Name | Dialogue |
scene1 | 脱獄 |
ベルベット | … |
ベルベット | …こんな世界、絶対に認めない |
ベルベット | ラザリス…あんたと、この世界を覆う化けの皮はあたしが剥ぎ取ってやるわ |
ベルベット | そして今度こそ必ず、この手で「あいつ」を…… |
ベルベット | …… |
ベルベット | そのためにもまずはここを脱出しないと──… |
| コツ… |
ベルベット | …! |
| コツ…コツ…コツ… |
| |
レイヴン | さーて、例のお嬢さんはどこにいるかなっと… |
レイヴン | おっ、早速はっけ~ん!宮殿の地下牢に、こんな素敵な美女がいるとはねぇ |
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ベルベット | … |
| |
レイヴン | しっかし、これまたクールビューティな… |
| カシャンッ |
レイヴン | ん? |
| |
ベルベット | 用件があるならさっさと言いなさい |
ベルベット | それとも何、あたしを処刑しにでも来たの? |
| |
レイヴン | まぁまぁ、落ち着いて。若い子は急ぎ癖があるからよくないわね |
レイヴン | 初対面同士、こういうのはまず挨拶からって相場は決まってるもんでしょ |
| |
ベルベット | あいにく、処刑人と話してるほど暇じゃないの |
| |
レイヴン | 処刑人?…ああ、お嬢さん何か勘違いしてるみたいだから言っとくけど… |
レイヴン | おっさん、処刑人でもなければ警備兵でもないし、安心して── |
| |
ベルベット | …なら、何者なのよ |
ベルベット | ここはラザリスの宮殿よ。それなりに警備だっているはず |
ベルベット | …関係者じゃないなら、どうやってここまで来たわけ? |
| |
レイヴン | およ?安心させるつもりが逆に警戒させちゃった感じかしら |
| |
ベルベット | …つべこべ言わずに目的を言いなさい |
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レイヴン | まあまあ、そんな怖い顔しなさんなって。せっかくの可愛い顔が台無しよ |
レイヴン | …それよりお嬢さん、こんな暗い牢獄、とっととおさらばしたいーとか、思わない? |
| |
ベルベット | …! |
| |
レイヴン | 名前、教えてくれたらこの扉開けてあげてもいいけど~ |
| |
ベルベット | 名前…? |
| |
レイヴン | そそ。名前がわからなけりゃ口説けもしないってね |
レイヴン | ほら、これが条件。どうする? |
| |
ベルベット | …ベルベットよ |
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レイヴン | ベルベットちゃん、ね。へぇ、可愛い名前じゃないの |
レイヴン | 俺はレイヴン、よろしくね。んじゃ、約束通り… |
| カチャ…カチャカチャ… |
| ガチャン! |
| キイイ… |
レイヴン | はい、この通り。牢の扉が開きましたよっと |
ベルベット | …本当に助けるのね |
レイヴン | まぁねぇ。牢に入る前のベルベットちゃんの持ち物もほら、この通り揃えておいたわよ |
ベルベット | あたしの武器まで…一体どうやって… |
レイヴン | おっさん、準備いいでしょ |
ベルベット | … |
レイヴン | 手厳しいなぁ。一言くらいくれても罰は当たらないと思うけど |
ベルベット | … |
レイヴン | 無視、ね。はぁ、おっさん悲しい── |
レイヴン | …っと、ベルベットちゃん。そんなに慌ててどこに行こうっての? |
レイヴン | ラザリス様なら今この宮殿にはいないけど? |
ベルベット | …! |
レイヴン | まあ、宮殿って言うか、シャングレイスにはいないって言った方が正しいかも── |
ベルベット | 何であんたがその事を…? |
レイヴン | なぁに、風の噂でね |
ベルベット | ラザリスはどこなの?知ってるなら言いなさい |
ベルベット | もったいぶらずに吐いた方が身のためよ |
| チャキッ |
レイヴン | うわっと…!剣なんか突き付けて…物騒なお嬢さんだ事 |
レイヴン | …けど、脅したところで無駄よ。だって、おっさんこれ以上の事なーんも知らないし |
ベルベット | …本当に? |
レイヴン | 本当、本当!信じてって! |
ベルベット | …… |
レイヴン | ほっ…助かった |
ベルベット | ラザリスがどこへ行ったのか…宮殿内の人間から情報を聞き出して居場所を突き止めるしかないわね |
レイヴン | え?助けてあげたのに、置き去り? |
レイヴン | ちょ、ベルベットちゃん!待ってってば── |
| |
衛兵 | お前達、そこで何をしている! |
ベルベット | …! |
レイヴン | あら、ばれちゃった?もう少しくらい余裕はあると思ってたんだけど |
ベルベット | ちっ… |
レイヴン | うおっと、待って待って!おっさんを置いてかないでってば! |
衛兵 | 脱獄だ!あいつらを捕まえろ! |
scene2 | 脱獄 |
レイヴン | ──その先を右 |
ベルベット | … |
レイヴン | 次は左。そしたら階段があるから、そこを… |
衛兵 | いたぞ、あっちだ! |
衛兵 | 逃がすな! |
ベルベット | …関係者じゃないって割にやけに詳しいのね |
レイヴン | まぁね |
ベルベット | …にしても、衛兵の数が多いわ |
レイヴン | そりゃあね。重罪人を収監してるわけだから、警備も厳しくなるのも当然でしょ |
ベルベット | 重罪人? |
レイヴン | 誰それ、って顔しないの。ベルベットちゃんの事でしょ |
ベルベット | … |
レイヴン | あのラザリス様を、衆人環視の中襲うなんて前代未聞だわ |
レイヴン | いやあ、驚いたの何のって。まさかラザリス様に不満を抱く人がいるとはねぇ |
レイヴン | 何が気に入らなかったんだか |
ベルベット | 不満なんかじゃない。そのラザリスが奪ったのよ、あたしの世界を |
ベルベット | あたしはただそれを取り戻したいだけ |
ベルベット | …成すべき事のために |
レイヴン | 成すべき事…? |
ベルベット | … |
ベルベット | これ以上話す義理はないわ |
レイヴン | やっぱりつれないねぇ。こうして一緒に、苦難を乗り越えようとしてるのに |
レイヴン | こうやってるとだんだん俺様に、仲間意識を感じてきたりしない? |
ベルベット | あんたが何者かもわからないのに、そんなもの芽生えるわけないでしょ |
レイヴン | あっ…はい、そうですか |
ベルベット | それより、出口はまだなの? |
レイヴン | それならもうすぐ近くよ。向こうの角を曲がった先 |
ベルベット | それを早く言いなさいよ |
レイヴン | いや、でもねえ… |
衛兵 | 見つけたぞ! |
衛兵 | ここは通さん!おとなしくしろ! |
ベルベット | … |
レイヴン | ま、当然こうなるわよね。思ったよりも、衛兵の数が多いかも |
ベルベット | 何人いようと関係ないわ。あいつらがあたしの邪魔をするなら、全員倒すだけよ |
レイヴン | おーおー、勇ましい事で |
ベルベット | 巻き込まれたくなかったら、あんたはどこかへ行けば? |
レイヴン | 今更遅いでしょ。やります、やりますよ |
ベルベット | そう。だったら行くわよ! |
scene1 | 天帝の行方 |
レイヴン | はー…ようやく地下牢から抜け出せたわね |
レイヴン | 道中の衛兵は一人残らず倒したけど、気休めね。脱獄の情報も少しすれば宮殿内に知れ渡るだろうし |
レイヴン | 騒ぎが大きくなる前に、ベルベットちゃんの気になる情報を調べるとしますかね |
ベルベット | …何であんたがやる気なの。これはあたしの問題よ、ついてこないで |
ベルベット | ラザリスの居場所くらい、あたし自身の手で見つけられるわ。あんたの手を借りなくてもね |
レイヴン | そうは言われてもこっちにも事情ってのがあんのよ |
レイヴン | ベルベットちゃんが嫌でもおっさんは勝手に手を貸すからね |
ベルベット | どういう事?あんた、一体何が目的なわけ |
レイヴン | まあまあ…それより、ほら。こんな話してる暇ないんじゃない? |
レイヴン | 衛兵に気付かれたら応援も来ちゃうし、早く行動しないとね |
ベルベット | … |
ベルベット | あんたが何をしようと勝手だけどあたしの邪魔はしないで |
レイヴン | それは勿論。んじゃ、行きますかね |
| |
ベルベット | ここが大広間かしら… |
ベルベット | …! |
衛兵1 | そっちはどうだ? |
衛兵2 | 特に異常はない。引き続き警備にあたる… |
ベルベット | …行った…わね |
レイヴン | ここも衛兵だらけね。はぁ、先に進むのも一苦労だわこりゃ |
ベルベット | でも、あの様子…。あたしが脱獄した事はまだ知れ渡ってなさそう |
レイヴン | ま、けどそれも時間の問題だわね |
ベルベット | …! |
レイヴン | またぞろぞろと… |
衛兵3 | 今日も異常なし、っと。ほんと、平和だよなー |
衛兵4 | ラザリス様のお蔭さ。視察であちこち行ってらして大変だろうに |
衛兵3 | 民思いの素晴らしいお方だよっと、そうだ。次の見張り番に見回りの報告をしないと |
衛兵3 | その後ヴァン様へのご報告か…緊張するな… |
衛兵4 | 粗相のないように気を付けろよ |
衛兵3 | ああ、勿論だ |
ベルベット | ヴァン…確か、ラザリスの側近の── |
レイヴン | …なるほど。確かに宰相様ならラザリス様の行先を知ってるかもしれないわね |
ベルベット | なら… |
レイヴン | ベルベットちゃん、宰相様のところに行くつもり? |
ベルベット | ええ |
レイヴン | 宰相様の周りを探るってわけね。随分と大胆な事で |
ベルベット | 今はそれしか方法がなさそうだわ |
レイヴン | なるほど。それで? |
ベルベット | あの衛兵の後を追えば確実にヴァンにたどり着ける。でも… |
レイヴン | だいぶ時間がかかるわね。先に次の見張り番に報告に行くって言ってたから |
ベルベット | それだけこっちが見つかる危険も増す… |
レイヴン | おっさん、お偉いさんの居そうな場所はいくつか見当つくんだけどなぁ… |
ベルベット | 例えば? |
レイヴン | 宮殿の中でも重要な役どころの人は個室を与えられていてねぇ |
レイヴン | 宮殿の上層部にその個室が並ぶ階があるらしいわ |
ベルベット | なら、そこにヴァンの部屋があってもおかしくないわね |
ベルベット | 時間を無駄に出来ない。そこに向かうわよ |
レイヴン | はいよ |
scene2 | 天帝の行方 |
ティア | … |
ティア | 兄さん、部屋に飾る花は、私が選んでみたのだけれど… |
ティア | その…どうかしら? |
ヴァン | ああ、綺麗だ。それに香りもいい |
ティア | ふふっ、気に入ってくれてよかった |
ティア | 中庭に咲いている花の中から選ぶしかないから、どうしても種類に限りはあるけれど… |
ティア | … |
| |
ヴァン | …外の世界が気になるか、ティア |
ティア | …べ、別に、そんな事は…… |
ティア | ただ…外にはどんな花が咲いているのか… |
ティア | ひょっとしたら、そこには見た事のない花があるかもしれない… |
ティア | …そんな風に思っただけよ |
ヴァン | フッ…お前は正直だな |
ヴァン | その様子だと、生誕祭に出られなかった事も、まだ気にしているようだが |
ティア | それは──… |
ティア | … |
ヴァン | 確かにお前の言う通り、宮殿の外には、ここでは見られぬ多くの花が存在する |
ヴァン | しかし、その花も踏まれれば終い…。…こことは違い、外の世界はそれだけ危険も多いという事だ |
ティア | …… |
ヴァン | …わかってくれるな、ティア。私はお前を危険に晒したくないのだ |
ティア | 兄さん… |
ティア | 私の事を心配してくれてありがとう。でも、兄さんが考えているような事にはならないわ |
ティア | 私はそんな兄さんを裏切るような事、したくはないから |
ヴァン | …そうか。私の杞憂だったようだ |
| |
ベルベット | 今までの階と様子が違うわね。おそらく、ここが… |
レイヴン | 警備が厳重な事で。いかにもお偉いさんがいそうな気配だわ |
ベルベット | …進みながら、ヴァンの部屋を探すわよ |
レイヴン | ついでに部屋に宰相様が居てくれると、ベルベットちゃんとしては助かるわね |
ベルベット | 居なければ待ち伏せる、それだけの事だわ |
scene1 | 深窓の姫君 |
レイヴン | ちょっ、ベルベットちゃん、ガンガン行きすぎだって! |
レイヴン | 急ぐ気持ちはわかるけど、もう少し慎重に動かないと… |
ベルベット | 言われなくてもわかってるわ |
| コツ…コツ… |
ベルベット | …! |
レイヴン | ん? |
ベルベット | 誰か来るわ。隠れて |
| |
ティア | 兄さんが元気そうで安心したわ。最近忙しそうにしてたから |
衛兵1 | ヴァン様も妹君のティア様にお会い出来て、嬉しそうでしたね |
ティア | そうかしら… |
ティア | ところで、ラザリス様はいつ頃戻られるのかしら |
衛兵1 | 申し訳ありません、自分は存じ上げておらず… |
ティア | そう…いつも遠方に出向かれて大変ね |
| |
レイヴン | 兄さんって…。あの娘、宰相様の妹? |
ベルベット | だとしたら… |
ベルベット | … |
ベルベット | 娘の後を追うわよ |
レイヴン | ありゃま。宰相様の部屋探しからいきなり方針変更? |
ベルベット | あの口ぶり…ラザリスの行方を知っている可能性は高いわ |
ベルベット | ここからヴァンの部屋を探し出すより、あの娘から話を聞き出した方が手っ取り早そう |
レイヴン | なるほどねぇ。ま、大事になる前に、彼女が話してくれる事を祈るわ |
レイヴン | さてと、んじゃおっさんはここらでお暇するわね |
ベルベット | …随分勝手な話ね |
ベルベット | 頼んでもないのについてきたと思ったら、今度は急に去るなんて |
レイヴン | ある程度情報のあてはついたし、おっさんはもう用済みでしょ? |
レイヴン | 可愛いベルベットちゃんのお役に立てて、おっさん大満足~みたいな |
ベルベット | … |
ベルベット | …止めはしないわ |
レイヴン | う…最後の最後まで本当クールなんだから…。ま、けど… |
レイヴン | だいぶ話も出来たし、また今度があればその時はよろしくね |
ベルベット | 今度なんてあるわけ… |
レイヴン | 先はわからないもんだよ?んじゃ、またね。ベルベットちゃん |
ベルベット | …結局あいつは何だったの… |
ベルベット | …ま、いいわ。あの娘を追わないと |
scene2 | 深窓の姫君 |
| カチャ… |
ファラ | あっ!お帰りなさいませ、ティア様! |
ティア | ただいま、ファラ |
| |
ファラ | ヴァン様のところに行ってらしたんですか? |
ティア | もう、ファラったら、またそんな固い口調で |
ティア | 今は他に誰もいないわ。普通にしてくれていいのよ |
ファラ | そう?じゃあ、そうするね! |
ティア | ええ、その方が私も気が楽だわ。あら…私の部屋を掃除してくれたのね |
ティア | ファラ、いつもありがとう。本当に助かっているわ |
ファラ | お礼なんていいよ。ティアのお世話をするのがわたしの仕事なんだから |
ファラ | ほら、見てティア!窓だってピッカピカに磨いておいたんだから |
ティア | どうりで日の光がいつもより明るく差し込んでいると思ったわ |
ファラ | 本当は窓を開けて、ぱーっと思い切り風を通せるといいんだけど |
ティア | それは難しいわね。窓には格子が嵌まっているから… |
ファラ | ティア… |
ティア | そういえば、この間聞かせてもらったお店の話、また聞きたいわ |
ファラ | あっ、ドーナツ屋さんの話ね!実はあそこのお店、昨日から新しい種類のドーナツが売られててね |
ファラ | すっごく美味しいんだ~!今度買ってきてティアにもわけてあげる! |
ティア | ありがとう。その日が楽しみね |
ファラ | うん!楽しみにしてて! |
ファラ | それじゃ、私そろそろ行くね。何かあったらいつでも声かけてね! |
ティア | わかったわ。またね、ファラ |
| カチャ… |
| バタン |
ティア | … |
ティア | ふう… |
| |
| カタン… |
ティア | …! |
ティア | 誰!? |
| チャキッ |
| |
ベルベット | 動かないで |
ベルベット | それ以上動くと、この剣の切っ先が、あんたの喉に突き刺さるわよ |
ベルベット | 大人しくこちらの質問に答えれば、危害は加えない。わかった? |
ティア | … |
ベルベット | …ラザリスは今どこにいるの?あんたの知ってる事を、洗いざらい話しなさい |
ティア | … |
ベルベット | さあ、早く── |
| |
ティア | はあっ! |
| カシーン! |
ベルベット | な…! |
ベルベット | この状態から、剣を払うなんて…大した身のこなしね |
ベルベット | どうやら誤解していたみたい。あんた、ただの大人しいお姫様じゃなさそうね |
ティア | あなたは何者なの…!?どうしてこんな事── |
ベルベット | もう一度聞くわ。ラザリスは今、どこにいるの |
ティア | … |
ベルベット | …答えないなら仕方ないわね |
| チャキ… |
ティア | …! |
scene1 | 欠けた心 |
ベルベット | はああっ! |
ティア | はっ! |
| キィィンッ! |
ベルベット | … |
ティア | はあ…はあ… |
ベルベット | …まさか宮殿の衛兵よりも強いだなんてね |
ベルベット | ──あんたは何者? |
ティア | 今まで戦った事もないのに、身体が勝手に… |
ティア | 私…どうしてこんな… |
ベルベット | あたしに聞かれたって知らないわよ。それより… |
ティア | 近寄らないで! |
ベルベット | … |
ティア | …侵入者ね。あなたこそ、一体何者なの? |
ベルベット | さぁね。少なくとも味方じゃない事はわかってもらえたかしら |
ティア | …目的は何?宮殿に侵入した上、こんな事するなんて── |
ベルベット | 言ったはずよ。あたしが知りたいのはラザリスの居場所だと |
ベルベット | 欲しい情報はどんな手段を使ってでも手に入れてみせるわ |
ベルベット | …そのためなら、何だってする |
| |
ティア | …… |
ティア | あなた、名前は? |
ベルベット | ベルベットよ。ベルベット・クラウ |
ティア | ベルベット… |
| |
ティア | …ラザリス様なら、市都ファルカームへ視察に行かれているわ |
ベルベット | ファルカーム… |
ティア | …ベルベット、一つ聞かせて |
ベルベット | … |
ティア | あなたがそうまでしてラザリス様を捜す理由は何? |
ティア | ただ行方を知るためだけに、こんな事までするなんて… |
| |
ベルベット | 決まってるじゃない。あいつを殺すためよ |
| |
ティア | なっ…! |
ティア | ラザリス様を殺すなんて何て事を…っ |
ティア | 私達がこうして平和に暮らせるのもラザリス様のお蔭…なのに──…どうしてそんな… |
ベルベット | 平和ねえ… |
ティア | そうよ。ラザリス様は常に万物を愛し、私達を幸せへと導いて下さるわ |
ベルベット | あんたの中のラザリス様はそうなんでしょうね。でもね、それが全部嘘だとしたら? |
ティア | 嘘? |
ベルベット | どうしてかは知らない。でも、あたしは確信してる |
ベルベット | このエンテレスティアは嘘で塗り固められた偽りの世界… |
ベルベット | 見るものの全て、あたしの知っている世界と違う |
ベルベット | 歴史も、平和も、幸せも……そんなもの、全て創られた偽物よ |
ベルベット | こんな世界、あたしは絶対に認めないわ |
ティア | 偽りの世界…?偽物なんて…そんな… |
ティア | そんな事あり得ないわ! |
ティア | エンテレスティアは、ずっとラザリス様の庇護の下、発展してきた |
ティア | 人々はラザリス様が見守る中、互いに認め合い、助け合い、争う事もなく過ごしてきた… |
ティア | そのエンテレスティアの繁栄の象徴が、今私達のいる帝都シャングレイスなのよ |
ティア | それが紛れもない真実、私が実際に生きてきた歴史。決して嘘や偽りのはずがない! |
ベルベット | あたしは信じろなんて言ってない |
ベルベット | あんた達みたいなのが何の疑問も持たずラザリスを受け入れ妄信している… |
ベルベット | この現実が嫌いなだけ |
ベルベット | …ま、その信じる感情もこの世界と同じで捏造されたものなのかもしれないけど |
ティア | そんな… |
ベルベット | この世界はおかしい。その原因はラザリスにある |
ベルベット | だからあたしはラザリスに会って、全てを暴いて見せる |
ベルベット | あたしの「世界」を取り戻すために |
ティア | あなたは… |
scene2 | 欠けた心 |
ティア | ──わからないわ… |
ベルベット | わからない? |
ティア | ラザリス様を殺そうだなんて… |
ティア | どうしてあなたは、そんな事を思うの? |
ティア | あなたをそこまで駆り立てるものは何? |
ベルベット | 聞くまでもないわ。許せないから、あいつを殺す。それだけよ |
ティア | 許せない… |
ベルベット | あたしには、やるべき事があった。なのに、あいつがそれを邪魔したの |
ベルベット | そんな事をされたら怒るのは当然でしょ |
ベルベット | だからあいつを殺して、あたしの世界を取り戻す |
ティア | …何故許せないの?私には、あなたのその憤りが理解出来ないわ |
ベルベット | もし、あんたがわけもなく誰かに傷つけられたらどう感じるの? |
ベルベット | そんな状況でもまだ、相手を憎む感情や怒りがわからないとでも言うつもり? |
ティア | 憎む…?それはどういう感情なの? |
ベルベット | …本気? |
ティア | 私なら、相手は何故そんな事をしたのだろうと真っ先に考えるわ |
ティア | そうやって他人を傷付けたのには、きっと何かやむを得ない事情があると思うから |
ティア | 私はその理由を知りたいと思う。ただそれだけ。怒りはおろか、やっぱり仕返しをしようなんて── |
ベルベット | 傷付けるだけの事情があれば殺されたって仕方がない、…そう言いたいわけ? |
ティア | それは極論だけれど…でも… |
ベルベット | …あんたに何がわかるのよ… |
ティア | ベルベット…? |
ベルベット | そんなもの、あるわけがない。…いや、あったとしてもあたしは認めない…絶対に! |
| |
ティア | …!?っ… |
ベルベット | ラザリスの居場所を教えてくれた事、感謝するわ |
ベルベット | 後は衛兵に告げるなり、助けを呼ぶなり、好きにすればいい |
ベルベット | じゃあね |
ティア | ベルベット、まっ… |
ティア | …! |
ティア | …今のは…何… |
ティア | あの人の言葉を聞いた瞬間、何か鼓動が──… |
ティア | ベルベットのような強い意志…私、前にもどこかで… |
ティア | いえ、そんなはずは…でも… |
ティア | … |
scene1 | 逃亡 |
衛兵1 | 宮殿内に異常はありませんでした。定期報告は以上となります |
ヴァン | ご苦労、下がっていいぞ |
衛兵1 | はっ…それでは──… |
| |
| バンッ |
衛兵2 | 失礼致します!火急のご報告のため無礼を承知で、ただ今申し上げます! |
ヴァン | 何事だ、騒々しい |
衛兵2 | 地下牢に捕らえておりました例の咎人が、脱獄した模様です…! |
| |
ヴァン | 何だと… |
衛兵2 | 咎人は警備にあたっていた衛兵全てを昏倒させておりました。依然、逃走中です |
ヴァン | 速やかに兵を展開し、行方を突き止めよ |
ヴァン | 既に宮殿を出ているやもしれぬ。全兵士に伝令を… |
衛兵3 | 申し上げます! |
ヴァン | 今度は何だ |
衛兵3 | ティア様が行方不明に!ティア様の部屋を警備している者は何者かの襲撃を受け意識がありません |
ヴァン | …! |
衛兵2 | 何と…!同時に…咎人の仕業でしょうか? |
ヴァン | そう考えるのが妥当であろう |
ヴァン | …咎人の生死は問わんが、ティアには決して傷をつけるな |
衛兵1 | はっ! |
ヴァン | 私も出るとしよう |
衛兵達 | かしこまりました |
| タッタッタッ… |
ヴァン | ティア… |
| |
ベルベット | …こっちも衛兵が押さえてる |
ベルベット | 仕方ないわね。他の出口を… |
ティア | どこへ行っても無駄よ |
ベルベット | あんた… |
ティア | 宮殿の外へ通じる全ての出入口は、封鎖されてる。通常の方法で出るのは無理よ |
ティア | これだけ緊張感のある宮殿の空気は初めて… |
ティア | この警備の状況…侵入者である、あなたの存在に気付いたという事かしら |
ベルベット | あんたには関係ないでしょ。それとも何? |
ベルベット | そんな事を言うためにわざわざ追いかけてきたわけ?ご苦労な事ね |
ティア | …これだけの数の衛兵を真正面からかいくぐるなんて無茶よ |
ベルベット | 無茶でもやるしかないわ |
ベルベット | そろそろ情報が回った頃だろうと思ってはいたけど |
ベルベット | まさかたった一匹のねずみ取りにここまで躍起になるなんてね |
ティア | …ねぇ、聞いてベルベット |
ベルベット | 何? |
ティア | …この宮殿には秘密の地下通路があるの。それを使えば外に出られるわ |
ベルベット | … |
ティア | あそこは宮殿の人間でも知っている人はほとんどいないから、衛兵もいないはず… |
ティア | 私ならその通路を案内出来る。昔、一度だけ入った事があるから |
ベルベット | そうやってあたしを誘い出せば楽に捕まえられるわね |
ティア | 違うわ!そうじゃなくて、私はただ── |
ティア | …!隠れて… |
衛兵1 | そっちはどうだ? |
衛兵2 | いない。奥を捜そう |
| タッタッタッ… |
ティア | このままだとただ囲まれて捕まるだけよ |
ティア | どうせなら、逃げられる可能性のある方にかけてみたらどうかしら |
ベルベット | …不本意だけど、あんたの案に乗るしかないみたいね |
ベルベット | で、どうすればいいの? |
ティア | 地下通路への入口はこっちよ |
| |
ベルベット | ここが地下通路… |
ティア | 外へ通じる出口はこっちよ |
ベルベット | ねえ。どうしてあんたが、あたしを助けるような真似をするの? |
ティア | …信じてくれるかどうか、わからないけれど |
ティア | さっき、あなたの言葉を聞いた時、何か大切な事を思い出したような…そんな不思議な感覚に襲われたの |
ベルベット | 思い出した? |
ティア | ええ…。自分でも上手く説明が出来ないのだけれど |
ティア | このままじゃいけない、あなたともっと話をしなくちゃと思って、それで… |
ベルベット | あんたも酔狂ね。そんな好奇心のために、あたしを追いかけて来るなんて |
ベルベット | 言ったでしょ?あたしの目的。ラザリスを殺すって |
ティア | それは…っ!…それは絶対に駄目よ |
ベルベット | でも、逃がすのね。あたしの事 |
ティア | ……。わからない…の…まるで自分が二人いるみたい |
ティア | 本当ならこんな事、許されるはずがないけど… |
ベルベット | そのお蔭で逃げられそうだし、あたしは助かるけどね |
ティア | … |
ベルベット | 地下通路はまだ続くのかしら |
ティア | …もう少しで宮殿の外よ。急ぎましょう |
scene2 | 逃亡 |
ベルベット | …ここに出るのね |
ティア | これが…宮殿の外の景色… |
ティア | まさか、こんな形で見る事になるなんて… |
ベルベット | 外に出た事がない癖に、よく抜け道なんて知ってたわね |
ティア | 偶然見つけたの。ずっと外を見てみたかったから兄さんにも黙っていたけれど… |
ティア | …この一歩を越えてしまったら兄さんを裏切ってしまう…そう思ったら、出られなかった |
ティア | まさかこういう形で役に立つなんて、その時は夢にも思っていなかったわ |
ベルベット | ま、宮殿の外に出たってだけじゃ、安心出来ないわ。急いで帝都を抜けないと… |
ベルベット | 確か…あの辺りだったわね… |
ベルベット | … |
ティア | … |
ベルベット | ちょっと、あんた。どこまでついて来るつもり? |
ティア | あんたじゃない、ティアよ。ティア・グランツ |
ティア | 私の知りたい事をあなたが知っている気がするわ。だから、私もついていく |
ティア | それが何なのか、わかるまで… |
ベルベット | 邪魔なだけよ。来ないで |
ティア | それは聞けないわ |
ベルベット | 自分勝手ね…あんた。戦い振りといい、見た目とは大違い |
ティア | 何とでも言って。ラザリス様に会った時、私はあなたを止めなければならないから |
ベルベット | 邪魔するならもってのほかよ。ほら、お姫様は早くおうちに帰って── |
| |
ヴァン | …やはりここにいたか |
ティア | 兄さん!? |
ベルベット | …! |
ヴァン | もしや地下通路を使ったかと思ったが、案の定だったな |
ヴァン | 大方ティアを脅しつけ、無理に案内させたのだろう |
ティア | 違うわ、兄さん!これは… |
ベルベット | あたしが何を言ったところで、そう思うでしょうね |
ベルベット | で、どうするの?またあたしをあそこに連れ戻すつもり? |
ヴァン | いや、そのような煩わしい事はせん |
ヴァン | …まさかあの時の「傷」がこのような不穏分子を生み出す事になるとはな |
ヴァン | だが、それも過ぎた事… |
ティア | 「傷」…?兄…さん…? |
ヴァン | ベルベット、お前の持つ意志…それは争いの根源となり得る危険なものだ |
ヴァン | みすみす見逃すつもりはない |
| |
| チャキッ… |
ティア | …! |
ティア | う…っ、また…… |
ヴァン | この場で貴様を処刑するとしよう。私はラザリス様のように甘くはない… |
ヴァン | 貴様のような存在、エンテレスティアには不要だ |
ベルベット | 悪いけど、あんたの思惑通りにはならない |
ベルベット | あたしはラザリスのところへ行く。誰にも邪魔はさせない…! |
ヴァン | ならばその思いも一太刀に薙ぎ払ってくれよう |
ヴァン | はああああっ! |
| ガキィィンッ!! |
ティア | そんな…っ!兄さん、やめて!! |
ベルベット | はあああああっっ!! |
scene1 | 揺り動かすもの |
ヴァン | … |
ベルベット | くっ…う… |
ヴァン | あのような大胆な振る舞いに及ぶだけの事はある。それなりには使えるようだ |
ヴァン | だが…私には、及ばぬ |
ヴァン | はあああっ! |
| ズバーーーッ! |
ベルベット | うぐっ…! |
ヴァン | とどめだ |
ティア | 待って、兄さん! |
| |
ヴァン | そこを退くのだ、ティア。私はこの女を処刑せねばならん |
ティア | いいえ… |
ヴァン | そこを退け、ティア! |
ティア | いいえ! |
ヴァン | ティア…私に逆らうのか。あれほど従順だったお前が |
ティア | 逆らうつもりなんてないわ。でも、殺すだなんて… |
ティア | この人が、どんな罪を犯したと言うの? |
ヴァン | そうか、お前は知らなかったな。その者の罪を… |
ヴァン | その者は先の聖誕祭で、畏れ多くもラザリス様の命を狙った咎人だ |
ティア | 咎人…!?ただの侵入者じゃなかったの…? |
ヴァン | そればかりか、地下牢を脱獄し、お前を人質に取り逃亡を謀った。断じて許されぬ |
ティア | それは… |
ヴァン | 私はラザリス様の側近として、このエンテレスティアを守る義務がある |
ヴァン | 世界の秩序を乱す咎人は始末しなければならないのだ |
ティア | 兄さん…あのね…いえ、何て言えば。違うの…違うのよ…! |
ヴァン | ティア? |
| |
ティア | まず、私は人質じゃない。自らの意志で、この人に協力したの |
ヴァン | …! |
ティア | それに、罪を犯したとは言え何の話も聞かずにこの場で処刑なんて許されるはずがないわ |
ティア | そのような事はラザリス様も、決して望んでいない… |
ヴァン | …ティア、お前は何故こやつの逃亡に手を貸したのだ。何故…! |
ティア | …ごめんなさい、兄さん。私…どうしてもベルベットに聞きたい事があるの… |
ヴァン | …! |
ティア | 上手く言えないのだけど、何か心の中で引っ掛かっていてそれがもう少しでわかりそうで… |
ティア | だから兄さん、お願い。処刑じゃなくて、別の方法を──… |
ヴァン | … |
ヴァン | ティア… |
ヴァン | そう、か…お前は──… |
ティア | …? |
ヴァン | …ふっ、なるほど |
ヴァン | 全ては私の幻想に過ぎなかった。お前だけは、と思ったが──… |
ヴァン | どうやらそれすらも、私の甘えが見せた夢でしかなかったようだ |
ティア | …?兄さん、それはどういう── |
| |
| チャキ… |
ティア | 兄さん!? |
ベルベット | ……妹にまで剣を向ける気? |
ヴァン | 私は理想を実現するためなら、どのような犠牲もいとわぬ |
ヴァン | そうとも…初めからこうするべきだったのだ |
ティア | そんな──… |
ティア | …! |
ベルベット | ティア? |
ティア | うっ… |
ティア | あ…ああ…っ |
ティア | …… |
ティア | 兄さん……あなたは…また… |
ヴァン | … |
ベルベット | ヴァン、あんたを見てると、「あいつ」を思い出す… |
ベルベット | 自分の理想とやらのために、平気で誰かを犠牲にする身勝手さ、残酷さ… |
ベルベット | …本当、そっくり |
ヴァン | 何とでも言うがいい。お前達が束になったところで、私を倒す事は出来ぬ |
ティア | させない…わ…絶対に、あの時そう…私は思って… |
ティア | いえ、そんな事…っなら兄さんとの時間は…?…どれが正しいものなの |
ベルベット | ティア…? |
ティア | うっ…く…でも、覚えてる。あの時の悲しみも…みんなの思いも…っ |
ヴァン | …早くにこうしておくべきだったのだ… |
ヴァン | 全ての憂いを、今ここで──… |
??? | 待て、ヴァン! |
ヴァン | お前は…! |
scene2 | 揺り動かすもの |
??? | … |
ティア | …「白き獅子」 |
| |
??? | ヴァン、この者をお前の一存で処断する事は認められない |
??? | 違うか? |
ヴァン | ここにいるのは咎人だぞ |
??? | 例えそうであってもだ |
??? | 今我々が天帝から受けている命はこの者を地下牢に繋ぐ事 |
??? | 我らが天帝の意志を曲げる事は許されない |
ヴァン | … |
??? | …剣を引け、ヴァン。引かぬのであれば、私達が相手になる |
??? | ロアーの言う通りだ。例え相手があんただろうが関係ねぇ |
??? | 筋は通させてもらうぜ。それがオレ達の流儀だ |
??? | ああ |
ベルベット | …逃げるわよ! |
ティア | えっ!? |
ベルベット | いいから来なさい! |
ティア | わ、わかったわ! |
ヴァン | …! |
ロアー | 待て、ヴァン。ここから先には行かせない |
ヴァン | ふっ…お前達の仕事が咎人を私から逃がす事だったとはな |
ヴァン | とんだ騎士が居るものだ |
ロアー | いや、逃がしはしない。我々の包囲を持ってすれば追いつく事など容易い |
ロアー | クロー、ファング、咎人は私が追おう |
クロー | りょーかい、任せとけ。んじゃ、後で合流な |
ファング | 宰相、今のあなたに二人を追わせるわけにはいかないんだ |
クロー | 天帝様の意志とは関係なく、その手を汚しちまうだろうからな |
ヴァン | …失敗は許されんぞ。必ず二人を連れ戻せ |
クロー | ああ。オレ達「白き獅子」の名に懸けて |
| |
ヴァン | … |
ヴァン | ティア… |
scene1 | 白き獅子 |
ベルベット | はあ…はあ… |
ティア | はあ…はあ… |
ティア | うっ…! |
ベルベット | どうしたの?足でも痛めたわけ |
ティア | いいえ…そんな事はないわ。大丈夫よ |
ベルベット | う… |
ティア | あなたの方こそ、私よりよほど傷ついているわ |
ティア | 無理もないわね…あれほど兄さんの攻撃を受けたのだから |
ベルベット | このくらい平気よ |
ティア | 少しだけ、その岩陰で休憩しましょう |
ベルベット | … |
| |
| パアア… |
ベルベット | 傷が治っていく…あんた、こんな事も出来たのね |
ティア | ええ、まあ |
ティア | … |
ベルベット | この辺りは宮殿からも見えない場所なんじゃない? |
ティア | そうね。今まで見た事のある景色とは全然違う… |
ティア | …本当なら、今頃この初めて見る景色に感動を覚えていたのかもしれない |
ティア | けれど、もうそんな気分にはなれなさそうだわ |
ティア | …兄さん… |
ベルベット | …ちょっとあんたに聞きたいんだけど |
ティア | 何かしら |
ベルベット | あの「白き獅子」とかいう連中は何者なの? |
ティア | 正式名称は「帝都騎士団」ラザリス様直属の精鋭騎士団よ |
ティア | あの白い隊服と気高き振る舞い、獅子の如く勇猛な戦いぶりから白き獅子と呼ばれているわ |
ティア | さっきの三人は騎士団を取りまとめる幹部… |
ティア | 彼らの顔は、常に隠されていてあの下の本当の姿を見た者はいない… |
ベルベット | へぇ… |
ティア | 今までも宮殿内で何度か、すれ違った事があるわ… |
ベルベット | ようするにラザリスの、忠実な犬って事ね |
ティア | … |
ティア | …私も聞いていいかしら |
ベルベット | 何? |
ティア | どうして一人で逃げなかったの? |
ベルベット | …… |
ベルベット | …ただの気まぐれよ。理由なんてないわ |
ティア | そう… |
ベルベット | さて。傷も治ったし、そろそろ出発するわよ |
| |
騎士団員1 | 何をして…ああ、痕跡がある。行くぞ… |
ティア | 待って!兵士の声が聞こえる… |
ベルベット | 身をかがめて。様子を伺うわよ |
| |
騎士団員2 | 咎人が逃げたのは、こっちの方だ! |
騎士団員1 | 手当たり次第捜せー!! |
| ガサ…ガサガサッ… |
ティア | …まずいわね。あの隊服…白き獅子だわ |
ベルベット | 奴らに気付かれる前に移動するわよ |
ティア | ええ… |
騎士団員1 | ! |
騎士団員2 | そこに誰かいるぞ! |
ティア | 見つかった!? |
ベルベット | ちっ…!走るわよ! |
scene2 | 白き獅子 |
ティア | 追っ手は撒けたかしら? |
ベルベット | さあ、どうかしらね |
騎士団員1 | こっちだ! |
ベルベット | まだ駄目みたい。しつこい連中ね |
ティア | 山の頂上に向かっているけれど、逃げ切れるあてはあるの? |
ベルベット | そんなの、あるわけないでしょ。あたしもこの辺りは初めて… |
| |
ベルベット | これは…! |
ティア | 崖に行き止まり…ね。これ以上は進めないわ |
ベルベット | 飛び降りるのは、さすがに厳しいかしらね |
ティア | これだけの高さよ。私達が無事な保証なんて… |
| |
ロアー | そこまでだ、お前達 |
ティア | あなたは…! |
ベルベット | ふうん。あんたも追っ手に加わってたの |
ティア | さっきは助けてくれたのに… |
ロアー | 助けただと?助けたつもりなどないぞ |
ロアー | 私達の役目は、あくまで民を守る事 |
ロアー | そこには民が不当に虐げられぬよう目を光らせる事と共に、罪人を捕らえる事も含まれている |
ロアー | 先ほどはヴァンの行き過ぎた行動を止めるため、あのような手段を取ったが… |
ロアー | 咎人であるお前を捕らえ、再び牢に繋ぐのも、同じく私達の責務だ |
ベルベット | 責務ね…嫌だと言ったら? |
ロアー | 少々手荒な手段を取らざるを得ない |
ロアー | 世界にとって害をなす者…咎人はその存在自体が罪だ |
ロアー | あまつさえ天帝の命を狙い、収監されていた地下牢を脱獄し、さらには人質を取って逃走する… |
ロアー | お前の重ねた罪は重い。しかるべき裁きを受けねばならん |
ロアー | お前の行く手は、断崖に遮られている。もはやどこにも逃げられんぞ |
ベルベット | …誰もあたしを裁く事は出来ないわ。断じてね |
ロアー | あくまで逆らうか。ならば… |
ロアー | お前達、下がっていろ |
騎士団員1 | はっ! |
| |
ロアー | 咎人、ベルベット・クラウはこの私…ロアーが騎士の名の元に捕えよう |
ティア | ベルベット! |
ベルベット | あんたは下がってなさい。こいつのご指名は私よ! |
scene3 | 白き獅子 |
ロアー | ほう、やるな。だが…! |
| ガキィィンッ!! |
ベルベット | ぐっ…! |
| ガンッ、キィンッ! |
ロアー | そろそろ諦めたらどうだ? |
ベルベット | …っ、そっちこそね |
ロアー | ふっ!笑わせてくれる… |
ロアー | はあああああっっ!! |
| ドンッ!ドンッ!ドンッ! |
ベルベット | ぐあっ! |
ティア | ベルベット!? |
ベルベット | 地面から…急に…っ…妙な技を使ってくれるじゃない… |
ロアー | 認めよう、お前は強い。だからこそ少し本気を出させてもらった |
ベルベット | ちっ… |
クロー | よっと、ここにいたか |
ファング | やっと追いついたな |
ロアー | 来たか、二人共 |
ベルベット | まだ仲間が… |
ティア | …っ! |
ロアー | 既にお前の体力は限界に達していよう。私達三人を相手にするのは無理だ |
ファング | 無駄な抵抗はよした方がいいぜ |
ベルベット | あいにく、あたしは往生際が悪いのよ |
ロアー | あくまで抵抗をやめないか。ならば… |
ティア | …!今までと構えが違う… |
ロアー | 殺しはしない。私はヴァンとは違うからな |
ロアー | だが、無傷では済まぬ。覚悟してもらおう |
ロアー | はああああっ! |
ベルベット | っ!? |
ティア | 危ない! |
| ドゴオオオンッ!! |
| ズ…ズズズズ…ッ |
ファング | おい、地面が! |
| ビシッ! |
| ガラガラガラ…ッ! |
クロー | 崩れるぞ! |
ティア | !? |
ベルベット | …ぐっ… |
ティア | …! |
ティア | ベルベット…っ! |
ベルベット | あたしは、まだ戦え──… |
ベルベット | …!くっ…! |
| ガラガラガラガラ… |
ティア | ベルベット──!!きゃ…っ! |
| |
| ズザザザザザザッ…ドシャアッ… |
ティア | …う…っ、くぅ…お願い、間に合って…! |
ティア | ──… |
| |
ロアー | …まさかあそこまで喰らいついてくるとはな |
ファング | ロアーにここまでの力を使わせるなんて、…咎人ながらすごいヤツだ |
クロー | ま、何にせよこの高さから落ちたんじゃ無傷じゃ済まねぇ── |
| |
| パアアアーーー……ッ! |
クロー | …!何だ、あの光は… |
ファング | くっ、眩しい…! |
ロアー | これは…!一体崖下で何が起きて… |
Name | Dialogue |
scene1 | カルミナ街の食料泥棒 |
ジュード | やあ、ジーニアス。はい、牛乳だよ |
ジーニアス | ありがとう、ジュード。毎日精が出るね |
ジュード | うん、仕事だからね |
ジーニアス | それでもすごいよ。重たい牛乳を持って、街中を配達して回ってるなんて |
ジーニアス | シャングレイスほどじゃないにしてもこのカルミナ街だって結構広いし… |
ジュード | 確かに広いけど、最短ルートで回れば大した事ないよ。重さだってそれほどじゃないしね |
ジーニアス | 前から思ってたけど、ジュードって見かけのわりに体力あるよね。もしかして武術か何かやってたの? |
ジュード | ううん、何もしてないよ。慣れただけ、かな? |
ジーニアス | すごいなぁ。本格的に武術を学んでいたら、達人になれてたかもしれないね! |
ジーニアス | ところで、話は変わるけどさ。この前の生誕祭で見たラザリス様のお力、すごかったよね! |
ジュード | はは、ジーニアスは生誕祭が本当に楽しかったんだね。もう毎日、あの日の話してない? |
ジーニアス | 楽しかった以上に、感動したんだよ!ラザリス様がお力を使う姿を目撃出来たんだから! |
ジュード | あの謎の女性の事件か…。あの時は驚いたなぁ。一時はどうなる事かと思ったよ |
ジーニアス | でも、冷静な判断で対処してその人を簡単に捕えたラザリス様。さすがだよね… |
ジーニアス | 年齢はボクと変わらなそうなのに、きっと精神力が強いんだね |
ジュード | それにしてもあの女性は一体何者だったんだろう…。あんな恐ろしい事をするなんて… |
ジーニアス | まあ、いいじゃない。ラザリス様も無事だったんだし、今日もこうしていつも通り平和── |
ジーニアス | …じゃないんだった |
ジュード | 何かあったの? |
ジーニアス | 実は最近、この辺りで不思議な事が起きてるんだ |
ジュード | 不思議な事って…? |
ジーニアス | 何でも、机に置いてあった食べ物がいつの間にか消えたりするとか… |
ジュード | それって、食べてしまったけど忘れちゃってるだけじゃ…。それか家族の誰かが食べちゃったとか |
ジーニアス | うん。そう思うよね。けどそんな事が、あちこちで起きてるらしくてさ… |
ジュード | 一件じゃないのか…確かに勘違いにしては不自然だね |
ジーニアス | それで一応、食料泥棒の可能性があるから戸締りに気を付けようって連絡が回ってきたんだよ |
ジュード | 戸締りは大事だよね。僕も気を付けるようにするよ |
ジュード | また何か情報があったら教えてよ。僕にも何か出来るかもしれないから |
ジーニアス | うん。調べておくよ |
ジュード | ふぅ、今日の配達終わり…っと |
ジュード | …ん? |
| |
??? | … |
| |
ジュード | あの人、何をコソコソと…食堂から何か持って…あれって…お肉…? |
ジュード | …!ひょっとして…ジーニアスが言ってた食料泥棒…!? |
ジュード | …よし、後をつけてみよう… |
scene2 | カルミナ街の食料泥棒 |
??? | … |
ジュード | こんな街外れに…? |
ジュード | ひょっとして、街の住人じゃないんじゃ── |
??? | おーい、食べ物持ってきたぞー |
ジュード | …!仲間がいるのか…? |
??? | …あれ、おかしいな。いつもならすぐ出て来るのに… |
ジュード | …? |
| ミャー |
??? | お、来た来た。よしよし、お腹が空いただろう。今餌をやるからな |
ジュード | …猫…の親子…? |
| ミャアッ…! |
??? | ん?どうして隠れる?何を怖がってるんだ? |
??? | …!誰かそこにいるのか!? |
| |
ジュード | 見つかっちゃったか… |
??? | 君は…?俺に何か用があるのか? |
ジュード | …単刀直入に聞きます。あなた、食料泥棒じゃないですか? |
??? | なっ…、食料泥棒だって!? |
ジュード | 僕、見てたんです。あなたが食堂からそのお肉を持ってコソコソと出てくるのを… |
??? | 誤解だよ。だいいち、俺はコソコソなんか──……! |
??? | ああ、そういう事か… |
ジュード | …? |
??? | 猫達が食べてるこの肉…。これ、食堂の残り物なんだ |
??? | 持ち出している事が店主にばれたら大目玉を食らうからこっそり出てきたんだけど… |
??? | その様子を見れば、誤解されるのも当然かもしれないな |
ジュード | あ、という事は、食堂の人…? |
??? | ああ、コックとして雇われている |
ジュード | もしかして、あなたの名前はルドガーさん…? |
ルドガー | そうだけど…どこかで会った事あったか? |
ジュード | いえ、初めてです。あの食堂のルドガーさんと言えば街で評判だから |
ジュード | 若いコックだって聞いてたし、もしかしたら…と思ったんです |
ジュード | 知らなかったとはいえ…疑ったりして、ごめんなさい |
ルドガー | いや、気にしないでくれ。驚いたけど、誤解が解けてよかったよ |
ジュード | 知り合えて光栄です。僕はジュード、よろしくお願いします、ルドガーさん |
ルドガー | そんなにかしこまらなくても、ルドガーでいいよ。名探偵さん |
ジュード | ははは…。「迷」探偵の間違いでしょ。ありがとう、ルドガー |
ルドガー | しかし、何だか…照れるな。そんな噂になってるとは… |
ジュード | 僕も恥ずかしいよ…そんな人を食料泥棒と勘違いするなんて |
ルドガー | ところで、その食料泥棒の話だけど…犯人は人間なのか? |
ジュード | えっ…どういう事? |
ルドガー | …正体がわかってないなら、おそらく犯人はこいつらだ… |
ルドガー | たまに、人の食べ物を取って来てここで食べてる事があるから… |
ジュード | 何だ、猫の仕業だったのか… |
ルドガー | 餌を持って来てやればそんな事もしなくなるかと思ってたんだけどな… |
ジュード | でもよかったよ、正体がわかって。猫なら仕方ないけど、泥棒するような悪い人間がいたら、少し怖いもんね |
| |
| …ミャー |
ルドガー | お、出てきたな。ジュードをいい人だと認めてくれたみたいだぞ |
ジュード | はは、ありがとう。それにしても、野良猫の親子なんて、珍しいね |
ルドガー | 子猫も小さいからちゃんと保護してやりたいんだけど、俺も食堂に住み込みの身だからな… |
ルドガー | 店主にも打診してみたが動物は連れ込むなときっぱり言われてしまった |
ジュード | 食堂じゃ仕方ないよ。僕も猫は嫌いじゃないんだけど── |
| ナーオ |
ルドガー | 何だ、急にジュードにすり寄って…えらく懐かれたな |
ジュード | あ、僕、牛乳配達してたからその匂いがしてるのかも… |
ジュード | …──っくしゅん! |
ルドガー | ジュード? |
ジュード | ごめん、大丈夫。それより、これからは僕も、時々食べ物を持ってくるよ |
ジュード | 食堂の残り物だって、いつも出るわけじゃないでしょ? |
ルドガー | ああ、ありがたいよ。毎日持ち出してると、いつばれるかひやひやものなんだ |
ジュード | それから、この猫を飼ってくれる人がいないかどうか、配達のついでに聞いてみる |
ルドガー | 俺も食堂のお客さんの中にいい人がいないか、捜してみよう |
| ニャー |
ジュード | よろしく…って言ってるのかな? |
ルドガー | ははは、そうかもな |
scene1 | 猫を助ける方法 |
ジュード | おはよう、ジーニアス。はい、朝の牛乳だよ |
ジーニアス | ジュード、おはよう。どう、猫達の飼い手は見つかった? |
ジュード | うーん、毎日あちこちで聞いてみてはいるんだけど、なかなか見つからなくて… |
ジーニアス | 猫が犯人だったって聞いた時はほっとしたけど、こう何日も飼い手が見つからないのも心配だね |
ジュード | うん…。今でもたまに、食料をどこかの家から持ってきてるみたいだし… |
ジーニアス | 実は昨日、うちに来たよ |
ジュード | 何か取られたの? |
ジーニアス | ジュードから受け取った牛乳を狙ってたんだよ。ビンを眺めながらニャアニャア鳴くから、可愛くて… |
ジュード | はは、なるほど。いつも牛乳配達の後に会いに行くから匂いで覚えてくれたのかな? |
ジーニアス | ボクから牛乳を取ろうなんて酷い食料泥棒だよね、全く |
ジュード | ジーニアスも牛乳好きだもんね |
ジュード | …やっぱり、早く飼ってくれる人を見つけないと…猫達のためにもこのままじゃよくないよね… |
ジーニアス | うーん…ボクの家も、猫はちょっと歓迎してもらえないみたいだし… |
ジュード | ルドガーもいろいろ当たってくれてるんだけど…一匹ならともかく親子で二匹ってなると難しいのかな… |
ジーニアス | …そうだ!生誕祭に行った時、シャングレイスですっごくたくさんの猫を飼ってる人を見たんだ |
ジーニアス | 確か…ココネ・ネココさんって言ったかな。その人に相談してみたらどうだろう? |
ジュード | それいいかも!ルドガーに会ったら相談してみるよ。情報ありがとう! |
ジュード | よし、配達も終わったし…猫の事、ルドガーに相談しに行かないと… |
??? | ねぇ!あなた今、ルドガーって言った!? |
ジュード | えっ? |
??? | もしかして、あなたがルドガー? |
ジュード | 違うよ。僕はジュード。ルドガーとは知り合いなんだ |
??? | じゃあ、ルドガーどこにいるか知らない?どうして今、食堂にいないの? |
ジュード | えっ、食堂にいないんだ?僕もルドガーに会いに来たんだけど…えっと…君は? |
エル | エルはエル!ルドガーっていう人の料理を食べに市都レイザベールから来たんだよ! |
ジュード | そんな遠い街から…。まさか君一人じゃないよね? |
エル | 大人のドウハンシャもいるし。遠かったけど、ずっとずっと歩いてやっと食べれるって思ったのに… |
ジュード | そっか…でも食堂は営業してるよね。他の人の料理もきっと美味しいよ |
エル | それじゃ意味ないの!みんな言ってたもん。ルドガーの料理がシコウだって! |
ジュード | …!レイザベールみたいな遠くの街でも評判なんだね |
エル | エルずっと待ってたのにルドガーって人、戻ってこないし。もう時間ないのに… |
ジュード | わかった、ルドガーを捜してすぐに戻るよう伝えるよ。ここでもう少し待っててよ |
エル | もう待てない…。早く戻らないと置いてかれちゃうし |
ジュード | そっか…ごめんね。じゃあ、また来てあげてよ |
エル | …うん、わかった。お願いしてみる |
エル | じゃあエル、行くね。ありがとう、ジュード |
ジュード | ごめんねー!ルドガーに会ったら伝えておくからー! |
ジュード | ルドガー、食堂にはいないのか… |
ジュード | とりあえず猫のところに行こう。あそこで待っていれば、その内、ルドガーも来るよね |
scene2 | 猫を助ける方法 |
ルドガー | … |
| ミャア…? |
ジュード | ルドガー…!何だ、先に来てたんだね |
ルドガー | ジュード…猫を飼ってくれるって人が見つかったぞ… |
ジュード | えっ、本当に!?でもそれにしては、浮かない顔をしているようだけど… |
ルドガー | 子猫と親猫を、別々の人が引き取ると言うんだ。親子が引き離される形になる |
ルドガー | このまま野良猫にしておくわけにはいかない…それはわかっているが…家族がバラバラになるのは辛い |
ルドガー | どうすればいいのか…こいつらの顔を見ながらずっと考えていたんだ… |
ジュード | それで食堂にいなかったんだね。あの子、ついてないな… |
ルドガー | あの子…? |
ジュード | さっき、ルドガーの料理を食べに来たっていう小さな女の子と食堂の前で出会ったんだ |
ジュード | レイザベールから来たみたいだけどタイミングが合わなかったって残念がってたよ |
ルドガー | それは悪い事をしたな。まだ食堂にいるかな? |
ジュード | もう帰るって言ってたよ。ギリギリまで待ってたみたいだけど時間がないって… |
ルドガー | そっか…。その小さい子、きっと家族と一緒だったんだよな |
ジュード | 大人と一緒に来たとは言ってたけど…でも、それがどうかしたの? |
ルドガー | いや、ただ家族との食事ってものは大切なものだから…悪い事したと思ってさ |
| ナーオ… |
ルドガー | ごめんごめん、今はお前の家族の問題だったな。さて、どうするか… |
ジュード | あのさ、それなんだけど…ひょっとしたら何とかなるかもしれない |
ルドガー | …どういう事だ? |
ジュード | シャングレイスに、猫をたくさん飼ってる人がいるんだって。頼んでみる価値はあるんじゃないかな |
ルドガー | なるほど、確かにいいかもしれないな |
ルドガー | シャングレイスなら例えその人が無理でもたくさん人がいるし |
ジュード | うん。いい飼い主を見つけられるといいよね |
ルドガー | 別々に引き取ると言ってくれた人達には、少し待ってもらうように頼んでおくよ |
ルドガー | お前達も、それでいいか? |
| ニャー |
ルドガー | 異論はないそうだ。よし、早速、明日にでも行ってみよう |
ジュード | うん! |
scene1 | 森と柵と侵入者 |
ルドガー | もうすぐシャングレイスが見えてくる頃だな… |
ジュード | 猫達、大人しいね |
ルドガー | …俺の腕の中で寝てるよ。呑気なもんだ |
| …ニャッ! |
ルドガー | ん、起きたのか… |
| ニャニャニャ! |
ルドガー | こら、親子そろって暴れるなって。どうしたんだ突然… |
| ニャー! |
ルドガー | あ、おい…!お前達、どこへ行くんだ! |
ジュード | 森に入って行った…急いで捕まえよう! |
| |
ジュード | あれは… |
ルドガー | 猫…あんなにたくさん…そうか、あいつら、仲間を見つけて走り出したのか… |
ジュード | 子猫もたくさんいて、みんなくつろいでる…。ここに住み着いてるのかな |
ルドガー | 多分そういう事だろうな |
ジュード | …ねぇ、ルドガー。下手に飼い主を捜すより、これでよかったんじゃないかな |
ジュード | ここに住み着いてるって事はきっと食べ物も自分達で採って生活してるんだと思う |
ジュード | だとしたら…人に飼われるよりも、ここで仲間達と自由に居られる方が幸せなんじゃないかな |
ジュード | あの猫の親子にとって… |
ルドガー | …確かに、そうかもしれないな |
ルドガー | あいつらもあんなに生き生きと楽しそうに走り回ってるし |
ジュード | 何だか、あっという間に馴染んじゃったね |
ルドガー | …よし、なら決まりだな。飼うと言ってくれた人達には俺から説明しておくよ |
ジュード | うん、ありがとう。時々一緒に様子を見にこようね |
ルドガー | ああ、勿論──……ん? |
ジュード | どうかしたの? |
ルドガー | ジュード、見ろ。あの柵は… |
| |
ジュード | あれは…!もしかして、この森って… |
ルドガー | 白き獅子が管理している「立入禁止区域」のようだな |
ルドガー | こんなに近づいてしまってたとは…猫に夢中で気が付かなかったな |
ジュード | けど、柵の中に入らなければ大丈夫だよ |
ルドガー | 規則の上ではそうだろうが、そもそも立入禁止区域というものには近づかない方がいい |
ルドガー | 白き獅子としても、ここまで近づいている人間を放っておくわけにはいかないだろう? |
ジュード | それは…そうか…うん、見張りに見つかる前に離れた方がいいね |
ジュード | それじゃあ、来た道をたどって… |
ルドガー | …待て、ジュード。何か聞こえないか…? |
ジュード | え? |
| |
騎士団員1 | 侵入者を見つけたぞ! |
騎士団員2 | 急げ、逃がすな! |
ルドガー | あれは…見張りの騎士か!? |
ジュード | 侵入者って言ってたけど、もしかして、僕達の事!? |
ルドガー | 早速勘違いされたらしいな…これでますます見つかるわけにはいかなくなった |
ジュード | …!こっちに来るみたいだ。逃げよう…! |
scene2 | 森と柵と侵入者 |
騎士団員1 | 侵入者はまだ見つからないのか!白き獅子の名に懸けて捜し出せ! |
騎士団員2 | お前達はあっちだ!俺は向こうを捜す! |
ジュード | …行ったみたいだね。それにしても、こんなに警戒が厳しいなんて… |
ルドガー | この様子じゃ、下手に動けないな |
ジュード | …ねぇ、ルドガー。僕達、悪い事はしてないんだから堂々と名乗り出てもいいんじゃない? |
ルドガー | 侵入者だと思われてるんだ…そう簡単に信じてはくれないだろう |
| |
??? | そうそう。頭の固い連中じゃからのー |
| |
ジュード・ルドガー | うわぁっ!? |
??? | こりゃ、静かにせんか!せっかくほとぼりが冷めるまで、ここに身を潜めていようと思ったのに |
??? | そんな大声を出されたら、白き獅子の連中にあっさり見つかってしまうじゃろ? |
ルドガー | だ、誰だ? |
| |
??? | よう聞いた。自分で言うのも嬉しいが儂こそは八紘四界を股にかける大魔法使いにして大奇術師! |
??? | マジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルン・ドゥ!略して── |
ジュード | マギルゥ、でしょ… |
ルドガー | 知り合いなのか? |
ジュード | 知り合いって言うか…前に一度、生誕祭で会って── |
マギルゥ | おお!誰かと思えばあの時の…! |
マギルゥ | いや~、ここで会ったが百年目!誰だか忘れたが奇遇じゃの! |
ジュード | …ジュード、だよ。コレット達と一緒にいた…と言えば思いだせるかな? |
マギルゥ | おお、あの両手に花の色男か!覚えておるとも。片時も忘れた事はないぞ |
ルドガー | 何だかいい加減な事ばかり言ってるみたいだが… |
ルドガー | 騎士団員ではないみたいだけど、一体、何者なんだ? |
マギルゥ | 何じゃ、また聞きたいのかえ?お主も好きじゃの~。ならば仕方あるまい、もう一度… |
マギルゥ | 儂こそは八紘四界を股にかけ── |
ルドガー | わかったわかった!マギルゥだったな。魔法使いと言ってたか… |
マギルゥ | チッチッチッ…「大」魔法使いじゃ |
ルドガー | その大魔法使いが、こんなところで何をしてるんだ? |
マギルゥ | それは…乙女のひ・み・つ…じゃ |
ジュード | 言えないような事をしてたって事だよね?もしかして… |
マギルゥ | そういうお主らこそ侵入者ではないのかや? |
ジュード | ち、違うよ。僕達は偶然、近くに来ただけで… |
マギルゥ | 儂もじゃよー。お互い侵入者騒動に巻き込まれていやはや、迷惑な話じゃのー |
ルドガー | …しっ!また見張りが戻って来た…!息を潜めるんだ |
騎士団員1 | くそ、見失ったか… |
騎士団員2 | いや、あんな派手で奇抜な格好の女、見つけるのは難しくないはずだ |
騎士団員1 | ああ。あの尖った帽子は遠くからでも一目でわかる。よし、もう一度捜そう。あっちだ! |
ジュード | 派手で奇抜な格好… |
ルドガー | 尖った帽子の女… |
マギルゥ | ほう~。偶然の一致とはまさにこの事じゃな! |
ジュード | とぼけたって駄目だよ、侵入者はマギルゥなんでしょ! |
ルドガー | つまり、白き獅子が捜していたのは俺達じゃなかったって事か |
マギルゥ | まぁまぁ。物は相談なんじゃが…ここは一つ、互いに協力せんかの? |
マギルゥ | お互いすねに傷を持つ者同士。悪い話ではなかろ? |
ジュード | すねに傷って…僕達、何も悪い事はしてないよ! |
ルドガー | ああ。むしろマギルゥを突き出して正直に話した方がいいんじゃないか |
マギルゥ | それを連中に言ったところで、すんなり信じてもらえるかの? |
ジュード | それは…きちんと話して調べてもらえばきっと大丈夫だよ |
マギルゥ | どうかの?ちなみに儂は、お主らをかけがえのない仲間じゃと証言するぞ |
ジュード | ちょ、そんな嘘… |
マギルゥ | それに…無実を証明出来たとしてもそれまでにながーい取り調べがあるじゃろうな |
マギルゥ | 何日か…いや、何年かもしれん…… |
マギルゥ | 取り調べを終えた頃には職はおろか居場所も何もかも失って一生路頭に迷う事になるじゃろ… |
ジュード | そんな… |
ルドガー | …はあ、仕方ない |
ルドガー | ジュード、不本意だけどここは協力しよう |
ジュード | ルドガー、本気!?まさか、マギルゥの話に… |
ルドガー | いや、そうじゃない |
ルドガー | けど、俺達が怪しい事に変わりないし彼女の言うように無実を訴えてもすんなり信じてもらえるとは思えない |
ルドガー | …今はこの場を離れよう。マギルゥを突き出すとしても、ここを出てからでも遅くない |
マギルゥ | よくも悪くも大人の意見じゃの。そういう考え方、嫌いじゃないぞえ |
ジュード | わかったよ…。それで、協力するって、何か策があるの? |
マギルゥ | そ・れ・は・の──… |
マギルゥ | ない! |
ジュード | えぇ… |
マギルゥ | しかーし、三人にして迷う事なしと言うじゃろう!力を合わせれば妙案も浮かぶというものじゃ! |
ジュード | そういうものなのかな… |
マギルゥ | さぁ、キリキリと考えよ。儂を無事に逃がすのじゃ! |
ジュード | それって結局、自分は何もしないって事じゃ… |
マギルゥ | 言われた事はしてやるぞ。さぁ、願いを言うがよいー! |
ルドガー | ふざけてる場合じゃないぞ。こんな茂みに隠れていても捕まるのは時間の問題だ |
ルドガー | 見つからない内に、隙を突いて一気に走り抜けよう |
ジュード | …それは無理だよ |
ルドガー | 何故だ…? |
ジュード | ずっと観察してたけど、見張りは適当に動いてるように見えて完璧に統率が取れた動きをしてる |
ジュード | 一瞬、隙が出来たように見える場所も、その先で必ず塞がれている |
ジュード | 少ない人数で広い範囲を封鎖する、緻密に計算された布陣になってるよ。白き獅子…さすがだよね |
ルドガー | そうなのか…? |
マギルゥ | ふむ。それは困ったの!まさに魔女が通る隙もないとはー! |
ジュード | …いや、まだ活路はあるよ |
ジュード | 完璧に計算されてるだけに、崩すと脆い部分もはっきり見える… |
ジュード | 例えば、あの見張りの人。あの人さえいなければ少しの間だけど、隙が出来るはずだ |
ルドガー | 一人だけか…何とかなるか、マギルゥ? |
マギルゥ | そこで儂に振るかー!? |
ルドガー | 願いをかなえてくれるんだろう?奇術師と言っていたが、今何か仕込んでたりしないか? |
マギルゥ | それならあるぞ。種も仕掛けも盛りだくさんじゃ |
ジュード | それなら、他の人に気付かれずにあの人の注意だけ引くなんて事、出来るかな? |
マギルゥ | それは、ちょいと難しいのー。ド派手が売りの奇術師には荷の重い話じゃが──… |
マギルゥ | 大魔法使いなら造作もない!見ておれー… |
| |
| ガサガサ… |
騎士団員3 | …ん? |
騎士団員3 | な、何だ…?何か近づいて… |
騎士団員3 | 紙?いや、顔があるぞ…?一体、何なんだ… |
騎士団員3 | ひぃっ!増えた!?く、来るなぁっ…! |
| |
マギルゥ | ほれ、今の内に行くぞよ |
ジュード | い、今のは…何…? |
マギルゥ | なぁに、種も仕掛けもないただの式神という紙じゃよ。不気味で不思議で面白かろ? |
ジュード | うん…あれは誰でも逃げるよ |
ルドガー | この際、何でもいい。今の内に急ごう |
| |
ルドガー | 追手は来てないようだな。上手く撒けたか… |
マギルゥ | ジュードの言うた通りじゃったの。使える男は儂、好きじゃぞ |
ジュード | 僕は観察してただけだよ。上手くいったのはマギルゥのお蔭だって |
マギルゥ | ほう、謙遜するとは…よほど自信があるのかあるいはないのか… |
ルドガー | 二人共、森の出口が見えて来たぞ。もう少しだ… |
ジュード | ──!危ない! |
ルドガー | !? |
| シュトッ! |
マギルゥ | おろ?今帽子にサクッと何かが… |
ルドガー | 手裏剣…!?一体どこから… |
??? | まさか避けられるとは…やはりただ者ではないようですね |
ジュード | そこに誰か隠れてる! |
??? | …ここは通しません |
ルドガー | くっ、白き獅子か…? |
??? | すず、危ないじゃないですか |
??? | いきなり手裏剣なんて投げつけて、あの人達に当たりでもしたら怪我させてしまいます |
マギルゥ | いや、当たっとるぞ!儂の脳天を直撃しとるぞー! |
??? | 大変です!大丈夫ですか、すぐに手当てを! |
すず | エステルさん騙されてはいけません。帽子に刺さっただけです |
エステル | …本当です? |
マギルゥ | ちっ、無防備に近づいたところを捕まえて人質にしようかと思うたのにのぉ? |
すず | …!やはり凶悪な犯罪者のようです |
エステル | でも、いきなり乱暴はよくないです。もし無関係の人だったらどうするんです? |
エステル | みなさん、申し遅れました。わたし達はロランドファミリー。近くの村の自警団です |
エステル | 白き獅子から侵入者の連絡を受けこの辺りの警備をお手伝いしてました |
マギルゥ | ほう…ただの民間組織か。ならば、従わなくともラザリス様への反逆にはならんの? |
すず | 聞きましたか。話をしても無駄なようです |
ジュード | 待ってよ。僕達は何も言ってないし、彼らに追われてるのも誤解なんだ。全部マギルゥが… |
マギルゥ | おおーっと、ジュードぉ?儂ら千辛万苦を共にした仲間であろう? |
ルドガー | どうあっても巻き込むつもりか… |
マギルゥ | 仲間は多い方が楽しかろ? |
マギルゥ | それに、見よ。奴らの後ろ… |
マギルゥ | 魔物じゃー! |
すず | なっ…! |
エステル | 魔物です!? |
マギルゥ | それ、今の内に逃げるぞ! |
ジュード | えっ、ちょっ… |
ルドガー | やむを得ないな…躊躇している暇はない、行こう |
すず | 足元にご注意を |
ジュード | わあ!?何これ…!? |
すず | まきびしを撒いておきました。あんな手にはひっかかりません |
ルドガー | くっ、迂闊に動けない…! |
マギルゥ | こりゃあ、危ないではないか!大人しく逃がさんかー! |
| |
すず | エステルさん。もう甘い事は言いっこなしです。このまま逃がす事は出来ませんから |
エステル | でも、手荒な事は… |
マギルゥ | やれやれ、火に油を注いでしまったようじゃのー |
ジュード | 待ってよ…!逃げようとしたのは悪かったけど僕達、戦うつもりは… |
すず | 問答無用です。あなた達は油断も隙もありません |
すず | はっ! |
ジュード | おっと…! |
すず | あれを避けるとは、やはりただ者ではありませんね… |
ジュード | ちょっ…待ってって…! |
すず | 行きます! |
scene3 | 森と柵と侵入者 |
すず | くっ… |
エステル | すず、やめてください |
すず | いえ、それは出来ません。任務ですから |
ジュード | お願い、もうやめてよ!僕達だって、君を傷つけたくない |
ルドガー | 俺達は本当に何もしてないんだ。話を聞いてくれ! |
マギルゥ | 無益な戦いは犬も食わんぞ? |
すず | そんな甘言には… |
すず | 乗りません! |
| ヒュッ! |
ジュード | わっとっと…!ほら、足元がふらついてる。無茶はやめなって… |
すず | 敵からの情けなど無用です。これは…任務ですから…! |
ルドガー | その任務がどんなものかは知らないが立入禁止区域に侵入したのは俺達じゃない |
マギルゥ | そう、儂らではない。三人共、潔白じゃ! |
ジュード | マギルゥ… |
すず | 問答無用と言ったはずです! |
エステル | 待ってください、すず。ちゃんとお話を伺いましょう |
すず | そんな事をしている間にまた逃げようとするかもしれません。それに話も信じられるかどうか… |
ジュード | そんな…もう逃げないし、ちゃんと全部話すから、せめて聞いてから判断してよ…! |
エステル | うーん…わかりました。それでは、こうしましょう |
エステル | みなさん、わたし達ロランドファミリーの拠点までご同行いただけませんか? |
エステル | そこでわたし達のリーダーと会って、事情をお話してほしいんです |
エステル | それならすずも問題ないですよね? |
すず | …まぁ…それだったら… |
エステル | その判断が出るまで白き獅子への報告は一旦、保留にします |
すず | ただし、もし途中で逃げようとしたらエステルさんが何と言おうと今度こそ容赦しません |
ジュード | …どうしよう? |
ルドガー | 大人しく従おう。こうなった以上、荒事を避けるにはそれが一番の選択だろう |
マギルゥ | うむ。連中に引き渡されるよりはずっとマシかもしれんの |
エステル | 決まりですね |
すず | それではエステルさん、先導してください。私は逃げないよう後ろから見張ります |
ルドガー | あの子には完全に疑われてるな…リーダーが話のわかる相手である事を祈ろう… |
ジュード | うん… |
scene1 | ロランドファミリー |
ロアー | では先の件、よろしく頼む。時間を取らせて済まなかったな |
レイア | い、いえ、そんな事…!むしろ、こんなところまでわざわざ足を運んでいただいて、恐縮です |
ロアー | そうかしこまらなくてもいい。それに、卑下する事もない |
ロアー | リッカ村と言ったか。いい村じゃないか |
ロアー | 君達、地元の自警団を中心に皆が助け合って生活している |
ロアー | まさに天帝の祈りのまま、平和を体現したようではないか |
レイア | はい。みなさんに迷惑をかけないよう自分達で出来る事は自分達でするって村のみんなで決めましたから |
ロアー | 別に頼ってくれて構わない…と言いたいところだが助かっているのは事実だ |
ロアー | それに最近はこの村とは関係ない場所でさえ我々を手伝ってくれていると聞く |
ロアー | そして今回の依頼もだ。本来、我々で処理すべき事案なのにすまないが…事は急を要するのでな |
レイア | いいえ、力になれて光栄です!みんな、喜んで協力しますよ! |
ロアー | そうか。そう言ってもらえると助かる。では、邪魔したな |
レイア | いえいえー。お気をつけてー! |
レイア | ふう…緊張したー! |
エステル | ──着きました。ここがリッカ村です |
ジュード | へぇ…自然に囲まれた村だけど、何だかカルミナ街より活気があるね |
すず | …褒めたからって酌量はしませんよ |
ルドガー | はは、別にお世辞じゃないよ |
エステル | ではみなさん、拠点へ案内します。こちらに── |
エステル | …!あちらから来る方…まさか… |
| |
ロアー | … |
| |
ジュード | あ… |
ロアー | … |
ジュード | …今のって… |
マギルゥ | 顔の見えん不審者じゃったのー。捕まえんでよいのか? |
すず | 不審者なんてとんでもありません。あの白き隊服…誰かなんてすぐわかります |
ルドガー | 白き獅子の幹部…その頂点とも言われているロアーか。こんなところでお目にかかれるとはな |
ジュード | うん…話には聞いた事があったけど…神秘的な人だったね… |
すず | …もう姿が見えなくなりましたよ。エステルさん、そろそろ拠点へ |
エステル | あ…すみません、つい見惚れてしまって……改めてみなさん、こちらです |
| |
エステル | ただ今戻りました |
レイア | あ、エステル、すず、お帰り。そちらは…お客さん? |
すず | 立入禁止区域に侵入した可能性のある容疑者です |
ジュード | いや、だから… |
レイア | 容疑者…?って事は、犯人かどうかはまだはっきりしないって事? |
エステル | はい。事情をお聞きするためにここまでご同行いただいたんです |
レイア | なるほどね。他に変わった事はなかった? |
エステル | ありました!さっき、そこで誰に会ったと思います? |
レイア | ふふふ…知ってるよ。その人、誰に用事があってこの村にいたと思う? |
エステル | まさか…!すごいです、レイア!そんな身分の高い方とお知り合いだったんですか? |
レイア | ロアー様と会うのは初めてだよ。仕事を手伝って欲しいって、直々に依頼しに来てくれたんだ |
マギルゥ | それは恐悦至極という奴じゃのう。他の幹部と会う事もあるのかえ? |
レイア | それはまだだけど、この調子ならいつかはって思ってるよ |
エステル | 世界中が憧れる存在ですよね。小さな子どもが、将来の夢は白き獅子とまで言うそうです |
レイア | そんな人達に頼られるなんて何かこう、燃えてくるものがあるよね! |
レイア | わたし達ロランドファミリーの活動が白き獅子に認められたんだ! |
エステル | はい。みなさんのお役に立てている証拠だと思います |
マギルゥ | よかったよかった、めでたしめでたしじゃ。それでは儂らはこれにて… |
すず | 逃がしません…! |
ジュード | マギルゥ…そういう事するとまた疑いが深くなるよ…? |
ルドガー | 俺達は逃げない。ちゃんと話して誤解を解くためにここまで来たんじゃないか |
レイア | よし…!じゃあ、そっちの話を聞こうか |
レイア | …なるほど、事情はわかった。全部、猫を助けようとしてやった事だったんだね |
すず | …カルミナ街の食料泥棒の情報は私も聞いた事があります。犯人が猫だったとは… |
エステル | では、すずもこの方達の無実を信じるという事でいいです? |
すず | いえ…猫の話が事実だとしても、立入禁止区域に入らなかった証拠にはなりません |
レイア | んー、それもそうか…ジュード、その辺りはどうなの? |
ジュード | 近くまで行った事は認めるけど、柵の中には決して入らなかったよ。入る理由もないしね |
すず | お二人はそうかもしれませんが、マギルゥさんは?さっきから話に出てきませんが |
マギルゥ | ぎく! |
ルドガー | マギルゥとは、警備の人達が騒ぎ出してから出会ったんだ |
ジュード | うん。だから僕達もマギルゥが何をしていたのかはよく知らないんだよ |
レイア | なら事情は飛ばして、ズバリ聞くよ。マギルゥ、柵は越えたの、越えてないの? |
マギルゥ | 迷っておったからのー。柵は越えたかもしれんし、越えてないかもしれんし… |
マギルゥ | そういう事、誰にでもあるじゃろ? |
エステル | 侵入者は昨日も現れたと聞いています。だからわたし達が呼ばれたわけですし… |
ルドガー | 二日連続…どっちもマギルゥが? |
マギルゥ | おお、そうじゃった!二日間ぐらい彷徨い続けておったのじゃ! |
ジュード | それにしては体調がよさそうだけど…疲弊した感じもないし、顔色も── |
マギルゥ | えーい、黙れ黙れ!証拠はあるのか、証拠はー! |
レイア | 確かに証拠はないね。ふむぅ… |
レイア | うん…なるほど。そっちの事情はわかったよ |
レイア | ジュードとルドガーについては、説明も筋が通ってるし、問題ないんじゃないかな |
レイア | というわけで、二人は釈放!疑ってごめんね。何かお詫びしないと |
エステル | よかったですね、二人共 |
すず | レイアさんがそう判断するなら私も信じます |
ルドガー | いや、わかってもらえたならそれでいいよ。そっちの事情もわかるし |
マギルゥ | よかったよかった。それでは今度こそ帰るとしようかのう |
レイア | 待って!今のは、ジュードとルドガーの話! |
レイア | マギルゥは…まだ怪しいよね。筋は通ってるようで通ってないし… |
レイア | …と言っても、ロアー様が捜してるっていう咎人とは違うみたいだけど… |
すず | …!今、何と…! |
エステル | 咎人が出たんです…? |
レイア | そう。ロアー様からの依頼。女性の咎人が一人、こっち方面に逃げたから情報集めてって言われてて |
ジュード | 待ってよ。咎人って確か、人を惑わすような事を言う人の事だよね? |
レイア | うん。ありもしない事を本当にあったかのように話して、世間を混乱させるとか… |
ジュード | 確かにマギルゥは怪しいところもたくさんあるけど、さすがに咎人ではないと思うよ |
ジュード | 筋は通ってないかもだけど、意味不明な事は…たまに言うけど… |
ジュード | それで人を惑わす事も…言うね……あれ…? |
マギルゥ | ええい、「まさか!」みたいな顔をするでないわ! |
ルドガー | マギルゥは確かに人を惑わせるしお騒がせなところもあるけど、人を煙に巻いてるだけだ |
ルドガー | 話に聞く咎人のイメージとはちょっと違うような気がするけど… |
レイア | ごめんごめん、わたしもマギルゥは咎人ではなさそうって言いたかったの |
すず | …よかったです。もしマギルゥさんが咎人だったら、わたしはラザリス様に背いた事になりますから |
エステル | 咎人を見つけたら、その言葉に耳を傾けてはならず、誰にも接触しないよう閉じ込める… |
ルドガー | 咎人が現れた時の緊急対応法か。ラザリス様直々のお言葉だったな |
エステル | はい。でも、よく考えると難しい事かもしれませんね。話も聞かずに判断というのは… |
レイア | 咎人の言葉は人を惑わせるって言うからね |
ルドガー | ラザリス様が仰るぐらいだ。マギルゥのように人を煙に巻くのとはまた違った意味じゃないかな |
マギルゥ | 何にしても儂は咎人ではないのじゃ。もうよかろう? |
レイア | ダ~メ。侵入の事に関しては、結局、何も説明してくれてないよね。そこはっきりするまでは帰せないかな |
マギルゥ | 何も説明する事はないんじゃがのー |
レイア | でも、それじゃ疑いも晴れないし、その間はここにいてもらうしかなくなっちゃうよ? |
マギルゥ | 三食昼寝付きならいくらでもいてやるぞー |
レイア | 食事は出すけど…仕方ないね。じゃあどこか部屋を…鍵を掛けられるのは地下倉庫かな? |
マギルゥ | 倉庫じゃとー!?こんなか弱い乙女をそんなところに閉じ込めるというのかー! |
レイア | すず。案内してあげて |
すず | 了解しました。こっちです |
マギルゥ | は~な~せ~!魔女さらい~! |
ジュード | いいのかな…悪い人ではないと思うんだけど |
ルドガー | 気の毒ではあるが、疑いがある以上、仕方ないだろう。善人と言い切れないのも事実だしな |
レイア | 悪いようにはしないよ。事情があるなら、それもきちんと聞いた上で考えるから |
レイア | それはそうと、二人共、もう日も暮れるし、今日はこの村に泊まって行くんでしょ? |
レイア | よかったら、ここの客室を貸すけどどうかな?ベッドもふかふかだよ |
ルドガー | いや、そこまでの気遣いは… |
レイア | まぁまぁ、遠慮しないでよ。それで、出来たらなんだけど… |
レイア | ルドガー、ご飯作るの手伝ってくれない? |
ルドガー | あぁ、それは構わないけど… |
エステル | レイア、ルドガーの料理食べてみたいってずっと言ってましたもんね |
ルドガー | ずっと…? |
レイア | あはは。実は噂はかねがね…カルミナ街のルドガーって言えばこの村でも有名だよ |
ルドガー | ちょっと照れくさいな…わかった、今夜はお言葉に甘えるよ。食事の用意も手伝おう |
レイア | やった!じゃあ早速、厨房に案内するね |
ジュード | あ、僕も手伝うよ |
エステル | 今夜は、いつもより一層、賑やかになりそうですね |
エステル | わたしも手伝います! |
| |
ジュード | ふぁ…よく寝た |
ルドガー | おはよう、ジュード。朝食の用意出来てるぞ |
ジュード | ありがとう。朝食もルドガーが作ってくれたんだ |
ルドガー | ああ。朝から出かけるからってレイアに弁当をねだられてね。そのついでだよ |
ジュード | 人気のコックも大変だね。昨日の夕食も、結局ほとんどルドガーが作ってたし… |
ルドガー | いや、喜んでもらえるならどうって事ないよ |
ルドガー | それに…俺は、ああしてわいわいと大勢で食卓を囲む姿を見るのが好きなんだ |
ルドガー | まるで家族のように仲のいい彼女達が俺の料理を美味しい美味しいと喜んで食べてくれているのを見ると… |
ルドガー | 心に空いた穴が埋まっていくような不思議な気持ちになる… |
ジュード | 心に空いた穴…? |
| |
ルドガー | 上手く言えないんだけど…これは義務感に近いかもしれないな |
ルドガー | 使命感と言い換えてもいい。誰かに料理をふるまう事を約束したような気がして落ち着かないんだ |
ルドガー | そんな約束をした記憶もないし、誰に何を食べさせたいのかもわからないんだけどな |
ジュード | 使命感か…変な話だけど、ちょっとうらやましいかも |
ジュード | 僕には、そういうどうしてもやらなきゃって思う事、特にないから… |
| |
ルドガー | … |
ジュード | そういえば、マギルゥはどうなったのかな? |
ルドガー | レイアが言うには、事情を話すどころか寝床を整えたりしているそうだ |
ジュード | 住みつく気なのかな…何がしたいんだろう? |
ジュード | 昨日も何だか変なはぐらかし方をしてわざと捕まってるようにも思えたし… |
ルドガー | さぁ…。彼女に関しては言動が全く読めないから、何とも… |
| |
| ドォォォォォンッ! |
ジュード | な、何…!? |
ルドガー | 外が騒がしい。何かあったのか… |
ジュード | 窓の外見て、ルドガー!村の中に魔物の群れが… |
ルドガー | それだけじゃない!あそこで煙が上がってる…火事じゃないか!? |
エステル | た、大変です!魔物の群れが… |
ジュード | うん、わかってる。ねぇエステル、遠くだけど火も上がってるし、マギルゥも… |
エステル | …!このままじゃ危ないですね…!わたし、お迎えにいきます! |
ルドガー | 何があるかわからない。俺達も行こう、ジュード! |
scene2 | ロランドファミリー |
ルドガー | …!魔物がこんなに…! |
マギルゥ | おーおー、圧巻じゃのー |
ジュード | 村のみんなは大丈夫!? |
エステル | わたし、様子を見てきます。みなさんは安全なところへ避難してください |
ジュード | いや、手伝うよ。僕、治癒術も使えるからきっと役に立てると思うし |
エステル | ですが… |
ジュード | こんな状況なのに、自分達だけ安全なところに避難するなんて出来ないよ |
ルドガー | 俺もだ。それにレイアが出かけている今、人手が必要だろう |
マギルゥ | 仕方ないのう、儂も手伝うわい。ただし…この恩義、忘れるでないぞー |
エステル | ありがとうございます。とても頼もしいです |
エステル | 既に、すずが村の人達の避難誘導に動いてくれています |
エステル | わたし達は手分けして逃げ遅れた人や怪我人がいないか見て回りましょう |
ジュード | うん、わかった。急ごう |
ジュード | たあっ! |
| バシィッ! |
| ギャウッ! |
ジュード | ふぅ、何匹か倒したけど、まだまだいるな… |
ジュード | でも村人達の避難はほとんど終えてるみたいだ…人っ子一人いない。さすが、すずだね |
すず | ロランドファミリーは自警団。その一員として当然の仕事です |
ジュード | すず…! |
すず | 逃げ遅れた人かと思ったらあなたでしたか…お怪我もないようで、何よりです |
ジュード | そっちは大丈夫?怪我があるなら、すぐ治療を… |
すず | いえ、平気です。魔物も数は多いですが、私も手数の多さには自信があります |
すず | 魔物は私に任せて、ジュードさんは消火活動を。村の食料庫が燃えているらしいので |
ジュード | うん、わかった |
ジュード | ここが食料庫…!酷い燃え方だ、早く消さないと… |
マギルゥ | おお、ジュードではないか!よいところに来た! |
ジュード | マギルゥ! |
マギルゥ | 急げ!消火じゃ、消火!ここが燃えたら居候の儂らは飯にありつけんようになるやもしれん |
マギルゥ | ほれ、水をじゃんじゃん持って来い!ザバザバぶっかけよ! |
ジュード | う、うん…! |
| |
ジュード | ふぅ…何とか火は消し止めたかな… |
マギルゥ | な、中は…?儂らの食料… |
ジュード | 駄目だよ、マギルゥ!食料庫に入っちゃ!崩れ落ちるかもしれないよ!? |
マギルゥ | かっはぁ…!黒焦げじゃあぁぁ…! |
ジュード | まぁ…自分が無事だっただけよしとしようよ…村の火事も収まったみたいだし |
マギルゥ | いや、諦めるのはまだ早いぞ。無事な食べ物を探し出しておけば自警団の連中も儂を見直すじゃろ |
マギルゥ | 儂は食料庫を調べておるから、村の事、後は任せたぞ! |
ジュード | マギルゥがあんなに必死に… |
ルドガー | ジュード!そっちはどうだ、無事か? |
ジュード | うん。火も消し止まったとこ。ルドガーは? |
ルドガー | 俺は大丈夫だけど、逃げ遅れた怪我人を見つけたんだ。動かせないほど酷いんだ、治療を頼む |
ジュード | …!わかった、すぐ行くよ! |
scene3 | ロランドファミリー |
ルドガー | こっちだ |
ジュード | 大丈夫ですか!? |
村の男 | あ、あんた…!治療出来るって人だろ?頼む、この子を助けてくれ…! |
ジュード | 大変だ、すぐ治療します。あなたは大丈夫ですか?その顔の傷は… |
村の男 | こいつぁ元々ある古傷だ。今更治療なんていらねぇよ。それよりこの子…意識がねぇんだよ |
男の子 | ぅ…うぅぅ… |
ジュード | …傷が深い。脈は……まずいな… |
ジュード | 時間がかかるかもしれません。その間、声をかけ続けてください |
ルドガー | ジュード、手慣れてるな。医学の心得が? |
ジュード | え…いや、見よう見まねだよ。だから大した事は出来ないけど、命だけは助けるから… |
ルドガー | 酷いのか…? |
ジュード | 大丈夫…絶対治してみせるから… |
| |
すず | やあっ! |
| グギャァアッ! |
すず | …ふぅ。魔物はだいたい片付きましたね |
エステル | すず、怪我はないです? |
すず | エステルさん、ご心配には及びません。あの数だったので疲れはしましたが… |
エステル | 無理は禁物です。少し休んでください |
すず | いえ、そうはいきません。一匹、取り逃がした魔物がいます。まだ村の中にいるかもしれないので |
エステル | …確かにそれは心配ですね。わかりました、わたしも行きます |
| |
ジュード | はぁ…はぁ…ここが正念場だ…あと少し… |
ルドガー | ジュード、顔色悪いけど大丈夫か…?少し休んだ方が… |
ジュード | 今、手を放すわけにいかないんだ。この子の意識が戻るまでは集中し続けないと… |
ジュード | 僕が休んだら、ここまでの治療が無駄になるかもしれない…! |
ルドガー | …わかった。ならここは任せた。俺はエステル達の様子を見に行くよ |
ジュード | うん、お願いするよ。この子は僕が絶対に助けるから…! |
| |
ルドガー | …ジュード…優しい奴だな。弱音も吐かず、あんなに献身的に頑張って… |
| ガサガサ… |
ルドガー | …!何だ…?あの辺りの茂みが動いたような… |
| グルル… |
ルドガー | 魔物…!?まだ残ってたのか… |
エステル | ルドガー!無事です? |
ルドガー | エステル、すず…! |
すず | 最後の一匹、ここにいましたか…! |
| ガウウ… |
| ダッ── |
エステル | 逃げました! |
ルドガー | まずい!あっちにはジュードと怪我人が… |
すず | …!行きましょう! |
| |
ジュード | はぁ…はぁ…くぅ…集中力が…でも、まだ…手を放すわけには…! |
| ガルルルル! |
ジュード | えっ…? |
ルドガー | ジュード、魔物だ!避けろっ…! |
ジュード | なっ…!うわあぁっ!? |
| グオオッ! |
ジュード | ──っ! |
| ザシュッ! |
村の男 | ぐああっ!? |
ジュード | おじさん!?そんな、僕を庇って…! |
ルドガー | はああっ! |
| ズバッ! |
| ギャウウッ! |
| |
すず | 魔物は仕留めましたか… |
エステル | ですが… |
ジュード | おじさんが…!顔から血が出て… |
村の男 | くっ…お、俺は大丈夫…ちょいと古傷が開いただけだ…それより…せがれを頼む…! |
エステル | その子意識がないんです?ジュード、わたしも手伝います! |
ジュード | もう少しだ… |
男の子 | うぅ…ん… |
ジュード | 意識が戻った…! |
エステル | ああ…!よかったです…! |
男の子 | あれ…お父ちゃんは…? |
ジュード | 大丈夫。お父さんの怪我もすぐに治すからね |
村の男 | …!?うぅ… |
ジュード | …おじさん…? |
村の男 | … |
村の男 | …これは…どうした事だ、俺は… |
ジュード | どうしたの、おじさん?じっとしてて。早く治療を… |
村の男 | それどころじゃない。それより…どうして今まで…! |
村の男 | 俺はいつここへ…そうだ、戦争はどうなったんだ? |
ルドガー | …戦争? |
エステル | 何の事を仰ってるのでしょうか… |
村の男 | 何って、戦争だよ!あんな大きな戦争を知らないのか?ほら、この顔の傷だってその戦争で… |
男の子 | お父…ちゃん…?どうしたの…? |
すず | … |
村の男 | それにこの辺りは…あの結晶がない…ここはまだ安全な場所…なのか…? |
エステル | あの、お気を確かに。落ち着いてください |
村の男 | …!あ、あなたは…!エステリーゼ様…!? |
エステル | はい…? |
ジュード | …エステリーゼ、様…? |
村の男 | どうしてこんなところに── |
すず | …! |
| ガシッ |
村の男 | ──うぐっ!?な、何をする…! |
エステル | すず!?何を…! |
すず | みなさん落ち着いて聞いてください。この人は…咎人です |
ジュード | まさか…!? |
すず | エステルさん、この方の言葉、理解出来ましたか? |
エステル | いえ…何の事か、わたしには… |
すず | 咎人の言葉は人を惑わせる…今、エステルさんを惑わせた言葉こそまさしく咎人の証…! |
すず | ラザリス様のお言葉通り、誰にも接触しないよう閉じ込めねばなりません |
村の男 | おい、やめろ、違う!意味がわからないのはお前らだ。どうしてこんな事になってるんだ! |
