローエン | ほっほっ、その一見簡単な事が、とても大切なのですよ |
| ローエン | ああ、そういえば、ミクリオ様にお手紙が届いておりましたよ |
| ミクリオ | 誰からだ? |
| ローエン | それが、差出人の名前が書かれておらず…。申し訳ありませんが、先に内容を確認させていただきました |
| ローエン | それで、その内容ですが…どうも人工遺物の事について書いてあるようです |
| ミクリオ | 何だって…? |
| ローエン | 私には詳しい事はわかりませんでしたが、ミクリオ様ならあるいは… |
| ミクリオ | そうか。わかった、早速読ませてもらおう |
| ミクリオ | …… |
| ミクリオ | これは…! |
| ミクリオ | すまないローエン、今すぐ部屋に戻らせてもらう |
| ローエン | ミクリオ様…? |
| scene3 | 優雅な?お茶会 |
| ミクリオ | ローエンの言う通り、この手紙は人工遺物について書かれている。…それも、僕の知らない事ばかり |
| ミクリオ | 気になる事は多いが…何はともあれ、検証が必要だな |
| ミクリオ | …まずはこの人工遺物。僕では用途がわからなかったが… |
| ミクリオ | ふむ…古に作られた仕掛け箱で、特定の手順で開く事が出来る、か… |
| ミクリオ | ここを、こうして…最後は… |
| | ガチャ! |
| ミクリオ | …!本当に開いた…! |
| ミクリオ | すごい…。手紙の主は、どうやってこんな事を… |
| ミクリオ | こうしてはいられない、他の人工遺物も検証をしなければ…! |
| ミクリオ | …何という事だ。どの人工遺物についても、新事実ばかり… |
| ミクリオ | 手紙の主は、一体何者なんだ… |
| ローエン | 失礼いたします、ミクリオ様 |
| ミクリオ | ローエン?何かあったのか? |
| ローエン | 熱中出来る事があるのはよい事ですが、少しは休憩を挟まなければお身体に障りますよ |
| ローエン | お茶をお持ちいたしましたので、一息つかれてはいかがですか? |
| ミクリオ | …そんなに時間が経っていたのか。ありがたくいただくよ |
| ローエン | …ずいぶんと夢中になられていたようですが、手紙の内容と何か関係が? |
| ミクリオ | ああ、この手紙に書かれていた事は全て正しかった |
| ミクリオ | しかもどれも、少し見ただけでわかるようなものじゃない |
| ミクリオ | それこそ制作に携わった者か、実際に触れて調べた者じゃないとわからない情報だ… |
| ミクリオ | 送り主の知識には本当に驚かされる |
| ローエン | それはそれは… |
| ミクリオ | 持ち主の僕ですら気付かなかったのに手紙の主は一体どうやってここまで詳しく知る事が出来たんだ? |
| ローエン | さて…私には皆目見当もつきませんが… |
| ローエン | そういえば、二枚目には壁画について書かれていたはずですが…。そちらも正しい情報だったのですか? |
| ミクリオ | 二枚目?ああ、そういえばそっちはまだ読んでいなかったな |
| ミクリオ | これは…これから調べようと思っていた螺旋模様の石盤について書かれてある |
| ミクリオ | …… |
| ミクリオ | …!まさか、この壁画の一部だというのか…? |
| ローエン | ほう…壁画、ですか |
| ミクリオ | 見てくれ、全体像が描かれている。手描きにしては、よく特徴を捉えているよ |
| ローエン | 特徴という事は…つまり、ミクリオ様はこの壁画に心当たりがおありと? |
| ミクリオ | ああ、以前調査で訪れた秘境でその壁画と思しき物を見た事がある。その時の資料が──…あった、これだ |
| ローエン | ふむ、確かによく似ていますね |
| ミクリオ | 見た瞬間何故か強く心惹かれたから、よく覚えているよ |
| ミクリオ | 「英雄の壁画」…僕はその壁画を、そう名付けたけど |
| ミクリオ | 螺旋模様の石盤は、本当に英雄の壁画の一部なのか…? |
| ローエン | その手紙を信じるのならば、そういう事になるのでは? |
| ミクリオ | 確かに、その通りなんだが… |
| ミクリオ | 螺旋模様の石盤を見つけたのは、英雄の壁画があるところとはかけ離れた場所だったんだ |
| ローエン | まあ確かに、たまたま模様が壁画と似ていただけという可能性も、十分考えられるでしょう |
| ミクリオ | 模様…そうだ、紋様だ! |
| ミクリオ | これを見てくれ、ローエン |
| ミクリオ | 今日見つけた新しい石盤と、螺旋模様の石盤は、紋様が酷似していたんだ |
| ローエン | ふむ…こうして見比べてみると、確かに似ていますね |
| ミクリオ | …この二つの石盤を、詳しく調べてみよう |
| ミクリオ | もしも、全く別の場所で見つけた二つの石盤が、同じ様式だったと証明されたら… |
| ミクリオ | 英雄の壁画と石盤が同一の可能性も、あり得るかもしれない… |
| ミクリオ | … |
| ローエン | いかがですか? |
| ミクリオ | …信じられない…こんな事が、本当にあるなんて… |
| ミクリオ | 材質、加工方法、付着物の年代…描かれている紋様の形まで、どれも完全に一致している |
| ミクリオ | 元々一つの物だったとしても、おかしくない… |
| ローエン | ほう、それはそれは… |
| ミクリオ | これは…早急に現物を確認する必要があるな |
| ローエン | 英雄の壁画を見に行かれるのですか? |
| ミクリオ | ああ。情報の真偽の確認のために、実際に石盤と壁画を比較したいんだ |
| ミクリオ | そういうわけだから、明日は朝早く出発するよ |
| ローエン | 水を差すようで申し訳ありませんが、明日はレイザベール貴族連合主催の剣技会が開催される予定ですよ |
| ミクリオ | そんなもの棄権すればいい。僕にとっては、壁画と石盤の調査の方がずっと大事だからね |
| ローエン | それでは、連合のみなさんにはミクリオ様は参加を辞退するとお伝えしておきます |
| ミクリオ | ああ、頼んだ |
| scene1 | 心惹かれるもの |
| ガイ | しかし、まさかこんな短期間でもう一度お声がかかるとは思わなかったな |
| ミクリオ | 急な話ですまないな |
| クレス | 気にしないでくれ。昨日も言っただろう?何かあったら声をかけてくれって |
| ガイ | そうそう。こうしてお前達と遠出するのは楽しいしな |
| クレス | 気の置けない友達と話しながら、鍛錬も出来て、夢の手伝いも出来る。一粒で三度美味しいってところだね |
| クレス | そう、三度美味しいサンドイッチ!なーんてね! |
| ガイ・ミクリオ | … |
| クレス | あ、あれ、わかりにくかったかな?三度とサンドイッチをかけて… |
| ガイ | あー、うん。わかったわかった。クレスは本当にダジャレが好きだなぁ |
| ガイ | それにしてもミクリオ、そんな差出人不明の手紙の内容を、あっさり信じて大丈夫か? |
| ガイ | 貴族のお前を狙った誘拐や物取りが目的の悪党かもしれないぜ? |
| ミクリオ | 勿論、その可能性も考えたさ |
| ミクリオ | だが、僕をおびき出したいなら、匿名で手紙など出さず、知人の名前を騙れば済む話だろう |
| ガイ | …まあ確かに、あからさまに怪しまれるような事をする利点はないか |
| ミクリオ | ああ、人工遺物についてあれだけの情報を揃える必要もないだろうしね |
| ミクリオ | それに…手紙に書かれている事を、ただ闇雲に信じているわけでもない |
| ミクリオ | 僕なりにきちんと検証した上で、信憑性が高いと判断したからこそこうして足を運んでいるんだ |
| クレス | ミクリオがそう言うなら安心だね |
| クレス | ええと…この後はどっちだったかな… |
| ミクリオ | 確か向こうだったはずだ |
| クレス | さすがだね。僕一人なら危うく迷子になるところだったよ |
| ミクリオ | ここに生えている木に見覚えがあったんだ |
| ミクリオ | 前にこの辺りを調査した時、この木の下で休憩しただろう |
| ガイ | ああ、ローエンの持たせてくれたお茶とお菓子を食べたっけ。どっちも美味しかったよなぁ |
| ミクリオ | それなら、今日も持ってきている。後でみんなで食べよう |
| クレス | それは楽しみだね |
| ガイ | それじゃ、このまま一気に、目的地まで行っちまおう |
| ガイ | そんで到着したところで、優雅にティータイム。で、どうだ? |
| ミクリオ | 異議なし |
| クレス | 僕も大賛成。それじゃあ、張り切って行こう |
| scene2 | 心惹かれるもの |
| ミクリオ | ──さて、と。ティータイムはそろそろお開きにしようか |
| クレス | うん。お茶もお菓子もとても美味しかったよ。ローエンさんにもお礼を言わなくちゃ |
| ミクリオ | ああ、きっとローエンも喜ぶ |
| ガイ | しっかし…相変わらず寂しいところだな。まともに残ってるのは例の壁画くらいか |
| クレス | 確かこの壁画だったよね。ミクリオが「英雄の壁画」って名付けたのは |
| ミクリオ | ああ… |
| ミクリオ | ガイとクレスは、この壁画を見てどう思う? |
| ガイ | 改めて見ても、やっぱりデカいよな。あとは立派そう、ってとこか? |
| クレス | うん。傷んでしまっているのが、もったいないかな |
| ミクリオ | …ああ。それは僕も残念に思う |
| ガイ | ミクリオはどうなんだ? |
| ミクリオ | そうだね…不思議と、惹きつけられるものを感じるかな |
| クレス | へぇ…それも人工遺物に詳しいかどうかの違いなのかな |
| ミクリオ | いや、そうではないと思う。僕だって何もかもを熟知しているわけじゃない |
| ミクリオ | でも、そういう知識だの理屈だのを抜きにしても、この壁画には強い関心を掻きたてられるんだ |
| ミクリオ | 他にも壁画はあるのに…どうしてこの英雄の壁画だけが、こんなにも気になるんだろうか… |
| クレス | もしかしたら、何か運命的なものを感じているのかもしれないな |
| ミクリオ | ふっ。そうだったら面白いな |
| ミクリオ | さてと… |
| ミクリオ | 早速、壁画と石盤が同じ物かどうか調べよう |
| ミクリオ | 断面や模様が繋がれば、手っ取り早く証明出来るんだが… |
| ガイ | それなら俺に任せてくれ。細かい作業は嫌いじゃないしな |
| ミクリオ | わかった。頼む、ガイ |
| ガイ | …よし、これでどうだ? |
| ミクリオ | …! |
| クレス | 二枚共、ぴったりはまったね |
| ガイ | 模様もちゃんと繋がったな |
| ミクリオ | 螺旋模様の石盤も、新しい石盤も、本当に英雄の壁画の一部だったのか… |
| ミクリオ | すごい…あの手紙に書かれていた事がついに証明された… |
| ミクリオ | 僕は今、歴史的な瞬間の目撃者になったのかもしれない…! |
| ガイ | おいおい、大げさだな |
| ガイ | 壁画はそれほど珍しくないし、これで完成したわけでもないだろ |
| クレス | まだ欠けている部分もあるしね |
| ミクリオ | いや、重要なのは壁画じゃない |
| ミクリオ | 螺旋模様の石盤と新しい石盤… |
| ミクリオ | 全く別の場所で見つかったこの二つが同じ壁画の一部であるという事が、何より大事なんだ |
| クレス | 誰かが運んだんじゃないのかい? |
| ミクリオ | 確かに。それが一番あり得る可能性だな… |
| ミクリオ | もし意図的に動かされたのなら、石盤を集めて壁画を完成させる事に重大な意味があるはずだが… |