すず | お静かに。咎人の言葉は聞いてはいけない…これ以上の発言は慎んでください |
村の男 | なっ… |
エステル | すず…!咎人とはいえ、あまり手荒な事は… |
すず | 取り押さえているだけです。静かにしていてくれれば、これ以上の事はしません |
ジュード | …ねぇ、すず。その人だけどさ…本当に捕まえちゃうのかな… |
ルドガー | ジュード…よせ… |
ジュード | だって、僕の事を助けてくれた人なのに!息子想いの、優しい人なのに! |
エステル | ジュード…お気持ちはお察しします。けど…咎人は咎人ですから… |
ジュード | そんな… |
ルドガー | ジュード、諦めた方がいい。ラザリス様の言葉に逆らってくれと頼んでいるようなものだから |
ルドガー | それに…君よりずっと辛い想いをしてる人がいる事も忘れちゃいけない |
ジュード | あ… |
男の子 | …お父ちゃん… |
男の子 | ぐすっ…ぅ…ラザリス様のため…お父ちゃん…うぅ… |
ジュード | … |
村の男 | くっ…血も涙もねぇのかよ |
すず | 黙ってください。決まりですから |
村の男 | くっ…! |
すず | この人はロランドファミリーで預かります。地下倉庫に閉じ込め、白き獅子を呼びましょう |
エステル | そうですね…マギルゥはどうしますか? |
すず | …客室で見張りましょう。そもそもマギルゥさんが逃げず、大人しく戻ってくれれば、ですが |
ジュード | … |
| |
ジュード | …鍵がかかってる。ここだね… |
ジュード | おじさん…聞こえる? |
村の男 | …!その声は、あの時の…助けに来てくれたのか? |
ジュード | いや…あの…あの時のお礼をちゃんと言いたくて… |
村の男 | そんな事はもうどうでもいい。なぁ、あの子…俺の息子はどうなった? |
ジュード | あの子ならもう大丈夫です。すっかり元気になりました |
村の男 | そうか…ありがとうよ… |
村の男 | なあ、あんたも俺が人を惑わす悪い人間だと思うか? |
ジュード | いえ、そんな事は… |
村の男 | だろ?お願いだ、ここから出してくれ |
村の男 | このままだと俺は、シャングレイスまで連行される。あの子に会えなくなっちまうんだ… |
ジュード | 出来る事ならそうしてあげたいけど…でも、あなたは咎人で── |
村の男 | 咎人なんか知ったもんか!大体、咎人って何なんだ!? |
村の男 | この国は何か変だ…!そもそもエンテレスティアなんて国…一体いつから… |
村の男 | 人を惑わせるだって…?戸惑ってるのはこっちだ… |
ジュード | おじさん…僕は… |
ジュード | ……ごめん |
村の男 | ま、待ってくれ!行かないでくれよ!おい…! |
| |
ルドガー | …ジュード。やっぱりここにいたのか |
ジュード | ルドガー!?あの、これは… |
ルドガー | 地下倉庫の鍵を持ち出しただろう? |
ジュード | ばれてたんだ… |
| |
ジュード | ルドガー…僕は…どうすればいいんだろう… |
ジュード | ラザリス様は信じてる…けど…あの人は命の恩人なんだ |
ルドガー | 咎人を相手に取るべき対応…そんな事は、言うまでもなくジュードだってわかっているだろう? |
ルドガー | それでも悩むのは、君の気持ちがあの人が咎人になったっていう結果を受け止めきれていないから…違うか? |
ジュード | … |
ルドガー | …ジュード。君は優しいし、あの人に同情する気持ちもわかる… |
ルドガー | けど、その考えは現実から目を背けているだけだ |
ジュード | 僕は… |
ジュード | おじさんを見捨てたくはない…けど、ラザリス様を裏切る事なんてしたくない |
ルドガー | ジュード… |
ジュード | 頭ではわかってるんだ。おじさんは咎人になってしまった…。白き獅子に引き渡すべきなんだって |
ジュード | けど同時に、そうしなくて済むのならどんなにいいだろうって考えてしまう… |
ジュード | ルドガー、僕は…自分がどうすればいいのかわからないんだ…! |
ルドガー | …ジュード。その答えは俺には出せないよ |
ルドガー | やるべき事はわかってるのに悩むっていうのは、君の気持ちの問題なんだと思う |
ルドガー | 気持ちの問題に答えを出せるのは、君自身だけ…どうするべきかは自分で決めるんだ |
ルドガー | 仮に俺が答えを言ったところで、君の気持ちが納得出来なければ結局、後悔が残るだけだからね |
ルドガー | 辛い選択だとは思うが…現実と、何より自分の気持ちと、きちんと向き合うんだ |
ジュード | … |
ジュード | 僕は…僕の、選択は… |
ジュード | …ルドガー…これ… |
| チャリ… |
ルドガー | ジュード?この鍵は…どういう… |
ジュード | ルドガーを信じる事が僕の選択…ていうのは、駄目かな… |
ルドガー | それは選択じゃない。流されているだけだ |
ジュード | …ごめん |
| |
ルドガー | ジュード… |
ルドガー | … |
scene1 | やるべき事、やりたい事 |
ジュード | はぁ…昨日はあんまり眠れなかったな。疲れてるはずなのに… |
マギルゥ | どうしたどうした。冴えない面して、色男が台なしじゃぞ |
ジュード | その色男って言うの、そろそろやめてくれないかな…全然そんなのじゃないし |
マギルゥ | 話は聞いたぞ。この村で咎人が出たらしいのー。それもお主の命の恩人じゃとか |
ジュード | …その話はしたくない |
マギルゥ | レイアも大変だったようじゃぞ。昨晩、疲れて帰ってきてみれば村はボロボロじゃし、咎人はおるし |
マギルゥ | まさに目の回る忙しさ!ルドガーの夜食を食べる暇もなかったと聞くぞ |
マギルゥ | そのルドガーも、村の連中にせがまれて、料理をふるまいにあちこち奔走しとるのじゃとか… |
ジュード | …何が言いたいの? |
マギルゥ | 思い悩む暇があるのは幸せ、という事じゃよ |
ジュード | マギルゥは、人の痛みとか苦しみって考えた事ないの? |
マギルゥ | さぁのー。儂にとってはどーでもいい事じゃ |
ジュード | そんな言い方…まるで人の気持ちになんて関心ないみたいだよ… |
マギルゥ | 魔女じゃからのー |
マギルゥ | それに言っておくが、これは別に悪い事ではないのじゃぞ |
マギルゥ | どーでもよいと思える方が、くだらん事で悩むより、ずっと人生を楽しめるものじゃ |
ジュード | 僕にはそんな風に思えないよ。どうでもいい事なんてないからこうして悩んでるんじゃないか |
マギルゥ | 人は気付かぬ内に、どーでもよい事に捉われる生き物なんじゃて… |
マギルゥ | そうじゃ、どーでもいい事がどーでもよくなるまじないの呪文を教えてやろうかの? |
ジュード | いいよ、そんなの… |
マギルゥ | まぁまぁ、物は試しじゃ。よいか?こうして足を曲げて、マギン──… |
ジュード | もう、いいって…僕、部屋に帰るから |
マギルゥ | おー、思春期という奴かの。難しい年頃じゃな |
マギルゥ | …とにかく、こうなってしまえばレイアからの初任務は失敗じゃの |
マギルゥ | はぁ、せっかくロランドファミリーに加入したというのに、先が思いやられるわい… |
| |
ジュード | はぁ…どうでもいい、か…。そうだよね、普通は咎人の事なんて心配する方がおかしいんだし… |
| コンコン |
??? | ジュード、あの… |
??? | 少し、よろしいでしょうか? |
ジュード | その声は、エステルとすず?どうぞ、入って |
エステル | お邪魔します |
ジュード | あれ…何か甘い匂いが… |
すず | 実はエステルさんと二人でお菓子を作りました。よかったら食べてください |
ジュード | そうなんだ。ありがとう…クッキーか。いただくよ |
エステル | お口に合うといいのですが… |
ジュード | …ん、美味しい。サクサクした歯ごたえにバターのいい香りがする |
エステル | わあ、よかったです! |
すず | 元気、出ましたか? |
ジュード | …え? |
ジュード | そっか…元気づけようとしてくれたんだ… |
ジュード | マギルゥにも言われたしそんなに落ち込んで見えてたんだね |
すず | 元気出してください。あんな事があれば悩むのもわかりますが… |
エステル | わたし達に出来る事があれば言ってください |
ジュード | ありがとう、二人共。その気持ちだけで十分だよ |
エステル | よかった…レイアも心配してたんですよ。こんな任務を発令するぐらい |
すず | エステルさん…!任務の事は… |
ジュード | 任務…? |
| |
ジュード | レイア、どういう事?僕を元気づける任務なんて… |
レイア | ごめん、どうしても気になってさ。気に障ったなら謝るよ。ほんと、ごめん! |
ジュード | そうじゃなくて…ロランドファミリーがそんな事に人員を割いてていいの? |
ジュード | 村の復興とか、もっと優先してやる事がいろいろあるでしょ? |
レイア | …何言ってるの? |
ジュード | 何って…だから焼けた食料庫を立て直したり… |
レイア | 心の修復は、食料庫の修復なんかよりよっぽど優先すべきだと思いますけど? |
ジュード | でも、僕一人のための事より村のみんなのために動くべきで… |
レイア | むむむ…あのね、ジュード。「村のみんな」なんて人はいないんだよ |
レイア | わたし達は、村の一人一人のために出来る事なら何でもやるの。そこにはジュードも入ってる |
ジュード | レイア… |
ジュード | …そっか、すごいな…レイア達はやるべき事を考えて、きちんと選んで動いてる… |
ジュード | 僕も、そんな風になれたら… |
ジュード | … |
ジュード | ねぇ、レイア。お願いがあるんだけど… |
レイア | ん? |
| |
レイア | …というわけで、ジュードのロランドファミリー加入を認めたいと思うんだけど、どうかな? |
エステル | 賛成です。ジュードは昨日も、消火活動の手伝いに魔物退治、負傷者の治療と大活躍でしたから |
すず | 私も異存はありません。マギルゥさんの方はまだ賛成ではありませんが… |
マギルゥ | 何とでも言うがよいわ。入ったもん勝ちじゃ。入れた方が悪いのじゃ |
ジュード | そんな事言われたら僕も入り辛くなるんだけど… |
ジュード | というか、マギルゥはいつの間にロランドファミリーに加入していたの? |
マギルゥ | 昨晩、レイアに頼み込んだのじゃ。儂もリッカ村の力になりたいと思ってのー |
レイア | 消火を手伝ってくれた上に、村のために燃え跡から使える食料を探し出してくれたって聞いてね |
レイア | お蔭で十分な食料も確保出来たし、悪い人じゃないってわかったならそれでいいと思って |
マギルゥ | ジュードこそ、急にファミリーに入れてくれとは…ははーん…わかったぞ… |
マギルゥ | 思春期の男が持つ熱き魂が女だらけの禁断の花園に導かれたというわけじゃな~? |
ジュード | そ、そんなんじゃないから…! |
レイア | 別に禁断でもないからね。たまたま女の子ばかりなだけで、男の子も大歓迎だから! |
ジュード | 僕はただ…レイア達みたいに、自分のやる事をちゃんと決めたいって思ったんだ |
ジュード | 昨晩の事も、結局、僕自身の意志では何も… |
レイア | ん、昨晩何かあったの? |
ジュード | あ、いや、今のは独り言。忘れて |
マギルゥ | … |
ジュード | とにかく僕は、みんなみたいにやるべき事を自分で決めたいって思ったんだ |
ジュード | その初めの一歩として、ファミリーに入る事を自分で決めたんだけど… |
マギルゥ | 自分探し、という奴じゃな。若いのー、青いのー |
ジュード | 駄目かな…?こんな動機じゃ… |
レイア | ううん、駄目なんて事ないよ。別に面接してるってわけじゃないんだしね |
エステル | はい。歓迎します。ね、すず |
すず | はい |
レイア | というわけで、改めてよろしくね、ジュード |
ジュード | うん、こちらこそ |
レイア | 男手があると便利な時も多いしね。いろいろあてにすると思うけど、いいかな? |
ジュード | うん。何でも言って |
レイア | じゃあ早速。これから村の人の依頼で、買い物に行くんだ |
レイア | 量が多いから、わたし一人じゃ大変で。付き合ってもらえるかな? |
ジュード | わかった |
レイア | よおし、じゃあ初仕事、張り切って行きましょう! |
エステル | いってらっしゃい |
すず | お気をつけて |
scene2 | やるべき事、やりたい事 |
ジュード | それにしても、買い物の手伝いまで任務だなんて… |
レイア | 言ったでしょ。村の一人一人のために出来る事なら何でもやるって |
レイア | 依頼主は足の悪いおばあちゃんでね。たまにまとめて買い出しをしてあげてるんだ |
ジュード | 出来る事なら何でも…か… |
レイア | ジュード、暗い顔は禁止! |
ジュード | えっ…? |
レイア | みんなの笑顔を守るのがわたし達の仕事なのに、わたし達が笑ってないでどうするの |
ジュード | …そっか。そうだね |
レイア | そうそう。いい顔してないといい買い物は出来ないんだからね |
ジュード | うん…そう…だね…?え、顔と買い物、関係ある? |
レイア | おじさーん!このリンゴ、たくさん買うからちょっとまけてくださーい! |
店主 | お、レイアちゃんか。今日も元気いいねぇ。よし、目いっぱい安くしちゃおう! |
レイア | …ほらね? |
ジュード | あはは、さすが |
店主 | おっ、そっちの兄ちゃんも確か昨日、何かと頑張ってくれたって人だよな? |
ジュード | え、僕? |
店主 | みんな感謝してるよ。こいつもおまけだ、持っていきな |
ジュード | いや、そんな、大した事してませんから… |
店主 | まぁまぁ、遠慮しなさんな。これは俺の気持ちなんだ。迷惑でなきゃ受け取ってくれよ |
ジュード | でも… |
レイア | おじさん、ありがとう!よかったじゃない、ジュード。もっと喜びなよ |
ジュード | そうだね。ありがとうございます |
店主 | いいって事よ。しばらくこの村にいるのかい? |
レイア | ふふふ、実はね。何を隠そう、ジュードは今日からロランドファミリーの一員なんだよ! |
店主 | へぇ、そいつぁいいや!村のみんなもきっと喜ぶぜ!よろしくな、兄ちゃん! |
ジュード | うん…よろしくお願いします |
ジュード | いいのかな… |
レイア | 何が? |
ジュード | あんなに感謝されるほど、僕は立派な事はしてないよ。僕は僕に出来る事をやっただけで… |
レイア | うーん、それでいいんじゃないかな |
レイア | 出来る事をやっただけ…ジュードは謙遜して言ってるけどそれが一番大事だと思うよ? |
レイア | 出来る事なら何でもやるって言ったのは、別に、もっとやれるって意味じゃなくて… |
レイア | 一生懸命にやってれば何とかなるから元気出して頑張ろう! |
レイア | …って、それだけの事なんだよ。特別な事なんてわたし達も何もやってないから |
レイア | だからジュードは、それでいいと思うよ、わたしは。褒められたんだから、胸を張りなって |
ジュード | わかった。褒められた事は素直に受け止めるよ。けど、胸を張る事は、出来ないかな… |
レイア | …何かあったの? |
ジュード | うん…実は… |
| |
レイア | そっか、ジュードにとっては命の恩人が捕まってる状況なんだね… |
ジュード | 怒られるかもしれないけど…昨晩、僕、地下倉庫の鍵を持っておじさんのところに行ったんだ… |
ジュード | けど、結局、開けられなかった…出来る事を僕はやらなかったんだ… |
レイア | ジュード… |
ジュード | …ねぇ。レイアはあの、咎人になった人の事、どう思ってる? |
レイア | んー…わたしの立場でこんな事言うと、おかしいんだけど… |
レイア | 命の恩人の事が気がかりだっていうジュードの気持ちも理解は出来るよ |
レイア | けど、咎人となると、やっぱり別かな…どんないい人でも、咎人は、その… |
ジュード | …いいよ、レイア。わかってる。だから悩んでるんだ… |
ジュード | 咎人は放っておいちゃいけない…閉じ込めて、ちゃんと白き獅子に通報する… |
ジュード | けど…僕にはおじさんのために出来る事は何もないのかなって… |
レイア | …ジュード。ちょっと寄り道してもいいかな |
ジュード | え…?うん… |
| |
レイア | 着いた。あそこに見える家、わかる? |
ジュード | あ…あそこにいる男の子、昨日の…じゃあ、もしかして… |
レイア | そう。咎人になったおじさんの家 |
ジュード | …あの子…やっぱり、元気ないね… |
レイア | うん。元気出してもらいたくて、わたし、声かけてみたんだけどね… |
レイア | あの子が落ち込んでる原因を取り除いてあげる事は出来ないから… |
レイア | どーしようもない事、なんだけどさ。だからって諦めたくないじゃない |
レイア | でも、すごく悔しいけど…やっぱり難しいね |
レイア | 何かを大事にすると、他の何かがやり辛くなったりしてさ… |
ジュード | …どっちも大事にしたい時はどうすればいいんだろう…? |
レイア | んー、わかんないけど、とにかく、くよくよしてるのはよくないよね |
レイア | 悩んで落ち込んでるだけじゃ本当に大事にしたい事までどーにもならなくなっちゃうよ |
レイア | だからわたしは、せめて出来る事だけは悔いのないよう全力投球するってわけ |
レイア | ロランドファミリーを作ったのもそのためなんだよ。仲間がいた方が出来る事はもっと多くなるから |
ジュード | …すごいね、レイアは。どんな事があっても、前向きに考えて進んでるんだ… |
レイア | まぁ、わたし、じっと考えるよりとにかく動きたい方だからね |
レイア | 悩むにしても、動きながら悩むようにしようって、自分に言い聞かせてるんだ |
ジュード | 答えを出さないまま動くなんて…失敗が怖くはないの? |
レイア | うーん、そうだなぁ…勿論、失敗もするし、こうしておけばよかったって思う事もあるよ |
レイア | でも、反省はしても、後悔はしないようにって思ってる。それは自分で決めた事の結果だから |
レイア | って言ってても、後悔する事もしょっちゅうだけどね。昨日、村にいなかった事とか、あと… |
ジュード | …レイアは大人なんだね |
レイア | えっ、そ…そんな事ないよ。そんな風に言われると、ちょっと照れるな… |
ジュード | 出来ない事も糧にして、ちゃんと前に進んでる… |
ジュード | 僕なんて…自分の進むべき方向すら見えてないのに… |
レイア | ジュードは…難しく考えすぎなんじゃないかな |
レイア | だからいろんな事に縛られて本当にやりたい事がわからなくなってるんじゃない? |
レイア | 本気でやりたいって思ったら考える前に身体が動いてるもんだよ |
ジュード | そっか…。そういうものかもね… |
| ガサッ! |
ジュード | …!何の音!? |
| |
| ガルルル! |
レイア | 魔物…!?まさか、また…? |
ジュード | 大丈夫、他にはいないみたいだ。…僕に任せて! |
scene3 | やるべき事、やりたい事 |
ジュード | ふう…レイア、大丈夫!? |
レイア | う、うん…いきなりでびっくりしたけど |
レイア | ジュード、すごいね。一人であっと言う間に倒しちゃって。わたしも手伝えたのに… |
ジュード | …さっき、レイアが言ってた通りだよ |
ジュード | レイアを守らなきゃって思ったら身体が自然と動いたんだ |
レイア | わたしを…守りたい…?それって… |
レイア | …っ!うっ… |
ジュード | レイア!どうしたの!?どこか怪我でもした!? |
レイア | だ、大丈夫。ごめん、ただの立ちくらみだと思う。平気だから… |
ジュード | ならいいけど…。怪我じゃなくても疲れてるなら無理しない方がいいよ |
レイア | もう、大丈夫だってば。ジュードは心配性すぎるよ |
ジュード | そうかなぁ? |
レイア | そうだよ。ジュードは昔から── |
レイア | …! |
レイア | …昔から…ジュードは…いつだって… |
レイア | …!ジュード、後ろ! |
| |
| ガアアッ! |
ジュード | なっ…!さっきの魔物…!? |
レイア | はああっ! |
| ドゴォッ! |
| ギャウウ…ッ! |
| |
ジュード | あ、ありがとう |
レイア | …わたしも、身体が自然に動いた |
レイア | ジュードの事、守りたかったから… |
ジュード | 僕ら、いいコンビかもね |
レイア | そうかも。でも何か、ちょっとくすぐったいね。あははは… |
レイア | に、任務の続き…買い物、行こっか。依頼主のおばあちゃんも待ってるし |
ジュード | あ、そうだったね。急ごう |
| |
レイア | おばあちゃん、頼まれてたもの買ってきたよ! |
村の老婦 | ありがとう。そこに置いといておくれ |
レイア | ジュード、そこだって |
ジュード | よい…しょっ…! |
村の老婦 | ふふふ…二人でそうしてると買い物帰りの夫婦みたいねぇ |
レイア | お、おばあちゃんったら、もう、やめてよ |
レイア | わたし達はそんなんじゃなくて、ただの幼なじみ── |
ジュード | え? |
| |
レイア | …あ…れ? |
レイア | …っ! |
ジュード | レイア? |
| |
レイア | …そう、わたし達は、ただの幼なじみなんだから。買い物くらい…普通に行くよ… |
ジュード | え? |
村の老婦 | おや、そうだったのかい。レイアと幼なじみって事は、兄さんもこの村の出身かい? |
ジュード | いえ…違いますけど… |
レイア | えっ… |
レイア | …うっ! |
レイア | わたし…ジュードと…ううん、最近会ったばかり…あれ…? |
ジュード | レイア、大丈夫? |
レイア | わたし… |
レイア | …わたしは… |
レイア | ジュード…と… |
レイア | …あっ… |
レイア | そっか、そうなんだ…わたし… |
ジュード | レイア、どうしたの?やっぱりさっきの戦いでどこか怪我を… |
レイア | …あ、ううん。違う違う、何でもないの |
レイア | あはは…わたし、ちょっと疲れてるみたい |
ジュード | ちょっと休みなよ。おばあちゃんの手伝いは僕がやっておくからさ |
レイア | うん…ごめんね。そうさせてもらうよ。少し休んだら、落ち着くと思うから… |
村の老婦 | …ちょっと様子が変だったねぇ。何かあったのかい? |
ジュード | さあ…僕にもよくわからないです… |
ジュード | レイア…どうしたんだろう… |
scene1 | それぞれの迷い |
レイア | はあ…どうしてこんな事になっちゃったんだろ |
レイア | ここはどこなのかな…エンテレスティアなんて前は聞いた事もなかったのに… |
レイア | リンネル村は…ア・ジュールはどっちだろ。それにメルディの事も… |
レイア | どうして今まで忘れてたんだろ…ジュードの事まで…そのジュードも今は何も覚えてないみたいだし… |
レイア | ああー!頭がごちゃごちゃして、考えがまとまらないよ! |
レイア | そもそも晶化現象はどうなってるの?わたし、晶化したミラの事見てるってエリーゼ達と約束したのに… |
レイア | はぁ…咎人になるって、こういう事だったんだ… |
レイア | … |
レイア | 記憶を…失ってたって事になるのかなぁ… |
レイア | でもじゃあ、どうして記憶が急に戻ったんだろ… |
レイア | …あれ、そういえば… |
レイア | 記憶を取り戻すだけなら、咎人なんて言って、悪い事のように言う必要あるのかな…? |
レイア | 別にこんなの、誰に危害を加えるわけでもないよね |
レイア | むしろ、他の人もわたしと同じように記憶を失ってるんだとしたら、早く取り戻した方がいいに決まってる── |
レイア | ──まさか、それが罪って事? |
レイア | 記憶を取り戻す事がいけない事で、他の人の記憶を取り戻させないために誰とも接触しないように…? |
レイア | … |
| コンコン |
レイア | ひゃいっ!? |
??? | レイア…大丈夫?入るよ…? |
レイア | あ、う、うん。どうぞ |
| |
ジュード | 調子はどう?食べる物持ってきたんだけど食欲はあるかな…? |
レイア | あ、そういえばお腹空いたかも。ありがとう…って、この匂いはもしかして? |
ジュード | うん、これ |
レイア | フルーツ焼きそば!わたしの大好物! |
ジュード | 変わった料理だと思ったけど…レイアは好きなんだ? |
レイア | 好きなんだって…ジュードが思い出してくれたわけじゃないの…? |
ジュード | 思い出す…?えっと、前に聞いた事あったっけ。ごめん、忘れてたかも |
ジュード | エステルがルドガーに頼んでくれたんだ。僕は持ってきただけ |
レイア | そうなんだ…エステルが… |
レイア | って、あぁっ…!エステルって、エステリーゼ様…! |
ジュード | エステリーゼ様…?それって… |
レイア | あ、あの…何でもないの、今のは忘れて! |
レイア | それより、フルーツ焼きそば!冷めない内に食べないと…いただきます! |
レイア | …はむ…ちゅるる… |
レイア | うーん、美味しい! |
ジュード | …ねぇ、何があったの?部屋にこもるなんて珍しいって、みんなも心配してたよ |
レイア | そうなんだ、迷惑かけちゃったね。ごめん!でも、もう大丈夫だから! |
ジュード | 迷惑なんて思ってないよ。ただ、心配なだけ。どこか悪いんじゃないかって |
レイア | …ジュードは相変わらず、人の心配ばっかりだよね。そういうところは変わらないんだ… |
ジュード | え、それってどういう… |
レイア | 優しいよねって事。エステルや、すずや、マギルゥにルドガーも、みんな優しいけど… |
レイア | ジュードは昔から、こっちが心配になっちゃうぐらい、人の心配ばっかりしてたなぁって |
ジュード | 昔から…?一体、何の事…? |
レイア | ね、ジュード。わたし達が幼なじみだって話、本当に何も思い出せない? |
ジュード | さっきもそんな事言ってたけど…何の事だか僕にはわからないよ… |
レイア | …そっか…上手くいかないな… |
| |
ジュード | … |
ジュード | レイア…聞いてもいいかな |
レイア | ん、何? |
ジュード | 僕の間違いだったら、本当に悪いんだけど… |
| |
ジュード | レイア、もしかして…咎人になったんじゃ? |
レイア | … |
ジュード | 明らかに、いつものレイアと様子が違うよね |
ジュード | さっきから変な事ばかり言うし…違うなら、それでいいんだけど |
レイア | あはは、そっか、ごめん。変な事にしか聞こえないよね |
レイア | … |
レイア | ねぇ、ジュード。変な事ばかり言うけど、ちょっとだけ聞いてくれる? |
ジュード | …レイア? |
レイア | ア・ジュールっていう国、知ってるかな?ガイアスっていう王様がいてね |
ジュード | 国…?王様…? |
レイア | ガイアスまんじゅうなんて売り出しちゃう、面白い国でさ。ジュードも一緒に食べたよね |
レイア | メルディが慌てて食べちゃって喉に詰まらせたところを、ジュードが助けてくれたんだよね |
ジュード | 待ってよ、レイア…何の話を… |
レイア | そうそう、ジュードは医学の道を志して勉強してたんだよ。だからメルディへの処置も的確で… |
ジュード | レイア、待ってってば… |
レイア | それから、小さい頃からよく遊んでてその頃にお母さんから── |
ジュード | 待ってよ…! |
レイア | ジュード… |
ジュード | どうして…レイア…本当に咎人に… |
ジュード | 僕はただ…一言、違うよ誤解だよって言ってほしかっただけなのに… |
レイア | …最後に一つだけ |
レイア | ミラの事も…覚えてない? |
ジュード | ミ…ラ…? |
レイア | …… |
ジュード | …ごめん、何の事だか僕にはわからないよ… |
レイア | …駄目、か。言葉だけじゃ無理なのかな… |
レイア | それとも、これでいいのかな…記憶を取り戻すって事は、エンテレスティアでは罪なんだし… |
ジュード | ねぇ、レイア…もうやめてよ…君まで咎人になってしまったら僕はどうしたらいいんだ… |
ジュード | 君をあのおじさんのように閉じ込めて白き獅子に通報するなんて…僕には耐えられないよ… |
ジュード | 咎人になったからって…君を守りたいっていう気持ちが変わるわけじゃないのに… |
レイア | ジュード…すっごく嬉しい言葉… |
レイア | だけど…ジュードが一緒にいるべきなのはわたしじゃない… |
ジュード | レイア…? |
レイア | あっ、ううん、何でもない。ごめん、少し一人にしてくれる? |
ジュード | …わかったよ。僕も…少し頭を冷やしたいから… |
ジュード | あとでまた来るよ… |
| バタン |
レイア | …見てられないな。ミラの事まで完全に忘れちゃってるんだもんね… |
レイア | …言葉だけじゃジュードの記憶は戻りそうになかった… |
レイア | 何とかしてあげたいけど、一体どうすれば… |
レイア | …… |
レイア | そうだ…咎人だ…咎人を危険だって言ってるのは天帝だし、何か知ってるかも |
レイア | はぁ、わたしもジュードに負けないぐらいお人好しなのかも |
レイア | でも、ま、ジュードがあれじゃ仕方ない…わたしがひと肌、脱ぎますか! |
scene2 | それぞれの迷い |
ジュード | …はぁ。どうしてこんな事ばかり… |
ジュード | 僕は…どうすればいいんだろう… |
ジュード | おじさんを助ける事もレイアを通報する事も僕はしてないし、出来てない… |
ジュード | レイアは、くよくよせず出来る事を全力でやるんだって言ってたけど… |
ジュード | 今の僕に…出来る事なんて何があるんだろう… |
ルドガー | ジュード、ここにいたのか |
ジュード | あ…ルドガー…さっきはありがとう。レイア、喜んでたよ |
ルドガー | それはよかった。しかし、それにしては浮かない顔をしているな? |
ルドガー | …何かあったのか? |
ジュード | うん…まあ… |
ルドガー | 俺でよかったら話を聞くけど…昨日の咎人の事か? |
ジュード | …咎人の事っていうのは、確かなんだけど… |
ジュード | …ねぇ、ルドガーは…前に僕が鍵を持って咎人のところへ行った時も黙っててくれたよね… |
ジュード | 何で黙っててくれたの…?咎人を逃がしていたかもしれないのに |
ルドガー | 何で…か…そうだなぁ… |
ルドガー | 結局、ジュードは逃がしてない。だったら、誰かに言う必要なんてないと思うんだ |
ルドガー | 悩む事は誰にでもあるし、ああいう場合なら、尚更だと思う。でも、悩む事は悪じゃない |
ジュード | じゃあ、僕が咎人を逃がしていたらやっぱり僕の事を捕まえて通報してた…? |
ルドガー | …ああ。けど俺も、その結論を出すまでに悩みはしていただろうけどね |
ジュード | ルドガー… |
ジュード | …ルドガーになら、いいよね…実は── |
| |
ルドガー | レイアが咎人…!確かなのか? |
ジュード | はっきりそうだと言ったわけじゃないけど、おそらく… |
ルドガー | それで…ジュードは今回、どうするつもりなんだ? |
ジュード | 咎人が現れた時の緊急対応法… |
ジュード | 咎人を見つけたら、誰とも接触しないように捕えて、騎士団…白き獅子に引き渡す… |
ジュード | そんなの当たり前の事だ…今更言われなくてもわかってるよ… |
ジュード | けど…僕は… |
ルドガー | … |
ルドガー | 当たり前なら、いいじゃないか。君の言ってる事は間違ってない。すぐにレイアの事を通報しよう |
ジュード | ルドガー!?で、でも、そんないきなり… |
ルドガー | 躊躇する必要はないだろ?ジュードの言う通り、咎人はすぐに捕まえるべきなんだ |
ルドガー | 世のため人のため、何よりラザリス様のためにもそうするのが一番じゃないのか? |
ジュード | それは…そうだけど… |
ジュード | でもレイアは、すごくいい子なんだ |
ジュード | 優しくて明るくて、この村には欠かせない人なんだ |
ジュード | なのに、こんな形で…黙って通報してさよならなんて出来ないし、したくない…! |
ジュード | ちゃんと、レイアと話さないと… |
| |
ルドガー | …ジュード、君自身の気持ちはもう見えてるんじゃないのか? |
ジュード | 僕自身の…気持ち…? |
ルドガー | 自分で言ったじゃないか。こんな形でさよならはしたくないって |
ルドガー | 俺はレイアの事を通報するべきだと答えを言ったのに、君は反論して、自分の気持ちをはっきり言っている |
ルドガー | ラザリス様を裏切るような気持ちを認めたくないんだろうけど… |
ルドガー | ラザリス様を言い訳にして辛い現実から目をそらすのはちょっといただけないな |
ジュード | 僕…僕は… |
ルドガー | 前にも言ったけど、気持ちの問題には自分で答えを出さないときっと後悔する事になる |
ルドガー | その答えを出せるのは、俺でもラザリス様でもない、君自身だけだ |
ルドガー | ジュード。レイアの通報は少し待つ。だから後悔しないように自分の気持ちとちゃんと向き合うんだ |
ルドガー | 何もせず成り行きに任せるなら、それもまた一つの選択だと思う。俺はこれ以上、何も言わないよ |
ルドガー | 後悔さえしなければいい…。どうしようもない事なのは確かだからね… |
ジュード | どうしようもない事…そうかもしれない… |
ジュード | でも、それを悩んで落ち込んでいたら本当に大事にしたい事までどうにもならなくなる… |
ジュード | 僕は、レイアを… |
ジュード | ありがとう、ルドガー。僕、レイアと話してくる |
| |
ルドガー | … |
マギルゥ | 何やら面白い事になってきたようじゃのー? |
ルドガー | なっ、マギルゥ…!?いつからそこに…まさか立ち聞きしてたのか? |
マギルゥ | 何の事やら、さぱらんのう。儂はたった今やって来た通りすがりの大魔法使いじゃー |
ルドガー | …マギルゥ。通報するのは待ってやってくれないか? |
マギルゥ | ほほう、お主には儂がそんな真面目な魔女に見えるかや?あの出会いを忘れたわけではあるまい |
マギルゥ | 安心せい。邪魔も協力もする気はないわい。儂にも事情があるでの |
マギルゥ | 儂はただの見物客じゃ。咎人に情を感じる若人!純粋さ故の過ち、その悲劇の物語! |
ルドガー | … |
マギルゥ | 何じゃその目は…言っておくが本当じゃぞ。儂は成り行きを見守りたいだけじゃ |
ルドガー | そうか…俺も同じだよ。これはあの二人の問題だから |
マギルゥ | ほう?それにしては妙にはっぱをかけておったようじゃが? |
マギルゥ | 咎人を守るという事は、ラザリス様に逆らうという事…下手をすれば大罪人じゃぞ? |
ルドガー | 俺はジュードを煽ったわけじゃない。気持ちに整理をつけさせないときっと後で後悔すると思ったんだ |
ルドガー | 自分の心に従えば、後悔をなくす事は出来なくとも、後悔を減らしていく事は出来る |
マギルゥ | 熱いのう。熱すぎて、水をかけたくなるわい |
マギルゥ | 酸いも甘いも受け入れてどーでもよくなれば楽じゃのに |
ルドガー | …それが出来れば、誰も悩んだりしないよ |
scene3 | それぞれの迷い |
| コンコン |
ジュード | レイア、ちょっといいかな |
ジュード | … |
ジュード | …レイア?入るよ…? |
| カチャ… |
ジュード | あれ…いない…どこか出かけちゃったのかな… |
ジュード | ん…?何か置いてある…手紙…? |
ジュード | …… |
ジュード | これって…!大変だ、みんな…っ! |
| |
ルドガー | 置き手紙? |
マギルゥ | ほほう、そう来おったか… |
エステル | 何と書いてあるんです? |
すず | 見せてください |
すず | 「突然、いなくなってごめんなさい。 みんなと話すと決心が揺らぐから 黙って出る事にしました」 |
すず | 「後の事はエステルに任せます」 |
エステル | …っ! |
すず | 「エステル。いきなり押し付ける形に なっちゃって本当にごめんなさい」 |
すず | 「けどわたしの知る本当のあなたなら わたしよりずっと上手に みんなを導いてくれるはずだから」 |
エステル | レイア… |
すず | 「みんな、今まで本当にありがとう。 ロランドファミリーとしての活動は すっごく楽しかったです」 |
すず | 「みんなの事はずっと忘れません。 さようなら」 |
ジュード | … |
すず | …手紙は以上です。出ていく理由が明記されてませんね。…レイアさん、一体… |
エステル | 何か事情があるのでしょうけど…。こんな手紙、少しレイアらしくないです… |
すず | すぐに捜しに出ましょう。さっきまで居たのですから、まだそう遠くには行ってないはずです |
エステル | ええ。どんな事情があるにせよこんな形でのお別れなんてわたし、絶対嫌です! |
ジュード | 手分けして捜そう!すずとエステルは村の中でレイアが行きそうなところを |
ジュード | 僕とルドガーは村の外を見て回るよ |
ジュード | マギルゥはどうせ動きたがらないだろうからレイアが帰ってこないか留守番してて |
マギルゥ | 儂の事、ようわかっとるのう |
エステル | わかりました、そうしましょう |
すず | はい |
ルドガー | よし行こう! |
| |
レイア | … |
レイア | みんな…もう手紙を見つけた頃かな… |
レイア | …駄目駄目。未練がましく後ろを振り返ったりしちゃ |
レイア | こうするのが一番…咎人がファミリーにいるなんてみんなにも迷惑かかっちゃうし… |
レイア | それにジュードの記憶を取り戻させる方法を探すんだったら、一人の方が動きやすい… |
レイア | …まずは、情報を集めよう。とりあえず天帝のいるシャングレイスに行って… |
騎士団員1 | おい、そこの娘 |
レイア | …!白き獅子…! |
騎士団員1 | こんな時間に何をしている。夜道の一人歩きは危ないぞ。ここらは魔物もよく出るからな |
レイア | あ、す、すみません。大丈夫ですから、お気遣いなく… |
騎士団員2 | …ん?君、ロランドファミリーのレイアじゃないか? |
レイア | あ、ど、どうも… |
騎士団員2 | 丁度いいところで会った。君達から通報のあった咎人を引き取りに来たんだ |
騎士団員2 | 咎人のところへ案内してくれないか? |
レイア | それは… |
レイア | しまった…あのおじさん、釈放してから出てくるんだった |
騎士団員1 | どうした?何をぶつぶつ言っている? |
レイア | …案内の必要はありません |
レイア | 咎人は…わたしです。わたしをシャングレイスまで連行してください |
騎士団員2 | 君が?そんな馬鹿な。それじゃあ何か。自分の組織に通報されたというのか? |
レイア | 身内でも関係ありません。咎人を捕えるのは天帝のためですから |
騎士団員2 | それはそうだが… |
レイア | 疑うなら証拠を見せましょうか? |
レイア | わたしは元々、ア・ジュールにあるリンネル村で暮らしていて、ア・ジュールはウィンドルと戦争を… |
騎士団員1 | リンネル…村…?どこの村だ、それは。それに、ア、ア・ジュール…? |
騎士団員2 | やめろ、耳を貸すな! |
レイア | わたし達の国はガイアス王が治めていて…天帝なんて崇拝どころか知りもしなかった… |
騎士団員1 | き、貴様、ラザリス様を侮辱しているのか…!? |
騎士団員2 | 落ち着け、惑わされるな!お前も、口を閉じろ。これ以上、勝手にしゃべるな! |
レイア | … |
騎士団員2 | ロランドファミリーのリーダーが咎人になるとは、皮肉なものだな…。咎人確保だ。これより護送を開始する |
レイア | これならおじさんも大丈夫だよね。後戻りは出来なくなっちゃったけど… |
レイア | ううん、元より戻る必要なんてない。シャングレイスに行けば、咎人の事も何かわかるかも知れないし |
レイア | 待っててね、ジュード…。わたしが絶対に記憶を取り戻させてあげるんだから…! |
scene1 | 譲れない決意 |
ジュード | はあ…はあ… |
ルドガー | かなり走ったが…ジュード、本当にレイアはこっちにいるのか? |
ジュード | 多分ね…今回の一件がレイアが咎人になった事と関係あるなら、村にはいないと思う |
ジュード | 手紙では咎人になった事を伏せてた。それを隠しておきたいのなら、きっと村からは離れようとするはず… |
ルドガー | それでエステルとすずには村の中を捜させたのか…レイアの気持ちを尊重して… |
ジュード | それもあるけど、もし僕の考え違いで村の中にいるならあの二人の方が土地勘もあるしね |
ルドガー | …ジュード。見つけたら、どうするつもりだ…? |
ジュード | どうするって…レイアと話をするよ |
ルドガー | その後だ。彼女は咎人で、しかも一度逃げ出した… |
ジュード | …まだわからない。けど、今は… |
ルドガー | …!ジュード、見ろ! |
ジュード | あれは…! |
レイア | … |
ジュード | レイアだ!よかった、追いついた! |
ルドガー | 待て、ジュード。横にいる二人…白き獅子じゃないか? |
ジュード | そんな…!それじゃあ、咎人だって事がばれちゃったって事!? |
マギルゥ | おやおや。すんでのところで間に合わなんだかー |
ジュード | …マギルゥ!どうしてここに…留守番は!? |
マギルゥ | いや、マギルゥ占いでレイアはこっちじゃと出てのー |
マギルゥ | 感動のクライマックスを見逃すわけにいかんと思うたが…どうやらもう幕引きのようじゃな |
ジュード | まだ諦めるのは早いよ。マギルゥ、お願い!あの時みたいに、紙を飛ばして白き獅子を散らしてよ! |
ジュード | その隙にレイアを話が出来る場所まで連れていくからさ! |
マギルゥ | 無茶を言うでない!あれは姿の見えぬ森の中じゃから効果があったのじゃ |
ルドガー | ジュード、落ち着け。相手は白き獅子だぞ |
ジュード | でも…こんな別れ方なんて… |
ルドガー | 残念だが、こうなってしまっては、もうどうにもならないだろう |
マギルゥ | うむ、白き獅子ならば、咎人をぬかりなく連行するじゃろうな |
マギルゥ | もはや民間人の口出し出来る状況ではない。このまま任せておくしかないのう |
ジュード | それって…酷い事はされないのかな… |
ルドガー | 大丈夫。咎人とはいえ相手は白き獅子だからね |
ルドガー | それに咎人は、ラザリス様が適切に処置してくださるはずだ。何も心配する必要はないだろう |
ジュード | そうだけど…でも…だったら… |
| |
ルドガー | 「でも」「だったら」…か |
ルドガー | …ジュード |
ルドガー | 言ったはずだ。どうしようもない事は確かだけど後悔だけはしないようにって |
| |
ジュード | …!そうだ…ここで悩んでいてもレイアが遠くに行ってしまうだけ… |
ジュード | 咎人でも何でも…僕はレイアが一人で抱え込んだまま黙って行ってしまうのは嫌なんだ! |
ジュード | ちゃんとレイアと話がしたい… |
ジュード | それが僕の譲れない気持ちなんだ。このままだと絶対に後悔する…! |
マギルゥ | ほほう… |
ジュード | 二人は…巻き込んだら悪いからリッカ村に戻ってて! |
ジュード | レイア…! |
マギルゥ | さて、どうなる事やら…果報は寝て待つとするかの。青臭いのは趣味でないのでな |
ルドガー | 俺達はジュードを信じて村に戻ろうか。あの二人にも報告してやらないと… |
マギルゥ | しっかし、お主もやりおるの。あの優柔不断なジュードにあれほどの決心をさせるとは… |
ルドガー | さて、どうかな。決心は俺がさせたんじゃない |
ルドガー | ジュードは元々、芯のある奴なんだ。カルミナ街で猫の世話をした時からそれは感じていた… |
ルドガー | ただあいつの芯は、他人のためのものばかりで、自分の事は二の次だった…優しすぎるんだよ |
マギルゥ | それよりも、よいのか?白き獅子相手に何をするかわからんぞ |
ルドガー | 心配しなくても、ジュードだってわきまえてるさ。だからこそ悩んでたんだ |
ルドガー | 今はただ、レイアの事が突然すぎて、気持ちの整理がつかないだけだと思う |
ルドガー | 別れの挨拶でもすれば、落ち着いて戻って来るはずだ |
ルドガー | 咎人に話しかけるんだから、白き獅子から説教ぐらいはされるかもしれないけどな |
マギルゥ | それだけかのう。儂はもう少し面白い方向に転がりそうな気がするがのー |
scene2 | 譲れない決意 |
レイア | あの、騎士さん。ここは…?シャングレイスへ向かうんじゃ…? |
騎士団員1 | 今日は遅い。ここで夜営をする。君には悪いが、そこの小屋に入っててもらうぞ |
レイア | はい… |
騎士団員2 | …従順なものだな。咎人とはもっと反抗的なものだと思っていたが |
騎士団員1 | 全くだ。閉じ込めなければならないのも心が痛むぐらいだよ |
レイア | …咎人の言葉は…人を惑わせますから |
騎士団員1 | 物わかりがよくて助かるよ。明日、日が昇り次第、出発だ。それまで大人しくしていてくれよ |
レイア | はい… |
| |
ジュード | レイアー! |
レイア | ジュード…!?どうして… |
ジュード | やっと追いついたよ! |
レイア | まさか…わたしを追いかけて…? |
ジュード | 当然じゃないか。あんな手紙を見て黙っていられるロランドファミリーじゃないでしょ |
レイア | そっか…確かにそうかも |
騎士団員1 | おい、何だお前は!そいつは咎人だぞ! |
ジュード | 少しでいい、話をさせてください。レイアをこのまま黙って行かせたくないんです! |
騎士団員2 | ならん!ラザリス様のお言葉を知らないわけではないだろう? |
ジュード | ほんの少しでいいんです!お願いします、レイアと話を…! |
レイア | ジュード… |
騎士団員2 | ラザリス様のお言葉に背くのか!話をするだけとはいえ、それは重罪になるんだぞ! |
レイア | ジュード!村に帰ってよ!わたしの事なんて放っといて! |
レイア | でないと、ジュードまで捕まっちゃうよ! |
ジュード | それでもいい。ラザリス様に背いた罰なら後でちゃんと受ける…! |
ジュード | でも今は…レイアをこのまま行かせてしまったら絶対に後悔すると思うんだ |
ジュード | だから…! |
レイア | ジュード…どうしてそこまで… |
騎士団員1 | ええい、聞き入れないか!仕方ない、取り押さえるぞ! |
レイア | 待ってください!ジュードは話がしたいって言ってるだけじゃないですか! |
騎士団員1 | 口を閉じろ。ここまで多少大目に見ていたが、こうなっては咎人の発言は許容出来ん |
レイア | 天帝の命令だからって、おかしいよ!乱暴にしなくても少し話をさせてくれればいいだけでしょ! |
騎士団員1 | 黙れと言ってるのがわからんか! |
騎士団員2 | その女の口を封じろ!手荒な事はしたくなかったが、こうなっては止むを得ん! |
ジュード | …!レイアを放せ! |
| ドゴッ |
騎士団員2 | ──ぐっ…何を…!? |
| ドサッ |
レイア | ジュード!? |
騎士団員1 | おのれ、逆らうか! |
ジュード | レイアに手荒な真似はさせない…! |
| ドカッ |
騎士団員1 | うぐっ…くそ… |
| ドサッ |
レイア | ジュード…!?なんて事を… |
ジュード | 急所は外してる。少しの間、眠ってもらっただけだよ |
ジュード | 僕のした事は許される事じゃない…。でも… |
ジュード | レイアやルドガーが教えてくれたんだ。それでも後悔だけはするなって |
レイア | ジュード…ねぇ、そうまでしてわたしとしたい話って…何…? |
ジュード | …僕は、レイアの望みをかなえたい。あんな別れ方、レイアだって本当は嫌なはずだと思うから |
ジュード | だからレイアの望みを聞きたいんだ。こうして出て行く事が本当にレイアの意志だって言うなら尊重する… |
ジュード | けど、そうじゃないなら僕は… |
レイア | …はぁ |
レイア | ジュードは優しいね…。誰にでも優しすぎる。ほんと、昔から変わらないなぁ |
レイア | けど、それじゃ駄目なんだよ。ジュードは自分が本当にやりたい事を忘れちゃってる… |
ジュード | 本当にやりたい事…? |
レイア | わたしはジュードにそれを思い出してほしくて…そのために村を出て来たの |
ジュード | レイア、じゃあ君は… |
レイア | …戻るつもりはないよ。手紙にもそう書いてあったでしょ |
レイア | だから、こんな事されると困っちゃうんだ。気持ちは、嬉しかったけどね |
ジュード | …レイア。本気なの…? |
ジュード | レイアがそれでいいって言うなら僕にはもう何も出来ない…でも僕は… |
ジュード | ねぇ、本心を聞かせてよ。レイアが本当に望んでる事を知りたいんだ… |
レイア | わたしの望みは今言った通りだよ |
ジュード | ううん。レイアは、戻るつもりはないって言った…。けど、戻りたくないとは言ってない |
レイア | …! |
レイア | …だったら、どうするの?わたしを連れて逃げたりしたら天帝に逆らう事になっちゃうでしょ? |
ジュード | それは… |
レイア | こんな話をして悩ませるつもりはなかった…だから一人で出て来たのにどうしてわかってくれないの… |
レイア | もう帰って。それがわたしの本当の望み |
レイア | 何も思い出せないなら、何もわかってくれないなら、わたしの事は放っといてよ…! |
ジュード | レイア、待って…! |
レイア | ついて来ないでって言ってるの! |
ジュード | 待ってよ。そんなの本気じゃないよね。レイアだって本当は… |
レイア | … |
レイア | わかってくれないみたいだね… |
レイア | 言葉で言っても信じられないって言うなら… |
| |
レイア | その身体にわからせてあげる!ぶん殴ってでも帰ってもらうから! |
ジュード | レ、レイア…!?どうしてそうなるの…!? |
レイア | わたしは、帰りたいなんて絶対に望まない。それだけの覚悟をしてきた |
レイア | やらなきゃいけない事があるの…お願いだから邪魔しないでよ! |
ジュード | レ、レイア…!?待ってよ、こんなのおかしいって |
レイア | 問答無用!はぁぁっ! |
ジュード | うわっと…! |
レイア | これ以上、何か話したいなら決着を付けてからにして! |
ジュード | くっ…レイアの、強情っぱり! |
scene1 | 彼の日の想いを胸に |
レイア | はぁ、はぁ…結構やるね… |
レイア | 記憶はなくても、身体は覚えてるんだ… |
ジュード | レイア…もうこれくらいで… |
レイア | 隙あり! |
| ドッ──…! |
ジュード | ぐぅぅっ…! |
レイア | あれで終わりだと思うなんて…覚えてるのは身体の動かし方だけみたいだね |
レイア | 忘れてるんだろうけど…お母さんのしごきはもっと厳しかったんだからね! |
ジュード | お母さんのしごき… |
レイア | 何だか懐かしいな。昔も、こうして… |
レイア | はあっ! |
| ドッ、ドッ! |
ジュード | ぐっ、重い…! |
レイア | 昔、よく組手したよね。ジュードの動き、あの頃から変わってない… |
レイア | この後、隙が出来る事もね…!たあっ! |
| ヒュッ…! |
ジュード | うわっ…! |
レイア | 避けた…!? |
ジュード | 何だろう…どうしてか今、レイアがどう動くかわかった… |
ジュード | まるで見た事があるような…頭の中に…違う、これは… |
ジュード | 小さい頃の…レイア…?今と同じ動きを… |
ジュード | うっ…!? |
レイア | ジュード、もしかして記憶が…?…だったらこの攻撃も…! |
| バコッ…! |
ジュード | ぐあっ…! |
レイア | 避けない…昔、ジュードに完全に見切られてたはずの技なのに…やっぱりさっきのは偶然…? |
ジュード | …僕は前にも、あの技を受けた事が…? |
ジュード | うぅ…っ! |
レイア | …そうだよね。そう上手い話はないよね… |
レイア | 忘れたままなら…わたしに殴られて、村に帰りなさい!やぁっ! |
| ヒュッ…バシッ! |
レイア | 止められた…!?くっ、まだまだ!はああぁっ! |
| ヒュッヒュッ…バシバシッ! |
レイア | また…!この連携を受け止めるなんて… |
ジュード | …どうして…僕は… |
ジュード | 初めて見る攻撃なのに…身体が勝手に… |
レイア | ジュード…!なら、これは!? |
| ヒュッヒュヒュッ…バシバシバシッ! |
ジュード | 僕…知ってる…このレイアの攻撃…どうしてだろう… |
ジュード | うっ…レイアの動きが…脳裏に焼き付いてる…!右、左…いや、右…! |
レイア | やっぱり…型が読まれてる…!完全に見切られた…わたしのクセを知り尽くしてる動き… |
ジュード | そう…ずっと前から…何度も受け止めてきた… |
ジュード | わかるんだ、次の動き…僕は知ってる…覚えてる… |
ジュード | あの時は…掃除をしていて…ほうきで、レイアはこの技を出してきて… |
レイア | ジュード!?そう、そうだよ!ほうきで遊んで、叱られたよね! |
ジュード | 遊びだしたのはレイアだから…レイアがいつも叱られて…でも僕は、一緒に遊んだからって… |
レイア | うん。いつも庇ってくれた…。ジュード、本当に、記憶が… |
ジュード | それでも懲りずに…罰の掃除もサボッて…組手…上手く避けるまで… |
ジュード | うぅっ…!何だ、この感じ…! |
ジュード | っ…何度も…そう、組手…小さな…レイア…師匠… |
ジュード | うあああぁぁぁ…っ! |
| |
レイア | …ジュード? |
ジュード | そうだ…そうだよ… |
ジュード | どうして僕は、今まで… |
レイア | ジュード、まさか… |
ジュード | ねぇ、レイア。僕は… |
レイア | 隙ありっ! |
ジュード | おっと! |
レイア | やっぱり避けた…!ジュード…もしかして… |
ジュード | レイア、ごめん。思い出したよ。僕がこんなにも戦える理由… |
ジュード | 見てて…はっ! |
| バシッ──ガシッ──! |
レイア | これはお母さんに習った型…じゃあ、完全に… |
ジュード | 小さい頃…レイアとはご近所さんで…レイアのお母さんに武術の手ほどきを受けてた… |
ジュード | こうやって、何度も何度も…毎日毎日、何百回も何千回も…僕らは手合わせをしてきた |
レイア | ジュード、ならこれも受けられるよね! |
レイア | せいっ! |
| バシバシッ──ガガッ──! |
ジュード | 懐かしいな、この技…。厳しい修行だったよね… |
レイア | …そうそう、二人して毎日お母さんにしごかれたよね。身体中、傷だらけになってさ |
ジュード | でも、それで僕達は強くなった…! |
レイア | ジュードはいつも、わたしに負けてたけどね |
ジュード | 今はそうはいかないよ! |
レイア | …言っとくけど、記憶が戻ったからってわたしの決心は変わらないよ |
レイア | 世界に今、何が起こってるのかよくわからないけど…ここでは咎人は他人に迷惑をかけるだけ… |
レイア | リッカ村に戻る事は出来ない…! |
ジュード | 決心が変わらないのは僕も同じだよ。レイアに少しでも迷いがあるのなら…僕は絶対に負けたりしない |
| バシッ──ガッガッ──! |
レイア | 全部受け止められるなんて…ジュードの言う通り、迷いがあるのかもね |
レイア | でも…だったら尚の事…ジュードを倒して迷いを断ち切る! |
ジュード | …!その構えは…! |
レイア | お母さん直伝!活伸棍・神楽! |
| ドゴォッ──! |
ジュード | うっ…ぐっ…!重い…!けど、今は…今だけは…! |
ジュード | 倒れるわけに…いかないんだ…! |
レイア | うそ…昔のジュードなら… |
ジュード | はあああっ! |
レイア | …! |
| ドッ──! |
ジュード | …ごめん、レイア。君相手だと、手加減する余裕なかった |
レイア | よかった、ジュード…思い出してくれて… |
| ドサッ… |
ジュード | ちゃんと連れて帰るから、そのまま休んでて… |
騎士団員1 | うっ…ま、待て…咎人を連れて帰るなど…我々が…ぐっ、身体が、動けば… |
ジュード | もう気が付いたんだ…。けど、もう少し安静にしておいた方がいいよ |
騎士団員2 | …に、逃げ切れると思うなよ。お前達は指名手配になる…白き獅子は二人を絶対に逃さん… |
ジュード | … |
ジュード | そうか、それは困ったね。まんまとレイアに騙されたよ |
騎士団員2 | 何…? |
ジュード | まさか自分が咎人のふりをしてまで咎人である僕をおびき出すとはね… |
ジュード | 咎人の仲間だと思ったのに白き獅子に指名手配させるため自分を餌にして僕を釣ったんだ |
ジュード | 力尽くでは捕まえられないからってこんな作戦を思いつくとはね! |
騎士団員2 | そういう事か‥何か不自然だと思ってたが… |
騎士団員2 | 全てロランドファミリーの作戦だったというわけか… |
ジュード | そうそう。けど、その作戦も失敗だよね。僕は今から逃げるんだから |
ジュード | レイアは人質にもらっていくよ。後で仕返ししなくちゃね |
騎士団員1 | やめろ…!例え咎人相手でも、酷い行いは…いや、咎人ではなかったのか… |
騎士団員2 | 善良な協力者だったんだ…ならば、なおさら助けねば…!くそっ…身体さえ動けば…! |
ジュード | そうなる前に僕は逃げるよ |
騎士団員2 | 待てぇっ…! |
scene2 | 彼の日の想いを胸に |
レイア | … |
ジュード | …えっと…そういうわけなんだけど… |
レイア | …それでわたしが納得すると思う? |
ジュード | 納得はしなくていいよ。レイアの決断に反する事をしたのもわかってる… |
ジュード | けどこれが、僕の意志なんだ。あのままレイアを行かせるのだけは絶対に嫌だったから |
ルドガー | だとしても…指名手配になって来る事はないだろ… |
マギルゥ | くっくっくっ…もう駄目じゃ、笑いが止まらんわい。だから言ったじゃろうに |
レイア | 笑い事じゃないよ。ジュード、これからどうするつもりなの? |
ジュード | うん。明日の朝ぐらいには手配書も配られるだろうからそれまでには出ていくよ |
ジュード | みんなを捜してみようと思ってるんだ |
ジュード | ミラやエリーゼ達…スレイやスタンや、他のみんなも僕達のように困ってるかもしれない |
ジュード | 記憶をなくしてたらどうするかは、わからないけど…様子を見て考えないとね |
レイア | 平和に暮らしてるならそっとしておいた方が幸せかもしれないもんね… |
ジュード | うん…少なくとも今は何がどうなってるのかわからないから下手な事は出来ないよ |
ジュード | ともあれ、まずは、レイザベールに向かおうと思ってるんだ |
ジュード | 確かミクリオがあの街の良家の出身って事になってるだろ?それにローエンも一緒だった |
ジュード | 記憶がないのか、記憶はあるけどここでの立場を演じ続けてるのか…まずはそれを確認しようと思う |
レイア | そう言えば…変な感じだよね。ミクリオが貴族やってるし、エステルはわたしの部下だし… |
ジュード | ほんとだね。でも、今ここではみんながその立場を受け入れてる… |
レイア | いきなりエステルをお姫様だって言っても誰も信じないだろうね…わたし達には確かな記憶なのに |
ジュード | うん。黙っておいた方がいいよ。記憶は取り戻してほしいけど下手な事をするのはかえって危険かも |
ルドガー | …その記憶の話だが、つまりはジュード…君も咎人になったって事だよな? |
ルドガー | 咎人のはずのレイアを連れて帰ってきたからどういう事情かと思っていたが… |
ルドガー | 咎人が咎人を逃がしてきた。…そういう事なら、俺達は黙って見過ごすわけにいかない… |
ジュード | 待ってよ、ルドガー!咎人って言っても、記憶を取り戻しただけなんだよ!? |
ルドガー | …悪いがジュード。記憶の事が真実かどうかなんて俺達には確認のしようがないんだ |
ルドガー | それにさっきから二人の話を聞いていても、俺には理解出来ない突拍子もない話ばかりに感じる… |
ルドガー | レイアもジュードもいい奴だから信じてやりたい気持ちはあるけど… |
ルドガー | ラザリス様と、咎人の言葉、どちらを選ぶかとなると悪いけど答えは決まってる… |
ジュード | …ルドガー。記憶の事、真実かどうか確認してもらえると思う |
ルドガー | え…? |
ジュード | 僕は記憶を失う前のルドガーを知ってるんだ。信じられないかもしれないけど… |
ジュード | カルミナ街で、ルドガーの料理を食べに来てたエルって女の子の事、話したの覚えてる? |
ルドガー | ああ、覚えてるけど… |
ジュード | 前はルドガー、その子と一緒に暮らしてたんだ |
ジュード | あとユリウスっていうお兄さんと、ルルっていう猫も一緒にね。思い出せないかな? |
ルドガー | エル…ユリウス…ルル… |
ルドガー | … |
ルドガー | いや、やっぱり何も思い出せない… |
ルドガー | ジュード、お前は俺を惑わせようとしているのか? |
ジュード | そんな…違うよ! |
レイア | ジュードの時もそうだったけどやっぱり言葉だけじゃ記憶は戻らないのかな? |
ジュード | わからないけど…言葉だけじゃ駄目でも、僕みたいに何かの行動と記憶が結びつけば… |
ジュード | … |
ジュード | …そうだ、ルドガーは誰かに料理をふるまう約束をした気がするって言ってたよね? |
ルドガー | ああ。…まさか、その相手が…? |
ジュード | うん。きっとエルとの約束だと思う |
ジュード | エルももしかすると、何か感じるところがあって訪ねて来たのかもしれないし |
ルドガー | … |
ジュード | それに、家族の姿を見ると不思議な気持ちになるとも言ってたでしょ? |
ジュード | それってきっと、エルやユリウスさんとの記憶が心のどこかに響いてるんだと思うんだ |
ルドガー | しかし… |
ジュード | ルドガー、少しの間でいいんだ…!僕を信じてよ |
ジュード | これから向かうレイザベールにはエルもいるはずなんだ |
ジュード | 僕と一緒に来て、確かめてみてよ。僕を突き出すなら、それからでも遅くないでしょ? |
ジュード | その時は、逃げも隠れもしないから…! |
ルドガー | … |
ルドガー | 咎人は白き獅子に引き渡す…俺はそれが正しいと思っている。だが── |
ルドガー | もしジュードの言う事が本当だとしたら、それを知った時俺はきっと後悔するだろう |
ジュード | …!それじゃあ… |
ルドガー | …ああ、俺も同行しよう |
ルドガー | ただし、完全に信じたわけじゃない。そのエルと会ってみても、真実かどうか確かめられなかったら… |
ルドガー | 悪いが、君達の事は全て白き獅子に話す。それでいいな? |
ジュード | …うん、わかったよ。ありがとう、ルドガー |
ルドガー | マギルゥ、聞いた通りだ。君もジュード達を通報したいだろうがしばらくは黙っていてくれないか? |
マギルゥ | …ま、ええじゃろう |
マギルゥ | 場合によっては、ジュードの言う事の真偽が確認出来そうじゃしのー |
レイア | あら、すんなり…。マギルゥももしかして何か心当たりがあるの? |
マギルゥ | 実を言うと儂は、ちと咎人について調べておってのう |
マギルゥ | 咎人の話す内容には、何ぞ秘密があると考えておったのじゃ。民間人には知らされておらん秘密がの |
マギルゥ | じゃから、立入禁止区域に行けば何か掴めると踏んだんじゃが… |
レイア | それで侵入を!?じゃあやっぱり、あの時の侵入者っていうのは… |
マギルゥ | 咎人に何を言われてものー? |
レイア | うっ…痛いとこ突くじゃない |
マギルゥ | いや、しかし困ったわい…我らがロランドファミリーのリーダーが咎人になってしまうとは… |
マギルゥ | ロアーに一目置かれるほどの組織ならその内、立入禁止区域や咎人の情報も得られるかと思うて加入したが… |
マギルゥ | リーダーが咎人とあっては地位も大暴落の大撃沈。せっかくの努力が水の泡じゃー! |
マギルゥ | …じゃが、ジュードの機転のお蔭で今のところレイアが咎人な事はバレとらんのじゃろう? |
ジュード | うん。演技だった事にしてきたからね |
マギルゥ | ならば儂は、利用価値がある限りレイアを庇ってやってもよいぐらいじゃぞ? |
マギルゥ | ジュードと一緒で、通報する事はいつでも出来そうじゃしのー |
マギルゥ | その代わり、儂の咎人研究にいろいろと協力してもらうがの |
レイア | うん。それは構わないよ |
ルドガー | 咎人研究…レイアとジュードをずっと見ていたのも、そういう理由か… |
ルドガー | しかし、どうして咎人の事を調べたりしているんだ? |
マギルゥ | いや何、そこは単純な理由じゃよ |
マギルゥ | ラザリス様も疎む存在、咎人。彼らはどこからやって来るのか、何故現れるのか… |
マギルゥ | それを解明して予防策を考えればラザリス様も嬉しかろ?褒美もたんまり出そうなものじゃ |
ルドガー | そのために、立入禁止区域に入ってラザリス様の意に背いていたら意味がないだろう |
マギルゥ | 大義を取り小義を捨てただけじゃ。手段を選んでおってはこの偉業は成せんわい |
ジュード | マギルゥがそこまでするなんて…何か事情が…? |
マギルゥ | 実は…奇術団の興行が大失敗してのー |
マギルゥ | 正攻法ではとても返せん額の借金が、この身にズシーンとのしかかっておるのじゃよー |
ジュード | 借金…そのために褒美をもらおうと… |
ルドガー | 借金なんて大変だな… |
マギルゥ | ま、そんなわけじゃ。咎人の味方をするわけではないが、観察対象の保護ぐらいはするぞい |
ジュード | うん、それでもいいよ。レイアがこのファミリーに戻るには、マギルゥの協力も必要だしね |
レイア | … |
レイア | ね、ねぇ、ジュード。それなんだけど、わたしもジュードと一緒に── |
| バタンッ! |
エステル | レイアが戻ったって本当です!? |
すず | レイアさん…! |
レイア | エステル…すず…! |
すず | ジュードさん、どうしてすぐに知らせてくれなかったんですか! |
ジュード | ご、ごめん… |
マギルゥ | それはの。今までこやつら二人には聞かせられん内緒の話を… |
ジュード | マギルゥ、言っちゃ駄目だよ |
エステル | 何か事情があったんだと思います。内緒だと言うのなら無理に聞き出したりはしません |
エステル | けど、レイア。黙って出ていくなんて事は二度としないでください! |
レイア | ご、ごめんね。二人共。でもわたしやっぱり、ジュードと一緒に… |
ジュード | レイア。ごめん、君は連れて行けないよ |
レイア | えっ、ど、どうして!? |
ジュード | 僕は、あの手紙を読んだ時に二人がどんな顔してたか知ってるからね |
ジュード | レイアはロランドファミリーに、そしてリッカ村に、欠かせない人なんだよ |
エステル | その通りです。もし重荷になっていたのならわたし、もっともっと手伝います |
エステル | けどやっぱり、リーダーとしてレイアが必要です |
すず | 私も同意見です |
レイア | 二人共…そこまでわたしを…? |
エステル・すず | 当然です! |
レイア | …… |
レイア | そっか…うん、わかった。わたしはここに残るよ |
レイア | もう何も言わずに出て行ったりしないから、安心して |
エステル | はい…!そうしてください、是非…! |
すず | …待ってください。今「わたしは」と言いましたか。という事は… |
レイア | あ、うん。ジュードはちょっと事情があってね。ルドガーと旅に出る事になったんだ |
レイア | ねぇ、ジュード。わたしは旅にはついていけないけどメルディやみんなの事── |
ジュード | うん、わかってる。何かあればすぐに知らせるよ |
レイア | ありがとう。わたしも全力で援護するから |
すず | でしたら、シルフモドキを一羽、お貸ししましょう |
ジュード | シルフモドキ…?鳥…? |
すず | 手紙を配達してくれる鳥です。遠方からの急ぎの連絡に便利ですよ |
ルドガー | 急ぎの連絡…そうだ、食堂にしばらく休むって連絡しないと… |
ジュード | 僕もついでに連絡を頼めるかな?牛乳配達はしばらく休みますって… |
すず | では早速、使ってみましょう。手紙を用意してください |
| バサバサバサ… |
すず | 飛んでいきました。明朝にはカルミナ街に着くでしょう |
ルドガー | 外は暗いのに、鳥を飛ばして大丈夫なのか? |
すず | 訓練してありますから大丈夫です |
ジュード | 連絡手段も整ったし、そろそろ出発しようか |
ルドガー | そうだな |
エステル | そんなに急ぐ旅です? |
ジュード | うん、そうなんだ。…あ、そうだ、レイア。あの咎人のおじさんの事だけど… |
レイア | 大丈夫。ちゃんと話しとくし、あの子のところに戻れるようにしておくから |
すず | …何の話ですか? |
ジュード | あ、いや、何でもない。それじゃレイア、後は任せたよ |
ルドガー | 行こう、ジュード |
ジュード | うん。いざ、レイザベールへ |
Name | Dialogue |
scene1 | 虚空の夢 |
『名もなき男』 | ──今日、この日より我が剣の全てを王と民のため捧げる事を誓います |
王と思わしき男 | よかろう。そなたを我が騎士、玉座の守人と認めよう |
『名もなき男』 | はっ…! |
| |
『名もなき男』 | はあ…はあ… |
『名もなき男』 | くそっ…何でこんな事になるんだ… |
『名もなき男』 | やっとお前と同じ場所に立てた…。これからだって時に! |
『名もなき男』 | 何も、何も終わってないんだぞ…! |
敵兵 | 生き残りがいたぞ!四方から包囲して討ち取れ! |
『名もなき男』 | …だったら、俺が終わりにする。このくだらない争いも…全部… |
『名もなき男』 | ──この命と引き替えにして、よ |
| シャキン… |
『名もなき男』 | …少しだけ待っててくれ。すぐに俺も、そっちにいく |
『名もなき男』 | うおおおおおおっ! |
| |
レイヴン | 今のは… |
??? | 何だよ、どうかしたか? |
??? | 相変わらず、冴えない顔してんな。レイヴン |
レイヴン | お前は…… |
| |
レイヴン | …はっ! |
レイヴン | ……夢、か… |
レイヴン | また、妙な夢を見ちゃったわね…。ここんところ、ずっと同じ夢の繰り返し… |
レイヴン | あの玉座の人物…ラザリス様でないって事は確かだけど…一体誰なんだ |
レイヴン | それに、あの戦争も。あんなの一度も起きた事ないけど、妙にリアルな感じがしたって言うか… |
レイヴン | 特に、最後に聞こえてきたあの声…どこかで… |
レイヴン | ずっと昔…いや、つい最近…? |
レイヴン | … |
レイヴン | あー、疲れてんのかね… |
| |
| ザー… |
レイヴン | …おっと。いつの間にか、雨になってたか |
レイヴン | 例の件で出かけないといけないってのに |
レイヴン | うーん、風邪をひいたら嫌だし?今日はやっぱりお仕事やーめた! |
レイヴン | …とか出来ればいいんだけど。あいにくこればっかりは…ね |
| コンコン |
レイヴン | おろ、お客さん?いらっしゃい、開いてるよ |
??? | 邪魔するぜ。って、えらく暇そうな店だな… |
レイヴン | 失礼ね、って…何だ、おたくか |
クロー | ──ああ、久しぶりだな。レイヴン |
scene2 | 虚空の夢 |
レイヴン | 珍しいねえ、クローがここにやってくるなんて |
クロー | ま、ちょっとわけありでな |
レイヴン | …なるほど、ね |
クロー | それにしても… |
クロー | 相変わらず、冴えない顔してんな。レイヴン |
レイヴン | …!それって… |
クロー | ん…?どうかしたのか? |
レイヴン | あ、いやいや… |
レイヴン | 久しぶりのお客さんかと思ったのに、青年だったんで落ち込んでんのよ |
クロー | ご挨拶だな。「仕事仲間」じゃねえか |
レイヴン | 何の事やら…。おっさんはしがないただの何でも屋よ? |
クロー | 表向きは、だろ |
レイヴン | …それで、今日はどういった用向きなわけ? |
レイヴン | ま、天下の白き獅子様がここに来る用なんて、大体想像がつくけど |
クロー | ああ、他でもない。例の脱走者についてだ |
クロー | 警備の話だと、脱走者に仲間がいたって話だったろ |
クロー | その脱走を手引きした奴について何かわかった事はねえか? |
レイヴン | 脱走者…生誕祭でラザリス様に手を出そうとした、あのクールビューティーちゃんね |
クロー | …何がクールビューティーだ。相手は咎人だってのに…全く… |
レイヴン | まあまあ~。でも、何で手引きした奴について聞くのよ? |
レイヴン | 確か、おたくら白き獅子は脱走者を追ってるって話じゃなかったっけ? |
クロー | ああ、だが状況は芳しくねぇ |
クロー | ガハラム山での崖の崩落で奴を取り逃がして以来、足取りがまるで掴めなくてな |
クロー | あの高さから落ちたんじゃタダじゃすまねえし、オレ達としてもすぐに捕えられると踏んでたんだが… |
レイヴン | 駄目だった、と? |
クロー | ああ。いざ、崖下まで行ってみりゃ人影すら見当たらなかった。…多分、逃げたんだろう |
クロー | …ったく、一筋縄じゃいかなさそうだぜ |
レイヴン | なるほどねぇ… |
レイヴン | それで、何か別の手がかりを…って脱走に協力した奴の情報を求めてるって事、か |
クロー | ま、そう言うこった |
レイヴン | けど、残念だねぇ。あいにく、その件に関してはこっちもお手上げ |
レイヴン | おっさんも八方手を尽くして、調べてはいるんだけどねえ |
クロー | そうか…あんただったら何か掴んでるかと思ったんだが |
クロー | …やれやれ、やっぱりそう上手くはいかねぇか |
レイヴン | およ、珍しく疲れてる様子じゃないの |
クロー | そりゃ疲れもするさ |
クロー | 脱走者が出たってだけでも大事だってのに、宰相の妹まで連れ去られちまったからな |
レイヴン | ほお… |
クロー | しかもそれだけじゃねえ。昨日、この街で新たな咎人が現れたらしくてな |
クロー | そっちの捜索も、並行してやらねえといけねえのさ |
レイヴン | そりゃまた大変だ。頑張れよ、青年 |
レイヴン | 若い内の苦労は買ってでも…ってね! |
クロー | おいおい…えらく他人事だな |
レイヴン | 実際、管轄違いでしょ。咎人の捕縛は白き獅子のお勤めよ |
クロー | ったく…まあ、いいさ |
クロー | そんなわけで、ちょいとばかし余裕がなくてな |
クロー | 何かわかったら知らせてくれ。今は少しでも手がかりが欲しい |
レイヴン | へいへい、わかりましたよっと |
レイヴン | 脱走者の一件については、こっちにも責任の一端はあるしねえ |
クロー | 助かるぜ。いい情報があれば、礼をすっからよ |
レイヴン | ふーん、お礼ね。白き獅子からの感謝状…とかならいらないわよー |
クロー | わかってるっての。いつもの店のサバみそ定食、勿論オレの奢りで、な |
レイヴン | さっすが青年、わかってるじゃないの~ |
クロー | じゃあ、そろそろ行くわ。例の件くれぐれもよろしく頼んだぜ |
レイヴン | はいよ~ |
| |
レイヴン | 白き獅子も大変そうだねえ |
レイヴン | ほんとなら手助けしてあげたいけどこっちはこっちでそれどころじゃなくってね… |
レイヴン | 悪いな、クロー |
レイヴン | さて、と… |
| ガチャ |
| |
| ザーッ…! |
レイヴン | 雨宿り、といきたいところだけどそう呑気な事も言ってられないわね |
レイヴン | …白き獅子の動きに煽りを受けて「こっちの標的」が隠れちゃう前に、何としても見つけ出さないと |
レイヴン | さぁて…少し急ぎますか |
scene1 | 雨降る街の怯えた少女 |
| ザー… |
??? | はぁ…はぁ… |
??? | エリー…このままじゃ風邪ひいちゃうよ…? |
??? | … |
| |
街の女 | ちょっとあんた、何やってるんだい!? |
??? | …! |
街の女 | びしょ濡れじゃないか。こんな雨の中を、傘もささずうろついてたのかい? |
??? | ええと…その… |
街の女 | とにかく、あたしん家においで。このすぐ近くだから |
??? | で、でも… |
街の女 | でもじゃないよ。ほら、早く |
??? | … |
騎士団員 | そこのお前達、どうかしたのか? |
??? | あれは… |
??? | 白き獅子だよ…!…エリー、逃げなきゃ! |
街の女 | どうしたんだい?何ぶつぶつ言って… |
??? | あの…ごめん、なさい…! |
街の女 | ちょ、ちょっとあんた! |
| |
レイヴン | ──路地裏に佇む少女? |
情報屋の男 | ああ。この雨だってのに傘もささずにうろついてるらしい |
情報屋の男 | 近隣の住民も保護してやろうと声をかけたらしいが、怯えて逃げちまうとか |
レイヴン | 怯えて、ね…なるほど |
レイヴン | …情報助かったわ。これはお礼、とっといて |
情報屋の男 | 毎度 |
レイヴン | …ふぅ、あちこち聞いて回ったけど有力なのは今のとここの情報だけ、と |
レイヴン | … |
レイヴン | はあ、それにしても…ベルベットちゃんってば、まさかあの宰相の妹を連れ去っちゃうとはね |
レイヴン | 大胆にもほどがあるって言うか……ラザリス様もほんと何を考えてるのやら… |
レイヴン | ま、おっさんとしては従うだけだから別に何でもいいんだけど… |
レイヴン | …さて、と。油売ってる暇はないわね。えーっと、確か路地裏だっけか |
レイヴン | 他に目ぼしい情報もないし、はずれて元々ちょっくら行ってみますかね |
| |
レイヴン | ここが例の路地裏ね |
レイヴン | ちらほらと白き獅子の姿もあるけど、例の咎人捜索中ってわけ──… |
レイヴン | …ん? |
??? | …! |
レイヴン | 雨に打たれて佇む少女…。って事は、あの子が情報屋の言ってた… |
??? | ううっ… |
scene2 | 雨降る街の怯えた少女 |
??? | … |
レイヴン | あの、そこのお嬢ちゃん?ちょーっとお話聞かせてもらえないかなーなんて |
??? | っ…! |
??? | こ、来ないでください…! |
レイヴン | そんな怯えなくても…。大丈夫、これでもおっさん、案外紳士で── |
| |
??? | エ、エリーに触るなー! |
レイヴン | …!ちょっと、何よこれ。ぬいぐるみ…がしゃべってる!? |
レイヴン | …って、別におっさんはこの子をどうこうするつもりはなくてね? |
レイヴン | ちょっと、聞きたい事があっただけなんだけど… |
??? | 来ないでー! |
レイヴン | そう言われてもねえ… |
レイヴン | 変なお供までいるし…どうしたものやら |
??? | はぁ…はぁ… |
レイヴン | って、お嬢ちゃん大丈夫…?すっごくふらついてるみたいだけど… |
??? | だいじょうぶ…です。わたし、は… |
| バタッ! |
レイヴン | ちょっと、お嬢ちゃん!? |
??? | …けて… |
レイヴン | ん? |
??? | たす…けて… |
レイヴン | … |
レイヴン | …やれやれ。仕方ないわね |
レイヴン | ま、ここで死なれちゃっても、困るし… |
レイヴン | よいしょっと… |
??? | … |
レイヴン | あらら…お供もぐったりしちゃったか |
??? | う… |
レイヴン | 何かしら事情があるのは間違いなさそうだけど… |
レイヴン | 全く…厄介な事になったもんだ… |
scene1 | 二人の何でも屋 |
レイヴン | … |
??? | すう…すう… |
レイヴン | 全く起きる気配がない… |
レイヴン | 特に怪我とかはないみたいだし、疲労困憊って事かしらねえ… |
レイヴン | あの様子を見れば、さもありなんだけど…。さて、どうしたもんか |
??? | うっ…… |
レイヴン | …ん?えらくうなされてるな |
??? | ラザ、リス…様…!どうして… |
??? | わたしは…見てません…何も… |
レイヴン | …! |
レイヴン | 今の寝言って、まさか…… |
| |
??? | 天誅ーーーっ! |
| |
レイヴン | のわーーっ!? |
??? | レヴっち!見損なったわよ! |
レイヴン | いたた…いきなり何なのよ、ノーマちゃん。おっさんが何をしたって言うの |
ノーマ | 何をしたのじゃなーい!いたいけな少女を連れ込んで、そっちこそ何してたのさ! |
レイヴン | え?ちょ…いや、誤解だって!これは人助けで── |
ノーマ | 情けないよあたしは。情けない。ああ情けない情けない。情けないったら情けない! |
レイヴン | だから、誤解だって言ってるのに…。って言うか、おっさんの話聞いてる? |
ノーマ | たとえ仕事の依頼がほとんどなくても、髪がボサボサでも! |
ノーマ | 思わせぶりな事ばかり言って何考えてるかわからなくても、髪がボサボサでも! |
ノーマ | もう!とにかく!髪がボサボサでも! |
レイヴン | そんなにおっさんの髪型が気になってたのね… |
ノーマ | とにかく、レヴっちは人の道を踏み外す真似だけはしないって信じてたのに! |
レイヴン | だから。本当に違うんだって |
ノーマ | みんな初めはそう言うの!潔白だって言うなら、きっちり説明しなさいってば! |
レイヴン | するする、するったら…!というか説明させてくれないんだもん |
レイヴン | えーとね。この子は路地裏で見つけたの |
レイヴン | 行き場を失ってたみたいでね。雨に打たれて、そりゃ本当にかわいそうだったのよ |
レイヴン | で、たまたまその場に居合わせた紳士なおっさんが、保護したってわけ |
ノーマ | え~?ほんとにー? |
レイヴン | 本当だって。ノーマちゃんに、嘘ついた事なんかないでしょ |
ノーマ | それがもう嘘じゃん! |
ノーマ | 口では何とでも言えるしなー。レヴっち、適当だし |
レイヴン | おっさん、いつも正直だってば。失礼しちゃう |
??? | むにゃむにゃ…おはよー… |
ノーマ | うわっ!何このぬいぐるみ!何でしゃべってんの!? |
レイヴン | そこはおっさんも、気になってたんだけどね |
レイヴン | もっと大きな問題があるから、後回しにしてたって言うか… |
??? | … |
ノーマ | あ、あの子も起きてる |
レイヴン | え? |
??? | …! |
scene2 | 二人の何でも屋 |
??? | … |
レイヴン | 気がついたのはいいけど、だんまりだねぇ… |
ノーマ | レヴっちは黙ってて。こういう時はあたしの出番! |
ノーマ | こんにちは!あたし、ノーマ・ビアッティ |
ノーマ | こっちの髪の毛ボサボサのおっさんはレイヴンっていうの |
ノーマ | そんで、ここは何でも屋、ビアッティ&ビアッティの事務所だよ |
レイヴン | 何、その名前。いつの間にそうなったの |
レイヴン | 大体、ビアッティ&ビアッティって。それじゃ両方ノーマちゃんになっちゃうじゃ── |
ノーマ | で、何があったの?よかったらあたしに話してみない? |
レイヴン | 無視ってひどくなーい!? |
??? | ええと…その… |
??? | わ、わたし…街の学校に通ってたんです。けど… |
レイヴン | … |
??? | そこで怖い事に巻き込まれて……逃げてきたんです |
レイヴン | 怖い事…? |
レイヴン | そう言えば…お嬢ちゃん、さっき寝てる時、随分とうなされてたわよ |
レイヴン | …確か、ラザリス様がどうのって。うわ言だけど、随分怯えた様子で… |
??? | …!それは…その… |
ノーマ | ちょっと、レヴっち…!言いにくい事もあるんだって |
レイヴン | …へいへい、黙ってますってば |
ノーマ | それで、どうしたの? |
??? | あの…それで…寮に帰るわけにもいかなくて…ずっと街を…最後は気が遠くなって… |
??? | …ごめんなさい。その後どうなったのか、よく覚えてないんです… |
ノーマ | そっか… |
レイヴン | お嬢ちゃん、おっさんの目の前で、気を失って倒れちゃったのよ |
??? | そ、そうだったんですか… |
レイヴン | ね?これでおっさんの話が正しいって、わかったでしょ、ノーマちゃん |
ノーマ | うん、まあ…とりあえずこの子が、嘘をついてるって事はないかなー |
ノーマ | そう言えば、あなた、名前は? |
エリーゼ | あ、わたしは…エリーゼ・ルタスです。こっちはお友達のティポ… |
ノーマ | ん、おけ。エーちゃんにティッポンね |
エリーゼ | エーちゃん…? |
ティポ | ティッポン…? |
レイヴン | あー、気にしないで。ノーマちゃん、いつもこうだから |
レイヴン | 会う人みんなに、独自のあだ名をつけないと気が済まない子なのよ |
ノーマ | そういうわけでよろしくね、エーちゃん!ティッポン! |
エリーゼ | は、はい… |
レイヴン | それで、エリーゼちゃん、これからどうするの? |
ノーマ | 待った!その前に、やる事があるでしょ |
ノーマ | 女の子をこんな濡れたままにしておくなんて、レヴっち、何考えてんのさ! |
レイヴン | いやいや、さすがに服脱がすわけにもいかないでしょ |
ノーマ | そんな事は当たり前!はあ…何ですぐにあたしを呼ばないかなあ |
ノーマ | とにかく!まずは服を乾かす!話はそれから! |
ノーマ | エーちゃん、すぐ用意するからね! |
ノーマ | ほら!レヴっちは部屋から出る! |
ノーマ | あ、そうだ!レヴっち、ついでにご飯買ってきて! |
レイヴン | え、おっさんが?何でよ面倒くさい |
ノーマ | エーちゃんがお腹すかせてるからに決まってるでしょ~が!あと、あたしも! |
レイヴン | えー?それ絶対ノーマちゃんが食べたいだけじゃない |
ノーマ | おらー!もたもたすんなー! |
レイヴン | とほほ…わかりましたよ |
ティポ | 何だか二人共、悪い人じゃなさそーだね |
エリーゼ | そう…ですね… |
| |
エリーゼ | あ、ありがとうございます…。お蔭で助かりました |
ノーマ | 服はバッチリ乾いたけど、身体の具合は大丈夫? |
エリーゼ | あ、はい…だいぶよくなりました |
エリーゼ | すみません、食事までいただいてしまって… |
ノーマ | いいっていいって~!困った時はお互いさまじゃん! |
レイヴン | ご飯買ってきたのはおっさんなんだけど… |
ノーマ | それより、これからどうするかあてはあるの? |
エリーゼ | えと、その…この街を出て、故郷へ帰ろうと思ってます… |
レイヴン | 故郷ってどこ? |
エリーゼ | 市都アルメリア、です… |
レイヴン | あら、結構遠いねえ |
レイヴン | 最近は街道にも魔物がたくさん出るって言うし、一人じゃ危ないっしょ |
ティポ | ぼくもいるぞー! |
レイヴン | ティポがいても二人でしょ?おっさん、おすすめ出来ないなぁー |
エリーゼ | それでも、わたしはここには…もう… |
レイヴン | … |
レイヴン | 護衛がいれば別だけど。ね、ノーマちゃん |
ノーマ | お~! |
ノーマ | たまにはいい事言うじゃん!見直したよ、レヴっち! |
ノーマ | うんうん!こんな時こそ、何でも屋の出番だもんね! |
エリーゼ | 護衛、ですか?どういう事でしょう…? |
ノーマ | このビアッティ&ビアッティのあたしらが、エーちゃんを送り届けてあげるって事! |
エリーゼ | え、でも… |
ノーマ | このまま放り出してはいさようなら~なんて、出来るわけないしね |
エリーゼ | お、お気持ちはありがたいですけど…わたし、お金なんて… |
ノーマ | 気にしなくていいって。エーちゃんから取ろうなんて言わないから |
エリーゼ | え… |
ノーマ | 市都アルメリアについてから、お家の人に請求するだけの話! |
レイヴン | タダでいいとは言わないのね |
ノーマ | まあそこはそれでしょ。そんじゃ早速、市都アルメリアへゴー! |
ティポ | 何か強引に、話をまとめられたー! |
ノーマ | ──っと、勿論エーちゃんがすぐに動けそうなら、だけどね! |
エリーゼ | はい、わたしは大丈夫です。その…出来るだけ急ぎたい…ので |
レイヴン | そんじゃあ、決まりだね |
ノーマ | お~し!んじゃあ改めてしゅっぱ~つ!! |
エリーゼ | よ、よろしくお願いします… |
| |
レイヴン | … |
レイヴン | …ま、少し様子を見てみますか |
scene1 | 仄かな揺らぎ |
| ザー… |
ノーマ | 市都アルメリアを目指して、街を出たはいいものの… |
レイヴン | 街道沿いとはいえ、こう雨が続くと厄介だねえ |
ノーマ | だーもー!雨降りすぎ!全然やむ気配ないじゃん! |
レイヴン | 仕方ないか。もう少しここで雨宿りして、様子を見ましょ |
| |
エリーゼ | … |
エリーゼ | あ、あの… |
ノーマ | ん?何なに? |
| |
エリーゼ | レイヴンとノーマは、何でも屋さん…だって言ってましたよね |
ノーマ | そ。探偵から引っ越しの手伝いまで、依頼があれば何でもやるよ! |
エリーゼ | 何でも…ですか? |
ティポ | 何かカッコイイー! |
ノーマ | あー…そう思うよね、やっぱ。多彩な能力を駆使して次々に難題を解決…!みたいな |
エリーゼ | は、はい… |
レイヴン | だけども、現実はそうじゃない…ってね |
ティポ | そうなの? |
ノーマ | まーね |
ノーマ | 実際のところ依頼のほとんどは近所の家の掃除とか、犬の散歩とか… |
ティポ | 夢がないー! |
ノーマ | そうなのよ。夢がないの。現実は厳しいって事 |
ノーマ | 侘しいよね。侘しすぎるよね。世知辛すぎ。切なすぎ! |
ノーマ | ま、それで食べてるんだから文句は言えないけどさ~ |
ノーマ | もっとこうドカーン!とでっかい事件とかバーン!と解決させろー! |
レイヴン | バーンって…どんな感じなのよ… |
レイヴン | それだけシャングレイスが平和だって事でしょ |
ノーマ | そ!ラザリス様のお蔭だね~ |
レイヴン | ラザリス様のお蔭か…。…と言っても、エリーゼちゃんみたいな子もいるんだし |
レイヴン | …ラザリス様も全知全能ってわけじゃないわね |
ノーマ | ちょっと!いくらレヴっちでも言っていい事と悪い事が── |
エリーゼ | ラザリス様…ですか… |
ノーマ | ん?ラザリス様がどうかしたの? |
エリーゼ | い、いえ… |
レイヴン | … |
ノーマ | そう言えばエーちゃんさ、さっき、学校に通ってるって話してたよね |
エリーゼ | は、はい… |
ノーマ | そこを卒業したら、どうするの? |
エリーゼ | まだだいぶ先の話ですし…考えた事がありません… |
ノーマ | よかったらうちに来ない?ビアッティ&ビアッティの新メンバーとして |
レイヴン | およ、エリーゼちゃんをウチに誘うの? |
ノーマ | 人手は多い方がいいっしょ?そしたら依頼だって今よりいっぱい受けられるし |
レイヴン | 今のとこ、おっさんとノーマちゃんだけで、十分回ってると思うけどねぇ |
ノーマ | だーかーらー、メンバーが増えれば、営業にも力を入れられるって話よ |
ノーマ | エーちゃんかわいいし、きっとお客さんも増えると思うんだけどなー |
レイヴン | まあ、かわいいのは確かだけどね |
エリーゼ | そっ、そんな事ないです… |
ノーマ | だからさ、うちにおいでよ!一緒に何でも屋をやろう! |
ティポ | ぼく達にも出来るかなー? |
ノーマ | 厄介な依頼は全部レヴっちがやるから大丈夫!あたしらは別件を担当するって事で! |
レイヴン | 勝手に決めてる!? |
エリーゼ | か、考えておきます… |
ノーマ | よろしくねーいやー楽しみだー! |
エリーゼ | あ、あの… |
エリーゼ | ノーマとレイヴンは、どうして何でも屋さんを始めたんですか…? |
ノーマ | んー…何でだっけ? |
レイヴン | 何でだったかね? |
ティポ | 覚えてないのー? |
レイヴン | 何かいつの間にかこうなってたのよね…。まあ、成り行きって奴? |
エリーゼ | 二人は…仲がいいんですね |
ノーマ | 腐れ縁みたいなもんだけどね |
レイヴン | 人と人の縁なんて、大概そんなものよ |
ノーマ | そそ。エーちゃんと友達になれたのも言ってみれば成り行きなわけだし |
エリーゼ | お友達…わたしが、ですか…? |
ノーマ | 当ったり前じゃん!ね、レヴっち? |
レイヴン | へ?あぁ…まあそうなる…のかね |
ティポ | ぼくは仲間はずれなのー? |
ノーマ | 勿論、ティッポンも友達!決まってんじゃん! |
ティポ | わーい! |
エリーゼ | 友達… |
レイヴン | …ところでさ、エリーゼちゃん |
エリーゼ | あ…はい、何でしょうか |
レイヴン | … |
レイヴン | …いや、やっぱ何でもないわ。またの機会にしようかね |
エリーゼ | …? |
レイヴン | それにしても、雨、やみそうにないわね |
レイヴン | こういう雨の日って、普段は出くわさないモノと、ばったり出くわす事もあるけど… |
ティポ | 普段は出くわさないモノって? |
ノーマ | あー、魔物の事?まーねー、出てもおかしくなさそうだよね |
ティポ | 魔物は嫌ー |
ノーマ | 大丈夫。出ても何とかするから! |
ノーマ | …レヴっちが! |
レイヴン | おっさんだけ? |
ノーマ | 気が向いたら手伝うって。だからよろしく! |
レイヴン | とほほ。人使いが荒いんだから。全く… |
| |
レイヴン | んっ…? |
| |
| ガサッ… |
エリーゼ | レイヴン…!今、そこで音がしました…!だ、誰かいるんじゃ… |
ティポ | もう怖いのはヤダよー! |
ノーマ | 人ならいいけど、ひょっとして本当に魔物が出ちゃったとか…じゃない…よね? |
レイヴン | ちょっと見て来るか…… |
エリーゼ | レイヴン… |
| ガサガサ… |
| |
レイヴン | うーん、何もいないな。動物か何かだったのかもね |