| クレス | 欠けている部分を全て埋めたら、どこかの入り口が開く…なんて事はないかな? |
| ガイ | その中にお宝どっさり…ってな。それだったら、誰かがわざと石盤を散らした理由もつくが |
| ミクリオ | それは僕も考えたけど…残念ながら、周囲にそれらしい仕掛けは見当たらなさそうだ |
| ミクリオ | 今のところは、人為的な移動の説は難しそうだな |
| ミクリオ | だが大規模な自然現象だとしても、どのような現象が起これば、こんな事が起こるのか… |
| ミクリオ | どうすればこの謎を解明出来るんだろう。せめて何か手がかりでもあれば… |
| ガイ | …すっかり夢中だな |
| クレス | あはは、そうだね。ミクリオは本当にこういうのが好きなんだなぁ |
| ミクリオ | …駄目だ。現段階ではどうしても、これ以上の事はわからない |
| ミクリオ | 仕方がない。ひとまず資料だけまとめて、後日改めて調査する事にしよう |
| クレス | それがいいかもしれないね |
| ガイ | そういう事なら…クレス、今の内に俺達で石盤を回収しておこう |
| ガイ | ミクリオはその間に、資料を仕上げてくれ |
| ミクリオ | いや、石盤の回収は不要だ。ここに置いていく |
| クレス | いいのかい?あんなに喜んで持ち帰っていたのに… |
| ミクリオ | 僕の目的は「骨董品集め」じゃないからね |
| ミクリオ | 石盤の調査は一通り済んでいるし、本来あるべき場所は見つかったんだ。ここに返しておくのが道理だと思う |
| ガイ | なるほど、確かにな。…石盤が移動した理由、解明出来るといいな |
| クレス | 例の手紙の主なら、何か知ってるかもしれないけど… |
| クレス | どこの誰かもわからないんじゃ、聞く事も出来ないしね |
| ミクリオ | ここまでの情報は得られたんだ、あとは自力で解明してみせるさ。そのためにも、資料をまとめないと |
| ガイ | ああ、そうだな。じゃ、ミクリオがまとめ終えたら帰るとするか |
| クレス | そうだね |
| scene1 | ミクリオの夢 |
| ミクリオ | …というわけで、手紙に書いてあった壁画の件は本当だったようだ |
| ローエン | 左様でございましたか。どうりで先ほどから、ミクリオ様が嬉しそうだと思いました |
| ミクリオ | まあね。人工遺物の研究が大きく進みそうなんだ、嬉しくもなるさ |
| ローエン | ほっほっ、ミクリオ様の夢の実現に向かって大前進、といったところですかな |
| ミクリオ | ああ、これからはより一層研究に力を入れて行こうと思う |
| ローエン | 連日で遠出をされてお疲れでしょう。すぐに用意をいたしますので、今日は早めにお休みになられては? |
| ミクリオ | そうだな。そうさせてもらおう |
| ??? | 待ってください |
| | |
| ミクリオ | …!君は… |
| ??? | お疲れのところ申し訳ありませんが、休むのはもう少し後にしていただけませんか |
| ミクリオ | エレノア… |
| ??? | ミクリオ殿、ローエン。主共々、急な訪問、失礼する |
| ローエン | おやおや、クラトスさんもご一緒とは |
| ミクリオ | どうしたんだ?何の連絡もなしに突然来るなんて |
| エレノア | …ミクリオ。どうして今日の剣技会に出場しなかったのですか |
| エレノア | レイザベールで暮らす私達貴族にとって、剣技会がどれほど大切か… |
| エレノア | それがわからないあなたではないでしょう |
| ミクリオ | … |
| エレノア | 白き獅子や神兵には、剣技会で優秀な成績を収めた人が多く在籍しています |
| エレノア | その誇りを守り続けるために、昨今は剣技会の重要性がますます高まっているというのに── |
| エレノア | 顔も出さず棄権だなんて、先人達への冒涜です! |
| ミクリオ | けれど、あの剣技会はあくまでも自由参加だったはずだ |
| エレノア | 競技に参加しないのは自由ですが、貴族の位を持つ者の責任として、顔くらい出すのが普通でしょう |
| エレノア | 他の貴族達と定期的に顔を合わせ、親睦を深めるのも、私達の大切な仕事の内です |
| ミクリオ | そういうのは得意じゃないんだ |
| ローエン | 本日の剣技会は、そもそも参加者が少なかったために中止になったと聞いておりますが |
| エレノア | その中止になった理由こそが、問題なんです |
| エレノア | 帝都で咎人の逃走事件が起こったのはあなたもご存知でしょう。参加者が少なかったのはそのせいです |
| エレノア | 白き獅子や神兵として勤める腕自慢が事件解決に向けて任務に忙殺されていますから… |
| エレノア | それに、帝都の情勢が不穏な中、剣技会を開催するのは不謹慎だという意見も多く… |
| ミクリオ | まあ、妥当な意見だな |
| エレノア | 何を他人事のように…あなたにも関係がある話なのですよ |
| ミクリオ | 僕に? |
| エレノア | 任務に追われるか、世情を慮って出席を見合わせるかという人がほとんどだった中── |
| エレノア | 己の趣味を優先して、大会への参加を拒否した者が、たった一人だけいたのです |
| ミクリオ | …なるほど、そこで僕の名前が出てくるわけだ |
| エレノア | ええ。そしてその事について、あなた以外の貴族達の間で議論が交わされました |
| エレノア | 協議の結果、レイザベール貴族の総意として、あなたに勧告を出す事になったんです |
| エレノア | 勿論、ミクリオの趣味に理解を示す者も少なからずいましたが大多数の意見としては… |
| ミクリオ | 次の剣技会には、必ず参加しろって? |
| エレノア | 剣技会だけではありません。白き獅子に志願し、ラザリス様に貢献すべし、と |
| ミクリオ | 僕の意志はお構いなしか… |
| ミクリオ | それで、幼馴染である君が、僕の首に鈴をつける役目を押し付けられた、と? |
| エレノア | …っ!いえ、私は自分の意志であなたに進言をしに来ました |
| エレノア | 他の貴族の方々よりも、私の言葉の方があなたにちゃんと届くと思いましたので |
| ミクリオ | …そうか。君は相変わらず真面目だね |
| エレノア | ミクリオのやっている事に全く意味がないとは、私も思ってはいません |
| エレノア | 集めた人工遺物を博物館に収蔵し、一般に公開する事に、学術的意義があるのも確かでしょう |
| エレノア | あなたなりに、街の人々やラザリス様の役に立とうとしている事も知っています |
| ミクリオ | … |
| エレノア | ですが、物事には優先順位というものがあるのではないでしょうか |
| エレノア | 今回、こうして貴族間の総意がまとまったのを機に、あなたには考えを改めてほしいんです |
| エレノア | ラザリス様の事を本当に大切に思うなら、道楽はやめ、白き獅子に志願するべきです |
| エレノア | それが貴族の…力ある者としての正しい世界への尽くし方というものではないでしょうか |
| ミクリオ | エレノア。君の言う事は理解出来るけど、僕は道楽でやってるわけじゃない |
| ミクリオ | 未知の事を調べて行く事が、世界をよりよくするためには必要だと思っている |
| エレノア | ですが、そのようないつ実るかもわからない事に時間を費やすのは… |
| ミクリオ | …どうやら、話は平行線のようだね |
| ミクリオ | すまないが、今日はもう帰ってくれ。このところ連日遠出しているせいで、僕も疲れているんだ |
| エレノア | …わかりました。明日、もう一度伺います |
| エレノア | クラトス、帰りましょう |
| クラトス | …ああ、わかった |
| エレノア | それでは、失礼します |
| ミクリオ | …まさか、僕の活動がこんなに大きく問題視されるなんてね |
| ローエン | 少々厄介な事になりましたね…。どうなさいますか、ミクリオ様 |
| ミクリオ | どうもこうも、僕のやる事は何も変わらない |
| ミクリオ | たとえ誰に何を言われようと、僕は、僕が正しいと思う道を進むだけだ |
| ミクリオ | これもラザリス様のお力になる事だと信じているからね |
| ローエン | ほっほっほ。さすがミクリオ様。どうやら余計な心配だったようですね |
| ミクリオ | そうだ、ローエンに頼みがある |
| ミクリオ | 例の手紙の差出人を、捜し出してもらえないか |
| ミクリオ | 人工遺物の使用法を熟知し、石盤と壁画の関連性を言い当ててみせた… |
| ミクリオ | あれだけの知識を持っている人に、ぜひ会ってみたい。いくつか聞きたい事もあるしね |
| ローエン | かしこまりました。世界の果てまででも捜しに行って必ず見つけてご覧に見せましょう |
| ミクリオ | はは、屋敷にはいてもらわないとそれはそれで困るけどね |
| ミクリオ | それじゃあ、少し早いけど僕はもう休む事にする |
| ローエン | 承知いたしました。ごゆっくりお休みくださいませ、ミクリオ様 |
| scene2 | ミクリオの夢 |
| ローエン | 昨夜はよくお眠りになられたようですね |
| ミクリオ | ああ、気付いたら朝だった。自分で思っていた以上に疲れていたみたいだ |
| ローエン | 何かと立て込んでおりましたからね。いかがでしょう、本日はこのままお屋敷でゆっくり過ごされては? |
| ミクリオ | ああ、そうしよう |
| ローエン | ところでミクリオ様、例の手紙の差出人の件ですが |
| ミクリオ | もう見つかったのか? |
| ローエン | いえ、申し訳ございませんが、少々お時間をいただく事になるかもしれません |
| ローエン | 手紙の内容から、博物館を訪れたものだろうと考え、街中を捜索したのですが… |
| ミクリオ | レイザベール中を捜しても見つからなかった、と? |
| ローエン | はい。意図して身を隠しているか、それとも既に街を去った後なのか… |
| ローエン | 世界中をくまなく捜すわけには参りませんが、もう少し範囲を広げてみてもいいかもしれません |
| ミクリオ | 任せるよ。こういうのは、ローエンの方が得意だからね |
| ミクリオ | 僕もそこまで焦っているわけじゃないし、じっくり腰を据えて進めてほしい |
| ローエン | かしこまりました |
| | リンリン |
| ローエン | おや、お客様のようですね。少々お待ちください |
| | |
| エレノア | 失礼します |
| ミクリオ | エレノア。また来たのかい |
| エレノア | 明日もう一度伺うと、昨日お伝えしたはずです |
| ミクリオ | 昨日も言ったけれど、僕は恥じるような事はしていないよ |
| ミクリオ | だから、貴族の協議で決まった事でも従うつもりはない |
| エレノア | そうはいきません!ミクリオには絶対に白き獅子に志願してもらいます! |
| ミクリオ | …それが貴族の常識だから、かい? |
| エレノア | ええ、その通りです。あなたの行動は、貴族として相応しいとは、とても思えません |
| エレノア | それに、中にはあなたの事をひ弱な臆病者だと馬鹿にしている人もいます |
| エレノア | このような事を言われてミクリオは悔しくないのですか!? |
| ミクリオ | 君達の言い分には納得は出来ない。だけど、そう言われたところで悔しいとも思わない |
| ミクリオ | 戦う事だけがラザリス様への貢献手段じゃない、僕はそう考えているから |
| エレノア | どうしてあなたは、そう…! |
| エレノア | …わかりました。でしたら、今から私と手合わせしてください |
| ミクリオ | 何だって? |
| クラトス | …本気か、エレノア |
| エレノア | ええ、勿論。ミクリオの実力を、ここで見極めさせてもらいます |
| エレノア | もしあなたに実力があるのなら、白き獅子に志願する事を、拒むはずがありません |
| ミクリオ | それはまた、ずいぶんと極端な考え方じゃないか? |
| エレノア | いいえ、事実です |
| エレノア | 白き獅子の一員となる事は、誰もが望み憧れる事で、我々貴族の誇りと義務そのもの… |
| エレノア | それを望まないなど、怖気づいている以外にどんな理由がありますか! |
| エレノア | 今のあなたは趣味を言い訳に鍛練を怠り、成すべき事から目を逸らして逃げているだけです |
| エレノア | そうでないと言うのなら、今ここでその事を私に証明してください! |
| ミクリオ | …君は本当に変わらないな |
| ミクリオ | 君を納得させるには、態度で示すしかなさそうだ |
| エレノア | では、手合わせをしていただけるのですね |
| ミクリオ | あまり気は進まないけれど、仕方がない |
| ミクリオ | 君の事だ。今ここで断ったら、僕がうんと言うまで毎日押しかけるつもりだろう |
| ローエン | ミクリオ様、お待ちください。お言葉ですがこのような戦いは── |
| ミクリオ | わかっている。それでも、ここでやらないわけにはいかない |
| クラトス | エレノアは白き獅子に志願すべく、日々鍛錬を重ねている。半端な実力では決して勝てないぞ |
| ミクリオ | 僕が半端かそうでないかは、その目で確かめればいい |
| エレノア | では、参ります! |
| scene3 | ミクリオの夢 |
| エレノア | くっ…!そんな… |
| エレノア | あなたにこれほどの実力があったなんて… |
| クラトス | …なかなかやるようだな |
| ローエン | エレノア様、この辺りで武器をお納めください。ご覧の通り、ミクリオ様は鍛錬を怠っておりません |
| ミクリオ | ローエンの言う通りだ。君の知りたい事は十分伝わっただろう |
| ミクリオ | これ以上やりあえば、どちらかが怪我をしかねない |
| エレノア | いいえ、まだです! |
| エレノア | このまま負けて終わるわけにはいきません…! |
| ミクリオ | 手合わせの目的が変わってるじゃないか |
| ミクリオ | もういいだろう。僕はこれで… |
| エレノア | ──隙あり! |
| ミクリオ | ツインフロウ! |
| | バシュッ! |
| エレノア | きゃあああっ!? |
| クラトス | …勝負あったな |
| ローエン | エレノア様!大丈夫ですか? |
| エレノア | くっ… |
| ミクリオ | もういいだろう、これで決着だ |
| エレノア | あなた、私を誘い出すために、わざと隙を… |
| エレノア | ですが、今のは反則ではありませんか?術の使用なんて…! |
| ミクリオ | 剣技会じゃあるまいし。手合せの場で術が反則になるなんて聞いた事もない |
| ミクリオ | それとも君は、実戦の場でも剣技会のルールに従って戦っているとでも言うのか? |
| エレノア | それは…! |
| エレノア | …わかりました。あなたがそう主張をするなら、私だって── |
| クラトス | よせ、エレノア。そこまでだ |
| エレノア | クラトス!?何故止めるのですか! |
| クラトス | 剣技会のルールに囚われていたお前の負けだ |
| エレノア | ですが…! |
| クラトス | エレノア、お前も気付いているはずだ |
| クラトス | ミクリオ殿は術を使った際、お前が怪我をしないように配慮していた事を |
| エレノア | …それは… |
| クラトス | 彼の実力は十分にわかったはずだ。負けを認めろ、エレノア |
| クラトス | これ以上は、私もローエンも見過ごせん |
| エレノア | …わかりました |
| エレノア | すみません、ミクリオ。私は少し冷静さを欠いていたようです |
| エレノア | ミクリオに実力がある事は、はっきりわかりました |
| ミクリオ | それはよかった |
| エレノア | ですが…そこまでの力があるというのに、何故ミクリオは人工遺物にこだわるのですか |
| | |
| ミクリオ | ──それが、僕の夢だからだ |
| | |
| エレノア | 夢、ですか? |
| ミクリオ | エレノア。君は白き獅子のような「騎士」でないとラザリス様に貢献出来ないと思うか? |
| エレノア | そんな事はありません!ラザリス様を想う心があれば誰でも… |
| ミクリオ | だが、君や貴族達の主張が正しいとするなら、力ある者しか貢献出来ないという事になるだろう |
| エレノア | …! |
| ミクリオ | だから僕は、違う方法…力ではなく、ラザリス様の世界の発展と言う形であの方のお役に立ちたい |
| ミクリオ | 人工遺物研究の道が認められれば、格差も減って、より多くの人がラザリス様のお力になれる… |
| ミクリオ | 世界はきっと、さらに素晴らしいものになるはずだ |
| エレノア | …世界をよりよくする。それがあなたの夢という事ですか |
| エレノア | ミクリオの考えは理解出来ました。ラザリス様への想いも… |
| エレノア | ですが…全ての人間が白き獅子になれないのであれば… |
| エレノア | 出来る者がやらないのは、逃げにはならないでしょうか |
| エレノア | 白き獅子になり、民の命を守る。それが力を持つ者の務めであると、私は思います |
| ミクリオ | …やっぱり平行線か |
| ローエン | エレノア様のおっしゃる事もよくわかります |
| ローエン | ですが、人にはそれぞれ価値観というものがあります |
| ローエン | その価値観が、人によって異なるのは当然。時にはぶつかる事もあるでしょう |
| ローエン | そういう時は一歩引いた視点で、全体を見渡してはいかがかと存じます |
| エレノア | 一歩…引いて… |
| ローエン | ミクリオ様もエレノア様も、ラザリス様に忠誠を誓い、貢献したいと考えていらっしゃいます |
| ローエン | お二人のお話を伺っていると、その点においては間違いありません |
| ローエン | 目指すところが同じであるのなら、お二人がわかり合う事は決して不可能ではないと思います |
| ミクリオ | …つまり、この辺りで和解してはどうか、という事か |
| ローエン | ええ、いかがでしょう。ここはお二人で手を取り合われては? |
| ミクリオ | そうだな、僕も互いに理解し合えればいいと思っている。エレノア、君はどうだい? |
| エレノア | …私も、あなたと手を取り合いたいと思ってはいます |
| エレノア | ですが、今の私は、ミクリオの言う事の全てに納得が出来たわけではないのです |
| ミクリオ | エレノア… |
| エレノア | …ただ、ミクリオが己の信念に基づき、行動している事は理解しました |
| エレノア | そうしたあなたの考えは、きちんと尊重されるべきだと思います |
| エレノア | ですから、もう一度…もう一度だけ、他の貴族の方々とも話をしてみます |
| エレノア | あなたの行動が、特例として他の方々に認めていただけるように |
| ミクリオ | エレノア… |
| ミクリオ | ああ、頼む。…ありがとう |
| ローエン | これにて一件落着ですな。ではお二人共、せっかくですので和解のしるしに握手でも── |
| クラトス | エレノア。この後は確か知己の貴族と晩餐会があるのではなかったか? |
| クラトス | これ以上遅くなると、相手を待たせてしまう事になるぞ |
| エレノア | ええっ!?もうそんな時間ですか!? |
| クラトス | 騒がせて申し訳なかった。私達はこれで失礼する |
| エレノア | ちょっ、クラトス、待ってください!あ、えっと、ミクリオ、ローエン、お邪魔しました!ごきげんよう! |
| ローエン | …話の途中でしたのに、行ってしまわれましたね |
| ミクリオ | ああ、やけに慌ただしかったね |
| ミクリオ | まあ、それはそれとして…今さらだけど、ローエンは僕の夢…正しいと思うかい? |
| ローエン | ええ。ミクリオ様がご自分でしっかりと考えてお決めになられたものですから |
| ローエン | しかし、急にそのような事をおっしゃられるとは…何かお悩みでも? |
| ミクリオ | …自分がやっている事が、間違っているとは思わないけれど… |
| ミクリオ | エレノアの言い分にも一理あるというのは、理解出来るんだ |
| ミクリオ | 率直なところ、ローエンはどう思う?君の意見を聞きたい |
| ローエン | そうですな…白き獅子を務める事と、人工遺物を研究する事── |
| ローエン | どちらも重要な事だと思いますが、私はミクリオ様の夢を応援したいと思っております |
| ローエン | そのために私に出来る事があれば、全力でお手伝いさせていただきましょう |
| ミクリオ | ローエン… |
| ミクリオ | …ああ。よろしく頼む |
| | |
| エレノア | …クラトス。何故止めたのですか |
| クラトス | 手合わせの事か。それとも和解の握手の事か |
| エレノア | 両方です |
| クラトス | 理由はどちらも同じだ |
| クラトス | お前自身と、ヒューム家の両方に傷がつかぬよう動いた。それだけだ |
| エレノア | 私はそのような事を頼んだ覚えはありません |
| クラトス | ああ、あれはあくまでも私が勝手にやった事だ |
| クラトス | だが、今回の件は、他の貴族達から正式な依頼を受けてやった事ではないだろう |
| クラトス | ミクリオ殿の事をかけ合うと言っていたが、わざわざこちらの説得失敗を報告するようなものだ |
| クラトス | ろくな事にはならない。やめておいた方がいい |
| エレノア | そうはいきません。例え正式な依頼でなかろうと、引き受けたからには報告はします |
| クラトス | そもそも彼と他の貴族達の仲を取り持つ必要もないはずだろう |
| エレノア | つまりあなたは、ミクリオの件を話すのは気が乗らないと? |
| クラトス | …ああ。この件はお前とヒューム家の立場を損なうだけだ |
| エレノア | そのような心配はいりませんよ、クラトス |
| エレノア | ミクリオの評判が芳しくないのは、彼がただ遊んでいるだけだと思われているせいです |
| エレノア | 私も、ミクリオの夢を聞くまではそうだと思っていました |
| エレノア | でもそうではなかった。彼は彼なりに、考えを持ってラザリス様に貢献しようとしています |
| エレノア | その事を他の方々にもきちんと説明すれば、全て解決するはずですよ |
| クラトス | …私は所詮ヒューム家に仕える従者にすぎない。差し出がましい事を言う気はないが… |
| クラトス | 他の貴族達が全員、お前と同じように実直だとは思わない方がいい |
| クラトス | それでも報告をすると言うのなら、今後、手段を選べなくなるかもしれないぞ |
| エレノア | ヒューム家を想っての忠告、感謝します |
| エレノア | でも大丈夫です。私は間違った事はしていませんから |
| エレノア | きっとみんなにも、わかってもらえると思います |
| クラトス | …そうだといいがな |
| scene1 | 湖畔の待ち人 |
| ミクリオ | ローエン、念のために確認しておくけど、今日の予定は── |
| ローエン | ほっほっ、ご安心ください。来客も公務のご予定も、本日は何もございませんよ |
| ミクリオ | そうか、よかった。…よし、忘れ物もなし、とこれで支度は完璧だ |