レイヴン | ま、何もないなら、先を急ぎましょ |
ノーマ | おー! |
エリーゼ | ふぅ… |
レイヴン | …動物、だといいんだけどね |
レイヴン | やっぱり一筋縄じゃいかなさそうか… |
| |
??? | … |
??? | ……今はまだ早い…か |
scene2 | 仄かな揺らぎ |
レイヴン | ──うんうん。雨の方は、ようやく落ち着いたっぽいね |
ノーマ | このまま晴れるかな? |
レイヴン | だといいけど。まだ雲は出てるみたいだし、月も星も見えないからねえ |
ノーマ | そっかー |
| |
エリーゼ | すう…すう… |
レイヴン | あららー、エリーゼちゃんってばすっかり熟睡してるわね |
ノーマ | うん。夕食を食べたら、バターンだったよ |
ノーマ | でもエーちゃん、一体何があったんだろうね |
ノーマ | 人見知りなのもあるんだろうけど…。街を出てからもずっと何かに怯えてるみたいだし… |
レイヴン | … |
ノーマ | 出会った時なんか震えっぱなしでさ。雨の冷たさだけのものじゃないよ、あれ… |
ノーマ | そう…例えば誰かに追われて逃げてきた……みたいな? |
レイヴン | …例えば白き獅子、とか?ちょうど今街中で咎人捜ししてるみたいだったし |
ノーマ | ちょっと、レヴっち!エーちゃんが咎人だって言うの!? |
レイヴン | ま、ないとは思うけどね。話に聞いてるような咎人とは違って普通の女の子って感じだし |
ノーマ | うーん…でも、何かあった事は確かだよね… |
ノーマ | あたしらにはまだ話したくないみたいだけど |
レイヴン | …他人に言えない事くらい、誰でも持ってるもんでしょ |
エリーゼ | すう…すう… |
| |
レイヴン | …さて、と |
ノーマ | あれ。レヴっち、どっか行くの? |
レイヴン | 薪を拾ってくんのよ。今ある分だけだと、朝までもたないだろうしね |
ノーマ | あ、そうだね。じゃあよろしくー |
レイヴン | はいはい |
| |
レイヴン | はあ…ただ一言、真相を問いただすだけだってのに |
レイヴン | なのに…何だっての、このモヤモヤは… |
レイヴン | …ったく、らしくないねぇ。俺が考える必要はないんだっての |
レイヴン | … |
| |
クロー | 雨はやんだか… |
クロー | それに比べてこっちの状況は、相変わらずの雨模様だけどな |
騎士団員 | クロー隊長! |
クロー | どうした? |
騎士団員 | 例の咎人に関する目撃情報が得られました |
クロー | ようやく尻尾を掴めたか…。で、そいつはどこにいる? |
騎士団員 | それが… |
クロー | … |
scene1 | エリーゼの告白 |
ノーマ | よしよし。この分なら今日も、雨に降られないで済みそうだね |
エリーゼ | そう…ですね… |
ノーマ | どうかこのまま目的地まで、お天気がもちますよ~に! |
ティポ | もちますようにー |
レイヴン | 何に祈ってるのやら… |
ノーマ | 何でもいいんだって。こういうのは、気持ちの問題なんだから |
ノーマ | ほらほら、レヴっちとエーちゃんも一緒に祈って! |
レイヴン | おっさんは遠慮しとくわ。こんなおっさんに拝まれたって神様もきっと嬉しくないし |
ノーマ | 駄目だよ、レヴっち!そんな事言って、どうせ面倒くさいだけ── |
ノーマ | …って、何か聞こえない? |
エリーゼ | 聞こえます…太鼓の音…でしょうか |
ティポ | 向こうから聞こえてくるよー |
レイヴン | あっちの方は確か、ナムザ街のある辺りだねえ |
レイヴン | 市都アルメリアまでに一度街で補給しておきたいし… |
レイヴン | 行って確かめてみますかね |
ノーマ | 賛成~! |
| |
エリーゼ | あ… |
ティポ | お祭りだー! |
ノーマ | なるほど~。あたしらが聞いたのは、お祭りで使われてる楽器の音だったんだ |
ノーマ | ねえねえ、エーちゃん。せっかくだしちょっと見てまわらない? |
エリーゼ | でも…のんびりしてるわけには… |
レイヴン | うーん、でもあいにく食料もそろそろ尽きちゃいそうね |
レイヴン | お祭りはともかくとして、補給って意味でも今日はこの街に留まる方がいいかも… |
エリーゼ | そう…ですか… |
レイヴン | … |
レイヴン | まあまあ、エリーゼちゃん。そう焦んなくても明日には出発だから、ね? |
レイヴン | 家族にだってもうすぐ会えるし、そんな顔しないで今日はおっさん達とパーッと遊ぼうじゃないの |
レイヴン | ね、ノーマちゃん |
ノーマ | そうそう!レヴっちの言う通りだよ |
ノーマ | お祭りを楽しんでる内に今日なんてあっという間に終わっちゃうよ |
ノーマ | だからほら、行こ? |
エリーゼ | レイヴン…、ノーマ… |
エリーゼ | …わかりました。それじゃあ、少しだけ… |
レイヴン | そうそう、その調子。エリーゼちゃんは笑顔が一番なんだから |
ティポ | よーし、それじゃお祭りにレッツゴー! |
| ドン、ドン、ドン! |
| タタタ!! |
ノーマ | あ、そーれ! |
ノーマ | よよいのよい! |
ティポ | ノーマ君、踊りが上手だねー |
村の男 | いいぞー!姉ちゃん! |
村の女 | もっとやんなー! |
レイヴン | 元気だねぇ。若さがまぶしいわー |
ノーマ | ほらほら、もっと盛り上げてくよ~! |
ノーマ | あたしは~、すご腕~… |
ティポ | ノーマ君、踊りながらどっか行っちゃったー |
レイヴン | 街の人達ともすっかり打ち解けちゃったみたいね |
エリーゼ | …… |
レイヴン | …やっぱり、お祭りを楽しむような気分じゃなかった? |
エリーゼ | えっ… |
エリーゼ | い、いえ…お祭りは楽しいです… |
エリーゼ | みんな明るくて、笑顔がいっぱいで… |
エリーゼ | …少し、なつかしい感じがします |
| |
レイヴン | … |
| |
エリーゼ | …こんな光景、少し前までは当たり前だったんです。けど、今は…… |
エリーゼ | レイヴン… |
エリーゼ | 故郷に帰って、わたしはまたこんな風に友達と笑顔で過ごせるんでしょうか… |
レイヴン | エリーゼちゃん… |
レイヴン | …きっと大丈夫よ |
レイヴン | みんな満面の笑顔でエリーゼちゃんを出迎えてくれるって |
エリーゼ | そう…でしょうか… |
エリーゼ | …でも、わたし……。もう故郷にも…居場所はないかもしれなくて… |
レイヴン | 居場所…ねぇ |
レイヴン | … |
| |
ノーマ | イエイ! |
レイヴン | どわっ!ノーマちゃん!? |
エリーゼ | びっくりしました… |
ノーマ | ん~…悩み多き年頃なんだね、エーちゃんは |
ノーマ | あたしも若い頃は、そんなだったっけな~ |
エリーゼ | き、聞いてたんですか…? |
ノーマ | んー、最後のとこだけね! |
| |
レイヴン | って言うかノーマちゃんは、今でも若いじゃないの |
ノーマ | そうなんだけど、それはそれでしょ!水を差さない! |
ノーマ | これだからおっさんは… |
ノーマ | エーちゃん、あたし達でよければいつでも相談に乗るからね!ね、レヴっち! |
レイヴン | 勿論、エリーゼちゃんならいつでも大歓迎よ |
エリーゼ | でも… |
ノーマ | 遠慮なんかしなくていいんだよー! |
ノーマ | 人はみんな、いろいろあるよ。あるけどさ。でもさ |
ノーマ | レヴっちみたいなおっさんだって、こうやってしぶとく生きてるんだし、何とかなるよ、うん |
レイヴン | 変なとこで引き合いに出すのね。まあ、そうなんだけど |
レイヴン | ノーマちゃんの言う通り、大抵の事は何とかなるかもね |
レイヴン | それに、居場所がないって言うならお嬢ちゃん一人の居場所くらいおっさんが作ってあげるわよ |
レイヴン | 伊達に歳は食ってないってね |
ノーマ | そうだよ!だからさ、もしもの時もそうじゃない時でもあたしらのとこ来なって |
ノーマ | 一緒に何でも屋やろうよ!大歓迎するから! |
エリーゼ | レイヴン、ノーマ…本当にありがとうございます |
エリーゼ | 二人には励ましてもらってばかりですね |
レイヴン | 気にしない気にしない。これもほら、何かの縁ってもんよ |
レイヴン | さて、んじゃそろそろ気を取り直してお祭り騒ぎ再開といきますか |
エリーゼ | はい…! |
ノーマ | では改めて、いきま~す! |
ノーマ | 今度はみ~んな一緒に~!!はい! |
| |
ノーマ | よよいのよい! |
レイヴン | ほほいのほい! |
ノーマ | ほら、エーちゃんも! |
エリーゼ | こ…こんな感じ…ですか? |
レイヴン | そうそう。上手いわよエリーゼちゃん |
エリーゼ | が、頑張ります… |
ティポ | あ、そーれ! |
ノーマ | エーちゃん、やっと笑顔になったね |
ノーマ | レヴっちも、楽しそうだし~ |
レイヴン | おっさんが? |
ノーマ | うん。レヴっちって、いっつも何しててもどっか他人事みたいだけどさ |
ノーマ | エーちゃんに対しては、ちゃんと親身になってるみたいだね |
レイヴン | そんなもんかね? |
ノーマ | そんなもんだって。自分じゃ気付いてないかもだけど |
ティポ | ノーマ君、レイヴン君、何休んでるんだよ-!ぼく達ばっかり踊らせてー |
ノーマ | あーっと、ごめんごめん! |
レイヴン | … |
レイヴン | 俺が楽しそう、ね… |
| |
| ガサッ… |
レイヴン | …!また、妙な気配が… |
レイヴン | って…逃げられたか。勘のいい奴… |
レイヴン | つけられているのは確か…手を出して来ないのが気になるけど… |
レイヴン | … |
scene2 | エリーゼの告白 |
レイヴン | ふぅ、小さい祭りだったけどなかなか楽しめたじゃないの |
エリーゼ | はい、レイヴンとノーマのお蔭です |
エリーゼ | …でも、また少し雲が出てきましたね… |
レイヴン | この分だと、明日はまた雨かしら。ノーマちゃんのお祈りは、通じなかったみたいね |
ティポ | あれれーノーマ君はー? |
レイヴン | 騒ぐだけ騒いだ挙げ句、先に休むって宿に引っ込んだわよ |
レイヴン | ほんと自由なんだから、あの子ったら |
エリーゼ | お祭りが終わって、村も静かになりましたね |
エリーゼ | 何だか…寂しいです…ね |
レイヴン | 仕方ないわよね。どんなに楽しい時も、いつか必ず終わるもんだし |
エリーゼ | … |
レイヴン | どしたのエリーゼちゃん。まーた暗い顔になっちゃってる |
エリーゼ | い、いえ… |
エリーゼ | えと、その…聞いてもいいですか? |
レイヴン | ん?まあ、おっさんにわかる事なら |
エリーゼ | 初めて会った日…レイヴンはどうしてわたしの事を、助けてくれたんですか…? |
レイヴン | 雨の中、困ってる美少女がいたら助けるのが男の務めってもんでしょ? |
レイヴン | こう見えてもおっさん、紳士だからね |
エリーゼ | そう…ですか… |
レイヴン | あらら……。ノーマちゃんみたいなツッコミがないのもやりにくいわね |
| |
レイヴン | …エリーゼちゃん |
レイヴン | 悩んでるなら話してみたら? |
レイヴン | おっさんでも、聞くくらいは出来るかもよ |
ティポ | エリー、話してみようよー |
エリーゼ | …そう、ですね |
エリーゼ | わ、わたし…実は…その… |
エリーゼ | 今まで怖くて…レイヴンやノーマには、言えなかったんですけど… |
| |
エリーゼ | 咎人の疑いをかけられて…白き獅子に追われてるんです… |
レイヴン | 咎人… |
レイヴン | クローが言ってたのはまさか本当にエリーゼちゃんの事── |
エリーゼ | え? |
レイヴン | …何でもないわ。こっちの話よ |
レイヴン | それにしても、咎人とは穏やかじゃないわね |
エリーゼ | 違うんです…!わたしは咎人なんかじゃ…! |
レイヴン | 落ち着きなって。俺もノーマちゃんもエリーゼちゃんが咎人だとは思ってないから |
レイヴン | それよりも、どうして白き獅子に追われる事になったのよ? |
エリーゼ | それは… |
エリーゼ | … |
エリーゼ | ……知ってはいけない事を知ってしまったからです… |
レイヴン | …… |
| |
エリーゼ | …生誕祭の日に、宮殿に迷い込んでしまって… |
エリーゼ | 勿論、すぐ外に出ようとしたんです… |
エリーゼ | でも、見つかったら怒られると思って、人目を避けている内に迷ってしまって… |
エリーゼ | 気が付いたら薄暗い地下にいました。そこで…ラザリス様と… |
レイヴン | …お会いしたってわけ? |
エリーゼ | 会ったというか…その…姿をお見かけしました |
エリーゼ | わたし、嬉しくて思わずラザリス様のいる方へ歩いて行ったんです |
エリーゼ | そしたら突然…悲鳴と、妙な音が聞こえてきて… |
レイヴン | 妙な音…? |
ティポ | ビキビキビキ!って音ー |
レイヴン | …それで? |
エリーゼ | ……悲鳴の後、ラザリス様の声が聞こえました |
エリーゼ | 「愚かな咎人達…でも、大丈夫。 僕が救ってあげる」って… |
エリーゼ | その後は、悲鳴も聞こえなくなって…恐ろしいほど静かに… |
レイヴン | …… |
エリーゼ | ラザリス様は咎人を救うと言っていました…。…でも、本当は──… |
エリーゼ | ……本当は、何か…よくない事をしているんじゃないでしょうか… |
レイヴン | … |
エリーゼ | …ラザリス様を疑うなんて自分でも信じたくないんですけど…でも、わたし…怖くて…… |
レイヴン | … |
レイヴン | …けど、それがどうして咎人疑惑に? |
エリーゼ | …それは、その後の事です。宮殿から逃げ出したんですけど…そこで見た事が頭から離れなくて… |
エリーゼ | ……怖かったんです。こんな事、誰にも言えないし…どうしたらいいかもわからなくて… |
エリーゼ | そしたら、咎人の疑いがあると通報されてしまいました…。友達だと思っていたみんなや先生に… |
エリーゼ | 故郷に帰ろうと思ったのはそのせいなんです… |
レイヴン | …まさか、そんな事だったとはね |
| |
エリーゼ | …ラザリス様も友達もわたし…本当は全部信じたいんです… |
エリーゼ | けど…もう、誰を…何を信じたらいいかわからなくて…… |
レイヴン | エリーゼちゃん… |
エリーゼ | レイヴン、教えてください… |
エリーゼ | ラザリス様のやっている事は、本当に「正しい」のでしょうか… |
レイヴン | ……! |
エリーゼ | おかしいですよね…わたし。ラザリス様を疑うなんて…… |
レイヴン | …おかしいかどうか、か |
レイヴン | 正しい答えはおっさんにはわからないけど |
レイヴン | でも少しだけ…共感はしてあげられるかも、ね |
エリーゼ | レイヴン… |
エリーゼ | …本当にありがとうございます。わたしを助けてくれて… |
エリーゼ | レイヴン達がいなかったらきっとここまで来られなかったし… |
エリーゼ | それに、何よりその…嬉しかったんです。友達だと言ってもらえて… |
レイヴン | エリーゼちゃん… |
エリーゼ | だから…レイヴンとノーマさえよければ、これからも…わたしと一緒に── |
| |
レイヴン | ──っと、ストップ。今日はそろそろお開きって事で |
エリーゼ | …え? |
レイヴン | 話は尽きないけど、そろそろエリーゼちゃんも宿に戻って休みなさいな |
エリーゼ | …レイヴン?突然どうしたんですか…? |
レイヴン | ここから先は、大人の時間。ほらほら、先に宿へ戻んなさい |
レイヴン | たくさん眠らないとおっさん好みのお姉さんにはなれないぞ? |
エリーゼ | な…ならなくていい、です…! |
エリーゼ | じゃあ…おやすみなさい… |
ティポ | エリー、待ってー |
| |
レイヴン | … |
レイヴン | ったく、そんなガラでもないってのに… |
レイヴン | …… |
レイヴン | ラザリス様のあの力を知っちまった、か… |
scene1 | 差し伸べられた手 |
ノーマ | さーて!お祭りに参加して、気分もリフレッシュ出来たし! |
ノーマ | エーちゃんの故郷市都アルメリアを目指して、張り切って出発しますか~! |
ノーマ | …って、言いたいとこだったけど… |
| |
| ザー… |
エリーゼ | また雨…ですね |
ノーマ | そうなんだよね… |
ティポ | レイヴン君の言った通りになっちゃったねー |
| |
ノーマ | だーもー!何でまた降り出すのよ! |
ノーマ | せっかく昨日、天気がもつように祈ったのに、全然効きゃしない。うがー! |
ノーマ | これも全部、レヴっちのせいね。一緒に祈れって言ったのに、やらないから |
ティポ | 言いがかりだー! |
ノーマ | そうよ。言いがかりよ。でもそれくらいしたくなるでしょ。こんな雨じゃ! |
エリーゼ | ノーマ達さえよければわたしは…雨がやむのを待っても… |
エリーゼ | 二人にはずっと迷惑をお掛けしてますし… |
ノーマ | あー、違う違う。エーちゃんは全然悪くないから。そんな風に気に病む必要ないって |
ノーマ | 悪いのは全部レヴっち!あの髪がボッサボサのおっさん! |
ティポ | ところで、そのレイヴン君は? |
レイヴン | …… |
ノーマ | 何でか今朝からず~っと黙ってるんだよね |
ノーマ | おーい!おっさーん!! |
レイヴン | どわっ!急に耳元で叫ばないでってば |
ノーマ | 何、ぼぉ~っとしてんの。もうすぐ出発だよ? |
レイヴン | あー…大丈夫大丈夫 |
レイヴン | ……で、何の話だっけ? |
ノーマ | ちょっと、マジでどうしたのさ?しっかりしてよ~ |
ノーマ | はぁ…。エーちゃん何か知らない?レヴっちが腑抜けてる理由 |
エリーゼ | いえ… |
エリーゼ | あ…でも、昨日の夜もレイヴンの様子が何だか── |
| |
男の声 | うわあああっ!? |
ノーマ | 何の悲鳴!? |
女の声 | 魔物よー!魔物が街の中に-! |
レイヴン | あらら…これから出発しようって時に |
ノーマ | 放ってはおけないでしょ。行くわよ、レヴっち! |
レイヴン | あいさー |
レイヴン | …あ、エリーゼちゃん達はここにいて |
エリーゼ | え…でも… |
レイヴン | いいから。魔物退治は、おっさん達に任せておいてちょうだい |
エリーゼ | あ… |
scene2 | 差し伸べられた手 |
ティポ | ねーねーエリー、外が静かになったよ |
エリーゼ | 終わったんでしょうか… |
ティポ | たぶんねー。レイヴン君とノーマ君、怪我してないかなー? |
エリーゼ | そうですね… |
エリーゼ | 心配ですし、様子を…見に行ってみましょうか |
エリーゼ | 治療なら役に立てるはずです |
ティポ | うん! |
| |
エリーゼ | レイヴン達いませんね… |
ティポ | どこまで行っちゃったのかなー |
| |
| ガルルル! |
エリーゼ | ──! |
ティポ | ま、まままま…!魔物がまだー! |
| グオオッ! |
エリーゼ | いや…! |
??? | …はああぁ!! |
| |
| ズバッ! |
| ギャウウッ! |
| |
エリーゼ | あれ、何ともない… |
ティポ | エリー! |
??? | …怪我は、ないか |
| |
エリーゼ | は、はい。わたしは大丈夫、です… |
ティポ | ありがとー!おにーさん! |
??? | … |
エリーゼ | それで…その、あなたは…? |
??? | やはり…お前も記憶を… |
エリーゼ | え…? |
??? | … |
??? | …いくつか聞きたい事がある |
??? | お前は…ティアやスレイ、という名前に聞き覚えはないか? |
エリーゼ | ティア…スレイ…?よく、わかりませんが…知らない気がします |
??? | では…結晶に覆われた世界、そんな風景が記憶にないだろうか |
エリーゼ | 結晶…?それってどういう── |
ノーマ | いっちょ~上がりっと!…って、あれ?エーちゃん? |
レイヴン | 部屋にいてって言ったのに、駄目じゃないの |
エリーゼ | わっ…!二人共…。ご、ごめんなさい… |
ティポ | エリーは、レイヴン君とノーマ君の事がシンパイだったんだよねー? |
??? | お前は… |
レイヴン | …?この美青年は一体どなた? |
エリーゼ | …さっき、魔物に襲われたところを助けてもらったんです |
ノーマ | ええ~~っ!魔物に!?どっか怪我とかしてない?大丈夫!? |
エリーゼ | はい、すぐに助けてもらったので怪我はありません |
ノーマ | も~よかったよ~! |
ノーマ | ありがとね!ええと…… |
ヴェイグ | …ヴェイグ・リュングベルだ。たまたま、通りかかってよかった |
レイヴン | へぇ…たまたま?そんなタイミングよく、ねえ… |
ヴェイグ | …仲間達が来たなら、もう大丈夫だな |
| |
エリーゼ | ま、待って…ください…! |
エリーゼ | さっきの…ティアにスレイ…という人… |
エリーゼ | お捜しの人がいるなら力になれるかもしれません |
エリーゼ | 結晶に覆われた風景…というのはわたしにはわかりませんが… |
レイヴン | 結晶に覆われた…? |
ヴェイグ | いや…いいんだ、忘れてくれ |
エリーゼ | でも…きっと大事な事なんですよね… |
エリーゼ | レイヴンやノーマにも聞けばもしかしたら… |
ヴェイグ | …本当に大丈夫だ。ただ、気遣いには感謝する |
ヴェイグ | ありがとう、エリーゼ |
レイヴン | … |
レイヴン | …まあまあ、少しくらい話してくれてもいいじゃない |
レイヴン | おっさんもちょっと気になるねえ。特に結晶に覆われた風景…ってとこ |
ヴェイグ | …特に意味はない |
レイヴン | ほーん…。じゃあ、おたくさ |
| |
レイヴン | ──どうして、エリーゼちゃんの名前知ってるのよ? |
エリーゼ | え…? |
ヴェイグ | …… |
レイヴン | ノーマちゃんは「エーちゃん」って呼んでたし、ティポは「エリー」だったっけ? |
レイヴン | 何にせよ「エリーゼ」とは誰も言ってないと思うけど? |
ヴェイグ | … |
ノーマ | …え?ちょ、ちょっとどういう事? |
ヴェイグ | これ以上の話は無意味だ。オレは先を── |
| |
| ヒュッ! |
ヴェイグ | くっ…! |
レイヴン | 外したか… |
ノーマ | 弓…!?ちょっとレヴっちってば急に何してんの! |
レイヴン | 離れな、エリーゼちゃん。そいつは「咎人」だ |
エリーゼ | 咎…人…? |
レイヴン | ああ…虚言で人を惑わせる…。結晶がどうとか言う荒唐無稽な話…咎人でもないとしないでしょ |
レイヴン | 誰も教えてもないはずのエリーゼちゃんの名前を知ってたのも不思議だし…それに── |
レイヴン | …どうやら、道中で俺達をずっとつけてた人物でもあるみたいだしね |
ノーマ | あたし達をつけてた!?何でまた… |
エリーゼ | もしかして、街道での物音はこの人だったって事でしょうか… |
エリーゼ | でも、何故そんな事を… |
レイヴン | 目的はおそらくエリーゼちゃん…よね? |
ノーマ | 咎人がエーちゃんに一体何の用だって言うの!? |
レイヴン | さぁね。どんな用だとしても関係ないわ |
レイヴン | 『咎人を見つけたら 誰とも接触させてはいけない』…ラザリス様の命を遂行するだけよ |
ヴェイグ | やはり、こうなってしまうか… |
ヴェイグ | エリーゼ…!本当に覚えていないのか…? |
エリーゼ | …どうして…わたしは何も… |
レイヴン | 安心しな。お嬢ちゃんの事はおっさんがちゃーんと守ってやっから |
レイヴン | …ったく、大人しくしててくれりゃ見逃してやらなくもないのにねえ |
ノーマ | 見逃すって…レヴっち、それは駄目でしょ。閉じ込めるかちゃんと白き獅子に通報しないと… |
ノーマ | それはともかくとして…エーちゃんには指一本触れさせないから! |
ヴェイグ | くっ…! |
scene3 | 差し伸べられた手 |
レイヴン | はあ…はあ… |
ノーマ | ぜはー…ぜはー… |
ヴェイグ | … |
ノーマ | つ、強い… |
レイヴン | そうね…この実力、つくづく惜しいわ |
レイヴン | 咎人じゃなかったら、いい仕事の口を紹介してあげられるんだけど… |
ヴェイグ | …エリーゼ! |
エリーゼ | …! |
ヴェイグ | オレがわからないか…?本当に何も思い出せないのか? |
エリーゼ | 思い出すって…何を… |
ヴェイグ | エリーゼ…オレは…! |
エリーゼ | わ、わかりません…! |
エリーゼ | わたし…あなたの事なんか、知らないです… |
ヴェイグ | エリーゼ…! |
ノーマ | そうだよエーちゃん、咎人の話なんて聞いちゃ駄目! |
レイヴン | おたくも諦めなよ、知らない事を思い出せるわけないでしょ |
レイヴン | って、咎人に何を言っても無駄か… |
ヴェイグ | … |
ヴェイグ | ならば── |
| |
| …キン |
エリーゼ | 剣を… |
ティポ | 収めた? |
レイヴン | 諦めた…って事かしら |
ヴェイグ | そうではない… |
ヴェイグ | オレはお前の記憶を取り戻したい…それだけだ |
エリーゼ | わたしの…記憶…? |
| |
ヴェイグ | 怖がらせて悪かった…エリーゼ |
ヴェイグ | だが、オレは誰も傷つけるつもりはない |
ヴェイグ | 誰かを騙すつもりもない… |
ヴェイグ | 本当は、頃合いを見て落ち着いて話をしたかったのだが… |
エリーゼ | … |
ノーマ | 全然諦めてない…!エーちゃん、話を聞いちゃ駄目だよ! |
ヴェイグ | エリーゼ…今のお前が、オレを忘れている事はわかっている |
ヴェイグ | だが、オレは…お前の事をはっきり覚えている。決して忘れたりなどしない |
ヴェイグ | お前の強さもそうだ…。人のために恐怖に立ち向かえる勇気をお前は持っているはずだ |
ヴェイグ | エリーゼ…オレの事は無理でもあの夜の誓いを、思い出せないか? |
エリーゼ | 誓い…? |
ヴェイグ | 『お前は一人ではない』 |
ヴェイグ | 『同じ晶化に立ち向かう者として… オレがお前と共に歩もう』 |
エリーゼ | そ、その言葉… |
エリーゼ | …! |
ヴェイグ | 『忘れるな。 ミラを大切に想うお前がいるように お前を想う者が必ずいる』… |
ノーマ | またわけのわからない事を…! |
レイヴン | だからいい加減にしなさいって。しつこい男は本当に… |
エリーゼ | ミラ…あ…れ…? |
ティポ | エリー? |
レイヴン | どしたの、エリーゼちゃん? |
ヴェイグ | …! |
エリーゼ | これ…何なんですか… |
エリーゼ | わたしの頭の中に…知らない光景がいっぱい… |
レイヴン | …エリーゼちゃん…?一体何が── |
エリーゼ | うっ… |
エリーゼ | そんな……どうして──… |
ヴェイグ | エリーゼ…! |
ヴェイグ | 恐れなくていい…。それはお前の中に眠る本当の記憶だ…! |
エリーゼ | ああっ…! |
エリーゼ | …そうです。ミラは…目の前で…晶化して…… |
ヴェイグ | そうだ…大切な者を救うため、お前は旅に出た |
ヴェイグ | そしてみんなと出会った…その中にオレもいる |
ノーマ | エーちゃん、駄目…!咎人の話に耳を傾けちゃ── |
| |
エリーゼ | 『…わたし、決めました。 もう、恐れません』… |
エリーゼ | 『ヴェイグ達と前に進みま── |
レイヴン | エリーゼちゃん… |
ヴェイグ | エリーゼ…思い出したんだな── |
エリーゼ | 来ないで…ください! |
ヴェイグ | …! |
レイヴン | エリーゼちゃん…? |
| |
エリーゼ | あなたの言葉は…確かに…どこかで聞いた事がある気がします |
エリーゼ | ミラ…っていう人がわたしの大切な人だっていう事も… |
エリーゼ | でも…… |
エリーゼ | わたし、わからないんです…!知ってるけど、知らなくて…… |
エリーゼ | 何が本当なのか…わたしは誰なのか…! |
エリーゼ | このままじゃ、わたし…自分がなくなってしまいそうです… |
ヴェイグ | …心配ない、お前はお前で── |
エリーゼ | お願いです…!もう放っておいてください…! |
エリーゼ | わたしは…咎人なんかじゃありません |
ヴェイグ | …エリーゼ |
ヴェイグ | 戸惑うのもわかる、オレの言葉がお前を苦しめるのも… |
ヴェイグ | だが…お前には助けたい仲間がいる |
ヴェイグ | 本当のお前なら、今のこの状態を望まないはずだ |
エリーゼ | …! |
ノーマ | ちょっと! |
ティポ | これ以上、エリーを虐めるなー! |
| |
ヴェイグ | オレは…お前と共に歩むと誓った |
ヴェイグ | 例えお前が忘れようと、お前との約束を破るわけにはいかない… |
| |
ヴェイグ | オレは…大切な仲間であるお前を、放っておく事は出来ない…! |
エリーゼ | この手は… |
ヴェイグ | 『一人で抱え込むな』 |
エリーゼ | …! |
ヴェイグ | 『恐れで動けないというのであれば、 この手を取れ、エリーゼ』 |
エリーゼ | 一人…で… |
エリーゼ | ──…うっ! |
ノーマ | エーちゃん!? |
エリーゼ | …… |
エリーゼ | そう…あの時も… |
エリーゼ | ミラがいなくなった…あの時… |
エリーゼ | ミラは…わたしの事を、妹だと言ってくれて…でも晶化してしまって… |
レイヴン | 晶化…?おい、エリーゼちゃん…一体何を言って… |
エリーゼ | それで…わたしは… |
エリーゼ | わたしは…! |
エリーゼ | …誓ったんです!ミラを…みんなを取り戻すって! |
ノーマ | え…エーちゃん…? |
ヴェイグ | エリーゼ…! |
エリーゼ | ヴェイグ…!わたし思い出しました…! |
エリーゼ | わたしは誰なのか…そして…何をすべきなのかも |
ティポ | ぼくもー! |
| |
レイヴン | … |
ノーマ | どど…どう言う事? |
ノーマ | ねえレヴっち!何がどうなってんの! |
レイヴン | …まずいわね |
レイヴン | エリーゼちゃん… |
scene1 | 本当の自分 |
レイヴン | エリーゼちゃん… |
ノーマ | エーちゃん…どうしたの。何だか今までと…雰囲気が… |
レイヴン | どうやらエリーゼちゃんは、咎人になった…って事みたいね |
ノーマ | 咎人…?そんな…、冗談でも笑えないってば |
ノーマ | 冗談…だよね |
ヴェイグ | エリーゼは本来の記憶を取り戻しただけだ… |
ヴェイグ | それがお前達の言う咎人の定義なら、確かにその通りだが…これは決して咎などではない |
ノーマ | 嘘… |
ノーマ | 嘘でしょエーちゃん。…本来の記憶って何?嘘だよね?嘘だとか嘘だとか言ってよ! |
エリーゼ | ごめんなさい、ノーマ…。でも、嘘じゃないんです… |
エリーゼ | これが本当の、わたしなんです |
レイヴン | 本当の自分ね… |
ノーマ | 何それ…レヴっちも何とか言ってよ! |
ノーマ | エーちゃんが咎人になっちゃったんだよ! |
レイヴン | まぁまぁ。落ち着いて、ノーマちゃん |
レイヴン | まずはエリーゼちゃんの話を… |
ノーマ | 聞きたいよ…!何でなのか、あたしに出来る事はないか、他にもたくさん… |
ノーマ | でも聞けるわけないじゃん、咎人の言葉は全部妄言で……耳を貸しちゃいけないんだって… |
エリーゼ | ノーマ… |
ノーマ | レヴっちは何で落ち着いてられるのよ |
ノーマ | あたし達三人、ここまで一緒に旅してきた仲間だよね?違う? |
レイヴン | … |
ノーマ | それがどーして…!何でこんな事になっちゃうのさ! |
ノーマ | あたし…もう、わけわかんないよ! |
エリーゼ | ノーマ…!待ってください…! |
レイヴン | 放っておきなってば、誰も咎人の話なんか聞かないんだから |
ヴェイグ | なら、お前は何故ここに残った? |
レイヴン | …ちと、わけありでね |
エリーゼ | …? |
レイヴン | しかし、エリーゼちゃんが咎人になっちゃうとはね |
| |
レイヴン | …お蔭で迷いがなくなったよ |
??? | レイヴン! |
ヴェイグ | お前達は… |
| |
??? | …エリーゼ・ルタスだな |
??? | お前には咎人の疑いが掛かっている。オレ達と来てもらおうか |
エリーゼ | 白き獅子…!? |
レイヴン | クロー…!どうしてここに? |
レイヴン | タイミング的に、ノーマちゃんが連れて来たってわけでもなさそうだけど |
クロー | レイヴン、あんたを追ってきたんだよ |
クロー | 例の咎人を連れて街を出たって、報告を受けてな |
レイヴン | なるほど…ね |
クロー | しっかし、さすがはレイヴンだな。情報収集どころか、咎人の監視までやってくれるとは |
クロー | こいつは約束してた礼じゃ足りなさそうだ |
ヴェイグ | 監視…だと? |
エリーゼ | 今のどういう事ですか?どうしてレイヴンが白き獅子と… |
レイヴン | はぁ…。バレちゃったら仕方ないわね |
レイヴン | 言ってなかったけど、実はおっさん「特務補佐官」って言ってさ |
レイヴン | 白き獅子のお仲間みたいなもんなのよ |
エリーゼ | 白き獅子の…?何でも屋って言うのは嘘だったんですか? |
レイヴン | いんや?あれはホントよ。特務補佐官ってのは何ていうかーおっさんの裏の顔、みたいな? |
レイヴン | 実際、この事はノーマちゃんだって知らないしね |
エリーゼ | …じゃあ、今まで一緒にいてくれたのは、わたしを監視するためだったんですか…? |
レイヴン | …まあ、そういう事になるわね |
エリーゼ | 嘘です…そんな… |
クロー | どうやら上手く取り込んでたみたいだな |
クロー | 何にせよ、よくやってくれたぜ。んじゃ、こっから先はオレ達の管轄だ |
クロー | この咎人の身柄はオレ達が── |
レイヴン | おっと…それなんだけど。いくらクローのお願いでも、出来ない相談なんだよね |
クロー | …どういう事だ?まさか、咎人に情が移ったとでも言うんじゃねぇだろうな |
エリーゼ | レイヴン…! |
レイヴン | それが…実はこのお嬢ちゃん、こっちの獲物でね |
エリーゼ | え…? |
ヴェイグ | どういう事だ… |
レイヴン | ラザリス様による「咎人の救済」を見守る事── |
レイヴン | …それが特務補佐官の務めであり、おっさんの裏の顔ってわけ |
エリーゼ | 咎人の…救済…… |
レイヴン | 宮殿の地下で行われる救済の儀式はとても神聖なものでね、宮殿内でも限られた者しかその全貌を知らないの |
レイヴン | おっさんを除いたら、当事者であるラザリス様と……あとは宰相様くらいじゃないかしら |
レイヴン | そんなすっごく内々の儀式で、少し困った事が起きちゃってねー。確か、生誕祭の日だったかしら |
レイヴン | どうもその救済の儀式の場にうっかり足を踏み入れてしまった「侵入者」がいたみたいなのよ |
ヴェイグ | 侵入者だと…? |
レイヴン | そ。おっさんは特務補佐官として、その人物を捜してた… |
クロー | じゃあ、お前の獲物ってのは… |
レイヴン | …ここまで言えばわかるよね。エリーゼちゃん |
エリーゼ | …そんな…… |
レイヴン | いやー上手く取り入ったお蔭で、本人がぜーんぶしゃべってくれたのよ |
レイヴン | まさかクローの捜してる新たな咎人でもあったとは、思ってもみなかったけどね |
クロー | お前の管轄内でそんな非常事態が起きてたってのも、初耳だけどな |
レイヴン | お互い担ってる仕事が違うんだから言えない事くらいあるじゃない? |
クロー | …まあな。何にせよ、そういう事なら仕方ねえ。この咎人の捕縛はお前に任せるさ |
クロー | どっちが捕まえようと地下牢送りってのは変わらねぇしな |
エリーゼ | …そんな、信じられません。今までずっとわたしを騙してたなんて… |
レイヴン | … |
エリーゼ | レイヴン…お願いです!嘘と言ってください… |
エリーゼ | こんなのは全部嘘で…これからもずっとわたしと一緒に来てくれると── |
レイヴン | ──ストップ。二度も遮っちゃって悪いけど、結論出ちゃってるからさ |
エリーゼ | …レイヴン… |
レイヴン | エリーゼちゃんとここまで一緒に来たのはただのお仕事 |
レイヴン | …けどそれも、これで終わり |
レイヴン | 大人しく捕まってちょうだいな |
レイヴン | さもないと… |
| |
| チャキ… |
ヴェイグ | エリーゼ、オレの後ろへ…!奴は本気だ |
ティポ | どうしてぼく達に弓を向けるのー?友達でしょー? |
レイヴン | ごめんね、今までのぜーんぶ「嘘」だったのよ |
ヴェイグ | お前は…! |
エリーゼ | レイヴン…! |
scene2 | 本当の自分 |
エリーゼ | レイヴン… |
レイヴン | … |
ヴェイグ | エリーゼ、ここは一旦引くぞ |
エリーゼ | …嫌です |
ヴェイグ | エリーゼ…? |
エリーゼ | このままなんて駄目です…。わたしは…行きません…! |
エリーゼ | レイヴンにもわたし達と同じように本当の記憶があるはずです |
エリーゼ | ヴェイグがしてくれたように、本当の記憶を取り戻させてあげないと…! |
ヴェイグ | …エリーゼ。気持ちはわかるが…今のあいつはお前の敵── |
エリーゼ | …いえ、友達です |
エリーゼ | ……レイヴンがこんな事するのはきっと、全部天帝のせいなんです…! |
エリーゼ | …本当のレイヴンならこんな事、絶対にしません… |
エリーゼ | わたしは…そう信じてますから |
レイヴン | ちょっとちょっと。信じるって今更、何言ってんのさ |
レイヴン | ラザリス様とかよくわかんないけど、事実として、エリーゼちゃんはおっさんに騙されてたのよ? |
レイヴン | 友達とか、そんな話だって全部嘘で── |
エリーゼ | …嘘なんかじゃありません |
エリーゼ | レイヴンはたまに何を考えているのかさっぱりですけど… |
エリーゼ | ノーマとレイヴンに助けられて一緒にお祭りに行って… |
エリーゼ | 根っこの部分は優しい人なんだって…この人は信じられるって思ったんです |
エリーゼ | その気持ちは、記憶を取り戻した今も変わっていません |
エリーゼ | …だって、全てを忘れてしまっていても、レイヴンはレイヴンです… |
エリーゼ | 天帝だって、心までは変えられないと思うんです |
レイヴン | … |
エリーゼ | だから、レイヴンを置いては行けません…!記憶を取り戻してあげないと… |
レイヴン | 置いてはいけないって、おっさん、別に… |
クロー | やれやれ…咎人ってのもここまで来ると哀れだな |
クロー | おい、レイヴン。咎人お得意の妄言だ、耳を貸す必要なんざねぇ |
エリーゼ | …聞いてください、レイヴン |
エリーゼ | わたし、全てを忘れてしまう前の本当のレイヴンを知ってるんです… |
エリーゼ | エステルやアーチェ…それに、リタ…。お名前に聞き覚えはないですか? |
レイヴン | エステル…アーチェ…リタ…? |
エリーゼ | はい…。大精霊の暴走で世界が危機に陥った時の事です |
エリーゼ | 世界中で起きていた異変の原因を探るために、あなたはリタ達と旅をしていました… |
エリーゼ | わたしがレイヴンと初めて会ったのもちょうどその頃です… |
レイヴン | …うーん、悪いけどおっさんには何の事かさっぱり… |
エリーゼ | 思い出してください、レイヴン!リタ達はあなたの仲間で、大切な友達です…! |
エリーゼ | ヴェイグと同じように、今頃リタ達もあなたを心配して捜してるかもしれません… |
レイヴン | …だから、何度も言わせないで。リタっち達の事なんて、全く── |
| |
レイヴン | …え?リタっち、って──… |
レイヴン | …! |
| |
ティポ | レイヴン君!? |
ヴェイグ | …まさか記憶を取り戻したのか? |
エリーゼ | レイヴン!リタ達の事、思い出して──… |
レイヴン | …今のは、一体…? |
エリーゼ | レイヴン、お願いです…!あと少し…もう少しなんです。真実を思い出してください |
エリーゼ | あなたがリタ達を忘れてるのも、世界を晶化で奪った天帝に従う事になっているのも全部… |
エリーゼ | …これは全部、作られた偽物なんです! |
レイヴン | 偽物… |
レイヴン | ──っ!! |
| |
リタ | 『うっさい、おっさん!』 |
アーチェ | 『あたしの実力は、 もうわかったでしょ? バンバン力になっちゃうから!』 |
| |
レイヴン | 今のは……? |
クロー | …ちっ |
クロー | レイヴン!おい、レイヴン! |
レイヴン | …!その…声は… |
| |
??? | 『どうした。 浮かない顔だな、レイヴン』 |
| |
レイヴン | あれ…?これって、あの夢で聞いた…… |
クロー | くっ! |
クロー | おい!しっかりしやがれ、レイヴン! |
クロー | 咎人の言葉なんかに、惑わされてんじゃねえ!奴らの常套手段だろうが! |
レイヴン | クロー… |
クロー | オレ達は天帝の命に従って、「正しい事」をやってんだ。ぶれるんじゃねえ! |
レイヴン | 正しい…事… |
レイヴン | くっ…この感覚、さっきと──… |
| |
『名もなき男』 | … |
国の重鎮 | …これは「正しい事」である |
国の重鎮 | 要人誘拐と言えば聞こえは悪いが、国の安寧を保つために、どうしても必要なのだ |
『名もなき男』 | はっ…心得ております |
国の重鎮 | では、やるべき事はわかっているな?狙うはウィンドル王国の姫殿下だ |
『名もなき男』 | …仰せのままに |
『名もなき男』 | …… |
| |
レイヴン | な…何なんだ、これ… |
レイヴン | ぐっ…また… |
| |
??? | くそっ、何でだ!何でお前がそんな事をする必要があんだよ! |
『名もなき男』 | 俺はただ、命令に従って「正しい事」をしてるってだけ |
『名もなき男』 | これでも一応騎士って身分だからね。祖国の命は絶対なのよ |
『名もなき男』 | それに…これは、俺に残された最後の── |
| |
クロー | ──ヴン、おい!レイヴン!どうしちまったんだよ! |
レイヴン | うっ…ク、クロー… |
レイヴン | そうだ、俺は…正しい事をしている…だけ… |
レイヴン | 俺は…… |
レイヴン | うっ…、頭が… |
クロー | レイヴン! |
エリーゼ | レイヴン、逃げないでください!本当の自分を取り戻す事から…本当の自分に向かい合う事から…! |
エリーゼ | そこに真実があります…! |
クロー | ちっ、咎人風情が好き勝手言いやがって… |
レイヴン | う…あ… |
レイヴン | これは… |
レイヴン | 俺が…今の俺になる前の──… |
| |
レイヴン | ──…! |
クロー | レイヴン! |
エリーゼ | レイヴン! |
ヴェイグ | … |
ティポ | レイヴン君ー! |
レイヴン | … |
レイヴン | は、はは…思い出しちまった… |
| |
クロー | レイヴン… |
レイヴン | 今はクロー…だっけか。「また」お前さんの言葉に助けられるとは…つくづく因果だねぇ |
レイヴン | …けど次は、おっさんの番って事になりそうね |
クロー | おいおい…、またとか次とか、一体何の話──… |
クロー | …って、まさかお前… |
エリーゼ | 記憶を…取り戻したんですね!レイヴン! |
レイヴン | …ん。忘れたかった事も含めてぜーんぶね |
レイヴン | …にしても何がどうなってんのかね。記憶操作だなんて |
エリーゼ | はい…。けど、天帝とヴァン…二人が関わっている事は確かです |
ヴェイグ | …詳しい話は後だ。まずはここを離れるぞ |
ヴェイグ | レイヴン、お前も一緒に来い |
レイヴン | へいへい、勿論ですよっと。…あいつを助けようにも機をうかがった方がよさそうだしね |
レイヴン | はあ…まさかこんな形で追う立場から追われる身になっちゃうなんてね |
クロー | …おいおい、ここから逃げ出せるとでも思ってんのか? |
レイヴン | クロー…。ま、そうなるわなぁ |
騎士団員 | 隊長、ここは我々が! |
レイヴン | おっと!そうはさせないわよ! |
| ヒュンッ! |
騎士団員 | くっ…!弓矢が…! |
クロー | レイヴン!お前… |
レイヴン | … |
クロー | やれやれ…まさか本当に咎人になっちまうとはな |
レイヴン | ま、そこんとこはおっさんも正直まだよくわかってないけど、捕まるわけにはいかないんだわ |
レイヴン | 目の前にいる、お前さんを助けるためにも、ね |
レイヴン | それよりどうよ、互いに武器を収めてここは一つ話し合いで、さ |
クロー | わかってるはずだぜ?そうなっちまったお前と話す事は何一つねえってな |
クロー | ──総員、戦闘態勢に入れ。目の前にいる咎人三人を捕縛する |
騎士団員 | はっ…!! |
エリーゼ | …! |
ティポ | どど、どうしよう!? |
ヴェイグ | …エリーゼはオレが守る |
クロー | …レイヴン、最初で最後の警告だ |
クロー | 大人しくお縄頂戴されんなら今しかねえぜ? |
レイヴン | お気遣いどーも。…けど、聞くだけ無駄よ |
レイヴン | 言ったでしょ、今捕まるわけにはいかないって |
クロー | …なら、斬られても文句なしってわけだな |
クロー | それじゃ…遠慮なく行くぜ! |
| |
レイヴン | そうじゃない──ってもわかっちゃくれないか… |
レイヴン | ったく、やりたかないんだけどねえ |
scene3 | 本当の自分 |
レイヴン | おっとっと…!やっぱ、やるわね |
クロー | お前もな。だが… |
クロー | こいつはどうだっ! |
| ビュンッ! |
レイヴン | あぶっ! |
| ズルッ! |
レイヴン | うおっ!?ぬかるみで足が! |
エリーゼ | レイヴン! |
クロー | …そこだっ! |
ヴェイグ | そうはさせん…! |
| ガキン──ッ! |
クロー | ちっ…邪魔が入ったか |
レイヴン | ふう…ありがとね。おっさんが、女だったら惚れてるわ |
ヴェイグ | …早く立て。すぐに次が来る |
レイヴン | へいへい。全く…若い子は余裕がなくていけないねえ |
クロー | …… |
レイヴン | 「正しい事」をやってる…か。お前さんがあんな風な事を言うとは…本当なら想像もつかないねえ |
レイヴン | ま…そのお蔭で思い出せたんだけど、…これじゃどうにも目覚めが悪いわな |
レイヴン | そっちもさっさと思い出したらどーよ |
レイヴン | おっさんがさ、お前の正体教えてあげるから── |
クロー | 黙りやがれっ! |
| ビシュッ! |
レイヴン | うおっと! |
クロー | 咎人の言葉に耳を傾ける気はねえよ |
騎士団員 | クロー隊長! |
ヴェイグ | …増援か。まずいな |
ティポ | このままじゃ、囲まれちゃうよー! |
エリーゼ | どうしたら… |
??? | みんな、逃げて! |
??? | グランドダッシャー!どっせ───い! |
| ズドドドドッ! |
騎士団員 | うわぁっ!? |
レイヴン | お?この術は… |
ヴェイグ | …今だ!逃げるぞ、エリーゼ |
エリーゼ | あ… |
ティポ | 待ってー! |
エリーゼ | レイヴンも早く! |
レイヴン | … |
クロー | レイヴン!待て! |
レイヴン | …借りは必ず返すぜ。だから── |
レイヴン | また会おうぜ、青年! |
scene1 | いつか晴れる空 |
エリーゼ | はあ…はあ… |
ティポ | もうヘトヘトー |
ヴェイグ | …大丈夫か、エリーゼ |
エリーゼ | は、はい… |
レイヴン | 白き獅子達は、追って来てないわね |
レイヴン | はぁ~助かったぁ~ |
| |
ヴェイグ | 術の援護がなければ危なかったな… |
ヴェイグ | しかし、一体誰が… |
エリーゼ | レイヴン…さっきわたし達を助けてくれた人、あの声って… |
レイヴン | ああ。助けに来てくれたみたいね |
レイヴン | …ま、とにかくこれで、結果オーライって事よ |
レイヴン | 勿論まだ、安心は出来ないけどさ |
エリーゼ | です、ね… |
エリーゼ | そうだ…改めて。お久しぶりです、レイヴン |
レイヴン | そうね…前に会ってから、どれくらい経ったのかしら |
レイヴン | 一方で、ここまでエリーゼちゃんと旅してきた記憶もそのままだから、頭がどうにも混乱してるんだけど |
エリーゼ | それは…わたしもです |
エリーゼ | でも、レイヴンの記憶が戻って本当によかったです |
レイヴン | エリーゼちゃん… |
レイヴン | いや~ホント助かった!エリーゼちゃんはまさに救いの天使って感じだねえ! |
エリーゼ | 天使…ですか?ちょっと、よくわかりません… |
レイヴン | ま、ありがとねって事よ |
ティポ | 素直じゃないなー |
レイヴン | それはそうと、このわけのわからん状況はどういう事なのよ? |
レイヴン | 天帝とヴァンが関わってるとか何とか言ってたけど |
ヴェイグ | やはり天帝の御座でヴァンが話していた事が実現したと言う事か… |
レイヴン | 天帝の御座?何それ? |
エリーゼ | …実は── |
レイヴン | ──なるほどね |
レイヴン | つまり晶化現象を止めるためにその天帝の御座ってとこでヴァン達と戦ったと… |
レイヴン | しっかし、あの晶化現象ってのがまさかラザリスの力だったとはねえ… |
ヴェイグ | ああ。そしてヴァンはそこで全てを一からやり直せる世界を作ると言った |
エリーゼ | そして、今のこの世界は見た事のない街や風景ばかりです… |
ヴェイグ | そう…おそらくだが、この世界こそがヴァンが目指し、天帝が実現したものなのだろう |
レイヴン | おっそろしい事するもんだねえ…。そんな奴に仕えてたと思うとぞっとするわ |
エリーゼ | レイヴン…わたしとヴェイグはこの後、世界を巡って仲間達を捜そうと思っています |
エリーゼ | 何故記憶操作が行われているのかはまだわかりませんが… |
エリーゼ | ヴェイグやわたし以外のみんなもきっとどこかにいるはずです |
エリーゼ | 仲間を見つけ出して…そして、今度こそヴァンを止めて、世界を取り戻します |
ヴェイグ | …ああ |
エリーゼ | それで…レイヴンさえよければこの後も一緒に行きませんか…? |
レイヴン | そうね… |
レイヴン | …勿論よ。さっき言ったでしょ── |
| |
ノーマ | ちょっと待って! |
ヴェイグ | お前は… |
エリーゼ | ノーマ… |
| |
レイヴン | さっきはありがとね、ノーマちゃん |
レイヴン | 術で援護してくれたお蔭で、無事に逃げ出せたわ |
レイヴン | やっぱり持つべきものは、頼れる相棒だねえ |
ノーマ | そんなのいいからさ、早く帰ろう、レヴっち |
エリーゼ | ノーマ…あの、わたし── |
ノーマ | ごめんね、エーちゃん…咎人とは話せないよ… |
ティポ | ノーマ君… |
ノーマ | …レヴっち、さっきはごめん。びっくりしてつい飛び出しちゃった |
ノーマ | けど、やっぱり放っておけないから戻ってきたんだ。…ほら、相棒じゃない?あたしら |
ノーマ | そしたら白き獅子とやり合ってるし…ホント、何やってんのさ…! |
ノーマ | …話は後で聞くからとにかく、あたしと一緒に帰ろ? |
レイヴン | ノーマちゃん… |
レイヴン | …おっさんとしても、出来ればそうしたかったけどね。でも無理だわ |
レイヴン | もう決めちゃったから。…エリーゼちゃん達と行くって |
ノーマ | …え? |
レイヴン | …… |
scene2 | いつか晴れる空 |
ノーマ | …な、何言ってんの、レヴっち!このヴェイグって人も、エーちゃんも咎人なんでしょ? |
ヴェイグ | … |
ノーマ | そりゃエーちゃんが咎人になったなんてあたしも信じたくないよ! |
ノーマ | ホントはエーちゃんと一緒に何でも屋やりたかったし、もっと話したかった! |
ノーマ | …信じたくない気持ちは痛いくらいわかる |
ノーマ | でも…咎人になったって言ったのはレヴっち自身じゃんか…! |
ノーマ | それが事実なら、咎人と一緒に旅なんて…許される事じゃない! |
ノーマ | …ラザリス様に背く事になるんだよ?やるべき事を見失わないで |
レイヴン | … |
エリーゼ | ノーマ…。レイヴンは… |
ヴェイグ | 待て、エリーゼ… |
エリーゼ | でも…! |
ヴェイグ | …今はあの男に任せよう |
| |
レイヴン | …ノーマちゃんの言う通りだ |
ノーマ | …! |
レイヴン | 早く帰ろう、おっさんが間違ってたよ |
ノーマ | レヴっち!わかってくれたんだ── |
レイヴン | ああ、勿論… |
| |
レイヴン | …ごめんね、ノーマちゃん |
ノーマ | え…? |
| トスッ! |
ノーマ | ──っ! |
| バタッ! |
ティポ | ノーマ君!? |
エリーゼ | ノーマ! |
レイヴン | 大丈夫、気を失っただけだから |
| |
エリーゼ | レイヴン… |
ヴェイグ | …これでよかったのか?お前を信頼していたからこそさっきも助けに来たのだろう |
レイヴン | …出来ればこんな事はしたくなかったけどね。でも今は、こうするしかないでしょ |
レイヴン | 白き獅子から逃げ切る事がまず目先の優先事項 |
エリーゼ | でも… |
レイヴン | 大丈夫。俺達を追ってきたクローがしっかりノーマちゃんを保護してくれるはずよ |
エリーゼ | … |
レイヴン | 今のノーマちゃんを巻き込むわけにはいかないし、まずは記憶を取り戻してあげないと、でしょ? |
レイヴン | そのためにも、今ここでおっさん達がとっ捕まるわけにはいかないのよ |
エリーゼ | そうですね… |
レイヴン | ま、記憶を取り戻す方法を見つけるのが先だけど |
エリーゼ | レイヴンの時と同じようにノーマに語りかければ… |
レイヴン | どうだろうねえ。話すら聞いてくれない人もいるだろうし |
レイヴン | おっさんやエリーゼちゃんは、運よく話している内に記憶が戻ったけど… |
レイヴン | 誰でもそうなのかは、まだ何とも言えないねえ。他の理由があるかもしんない |
ヴェイグ | 確かにな… |
レイヴン | 今の世界がどうなってるかもよくわからないしね… |
エリーゼ | はい… |
ティポ | ノーマ君… |
レイヴン | …でも、おっさんでも記憶を取り戻せたし、ノーマちゃんだってきっと記憶を取り戻せるはずよ |
ヴェイグ | そうだな…。オレもレイヴンと同じ意見だ |
ヴェイグ | ところで、これからの動きについてだが… |
ヴェイグ | まずは近隣の村でスレイ達の情報を探るのはどうだろう |
ヴェイグ | もし、オレ達と同じように記憶を取り戻している者がいれば騒ぎになっているかもしれない |
エリーゼ | …そうですね。ただ、みんなを捜すのもそうですが… |
エリーゼ | わたしはみんなの記憶を取り戻す、はっきりした方法も調べたいです |
エリーゼ | ノーマや…記憶を失っているかもしれないみんなのために… |
レイヴン | それと…この世界の仕組みがどうなってるのかも、突き止めたいわね |
レイヴン | そうなると…ベルベットちゃんにもう一度接触するのがいいかも |
ヴェイグ | ベルベット…?それは誰だ? |
レイヴン | 生誕祭で、天帝に襲いかかった娘、覚えてない? |
レイヴン | その後、地下牢に捕まっててさ。実は、その天帝直々の指示でわざと逃がしたのよ |
ティポ | わざと…? |
エリーゼ | 何故ですか…? |
レイヴン | さあね。おっさんはただ命令に従っただけだから |
レイヴン | 何か目的はあったんだろうけど、今となっては、それはわかんないわね |
レイヴン | …けど、咎人だし、何より天帝に敵意むき出しって感じだったし、協力は出来ると思うわ |
エリーゼ | では、スレイ達も捜しつつ、そのベルベットという人も捜してみましょうか |
ヴェイグ | オレも異存はない、味方は一人でも多く欲しい |
ヴェイグ | 天帝を討とうとした者だ、仲間になってくれれば心強い |
レイヴン | よーし、そうと決まれば、もたもたしてらんないね |
レイヴン | 今度はこっちが助けるってあいつに大口叩いちゃったし… |
エリーゼ | あいつ…? |
レイヴン | …ああ、何でもない。こっちの話 |
ヴェイグ | 何はともあれ…方針は決まったな |
エリーゼ | あ…空、見てください…! |
| |
レイヴン | おっ…。雨が上がったねえ |
エリーゼ | 空には晴れ間も覗いていますよ。ほら |
レイヴン | あら、本当~ |
ティポ | 何だか久しぶりな感じー |
エリーゼ | …レイヴンはあの時言いましたよね |
エリーゼ | どんなに楽しい時も、いつか必ず終わる、って |
レイヴン | ああ、お祭りの後の話? |
エリーゼ | でも、それって逆も言えますよね。ずっと降り続く雨なんか、ないんです |
エリーゼ | 必ず晴れる時は来ます。あの空みたいに |
エリーゼ | 希望だって、持ってていいんです。そう、思いませんか? |
レイヴン | 随分詩的な言い方じゃない、エリーゼちゃん。美少女が言うと様になるわねぇ |
レイヴン | でも…そうだな… |
エリーゼ | どうしたんですか? |
レイヴン | …何でもないさ。それじゃ、行きましょ |
ヴェイグ | …ああ |
エリーゼ | はい |
Name | Dialogue |
scene1 | ブランの花 |
コレット | ふんふふふ~ん |
コレット | 今日は天気がいいからお花にしっかりお水をあげないとね |
コレット | 綺麗な花壇になるといいなぁ |
コレット | ふんふふ~ん♪ |
シェリア | あ、いたいた。コレット、ここだったのね |
コレット | シェリア!見て見て。お花、もうすぐ咲きそうだよ |
シェリア | 本当!綺麗な花壇になりそうね。ところでこれって、何ていう花? |
コレット | えっと…何だったかな… |
シェリア | コレット…せっかくなんだから、花の名前と花言葉ぐらい覚えておいた方がいいわよ? |
シェリア | そうすれば、花を育てるのがもっと楽しくなるから |
コレット | うん。今度調べておくね |
コレット | それはそうと、私に何か用?捜してたみたいだったけど… |
シェリア | あ、そうだった!ねぇ、コレット。一緒に市都ファルカームに行かない? |
コレット | いいよ。ファルカームまで行くなんて、買い出しかな? |
シェリア | ふふ…実は今、ラザリス様がファルカームに来ていらっしゃるんですって |
コレット | ラザリス様が?わあ、すごいね! |
シェリア | 視察で訪れているそうよ。という事はもしかすると、生誕祭の時よりも… |
コレット | 近くでお目にかかれるかも! |
シェリア | そうね。目が合っちゃったりして |
コレット | またお話を聞けるかな? |
シェリア | ふふ、それはどうかしら。けど、お姿を見られるだけでも十分幸せな事だと思うわ |
シェリア | どうする?ファルカームへ行ってみる? |
コレット | うん、行きたい! |
シェリア | コレットったら、あの生誕祭以来、ますますラザリス様への憧れが強くなってるものね |
コレット | うん!シェリアもだよね? |
シェリア | ええ、勿論よ |
シェリア | それじゃ、早速準備をして出発しましょうか |
コレット | 楽しみだね |
scene2 | ブランの花 |
シェリア | いいお天気。絶好のお出かけ日和ね |
コレット | うん。日差しも穏やかで、気持ちいいね |
コレット | …!シェリア、向こうを見て |
シェリア | あれは… |
| |
コレット | わあ、綺麗。お花がこんなにいっぱい…! |
シェリア | これはブランの花かしら。一面、白いじゅうたんみたいで絶景ね… |
コレット | ブランの花っていうんだ。可愛い名前 |
コレット | そだ、シェリア。お花の名前と花言葉を知るといいって言ってたよね? |
コレット | ブランの花言葉は何かな? |
シェリア | 確か…「大切なあなたを守る」よ |
コレット | わぁ、素敵だね |
シェリア | ええ。だからこの花は、恋人に気持ちを伝えるために使われる事も多いの |
シェリア | そういうのって憧れるわよね。私もいつか好きな人が出来たら、ブランの花を贈ってもらいたいわ |
コレット | 好きな人、かぁ…いつか素敵な人に出会えるといいね |
シェリア | ふふ、そうね |
コレット | ねぇ、シェリア。花を贈るのって、恋人じゃないといけないの? |
シェリア | そんな事ないわ。大切にしたいって想う相手なら誰に贈ってもいいのよ |
コレット | そっか |
シェリア | どう?花言葉を知れば、そのお花をもっと好きになるでしょ? |
コレット | うん。「大切なあなたを守る」…そんな気持ちが込められたお花だって思うと、もっと綺麗に見えてきたよ |
コレット | そだ!このお花をラザリス様に贈るのって、どうかな? |
シェリア | ブランの花を…? |
コレット | ラザリス様に私達の気持ちが伝わるんじゃないかな |
コレット | ラザリス様は私達みんなのために平和を祈ってくださってるけど、私達も大切なラザリス様を守りたい… |
コレット | …そういう気持ちって、言葉では言い尽くせないけど、お花に込めれば伝えられるかも |
シェリア | そうね、いい考えだわ |
シェリア | お渡しする機会さえあれば、きっと喜んでいただけるんじゃないかしら |
コレット | だよね!それじゃ、たくさん摘んでいこ! |
シェリア | ええ。二人で最高の花束を作りましょう |
| |
コレット | たくさん摘めたね |
シェリア | 綺麗な花束になったわ。ラザリス様への気持ちがこもった素敵な贈り物よ |
コレット | ラザリス様、喜んでくれるといいなぁ |
シェリア | そうね。それじゃあ、そろそろファルカームへ向かいましょう |
コレット | あっ、待って、シェリア |
シェリア | コレット?どうかしたの? |
コレット | シェリアにもこれ…はい |
シェリア | ブランの花輪…?これを私に? |
コレット | うん。シェリアのために作ったの。親友の証! |
コレット | ラザリス様は勿論だけど、シェリアも、私にとって大切な人だから |
シェリア | ありがとう、コレット。あなたの気持ち、すごく嬉しいわ |
コレット | えへへ… |
シェリア | 私もお返しをしなくちゃね。親友の証だもの、同じ花輪がいいかしら… |
| |
| ガサッ… |
コレット | …あれ? |
シェリア | 何の音? |
| |
| ガルルルル! |
コレット | 大変、魔物が! |
シェリア | …追い払いましょう。この綺麗な花畑を荒らさせはしないわ…! |
scene1 | 天帝を訪ねて |
コレット | 無事に着いたね。市都ファルカーム! |
シェリア | オルシャ村に比べて大きな街なのは確かなんだけど… |
シェリア | それにしたって、こんなに人が多かったかしら? |
| ザワ…ザワ… |
コレット | ほんとだね。たまにお買い物に来るけど、こんなの初めて見たよ |
シェリア | そっか…これみんな、ラザリス様の事を聞きつけて来たんだわ |
コレット | 私達と同じだね。それで、ラザリス様は街のどこにいるのかな…? |
シェリア | ええと… |
街の女1 | ちょっと聞いた?ラザリス様、今日はすぐそこの広場にいらっしゃってるそうよ |
街の女2 | 本当かい?いつも通りかかる広場にラザリス様がいらっしゃるなんて、ありがたいったらないねぇ |
シェリア | …聞くまでもなかったわね |
コレット | ラザリス様は広場だね。早く行こ! |
シェリア | 広場ってまだ先よね…。既にこんなに混んでるなんて |
| ザワ…ザワ… |
コレット | すごい人だかり…。通れるかな… |
| ドンッ |
コレット | わぁっ!? |
シェリア | コレット!? |
街の男 | おっと、ごめんよ。怪我はないか、お嬢ちゃん |
コレット | だいじょぶです。こっちこそごめんなさい |
街の男 | いや、無事なら何より。何せこの人だかりだからな… |
街の男 | お嬢ちゃん達、危ないから気を付けなよ |
コレット | はい。ありがとうございます |
シェリア | 確かに、この先に進むにはそれなりの覚悟がいりそうね… |
シェリア | でも、ここまで来て諦められないわ。行きましょう、コレット。お花、潰されないように気を付けてね |
コレット | うん。…あれ? |
シェリア | どうかしたの? |
コレット | な、ない…。お花がないよ。どこかで落としちゃったのかな… |
シェリア | えぇっ!?大変じゃない! |
シェリア | 仕方ないわね…来た道を戻ってみましょう |
シェリア | お花、お花…見つからないわね… |
コレット | ひょっとして、さっきの人とぶつかった時に落としちゃったのかなぁ… |
シェリア | えぇ…けど、あの辺りだとしたらとても探せる状況じゃ… |
コレット | どしよ… |
??? | あ、あの…ちょっといいかな |
コレット | はい。…あっ! |
シェリア | その手に持っているのって… |
??? | ごめん、いきなり話しかけたりして |
??? | この花束なんだけど、君達の落とし物、だよね? |
コレット | あっ、それ、探してたの。拾ってくれたんだね、ありがとう! |
??? | 渡せてよかった。すぐに声をかけようと思ったんだけど、人がすごくて… |
シェリア | ありがとう。本当に助かったわ |
??? | どういたしまして |
コレット | よかった。これでラザリス様にちゃんと渡せるね |
シェリア | その前に、無事に広場までたどり着ければ…だけどね |
??? | あの…二人共、広場に行きたいの? |
??? | それだったら、いい裏道があるよ。よかったら案内しようか? |
コレット | そんな道があるんだ |
??? | うん。街の人でもあまり知らないとっておきの抜け道なんだ |
??? | そこを通れば、人だかりを避けてすぐ広場に行けると思う |
シェリア | えっと…気持ちはとても嬉しいけど、どうして私達にそこまで? |
??? | ラザリス様にお花を贈りたいんだよね。それを手伝いたいと思って |
コレット | えへへ、ありがとう! |
シェリア | そういう事なら…お言葉に甘えてもいいかしら? |
??? | 勿論だよ |
ルカ | あ、まだ自己紹介してなかったね。僕はルカ・ミルダ |
コレット | ルカさんだね。よろしく。私はコレット・ブルーネルです |
ルカ | さん、なんてつけなくていいよ。ルカって呼んで |
シェリア | 私はシェリア・バーンズ。私達も、さんづけじゃなくていいからね |
ルカ | わかった。コレットにシェリアだね。よろしく |
ルカ | それじゃ、早速行こう。こっちだよ、ついて来て |
コレット | うん |
scene2 | 天帝を訪ねて |
ルカ | ──なるほど。コレットとシェリアは、オルシャ村から来たんだね |
コレット | うん。ラザリス様が、ファルカームにいらっしゃるって聞いて |
シェリア | 生誕祭にも行ったんだけど、あの時は遠くからしか見られなかったから |
ルカ | 気持ちはわかるよ。ラザリス様に間近でお会い出来る機会なんて、滅多にないしね |
ルカ | 僕もこの街にラザリス様がいらっしゃったって聞いた時は、夢かと思ったよ |
コレット | いいなぁ。いつかオルシャ村にも来てくださるかな? |
シェリア | どうかしら。ファルカームと違って、小さな街だから… |
ルカ | きっとオルシャ村にも来てくれるよ |
ルカ | ラザリス様はお忙しい中、時間を作っては、こうやって各地を回ってるらしいし |
ルカ | 民を想ってそこまでしてくださる素晴らしいお方なんだ。街の大きさなんて関係ないと思うよ |
シェリア | そっか…そうかもしれないわね |
| |
| ザワ…ザワザワ… |
コレット | あ…また大勢の人の話し声が |
ルカ | この先が広場だからね。もう少しだよ |
シェリア | いよいよね… |
コレット | ドキドキしてきた… |
ルカ | ここを曲がれば広場だよ |
コレット | この先に、ラザリス様が…! |
シェリア | コレット、そんなに急いだら転ぶわよ。気を付けて |
シェリア | 全く… |
ルカ | よっぽど楽しみだったんだね。気持ちはわかるよ。僕達も行こう |
scene1 | 静かなる慟哭 |
ラザリス | … |
民衆 | ラザリス様!ラザリス様! |
ラザリス | … |
ラザリス | 今回も成果はなし。一体どこに… |
警備兵 | ラザリス様。そろそろシャングレイスへお戻りになられますか? |
ラザリス | そうしようか。今頃は逃げた鼠を追いかけるのに大わらわだろうけどね |
警備兵 | 逃げた鼠…? |
ラザリス | … |
ラザリス | …ん? |
コレット | わわわわ…! |
| |
| ずってーーん! |
ラザリス | …? |
警備兵 | 何者だ!? |
| |
コレット | いたた… |
ラザリス | …誰? |
コレット | えっ…あっ… |
コレット | わあっ!ラ、ラザリス様…! |
警備兵 | ラザリス様、お下がりください。この前の生誕祭の件もあります |
シェリア | コレット!大丈夫!? |
ルカ | ごめんなさい!僕達、怪しい者じゃありません |
ルカ | 裏道を通ってきたら、たまたまここに出てしまって…。本当にすみません! |
警備兵 | 三人共、動くな。妙な動きをしたら、容赦出来んぞ |
シェリア | そんな!私達、本当に怪しい者じゃ… |
ルカ | シェリア。ここは大人しく従った方が── |
ラザリス | … |
コレット | あ…ラ、ラザリス様… |
警備兵 | ラザリス様、危険です。近づかれては… |
ラザリス | 花… |
コレット | え…? |
ラザリス | 落とし物だよ |
コレット | あ!ありがとうございま── |
| |
コレット | …!何…これ… |
ラザリス | …? |
コレット | この感じ… |
コレット | …これってもしかして、ラザリス様の…「感情」──…? |
ラザリス | …… |
| |
ラザリス | …君、名前は…? |
コレット | え?あ…えと…その、私…コレットです!コレット・ブルーネルって言います! |
ラザリス | …コレット |
ラザリス | 面白いね、君。…近い内にまた会える事を祈ってるよ |
コレット | …え? |
ラザリス | さ、帰るよ |
警備兵 | ラ、ラザリス様!お待ちください! |
ルカ | みんな、行っちゃったみたい |
シェリア | 私達、見逃してもらえたのかしら |
ルカ | 多分ね… |
コレット | … |
シェリア | コレット、大丈夫?怪我はない? |
コレット | あ、うん。大丈夫… |
シェリア | よかったわ |
シェリア | それにしても、すごいじゃない!ラザリス様にお声をかけていただけるなんて |
ルカ | 一時はどうなる事かと思ったよ。けど、ラザリス様とお話出来たのは嬉しい誤算だったね |
ルカ | ねぇ、コレット。ラザリス様とどんなお話したの?僕、よく聞こえなかったんだ |
シェリア | いいなぁ。私もお話したかったわ。コレット、感想を教えてよ |
コレット | …あ、うん |
ルカ | あれ?コレット、その花束ラザリス様に渡せなかったんだ |
シェリア | きっと緊張でそれどころじゃなかったのよ。でしょ? |
コレット | … |
シェリア | …?コレット、聞いてる? |
コレット | …!あ、えと…ごめんシェリア。何…? |
シェリア | …コレット…? |
scene2 | 静かなる慟哭 |
ルカ | ──じゃあこの部屋を使ってね |
シェリア | 本当に泊めてもらってもいいの? |
ルカ | うん。もう遅いから。夜道を歩いて帰るのは、危ないしね |
ルカ | 僕は自分の部屋にいるから、何か必要な物とかあれば、いつでも気軽に声をかけてね |
シェリア | ありがとう。助かるわ |
ルカ | それじゃ、おやすみなさい。ゆっくり休んで |
| バタン |
シェリア | 大きなお屋敷ね…。部屋もベッドも余ってるなんて… |
シェリア | お蔭で助かったわ。昼間の事といい、ルカにはお世話になりっぱなしね |
シェリア | 何かお礼しなくちゃ。ねぇ、コレット? |
コレット | …あ、うん。そだね |
シェリア | コレット…? |
コレット | … |
シェリア | どうしたの?心ここにあらずって感じだけど… |
コレット | え…?そ、そかな? |
シェリア | ええ。じっと花束を見つめたまま、ずっと考え込んでたわよ |
コレット | あ… |
シェリア | ラザリス様とお話してからずっとその調子じゃない |
シェリア | もしかして花束を渡せなかった事が、心残りなの? |
シェリア | 今日は駄目だったけど、いつかまた、お渡し出来る機会が来るわよ |
シェリア | だから… |
| |
コレット | えと…そうじゃないの |
コレット | 私がずっと考えてたのは、花束を渡せなかった事じゃなくて…その… |
シェリア | 何か心配事でもあるの?よかったら話してみて |
コレット | えとね…ラザリス様から花束を受け取った時… |
コレット | 突然、不思議な感じがして… |
シェリア | 不思議な…? |
コレット | 上手く言えないんだけど…ラザリス様の感情が私の心に入って来るみたいな… |
コレット | 不安で…悔しくて悲しくて…寂しくて… |
コレット | 冷たくて苦しい…けど焦がれるように熱い… |
コレット | 心が辛くなるような気持ちが全部、渦になって混ざってる…そんな感情だったの… |
シェリア | そんな…ラザリス様が…? |
コレット | あのラザリス様が、あんな苦しくて辛い想いを抱えてる… |
コレット | そう思ったら、私… |
シェリア | コレット… |
コレット | ねぇ、シェリア。もしかしたら、ラザリス様、何かお困りなのかな…? |
コレット | 私達に見せないような悩みがあるのかもしれないって私、不安で… |
コレット | もしラザリス様に、誰も相談する相手がいないんだったら… |
コレット | 私が助けになれればいいのに、とか…そんな風にも思ったりして |
シェリア | なるほどね… |
コレット | もし私の思い過ごしだったら、それでいいの |
コレット | けど、そうじゃないなら… |
コレット | …ラザリス様のために私に出来る事って何かあるかな…? |
シェリア | うーん…難しいわね…。ただの一般人でしかない私達に出来る事なんて… |
シェリア | …そうだわ。宮廷神子になるのはどうかしら |
| |
コレット | 宮廷…神子? |
シェリア | ラザリス様のお側にお仕えして、身の回りのお世話をするお役目よ |
シェリア | 時にはラザリス様の名代として街を巡回し、お言葉を伝えたりもするらしいわ |
シェリア | ラザリス様とお近づきにもなれるはず |
コレット | その宮廷神子って、私もなれるの? |
シェリア | 試験に合格すれば、ね |
シェリア | 聞く話によると、宮廷神子になるための試験というものがあるらしいわ |
シェリア | それを受けるためにシャングレイスには毎日のように志願者が訪れてるとか… |
シェリア | ただ、公に募集しているわけじゃないみたいだから、突然行って受けられるかはわからないけど… |
コレット | 宮廷神子の試験… |
コレット | …ありがとう、シェリア。私、シャングレイスに行ってみるよ |
コレット | 宮廷神子になって…ラザリス様の支えになりたい |
シェリア | …そう。なら決まりね。私も一緒に行くわ、同じ志願者として |
コレット | シェリアも? |
シェリア | いけない?ラザリス様を支えたい気持ちは、私だって同じよ |
シェリア | もし一緒に試験を受ける事になったら、私達、ライバルになるわね |
コレット | シェリアがライバルじゃ、勝てる気がしないよ… |
シェリア | ふふ…ようやく表情も晴れたわね |
シェリア | じゃあ、早速だけど明日このままシャングレイスに向かいましょうか。善は急げって言うしね |
コレット | うん! |
コレット | ラザリス様をお支えする宮廷神子か…なれるといいなぁ |
シェリア | さ、明日に備えて今日は寝ましょう。おやすみなさい |
コレット | おやすみ、シェリア |
scene1 | 白き獅子の牙 |
コレット | 無事、シャングレイスに着いたね |
シェリア | 相変わらず大きな街ね。あのファルカームが小さく思えるぐらい… |
コレット | でも、ファルカームもいい街だったよね。ルカともお友達になれたし |
シェリア | 彼には本当にお世話になったわね。宮廷神子の事も応援してるって言ってくれたし |
コレット | ルカにいい報告が出来るように、頑張らないとね |
コレット | …でも、どこに行けばいいのかな? |
シェリア | うーん、ひとまず宮殿に行けば詳しい事がわかるんじゃないかしら |
コレット | それもそだね。それじゃ、宮殿に行ってみよっか |
コレット | こうして歩いてると、何だか生誕祭の事を思い出すね |
コレット | また奇術団とか来てないかな? |
シェリア | わからないけど、ああいうのはお祭りの時だけじゃないかしら |
コレット | ジュードやカイルも元気にしてるといいなぁ |
シェリア | そんなに昔の事でもないのに、何だか懐かしいわ。忘れられない思い出になったわね |
シェリア | そういえば…ファルカームで誰かが噂してるのを聞いたんだけど… |
シェリア | 生誕祭でラザリス様を襲った女の人が脱獄したそうよ。今、白き獅子が捜してるんだって |
コレット | そなんだ。それでかな?何だか街が落ち着かない空気だなって思ってたんだけど… |
シェリア | 確かにそうね…。けど脱獄って何日も前の事らしいし、街の外に逃げたって聞いたけど… |
街の男1 | おい、聞いたか。新しい咎人が出現したって話 |
街の男2 | ああ。例の脱獄した女もまだ捕まらないんだろ?白き獅子は大忙しだとよ |
コレット | 新しい咎人… |
シェリア | なるほど…街が落ち着かない空気なのはそういう理由だったのね |
シェリア | あの女の人の脱獄に、新しい咎人…帝都では事件が続いてるんだわ… |
コレット | 何だか怖いね… |
シェリア | 白き獅子が動いてるならすぐに解決するとは思うけど…用心するに越した事はないわね |
シェリア | コレット、いい?知らない人に声かけられても、絶対について行っちゃ駄目よ |
コレット | うん。だいじょぶだよ |
シェリア | 早く宮殿に行きましょう |
scene2 | 白き獅子の牙 |
シェリア | 宮殿の前まで来てみたけど…どこに行けばいいのかしら? |
シェリア | あ。あそこにいるの宮殿の衛兵よね。ここで待ってて。私、ちょっと聞いて来るから |
コレット | うん。わかった |
コレット | シェリアは頼りになるなぁ。私も、宮廷神子を目指すならしっかりしなくちゃ… |
??? | ん?あれ、お前… |
コレット | え、私ですか? |
シェリア | ただいま…って、あら?コレット? |
コレット | シェリアー!こっちこっちー! |
シェリア | あっ…!コレット…! |
コレット | シェリア!宮廷神子の試験の場所、教えてもらったよ |
シェリア | コレット。知らない人について行っちゃ駄目って言ったばかりじゃない |
コレット | だいじょぶだよ、よく知ってる人だから |
ファング | 用心深いのはいいけどいきなり怪しい人みたいに言わないでくれよな |
シェリア | わっ…!も、もしかして、あなたは…ファング様!? |
シェリア | 知ってる人って……嘘、まさか… |
シェリア | 申し遅れました!私、シェリア・バーンズって言います |
シェリア | まさかこんな形でファング様とお話出来るなんて…夢みたいです |
ファング | そんな風に言ってもらえて俺も嬉しいよ |
シェリア | 親友のコレットがいつもお世話になっているようでありがとうございます |
コレット | …? |
シェリア | 本当ならすぐにでも挨拶すべきところだったのに、この子ったら何も言ってくれなくて… |
シェリア | でも、コレットがファング様のような方とお知り合いだったなんて、親友としてもすごく鼻が高いです…! |
コレット | あれ…?何か… |
シェリア | ファング様、これからもコレットの事末永くよろしくお願い── |
コレット | シェリア…あの…何か誤解してる、かも…? |
シェリア | …?誤解って… |
コレット | えと、その…ファング様は「知ってる人」だけど「知り合い」とはちょっと違って… |
シェリア | へ…? |
シェリア | ──まさか「ファング様と知り合い」なんじゃなくて「コレットが一方的に知ってる」だけだったなんて… |
コレット | えへへ…ごめんね。でも私、ファング様の事は結構いろいろ知ってるんだよ |
コレット | 白き獅子の幹部をしてるすごい人って事とか…他にも、剣を二本使って戦う事とか! |
ファング | おお、よく知ってるな! |
シェリア | そ、そんなのエンテレスティア中の人が知ってるわよ! |
シェリア | はあ…私の早とちりだったわけ…?恥ずかしい… |
シェリア | ファング様。重ね重ね、失礼いたしました |
ファング | まぁ気にするなって。そんな事もあるある |
ファング | ところで、シェリアも宮廷神子の志願者なのか? |
ファング | 実は、コレットが宮廷神子になるって言ってたのが聞こえてさ |
ファング | それだったら大聖堂で聞けばいいって教えてたところなんだ |
シェリア | そうだったんですか。ありがとうございます |
ファング | おーい、そこの衛兵!悪いけど、この二人を、大聖堂へ案内してやってくれないか? |
衛兵 | はっ。かしこまりました |
コレット | そんな、みなさんお仕事中なのに… |
ファング | 心配するなって。みんなの助けになるってのも、俺達の大事な役目だからさ |
ファング | 大聖堂に神官がいるから、そこで詳しい話を聞くといいよ |
コレット | はい。ありがとうございます! |
ファング | これくらいお安い御用だ。本当は俺が案内してやりたいんだけどこれから出なくちゃならなくてさ |
シェリア | あ、もしかして噂の咎人を捜しに… |
ファング | 悪い、詳しい事は内緒なんだ |
ファング | それよりさ、もし二人が宮廷神子になれたらラザリス様に仕えるんだよな |
ファング | だったら、またどっかで会えるかもな |
コレット | は、はい。そうですね |
ファング | そうなるように祈ってるぜ。宮廷神子の試験頑張れよ、コレット、シェリア |
コレット | はい! |
シェリア | ありがとうございます! |
シェリア | 白き獅子の幹部って、もっと厳しい人かと思ってたけど、案外気さくな人だったわね |
コレット | うん。いい人だったね |
衛兵 | それでは大聖堂までご案内します |
コレット | よろしくお願いします |
scene3 | 白き獅子の牙 |
コレット | ここが大聖堂… |
シェリア | わざわざ連れて来ていただいて、ありがとうございました |
衛兵 | では、私はこれで |
コレット | あの…ファング様にも、よろしくお伝えください |
衛兵 | わかりました |
シェリア | さて…ファング様は神官がいるって言ってたけど… |
コレット | あそこに誰かいるよ!行ってみよ! |
コレット | あの、すみません |
??? | はい…? |
??? | … |
??? | … |
コレット | あ…えと… |
シェリア | 何だか睨まれてるわね…? |
??? | まあ、またお客様ですか |
??? | ひょっとして、あなた方も宮廷神子に志願されるのですか? |
コレット | はい、そうです |
??? | また増えた… |
??? | しかも今度は二人まとめてだなんて… |
ライラ | 私は当大聖堂の神官を務める、ライラと申します |
ライラ | ちょうど今から、こちらにいるマルタさんとアリエッタさんに試験の説明をするところでした |
コレット | 今からでも参加出来ますか? |
ライラ | ええ、大歓迎ですわ |
マルタ | そんなぁ、ライバルが二人も増えちゃうなんて… |
アリエッタ | …何人増えても、同じ |
ライラ | まぁまぁ、そう構えずに…。何はともあれ、みなさん自己紹介をしませんか? |
コレット | あ、私、コレット・ブルーネルと言います。よろしくお願いします |
シェリア | シェリア・バーンズです。よろしくお願いします |
マルタ | …マルタ・ルアルディよ |
アリエッタ | …アリエッタ…です |
コレット | マルタとアリエッタだね。一緒に頑張ろうね |
マルタ | ライバルだっていうのに呑気ね。私、負けないから |
ライラ | さて…自己紹介も済んだようですし早速ですが、試験の説明をしますわね |
ライラ | ここシャングレイスの北西、湖のほとりにある洞窟…その奥に、小さな祠があります |
ライラ | みなさんにはその祠に祀られているクリスタルを持ち帰っていただきたいのです |
マルタ | それだけですか? |
ライラ | はい |
コレット | 思ったより簡単…かな? |
シェリア | どうかしら… |
アリエッタ | … |
ライラ | …ただし。クリスタルは、一つしかありません |
コレット | え… |
マルタ | じゃあ、合格出来るのは一人だけって事ですか? |
ライラ | はい。合格させてあげられるのは、お一人だけになります |
コレット | 私達の中から、一人だけ… |
ライラ | この試験では、特別な能力は必要ありません |
ライラ | 必要なのは、ラザリス様を想う強い気持ちだけですわ |
ライラ | とは言え…洞窟の中は危険もあります |
ライラ | 元は天然の洞窟なので魔物もいますし、多くの難関が待ち受けている事でしょう |
ライラ | 下手をすれば大怪我をしたり、最悪、命の危険に陥る可能性もないとは言えません |
コレット | …! |
ライラ | 宮廷神子に志願するくらいですから、みなさん、ラザリス様を強くお慕いしているのでしょう |
ライラ | ですが、今一度よく考えてください。命を懸けてまで試練に臨まれる覚悟はおありでしょうか? |
ライラ | それをご自分に問いかけた上で、試験を受けるかどうかを決めていただきたいのです |
コレット | … |
ライラ | マルタさん、アリエッタさん、コレットさん、シェリアさん |
ライラ | 宮廷神子になるための試験を、受けられますか? |
マルタ | …私は受けるわ! |
マルタ | ラザリス様を想う気持ちは、誰にも負けないんだから…! |
アリエッタ | アリエッタも…参加します |
アリエッタ | あの子を見返すには、宮廷神子になるのが一番って言われたから… |
アリエッタ | だから…アリエッタ、宮廷神子になる |
シェリア | 私も受けます |
シェリア | 覚悟…って言われると、不安も勿論ありますけど… |
シェリア | でもラザリス様にお仕え出来るって考えたら、そんな不安も吹き飛んでしまうから |
シェリア | この気持ち、貫いて見せます! |
ライラ | コレットさんはいかがでしょう? |
コレット | えと… |
コレット | 私、ラザリス様とお会いした時、…思ったんです |
コレット | この人の力になりたい、支えになりたいって… |
マルタ | …… |
コレット | だから…試験は勿論受けます。私、宮廷神子になりたいです |
ライラ | わかりました。では全員参加、ですね |
ライラ | みなさん、事情は違えど、強い意気込みをお持ちですのね。健闘をお祈りいたしますわ |
ライラ | それでは、試験開始です。お気を付けて行ってらっしゃいませ |
マルタ | じゃあ、行ってきます |
アリエッタ | アリエッタが一番!…です! |
シェリア | さ、私達も急ぎましょう |
コレット | あ、待って… |
コレット | あの、ライラ様。この花束を、預かってもらっていいでしょうか? |
ライラ | まあ、綺麗ですね |
コレット | ラザリス様にお渡ししたくて。だから試験が終わるまでここに置かせてください |
ライラ | 勿論です。責任を持ってお預かりいたしますわ |
コレット | よろしくお願いします |
| |
マルタ | …来たわね |
コレット | あ、待っててくれたんだ |
マルタ | 待ってたんじゃなくて、確認したい事があったの。あなた、ラザリス様にお会いしたの? |
コレット | あ、はい。ファルカームで |
マルタ | 何だ、同じじゃない。私もファルカームでラザリス様にお会いしたのよ |
マルタ | しかも、目が合ったんだから! |
マルタ | あの瞬間、わかったの。私は、ラザリス様のためにお仕えする運命にあるんだって… |
シェリア | あら。コレットはラザリス様と直接お話もしたのよ |
マルタ | 何ですって!?本当なの!? |
コレット | う、うん… |
マルタ | ま、まぁ、いいわ。私、アリエッタと組む事にしたから |
アリエッタ | 組むなんて言ってない…。力を貸すって言うから、一緒にいるだけ… |
マルタ | それが組むって事なの |
マルタ | アリエッタは、ヴァン宰相と知り合いらしいのよ |
マルタ | ラザリス様と会った私と合わせればあなた達なんか目じゃないわ |
シェリア | それを言ったら、私だってラザリス様にお会いしてるわよ? |
マルタ | えっ!? |
マルタ | うぅ…これで勝ったと思わないでよ。試験では負けないんだからね! |
マルタ | 行くわよ、アリエッタ! |
アリエッタ | う、うん… |
コレット | マルタ、気合十分だったね。私達も頑張ろうね、シェリア |
シェリア | ……はあ |
scene1 | クリスタルを求めて |
コレット | ここが試験の洞窟?入口には何もないけど… |
シェリア | そうね。試験っていうからには、もっととんでもない洞窟を想像してたわ |
マルタ | 楽そうでいいじゃない。それじゃ、お先に |
コレット | あ、待って。せっかくだから、みんなで一緒に行かない? |
コレット | その方が、何かあった時も心強いよ |
マルタ | 何言ってるの。クリスタルは一つしかないんだから、早い者勝ちよ! |
シェリア | …まあ、それもそうよね |
マルタ | じゃあ行くわよ、アリエッタ! |
アリエッタ | …早い者勝ちの競争なのにどうしてアリエッタだけ一緒に行くの? |
マルタ | だから言ったでしょ、二人で組むって |
マルタ | コレットとシェリアは組んでるのよ。こっちも協力しないと不利になっちゃうじゃない |
アリエッタ | 協力とかいらないもん。クリスタルはアリエッタが見つける |
マルタ | あっ、ま、待ちなさいよぉー! |
シェリア | 私達も急いでクリスタルを探しましょう |
コレット | そだね。この辺りにはなさそうだし、とにかく奥に進もう |
| カチッ |
コレット | …あ |
シェリア | 何、今のカチッて音 |
| ズドドドドッ! |
コレット | わっ、何、何…!? |
シェリア | コレット、危ない!足下が── |
コレット | わぁっ…! |
| どしーーん! |
シェリア | コレット!? |
マルタ | 今の音、何!? |
アリエッタ | これは…落とし穴…?結構、深い…です |
コレット | いたたた… |
シェリア | コレット、大丈夫!? |
コレット | あ、うん。ちょっと尻餅をついただけ |
マルタ | 落とし穴か…。私達も気を付けないと |
マルタ | それじゃあ、悪いけどお先にー!アリエッタも早く! |
シェリア | もう。手伝ってくれたっていいのに |
シェリア | コレット、私の手、掴める?引き上げてあげるわ |
コレット | あ、うん、ありがと…!よいしょ… |
シェリア | ん…っと |
シェリア | ふう…何とか上がって来られたわね。怪我はない? |
コレット | うん、だいじょぶ。ごめんね、シェリア。迷惑かけちゃって |
シェリア | コレットが無事ならいいわ。それじゃ、私達も行きましょ |
コレット | いきなり出遅れちゃったね… |
シェリア | 別に大した事ないわよ。きっとすぐ追いつくわ |
シェリア | 慌てる事なく、私達は私達のペースでやりましょう |
コレット | うん |
scene2 | クリスタルを求めて |
シェリア | この洞窟、随分と広いのね |
コレット | …なのに、クリスタルは一つしかないんだよね。見つけられるかなあ… |
シェリア | 祠に祀られてるって話だから見ればすぐにわかるわよ |
コレット | そだね。じゃあいろんな場所を探してみよ |
マルタ | あっ… |
コレット | …あ |
コレット | マルタ、アリエッタ。そっちの方は、何もなかった? |
アリエッタ | なかった…です |
マルタ | もう、アリエッタ!ライバルに情報を漏らしちゃ駄目じゃない |
シェリア | 別にいいじゃない。情報交換ぐらい |
コレット | 向こうも何もなかったよ |
アリエッタ | じゃあ、次はあっち… |
マルタ | あっ、アリエッタ!私より先に行かな── |
| カチッ |
マルタ | カチッ? |
コレット | あ |
| ズドドドドッ! |
マルタ | きゃあああっ!? |
| どしーーん! |
コレット | マルタ!平気!? |
マルタ | いたた…また落とし穴があるなんて… |
マルタ | アリエッタ、お願い。引き上げて──… |
シェリア | アリエッタならもう行っちゃったわよ |
マルタ | まさか気付かなかったの!?嘘でしょ、戻って来てよー! |
コレット | マルタ、すぐに引き上げるね |
マルタ | えっ、どうして…!? |
コレット | どうしてって…だって、出られないと困るでしょ? |
コレット | だから、はい。手、伸ばして |
マルタ | …コレット。でも… |
シェリア | ほら、マルタ。意地張ってないで、早く掴まって |
マルタ | ううう… |
コレット | よいしょ… |
シェリア | ん、しょ… |
マルタ | …ありがと |
マルタ | けど、借りがあっても試験は別なんだからね |
マルタ | 私を助けた事、後悔しても知らないから |
コレット | 後悔なんてしないよ。むしろ助けなかったら、その方が後悔しちゃうと思うな |
マルタ | … |
シェリア | それにしても、こんな仕掛けがいくつもあるのね。試験のために作られた物かしら… |
コレット | だったら、この先も気を付けないと── |
| |
??? | きゃあっ!? |
| |
シェリア | 今の声… |
マルタ | アリエッタよ! |