| ローエン | 声が弾んでおりますね、ミクリオ様 |
| ミクリオ | これが喜ばずにいられると思うかい?あの手紙の主に、ようやく会えるんだ |
| ミクリオ | こっちが散々手を尽くして捜しても、全く手がかりが掴めなかったのに |
| ローエン | まさかこのタイミングで、向こうから会おうと申し出てくるとは思いませんでした |
| ローエン | しかし何故、わざわざ待ち合わせに湖畔を指定してきたのでしょうね? |
| ミクリオ | あの湖畔周辺では、これまでにも多くの人工遺物が見つかっている |
| ミクリオ | もしかしたら、そこで何か新しい発見があったのかもしれない |
| ミクリオ | 実は、手紙の主に会えたら博物館を見てもらいたいと思っているんだ |
| ミクリオ | ローエン、すまないが掃除がてらお茶の支度を整えておいてくれないか |
| ローエン | かしこまりました。ご挨拶出来る事を楽しみにお待ちしておりますね |
| ミクリオ | ああ。それじゃあ、行ってくる |
| | |
| ミクリオ | ──湖が見えて来たな。ここが待ち合わせ場所か… |
| ミクリオ | …あの手紙を書いていたのは、一体、どんな人物なんだろう |
| ミクリオ | あそこまで人工遺物に精通していたんだ。只者とは思えないが… |
| ミクリオ | …!向こうに人影が…! |
| ミクリオ | あなたは… |
| クラトス | 来たか… |
| ミクリオ | クラトス…どうしてここに? |
| クラトス | 私が貴公を呼び出したのだ。偽の手紙を使ってな |
| ミクリオ | …! |
| ミクリオ | 僕を誘いだしたところであなたに利益があるとは思えない。…何が目的だ |
| クラトス | エレノアでは、貴公を説得する事は出来ない。だから私が直接話をしにきた |
| クラトス | 主人を補うのも、従者の役目と言う事だ |
| ミクリオ | それにしては、やり方が無粋じゃないか |
| クラトス | 少々強引な手段を取った事については謝罪しよう |
| クラトス | だが、これでようやく貴公と二人になれた |
| クラトス | ここなら一対一の対等な人間同士、互いの立場や身分を気にする事なく話が出来る |
| ミクリオ | 身分や立場、か…。僕は気にしないけれど、まあいいさ |
| ミクリオ | それよりも…主人を補う、と言ったね。という事は── |
| クラトス | ああ。貴公には人工遺物の研究から身を引き、白き獅子への入隊を志してもらいたい |
| ミクリオ | やはりか…。その話は終わったはずだが |
| クラトス | 世界全体をよくする…その考えは理解した |
| クラトス | だが、貴公ほどの実力があるならば話は別ではないか |
| ミクリオ | …どういう事だ |
| クラトス | 貴公の話は、あくまでも「夢」にすぎない。成果に結びつくかも定かではない |
| クラトス | だが、白き獅子になれば、確実にラザリス様のお役に立てるだけの力を貴公は持っている |
| クラトス | 確実に成果を得られる道を捨て、夢という自らの欲のままに不確かで不合理な道を選ぶ… |
| クラトス | それが本当に正しい事なのか? |
| ミクリオ | …! |
| クラトス | 人工遺物の研究は、他の誰かに任せればいい |
| クラトス | ラザリス様への貢献が最大の目的だと言うのなら、今一度、よく考えるべきだ |
| ミクリオ | … |
| クラトス | 無論、すぐに答えを出せとは言わん |
| クラトス | ゆっくり考えればいい。…時間はたっぷりある |
| | |
| ローエン | ──さてと、掃除も完了しましたし、いつでもすぐお茶の支度が出来るよう準備も整えました |
| ローエン | 後はミクリオ様が、手紙の主を伴って、お帰りになるのを待つばかり… |
| ??? | ローエン。お仕事中にお邪魔いたします |
| ローエン | おやおや、エレノア様。今日はまた、ずいぶんと大勢の方を連れていらっしゃいますね |
| ローエン | はて、見たところ、みなさんヒューム家の使用人ではないようですが…? |
| エレノア | ミクリオはどこに?今すぐ呼んでいただだきたいのですが |
| ローエン | あいにくミクリオ様は、ただいま外出中でして… |
| エレノア | 外出中…どこへ? |
| ローエン | 人と会うために、街を出られております。お待ちいただくなら、お部屋をご用意いたしますが… |
| エレノア | そうですか。出来る事なら、もう一度直接話がしたかったですが… |
| エレノア | 仕方がありません。このまま始めましょう |
| ローエン | 始めるとは、一体何を… |
| | |
| エレノア | … |
| | |
| エレノア | …ごめんなさい、ローエン。これはレイザベールの貴族の総意として決まった事なんです |
| エレノア | 決まってしまった以上、私にはこうするしか… |
| エレノア | …さあ、あなた達。仕事を開始してください! |
| ローエン | …!? |
| ローエン | お待ちください!一体何を── |
| scene2 | 湖畔の待ち人 |
| ミクリオ | … |
| クラトス | 心は決まったか |
| ミクリオ | …確かに、あなたの考えは間違ってはいないんだろう |
| ミクリオ | 白き獅子に志願する事… |
| ミクリオ | それが今の僕にとってもっとも合理的で、確かな方法だという事は理解出来る |
| クラトス | では… |
| ミクリオ | …けれど、同時にこうも思うんだ |
| ミクリオ | 人の夢というものは、合理的かどうかだけでは量れないんじゃないかって |
| ミクリオ | 人工遺物の研究は、僕にとっての「夢」だ |
| ミクリオ | そしてその夢は、ラザリス様の世界をよりよくするためのもの… |
| ミクリオ | だからこそ、僕はここで引くわけにはいかない |
| ミクリオ | 僕の身近にいる人も、その夢を応援してくれている事だしね |
| クラトス | そのために、ラザリス様にとって不合理となる選択をするというのか? |
| ミクリオ | 合理的でなくても、自分のやり方でラザリス様に貢献したい…それがそんなにおかしい事だろうか |
| クラトス | 私には賛同出来かねる |
| クラトス | 力がある者は、その力に相応しい務めを果たすべきだ |
| ミクリオ | …あなたも、エレノアと同じ事を言うんだな |
| ミクリオ | …僕の気持ちはさっき言った通り。これ以上誰に何を言われようと考えは変わらない |
| ミクリオ | 聡明なあなたの事だ。こうなる事くらい想定出来ていただろうに、どうしてそこまで── |
| ミクリオ | …! |
| ミクリオ | …クラトス、本当の狙いは何だ? |
| クラトス | … |
| ミクリオ | あなたはこんな風に闇雲に議論を引き延ばしたり、精神論を振りかざすような人じゃない |
| ミクリオ | つまり…こうして僕を引き止める事であなたに何か利益がある、という事だろう? |
| クラトス | …まあいい。十分に時間は稼げた。もう話してもいいだろう |
| クラトス | 今頃、エレノアが動き出しているはずだ |
| ミクリオ | エレノア…?一体どういう… |
| | |
| エレノア | …… |
| 骨董商 | 博物館の中にある人工遺物は全部運び出してしまっていいんですね? |
| エレノア | …!あ…はい、よろしくお願いします |
| ローエン | どうかおやめください、エレノア様。展示物や倉庫の物を、持ち主に無断で勝手に持ち出されるなど… |
| エレノア | これはレイザベールの貴族達の総意です。取りやめる事は出来ません |
| エレノア | …ですが、安心してください。彼らは、いずれも骨董品の扱いに長けた者ばかり |
| エレノア | 人工遺物も、誰よりも丁寧に取り扱ってくれるはずです |
| ローエン | そういう問題ではございません。何故いきなり、このような無体をなさるのです |
| ローエン | エレノア様は、ミクリオ様のご意志を理解してくださったのではないのですか |
| エレノア | … |
| ローエン | …エレノア様は、ミクリオ様の古くからのご友人。その信頼を、このような形で── |
| エレノア | …私だって、好きでこのような事をしているわけでは…! |
| ローエン | …一体何があったのか、お話ししていただけますかな? |
| エレノア | …先日、ミクリオを説得しようとした一件について、他の方々にも説明したところ、彼らはこう考えたのです |
| エレノア | 私をも打ち負かす高い実力を持ったミクリオが白き獅子に入隊しないのは社会的損失だと… |
| エレノア | そして彼らは、ラザリス様のためにミクリオの目を覚まさせようと… |
| エレノア | ──ミクリオがうつつを抜かす収集品を、没収する事にしたのです |
| ローエン | …そしてその実行者にエレノア様が選ばれたのですね |
| エレノア | …はい |
| ローエン | そんな…あまりにも一方的です。エレノア様は、こんな行為が正しいと思っておいでなのですか? |
| エレノア | …いいえ。本音を言えば、私も、今回のような強引なやり方には納得していません |
| エレノア | ですが、もう既に決まってしまった事ですし…貴族達の考えには、私も賛同していますから |
| ローエン | そんな、何故… |
| エレノア | …私は、先日の一件で、ミクリオのような考え方もあるのだと一応は理解したつもりです |
| エレノア | ですが…やはり彼ほどの実力者には、白き獅子を目指してほしいという気持ちも、変わらずあるのです |
| エレノア | もし今日、ミクリオがこの場にいたら、もう一度説得を試みるつもりでしたが… |
| ローエン | ならばせめて、ミクリオ様がお戻りになられるまでお待ちいただく事は… |
| エレノア | …ごめんなさい。それは出来ません |
| エレノア | 酷な事をしている自覚はあります。後にミクリオに責められても仕方がないと覚悟もしています |
| エレノア | それでも…こうする事で、もし本当に、白き獅子を目指すようになってくれたなら… |
| エレノア | その時は、私は全力で彼を補佐し、正しい道へ導く事を誓いましょう。それが私の責任で、使命だと思います |
| ローエン | エレノア様… |
| scene3 | 湖畔の待ち人 |
| ローエン | … |
| エレノア | … |
| 骨董商 | うわっ!?だ、誰だあんたら! |
| ??? | この博物館の関係者だ! |
| ローエン | ガイさん…それに、クレスさんまで…! |
| エレノア | あなた達は…確か、ミクリオと親しくしていた… |
| ガイ | 何か博物館が騒がしいと思って来てみれば、こいつは一体何の騒ぎだ? |
| クレス | 引っ越しや改装…ってわけではなさそうだね |
| ローエン | …ええ、実は── |
| ガイ | ミクリオがいない間に、今まで集めた人工遺物を全部没収するだって? |
| クレス | そんな事をしたら、ミクリオがどれほどショックを受けるか… |
| エレノア | … |
| クレス | 今すぐやめさせないと!あの、すみませ… |
| ローエン | お待ちください、クレスさん |
| ガイ | どうして止めるんだ?あんただって納得してないんだろ? |
| ローエン | 今回の事は、エレノア様の独断ではありません。レイザベール貴族の総意です |
| ローエン | お二人がここで抗議すれば、貴族に反抗したと取られる可能性があります |
| ローエン | そんな事になってしまったら、お二人の立場が悪くなってしまいます |
| ローエン | そのような事は、ミクリオ様もお望みにはならないはずです |