コレット | 行こう! |
アリエッタ | 来ないで… |
| グオオオオッ! |
アリエッタ | どうして…このコ達、言葉、通じない… |
マルタ | アリエッタ!大丈夫!? |
アリエッタ | 駄目…このコ達、普通の魔物じゃない… |
マルタ | どういう事…?確かに変わった魔物だけど… |
シェリア | これもひょっとして、試験用の魔物かしら… |
コレット | アリエッタ、今助けるからね! |
scene3 | クリスタルを求めて |
コレット | ふう…何とか倒せたね |
シェリア | ええ… |
マルタ | アリエッタ、大丈夫!? |
アリエッタ | うん… |
コレット | あ、アリエッタ!膝、怪我してるよ |
アリエッタ | このぐらい平気… |
シェリア | 駄目よ。すぐ治療するから、じっとしてて |
| パアア… |
シェリア | はい、これでいいわ |
アリエッタ | 痛くない… |
シェリア | よかった。治ったみたいね |
マルタ | … |
コレット | マルタ、どうしたの? |
マルタ | その…コレット、シェリア…二人共、今までごめんなさい |
マルタ | 二人は私やアリエッタを心配して手を貸してくれるのに、私は突っかかってばかりで… |
マルタ | 私、自分が宮廷神子になるんだって、その事ばっかり考えてた… |
マルタ | けど二人を見てたら、急にそれが恥ずかしくなって…。本当にごめんなさい… |
アリエッタ | それ、アリエッタも…同じかも… |
コレット | マルタ、アリエッタ… |
コレット | …いいんだよ。だって、それって二人が本気で宮廷神子になりたいから、だよね? |
コレット | その気持ちは私も同じだし、謝るような事じゃないと思うの |
コレット | だから気にしてないよ |
マルタ | コレット…ありがとう… |
アリエッタ | …コレット、優しい |
マルタ | 私…あなた達が困った時、今度はちゃんと助けるわ |
コレット | ありがと。じゃあその時はよろしくね |
シェリア | ま、そんな事にならないのが一番いいんだけど… |
シェリア | 一筋縄では行かなさそうよね。他にも仕掛けがあるかもしれないし、見慣れない魔物もいたし… |
マルタ | そうだ、アリエッタ。さっき言ってた、魔物が普通じゃないってどういう事? |
アリエッタ | …アリエッタ、魔物とお話が出来るの |
アリエッタ | だけど…あのコ達とは話せなかった… |
マルタ | 魔物と仲良くなれるって事?すごいわね… |
コレット | でも、どうしてここの魔物にはお話通じなかったのかな? |
アリエッタ | わからない…こんな事、初めて |
マルタ | あの仕掛けといい、変な魔物といい…さすがは宮廷神子の試験ね。何が起こるかわからないわ |
コレット | そだね。でも、みんなで協力して進めばだいじょぶだよ |
アリエッタ | 異議なし…です |
マルタ | わかったわ |
マルタ | でも、あくまで試験は試験。悪いけどそこは遠慮しないからね |
コレット | うん、わかってるよ。試験に合格するため、みんなで頑張ろ |
マルタ | 本当にわかってるのかしら…? |
シェリア | ふふ…それじゃ、行きましょう |
scene1 | 最後の審判 |
コレット | ──そっか。アリエッタはヴァン宰相から宮廷神子になる事を勧められたんだ |
アリエッタ | うん…いつもアリエッタの事を馬鹿にするあの子を見返したくて… |
シェリア | そういえば大聖堂でもそんな事、言ってたわね |
アリエッタ | ラザリス様にお仕えしたら、あの子ももう根暗ッタなんて言えなくなるはず… |
アリエッタ | そのためにアリエッタ、絶対に宮廷神子になりたい… |
コレット | そっか、じゃあ頑張らないとね |
マルタ | ちょっと…呑気に応援してる場合じゃないでしょ |
マルタ | 試験に合格出来るのは一人だけ。アリエッタが宮廷神子になるって事はコレットはなれないって事なのよ? |
コレット | それはそだけど…でもアリエッタを応援したい気持ちはほんとだよ |
コレット | 勿論、マルタやシェリアも同じように応援してる |
コレット | みんながそれぞれ精一杯力を出せたら、誰が選ばれても私は嬉しいよ |
コレット | あっ、私も一生懸命頑張るからね |
マルタ | コレット… |
コレット | みんな一緒に宮廷神子になれたら…ほんとはそれが一番いいのにねぇ |
シェリア | それが出来ないから試験をしてるんじゃない…ほんと昔から前向きというか、純粋というか… |
アリエッタ | …コレットはいい人 |
マルタ | …私だって、他の誰が宮廷神子になっても、それはそれで嬉しいと思うわよ |
マルタ | けど宮廷神子になるのは私だから、そんな事はないってだけ |
マルタ | 私、ラザリス様と目が合った時に感じた運命を信じてるから…! |
シェリア | はあ…マルタも、コレットとは違う意味ですごく前向きで純粋ね… |
アリエッタ | あ… |
コレット | アリエッタ、何か見つけたの? |
アリエッタ | …向こうに何かある |
コレット | きらきら光ってるね |
マルタ | あれって、まさか…! |
シェリア | 行ってみましょう |
| |
シェリア | あれは…祠かしら?中で輝いてるのは… |
アリエッタ | …クリスタル? |
シェリア | そうだわ、きっと! |
コレット | あれがクリスタル… |
マルタ | ここからは、正々堂々と勝負よ! |
シェリア | マルタ! |
アリエッタ | 勝つのはアリエッタ…! |
コレット | 待って…! |
コレット | わっとと…! |
シェリア | コレット!?足場が悪いから、気を付けて |
マルタ | やった!一番乗り…! |
マルタ | クリスタルを手に入れたわ! |
コレット | という事は… |
コレット | 試験はマルタが合格? |
アリエッタ | …これで終わり? |
シェリア | 取られちゃったわね… |
マルタ | 何だか悪いわね。でも、これも試験だから── |
| |
| ヴオン! |
マルタ | …な、何? |
コレット | クリスタルが光ってる…? |
マルタ | よく見たらこのクリスタル、何か刻まれてるわ… |
マルタ | これは…魔法陣? |
| |
| ズシン…! |
マルタ | わっ、今度は何よ!? |
コレット | これは…何かの足音!? |
アリエッタ | マルタ、何したの…!? |
マルタ | 私は何もしてないわよ! |
| ズシン…ズシン…! |
シェリア | また…!これも試験の仕掛けなのかしら |
アリエッタ | ここから出た方がいい。この揺れ、洞窟崩れるかも…です |
コレット | そだね。行こ、マルタ |
マルタ | ええ。せっかくクリスタルを手に入れたんだもの。絶対、無事に帰って── |
マルタ | …な、あ、あれ…! |
コレット | …?どうしたの、マルタ? |
マルタ | な、何なのあいつ…! |
コレット | え…? |
| |
| グオオオオオッ! |
| |
マルタ | ま、魔物!? |
コレット | すっごい大きい…! |
| グアアアアッ! |
マルタ | きゃああっ!? |
コレット | 壁が崩れるよ! |
シェリア | みんな、大丈夫!? |
マルタ | な、何とか… |
| グアアアアッ! |
コレット | わっ、また…! |
シェリア | とにかく逃げましょ! |
コレット | ね、ねぇ。こっちに来るよ! |
マルタ | そうだ、アリエッタ!あなた魔物と話せるんでしょ!?仲良くしてって頼んでよ! |
アリエッタ | …無理みたい。さっきの変な魔物と一緒。言葉が通じない… |
マルタ | そんな… |
| スゥ──… |
コレット | …?何か吸い込んでる? |
マルタ | 違う、あれは── |
| ゴオオッ! |
シェリア | ブレスよ!みんな、避けて! |
| ピキーーン! |
| |
| ピキピキピキ!! |
シェリア | 嘘…吐いたブレスが結晶に…! |
マルタ | 道が…!これじゃ通れないじゃない! |
| スゥ──… |
コレット | またブレスが…! |
シェリア | そこの岩陰よ!隠れて! |
| ゴオオッ! |
| |
コレット | はあ…はあ…何とか助かったけど… |
マルタ | 何なのよ、もう…! |
アリエッタ | …こっち来た |
| グルル… |
マルタ | 私達を捜してるみたい… |
コレット | どうしよう…? |
シェリア | 来た道は結晶で通れなくなっちゃったから他の道を探すしかないんだけど… |
マルタ | あんなのがウロウロしてたらそれどころじゃないわよ |
アリエッタ | …倒す? |
マルタ | 無理言わないでよ。一撃で岩の壁を壊すような奴よ?それに見たでしょ、あのブレス! |
コレット | でも、ずっと隠れてるわけにもいかないよね |
シェリア | ええ。この岩が砕かれたら、隠れるところさえなくなってしまうわ |
コレット | うーん、どうしよ… |
マルタ | はぁ…せっかくクリスタルを取ったっていうのに、こんなの無理じゃない… |
コレット | クリスタル…!そっか、クリスタルだよ! |
マルタ | え、何…? |
コレット | あの魔物、マルタがクリスタルを取ったら現れたよね |
マルタ | そういう仕掛けなんでしょ。宮廷神子になるための最後の試練って事じゃないの? |
コレット | じゃあクリスタルを元に戻せば、魔物も消えたりしないかな? |
シェリア | 確かに、賭けてみる価値はありそうね |
マルタ | でも…祠へ戻るには、あいつをすり抜けていかないといけないわ |
マルタ | そんなの、現実的じゃない。命がいくつあっても足りないわよ…! |
コレット | … |
コレット | …危険だけど…これしかないよね… |
コレット | …ねぇ、マルタ、そのクリスタル、ちょっと貸してもらっていい?私に考えがあるの |
マルタ | え…?で、でもこのクリスタルは合格の条件── |
マルタ | …ううん、今はそんな事言ってる場合じゃないわね。はい、これ |
コレット | ありがと |
マルタ | でも、どうするつもり? |
コレット | 私が戻して来るよ |
マルタ | えっ… |
コレット | みんなはその間に、上手く脱出してね |
シェリア | だ、駄目よ!危険すぎるわ! |
アリエッタ | …あのブレスから身を守るのは、絶対無理…と思う |
コレット | そだね。ちょっと怖いけど… |
コレット | 私、みんなを守りたいんだ。そう考えたら、不思議なんだけどすごく勇気が湧いてきて… |
コレット | みんなのためなら、何でも出来るって気がするの。だから、だいじょぶだよ |
コレット | みんなの事は、必ず私が守るから |
シェリア | コレット! |
シェリア | あの子…私達のために… |
マルタ | …あれ?あの子、何か落として行ったわ |
マルタ | 何これ…?花輪…? |
シェリア | …!これ…あの時の… |
シェリア | … |
| |
コレット | シェリアのために作ったの。親友の証! |
コレット | シェリアも、私にとって大切な人だから |
| |
シェリア | コレット… |
シェリア | …よし! |
シェリア | コレットだけを危険な目に遭わせるわけにいかないわ。私も行く! |
マルタ | シェリア! |
アリエッタ | どうしよう… |
マルタ | …アリエッタはここに隠れてて |
マルタ | 魔物がコレットを追っていったのは多分、クリスタルを持ってるから。そういう試験だから… |
マルタ | だったら、私だけ逃げるわけにいかない!今度は私が助ける番! |
アリエッタ | ア…アリエッタも行く。あの時の恩返し、します! |
scene2 | 最後の審判 |
コレット | はあ…はあ… |
コレット | 何だろう…さっきからずっと身体の内側が熱いような──… |
| グオオッ! |
コレット | もう近くまで来てる…! |
コレット | でも、あそこの岩陰までたどり着けたら、あと少し…! |
| スゥ──… |
コレット | あっ…間に合わ── |
シェリア | 危ない!伏せて! |
| ゴオオオオオオッ! |
| ピキン…ピシピシ…! |
シェリア | うぅっ…! |
コレット | シェリア!?私を庇って…! |
シェリア | コレット、大丈夫? |
コレット | うん。シェリアこそ… |
シェリア | 私も平気。それより早く、祠へ── |
| スゥ──… |
シェリア | また来る…! |
コレット | シェリア、こっち! |
| ゴオオオオオオッ! |
| ピシッ…!ピシピシピシッ…! |
| |
コレット | はぁ、危なかった… |
シェリア | 助かったわ。ありがとう、コレット |
コレット | 私こそシェリアのお蔭で助かったよ。けど、どうして… |
シェリア | 親友だもの。約束したでしょ。「大切なあなたを守る」って |
コレット | シェリア…。ありがと |
シェリア | …さて、問題はクリスタルね。祠まであと少しなのに、今出たらあのブレスに巻き込まれるわ |
コレット | シェリア。私、思うんだけど、あの魔物はクリスタルを持ってる人を追いかけてるんじゃないかな |
コレット | だから、今度は── |
??? | こらー!そこの大きいの!こっちを見なさい! |
コレット | …!あの声は… |
| |
マルタ | ほらほらどうしたの!?かかってきなさいよ! |
アリエッタ | コレット達に酷い事したら許さない! |
| グオオッ! |
マルタ | き、来た…!でもこの隙があればコレットは… |
| スゥ──… |
マルタ | いきなりブレス!?まずい、隠れる場所が…! |
マルタ | アリエッタ!私の後ろに隠れて! |
アリエッタ | え、でも…! |
マルタ | 早く! |
コレット | 駄目ぇーーーっ! |
| グオ… |
コレット | マルタ!アリエッタ! |
マルタ | あ、ちょっと!どうして大声出すのよ!せっかく… |
| ガアアアッ! |
コレット | わっ…! |
マルタ | ほら見つかった!おとりの意味、ないじゃない! |
コレット | おとり!?そんなの危ないよ! |
マルタ | 言ったでしょ。借りは返すって |
マルタ | あなただけにいい格好なんてさせてあげないんだから! |
コレット | マルタ… |
| ガアアアッ! |
コレット | わっ、来た! |
マルタ | コレット、逃げて!多分だけどそいつ、クリスタルを持ってる人を── |
コレット | うん!わかってる! |
コレット | 魔物さん!クリスタルを持ってる私はこっちだよー |
| ガアアッ! |
| |
コレット | よし、十分離れたかな… |
コレット | シェリア、今だよ! |
マルタ | シェリア…?そういえば、どこに… |
アリエッタ | あっ…!岩陰から… |
| |
シェリア | はぁ、はぁ…祠まであと少し… |
シェリア | コレットったら、また無茶して…止める暇もなくクリスタルを置いて飛び出すんだから |
シェリア | けどお蔭で隙が出来た。一気に走り抜けるわよ…! |
| |
| グルルル… |
コレット | …!魔物の動きが止まった。もしかして… |
| ガアアッ! |
コレット | シェリアの方を見てる!私がクリスタルを持ってないってバレたの…!? |
| スゥ──… |
コレット | やめてぇーーっ! |
マルタ | させない! |
| ザシュッ! |
| グオオオッ! |
コレット | マルタ! |
マルタ | …コレット。あなたが飛び出して行って、私、わかったの |
マルタ | あなたがみんなで一緒にって言うのはただのお気楽でも、打算でもない… |
マルタ | 人が傷つくのを見るのが嫌なのよね?例えライバルでも、いざとなれば守りたいとか考えてるんでしょ |
マルタ | それも生半可な優しさとか人のよさだけじゃない…命を懸けるほどの覚悟がある |
マルタ | すごいと思うわ。でも、それに黙って甘えていられる私じゃないの! |
マルタ | コレットが犠牲になるなんて私は絶対に嫌だからね! |
マルタ | あいつを食い止めるわよ…!クリスタルを祠に返すまで、シェリアには近づけさせないわ! |
コレット | マルタ… |
アリエッタ | アリエッタも…借りは返すんだから! |
コレット | アリエッタ… |
コレット | うん、そだね。一緒にシェリアを守ろう |
コレット | 力を合わせて、四人で一緒にここを出ようね…! |
マルタ | 勿論よ! |
scene3 | 最後の審判 |
| グルル… |
コレット | はあ…はあ… |
マルタ | シェリアは、まだなの…!? |
アリエッタ | アリエッタ…負けないもん。シェリアのために持ち堪えるんだからぁ…! |
| スゥ──… |
マルタ | またブレス…!?も、もう避けられ… |
コレット | わっ、何…!? |
| |
マルタ | 眩し…!目、開けてられない…! |
| |
マルタ | う…光、消えた…?何だったの…? |
コレット | あれ?魔物が消えてる… |
マルタ | た、助かった…の? |
シェリア | ふぅ。間に合ってよかったわ… |
コレット | シェリア!じゃあ、魔物が消えたのって… |
シェリア | ええ。魔物を足止めしてくれていたお蔭で、何とか祠までたどり着けたわ |
シェリア | みんな、無事? |
マルタ | 戦ってた相手を考えれば、無傷と言ってもいいぐらいの軽傷よ |
アリエッタ | アリエッタも。全員無事って、すごい… |
コレット | 私も平気。大事なくてほっとしたよ |
マルタ | やっぱりクリスタルと魔物は関係してたのね |
シェリア | そうね。賭けだったけど、何とか成功してよかったわ… |
マルタ | でも、これじゃクリスタルを持ち帰るなんて絶対に無理じゃない |
シェリア | 今在職中の宮廷神子の人達も、みんなこの試験を乗り越えたのかしら |
シェリア | ちょっと信じられないわね… |
アリエッタ | 現役の宮廷神子は…みんな、ムキムキなの |
コレット | そなんだ…! |
マルタ | 絶対、違うと思う… |
シェリア | さて…これ以上ここに留まっていても仕方ないわね |
コレット | そだね。クリスタルはもう触らない方がいいと思うし… |
マルタ | 大聖堂に戻りましょうか… |
| |
ライラ | ──ふう…試験は無事に終わったようですね |
ライラ | あの方は…きっと素晴らしい宮廷神子になるでしょう |
ラザリス | … |
ライラ | まあ…!ラザリス様…! |
ライラ | お越しになられていたとは露知らず、失礼いたしました |
ライラ | 視察からお戻りになられていたのですね |
ラザリス | まあね |
ライラ | こちらにいらっしゃるなんて珍しいですわね。何か御用でしょうか? |
ラザリス | 少し、気になる事があってね。宮廷神子の試験を行ってるんだって? |
ライラ | はい。ちょうど今、試験が終わったところですわ |
ライラ | 新たな宮廷神子を一名、迎える事になりそうです |
ラザリス | へえ、どんな子? |
ライラ | ラザリス様の事を心から大切に想っている、素敵な方ですわ |
ライラ | ご覧ください、この花束。その子がラザリス様を想って用意したものですのよ |
ラザリス | …その花束… |
ラザリス | …ふふ、そうか。どうりで見つからなかったわけだよ |
ラザリス | 僕の探し物、あの子が持っていたとはね |
ライラ | ラザリス様…? |
ラザリス | … |
scene1 | 宮廷神子 |
コレット | ただ今戻りました |
ライラ | みなさん、おかえりなさい |
ライラ | 試験、お疲れ様でした。無事に終えられたようで、何よりですわ |
シェリア | 無事に…とは、言えないかもしれません… |
マルタ | 魔物がいるとは聞いてましたけど、あれは反則だと思います |
ライラ | クリスタルを持ち帰れなかったのですね? |
アリエッタ | あんなの無理に決まってる、です |
ライラ | 一度は手に取ったのに惜しかったですね |
コレット | あれ?今、どうして、手に取ったってわかったんですか? |
ライラ | ふふ…実はですね… |
ライラ | みなさんの様子は、こちらでずっと見ておりました |
シェリア | そんな事が出来るんですか!? |
ライラ | はい。ここにある大きな結晶には洞窟内の様子が映し出されるんです |
ライラ | その事とも関係あるのですが…実はみなさんにお知らせしておきたい事があります |
ライラ | 実は、クリスタルを持ち帰っても試験は合格になりません |
シェリア | えっ…!? |
ライラ | というよりも、クリスタルを持ち帰るかどうかは、実は合否とは関係ありません |
マルタ | そ、それって…あの時の試験の説明は嘘だったって事ですか!? |
ライラ | いいえ。私、嘘は申し上げませんわ |
ライラ | 私は、一つしかないクリスタルを持ち帰っていただきたいとお願いいたしましたが… |
ライラ | 持ち帰れば合格だとも、持ち帰らなければ失格だとも、告げてはいないでしょう? |
シェリア | そういえば…そうだったような… |
コレット | それじゃあ、本当の試験って何だったんですか? |
ライラ | はい。では改めて試験の本質についてご説明いたしましょう |
ライラ | クリスタルを目指す道中、困難に直面したみなさんがどう振る舞うのか… |
ライラ | それを観察する事がこの試験の狙いだったのですわ |
ライラ | 私、大変心を打たれました。みなさんはこの短時間で、素晴らしい友情を育まれたのですね |
ライラ | 四人がお互いを想い、力を合わせて困難に立ち向かう姿はとても素晴らしかったです |
ライラ | さすがラザリス様にお仕えしたいと、望まれるだけの事はありますね |
コレット | じゃ、もしかして、みんな合格とか…? |
ライラ | いえ…みなさん全員を宮廷神子としてお迎えしたい気持ちは山々なのですが… |
ライラ | 初めに申し上げた通り、残念ながら、合格させられるのはお一人のみなのです |
ライラ | さて、今回の合格者ですが── |
マルタ | ま、待ってください! |
マルタ | 誰が合格か言う前に…その人を選んだ理由を教えてください |
マルタ | 私は宮廷神子になりたい…。けど他のみんなも、同じぐらい真剣に宮廷神子を目指して頑張ったんです |
マルタ | もしいい加減な理由だったら、私が選ばれても嬉しくない… |
マルタ | だから先に、それを確認させてください |
ライラ | なるほど…承知しました |
ライラ | マルタさん。試験が始まった時のあなたなら、そんな事、気にしなかったでしょう |
ライラ | マルタさんだけではありません。他の方も、この試験を通じて自分を省みる部分があったはずです |
ライラ | その結果、みなさんは一回り成長された事と思います |
ライラ | では、みなさんの心に影響を与え突き動かすきっかけとなったのはどなたの言動だったでしょう? |
マルタ | … |
マルタ | そういう事ね |
シェリア | なるほど… |
アリエッタ | 納得 |
コレット | えっ、何?みんな、誰の事かわかったの!? |
ライラ | みなさんにご納得いただけたところで… |
| |
ライラ | コレットさん |
コレット | はい… |
| |
ライラ | おめでとうございます!宮廷神子の試験、合格です! |
コレット | え…私…?本当に、私が…宮廷神子…ですか? |
コレット | やった…!合格したんだ、私!宮廷神子になれたんだ! |
シェリア | よかったわね、コレット。おめでとう! |
コレット | あ、でも…という事は、みんなは… |
シェリア | コレット、そんな顔しないで。みんな、あなたが選ばれた事に納得してるんだから |
マルタ | …私も、あなたなら認めるわ |
アリエッタ | アリエッタも、コレットならいいと思う |
シェリア | コレットならいい宮廷神子になると思うわ。おめでとう |
コレット | みんな…。ありがとう、私、頑張るよ…! |
ライラ | では早速ですが…コレットさん、こちらにお着替えください |
コレット | これは…? |
ライラ | 宮廷神子の装束ですわ |
シェリア | 素敵…!早く着替えて見せて |
コレット | うん! |
| |
シェリア | わあ… |
コレット | ど、どうかな…? |
シェリア | すっごくよく似合ってる。素敵よ、コレット |
アリエッタ | コレット…ううん、コレット様…かも |
マルタ | そうね。上手く言えないけど、まさに宮廷神子って感じ。コレット様、いいなぁ… |
シェリア | あ、私も。宮廷神子コレット様!…なんてね |
コレット | や、やめてよみんな。普通でいいよ |
ライラ | ふふ。微笑ましいですわね |
ライラ | コレットさん、この装束に身を包んだ今この瞬間からあなたは宮廷神子になったのです |
ライラ | 気を引き締めてラザリス様にお仕えしてくださいね |
コレット | は、はい…!ご期待に沿えるよう、精一杯務めさせていただきます |
ライラ | はい。では、自覚も芽生えたところでコレットさんには早速、宮廷神子としての仕事をお願いします |
コレット | な、何でしょうか |
ライラ | 実は先ほどまで、こちらにラザリス様がいらっしゃったんです |
シェリア | ラザリス様が? |
ライラ | ラザリス様はコレットさんの宮廷神子就任を祝し、お言葉をくださるそうですよ |
ライラ | なので、ラザリス様のいらっしゃる宮殿まで行っていただけますか |
シェリア | それって…ラザリス様がコレットをお待ちになってるって事!? |
マルタ | 羨ましすぎる! |
アリエッタ | コレット、すごい… |
コレット | じゃあ私、行ってきます |
コレット | あ、そだ…!すみません、ライラ様。先ほど預かっていただいたお花は… |
ライラ | はい。こちらですね |
コレット | ありがとうございました。それじゃ、私は宮殿に行きます |
シェリア | 宮殿の前までは私達も行くわ。みんなでコレットの門出を見送ってあげる |
コレット | ありがとう、シェリア |
scene2 | 宮廷神子 |
シェリア | さ、宮殿前に着いたわ。私達がついて行けるのは、ここまでね |
コレット | 宮殿… |
コレット | どうしてかな…何度も見た事あるはずなのに、何だか新鮮に見える… |
シェリア | それはそうよ。あなたはもう、ここから眺めるだけの立場ではないんだもの |
コレット | そっか…私、これからあの宮殿に入って行くんだね… |
マルタ | 頑張ってね、コレット。落ち着いた頃に様子を見に来るわ |
マルタ | その時、ラザリス様にご迷惑かけてるようだったら、承知しないから |
コレット | うん。マルタの分まで、しっかり頑張るね |
アリエッタ | アリエッタも応援します |
コレット | ありがと |
マルタ | さて…それじゃ私は、このまま家に帰るわ |
マルタ | それじゃ、コレット。元気でねー |
アリエッタ | あっ、アリエッタもそっち |
コレット | 二人共、気を付けてねー |
| |
シェリア | さて…。私もオルシャ村に帰るわ。コレットの事、みんなに報告したいし |
コレット | シェリアも帰っちゃうんだ。寂しくなっちゃうね… |
シェリア | 寂しいのは私も一緒だけど…それ以上に私、嬉しいのよ |
シェリア | ドジで、放っておけない子だったあのコレットが、これから宮廷神子として頑張ろうとしてる… |
シェリア | そう思えば、寂しさなんて吹き飛んで、誇らしい気持ちでいっぱいになるわ |
シェリア | だからコレットも、寂しいなんて言ってないで頑張ってね |
コレット | シェリア… |
シェリア | もう、コレットったら。まだそんな顔してるの? |
コレット | …だって、オルシャ村を出てここまでずっと一緒だったんだよ |
コレット | それだけじゃない。小さい頃から、私の隣にはいつもシェリアがいてくれて──… |
コレット | 楽しい事も辛い事も全部二人でわけ合ってきた…。なのに… |
シェリア | コレット…。大丈夫よ |
シェリア | これまでみたいには会えなくなるかもしれないけどそんな事、関係ないわ |
シェリア | 私はずっとコレットの事を想ってる。離れていても、想い合っていれば、何も変わらないわよ |
シェリア | それにあなたは、これからラザリス様にお仕えするのよ |
シェリア | 悲しい顔してちゃ駄目よ。ちゃんと笑ってないと |
コレット | うん… |
| |
コレット | こう、かな? |
シェリア | そうそう。やっぱりコレットはこうでなくちゃ |
シェリア | その笑顔で、しっかりとラザリス様をお支えするのよ |
シェリア | それじゃ、私もそろそろ行くわ。またね、コレット…。近い内に必ず、また会いに来るから |
コレット | うん。シェリア、元気でね |
コレット | … |
コレット | あ、いけない。笑顔、笑顔 |
コレット | ラザリス様が待ってる…宮殿に行かなくちゃ |
scene1 | 届いた願い、届かぬ想い |
コレット | これが宮殿の中…。思ってた通り、すっごく綺麗… |
衛兵 | む?君は… |
コレット | あ、すみません。私… |
衛兵 | その格好…宮廷神子か |
コレット | はい。今日から宮廷神子になったコレット・ブルーネルと言います |
コレット | えと…ラザリス様がお呼びと伺ってここに来たんですけど、宮殿の中に入るのは初めてで… |
衛兵 | なるほど、そういう事か。なら私が案内── |
??? | その必要はないよ |
ラザリス | その子は僕が案内する |
コレット | ラザリス様…! |
衛兵 | ラ、ラザリス様が直々にお出迎えなさるとは… |
ラザリス | 君を迎えに来たんだ |
コレット | 私を…? |
ラザリス | こっちだよ。ついておいで |
コレット | は、はい…! |
scene2 | 届いた願い、届かぬ想い |
| コツ…コツ… |
ラザリス | … |
コレット | …ここは、地下通路…? |
コレット | すごく広いし一人だと迷っちゃいそう──… |
コレット | あ、ラザリス様がもうあんなところに…急がないと…! |
ラザリス | … |
コレット | あ、あの…ラザリス様 |
ラザリス | …何? |
コレット | 覚えておいででしょうか。私、ファルカームでラザリス様と… |
ラザリス | コレット・ブルーネルでしょ? |
コレット | あ… |
コレット | はい…!覚えてくださってたんですね! |
コレット | またこうしてラザリス様にお会い出来て、本当に嬉しいです |
コレット | 近い内に会える事を祈ってるって言ってくださった事…本当になりましたね |
ラザリス | …そうなる運命だったからね |
コレット | …!光栄です!すっごく嬉しいです! |
コレット | あっ、そだ!これ…ラザリス様に |
コレット | ほんとはファルカームでお渡ししたかったんですけど、うっかりしちゃってて… |
コレット | ブランの花って言うんです。「大切なあなたを守る」っていう花言葉があるんです |
コレット | その花言葉のように私もラザリス様をお守りしたいと思って… |
ラザリス | 守る?僕を、君が? |
コレット | 私、ラザリス様をお助けしたいと思ってるんです |
コレット | だから、もしお辛い事や、お困りの事があるなら、私に何でも言ってほしいんです |
ラザリス | …何の事? |
コレット | あ、えと…実は…ファルカームでラザリス様にお花を拾っていただいた時… |
コレット | 不思議なんですけど、ラザリス様の感情が私の中に流れ込んできたんです |
コレット | 何だか暗くて…寂しくて、苦しいような… |
コレット | もしラザリス様がそんなお気持ちでいらっしゃるなら、私、支えになりたくて… |
ラザリス | … |
コレット | えっと…。す、すみません。突然不躾な事を… |
ラザリス | 君は…そんな花よりももっと大事な物を持ってきてくれた |
ラザリス | それだけで十分、力になってくれているよ |
コレット | あ、ありがとうございます…! |
コレット | ラザリス様…!では、ブランの花、受け取っていただけますか? |
ラザリス | ああ…君が預かっておいてよ。花を飾るのも宮廷神子の仕事だろう? |
コレット | はい…!では後で、お部屋に飾っておきますね |
| |
ラザリス | …さて。着いたよ |
ラザリス | ここだ |
コレット | 大きな扉…ここは…? |
ラザリス | 「救済の儀式」…確かそんな言い方をしていたかな。それを行う場所だよ |
コレット | あ…もしかして宮廷神子はその儀式のお手伝いをするのでしょうか |
ラザリス | …どんな事をすると思う? |
コレット | それは、えっと…お祈りするとか… |
ラザリス | そうだね。祈る者もいる… |
コレット | あの、ごめんなさい。私その儀式の事、初めて聞いて… |
ラザリス | 心配はいらない。あっと言う間に終わるよ |
ラザリス | さあ、中に入ろう |
コレット | は、はい… |
scene3 | 届いた願い、届かぬ想い |
| ギイイ──… |
コレット | わっ…中は暗いんですね |
ラザリス | …すぐに目が慣れるよ |
コレット | あ、少しずつ見えてきました。何だろ…何か大きな物が、たくさん並んで… |
| |
コレット | …!これは… |
コレット | 部屋の中に結晶が…これって、試験の時の… |
コレット | あれ?結晶の中に…何か──… |
コレット | …! |
コレット | こ、これ…人ですか!? |
コレット | 人間が、結晶の中に… |
コレット | これだけじゃない…こっちも…あっちも…! |
コレット | よ、よく見たら、この結晶の塊…ぜ、全部…中に人が… |
コレット | この人達…生きてるんですか…? |
ラザリス | 死んではいないよ。どう、気に入った? |
コレット | どうして…?どうしてこんな事に── |
| |
コレット | う…! |
コレット | こんな事…前…にも‥? |
ラザリス | … |
コレット | ラザリス様…あの…この人達は、一体… |
ラザリス | ここにいるのは全て咎人だよ。僕の世界を汚す有害なヒト… |
ラザリス | けど、何よりも…誰よりも邪魔なのは「君」だ |
ラザリス | ずっと探してたのに…全然見つからないと思ったら、まさかそんなところに隠れてたとはね |
コレット | ラザリス様…? |
ラザリス | かくれんぼはお終いだ。…出ておいで、「世界の意志」 |
コレット | 世界の…意志…? |
コレット | ううっ… |
コレット | 何…今の… |
ラザリス | 上手く隠れたものだね。ファルカームで会った時も、君の存在までは気が付かなかったよ |
ラザリス | …だけど、残念だったね。君の選んだ器は、誰よりも強く純粋な意志を持っていた |
ラザリス | おそらく君の器であるコレットは、宮廷神子の試験でその強い意志を見せたのだろう |
ラザリス | …そして、その意志は衰弱しきっていた君に力を与えた。僕に検知されてしまうほどに |
ラザリス | けど…ディセンダーを生み出した時ほどの力はまだ取り戻していないようだね |
コレット | ラザリス様…?えと、何の事だか、私には…君って…誰ですか? |
ラザリス | 君には眠ってもらうよ。器の少女ごと…永遠にね |
コレット | ラザリス様…?な、何をするんですか?まさか… |
ラザリス | … |
コレット | わ、私、咎人じゃありません!ラザリス様!私はラザリス様の支えになりたくて… |
コレット | だからお花も…なのに…どうして── |
ラザリス | … |
| ピキ…ピキピキ… |
コレット | …!ラ、ザリス様…どうして… |
コレット | …私はただ…あなたを── |
ラザリス | 動けもしないのに、僕の心配かい? |
コレット | 動け…ない…? |
コレット | …!この結晶……私、前にもこんな事… |
コレット | ──ううぅっ…! |
ラザリス | … |
コレット | ……そんな…どうして私…今まで…… |
コレット | 駄目…助けて…ロイド──… |
| ピシ…ピシピシピシ! |
| |
ラザリス | … |
ラザリス | ──さよなら |
ラザリス | …ん? |
| |
ラザリス | ブランの花、だっけ… |
ラザリス | … |
ラザリス | 「苦しい」「寂しい」だって?この僕が… |
ラザリス | … |
ラザリス | ふ…ははっ… |
| |
| ──グシャッ! |
ラザリス | …ふざけるなっ!! |
ラザリス | お前に何が…何一つ知らないくせに… |
ラザリス | …… |
scene1 | 目覚めし意志 |
??? | ──…ット |
??? | コレット |
| |
ロイド | おい、コレット |
ゼロス | コレットちゃん?どうしたんだよ、ぼーっとして |
コレット | あれ…ロイド?それに、ゼロス |
コレット | ここは…?晶化した人達は? |
ロイド | 何言ってるんだよ、コレット。それより、早く行くぞ |
コレット | 待って、ロイド!行くって、どこへ? |
ゼロス | コレットちゃん、大丈夫か?ぼーっとしてると危ないぜ? |
コレット | ゼロス、待ってよ…。置いて行かないで──… |
| |
コレット | …!あ、足が動かない…何で… |
| ピシ…ピシピシピシ! |
コレット | あっ…ああっ、やだ…待って、ロイド…!助けて、ゼロス…! |
ラザリス | 行かせないよ。君は…永遠に眠るんだ |
コレット | いやああぁぁぁっ──…! |
| |
コレット | ──はっ! |
コレット | あ、あれ…私… |
コレット | …動ける… |
コレット | ロイドー!ゼロスー! |
コレット | …夢…だったのかな… |
コレット | …この場所は… |
コレット | そうだ…私…ラザリス様とここに来て… |
コレット | …ラザリス様は…? |
コレット | …いない。どこに行ったんだろう… |
コレット | … |
| |
コレット | ラザリス様…どして私を… |
コレット | それに「世界の意志」って一体… |
コレット | それに他のみんなは晶化したままなのに、何で私だけ助かったのかな… |
コレット | …うぅ…わかんないよ。何も… |
コレット | …!私、前にもこんな事… |
コレット | あちこちで起きてた晶化現象がメルトキオでも起きて、それで…… |
コレット | 何で…どしてこんな大事な事…今まで忘れちゃってたのかな… |
コレット | もしかして…あの晶化現象もラザリス様が──… |
コレット | …ううん、そんなはずない。ラザリス様があんな事… |
コレット | でも…ここの人達や私を晶化させたのは… |
コレット | … |
コレット | うぅ…どうなってるのかわかんないよ…! |
コレット | これから…どうすればいいんだろう |
コレット | この晶化した人達も何とか助けてあげたいけど…どうしたら… |
コレット | …!? |
コレット | …そ、そんな…まさか…!あの結晶の中にいるのって…! |
scene2 | 目覚めし意志 |
コレット | そんな…やっぱり…この晶化してる人は──… |
| |
ゼロス | … |
コレット | ゼロス…! |
コレット | そんな…ゼロスまで… |
コレット | 何でこんな事…だって、ゼロスはスレイ達と旅してて… |
コレット | じゃあスレイは…?他の人達は…?どうなっちゃったの!? |
コレット | ロイド…ロイドは!? |
コレット | 嫌だよ…。ロイド、ゼロス…私…! |
コレット | ごめんなさい…!みんなの事、忘れてて…私、何も知らなくて、出来なくて…! |
コレット | ゼロス…!ごめんなさい、私… |
コレット | 何が出来たかわからないけど… |
コレット | こんな事になる前に…助けてあげたかった──… |
コレット | ごめんなさい、何もしてあげられなくて… |
コレット | でも私…必ずゼロスを助けるから。絶対、結晶から出してあげるから…! |
コレット | 私、みんなとまた会いたい |
コレット | ゼロスや、ロイドや…みんなに会って、それで今度は、こんな事にならないように… |
| |
コレット | 大切なみんなを守りたい…! |
コレット | うっ…今の光は一体──… |
ゼロス | うぅ… |
コレット | …!ゼ…ゼロス! |
| |
ゼロス | ん…?ここは…? |
ゼロス | コレットちゃん…? |
コレット | 何で…?結晶はどこに… |
ゼロス | 結晶…?ああ、そうか。俺、咎人として捕まって、天帝に── |
ゼロス | …って、コレットちゃん!?もしかして記憶あるのか!? |
コレット | うん。多分…。さっきまで、いろいろ忘れちゃっててちょっと混乱してるけど… |
ゼロス | そうか、それはよかった! |
ゼロス | でも、ここにいるって事は、コレットちゃんも咎人として捕まったのか? |
コレット | 違う…と思うんだけど…私にもよくわからなくって… |
ゼロス | …とにかく落ち着いて何があったのか、順に話してくれ |
コレット | うん…。実は── |
| |
ゼロス | なるほどな…その服装は宮廷神子の制服ってわけか |
ゼロス | んで、どうしてなのかわからねーけどコレットちゃんは晶化を解く力を持ってる…と |
コレット | うん…ゼロスを助けたいって強く願ったら、急に身体の内側が熱くなって… |
コレット | シルヴァラントにいた頃はこんな事、出来なかったのに… |
ゼロス | 俺も記憶を取り戻してからあちこち調べ回ってたけど、そんな力は聞いた事がねぇな… |
ゼロス | 情報が足りなくて推測しか出来ねぇけど… |
ゼロス | 天帝が言ってたっていう「世界の意志」ってのが関係してそうだな |
ゼロス | そいつが原因だと考えれば、いろいろと辻褄が合いそうだ |
コレット | そう…なのかな… |
ゼロス | だとすれば、急いでここを出た方がいいな |
ゼロス | 天帝は「世界の意志」って奴が晶化を解くなんて力を持ってるとは気付いてなかったと見える |
ゼロス | 俺もコレットちゃんも、想定外の復活ってわけだ。この状況を最大限に利用しねぇと |
ゼロス | コレットちゃん。あいつに見つかる前にここから抜け出すぞ! |
コレット | うん。けど…ここにいる他の人達は?私、もしかしたら助けられるかも… |
ゼロス | 助けたいのは俺も一緒だけど、今はちょっとまずいな |
コレット | どうして? |
ゼロス | ここにいる連中は、咎人って奴だ。奴ら、救済だとか言って、咎人をここで晶化してやがる |
ゼロス | それでも十分酷い事だけど、どういうわけか命は取られてねぇ。みんな俺と同じように生きてんだ |
ゼロス | けど、もし、晶化した連中が逃げ出したなんて事になったら… |
コレット | ラザリス様が…そんな酷い事するのかな… |
コレット | …ねぇ、ゼロス。世界を晶化させたのって、本当にラザリス様なの…? |
ゼロス | …ああ、そいつは間違いねぇ |
コレット | そんな… |
ゼロス | …コレットちゃん。戸惑うのはわかるけど、今は俺さまを信じてくれねぇか? |
コレット | … |
コレット | …うん、わかった。でも後で絶対、この人達の事、助けに来ようね |
ゼロス | ああ、当たり前だ。これ以上あいつらの好きにさせてたまるかってな |
ゼロス | そのためにも、まずはここを抜けださねぇとな。…作戦の立て直しはそっからだ |
コレット | うん…! |
Name | Dialogue |
scene1 | 運命の交差 |
カイル | おーい!みんなー!いたら返事してくれー! |
カイル | ……駄目か。転移してきた森まで戻ってきたはいいけど、やっぱり誰もいないな… |
カイル | みんな…どこにいるんだろう。無事だといいけど… |
カイル | それに… |
| |
ジューダス | カイル…!後は任せたぞ |
カイル | ジューダス! |
| |
カイル | ジューダス…!世界の結晶化に巻き込まれるなんて… |
カイル | オレ、目の前にいたのに、ジューダスを助けられなかった…! |
カイル | 結晶化の原因はきっと、この過去にあるはずなんだ! |
カイル | 待っててくれ、ジューダス!オレが必ず助けてみせるから! |
カイル | ……とはいったもののここ本当にオレ達の世界の過去なのかな…? |
カイル | 「永遠に続く平和と幸福」か…前に来た時にはそんな話、全然聞かなかったのに |
カイル | それに…祈りを捧げるみんなの姿、何かこう…変な感じだったし… |
カイル | もしかして、オレだけ転移する場所がズレちゃったとか…? |
カイル | だったら早くみんなと合流しないと!場所は違っても、きっとこの時代に来てるはずだ! |
カイル | オレが転移したのは、この先だな。何か手掛かりがあるかもしれないし、よく探してみないと |
カイル | あの時は変な人達に追いかけられたし、慎重に… |
カイル | …あれ?何だろう、この看板 |
カイル | えっと、何なに「この先の立ち入りを禁ずる」…? |
カイル | こんな森の奥なのに、立ち入り禁止なんて… |
カイル | うーん、困ったな…。この先を調べたいのに… |
??? | そこで何してるんだ?その先は入っちゃ駄目だぞ |
カイル | あ、すみませ── |
| |
カイル | …ああっ!父さ──あ、っと |
スタン | …父さん? |
カイル | …あ、い、いえ!驚いてちょっと間違えたっていうか… |
スタン | 間違い…それって、俺が君くらいの子どもがいる年齢に見えたって事か? |
カイル | い、いや、そうじゃなくて── |
スタン | つまり、貫禄があるって事だよな!何だか照れるけど、ありがとう! |
カイル | …わあ |
カイル | この感じ、やっぱり父さんだな… |
スタン | あ、そうそう。そこの看板に書いてある通り、この先は「立入禁止区域」なんだ |
スタン | 「白き獅子」が管理する特別な場所だからな。無断で入ると捕まっちゃうぞ |
カイル | 「白き獅子」… |
スタン | …って、余計なお世話か。誰でも知ってる事だもんな |
| |
スタン | 俺はスタン。君は? |
カイル | えっ… |
カイル | な…何言ってるんですか!オレですよ、オレ!忘れちゃったんですか!? |
スタン | …どこかで会った事あったっけ?んー… |
スタン | もしかして…実は俺の知らない、生き別れの弟だったりするのか? |
カイル | お、弟!? |
スタン | はは、冗談だよ。でも何だか、他人とは思えないって感じがしたんだよな |
カイル | あー、えっと…それは… |
| |
??? | う、うわぁぁ! |
| ギャオオオッ! |
| |
カイル | これは…魔物の声! |
スタン | それに、人の叫び声も…! |
スタン・カイル | 助けないと! |
スタン | お、気が合うな! |
カイル | そうですね! |
カイル | って、笑ってる場合じゃないですよ! |
スタン | そうだった!よし、行こう! |
scene2 | 運命の交差 |
カイル | よかった。どこにも怪我はないみたいだね |
行商人 | あ、ああ…。君達のお蔭で助かったよ… |
スタン | 気にしなくていいって。それより街まで送っていくよ |
行商人 | いや、それには及ばないよ。ホーリィボトルを持ってるからね |
行商人 | 売り物だからってケチらないで、使っていく事にするよ |
行商人 | 魔物に襲われるのは、もうこりごりだからね…。それじゃあ、助けてくれてありがとう |
カイル | あ、うん!気をつけてね! |
スタン | 無事に助けられてよかったな!それにしても… |
スタン | 君、すごいな!かなりの剣の腕前じゃないか! |
スタン | それに、魔物を恐れずに人助けなんて勇気がなくちゃ出来ない事だよ |
カイル | 当然!オレは、英雄になる男だから |
スタン | 英雄かぁ!大きな目標だけど、なれる気がする。君なら… |
スタン | …あれ?そういえばまだ名前、聞いてなかったよな |
カイル | あ…ええと |
カイル | やっぱりオレの事、覚えてない…?でも、ここまで綺麗に忘れられる事なんてあるのかな…? |
スタン | ん?どうかしたか? |
カイル | あ、いえ!何でもないです |
カイル | …その…オレ、カイルっていいます |
スタン | カイル…うん、いい名前だな! |
スタン | それでカイルはこんなところで何をしてたんだ?うっかりして、って言ってたけど |
カイル | えっと…人捜しです。実はオレ、離れ離れになった仲間を捜して旅をしてて… |
スタン | そうなのか…それは大変だな… |
スタン | …ん?仲間と離れ離れに?そういえば、俺の地元の街にも同じ事を言ってる人がいたなぁ |
カイル | …え?そ、それ、どんな人ですか!? |
スタン | 最近やってきた女の人なんだけど、ピンクのぼさぼさした髪で… |
スタン | あ、そうそう!何かいつも変なもの作ってるんだ |
カイル | それって…!スタンさん、その人、多分オレの仲間です! |
スタン | 本当か?よし、それならその人のところまで案内するよ |
スタン | 市都アルメリアまではちょっと遠いし一人じゃ退屈だったんだ。カイルと一緒なら楽しそうだな! |
カイル | は、はい!オレも…スタンさんと一緒なら楽しいと思います…! |
スタン | ははっ、俺達気が合いそうだもんな。じゃあ、早速向かおうか |
カイル | はい!あっ… |
カイル | 立入禁止区域…結局、この先には何があるんだろ |
スタン | カイル?あんまりのんびりしてると日が暮れちゃうぞ? |
カイル | あ、はい!それじゃあ、行きましょう── |
カイル | い、っつ…! |
スタン | カイル!大丈夫か!? |
スタン | お前…足を怪我してるじゃないか!もしかしてさっきの戦いで…? |
カイル | へ、平気です!これくらい、何ともないんで! |
スタン | 平気なわけないだろ!この傷じゃあ、歩くだけでも大変だろうし… |
スタン | …よし!街までは、俺が背負っていくよ! |
カイル | えっ… |
スタン | こうやって、俺もしゃがめば…どうだ?これで乗りやすいか? |
カイル | …父さんが…俺をおんぶ… |
スタン | …カイル?どうかしたか? |
カイル | あ、いえ!だ、大丈夫です!オレ、ちゃんと歩けますから! |
スタン | アルメリアは結構遠いんだけどな…。本当に大丈夫か? |
カイル | はい!このぐらい、何ともありません! |
スタン | …わかった。でも、途中でひどくなったら遠慮せず言ってくれよ |
カイル | わかりました!オレ、最後まで歩き切りますから! |
スタン | 無理はしなくていいんだけどなぁ… |
scene1 | 超絶天才居候様 |
スタン | ほら、着いたぞ。ここが市都アルメリアだ |
カイル | うぅ…結局、背負われてしまった… |
スタン | だから、距離があるって言ったろ?その怪我でここまで歩くのは無茶だったって |
カイル | でも迷惑かけっぱなしっていうか…オレ、重かったですよね? |
スタン | いやぁ、軽かったぞ?カイルもう一人分は背負えそうだな |
カイル | ええっ!?お、オレ、そんなに軽いですか!?結構鍛えてるつもりなのに… |
スタン | ははっ、ごめんごめん。要するに、気にするなって事だよ |
スタン | さてと、例の仲間かもって女の人は── |
カイル | ま、待ってください!街中でまでこの状態ですか!?恥ずかしいから降ろしてください! |
スタン | 遠慮する必要はないって。恥ずかしさよりも、カイルの足の方が大事だろ? |
カイル | ま、街の中を歩くくらいなら、大丈夫ですから! |
スタン | そんなに恥ずかしがる事ないのに…わかった、降ろすよ |
スタン | でも辛そうだったら無理やりにでも背負うからな? |
カイル | だ、大丈夫ですって見ててください… |
カイル | ほら、この通り!ちゃんと歩けますから! |
スタン | はは、心配しすぎだったみたいだな。それじゃあ、ゆっくり目的地に向かうか! |
| |
カイル | ここって宿…ですか? |
スタン | ああ。俺の友達がやってるんだ |
スタン | おーい、アスベルー! |
アスベル | はい、今行きます! |
アスベル | …って、スタンか。どうしたんだ、急に来て |
アスベル | …ん?そっちの彼は? |
スタン | カイルっていうんだ。こっちに戻ってくる時に知り合ったんだけど… |
スタン | カイルはすごいんだよ!魔物にも恐れず向かって行くし、剣の腕もかなりのものなんだ |
アスベル | へぇ、知り合ったばかりなのにずいぶん気に入ったみたいだな |
アスベル | けどわかる気がするよ。二人、何か似てるもんな。兄弟みたいっていうか── |
カイル | そ、それは…その… |
アスベル | よろしく、カイル。俺はアスベル。スタンの友人だ |
カイル | は、はい!よろしくお願いします! |
アスベル | それで、スタン。俺のところに来たのは、カイルを紹介してくれるためか? |
スタン | いや、カイルははぐれた仲間を捜して旅してるらしいんだ |
スタン | それでアスベルのところにいる、あの… |
アスベル | …ああ、なるほど。彼女が仲間かもしれないってわけか。わかった、呼んでこよう |
スタン | あ、それと、カイルが足首を怪我してるんだ。出来れば治療も頼む |
アスベル | それなら彼女に頼むのがいいだろ。回復術が使えるはずだから |
アスベル | おーい、ちょっと来てくれ! |
??? | 何よ~…せっかく実験がいいところだったのに… |
??? | …って、カイルじゃない! |
カイル | やっぱり、ハロルドだったんだな! |
カイル | よかった…やっと一人仲間を見つけられた… |
カイル | ねえハロルド、他のみんなは── |
ハロルド | や~、無事だったのね~!安心したわ~! |
カイル | う、うん!ハロルドも無事でよかったよ!いろいろ相談したい事があって… |
ハロルド | うんうん、そうよね。でも、そんなに急ぐ事ないわよ。とりあえず、私の部屋で… |
カイル | いや、早くみんなを見つけないと!だって、ここって── |
ハロルド | は~い、そこまで~!ちょっとこっちにいらっしゃい |
カイル | も、もが!?な、何するんだよ! |
ハロルド | あっ、アスベル。ちょっとこの子、借りるわよ~ |
アスベル | あ、ああ。それはいいんだが、カイルは足を怪我して── |
ハロルド | それなら大丈夫、ちゃ~んと治療しておくから。それじゃ~ね~ |
スタン | …本当に大丈夫かなぁ… |
アスベル | さあ…? |
scene2 | 超絶天才居候様 |
ハロルド | さ、ここが私の借りてる部屋よ。入って入って |
カイル | お邪魔しま── |
カイル | って、何だこの部屋!本当に借りてる部屋なの!? |
カイル | 変な機械ばかりで、未来のハロルドの部屋、そのまんまじゃんか! |
ハロルド | そのまんまなわけないでしょ?数も性能も、ちーっとも大した事ないんだから |
ハロルド | ま、アスベル達に便利グッズを売りつけた程度のお金にしては、上等なものを揃えられたけどね♪ |
カイル | う、売りつけるって… |
ハロルド | 宿の売り上げには貢献してるから、オッケーオッケー。次の商品にも期待されてるしね |
カイル | そ、そっか…。さすがはハロルド… |
| |
カイル | …それで、この機械って何なの? |
ハロルド | 「解析君仮設3号」よ。マナの生成量と異空間における歪みの発生、時間軸の連動計測を── |
カイル | え、えっと…ごめん。つまりはどういう事? |
ハロルド | 要するに、多方面から計測してこの世界の変化を調べてるってわけ |
ハロルド | まぁ、結果も今から説明するけど、その前に… |
ハロルド | カイル。あんたの目的って、何? |
カイル | え…それは勿論、あの「結晶化」の原因を調べて、ジューダスを助ける事だよ |
カイル | だけどまずは、リアラとソフィと合流しないと。二人共、無事だといいけど… |
ハロルド | ふむふむ…。記憶の改変は受けてないみたいね |
カイル | えっと…記憶の改変って? |
ハロルド | …やっぱりわかってなかったか。まあ、それも含めて治療しながら説明するわ |
カイル | う、うん。お願い |
| |
ハロルド | まずは…そうね。簡単なところから一言で言っちゃうと… |
| |
ハロルド | 私達の世界は、なくなっちゃったのよ |
カイル | 世界が…なくなった…!? |
scene3 | 超絶天才居候様 |
カイル | ハロルド、どういう事なの?オレ達の世界がなくなったって… |
ハロルド | 私達が行くはずだった、過去の世界は消滅しているって事 |
ハロルド | で、その時間軸の延長線上である私達の世界も、消えている可能性が高いのよね |
カイル | 消滅…!? |
ハロルド | 正確に言うと、今いるこの世界が元の世界を基礎にして創った新世界、という感じかしら |
ハロルド | 消滅した、というより、創り変えられた、と言った方がいいかもね |
カイル | 創り変えられたって…それ、本当なの…? |
ハロルド | 私の計測を疑ってんの?いくら仲間捜しの片手間とはいえ、こんな事で間違えるわけないでしょ |
カイル | …っ!?ハロルド、リアラ達の事も探していてくれたの!? |
ハロルド | 当然でしょ。私を誰だと思ってるのよ |
カイル | あはは…ごめんごめん |
ハロルド | 全く…とにかく、今は情報もないし、リアラ達の事は置いておいて話を続けるわよ |
ハロルド | 私達の住んでいた未来に現れたあの「結晶」とこの新世界に何か関わりがあるのは確かみたいね |
カイル | あの「結晶」が…!? |
ハロルド | ま、今の段階じゃまだ憶測の域を出ないけど私の見立てじゃほぼ間違いないわ |
ハロルド | それと、もう一つ起こっている重大な変化が…人々の記憶の改変よ |
カイル | …それ、さっきも言ってたよね。記憶の改変って、どういう事なの? |
ハロルド | この世界の人々は、元の世界の出来事を覚えてないのよ |
ハロルド | 自分達は、最初からこの新世界で生まれて、育ってきたと思ってる…。まるっと記憶を改変されているの |
ハロルド | だから世界が創り変えられた事にも気付かないし疑問にも思わないの |
カイル | …!そういえばオレ、違和感あったんだ |
カイル | 前にもこの時代に来た事はあったけどその時は「天帝」なんていなかった |
カイル | なのに、みんな今では当たり前のように受け入れてるから… |
ハロルド | それが記憶改変よ。今の世界にとって「天帝」がいるのは当たり前になってるって事 |
カイル | じゃあ…やっぱり、スタンさんも? |
カイル | オレ、前の世界でさっきのスタンさんに会った事があるんだ |
カイル | それなのに、オレの事、全然覚えてないみたいだったから… |
ハロルド | 当然改変されているわね |
ハロルド | それで?憧れの父親と再会出来た感想は? |
カイル | それは勿論すごく嬉しかっ…って、ハロルド知ってたの!? |
ハロルド | あら、やっぱりそうなの。あの青年の名前を聞いた時からそうだろうとは思ってたのよ |
カイル | ハロルド… |
ハロルド | シルヴァラントに名を残すほどの英雄もここでは単なる一般市民ってわけね |
ハロルド | 未来では、行方不明になった後でさえ絶大な人気を誇っていたのに |
カイル | …うん。俺も、過去に戻って父さんにまた会えて嬉しかったんだけど… |
カイル | …ねえ、ハロルド!どうにかして父さんの記憶を取り戻す事は出来ないの? |
ハロルド | 記憶を取り戻す人はいるみたいよ。でも方法はわからないし何よりも危険よ |
カイル | 危険?どうして? |
ハロルド | …あんた、この世界に来てから「咎人」って言葉に聞き覚えない? |
カイル | 咎人…?あっ、そういえば生誕祭で捕まった人の事をそんなふうに言ってたような…? |
ハロルド | なら話は早いわね。その咎人こそが、元の世界の記憶を取り戻した人よ |
カイル | …!それ、本当なの!? |
ハロルド | 本当よ。何ならこの結論に達した理由をいちから説明してあげてもいいけど…聞きたい? |
カイル | む、難しい話はちょっと… |
ハロルド | じゃ、重要な事だけ。どうやら天帝は、片っ端から咎人を捕らえているらしいわ |
カイル | なっ…! |
ハロルド | 記憶を取り戻しても、咎人だとばれて捕まったりしたら…何されるかわかったもんじゃない |
ハロルド | だからカイル。悪いけれど、スタンの記憶は、一旦諦めなさい |
カイル | そんな事言われたって…放っておけるわけないよ! |
カイル | オレだったら、リアラや、みんなとの思い出を変えられて生きていくのなんて嫌だ |
カイル | だから…父さんもアスベルさんも記憶を取り戻してあげたいんだ! |
ハロルド | スタンはともかくアスベルも?あんた、アスベルとも知り合いなの? |
カイル | うん、アスベルさんはリチャードさんの親友だよ |
カイル | オレも何度かウィンドルの王宮で会った事があるし |
ハロルド | あんた、いつの間に王宮なんか出入りするようになったわけ? |
カイル | 前にリチャードさんが星のカケラの邪念にとりつかれた事があっただろ |
カイル | それを救って以来、時々王宮に招いてもらってたから |
ハロルド | なーるほど、ソフィのオマケってわけね。あの子、リチャード王と仲良かったし |
カイル | オマケって!オレだってリチャードさんと友達だし! |
ハロルド | はいはい。どっちにしろ、記憶を取り戻すなんて駄目よ |
ハロルド | 今、下手に動いて天帝に捕まったりしたら本末転倒でしょ。リアラ達を捜す事も出来なくなるわよ |
カイル | リアラ… |
カイル | …わかったよ。今はリアラ達を見つける事に専念する |
ハロルド | よろしい。それじゃ、しばらくはここを拠点にして情報を集めましょ |
scene1 | 仮初の縁 |
ハロルド | お待たせ~。ばっちり治療が終わったわよ~ |
スタン | お、ようやく戻ってきたか!カイル、もう大丈夫なのか? |
カイル | はい、すっかり治りました! |
アスベル | 結局、ハロルドはカイルの仲間だったって事でいいんだな? |
カイル | はい、そうです!それで、アスベルさんにも聞いておきたいんですが… |
カイル | オレ達の仲間について、何か心当たりとか── |
ハロルド | ちょい待ち!カイル!こっちに来なさい! |
カイル | な、何だよ。どうかした? |
ハロルド | 正直、私もまだこの世界に来てからそれほど時間が経ってないから、掴めていない情報も多いの |
ハロルド | だから…考えなしに質問ばかりするのはやめておいた方がいいわよ |
カイル | えっと…どういう事? |
ハロルド | つまりね…何が原因で咎人だと思われるのか、わからないって事よ |
ハロルド | ただの質問が、この世界の禁忌に触れてしまって、それが原因で咎人と思われる可能性だってある |
ハロルド | 今は必要だから仕方ないけど、本来なら私達が仲間を捜してる事すら隠しておくべきなんだから |
カイル | いやいや…ただ仲間の居所を聞いただけで、咎人扱いされるなんて… |
ハロルド | ないって、絶対に言える?私達はこの世界について、まだほとんど何も知らないのよ? |
カイル | うっ…確かにそうだけど… |
ハロルド | リアラ達の事は私の方でも情報を集めておくからそれまでは大人しくしてなさい |
カイル | うぅ…。でも、こんな時にオレだけじっとなんかしてられないよ |
カイル | オレも街で情報を集める!ハロルドには迷惑かけないって約束するから…! |
ハロルド | あのね…私の話聞いてた? |
カイル | うん。だからこそ、こんな危険な世界にリアラやソフィを放っておけないよ |
カイル | それに…ジューダスの事だってある。オレは少しでも早くジューダスを助けだしたいんだ |
ハロルド | はあ…。わかったわ。言われて諦めるあんたでもないし、街で情報を集めるのは許してあげる |
ハロルド | ただし、細心の注意を払う事。いいわね? |
カイル | うん!ありがとう、ハロルド |
ハロルド | あ、話を中断してごめんねー。さ、どんどん続けてよ |
アスベル | あ、ああ…えーと、仲間の心当たりの話だったよな |
アスベル | 残念だけど、ハロルド以外でそれらしい人物はわからないな |
カイル | そうですか… |
スタン | そう落ち込むなって!仲間捜しなら、俺も協力するから |
カイル | 本当ですか!? |
スタン | ああ!友達が困ってるっていうのに放ってなんておけないからな |
ハロルド | …ふーん、やっぱり似てるわ |
スタン | ん?何だって? |
ハロルド | 何でもないわ。続けてどうぞ? |
スタン | ん、ああ。それでカイル。仲間はまずどこで捜すつもりなんだ? |
カイル | えっと…最初はこの街で捜すのがいいかなって思うんですけど… |
スタン | この街からか。だったらこの街にいる間は、俺の家に寝泊まりすればいいよ |
カイル | え、いいんですか!? |
ハロルド | ちょ、ちょっとカイル──…! |
スタン | 勿論だよ!困った時はお互い様だろ? |
カイル | やった!スタンさんと一緒に過ごせるなんて夢みたいだ…! |
カイル | スタンさん、よろしくお願いします! |
ハロルド | あー…やっぱり、こうなるわよね… |
| |
| ガチャ… |
??? | ただいま。アスベル、今帰ったよ |
カイル | …え?あなたは…! |
scene2 | 仮初の縁 |
??? | 賑やかだな。お客さん…ではないみたいだけど |
アスベル | おかえり、リチャード! |
スタン | 帝都まで商品の買い付けに行ってたんだってな!お疲れ様! |
カイル | やっぱり…リチャード、さん…! |
ハロルド | …わかってるわよね? |
カイル | も、勿論。リチャードさんとは初対面、でしょ? |
アスベル | カイル、彼はリチャード。俺と一緒にこの店を経営しているんだ |
カイル | は、はじめまして、リチャードさん。カイルです |
リチャード | はじめまして、カイル。よろしく頼むよ |
アスベル | カイルはスタンが連れてきたんだが、どうやらハロルドが捜していた仲間の一人らしい |
スタン | アスベルとリチャードはすごく仲がいいんだ!昔からずっと一緒にいるしな |
リチャード | まあ、僕はアスベルには助けられてばかりだけどね |
リチャード | 今だって、親の商売を引き継いだ僕を助けてくれているし |
リチャード | 正直、僕一人ではきっと店を維持するのも難しかったと思うよ |
リチャード | いつもありがとう、アスベル。感謝しているよ |
アスベル | 何をいってるんだよ。俺達は家族みたいなもんだろ。気にしないでくれ |
リチャード | 家族か…。ああ、そうだな |
カイル | こんなリチャードさん見た事ないや…やっぱり、未来とは少し雰囲気が違うな… |
アスベル | カイル、どうしたんだ? |
カイル | い、いや、何だか二人を見てると仲間の事を思い出しちゃって… |
スタン | へぇ、って事はカイルの仲間達もすごく仲がいいんだな! |
カイル | はい、それは勿論! |
リチャード | …仲間か。そういえば、まだ全員は見つかっていないんだな |
リチャード | 仲間の事は僕も気にかけておこう。何かあればすぐに知らせる |
カイル | はい、ありがとうございます! |
アスベル | 結構、話し込んでしまったな。そろそろ仕事に戻らないと |
リチャード | そうだな。買い付けた商品の確認もある。アスベルはそちらを頼む |
アスベル | ああ、わかったよ |
リチャード | 僕達は仕事に戻るが何か協力出来そうな事があれば言ってくれ |
スタン | さて、それじゃあ俺達も帰るか! |
カイル | はい! |
ハロルド | あっ、ちょっと、カイル。待ちなさい |
カイル | わ、っとと。ど、どうかした? |
| |
ハロルド | もう一度忠告しておくけどこっちの世界の人々と不要な縁を結ぶのはやめておきなさい |
カイル | 不要って…どうしてさ |
ハロルド | 私達は元の世界を取り戻すために動く事になる |
ハロルド | でもそれは、今ここにいる記憶を改変された人達を消滅させるという事なのよ |
カイル | そ、それは…! |
ハロルド | 私達は、いつか彼らと別れなければいけない |
ハロルド | 仲良くなればなるほどその時がつらくなるわよ |
カイル | …… |
ハロルド | そうならないためにもカイル、特にスタンとは距離を置きなさい |
カイル | う、うん。わかった… |
カイル | オレだって、父さんとは敵対したくないから |
ハロルド | そう… |
スタン | おーい、カイル!まだかー? |
カイル | あ、今、行きます! |
カイル | それじゃあね、ハロルド! |
ハロルド | …本当に大丈夫なのかしら? |
scene1 | 黄昏に陰る心 |
カイル | ふぁ、あ…おはよーございます… |
スタン | おっ、起きたな!朝ごはん、出来てるぞ |
カイル | う、ん…朝ごはん… |
カイル | ──朝ごはん!? |
カイル | す、すみません!オレ、居候なのに全然手伝わなくて! |
スタン | いいっていいって。それにしても、カイルも朝が弱いんだな |
カイル | うぅ…。そうなんです… |
スタン | 実は俺もなんだ…。朝起きられなくて、本当に困っちゃうんだよなぁ |
スタン | どうにかしなくちゃとは思うんだけどさ… |
カイル | 父さんも…。そっか…オレの寝起きの悪さって本当に父さん似なんだ… |
スタン | …まあ、悩んでても仕方ないし、飯にするか! |
カイル | はい、いただきます! |
スタン | とは言っても、俺も起きたばかりだから大したものは作ってないんだけどな |
カイル | そんな事…!すごく嬉しい、です… |
スタン | はは、そうか?それじゃ、遠慮なく食べてくれ |
| |
スタン | それで、カイルはこれからどうするんだ? |
カイル | 仲間の情報はハロルドが集めてくれるって言ってるんですけど… |
カイル | でも、じっとしていられませんし、オレも街で聞き込みをしようと思ってます |
スタン | そっか…。そうだよな。俺も友達とはぐれちゃったら居ても立ってもいられないと思う |
スタン | よし!そういう事なら俺も一緒に行くよ!協力するって言ったしな! |
カイル | えっ!?でも、そんなの悪いですよ! |
カイル | 家に置いてもらってるだけでありがたいのに… |
スタン | そうは言うけど俺もカイルの事が心配なんだよ |
カイル | …オレ、そんなに頼りないですか? |
スタン | いや、そういうわけじゃないんだ。だけど、最近、咎人の話をよく聞くからな |
スタン | 生誕祭で騒ぎを起こした咎人は脱走したらしいし、カルミナ街でも咎人が出たらしいんだ |
カイル | 咎人…ですか |
スタン | ああ。そんな状態だから、用心するに越した事はないだろ?咎人は、人を惑わすと言うし |
| |
スタン | 早く咎人が捕まってくれれば安心出来るんだけど |
| |
カイル | …… |
カイル | …オレ、やっぱり、一人で行きます! |
スタン | えっ?でも、街には入り組んだ通りもあって慣れてないと迷いやすいし… |
カイル | と、とにかくオレ一人で大丈夫ですから!ごちそうさま! |
スタン | …カイル、急にどうしたんだ…? |
| |
カイル | …急に飛び出したりして父さん心配してるかな…? |
カイル | ここは一回戻って、謝った方が… |
カイル | いや、駄目だ!深く関わるなってハロルドも言ってたじゃないか! |
カイル | それに… |
| |
スタン | 早く咎人が捕まってくれれば安心出来るんだけど |
| |
カイル | 記憶を書き換えられている今の父さんにとって、咎人は悪でしかないんだ… |
カイル | 少し距離を置かないと… |
カイル | …オレの今やるべき事は、リアラ達を捜す事。…とにかく聞き込みだ! |
scene2 | 黄昏に陰る心 |
カイル | …迷った |
カイル | オレ、どっちから来たっけ?全然、覚えてない… |
カイル | はぁ…オレ、何やってんだろ。結局リアラ達の情報も、何一つ見つけられなかったし… |
カイル | ジューダスの事だって早く助け出さなくちゃいけないのに… |
男の子 | パパ、早く早く! |
男の子の父親 | こらこら!あんまり急ぐと転ぶぞ! |
男の子 | だったらパパが手、繋いでて!いいでしょ? |
カイル | …親子、か |
カイル | オレだって、今は父さんと一緒だけど… |
カイル | でも、今の父さんは本当の父さんじゃないんだよな… |
カイル | 今の父さんにかけられた言葉も…背中の温もりも… |
カイル | 父さんとの生活も…本当じゃないんだ |
カイル | …オレが、帰る場所なんて… |
カイル | やっぱり、このまま一人でも街を出てリアラ達を捜した方が── |
??? | カイル、ここにいたんだな |
カイル | …!スタンさん… |
| |
スタン | なかなか戻ってこないから捜してたんだ |
カイル | オ、オレをですか…? |
スタン | 勿論。心配したんだぞ?さあ、家に帰って一緒に温かい飯でも食べよう! |
カイル | …それは…でも… |
スタン | …… |
スタン | …なあ、カイル。ちょっといいか? |
カイル | えっ? |
スタン | カイルが仲間を心配する気持ちはわかる |
スタン | でも、同じように俺もカイルの事が心配なんだ |
カイル | オレの事が… |
スタン | 何があったかは、今は聞かない。でもな、あんまり一人で抱え込みすぎるなよ |
スタン | 俺もハロルドも、アスベル達もいる。辛い時は、頼ってくれていいんだ |
スタン | カイルは、一人じゃないんだからさ |
カイル | …!一人じゃ、ない… |
| |
カイル | …はい。スタンさん、ありがとうございます! |
スタン | いいって。それじゃ、帰ろう!晩飯は気合入れるぞ |
スタン | あ、そうそう、明日は何を言われようと、カイルについていくからな |
カイル | 父さんは…記憶がなくたってやっぱり父さんなんだ… |
カイル | 偽物なんかじゃない…。むしろ、本当の事を言えてないのはオレの方だ… |
カイル | 仕方がない事だってのはわかるけど…でも…! |
カイル | 本当に…それでいいのかな…? |
scene1 | 信じる強さ |
スタン | よし、それじゃ、早速聞き込みをはじめるとしようか |
カイル | はい、そうですね… |
スタン | まあ、今のところ何の情報もないから地道にやるしかないな |
スタン | 絶対に、カイルの仲間の情報を見つけような! |
カイル | …… |
スタン | うーん…やっぱり簡単には見つからないな… |
スタン | 少し休憩にするか。ご飯も買ってきた事だし |
カイル | はい… |
スタン | ほら、カイル。近くの屋台で買ってきたんだけど美味いんだ、これ! |
カイル | あ、はい…。ありがとうございます… |
スタン | …なあ、カイル。どうしたんだ?どうも今日は、元気がないというか… |
スタン | もしかして、お腹でも痛いのか? |
カイル | ち、ちがうんです!えっと、その…仲間達の事が心配で…! |
スタン | …そうだよな |
スタン | なあ、カイルの仲間ってどんな人達か、聞いてもいいか? |
カイル | …あ、はい、勿論… |
カイル | 一緒に旅をしていたのは、ハロルド以外だとリアラとソフィっていう女の子で… |
カイル | みんな…オレの大事な仲間なんです |
カイル | ソフィは、身体は細いけど、すっごく強いんですよ |
カイル | 自分よりずっと大きな魔物もどかんと殴り飛ばしちゃうし、頼りになる子なんです |
スタン | へぇ…すごいんだな!もう一人の仲間…リアラだっけ?そっちはどんな人なんだ? |
カイル | リアラは…オレにとって一番特別な子です |
カイル | とにかくすっごく可愛いんだ!オレの夢も応援してくれるし… |
カイル | リアラと出会えたから、今のオレはここにいるんです…だから…! |
カイル | 何があっても絶対にオレはリアラを守るって決めたんです! |
スタン | …そっか。とても大事な人なんだな |
カイル | はい! |
スタン | やっぱりカイルはすごいな… |
カイル | …え? |
スタン | その歳で、守りたい人がいて…守るっていう覚悟もある。それってすごい事だと思うぞ? |
スタン | なかなか出来る事じゃないよ。もしかして、その歳で旅をしてるのもリアラって子のためなのか? |
カイル | …いえ。オレには、オレのための旅をする理由があるんです |
カイル | オレ…父さんに憧れてて… |
カイル | オレの父さんはすごいんです。英雄として、みんなに尊敬されてて… |
カイル | それに…実際に会ってみると、強くて優しくて温かくて… |
カイル | オレ、そんな父さんと同じように旅をして… |
カイル | 父さんのような、英雄になりたいんです |
スタン | …そうか。息子からそんな風に尊敬してもらえるなんて父親は嬉しいだろうな |
カイル | そう…なのかな? |
スタン | そりゃそうさ |
スタン | 少なくとも、俺にそんな息子がいたらすごく嬉しいと思う |
カイル | …ありがとうございます。すごく…すごく嬉しいです。でも… |
カイル | …… |
スタン | …。カイル、このあとちょっと俺に付き合ってくれないか? |
カイル | へっ?は、はい…それはいいですけど…? |
スタン | よかった!実は街はずれに俺のお気に入りの場所があるんだ |
スタン | きっといい気晴らしにもなると思うから。さぁ、行こう |
scene2 | 信じる強さ |
スタン | ほら、カイル。着いたぞ |
カイル | ここが…スタンさんのお気に入りの場所… |
スタン | いいところだろ?何だかここだけ、時がゆっくり流れているような感じがして… |
カイル | はい。わかる気がします… |
| |
スタン | …なあ、カイル。もし、悩み事があるなら俺に相談してくれよ |
スタン | 俺を父親だと思ってさ。男同士、腹割って話そう! |
カイル | スタンさん… |
カイル | …実はオレ、大切な人にずっと隠し続けてる事があるんです |
カイル | その人は、オレにとってかけがえのない人で…オレにすごくよくしてくれるんです |
カイル | でも、だからこそ、秘密を隠し続けている事が辛くて… |
スタン | …それでも隠してるって事はそうしなきゃならない事情があるって事か? |
カイル | …はい |
カイル | 秘密を話したら、きっと今のままの関係じゃいられないから…それが、すごく怖くて… |
カイル | それに、その秘密を話してしまうと捜している仲間達にも迷惑がかかってしまうかもしれなくて |
カイル | でも、秘密を隠したまま付き合うだなんて本当に正しい事なのかな…? |
| |
スタン | …… |
カイル | って、こんな事言われてもスタンさん、困っちゃいますよね… |
スタン | そんな事ない。俺、難しい事はあんまりわからないけど… |
スタン | 大事なのは、「正しい」と信じる心の強さじゃないかな |
カイル | 信じる心…? |
スタン | カイルは誰かを傷つけるために隠し事をしてるんじゃないんだろ |
スタン | そんなカイルの信じる相手ならその気持ちをわかってくれるはずだ |
スタン | 少なくとも俺なら、絶対に嫌いになったりしない! |
カイル | スタンさん… |
スタン | だから、その相手を信じて──相手を信じた自分を信じるんだ |
スタン | そうすれば、自分にとって本当に「正しい」と信じられる事がわかると思う |
カイル | 相手を信じたオレを信じる… |
カイル | …… |
カイル | ──わかりました。オレ、もっと考えてみます! |
スタン | ああ。でも考えて考えて、わからない事があったら… |
スタン | 俺でもハロルドでも、誰でもいい。ちゃんと頼ってくれよな |
スタン | 最後はきっと上手くいくからさ! |
カイル | …はいっ!ありがとうございます |
ハロルド | あ、いたいた!もう、大人しくしてなさいって言ったでしょ! |
カイル | ハロルド!?そんなに慌ててどうしたの? |
ハロルド | はぐれた仲間の情報が手に入ったの! |
カイル | ほんとに!?詳しく教えてよ! |
スタン | よかったな、カイル! |
カイル | はい! |
ハロルド | …と、その前に急いだから喉が渇いたわね… |
ハロルド | スタン、飲み物を用意してきてくれないかしら |
スタン | お、おお!わかったよ |
ハロルド | さてと、今の内に話したい事があるの |
| |
ハロルド | 旧市街に黒髪で細身の少年がいるらしいの。二本の剣を使うって話よ |
カイル | 黒髪…二本の剣…それってもしかしてジューダス!? |
カイル | あ、いや…でも、それだけでジューダスだって判断するのは… |
ハロルド | それから目つきが悪くって、ずっと不機嫌そうな顔をしてて、話しかけるとさらに不機嫌になるとか |
カイル | ジューダスだ、間違いない! |
カイル | あれ…?でも、ジューダスは未来の世界で結晶に包まれたはずだよね… |
カイル | って事は別の人なんじゃ…? |
ハロルド | それがそうとも限らないのよ。言ったでしょ、この新世界は元世界を土台に創られてるって |
カイル | う、うん…えっと…マナ計測だかをして、確かめた…んだっけ? |
ハロルド | そ。ただ土台にすると言っても何らかの方法で元世界の情報を取得しなきゃいけないはずなのよね |
ハロルド | そんで、世界を創り変えるなんてとんでも現象を起こすんだから、それ相応の前触れがあったはず |
ハロルド | 結果には必ず原因が付随するわ。私達が今まで知り得た情報の中で原因に足り得るものと言ったら… |
カイル | ちょ、ちょっと待って!難しくてよくわからないよ! |
ハロルド | もう、しょうがないわね。つまり、あの結晶がこの世界を創りあげた犯人で… |
ハロルド | そんでジューダスも、結晶に覆われた事で、こっちの世界に来ている可能性があるって事よ |
カイル | なるほど!つまり、旧市街に行けばジューダスに会えるって事だよね! |
ハロルド | ま、あくまでも可能性だけどね。会いに行ってみる価値ぐらいはあるんじゃないかしら |
カイル | それなら迷う必要なんてない。…行ってみるよ、旧市街へ! |
scene1 | 解き放たれる想い |
スタン | 着いたぞ、カイル。ここが旧市街だ |
カイル | ここに、ジューダスが…? |
カイル | …何か思ってた以上に寂しそうなところですね |
スタン | 今は誰も住んでいないからな。俺も、旧市街に来るのは初めてだし… |
スタン | …でも、何でだろう…この街並み、何か懐かしい感じがするんだよなぁ |
カイル | 確かに…言われてみればオレも見覚えがあるような… |
スタン | …まあ、いいや。今はそんな事よりカイルの仲間を捜さないとな! |
カイル | は、はい!ありがとうございます! |
スタン | 人影一つないし、誰かいればすぐわかると思うんだけど──…ん?あそこに誰か… |
カイル | ジューダス…!?おーい、待ってくれよ! |
スタン | あっ、おいカイル!一人で行くなって── |
??? | …… |
カイル | ジューダス! |
カイル | …って…あれ…?ジューダスじゃ、ない…? |
??? | …うるさい奴だな。向こうへ行け。人違いだ |
カイル | た、確かに仮面もしてないし、雰囲気も何か違う気がするけど…でも… |
カイル | ねぇ、本当にジューダスじゃないの?もしかして、記憶改変の影響で何か… |
??? | 記憶だと…?お前、まさか… |
| |
スタン | やっと追いついた。カイル、この人がお前の捜していた「ジューダス」なのか? |
??? | …! |
スタン | …な、何か睨まれてるぞ、俺。えっと…ジューダス? |
??? | …二人そろって何だ。そんな名前など聞いた事がない |
リオン | 僕の名前は…リオンだ |
スタン | そうか、人違いだったのか。残念だったな、カイル……カイル、どうしたんだ? |
カイル | リオン…って。もしかして、あのリオン・マグナス…? |
リオン | …何? |
スタン | ん?ジューダスではないけど、カイルの知り合いなのか? |
カイル | あ、いやその…父さんの親友に、同じ名前の人がいて… |
リオン | …お前は… |
スタン | へー、あのすごい親父さんの。って事は、リオンもすごい人なのか |
| |
リオン | …何だ、その手は |
スタン | 何って、握手だよ。俺はスタン、よろしくな! |
リオン | …ふん。相変わらず能天気な奴だ |
スタン | 相変わらず…?俺、お前とは初めて会ったと思うんだけど… |
スタン | …でも、何でだ…?何だか、前にも会った事があったような気が… |
リオン | …… |
リオン | …話にならんな。これ以上、お前達の相手をするつもりはない |
スタン | お、おい!ちょっと待てよ!もう少し話ぐらい── |
リオン | そんな暇、僕にはない |
スタン | あ、おい!待ってくれって! |
リオン | …!いい加減にしろ、いつだってお前はそうだ! |
スタン | いつだって…? |
スタン | …リオン、何言ってるんだ?俺達、初対面だろ…? |
| |
リオン | …… |
リオン | ──いや、違う。僕はお前を知っている |
リオン | こうしてお前を前にしたら嫌でも思い出す…その、能天気で図々しい性格を |
スタン | …?さっきから何を言ってるんだ…? |
カイル | まさか…リオンさん、あなたは… |
| |
リオン | ああ、そうだ。僕は咎人だ。だからどうした? |
スタン | 咎人…!なら放っておく事は出来ない。ここで捕まえる! |
リオン | そうか。だが、お前に付き合う義理はない |
スタン | 待て、リオン!このまま逃がすわけには── |
リオン | 近寄るな。これ以上、僕に近寄るようなら… |
| シャキン… |
カイル | え…!?リオンさん!?どうして剣を抜く必要が…! |
スタン | ……。出来れば手荒な真似はしたくなかったけど… |
| チャキ… |
カイル | ス、スタンさんまで…! |
リオン | …くだらん。さっさと片づけてやる |
スタン | そう簡単には行くものか! |
カイル | このままじゃ…このままじゃ二人が戦う事に…!本当は親友同士なのに! |
カイル | オレは…オレはどうしたらいいんだ…? |
カイル | あの二人が戦うなんて、絶対に正しくないのに…! |
| |
スタン | そうすれば、自分にとって本当に「正しい」と信じられる事がわかると思う |
| |
カイル | 自分が「正しい」って信じられる事… |
カイル | …… |
カイル | そんなの、もう決まってる…! |
カイル | 二人共…待って! |
scene2 | 解き放たれる想い |
カイル | 待って、リオンさん!剣を収めてください! |
スタン | 何をしているんだ、カイル!リオンは咎人だ、それ以上近付くな! |
カイル | …!スタンさん…違うんです、これは── |
リオン | …… |
リオン | …何故、スタンに味方する?お前も咎人だろう? |
| |
スタン | え…? |
カイル | …… |
| |
スタン | 嘘だろ…いや、嘘だ!それこそ、咎人の妄言に決まってる…! |
カイル | …ううん、リオンさんの言う通りなんです。オレは…咎人です |
スタン | なっ…!そんな…どうして… |
スタン | …どうしてだ?どうして嘘をついてたんだ…? |
スタン | 短い間だったけど俺はカイルの事を本当の家族みたいに思ってたんだ! |
スタン | それなのに…何で…! |
カイル | …スタンさん。今まで黙ってて、ごめんなさい |
カイル | オレもスタンさんと同じ気持ちです。スタンさんの事、本当の家族だって思ってた… |
カイル | ずっと、このままスタンさんと一緒にいられたらなって |
カイル | …だから、本当の事が言えなかった。オレが咎人って事を話したら、この関係は壊れちゃうから… |
スタン | ………… |
カイル | でも、「自分と相手を信じろ」って言ってくれたスタンさんの言葉… |
カイル | あの言葉があったから、オレは決意出来たんです |
スタン | 俺の言葉が…? |
カイル | はい。咎人だって事が知られたらもう今のままじゃいられなくなるってわかってました |
カイル | だけど…だから黙ってるっていうのはやっぱり違うって思って |
カイル | もしこれで咎人として追われる事になっても…オレは後悔なんてしません |
カイル | オレは…オレが信じた「正しい」と思う事をして仲間達を助けます |
カイル | それがきっと…英雄なんだ! |
スタン | カイル… |
リオン | …… |
| |
| ギャオオオッ! |
カイル | な、何?魔物!?どうしてこんなところに…!? |
リオン | …人のいなくなった街は、格好の住処だったというわけか |
リオン | まずは先にこいつらを片付ける必要がありそうだ |
カイル | くっ…!こんな時に! |
scene3 | 解き放たれる想い |
カイル | はあっ! |
| ザシュ! |
リオン | ふっ…! |
| ザシュ!ザシュ! |
リオン | …面倒だな。数ばかり多くてきりがない |
カイル | くそ、このままじゃ…! |
スタン | くっ… |
カイル | …… |
カイル | スタンさん…!スタンさんはあの時、オレを信じるって言ってくれました |
カイル | だから、今度はオレがスタンさんを信じます! |
スタン | カイル…一体何を… |
カイル | こっちはオレ一人で食い止めます!その隙に、二人は魔物の手薄なところを切り開いてください |
スタン | なっ…!カ、カイル! |
スタン | まさか、あの数の魔物を一人で相手する気なのか!?そんなの無茶だ…!! |
スタン | …けど…カイルは…咎人、で… |
リオン | …… |
リオン | カイル…と言ったか。あいつ、少しも後ろを警戒していないな |
リオン | お前に後ろから斬られるとは微塵も考えていないんだろう。全くおめでたい頭だ… |
スタン | カイル…。お前は、俺を信じて… |
スタン | …! |
スタン | うっ…何だ…?一体何が──… |
| |
スタン | …ゼロス、お前しかいないんだ |
スタン | お前なら絶対に開けられるって、俺は信じてる。だから、…ここは頼む! |
スタン | みんな、行こう!急がないと…! |
| |
スタン | …今のは…?何なんだ…ゼロスって誰だ… |
スタン | ぐっ…頭が…! |
| |
カイル | …っ、スタンさん!?どうしたんで──っ、しまった…! |
| ザシュ! |
リオン | 戦闘中に余所見をするな |
カイル | リオンさん…!ありがとうございます! |
| |
スタン | カイル…リオン…ぐうっ!ま、また…! |
| |
スタン | 大丈夫か、スレイ! |
スレイ | ああ、助かったよ。ありがとう、スタン |
スタン | 気にするな。互いに助け合わないと |
| |
スタン | く、ぅ…! |
スタン | またさっきと同じ…!これは、いつの話だ…?俺は…俺はこんなの知らない…! |
| |
カイル | リ、リオンさん!スタンさんの様子が…! |
リオン | まさか、記憶を取り戻しかけているのか…!? |
カイル | 記憶を…!? |
| |
スタン | はぁ…はぁ…俺、どうしちゃったんだよ… |
スタン | 頭の中に、知らない人達が…知らない、俺自身の言葉が、どんどん浮かんでくる… |
スタン | 俺は…俺って、いったい…! |
カイル | ──スタンさんっ、オレ、信じてますから! |
スタン | …!カイル…? |
カイル | オレは何があってもスタンさんを信じ続けます…! |
カイル | 記憶があってもなくても…スタンさんの心は変わらない事、オレは知ってますから! |
カイル | だから…絶対に、大丈夫です! |
スタン | 俺を、信じて──……うっ! |
| |
スタン | 心配いらないさ。ゼロスなら、必ずやってくれる |
スタン | ああ見えてやる時はやるし、頼りになる奴だって事、俺は知ってる |
スタン | 俺はゼロスを信じてる…!だから、絶対大丈夫だ! |
| |
スタン | そうだ…俺は… |
| |
カイル | このぉぉぉ! |
リオン | はぁぁっ! |
カイル | …はぁはぁ、ちょっと数が多すぎるな。このままじゃ、不味いかも… |
カイル | …くっしまっ── |
| |
スタン | させるかああっ! |
| ズバッ!! |
| |
スタン | 悪い、遅くなった! |
カイル | スタンさん…! |
スタン | 最後はきっと上手くいく…。ははっ、俺が言った言葉だったな。けど本当にその通りになったみたいだ |
スタン | ありがとう、カイル。お蔭で全部思い出せた! |
カイル | 記憶を…!よかった…本当に…! |
スタン | リオン、協力してくれ!三人で追い払おう! |
リオン | 全く…手のかかる奴だ |
スタン | ははっ、迷惑かけたな。でもいつもの事だろ? |
リオン | …ふん。そうだな、お前はそういう奴だ。ならいつも通り、さっさと片づけるぞ |
スタン | ああ!カイルもいけそうか? |
カイル | は、はい!大丈夫です! |
スタン | それじゃ、一気に倒すぞ! |
scene1 | 取り戻したもの |
リオン | …ふん。数は多かったが、大した事はなかったな |
スタン | リオンがいてくれたお蔭だよ。それと… |
スタン | カイル、ありがとう |
スタン | あの時のカイルの言葉がなかったら俺は今でもカイルの事もリオンの事も全部…忘れたままだったと思う |
スタン | 俺を信じてくれて本当にありがとうな |
カイル | スタンさん…よかった…!オレ…! |
スタン | カイル…泣きそうじゃないか |
カイル | し、仕方ないじゃないですか。スタンさんが思い出してくれた事が嬉しかったんですから…! |
スタン | はは…心配かけたな |
スタン | でも…どうして急に記憶が戻ったんだろうな? |
リオン | おそらくだが…何らかのきっかけで元世界の記憶が刺激されたんだろう |
スタン | …なるほどな。そう言われてみると、わかるような気がするよ |
スタン | 俺も、カイルの行動を見て、仲間達と一緒に天帝の御座に乗り込んだ時の事が蘇ってきたんだ |
スタン | きっと、それがきっかけだったんだと思う |
カイル | お、オレの行動がですか? |
リオン | あの向こう見ずな行動がきっかけになるとは、わからないものだな |
スタン | 向こう見ずだなんて言ってやるなよ。あの時のカイル、かっこよかったじゃないか |
カイル | か、かっこいい… |
スタン | だいたい、そういうリオンは記憶を取り戻したきっかけって何だったんだ? |
リオン | ……話す気はない |
スタン | 何だよ、別に隠す事じゃないだろ? |
リオン | …何故、僕がそこまで話さないとならない。お前には関係な── |
| |
| ギャオオオッ! |
| |
カイル | 魔物…!?まだいたのか! |
スタン | 仕方がない。この話は後回しだな! |
リオン | …くどい!話すつもりはないと言ってるだろう! |
リオン | …全く、話すわけないだろう |
リオン | 図々しくて能天気な奴に助けられたあの出来事が、僕の記憶を取り戻すきっかけになったなんて… |
scene2 | 取り戻したもの |
スタン | よし、魔物は退治出来たし…これから、どうする? |
カイル | えっと…ハロルドへ報告したいんで一度アルメリアに戻りませんか? |
スタン | そうか。そういえば、ハロルドも記憶があるのか? |
カイル | あ、はい!それどころかこの世界の調査をやってくれてるみたいで… |
スタン | だったら、ちゃんと報告しとかないとな!アルメリアに戻ろう! |
リオン | …そうか。では僕は別行動だ |
スタン | 何だよ、リオン。せっかく合流出来たんだから一緒に来ればいいだろ? |
カイル | スタンさんの言う通りですよ!オレ達と一緒に行きましょう! |
リオン | 僕にだってその前にやるべき事がある。協力は、その後だ |
カイル | やるべき事、ですか? |
リオン | 「立入禁止区域」の調査だ。元々、旧市街まで来たのもそのためだからな |
カイル | えっ、立入禁止区域ってこの近くにもあるんですか? |
リオン | ああ、街の外れで見た。白き獅子が警備していて近付けなかったがな |
リオン | …それよりカイル。「この近くにも」というからには、他の立入禁止区域を知っているのか? |
カイル | あ、はい。実は、ここに来る前に森の中で立入禁止区域を見たんです |
カイル | ここからだと、ちょっと遠いけど… |
スタン | ああ、トイマイの森か。そういえば、そこでカイルと会ったんだったな |
リオン | なるほど…。それならば、そっちも調べてみよう |
カイル | でも、立入禁止区域ってそもそも何があるんだろう?リオンさんは何か知ってるんですか? |
リオン | それがわからないから調査をするんだ。少しは自分の頭で考えろ |
カイル | うぐ…その言い方、やっぱりジューダスに似てる… |
リオン | 何をわけのわからない事を…そもそも、僕達はまだこの世界がどうなっているかも知らないだろう |
スタン | 確かになぁ…天帝が関わっているんだろうな、っていうのは、わかるんだけど… |
リオン | 天帝が…?根拠はあるのか |
スタン | ああ、実は… |
カイル | 天帝の目覚めを防ぐために戦った…そんな事が… |
リオン | だとすると…この世界が生まれた事自体、天帝の仕業という可能性もあるか… |
カイル | …そういえば、ハロルドもこの世界は創り変えられた世界だって言ってました |
リオン | 創り変えられただと…?…やはり不明点が多すぎる |
リオン | その謎を少しでも解くためにも、僕は立入禁止区域を調べてくる |
リオン | 天帝が見張りまで立てて人を近寄らせまいとしている場所だ |
リオン | この世界について何かしらの鍵になる事は間違いないだろう |
スタン | 鍵ねぇ…だったら、みんなで調査すればいいんじゃないか? |
リオン | あまり目立ちたくないからな。一人の方が都合がいい |
リオン | それに、スタン、お前が何か失敗した時にも、別動隊がいた方が支援に入りやすい |
スタン | 何だよ、俺が絶対に失敗する、みたいに言うなって |
リオン | 別に何も間違ってないだろう。大体お前はいつも── |
カイル | ストーップ!ケンカはやめてください! |
リオン | む… |
スタン | け、ケンカはしてないぞ?リオンとは、いつもこんな感じだし |
カイル | ええ?そんなものなんですか?もっと親友って感じかと… |
スタン | まぁ、じゃあとりあえず…リオンが立入禁止区域を調べるなら俺達は別方面を当たってみるよ |
リオン | …ほう。何か手掛かりがあるのか |
スタン | 手掛かりっていうわけじゃないけど…まずは、スレイ達の行方を捜したいと思ってる |
カイル | スレイさん…スタンさんと一緒に天帝達と戦った仲間ですね! |
スタン | うん。みんなと合流出来ればきっと打開策だって見つけられると思うんだ |
リオン | …わかった |
リオン | 調査が終われば僕も合流するつもりだ。それまでせいぜい、上手くやるんだな |
スタン | わかってるよ。心配してくれるなら、そう言えばいいのに… |
スタン | 全く…リオンは本当に素直じゃないなぁ… |
リオン | うるさい!僕はもう行くぞ |
カイル | あ、はい!リオンさんも気を付けて!協力してくれて、ありがとうございます! |
スタン | …さあ、俺達は一旦戻るか |
カイル | はい! |
scene1 | 小さな英雄 |
カイル | ただいま、ハロルド! |
ハロルド | 遅い!私をこんなに待たせるなんて覚悟は出来てるんでしょうね~? |
カイル | ご、ごめん…!えっと、その…いろいろあって… |
ハロルド | ふーん…ま、いいわ。とりあえず、報告を聞きましょうか |
カイル | あ、うん。ジューダスについてだけど…噂の人は、ジューダスじゃなかったよ |
カイル | リオンっていう、スタンさんの知り合いだった |
ハロルド | そう…でも、だったら噂の段階でスタンにも見当がついてたんじゃない? |
スタン | いや、知り合いだったのは元の世界での話だ。この新世界では、初対面だったよ |
ハロルド | なっ…!スタン、あなた記憶が戻ったの? |
スタン | ああ、カイルのお蔭でな! |
ハロルド | カイルのお蔭…?あんた一体、何をしたのよ? |
カイル | いや、それは…何というか… |
スタン | カイルが俺を信じてくれたんだ! |
ハロルド | ちょっと意味がわからないわ。詳しく説明して |
カイル | う、うん… |
ハロルド | はあー。じゃあ結局、私が言った事は全然守れなかったって事ね |
カイル | うっ…ごめん… |
ハロルド | ま、別にいいわ。私もカイルが我慢し続けられるなんて思ってなかったし |
ハロルド | カイルっぽくていいんじゃない? |
カイル | え?どういう意味さ |
ハロルド | あんたがアホって事。悪い意味じゃなくてね |
カイル | な、何だよ!悪い意味じゃないアホって! |
ハロルド | でも…記憶への刺激がきっかけになるのなら、他の人間にも何か出来る事があるかも… |
カイル | 何かいい方法が思い付いたの!? |
ハロルド | まだ、わからないけどね。でも、調べてみる価値はありそう |
ハロルド | それにしても、まさか元世界の過去の時代で、そんな事があったなんてね… |
スタン | 俺も驚いたよ。まさかカイル達が未来の人間だったなんて… |
スタン | あ。もしかして、未来の俺にも会った事あるのか? |
カイル | え!?えっと、それは… |
ハロルド | はいはい、脱線しないの。「晶化現象」に「立入禁止区域」と話す事は山積みなんだから |
ハロルド | 私達のいたところで起こった現象も「晶化現象」だったんでしょうしね |
カイル | 結晶に包まれても生きてるんだよね!それならジューダスも無事って事だよね? |
スタン | ああ。きっと大丈夫なはずだ |
カイル | よかった… |
ハロルド | 解決はしてないけど、とりあえず命に別条はないって事ね |
ハロルド | 「立入禁止区域」については、ちょっと気になるし、私の方でも調べてみるわね |
カイル | うん。リオンさんも、そこに何かしらの鍵があるんじゃないかって言ってた |
ハロルド | 鍵ねぇ…確かに、隠しておきたい「何か」があるのは疑いようがないわね |
ハロルド | 記憶の戻し方に、立ち入り禁止区域…グフフ、忙しくなるわ~ |
カイル | 調査はハロルドに任せるとして…それじゃあオレ達は── |
スタン | 天帝に反撃、だな |
カイル | 天帝…この新世界は、天帝と、ヴァンって奴が創ったものなんですよね? |
スタン | ああ、俺達は奴らを止める事が出来なかった… |
スタン | けど、もう奴らの好きにはさせない! |
ハロルド | ふむふむ。それじゃあ天帝に反撃するためにも、スタンの目標は仲間捜しってところかしら |
スタン | ああ。スレイ達と合流して打開策を考える |
スタン | スレイ達は一緒に戦った仲間…みんなだって俺と同じように思うはずだ |
スタン | なのに、記憶を改変されてその想いすら忘れているとしたら…早く記憶を取り戻させてやらないと |
カイル | 仲間捜し… |
カイル | …ねえ、ハロルド。咎人だってバレる危険とか、いろいろあるのはわかってきたけど… |
ハロルド | いいんじゃない?スタンと一緒に、行ってきなさいよ |
ハロルド | 私はここで研究を続けるから、リアラ達の事はよろしく頼むわ |
カイル | …え? |
ハロルド | あれはやるな、これはやるなってうるさく言ってきたけど…もういいわ。あんたに任せる |
カイル | …!い、いいの? |
ハロルド | スタンもいるしね。まぁ、危なっかしいのは変わらないけど… |
スタン | えー。そうかぁ? |
ハロルド | ま、何とかするのがあんた達でしょ。アスベルとリチャードの記憶も気がかりでしょうけど… |
ハロルド | その辺りは全部私に任せて、あんた達は仲間を捜しにいってらっしゃいな |
カイル | う、うん、わかったよ!リアラ達の事は俺に任せて! |
スタン | …けど、本当にいいのか?いろんな事をハロルド一人に任せちゃう事になるけど… |
ハロルド | 何言ってんの。あんた達に、足を使わせずに頭を使わせてどうするのよ |
ハロルド | 自分に出来る事をやるのが一番。特にカイル。ぼさっとしてる暇はないわよ? |
カイル | え、どういう意味? |
ハロルド | 咎人の少女が目撃されたのよ。場所はナムザ街、スタンは知ってるでしょ? |
スタン | 知ってるけど…その咎人の少女って、もしかして… |
カイル | リアラだ! |
ハロルド | そうとは限らないけど、他に手掛かりがないのなら行ってみて損はないと思うわ |
カイル | うん!そうするよ! |
スタン | じゃあ、まずはナムザ街に向かうとするか |
スタン | 他の仲間の情報を集めるためにも、いろいろな街へ行ってみるのはいい手だと思うし… |
スタン | 何より、カイルの仲間の事は気がかりだからな |
ハロルド | 頼んだわね。それじゃあ私は、研究に戻るとするわ |
カイル | え?見送りもナシ? |
ハロルド | そんな暇がどこにあるのよ。仲間の記憶を取り戻して、立入禁止区域を調べて… |
ハロルド | おまけに、世界を元に戻すっていう仕事まであるんだからね |
カイル | 世界を、元に…!?ハロルド、そんな事出来るの!? |
ハロルド | まあね。スタンの話を聞いて確信を持てたわ |
ハロルド | 言ったでしょ?この世界は、元の世界を土台にしてるって |
ハロルド | スタンがその証拠。別人になったわけじゃないから、こうして記憶も戻った… |
ハロルド | それって、全世界を元に戻す事も出来ると思わない? |
カイル | 言われてみれば、そんな気が…。すごいや、ハロルド! |
ハロルド | 褒めるのはまだ早いわよ。もっと研究を進めて、確実な方法を導き出してやるんだから |
ハロルド | 見てなさい。この天才に不可能はないって事、天帝とやらに見せつけてやるわ! |
スタン | はは。これは本当に、反撃の方法が見つかるかもしれないな |
カイル | はい!それじゃあ、そっちは任せるね!ハロルド! |
scene2 | 小さな英雄 |
カイル | それじゃあ…ナムザ街に向かいましょう! |
スタン | ああ!っとその前に…リチャードとアスベルにも挨拶しないとな |
カイル | あ…そうですよね。でも、店にはいないようでしたし、少し街を捜して── |
リチャード | スタン、カイル!こんなところでどうしたんだ? |
カイル | あっ!リチャードさん、アスベルさん!ちょうどいいところに! |
アスベル | どこかに出かけるのか? |
カイル | はい、仲間の手掛かりが見つかったんです。だから、捜しにいこうと思って… |
カイル | 二人にはお世話になりました!ありがとうございます! |
リチャード | いや、むしろ何も出来なくてすまない… |
カイル | そんな事ないですよ!それに、ハロルドも引き続き居候させてもらうし… |
リチャード | なるほど、手分けするわけか… |
リチャード | 店の事なら気にしなくていいさ。むしろ、仲間を見つけたら是非連れてきてくれ |
リチャード | カイルの仲間には僕も会ってみたい |
カイル | リチャードさん…ありがとうございます! |
アスベル | スタンも一緒に行くのか? |
スタン | …ああ。カイルの手助けをしたくてさ |
アスベル | そうか…。二人がいなくなると寂しくなるな |
リチャード | そうだな…。だが、カイルの仲間を捜すためだ。応援しているよ |
アスベル | 目的を果たしたらいつでも戻って来いよ |
カイル | はい、ありがとうございます! |
スタン | それじゃあ、行ってくる! |
カイル | …あの二人も、元の世界での記憶は持ってないんですよね… |
カイル | 元の世界と同じで、仲がいいままなのはよかったですけど… |
スタン | そうだな… |
スタン | なあカイル。二人のためにも、絶対に元の世界を取り戻そうな! |
カイル | はい!そのためにもナムザ街に急がなきゃ! |
スタン | あ、カイル!足元をよく見── |
カイル | うわぁぁ! |
カイル | いたた… |
スタン | だ、大丈夫か?ほら、俺の手に掴まって── |
カイル | …いえ |
カイル | 大丈夫です。オレ、一人で立てますから |
スタン | …そうか。うん、余計な心配だったな |
スタン | それじゃあ、改めてナムザ街を目指そう! |
カイル | はい! |
Name | Dialogue |
scene1 | 秘境の石盤 |
ミクリオ | ガイ、クレス。ここから先は何があるかわからない。気を付けて進んでくれ |
クレス | うん。忠告ありがとう、ミクリオ。今のところは魔物の気配もないし、大丈夫だよ |
ガイ | しかし、ずいぶんと登ったなぁ。その秘境とやらはまだ先なのか? |
ミクリオ | ああ、もう少しかかる。疲れたなら、一度休憩を… |
ガイ | いや、俺は平気だ。ただ、お前が早く着きたいって顔してるもんだからさ |
クレス | あはは。確かに、街にいる時より生き生きしているみたいだね |
ミクリオ | …この辺りは、僕が知る限り、まだ本格的な調査がされていないんだ |
ミクリオ | 未知の何かがあるかもしれないと思うと、つい気が急いて…ね |
ガイ | やれやれ。ミクリオは本当にその未知ってヤツにご執心だな |
ミクリオ | …ん?ガイ、止まってくれ。君の足元の花を少し調べたい |
ガイ | 何だ、お前が花を気にするなんて珍しいな |
クレス | 僕にはただの花しか見えないけど…。これがどうかしたのかい? |
ミクリオ | … |
ミクリオ | この花、図鑑で見た事がない種だ |
ミクリオ | シロツメヤグルマソウの亜種か?いや、それにしては花弁の形が違う。という事は、やはりこれは… |
ガイ | その花、そんなに珍しいものなのか? |
ミクリオ | ああ。これはおそらく新種だ |
ミクリオ | この植物を詳しく調べる事で、植物学だけではなく、薬学の進歩も望めるかもしれない |
ミクリオ | この発見は、ラザリス様の望む平和な世界にとって大きな意味を持つ可能性だってある |
ガイ | なるほど…そいつはすごいな。うっかり踏み潰さなくてよかったよ |
クレス | 本来の目的とは違うけど、ミクリオの調査が実を結びそうで僕も嬉しいよ |
ミクリオ | …それだけか?いつもはここでもっと、議論や推論を重ねて── |
ガイ | いつも?俺達、議論なんてした事あったか? |
ミクリオ | …! |
ミクリオ | あ…いや、何でもない……忘れてくれ |
ミクリオ | … |
ミクリオ | …いつも付き合わせてしまってすまないな |
クレス | そんな水臭い事を言わないでくれよ。僕達は友達じゃないか |
ガイ | クレスの言う通りだ。今さら、遠慮する必要なんてないさ |
ミクリオ | 二人共… |
ミクリオ | よし、もう少し先まで進んでみよう。さっきみたいな発見がまだあるかもしれない |
クレス | ああ、行こう! |
scene2 | 秘境の石盤 |
クレス | だいぶ奥まで進んで来たね |
ガイ | そうだな…周囲の空気もどことなく重くなってきた気がする |
ガイ | なあミクリオ、今回はそろそろ切り上げた方がいいんじゃないか? |
ミクリオ | いや、もう少しだけ探させてくれ |
クレス | 何か気になる事でもあるのかい? |
ミクリオ | …確証があるわけではないんだ。ただ、土が… |
ガイ | 土? |
ミクリオ | ああ。この一帯の土は本来の山のものとは違うようなんだ |
ミクリオ | 普通なら、局地的に地質が変わるなんて事は、まずありえない |
ミクリオ | だが、自然物ではない何かの影響を受けたせいだという仮説を立てると、説明がつけられるようになるんだ |
クレス | なるほど。ミクリオは、その先を調べたいんだね |
ガイ | 俺にはどこも同じに見えるが… |
ガイ | ま、ミクリオがまだ調べたいって言うなら、最後までとことん付き合うさ |
クレス | そうだね。土の調査に、つちあうよ! |
クレス | ──なんてね |
ミクリオ | …… |
ガイ | えーと…じゃあ、とりあえずこの辺をもう一周してみるか |
ミクリオ | あ、ああ…そうだな… |
ミクリオ | とはいえ、闇雲に見て回るのは── |
ミクリオ | …! |
ガイ | ん?どうしたんだ? |
ミクリオ | これは… |
ガイ | 泥だらけだが…石盤のように見えるな |
ミクリオ | ああ!これは間違いなく人工的に造られた物だ…! |
クレス | そうなのかい?僕にはただの平らな石に見えるけど… |
ミクリオ | ほら、表面にこびりついた泥を払うと… |
クレス | あ!何か紋様のようなものが…! |
ミクリオ | やっぱり…。これは「人工遺物」だ |
ガイ | 「人工遺物」…人が立ち入らないはずの秘境で、何故か見つかる謎の人工物、か |
ミクリオ | ああ。本に載っていなければ、説明出来る学者もいない |
ミクリオ | けれどこの世界には、確実に複数の「人工遺物」が存在している |
ミクリオ | これもその一つだとしたら、間違いなく今日一番の大発見だ |
ガイ | …なあ、ミクリオ。その石盤と同じような物、この前の調査で見つけなかったか? |
クレス | ああ、以前ミクリオが「螺旋模様の石盤」って名付けた遺物の事だね |
ミクリオ | …!そう言われれば、確かに似ているな… |
ミクリオ | 見つかった場所が遠すぎるし、偶然だとは思うが…確証もなしに否定は出来ないな |
ミクリオ | もし二つの石盤に関連性が見つかれば…人工遺物の研究が大きく進む事になるかもしれない |
ミクリオ | 何にせよ、一度持ち帰って詳しく調べてみた方がよさそうだ |
ガイ | まあ、何はともあれ、いいお土産が出来たな |
クレス | それじゃあ、今日の調査はこの辺で終わりにしようか。遅くなると危険だしね |
ミクリオ | ああ、そうだな。そろそろ戻ろう |
| |
クレス | 今日はいい発見があってよかったね、ミクリオ! |
ミクリオ | ああ、二人共付き合ってくれてありがとう |
ガイ | …なあ、ミクリオ |
ミクリオ | 何だい? |
ガイ | 俺やクレスは、ただの一般市民だ |
ガイ | レイザベールの貴族の常識とか、しきたりについてはよくわからない |
ガイ | だから偉そうな事を言う資格なんかないってわかっちゃいるんだが… |
ミクリオ | …こんな風に好き勝手に遊んでいて大丈夫なのか、だろう? |
ガイ | …あー、まあ、そんなところだな |
クレス | 実際どうなんだい?いろいろと話を聞いていたから、僕も気になっていたんだ |
ミクリオ | その辺はローエンが上手くやってくれている。心配はいらない |
ミクリオ | そもそも僕がやっている事は、決して遊びなんかじゃない |
クレス | うん。ミクリオが真剣に取り組んでる事はよく知っているよ |
ミクリオ | 「人工遺物」の調査や研究は、いずれこの世界の発展に必要なものになる… |
ミクリオ | 今はまだ成果は出ていないけれど、長い目で見れば、きっとラザリス様のお役に立つと思う |
ガイ | そうか…。ま、問題ないならそれでいいんだ |
ガイ | ミクリオがそこまで考えて判断してるなら、大丈夫だろ |
クレス | そうだね。僕達はミクリオを応援するよ |
ミクリオ | ああ。これからもよろしく頼む |
| |
| ガサッ |
ガイ | おっと、話はここまでだな。そこの草むらに何かいるぞ! |
| |
| ガルルルル! |
ミクリオ | 魔物だ!行くぞ、二人共! |
scene1 | 優雅な?お茶会 |
ガイ | 思ったよりも早く、レイザベールに戻って来られたな |
クレス | そうだね。日が落ちるまでは、まだ時間がありそうだ |
ミクリオ | それにしても、外から帰ってくるといつも思うがこの街は本当に人が多いな… |
ガイ | レイザベールは帝都に次ぐ大都市だからな |
ガイ | 貴族も一般市民も大勢いるとなれば、にぎやかなのも無理はないさ |
ミクリオ | ん…? |
貴族の男 | くそ!また入隊試験に落ちた!何故だ!俺の何が白き獅子に相応しくないって言うんだ~! |
ガイ | …ああいう輩まで「にぎやか」で済ますのは、ちょいとばかり難しいけどな |
クレス | 荒れる気持ちもわかるけど、あまり感心は出来ないね |
ガイ | あの家の当主は、今ごろ頭を抱えてるんだろうな |
ミクリオ | …貴族の間では、白き獅子の一員になる事を尊ぶ風潮があるからね |
クレス | 白き獅子の騎士となり、ラザリス様にお仕えする事が、何より大事…だったっけ |
ガイ | 実際その思想通り、白き獅子にはレイザベール出身の騎士がたくさんいるって話だからすごいよな |
ミクリオ | ああ。そうあるべきと努力して結果を残している点は僕も素直に尊敬する |
ミクリオ | ただ、武力ばかりを重視して、他を軽視しているところはあまり共感出来ないけど… |
ガイ | おいおい。そんな事言ったらまずいんじゃないか? |
ミクリオ | そうだな、気を付けるよ |
ミクリオ | さてと。僕はこれから博物館に顔を出しに行くけど、君達はどうする? |
ガイ | 一緒に行きたいところだけど、この後少し用事があってな |
クレス | 僕も剣の稽古が… |
ミクリオ | わかった。それじゃあ、今日はこれで |
ガイ | ああ、じゃあな |
クレス | また何かあったら、声をかけてね |
ミクリオ | …さて、戻るとするか |
| |
ローエン | お帰りなさいませ、ミクリオ様 |
ミクリオ | ただいま、ローエン |
ローエン | そろそろお戻りになられる頃だと思っておりました。今日の首尾はいかがでしたか? |
ミクリオ | 大収穫だった。新種の植物と、新しい人工遺物の回収に成功した |
ローエン | それはそれは…よかったですね |
ミクリオ | 博物館の方はどう…って、聞くまでもないか |
ローエン | ええ。これまでにミクリオ様が収集された人工遺物の管理は、いつも通り万全です |
ローエン | 展示物の入れ替えも、随時行っておりますよ |
ローエン | どれも倉庫の奥にしまい込んでおくには忍びない物ばかりですから |
ミクリオ | …そうやって展示物を入れ替えたところで、客が来るとは思えないけれど |
ローエン | いえいえ。こうして博物館を続ける事に、意義があるのですよ |
ローエン | ミクリオ様の収集した品々は、市民の役に立っていると世間に周知する事が大事なのです |
ミクリオ | ああ、わかっている。だけど人が来ないんじゃ… |
ローエン | これからでございますよ |
ローエン | いずれミクリオ様の調査と研究が実を結べば、この博物館にも大勢のお客様がいらっしゃいます |
ローエン | その日が来るまで、このローエン、老骨に鞭を打ち、ミクリオ様を支える所存にございます |
ミクリオ | …まあ、ここの運営については引き続きローエンに任せるよ |
ローエン | かしこまりました。この後はどうなさいますか? |
ミクリオ | そうだな…まだ日も高いし、せっかくだから今日見つけた石盤の調査を… |
| |
アニス | きゃわーん♪ミクリオ様、みーつけたー☆ |
ミクリオ | …アニス |
ローエン | ごきげんよう、アニスさん。ミクリオ様にどのようなご用でしょうか? |
アニス | 今日は、約束をかなえてもらいに来ましたぁ |
ミクリオ | 約束? |
アニス | え~、忘れちゃったんですかぁ?アニスちゃんをお茶会に招待してくれる約束ですよ |
ミクリオ | そんな約束をした覚えはないんだが… |
アニス | しましたよ!生誕祭の時に、しっかりと! |
ローエン | 勿論、覚えておりますよ |
ローエン | しかし、日取りは特に決めてはいなかったかと存じますが… |
アニス | そうですけどぉ、いつまでも招待してくれないから直接来ちゃいました♪ |
アニス | 今日はご都合悪いですか? |
ミクリオ | いや、特段用事はないが…。わかったよ、約束は約束だ。屋敷でお茶にしようか |
アニス | きゃわーん!ありがとうございますぅ |
アニス | それじゃ、早速ミクリオ様のお屋敷に向かいましょう! |
ミクリオ | …すまないローエン。お茶会の支度を頼む |
ローエン | かしこまりました |
scene2 | 優雅な?お茶会 |
アニス | はぁ…いつ見ても素敵なお庭ですねぇ |
ミクリオ | ローエンが丹精込めて整えているからな |
アニス | ローエンさんの淹れてくれたお茶も美味しいですし、最高の気分です |
ローエン | ほっほっほっ。お褒めに預かり、光栄です |
アニス | ミクリオ様のお嫁さんになる人は、毎日このお庭を眺めて、美味しいお茶を飲めるんですねぇ |
ミクリオ | そんなに庭園に興味があるなら、アニスも自宅の庭に作ったらいいんじゃないか? |
アニス | …もー!ミクリオ様のいじわるぅ!一般人には、こんな広い庭を持つ事すら難しいですよう! |
ローエン | おやおや、ミクリオ様にかかればアニスさんも形なし、ですかな? |
アニス | 貴族ってみんなこんな感じなの?むむ、思った以上に手強い… |
ミクリオ | 今何か言ったかい? |
アニス | いいえ、なーんにも! |
アニス | それよりミクリオ様、知ってます?白き獅子の入隊試験に貴族がことごとく落ちてるって話 |
ミクリオ | ああ、さっき街中で一人見かけたな。他にもそんなにいるのか |
アニス | 生誕祭でのラザリス様襲撃の一件がきっかけで、白き獅子への入隊を志願する人が増えてるそうですよ |
アニス | で、一般市民の増員に対抗して、貴族もどんどん試験を受けようって動きになってるみたいです |
ローエン | とはいえ、白き獅子といえば、精鋭中の精鋭です。なかなかに狭き門と言えるでしょう |
ミクリオ | 白き獅子は実力重視だからね。家柄だけではどうにもならないって事なんだろうな |
アニス | 何だか他人事ですねぇ。ミクリオ様は志願しないんですか? |
アニス | 貴族の方はみんな、白き獅子を目指すものだって聞きましたけど |
アニス | アニスちゃん、ミクリオ様が白き獅子の隊服を着ているところ、見てみたいです! |
アニス | きっとすごくお似合いでしょうねぇ。想像しただけで…うっとり♡ |
ミクリオ | 確かに、白き獅子としてラザリス様にお仕えするのも一つの道だと思う |
ミクリオ | けれど僕は、別の方法でもラザリス様に…この世界に貢献出来ると考えている |
アニス | それが、人工遺物の調査と研究、ですか? |
ミクリオ | ああ。人工遺物の謎の解明は、きっとこの世界の未来で役に立つ |
ミクリオ | 僕は、ラザリス様の世界をよりよいものにしたいんだ |
アニス | むぅ…ローエンさんはそれでいいんですか? |
ローエン | ええ、勿論。ミクリオ様のお志は尊いものですよ |
ローエン | ミクリオ様のお考えが素晴らしいと感じたからこそ、私も全力でお仕えしているのです |
ミクリオ | ローエンには博物館や人工遺物の管理を一手に引き受けてもらって、いつも助かっている |
ローエン | いえいえ、これくらいミクリオ様の執事として当然の事です |
アニス | あ、博物館なら、アニスちゃんもよく行ってますよー |
ミクリオ | 本当か…!? |
アニス | はい!いいですよね、博物館! |
ミクリオ | そうか…!まさかアニスが人工遺物に興味があるなんて思わなかったよ |
ローエン | そうですねぇ。お蔭でミクリオ様とのお話も弾む事間違いありませんね |
アニス | ふっふっふ、アニスちゃん結構勉強家なんですよ。可愛くて頭もいい!超お得物件です! |
ミクリオ | アニス、よかったら君の感想を聞かせてくれないか?どの展示物に興味を引かれた? |
アニス | ええと…全部、かな?どれも珍しくて、不思議だなーって |
ミクリオ | …じゃあ、他に何か気付いた事は? |
アニス | う、うーん…特には?その、掃除も行き届いていますしぃ、ごちゃごちゃしてなくて見やすいです |
ミクリオ | …そうか |
アニス | あれ?どうかしましたか? |
ミクリオ | いや…何でもない |
ミクリオ | …ローエン、アニス。二人に聞きたい事がある |
アニス | 何ですかぁ?このアニスちゃんに、何でも聞いちゃってください! |
ミクリオ | 街の人々が、博物館や、陳列されている人工遺物をどう思っているか、教えてくれないか |
アニス | ええと…それは… |
ローエン | そうですね…陳列されている人工遺物は、大半が日常的に目にするものが多いですから |
ローエン | ただ並べているだけでは、ここでしか見られない、という特別感が少々足りないようです |
ミクリオ | 初めて目にするような物もあるはずなんだが… |
ローエン | おそらく、何のために作られたかわからないため、価値が伝わりにくいのでしょう |
アニス | むぅ、確かに…。研究成果の資料も文字ばっかで取っ付きにくいですもんねぇ |
ミクリオ | そうだったのか…。わかりやすくまとめたつもりだったんだが… |
アニス | はぅあ!あ、あれ、ミクリオ様が作ってたんですかぁ!? |
ローエン | おいたわしや、ミクリオ様…。夜なべして作られたというのに… |
アニス | え、ええと…い、いっそ、ミクリオ様ご自身にまつわる物とかを展示したらどうでしょう! |
アニス | きっと、女の子のお客さんが山のようにやって来ますよ! |
ミクリオ | 僕の事を知ってもらっても何の意味もないだろう |
ミクリオ | …はぁ。難しいものだな |
ミクリオ | 人工遺物から得られた知識は、きっと世の中を発展させ、よりよい世界を作り上げるだろう |
ミクリオ | そうする事が、ラザリス様の望む「永遠に続く平和と幸福の世界」へ繋がるはずだ |
ミクリオ | そのためには、人工遺物の知識がもっと世の中に浸透しなければならない |
ミクリオ | なのに、どうして誰も知ろうとしないんだ。僕だったら、毎日通い詰めてでも勉強するのに… |
ローエン | …それは、ミクリオ様が興味を持つ事と、他の方が興味を持つ事が異なるからですよ |
ローエン | 大事な物や根幹にある価値観は、人によって大きく違うものです |
ローエン | その違いを踏まえた上で、どう工夫したらいいかを考えるのが、大切なのかもしれませんね |
ミクリオ | そうだな…それは今後の課題にしよう |
ローエン | ええ。ミクリオ様なら、きっと出来ますよ |
アニス | 頑張ってくださいね!アニスちゃんも応援してますから! |
ミクリオ | ああ。ありがとう、二人共。期待に応えられるよう努力する |
ローエン | アニスさんはお帰りになりましたか |
ミクリオ | ああ。門のところまで送って来た |
ローエン | 素晴らしい。女性の扱い方も板についてきましたね |
ミクリオ | からかわないでくれ。僕はただ礼を尽くしただけだよ |
ローエン | ほっほっ、その一見簡単な事が、とても大切なのですよ |
ローエン | ああ、そういえば、ミクリオ様にお手紙が届いておりましたよ |
ミクリオ | 誰からだ? |
ローエン | それが、差出人の名前が書かれておらず…。申し訳ありませんが、先に内容を確認させていただきました |
ローエン | それで、その内容ですが…どうも人工遺物の事について書いてあるようです |
ミクリオ | 何だって…? |
ローエン | 私には詳しい事はわかりませんでしたが、ミクリオ様ならあるいは… |
ミクリオ | そうか。わかった、早速読ませてもらおう |
ミクリオ | …… |
ミクリオ | これは…! |
ミクリオ | すまないローエン、今すぐ部屋に戻らせてもらう |
ローエン | ミクリオ様…? |
scene3 | 優雅な?お茶会 |
ミクリオ | ローエンの言う通り、この手紙は人工遺物について書かれている。…それも、僕の知らない事ばかり |
ミクリオ | 気になる事は多いが…何はともあれ、検証が必要だな |
ミクリオ | …まずはこの人工遺物。僕では用途がわからなかったが… |
ミクリオ | ふむ…古に作られた仕掛け箱で、特定の手順で開く事が出来る、か… |
ミクリオ | ここを、こうして…最後は… |
| ガチャ! |
ミクリオ | …!本当に開いた…! |
ミクリオ | すごい…。手紙の主は、どうやってこんな事を… |
ミクリオ | こうしてはいられない、他の人工遺物も検証をしなければ…! |
ミクリオ | …何という事だ。どの人工遺物についても、新事実ばかり… |
ミクリオ | 手紙の主は、一体何者なんだ… |
ローエン | 失礼いたします、ミクリオ様 |
ミクリオ | ローエン?何かあったのか? |
ローエン | 熱中出来る事があるのはよい事ですが、少しは休憩を挟まなければお身体に障りますよ |
ローエン | お茶をお持ちいたしましたので、一息つかれてはいかがですか? |
ミクリオ | …そんなに時間が経っていたのか。ありがたくいただくよ |
ローエン | …ずいぶんと夢中になられていたようですが、手紙の内容と何か関係が? |
ミクリオ | ああ、この手紙に書かれていた事は全て正しかった |
ミクリオ | しかもどれも、少し見ただけでわかるようなものじゃない |
ミクリオ | それこそ制作に携わった者か、実際に触れて調べた者じゃないとわからない情報だ… |
ミクリオ | 送り主の知識には本当に驚かされる |
ローエン | それはそれは… |
ミクリオ | 持ち主の僕ですら気付かなかったのに手紙の主は一体どうやってここまで詳しく知る事が出来たんだ? |
ローエン | さて…私には皆目見当もつきませんが… |
ローエン | そういえば、二枚目には壁画について書かれていたはずですが…。そちらも正しい情報だったのですか? |
ミクリオ | 二枚目?ああ、そういえばそっちはまだ読んでいなかったな |
ミクリオ | これは…これから調べようと思っていた螺旋模様の石盤について書かれてある |
ミクリオ | …… |
ミクリオ | …!まさか、この壁画の一部だというのか…? |
ローエン | ほう…壁画、ですか |
ミクリオ | 見てくれ、全体像が描かれている。手描きにしては、よく特徴を捉えているよ |
ローエン | 特徴という事は…つまり、ミクリオ様はこの壁画に心当たりがおありと? |
ミクリオ | ああ、以前調査で訪れた秘境でその壁画と思しき物を見た事がある。その時の資料が──…あった、これだ |
ローエン | ふむ、確かによく似ていますね |
ミクリオ | 見た瞬間何故か強く心惹かれたから、よく覚えているよ |
ミクリオ | 「英雄の壁画」…僕はその壁画を、そう名付けたけど |
ミクリオ | 螺旋模様の石盤は、本当に英雄の壁画の一部なのか…? |
ローエン | その手紙を信じるのならば、そういう事になるのでは? |
ミクリオ | 確かに、その通りなんだが… |
ミクリオ | 螺旋模様の石盤を見つけたのは、英雄の壁画があるところとはかけ離れた場所だったんだ |
ローエン | まあ確かに、たまたま模様が壁画と似ていただけという可能性も、十分考えられるでしょう |
ミクリオ | 模様…そうだ、紋様だ! |
ミクリオ | これを見てくれ、ローエン |
ミクリオ | 今日見つけた新しい石盤と、螺旋模様の石盤は、紋様が酷似していたんだ |
ローエン | ふむ…こうして見比べてみると、確かに似ていますね |
ミクリオ | …この二つの石盤を、詳しく調べてみよう |
ミクリオ | もしも、全く別の場所で見つけた二つの石盤が、同じ様式だったと証明されたら… |
ミクリオ | 英雄の壁画と石盤が同一の可能性も、あり得るかもしれない… |
ミクリオ | … |
ローエン | いかがですか? |
ミクリオ | …信じられない…こんな事が、本当にあるなんて… |
ミクリオ | 材質、加工方法、付着物の年代…描かれている紋様の形まで、どれも完全に一致している |
ミクリオ | 元々一つの物だったとしても、おかしくない… |
ローエン | ほう、それはそれは… |
ミクリオ | これは…早急に現物を確認する必要があるな |
ローエン | 英雄の壁画を見に行かれるのですか? |
ミクリオ | ああ。情報の真偽の確認のために、実際に石盤と壁画を比較したいんだ |
ミクリオ | そういうわけだから、明日は朝早く出発するよ |
ローエン | 水を差すようで申し訳ありませんが、明日はレイザベール貴族連合主催の剣技会が開催される予定ですよ |
ミクリオ | そんなもの棄権すればいい。僕にとっては、壁画と石盤の調査の方がずっと大事だからね |
ローエン | それでは、連合のみなさんにはミクリオ様は参加を辞退するとお伝えしておきます |
ミクリオ | ああ、頼んだ |
scene1 | 心惹かれるもの |
ガイ | しかし、まさかこんな短期間でもう一度お声がかかるとは思わなかったな |
ミクリオ | 急な話ですまないな |
クレス | 気にしないでくれ。昨日も言っただろう?何かあったら声をかけてくれって |
ガイ | そうそう。こうしてお前達と遠出するのは楽しいしな |
クレス | 気の置けない友達と話しながら、鍛錬も出来て、夢の手伝いも出来る。一粒で三度美味しいってところだね |
クレス | そう、三度美味しいサンドイッチ!なーんてね! |
ガイ・ミクリオ | … |
クレス | あ、あれ、わかりにくかったかな?三度とサンドイッチをかけて… |
ガイ | あー、うん。わかったわかった。クレスは本当にダジャレが好きだなぁ |
ガイ | それにしてもミクリオ、そんな差出人不明の手紙の内容を、あっさり信じて大丈夫か? |
ガイ | 貴族のお前を狙った誘拐や物取りが目的の悪党かもしれないぜ? |
ミクリオ | 勿論、その可能性も考えたさ |
ミクリオ | だが、僕をおびき出したいなら、匿名で手紙など出さず、知人の名前を騙れば済む話だろう |
ガイ | …まあ確かに、あからさまに怪しまれるような事をする利点はないか |
ミクリオ | ああ、人工遺物についてあれだけの情報を揃える必要もないだろうしね |
ミクリオ | それに…手紙に書かれている事を、ただ闇雲に信じているわけでもない |
ミクリオ | 僕なりにきちんと検証した上で、信憑性が高いと判断したからこそこうして足を運んでいるんだ |
クレス | ミクリオがそう言うなら安心だね |
クレス | ええと…この後はどっちだったかな… |
ミクリオ | 確か向こうだったはずだ |
クレス | さすがだね。僕一人なら危うく迷子になるところだったよ |
ミクリオ | ここに生えている木に見覚えがあったんだ |
ミクリオ | 前にこの辺りを調査した時、この木の下で休憩しただろう |
ガイ | ああ、ローエンの持たせてくれたお茶とお菓子を食べたっけ。どっちも美味しかったよなぁ |
ミクリオ | それなら、今日も持ってきている。後でみんなで食べよう |
クレス | それは楽しみだね |
ガイ | それじゃ、このまま一気に、目的地まで行っちまおう |
ガイ | そんで到着したところで、優雅にティータイム。で、どうだ? |
ミクリオ | 異議なし |
クレス | 僕も大賛成。それじゃあ、張り切って行こう |
scene2 | 心惹かれるもの |
ミクリオ | ──さて、と。ティータイムはそろそろお開きにしようか |
クレス | うん。お茶もお菓子もとても美味しかったよ。ローエンさんにもお礼を言わなくちゃ |
ミクリオ | ああ、きっとローエンも喜ぶ |
ガイ | しっかし…相変わらず寂しいところだな。まともに残ってるのは例の壁画くらいか |
クレス | 確かこの壁画だったよね。ミクリオが「英雄の壁画」って名付けたのは |
ミクリオ | ああ… |
ミクリオ | ガイとクレスは、この壁画を見てどう思う? |
ガイ | 改めて見ても、やっぱりデカいよな。あとは立派そう、ってとこか? |
クレス | うん。傷んでしまっているのが、もったいないかな |
ミクリオ | …ああ。それは僕も残念に思う |
ガイ | ミクリオはどうなんだ? |
ミクリオ | そうだね…不思議と、惹きつけられるものを感じるかな |
クレス | へぇ…それも人工遺物に詳しいかどうかの違いなのかな |
ミクリオ | いや、そうではないと思う。僕だって何もかもを熟知しているわけじゃない |
ミクリオ | でも、そういう知識だの理屈だのを抜きにしても、この壁画には強い関心を掻きたてられるんだ |
ミクリオ | 他にも壁画はあるのに…どうしてこの英雄の壁画だけが、こんなにも気になるんだろうか… |
クレス | もしかしたら、何か運命的なものを感じているのかもしれないな |
ミクリオ | ふっ。そうだったら面白いな |
ミクリオ | さてと… |
ミクリオ | 早速、壁画と石盤が同じ物かどうか調べよう |
ミクリオ | 断面や模様が繋がれば、手っ取り早く証明出来るんだが… |
ガイ | それなら俺に任せてくれ。細かい作業は嫌いじゃないしな |
ミクリオ | わかった。頼む、ガイ |
ガイ | …よし、これでどうだ? |
ミクリオ | …! |
クレス | 二枚共、ぴったりはまったね |
ガイ | 模様もちゃんと繋がったな |
ミクリオ | 螺旋模様の石盤も、新しい石盤も、本当に英雄の壁画の一部だったのか… |
ミクリオ | すごい…あの手紙に書かれていた事がついに証明された… |
ミクリオ | 僕は今、歴史的な瞬間の目撃者になったのかもしれない…! |
ガイ | おいおい、大げさだな |
ガイ | 壁画はそれほど珍しくないし、これで完成したわけでもないだろ |
クレス | まだ欠けている部分もあるしね |
ミクリオ | いや、重要なのは壁画じゃない |
ミクリオ | 螺旋模様の石盤と新しい石盤… |
ミクリオ | 全く別の場所で見つかったこの二つが同じ壁画の一部であるという事が、何より大事なんだ |
クレス | 誰かが運んだんじゃないのかい? |
ミクリオ | 確かに。それが一番あり得る可能性だな… |
ミクリオ | もし意図的に動かされたのなら、石盤を集めて壁画を完成させる事に重大な意味があるはずだが… |
クレス | 欠けている部分を全て埋めたら、どこかの入り口が開く…なんて事はないかな? |
ガイ | その中にお宝どっさり…ってな。それだったら、誰かがわざと石盤を散らした理由もつくが |
ミクリオ | それは僕も考えたけど…残念ながら、周囲にそれらしい仕掛けは見当たらなさそうだ |
ミクリオ | 今のところは、人為的な移動の説は難しそうだな |
ミクリオ | だが大規模な自然現象だとしても、どのような現象が起これば、こんな事が起こるのか… |
ミクリオ | どうすればこの謎を解明出来るんだろう。せめて何か手がかりでもあれば… |
ガイ | …すっかり夢中だな |
クレス | あはは、そうだね。ミクリオは本当にこういうのが好きなんだなぁ |
ミクリオ | …駄目だ。現段階ではどうしても、これ以上の事はわからない |
ミクリオ | 仕方がない。ひとまず資料だけまとめて、後日改めて調査する事にしよう |
クレス | それがいいかもしれないね |
ガイ | そういう事なら…クレス、今の内に俺達で石盤を回収しておこう |
ガイ | ミクリオはその間に、資料を仕上げてくれ |
ミクリオ | いや、石盤の回収は不要だ。ここに置いていく |
クレス | いいのかい?あんなに喜んで持ち帰っていたのに… |
ミクリオ | 僕の目的は「骨董品集め」じゃないからね |
ミクリオ | 石盤の調査は一通り済んでいるし、本来あるべき場所は見つかったんだ。ここに返しておくのが道理だと思う |
ガイ | なるほど、確かにな。…石盤が移動した理由、解明出来るといいな |
クレス | 例の手紙の主なら、何か知ってるかもしれないけど… |
クレス | どこの誰かもわからないんじゃ、聞く事も出来ないしね |
ミクリオ | ここまでの情報は得られたんだ、あとは自力で解明してみせるさ。そのためにも、資料をまとめないと |
ガイ | ああ、そうだな。じゃ、ミクリオがまとめ終えたら帰るとするか |
クレス | そうだね |
scene1 | ミクリオの夢 |
ミクリオ | …というわけで、手紙に書いてあった壁画の件は本当だったようだ |
ローエン | 左様でございましたか。どうりで先ほどから、ミクリオ様が嬉しそうだと思いました |
ミクリオ | まあね。人工遺物の研究が大きく進みそうなんだ、嬉しくもなるさ |
ローエン | ほっほっ、ミクリオ様の夢の実現に向かって大前進、といったところですかな |
ミクリオ | ああ、これからはより一層研究に力を入れて行こうと思う |
ローエン | 連日で遠出をされてお疲れでしょう。すぐに用意をいたしますので、今日は早めにお休みになられては? |
ミクリオ | そうだな。そうさせてもらおう |
??? | 待ってください |
| |
ミクリオ | …!君は… |
??? | お疲れのところ申し訳ありませんが、休むのはもう少し後にしていただけませんか |
ミクリオ | エレノア… |
??? | ミクリオ殿、ローエン。主共々、急な訪問、失礼する |
ローエン | おやおや、クラトスさんもご一緒とは |
ミクリオ | どうしたんだ?何の連絡もなしに突然来るなんて |
エレノア | …ミクリオ。どうして今日の剣技会に出場しなかったのですか |
エレノア | レイザベールで暮らす私達貴族にとって、剣技会がどれほど大切か… |
エレノア | それがわからないあなたではないでしょう |
ミクリオ | … |
エレノア | 白き獅子や神兵には、剣技会で優秀な成績を収めた人が多く在籍しています |
エレノア | その誇りを守り続けるために、昨今は剣技会の重要性がますます高まっているというのに── |
エレノア | 顔も出さず棄権だなんて、先人達への冒涜です! |
ミクリオ | けれど、あの剣技会はあくまでも自由参加だったはずだ |
エレノア | 競技に参加しないのは自由ですが、貴族の位を持つ者の責任として、顔くらい出すのが普通でしょう |
エレノア | 他の貴族達と定期的に顔を合わせ、親睦を深めるのも、私達の大切な仕事の内です |
ミクリオ | そういうのは得意じゃないんだ |
ローエン | 本日の剣技会は、そもそも参加者が少なかったために中止になったと聞いておりますが |
エレノア | その中止になった理由こそが、問題なんです |
エレノア | 帝都で咎人の逃走事件が起こったのはあなたもご存知でしょう。参加者が少なかったのはそのせいです |
エレノア | 白き獅子や神兵として勤める腕自慢が事件解決に向けて任務に忙殺されていますから… |
エレノア | それに、帝都の情勢が不穏な中、剣技会を開催するのは不謹慎だという意見も多く… |
ミクリオ | まあ、妥当な意見だな |
エレノア | 何を他人事のように…あなたにも関係がある話なのですよ |
ミクリオ | 僕に? |
エレノア | 任務に追われるか、世情を慮って出席を見合わせるかという人がほとんどだった中── |
エレノア | 己の趣味を優先して、大会への参加を拒否した者が、たった一人だけいたのです |
ミクリオ | …なるほど、そこで僕の名前が出てくるわけだ |
エレノア | ええ。そしてその事について、あなた以外の貴族達の間で議論が交わされました |
エレノア | 協議の結果、レイザベール貴族の総意として、あなたに勧告を出す事になったんです |
エレノア | 勿論、ミクリオの趣味に理解を示す者も少なからずいましたが大多数の意見としては… |
ミクリオ | 次の剣技会には、必ず参加しろって? |
エレノア | 剣技会だけではありません。白き獅子に志願し、ラザリス様に貢献すべし、と |
ミクリオ | 僕の意志はお構いなしか… |
ミクリオ | それで、幼馴染である君が、僕の首に鈴をつける役目を押し付けられた、と? |
エレノア | …っ!いえ、私は自分の意志であなたに進言をしに来ました |
エレノア | 他の貴族の方々よりも、私の言葉の方があなたにちゃんと届くと思いましたので |
ミクリオ | …そうか。君は相変わらず真面目だね |
エレノア | ミクリオのやっている事に全く意味がないとは、私も思ってはいません |
エレノア | 集めた人工遺物を博物館に収蔵し、一般に公開する事に、学術的意義があるのも確かでしょう |
エレノア | あなたなりに、街の人々やラザリス様の役に立とうとしている事も知っています |
ミクリオ | … |
エレノア | ですが、物事には優先順位というものがあるのではないでしょうか |
エレノア | 今回、こうして貴族間の総意がまとまったのを機に、あなたには考えを改めてほしいんです |
エレノア | ラザリス様の事を本当に大切に思うなら、道楽はやめ、白き獅子に志願するべきです |
エレノア | それが貴族の…力ある者としての正しい世界への尽くし方というものではないでしょうか |
ミクリオ | エレノア。君の言う事は理解出来るけど、僕は道楽でやってるわけじゃない |
ミクリオ | 未知の事を調べて行く事が、世界をよりよくするためには必要だと思っている |
エレノア | ですが、そのようないつ実るかもわからない事に時間を費やすのは… |
ミクリオ | …どうやら、話は平行線のようだね |
ミクリオ | すまないが、今日はもう帰ってくれ。このところ連日遠出しているせいで、僕も疲れているんだ |
エレノア | …わかりました。明日、もう一度伺います |
エレノア | クラトス、帰りましょう |
クラトス | …ああ、わかった |
エレノア | それでは、失礼します |
ミクリオ | …まさか、僕の活動がこんなに大きく問題視されるなんてね |
ローエン | 少々厄介な事になりましたね…。どうなさいますか、ミクリオ様 |
ミクリオ | どうもこうも、僕のやる事は何も変わらない |
ミクリオ | たとえ誰に何を言われようと、僕は、僕が正しいと思う道を進むだけだ |
ミクリオ | これもラザリス様のお力になる事だと信じているからね |
ローエン | ほっほっほ。さすがミクリオ様。どうやら余計な心配だったようですね |
ミクリオ | そうだ、ローエンに頼みがある |
ミクリオ | 例の手紙の差出人を、捜し出してもらえないか |
ミクリオ | 人工遺物の使用法を熟知し、石盤と壁画の関連性を言い当ててみせた… |
ミクリオ | あれだけの知識を持っている人に、ぜひ会ってみたい。いくつか聞きたい事もあるしね |
ローエン | かしこまりました。世界の果てまででも捜しに行って必ず見つけてご覧に見せましょう |
ミクリオ | はは、屋敷にはいてもらわないとそれはそれで困るけどね |
ミクリオ | それじゃあ、少し早いけど僕はもう休む事にする |
ローエン | 承知いたしました。ごゆっくりお休みくださいませ、ミクリオ様 |
scene2 | ミクリオの夢 |
ローエン | 昨夜はよくお眠りになられたようですね |
ミクリオ | ああ、気付いたら朝だった。自分で思っていた以上に疲れていたみたいだ |
ローエン | 何かと立て込んでおりましたからね。いかがでしょう、本日はこのままお屋敷でゆっくり過ごされては? |
ミクリオ | ああ、そうしよう |
ローエン | ところでミクリオ様、例の手紙の差出人の件ですが |
ミクリオ | もう見つかったのか? |
ローエン | いえ、申し訳ございませんが、少々お時間をいただく事になるかもしれません |
ローエン | 手紙の内容から、博物館を訪れたものだろうと考え、街中を捜索したのですが… |
ミクリオ | レイザベール中を捜しても見つからなかった、と? |
ローエン | はい。意図して身を隠しているか、それとも既に街を去った後なのか… |
ローエン | 世界中をくまなく捜すわけには参りませんが、もう少し範囲を広げてみてもいいかもしれません |
ミクリオ | 任せるよ。こういうのは、ローエンの方が得意だからね |
ミクリオ | 僕もそこまで焦っているわけじゃないし、じっくり腰を据えて進めてほしい |
ローエン | かしこまりました |
| リンリン |
ローエン | おや、お客様のようですね。少々お待ちください |
| |
エレノア | 失礼します |
ミクリオ | エレノア。また来たのかい |
エレノア | 明日もう一度伺うと、昨日お伝えしたはずです |
ミクリオ | 昨日も言ったけれど、僕は恥じるような事はしていないよ |
ミクリオ | だから、貴族の協議で決まった事でも従うつもりはない |
エレノア | そうはいきません!ミクリオには絶対に白き獅子に志願してもらいます! |
ミクリオ | …それが貴族の常識だから、かい? |
エレノア | ええ、その通りです。あなたの行動は、貴族として相応しいとは、とても思えません |
エレノア | それに、中にはあなたの事をひ弱な臆病者だと馬鹿にしている人もいます |
エレノア | このような事を言われてミクリオは悔しくないのですか!? |
ミクリオ | 君達の言い分には納得は出来ない。だけど、そう言われたところで悔しいとも思わない |
ミクリオ | 戦う事だけがラザリス様への貢献手段じゃない、僕はそう考えているから |
エレノア | どうしてあなたは、そう…! |
エレノア | …わかりました。でしたら、今から私と手合わせしてください |
ミクリオ | 何だって? |
クラトス | …本気か、エレノア |
エレノア | ええ、勿論。ミクリオの実力を、ここで見極めさせてもらいます |
エレノア | もしあなたに実力があるのなら、白き獅子に志願する事を、拒むはずがありません |
ミクリオ | それはまた、ずいぶんと極端な考え方じゃないか? |
エレノア | いいえ、事実です |
エレノア | 白き獅子の一員となる事は、誰もが望み憧れる事で、我々貴族の誇りと義務そのもの… |
エレノア | それを望まないなど、怖気づいている以外にどんな理由がありますか! |
エレノア | 今のあなたは趣味を言い訳に鍛練を怠り、成すべき事から目を逸らして逃げているだけです |
エレノア | そうでないと言うのなら、今ここでその事を私に証明してください! |
ミクリオ | …君は本当に変わらないな |
ミクリオ | 君を納得させるには、態度で示すしかなさそうだ |
エレノア | では、手合わせをしていただけるのですね |
ミクリオ | あまり気は進まないけれど、仕方がない |
ミクリオ | 君の事だ。今ここで断ったら、僕がうんと言うまで毎日押しかけるつもりだろう |
ローエン | ミクリオ様、お待ちください。お言葉ですがこのような戦いは── |
ミクリオ | わかっている。それでも、ここでやらないわけにはいかない |
クラトス | エレノアは白き獅子に志願すべく、日々鍛錬を重ねている。半端な実力では決して勝てないぞ |
ミクリオ | 僕が半端かそうでないかは、その目で確かめればいい |
エレノア | では、参ります! |
scene3 | ミクリオの夢 |
エレノア | くっ…!そんな… |
エレノア | あなたにこれほどの実力があったなんて… |
クラトス | …なかなかやるようだな |
ローエン | エレノア様、この辺りで武器をお納めください。ご覧の通り、ミクリオ様は鍛錬を怠っておりません |
ミクリオ | ローエンの言う通りだ。君の知りたい事は十分伝わっただろう |
ミクリオ | これ以上やりあえば、どちらかが怪我をしかねない |
エレノア | いいえ、まだです! |
エレノア | このまま負けて終わるわけにはいきません…! |
ミクリオ | 手合わせの目的が変わってるじゃないか |
ミクリオ | もういいだろう。僕はこれで… |
エレノア | ──隙あり! |
ミクリオ | ツインフロウ! |
| バシュッ! |
エレノア | きゃあああっ!? |
クラトス | …勝負あったな |
ローエン | エレノア様!大丈夫ですか? |
エレノア | くっ… |
ミクリオ | もういいだろう、これで決着だ |
エレノア | あなた、私を誘い出すために、わざと隙を… |
エレノア | ですが、今のは反則ではありませんか?術の使用なんて…! |
ミクリオ | 剣技会じゃあるまいし。手合せの場で術が反則になるなんて聞いた事もない |
ミクリオ | それとも君は、実戦の場でも剣技会のルールに従って戦っているとでも言うのか? |
エレノア | それは…! |
エレノア | …わかりました。あなたがそう主張をするなら、私だって── |
クラトス | よせ、エレノア。そこまでだ |
エレノア | クラトス!?何故止めるのですか! |
クラトス | 剣技会のルールに囚われていたお前の負けだ |
エレノア | ですが…! |
クラトス | エレノア、お前も気付いているはずだ |
クラトス | ミクリオ殿は術を使った際、お前が怪我をしないように配慮していた事を |
エレノア | …それは… |
クラトス | 彼の実力は十分にわかったはずだ。負けを認めろ、エレノア |
クラトス | これ以上は、私もローエンも見過ごせん |
エレノア | …わかりました |
エレノア | すみません、ミクリオ。私は少し冷静さを欠いていたようです |
エレノア | ミクリオに実力がある事は、はっきりわかりました |
ミクリオ | それはよかった |
エレノア | ですが…そこまでの力があるというのに、何故ミクリオは人工遺物にこだわるのですか |
| |
ミクリオ | ──それが、僕の夢だからだ |
| |
エレノア | 夢、ですか? |
ミクリオ | エレノア。君は白き獅子のような「騎士」でないとラザリス様に貢献出来ないと思うか? |
エレノア | そんな事はありません!ラザリス様を想う心があれば誰でも… |
ミクリオ | だが、君や貴族達の主張が正しいとするなら、力ある者しか貢献出来ないという事になるだろう |
エレノア | …! |
ミクリオ | だから僕は、違う方法…力ではなく、ラザリス様の世界の発展と言う形であの方のお役に立ちたい |
ミクリオ | 人工遺物研究の道が認められれば、格差も減って、より多くの人がラザリス様のお力になれる… |
ミクリオ | 世界はきっと、さらに素晴らしいものになるはずだ |
エレノア | …世界をよりよくする。それがあなたの夢という事ですか |
エレノア | ミクリオの考えは理解出来ました。ラザリス様への想いも… |
エレノア | ですが…全ての人間が白き獅子になれないのであれば… |
エレノア | 出来る者がやらないのは、逃げにはならないでしょうか |
エレノア | 白き獅子になり、民の命を守る。それが力を持つ者の務めであると、私は思います |
ミクリオ | …やっぱり平行線か |
ローエン | エレノア様のおっしゃる事もよくわかります |
ローエン | ですが、人にはそれぞれ価値観というものがあります |
ローエン | その価値観が、人によって異なるのは当然。時にはぶつかる事もあるでしょう |
ローエン | そういう時は一歩引いた視点で、全体を見渡してはいかがかと存じます |
エレノア | 一歩…引いて… |
ローエン | ミクリオ様もエレノア様も、ラザリス様に忠誠を誓い、貢献したいと考えていらっしゃいます |
ローエン | お二人のお話を伺っていると、その点においては間違いありません |
ローエン | 目指すところが同じであるのなら、お二人がわかり合う事は決して不可能ではないと思います |
ミクリオ | …つまり、この辺りで和解してはどうか、という事か |
ローエン | ええ、いかがでしょう。ここはお二人で手を取り合われては? |
ミクリオ | そうだな、僕も互いに理解し合えればいいと思っている。エレノア、君はどうだい? |
エレノア | …私も、あなたと手を取り合いたいと思ってはいます |
エレノア | ですが、今の私は、ミクリオの言う事の全てに納得が出来たわけではないのです |
ミクリオ | エレノア… |
エレノア | …ただ、ミクリオが己の信念に基づき、行動している事は理解しました |
エレノア | そうしたあなたの考えは、きちんと尊重されるべきだと思います |
エレノア | ですから、もう一度…もう一度だけ、他の貴族の方々とも話をしてみます |
エレノア | あなたの行動が、特例として他の方々に認めていただけるように |
ミクリオ | エレノア… |
ミクリオ | ああ、頼む。…ありがとう |
ローエン | これにて一件落着ですな。ではお二人共、せっかくですので和解のしるしに握手でも── |
クラトス | エレノア。この後は確か知己の貴族と晩餐会があるのではなかったか? |
クラトス | これ以上遅くなると、相手を待たせてしまう事になるぞ |
エレノア | ええっ!?もうそんな時間ですか!? |
クラトス | 騒がせて申し訳なかった。私達はこれで失礼する |
エレノア | ちょっ、クラトス、待ってください!あ、えっと、ミクリオ、ローエン、お邪魔しました!ごきげんよう! |
ローエン | …話の途中でしたのに、行ってしまわれましたね |
ミクリオ | ああ、やけに慌ただしかったね |
ミクリオ | まあ、それはそれとして…今さらだけど、ローエンは僕の夢…正しいと思うかい? |
ローエン | ええ。ミクリオ様がご自分でしっかりと考えてお決めになられたものですから |
ローエン | しかし、急にそのような事をおっしゃられるとは…何かお悩みでも? |
ミクリオ | …自分がやっている事が、間違っているとは思わないけれど… |
ミクリオ | エレノアの言い分にも一理あるというのは、理解出来るんだ |
ミクリオ | 率直なところ、ローエンはどう思う?君の意見を聞きたい |
ローエン | そうですな…白き獅子を務める事と、人工遺物を研究する事── |
ローエン | どちらも重要な事だと思いますが、私はミクリオ様の夢を応援したいと思っております |
ローエン | そのために私に出来る事があれば、全力でお手伝いさせていただきましょう |
ミクリオ | ローエン… |
ミクリオ | …ああ。よろしく頼む |
| |
エレノア | …クラトス。何故止めたのですか |
クラトス | 手合わせの事か。それとも和解の握手の事か |
エレノア | 両方です |
クラトス | 理由はどちらも同じだ |
クラトス | お前自身と、ヒューム家の両方に傷がつかぬよう動いた。それだけだ |
エレノア | 私はそのような事を頼んだ覚えはありません |
クラトス | ああ、あれはあくまでも私が勝手にやった事だ |
クラトス | だが、今回の件は、他の貴族達から正式な依頼を受けてやった事ではないだろう |
クラトス | ミクリオ殿の事をかけ合うと言っていたが、わざわざこちらの説得失敗を報告するようなものだ |
クラトス | ろくな事にはならない。やめておいた方がいい |
エレノア | そうはいきません。例え正式な依頼でなかろうと、引き受けたからには報告はします |
クラトス | そもそも彼と他の貴族達の仲を取り持つ必要もないはずだろう |
エレノア | つまりあなたは、ミクリオの件を話すのは気が乗らないと? |
クラトス | …ああ。この件はお前とヒューム家の立場を損なうだけだ |
エレノア | そのような心配はいりませんよ、クラトス |
エレノア | ミクリオの評判が芳しくないのは、彼がただ遊んでいるだけだと思われているせいです |
エレノア | 私も、ミクリオの夢を聞くまではそうだと思っていました |
エレノア | でもそうではなかった。彼は彼なりに、考えを持ってラザリス様に貢献しようとしています |
エレノア | その事を他の方々にもきちんと説明すれば、全て解決するはずですよ |
クラトス | …私は所詮ヒューム家に仕える従者にすぎない。差し出がましい事を言う気はないが… |
クラトス | 他の貴族達が全員、お前と同じように実直だとは思わない方がいい |
クラトス | それでも報告をすると言うのなら、今後、手段を選べなくなるかもしれないぞ |
エレノア | ヒューム家を想っての忠告、感謝します |
エレノア | でも大丈夫です。私は間違った事はしていませんから |
エレノア | きっとみんなにも、わかってもらえると思います |
クラトス | …そうだといいがな |
scene1 | 湖畔の待ち人 |
ミクリオ | ローエン、念のために確認しておくけど、今日の予定は── |
ローエン | ほっほっ、ご安心ください。来客も公務のご予定も、本日は何もございませんよ |
ミクリオ | そうか、よかった。…よし、忘れ物もなし、とこれで支度は完璧だ |
ローエン | 声が弾んでおりますね、ミクリオ様 |
ミクリオ | これが喜ばずにいられると思うかい?あの手紙の主に、ようやく会えるんだ |
ミクリオ | こっちが散々手を尽くして捜しても、全く手がかりが掴めなかったのに |
ローエン | まさかこのタイミングで、向こうから会おうと申し出てくるとは思いませんでした |
ローエン | しかし何故、わざわざ待ち合わせに湖畔を指定してきたのでしょうね? |
ミクリオ | あの湖畔周辺では、これまでにも多くの人工遺物が見つかっている |
ミクリオ | もしかしたら、そこで何か新しい発見があったのかもしれない |
ミクリオ | 実は、手紙の主に会えたら博物館を見てもらいたいと思っているんだ |
ミクリオ | ローエン、すまないが掃除がてらお茶の支度を整えておいてくれないか |
ローエン | かしこまりました。ご挨拶出来る事を楽しみにお待ちしておりますね |
ミクリオ | ああ。それじゃあ、行ってくる |
| |
ミクリオ | ──湖が見えて来たな。ここが待ち合わせ場所か… |
ミクリオ | …あの手紙を書いていたのは、一体、どんな人物なんだろう |
ミクリオ | あそこまで人工遺物に精通していたんだ。只者とは思えないが… |
ミクリオ | …!向こうに人影が…! |
ミクリオ | あなたは… |
クラトス | 来たか… |
ミクリオ | クラトス…どうしてここに? |
クラトス | 私が貴公を呼び出したのだ。偽の手紙を使ってな |
ミクリオ | …! |
ミクリオ | 僕を誘いだしたところであなたに利益があるとは思えない。…何が目的だ |
クラトス | エレノアでは、貴公を説得する事は出来ない。だから私が直接話をしにきた |
クラトス | 主人を補うのも、従者の役目と言う事だ |
ミクリオ | それにしては、やり方が無粋じゃないか |
クラトス | 少々強引な手段を取った事については謝罪しよう |
クラトス | だが、これでようやく貴公と二人になれた |
クラトス | ここなら一対一の対等な人間同士、互いの立場や身分を気にする事なく話が出来る |
ミクリオ | 身分や立場、か…。僕は気にしないけれど、まあいいさ |
ミクリオ | それよりも…主人を補う、と言ったね。という事は── |
クラトス | ああ。貴公には人工遺物の研究から身を引き、白き獅子への入隊を志してもらいたい |
ミクリオ | やはりか…。その話は終わったはずだが |
クラトス | 世界全体をよくする…その考えは理解した |
クラトス | だが、貴公ほどの実力があるならば話は別ではないか |
ミクリオ | …どういう事だ |
クラトス | 貴公の話は、あくまでも「夢」にすぎない。成果に結びつくかも定かではない |
クラトス | だが、白き獅子になれば、確実にラザリス様のお役に立てるだけの力を貴公は持っている |
クラトス | 確実に成果を得られる道を捨て、夢という自らの欲のままに不確かで不合理な道を選ぶ… |
クラトス | それが本当に正しい事なのか? |
ミクリオ | …! |
クラトス | 人工遺物の研究は、他の誰かに任せればいい |
クラトス | ラザリス様への貢献が最大の目的だと言うのなら、今一度、よく考えるべきだ |
ミクリオ | … |
クラトス | 無論、すぐに答えを出せとは言わん |
クラトス | ゆっくり考えればいい。…時間はたっぷりある |
| |
ローエン | ──さてと、掃除も完了しましたし、いつでもすぐお茶の支度が出来るよう準備も整えました |
ローエン | 後はミクリオ様が、手紙の主を伴って、お帰りになるのを待つばかり… |
??? | ローエン。お仕事中にお邪魔いたします |
ローエン | おやおや、エレノア様。今日はまた、ずいぶんと大勢の方を連れていらっしゃいますね |
ローエン | はて、見たところ、みなさんヒューム家の使用人ではないようですが…? |
エレノア | ミクリオはどこに?今すぐ呼んでいただだきたいのですが |
ローエン | あいにくミクリオ様は、ただいま外出中でして… |
エレノア | 外出中…どこへ? |
ローエン | 人と会うために、街を出られております。お待ちいただくなら、お部屋をご用意いたしますが… |
エレノア | そうですか。出来る事なら、もう一度直接話がしたかったですが… |
エレノア | 仕方がありません。このまま始めましょう |
ローエン | 始めるとは、一体何を… |
| |
エレノア | … |
| |
エレノア | …ごめんなさい、ローエン。これはレイザベールの貴族の総意として決まった事なんです |
エレノア | 決まってしまった以上、私にはこうするしか… |
エレノア | …さあ、あなた達。仕事を開始してください! |
ローエン | …!? |
ローエン | お待ちください!一体何を── |
scene2 | 湖畔の待ち人 |
ミクリオ | … |
クラトス | 心は決まったか |
ミクリオ | …確かに、あなたの考えは間違ってはいないんだろう |
ミクリオ | 白き獅子に志願する事… |
ミクリオ | それが今の僕にとってもっとも合理的で、確かな方法だという事は理解出来る |
クラトス | では… |
ミクリオ | …けれど、同時にこうも思うんだ |
ミクリオ | 人の夢というものは、合理的かどうかだけでは量れないんじゃないかって |
ミクリオ | 人工遺物の研究は、僕にとっての「夢」だ |
ミクリオ | そしてその夢は、ラザリス様の世界をよりよくするためのもの… |
ミクリオ | だからこそ、僕はここで引くわけにはいかない |
ミクリオ | 僕の身近にいる人も、その夢を応援してくれている事だしね |
クラトス | そのために、ラザリス様にとって不合理となる選択をするというのか? |
ミクリオ | 合理的でなくても、自分のやり方でラザリス様に貢献したい…それがそんなにおかしい事だろうか |
クラトス | 私には賛同出来かねる |
クラトス | 力がある者は、その力に相応しい務めを果たすべきだ |
ミクリオ | …あなたも、エレノアと同じ事を言うんだな |
ミクリオ | …僕の気持ちはさっき言った通り。これ以上誰に何を言われようと考えは変わらない |
ミクリオ | 聡明なあなたの事だ。こうなる事くらい想定出来ていただろうに、どうしてそこまで── |
ミクリオ | …! |
ミクリオ | …クラトス、本当の狙いは何だ? |
クラトス | … |
ミクリオ | あなたはこんな風に闇雲に議論を引き延ばしたり、精神論を振りかざすような人じゃない |
ミクリオ | つまり…こうして僕を引き止める事であなたに何か利益がある、という事だろう? |
クラトス | …まあいい。十分に時間は稼げた。もう話してもいいだろう |
クラトス | 今頃、エレノアが動き出しているはずだ |
ミクリオ | エレノア…?一体どういう… |
| |
エレノア | …… |
骨董商 | 博物館の中にある人工遺物は全部運び出してしまっていいんですね? |
エレノア | …!あ…はい、よろしくお願いします |
ローエン | どうかおやめください、エレノア様。展示物や倉庫の物を、持ち主に無断で勝手に持ち出されるなど… |
エレノア | これはレイザベールの貴族達の総意です。取りやめる事は出来ません |
エレノア | …ですが、安心してください。彼らは、いずれも骨董品の扱いに長けた者ばかり |
エレノア | 人工遺物も、誰よりも丁寧に取り扱ってくれるはずです |
ローエン | そういう問題ではございません。何故いきなり、このような無体をなさるのです |
ローエン | エレノア様は、ミクリオ様のご意志を理解してくださったのではないのですか |
エレノア | … |
ローエン | …エレノア様は、ミクリオ様の古くからのご友人。その信頼を、このような形で── |
エレノア | …私だって、好きでこのような事をしているわけでは…! |
ローエン | …一体何があったのか、お話ししていただけますかな? |
エレノア | …先日、ミクリオを説得しようとした一件について、他の方々にも説明したところ、彼らはこう考えたのです |
エレノア | 私をも打ち負かす高い実力を持ったミクリオが白き獅子に入隊しないのは社会的損失だと… |
エレノア | そして彼らは、ラザリス様のためにミクリオの目を覚まさせようと… |
エレノア | ──ミクリオがうつつを抜かす収集品を、没収する事にしたのです |
ローエン | …そしてその実行者にエレノア様が選ばれたのですね |
エレノア | …はい |
ローエン | そんな…あまりにも一方的です。エレノア様は、こんな行為が正しいと思っておいでなのですか? |
エレノア | …いいえ。本音を言えば、私も、今回のような強引なやり方には納得していません |
エレノア | ですが、もう既に決まってしまった事ですし…貴族達の考えには、私も賛同していますから |
ローエン | そんな、何故… |
エレノア | …私は、先日の一件で、ミクリオのような考え方もあるのだと一応は理解したつもりです |
エレノア | ですが…やはり彼ほどの実力者には、白き獅子を目指してほしいという気持ちも、変わらずあるのです |
エレノア | もし今日、ミクリオがこの場にいたら、もう一度説得を試みるつもりでしたが… |
ローエン | ならばせめて、ミクリオ様がお戻りになられるまでお待ちいただく事は… |
エレノア | …ごめんなさい。それは出来ません |
エレノア | 酷な事をしている自覚はあります。後にミクリオに責められても仕方がないと覚悟もしています |
エレノア | それでも…こうする事で、もし本当に、白き獅子を目指すようになってくれたなら… |
エレノア | その時は、私は全力で彼を補佐し、正しい道へ導く事を誓いましょう。それが私の責任で、使命だと思います |
ローエン | エレノア様… |
scene3 | 湖畔の待ち人 |
ローエン | … |
エレノア | … |
骨董商 | うわっ!?だ、誰だあんたら! |
??? | この博物館の関係者だ! |
ローエン | ガイさん…それに、クレスさんまで…! |
エレノア | あなた達は…確か、ミクリオと親しくしていた… |
ガイ | 何か博物館が騒がしいと思って来てみれば、こいつは一体何の騒ぎだ? |
クレス | 引っ越しや改装…ってわけではなさそうだね |
ローエン | …ええ、実は── |
ガイ | ミクリオがいない間に、今まで集めた人工遺物を全部没収するだって? |
クレス | そんな事をしたら、ミクリオがどれほどショックを受けるか… |
エレノア | … |
クレス | 今すぐやめさせないと!あの、すみませ… |
ローエン | お待ちください、クレスさん |
ガイ | どうして止めるんだ?あんただって納得してないんだろ? |
ローエン | 今回の事は、エレノア様の独断ではありません。レイザベール貴族の総意です |
ローエン | お二人がここで抗議すれば、貴族に反抗したと取られる可能性があります |
ローエン | そんな事になってしまったら、お二人の立場が悪くなってしまいます |
ローエン | そのような事は、ミクリオ様もお望みにはならないはずです |
ガイ | かと言って、このまま手をこまねいていたら、あっという間に回収が終わっちまうぞ |
ガイ | そうなったら、取り返すのは難しいだろ |
クレス | せめてミクリオが帰って来てくれれば… |
骨董商 | エレノア様、もうすぐ全ての人工遺物の運び出しが完了します |
エレノア | …わかりました。そのまま続けてください |
ガイ | あれじゃあ、ミクリオが戻るまで、物が残ってるかどうか… |
ローエン | …もしミクリオ様のお帰りが間に合わない場合は、私が直接話を付けます |
クレス | ローエンさんが? |
ガイ | おいおい、自分がさっき言った事を忘れてないよな |
ガイ | いくらミクリオに仕えてるって言っても、あんたは貴族じゃない。俺達と立場は一緒だろ |
ガイ | 下手な真似をすれば、それこそ… |
ローエン | 勿論、存じております |
ローエン | 一介の執事風情が、貴族の決定に逆らえばどうなるか、わからない私ではございません |
ローエン | 相応の覚悟は、出来ております |
クレス | ローエンさん… |
ガイ | くそっ。肝心のミクリオは一体どこに行ってるんだ |
ローエン | 実は、人工遺物に関する手紙を送ってくださった方から、会いたいと呼び出されており── |
| |
??? | あの、その話、詳しく聞かせてくれませんか!? |
ローエン | あなたは… |
| |
ミクリオ | ──博物館に収蔵している人工遺物を全て没収するだって!? |
クラトス | ああ、そうだ |
ミクリオ | …そんな事をして、僕の心が折れるとでも? |
クラトス | 結果はどうあれ、エレノアが今回の任務を遂行するにあたって── |
クラトス | 貴公を近くに置いておく事は避けるべきだと判断した |
ミクリオ | それで僕を、こんなところにまでおびき出したのか…! |
ミクリオ | だが、意味がないと思っているなら、どうしてそんな事を… |
クラトス | …先日の話し合いの後、エレノアは貴公の意向を特例として認めてくれと報告に行った |
クラトス | だが、それは貴族達の意見に反するものだ |
クラトス | 結果的にエレノアは、貴公の肩を持っていると見なされてしまった |
ミクリオ | …!そんな… |
クラトス | 本人はそこまで深刻には考えていないようだが…これはヒューム家の存亡に関わる一大事だ |
クラトス | だからこそ、今回エレノアに命じられた人工遺物没収の任務は、何としても完遂させなければならない |
ミクリオ | …なるほど。名誉挽回のために、是が非でも成功させたいわけか |
クラトス | ああ。だが、貴公を博物館から引き離したのは私の独断だ |
クラトス | エレノアと同様、私もミクリオ殿の行動そのものを否定するつもりはないが… |
クラトス | 長年に渡り仕えてきたヒューム家の大事を看過する事も出来ん |
ミクリオ | けれど、僕を引き離したところで、エレノアの任務がすんなり遂行出来るとは思えないな… |
ミクリオ | ローエンの事を、忘れてはいないか? |
ミクリオ | エレノアにはあなたがいるように、僕にも信頼のおいている彼がいる |
クラトス | 勿論、ローエンは止めようとするだろうが…彼も私と同じ、貴族に仕えるただの従者だ |
クラトス | 分をわきまえぬ行動をすればどうなるかはわかりきっている |
ミクリオ | …今のあなたの行動も、十分従者の域を超えてると思うが? |
クラトス | ああ。だが、私の目的はあくまでヒューム家を守る事。敵が貴公一人と貴族全体では話が違う |
ミクリオ | … |
クラトス | …今ここで、貴族連中の取り決めに従うと、約束してもらえないか |
クラトス | そうすればローエンも無事で済むし、ただの収集品として持つだけなら、人工遺物の返還も可能だろう |
クラトス | これ以上事態が悪化する前に、決断してもらいたい |
ミクリオ | … |
scene1 | 不壊の約束 |
ミクリオ | … |
クラトス | … |
ミクリオ | あなたは… |
ミクリオ | ローエンやエレノアを守るために僕に白き獅子を目指せと… |
ミクリオ | 夢を諦めろと…そう、言うのか? |
クラトス | ああ。それが貴公に出来る、最善の選択だ |
ミクリオ | だが… |
クラトス | 人工遺物の事も、先ほどの通りだ |
クラトス | 貴公が然るべき決断をすれば、手元に置いておく事くらい許されるはずだ |
クラトス | 逆に今のままでは、何一つとして、望んだ結果にはなるまい |
ミクリオ | … |
ミクリオ | 夢を諦める事以外に、解決策はないのか…? |
ミクリオ | だが、僕は… |
クラトス | …どうした |
ミクリオ | …駄目だ。どうしても言えない |
ミクリオ | 貴族達の決めた方針に従うという事は自ら掲げた夢を諦める事…。そう考えると…… |
クラトス | ミクリオ殿の気持ちもわかる。だが、もう一度よく考えてみろ |
クラトス | その夢とやらは、ローエンやエレノアを犠牲にしてまで守るほどの価値がある物なのか? |
ミクリオ | … |
クラトス | 考えた上で貴公が我が道を進むと言うのなら、これ以上は何も言うまい |
ミクリオ | ローエン…エレノア……くっ… |
ミクリオ | … |
ミクリオ | …いいだろう。クラトス、ここはあなたに従う |
ミクリオ | 僕は…白き獅子になる |
ミクリオ | その選択をする事で、ローエン達を守る事が出来るなら… |
ミクリオ | 僕は…自分の夢を諦め── |
| |
??? | 待ってくれ!ミクリオ! |
| |
??? | はあ…はあ…今、何て言おうとしてた?夢を諦めるつもりじゃないよな? |
ミクリオ | 君は…?いや、それよりも何故僕の名前を… |
??? | お前は…手堅いくせに意地っ張りだ |
ミクリオ | なっ…! |
??? | そんな奴が、簡単に自分の決めた事を諦めるなんてらしくない |
??? | どこまでも、意志を貫く。…それがミクリオだろ? |
??? | それに、お前の夢はオレの夢でもあるんだ。だから、諦めるなんて言うな! |
ミクリオ | 君は…一体… |
ミクリオ | いや、待て…この声、どこかで…? |
| |
??? | 「よかった! 無事だったんだな」 |
??? | 「誰って…ミクリオ、 オレの事、忘れちゃったのか?」 |
??? | 「……冗談に決まってる。 だって、オレ達──」 |
| |
ミクリオ | まさか君は、繰り返し夢の中に出てきていた…? |
ミクリオ | …いや、待て。ここに来たと言う事は…まさか、君があの手紙の主なのか? |
スレイ | ああ、手紙を出したのはオレだよ。オレはスレイって言うんだ |
ミクリオ | やはりそうか…君が… |
スレイ | 突然割って入って、ごめん。ローエンさんから話を聞いて居ても立ってもいられなくなって… |
スレイ | ミクリオ、あの博物館は、お前にとって大切なものなんだろ? |
スレイ | ずっと頑張って作り上げたものを諦めなくていい。それを言いに来たんだ |
ミクリオ | 確かに僕だって、ここまで人生を賭けてやって来た事を諦めるなんて、本意じゃない |
ミクリオ | 本当はこんな事はしたくないさ |
スレイ | だったら! |
ミクリオ | けれど、今回は問題が多すぎるんだ。事態は既に、僕一人ではどうにも出来ないところまできている |
ミクリオ | 夢のために僕を支えてくれていた人達を見捨てるなんて、僕には… |
スレイ | ミクリオは本当にそれでいいのか? |
ミクリオ | さっきも言っただろう!夢と仲間、どちらかを選ばなければいけないんだ! |
スレイ | …わかった。本当にそれで後悔しないって言うなら、そうすればいい |
スレイ | オレが、先に夢を叶えるだけだ |
ミクリオ | …! |
スレイ | オレに先を越されても平気なら、好きにすればいいさ |
ミクリオ | …誰が諦めると言った |
スレイ | 自分でそう言ったじゃないか |
ミクリオ | まだ言ってないだろ!君が僕の発言を邪魔したんだから |
スレイ | あそこまで口にしたら、もう言ったようなものだろ |
ミクリオ | 違う!僕は── |
クラトス | ──そこまでだ |
クラトス | 思わぬ邪魔が入ったが…そろそろ貴公の答えを聞かせてもらおう |
ミクリオ | …ああ、わかっている |
ミクリオ | クラトス…あなたの言っている事は正しいのだと僕も思う |
ミクリオ | それでも…僕はやっぱり、自分の夢を、諦められない |
スレイ | ミクリオ…! |
ミクリオ | スレイに言われたからじゃない。これは僕の意志で決めた事だ |
ミクリオ | 巻き込む形になってしまって、あなた達には申し訳ないと思っている |
ミクリオ | けれどやっぱり僕は、自分の信念を曲げてまで諦める事は出来ない |
ミクリオ | …クラトスの言う通り、僕のやろうとしている事はただの「夢」みたいなものだ |
ミクリオ | 不確かで不合理な選択をしている、あなたはそう言うだろう |
ミクリオ | それでも僕は、誰かがこんな風に何かを諦めなきゃいけない世界を、ラザリス様の理想の世界にしたくない |
クラトス | …!だが── |
ミクリオ | ローエンの事を言うのなら、もう無駄だよ。僕はもう諦めない |
ミクリオ | 大事な人も、夢も──僕が全て守る |
クラトス | …わかった。それが答えだと言うなら、これ以上何も言うまい |
クラトス | 全てを失った後に、その決断を悔いる事にならないよう祈ろう |
スレイ | あ、ちょっと待… |
ミクリオ | いい、放っておけ |
スレイ | でも…あの人、このままだとローエンさんのところへ… |
ミクリオ | そんな事はわかっているよ。誰も追いかけないとは言っていないだろ |
ミクリオ | この辺は何度も調査をしたから、地理は熟知しているさ |
ミクリオ | クラトスの進んだ道を行くより林の中を突っ切った方が早い |
スレイ | そうか。だったら… |
ミクリオ | ただし。その分魔物と遭遇する確率も高く… |
| |
| ガサガサッ |
| |
| グルルゥッ! |
ミクリオ | なっ… |
スレイ | はあっ! |
| ズバッ! |
スレイ | …はは、大丈夫!オレとミクリオがいれば、魔物くらいどうって事ないよ! |
ミクリオ | …君は楽天的すぎないか。まあ、剣の腕は確かなようだけど |
スレイ | よし!じゃあ急いで出発しよう! |
scene2 | 不壊の約束 |
スレイ | はあ…はあ… |
ミクリオ | ようやく林を抜けたな |
スレイ | ミクリオの言った通り、本当に魔物が多かったな… |
スレイ | 戦いつつ一気に駆け抜けなきゃいけなかったから、何度か足がもつれそうになったよ… |
ミクリオ | …スレイ、ここで少し休んで行こう |
スレイ | え?でも、急がないとローエンさん達が… |
ミクリオ | 藪を通り抜けたり、魔物との戦闘を繰り返したせいで、お互い傷だらけだろう |
ミクリオ | 僕も君もだいぶ息が上がっているし、疲れた状態で無理に急ぐよりも、体力を回復させた方がずっと効率的だ |
ミクリオ | 幸い、林を突っ切ったお蔭で、時間はだいぶ短縮出来ているしね |
スレイ | …確かにミクリオの言う通りだな。わかった、少し休憩しよう |
| パアア… |
スレイ | ふう…楽になった。ありがとう |
ミクリオ | …ここまで魔物と立て続けに戦ってきたけれど、君とは何故か連携が取りやすかったよ |
ミクリオ | 僕の立ち回りを自然と察して動いてくれていたからかもしれないね |
スレイ | …そうだな。オレもミクリオと一緒だと、すごく戦いやすいよ |
ミクリオ | …その事で少し聞きたいんだが |
ミクリオ | スレイは僕の事をよく知っているようだけれど、どうしてなんだ? |
スレイ | …やっぱり、覚えてないよな |
ミクリオ | …? |
スレイ | あのさミクリオ、実はオレ達── |
| |
スレイ | … |
ミクリオ | スレイ?僕達が何なんだ? |
| |
スレイ | いや、その…実はさ。オレ達は昔、一緒にいた事があるんだ |
ミクリオ | 昔? |
スレイ | うん。よく遺跡探索したりしてさ。うっかり日が暮れるまで遊んで、ジイジに怒られたり… |
ミクリオ | ジイジ?君の祖父か何かか? |
スレイ | …まあ、そんなとこかな |
ミクリオ | 確かに遺跡探索なら、幼い頃よくガイ達と一緒に行っていたな…。まあ、今も大して変わらないけれど |
ミクリオ | ああ、もしかして、その時にスレイとも一緒に遊んだ事があったのか? |
スレイ | …あ、うん…。きっと、そんな感じだと、思う… |
ミクリオ | そうだったのか…。はっきりと覚えてなくてすまない |
スレイ | …いや、いいんだ。これは仕方ない事だから |
ミクリオ | でも、一つ気付いた事があるんだ。僕は不思議な夢を繰り返し見ているんだが── |
ミクリオ | その夢に出てくる青年、あれは君なのかもしれない |
スレイ | え?オレが夢に…? |
ミクリオ | 少し不思議な話だけどね |
ミクリオ | でも、君と出会い今の話を聞いて…やっぱりあれは君だったんだと確信したよ |
スレイ | ミクリオ… |
ミクリオ | 手紙の主だったり、夢に出て来たり…君は僕にとって縁の深い存在なのかもしれないね |
スレイ | ……うん、そうだな。きっとオレ達は繋がってる |
スレイ | …ありがとう、ミクリオ |
ミクリオ | …?感謝されるような事は何も言ってないと思うけど |
スレイ | いいんだ、オレが言いたかっただけだから |
スレイ | ──あ、そうだ |
スレイ | 今のミクリオは、覚えていないと思うけど… |
スレイ | オレ達は昔、世界中の遺跡を一緒に回ろうって話してたんだ |
スレイ | それが、オレ達の夢 |
ミクリオ | 僕達の… |
ミクリオ | …スレイ、もしかして君がさっきあれだけ必死になって夢を諦めるなと言ったのは… |
スレイ | えーっと…、うん。オレ達二人の夢を諦めてほしくなくて思わず… |
ミクリオ | そうだったのか… |
ミクリオ | 世界中の遺跡を回る、か。素晴らしい夢だ |
スレイ | だろ?ミクリオなら、きっとそう言ってくれると思ったよ |
スレイ | …さてと。傷も癒えたし、レイザベールへ急ごうか! |
ミクリオ | そうだね。のんびりしすぎて、追い抜かされたりしたらたまらない |
ミクリオ | ──行こう! |
scene1 | 辿りついた選択肢 |
エレノア | ──作業の進み具合はどうですか |
骨董商 | 人工遺物の回収はほぼ終わりました |
エレノア | …そう、ですか |
エレノア | みなさん、お疲れ様でした。後の事は私に任せてください |
クレス | そんな…博物館が、すっかり空っぽに… |
ガイ | くそ、ミクリオは間に合わなかったか… |
ローエン | … |
ローエン | エレノア様 |
エレノア | ローエン… |
ローエン | お願いいたします。どうか商人達に、運び出した収蔵品を戻すよう命じてください |
ローエン | あなたもこのような結末は、決して望んでいないはずでしょう |
ローエン | 今、あの商人達を止められるのは、あなたしかいないのです |
エレノア | …残念ですが、それは出来ません |
エレノア | やはりミクリオは白き獅子に志願すべきです。彼はそれだけの才を持っています |
エレノア | ラザリス様をお守りする事は、この上ない貢献となるでしょう。…それは、彼のためにもなるはずです |
エレノア | 人工遺物の研究から手を引かせる事でミクリオが正しい道を歩める可能性が少しでもあるのなら… |
エレノア | 例え恨まれる事になろうとも、私は任務を遂行します |
ローエン | エレノア様… |
ローエン | お気持ちはよく理解しました。あなたもミクリオ様をお思いなのですね |
| |
ローエン | …ですが、もう一度だけ言います |
| |
ローエン | 今すぐに作業を中止させなさい |
エレノア | …! |
ローエン | このような強引な手段を用いたところで、ミクリオ様が夢を諦めるはずがない |
ローエン | そんな事は、あなたもおわかりのはずです |
エレノア | … |
クレス | ローエンさん!? |
ガイ | おいおい、貴族のエレノア相手にそんな事言ったら…! |
エレノア | …そのような厳しい表情のあなたを見るのは初めてですね |
エレノア | ですが…私にも立場があります。いくらあなたでも、庇う事は… |
ローエン | ええ、覚悟の上でございます |
クレス | 待ってくれ!ローエンさんに何かあったらミクリオは、より悲しむ事に… |
ローエン | 私も本意ではございません。ですが、こうする事であの方の夢をお守り出来るのならば… |
ローエン | このローエン、全てを投げ打ってでもエレノア様をお止めいたしましょう |
ローエン | 老い先短い私の覚悟、聞き入れてはもらえませんかな? |
エレノア | ローエン…あなたは… |
??? | ──その必要はない! |
| |
ミクリオ | 待たせたね、ローエン。今帰った |
ローエン | ミクリオ様… |
エレノア | ミクリオ…! |
クレス | よかった、ギリギリ間に合った! |
ガイ | ったく、待ちわびたぜ! |
スレイ | ふぅ…。間一髪だったみたいだな… |
ローエン | …どうやら、無事に手紙の主様と会えたようですね。ご無事で何よりです、ミクリオ様 |
ミクリオ | ああ、遅くなってすまなかった |
ミクリオ | …どうやら、人工遺物の回収は順調に進んでいるようだね、エレノア |
エレノア | …!知っていたんですか… |
ミクリオ | ああ、全て聞いたよ。クラトスから…ね |
エレノア | クラトス…?どういう事ですか。彼は今日、休暇を取っているはず… |
スレイ | 実は…クラトスさんはミクリオをこっそり呼び出して、説得しようとしてたんです |
スレイ | オレが、新しい手紙をミクリオに出したかのように装って… |
エレノア | クラトスが、私に黙ってミクリオを…? |
エレノア | そんな…何故彼はそのような勝手な真似を |
ミクリオ | 彼なりに、君と君の家の事を真剣に考えた結果だろう |
ミクリオ | とはいえ、結局僕は、クラトスの説得に応じなかったんだけれど… |
ミクリオ | 彼はあくまでも、貴族達の指示を遂行しようと考えているようだから、じきにここへ来るだろう |
ミクリオ | それより、ローエン |
ミクリオ | 僕のために、君が犠牲になる必要なんてない |
ローエン | ミクリオ様… |
ローエン | ですが、このままではミクリオ様が今まで集めた人工遺物は全て没収されて… |
ミクリオ | いいんだ。持って行かれても構わない。彼らの好きなようにさせればいいさ |
ミクリオ | …僕にとってローエンは人工遺物よりも守るに値する人だ |
ローエン | ミクリオ様… |
ローエン | いけませんミクリオ様!そのような事をしたら、絶対に後悔いたします! |
ローエン | 私はミクリオ様の夢を全力で応援すると申し上げたはずです! |