| ガイ | かと言って、このまま手をこまねいていたら、あっという間に回収が終わっちまうぞ |
| ガイ | そうなったら、取り返すのは難しいだろ |
| クレス | せめてミクリオが帰って来てくれれば… |
| 骨董商 | エレノア様、もうすぐ全ての人工遺物の運び出しが完了します |
| エレノア | …わかりました。そのまま続けてください |
| ガイ | あれじゃあ、ミクリオが戻るまで、物が残ってるかどうか… |
| ローエン | …もしミクリオ様のお帰りが間に合わない場合は、私が直接話を付けます |
| クレス | ローエンさんが? |
| ガイ | おいおい、自分がさっき言った事を忘れてないよな |
| ガイ | いくらミクリオに仕えてるって言っても、あんたは貴族じゃない。俺達と立場は一緒だろ |
| ガイ | 下手な真似をすれば、それこそ… |
| ローエン | 勿論、存じております |
| ローエン | 一介の執事風情が、貴族の決定に逆らえばどうなるか、わからない私ではございません |
| ローエン | 相応の覚悟は、出来ております |
| クレス | ローエンさん… |
| ガイ | くそっ。肝心のミクリオは一体どこに行ってるんだ |
| ローエン | 実は、人工遺物に関する手紙を送ってくださった方から、会いたいと呼び出されており── |
| | |
| ??? | あの、その話、詳しく聞かせてくれませんか!? |
| ローエン | あなたは… |
| | |
| ミクリオ | ──博物館に収蔵している人工遺物を全て没収するだって!? |
| クラトス | ああ、そうだ |
| ミクリオ | …そんな事をして、僕の心が折れるとでも? |
| クラトス | 結果はどうあれ、エレノアが今回の任務を遂行するにあたって── |
| クラトス | 貴公を近くに置いておく事は避けるべきだと判断した |
| ミクリオ | それで僕を、こんなところにまでおびき出したのか…! |
| ミクリオ | だが、意味がないと思っているなら、どうしてそんな事を… |
| クラトス | …先日の話し合いの後、エレノアは貴公の意向を特例として認めてくれと報告に行った |
| クラトス | だが、それは貴族達の意見に反するものだ |
| クラトス | 結果的にエレノアは、貴公の肩を持っていると見なされてしまった |
| ミクリオ | …!そんな… |
| クラトス | 本人はそこまで深刻には考えていないようだが…これはヒューム家の存亡に関わる一大事だ |
| クラトス | だからこそ、今回エレノアに命じられた人工遺物没収の任務は、何としても完遂させなければならない |
| ミクリオ | …なるほど。名誉挽回のために、是が非でも成功させたいわけか |
| クラトス | ああ。だが、貴公を博物館から引き離したのは私の独断だ |
| クラトス | エレノアと同様、私もミクリオ殿の行動そのものを否定するつもりはないが… |
| クラトス | 長年に渡り仕えてきたヒューム家の大事を看過する事も出来ん |
| ミクリオ | けれど、僕を引き離したところで、エレノアの任務がすんなり遂行出来るとは思えないな… |
| ミクリオ | ローエンの事を、忘れてはいないか? |
| ミクリオ | エレノアにはあなたがいるように、僕にも信頼のおいている彼がいる |
| クラトス | 勿論、ローエンは止めようとするだろうが…彼も私と同じ、貴族に仕えるただの従者だ |
| クラトス | 分をわきまえぬ行動をすればどうなるかはわかりきっている |
| ミクリオ | …今のあなたの行動も、十分従者の域を超えてると思うが? |
| クラトス | ああ。だが、私の目的はあくまでヒューム家を守る事。敵が貴公一人と貴族全体では話が違う |
| ミクリオ | … |
| クラトス | …今ここで、貴族連中の取り決めに従うと、約束してもらえないか |
| クラトス | そうすればローエンも無事で済むし、ただの収集品として持つだけなら、人工遺物の返還も可能だろう |
| クラトス | これ以上事態が悪化する前に、決断してもらいたい |
| ミクリオ | … |
| scene1 | 不壊の約束 |
| ミクリオ | … |
| クラトス | … |
| ミクリオ | あなたは… |
| ミクリオ | ローエンやエレノアを守るために僕に白き獅子を目指せと… |
| ミクリオ | 夢を諦めろと…そう、言うのか? |
| クラトス | ああ。それが貴公に出来る、最善の選択だ |
| ミクリオ | だが… |
| クラトス | 人工遺物の事も、先ほどの通りだ |
| クラトス | 貴公が然るべき決断をすれば、手元に置いておく事くらい許されるはずだ |
| クラトス | 逆に今のままでは、何一つとして、望んだ結果にはなるまい |
| ミクリオ | … |
| ミクリオ | 夢を諦める事以外に、解決策はないのか…? |
| ミクリオ | だが、僕は… |
| クラトス | …どうした |
| ミクリオ | …駄目だ。どうしても言えない |
| ミクリオ | 貴族達の決めた方針に従うという事は自ら掲げた夢を諦める事…。そう考えると…… |
| クラトス | ミクリオ殿の気持ちもわかる。だが、もう一度よく考えてみろ |
| クラトス | その夢とやらは、ローエンやエレノアを犠牲にしてまで守るほどの価値がある物なのか? |
| ミクリオ | … |
| クラトス | 考えた上で貴公が我が道を進むと言うのなら、これ以上は何も言うまい |
| ミクリオ | ローエン…エレノア……くっ… |
| ミクリオ | … |
| ミクリオ | …いいだろう。クラトス、ここはあなたに従う |
| ミクリオ | 僕は…白き獅子になる |
| ミクリオ | その選択をする事で、ローエン達を守る事が出来るなら… |
| ミクリオ | 僕は…自分の夢を諦め── |
| | |
| ??? | 待ってくれ!ミクリオ! |
| | |
| ??? | はあ…はあ…今、何て言おうとしてた?夢を諦めるつもりじゃないよな? |
| ミクリオ | 君は…?いや、それよりも何故僕の名前を… |
| ??? | お前は…手堅いくせに意地っ張りだ |
| ミクリオ | なっ…! |
| ??? | そんな奴が、簡単に自分の決めた事を諦めるなんてらしくない |
| ??? | どこまでも、意志を貫く。…それがミクリオだろ? |
| ??? | それに、お前の夢はオレの夢でもあるんだ。だから、諦めるなんて言うな! |
| ミクリオ | 君は…一体… |
| ミクリオ | いや、待て…この声、どこかで…? |
| | |
| ??? | 「よかった! 無事だったんだな」 |
| ??? | 「誰って…ミクリオ、 オレの事、忘れちゃったのか?」 |
| ??? | 「……冗談に決まってる。 だって、オレ達──」 |
| | |
| ミクリオ | まさか君は、繰り返し夢の中に出てきていた…? |
| ミクリオ | …いや、待て。ここに来たと言う事は…まさか、君があの手紙の主なのか? |
| スレイ | ああ、手紙を出したのはオレだよ。オレはスレイって言うんだ |
| ミクリオ | やはりそうか…君が… |
| スレイ | 突然割って入って、ごめん。ローエンさんから話を聞いて居ても立ってもいられなくなって… |
| スレイ | ミクリオ、あの博物館は、お前にとって大切なものなんだろ? |
| スレイ | ずっと頑張って作り上げたものを諦めなくていい。それを言いに来たんだ |
| ミクリオ | 確かに僕だって、ここまで人生を賭けてやって来た事を諦めるなんて、本意じゃない |
| ミクリオ | 本当はこんな事はしたくないさ |
| スレイ | だったら! |
| ミクリオ | けれど、今回は問題が多すぎるんだ。事態は既に、僕一人ではどうにも出来ないところまできている |
| ミクリオ | 夢のために僕を支えてくれていた人達を見捨てるなんて、僕には… |
| スレイ | ミクリオは本当にそれでいいのか? |
| ミクリオ | さっきも言っただろう!夢と仲間、どちらかを選ばなければいけないんだ! |
| スレイ | …わかった。本当にそれで後悔しないって言うなら、そうすればいい |
| スレイ | オレが、先に夢を叶えるだけだ |
| ミクリオ | …! |
| スレイ | オレに先を越されても平気なら、好きにすればいいさ |
| ミクリオ | …誰が諦めると言った |
| スレイ | 自分でそう言ったじゃないか |
| ミクリオ | まだ言ってないだろ!君が僕の発言を邪魔したんだから |
| スレイ | あそこまで口にしたら、もう言ったようなものだろ |
| ミクリオ | 違う!僕は── |
| クラトス | ──そこまでだ |
| クラトス | 思わぬ邪魔が入ったが…そろそろ貴公の答えを聞かせてもらおう |
| ミクリオ | …ああ、わかっている |
| ミクリオ | クラトス…あなたの言っている事は正しいのだと僕も思う |
| ミクリオ | それでも…僕はやっぱり、自分の夢を、諦められない |
| スレイ | ミクリオ…! |
| ミクリオ | スレイに言われたからじゃない。これは僕の意志で決めた事だ |
| ミクリオ | 巻き込む形になってしまって、あなた達には申し訳ないと思っている |
| ミクリオ | けれどやっぱり僕は、自分の信念を曲げてまで諦める事は出来ない |
| ミクリオ | …クラトスの言う通り、僕のやろうとしている事はただの「夢」みたいなものだ |
| ミクリオ | 不確かで不合理な選択をしている、あなたはそう言うだろう |
| ミクリオ | それでも僕は、誰かがこんな風に何かを諦めなきゃいけない世界を、ラザリス様の理想の世界にしたくない |
| クラトス | …!だが── |
| ミクリオ | ローエンの事を言うのなら、もう無駄だよ。僕はもう諦めない |
| ミクリオ | 大事な人も、夢も──僕が全て守る |
| クラトス | …わかった。それが答えだと言うなら、これ以上何も言うまい |
| クラトス | 全てを失った後に、その決断を悔いる事にならないよう祈ろう |
| スレイ | あ、ちょっと待… |
| ミクリオ | いい、放っておけ |
| スレイ | でも…あの人、このままだとローエンさんのところへ… |
| ミクリオ | そんな事はわかっているよ。誰も追いかけないとは言っていないだろ |
| ミクリオ | この辺は何度も調査をしたから、地理は熟知しているさ |
| ミクリオ | クラトスの進んだ道を行くより林の中を突っ切った方が早い |
| スレイ | そうか。だったら… |
| ミクリオ | ただし。その分魔物と遭遇する確率も高く… |
| | |
| | ガサガサッ |
| | |
| | グルルゥッ! |
| ミクリオ | なっ… |
| スレイ | はあっ! |
| | ズバッ! |
| スレイ | …はは、大丈夫!オレとミクリオがいれば、魔物くらいどうって事ないよ! |
| ミクリオ | …君は楽天的すぎないか。まあ、剣の腕は確かなようだけど |
| スレイ | よし!じゃあ急いで出発しよう! |
| scene2 | 不壊の約束 |
| スレイ | はあ…はあ… |
| ミクリオ | ようやく林を抜けたな |
| スレイ | ミクリオの言った通り、本当に魔物が多かったな… |
| スレイ | 戦いつつ一気に駆け抜けなきゃいけなかったから、何度か足がもつれそうになったよ… |
| ミクリオ | …スレイ、ここで少し休んで行こう |
| スレイ | え?でも、急がないとローエンさん達が… |
| ミクリオ | 藪を通り抜けたり、魔物との戦闘を繰り返したせいで、お互い傷だらけだろう |
| ミクリオ | 僕も君もだいぶ息が上がっているし、疲れた状態で無理に急ぐよりも、体力を回復させた方がずっと効率的だ |