ローエン | そのためならば、この老体の未来などいくらでも── |
ミクリオ | 心配ないよ、ローエン |
ミクリオ | 僕は、夢を諦めるつもりなんてこれっぽっちもない |
ミクリオ | 確かに、貴族達の勝手な都合で集めた人工遺物を没収されるのは許しがたい事だ |
ミクリオ | だが、例え全てなくなったとしてもまた一から集め直せばいい |
ミクリオ | 世界にはまだまだ数えきれないほどの人工遺物が眠っているんだ。何度だって探しにいける… |
ミクリオ | そう思わないかい、ローエン? |
ローエン | ミクリオ様… |
エレノア | ミクリオ…あなたは… |
スレイ | だな。ミクリオが、こんな事くらいで諦めるはずがない |
スレイ | ミクリオの意志の強さは筋金入りだ。オレが保証するよ。昔っからそうだったし |
エレノア | 昔から…?お話を聞く限り、ミクリオに手紙を出していた方のようですが… |
エレノア | あなたは、ミクリオとは古くから交友があるのですか? |
スレイ | ああ、えーっと…そうだな。言うなれば… |
スレイ | 見えない絆で繋がった親友!…かな |
ミクリオ | 親友、か…。僕の方は君を忘れてしまってるけどね |
スレイ | 今はそうかもしれないけど、いつか必ず思い出してくれる日が来るよ |
スレイ | …それに、何も覚えてなくたって、ミクリオはミクリオだった。それがわかれば大丈夫 |
ミクリオ | …? |
ローエン | おやおや、お二人は昔からのご友人だったのですか |
ローエン | ほっほっ、何はともあれ、ミクリオ様が素晴らしいご友人と再会出来て、何よりです |
ミクリオ | 何を…って、それはいいんだ。とにかくそういう事だから、人工遺物は持って行って構わない |
エレノア | そんな…ミクリオが、何の抵抗もなく、あっさりと自分から人工遺物を手放すなんて… |
ミクリオ | エレノア。君はこのまま、役目を完遂すればいい |
ミクリオ | それでも僕は、自分の夢を絶対に諦めない |
ミクリオ | 僕の夢は、多くの人の…ひいてはラザリス様の望む世界の幸福へと繋がっているはずだ |
ミクリオ | 途中で投げ出したらきっと後悔する。だから、どんなに辛くても大変でも、最後まで歩き通してみせるよ |
ミクリオ | この意志が挫ける事は決してない。この事は、他の貴族達にも改めて伝えておいてほしい |
エレノア | …怒らないんですか?私は、あなたの大切なものを奪っていこうとしているんですよ? |
ミクリオ | 君にも事情や立場がある。やりたくてやったわけじゃない事は理解しているからね |
エレノア | … |
ミクリオ | 言われた通りに人工遺物を没収して、改めてミクリオも説得しようとした。でも、彼は言う事を聞かなかった |
ミクリオ | 他の貴族達には、そう伝えればいい |
??? | …まさかそう来るとはな |
クラトス | … |
ミクリオ | クラトス… |
scene2 | 辿りついた選択肢 |
クラトス | …まさか自分の意志で人工遺物を差し出し、ローエンや私達だけでなく己の夢まで守ってみせるとはな |
エレノア | …クラトス。ミクリオから、あなたが私に黙って何をしていたのか聞きました |
エレノア | ミクリオを呼び出したというのは本当なのですか |
クラトス | ああ、その通りだ |
クラトス | 幼馴染のミクリオ殿さえいなければ、お前は躊躇する事なく任務を遂行出来るだろうと思ったのでな |
エレノア | …そのような行動に出たのは、やっぱり… |
クラトス | …ああ。ヒューム家を守るためには、手段を選んではいられなかった |
エレノア | クラトス…。どうしてあなたはそこまでして、私の家を守ろうと… |
ローエン | …エレノア様。クラトスさんは、あなたのお父上の親友だったのですよ |
クラトス | 待てローエン。その話は… |
ローエン | せっかくの機会です。知っておいた方がよろしいでしょう |
ローエン | エレノア様のお父上は、死の間際、友であるクラトスさんにヒューム家を頼むと言い残しました |
ローエン | だからクラトスさんは、ヒューム家とあなたを、何に変えても守ろうと必死に動いておられたのです |
クラトス | … |
エレノア | クラトス… |
エレノア | …ミクリオ。あなたが人工遺物を持って行って構わないと言ったのは、私達のためだったのですね |
エレノア | クラトスの覚悟を尊重し、私やクラトスの立場が悪くならないように、と… |
エレノア | …ミクリオ、あなたは大切にしていた人工遺物や己の立場を犠牲にしてまで私達を守ろうとしてくれました |
エレノア | 規律や取り決めに縛られず、ぶれる事なく夢を貫き通す強い覚悟と意志を見せた… |
エレノア | …それに比べて私は、よくない事だと思いながらも、仕方ない事なのだと自分に言い聞かせてばかりで… |
エレノア | 正しいかどうかなんて考えもせず、周りに言われるがままに従うだけでした… |
エレノア | …私は、何と無知だったのでしょう |
ミクリオ | … |
エレノア | 私は白き獅子を目指す事こそが、ラザリス様への一番の貢献だと、信じて疑わずにここまできましたが… |
エレノア | この思想には、ミクリオほどの強い意志はなかったのかもしれません |
エレノア | 今なら素直に認められます。あなたの夢は、信念のこもったとても素晴らしいものだと |
エレノア | 私の過ちに気付かせていただき、ありがとうございます。──そして、申し訳ありませんでした |
ミクリオ | エレノア… |
エレノア | ローエンも、すみませんでした。あなたのミクリオへの想いを、私はよく知っていたのに… |
ローエン | …お気になさらないでください。エレノア様は従わざるを得なかっただけなのですから… |
エレノア | 本当に、あなた方には頭が上がりません。私は何という事をしてしまったのか… |
エレノア | 何度お詫びをしてもし足りないくらいです |
クラトス | …私からも謝罪させてくれ。すまなかった |
ミクリオ | 二人共、頭をあげてくれ。僕は謝罪なんか望んでいない |
ガイ | そうそう。あんまりかしこまられても、ミクリオ達だって困っちまうだろ |
クレス | 二人に悪意があってやったわけじゃない事は、みんなわかっているんだし… |
エレノア | はい…。…その、今さらかもしれませんが… |
エレノア | 今後は私もミクリオのように、自分の意志で正しいと信じられる道を見極めたいと思います |
エレノア | そのためにも…ミクリオの夢の実現に、協力させていただけませんか |
ミクリオ | 協力? |
エレノア | ──そこのあなた! |
骨董商 | は、はい! |
エレノア | 申し訳ありませんが、回収した人工遺物を元に戻してもらえますか。手数料はお支払いいたしますので |
スレイ | 人工遺物を返してくれるんですか? |
ガイ | これで博物館も元通りになるんだな! |
ミクリオ | …いいのか、エレノア?こんな事をしたら、君の立場は… |
エレノア | 心配無用です。貴族の方々も説得してみせましょう |
エレノア | これは私が、もう一度きちんと向き合わなければならない問題ですから |
ミクリオ | エレノア…ありがとう |
エレノア | いえ、お礼を言うのは私の方です。…それと… |
ミクリオ | この手は…? |
エレノア | 先日出来なかった、和解の握手です。…お願い出来ますか? |
ミクリオ | ああ、勿論さ |
ローエン | ほっほっ、和解出来てよかったですね。ミクリオ様、エレノア様 |
クラトス | …ミクリオ殿。偽りの手紙で貴公を誘い出した事、この場で詫びさせてくれ |
ミクリオ | クラトス… |
クラトス | …だが、独断での行動に関しては、釈明するつもりはない。咎めはいくらでも受けよう |
ミクリオ | …クラトス。僕はあなたを咎めるつもりはない |
クラトス | …そうか。貴公も大概甘いな |
スレイ | 何はともあれ、人工遺物の没収がなくなってよかったな、ミクリオ! |
ローエン | ええ、これで少しだけ肩の荷が下りました |
ガイ | 博物館が空になった時は、どうなる事かと冷や冷やしたぜ |
クレス | 本当に。何とかなりそうでよかったよ |
ミクリオ | みんなも、いろいろと手を貸してくれて、感謝している |
ミクリオ | 特にスレイ…あの時君は、夢を諦めるなと声をかけてくれただろう |
ミクリオ | あの一言があったから、僕は折れる事なく立ち向かう事が出来たんだと思う |
ミクリオ | 本当に助かったよ。ありがとう、スレイ |
スレイ | …どういたしまして! |
scene1 | 追憶への行路 |
ガイ | …ふぅ。これで、大体は元通りになったかな |
クレス | そうだね。見慣れた元の博物館の姿とほとんど変わらないと思うよ |
ガイ | 一時はどうなるかと思ったが、何とかなってよかったな |
ミクリオ | 心配をかけてすまなかった。ありがとう、クレス、ガイ |
ガイ | 気にするなって、友達だろ。それじゃ、俺達はそろそろおいとまするとしようか |
クレス | ミクリオ、また何かあったら、遠慮なく僕達を頼ってくれ |
エレノア | ミクリオ、私達もそろそろ失礼しますね |
ミクリオ | 結局二人にまで手伝わせてしまったな |
エレノア | 私が原因を作ったのですから、これくらいは当然です |
ミクリオ | 他の貴族達に話をすると言ってたけれど…くれぐれも無茶はしないでくれ |
エレノア | はい、でも大丈夫です。私には頼りになる従者がついていますから |
エレノア | …これからは、何があろうと私達はあなたの味方です。どうかそれだけは忘れないでください |
ミクリオ | ああ、覚えておくよ |
エレノア | それでは、失礼します |
クラトス | 邪魔をしたな |
スレイ | …さっきまで、あんなにたくさん人がいたのに、静かになる時はあっという間だな |
ミクリオ | ああ、そうだな |
ローエン | …ミクリオ様、先ほどの決断、実にお見事でした |
ローエン | 友を助け、自らの夢も守る…。並大抵の覚悟で出来る事ではございません |
ローエン | 本当にご立派になられました。あなたの従者として、誇りに思います |
ミクリオ | よしてくれ。そこまで言われるとさすがに僕もくすぐったい |
ローエン | しかし、ついこの間まであんなに小さかったミクリオ様が…。時の流れは早いものですね |
ミクリオ | 一体いつの話をしているんだ… |
スレイ | はは、二人は仲がいいんだな |
ローエン | ええ、長くお仕えさせていただいておりますから。…そうです、スレイさん |
ローエン | 今回の事…本当にありがとうございました |
スレイ | オレですか?そんな、オレは何も── |
ローエン | …あなたには、我が主の夢を守っていただきました |
ローエン | ミクリオ様が夢にかける情熱は、ずっとお側で見てきた私も存じております |
ローエン | そして、そこに至るまでの、苦悩や喜びも…。だからこそ、私も深く感謝せずにはいれないのです |
スレイ | 何か変な感じだな…。ミクリオの事で、オレが感謝されるのって |
ミクリオ | …スレイ、何でそんなに嬉しそうなんだ |
ローエン | …不思議ですね |
ローエン | スレイさんとミクリオ様が並んでいらっしゃる姿を見ると、何故かとても安心するのです |
ローエン | まるでずっと昔から、それが当たり前だったかのように… |
スレイ | … |
ローエン | スレイさん。ミクリオ様と、これからも仲良くして差し上げてくださいね |
スレイ | はい、勿論です! |
ミクリオ | ローエン…僕を子ども扱いするのはやめてくれ |
ローエン | ほっほっほ。さて、お二人には積もる話もおありでしょう |
ローエン | せっかく人工遺物を語れる者同士が出会えたのですから、存分に語り合うとよろしいかと |
ローエン | 私は仕事に戻りますので、何かあったらお呼びください |
ミクリオ | ああ。ありがとう、ローエン |
| |
スレイ | …ここがミクリオの部屋かあ。今のミクリオは、こんなところに住んでるんだな |
ミクリオ | 今の…?僕は昔から、ずっとこの部屋だけど |
スレイ | あ…そうだよな。ごめんごめん。変な言い方しちゃったな |
ミクリオ | …? |
スレイ | ええっと…それにしても、人工遺物の件、何とか一件落着してよかったな! |
ミクリオ | ああ、これで思う存分研究に力を注げそうだ |
スレイ | …ミクリオは、本当に人工遺物が好きなんだな |
ミクリオ | 昔から妙に心惹かれるんだ |
ミクリオ | 別にきっかけと言えるような印象深い出来事があったわけじゃない |
ミクリオ | ただ、気付けばそれが当たり前かのように夢中になっていた |
ミクリオ | …不思議なものだね。これが好きという事なんだろうけど自分でも首をひねるくらいだよ |
ミクリオ | …けれど、落ち着くんだ |
ミクリオ | こうしている事が僕が僕であるという証明のような…そんな気がして |
スレイ | … |
ミクリオ | …こんな事、ローエンくらいにしかしゃべった事がないんだけどね。不思議と君には口が軽くなるみたいだ |
スレイ | …あのさ、ミクリオ |
ミクリオ | 何だい? |
スレイ | こんな事、オレがいきなり話し出したら、きっと驚くと思うけど… |
| |
スレイ | オレ…実は、別の世界で生きてたんだ |
ミクリオ | …どういう事だ? |
スレイ | オレだけじゃない。ミクリオも一緒だった。オレ達、幼馴染だったんだ |
ミクリオ | ちょっと待ってくれ。わけがわからない… |
ミクリオ | スレイも僕も別の世界の人間で…幼馴染、だって? |
ミクリオ | 本気で言っているのか…? |
スレイ | こんな冗談言わないよ |
スレイ | …昔オレ達が一緒にいた事があるって話したの、覚えてる? |
スレイ | 小さい頃の話かって言われて咄嗟に頷いちゃったんだけど、…あれ、本当は別の世界の話なんだ |
スレイ | オレ達は、小さい頃からずっと一緒に育って…それから、世界を救うための旅に出たんだよ |
ミクリオ | 君は何を言って… |
スレイ | …ごめん。いきなりこんな事を話しても、やっぱり信じられないよな |
ミクリオ | …ああ、僕にそんな記憶はない |
ミクリオ | そもそも僕は、君の事だって全く覚えていないんだ… |
スレイ | だけど、嘘じゃないんだ。ミクリオが覚えていないのは、天帝が全てを変えてしまったからで… |
ミクリオ | 天帝…?つまり君は、ラザリス様が僕の記憶を消したと…そう言いたいのか? |
スレイ | うん。でも、ミクリオだけじゃない。天帝は、多分世界自体を書き換えてる |
ミクリオ | そんな突拍子のない事、一体何を根拠に── |
スレイ | …「人工遺物」 |
スレイ | あれは、天帝が創り変えてしまう前の世界の物なんだ。だから、詳しく説明する事が出来た |
ミクリオ | 人工遺物が?そんな、ありえない… |
スレイ | じゃあ、ミクリオは、オレがどうやって人工遺物の知識を手に入れたと考えてるんだ? |
ミクリオ | それは… |
スレイ | それにミクリオはオレの事、知ってただろ |
ミクリオ | いや、あれはあくまでも夢の話で… |
スレイ | …やっぱり、人工遺物の使い方だけじゃ記憶は戻らないか |
スレイ | 本当は、ミクリオがちゃんと記憶を取り戻すまでは会わないつもりだったんだけど── |
スレイ | ミクリオが大変だって聞いて、思わず飛び出しちゃって…これじゃ、作戦も台無しだよな |
ミクリオ | 作戦だって? |
スレイ | 本当は、ミクリオを見つけた時、すぐにでも声をかけたかったんだけど… |
スレイ | …この世界を見て回る内にそれじゃ駄目なんだってわかったんだ |
スレイ | みんな、ミクリオと同じように元の記憶を失ってて…誰もオレの話を信じてくれなかった |
ミクリオ | …それはそうだろう。自分にない記憶を思い出せ、なんて言われても、戸惑うだけだ |
スレイ | だから、直接会いにいくのは避けて手紙を送ったんだ |
スレイ | 人工遺物の事をきっかけにミクリオの記憶を取り戻せたらって… |
スレイ | …と言っても、これはオレが思い付いた作戦じゃないんだけどね |
ミクリオ | …!仲間がいるのか? |
スレイ | 運よく記憶を取り戻してた仲間と合流出来たんだ。今はわけがあって、別行動中だけど… |
ミクリオ | … |
ミクリオ | …人工遺物は別世界の物と考えれば、様々な事に説明が付く。理解出来る点があるのも確かだ |
スレイ | ミクリオ… |
ミクリオ | でも…信じられない。いや、信じてはいけないんだ |
ミクリオ | ラザリス様が、僕達の記憶を書き換えているだなんて… |
ミクリオ | そう…そんな事を言う君は、まるで── |
スレイ | ……咎人みたいだ、って? |
ミクリオ | …! |
ミクリオ | …ああ、そうだ。人を惑わす言葉…そう思われても仕方ない事を言ってるんだぞ、君は… |
スレイ | はは、そう…だな。でも、これは全部事実なんだ |
ミクリオ | …君の目的は何なんだ。どうして、僕にそこまで… |
スレイ | …多分、今のミクリオにはわからないと思う… |
スレイ | すぐには無理かもしれない。でも、少しでもオレの言葉が届くなら… |
スレイ | ミクリオ。オレと一緒に、来てくれないか |
スレイ | 一緒に旅をすれば、オレの言った事が嘘じゃないって証明出来るはずだ |
スレイ | きっとお前の記憶だって取り戻せる。そして、今度こそみんなと世界を── |
ミクリオ | …少し、考えさせてくれないか |
ミクリオ | いきなり多くの情報が入ってきたから混乱しているんだ。整理するのに時間がほしい |
スレイ | …そうだよな。わかった、ゆっくり考えてきてくれ |
ミクリオ | … |
scene2 | 追憶への行路 |
ミクリオ | ──こことは違う別の世界、人工遺物の真実、失われた記憶… |
ミクリオ | …あんな話、簡単に信じられるわけがない |
ミクリオ | そう…咎人の可能性がある者は、迷わず白き獅子に突き出すべきだ |
ミクリオ | それなのに、どうして僕は…… |
| |
スレイ | ミクリオ。オレと一緒に、来てくれないか |
| |
ミクリオ | …僕は一体、どうすれば… |
ローエン | おや、ミクリオ様。もうお話を終えられたのですか? |
ミクリオ | ローエン… |
ローエン | てっきり、スレイさんと人工遺物の話に花を咲かせているものと思っておりましたが |
ミクリオ | … |
ローエン | …表情が冴えませんね。どうかなさいましたか |
ミクリオ | …すまない。少し、相談に乗ってくれないか |
ミクリオ | 実は、スレイからとんでもない話を聞かされてね… |
ローエン | ──スレイさんは別の世界の住人で、人工遺物はその世界の物だった…ですか |
ローエン | …それはまた、何とも突拍子もないお話ですな |
ミクリオ | スレイの言う事に不思議な説得力や検証の余地があるのは事実なんだが、あまりに現実離れしていて… |
ローエン | 素直に信じていいものなのか判断しかねている、と。…なるほど、難しい話です |
ミクリオ | スレイの言う話は本当なのだろうか、それとも、彼は…… |
ミクリオ | …ローエン、君はどう思う? |
ミクリオ | 僕の考えは無視していい。この話を聞いてどう感じるのか、客観的な意見がほしい |
ローエン | そうですねぇ… |
ローエン | 確かに、にわかには信じがたい話だと思います。別の世界というのも聞いた事もありませんし… |
ミクリオ | そうか… |
ローエン | …ですが、きっと真実なのでしょうね |
ミクリオ | …! |
ローエン | そもそも、人工遺物自体が正体不明の不思議な物なのですから、何があってもおかしくありませんし |
ローエン | 何より、スレイさんはミクリオ様をとても大事に思っていらっしゃいます |
ローエン | そんな彼が、あなたを騙すような事を言うはずがない…そう感じます |
ミクリオ | …そうか |
ローエン | 先ほど、スレイさんに旅に誘われたとおっしゃっていましたね |
ミクリオ | ああ。それがどうかしたか? |
ローエン | せっかくのお誘いなのです、博物館や貴族達の事は私に任せて、旅に出てみてはいかがです? |
ミクリオ | …! |
ローエン | 彼と世界各地を回り、人工遺物と世界の謎を調べる事に魅力を感じておいでなのでしょう? |
ミクリオ | それは、確かにそうだが…スレイの話の事もあるし、僕が長期間屋敷を空けるわけには… |
ローエン | こちらの心配はいりませんよ。エレノア様やクラトスさんの助けも得られるでしょう |
ローエン | それに、人工遺物に詳しいスレイさんと行動を共にすれば、研究もきっと捗ります |
ローエン | ミクリオ様は、思う存分、ご自身の夢を追ってきてください |
ミクリオ | …僕は… |
ローエン | ミクリオ様。今一度、ご自分の気持ちと素直に向き合ってみてくださいませ |
ローエン | そうすれば、誰を信じたいのか、そして、何がしたいのか…おのずとおわかりになるはずです |
ローエン | それがどのようなものであろうと、このローエン、最後までお力になると誓いましょう |
ミクリオ | ……そうだな。もう少し、考えてみる事にする |
ローエン | ええ。どうか後悔だけはされませんよう、よくお考えください |
scene3 | 追憶への行路 |
スレイ | … |
| |
ミクリオ | …待たせたね |
スレイ | ミクリオ…! |
ミクリオ | …単刀直入に言うよ。僕は君の事を咎人だと思っている |
スレイ | そう…だよな |
スレイ | …ミクリオがオレを警戒するのもわかる。けど、オレは──…! |
ミクリオ | …でも、僕は、君の話が虚言だと断定する事も出来ないでいるんだ |
ミクリオ | こうして迷っている事自体、咎人である君に惑わされているんじゃないか、と思うほどに… |
スレイ | …もしかして、オレを白き獅子に突き出そうとしてるのか…? |
| |
ミクリオ | 本来ならそうすべきだろうね…。けど僕は、真実を突き止めるため君に同行する事に決めた |
| |
スレイ | …!本当か!? |
ミクリオ | ああ。旅をしながら、人工遺物や、君の言う別の世界について調べる事にする |
ミクリオ | その中で確証が持てたら君を信じる。だが、もし全てが君の妄言だとわかったら… |
ミクリオ | その時は即座に然るべき処置を取り、咎人として、君を白き獅子に突き出す |
スレイ | …! |
ミクリオ | 僕はラザリス様に対して、忠誠を誓っている |
ミクリオ | 今回のエレノアの一件を経て、ますますその思いは強くなったと言ってもいい |
ミクリオ | だから、そのラザリス様に仇を為すかもしれない君を、放っておく事は出来ない |
ミクリオ | 僕が同行するのはあくまでも、人工遺物の研究、及び、咎人かもしれない君の監視が目的だ |
スレイ | 監視… |
ミクリオ | 場合によっては、僕と君は敵対する可能性だってあるだろう |
スレイ | それでもいいよ。ありがとう、ミクリオ |
スレイ | …そっか…ミクリオと、また旅が出来るんだな… |
スレイ | はは、思い切って話してよかった!記憶をなくしてるのは寂しいけど、やっぱりすごく嬉しいよ |
ミクリオ | …喜ぶところか?僕は君を警戒しているとはっきり告げたんだぞ? |
スレイ | あはは、そういえばそうだな。でも、オレにとっては、一緒に旅が出来る事の方が大事なんだ |
ミクリオ | ……。君の考えている事は時々よくわからないな |
| |
スレイ | さてと。まずはどこへ向かおうかなー |
ミクリオ | それなら、市都ファルカームに行ってみないか? |
スレイ | 別にいいけど、何かあるのか? |
ミクリオ | 最近、ラザリス様がその街を視察に訪れたそうだ |
スレイ | そういえば、天帝はすごく視察に熱心なんだっけ |
ミクリオ | ああ。だけど、よく考えたら、視察の目的や理由も僕達は何一つとして知らないんだ |
ミクリオ | だからまずは、ラザリス様のお考えを知る事が、スレイの話を見極める鍵になるんじゃないかと思ってね |
ミクリオ | そのためには、実際に視察した街へ行ってみるのが一番だろう |
スレイ | …天帝について調べる事が、みんなの記憶や世界を取り戻すヒントにもなるかもしれないし… |
スレイ | よし、決まりだ。ファルカームへ向かおう! |
スレイ | …あ、でも、その前にローエンさんや友達のみんなに挨拶してきた方がいいんじゃないか? |
ミクリオ | いや、その必要はない。既にローエンには話してある |
ミクリオ | それに、少し街を離れるだけだ。二度と会えなくなるわけでもないし別れの挨拶なんて大げさだよ |
ミクリオ | …事情を話せば、かえって余計な心配をかける事になるかもしれないしね |
スレイ | …そっか、そうだよな |
ミクリオ | わかったなら急ごう。あまり時間が経つと、正確な証言が得られなくなってしまうからね |
スレイ | あ、うん…そうだな。それじゃ、出発しよう! |
スレイ | ミクリオ…必ず、お前の記憶を取り戻させる |
スレイ | そして今度こそ、みんなで一緒に世界を取り戻すんだ! |
Name | Dialogue |
scene1 | 不屈の心 |
ベルベット | …… |
ティア | …!あなた、もう起き上がって平気なの? |
ベルベット | もう?遅いぐらいだわ。シャングレイス脱出から、何日経っていると思ってるの |
ティア | まだ数日よ、ベルベット。一人では動けないぐらい重傷だったんだから、無茶しないで |
ベルベット | …これだけ動ければ十分よ |
ティア | でも… |
ベルベット | ここまで世話してくれた事には礼を言うわ |
ベルベット | 崖から落ちた時もあんたの譜歌とやらがなければ危なかったのも事実… |
ベルベット | ──だけど、あんたに従うつもりはない |
ティア | …… |
ベルベット | それに、あんただって人の世話を焼いている場合じゃないはずよ |
ティア | …そうね |
ティア | …兄さんに剣を向けられたあの時、すべてを思い出したわ… |
ティア | 私は…何があっても兄を止めなくちゃいけない |
ベルベット | …兄を止める… |
ティア | 元の世界で起きた晶化も兄とラザリスによるものだった |
ティア | この世界を新たに創り上げたのも、兄さん達の仕業と考えて間違いないはずよ |
ベルベット | そこまでわかっているなら、なおの事大人しくなんてしていられないでしょ |
ベルベット | ラザリスを討つためにも、今は情報を集めないと… |
ティア | …本気で行くつもりなのね |
ベルベット | 身体さえ動くなら、足を止める理由はないわ |
ティア | …白き獅子が、まだあなたを捜しているとしても? |
ティア | あなたが寝ている間にも彼らは捜索を続けていたわ |
ベルベット | …それでも。これ以上、時間を無駄にするわけにはいかない |
ベルベット | 元の世界に帰ってあいつを殺す…。…あたしには、立ち止まってる暇なんてないのよ |
ティア | あいつ…。それって、ラザリスではない別の誰かの事を言っているのよね? |
ティア | あなた、前に言っていたわ。元世界で「やるべき事」があるのだと |
ベルベット | … |
ティア | ベルベット…あなたはその人を討つために、一刻も早く元の世界に戻ろうと── |
ベルベット | …あんたには関係ないでしょ |
ベルベット | あたしは行く。あんたもせいぜい、捕まらない事ね |
ティア | あ、ちょっと…! |
ティア | …討つべき人物…… |
ティア | …ベルベット、待って! |
scene2 | 不屈の心 |
ベルベット | はぁ…はぁ…どうしてついて来るのよ |
ベルベット | …うぐっ…! |
ティア | …!あなた、傷が開いて… |
ティア | ベルベット、そのままじっとしていて |
| パアアア… |
ティア | 完治とまではいかないけど、これで動くのは大分楽になったはずよ |
ベルベット | …あんた前に、自分の術じゃ応急処置ぐらいしか出来ないって言ってなかった? |
ティア | …あの時は、ああ言うしかなかった |
ティア | 怪我を完治させてしまったら…あなたはきっと、今のように無茶をすると思ったから |
ベルベット | …それがわかってるなら、どうして今度は治療する気になったの? |
ティア | …ベルベット。私も一緒について行く事に決めたわ |
ベルベット | …本気? |
ティア | …自分の身を顧みず戦うあなたの姿、見ていられないわ。それに── |
ティア | …あなたと私、少しだけ似ている気がしたの |
ティア | だから、あなたの事を放っておけないのかもしれない |
ベルベット | …ただそれだけの事で、何で… |
ティア | それだけじゃない。この世界を元の姿に戻したい気持ちは私も一緒だもの |
ティア | 目的は一緒なんだから、協力しあえるはずよ |
ティア | 戦力は少しでも多い方がいい…違うかしら? |
ベルベット | …好きにすればいいわ。あたしの邪魔をしないならそれで構わない |
ティア | …… |
ティア | 本当は、他のみんなとの合流を急ぐべきなのかもしれないけど… |
ベルベット | ついて来るつもりなら早くしなさい。今日中に街に入りたいわ |
ティア | …!ええ、今行くわ |
| |
ティア | そろそろ街道に出るころかしら |
ベルベット | 油断しない事ね。あんたの言葉が確かなら、白き獅子がまだ近くに── |
| ガサガサ… |
ベルベット | …!! |
| チャキ! |
??? | うわっ、剣!?…っ、あなたは…! |
??? | ジュード!?何なんだ、君達は… |
ティア | ジュード、ルドガー!? |
ジュード | ティア…! |
ルドガー | …ジュード、知り合いなのか!? |
ジュード | あ…えっと…ティアはそうなんだけど…──ってそれどころじゃない! |
| |
| ガサガサ… |
ジュード | 僕ら、魔物から逃げてるところだったんだ! |
| |
| グルルルル…! |
ティア | なんて数…! |
ベルベット | …白き獅子じゃないだけ幸いだけど…さっさと片付けるわよ…! |
scene3 | 不屈の心 |
ベルベット | はああっ! |
| バシュッ |
| ギャオオオッ! |
| |
ベルベット | はぁ…はぁ…片付いたわね。それで… |
| |
ベルベット | …あんたの知り合い、って事でいいのよね? |
ティア | ええ。…改めて、二人共久しぶりね。無事でよかったわ |
ジュード | お互いにね。…と、その前にティア、ルドガーの事なんだけど…… |
ルドガー | …俺と君は、初対面だよな?俺の事、知っている口ぶりだけど… |
ティア | …!ひょっとして、ルドガーはまだ… |
ジュード | うん…。記憶を取り戻していないんだ |
ルドガー | 記憶…?って事は、もしかして… |
ジュード | ああ、えーっと。ティアはその…僕達の仲間だよ。君は覚えてないと思うけど |
ルドガー | …… |
ティア | ルドガー、そんな顔しないで。警戒するなと言ったところで今は難しいのかもしれないけれど… |
ジュード | ところでティアその人は…もしかして帝都で… |
ティア | …彼女はベルベット。わけあって、行動を共にしているの |
ジュード | …そう、なんだ |
ジュード | …よろしく、ベルベット。僕はジュードで、こっちが… |
ルドガー | …ルドガーだ。よろしく |
ベルベット | … |
ジュード | …えっと。よ、よろしくね |
ティア | それより二人共、どうしてこんなところに? |
ジュード | あ、うん。実は僕達、レイザベールに向かってて── |
ルドガー | ──ジュード。この人達は…咎人、なんだろう?簡単に目的地を話しては… |
ジュード | …ルドガーが不審に思うのも警戒するのもわかる |
ジュード | けど大丈夫だよ、僕が保証する。だからもう少し…せめてエルに会うまでは、僕を信じてほしい |
ルドガー | ジュード… |
ルドガー | …わかった、今はジュードを信じるよ |
ティア | エルって確か、ルドガーの…? |
ジュード | うん、レイザベールにいるんだ。彼女と会えば、ルドガーの記憶も取り戻せるんじゃないかと思ってね |
ティア | … |
ティア | …ねえ、ベルベット。私達もジュード達に同行してはどうかしら? |
ベルベット | …何のために?そんな事に時間を割いている余裕はないはずよ |
ベルベット | ついて行きたいなら、あんた一人で勝手に行けばいいわ |
ティア | 二人は以前、元世界の晶化を止めようと一緒に戦った仲間なの |
ベルベット | … |
ティア | ルドガーの記憶が戻れば、ラザリスと戦う時にきっと力になってくれるわ |
ティア | あなただって、今のままじゃ戦力不足だってわかっているでしょう? |
ベルベット | …わかったわ |
ベルベット | レイザベールまでは同行してあげる。でも、その男の記憶が戻らなかったらそれまでよ |
ティア | それで構わないわ |
ジュード | …話はまとまった、かな? |
ティア | ええ、ごめんなさい、ジュード。待たせてしまって |
ティア | 聞いての通り、私と彼女もレイザベールまで同行しようと思うのだけど… |
ジュード | 勿論だよ。心強い仲間が増えるという意味では大歓迎だけど… |
ジュード | ルドガーもそれで構わないかな? |
ルドガー | …ああ、構わない |
ティア | …そう言ってもらえてよかったわ |
ジュード | それじゃあ、レイザベールに向かおうか |
ティア | ええ、行きましょう |
scene1 | いつかの団欒 |
ヴァン | …そうか、わかった。もう下がっていい |
神兵 | はっ! |
ヴァン | …… |
ラザリス | …何の報告? |
ヴァン | 珍しいな。お前が私の動きに興味を持つとは |
ラザリス | また囮にでも使われちゃたまらないからね |
ヴァン | …なるほど。では、また咎人を逃がされてはたまらないので、答えるとしよう |
ラザリス | …… |
ヴァン | 新たな咎人が出たようだ |
ラザリス | …何だ、またその話?いい加減飽き飽きしたよ |
ヴァン | それがお前の目覚めを邪魔した相手だとしても、か? |
ラザリス | …へぇ、あの時の |
ラザリス | …けど、どうだっていい |
ラザリス | どうせ咎人達は全て消えるんだ。それまで無様に足掻けばいい |
ヴァン | …… |
ラザリス | 本当に、ヒトって愚かな生き物だね |
ヴァン | …果たして、本当に愚かなのは誰なのか… |
ヴァン | こちらはこちらで、策を考えておいた方がよさそうだ |
| |
ジュード | ふぅ、着いたね。ここがレイザベールか |
ジュード | さて、どこから捜そうか── |
ティア | ところでジュード。エルの方は記憶を取り戻しているの? |
ジュード | いや…多分あの様子だと、まだ… |
ティア | …そう。ルドガーと会う事で互いに記憶を取り戻せたらいいけど… |
ジュード | …うん、そうだね。あんなに互いを大切に想い合ってた二人だし…僕もそう願うよ |
ベルベット | … |
ベルベット | それで、そのエルっていう子はどこにいるのよ |
ジュード | え、えーっと…それはまだこれから… |
ジュード | ──って、ああっ!? |
ルドガー | …!?ど、どうしたんだ、ジュード |
??? | エルさん、よーく聞いてくださいね。一人で街の外に出ちゃ、絶対に駄目です! |
エル | わかってるよ!チェルシーはちょっとカホゴすぎ! |
チェルシー | 何が過保護なものですか!街の外には魔物がたくさんいて、危険なんです! |
チェルシー | 覚悟もなく飛び出してはいけません!これは遠慮近憂ですよ! |
エル | もー。チェルシーの言う事、時々よくわかんないよー |
ジュード | おーい、エル! |
エル | あれ、ジュード!? |
チェルシー | …?エルさんのお知り合いですか? |
エル | うん。カルミナ街で会ったんだ。ジュードだよ! |
チェルシー | そうだったんですか。はじめまして、ジュードさん。チェルシーと申します |
ジュード | はじめまして、よろしくね |
エル | どうしてジュードがレイザベールに?もしかして、ルドガーの事連れてきてくれたとか!? |
ルドガー | ジュード、その子が… |
エル | あなたがルドガー!?カルミナ街の食堂の! |
ルドガー | あ、ああ。君がエル、だな。わざわざ俺に会いに来てくれたとか |
エル | うん!エル、ルドガーの料理、すっごく食べてみたかったんだ! |
エル | 今日はエルのために来てくれたって事だよね?エル、ちょうどお腹空いてるよ! |
ルドガー | あ、いや、まだ作るとは── |
エル | ほらほら早く!エルのお家はこっちだよ! |
ルドガー | わ、わかった。だから、そんなに引っ張らないでくれ |
チェルシー | もーっ、初対面の人を無理やり連れて行っちゃ駄目ですってば~! |
ティア | …元気な子ね |
ジュード | あはは…本当にそうだね |
ティア | だけど…エルを見てもルドガーの様子に変化はなかったわ |
ティア | …記憶、戻るといいのだけれど… |
ジュード | きっと大丈夫だよ |
ジュード | ルドガーにとって、エルが大切な子だっていうのは間違いないと思うんだ |
ジュード | 記憶が改変されていたとしても、自分の中に残っているものは確かに存在しているから… |
ジュード | ルドガーの中にも、誰かに料理をふるまう約束だけはずっと残ってた |
ジュード | だから僕は、ルドガーとエルの絆を信じるよ |
ティア | …そうね |
ティア | 弱気な事を言ってごめんなさい。私達もルドガー達を追いましょう |
ジュード | うん、行こう |
ベルベット | …… |
ベルベット | 誰かのために料理をする、か… |
scene2 | いつかの団欒 |
エル | むぐ、むぐ、あむ… |
チェルシー | エルさん!淑女として、もっと落ち着いてマナーをしっかりと… |
エル | え~?チェルシーは細かすぎ!美味しく食べるのがイチバンだよ |
エル | ルドガー!この料理、どれもすっごく美味しいよ! |
ルドガー | それはよかった |
ティア | …本当に美味しいわね |
ジュード | まさか僕達の分まで作ってくれるなんて… |
ルドガー | せっかくだったし、みんなで食べた方が美味しいかと思ってね |
ベルベット | …みんなで食事、ね…。そんなの、いつ以来かしら… |
ルドガー | …?ベルベット、どうかしたのか? |
ベルベット | 別に。何でもないわ |
ジュード | ところで、ルドガー。その…何か思い出したりは…? |
ルドガー | …いや。特には何も… |
ジュード | 駄目かぁ… |
ルドガー | …… |
エル | んぐっ……ぷはー!何これ、すごく美味しい! |
エル | こんな美味しいスープ、エル、初めて飲んだかも! |
エル | それに…初めてなのに何だか懐かしいかんじ |
エル | ルドガー!今日は来てくれてありがとう! |
ルドガー | …っ!? |
| |
エル | エル、ルドガーのスープが一番好き! |
| |
ルドガー | …今のは一体…? |
ルドガー | 俺は、前にもエルにスープを…?いや、そんな覚えは… |
ルドガー | まさか… |
ベルベット | …どうやら駄目だったみたいね |
ジュード | うん…。でも、諦めるつもりはないよ |
ジュード | 他にも何か記憶を刺激する事があるかもしれないし…いろいろ試してみるつもり |
ベルベット | そう…好きにすればいいわ |
エル | はむ、むしゃ…んぐ。ふぅ、ごちそうさま!お腹いっぱい~ |
ルドガー | …ああ、お粗末様。口にあったなら幸いだ |
ベルベット | …ちょっと待ちなさい、エル |
エル | うん? |
ベルベット | トマト、残してるわよ |
エル | うぐっ…! |
ルドガー | あ、本当だ。綺麗に残ってる… |
ベルベット | 好き嫌いせず、全部食べなさい |
エル | …エルのは好き嫌いじゃなくてシュチョーのケンリだもん |
ベルベット | 大きくなれないわよ? |
エル | むー…わかった |
ジュード | …… |
ベルベット | …何?言いたい事があるなら言ったら? |
ジュード | あ、いや…。ベルベットって、子どもの扱い上手だなって思って |
ベルベット | …。別に、ただの慣れよ |
ジュード | へぇ…もしかして、弟とか妹とかがいるのかな? |
ベルベット | …… |
ジュード | ベルベット? |
ベルベット | あたしの事は今は関係ないでしょ。それより、ルドガーの記憶を戻す事を考えなさいよ |
ベルベット | あたしは、悠長に記憶が戻るのを待つつもりはないから |
ベルベット | 情報収集が終わり次第、明日には街を発つわ |
ティア | … |
ジュード | とりあえず他にも試してみよう。ルドガー、もう少しだけ付き合ってくれないかな? |
ルドガー | …あ、ああ、わかった。俺としてもこのままで終わりってのはすっきりしない |
ベルベット | …勝手にしなさい。あたしは、先に宿を探してるわ |
scene3 | いつかの団欒 |
ジュード | おはよう、ルドガー。よく眠れた? |
ルドガー | おはよう。ああ、よく眠れたよ |
ジュード | …昨日あの後も、エルと一緒に遊んでたんだよね?やっぱり何も思い出さない? |
ルドガー | …ああ |
ジュード | そっか…。なかなか難しいね |
ルドガー | … |
ティア | おはよう、二人共。…その様子だと、いい結果は得られなかったみたいね |
ジュード | うん、まあ… |
ジュード | そっちはどう?昨日、街で聞き込みしたらしいけど… |
ベルベット | ラザリスが視察の終了を宣言したそうよ |
ジュード | え、どうしてまた… |
ベルベット | さあ。理由なんてどうでもいいわ |
ベルベット | ルドガーの記憶が戻る気配もないし、あたしはこのまま帝都へ向かう |
ジュード | ちょ、ちょっと待って── |
| |
??? | み、みなさんっ! |
| |
チェルシー | はぁ、はぁ…! |
ジュード | えっ?チェルシー?どうしたの? |
チェルシー | あ、あの!エルさんを見ませんでしたか!? |
ルドガー | エル?いや、見てないけど… |
チェルシー | そう、ですか…。実は今朝から姿が見えなくて… |
ルドガー | 何だって…?心当たりはないのか? |
チェルシー | わかりません…。けど、今日は二人でカルミナ街へ買い出しに行く約束をしてたんです |
チェルシー | 子どもじゃないから一人で行けると自信満々だったからもしかしたら一人で街の外に… |
ティア | …!もしそうだとしたらエルが危ないわ |
ジュード | …万が一があったらいけないし、手分けして捜した方がいいと思う |
ルドガー | 万が一… |
ルドガー | …急いで捜そう!チェルシーはもう一度街の中を頼む! |
ルドガー | 俺達は街の外へ── |
ベルベット | …あたしには関係ない事ね |
ティア | ベルベット…! |
ジュード | …わかった。じゃあ、ティアとルドガーと僕で、街の外を捜そう |
ティア | …わかったわ、急ぎましょう |
ルドガー | 無事でいてくれよ…エル! |
チェルシー | みなさん…よろしくお願いします! |
ベルベット | …… |
scene1 | 覚悟を纏いて |
ルドガー | エル…どこにいったんだ? |
ティア | この辺りにはいないわね。遠くまで行ってないといいんだけど… |
ジュード | カルミナ街の方へ行ってみよう。もし向かっているなら、途中で追いつけるかもしれない |
ティア | そうね、急ぎましょう |
ルドガー | … |
ルドガー | あの時浮かんだエルの言葉…もしかしたら、俺は本当に──いや、けどジュード達は咎人だし… |
ルドガー | …それより今は、エルを捜さないと |
| |
ルドガー | はぁ…。こっちにも、いない… |
ジュード | …エル!いたら返事をしてくれ! |
ティア | …ねえ、みんな。一度レイザベールへ戻ってみてはどうかしら |
ティア | これだけ捜しても見つからないのよ。もしかしたら、彼女は街から出ていなかったのかもしれない… |
ジュード | …そうだね。エルの足で、これ以上遠くまで行っているとも思えないし… |
ジュード | ルドガーもそれでいいかな? |
ルドガー | …ああ、そうだな。一度街に戻って… |
| |
??? | キャー! |
| |
ルドガー | …! |
ルドガー | …今のは、エルの声だ…! |
ジュード | あっちからだ…行こう! |
| |
エル | こ、来ないで… |
| グルルル |
エル | あっち行ってよ! |
| ガアアアアッ! |
エル | いやーーっ!! |
| バシュッ |
エル | えっ…? |
| |
ルドガー | よし、当たった!エルー!大丈夫かー!? |
エル | あれって…ルドガー!?た、助けてーっ!! |
ティア | 早く助けないと、囲まれているわ! |
ルドガー | 待ってろ!すぐにそっちに行くから! |
ジュード | くっ…!魔物の数が多すぎるよ…! |
ルドガー | そこを、どけ──! |
scene2 | 覚悟を纏いて |
ルドガー | エル!よかった、無事だな |
エル | ル、ルドガー… |
| グルルル |
エル | やっ…!まだ魔物が…! |
ルドガー | エル、俺から離れるな |
エル | う、うん… |
| |
ジュード | 何とかルドガーはエルのところまで辿りつけたみたいだけど… |
ジュード | くっ…魔物の数がさらに増えてる…! |
ティア | これじゃ、彼らのところへ行けないわ |
| |
ルドガー | ジュード達も手一杯だ…。俺だけで何とか…! |
エル | … |
ルドガー | …大丈夫、俺に任せて |
ルドガー | 必ず一緒に帰ろう。そしたら今度は、昨日のスープの特別バージョンを作ってやる |
エル | ルドガー… |
エル | …うん。約束だからね? |
ルドガー | ああ、約束──… |
ルドガー | ……! |
| |
ルドガー | ──俺が帰って来たら、エルの大好きなスープをたっぷり作ってやる |
エル | ホント!? |
ルドガー | ああ、腕によりをかけた大好きなスープの特別バージョン、作るって約束するよ |
エル | …うん。約束だからね? |
ルドガー | ああ、約束だ |
| |
ルドガー | ま、また、俺の知らない記憶…?…ぐっ! |
エル | ルドガー!?頭、痛いの!? |
ルドガー | だ、大丈夫だ…。これくらい、何て事── |
ルドガー | うっ…!また… |
| |
エル | 気をつけて行って来てね、ルドガー |
エル | メガネのおじさんとルルの事も、エルがちゃんと守るから |
| |
ルドガー | エル…それに、兄さん…?そうだ、あの時俺は二人に見送られて…… |
| |
ルドガー | くっ… |
ルドガー | エル!兄さん!ここにいるのか!?いるなら返事をしてくれ! |
| |
ルドガー | 俺は……二人を守る事が… |
エル | ルドガー…! |
| グルルル… |
エル | っ!こ、このー!あっちいけー! |
ルドガー | え、エル…? |
エル | ルドガー!街の外では、カクゴが必要なんだよ! |
エル | ルドガーは今、苦しそうだから!エルがカクゴして、ルドガーを守るから! |
ルドガー | 覚悟……! |
| |
ユリウス | 『その覚悟…身をもって示せ』 |
| |
ルドガー | そうだ…俺は… |
エル | きゃああ! |
| |
ジュード | …!ルドガー!危ない、魔物が…! |
ティア | エル──! |
| |
| ズバッ!! |
エル | …… |
ルドガー | エル、怪我はないか!? |
| |
エル | うん、大丈夫── |
エル | …!ルドガー、そのカッコウ… |
ルドガー | さっきは守ってくれてありがとう。でも、もう大丈夫…お蔭で「覚悟」を思い出したよ |
ルドガー | エル…今度こそお前を守る、絶対に |
ルドガー | はあああああああっ! |
| ザシュッ、ザシュッ |
エル | ル、ドガー? |
エル | …! |
| |
ティア | ルドガー、もしかして── |
ジュード | どうやら思い出したみたいだね。ティア、こっちも負けてられないよ、一気に片を付けよう! |
ティア | ええ、そうね |
scene3 | 覚悟を纏いて |
ジュード | はぁ、はぁ…何とか、倒せたみたいだね |
ティア | ええ… |
ルドガー | エル、どこも怪我はないか? |
エル | …う、うん |
ルドガー | そっか…、よかった |
エル | … |
エル | あのね、ルドガー…エルさっき── |
| |
| グ、グルルル |
ジュード | 待って!その魔物、まだ息が── |
| |
| ガアアアアッ! |
エル | きゃっ… |
ルドガー | くっ…!エル!俺の後ろに── |
| ザシュッ |
| |
ルドガー | …? |
| |
ベルベット | … |
ルドガー | …ベルベット!?どうして… |
ベルベット | …さっさと、その子を連れて、街に戻るわよ |
ルドガー | …あ、ああ |
ティア | …ベルベット |
| |
ルドガー | ベルベット、さっきはありがとう |
ベルベット | …別に。あたしは、あたしの目的のために動いただけよ |
ベルベット | それに… |
エル | …… |
ルドガー | ベルベット? |
ベルベット | …何でもないわ。もうこの話はいいでしょ |
ティア | …。もしかして、彼女なりにエルを心配していたのかしら… |
ルドガー | ああ…そうかもしれない |
ベルベット | …何か言ったかしら? |
ティア | …いえ、何も |
エル | …ねえ、ルドガー |
ルドガー | ん? |
エル | あのね、さっきのルドガーの黒いカッコウどこかで見た時ある… |
エル | それにルドガーを見てると、胸がもやもやする…何でかな? |
ルドガー | …!もしかして記憶が… |
ルドガー | …… |
ルドガー | …エル、怖い思いをして疲れただろ?そんな事、気にしなくていいんだ |
エル | ルドガー… |
ルドガー | ほら、チェルシーに顔を見せて安心させてやろう |
エル | …うん |
ジュード | …いいの?確かに、記憶を取り戻さない方が安全ではあるけど… |
ルドガー | …もうエルを恐ろしい目にはあわせたくないんだ |
ティア | ルドガー… |
| ドンッ |
ジュード | !?す、すみません、ぶつかってしまって… |
??? | いえ…こちらこそ前方不注意でした |
??? | …!あなたは… |
ベルベット | …何? |
??? | …いえ、失礼いたしました。私の思い違いのようです |
??? | 噂の人物は単独犯という話ですし、軽率に騒ぐべきではありませんね… |
ジュード | 何だったんだろう…? |
ルドガー | よくはわからないが…どことなく、街の様子がおかしいような…? |
ルドガー | 何だか、さっきから視線を感じるような気がして… |
ジュード | 僕もだよ。…気のせいかとも思ったんだけど |
ティア | …嫌な予感がするわね… |
チェルシー | エルさーん! |
エル | チェルシー! |
チェルシー | エルさん、よかったぁ。心配してたんですよ |
エル | …ごめんなさい |
チェルシー | とりあえず、家に帰りましょう。みなさんも、その…早くこの街を出た方がいいかもしれません |
ジュード | …?それってどういう… |
チェルシー | …実は、街で噂になってるんです。ベルベットさんが、例の脱獄した咎人なんじゃないかって… |
チェルシー | 私、誤解を解こうとしたんですけど誰も信じてくれなくて… |
ベルベット | … |
エル | …ベルベット |
ベルベット | …時間が惜しいわ。帝都シャングレイスへ向かうわよ |
ジュード | 僕達も行こう。エル、チェルシー短い期間だったけど、楽しかったよ |
ティア | …さようなら |
エル | えっ!?みんな、行っちゃうの…? |
ルドガー | エル、俺は… |
エル | ルドガー、行っちゃやだ! |
ルドガー | ごめん、エル |
ルドガー | 俺には、どうしてもやらなきゃいけない事があるんだ |
エル | やだ!せっかく仲良くなれたのに… |
チェルシー | …エルさん、わがままを言ってはいけませんよ |
エル | …でも |
ルドガー | エル、必ずまた会えるよ |
エル | …うん、わかったその代わり、指切り! |
ルドガー | 指切り…ああ |
ルドガー | 次こそ絶対…エルのために特製スープを作るって約束するから |
エル | …絶対? |
ルドガー | ああ。絶対に、だ |
ティア | ルドガー… |
ベルベット | … |
ルドガー | ──さて、それじゃ行こうか。天帝の元に |
ジュード | …うん、そうだね |
ジュード | 早くこの世界を何とかしないと…。エルのためにも… |
scene1 | 犬も歩けば… |
レイヴン | …もう行ったみたいね。出てきても大丈夫よ、ヴェイグ |
ヴェイグ | ああ。…わかっていたとはいえ、やはり厄介だな |
レイヴン | 白き獅子達もしつこいね~。この街に戻ってきてから数日たってもまだ警戒が緩まないなんて |
ヴェイグ | …それも、お前の作戦の内だろう? |
レイヴン | ま、そうなんだけどねぇ |
レイヴン | これだけ白き獅子がいれば、ベルベットちゃんの情報も得られるだろうし、それに── |
ヴェイグ | 咎人の噂があるこの街にいれば、噂を聞きつけた仲間がやってくるかもしれない… |
ヴェイグ | お前のその意見に納得したから、オレもエリーゼも行動を共にしているんだ |
レイヴン | うんうん。若者は物わかりがよくて助かるねぇ |
レイヴン | で、どうよ。何かいい情報は手に入った? |
ヴェイグ | …いや。少女の咎人…エリーゼの噂が前よりも広まっているのを確認しただけだった |
レイヴン | 帝都から逃げてきた、奇妙な人形を持った咎人の女の子ってヤツ? |
ヴェイグ | そうだ。お前も聞いていたか…。他はどうだった? |
レイヴン | 残念ながらおっさんも収穫なし。今のところ、広がってるのはエリーゼちゃんの噂だけみたいね |
レイヴン | ま、そのお蔭で俺達二人はこうして情報収集出来てるんだけど |
ヴェイグ | …だが、今日も大した情報は得られなかった |
レイヴン | 仲間がこの街にいるとしても、俺達みたいに隠れてるだろうからね。焦らず情報収集といきましょ |
レイヴン | それよりほら、また巡回が来る前にさっさと隠れ家に戻りますよーっと |
ヴェイグ | …そうだな。急ごう、エリーゼが待っている |
レイヴン | はいよ |
| |
エリーゼ | はあ…ヴェイグもレイヴンも、まだ帰って来ないんでしょうか… |
ティポ | 待ってるだけなんて退屈だよねー |
エリーゼ | …でも、仕方ありません。咎人であるわたしの噂は、街いっぱいに広まっちゃってますし… |
エリーゼ | わたしが見つかるわけにはいかないですから |
ティポ | エリー… |
| |
| ギィィ… |
| |
ティポ | 今の何の音ー? |
エリーゼ | …!窓のところに何かいます! |
ティポ | エリー!あれってもしかして… |
??? | …… |
エリーゼ | こ…来ないでください…! |
ティポ | ち、近付くなー! |
| |
ヴェイグ | それにしても、いつの間にあんな隠れ家を用意していたんだ? |
レイヴン | おっさん、裏で世界を飛び回るようなお仕事をしてたからね。隠れ家は多いのよ |
レイヴン | あそこもその中の一つってだけ |
レイヴン | 記憶が戻る前とはいえ、徹底的に身分を隠して手配したから、突き止められる事はまずないわ |
レイヴン | それこそ、ラザリスをはじめ、ヴァンや白き獅子にだってバレる事はないわよ |
ヴェイグ | そうか…それなら安全だな |
レイヴン | さ、もうすぐ隠れ家に到着──……あら?窓が開いてる? |
ヴェイグ | 確か出る時は締まっていたな。エリーゼが開けたのか |
レイヴン | …危ないから絶対に外に出るな、人がいる事も気取られるなって何度も言ったのに…? |
ヴェイグ | …!まさか…エリーゼ! |
レイヴン | あ、ちょっと青年!一人で行っちゃ危ないっての! |
| |
ヴェイグ | エリーゼ!無事か! |
エリーゼ | ヴェ、ヴェイグ…! |
ティポ | わーん!ヴェイグくーん!こわかったよー! |
ヴェイグ | よかった、無事だったんだな…。怪我はないか? |
エリーゼ | は、はい。わたしもティポも無傷です… |
レイヴン | 何があったのか、説明出来る? |
エリーゼ | それが… |
??? | ワフッ! |
レイヴン | へっ!?犬の声…!? |
レイヴン | 捕獲しなきゃ!…って、ん?この手触りは… |
??? | ワウン! |
レイヴン | んんん?この鳴き声ともふもふ感、もしかして…? |
レイヴン | …おたく、ラピードよね? |
ラピード | ワフン! |
| |
レイヴン | はー…まさかワンコにこんな形で再会するとはねぇ |
エリーゼ | あの…レイヴン。知っている犬なんですか? |
レイヴン | 知ってるも何も、このワンコは… |
ヴェイグ | ユーリの相棒だ |
レイヴン | ありゃ、ご存知だったようで |
ヴェイグ | ユーリとラピードには随分と世話になった |
ティポ | ペットじゃなくて相棒なんだねー |
レイヴン | ペットとか言うと噛まれるかもよ?このワンコ、おたくらが思ってるよりずっと賢いんだから |
レイヴン | たまーにこっちの言う事全部理解してるんじゃないかって思うくらいにはね |
エリーゼ | でも、大丈夫なんでしょうか…。ラピードは、その… |
レイヴン | 記憶の事?問題ないでしょ。思い出してなきゃ、わざわざ会いに来たりしないって |
ラピード | ワン! |
ヴェイグ | 無事で何よりだ |
レイヴン | ま、相手が人間じゃないんじゃ、あちらさんも咎人かどうかなんてわかるわけないわな |
ラピード | ワウン!ワウン、ワウン、ワウン!! |
レイヴン | へっ?急にどうしたのよ? |
ラピード | ワンワン! |
エリーゼ | …何だか、ついてこいって言ってるみたいですよ? |
レイヴン | …そうなの? |
ラピード | ワウン! |
レイヴン | …ちょっとおっさん行ってくるわ。二人はここで留守番しててちょうだい |
エリーゼ | えっ、レイヴン一人で行くんですか? |
レイヴン | 街をうろつくのよ?何があるかわからないでしょ |
ヴェイグ | …注意を怠るなよ |
レイヴン | わーかってるって。じゃ、案内よろしくね、ワンコ |
ラピード | ワォン! |
scene2 | 犬も歩けば… |
レイヴン | ちょっとワンコ、あんまり強く押されたらおっさんこけちゃ… |
騎士団員1 | ん?その犬…またお前か… |
レイヴン | …! |
ラピード | ワンワン!ワォン! |
騎士団員1 | …そいつはあんたの犬なのか? |
レイヴン | いや、まあ、知り合いというか、何というか… |
騎士団員1 | 飼い主ならちゃんと躾けといてくれ。数日前から、ずっとついてきては吠えられて、困ってるんだ |
レイヴン | あー、それはそれは、どうもすみません… |
レイヴン | …ちょっとワンコ、おたくが連れて来たかったのって本当にここなの? |
ラピード | ワフン |
騎士団員1 | ったく、この犬のせいで子どもまで後をついてきて巡回が変な行列になっちまうし |
騎士団員1 | そのせいで「ワンコ隊長」なんて変なあだ名つけられたりして…はあ |
レイヴン | そ、それは…迷惑かけちゃったみたいで… |
騎士団員1 | 仮にもクロー隊長の精鋭部隊の一員である俺が、ワンコ隊長って… |
レイヴン | …!な、なるほど…ワンコはユーリの匂いを知らせようとしてたってわけ… |
レイヴン | ただ…非常にまずい展開じゃね?コレクローには顔が割れてるし、もし鉢合わせなんて事になったら… |
レイヴン | えーっと、ワンコにはしっかり言い聞かせておきますんで!それじゃあ、おっさん達はこれで… |
騎士団員2 | ──おい、伝令だ!クロー隊長から、新しい咎人の情報の伝達だ! |
レイヴン | げっ! |
騎士団員2 | 少女の咎人と行動を共にしている、ぼさぼさ頭の、うさんくさい中年男らしい |
騎士団員1 | ぼさぼさ頭の、うさんくさい、中年男… |
レイヴン | …そんじゃ、さいならーっと… |
騎士団員1 | おい、待てそこの男!伝令の特徴と一致しているようだが、事情聴取の協力をお願いしたい |
レイヴン | や、やだなー!確かにおっさんはぼさぼさ頭の中年だけども… |
レイヴン | 咎人がこんな風に、堂々と街中を歩いてるわけないじゃなーい! |
騎士団員1 | ふむ…確かにそうなんだが…人相書きとも実によく似ている。偶然の一致にしては出来過ぎている |
騎士団員1 | 咎人が増えているこのご時世、不安の芽は摘まねばならぬのだ。御同行願おう |
レイヴン | い、いやいや!真面目なのは結構だけど、時間の無駄だと思うわよ? |
レイヴン | ほら、犬を連れ歩くとか悪目立ちするような事をするほど、咎人も馬鹿じゃないでしょ? |
騎士団員2 | 心苦しいのだが、これも決まりでな。クロ―隊長にちょっと顔を見せてくれるだけでいいんだが… |
レイヴン | だけ、って…それが一番困るのよ… |
騎士団員2 | すまないな。それでは、駐屯所へ── |
??? | ──待ってください! |
| |
スタン | この人は俺の知り合いだ!と、咎人なんかじゃない! |
カイル | そうです!この人は、えーと…す、すごくいい人です! |
レイヴン | スタン!?それに…あー、君は… |
カイル | あっ、えっとオレはカイルです! |
カイル | レイヴンさんの事は、父さ…スタンさんから聞いてて… |
レイヴン | あー、そうだった、カイル君だったねぇ!おっさんど忘れしちゃってたわ! |
騎士団員1 | …いきなり何だ、お前達は |
スタン | この人の知り合いで、仲間です! |
スタン | 何度も言うけど、この人はその、咎人なんかじゃないです!だから連れて行かないでくれ! |
レイヴン | スタン… |
騎士団員2 | だがなあ…咎人の人相書きともここまで一致している男を、放っておくわけには… |
カイル | ち、違うんです!この人は、その…本当は見た目よりも真面目な人なんです! |
レイヴン | んん!?ちょ、少年!? |
スタン | そ、そうなんだ!こう、今までの自分を変えたくなって無理をしちゃったというか…! |
カイル | 髪型も普段はちゃんとしてるし、すっごく誠実な…中年男なんです! |
レイヴン | …そ、そーなのよ!たまには雰囲気変えようかなーなんて思っちゃったりして? |
騎士団員1 | …何だか三文芝居みたいだが、お前達の言ってる事は本当なのか? |
騎士団員2 | まさかお前達も、咎人の仲間じゃ… |
レイヴン | あー…いやいや、よく考えてみてよ |
レイヴン | 言ってる事はボロクソだけど、必死におっさんを助けようとしてる善人の鑑みたいな青年と少年よ? |
レイヴン | こんないい子達が、人心を惑わす咎人なんかだと思う? |
騎士団員1 | …それは… |
レイヴン | それにほら、さっきの報告で、女の子の咎人と一緒だって言ってたじゃない |
レイヴン | その女の子は、一体どこにいるのよ |
騎士団員2 | まあ、確かに…。ここにいるのは、犬と男だけだな |
レイヴン | ね?全然違うでしょ?だからさっきも言ったように、人違いだって |
騎士団員1 | …そうか。そう、だな。外見が一致しているだけで疑ってすまなかった |
騎士団員2 | まあ、うさんくさい中年男なんて、捜せばいくらでもいるだろうしな… |
レイヴン | わかってくれて何より!それじゃあおっさん達は、これでおいとまさせてもらうわね! |
レイヴン | 青年と少年、それからワンコ!お仕事の邪魔しちゃ悪いから、さっさと帰りましょ! |
スタン | あ、う、うん! |
カイル | す、すみませんでした! |
ラピード | ワウン! |
レイヴン | それじゃ、失礼しました~ |
| |
レイヴン | いやー、ありがとね、お二人さん。演技はダイコンだったけど、助かったよ |
スタン | ア、アハハ… |
レイヴン | …で、念のため確認なんだけど、おたくらは二人共、記憶が戻ってるって認識でいいのね? |
スタン | ああ!やっぱりレイヴンも思い出してたんだな! |
カイル | オレはちょっと違うんですけど…元の世界を知ってるっていう意味なら合ってます! |
レイヴン | そう、そりゃよかった。情報交換もしたいし、まずはおっさん達の隠れ家に行こうか |
レイヴン | 待ってる子達もいる事だし、ね |
scene3 | 犬も歩けば… |
レイヴン | ただいま~ |
エリーゼ | レイヴン、ラピード、おかえりなさ──……! |
スタン | エリーゼ!それにヴェイグも!二人もここにいたんだな! |
エリーゼ | スタン…!どうしてここに…? |
ヴェイグ | 無事だったのか…! |
ティポ | スタン君、久しぶりー! |
スタン | はは、ティポも元気そうでよかった! |
カイル | この人達が、スタンさんと一緒に世界を救うために戦った仲間… |
エリーゼ | …あの、えっと… |
カイル | あ、ごめん。挨拶もしないで…!オレ、カイルです!よろしく! |
ティポ | カイル君ねー。よろしくー |
レイヴン | んじゃ、挨拶も済んだ事だし、話の続きと行きましょっか。おたくら咎人を捜してるんだっけ? |
カイル | あ、はい── |
| |
カイル | …というわけで、オレ達はリアラとソフィを捜すために「咎人の少女」の噂を追って来たんだ |
カイル | …けどまさか、咎人の少女がエリーゼの事だったなんて… |
レイヴン | 落ち込まなくてもいーんじゃない?情報がないって事は、まだ捕まってないからかもしれないしねぇ |
スタン | そうだよ!それにほら、こうして新しい仲間とも会えたじゃないか! |
カイル | …そうですね。オレも、もっと前向きに考えなきゃ |
カイル | 二人はきっと無事だ。仲間も増えて来てるし、すぐに二人とも再会出来るって… |
スタン | うんうん、その調子だ!この街に二人がいないってわかっただけでも大収穫だよ |
スタン | レイヴンさん達が先に調べておいてくれたお蔭だな |
レイヴン | そんなに褒めても、これ以上は何も出ないわよ~ |
エリーゼ | レイヴンの作戦通りですね!ここで待っていたら、本当に仲間と会えました! |
ティポ | この調子なら、どんどん仲間が増えていくかもしれないねー! |
カイル | えっ、でも、これ以上この街にいるのは危険なんじゃ… |
レイヴン | そうなのよね~。多分おっさん、白き獅子に目をつけられちゃったし |
エリーゼ | え!? |
ヴェイグ | どういう事だ? |
カイル | レイヴンさんの捕縛命令も白き獅子に広まってるみたいなんだ |
ヴェイグ | なるほど…。確かに、これ以上は危険だな |
レイヴン | そうね~。出来れば、夜の間にカルミナ街まで移動しちゃいたいところだけど |
ヴェイグ | これ以上粘る必要もないだろう。二人でも仲間が増えただけ、幸運だ |
レイヴン | 着いて早々で悪いんだけど、二人もそれでいい? |
スタン | ああ、俺は大丈夫!体力なら有り余ってるからさ |
カイル | オレも平気です!みんなの安全の方が大事ですから |
レイヴン | 話が早くて助かるわ~。…ワンコも一緒に来る? |
ラピード | ワゥン! |
レイヴン | うーん…さっぱりわかんないけど、まあ了承してるって事でいいのよね |
レイヴン | それじゃあ今夜、闇に紛れて街を出るって事で! |
カイル | はい!わかりました! |
scene1 | 囚われた少女達 |
カイル | ふわぁ… |
スタン | 大丈夫か、カイル。徹夜で移動じゃ、さすがに眠いよな…早く宿をとって仮眠を── |
ヴェイグ | ──待て |
カイル | えっ? |
レイヴン | あちゃー…まさかこっちに来てるとはねぇ |
| |
クロー | 例の咎人連中はどこだ? |
騎士団員1 | はい、現在連行しています。すぐこちらにお連れ出来ると思いますが… |
クロー | ああ、頼む |
| |
カイル | 白き獅子…!まさか、待ち伏せ!? |
レイヴン | …いや、どうやらそんな雰囲気じゃなさそうね |
エリーゼ | 誰か、捕まっちゃったんでしょうか… |
ラピード | クゥン… |
| |
クロー | しかし、どこもかしこも咎人だな |
騎士団員1 | 最近、咎人が増えているようです。このままでは人々の不安も… |
クロー | ま、心配ねぇよ。その心配も近い内になくなる |
騎士団員1 | …?隊長、それは一体どういう… |
クロー | 近々帝都で行うラザリス様の演説…詳しい事はそこでわかるさ |
| |
レイヴン | 帝都で演説… |
ヴェイグ | …生誕祭以外にラザリスが演説をするなんて異例中の異例だ |
レイヴン | ああ。なーんか、こいつは匂うねぇ |
| |
騎士団員2 | 隊長!捕縛した咎人を連行しました! |
クロー | っと、ようやくか |
| |
カイル | えっ…!?あれって… |
| |
??? | … |
??? | … |
| |
カイル | リアラ!ソフィ! |
スタン | あっ!おい、カイル! |
scene2 | 囚われた少女達 |
カイル | リアラ…!やっと見つけたよ! |
リアラ | …! |
カイル | ソフィも見つかってよかった!二人共、オレと一緒に── |
騎士団員2 | おい、何だお前は! |
カイル | …あ、オレは、その… |
リアラ | … |
リアラ | あなた、誰? |
カイル | …えっ? |
リアラ | あなたなんか知らない |
カイル | …リアラ…? |
ソフィ | …わたしも、あなたの事は知らない |
カイル | ソフィまで…!?一体、どうして── |
クロー | 知り合いかどうかは知らないが…見ての通り、今咎人のそいつらを移送してるところだ |
クロー | 咎人と話すのはご法度。そんな事も知らないってわけはねえよな? |
クロー | 帝都まで行かなきゃならないんだ。こんなところで面倒事はごめんだぜ |
カイル | そんな事させない…!どうしても二人を連れて行くって言うなら── |
スタン | わーっ!ま、待ってください! |
スタン | こいつ、誰かと間違えてつい飛び出しちゃったみたいで… |
カイル | えっ?スタンさん、オレは…もがっ! |
スタン | お邪魔してすみませんでした! |
クロー | … |
騎士団員1 | 隊長、いかがされますか? |
クロー | 知り合いだって言ってんのはあいつだけだし、勘違いなんだろ。それより、咎人の移送を再開しろ |
騎士団員2 | はっ! |
クロー | …にしても、結局見つからず、とはな |
クロー | てっきりあいつを捕まえたと思ってたのによ |
クロー | レイヴン…あいつだけはオレが…! |
カイル | …レイヴン…? |
scene3 | 囚われた少女達 |
スタン | ふー、危なかったな |
カイル | くっ…早くあいつらを追わないと! |
スタン | あっ、ちょっと待てって、カイル! |
カイル | どうして!?早く、リアラ達を助けに… |
レイヴン | 行ってどうするのよ |
カイル | どうって… |
スタン | カイル、少し落ち着け。二人が庇ってくれたのを無駄にするなよ |
カイル | えっ…? |
スタン | あの子達が、返事をしていたら、カイルも咎人だと疑われたかもしれないだろ? |
スタン | あの子達は、その事に気付いてお前を庇ってくれたんだよ |
カイル | そんな…でも、だったらなおさら早く助けなきゃ── |
レイヴン | まあまあ、そう焦りなさんなって、少年 |
レイヴン | 連れて行かれたって言っても、すぐにどうこうされるわけじゃない |
カイル | …!レイヴンさん、何か知ってるの!? |
| |
カイル | ──天帝が、咎人を晶化させる…? |
カイル | だとしたら、なおさら早く助けなきゃ── |
レイヴン | だから、落ち着きなって |
レイヴン | 事を急いで、大切なものを失ってしまったら元も子もないわよ |
カイル | レイヴンさん…? |
レイヴン | 安心しなよ、少年。すぐにどうこうされるわけじゃないって、さっきも言ったでしょ? |
レイヴン | 救済の儀式が行われるまでには、何日間かの猶予があるはずよ。それを有効に使わないと |
レイヴン | 帝都に行くにしても、策ぐらいは練っていかないとね |
エリーゼ | でも、どうすれば… |
レイヴン | 何言ってんの~?絶好の機会が、目の前に転がってるじゃない |
スタン | 絶好の機会? |
ヴェイグ | …!ラザリスの演説か |
レイヴン | そういう事~ |
カイル | えっ?どういう事? |
ヴェイグ | ラザリスが表に出てくるなら、そちらに警備を割かざるを得ない。その時ならば… |
カイル | 他のところは手薄になる…! |
エリーゼ | で、でも、ラザリスが演説なんて、今までなかった事ですよね? |
ティポ | 何だかアヤシー |
ヴェイグ | 嫌な予感がする…。簡単に、行くと決めていいものか? |
スタン | うーん、確かに… |
ラピード | ワフン… |
レイヴン | …ま、得体が知れないのは確かね |
レイヴン | けど、虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言う事ですし |
レイヴン | 仲間を救うためには、思い切って飛び込んでみるしかないんじゃない? |
スタン | それもそうですね。それに、何かあっても俺達には仲間がいる! |
エリーゼ | …はい!絶対、負けません! |
ヴェイグ | …ああ、そうだな |
カイル | 待ってて、リアラ、ソフィ!必ず、助け出すから…! |
レイヴン | そうそう、その意気よ |
レイヴン | …それに、ラザリスが出てくるなら、ベルベットちゃんもきっと帝都に── |
カイル | …そういえば、レイヴンさんって、クローとはどういう関係なんですか? |
レイヴン | へっ? |
カイル | 聞いちゃったんです。クローがレイヴンさんの名前を口に出していたのを… |
カイル | 何だか、すごい悔しそうな顔で…オレ、目に焼き付いちゃって… |
レイヴン | あー…まぁ、いろいろとね |
レイヴン | でもま、気にしなくていいわよ。おっさんの事よりカイルの仲間の方の心配をしなさいな |
カイル | レイヴンさんだって、オレにとっては大事な仲間ですよ! |
レイヴン | カイル… |
カイル | 勿論、リアラ達の事は心配ですけど… |
カイル | でも、レイヴンさんやスタンさん…エリーゼやヴェイグさんの事だって、オレは仲間だと思っています |
カイル | だから、何かあったら言ってください。力になりたいんです! |
レイヴン | …ははっ、そいつは頼もしいわね |
レイヴン | じゃあ、何かあったら遠慮なく頼む事にしようかしらね~ |
カイル | はい! |
エリーゼ | 仲間…そうですね…!カイルも、リアラもソフィも、みんな仲間です…! |
ヴェイグ | ああ。必ずリアラ達を助けよう |
ラピード | ワフッ! |
カイル | みんな… |
スタン | よし!それじゃあ、この先の行動は決まったな |
カイル | はい!──リアラ達を助けに行きます! |
エリーゼ | まずは、帝都に移動ですね! |
カイル | 行こう、帝都へ! |
レイヴン | ラザリスが演説、ねぇ…。果たして鬼が出るか、蛇が出るか… |
レイヴン | … |
エリーゼ | レイヴン、置いて行っちゃいますよ! |
レイヴン | あぁ、ごめんごめん。すぐ行くからね~ |
scene1 | 尋ね人と世界の囁き |
ラザリス | …… |
ラザリス | やっぱりね…「世界の意志」が逃げ出してる |
ラザリス | くっ…あの忌々しい存在…!どこまでも、僕の邪魔をして──… |
??? | ラザリス、ここにいたか |
ラザリス | … |
ヴァン | …こんなところで何をしている? |
ラザリス | 取るに足らない存在を、どう料理するか考えているだけさ |
ヴァン | …ほう。ならば、いい策がある |
ヴァン | 「世界の意志」も咎人も、一気に片付けるいい手段がな… |
ラザリス | ……。なら、君に預けようか |
ラザリス | 君の実力を知るいい機会だしね |
ヴァン | これも天の采配か… |
ヴァン | この状況、利用しない手はないな |
| |
コレット | …はぁ…はぁ…ここまで来れば、もう大丈夫かな? |
ゼロス | ああ…誰かに追われてる感じもないし…大丈夫そうじゃん? |
ゼロス | 俺達が逃げ出した事、まだ気付かれてないみたいだな |
コレット | …うん… |
ゼロス | ちょっとちょっと。暗い顔すんなって、コレットちゃん! |
コレット | あ…えっと…いろいろあったから、まだ混乱してて… |
コレット | どうしてラザリスは、人を晶化させたりなんか… |
ゼロス | ……。ラザリスの考える事なんて知ったこっちゃねぇけどな |
ゼロス | これだけは言えるぜ。今のこの世界を創ってるのは、ヴァンとあいつだ |
コレット | …うん。元の世界で自分が晶化された時の事、ちょっとだけ覚えてるよ |
コレット | でも、そこからこの世界が創られただなんて… |
ゼロス | 俺はわりと早くから記憶を取り戻す事が出来てさ |
ゼロス | 同じく記憶を取り戻してたスレイと再会して手分けして仲間を捜す事にしたんだ |
ゼロス | だけど、俺は白き獅子に捕まっちまって… |
ゼロス | あとは、コレットちゃんも知っての通りラザリスに晶化されたってわけだな |
コレット | そうだったんだ… |
コレット | ほんとのラザリスは、みんなが讃えるようないい人じゃないんだね… |
ゼロス | コレットちゃん… |
ゼロス | まっ、ラザリスなんかの事でコレットちゃんが胸を痛める必要なんてないんだしさ |
ゼロス | とりあえずマール村へ行って、これからの事を考えようぜ |
コレット | マール村? |
ゼロス | ああ、白き獅子に捕まる前、俺が拠点にしてたとこでさ |
ゼロス | そこなら借りてた家もまだ残っているはずだし、態勢を整えるにもいいと思ってさ |
ゼロス | どう?コレットちゃんが頷いてくれたら、俺さま張り切って案内しちゃうよ |
コレット | 私はいいけど…でも、だいじょぶなの? |
コレット | マール村の人って、ゼロスが咎人って知ってるんじゃ… |
ゼロス | ああ、へーきへーき! |
ゼロス | 俺さまが捕まったのは別の場所だし、マール村の人達は俺が咎人だって知らないと思うぜ |
コレット | それなら安心だね |
ゼロス | んじゃ、決定!マール村にしゅっぱーつ! |
scene2 | 尋ね人と世界の囁き |
ゼロス | はぁーやっと着いたぁ… |
ゼロス | コレットちゃん、大丈夫?疲れたんじゃない? |
コレット | ううん、私は平気だよ |
ゼロス | ならよかった。コレットちゃんに何かあったら、俺さま、立ち直れないし~ |
ゼロス | 追っ手が来てる様子もねぇし、少しはゆっくり出来そうだな |
コレット | …でも、これからの事もちゃんと考えなきゃ… |
コレット | ラザリス…天帝をどうにかすれば、この世界は元に戻るんだよね…? |
ゼロス | …ま、多分そういう事になるだろうな… |
コレット | ゼロス…? |
ゼロス | あー、悪い。俺達が、天帝の御座で片を付けてりゃこんな事になってなかったと思ってさ |
ゼロス | だから、今度こそはきっちりヴァンを倒してラザリスを止めてみせるぜ |
ゼロス | …これ以上、世界をあいつらの好きにさせるつもりはないからな! |
コレット | そっか…ゼロスはもうちゃんと決めてるんだね |
ゼロス | ま、当面の目標はその時の仲間を集める事だな |
コレット | うん…! |
ゼロス | まずは、スレイとミクリオ。ルドガー、スタン、ヴェイグティアちゃんにエリーゼちゃん… |
ゼロス | 世界丸ごと変わってるって言うなら、ロイドだっているだろうな。あと…ルークとか |
ゼロス | こうして並べてみると結構な大所帯じゃないの? |
コレット | あはは、賑やかでいいんじゃないかな |
ゼロス | え~?女の子達はともかく、野郎共がぞろぞろいてもなぁ |
コレット | でも心配なんだよね? |
ゼロス | …やだなぁ、コレットちゃん。俺さまが心配なのは、女の子達だけだって~ |
ゼロス | 野郎はあくまでそのおまけ |
コレット | じゃあ、まずはどうやって他のみんなと合流するかを考えないとだね |
ゼロス | そこはもうバッチリ。俺さまに死角なし、ってね~ |
ゼロス | 俺さまが白き獅子に捕まっちまう前、まだスレイと行動を共にしてた時… |
ゼロス | マール村を拠点にしてるってスレイに話したんだよな |
コレット | …それじゃあ! |
ゼロス | ああ、もしかしたら、スレイがここに来たかもしれない |
ゼロス | スレイはミクリオを捜しに行くって言ってたし、他の仲間の事も知ってるかも? |
コレット | じゃあスレイが来たかどうかマール村の人達に聞いてみればいいんだね! |
ゼロス | おっ、さすがコレットちゃん。話が早い~!とりあえず、村で聞き込みだな! |
| |
ゼロス | はぁ~駄目だ、誰も知りやしねぇ…! |
コレット | スレイを知ってる人どころか、見たって人もいないね… |
ゼロス | これで村の中は一通り回ったし…スレイのヤツ、この村には来てないのかもなぁ |
ゼロス | …まさか、スレイまで捕まったなんて事… |
コレット | そんな…諦めずに聞き込み続けようよ |
ゼロス | …いや、どっちにしろ、今日はここまでにしとこうぜ |
コレット | え、でも… |
ゼロス | そろそろ日も暮れそうだしな。ここまでずっと逃げっぱなしだし、続きは明日にしようぜ |
ゼロス | 最近はただでさえいろんな事が立て続けに起きてるし、俺さま、もうクタクタよ |
ゼロス | コレットちゃんも、疲れてんだろ?休める時には休んでおかねえと |
コレット | ん…そだね。じゃあ、ゼロスの家に戻ろっか |
ゼロス | そうこなくっちゃ! |
scene3 | 尋ね人と世界の囁き |
コレット | …すっかり暗くなったね |
ゼロス | ったく…一体、スレイはどこにいるんだか… |
コレット | …。あのね、ゼロス |
ゼロス | うん?何なに、コレットちゃん |
コレット | えっと、その…ロイドやみんなは、大丈夫かな…? |
ゼロス | …… |
コレット | 今になって急に不安になっちゃって…みんな、どうなってるんだろ…ロイドは…無事、なのかな? |
ゼロス | …。だーいじょうぶだって~。コレットちゃんは心配しすぎ |
ゼロス | 他の奴ならともかくあのロイドくんよ? |
ゼロス | 案外けろっと記憶を取り戻しててもおかしくないでしょ |
コレット | そう…だよね… |
コレット | ──うん、ロイドだもん。きっと、だいじょぶだよね! |
ゼロス | それに、もし仲間の誰かが晶化されちゃってたとしても、こっちにはコレットちゃんがいるだろ |
ゼロス | 俺さまを助けてくれたあの力があれば、何にも怖い事なんてないって! |
コレット | でも、私…この力の事、まだ何も知らなくて…どうやって使えばいいかも、まだ… |
ゼロス | コレットちゃん… |
コレット | あっ…ご、ごめんね、変な事言っちゃった |
ゼロス | …いや、急にそんな力を手に入れて、戸惑わない方がどうかしてるよな |
ゼロス | けど、ラザリスに対抗出来るすげえ力である事も間違いないんだし悪いもんではないと思うぜ |
ゼロス | それに、この俺さまがついてるんだぜ? |
ゼロス | なぁんも心配する事はねえって |
コレット | ゼロス…うん…ありがと…! |
| |
コレット | ……! |
| |
ゼロス | …?コレットちゃーん?どうした? |
コレット | え、と…私にも、よくわからなくて… |
コレット | けど、どこからか、呼ばれたような気がするの… |
ゼロス | どこか…? |
コレット | うん…。村の近くに、何か──? |
scene1 | 望郷の景色 |
ミクリオ | …ファルカームへ行くより、帝都に向かった方がいいかもしれないな… |
スレイ | えっ!?突然、どうしたんだ…? |
ミクリオ | 先ほど行商人から聞いてきたんだが…帝都で演説を行う事が決まっているらしい |
スレイ | 演説って事はラザリスと直接会える── |
ミクリオ | ああ。…しかし、最後の視察地であるファルカームも見ておく価値はあると思っている |
ミクリオ | これまで頻繁に行っていた視察を急に取り止めると宣言された背景も気がかりではあるからね |
ミクリオ | スレイはどう思う? |
スレイ | …… |
ミクリオ | …スレイ?ちゃんと話を聞いているのか? |
スレイ | …ミクリオ、地面に何かある |
ミクリオ | 何だって?君は人の話を何だと思って… |
スレイ | 小言はあと!とにかく、ミクリオも調べてみてくれ |
ミクリオ | 全く──… |
ミクリオ | …! |
ミクリオ | これは…まさか遺跡か?こんなところにあるなんて… |
スレイ | 完全に埋まっちゃってるみたいだ。詳しく調べられないかな… |
ミクリオ | どこかに入口があるのかもしれない。だが、これだけじゃ── |
| |
| ピシッ… |
スレイ | ん? |
| ピシピシッ…! |
ミクリオ | なっ、まさか地面が── |
| |
| ズザザザッ! |
スレイ | ミクリオ! |
| |
スレイ | ふぅー、間一髪 |
ミクリオ | 頼むよ、早く上げてくれ── |
| ゴゴゴ… |
| |
スレイ | うわあああっ! |
ミクリオ | うわあああっ! |
ミクリオ | くっ…!双流放て! |
ミクリオ | ツインフロウ! |
| |
スレイ | いって… |
スレイ | …ってあれ?確か、前にもこんな事… |
ミクリオ | 咄嗟の判断だったけど、上手くいったろう?これで貸し借りなしだ |
スレイ | …ふ、やっぱりミクリオはミクリオだな |
ミクリオ | …? |
スレイ | それにしても、ここは… |
ミクリオ | …どうやら、遺跡の中みたいだね |
スレイ | すごいな…!中は思ったより綺麗なままだ! |
スレイ | 天井の脆さから見ても、かなり古い遺跡なのかな…?それに、この構造は… |
ミクリオ | 待て、スレイ。これが古い遺跡だと決めるのは、早計じゃないか? |
ミクリオ | おそらく、天井の上に土が重なり、人の行き来があった事で、そこだけ脆くなってしまったんだろう |
スレイ | でも、土に埋もれるって事は、それだけこの遺跡が建ってから時間が経ったって事だろ? |
ミクリオ | …本当にそうなのか?もしかしたら、最初から地下に建造した可能性も… |
??? | おっ…!もしかして、スレイとミクリオか!? |
??? | おーい、二人共、無事かー!! |
スレイ | …あれ?今の声って… |
ミクリオ | スレイ、地上だ!誰か降りてくる |
ゼロス | よっ…と |
スレイ | やっぱり!ゼロス、久しぶり! |
ゼロス | おう!いや~まさかこんなとこでお前らと再会する事になるとはな |
ゼロス | っと、それより… |
ゼロス | コレットちゃーん!下りられそうかい~? |
コレット | う、うん…だいじょぶ、だよ…っと! |
スレイ | コレットまで! |
コレット | スレイ、久しぶり! |
ゼロス | それで…コレットちゃん。どう?間違いなさそう? |
コレット | うん…この中からだと思う…上で探してた時より近くなってるよ |
ゼロス | じゃあ、やっぱりこの遺跡に… |
スレイ | ゼロス、ここについて何か知ってるの? |
ゼロス | いんや。俺さま達も、それを調査しに来たんだよ |
ゼロス | スレイ、お前もよかったな。ちゃーんとミクリオと会えたみたいで |
ゼロス | おいおいミクリオ~、聞いたぜぇ?お前ってばこっちの世界じゃ「貴族のお坊ちゃん」やってたとか |
ゼロス | でひゃひゃ!柄じゃねぇっての。本当の名家のお坊ちゃんと言えば、気品溢れる俺さまのような── |
ミクリオ | …誰なんだ、君達は |
コレット | えっ…? |
スレイ | あー…いや、話すと長くなるんだけど… |
ミクリオ | … |
ゼロス | …記憶、まだ戻ってなかったんだな… |
スレイ | うん、まあ… |
スレイ | だけど、大丈夫だよ。記憶が戻ってなくても、ミクリオはミクリオだ |
ミクリオ | …君達は、みんな咎人なのか? |
コレット | あっ…えと、私達は… |
ミクリオ | スレイ。まさかこいつらと共謀して、僕をここに連れてきたんじゃ… |
スレイ | 違う!オレはそんな…! |
ゼロス | おいおい、俺さま達はそんな事してねぇって |
ミクリオ | 咎人の言う事なんて── |
スレイ | …待ってくれ! |
ミクリオ | スレイ… |
スレイ | ゼロス達と会ったのは偶然だよ。そうじゃなくても、オレ達はミクリオを騙そうなんて思ってない |
ミクリオ | …だったら証明してくれ |
スレイ | えっ… |
ミクリオ | 君達が…スレイが僕を騙していないと証明してほしい |
コレット | ミクリオ… |
スレイ | …ごめん。オレにはまだ、その手段がない |
ミクリオ | …それなら僕は、君を疑い続けなければならない |
ゼロス | …けっ、酷ぇ言い草だな。よりによってスレイがお前の事、騙したりするわけ── |
スレイ | いいんだ、ゼロス。今は、それでもいい |
ミクリオ | …あっさりしているな |
スレイ | そうかな?それは…きっとオレがミクリオの事を信じているからだと思う |
ミクリオ | 君が、僕を… |
スレイ | 行こう、ミクリオ。ここで言い合うよりも、出口を探した方がいいと思う |
ゼロス | …だな。俺達の事を信じられなくて白き獅子に突き出すにしろ、まずは外に出なくちゃいけないだろ |
ミクリオ | …わかった |
ミクリオ | だが、ここから地上まで上がるのはさすがに難しそうだ |
ミクリオ | 全く…。もし共謀していたわけじゃないなら何故二人共下りてきてしまったんだ |
ミクリオ | 地上に人がいてくれれば、脱出も楽だっただろうに |
コレット | それは… |
ゼロス | しょうがねぇだろ。俺達は探し物があるんだよ |
スレイ | そういえば、さっきも地上よりも近いとか調査とか言ってたよね |
ゼロス | ああ。俺さま達はマール村に滞在してたんだよ |
ゼロス | その時に、コレットちゃんが村の外から何かを感じるって言ってよ |
ミクリオ | …随分と曖昧だね |
コレット | えと…ごめんなさい。自分でも上手く説明出来なくて… |
ゼロス | こっちにも、ただの気のせいじゃ済ませられない事情があんだよ |
スレイ | じゃあ、ゼロス達はその「何か」を探してこの遺跡に? |
ゼロス | そっ。コレットちゃんがここだって言うし、間違いないっしょ |
スレイ | 遺跡に隠された「何か」かぁ…! |
ミクリオ | …スレイ、今の状況を忘れてないだろうな |
スレイ | でも、ミクリオも気になるだろ?地下に埋まってる遺跡から感じる「何か」だなんてさ |
スレイ | この遺跡の年代を特定出来ればゼロス達が探してるものについてもわかるかもしれない! |
ミクリオ | …そういう事なら、僕は壁に施されているレリーフが気になるね |
スレイ | 確かに…!天井だけだとわかりにくかったから… |
ゼロス | やれやれ、リフィルさまとは違うタイプの遺跡馬鹿だな、こりゃ |
scene2 | 望郷の景色 |
ミクリオ | 結構、歩いてきたと思うが…出口は見つからないな… |
ゼロス | コレットちゃん、「何か」の方はどーよ? |
コレット | …ううん。まだ駄目みたいすごく近くまではきてると思うんだけど… |
コレット | …あっちの方とか、どかな? |
スレイ | よし、行ってみよう |
| |
ミクリオ | これは…出口、だったものだな |
スレイ | うん。結晶が出口を塞いでしまってるんだ… |
ゼロス | こりゃ、別の出口を見つけるしかなさそうだな。コレットちゃんも、行こうぜ |
ゼロス | …コレットちゃん? |
コレット | ゼロス、あれ…! |
ゼロス | ちょっと、コレットちゃん!?どこに行くんだ…! |
| |
ゼロス | うわっ…! |
スレイ | すごい…光の玉だ! |
ミクリオ | …何だ、こんなもの…見た事がないぞ! |
コレット | 私が感じていた「何か」は、この光の玉だったのかも… |
コレット | これが…私を呼んで… |
コレット | きゃっ…光が…強く…! |
ゼロス | おいおい、大丈夫なのか?光の玉が、どんどん大きくなるぞ! |
| |
コレット | 光の中に…何か見えて… |
| |
スレイ | …!すごい…景色が映し出されてる。それに、これって── |
スレイ | イズチだ!イズチだよ、ミクリオ!うわぁ、懐かしいな…! |
ミクリオ | …いや。僕は、こんな場所は知らない |
スレイ | あー…そっか。ごめん、つい |
ミクリオ | … |
ミクリオ | スレイ、ここは…どんな場所なんだ?スレイと…それから、僕にとって |
スレイ | ミクリオ… |
スレイ | ──イズチは、オレとミクリオが育った場所なんだ |
スレイ | オレが導師になった旅に出るまで、オレ達、ずっとここでジイジに育てられたんだよ |
| |
スレイ | 懐かしいなジイジ…よく手を焼かせちゃってた気がする |
スレイ | ミクリオの真名を知った時もそうだ。羨ましがるオレをジイジが宥めてくれて── |
ミクリオ | 僕の、真名…? |
ミクリオ | …っ! |
| |
ゼロス | …!光の玉が小さくなっちまった…! |
コレット | 景色も…見えなくなったね |
ミクリオ | 真名…聞いた事ない言葉、見た事もない場所のはずなのに… |
ミクリオ | それに、今の衝撃は一体…… |
スレイ | ミクリオ…?もしかして、何か思い出したのか? |
ミクリオ | わからない…けど、僕は──… |
ゼロス | …混乱中ってか。この様子だと、どうやら何かがミクリオの記憶を刺激したのかもな |
ゼロス | 俺さまが記憶を取り戻した時も確かこんな感じだったし |
コレット | えっと、とにかくどこか休める場所を── |
??? | 貴様ら、そこで何をしている! |
スレイ | …!あれは…もしかして── |
scene3 | 望郷の景色 |
スレイ | 白き獅子…!?何で… |
騎士団員 | 抵抗はやめてもらおう。大人しく我々に従うんだ! |
スレイ | くっ…!突然何だって言うんだ…! |
??? | 待て、あまり脅かすんじゃない |
ミクリオ | あの格好…白き獅子の騎士団の幹部…!? |
ファング | お前ら、ここは立入禁止区域だぞ。一体どうやって入ってきたんだ? |
スレイ | 立入禁止区域だって…!? |
ゼロス | 光の玉がある遺跡が、何だって立入禁止区域なんかに…! |
ファング | 光の玉?何の話だ? |
ファング | とにかく、ここに一般人が立ち入る事は許可されて── |
ファング | ん…? |
コレット | え… |
ファング | お前は、確かあの時の子じゃないか。その服…神子になれたんだな! |
ファング | でも、だったらなおさら何でこんなところに… |
コレット | あなた… |
ファング | えーっと、確か…名前は…コレット── |
| |
コレット | あなた…ロイド、ロイドだよね…!? |
| |
ゼロス | なっ…!? |
ファング | …お前… |
ファング | どうしてその名前を知ってるんだ…? |
scene1 | 大切な人、大切な名前 |
ゼロス | コレットちゃん…今、何て… |
スレイ | ロイドだって…!? |
コレット | ねえ、ロイド…ロイドなんだよね…? |
コレット | 顔が見えなくてもわかるよ…その声、その仕草…ロイドだよ…! |
ファング | …確かに、俺の本当の名はロイドだ。けど、その事を知ってるのは、限られた一部の人達だけ… |
ファング | どうしてお前が知ってるんだ…? |
コレット | …お願い、ロイド!私の…私達の事、思い出して! |
コレット | ジーニアスやリフィル先生の事とか…昔から、ずっと仲良しだったよね? |
コレット | それに、リタとか、ルークとか…一緒に戦った、みんなの名前だよ?思い出せない? |
ファング | … |
コレット | お願い、ロイド…思い出して… |
コレット | あなたは、私達にとって…私にとって大切な人なの…。だから… |
ファング | さっきから、一体何の話を──…! |
ファング | …そうか |
コレット | ロイド…! |
ファング | もしかして、お前…咎人に… |
コレット | …!そんな… |
ファング | だったら…大人しく投降してくれ。そうしたら俺達だって手荒な真似はしない |
コレット | ロイド… |
スレイ | オレ達も戦う気はないよ。ただここから出られたら、それで… |
ファング | それは出来ない。咎人を見逃すわけにはいかないからな |
スレイ | …くっ…! |
ファング | …投降する気はないみたいだな |
| |
ファング | なら、仕方ない…。──その咎人を捕らえろ |
騎士団員 | はっ! |
コレット | そんな…ロイド! |
scene2 | 大切な人、大切な名前 |
スレイ | 頼む…どいてくれ! |
| キンッ! |
ミクリオ | おい、スレイ…!騎士団に刃向かうなんて、正気か!? |
スレイ | オレ達だって戦いたくない!けど… |
ゼロス | ここで大人しく捕まるわけにはいかねーんだよ。何とか逃げる隙を作らねーと… |
コレット | …… |
騎士団員 | くっ!この咎人達、強い…! |
ファング | …俺がやる |
騎士団員 | 隊長! |
ファング | コレット…ラザリス様にお仕えする神子になれたっていうのに…まさか、咎人になるなんて… |
コレット | 待って…私はロイドと、戦いたくなんて── |
ファング | そうはいかない。大人しく拘束させてくれ |
ゼロス | 待てよ、ロイド |
ゼロス | いくら記憶がないって言ってもそれはあんまりなんじゃねぇか? |
コレット | ゼロス… |
ゼロス | その子はな…お前が世界で一番剣を向けちゃいけねぇ相手なんだよ! |
ゼロス | 行くぜ、ハニー!その目、覚まさせてやる…! |
ファング | 来い…!どの道、咎人は全員捕まえなきゃならないんだ! |
ゼロス | おおぉっ! |
ファング | はぁっ! |
ゼロス | さすが、やるじゃねえか! |
コレット | ロイド…ゼロス…こんなの、悲しすぎるよ… |
スレイ | コレット、下がって! |
コレット | スレイ…でも… |
スレイ | 今はこの場を乗り切るしかない。何とかして、ここから脱出しよう! |
コレット | …うん、わかった |
スレイ | ゼロス!オレが突破口を開いてみる!それまで何とか、ロイドの方を! |
ゼロス | ああ、頼んだぜ! |
騎士団員 | 抵抗はやめろと言っている! |
スレイ | ごめんなさい、大人しく捕まるわけにはいかないんだ! |
騎士団員 | くそっ…咎人め…! |
ミクリオ | 咎人… |
ミクリオ | そうだ、僕は白き獅子に協力して咎人を捕まえなければならない…。それこそが、ラザリス様のため… |
ミクリオ | なのに… |
ファング | はああっ! |
ゼロス | どわぁっ! |
ファング | …!ちっ、こっちにも! |
ミクリオ | いや、僕は… |
ファング | 何?…そういえば、お前はさっきから抵抗しないな。咎人じゃないのか? |
ゼロス | くっ、ミクリオ!お前は下がってろ! |
ミクリオ | …確かに咎人になったつもりはないが… |
ファング | それなら、何で咎人達と一緒に?騙されていた…とかか? |
ミクリオ | なっ…! |
ミクリオ | 違う、別に騙されていたわけじゃ… |
ファング | 咎人に惑わされるんじゃない! |
ファング | そいつらを信じたところで咎人は、いずれラザリス様が全て、粛正する |
ファング | 近々シャングレイスで行う演説でも…ラザリス様は、それを証明してくださるだろう |
ミクリオ | ラザリス様の、演説…? |
ファング | …さあ、今ならまだ間に合う。咎人の言葉に耳を貸すな! |
ゼロス | おいおい、ハニー。お前の相手はそっちじゃねぇ、この俺さま、だろ |
ゼロス | ほら、来いよ |
ファング | …なら、遠慮なく行くぜ |
ファング | うおおおおっ! |
ミクリオ | くっ、違う…咎人に惑わされてなんて… |
騎士団員 | この咎人め…!力づくでも捕縛するぞ! |
| ガキィン! |
スレイ | くっ…! |
ゼロス | っと。…ようスレイ、奇遇じゃねえの |
コレット | ゼロス、スレイ、だいじょぶ!? |
ゼロス | へーきへーき…って言いたいとこだけど、俺さま達、結構ピンチじゃね…? |
ゼロス | 全員ぶっ倒していいなら、どうにでもなるんだけどさ |
スレイ | けど、この白き獅子の人達もただ記憶を改変されているだけだと思うと… |
スレイ | 出来るだけ人を傷付けずに、何とかこの場を切り抜ける方法を考えないと…! |
ファング | 総員、奴らを包囲しろ! |
騎士団員 | はっ! |
スレイ | 囲まれた…!? |
ファング | もう逃げ場はない。…これが最後の通告だ、大人しく投降してくれ |
コレット | ロイド… |
ミクリオ | … |
ゼロス | はは…随分と手際がいいじゃねーか。お前、本当にロイドか? |
ファング | どこでその名を聞いたか知らないが…今、お前達の目の前にいるのはロイドじゃない |
ファング | 白き獅子のファングだ。ラザリス様を──そして、この世界を守る騎士だ! |
コレット | 守る…。この世界を… |
スレイ | …それは、オレだって同じだよ |
スレイ | オレ達の世界は、天帝によって闇に包まれてしまった |
ファング | ラザリス様によって、だって…? |
ファング | …さすが咎人だな。そんな話、信じられるわけないだろ |
ゼロス | ま、そうだよな…。今は話すだけ無駄ってか |
スレイ | だとしても、オレ達の意思は変わらない |
スレイ | …必ず元の世界に光を取り戻してみせる…! |
スレイ | 決めたんだ。オレは世界を導く光になるんだって |
スレイ | …だから従えない。ロイドとは戦いたくないけど、でも、捕まるわけにもいかないんだ |
スレイ | ──オレは絶対に諦めない! |
ミクリオ | …! |
| |
スレイ | あの壁画では、導師が聖なる剣を掲げ闇を切り裂き…そこからまぶしい光が差し込んでた |
スレイ | もしオレが導師になって、あの壁画と同じ事が出来るなら…この世界の導きの光になれるなら── |
スレイ | …オレは導師になる。どんな試練だって、乗り越えてみせる! |
| |
ミクリオ | 今のは…スレイ……君、なのか…? |
ミクリオ | 導きの光…導師……くっ、僕は──… |
ミクリオ | …うっ! |
| |
ミクリオ | ──晶化現象が何だ。そんなもの、僕が何とかしてやるさ |
ミクリオ | へっぽこ導師の、君の力なんて借りなくてもな! |
ミクリオ | けど…スレイ。もし君も、世界を守りたいと…本気で思っているのなら |
ミクリオ | 特別に、僕を手伝う事を許してやる |
| |
スレイ | … |
スレイ | …ぷっははは…! |
ミクリオ | 笑うな。僕は真剣に言ってるんだぞ |
スレイ | ごめん…でもおかしくて |
スレイ | そうか…そうだったんだな |
スレイ | この世界を、守りたい──…。これは、オレ一人の夢じゃない |
スレイ | これは、オレ達の… |
| |
ミクリオ | ───夢… |
ミクリオ | … |
スレイ | ミクリオ…?うわっ…! |
| ザシュ! |
ファング | お前達の相手はこの俺だ!よそ見してる場合じゃないぞ |
コレット | ロイド…! |
ゼロス | ちっ…! |
ファング | これで終わりだ…! |
スレイ | くっ…!もうやるしかないのか…! |
scene3 | 大切な人、大切な名前 |
ファング | くっ! |
ファング | なかなかやるな。──だが! |
スレイ | うぐっ! |
ファング | 何のつもりか知らないが、お前、本気で戦ってないだろ |
ファング | それじゃあ俺は止められないぞ!戦意がないなら、大人しく── |
| |
ミクリオ | …スレイ! |
スレイ | ミクリオ…? |
| |
ファング | …!何のつもりだ!?お前は咎人じゃないはず── |
| |
ミクリオ | スレイ、僕の真名を! |
スレイ | えっ?そ、それってまさか── |
ミクリオ | どうした?まさか、忘れたわけじゃないだろうな |
スレイ | …! |
スレイ | ははっ、忘れるわけないだろ── |
スレイ | いくぞ、ミクリオ! |
ミクリオ | ああ! |
| |
| |
コレット | ゼロス、見て…! |
ゼロス | 神依…!?って事は…ミクリオのヤツ、記憶を… |
ゼロス | へっ、あいつら…やりやがったな |
ファング | くっ…!こんな力を隠し持っていたなんて… |
ファング | だけど、俺も引くわけにはいかない!はあっ! |
スレイ | … |
ファング | …どうした?何で反撃してこないんだ…? |
スレイ | 君はオレ達の敵じゃない |
スレイ | 行くよ、ミクリオ! |
| |
ミクリオ | ああ!…出口をふさぐあの結晶だって、僕達の力なら── |
スレイ・ミクリオ | はああぁーっ! |
| |
| パリィイイーーン…! |
| |
ファング | な……!?まさかラザリス様の結晶を砕ける奴がいるなんて…! |
スレイ | 今だ、ゼロス、コレット! |
ゼロス | おっ、スレイやるぅ! |
コレット | でも、ロイドが… |
ゼロス | コレットちゃん、早く!外に逃げるなら今しかないぜ! |
コレット | …う、うん。わかった! |
スレイ | よし、行こう! |
| |
ファング | … |
騎士団員 | ファング様追わなくてよろしいのでしょうか? |
ファング | ああ、見逃してやれ |
ファング | 宰相が言ってたのは奴らだ。焦らなくてもどの道、シャングレイスで片が付く |
| |
スレイ | はぁ、はぁ…ここまで来たら、大丈夫かな |
ミクリオ | …… |
スレイ | ん?どうかしたのか、ミクリオ |
スレイ | …って、そういえば記憶、本当に戻ったんだな! |
ミクリオ | ああ、君のお蔭でね |
ミクリオ | …いろいろとすまなかった。本当にありがとう、スレイ |
スレイ | ミクリオ…お礼なら、オレも言わないと |
スレイ | オレを信じてくれてありがとう。それと、…おかえり! |
ミクリオ | スレイ…ああ、ただいま |
コレット | ロイド… |
ゼロス | コレットちゃん… |
ゼロス | しっかし、驚いたよな~。あのファングがロイドくんだったなんて |
コレット | うん…。そだね、驚いちゃった |
コレット | …… |
ゼロス | そんな顔しなくても大丈夫だって。ミクリオだって記憶を取り戻したんだ |
ゼロス | ロイドくんの記憶も、きっと…いや、絶対に取り戻せる。そうだろ? |
コレット | ゼロス…うん、そだね |
コレット | ミクリオ、記憶が戻ってよかったね |
ミクリオ | ああ。いろいろと心配をかけたね |
ゼロス | …これでミクリオの記憶も戻ったか |
ゼロス | …ロイド、あんまりコレットちゃんに心配かけんじゃねぇぞ |
ゼロス | …それにしても、何で白き獅子の奴らは俺達を追いかけて来なかったんだ? |
スレイ | 確かに…あっさり引いてたよな |
ミクリオ | その事なんだが、一つ気になる事がある |
スレイ | ミクリオ、何か気付いたのか? |
ミクリオ | ファングが言っていたんだ。ラザリスは近々、咎人を全て粛正するつもりで── |
ミクリオ | シャングレイスで行う演説にて、それが証明されるらしい |
コレット | シャングレイスで演説… |
ゼロス | そこで咎人相手に何かしようってのか? |
コレット | 大変!もしかしたら記憶を取り戻した仲間が他にもいるかもしれないのに…! |
スレイ | うん、何をするつもりかはわからないけど放ってはおけない! |
ミクリオ | …決まりだね |
ミクリオ | 僕達の次の目的地は、シャングレイスだ |
scene1 | 動乱の帝都 |
ジュード | さすがに、すごい人だかりだねまだ演説会場の広場まで距離があるのに… |
ティア | …改めて、この世界におけるラザリスの影響力の強さがわかるわね |
ベルベット | … |
ジュード | 急ごう。この人混みでは、演説が始まるまでに広場にたどり着けないかもしれない |
| |
ルドガー | ふぅ…何とか間に合ったな |
ジュード | …始まるみたい。──あれは! |
| |
ヴァン | … |
| |
ティア | …兄さん |
街の男 | おぉ…ヴァン様だ! |
街の女 | ヴァン様ー! |
| |
ヴァン | エンテレスティアの民よ、静粛に |
ヴァン | まずは天帝ラザリス様のために集まってくれた事に感謝を |
ヴァン | …さて、集まってくれたみなに、言っておきたい事がある |
ヴァン | 咎人の事だ |
ヴァン | 先の生誕祭に現れた咎人を始め、最近咎人が数を増やしつつある。嘆かわしい事だ…! |
ヴァン | しかし、エンテレスティアの民よどうか安心してほしい! |
ヴァン | 世界は今、ラザリス様の手により、完全なものへと近付いている |
ヴァン | 世界が完全なものになれば、もう、これ以上、咎人が増える事もなくなるのだ |
ヴァン | その時こそ、真の平和な世が実現するだろう! |
ヴァン | 故に!我々はみなに、咎人の根絶を約束しよう! |
街の女 | ああ!ラザリス様のお力で、咎人はもう完全に居なくなるのね! |
街の男 | ラザリス様ー!ヴァン様ー!咎人共を根絶して完全な世界をー! |
| |
ティア | … |
ジュード | 咎人を根絶…か。僕達は元の世界の事を思い出しただけなのに… |
ルドガー | ああ…。だけど、これがこの世界での普通なんだよな… |
ティア | ええ…実際に記憶を取り戻すまでは、私もこの街の人達と同じように考えていたわ |
ティア | 咎人は、虚言で人を惑わせる…と |
ティア | 一方的に嘘だと決めつけて…、それを理由に消えてほしいだなんて…それこそ恐ろしい考え方なのに |
ベルベット | …どうでもいい事よ。自分のやるべき事が決まっていれば、他人の意見なんて関係ない |
ジュード | …強いね、ベルベットは |
ジュード | けど、世界が完全になればこれ以上咎人が増えなくなるって言ってたよね |
ルドガー | そうだな…。完全な世界ってどういう事だ…? |
ベルベット | …さあ。それよりも、ラザリスはどうしたの?全然出てこないじゃない |
| |
??? | お前達!そこを動くな! |
ジュード | えっ…!? |
ベルベット | …! |
scene2 | 動乱の帝都 |
レイヴン | 不届き者はお前さん達ですかい? |
ベルベット | …!あんた…! |
レイヴン | やぁベルベットちゃん、元気そうで何より。おっさん心配してたのよ? |
カイル | レイヴンさん!?何やってるの…!? |
スタン | 先にどんどん行っちゃうから、びっくりしたよ |
エリーゼ | ジュード! |
ティポ | ジュード君だー! |
ジュード | え…?エリーゼ!ティポ! |
ジュード | 僕の事がわかるって事はもしかして… |
エリーゼ | はい…、元の記憶は取り戻しました。ジュード、また会えてよかった! |
ティポ | うわー!ジュード君!よかったよー! |
ティア | スタン、ヴェイグ…みんな無事でよかったわ |
スタン | ティアこそ! |
ヴェイグ | 全員、記憶は取り戻しているようだな |
ラピード | ワオーン! |
ルドガー | はは、勿論ラピードもな |
レイヴン | いや~感動の再会だねぇ。おっさんもベルベットちゃんと会えてよかったよかった |
ベルベット | …あんたには用はないわ。用があるのはラザリスだけよ |
スタン | そういえば、今日の演説ってラザリスが出るって話だったよな? |
カイル | はい、ラザリスが演説をしている間にリアラ達を助け出さないと…! |
レイヴン | 勿論潜入するなら、ラザリスの顔を拝んでからよ |
レイヴン | と言っても…案の定、出てきてないみたいだけど |
ベルベット | …案の定?一体どういう意味? |
レイヴン | 元々、ラザリスが表に出てくるのは生誕祭か視察の時ぐらいだったのよ |
ヴェイグ | …つまり、今回は初めから出てくるつもりがなかった、と? |
レイヴン | そういう事。しかも、白き獅子の姿もないし、これはひょっとすると── |
ベルベット | どうでもいいわ。ラザリスが出てないなら、こっちから乗り込んで… |
| |
ヴァン | ──これより、咎人の一掃を行う! |
ヴァン | 帝都を封鎖し、白き獅子総出で街中に検問をかける |
ヴァン | 市民のみなには突然の取り決めで迷惑を掛けるが理解いただきたい |
ヴァン | この機に、帝都に忍び込んでいる咎人共を一掃しようではないか! |
| |
ルドガー | なっ…!まさか、これって── |
カイル | この演説自体がオレ達を誘き寄せる罠だったって事…!? |
| |
ヴァン | さあ、ラザリス様!いまこそ咎人に裁きを与える号令を! |
ラザリス | … |
ラザリス | …エンテレスティアのみんな、どうか協力してほしい |
ラザリス | 今日、ここで!咎人共を一掃する!白き獅子達よ!咎人に裁きを! |
騎士団員1 | 咎人に裁きを! |
騎士団員2 | 世界に平和を! |
| |
スタン | 白き獅子…!?広場を囲まれてる! |
カイル | この時のために隠れてたんだ! |
ベルベット | ──ラザリス! |
ジュード | えっ…!?ベルベット、どこへ…!? |
ベルベット | ラザリスをここで殺す! |
スタン | なっ!?そんな無茶な事…! |
レイヴン | おっさんも、ここは逃げる事をオススメするけど |
ベルベット | あたしに構うな!ラザリスさえ殺せればそれで…! |
カイル | 駄目だ!こんなに白き獅子もいて、ラザリスまで辿り着けないよ! |
カイル | 事を急ぐと、大切なものを失う可能性だってあるんだから…! |
スタン | カイル… |
ベルベット | …くっ…!目の前に、あいつがいるのに…! |
ヴェイグ | とにかく、見つかる前にこの広場を離れるべきだ |
ヴェイグ | こっちだ…!急いで…──なっ! |
| |
エリーゼ | そんな!広場の門が閉じられて…! |
ルドガー | 後ろ、もう追っ手が来てる!このままじゃ逃げ場が…! |
ラピード | グルルル…! |
ティア | 言っている傍から…追いつかれたみたいね |
ロアー | 観念しろ、咎人共。逃げ場はないぞ |
ベルベット | …!あんたはあの時の… |
ベルベット | そこを退きなさい!あんたに用はないの |
ベルベット | 退かないって言うのなら──力づくでも通してもらうわ! |
scene3 | 動乱の帝都 |
ベルベット | …はぁっ! |
ロアー | …お前、前よりも剣筋が冴えているな |
ベルベット | 無駄口を叩く余裕はないはずよ。はあああっ! |
| バサッ |
ロアー | くっ…! |
ティア | ロアーのフードが…! |
ジュード | …!あれって、まさか… |
エリーゼ | そんな…!ミラ…嘘です…! |
ベルベット | これで終わりよっ! |
ロアー | しまっ──! |
エリーゼ | ミラ…っ!駄目! |
ジュード | エリーゼ…!ミラ…! |
| ガキィィィン! |
ベルベット | なっ!? |
ジュード | 待って、ベルベット…! |
ロアー | !?何故私を… |
ベルベット | 白き獅子を庇うつもり…!? |
ジュード | そうだけど…でも、この人は…ミラは… |
ティポ | いくらベルベット君でもダメなものはダメなんだよー! |
ベルベット | 邪魔するなら容赦しないわ!あんた達もろとも、叩き切って── |
| ガキィィン! |
ベルベット | …っ!? |
スレイ | ふぅ…間に合った…のかな? |
ジュード | スレイ…!? |
スレイ | 状況は上手く掴めないけど、今は味方同士で戦っている場合じゃない |
ベルベット | …ふん…! |
ルドガー | おい!門が開いていくぞ! |
ヴェイグ | どういう事だ…!? |
| |
コレット | みんな! |
ミクリオ | 全員無事みたいだね |
ティア | ミクリオ、それにコレットも…!? |
コレット | 今、ゼロスが門を開けてくれてるの! |
コレット | みんなが脱出したあと、すぐにまた閉めるから…!みんな、急いで街の外に! |
ロアー | そうはさせん! |
ミクリオ | 白き水よ、崩落せよ…スプラッシュ! |
ロアー | …なっ! |
ミクリオ | さあ、急いで!じきに門が閉まるよ |
エリーゼ | まって、ください…!あの…話を… |
ラピード | ワン!ワンワン! |
ジュード | …くっ、エリーゼ!今は、一旦外に出よう! |
エリーゼ | … |
レイヴン | ベルベットちゃんも。今は一刻も早く脱出すべきだと思うけど? |
ベルベット | …くっ! |
カイル | リアラ…ソフィ…! |
スタン | カイル、二人の事は… |
カイル | …大丈夫です。必ず、また迎えに来ますから!行きましょう、スタンさん! |
スタン | …ああ! |
| |
ロアー | くっ…、逃げられたか…! |
ロアー | … |
ロアー | だが…。あの時、彼らは何故私の事を──… |
Name | Dialogue |
scene1 | 夢への誘い |
ヴァン | …では、作戦の報告を聞かせてもらおうか |
ヴァン | 我々は咎人達を一網打尽にするため、ラザリス様の演説を囮にした。相応の成果がほしいところだが…? |
ロアー | …すまない。今一歩のところで逃してしまった。私の失態だ |
クロー | オレ達全員の、だろ? |
ファング | ああ…。今回は、白き獅子全体の作戦だった。ロアーだけの失敗じゃない |
クロー | すぐに駆けつけられればよかったが…奴らの力量を見誤ってた |
ロアー | クロー…ファング… |
ファング | けど…変だよな。あの広場の門はどこよりも警備を手厚くしてたはず、だろ? |
ファング | なのに、あんな簡単に突破されるなんて… |
クロー | そいつに関してはオレも気にはなってたもんでな。ちと調べてみたんだが── |
クロー | 門の警備兵は想定の半数以下で、かなり手薄な状況になっていたらしい |
ロアー | 半数以下、だと?何故そのような事に… |
クロー | 上層からの指示って話だが、オレ達隊長格も身に覚えはねぇし… |
ロアー | … |
ヴァン | その調査は後だ。それより逃げた咎人達の行方は、追っているのだろうな? |
クロー | 当然、部下達に捜させてるさ。オレ達も、報告が終わり次第すぐに捜索に加わるつもりだ |
ファング | ああ。見つけたら、今度こそ捕まえてやる…! |
???(ラザリス) | …信用出来るとでも? |
ロアー | ラザリス様…! |
ラザリス | …… |
ヴァン | …報告は以上だな。お前達は引き続き、咎人の捜索を続けよ |
ロアー | 言われずともわかっている。次こそは、必ず… |
ファング | …あ、そうだ。ラザリス様、もう一つだけ報告が |
ラザリス | … |
ファング | 咎人の中に…宮廷神子に選ばれた女の子がいました |
ファング | 名前は、コレット。もしかしたら、ラザリス様も知っているかもと思って… |
ラザリス | …知っているよ。あの中にいた事も、ね |
ファング | まさか宮廷神子まで咎人になっちまうなんて… |
ヴァン | …ファング。もう下がれ |
ファング | あ、ああ。それじゃあラザリス様、失礼します |
ヴァン | …さて、聞いての通りだ。咎人達は見事、白き獅子の包囲網を突破した |
ラザリス | …君達がちゃんと働いていれば、問題ないはずだったろう |
ヴァン | 奴らの力を見くびっていた事は認めよう… |
ヴァン | 咎人など大した脅威ではないと思っていたが、そうも言っていられぬようだ |
ヴァン | このまま泳がせておけば、再び我々の邪魔になりかねん |
ラザリス | …悪足掻きが好きな連中だね |
ヴァン | 悪足掻きで済めばいいが、万が一という事もある。次の一手を打たねばならんな… |
ヴァン | さて、どうしたものか──…む、ラザリス、どこへ行く?話はまだ… |
ラザリス | …これ以上君と話しても、何も変わらないだろうからね |
ヴァン | …ふっ。ようやく、か… |
| |
ヴェイグ | ──ひとまず、追手は振り切れたようだな |
ゼロス | よしっ、全員無事だな? |
スタン | ゼロス!お前も無事そうで安心したよ |
ゼロス | 野郎に心配されても嬉しくねえっつーの |
ゼロス | それより、俺さまのお蔭で全員逃げられたんだから、もっと感謝してくれてもいいんだぜ? |
レイヴン | ちょっとちょっと、手柄独り占めってのは聞き捨てならないわねぇ~ |
コレット | ふふ、みんなで頑張ったんだもんね。ね、ミクリオ? |
ミクリオ | ああ、そうだな。僕らも協力したって事を忘れないでもらいたいね |
ゼロス | ぐっ…ま、まあそういう事だな、うん!俺さま達に感謝しろよ? |
ジュード | …それにしても、よくあの門を開けられたね |
ジュード | 警備兵を撒くのも大変だったんじゃない? |
ゼロス | いやいや、簡単だったぜー。拍子抜けするくらいに、な |
ヴェイグ | …どういう事だ? |
ジュード | ──そんな…あの状態で警備が手薄だったなんて… |
スタン | うーん…。ヴァン達は、最初から俺達を逃がすつもりだったのか? |
レイヴン | そんなわけないでしょ…って言いたいとこだけど。どうにも、敵さんの動きが読めないわね |
ヴェイグ | …ああ。どこか、不気味な感じがする |
ラピード | ワフゥ… |
ミクリオ | …!そ、それよりさっきから気になっていたんだが── |
ミクリオ | 誰かの飼い犬かい? |
ティポ | 怖がらなくても大丈夫ー!ラピード君は仲間だよー。戦えるし、頼りになるんだー |
ミクリオ | 別に、怖がってるわけじゃ…。まるで僕達の会話を聞いてるみたいだから、驚いただけで… |
スレイ | 仲間と言えば、さっきから気になってたんだけど、ティアと一緒にいる人って…? |
ベルベット | …… |
ティア | そうね、ひとまず落ち着いたし、彼女の紹介もしないといけないわね |
レイヴン | なら、ここらで一度全員で自己紹介ってのはどう? |
レイヴン | 人数も多くなってきたしお初の人もちょこちょこいるだろうし |
スレイ | 確かにそれがいいかも。それじゃあ、オレから── |
ミクリオ | …なるほど。どこかで見た事があるような気はしていたが── |
ミクリオ | …君が生誕祭でラザリスを襲撃した人物だったとはね |
ベルベット | … |
コレット | カイルの仲間も、咎人として捕まっちゃったんだね… |
カイル | うん。だから絶対に助けないと…! |
レイヴン | しかし、こうして見るとかなりの人数になったわね |
レイヴン | これだけいれば、敵さんと戦う事になっても心強いわ |
ジュード | …戦う、か… |
エリーゼ | …ミラ… |
ルドガ― | …大丈夫か?二人共 |
ジュード | う、うん…ごめん。まさか白き獅子のロアーがミラだなんて思っていなかったから… |
エリーゼ | このままミラが思い出してくれなかったら…また戦わなくちゃいけないのかな… |
コレット | ……ロイドとも… |
ヴェイグ | … |
スレイ | …あのさ、いろいろあってみんな混乱してる事も多いと思う |
スレイ | でも今はまずこれからどこへ行くのか、考えない? |
ミクリオ | 同感だ。追っ手は撒いたと言っても、ここに留まるのは得策じゃないからね |
レイヴン | おっさんも賛成。せっかく逃げたのに、追いつかれたら元も子もない |
ティア | ええ、この後の事を考えるにしてもどこか安全な別の場所へ行ってからの方がいいと思うわ |
カイル | でも、これだけの人数で落ち着ける安全なところなんてなかなか見つからないんじゃ… |
ルドガー | ああ。宿を取ろうにもいつどこから俺達の話が漏れるかわからないし… |
ゼロス | それなら心配ないぜ。マール村にある俺さまの家を使えばいい |
レイヴン | マール村、か。確かに住人も少ない長閑な村だし、ナムザ街の隠れ家よりは安全かもね |
ラピード | ワフッ! |
ジュード | そうと決まったらすぐにでも出発しよう |
エリーゼ | そう…ですよね。ここでぼうっとしてちゃ、いけませんよね |
ティポ | うんうん!みんなを助けるためにも、まず動きださなきゃねー! |
スタン | よし、それじゃあマール村に向かおうか。ゼロス、案内頼む |
ゼロス | 任せとけって。じゃ、早速出発── |
ベルベット | …ちょっと待って。その前に、あんた達二人に聞きたい事がある |
エリーゼ | え…? |
ジュード | 僕達に聞きたい事…? |
scene2 | 夢への誘い |
ベルベット | 白き獅子を庇ったのは、ロアーがあんた達の知り合いだから? |
ジュード | そ、それは… |
ゼロス | …いやいやベルベットちゃん。そういう話は後にして、とりあえず、俺さまの隠れ家に── |
ベルベット | こっちは、あんた達のせいで危険に晒されたのよ |
ジュード | …ミラは元の世界で僕達の仲間だったんだ |
ジュード | そのミラを傷付けるのは… |
エリーゼ | わたしもジュードと同じ気持ちです。それで… |
ベルベット | …だったら適当にいなせばよかった。ここにいる全員が危険に晒されたのよ |
ジュード | でも…ミラは強いし、適当に戦って抑えるなんて出来ないよ |
ベルベット | …甘すぎる。そんな認識じゃ世界は取り戻せない |
ジュード | そんな事…!…君にはわからないんだよ |
ベルベット | …… |
ベルベット | 足を引っ張られるくらいなら、あたしは外れるわ |
スタン | え?ベルベット、一体どこに── |
ベルベット | 決まってるでしょ、シャングレイスに戻るのよ。今ならラザリスもいる |
スレイ | 一人で戻るって…そんなの無茶ですよ! |
ベルベット | あたし一人で十分よ。足を引っ張る人間がいるより、よっぽどね… |
カイル | ど、どうしよう?早く止めないと、本当にシャングレイスに戻っちゃうよ |
レイヴン | とはいえ、あのお嬢さんはちょっとやそっとじゃ聞かないわよ |
カイル | でも、たった一人で帝都に戻るなんて、いくらなんでも無茶だよ! |
コレット | 同じ目的を持つ仲間なのに、どしてこんな風になっちゃうのかな… |
スレイ | …… |
ラピード | クゥン… |
スレイ | ミクリオ、オレちょっとベルベットさんを追いかけるよ |
ミクリオ | 耳を貸すとは思えないけど |
スレイ | けど、今戻ったって捕まるだけだ。さすがに放っておけない |
ルドガ― | …ベルベットも、根は悪い奴じゃないと思う |
ルドガ― | 彼女、意外と子どもに優しくてさ。前にもエルが危ないところを助けてくれたんだ |
ルドガ― | それに、エルに食べ方の注意もしてたっけ |
ルドガ― | その時のベルベットは、面倒見のいいお姉さんって感じだった |
ヴェイグ | ベルベットが…? |
ティア | …そうね。きっと、あれが本当の彼女…私もそんな気がしたわ |
ゼロス | 面倒見のいいお姉さん、か。うーん、とてもじゃねぇがそんな風に見えないけどな~ |
ティア | …何が原因かは私にもわからない、けれど── |
ティア | 変わらざるを得なかった理由が、彼女にはあるんだと思う |
スレイ | 理由… |
スレイ | とにかくオレ、行ってくるよ |
スレイ | 一人で挑んでも無謀だって事くらいベルベットさんもわかってるはずだし |
スレイ | 譲れない理由があるって言うならそれを聞いてからでも遅くないと思う |
コレット | あ、スレイ…! |
ミクリオ | 二人を追いかけよう |
ティア | 待って、私が行くわ |
ティア | …ベルベットと話をする。彼女と一緒にいた時間は誰より長いし私の話なら聞いてくれるかもしれない |
レイヴン | …なら、お二人に任せようかね。揃って行ったところで神経逆撫でするだけって気もするし |
ティア | …ありがとう、レイヴン |
scene3 | 夢への誘い |
スレイ | おーい!ベルベットさーん! |
ティア | ようやく追いついた… |
ベルベット | …何しに来たの |
スレイ | もう一度、ベルベットさんときちんと話がしたくて… |
ベルベット | あんた達とこれ以上話す事なんてないわ |
スレイ | ちょ、ちょっと待って! |
スレイ | 今シャングレイスに戻っても、白き獅子の警備はより厳重になっているはずだ |
スレイ | そんな中に飛び込んで行ったら、わざわざ捕まりに行くようなものです |
ベルベット | あんた達に心配されなくても、何も真正面から突っ込んだりしないわ |
スレイ | けど、一人で動くのは危険だ。ベルベットさんとオレ達の目的は世界を取り戻す事、ですよね |
スレイ | なら、みんなで── |
ベルベット | 無理ね |
ベルベット | ラザリスを倒すには白き獅子との戦闘は避けられない |
ベルベット | 情に流されていたら足元をすくわれるわ。一緒に行動するのはこっちが危険よ |
スレイ | それは… |
ティア | でも、ジュードとエリーゼにとって、ミラはそれこそ家族のようなものなの |
ベルベット | 「家族」…ね |
ティア | 家族に剣を向けるなんてそんな事、簡単に出来るものじゃない |
ティア | まして、行方不明だったところに突然敵として現れたんだもの。二人が混乱するのも無理はないわ |
ベルベット | …そんなの、あたしには関係ない |
スレイ | 関係なくはないよ。ベルベットさんにもいるでしょ? |
スレイ | 大切な家族が… |
ベルベット | …! |
ベルベット | …そんなもの、もういないわ。あたしにいるのは殺すべき相手だけよ |
ティア | …ベルベット、やっぱりあなたも家族に何か── |
| キュィィィィィィィン |
スレイ | な、何だこれ!うわ、まぶしっ… |
ティア | これは魔法陣!?一体何が…! |
ベルベット | っ…!誰!?姿を見せなさい! |
???(ラザリス) | …君の本当の願い。僕がかなえてあげるよ |
ベルベット | あたしの…願い…?一体、何を言って… |
???(ラザリス) | ふふ… |
| キュィィィィィィィン |
| |
ベルベット | …っ!あんたは…一体…! |
スレイ | くっ…目が…二人共大丈夫か!? |
ティア | 何も見えないわ…!一体何が起こって──…… |
scene1 | 幻影の故郷 |
スレイ | 何だったんだ、今の…。急に、すごい光に包まれて… |
スレイ | 二人共、怪我はない? |
ティア | え、ええ…私は大丈夫。それにしても、ここは一体…? |
スレイ | どこかの村…?でも、何で── |
ベルベット | ここは…! |
ベルベット | まさかそんな…ありえない… |
ティア | ベルベット…?この村の事知っているの? |
ベルベット | 知ってるなんてものじゃないわ。だって、この村は── |
ゼロス | おーい、お前ら大丈夫かー? |
スレイ | ゼロス!ゼロス達もここに? |
ゼロス | ああ、何が何やらさっぱりだぜ |
コレット | 突然すごい光に包まれたと思ったらいつの間にかここに来てて… |
ジュード | …ここ、どこなんだろう? |
ティア | 周囲が光り出した時に、一緒に魔法陣を見たわ。多分、転移魔法だったのね… |
レイヴン | なるほど。それでみんな仲良く、見知らぬ村に飛ばされたってわけね |
カイル | でも…何か変な村じゃない? |
カイル | さっきから村人に話しかけてるけど反応しないし…っていうか、オレ達が全然見えてないって感じで |
ルドガー | 魔法陣に光、見知らぬ場所…この感じ、天帝の御座を思い出すな… |
ヴェイグ | ああ、移動する時の感覚がよく似ていた… |
スレイ | って事は、これって…やっぱりラザリスの仕業なのか…? |
ティア | 断言は出来ないけれど、その可能性は高いわね |
コレット | どうしてこんな事…ラザリスは…どこに行ったのかな |
ミクリオ | …わからないけど、近くで潜んでいる事も考えられる |
レイヴン | うーん、それはどうかしらねぇ。だとしたら、匂いでワンコ辺りが気付きそうなもんだけど… |
ラピード | …クウン |
コレット | うーん、ワンちゃんにもわからないなら、何もないのかな? |
カイル | 確かに、どこかにラザリスが潜んでるようには思えないかも。のんびりした、いい村って感じだし |
ジュード | 僕達がいないように扱われている事はおかしいけど… |
ルドガー | 天帝の御座で会った兄さんやクレア…意思こそ本人達の物だったが、彼らは実体のない「幻影」だった |
ルドガー | ここも、もしかしたらラザリスが創り出した幻なんじゃ… |
ティア | …確かに、有り得ない話じゃないわ |
ジュード | 幻影か…。まるで覚めない悪夢のようだね… |
カイル | 悪夢…。あ!夢って事は、ほっぺつねったら目が覚めるんじゃないですか? |
| ギュムッ! |
カイル | …いってぇー! |
ジュード | そういう夢、じゃなくて… |
ティポ | カイル君、ほっぺまっかっかー! |
エリーゼ | い、痛そうです… |
スレイ | そ、そんなに強くつねらなくても… |
カイル | うう、つねり損だった… |
ヴェイグ | 幻影かどうか、確証はないが、ここから脱出する事が優先だ。手分けして調査して現状を把握しよう |
ゼロス | だな。スタンと俺、それからルドガーで村の南側でも見てくるか |
ヴェイグ | なら、ラピードはオレと一緒に来てくれ。村の西側を見に行こう |
ラピード | ワフッ! |
エリーゼ | ヴェイグ、わたしとティポも付いて行きます! |
カイル | じゃあ、オレ達は── |
スタン | カイル達は、スレイと一緒にベルベットについててやってくれ |
スタン | …ベルベットの様子、何だかおかしいだろ?何かあったら、頼むな |
カイル | は、はい!じゃあ、みんな気をつけて! |
ベルベット | …… |
スレイ | ベルベットさん、さっきこの村に心当たりがありそうでしたけど… |
ティア | 教えて、ベルベット。この村は一体… |
ベルベット | …ここは、あたしの故郷よ |
コレット | 故郷…? |
ジュード | って事は、この村は元の世界の… |
ベルベット | そうよ。この世界にあるはずのない場所…なのに、どうして… |
カイル | 元の世界にある場所がここに…?一体、何がどうなって── |
ベルベット | …っ! |
スレイ | ベルベットさん!?一体どこに── |
カイル | あ、ちょっと二人共! |
ミクリオ | 急いで追いかけるぞ! |
scene2 | 幻影の故郷 |
ベルベット | やっぱり…全部あの時のまま… |
ベルベット | みんな!あたしよ!ベルベットよ!返事をして! |
ベルベット | あたしが見えてないの!?ねぇ、答えてよ! |
スレイ | ベルベットさん… |
カイル | …やっと追いついた |
ジュード | それにしても、こんなに呼びかけてるのに… |
コレット | うん…。本当に私達の事が見えてないのかな… |
レイヴン | ベルベットちゃんの声すら聞こえないようじゃ、ねえ… |
スレイ | うん… |
ティア | …転移する直前、声が聞こえたわ。ベルベットの本当の願いをかなえてあげるって… |
ティア | この村も、住人達も…彼女を陥れるための幻影だと思うのだけれど… |
ミクリオ | だとしたら、村人が彼女に何もしてこない理由が解せないな… |
ベルベット | … |
ジュード | 他にもまだ、この村には何かあるのかもしれない。無闇に行動するのは危険だと思う |
ベルベット | …わかってるわ、そんなの。これは幻、幻に決まってる… |
ベルベット | 今更こんな幻覚見せられたって、あたしは── |
| |
??? | …お姉、ちゃん? |
ベルベット | …!この声、まさか…! |
| |
??? | やっぱり、お姉ちゃんだ! |
ベルベット | ライフィセット…そんな、どうして… |
スレイ | …ライフィセット?ベルベットさん、この子は── |
ベルベット | ラフィ…本当に、ラフィなの…? |
ライフィセット | ずっと待ってたんだよ。お姉ちゃんが戻ってくるのを… |
ベルベット | 嘘よ…そんな…。だって、ラフィはあの時…! |
ベルベット | これは…幻…絶対に騙されない…。こんなの… |
ライフィセット | …おかえりなさい、お姉ちゃん |
ベルベット | ああ…あったかい…… |
ベルベット | ラフィ…本当に、生きて…! |
scene1 | あるはずのない再会 |
ベルベット | ラフィ… |
ライフィセット | お、お姉ちゃん、そろそろ放してよ。みんな見てるし… |
ベルベット | お願い、もう少し…もう少しだけ、このままでいさせて… |
ライフィセット | う、うん… |
レイヴン | あらら…あのツンツンなベルベットちゃんが、随分デレデレじゃないの |
カイル | ベルベットさんのあんな顔、初めて見たよ |
スレイ | … |
| |
ミクリオ | だが、それよりも気になるのはあの少年だ… |
ジュード | うん…。知り合いのようだけど、あの子とだけ会話が出来るなんてちょっと妙だよ |
レイヴン | そりゃあ…普通に考えたら、ラザリスの罠── |
ベルベット | そんな事はわかってるわ! |
ベルベット | …でも、この子は……ラフィは…! |
ライフィセット | お姉ちゃん…力、強い…。苦しいよ… |
ティア | ベルベット…。その子は、一体… |
ベルベット | この子は…ライフィセットは、弟よ。死んだはずのね |
ジュード | 死んだはずって…!それじゃあ…… |
ベルベット | … |
コレット | そんな…亡くなったはずの人が生きてる空間なんて… |
ミクリオ | …間違いない、彼はラザリスの創った幻影だろう |
ミクリオ | まさか死者まで再現するなんて… |
カイル | そんなのって… |
ベルベット | そうよ、生きているわけがない…。ラフィは死んだはずよ。あの日、あたしの前で… |
ライフィセット | お姉ちゃん、どういう事…?僕は、ここで生きてるよ…? |
ベルベット | ラフィ…。違うの、ここにいるあんたは、ラザリスの仕掛けた罠で… |
ライフィセット | えっと…よくわからないんだけど、お姉ちゃん、悪い夢でも見たの? |
ベルベット | 悪い…夢… |
ライフィセット | …そうだよね、お姉ちゃんだって怖い夢も見るよね… |
ベルベット | いいえ、あれは夢なんかじゃない…でも、このラフィは、ちゃんと…生きてる… |
scene2 | あるはずのない再会 |
ベルベット | ラフィ…ラフィ… |
ライフィセット | 大丈夫だよ、お姉ちゃん。ただの悪夢なんだから。僕はここにいるでしょ |
ジュード | …仲のいい姉弟なんだね |
レイヴン | …いやいや、少年。この場合は「仲のよかった」が、正しいんじゃない? |
レイヴン | 死んだ人間は生き返らない。それが現実よ |
レイヴン | ベルベットちゃんも、わかってるんでしょ? |
ベルベット | …わかってる。これはラザリスの罠で、このライフィセットは偽者だって… |
ライフィセット | お姉ちゃん…? |
ベルベット | でも、あと少しだけ…こうさせていて… |
ティア | ベルベット… |
ライフィセット | …… |
| |
ライフィセット | 本当に、あと少しだけでいいの? |
| |
ベルベット | …え? |
ライフィセット | 本当はずっとこうしていたいよね?現実になんて、戻りたくないよね? |
ベルベット | ラフィ…何を… |
| |
ティア | ベルベット?どうかしたの? |
ベルベット | ティア達には聞こえてない…。あたしにだけ…? |
| |
ライフィセット | そうだよ。お姉ちゃんだけに聞いてるんだ |
ライフィセット | お姉ちゃん。さっきから、ずっと思っているはずだよ |
ライフィセット | このままでいたい。このまま、僕と一緒に暮らしたい |
ライフィセット | ──復讐なんて、もうどうでもいいって |
ベルベット | なっ… |
ライフィセット | 自分を強く見せるのはやめようよ。お姉ちゃんは、もっと、ずっと、弱い人間なんだから |
ベルベット | ラ、ラフィ…何を… |
ライフィセット | 僕のために復讐するって言いながら、本当は楽な方に逃げているだけ。自分が苦しみたくないだけ |
ベルベット | ち、違う…あたしは… |
ライフィセット | だから僕が偽者だってわかっていても振り払う事が出来ないんだ |
ベルベット | 偽者…あんた、やっぱりラザリスの… |
ライフィセット | それでもお姉ちゃんは、僕と一緒に暮らしたいと思ってるよね |
ライフィセット | その方が楽だから。辛い道から、逃げられるから |
ベルベット | ふざけるな!あたしはラフィの復讐を、この手で… |
ライフィセット | でも、本当は忘れたい |
ベルベット | …っ! |
ライフィセット | 辛い事は全て忘れたい。復讐も、最愛の弟の死も… |
ライフィセット | こんな苦しい記憶は、全部忘れて楽になりたい |
ベルベット | 違う!そんな事、あたしは…! |
ライフィセット | …忘れていいんだよ?それで、ここで一緒に幸せに暮らそうよ |
ライフィセット | 復讐も、憎しみも、元の世界も、全部忘れてずっと幸福に暮らすんだ |
ベルベット | や、やめて…あたしは…あたしはラフィのために… |
ライフィセット | …だからさ。僕のためだなんて、嘘ばっかりつかないでよ |
ベルベット | え… |
ライフィセット | だって、そうでしょ?僕が死んだ事なんて、お姉ちゃんにとって── |
ライフィセット | 忘れちゃいたいと思うくらい、どうでもいい事じゃないか |
ベルベット | 違う!あたしは…ただ… |
ベルベット | あたしは──…う…うう… |
| |
ベルベット | うああああああああっ!! |
| |
ティア | ベルベット!? |
スレイ | と、突然どうしたんだ!? |
ベルベット | あああっ!うわあああああっ! |
コレット | べ、ベルベット、落ち着いて! |
カイル | そんなに剣を振り回したら、ライフィセットが…!…あれ? |
ミクリオ | ライフィセットの姿がないぞ。一体どこに… |
| グルルルル…! |
スレイ | なっ…、この魔物…!確か天帝の御座でも… |
ミクリオ | ラザリスが使役している魔物のようだね |
レイヴン | って、言ってる間に来るわよ! |
ベルベット | うあああああああっ!! |
カイル | ベルベットさん!? |
ティア | …っ、ベルベットは私が!みんなは魔物をお願い! |
scene3 | あるはずのない再会 |
スレイ | …ふぅ。何とか片付いたみたいだな。みんな、怪我はないか? |
カイル | 平気平気!何ともないよ! |
ティア | 私達も無事よ。みんな、ありがとう |
ベルベット | っはあ…はぁ…っ、ラフィはどこ?それにあの、結晶の魔物…… |
ベルベット | 結晶…くっ…ラザリス…、よくも! |
| チャキッ |
ティア | ベルベット!?もう魔物は倒したわよ! |
コレット | お、落ち着いて…!武器をしまって── |
ベルベット | うるさい!邪魔をするな! |
| |
コレット | きゃっ! |
| |
ベルベット | ラザリス…あいつは侮辱したのよ…あの子の死を、苦しみを…あの子の姿を使って……よくも…っ! |
ベルベット | 絶対に、許すものかぁっ! |
ベルベット | …はあ、はあ……ぐっ… |
スレイ | …!ベルベットさん、その腕は── |
ベルベット | うあああああああ! |
| バシュウ! |
スレイ | 魔物を、ベルベットの手が吸収した…!? |
レイヴン | それだけじゃ済まなさそーよ! |
ベルベット | っぐ、ああああっ! |
| バキッ! |
ミクリオ | あんな大木を、腕一本で軽々と… |
スレイ | くっ!このままじゃみんなも危ない!ベルベットさんを止めないと… |
レイヴン | だな…!すごい力だけど、数人で押さえ込めば何とか… |
ジュード | 僕も手伝います! |
スレイ | よし、行くぞ! |
ベルベット | あああああっ! |
| |
スレイ | うわあっ!? |
| |
ミクリオ | みんな、大丈夫か!? |
レイヴン | いてて…男三人を軽々振り払うとは… |
ジュード | でも、これだけの力…長くは続かないはず…! |
レイヴン | つっても、いつ終わるかわかんないしどうしたもんかね… |
| |
ベルベット | ぅ…あ…っ! |
| |
| ドサッ |
| |
レイヴン | ふう、何とか助かったわね… |
カイル | でも、完全に気を失っちゃったみたいだ |
スレイ | ひとまず、どこか休めそうなところに運ぼう |
ティア | ええ、そうね。かなり消耗しているみたいだし、ちゃんと休ませないと |
ベルベット | …… |
ジュード | ティアとコレットは、ここでベルベットを見てて |
ジュード | 僕達で手分けして休めそうな家を探してくるよ |
コレット | うん、わかった。さっきの魔物の事もあるし、みんな、気をつけてね |
| |
スレイ | 駄目だ、どこの家も鍵がかかってる。ミクリオ、そっちはどう? |
ミクリオ | こっちも駄目だ… |
カイル | あっ、この家は入れそう!中は誰もいないみたいだし… |
ジュード | じゃあひとまず、その家を使わせてもらおう |
レイヴン | そうね |
スレイ | …それにしても、ベルベットさんのあの腕は何だったんだろう…? |
ミクリオ | …凄まじい力だったな。まるで、憎しみそのもののような… |
スレイ | うん、オレもそう感じた。でも、どうしてそんなものが彼女の腕に…? |
スレイ | ベルベットさんは一体── |
scene1 | ベルベットの素顔 |
コレット | ジュード、ベルベットは? |
ジュード | 大丈夫だよ。落ち着いたみたいで、今はぐっすり眠ってる |
コレット | そっか…よかったぁ |
ティア | ひとまず、ここなら落ち着けそうね |
ラピード | ワフッ! |
カイル | わっ…ラピード? |
ヴェイグ | …ここにいたんだな。ラピード、案内助かった |
ラピード | クゥーン |
ティア | ヴェイグ…それに、みんなも。村の様子はどうだった? |
ルドガー | 村自体はそう広くないし、村人と会話が出来ない以外は特に変わったところはなかったよ |
ルドガー | …村の中にはね |
スレイ | 村の中には?…何かあったのか? |
ゼロス | 異常も異常、普通なら有り得ないっての |
ヴェイグ | ああ…出口がない村なんて、あるはずがない |
ミクリオ | 出口がない、だって?どういう事だ |
ルドガー | …村の出入口や広場、いろんな場所から何度も村の外へ出ようとしたんだけどな |
エリーゼ | 歩いてる内にいつの間にか村に戻されてしまって外に出られないんです… |
ティポ | ぼくもうヘトヘトー |
カイル | それじゃ、オレ達…ここに閉じ込められたって事? |
ルドガー | …今のところは、そういう事になるな |
カイル | そんな…早くここから出て、リアラ達を助けなきゃいけないのに…! |
ラピード | クーン… |
スタン | あー…でもさ、今までもいろいろあったけど、何とか乗り切れたんだ |
スタン | 今回だって力を合わせればきっと村からも出られるよ!だろ、みんな? |
スレイ | …うん、オレもそう思う。こんなところで諦めるわけにはいかない |
ヴェイグ | ああ。世界もクレアも、必ずこの手で救ってみせる |
コレット | みんな…。そだよね、きっと何か方法はある…出来るよ、うん! |
ラピード | ワンッ! |
レイヴン | うーん、いいねぇ。まさに青春、若人はこうでなくっちゃ |
レイヴン | 元気な若者を見てると、おっさんも頑張ろうって気になるねえ |
ジュード | でも、戻ってもまたミラと戦う事になるんだよね… |
スタン | それは… |
レイヴン | そうねぇ、それまでに記憶を取り戻したりでもしない限りは、ね |
エリーゼ | …… |
レイヴン | 二人共、そう暗い顔しなさんなって。ま、避けて通りたい気持ちはすんごいわかるけどね |
レイヴン | …でも、逃げてたって仕方ないしいつかはちゃんと向き合わないと |
レイヴン | でないと将来、ロクな大人にならないわよ~?なんてね |
ジュード | レイヴン… |
ゼロス | …あんたが言うと、説得力がすげーな |
ミクリオ | 確かに、レイヴンの言う事も一理ある |
ミクリオ | 僕達は、世界を取り戻すために行動してるんだ。それを忘れたら意味がない |
スタン | それはそうだけど…だからって、仲間に剣を向けるのは誰だって嫌だろ? |
ジュード | …いや、レイヴンやミクリオの言う通りだよ |
ジュード | ミラと戦う事を恐れて逃げてたら目的を果たせないし、…そうなればミラを救う事も出来ないって事だ |
ジュード | ……僕は、いつもの「本当のミラ」に戻ってほしいんだ |
ジュード | そのためにも、今のミラとしっかり向き合って…前に進まないと |
エリーゼ | ジュード… |
エリーゼ | わたしも本当のミラに会いたいです… |
エリーゼ | 本音を言えば、やっぱりミラと戦うなんてしたくないです…。けど… |
エリーゼ | でもそれが…ミラを助けるのに避けられない事なら…今度は、わたしも逃げません |
エリーゼ | ミラも、元の世界も…わたしが必ず取り戻します…! |
ティポ | よーし、やってやるー! |
レイヴン | そうそう、その意気よ。頑張れ若人、ってね |
ゼロス | でもよ、世界を元に戻そうにもまずはこの村から出ないとなぁ |
ティア | そうよね… |
ミクリオ | その事なんだが… |
ミクリオ | この村はベルベットの故郷で、死んだはずの弟も生きている… |
ミクリオ | 状況から鑑みて、ここはベルベットの過去を再現した空間という事だろう |
ミクリオ | …そしてこれは、ラザリスが彼女を陥れるために見せている幻術の類… |
カイル | それって、つまり… |
スレイ | この空間から出る鍵はベルベットさんの過去にあるって事か |
ミクリオ | …ああ、おそらくね |
ジュード | …とにかく、彼女が目覚めたらこの話をしてみようよ。あの腕の事も気がかりだし |
スレイ | …うん、そうだな |
ゼロス | あれ?そういやベルベットちゃんの姿が見えねぇな |
コレット | 今は眠ってるよ、少し、いろいろあって… |
ヴェイグ | いろいろ? |
スレイ | ああ、えっと…実は── |
scene2 | ベルベットの素顔 |
ベルベット | ん… |
| |
ベルベット | ここは…、あたしの家…? |
ティア | よかった…ベルベット、目が覚めたのね |
ゼロス | …今、「あたしの家」って言ったか? |
ジュード | この家だけ鍵が開いてたんだけど、まさかベルベットの家だったなんて |
ゼロス | 偶然にしちゃ、出来すぎだっての。ラザリスに踊らされてるみたいで、気分悪いぜ |
ベルベット | そうだ…ラフィ!ラフィ! |
ジュード | あっ、ベルベット…! |
ティア | あの部屋よ。行ってみましょう |
| |
ベルベット | ラフィ! |
ライフィセット | …あ…お姉ちゃん…?どうしたの、慌てて…けほ、こほっ… |
ライフィセット | 後ろの人達は、お姉ちゃんのお友達? |
ベルベット | …ラフィ… |
ベルベット | さっきとは雰囲気が違う…これも、偽者だっていうの…? |
ティア | え…どうして…? |
コレット | さ、さっきまでこの家には誰もいなかったはずなのに…! |
スレイ | …もしかして、ベルベットさんが起きたのと同時に現れたのか…? |
カイル | でも、一体どうして… |
ライフィセット | げほっ!げほげほっ! |
ベルベット | ラフィ! |
ベルベット | …ちょっと、すごい熱じゃない! |
ライフィセット | お姉ちゃん…。ごめんね、心配かけて… |
ベルベット | 心配って、そんなの… |
ベルベット | …スレイ、水よ |
スレイ | えっ? |
ベルベット | 水よ、早く汲んできて。ラフィ、熱が出てるから |
スレイ | あ、うん…! |
ライフィセット | お姉ちゃん…? |
ベルベット | ラフィ、ちゃんと寝てなさい。ほら、しっかり布団かけて… |
ベルベット | 待ってて、すぐに何か食べられるものを作るわ |
ティア | ベルベット… |
ベルベット | …手伝いはいらないわ。一人でやった方が早いから。…後で味見は頼むかもしれないけど |
ティア | え、ええ… |
| |
ゼロス | 驚いたな… |
ミクリオ | ああ。いつの間にライフィセットはあの部屋で寝ていたんだ…? |
ルドガー | それに、ミクリオ達から聞いた話だとあの子は、もう亡くなっているんだよな…? |
コレット | うん…ベルベットが、そう言ってたよ |
エリーゼ | さっきのベルベット…何だか別の人、みたいでした… |
ティポ | ねー。ベルベット君、優しかったよー |
ルドガー | エルと話していた時もやけに面倒見がいいと思ったけど… |
ジュード | うん…ライフィセットがいたから、だったんだろうね |
レイヴン | あれがベルベットちゃんの本来の姿…なのかもしれないわね |
| |
ライフィセット | えっと… |
ヴェイグ | …どうした。寝てなくていいのか? |
ライフィセット | お姉ちゃんがたくさん友達を連れて来るなんて、珍しくて…あの、何か迷惑かけてないですか? |
ゼロス | まぁ、迷惑っていうか… |
ライフィセット | お姉ちゃん、その…不器用な人だからみなさんに誤解されてないか心配で… |
ライフィセット | 本当はすごく優しいんです。だから…嫌いになったりしないでください |
コレット | うん、勿論だよ |
カイル | ベルベットさんはオレ達の大切な仲間だからね! |
スタン | それに、一人じゃちょっと危なっかしいもんな |
ライフィセット | よかった…お姉ちゃんの事、よろしくお願いします |
ジュード | …あの子、いい子だね |
ゼロス | そうだな…、もう亡くなったって聞いたけど、病気が原因か…? |
レイヴン | いや、ベルベットちゃんを見てる限りもっと違う原因がありそうな気がするわ |
ジュード | うん。僕もそんな気がするよ…。でも、何があったんだろう…? |
| |
ベルベット | お待たせ、ラフィ。シチューが出来たわよ。あんたの好きなカレー味で |
ライフィセット | …ホウレン草入ってない? |
ベルベット | 好き嫌いしてると、大きくなれないわよ |
ライフィセット | うう、でも… |
ベルベット | …冗談よ。今日は、ホウレン草は抜いてあるわ |
ライフィセット | 本当?やったあ! |
ベルベット | その代わり、食べ終わったらきちんと薬を飲んで、ぐっすり眠る事。いいわね? |
ライフィセット | はぁい… |
スレイ | ベルベットさん、水はここに置いておけばいいですか? |
ベルベット | …ええ。悪いわね |
| |
ミクリオ | あのベルベットが、礼を…? |
ティポ | ほんとのほんとに別人みたいー! |
ベルベット | ふぅ… |
ベルベット | …ジュード、ラフィの具合はどう? |
ジュード | ぐっすり眠ってるよ。薬もちゃんと飲んでくれたし |
ミクリオ | …何だか不思議な感じだな。幻影なのに、本当に生きてるみたいだ |
ベルベット | …! |
ベルベット | ……… |
レイヴン | …ねえ、ベルベットちゃん?あの子、本当に自分の弟だって思ってたりする? |
ベルベット | …有り得ないって、頭では理解しているわ |
ベルベット | でも、声や姿、好き嫌いまで、…全部記憶の中のあの子と同じなの |
ベルベット | 忘れもしない、あたしの弟…ラフィそのものなのよ…。だから、ついあの頃みたいに… |
スレイ | ベルベットさん… |
スレイ | 聞いてもいいですか?二人に…過去に何があったのか |
ベルベット | …… |
スレイ | さっきまでの…弟と一緒にいたベルベットさんは普段のあなたと全然違った |
スレイ | どうして、あなたがそんなに変わってしまったのか…教えて欲しいんです |
ベルベット | そうね…。あたしのせいでこの空間に巻き込んだのは事実だしあんた達には聞く権利があるわ |
ベルベット | あたしが…元の世界に戻らなきゃいけないその理由を… |
scene1 | 憎しみの原点 |
スレイ | ベルベットさん…あなたとライフィセットに何があったのか聞かせてほしいんです |
ベルベット | …どこから話そうかしら。そうね… |
ベルベット | あたしは、この村で育ったの |
ベルベット | 姉さんの夫だった義兄さんと、弟のラフィと三人で、この田舎村で暮らしてた |
ジュード | 夫“だった”…? |
ベルベット | 姉さんは義兄と結婚する前に死んでしまったから |
ジュード | そう、だったんだ…。ごめん… |
ベルベット | 姉さんが亡くなった後も変わらず義兄はあたし達の面倒を見てくれた |
ベルベット | 血の繋がった兄弟みたいに…ううん、それ以上によくしてくれたわ |
ベルベット | 狩りも戦いも、全部義兄さんが教えてくれた。ウリボアの狩り方も、立ち回りも |
レイヴン | なるほど。ベルベットちゃんの戦いは、お義兄さん仕込みなのね |
ヴェイグ | その義兄は、相当な腕だったんだな。ベルベットの太刀筋を見ればわかる |
ティポ | かっこいいよねー!シュバーッ!ってカンジでー |
ラピード | ワフッ! |
ベルベット | …義兄さんは、誰よりも強かったわ |
ベルベット | あたしには戦い方を、病気がちな弟には勉強を教えてくれていた |
ベルベット | ラフィもあたしも、…義兄さんが大好きだった |
ベルベット | 毎日、二人のために料理を作って、掃除と洗濯をして…そんな毎日だったわ |
ベルベット | 時々、ラフィと喧嘩したり…小さな失敗をする事もあったけど、穏やかで、幸せな日々だった |
ミクリオ | 何だか、今の彼女からは、想像出来ないな… |
スレイ | …うん。話を聞く限り、幸せそのものって感じだけど… |
ティア | …ベルベットの家族は、すごく仲がよかったのね |
カイル | うん。話聞いてるだけで、楽しそうだなってわかるくらい |
ルドガー | ああ…すごくいい家族って感じだけど… |
ベルベット | いい家族…か。そうね、あたしもそう思ってた。…あの日までは |
エリーゼ | …あの日? |
ベルベット | …あの日、たった一晩の内に、何もかもが崩れ去ったわ |
スレイ | …… |
scene2 | 憎しみの原点 |
ベルベット | …ん?外が騒がしいわね |
ベルベット | 何かあったのかしら? |
ベルベット | この窓からなら、村の方が見えるはず… |
| |
| グルルルル |
ベルベット | なっ…!どうして、魔物の群れが村に! |
ベルベット | 早く逃げなきゃ!ラフィ!義兄さん! |
ベルベット | …ラフィ?どこにいるの!?義兄さん!? |
ベルベット | 二人共、いない…? |
ベルベット | 義兄さんはきっと魔物退治に出たんだわ…!でも、ラフィは…? |
ベルベット | 身体の弱いあの子が、魔物に襲われなんかしたら… |
ベルベット | …ううん、そんな事考えちゃ駄目!とにかく、捜さなきゃ! |
| |
ベルベット | 一体、どこに行ったの?ラフィ!義兄さん! |
| グルルルル |
ベルベット | そんな…!村のみんなが魔物に襲われて…何でこんな事に── |
| ガアアアアッ! |
| ザシュッ |
村の女 | きゃー! |
ベルベット | …!そんな… |
村の男 | 早く逃げろ! |
| ガアアアアッ! |
村の男 | ぎゃああ! |
ベルベット | あぁ…友達も、おばさんも、みんな… |
ベルベット | そうだ、ラフィ…早くラフィを捜さないと! |
ベルベット | はぁっ、はあっ…!ラフィ、どこに行っちゃったの…!? |
ベルベット | 村中捜しても、どこにもいないなんて… |
ベルベット | まさか…森を抜けた岬に行ったんじゃ…! |
ベルベット | 村にいなかったらもうあそこしか… |
ベルベット | ラフィ!どうか、無事でいて… |
scene3 | 憎しみの原点 |
ベルベット | はぁ、はぁ… |
ベルベット | 森の中も…魔物だらけで…はぁっ、何とか、ここまで来れたけど… |
ベルベット | …ラフィ、ここにいるの?いたら返事をして! |
ベルベット | …!あそこにいるのは… |
ベルベット | …やっぱり!ラフィ!義兄さん! |
ベルベット | あぁ…よかった。二人共無事で… |
ベルベット | 義兄さん、ありがとう。ラフィを守ってくれて… |
| |
??? | … |
| |
ベルベット | …?義兄さん? |
| |
ライフィセット | お姉ちゃん…来ないで! |
??? | … |
| チャキ |
ベルベット | 義兄、さん…? |
ベルベット | どうして…どうしてラフィに剣を向けるの…? |
??? | … |
ベルベット | …ねえ、義兄さん、何か言ってよ |
ライフィセット | お姉ちゃん、逃げて! |
ベルベット | ──義兄さん、やめて!! |
| |
| ザシュッ |
| |
ライフィセット | お姉、ちゃん…… |
| |
ベルベット | ラフィ!そんな…うそ… |
??? | … |
ベルベット | どうして…義兄さん、ねぇ、どうしてよ…? |
ベルベット | 何で、ラフィを……大切な弟を… |
ベルベット | うあああああああっ!!! |
scene1 | 伝えたい気持ち |
ベルベット | … |
ルドガー | お義兄さんが… |
カイル | 家族が、家族を殺すなんて…そんなのって… |
ジュード | どうしてそんな酷い事を… |
ベルベット | …弟が殺された理由はわからない。けど、あの日の事は全部、昨日の事のように覚えているわ |
ベルベット | …今でも、目を閉じれば鮮明に思い出せる。弟が殺された光景を…! |
ベルベット | あたしは、義兄を絶対に許さない…! |
ティア | あなたの言ってた「やるべき事」…それは、義兄への復讐だったのね… |
ベルベット | …そうよ |
ベルベット | だからあたしは元の世界に戻らないといけない。何としてでもね… |
コレット | ベルベット… |
ミクリオ | …事情はわかった。けどまだ一つ、疑問が晴れない |
ミクリオ | 君の左手…その力は一体何なんだ? |
レイヴン | 生まれつきのものじゃないよね? |
ベルベット | …弟が殺された時、あたしの身体に変化が起きたの |
ベルベット | 原因も正体もわからない。この手は、何でも喰らう… |
ベルベット | 一度暴走すればあたしにも制御出来ない |
レイヴン | 暴走…なるほど、それがさっきのってわけ |
ゼロス | 家の回りの木やら地面やら、ボコボコだったもんな |
スタン | 魔物の大群でも来たのかと…。あれ、ベルベットがやったのか…! |
ベルベット | 元の世界では自在に使えてたわ。けど、こっちに来てからはあんた達の見た通り |
ベルベット | だから今まで使わないようにしてた。だけど… |
ベルベット | ……疼くのよ、この腕が。この世界に来てから、ずっと |
ベルベット | この左手はあたしの憎悪の象徴… |
ベルベット | ラザリスの創った憎しみのない世界からすれば、この手は「異物」なのかもしれない |
ルドガー | この世界の異物… |
カイル | ねえベルベットさん。疼くって事はその腕、痛いの? |
ベルベット | …どうって事ないわ。ラフィの痛みに比べたら、こんな痛み… |
エリーゼ | ベルベット… |
ヴェイグ | だが、痛むのなら無理はしない方がいい |
ベルベット | そんな事言ってられないわ。あの時の事を話して、再認識出来た |
ベルベット | あたしは、早くここから出て、元の世界に戻らなきゃいけない |
ベルベット | 弟の仇をとるためにね |
スレイ | その話なんだけど…この空間を出る鍵はベルベットさん、多分、あなたの過去にある |
ベルベット | …… |
スレイ | …オレ達、やっぱり協力しませんか? |
スレイ | ライフィセットと接するベルベットさんを見て思ったんです |
スレイ | …ジュード達の気持ち、理解してないわけじゃないんだって |
スレイ | だから── |
ベルベット | ここに来た時、ラフィが言っていたわ |
ベルベット | 「復讐も、憎しみも、元の世界も、 全部忘れてずっと幸福に 暮らすんだ」…って |
ベルベット | …つまりこの場所は、ラザリスの世界にとって都合の悪いあたしを閉じ込めるための罠… |
ベルベット | あたしにずっとここにいたいと思わせる、幻の監獄なのよ |
ベルベット | 脱出の鍵があたしだなんて、そんな事、あんたに言われなくてもわかってる |
ジュード | ベルベット…その、何て言うか…上手く言えないけど── |
ベルベット | とにかく、あたしの記憶にあんた達を巻き込んだのは悪いと思ってる |
ベルベット | ここから出る鍵は、あたしの執着にある…。それは…… |
ベルベット | …あんた達に迷惑はかけない。自分の過去には自分でケリをつけるわ |
ティア | あ…、ベルベット…! |
スレイ | …… |
scene2 | 伝えたい気持ち |
スタン | …ベルベット、行っちゃったな。ライフィセットを連れてどこへ行くつもりなんだろう… |
コレット | 二人で一緒にいたいのかな…。元の世界に戻ったら、もう会えないもんね… |
カイル | ベルベットさんの大切な弟さんは、もう… |
エリーゼ | それに、大好きだったお義兄さんに裏切られるなんて、そんな事って… |
ルドガー | 家族が家族を殺すなんて、到底、受け入れられないよな… |
ヴェイグ | ああ…、あの頑なな態度の裏にはこんな事情があったとは… |
レイヴン | 相当、キツかっただろうね… |
ジュード | …… |
ティア | ベルベット… |
ティポ | でもー、ケリをつけるなんてどうするんだろーねー? |
ジュード | …ベルベット、ここから出る鍵は自分の執着って言ってたよね |
ルドガー | ああ、確かそうだったな |
ジュード | この場所にある、ベルベットの執着って…やっぱり、ライフィセットじゃないかな…? |
ゼロス | その執着をどうにかするって、もしかして… |
コレット | そんな…!ベルベットを止めなきゃ! |
ラピード | ワンワン、ワオーン! |
スレイ | …… |
ミクリオ | …スレイ、何を考え込んでいるんだ? |
スレイ | …わからないんだ |
スレイ | ベルベットさんは今現実と向き合って前に進もうとしてる。…果たすべき目的のために |
スレイ | それをオレ達が簡単に引き止めてしまっていいのかな |
ジュード | … |
スレイ | 駄目だ、いくら考えても正しい答えが見つからない… |
ミクリオ | 確かに、難しいところではある。けど、…君らしくないな |
ミクリオ | 導師になる覚悟を語った時の明快さはどこへいったんだ? |
スレイ | 導師… |
ミクリオ | 導師は世界を導く存在だろう? |
ミクリオ | それはつまり、正しい決断を導く存在、という事だ |
ミクリオ | 今のベルベットは、目の前の問題を解決するために自分の心を殺そうとしている |
ミクリオ | でも君は…いや、僕らはその方法が「正解」であっても「正しい」とは思っていない |
スレイ | 正解だけど、正しくない…。そうだよ。オレは、ベルベットさんに傷付いてほしくなくて… |
ミクリオ | なら、その想いをそのままベルベットに伝えてみたらどうだい? |
ミクリオ | 気持ちをまっすぐに伝えるのは君の得意技、だろ |
スレイ | そのままの気持ち… |
スレイ | だったら、オレは── |
スレイ | ありがとう、ミクリオ!オレ、ちょっと行ってくる! |
ティア | 待ってスレイ、私も── |
ミクリオ | ティア。今はスレイに任せてくれないか? |
ティア | ミクリオ…でも… |
ミクリオ | 頼む、スレイを信じてほしい |
ティア | …わかったわ |
scene1 | 心の在り方 |
ライフィセット | お姉ちゃんと散歩なんて、久しぶりだね |
ベルベット | ええ、そうね |
ライフィセット | いいの?こんなに遠くまで来て。いつもならお姉ちゃん、怒るのに… |
ベルベット | …今日だけは、いいのよ |
ライフィセット | ふーん…あ。見てお姉ちゃん、綺麗な花が咲いてる |
ライフィセット | 何て花だろう。見た事ないなあ |
ライフィセット | そうだ、摘んで行って家に飾ろうよ! |
ベルベット | …そう、ね。じゃあ、摘んでくれる? |
ライフィセット | うん、まかせて! |
| |
| チャキ… |
ベルベット | ……ラフィ… |
| |
ベルベット | …っ、これは偽者…ラフィは、もう…! |
ベルベット | せめて、一撃で終わらせてあげる………痛みなんて、感じる暇もないくらいに──… |
| |
ベルベット | あああああっ! |
| |
| ガキーーーン! |
ベルベット | なっ!? |
スレイ | ま、間に合った…! |
ライフィセット | な、何!?え…お、お姉ちゃん…? |
ベルベット | スレイ…! |
スレイ | 待ってください、ベルベットさん!オレの話を聞いてください! |
ベルベット | 聞く必要はない!あたしは、その子を殺す! |
ライフィセット | お姉ちゃんが、僕を…どうして… |
ライフィセット | …… |
| ドサッ |
ベルベット | …何で邪魔したの!?あんたの目的も、ここから出る事でしょう! |
スレイ | こんなやり方は駄目だ!最愛の弟を…自分の手で殺すなんて |
ベルベット | その子は幻なのよ! |
スレイ | そうだとしても…簡単に割り切れるものじゃない! |
スレイ | 姿も声も、仕草も…全部大切な人と同じなんだ |
スレイ | このやり方じゃ、ベルベットさんが救われない |
ベルベット | …! |
スレイ | だから、オレはライフィセットを守る |
スレイ | ベルベットさんが諦めるまで、ずっと、何度でも! |
ベルベット | …あたしがラフィを殺そうとして、あんたがラフィを守るって… |
ベルベット | …めちゃくちゃよ。あんた、思った以上に変わった奴ね |
スレイ | あ…諦めてくれた…? |
ベルベット | …話を聞くだけよ。それから… |
ベルベット | ラフィをこんなところに寝させておけない。木陰に移動させるわ |
スレイ | …オレも手伝います |
scene2 | 心の在り方 |
ベルベット | …それで。あんたは、あたしに何を求めてるのよ |
ベルベット | あたしはこの方法でしかここから出られないと思ってる。だから、そうしようとしたのに… |
ベルベット | …あんたが止めなかったら、今頃あたしは… |
スレイ | …オレは、ベルベットさんが弟を殺さなくてよかったと思ってる |
ベルベット | …何よそれ。じゃあ、ここから出られなくてもいいって言うの? |
スレイ | いや、そう言うわけじゃなくて…。今のあなたにライフィセットを殺させちゃ駄目だって思って… |
ベルベット | …同情でもしてくれたわけ? |
スレイ | 違う。ただ、確認したかったんです |
スレイ | ベルベットさんはこの方法で、本当にいいと思ってるのかなって |
ベルベット | …… |
スレイ | 弟を殺す事を受け入れて心から納得出来てるなら、オレは止めません |
スレイ | だけど、オレにはそんな風に見えないから |
ベルベット | …… |
ベルベット | あたしの目的は、復讐よ。そのためにはここから出なきゃならない |
スレイ | でも、本当は弟を殺すなんて事したくないはずだ |
ベルベット | あたしの感情なんてどうでもいいの。ただ、ラフィさえ…あの子さえ殺せばそれで全部── |
スレイ | 駄目だ!そんな事したら、ベルベットさんの心が壊れてしまう… |
スレイ | そんなんじゃ、ここから出られたって意味がない |
スレイ | 本当のライフィセットもきっと、そんな事は望んでないと思う |
ベルベット | …! |
スレイ | …オレには、ベルベットさんが「復讐」っていう目的に振り回されてるように見えます |
スレイ | 優しい気持ちとか、悲しい気持ちとか本当はもっと、いろんな感情があるはずなのに── |
スレイ | 全部を「憎しみ」で抑えつけて、自分の心と向き合おうとしてない |
スレイ | 左腕の暴走も、それが原因なんじゃないですか? |
スレイ | …まるで、自分の感情にもがき苦しんでる今のあなたみたいだ |
ベルベット | ───っ!だったら、どうしろって言うのよ…! |
ベルベット | あたしに、復讐はやめろとでも言うつもり!? |
スレイ | …いや、そうじゃない |
スレイ | でも、目的に振り回されて自分の心を見失っちゃ駄目だ |
ベルベット | … |
スレイ | …探そうよ。あなたの心が犠牲にならずに済む別の脱出方法を |
スレイ | 何かに振り回されるんじゃなくて、あなたがあなたらしくいられる別のやり方が、きっとあると思う |
ベルベット | あたしが…あたしらしく…… |
ベルベット | まさかあんたにそんな事言われるなんてね… |
スレイ | え…? |
ベルベット | 正義の味方を気取った甘い奴、そう思ってた |
ベルベット | 復讐の話をしたところでどうせ理解されずに止められるんだろう、って |
スレイ | うーん、正直言うと、「復讐」そのものはよくない事だって思います |
スレイ | けど、その憎しみも含めてベルベットさんだと思うから、想いは否定はしたくないって言うか… |
ベルベット | …ふ、変わった奴ね |
ベルベット | 復讐はよくないけど憎しみの感情は否定しない、なんて言ってる事めちゃくちゃじゃない |
スレイ | で、でも、これがオレの気持ちだから… |
ベルベット | まあ、いいわ。で、そこまで言うなら別の方法って奴にアテはあるわけ? |
スレイ | えっと、それは… |
| |
| ガサッ |
| |
ベルベット | 魔物!?出てきなさ── |
| |
コレット | わ、待って!私だよ! |
ベルベット | …あんた達 |
| |
スレイ | コレット!それに、みんなまで… |
ティア | ごめんなさい、立ち聞きする気はなかったのだけれど… |
ラピード | クゥン |
scene1 | 向き合う決意 |
スレイ | みんな、急に出てくるから驚いたよ |
カイル | その…ごめん! |
カイル | なかなか戻って来ないからみんなで様子を見にきたんだけど、二人の話し声が聞こえて、つい… |
ジュード | ベルベット、あのさ… |
ベルベット | …… |
ジュード | …ごめん。僕、君の事を誤解してたと思う |
ジュード | ミラの事を言われた時、君には僕達の気持ちなんかわからないだろうって思ってた |
ジュード | …でも、違った。君にも何より大切に想う相手がいた |
ジュード | 幻影とわかってたってライフィセットを殺すなんて事、本当はしたくなかったはずだよね |
ジュード | だけど君は、逃げずにちゃんと弟と向き合おうとした |
ジュード | …あの時は、酷い事言ってごめん |
ヴェイグ | …オレ達も誤解していた。事情も知らず、お前がただ強情をはっていると… |
ベルベット | …… |
コレット | …あのね、ベルベット。私達もスレイと同じ気持ちだよ |
コレット | 復讐は、その…あまりいい事じゃないと思う |
コレット | でも、ベルベットには必要な事で…それがあるから、今のベルベットがいるんだよね? |
ミクリオ | 人は、様々な感情で動いている。君が君であるために必要な感情であるなら… |
ミクリオ | たとえそれが、誰かに復讐するという物であっても簡単に否定する事は出来ない |
ティア | 憎しみの感情が今のベルベットを支えているなら…それはきっと、必要な感情なのよ |
ベルベット | ……ふ、まさかあんた達までそんな事言うなんてね… |
スレイ | オレ、世界が変わってからずっと感じてた事があるんだ |
スレイ | この世界の人達は憎しみの感情がなくなってる。だから、争いのない平和が続いてて… |
スレイ | …でもさ、憎しみだってオレ達がオレ達であるための大切な一つの感情だ |
スレイ | それに蓋をして無理やり作った平和なんて…それでいいはずがない |
カイル | …うん。本当はあるのに無理矢理なくすなんてそんなのおかしいって言うか… |
スタン | 俺もそう思うよ。いろんな気持ちが沸き上がるのが当たり前の事なんだ |
レイヴン | 世の中、綺麗なだけじゃないってね。だからこそ面白いってところもあったりするのよね |
コレット | …そだよね。この世界は綺麗、だけど…やっぱり歪んでると思う |
ベルベット | …そうね、だから直すのよ。あたし達の手で── |
ティア | あたし達…?ベルベット、それって… |
ベルベット | ジュード、エリーゼ。あんた達に一つだけ忠告よ |
ベルベット | …同じヘマしたら許さないから |
ジュード | ……うん、大丈夫だよ |
ジュード | ミラを助けるためにも…もう、現状から目をそらしたりしない |
エリーゼ | わたしもです…。ミラも世界も、必ず取り戻したいから |
ベルベット | …わかったわ |
コレット | よかった、ベルベット…。今度こそ、一緒に… |
ゼロス | 何だか、スレイがおいしいところ持っていった感じがするなー |
スレイ | そんな事ないよ、って言うか、むしろみんなの── |
ベルベット | そういえばスレイ、あんたにはもう一つ言っておくわ |
スレイ | な、何ですか…? |
ベルベット | その堅苦しい敬語はやめて。あと、さんを付けて呼ぶのも、ね |
スレイ | …!ああ、わかった |
スレイ | じゃあ…改めてよろしく、ベルベット |
カイル | よーし、そうと決まればラザリスを倒して世界を取り戻そう! |
レイヴン | …と、その前に。まずはここから脱出しないと |
カイル | あ、そっか… |
ルドガー | さすがにここで話し合うのもなんだから移動しないか? |
ベルベット | そうね。…ラフィもあのままにしておけない |
ゼロス | なら、一旦ベルベットちゃんの家に帰ろうぜ |
スタン | そうだな。よし、それじゃ行こう |
ベルベット | あたしがあたしらしく、か… |
scene2 | 向き合う決意 |
ヴァン | ──ふん、ラザリスもようやく重い腰を上げたか… |
ヴァン | これからは、もう少し協力的に動いてくれればいいが… |
??? | ヴァン、少しいいか? |
ヴァン | …何用だ? |
ロアー | ラザリス様の姿が見られない |
ロアー | 公務などの予定はないはずだが、…何か知らないか? |
ヴァン | ラザリス様なら、所用で宮殿を離れている。しばらくは戻らんだろう |
ロアー | 所用だと…?我らの警備もなしに、一体どこへ── |
ヴァン | ロアー、少々差出がましいぞ。戻れば知らせる、それまでは下がっていろ |
ロアー | …承知した |
ヴァン | …ふ |
ヴァン | さて、果たしてどのように転んでいくか… |
| |
レイヴン | ──とりあえず、弟くんは部屋に寝かせたわよ |
ベルベット | …悪いわね |
レイヴン | ベルベットちゃんのためならお安い御用~、ってね |
スタン | それで、これからどうしようか? |
ジュード | ベルベットとライフィセットが鍵になっているのは、間違いないと思うんだけど… |
ベルベット | …あたしに、一つ考えがある |
ミクリオ | 考え? |
ベルベット | この左手よ… |
ティア | …!もしかして、あの力を…? |
コレット | 駄目だよ…!そんな事したらまた力を抑えられなくなっちゃうかも… |
ベルベット | 心配ないわ。今なら大丈夫…そんな気がするから |
ベルベット | それより心配なのは、思惑通り上手くいくかって事… |
カイル | う、うーん、いまいち話が見えないんだけど… |
ルドガー | ベルベット、君は一体何をしようとしてるんだ…? |
ベルベット | 四の五の説明するより見せた方が早い |
ベルベット | …とにかく、やるわ。あたしらしいやり方でね |
スレイ | ベルベット… |
スレイ | …わかった、ベルベットを信じるよ |
ベルベット | こんなおままごとは終わらせるわ。…全て、跡形もなくね |
| |
| コンコン |
ベルベット | ──ラフィ、入るわよ |
| …… |
ベルベット | ラフィ? |
| |
エリーゼ | あれ…?誰もいません…! |
ゼロス | さっきまでここで大人しく寝てたってのに、いつの間に… |
ヴェイグ | どこへ行ったんだ…? |
ミクリオ | 手分けして村の中を捜してみよう |
ベルベット | …いいえ、その必要はない。ラフィの居場所なら見当がつくわ |
ベルベット | …こういう時、あの子は大体あそこにいるの |
ベルベット | 付いて来て、案内する |
scene1 | 自分らしくあるために |
スタン | …すっかり暗くなっちゃったな |
レイヴン | あの少年ってば本当にこんな場所にいるのかしら… |
ライフィセット | … |
ジュード | …いた、ライフィセットだ |
コレット | けど、あの様子… |
カイル | もしかして、泣いてるの…かな |
ライフィセット | …!お姉ちゃん… |
ベルベット | … |
ライフィセット | 僕、お姉ちゃんと岬でお別れする夢を見たんだ… |
ライフィセット | 僕、すごく怖くて…お姉ちゃんが僕の事、置いて行っちゃうんじゃないかって… |
ライフィセット | ねえ、お姉ちゃん。これからもずっと一緒だよね?どこにも行かないよね…? |
ベルベット | …… |
ゼロス | ずっと一緒、ね…。これもラザリスが言わせてるのか? |
ルドガー | だろうな…。ベルベットの一番辛いところを突いているんだ |
スレイ | …きっと大丈夫だよ。信じよう、ベルベットを |
ライフィセット | 僕ね、ここでずっと待ってたんだ。お姉ちゃんが帰ってきて、また一緒に暮らせるのを |
ライフィセット | だから、お姉ちゃんが帰ってきてくれて、すごく嬉しい |
ライフィセット | また前みたいに、二人で幸せに暮らせるんだから |
ベルベット | ラフィ……くっ──…! |
| チャキンッ!! |
ライフィセット | お、お姉ちゃん?どうして剣なんて…! |
ベルベット | …黙りなさい。あんたはラフィじゃない… |
ベルベット | その子の顔で、その声で…嘘を並べたてるのは許さない! |
ライフィセット | お姉ちゃん…どうしちゃったの?こんなの、お姉ちゃんらしくないよ |
ベルベット | 黙れ、と言ったわ |
ライフィセット | … |
ベルベット | あたしらしくない、ですって?…笑わせないで |
ベルベット | 永遠の苦しみだろうが構わないわ。あたしは立ち止まらない…戦って戦って、戦い続ける |
ベルベット | いつか、あの子の復讐を果たすまで |
ライフィセット | … |
ライフィセット | …それが、君の答えかい? |
ベルベット | そうよ。思い通りにならなくて、残念だったわね |
| |
ライフィセット | …馬鹿だね。せっかく機会をあげたのに |
ライフィセット | …やれ |
| |
| グルルルル…… |
コレット | また結晶の魔物…!一体どこから…… |
エリーゼ | すごい数…囲まれてます! |
スタン | 本性を現したな、偽者め! |
ティア | くっ…みんな、気をつけて! |
ヴェイグ | まずい…囲まれたぞ! |
ラピード | ワフッ!! |
スレイ | …ああ。いくぞ、みんな! |
レイヴン | つっても、こんだけの数まともに相手してたら、それこそ永遠に終わらないわね |
ティポ | じゃあ、どーすんのさー! |
ミクリオ | こういう時は、まず小集団に別れて── |
ミクリオ | 各自、層の薄いところから突破!狙いを分散させるんだ! |
ジュード | わかった!よし…みんな、行こう! |
ベルベット | あたしの前に立ち塞がるものは全部、なぎ倒す! |
scene2 | 自分らしくあるために |
| ギャゥン…… |
ティア | はあ…はあ…今ので最後の一匹ね。ベルベット、スレイ、無事!? |
スレイ | うん。こっちは大丈夫 |
ベルベット | …問題ないわ |
スレイ | 他のみんなは…村中に散ったか。乱戦だったからな… |
ティア | きっと大丈夫。この程度の相手に遅れを取るような人達じゃないわ |
ティア | それよりも、問題は…… |
| |
ライフィセット | お姉ちゃん…村から出て行っちゃうの? |
ベルベット | ラフィ……いいえ。ラフィの姿を借りたあんた! |
ライフィセット | ……!お姉、ちゃん…? |
ベルベット | 偽者でも構わないわ。…聞きなさい |
ベルベット | さっき言ってたわね。今のあたしは、あたしらしくないって |
ライフィセット | …うん。お姉ちゃんはもっと優しい人だよ |
ライフィセット | そんな怖い顔、ちっとも似合わない… |
ベルベット | …違うわ。これこそがあたしなのよ |
ライフィセット | 何言ってるの?僕は知ってるよ、本当のお姉ちゃんを |
ライフィセット | 身体の弱い僕を、つきっきりで看病してくれた、優しいお姉ちゃんの事を… |
ライフィセット | でも、今のお姉ちゃんはまるで別人みたいだよ。本当のお姉ちゃんはそんな人じゃない |
ベルベット | そうね…。確かに、あたしは変わった |
ベルベット | 忘れたくても忘れられない、あの夜からね |
ベルベット | 何度考えたかわからない。もっと早く気づいていれば…もっと力があったなら… |
ベルベット | そうしたら、目の前で…むざむざ弟を失わずに済んだ |
ベルベット | 弟を…ラフィを、助けたかった。でも、出来なかったわ。本当に…つらくて、苦しかった… |
ライフィセット | …大丈夫だよ、お姉ちゃん。そんなの、全部悪い夢だから |
ライフィセット | 僕はここで生きてるよ。これからも、一緒にこの村で、平和に暮らそう? |
ベルベット | …駄目よ、そんな事出来やしない。この憎しみがある限り、絶対に |
ライフィセット | どうして?お姉ちゃんだって、僕と一緒にいたいと思ってるんでしょ? |
ベルベット | …あたしはそんな事、望んでいない! |
ライフィセット | …? |
ベルベット | 今ここで真実から目を背け憎しみを忘れ、あんたを選ぶなんて絶対にしない! |
ベルベット | この憎しみを否定すれば、あの子への気持ちも嘘になる! |
ライフィセット | お姉ちゃんの苦しみは僕にもわかる。でも、僕は── |
ベルベット | あたしの痛みも、苦しみも!あたしだけのもの…!全部ひっくるめて、あたしなんだ! |
ベルベット | あの子の上辺だけをなぞったお前に、お前なんかに!わかってたまるものか! |
ライフィセット | そんな…お姉ちゃん、本気で言ってるの? |
ライフィセット | 復讐したって、何も手に入らないよ。そんな意味のないものに、ずっと囚われ続けるの? |
ライフィセット | 本当に、それでいいの? |
ベルベット | この復讐に意味があるかどうかは、あたしが決める |
ベルベット | 今はただ、自分の本当の心に従うわ。…それが、「あたしらしさ」になると思うから |
スレイ | ベルベット… |
ベルベット | 復讐のために、あの子のために…。まずはここから出るわ |
ライフィセット | そう…。じゃあ、僕を…殺すんだね。お姉ちゃん |
ティア | …ライフィセットの雰囲気がまた──ベルベット、気をつけて! |
ベルベット | …… |
ライフィセット | いいよ。でも、よく覚えておいてね?僕を殺した、その感触を |
ライフィセット | それが…お姉ちゃんに一生付きまとうものだよ。そして、最後に残るもの… |
ベルベット | … |
ライフィセット | 憎しみを抱いたまま生きる?そんな事は出来ないよ。憎しみは君も周りも全て汚していく |
ライフィセット | そんな感情を抱いてまで生きようなんて…お姉ちゃんは本当に傲慢で醜いね |
ベルベット | …そうかもしれない。でも、これがあたしの生き方だ |
ベルベット | そしてこれが…あんたへの答えよ!! |
スレイ | ベルベットの左手が…!でも、前の時とは様子が違う…? |
ティア | ええ、見た目は前と変わらないけど以前のような禍々しさは感じられないわ… |
スレイ | ベルベット! |
ベルベット | …大丈夫よ。黙って見てなさい! |
ライフィセット | 醜い姿だ…さあ、やりなよ |
ベルベット | …言われなくても! |
ベルベット | はあああああああっ!!!! |
| |
ライフィセット | ……!…これは一体!? |
ティア | 空が割れて…いいえ、ベルベットの力が空間を切裂いているの…!? |
スレイ | ああ、さっきの暴走以上の力だ。信じられない…それにこれは、切裂くっていうより… |
ベルベット | 喰らい尽くせぇええええええ!!! |
ライフィセット | そんな…空間を…いや、形成するマナごと、全て喰らう気?そんなの、無理に決まってる! |
ベルベット | …あたしはっ、あたしらしく!あたしのやりたいようにする!! |
ベルベット | たとえ偽者でも…ラフィの姿をしたあんたを直接この手にかけるくらいなら… |
ベルベット | 空間ごと喰らい尽くして全てを否定してやる! |
スレイ | 空が…いや、空間が崩れるぞ!二人共、掴まれ── |
ティア | ベルベッ── |
ライフィセット | ……ちっ |
| |
| バリイイイン!! |
| |
ベルベット | ここは… |
ベルベット | 何も…、誰もいない… |
ベルベット | ……ラフィ |
ベルベット | 偽者は偽者、か… |
??? | ──ちゃん……お姉ちゃん! |
ベルベット | …!その声、まだ…しつこいわよ、いい加減に── |