| ミクリオ | 幸い、林を突っ切ったお蔭で、時間はだいぶ短縮出来ているしね |
| スレイ | …確かにミクリオの言う通りだな。わかった、少し休憩しよう |
| | パアア… |
| スレイ | ふう…楽になった。ありがとう |
| ミクリオ | …ここまで魔物と立て続けに戦ってきたけれど、君とは何故か連携が取りやすかったよ |
| ミクリオ | 僕の立ち回りを自然と察して動いてくれていたからかもしれないね |
| スレイ | …そうだな。オレもミクリオと一緒だと、すごく戦いやすいよ |
| ミクリオ | …その事で少し聞きたいんだが |
| ミクリオ | スレイは僕の事をよく知っているようだけれど、どうしてなんだ? |
| スレイ | …やっぱり、覚えてないよな |
| ミクリオ | …? |
| スレイ | あのさミクリオ、実はオレ達── |
| | |
| スレイ | … |
| ミクリオ | スレイ?僕達が何なんだ? |
| | |
| スレイ | いや、その…実はさ。オレ達は昔、一緒にいた事があるんだ |
| ミクリオ | 昔? |
| スレイ | うん。よく遺跡探索したりしてさ。うっかり日が暮れるまで遊んで、ジイジに怒られたり… |
| ミクリオ | ジイジ?君の祖父か何かか? |
| スレイ | …まあ、そんなとこかな |
| ミクリオ | 確かに遺跡探索なら、幼い頃よくガイ達と一緒に行っていたな…。まあ、今も大して変わらないけれど |
| ミクリオ | ああ、もしかして、その時にスレイとも一緒に遊んだ事があったのか? |
| スレイ | …あ、うん…。きっと、そんな感じだと、思う… |
| ミクリオ | そうだったのか…。はっきりと覚えてなくてすまない |
| スレイ | …いや、いいんだ。これは仕方ない事だから |
| ミクリオ | でも、一つ気付いた事があるんだ。僕は不思議な夢を繰り返し見ているんだが── |
| ミクリオ | その夢に出てくる青年、あれは君なのかもしれない |
| スレイ | え?オレが夢に…? |
| ミクリオ | 少し不思議な話だけどね |
| ミクリオ | でも、君と出会い今の話を聞いて…やっぱりあれは君だったんだと確信したよ |
| スレイ | ミクリオ… |
| ミクリオ | 手紙の主だったり、夢に出て来たり…君は僕にとって縁の深い存在なのかもしれないね |
| スレイ | ……うん、そうだな。きっとオレ達は繋がってる |
| スレイ | …ありがとう、ミクリオ |
| ミクリオ | …?感謝されるような事は何も言ってないと思うけど |
| スレイ | いいんだ、オレが言いたかっただけだから |
| スレイ | ──あ、そうだ |
| スレイ | 今のミクリオは、覚えていないと思うけど… |
| スレイ | オレ達は昔、世界中の遺跡を一緒に回ろうって話してたんだ |
| スレイ | それが、オレ達の夢 |
| ミクリオ | 僕達の… |
| ミクリオ | …スレイ、もしかして君がさっきあれだけ必死になって夢を諦めるなと言ったのは… |
| スレイ | えーっと…、うん。オレ達二人の夢を諦めてほしくなくて思わず… |
| ミクリオ | そうだったのか… |
| ミクリオ | 世界中の遺跡を回る、か。素晴らしい夢だ |
| スレイ | だろ?ミクリオなら、きっとそう言ってくれると思ったよ |
| スレイ | …さてと。傷も癒えたし、レイザベールへ急ごうか! |
| ミクリオ | そうだね。のんびりしすぎて、追い抜かされたりしたらたまらない |
| ミクリオ | ──行こう! |
| scene1 | 辿りついた選択肢 |
| エレノア | ──作業の進み具合はどうですか |
| 骨董商 | 人工遺物の回収はほぼ終わりました |
| エレノア | …そう、ですか |
| エレノア | みなさん、お疲れ様でした。後の事は私に任せてください |
| クレス | そんな…博物館が、すっかり空っぽに… |
| ガイ | くそ、ミクリオは間に合わなかったか… |
| ローエン | … |
| ローエン | エレノア様 |
| エレノア | ローエン… |
| ローエン | お願いいたします。どうか商人達に、運び出した収蔵品を戻すよう命じてください |
| ローエン | あなたもこのような結末は、決して望んでいないはずでしょう |
| ローエン | 今、あの商人達を止められるのは、あなたしかいないのです |
| エレノア | …残念ですが、それは出来ません |
| エレノア | やはりミクリオは白き獅子に志願すべきです。彼はそれだけの才を持っています |
| エレノア | ラザリス様をお守りする事は、この上ない貢献となるでしょう。…それは、彼のためにもなるはずです |
| エレノア | 人工遺物の研究から手を引かせる事でミクリオが正しい道を歩める可能性が少しでもあるのなら… |
| エレノア | 例え恨まれる事になろうとも、私は任務を遂行します |
| ローエン | エレノア様… |
| ローエン | お気持ちはよく理解しました。あなたもミクリオ様をお思いなのですね |
| | |
| ローエン | …ですが、もう一度だけ言います |
| | |
| ローエン | 今すぐに作業を中止させなさい |
| エレノア | …! |
| ローエン | このような強引な手段を用いたところで、ミクリオ様が夢を諦めるはずがない |
| ローエン | そんな事は、あなたもおわかりのはずです |
| エレノア | … |
| クレス | ローエンさん!? |
| ガイ | おいおい、貴族のエレノア相手にそんな事言ったら…! |
| エレノア | …そのような厳しい表情のあなたを見るのは初めてですね |
| エレノア | ですが…私にも立場があります。いくらあなたでも、庇う事は… |
| ローエン | ええ、覚悟の上でございます |
| クレス | 待ってくれ!ローエンさんに何かあったらミクリオは、より悲しむ事に… |
| ローエン | 私も本意ではございません。ですが、こうする事であの方の夢をお守り出来るのならば… |
| ローエン | このローエン、全てを投げ打ってでもエレノア様をお止めいたしましょう |
| ローエン | 老い先短い私の覚悟、聞き入れてはもらえませんかな? |
| エレノア | ローエン…あなたは… |
| ??? | ──その必要はない! |
| | |
| ミクリオ | 待たせたね、ローエン。今帰った |
| ローエン | ミクリオ様… |
| エレノア | ミクリオ…! |
| クレス | よかった、ギリギリ間に合った! |
| ガイ | ったく、待ちわびたぜ! |
| スレイ | ふぅ…。間一髪だったみたいだな… |
| ローエン | …どうやら、無事に手紙の主様と会えたようですね。ご無事で何よりです、ミクリオ様 |
| ミクリオ | ああ、遅くなってすまなかった |
| ミクリオ | …どうやら、人工遺物の回収は順調に進んでいるようだね、エレノア |
| エレノア | …!知っていたんですか… |
| ミクリオ | ああ、全て聞いたよ。クラトスから…ね |
| エレノア | クラトス…?どういう事ですか。彼は今日、休暇を取っているはず… |
| スレイ | 実は…クラトスさんはミクリオをこっそり呼び出して、説得しようとしてたんです |
| スレイ | オレが、新しい手紙をミクリオに出したかのように装って… |
| エレノア | クラトスが、私に黙ってミクリオを…? |
| エレノア | そんな…何故彼はそのような勝手な真似を |
| ミクリオ | 彼なりに、君と君の家の事を真剣に考えた結果だろう |
| ミクリオ | とはいえ、結局僕は、クラトスの説得に応じなかったんだけれど… |
| ミクリオ | 彼はあくまでも、貴族達の指示を遂行しようと考えているようだから、じきにここへ来るだろう |
| ミクリオ | それより、ローエン |
| ミクリオ | 僕のために、君が犠牲になる必要なんてない |
| ローエン | ミクリオ様… |
| ローエン | ですが、このままではミクリオ様が今まで集めた人工遺物は全て没収されて… |
| ミクリオ | いいんだ。持って行かれても構わない。彼らの好きなようにさせればいいさ |
| ミクリオ | …僕にとってローエンは人工遺物よりも守るに値する人だ |
| ローエン | ミクリオ様… |
| ローエン | いけませんミクリオ様!そのような事をしたら、絶対に後悔いたします! |
| ローエン | 私はミクリオ様の夢を全力で応援すると申し上げたはずです! |
| ローエン | そのためならば、この老体の未来などいくらでも── |
| ミクリオ | 心配ないよ、ローエン |
| ミクリオ | 僕は、夢を諦めるつもりなんてこれっぽっちもない |
| ミクリオ | 確かに、貴族達の勝手な都合で集めた人工遺物を没収されるのは許しがたい事だ |
| ミクリオ | だが、例え全てなくなったとしてもまた一から集め直せばいい |
| ミクリオ | 世界にはまだまだ数えきれないほどの人工遺物が眠っているんだ。何度だって探しにいける… |
| ミクリオ | そう思わないかい、ローエン? |
| ローエン | ミクリオ様… |
| エレノア | ミクリオ…あなたは… |
| スレイ | だな。ミクリオが、こんな事くらいで諦めるはずがない |
| スレイ | ミクリオの意志の強さは筋金入りだ。オレが保証するよ。昔っからそうだったし |
| エレノア | 昔から…?お話を聞く限り、ミクリオに手紙を出していた方のようですが… |
| エレノア | あなたは、ミクリオとは古くから交友があるのですか? |
| スレイ | ああ、えーっと…そうだな。言うなれば… |
| スレイ | 見えない絆で繋がった親友!…かな |
| ミクリオ | 親友、か…。僕の方は君を忘れてしまってるけどね |
| スレイ | 今はそうかもしれないけど、いつか必ず思い出してくれる日が来るよ |
| スレイ | …それに、何も覚えてなくたって、ミクリオはミクリオだった。それがわかれば大丈夫 |
| ミクリオ | …? |
| ローエン | おやおや、お二人は昔からのご友人だったのですか |
| ローエン | ほっほっ、何はともあれ、ミクリオ様が素晴らしいご友人と再会出来て、何よりです |
| ミクリオ | 何を…って、それはいいんだ。とにかくそういう事だから、人工遺物は持って行って構わない |
| エレノア | そんな…ミクリオが、何の抵抗もなく、あっさりと自分から人工遺物を手放すなんて… |
| ミクリオ | エレノア。君はこのまま、役目を完遂すればいい |
| ミクリオ | それでも僕は、自分の夢を絶対に諦めない |
| ミクリオ | 僕の夢は、多くの人の…ひいてはラザリス様の望む世界の幸福へと繋がっているはずだ |
| ミクリオ | 途中で投げ出したらきっと後悔する。だから、どんなに辛くても大変でも、最後まで歩き通してみせるよ |
| ミクリオ | この意志が挫ける事は決してない。この事は、他の貴族達にも改めて伝えておいてほしい |
| エレノア | …怒らないんですか?私は、あなたの大切なものを奪っていこうとしているんですよ? |
| ミクリオ | 君にも事情や立場がある。やりたくてやったわけじゃない事は理解しているからね |
| エレノア | … |
| ミクリオ | 言われた通りに人工遺物を没収して、改めてミクリオも説得しようとした。でも、彼は言う事を聞かなかった |
| ミクリオ | 他の貴族達には、そう伝えればいい |
| ??? | …まさかそう来るとはな |
| クラトス | … |
| ミクリオ | クラトス… |
| scene2 | 辿りついた選択肢 |
| クラトス | …まさか自分の意志で人工遺物を差し出し、ローエンや私達だけでなく己の夢まで守ってみせるとはな |
| エレノア | …クラトス。ミクリオから、あなたが私に黙って何をしていたのか聞きました |
| エレノア | ミクリオを呼び出したというのは本当なのですか |
| クラトス | ああ、その通りだ |
| クラトス | 幼馴染のミクリオ殿さえいなければ、お前は躊躇する事なく任務を遂行出来るだろうと思ったのでな |
| エレノア | …そのような行動に出たのは、やっぱり… |
| クラトス | …ああ。ヒューム家を守るためには、手段を選んではいられなかった |
| エレノア | クラトス…。どうしてあなたはそこまでして、私の家を守ろうと… |
| ローエン | …エレノア様。クラトスさんは、あなたのお父上の親友だったのですよ |
| クラトス | 待てローエン。その話は… |
| ローエン | せっかくの機会です。知っておいた方がよろしいでしょう |
| ローエン | エレノア様のお父上は、死の間際、友であるクラトスさんにヒューム家を頼むと言い残しました |
| ローエン | だからクラトスさんは、ヒューム家とあなたを、何に変えても守ろうと必死に動いておられたのです |
| クラトス | … |
| エレノア | クラトス… |
| エレノア | …ミクリオ。あなたが人工遺物を持って行って構わないと言ったのは、私達のためだったのですね |
| エレノア | クラトスの覚悟を尊重し、私やクラトスの立場が悪くならないように、と… |
| エレノア | …ミクリオ、あなたは大切にしていた人工遺物や己の立場を犠牲にしてまで私達を守ろうとしてくれました |
| エレノア | 規律や取り決めに縛られず、ぶれる事なく夢を貫き通す強い覚悟と意志を見せた… |
| エレノア | …それに比べて私は、よくない事だと思いながらも、仕方ない事なのだと自分に言い聞かせてばかりで… |
| エレノア | 正しいかどうかなんて考えもせず、周りに言われるがままに従うだけでした… |
| エレノア | …私は、何と無知だったのでしょう |
| ミクリオ | … |
| エレノア | 私は白き獅子を目指す事こそが、ラザリス様への一番の貢献だと、信じて疑わずにここまできましたが… |
| エレノア | この思想には、ミクリオほどの強い意志はなかったのかもしれません |
| エレノア | 今なら素直に認められます。あなたの夢は、信念のこもったとても素晴らしいものだと |
| エレノア | 私の過ちに気付かせていただき、ありがとうございます。──そして、申し訳ありませんでした |
| ミクリオ | エレノア… |
| エレノア | ローエンも、すみませんでした。あなたのミクリオへの想いを、私はよく知っていたのに… |
| ローエン | …お気になさらないでください。エレノア様は従わざるを得なかっただけなのですから… |
| エレノア | 本当に、あなた方には頭が上がりません。私は何という事をしてしまったのか… |
| エレノア | 何度お詫びをしてもし足りないくらいです |
| クラトス | …私からも謝罪させてくれ。すまなかった |
| ミクリオ | 二人共、頭をあげてくれ。僕は謝罪なんか望んでいない |
| ガイ | そうそう。あんまりかしこまられても、ミクリオ達だって困っちまうだろ |
| クレス | 二人に悪意があってやったわけじゃない事は、みんなわかっているんだし… |
| エレノア | はい…。…その、今さらかもしれませんが… |
| エレノア | 今後は私もミクリオのように、自分の意志で正しいと信じられる道を見極めたいと思います |
| エレノア | そのためにも…ミクリオの夢の実現に、協力させていただけませんか |
| ミクリオ | 協力? |
| エレノア | ──そこのあなた! |
| 骨董商 | は、はい! |
| エレノア | 申し訳ありませんが、回収した人工遺物を元に戻してもらえますか。手数料はお支払いいたしますので |
| スレイ | 人工遺物を返してくれるんですか? |
| ガイ | これで博物館も元通りになるんだな! |
| ミクリオ | …いいのか、エレノア?こんな事をしたら、君の立場は… |
| エレノア | 心配無用です。貴族の方々も説得してみせましょう |
| エレノア | これは私が、もう一度きちんと向き合わなければならない問題ですから |
| ミクリオ | エレノア…ありがとう |
| エレノア | いえ、お礼を言うのは私の方です。…それと… |
| ミクリオ | この手は…? |
| エレノア | 先日出来なかった、和解の握手です。…お願い出来ますか? |
| ミクリオ | ああ、勿論さ |
| ローエン | ほっほっ、和解出来てよかったですね。ミクリオ様、エレノア様 |
| クラトス | …ミクリオ殿。偽りの手紙で貴公を誘い出した事、この場で詫びさせてくれ |
| ミクリオ | クラトス… |
| クラトス | …だが、独断での行動に関しては、釈明するつもりはない。咎めはいくらでも受けよう |
| ミクリオ | …クラトス。僕はあなたを咎めるつもりはない |
| クラトス | …そうか。貴公も大概甘いな |
| スレイ | 何はともあれ、人工遺物の没収がなくなってよかったな、ミクリオ! |
| ローエン | ええ、これで少しだけ肩の荷が下りました |
| ガイ | 博物館が空になった時は、どうなる事かと冷や冷やしたぜ |
| クレス | 本当に。何とかなりそうでよかったよ |
| ミクリオ | みんなも、いろいろと手を貸してくれて、感謝している |
| ミクリオ | 特にスレイ…あの時君は、夢を諦めるなと声をかけてくれただろう |
| ミクリオ | あの一言があったから、僕は折れる事なく立ち向かう事が出来たんだと思う |
| ミクリオ | 本当に助かったよ。ありがとう、スレイ |
| スレイ | …どういたしまして! |
| scene1 | 追憶への行路 |
| ガイ | …ふぅ。これで、大体は元通りになったかな |
| クレス | そうだね。見慣れた元の博物館の姿とほとんど変わらないと思うよ |
| ガイ | 一時はどうなるかと思ったが、何とかなってよかったな |
| ミクリオ | 心配をかけてすまなかった。ありがとう、クレス、ガイ |
| ガイ | 気にするなって、友達だろ。それじゃ、俺達はそろそろおいとまするとしようか |
| クレス | ミクリオ、また何かあったら、遠慮なく僕達を頼ってくれ |
| エレノア | ミクリオ、私達もそろそろ失礼しますね |
| ミクリオ | 結局二人にまで手伝わせてしまったな |
| エレノア | 私が原因を作ったのですから、これくらいは当然です |
| ミクリオ | 他の貴族達に話をすると言ってたけれど…くれぐれも無茶はしないでくれ |
| エレノア | はい、でも大丈夫です。私には頼りになる従者がついていますから |
| エレノア | …これからは、何があろうと私達はあなたの味方です。どうかそれだけは忘れないでください |
| ミクリオ | ああ、覚えておくよ |
| エレノア | それでは、失礼します |
| クラトス | 邪魔をしたな |
| スレイ | …さっきまで、あんなにたくさん人がいたのに、静かになる時はあっという間だな |
| ミクリオ | ああ、そうだな |
| ローエン | …ミクリオ様、先ほどの決断、実にお見事でした |
| ローエン | 友を助け、自らの夢も守る…。並大抵の覚悟で出来る事ではございません |
| ローエン | 本当にご立派になられました。あなたの従者として、誇りに思います |
| ミクリオ | よしてくれ。そこまで言われるとさすがに僕もくすぐったい |
| ローエン | しかし、ついこの間まであんなに小さかったミクリオ様が…。時の流れは早いものですね |
| ミクリオ | 一体いつの話をしているんだ… |
| スレイ | はは、二人は仲がいいんだな |
| ローエン | ええ、長くお仕えさせていただいておりますから。…そうです、スレイさん |
| ローエン | 今回の事…本当にありがとうございました |
| スレイ | オレですか?そんな、オレは何も── |
| ローエン | …あなたには、我が主の夢を守っていただきました |
| ローエン | ミクリオ様が夢にかける情熱は、ずっとお側で見てきた私も存じております |
| ローエン | そして、そこに至るまでの、苦悩や喜びも…。だからこそ、私も深く感謝せずにはいれないのです |
| スレイ | 何か変な感じだな…。ミクリオの事で、オレが感謝されるのって |
| ミクリオ | …スレイ、何でそんなに嬉しそうなんだ |
| ローエン | …不思議ですね |
| ローエン | スレイさんとミクリオ様が並んでいらっしゃる姿を見ると、何故かとても安心するのです |
| ローエン | まるでずっと昔から、それが当たり前だったかのように… |
| スレイ | … |
| ローエン | スレイさん。ミクリオ様と、これからも仲良くして差し上げてくださいね |
| スレイ | はい、勿論です! |
| ミクリオ | ローエン…僕を子ども扱いするのはやめてくれ |
| ローエン | ほっほっほ。さて、お二人には積もる話もおありでしょう |
| ローエン | せっかく人工遺物を語れる者同士が出会えたのですから、存分に語り合うとよろしいかと |
| ローエン | 私は仕事に戻りますので、何かあったらお呼びください |
| ミクリオ | ああ。ありがとう、ローエン |
| | |
| スレイ | …ここがミクリオの部屋かあ。今のミクリオは、こんなところに住んでるんだな |
| ミクリオ | 今の…?僕は昔から、ずっとこの部屋だけど |
| スレイ | あ…そうだよな。ごめんごめん。変な言い方しちゃったな |
| ミクリオ | …? |
| スレイ | ええっと…それにしても、人工遺物の件、何とか一件落着してよかったな! |
| ミクリオ | ああ、これで思う存分研究に力を注げそうだ |
| スレイ | …ミクリオは、本当に人工遺物が好きなんだな |
| ミクリオ | 昔から妙に心惹かれるんだ |
| ミクリオ | 別にきっかけと言えるような印象深い出来事があったわけじゃない |
| ミクリオ | ただ、気付けばそれが当たり前かのように夢中になっていた |
| ミクリオ | …不思議なものだね。これが好きという事なんだろうけど自分でも首をひねるくらいだよ |
| ミクリオ | …けれど、落ち着くんだ |
| ミクリオ | こうしている事が僕が僕であるという証明のような…そんな気がして |
| スレイ | … |
| ミクリオ | …こんな事、ローエンくらいにしかしゃべった事がないんだけどね。不思議と君には口が軽くなるみたいだ |
| スレイ | …あのさ、ミクリオ |
| ミクリオ | 何だい? |
| スレイ | こんな事、オレがいきなり話し出したら、きっと驚くと思うけど… |
| | |
| スレイ | オレ…実は、別の世界で生きてたんだ |
| ミクリオ | …どういう事だ? |
| スレイ | オレだけじゃない。ミクリオも一緒だった。オレ達、幼馴染だったんだ |
| ミクリオ | ちょっと待ってくれ。わけがわからない… |
| ミクリオ | スレイも僕も別の世界の人間で…幼馴染、だって? |
| ミクリオ | 本気で言っているのか…? |
| スレイ | こんな冗談言わないよ |
| スレイ | …昔オレ達が一緒にいた事があるって話したの、覚えてる? |
| スレイ | 小さい頃の話かって言われて咄嗟に頷いちゃったんだけど、…あれ、本当は別の世界の話なんだ |
| スレイ | オレ達は、小さい頃からずっと一緒に育って…それから、世界を救うための旅に出たんだよ |
| ミクリオ | 君は何を言って… |
| スレイ | …ごめん。いきなりこんな事を話しても、やっぱり信じられないよな |
| ミクリオ | …ああ、僕にそんな記憶はない |
| ミクリオ | そもそも僕は、君の事だって全く覚えていないんだ… |
| スレイ | だけど、嘘じゃないんだ。ミクリオが覚えていないのは、天帝が全てを変えてしまったからで… |
| ミクリオ | 天帝…?つまり君は、ラザリス様が僕の記憶を消したと…そう言いたいのか? |
| スレイ | うん。でも、ミクリオだけじゃない。天帝は、多分世界自体を書き換えてる |
| ミクリオ | そんな突拍子のない事、一体何を根拠に── |
| スレイ | …「人工遺物」 |
| スレイ | あれは、天帝が創り変えてしまう前の世界の物なんだ。だから、詳しく説明する事が出来た |
| ミクリオ | 人工遺物が?そんな、ありえない… |
| スレイ | じゃあ、ミクリオは、オレがどうやって人工遺物の知識を手に入れたと考えてるんだ? |
| ミクリオ | それは… |
| スレイ | それにミクリオはオレの事、知ってただろ |
| ミクリオ | いや、あれはあくまでも夢の話で… |
| スレイ | …やっぱり、人工遺物の使い方だけじゃ記憶は戻らないか |
| スレイ | 本当は、ミクリオがちゃんと記憶を取り戻すまでは会わないつもりだったんだけど── |
| スレイ | ミクリオが大変だって聞いて、思わず飛び出しちゃって…これじゃ、作戦も台無しだよな |
| ミクリオ | 作戦だって? |
| スレイ | 本当は、ミクリオを見つけた時、すぐにでも声をかけたかったんだけど… |
| スレイ | …この世界を見て回る内にそれじゃ駄目なんだってわかったんだ |
| スレイ | みんな、ミクリオと同じように元の記憶を失ってて…誰もオレの話を信じてくれなかった |
| ミクリオ | …それはそうだろう。自分にない記憶を思い出せ、なんて言われても、戸惑うだけだ |
| スレイ | だから、直接会いにいくのは避けて手紙を送ったんだ |
| スレイ | 人工遺物の事をきっかけにミクリオの記憶を取り戻せたらって… |
| スレイ | …と言っても、これはオレが思い付いた作戦じゃないんだけどね |
| ミクリオ | …!仲間がいるのか? |
| スレイ | 運よく記憶を取り戻してた仲間と合流出来たんだ。今はわけがあって、別行動中だけど… |
| ミクリオ | … |
| ミクリオ | …人工遺物は別世界の物と考えれば、様々な事に説明が付く。理解出来る点があるのも確かだ |
| スレイ | ミクリオ… |
| ミクリオ | でも…信じられない。いや、信じてはいけないんだ |
| ミクリオ | ラザリス様が、僕達の記憶を書き換えているだなんて… |
| ミクリオ | そう…そんな事を言う君は、まるで── |
| スレイ | ……咎人みたいだ、って? |
| ミクリオ | …! |
| ミクリオ | …ああ、そうだ。人を惑わす言葉…そう思われても仕方ない事を言ってるんだぞ、君は… |
| スレイ | はは、そう…だな。でも、これは全部事実なんだ |
| ミクリオ | …君の目的は何なんだ。どうして、僕にそこまで… |
| スレイ | …多分、今のミクリオにはわからないと思う… |
| スレイ | すぐには無理かもしれない。でも、少しでもオレの言葉が届くなら… |
| スレイ | ミクリオ。オレと一緒に、来てくれないか |
| スレイ | 一緒に旅をすれば、オレの言った事が嘘じゃないって証明出来るはずだ |
| スレイ | きっとお前の記憶だって取り戻せる。そして、今度こそみんなと世界を── |
| ミクリオ | …少し、考えさせてくれないか |
| ミクリオ | いきなり多くの情報が入ってきたから混乱しているんだ。整理するのに時間がほしい |
| スレイ | …そうだよな。わかった、ゆっくり考えてきてくれ |
| ミクリオ | … |
| scene2 | 追憶への行路 |
| ミクリオ | ──こことは違う別の世界、人工遺物の真実、失われた記憶… |
| ミクリオ | …あんな話、簡単に信じられるわけがない |
| ミクリオ | そう…咎人の可能性がある者は、迷わず白き獅子に突き出すべきだ |
| ミクリオ | それなのに、どうして僕は…… |
| | |
| スレイ | ミクリオ。オレと一緒に、来てくれないか |
| | |
| ミクリオ | …僕は一体、どうすれば… |
| ローエン | おや、ミクリオ様。もうお話を終えられたのですか? |
| ミクリオ | ローエン… |
| ローエン | てっきり、スレイさんと人工遺物の話に花を咲かせているものと思っておりましたが |
| ミクリオ | … |
| ローエン | …表情が冴えませんね。どうかなさいましたか |
| ミクリオ | …すまない。少し、相談に乗ってくれないか |
| ミクリオ | 実は、スレイからとんでもない話を聞かされてね… |
| ローエン | ──スレイさんは別の世界の住人で、人工遺物はその世界の物だった…ですか |
| ローエン | …それはまた、何とも突拍子もないお話ですな |
| ミクリオ | スレイの言う事に不思議な説得力や検証の余地があるのは事実なんだが、あまりに現実離れしていて… |
| ローエン | 素直に信じていいものなのか判断しかねている、と。…なるほど、難しい話です |
| ミクリオ | スレイの言う話は本当なのだろうか、それとも、彼は…… |
| ミクリオ | …ローエン、君はどう思う? |
| ミクリオ | 僕の考えは無視していい。この話を聞いてどう感じるのか、客観的な意見がほしい |
| ローエン | そうですねぇ… |
| ローエン | 確かに、にわかには信じがたい話だと思います。別の世界というのも聞いた事もありませんし… |
| ミクリオ | そうか… |
| ローエン | …ですが、きっと真実なのでしょうね |
| ミクリオ | …! |
| ローエン | そもそも、人工遺物自体が正体不明の不思議な物なのですから、何があってもおかしくありませんし |
| ローエン | 何より、スレイさんはミクリオ様をとても大事に思っていらっしゃいます |
| ローエン | そんな彼が、あなたを騙すような事を言うはずがない…そう感じます |
| ミクリオ | …そうか |
| ローエン | 先ほど、スレイさんに旅に誘われたとおっしゃっていましたね |
| ミクリオ | ああ。それがどうかしたか? |
| ローエン | せっかくのお誘いなのです、博物館や貴族達の事は私に任せて、旅に出てみてはいかがです? |
| ミクリオ | …! |
| ローエン | 彼と世界各地を回り、人工遺物と世界の謎を調べる事に魅力を感じておいでなのでしょう? |
| ミクリオ | それは、確かにそうだが…スレイの話の事もあるし、僕が長期間屋敷を空けるわけには… |
| ローエン | こちらの心配はいりませんよ。エレノア様やクラトスさんの助けも得られるでしょう |
| ローエン | それに、人工遺物に詳しいスレイさんと行動を共にすれば、研究もきっと捗ります |
| ローエン | ミクリオ様は、思う存分、ご自身の夢を追ってきてください |
| ミクリオ | …僕は… |
| ローエン | ミクリオ様。今一度、ご自分の気持ちと素直に向き合ってみてくださいませ |
| ローエン | そうすれば、誰を信じたいのか、そして、何がしたいのか…おのずとおわかりになるはずです |
| ローエン | それがどのようなものであろうと、このローエン、最後までお力になると誓いましょう |
| ミクリオ | ……そうだな。もう少し、考えてみる事にする |
| ローエン | ええ。どうか後悔だけはされませんよう、よくお考えください |
| scene3 | 追憶への行路 |
| スレイ | … |
| | |
| ミクリオ | …待たせたね |
| スレイ | ミクリオ…! |
| ミクリオ | …単刀直入に言うよ。僕は君の事を咎人だと思っている |
| スレイ | そう…だよな |
| スレイ | …ミクリオがオレを警戒するのもわかる。けど、オレは──…! |
| ミクリオ | …でも、僕は、君の話が虚言だと断定する事も出来ないでいるんだ |
| ミクリオ | こうして迷っている事自体、咎人である君に惑わされているんじゃないか、と思うほどに… |
| スレイ | …もしかして、オレを白き獅子に突き出そうとしてるのか…? |
| | |
| ミクリオ | 本来ならそうすべきだろうね…。けど僕は、真実を突き止めるため君に同行する事に決めた |
| | |
| スレイ | …!本当か!? |
| ミクリオ | ああ。旅をしながら、人工遺物や、君の言う別の世界について調べる事にする |
| ミクリオ | その中で確証が持てたら君を信じる。だが、もし全てが君の妄言だとわかったら… |
| ミクリオ | その時は即座に然るべき処置を取り、咎人として、君を白き獅子に突き出す |
| スレイ | …! |
| ミクリオ | 僕はラザリス様に対して、忠誠を誓っている |
| ミクリオ | 今回のエレノアの一件を経て、ますますその思いは強くなったと言ってもいい |
| ミクリオ | だから、そのラザリス様に仇を為すかもしれない君を、放っておく事は出来ない |
| ミクリオ | 僕が同行するのはあくまでも、人工遺物の研究、及び、咎人かもしれない君の監視が目的だ |
| スレイ | 監視… |
| ミクリオ | 場合によっては、僕と君は敵対する可能性だってあるだろう |
| スレイ | それでもいいよ。ありがとう、ミクリオ |
| スレイ | …そっか…ミクリオと、また旅が出来るんだな… |
| スレイ | はは、思い切って話してよかった!記憶をなくしてるのは寂しいけど、やっぱりすごく嬉しいよ |
| ミクリオ | …喜ぶところか?僕は君を警戒しているとはっきり告げたんだぞ? |
| スレイ | あはは、そういえばそうだな。でも、オレにとっては、一緒に旅が出来る事の方が大事なんだ |
| ミクリオ | ……。君の考えている事は時々よくわからないな |
| | |
| スレイ | さてと。まずはどこへ向かおうかなー |
| ミクリオ | それなら、市都ファルカームに行ってみないか? |
| スレイ | 別にいいけど、何かあるのか? |
| ミクリオ | 最近、ラザリス様がその街を視察に訪れたそうだ |
| スレイ | そういえば、天帝はすごく視察に熱心なんだっけ |
| ミクリオ | ああ。だけど、よく考えたら、視察の目的や理由も僕達は何一つとして知らないんだ |
| ミクリオ | だからまずは、ラザリス様のお考えを知る事が、スレイの話を見極める鍵になるんじゃないかと思ってね |
| ミクリオ | そのためには、実際に視察した街へ行ってみるのが一番だろう |
| スレイ | …天帝について調べる事が、みんなの記憶や世界を取り戻すヒントにもなるかもしれないし… |
| スレイ | よし、決まりだ。ファルカームへ向かおう! |
| スレイ | …あ、でも、その前にローエンさんや友達のみんなに挨拶してきた方がいいんじゃないか? |
| ミクリオ | いや、その必要はない。既にローエンには話してある |
| ミクリオ | それに、少し街を離れるだけだ。二度と会えなくなるわけでもないし別れの挨拶なんて大げさだよ |
| ミクリオ | …事情を話せば、かえって余計な心配をかける事になるかもしれないしね |
| スレイ | …そっか、そうだよな |
| ミクリオ | わかったなら急ごう。あまり時間が経つと、正確な証言が得られなくなってしまうからね |
| スレイ | あ、うん…そうだな。それじゃ、出発しよう! |
| スレイ | ミクリオ…必ず、お前の記憶を取り戻させる |
| スレイ | そして今度こそ、みんなで一緒に世界を取り戻すんだ! |