ライフィセット | …… |
ベルベット | もしかして、本当の…… |
ベルベット | ラフィ… |
ベルベット | ……ごめん |
| |
ベルベット | もう少し…もう少しだけ待っていてね…ラフィ |
| |
ベルベット | …う、……ラ…フィ…、ラフィ──…! |
ベルベット | …!ここは…転移前にいた場所…? |
ベルベット | 戻ってこられたのね… |
ベルベット | …… |
ベルベット | …ラフィ、ありがとう…… |
| |
スレイ | う、…ん… |
スレイ | …い、てて………あれ?…オレ、何で… |
ベルベット | …あの空間は消え去ったわ。跡形もなく全てね |
スレイ | そっか、ありがとうベルベット |
ベルベット | …それは── |
スレイ | …っと、よし、ちゃんと全員いるな。みんな起こさないと!ほら、ベルベットも手伝って |
ベルベット | …… |
ミクリオ | ──空間が裂けたあの光景、あれはベルベットの力だったのか… |
カイル | しかも、空間を壊したんじゃなくって食べちゃった、とか… |
レイヴン | いやー、まさかそんな豪快な事をやってのけちゃうなんてね。さすがベルベットちゃんだわ |
ジュード | それにしても、よくあんな方法を思いついたね |
ベルベット | 前に暴走に飲まれた時、あたしはこの左手で魔物を喰らった… |
ベルベット | それで思ったのよ。あいつの力で創った魔物を喰えるなら空間自体喰えるんじゃないかってね |
ベルベット | …賭けのような物だったけど、上手くいってよかったわ |
エリーゼ | すごい力ですよね…。ラザリスの力を食べちゃうなんて… |
ティポ | ベルベット君、すごーい! |
コレット | それに、今回は暴走しないでちゃんと力を使いこなせてたよね |
スタン | 確かに、そういえば… |
ルドガー | けど、何で急に?確かこっちに来てからはずっと制御出来なかったって話じゃ… |
ベルベット | それは…スレイ、あんたのお蔭かもね |
スレイ | えっ、オレ? |
ベルベット | 「あたしらしく」いよう…あんたに言われてそう思ったの |
ベルベット | そしたら、この手の疼きが少し和らいだような気がしたわ |
スレイ | …そっか |
ベルベット | 結局、ラフィはあの空間と共に消え去った |
ベルベット | …だけど、闇雲にラフィを手にかけようとしたあの時とは違う |
ベルベット | 今はちゃんと納得出来ているの、これでよかったって |
ベルベット | だから…ありがとう。…さっきは言いそびれたわ |
スレイ | ベルベット… |
カイル | …思ったんだけどさ、ベルベットはそうやって笑ってる方がいいね |
コレット | うん!ライフィセットと話している時以外で初めて見たかも |
ゼロス | そのギャップがたまんないぜぇ!俺さまもう、首ったけになっちゃうかも~ |
ベルベット | 馬鹿言わないで。別に、笑ってなんか── |
ベルベット | ……まあ、何でもいいわ |
ティア | ふふっ |
レイヴン | よーし、とにかく無事に出られた事だし、早いとこマール村に移動するとしますか |
ジュード | うん、その方がいいと思う。ラザリスがまたいつここへ来るかわからないし── |
| |
??? | 遅い、ね。もういるよ、君達の傍に |
| |
ヴェイグ | なっ…!今の声… |
ラピード | ウウウッ… |
ラザリス | …とんだ茶番だね |
スレイ | ラザリス…! |
ミクリオ | くっ…、確かに気配はなかった…! |
ティア | 一体、いつの間に… |
ベルベット | ラザリス…。よくもあんな幻を… |
ラザリス | …… |
ラザリス | くく…いい夢だっただろう? |
ラザリス | ずっとあの世界に閉じこもっておけばよかったのに…残念だよ |
ベルベット | 許さない…!あんただけは絶対に… |
ベルベット | 今度こそ逃がさないわ。覚悟なさい、ラザリス! |
Name | Dialogue |
scene1 | 天帝 |
ベルベット | ──今度こそ逃がさないわ。覚悟なさい、ラザリス! |
ベルベット | 不愉快な幻を見せてくれたお礼は、きっちり返させてもらうわよ |
ラザリス | 心外だね。僕は君が望む夢を見せてあげただけだよ |
ラザリス | 弟とずっと幸せに暮らすという、儚い幻想をね… |
ベルベット | あれがあたしの望んだ夢だなんて、笑わせるわ。ただ上っ面をなぞっただけの紛い物よ |
ベルベット | 誰にも、あたしの想いを…あたしらしくいる事を否定させない。たとえ、天帝様でもね |
ラザリス | …ふん、これだからヒトは… |
コレット | ラザリス… |
スレイ | …お前がやった事は許せない…! |
スレイ | 閉じ込めるだけじゃなくベルベットの大切な思い出を踏みにじるなんて…! |
ラザリス | 僕の世界を汚す醜い咎人には、勿体ないほどの贈り物だったと思うけどね |
ティア | 世界を汚す、ですって…?私達は自分達の世界を取り戻そうとしているだけよ |
ミクリオ | …ああ、これ以上好きにはさせない |
ラザリス | あんな世界のどこがいいんだい? |
ラザリス | エンテレスティアを見てごらんよ。元の世界と違って争いはないし、誰もが笑顔で生きている |
ラザリス | 僕が管理しているお蔭さ |
ミクリオ | …確かに争いはない。だが、君達のやり方は間違っている |
ラザリス | …君「達」?ヴァンの事かな |
ラザリス | 僕とあれを、一緒にしないでほしいね |
カイル | …?ラザリスとヴァンは仲間じゃないの? |
ラザリス | 冗談じゃないよ。僕達はただ、利害が一致しているだけ |
ラザリス | …君達だって、自分を囮に使うような相手と親しくしようとは思わないだろう? |
ルドガー | 囮?何の事だ? |
ラザリス | …見てたはずだよ。そこの咎人が、公衆の面前で捕えられた瞬間を |
ジュード | …!それってもしかして、生誕祭の…? |
ラザリス | ヴァンの計略に乗せられているとも知らずに…憐れだね |
ベルベット | … |
レイヴン | …なるほどね。今の話でようやく見えたわ |
レイヴン | 不思議でならなかったのよねぇ |
レイヴン | 咎人狩りに夢中の天帝様がベルベットちゃんを脱獄させろーなんて指示、出しちゃうとかさ |
レイヴン | …つまりあれは、ヴァンへの意趣返しだったってわけね |
ラザリス | …ふっ… |
スタン | …?ラザリスがレイヴンさんに指示…?それってどういう… |
ヴェイグ | 記憶を取り戻す前のレイヴンは天帝に仕えていたんだ |
ゼロス | はー、そういう事。どうりであちらさんの事情にやたら詳しかったわけだ |
ベルベット | …あんたとヴァンの関係なんて今はどうでもいい |
ベルベット | あんた達二人が揃って葬り去られる事に変わりはないんだから |
ラザリス | …勝手だね。あんな腐りきった世界にしておいて |
ラザリス | 世界を食いつぶしていたのは君達なのに |
コレット | …ラザリス… |
コレット | …!また、あの時と同じ… |
コレット | いろんな…感情が…流れ込んで…! |
コレット | あなたは、やっぱり… |
scene2 | 天帝 |
ラザリス | ──あの世界は、ヒトの手によって死にゆく運命だった |
ラザリス | …だから、僕がもらった |
ラザリス | 僕なら世界も、君達醜いヒトだって生かしてやれる |
カイル | そんな事ない!オレ達は自分で自分の未来を手に入れられる! |
スタン | カイルの言う通りだ。俺達はお前に頼る気はない! |
エリーゼ | あなたのやり方は間違ってます…! |
ティポ | そーだ、そーだ! |
ルドガー | 俺達の絆を勝手に書き換えて、偽りの人生を与える…その先に幸せがあるなんて思えない |
ヴェイグ | 嘘で作り上げられた平和は、いつか必ず壊れる日が来る。オレ達が記憶を取り戻したように |
ラピード | ウゥゥ…! |
ラザリス | …醜いね。そういう君達のエゴに溢れた考えが、世界を食いつぶすって、気づいてる? |
| |
| チャキッ |
ベルベット | エゴでも何でも構わない。…あたしは絶対に認めないわ。あんたも、あんたの創ったこの世界も |
スレイ | ああ。オレ達の世界はここじゃない。必ずお前達から取り戻す…! |
ラザリス | …確信したよ |
| |
ラザリス | 君達は、目障りで…不愉快で…僕の世界には不要な者達だ |
ラザリス | …今、この場で排除しよう |
ティア | …!来るわ…! |
ジュード | みんな、気を付けて── |
| |
コレット | 待って! |
ミクリオ | コレット…? |
ラザリス | 君は… |
| |
コレット | あのね…やっぱり私、あなたのやり方が正しいとは思えないよ |
コレット | …でも、初めて会った時からずっと思ってました。あなたと話がしたいって… |
ラザリス | … |
ベルベット | 下がりなさい、コレット。話が通じる相手じゃない── |
コレット | 宮廷神子として会った時に私が話した事、覚えてるかな…? |
コレット | ファルカームで初めて会った時、あなたの気持ちを感じた… |
コレット | 暗くて、寂しくて、苦しい…そんな、辛い感情が流れ込んできたって |
ラザリス | …ああ、そんな事もあったね |
コレット | すごく強い感情で、今まで感じた事のない想い…あれからずっと、今も胸に残ってるの |
コレット | …ねえ、ラザリス |
コレット | あなたがこの世界を創った理由…もしかして、その感情と何か関係あるんじゃないかな…? |
ラザリス | …何だって? |
コレット | 私達の世界を晶化させてみんなの記憶や感情を奪った。それはとても酷い事だけど… |
コレット | でも、もし…どうしてもこうしなくちゃならない理由があなたにあったとしたら… |
コレット | 私が力になる事は出来ないのかな…? |
ルドガー | コレット…?何を… |
コレット | そしたら、こんな事しなくても── |
ラザリス | 世界を食いつぶし、殺そうとしていたのはヒトだ!!元凶である君に何が出来る!? |
ラザリス | 僕の力になりたいだって…? |
ラザリス | …じゃあ、僕のモノになってよ。抗わずに今を受け入れてさ |
コレット | … |
| |
ラザリス | …これ以上の会話は無駄だね。そろそろ黙ってもらうよ |
| |
ゼロス | この光…!俺達を晶化させる気か! |
スレイ | くっ──…! |
ラザリス | さようなら、そして永遠におやすみ。愚かな咎人達 |
scene1 | 拒絶の光壁 |
ラザリス | ──さようなら、そして永遠におやすみ。愚かな咎人達 |
| ピキ…ピキピキッ |
ジュード | 結晶が…! |
ルドガー | くっ、間に合わ── |
コレット | …ダメぇっ!! |
| |
カイル | うわあぁ…っ! |
カイル | …って、あれ?何ともない…? |
ラピード | ワゥン…? |
レイヴン | けど…周囲は結晶だらけよ。なのに、どういうわけかおっさん達だけ晶化から免れて… |
ラザリス | …! |
コレット | 今の感覚って、もしかして… |
ラザリス | …っ!だったら、もう一度── |
コレット | …──! |
コレット | お願い、世界の意志…!本当に私の中にいるなら、力を貸して! |
カイル | …!また無事だ! |
ヴェイグ | 晶化を防いだ…!今のはまさか… |
ゼロス | ああ、例の力だ。そうだろ、コレットちゃん? |
コレット | うん… |
コレット | 世界の意志が私の言葉に応えてくれたみたい… |
スタン | それって、前にゼロスを助けたっていう… |
ラザリス | ちっ… |
スレイ | まさか晶化を解くだけじゃなく防ぐ事も出来るなんて… |
ミクリオ | 間一髪だったが、この力は今後、僕達にとってとても有効な手段だ |
ベルベット | …そうね。これであんたの奥の手は封じたも同然だわ |
ベルベット | そうでしょ、ラザリス |
ラザリス | 世界の意志め…どこまでも僕の邪魔を…! |
ラザリス | だが、君達を消す方法はこれだけじゃない。…行け!! |
| |
| グオオオオッ!! |
ティア | また結晶に覆われた魔物…! |
ベルベット | 晶化が効かないから、魔物に襲わせるってわけ?ずいぶん単純ね |
ラザリス | …ふっ |
| グオオッ!! |
コレット | …! |
ルドガー | まずい!魔物が…! |
ゼロス | コレットちゃん!危な── |
ミクリオ | ツインフロウ! |
| バシュッ! |
| グオォ… |
ミクリオ | 怪我はないか!? |
コレット | う、うん。だいじょぶだよ。ありがとう、ミクリオ |
ミクリオ | 無事ならいいさ |
スレイ | コレット!ミクリオ!二人共大丈夫か!? |
コレット | スレイ、ゼロス… |
ゼロス | 助かったぜ、ミクリオ |
ゼロス | コレットちゃんに怪我でもさせりゃハニーに顔向け出来ねぇからな |
ミクリオ | なら、まだ油断は出来ないぞ |
ラザリス | …また邪魔が入ったか |
ジュード | 気をつけて!また魔物がくるよ! |
エリーゼ | まだあんなにたくさん…!? |
ベルベット | 数が多くても関係ない…ラザリスもまとめて、さっさと倒すわよ! |
スタン | ああ!俺達全員が力を合わせれば、数の差なんて関係ないさ!さあ、行くぞ! |
ラピード | ワオ──ンッ!! |
scene2 | 拒絶の光壁 |
スレイ | ──これで、最後だ! |
| ザシュッ! |
| グオォ… |
ベルベット | 当てが外れたわね、ラザリス。こんな魔物くらいなら、いくらでも相手になってやるわよ |
スレイ | 今度こそ、オレ達の世界を返してもらう! |
ラザリス | …。…ふふっ |
ラザリス | まさか、ここまでやるとはね |
ラザリス | やっぱり君達は、僕を煩わせる存在だ |
レイヴン | 評価してくれるのは嬉しいけど、…わかったなら、さっさと観念した方が身のためよ? |
ラピード | ウウウッ… |
ラザリス | …そうだね。僕も手段は選んでいられない |
ラザリス | 細々と芽を摘むのはやめにして、…確実な手段を取る事にするよ |
スレイ | 確実な手段…? |
| |
ラザリス | …はあああああああああっ! |
ティア | きゃあっ!? |
スタン | 何だ、この光…!目が… |
ミクリオ | さっきの晶化の力とは別物だ!それにこの揺れは一体── |
コレット | ラザリス…! |
カイル | くそっ、何かする前に止めないと──! |
レイヴン | 待てカイル!迂闊に突っ込むな! |
| |
| ゴゴゴゴゴゴゴ…!! |
ベルベット | くっ…!何が起きて──…! |
ジュード | 酷い揺れだ!みんな、身を屈めて…! |
ラザリス | ──ああああああああああっ!! |
| |
| |
ルドガー | やっと収まったか…一体何が起こったんだ…? |
ヴェイグ | …!あれを見ろ! |
| |
コレット | 光の…柱?すごくおっきい… |
ジュード | シャングレイスから伸びてる…!あれは一体… |
ラザリス | …結界だよ。君達の希望を絶つためのね |
ラザリス | これでもう、誰も宮殿には入れない |
ラザリス | 不本意だけど、仕方ないね。「特異点の修復」を急ぐためには |
スタン | 特異点…? |
ルドガー | 一体何の事だ…? |
ラザリス | 君達が刻んだこの世界の「傷」。…許されざる悪逆だよ |
ティア | 「傷」…?…確か、前に兄さんも言っていたわ |
ティア | 「あの時の傷が、 不穏分子を生み出す事になった」と |
スレイ | オレ達がつけた、あの時の傷… |
スレイ | …!ミクリオ、それってもしかして… |
ミクリオ | …ああ。天帝の御座で見た結晶の花…おそらく、あれにつけた傷の事だろう |
ジュード | ヴァンの言ってた「不穏分子」って、きっと「咎人」の事だよね。だとしたら… |
ヴェイグ | オレ達のように元の記憶を取り戻す者がいるのは、「特異点」の影響という事か? |
エリーゼ | じゃあ、その傷を…特異点を修復されてしまったら── |
ラザリス | 全てが僕色に塗り替わりあるべき姿に戻る。…ただそれだけの事だよ |
コレット | そんな… |
| キュィィィィィィィン |
カイル | …!また何か…! |
ティア | 魔法陣…!まさか転移で逃げるつもりじゃ── |
ベルベット | 行かせないわ! |
ラザリス | 無駄だよ |
| |
| ピキピキピキッ!! |
ミクリオ | なっ、壁を…!? |
ベルベット | くっ…! |
コレット | ──待って、ラザリス! |
ラザリス | … |
コレット | 少しでいい…少しだけでいいの!話を聞いて…! |
スタン | 駄目だっ、コレット! |
コレット | 変な事言ってるのはわかってる。でも、それでも私──… |
| |
ラザリス | 僕と来るかい? |
コレット | …え? |
エリーゼ | な、何を言うんですか…!コレットがあなたに従うわけないじゃないですか! |
ティポ | コレット君は絶対に連れていかせないんだからねー! |
ラザリス | …ほらね。世界の意志も君達も、僕の言葉に耳を貸そうともしない |
ラザリス | だから、僕も元の世界を…世界の意志を否定するんだ |
ラザリス | さようなら、醜いヒトの子。己の無力を嘆きながら終わりを待つといいよ |
| シュンッ |
| |
ヴェイグ | 逃がしたか…! |
ラピード | クゥン… |
ゼロス | しょうがねぇよ。幸い目的地はハッキリしてるし、まず今後について話し合いといこうぜ |
ミクリオ | ああ。奴を逃がしはしたが、コレットの力については収穫が──…コレット? |
コレット | … |
ベルベット | …ラザリスの事なら諦めなさい。話してどうにかなるような奴じゃない |
ゼロス | コレットちゃん…悪ぃけど、こればっかりは俺さまもベルベットちゃんと同意見だぜ |
ゼロス | …覚えてるだろ、元の世界がどうなっちまったのか… |
コレット | うん…わかってるよ |
コレット | …でも… |
コレット | 否定されるから、否定するなんて…そんなの、寂しすぎるよ… |
ゼロス | コレットちゃん… |
ベルベット | … |
scene1 | 希望の糸口 |
レイヴン | お待たせ~。調査隊、只今帰還しましたよっと |
ベルベット | 遅い |
レイヴン | ベルベットちゃん相変わらず辛辣…もうちょっと労ってくれてもいいんじゃな~い? |
ベルベット | はいはい、ご苦労様。で、どうだったの? |
レイヴン | ん?それだけ…?おっさん、せっかく命がけで調査しに行ったってのに── |
ミクリオ | レイヴン、話が進まないから少し大人しくしていてくれ |
レイヴン | …へいへい。最近の若者はおっさんに厳しいんだから… |
ラピード | ワフン… |
ヴェイグ | それで、肝心の結界について何かわかったのか? |
ミクリオ | 結論から言うと、大した情報は得られていない |
ミクリオ | レイヴンの手引きで誰にも気づかれずに宮殿の近くまで行けたはいいが── |
ミクリオ | …ラザリスの言っていた通りだ。宮殿を覆う光は侵入を阻む壁のようになっていた |
ミクリオ | あれがある以上、中に侵入するのはまず難しいだろう |
スレイ | 結界を壊せないかいろいろ試してもみたんだけど、何をやってもビクともしなくて… |
コレット | 私も…世界の意志に力を貸してって語りかけてみたけど、どうする事も… |
ルドガー | そっか。破壊出来ない上に、コレットの力でもどうにもならないとなると… |
ゼロス | …今のところ打つ手なしか |
レイヴン | そーゆう事。さっぱりお手上げ状態なんで、切り上げて帰って来たってわけ |
ティポ | そっかー。ざんねーん |
エリーゼ | でも、わからないって事がわかりました…それも大事な情報です |
ゼロス | ま、そういう事にしといてやるか。街に突入して宮殿まで強行突破~って選択肢は消えたワケだし… |
ティア | … |
ゼロス | って、ティアちゃんそんな小難しい顔してどうしたんだ? |
ティア | …特異点について、情報を整理していたの |
ティア | 私達のような元世界の記憶を持つ者を生み出す特異点… |
ティア | それは、かつてスレイ達がつけたこの世界への傷で── |
ティア | その傷を修復するという事は、記憶を取り戻す者が新たに生まれなくなるという事… |
エリーゼ | それって…ミラや他のみんなはもう記憶を取り戻せなくなるって事ですか…? |
ティア | おそらくね。…けれど、本当にそれだけなのかしら |
スタン | …?どういう事だ? |
ジュード | ティアは多分、最後にラザリスが言ってた言葉がひっかかってるんだよね |
ティア | ええ… |
ミクリオ | 「全てが僕色に塗り替わり あるべき姿に戻る」… |
ミクリオ | つまり、まだ記憶を取り戻していない人達への影響だけじゃなく── |
ミクリオ | 記憶を取り戻した僕達までもが再び、以前のような偽の記憶で塗り替えられてしまう |
ミクリオ | …そう考えられるという事さ |
カイル | なっ、オレ達まで!?何でそんな… |
スレイ | …いや、でもミクリオ達の言う通りかもしれない |
スレイ | ラザリスはあの時、「確実な手段を取る」って言ってた |
スレイ | その上で、あの時オレ達を置いて転移したって事は… |
ジュード | いちいち僕達の相手をしなくても特異点さえ修復してしまえば、目的は果たせる…そういう事だよね |
スレイ | うん |
ヴェイグ | …確かに、そう考えれば全ての辻褄は合うな |
ゼロス | はっ…なるほどねぇ。俺さま達の「希望を断つ」とか言ってやがったのもそういう意味かよ |
エリーゼ | でも、もしわたし達まで記憶を消されたりしたら…ミラ達を助けられなくなってしまいます…! |
ティポ | そんなのダメだよー! |
カイル | やっぱりすぐにでもその「特異点の修復」を止めないと…! |
ルドガー | だが、そもそも「特異点」って何なんだ? |
ルドガー | この世界の傷という事はわかったがそれがどういう物でどこにあるのか、何もわかっていない |
ルドガー | 止めようにもラザリスを倒すしか方法はないが、あの結界がある以上それも… |
エリーゼ | … |
コレット | … |
ベルベット | …行けるわ。いや、行くのよ。絶対に |
ベルベット | あの異空間だって破壊する事が出来たんだから、結界も潰す方法も必ずあるはずよ |
ベルベット | …あたしは一度、ラザリスに飲まれて自分らしくいる事を諦めかけた |
ベルベット | でも、もう諦めない。どんな壁が立ち塞がろうと、前に進み続けるわ |
ジュード | ベルベット… |
スレイ | オレもベルベットと同じ気持ちだ。諦めずにみんなで探そう、結界を突破する方法を |
スレイ | 特異点が修復されてしまう前にオレ達の世界や仲間…奪われた全部を取り戻さないと! |
ジュード | …うん、そうだね。落ち込んでたって何も変わらない、二人の言う通りだと思う |
コレット | みんなを救うためにも、とにかく今は、前を見ないと… |
カイル | みんなで協力すれば絶対に何か見つけられるはずだ! |
レイヴン | ま、結界を越える他に道はないしね |
スレイ | …よし、そうと決まれば早速作戦会議だ |
ミクリオ | ああ。どんな手段でもいいから一刻も早く結界を突破する策を考えよう |
ベルベット | …そうね |
scene2 | 希望の糸口 |
ヴァン | ──ようやく結界を展開したか |
ヴァン | ラザリスよ、随分と手を焼かせてくれたものだ… |
ヴァン | 長かった…しかし、まもなくだ |
ヴァン | …特異点の修復さえ終われば、ようやくこの世界は完全なものとなる |
ヴァン | ふ… |
| |
レイヴン | ──さてと、どうしたもんかねぇ。手段を選ばないとは言ってもぶっ壊す事すら出来ないわけだし |
エリーゼ | あの…ミラ達はこの結界について、何も知らないんでしょうか…? |
エリーゼ | もし知ってるなら、ミラ達の記憶を取り戻しさえすれば教えてくれるかも… |
ミクリオ | …それは難しいだろうね。特異点が修復されていない以上、彼らもまた咎人になり得るという事だ |
ミクリオ | そんな状態で、ラザリスやヴァンが彼らに結界の事を詳しく話しているとは思えない |
エリーゼ | そう、ですよね… |
カイル | そういえば…白き獅子って今どこにいるんだろう? |
コレット | ロイド達は宮殿の中にいるんじゃないかな |
コレット | さっき街に行った時、街の人の混乱を鎮めようとしてる神兵達を見たの |
コレット | そこに、白き獅子の騎士は一人もいなかったから |
スタン | 宮殿の中でラザリスの護衛をしてるって事か |
ジュード | 護衛…?待って、それって少し変じゃない? |
ジュード | 街の混乱を鎮めるなら民衆から絶大な人気と支持を得てる白き獅子の方が適役だ |
ジュード | …なのに、そこに神兵を配置して白き獅子に自分を警護させるなんて事本当にするのかな…? |
ジュード | 結界で覆われてるって時点で宮殿内は、既に安全なのに… |
ベルベット | …つまり、あんたの見解でいくと白き獅子は宮殿内にいない、そういう事ね? |
ジュード | うん、多分 |
ジュード | 街中にはいないみたいだから、何か別の指示を受けて別の動きを取ってる、とか… |
ゼロス | なるほどね |
ゼロス | ま、何してるかまではわかんねぇが今回のラザリスの動きと関係あると見て間違いねぇって事だな |
ルドガー | …ミラ達と剣を交える事態になる前にラザリスとヴァンを倒してしまえたら本来はそれがベストなんだけどな |
レイヴン | さすがに難しいとは思うけどね。…でもまあ、何にしてもあの結界をどうにかしない事には進まないってね |
スレイ | やっぱり、そうだよな |
ラピード | クゥン… |
スタン | うーん、ラザリスが創った結界だし晶化と同じで、俺達の知らない特殊な力によるものだとは思うんだけど… |
スタン | あの結界がどういうものなのか…せめて、もう少し詳しい仕組みがわかればいいのにな |
カイル | 結界の仕組み… |
カイル | あっ! |
コレット | カイル、どしたの? |
カイル | もしかしたら、あの結界をどうにかする方法がわかるかも! |
スレイ | …どういう事だ!? |
カイル | ハロルドって言う、元世界の記憶を持ってる仲間がいるんだ |
カイル | 世界を元に戻す方法を自分なりに探してみる、って今は別行動してるんだけど… |
カイル | 目的はオレ達と一緒でしょ?だから、もしかしたら結界の事も調べてるんじゃないかなって |
カイル | それに、上手くいけば特異点の事だって何かわかるかもしれない |
スタン | …確かにハロルドなら、俺達が考え付かないような解決法を見つけてくれるかもしれないな |
コレット | それなら、会いに行ってみようよ! |
ベルベット | その人はどこにいるの? |
カイル | 市都アルメリアだよ!咎人って事を隠しながら居候してる |
レイヴン | あらあら、世の中咎人狩りで大騒ぎの中よくもバレずにまあ… |
カイル | へへ、頼もしい仲間だからね |
ヴェイグ | …とにかく、そうと決まれば早くここを発つぞ。時間はいくらあっても惜しい |
スレイ | うん!それじゃあ、早速── |
スタン | …!ちょっと待ってくれ。何か聞こえないか? |
| |
| グオォォォ! |
| ザシュッ!ズバッ! |
| |
ルドガー | この音…誰かが魔物と戦っているのか! |
ジュード | 行ってみよう! |
ラピード | ワォン! |
| |
カイル | 確かこっちの方から──…いた!あそこだ! |
| グオオオオオオッ! |
??? | はあっ! |
| ザシュッ! |
スタン | …!あれって、もしかして… |
ベルベット | …いい太刀筋だけど、多勢に無勢ね。加勢してさっさと終わらせるわよ! |
スタン | ああ!行くぞ! |
scene1 | 失われゆくもの |
ベルベット | はああっ! |
| グオォ… |
| |
カイル | ふう、今ので最後かな… |
スタン | ああ、ご苦労さんカイル |
スタン | それにしても驚いたよ!こんなところで再会するなんてさ。な、リオン! |
リオン | …ふん、こっちの台詞だ |
カイル | でも、リオンさんに怪我がなくてよかった… |
リオン | あの程度の魔物相手に遅れをとるような僕じゃない |
リオン | …だが、早く倒せたのは確かだ。一応加勢の礼は言っておく |
スタン | はは、リオンは相変わらずだなぁ。けど、どうしてここに? |
リオン | 調査をしていた。ハロルドに頼まれてな |
カイル | ハロルド!?リオンさん、あの後ハロルドと合流したんですか? |
リオン | ああ。立入禁止区域の調査をしている時に会った |
カイル | そうだったんだ…あ、じゃあもしかしてハロルドも一緒にここに来てたりするんですか? |
リオン | いない。頼まれた、と言っただろう |
カイル | へぇ…ハロルドなら、こういうのは自分で見たがると思ったんだけど… |
リオン | 来たがってはいたが、あいつは今身動きが取れる状況じゃない |
カイル | …!ハロルドに何かあったんですか!? |
リオン | 咎人として白き獅子に追われている |
カイル | ええっ!?た、大変だ!捕まる前に助けに行かなくちゃ…! |
リオン | 話は最後まで聞け |
リオン | とっくに、ファルカームにある僕の家に移動済みだ |
リオン | そこで図々しくも研究とやらに没頭している |
スタン | リオン、ファルカームに家なんて用意してたのか!さすがだな |
リオン | …この世界の僕にあてがわれた偽りの家だ。僕のものじゃない |
カイル | でも、結果的にハロルドを守ってくれたんですよね?ありがとうございます、リオンさん! |
リオン | …ふん |
レイヴン | いやーしっかし、ちょうどいいタイミングで会ったもんだわね |
リオン | …どういう事だ? |
ルドガー | 実は俺達、今からハロルドに会いにアルメリアに行こうとしていたんだ |
エリーゼ | すれ違いにならなくてよかったです |
スタン | そういうわけだから、リオン、悪いけど案内を頼めるか? |
リオン | あいにくだが僕はまだ別の用がある |
カイル | 用? |
リオン | …知りたければ、あいつに直接聞け |
ジュード | って事は、その用事はそのハロルドさんから頼まれた調査の一環なんだね |
リオン | そういう事だ |
スタン | そうか…残念だけど、用事があるなら仕方ないな |
ティア | 居場所がわかっただけでも十分よ。そろそろ私達は行きましょう。事態は一刻を争うわ |
カイル | そうだね。よし、今度こそ行くぞ!ハロルドのいる、ファルカームに! |
ラピード | ワオーン! |
| |
ジュード | ──エリーゼ、大丈夫?しばらく歩き詰めだけど |
エリーゼ | はい、大丈夫です |
ティポ | ジュード君、やっさしー! |
ベルベット | ファルカームまで、あと少しね |
| |
コレット | …あれ? |
| |
ゼロス | コレットちゃん?どうかしたのか? |
コレット | えと…今、誰かに呼ばれた気がして… |
ルドガー | 呼ばれたって、誰かいるのか…?でもこの辺りには、街や村はなかったと思うけど… |
ゼロス | …いや、多分呼んだのは人じゃない。この近くには、例の遺跡がある |
ゼロス | なあコレットちゃん。その感覚、あの時と同じヤツじゃないか? |
コレット | うん…きっと、そうだと思う。前と同じ、不思議な感じ… |
コレット | …でも、どしてかな。前より、声が小さいというか…私を呼ぶ力が、弱まってる…? |
スレイ | え? |
ミクリオ | … |
ミクリオ | 確か、以前あの遺跡にコレットを呼び寄せた力の正体は、不思議な光の玉だったな… |
ジュード | 光の玉? |
スレイ | ああ、えっと…この近くに地下遺跡があるんだ |
スレイ | 白き獅子が守ってた立入禁止区域らしいんだけど、その中に不思議な光の玉があって── |
スレイ | コレットが近づくと反応して、元の世界にあるオレとミクリオの故郷イズチを映し出したんだ |
ヴェイグ | そんな物が何故立入禁止区域に…? |
コレット | …それはわからないけど、ロイド達も光の玉の事は何も知らないみたいだったよ |
ベルベット | 白き獅子ですら…? |
ジュード | …何か引っ掛かるね、元の世界を映す光の玉なんて。しかも、その声が小さくなってるとか |
ルドガー | もしかしたら、ラザリスの行動と何か関係があるんじゃないのか? |
ミクリオ | …確かに考えられなくはないな |
レイヴン | なら、ここは二手に分かれてそれぞれ調べてみるってのはどう? |
レイヴン | 一方は、引続きファルカームを目指して結界について調べる |
レイヴン | で、もう一方は、その立入禁止区域の遺跡に行って光の玉を調べる、って具合にさ |
レイヴン | …結界の方だってまだ確かな事がわかるとも限らないし、情報は多いに越した事はないでしょ? |
ゼロス | 確かにそれがいいかもな。こんだけ人数もいりゃ、分かれても戦力的にも問題なさそうだし |
コレット | うん、私も賛成だよ。あの光の玉の事はやっぱり気になるし… |
ヴェイグ | …決まりだな |
ティア | じゃあ、早速誰がどこに行くのか決めましょうか |
スレイ | 遺跡の方は、コレットとゼロス。あと、オレ達も一緒に行くよ。いいよな、ミクリオ |
ミクリオ | 勿論だ。あとはそうだな、あの遺跡は白き獅子の管轄でもある |
ミクリオ | その点を踏まえると念のためにもう何人か、同行してくれると助かるんだが… |
エリーゼ | じゃあ、わたし行きます |
ティポ | ぼくだってー!いつでもエリーと一緒だもんねー |
ヴェイグ | オレとルドガーも一緒に行こう |
ルドガー | ああ。これでちょうど半々くらいになったんじゃないか? |
カイル | えっと…オレだろ、あとスタンさんと、ラピードと──… |
カイル | …うん、ちょうど半分くらいだ! |
ベルベット | そうと決まれば、早速行くわよ |
ラピード | ワフッ! |
スレイ | …よし、じゃあ少しの間別行動だ |
スレイ | 遺跡の調査が終わったらオレ達もファルカームに向かうよ |
ジュード | うん、わかった。…それじゃあ、僕達は行くよ |
カイル | みんな、気を付けて。また後で! |
コレット | ありがと。カイル達も気を付けてね! |
scene2 | 失われゆくもの |
カイル | レイヴンさん!ファルカームはこっちでいいんですよね! |
レイヴン | そうそう。そのまままっすぐねー |
カイル | よーし、ラピード!街が見えたら競走しよう! |
ラピード | ワンワン! |
スタン | ははっ、二人共元気だなぁ |
レイヴン | そのエネルギー、分けてもらいたいくらいだわ… |
カイル | 元気はオレの取り柄なんで! |
カイル | それに、決めてるんだ。どんなにつらい時でも、足を止めたりしないって |
カイル | 英雄は、先を恐れないで前に進み続けるものだと思うんです! |
レイヴン | 英雄…? |
スタン | カイルの父親はすごい英雄らしいんだ。憧れで、目標なんだってさ |
レイヴン | …へえ。そりゃすごいわね |
カイル | はい!オレもいつか、父さんみたいになってみせます! |
スタン | カイルならきっとかなえられるよ |
カイル | へへ、ありがとうございます! |
レイヴン | 英雄、ね… |
ベルベット | ──カイルは本当に元気ね |
ティア | ふふ、そうね |
ジュード | … |
ティア | …ジュード、どうかしたの? |
ジュード | … |
ベルベット | ちょっと、ジュード。聞いてるの? |
ジュード | …あ、えっと…ご、ごめん!僕に何か用事? |
ベルベット | … |
ベルベット | …何考えてるのかは知らないけど、あんまり気を張ってると長く持たないわよ |
ベルベット | カイルみたいに…とまでは言わないけど、もう少し肩の力を抜いてもいいんじゃない? |
ジュード | え…?…あ、ありが、とう…? |
ベルベット | …何よ、その反応。失礼ね |
ジュード | あ、いや…何て言うかベルベットが僕を気遣ってくれるとは思わなくて… |
ジュード | …って、ああその…悪い意味じゃなくて──… |
ベルベット | 別にいいわよ。今までを思えば当然の反応だと思うし |
ジュード | うう、ごめん… |
ベルベット | だから気にしてないってば |
ティア | …ふふっ。ベルベットも、心配したならしたと素直に言えばいいのに |
scene3 | 失われゆくもの |
ヴェイグ | …ここにも白き獅子はいないみたいだな |
スレイ | 立入禁止区域にすら一人も警備がいないなんて… |
エリーゼ | …やっぱり、ラザリスから何かの任務を命じられているのでしょうか…? |
ティポ | 何だか不気味ー |
ゼロス | まあ何であれ、今の俺さま達にしたら好都合だけどな。行こうぜ、コレットちゃん |
コレット | うん──…、きゃっ! |
ルドガー | コレット!? |
ミクリオ | 危ない! |
ミクリオ | 怪我はないか? |
コレット | だいじょぶだよ。ありがと、ミクリオ。…また助けられちゃったね |
ミクリオ | これくらい大した事じゃないさ。それより、足場がよくないから気を付けて進んでくれ |
コレット | うん! |
| |
コレット | あった!これだよ! |
ルドガー | これが、元世界の景色を映しだす光の玉なのか… |
| |
ティポ | わわわ!光の玉がおっきくなったよー! |
エリーゼ | 本当に、コレットが近付いたら反応しました…! |
エリーゼ | 景色が映っています…! |
| |
ヴェイグ | これは…ウィンドルのバロニアか…? |
スレイ | あれ、本当だ…前は確かにイズチが見えたのに |
ヴェイグ | …元の世界の景色だが、映し出す場所はその時々で違うという事か |
ルドガー | …懐かしいな。「元の世界の名残」とでも言うべきか |
| |
ミクリオ | … |
スレイ | ん?あれ、この光の玉…何か小さくない? |
| |
コレット | ほんとだ…確かもっとこう、大きかったよね |
ゼロス | 言われてみりゃ、一回りは違うな。どうなってんだ、こりゃ… |
コレット | もしかして…これが私を呼ぶ力が小さくなった理由、なのかな… |
ミクリオ | … |
ミクリオ | もしかしたらだけど… |
ミクリオ | この光の玉が、ラザリスの言っていた「特異点」なんじゃないか? |
ゼロス | …何だって? |
ミクリオ | 特異点は、ラザリスやこの世界にとって害をもたらす傷口… |
ミクリオ | それが目に見える形として現れたのが僕達の世界の名残であるこの光の玉だとしたら… |
ヴェイグ | …確かに、元世界の記憶所持者を生み出す特異点の性質からして、考えられない話じゃないな |
スレイ | 光の玉の力が弱まったのも、ラザリスが動き出してたのと同じタイミングだし… |
ルドガー | じゃあ、立入禁止区域として白き獅子に警備させて、誰も近付けないようにしていたのも… |
ルドガー | 迂闊に民衆を近づかせて、元の記憶を取り戻しでもしたら面倒だから、って事か? |
ミクリオ | …詳しい事はわからないがこの光の玉がラザリス達にとって── |
ミクリオ | 蓋をしておきたい厄介なものである、という事は間違いないだろうね |
エリーゼ | じゃあ、やっぱり本当にこの光の玉が… |
ティポ | そうとしか考えられないもんねー |
| |
スレイ | …って事は、「特異点の修復」は「この光の玉を消し去る事」にになるよな…? |
ヴェイグ | だが、特異点が本当にこの光の玉だとして、何故コレットに反応するんだ? |
ゼロス | …もしかしたら、コレットちゃんの「世界の意志」ってヤツも元世界の“何か”なんじゃねぇのか? |
コレット | 元の世界の… |
ゼロス | 考えてもみろよ。晶化を解く、防ぐ…どっちにしてもラザリスに対抗する力、だ |
ゼロス | ミクリオの野郎が言うように、本当に特異点が、元世界の名残なんだとしたら── |
ゼロス | ラザリスに反発するもん同士、互いに共鳴すんのはごく自然な事だと思うぜ |
コレット | … |
スレイ | とにかく、この事は一刻も早くみんなに知らせた方がいい |
ミクリオ | 同感だ。急いでファルカームへ行こう |
ルドガー | ああ |
scene1 | 掴んだ希望と選択肢 |
カイル | よし、ファルカームに到着だ! |
レイヴン | さーて、んじゃま早速目的のお家に向かうとしますか。スタン、案内頼める? |
スタン | ああ、任せてくれ。リオンからバッチリ聞いておいたから |
スタン | 確か…えーっと、…あっちの方だったかな? |
カイル | あれ?向こうじゃありませんでした? |
スタン | えー、そうだったか?何かこっちのような気もしてきたな |
ベルベット | …駄目ね、アテにならないわ |
ジュード | そ、そうだね… |
レイヴン | はあ…しゃーない、街の人に聞いて探すしかないわね──…って、ありゃ、ワンコ? |
ティア | 何かの匂いを嗅いでる…?もしかしてラピード、案内してくれるのかしら? |
ラピード | ワフッ! |
レイヴン | ついて来いって言ってるみたい |
レイヴン | いやーさっすがワンコね。…というわけで、とりあえずついてってみるとしようかね |
ベルベット | …あんた、犬が何言ってるかわかるの? |
レイヴン | いんや、ほぼカンよ。ワンコとお話しするのは誰かさんの専売特許だったしね |
レイヴン | ただまあ、違ってたらワンコ本人から文句が出るだろうからおおむね合ってるって事でしょ |
ベルベット | 適当ね… |
ジュード | まあまあ、とにかくほら、ラピードの後を追ってみようよ |
| |
ティア | ここがリオンの家… |
ラピード | ワン! |
カイル | ハロルド、中にいるかな? |
ジュード | 声をかけてみようか |
| コンコン |
ジュード | すみません、誰かいませんか? |
ティア | …反応がないわね |
カイル | もしかして、出かけてるのかな? |
スタン | ハロルドは追われてるんだろ?一人で出歩いたりするかなぁ |
ベルベット | 居留守でも使ってるんじゃないの?カイル、あんた知り合いなら呼びかけてみたら? |
カイル | あ、それもそっか! |
カイル | おーい、ハロルド~!オレだよ、カイルだよー!リオンさんから聞いて会いに来た── |
レイヴン | ちょっとちょっと!少年、声大きすぎ!あっちもこっちもわけありなんだからもう少し静かに… |
??? | …今の声、もしかしてカイル? |
| ガチャ |
ハロルド | やっぱりカイルじゃない!無事でよかったわ! |
カイル | ハロルド! |
スタン | 元気そうでよかった! |
ハロルド | あら、スタンもいたの。こんな事なら、もっと早く出てくるんだったわ |
ティア | やっぱり、私達を警戒して隠れていたのね |
ハロルド | まぁ、一応追われてる身だからね。知らない声しか聞こえなかったら、そのまま無視するつもりだったわ |
ハロルド | …で、あんた達はどちら様? |
カイル | ティア達はオレの仲間だよ。実はオレ達… |
ハロルド | ちょい待ち。とりあえず、中に入ってくれる?誰に見られるかわからないしね |
スタン | そうだな、話は中でしよう |
scene2 | 掴んだ希望と選択肢 |
ジュード | ──というわけで、カイルの提案で、研究者であるあなたの見解を聞きに来たんです |
ハロルド | なるほどなるほど…宮殿の結界に特異点の修復、世界の意志を宿した女の子ねぇ… |
ハロルド | 興味深い研究対象がいっぱいじゃない。グフフ、腕が鳴るわ~ |
カイル | 相変わらずだなぁ…まあ、楽しそうで何よりだよ |
カイル | それで、どうかな?結界や特異点について何か知らない? |
ハロルド | そうねえ、とりあえずちょっとついてきてくれる? |
ティア | どこへ行くの? |
ハロルド | 私の部屋。見せたい物があるのよ |
| |
ハロルド | さ、入って入って! |
カイル | お邪魔し…うわっ、アルメリアのハロルドの部屋そっくり! |
カイル | また勝手に改造したの?リオンさんが見たらなんて言うか… |
ハロルド | 大丈夫よ。最初は文句言ってたけど、最近は何も言わないし。受け入れてくれたんだと思うわ |
ジュード | それは…受け入れたと言うか、諦めただけなんじゃ… |
ハロルド | いいのよ。お互い咎人同士、持ちつ持たれつって奴なんだから |
レイヴン | うーん、なかなかぶっ飛んだお嬢さんだねぇ |
ラピード | フン… |
ハロルド | ほら、いつまでもそんなところに立ってないで、早く座りなさいな。話す事はいっぱいあるんだから |
| |
ティア | …それで、私達に見せたい物って何かしら? |
ハロルド | これよ |
カイル | …何これ、地図?いくつか印がついてるけど… |
スタン | こっちは大きな丸が書かれた紙がたくさん…場所も書かれてるな |
ハロルド | ええ。何か所かある立入禁止区域の場所と、そこで見つけた謎の光の玉について書き記したものよ |
ジュード | 光の玉…! |
レイヴン | これ、全部ハロルドちゃんが? |
ハロルド | さすがに一人じゃ大変だから、リオンにも手伝ってもらったわよ |
ハロルド | この光の玉は、調べられた範囲全ての立入禁止区域にあったわ |
ハロルド | 白き獅子…というかラザリスは、どうしてもこれを人に見られたくなかったみたいね |
ベルベット | 見られたくないのは…多分、この世界じゃありえない光景が見えるからよ |
ハロルド | 何それ、どういう事!? |
カイル | ああ、ええっと… |
ハロルド | ──世界の意志に反応して元の世界の景色を見せる、か。ふむふむ、なるほど |
ハロルド | …推測にはなるけど、その光の玉は、元の世界の欠片とか残滓みたいな物なのかもね |
ジュード | 元の世界の欠片? |
ハロルド | ラザリスが消し切れなかった、元の世界の記憶や記録なんかが見えるようになってるって事 |
ハロルド | そして、それがラザリスの言う「特異点」なんじゃないかしら |
スタン | なっ…光の玉が特異点…だって!? |
ハロルド | そ。ラザリスにとってのこの世界のあるべき姿…それは、元の世界の要素が介在しない世界よ |
ハロルド | となると、本来存在しないはずだった元の世界の要素である光の玉は、既にこの世界にとって異物でしかない |
ハロルド | つまりは、ラザリスが必死に消そうとしてる特異点である可能性が限りなく高いってわけ |
ジュード | じゃあ、ラザリスの言ってた「特異点の修復」はその光の玉を消すって事…? |
ハロルド | まあ、そういう事になるわね |
ハロルド | にしても…元の世界の情報がたっぷり詰まった光の玉、か |
ハロルド | 時間をかければ、そこから特異点の修復を食い止める事も出来るかもしれないわね |
ティア | それは本当なの!? |
ハロルド | 理論上は可能なはずよ。具体的な方法は調べないとわからないけど |
カイル | それでも十分だよ!新しい方法を見つけてくれてありがとう、ハロルド! |
スタン | よし、ならその方法を探して特異点の修復を食い止めよう! |
スタン | 俺達さえ記憶を書き換えられたりしなければ、あいつらを倒して元の世界を取り戻す事は出来る! |
ラピード | ワフッ! |
ハロルド | ただねえ…その方法は、正直推奨出来ないわ |
レイヴン | どういう事? |
ハロルド | ラザリスは、既に特異点の修復を始めたんでしょ? |
ハロルド | 調査して、方法を発見して、実行。それをするだけの猶予を、与えてくれる相手とは思えない |
ベルベット | …まあ、そうでしょうね |
ハロルド | もし仮に時間があったとしても、ラザリスやヴァンが妨害を仕掛けないわけがない |
レイヴン | まあ、そりゃそうよね。自分達の計画を邪魔されないようにあちらさんも必死だろうし |
ベルベット | …やっぱり、特異点の修復が終わる前にあいつらを倒すしかないって事ね |
ハロルド | そうなるわね |
スタン | じゃあ問題はやっぱりあの結界、だよな |
カイル | ねぇ、ハロルド。結界の事は何かわからないの? |
ハロルド | 任せてちょうだい。ちょうど今そっちについても調べてたところだから |
ハロルド | ただ、そのためにもまずは情報を入手しないと。予定だとそろそろ… |
| ピーッ!ピーッ! |
ジュード | うわあっ!?な、何の音!? |
ハロルド | お、ナイスタイミング!リオンの奴、首尾よくやってくれたみたいね |
スタン | リオン?そういえば、ハロルドに用事を頼まれてたって… |
ハロルド | ええ。リオンには、私の発明品を持って結界を調査しに行ってもらってたの |
| カタカタ… |
ジュード | 発明品ってどんな物なんですか? |
ハロルド | 簡単に説明すると、エネルギーの量と流れを測定するための道具よ |
ハロルド | あの結界が現れてからこの世界のエネルギーが少しだけ不安定になっててね |
ハロルド | ちょっと気になったから、調べていたところだったのよ |
ベルベット | それで、何かわかったの? |
ハロルド | ちょおっと待ってねー |
| カタカタ… |
ハロルド | ふむふむ…リオンから送られてきた情報によると… |
ハロルド | どうやら、あの結界に向かって何か大量のエネルギーが流れ込んでるみたいね |
ハロルド | おそらく集めたエネルギーを使って、強力な結界の構築を行ってるんだわ |
ジュード | 結界の構築…? |
ハロルド | …っと、よし。そのエネルギーの供給元になってる場所がわかったわよ |
ハロルド | ちょっと、この地図を見てくれる? |
ハロルド | 一つはここ、大陸南部にある「蒼流の神殿」ね。もう一つは北西にある「翠樹の神殿」 |
ハロルド | そして最後の一つが、北東にある「虹雲の神殿」よ |
スタン | あれ…この神殿ってどれも、凶暴な魔物が棲みついてるって噂のある場所だよな? |
ティア | ええ。付近の住人すらも立ち寄らない危険な場所だと、兄さんから聞かされていたわ |
レイヴン | … |
ハロルド | その噂自体も、ラザリスやヴァンが広めたものかもしれないわね |
ハロルド | それぞれの神殿内には「核」があるはずだから。安易に人が近づかないようにって |
カイル | 「核」…? |
ハロルド | エネルギーの源…言ってみたら、結界の電池ってとこね |
ハロルド | それが何でどんな形のものなのか、詳しい事はわからないけど必ずあるはずよ |
ベルベット | じゃあ、その核を破壊すれば… |
ハロルド | エネルギーの供給は止まる…すなわち、結界は解除されるって事ね |
カイル | じゃあ、すぐにでも行こうよ!その「核」のある神殿に! |
ジュード | そうだね。コレット達が来たらすぐに動き出した方が── |
レイヴン | …とその前に、おっさんみんなに言わないといけない事を思い出しちゃったわ |
ベルベット | 何? |
レイヴン | 行方知れずの白き獅子さん方の動向について、よ |
レイヴン | …あの三人は今、その「核」とやらの守護についてると考えて間違いない |
カイル | レイヴンさん、何か知ってるの!? |
レイヴン | ハロルドちゃんの話にあった神殿…あの三つは、確か白き獅子の管轄でね |
レイヴン | 蒼流の神殿はクロー隊、翠樹の神殿はファング隊が。んで、虹雲の神殿はロアー隊 |
レイヴン | …ってな具合に、各神殿を各隊が面倒みるように担当が割り振られてるってわけ |
レイヴン | って言ってもまあ、あの辺りは実際魔物が多くて── |
レイヴン | 担当こそ割り振られているものの、白き獅子も足を踏み入れる事自体滅多にないって話だけどね |
レイヴン | …けど、そんな神殿にそれぞれ重要な核があって、オマケに白き獅子の動向は不明 |
レイヴン | そうきたら、最奥に待っているのは当然… |
カイル | そんな…!じゃあ、核を壊すためには… |
ジュード | … |
ベルベット | … |
スタン | …でも、行く前に知れてよかったよ。戦う事は避けられなくても、何か策は考えられるかもしれないし |
スタン | 思い出してくれて助かったよ、レイヴンさん!な、みんな? |
レイヴン | おっさんもいろいろとしゃべってくれたクローに感謝でもすべきかね |
カイル | …やっぱり、レイヴンさんとクローは仲がよかったんですね |
カイル | 二人はきっと、ただの仕事仲間よりもっと…特別な何かがあるとは思ってたけど |
レイヴン | はは、ただの腐れ縁みたいなもんよ。ま、そのお蔭で、こっちの世界でも繋がってられたのかもしんないけどね |
ベルベット | こっちの世界でも…? |
ティア | …もしかしてレイヴン、あなた、元の世界でもクローと知り合いなの…? |
レイヴン | あれ、言ってなかったっけ?クローの正体、…あれはユーリよ。ね、ワンコ |
ラピード | ワフッ! |
ティア | ユーリですって…!?そんな、嘘… |
ジュード | そんなの聞いてないよ…!一体いつからその事を? |
カイル | ユーリ…ユーリ…あ、確か前にイニル街で会った人だ! |
レイヴン | およ、まさかの少年まで知り合いだったなんて |
スタン | …って言うか、何でこんな重要な事今まで黙ってたんですか!? |
レイヴン | え?まさかこんなに責められるなんて… |
ジュード | 当たり前だよ!他のみんなもきっとすごくびっくりすると思う… |
レイヴン | うーん、だってほら、改まって言うようなもんでもないじゃない? |
スタン | だけど… |
ハロルド | …まあまあ、そこまでにしなさいな。結果、避けられない戦いを目前にちゃんと真実がわかったんだから |
ハロルド | でしょ?レイヴン |
レイヴン | そうそう、ハロルドちゃんの言う通り! |
ティア | …やっぱり、あの三人と戦う事は避けられないわよね |
カイル | 出来れば、戦わずに核だけ壊せたら一番いいんだけど… |
ジュード | … |
scene3 | 掴んだ希望と選択肢 |
ゼロス | はぁ~。やぁっと着いたぜー |
ルドガー | リオンの家、だったか |
エリーゼ | レイヴン達はハロルドって人とちゃんと会えたんでしょうか… |
??? | おーい、みんなー! |
スレイ | あっ、カイル!それに、ティアとレイヴンさんまで! |
ティア | みんな無事みたいね |
ティポ | もしかして、ぼく達をお迎えに来てくれたのー? |
レイヴン | まぁね。そろそろ着くんじゃないかと思って街の様子を見ながら待ってたのよ |
コレット | そなんだ、三人共ありがと! |
カイル | 他のみんなもリオンの家で待ってるよ。さ、早く行こう! |
| |
ハロルド | おかえりー。無事に仲間と合流出来たみたいね |
コレット | 無事に合流出来てよかった!ね、ラピード! |
ラピード | …ワゥ |
ミクリオ | …このまま再会を喜んでいたいところだけど、みんなに話さなきゃいけない事がある |
スタン | ああ、そうだな。俺達もみんなに聞かせたい事がある |
ハロルド | ちょうどいいわ。ここらで情報交換といこうじゃない? |
| |
ゼロス | ──おいおい、マジかよ。まさかクローがユーリだなんて… |
ヴェイグ | …ラピードがレイヴンを白き獅子のところへ誘導したのもそれが理由だったのか |
レイヴン | ごめんね。まあ、別に隠してたつもりじゃなかったんだけども… |
ティア | …後は、光の玉の事ね。まさか、スレイ達の故郷だけでなく今回はバロニアを映しただなんて… |
ティア | やっぱりあれは、元の世界の欠片であり特異点なのね |
ヴェイグ | ああ。まさかこっちでも同じ結論に至っていたとはな… |
ルドガー | コレットに宿る世界の意志も、おそらく元の世界と関わりがある事は確かだと思う |
コレット | あの様子だと、多分…既に特異点は弱まり始めてると思う… |
スレイ | うん…特異点が完全に修復されるまであまり時間がないって事だ |
ミクリオ | 僕達が思っている以上に、事態は切迫している… |
カイル | 一刻も早く、特異点の修復を止めさせないと…! |
ゼロス | それで、肝心の結界の事は何かわかったのかよ? |
ベルベット | …ええ、結界を解く方法をハロルドが見つけてくれたわ |
コレット | ほんと!?どうすればいいの!? |
ベルベット | 帝都の結界に力を送っている神殿が三つあるみたい。そこにある「核」を壊せばいい |
ベルベット | 核の破壊は、三手に分かれて一気に潰そうって話になったわ |
ハロルド | 既に、ラザリスの修復の影響は出てるみたいだし── |
ハロルド | 全員で一か所ずつ回ってる時間なんて残されてないだろうからね |
ルドガー | …そっか。じゃあ、誰がどの神殿に行くのか決めないとな |
カイル | うん。けど、その前に…みんなにも話しておかないといけない事がある… |
ミクリオ | 何だ? |
| |
スタン | ミラ、ロイド、ユーリの三人がそれぞれの神殿で核を守ってるみたいなんだ… |
| |
コレット | …!それってもしかして… |
エリーゼ | ミラと…戦う… |
ベルベット | … |
レイヴン | …まあね、突然聞かされてびっくりするのもわかるけどもさ。こればっかりは、覚悟決めなきゃ |
ベルベット | 何も無理に縁の深い相手のところに行く必要もないしね |
ジュード | … |
レイヴン | …って事で、おっさんはクローのいる蒼流の神殿に行かせてもらうとしようかね |
レイヴン | ワンコ、勿論おたくも一緒でしょ? |
ラピード | ワォーン! |
レイヴン | …今度は俺が助けるって、本人に宣言しちまったからね |
カイル | レイヴンさん… |
ジュード | …そう、だよね。助けたいなら、戦う事から逃げずに自分の手で取り戻さなきゃ… |
ジュード | 決めた。僕はミラのところへ行くよ |
エリーゼ | ジュード… |
ベルベット | … |
コレット | … |
コレット | …私、やっぱりファングの…ロイドのところに行きたい!ううん、絶対に行く! |
ゼロス | コレットちゃん… |
スタン | 戦うしかないってわかってるけど、やっぱり気が重いよな… |
スレイ | うん…。みんな、戦わないで助けられたらいいのに… |
ミクリオ | …気持ちはわかるが、難しいだろう。あまり期待させるような事は言わない方がいい |
エリーゼ | …わたし、は… |
ヴェイグ | …今すぐに決めなくてもいいんじゃないか? |
ヴェイグ | 大切な事だろう。しっかり考えた方がいい |
エリーゼ | …ヴェイグ… |
ハロルド | そうね。もうすぐ日も落ちるしどの道、行動は明日からになる |
ハロルド | 一晩じっくり考えてみるのもいいと思うわ |
ベルベット | ええ、そうしましょう |
scene1 | 未来の英雄、過去の英雄 |
レイヴン | うぃ~…ヒック。たっだいま~ |
スタン | レイヴンさん、おかえりなさ…うわっ!顔真っ赤! |
レイヴン | いやあ、ちょいとばかし羽目を外しちゃったかな?あ、晩ご飯まだ残ってるぅ? |
ヴェイグ | …今持ってくる。そこに座って待っていてくれ |
レイヴン | うはは、ありがとね青年~ |
スタン | 大丈夫ですか、レイヴンさん。足元フラフラしてますけど… |
レイヴン | え~?まだまだ平気よ~。息もクサくないでしょ~?はあ~っ |
スタン | う…っ!ど、どう考えても飲みすぎですって! |
ラピード | クゥン… |
スタン | ほら、ラピードも鼻押さえてうずくまっちゃってますよ! |
レイヴン | あらま、失礼しちゃうわ~ |
ヴェイグ | …ほら、持ってきたぞ。水も用意したから飲め |
レイヴン | あんがと、助かる~。うひゃひゃ |
カイル | レイヴンさん、やっと帰って来た!こんな時間までどこ行って…って、クサッ! |
ヴェイグ | 来てしまったか…タイミングが悪かったな |
カイル | もう、明日は大切な仲間と戦うっていうのに、何やってるんですか! |
レイヴン | そんなかたい事言わないでよ。おっさんなりの気合いの入れ方って奴なんだからさ~ |
レイヴン | それよりほら、少年もおっさんと一緒に飯でもど~お? |
カイル | オレはいいです!…レイヴンさん、もう休んだ方がいいんじゃない? |
レイヴン | つれないわね~。たくさん食べないと大きくなれないわよ~? |
レイヴン | それに、ご飯はみんなで食べた方が楽しいでしょ。ね、スタン? |
スタン | 俺!?えっと…そ、そうですね…? |
ラピード | ワンッ! |
レイヴン | ほら、スタンもラピードも同意してるじゃない |
カイル | ええぇ… |
スタン | ごめん、カイル…俺にはレイヴンさんを止められない… |
レイヴン | ほらほら、いいから座んなさいって♪ |
カイル | いやいやいや…あ、ヴェイグさん!ヴェイグさんからもレイヴンさんに何か言って… |
ヴェイグ | …諦めろ、カイル。飯につき合うだけだと思って割り切るんだ |
カイル | そんなあ!? |
レイヴン | ほらほら、観念しちゃいなさいよ。カ・イ・ル・くん♪ |
カイル | …もー!わかった、食べるよ!いただきます!! |
scene2 | 未来の英雄、過去の英雄 |
スタン | やっぱりレイヴンさんの言うとおりみんなで食べると楽しいよな! |
ラピード | ワフッ! |
カイル | もぐもぐ…やっぱり美味しいなぁ、ルドガーさんの料理! |
ヴェイグ | ジュードやミクリオ、それとベルベットも手伝ったらしいな |
スタン | みんな手際がよくて助かったってルドガーが言ってたぞ |
カイル | へぇ、みんなすごいなぁ。どれも本当にすっごく美味しい…! |
スタン | あはは、カイルは本当に美味しそうに食べるなぁ |
ヴェイグ | …よかったら、オレのも食べるか? |
カイル | いいの?ありがとう! |
レイヴン | …何だかんだ言ってたわりにはもりもり食べてるわね、少年 |
カイル | えへへ…食べ始めたら止まらなくて… |
カイル | それに、こうやっていつでも万全の状態にしておいてこそ、英雄になれるんじゃないかと思って! |
レイヴン | … |
ヴェイグ | そういえば、カイルの父親は英雄なんだったな |
カイル | うん!困っている人を放っておけなくて仲間のためなら何だって出来て… |
カイル | みんなの事を励ましてくれる…そんな英雄にオレもなりたいんだ! |
スタン | カイルは本当に父親の事が大好きなんだな |
カイル | はい!父さんはオレの憧れで、理想の英雄そのものですから! |
| |
レイヴン | ──英雄なんて、そんないいもんじゃないよ |
カイル | …え? |
| |
レイヴン | 昔、ね。いたのよ |
レイヴン | 何一つ成し遂げる事はなく、それどころか仲間を全て失うような最悪の結果を残したのに… |
レイヴン | 周りから、英雄と呼ばれて、崇められちゃった男がね… |
カイル | …! |
レイヴン | 勿論そいつは、そんな称号なんて求めてなかった…けど、気付いたら世間様では英雄扱い |
レイヴン | どんなに違うと訴えても、誰も認めてくれなかった。みんな、彼を英雄だと褒め称えたよ |
レイヴン | …英雄ってのは、なろうとしてなるもんじゃない。周りが勝手にそう呼び出すもんなのよ… |
ヴェイグ | … |
スタン | レイヴンさん… |
ラピード | クゥン… |
カイル | … |
レイヴン | …あはは、なーんてね。そんな話をこの前本で読んだのよ |
カイル | …そんな事ない |
レイヴン | カイル? |
カイル | その人が、みんなから英雄って呼ばれるようになってたなら… |
カイル | 何一つ成し遂げてないなんて事は、絶対にないよ! |
レイヴン | …! |
カイル | もしその時に何も出来てなかったとしても、その人はきっと、その先で何かをやり遂げてたはずだ |
カイル | その人が英雄って呼ばれてたなら、オレはその人の事を信じる!間違いなく、本物の英雄だって! |
| |
レイヴン | カイル… |
| |
レイヴン | …若いわねぇ。おっさんついてけないわ |
レイヴン | 少年のキラキラした瞳は年寄りには眩しすぎる…あまりの輝きに溶けちゃいそう |
カイル | もう、レイヴンさんってばすぐにそうやって茶化す…! |
スタン | …レイヴンさん、酔ってます? |
レイヴン | 酔ってないわよー。本気で酔ったら、おっさんもっとぐでんぐでんになってるからね |
ヴェイグ | 既に十分ぐでんぐでんに見えるが… |
ラピード | ワゥ… |
レイヴン | 大丈夫!朝になったらちゃんとしゃっきりしてるから |
レイヴン | …半端な覚悟で戦えるような生易しい相手じゃないからね |
カイル | …!… |
カイル | …レイヴンさん。オレ、明日はレイヴンさんと一緒に蒼流の神殿に行く事にするよ |
レイヴン | あら、またずいぶん急ね。…もしかしておっさんが明日二日酔いで倒れないか、心配してる? |
カイル | 違うよ!オレはただ、レイヴンさんの力になりたいって思ったんだ! |
レイヴン | 少年…? |
カイル | ミラさんも、ユーリさんも、ロイドさんも、みんなソフィと一緒に戦ってくれた大事な仲間で… |
カイル | 本当は三人共のところに行きたいけど選べる道は一つだから… |
カイル | それならオレは、レイヴンさんの覚悟の力になりたい |
カイル | 真っ先に仲間と戦う覚悟を決めたあなたの力に |
カイル | …何だかそれが、オレが憧れる英雄へ近付くための一歩になるって、そんな気がするから… |
レイヴン | 少年… |
レイヴン | …なーんかこう、ここまでド直球に言われちゃうとさすがに照れちゃうじゃない |
カイル | …?オレ、何か変な事言ったかな? |
スタン | あはは、大丈夫だよ。カイルらしい決断だと思う |
スタン | うん、決めた。俺も蒼流の神殿に行く事にするよ |
カイル | 本当ですか!またスタンさんと一緒に戦えるんですね! |
スタン | ああ。ミラもロイドも大事な仲間だ。でも、だからこそ二人の事は信頼するみんなに託す事にする |
スタン | …カイルの覚悟も見届けたいからな |
レイヴン | ええ…二人して、ちょっとおっさんに優しすぎない?おっさん感動で泣いちゃいそう… |
レイヴン | けどまあ、二人がそう決めたんならおっさんは止めないけどね。って事で、明日はよろしくね、二人共 |
カイル・スタン | はい! |
ヴェイグ | … |
scene3 | 未来の英雄、過去の英雄 |
カイル | すぴー… |
スタン | むにゃむにゃ… |
レイヴン | あらま、二人共ぐっすりね |
ヴェイグ | 後で毛布でもかけておこう。風邪をひかれては困るからな |
レイヴン | ふふ、青年やっさしー。…ま、未来の英雄様が風邪でダウンなんて、格好つかないもんね |
| |
ヴェイグ | …レイヴン。さっきの英雄の話だが、もしかしてあれは──… |
レイヴン | 知らない騎士の話よ |
ヴェイグ | …そうか |
レイヴン | そういえば、ヴェイグは明日どこに行くか決めたの? |
レイヴン | 青年の事だし、やっぱりエリーゼちゃんと一緒にミラちゃんのとこ? |
ヴェイグ | いや、オレもユーリのところへ行く。お前の手伝いをさせてもらおう |
レイヴン | あら意外。エリーゼちゃんはいいの? |
ヴェイグ | ああ。エリーゼは自分の力で困難に立ち向かおうとしている。オレの力は必要ない |
ヴェイグ | それに、ジュードも一緒なら大丈夫だ |
レイヴン | …そう。ならいいわ |
ヴェイグ | …それに何より、ユーリには返さなければならない恩もある |
レイヴン | 恩…? |
ヴェイグ | クレアを…オレの大切な家族を救うのに力を貸してくれたんだ |
ヴェイグ | …その借りを返すためにも、オレはユーリの元へ行く |
レイヴン | … |
ヴェイグ | …じゃあ、オレは部屋に戻る。また明日 |
レイヴン | …ふ |
レイヴン | …いやー熱い熱い。若者は元気だねぇ、全く… |
ラピード | …ワフン? |
レイヴン | …熱すぎて、おっさんも当てられちゃいそうよ |
scene1 | 強い心 |
ミクリオ | …はあ、全く。大事な戦いの前だと言うのに、レイヴンは浮かれすぎだろう… |
ミクリオ | 静かになるまで、どこかで一休みでも──……ん? |
| |
コレット | …ふぅ |
ミクリオ | コレット |
コレット | あ、ミクリオ |
ミクリオ | すまない。考え事の邪魔をしてしまったか? |
コレット | ううん、平気だよ。ちょっとぼーっとしてただけだから |
ミクリオ | そうか。だが気を付けてくれ、夜に女の子が一人でいるのは… |
コレット | あはは、そだね。何かあったら大変だよね |
コレット | 心配してくれて、ありがと。ミクリオ |
コレット | でも、魔物に襲われた時とか、遺跡で転びそうになった時とか、ミクリオは助けてくれたよね |
ミクリオ | 仲間として当然の事をしたまでだ。…それが、どうかした? |
コレット | 私、いつも守られてばかりだから… |
ミクリオ | … |
コレット | ロイドにもいつも守られてたのに…私はあの時、ロイドを助けられなかった… |
コレット | 私がもっと強かったら… |
ミクリオ | コレット… |
| ワンッ! |
ミクリオ | …!なっ、犬…!? |
コレット | わぁ、可愛いワンちゃん!でもどうしてこんなとこに…? |
コレット | お母さんはどしたの? |
| ワンッ!ワンッ! |
コレット | あ、待って! |
ミクリオ | 行ってしまったな |
コレット | 私、心配だしちょっと見てくる! |
コレット | …きゃっ!? |
ミクリオ | お、おい、大丈夫か!? |
コレット | えへへ、また転んじゃった。ありがと、ミクリオ |
ミクリオ | 全く、危なっかしいな… |
| ワンッ! |
コレット | あ、ワンちゃんが行っちゃう!待って! |
ミクリオ | あっ、おい!待つんだ!君こそ一人じゃ危ないだろう! |
scene2 | 強い心 |
コレット | ──ワンちゃん、無事お母さんと会えたみたい。よかったね |
ミクリオ | 散々走り回らされたけどね…飼い主と母犬が捜し回っててくれて助かったよ |
コレット | ふふっ、ミクリオ、一緒に捜してくれてありがと! |
ミクリオ | いや…僕はほぼ離れたところで見ていただけだし、別に… |
コレット | そんな事ないよ。犬が苦手なのに、頑張って一緒に捜してくれたでしょ。それで十分 |
ミクリオ | なっ…ち、違う!ぼ、僕は吠えられるのが嫌なだけで別に犬自体が苦手なわけじゃ… |
ミクリオ | …コホン。そんな事より、さっきの話に戻るけど… |
| |
ミクリオ | …コレット、君は今のままでも十分強い人だと思う |
コレット | え…? |
ミクリオ | それぞれ行き先を決めようってみんなで話していた時、…あの時、僕は驚いたんだ |
ミクリオ | てっきり君はロイドと戦うのを嫌がると思っていたから… |
コレット | …戦う事はね、やっぱり嫌だよ |
コレット | 想像しただけですごく怖いし、悲しくなるし、辛いもん… |
ミクリオ | なら、何故── |
コレット | 逃げたくなかったの。逃げたってロイドは助けられないから |
コレット | …どんなに苦しくても、悲しくても、やっぱりロイドに会いたい。ロイドは、私の大切な人だから |
コレット | だから、ちゃんと向き合いたい… |
ミクリオ | コレット… |
| |
ミクリオ | …僕の目に狂いはなかったようだね。君はやっぱり、とても強い心の持ち主だと思う |
コレット | えへへ、そかな?そうだといいな… |
ミクリオ | 明日は僕も君と一緒に翠樹の神殿に行くよ |
ミクリオ | 僕にとっても、ロイドは大切な仲間だ |
ミクリオ | …彼を救うためにも必ず「核」を破壊して結界を解き、ラザリスを倒そう |
コレット | …うん。ありがと、ミクリオ |
| |
??? | あ────っ!! |
ミクリオ | 君は… |
scene3 | 強い心 |
ミクリオ | ──何だ、君か。全く、驚かさないでくれ |
コレット | ほんとだよ。急に大声なんて出すからびっくりしちゃった… |
ゼロス | おいおい~、今更とぼける気か?ミクリオ |
ゼロス | 俺さま見ちゃったぜぇ |
ゼロス | お前がコレットちゃんをナンパしてんのを、よ |
ミクリオ | なっ…!?ち、違う!変な勘違いをしないでくれ! |
ミクリオ | どこをどう見たら、そんな風に見えるんだ…!? |
ゼロス | 「僕は君と一緒に行くよ…」…とか何とか、格好つけながら言ってたじゃねぇか |
ゼロス | ありゃ完全に口説きにかかってたね。雰囲気もそれっぽかったし~ |
ミクリオ | だから、ただ行先を決めただけ── |
ゼロス | …ミクリオ、残念だがお前はコレットちゃんと二人きりにはなれねぇぜ |
ゼロス | 何故なら、明日は俺さまも一緒だからな |
コレット | …!ゼロス、一緒に来てくれるの? |
ゼロス | あったり前だろー?俺さまが行かずに誰が行くってな。それに──… |
| |
ゼロス | …忘れたまんまにはさせねぇ。あいつの記憶は俺が絶対に取り戻させてやる |
ゼロス | なーんて、な |
ミクリオ | ゼロス… |
スレイ | …明日、オレも混ぜてもらってもいいかな? |
ミクリオ | スレイ…!君もいたのか |
コレット | 混ざるって…スレイも一緒にロイドのところに来てくれるって事…? |
スレイ | うん、そのつもり |
スレイ | …正直、三人共大切な仲間だし明日どこに、誰の元へ行けばいいのか悩んでたんだ |
スレイ | けど、コレットやミクリオ、ゼロスの想いを聞いて心は固まった |
スレイ | 一緒に翠樹の神殿に行こう |
スレイ | 今度こそロイドを助けたい…その気持ちは、オレも同じだから |
ミクリオ | スレイ… |
コレット | うん、…そだね。ありがとう |
ゼロス | むむ…もしかして、スレイもコレットちゃん狙い…?恋のライバルがまた一人…! |
スレイ | ええ!? |
ミクリオ | どうして君は、すぐにそういう話に持っていくんだ… |
ゼロス | いやだって、今のは完全にそういう流れだったでしょ? |
ミクリオ | どこがだ! |
スレイ | うーん…コレットはいい子だけど、狙うとか、恋とか、そんな風に考えた事は── |
ミクリオ | スレイも真面目に返さなくていい! |
ゼロス | うひゃひゃひゃ!スレイ、ナイスボケ! |
コレット | …ふふっ。みんな、ありがと |
scene1 | 覚悟をもって、歩みを共に |
ルドガー | …みんな、どこに行くか、大体決まってきたみたいだな |
ジュード | うん。覚悟を決めた感じって言うのかな。みんな、いい顔をしてたよね |
ジュード | あと決まってないのは…ルドガーとエリーゼ、そしてティアとベルベット…だね |
ジュード | ルドガーはどこに行くか決めた? |
ルドガー | 俺はジュードと一緒に行くよ |
ジュード | いいの? |
ルドガー | ああ。ミラには、俺もエルも、いろいろと世話になったからな |
ジュード | …そっか |
ルドガー | …この世界で記憶を改変されてもう一度ジュードと出会ってから、いろんな事があったよな |
ルドガー | …ジュードがいなければ、俺は大事な事を忘れたまま漠然と生きていたんだと思う |
ルドガー | 俺が記憶を取り戻せたのも、エルと再会出来たのも、全部ジュードのお蔭だ |
ジュード | そんな、大げさだよ。全部ルドガーが頑張ったからだし、むしろ僕の方がたくさん助けられて… |
ルドガー | はは、ジュードは本当に謙虚だな |
ジュード | ルドガーが褒めすぎなんだよ。僕達はお互いに助け合ってここまで来たんじゃないか |
ルドガー | …ああ、そうだな。俺達はそうやってここまで来た |
ルドガー | だからこそ俺は、今回も一緒に戦いたいと思っている |
ジュード | ルドガー… |
ルドガー | だから俺は、虹雲の神殿に行くよ |
ジュード | …うん。ありがとう |
ジュード | 一緒にミラを救おう。僕達の大切な仲間を取り返す…そのためにも、絶対核を壊さないと |
ルドガー | ああ。ミラには何度も助けられたからな。今度は、俺達が助ける番だ |
| コンコン |
ジュード | はい? |
??? | 夜遅くにすみません…今、ちょっといいですか…? |
ジュード | エリーゼ?あ、今開けるから待ってて |
| |
エリーゼ | お邪魔します… |
ティポ | こんばんはー |
ジュード | エリーゼ… |
エリーゼ | あの…明日の事で、ジュードに聞きたい事があるんです |
ジュード | 僕に…? |
エリーゼ | 行き先の話が出た時、ジュード、ミラのところに行くってすぐに答えたじゃないですか… |
ジュード | …うん、言ったね |
エリーゼ | ジュードは…ミラと戦う事が怖くはないんですか? |
ジュード | … |
エリーゼ | わたしは…やっぱり怖いです |
エリーゼ | 現実から目をそらさない、前に進むって決めたのに…いざとなったら足が竦んでしまって… |
エリーゼ | そんな自分が、情けなくて、悔しいんです…! |
ジュード | …僕だって、不安がないって言ったら嘘になるよ |
ジュード | 僕以外に頼れる仲間はたくさんいるし、任せるのもありかもしれない |
ジュード | 僕だって、出来る事なら、ミラと戦いたくなんてないよ。話し合いで解決出来ればって思う |
エリーゼ | … |
ジュード | ──でも、それじゃ駄目なんだ |
ジュード | ミラの事が大切だからこそ、他の人に任せて逃げたり、目をそらしたりはしたくない |
ジュード | たとえ戦う事になったとしても…僕は、僕の手で、ミラを助けたいんだ |
エリーゼ | 自分の手で、助ける… |
エリーゼ | わたし、ミラを傷つけるかもってずっと迷ってました… |
エリーゼ | でも、ジュードの話を聞いて、覚悟が決まりました |
エリーゼ | わたしも虹雲の神殿に行きます |
エリーゼ | わたしも、前に進むって決めたから。この手でミラを助けたいです。たとえ、ミラと戦う事になっても |
ティポ | ぼくもエリーと同じ気持ちー!みんなで核をぶっ壊して、ミラ君を助けよーね! |
ジュード | …うん。一緒に行こう、ミラのところに |
エリーゼ | はい! |
ジュード | …よし。それじゃあ、悪いけど、僕はちょっと出掛けてくるね |
ルドガー | 出掛けるって、どこにだ? |
ジュード | 僕の決意を伝えておきたい人がいるんだ |
scene2 | 覚悟をもって、歩みを共に |
ティア | …ねえ、ベルベット。一つ聞いていいかしら |
ベルベット | 何? |
ティア | 明日の事なんだけど、どこに行くか決めた? |
ベルベット | …適当に人の足りないとこに入るわ。ラザリスに繋がるなら、どこでも同じだもの |
ティア | …そう |
| コンコン |
??? | ──ベルベット、ティア。少し話がしたいんだけど、入っても大丈夫かな? |
ティア | ジュード?ええ、いいわよ。どうぞ |
| ガチャッ |
ジュード | お邪魔するよ |
エリーゼ | お、お邪魔します… |
ルドガー | 夜遅くにすまないな |
ティア | ルドガーとエリーゼ達も一緒だったのね |
ティポ | ぼくもいるよー!一緒に行きたいってジュード君にお願いしたんだー! |
ベルベット | はいはい、どっちにしても結構な大所帯ね。それで? |
| |
ジュード | 明日の事で、話があるんだ |
ベルベット | ああ、その話。あんた達は決まったの? |
ジュード | うん。僕達は、全員ミラのところに行く |
ベルベット | …へぇ |
ジュード | 前にも言った通り、ミラは僕達の大切な仲間だ。本当なら、戦いたくなんてない… |
ジュード | だけどラザリスの異空間に閉じ込められていた時、僕は、君に約束した |
ジュード | 現状から、目をそらしたりしないと |
ベルベット | … |
ジュード | 大切な仲間だからこそ、僕らの手で、ミラを助けたい。たとえ、戦う事になったとしても |
ジュード | 一度目をそらしてしまった事実と、今度こそ、何が起こってもちゃんと向き合いたいって思った |
ジュード | だから、僕らは僕らのやり方で、大切な仲間を取り戻してみせる。そう覚悟出来たのは、君のお蔭だよ |
ベルベット | …本当に、戦えるのね? |
ジュード | 戦うよ |
ジュード | それがミラを…大切な人を助けるためになるのなら |
エリーゼ | わたしもジュードと同じ気持ちです。ミラを助けるためなら、ミラとだって戦います…! |
ベルベット | … |
| |
ベルベット | あんた達の覚悟はわかったわ。でも、どうしてそれをわざわざあたし達に言いに来たの? |
ジュード | シャングレイスでは迷惑をかけちゃったから、今度は大丈夫って伝えておきたかったのと… |
ジュード | ベルベットに、僕達の戦いを見届けてほしいって、お願いしたかったんだ |
ベルベット | … |
ティア | それって…私達も、あなた達と一緒に虹雲の神殿に来てほしいという事? |
ジュード | うん |
ベルベット | …あんた、それ本気で言ってるの? |
ジュード | 僕の覚悟が口だけじゃないって、ちゃんと見てもらいたいんだ |
エリーゼ | 一緒に来てください…! |
ルドガー | それとも、二人共既に向かう場所が決まってるのか? |
ベルベット | …いいえ、どこでもいいと思ってたわ |
ベルベット | だから、頼まれるような事でもない。…あたしはあたしの目的で、結界の核を破壊しに行く |
ベルベット | …あんた達の覚悟も、そのついでに見る事になるかもね |
エリーゼ | ベルベット…!ありがとうございます! |
ティア | ふふ。私も、喜んで一緒に行くわ |
ジュード | …ありがとう、二人共 |
ジュード | それじゃあ、僕達はこれで。明日はよろしく |
エリーゼ | おやすみなさい |
ルドガー | 遅くに邪魔してごめんな。それじゃあ、また明日 |
ティア | ええ、おやすみ |
ティポ | ばいばーい! |
ベルベット | …何をしに来たかと思えば |
ティア | それだけ、彼らは本気なのよ。明日の戦いに |
ベルベット | … |
ティア | …ふふっ |
ベルベット | …何よ。人の顔見て笑ったりして |
ティア | いえ…ただ、最初の頃に比べると、ずいぶん雰囲気が柔らかくなったと思っただけよ |
ベルベット | …変な事言わないでくれる。ほら、明日に備えて早く寝るわよ |
ティア | …ベルベット。明日はよろしくね |
| |
ハロルド | ──それじゃ、最後にもう一度行き先の確認をしてくれるかしら? |
コレット | ロイドのところには、私、ミクリオ、スレイ、ゼロスだよ |
カイル | ユーリさんのところが、オレ、スタンさん、レイヴンさん、ヴェイグさん、ラピード! |
ジュード | ミラのところには、僕、ルドガー、エリーゼ、ベルベット、ティアだね |
ハロルド | ふむふむ…ま、いい感じに戦力がばらけたんじゃないかしら? |
エリーゼ | ヴェイグ…気を付けてくださいね |
ヴェイグ | お前もな。…お前ならきっと、ミラを救える |
エリーゼ | はい! |
ハロルド | 念のためもう一度説明するけど、あんた達は、それぞれの場所にある「核」を破壊する事 |
ハロルド | そうすれば結界が解けて、宮殿に入れるようになるはずよ |
スレイ | それじゃあ、核を破壊したら、そのまま宮殿で落ち合う、って流れの方がよさそうだな |
ヴェイグ | いや、宮殿では敵に近すぎる。全員が揃うまで待ってくれるとは思えない |
ジュード | それなら、リッカ村はどうかな? |
ジュード | あそこなら、レイアがいる。何かあった時に協力してくれるはず |
ミクリオ | 僕も、集合場所はリッカ村が適していると思う |
レイヴン | よーし、それじゃあ、集合場所はリッカ村って事で決まりね |
ラピード | ワン! |
スタン | みんな、油断せずに…絶対に核を破壊して戻って来よう! |
コレット | うん!それで、全員無事に会おう! |
ジュード | そうだね。その時はきっと、ミラ達も一緒だよ |
ティア | ええ。そうなるように全力を尽くしましょう |
ベルベット | …全員準備はいいわね。それじゃあ、行くわよ |
スレイ | ああ!みんな、リッカ村でまた会おう! |
Name | Dialogue |
scene1 | 美脚健脚、格闘少女 |
スタン | ふぅ。あの光の柱にも大分近づいたな |
ヴェイグ | みんな、疲れてないか?ずっと歩き通しだから、少し休憩するか? |
カイル | いえ、大丈夫です!先を急ぎましょう! |
レイヴン | 若い子は元気だねえ…おっさんはもうクッタクタ!そうだ少年、おぶってくれたり── |
ラピード | ワン!ワンワン! |
レイヴン | うわわ!ちょ、冗談、冗談よワンコ!自分で歩くから、押さないでってば! |
カイル | はは、ラピードは気合入ってるな!ほらレイヴンさん!あの光の柱までもうすぐですよ! |
カイル | あそこに、蒼流の神殿があるんですよね? |
レイヴン | その通り。ハロルドちゃんの話だとあの光の柱は例の核が放ってるものらしいし |
ヴェイグ | ラザリスの結界を構築しているエネルギーの供給元か…不気味だな |
スタン | けど、こっちにとってはいい目印だ。迷わなくて済むもんな! |
カイル | あの光の柱を目指していけば、核にたどり着ける…!確かに便利ですね! |
レイヴン | わかってると思うけど、核の破壊は簡単にいかないよ? |
スタン | 白き獅子…ですね。昨日の話だと、蒼流の神殿にはユーリの部隊が… |
レイヴン | そういう事 |
カイル | …だとしても、絶対に核は壊さないと!ユーリさんも助けなくちゃならないし |
カイル | って事で…ほら、早く行きましょうよ! |
レイヴン | ふーむ… |
レイヴン | はあ…。少年、肩の力抜きなって。焦ったってしょうがないから |
カイル | あ、…ごめんなさい。元世界の運命がかかってると思ったら… |
レイヴン | 気持ちはわからなくもないけどね。こういう大変な時こそ平静を保っていられた方の勝ちよ? |
カイル | でも、ユーリさんと戦う事になってもレイヴンさんは平気なんですか?…大切な仲間なのに |
レイヴン | 大切な仲間、ね… |
レイヴン | あいにくだけど、別にそんな立派なもんじゃないよ |
カイル | え?でも…みんなが行き先を決める時ユーリさんのところに行くって真っ先に言いましたよね? |
ラピード | ワン! |
レイヴン | ま、青年には借りがあんのよ。ちょっとしたね |
レイヴン | それを返しに行くだけ |
カイル | ユーリさんに借り…?それって一体── |
レイヴン | その話はまた今度、ってね |
カイル | そうやってまたはぐらかす… |
スタン | まあまあ、カイル。また話してくれるって言ってるんだし |
カイル | でも… |
ヴェイグ | レイヴンにもいろいろと事情があるんだろう |
ヴェイグ | …気になるのはわかるが今は目の前の事に集中するべきだ |
カイル | … |
ラピード | ガルルルル…ワン! |
レイヴン | どこ行くの、ワンコ!? |
??? | きゃあっ! |
| |
スタン | まずい!向こうで女の子が魔物に襲われてるぞ! |
カイル | 本当だ!助けないと! |
ヴェイグ | ああ、急ぐぞ…! |
scene2 | 美脚健脚、格闘少女 |
スタン | ふぅ…!倒し切れたか |
カイル | 君、大丈夫?怪我はない? |
??? | あ…うん。あの、助けてくれてありがとう |
コハク | わたしはコハク・ハーツ。あなた達は? |
カイル | …コハク?あれ…何か、どこかで… |
レイヴン | ん?少年?どうかしたの? |
カイル | ああ、思い出した!そうだ、確か元の世界で── |
カイル | もがが!? |
スタン | な、何でもないよ!だよな、カイル |
コハク | でも、今何か言おうと… |
スタン | あー…いやその、何て言うか君がちょっと俺達の知り合いに似てたから… |
コハク | そう、なんだ? |
レイヴン | …ちょっとちょっとスタン? |
ヴェイグ | まさか、元の世界の知り合いか? |
スタン | 前に少し話した事があって… |
レイヴン | なるほど… |
レイヴン | 悪いけど、今はあの子の記憶を取り戻すのは、後回しにさせてちょうだい |
レイヴン | 下手な事して、こっちが咎人だってバレるわけにもいかないし |
スタン | はい…わかってます。コハクのためにも、核の破壊が最優先、ですよね |
カイル | んー!んー! |
スタン | おっと、口を塞ぎっぱなしだった。ごめんな、カイル |
カイル | ぷはっ…! |
コハク | …えっと、何こそこそ話してるの? |
レイヴン | …ああ、ごめんね。ちょっと、相談事よ |
レイヴン | あ、おっさんはレイヴンよん。そいでこいつがラピード |
ラピード | ワン! |
ヴェイグ | オレはヴェイグ。隣にいるのがカイルとスタンだ |
コハク | そう、よろしくね |
コハク | それにしても、あなた達…この辺では見ない顔だね。旅人さん? |
カイル | えーっと、それは… |
レイヴン | ややや!よーく見たら、なんつー美少女! |
コハク | は…はあ |
レイヴン | おまけにまぶしいばかりの美脚!おっさん目がつぶれちゃう! |
カイル | ち、ちょっとレイヴンさん…! |
レイヴン | こんな足場の悪いところで転んだりしたら大変よ? |
レイヴン | そうだ!よかったら、おっさんが近くの街まで送って── |
コハク | はぁっ! |
レイヴン | うぉっと!? |
カイル | す、すごい蹴り… |
コハク | わたしはこの足で、一人で帰れるから心配はいらないよ |
レイヴン | はは…そうみたいね。余計なお世話だったみたいね |
レイヴン | それじゃあおっさん達は先を急ぐから、コハクちゃんも気を付け── |
コハク | どこに行くの?そっちには蒼流の神殿しかないけど… |
レイヴン | え? |
レイヴン | …へえ、蒼流の神殿っていうのがあるんだ。おっさん、知らなかったなぁ |
コハク | 知らないの?それじゃあ、何でこんなところに… |
コハク | …もしかして、あなた達もあの光の柱の事を調べに来たの? |
カイル | え、何でわかったの!? |
スタン | こら、カイル!そんな簡単にばらしちゃ…! |
スタン | …ん?「あなた達も」って事は… |
ヴェイグ | お前も、光の柱を調べに? |
コハク | …本当は、魔物がいて危険だから神殿には近づくなって、言われてるんだけどね |
コハク | けど、光の柱が出現してから村のみんなも不安がってるし… |
コハク | みんなが安心出来るものなのか、確かめてみようと思って |
コハク | だから、あなた達も同じように光の柱を調べに来たのかと… |
カイル | もしかして…コハクは蒼流の神殿に行ってきたの? |
コハク | うん。中をのぞいてみたんだけど…聞いてた通り、魔物がいっぱいいて |
コハク | わたし一人じゃ無理だと思って引き返してきたところだったの |
レイヴン | それは賢明な判断ね |
レイヴン | それじゃ、光の柱の調査はおっさん達がやっとくからさ、コハクちゃんは村に帰って── |
コハク | でもよかった!仲間がこんなに増えるなんて、頼もしい! |
ラピード | …ワフ |
コハク | ねえ、わたしも蒼流の神殿に連れて行ってくれない?道案内くらいなら出来るし |
レイヴン | 残念だけど、そいつはダーメ。いくらコハクちゃんのお願いでも、ね |
レイヴン | さっき自分で言ってたじゃない。危ない場所なんだって |
コハク | そうだけど… |
コハク | 実は一度村に帰って、しっかり準備をしてからもう一度来ようと思っていたの |
コハク | あなた達が一緒なら準備をする手間も、一人で神殿に入る必要もなくなるし… |
カイル | …ねえ、レイヴンさん。一緒に行きませんか? |
スタン | 確かに、女の子を一人で放っておくわけにはいかないし… |
レイヴン | けど、ねぇ… |
ヴェイグ | …あの様子だと、どっちにしろ後で一人で調査に来るつもりらしい |
ヴェイグ | 後から鉢合わせするよりは、同行させた方がいいんじゃないか? |
レイヴン | …ま、それもそうね。後で面倒な事になるよりは… |
レイヴン | わかったわ、コハクちゃん。とりあえず神殿までの案内、頼める? |
コハク | ホント?やったぁ!それじゃあ、早速行きましょう! |
カイル | あ、ちょっと待ってよコハク! |
スタン | 俺達も行こう、ヴェイグ |
ヴェイグ | ああ |
レイヴン | …けど、どこまで一緒に行くかはしっかりと考えないと──…って!ちょっと!? |
レイヴン | もー、少しはおっさんの話を聞いてちょうだいよ。おっさん泣いちゃうよ! |
レイヴン | はあ…。コハクちゃんを上手く言いくるめて、神殿から遠ざけるしかないか |
scene1 | 蒼流の神殿へ |
コハク | みんなー、こっちだよこっち! |
レイヴン | …案内してもらったのはいいものの、どう言いくるめたもんかね |
| |
スタン | ところで、その蒼流の神殿はどこにあるんだ? |
ヴェイグ | それらしい建物は見当たらないが… |
カイル | っていうか、滝しかない… |
コハク | やっぱりそうだよね。神殿っていうくらいだし、わたしも最初はてっきり建物だと思い込んでた |
コハク | でもね、実はこの大きな滝こそが蒼流の神殿なんだよ! |
レイヴン | 滝の中が…? |
コハク | うん。とにかく入口に案内するから、ついてきて |
カイル | わかった! |
| |
スタン | 二人共、足元に気を付けて…っておい、待てって!カイル、コハク! |
ラピード | ワウ |
レイヴン | … |
ヴェイグ | 二人共行ってしまったな。…問題はここからどうやってコハクと別れるか、だ |
スタン | レイヴンさん、何かいい方法はないかな? |
レイヴン | うーん、あの様子じゃ一筋縄じゃいかないだろうし |
レイヴン | はあ…何かの拍子にコハクちゃんの記憶が戻ったりしたら万々歳なんだけどねえ |
レイヴン | ま、コハクちゃんの件は引続き考えるとして、とにかく今は二人を追いましょ |
ヴェイグ | そうだな |
scene2 | 蒼流の神殿へ |
ラピード | ワフッ! |
スタン | どうした、ラピード?何か見つけたのか? |
カイル | 特に何もないみたいだけど… |
ラピード | ワン! |
ヴェイグ | ん…おい、ここを見てみろ。地面に足跡がたくさんあるぞ |
スタン | 本当だ。でも、ここって一般人は近づくなって言われてるんだろ?何で足跡がこんなにあるんだ? |
レイヴン | …こいつは、軍靴の跡ね |
ヴェイグ | 白き獅子か… |
コハク | さっき一人で来た時は気付かなかった… |
レイヴン | 足跡は消えかかってるしね。よく見なきゃわからないよ |
コハク | でも、どうして白き獅子がここに…あっ!もしかして彼らも光の柱の事、調べに来たのかな? |
コハク | だとしたら、何か話が聞けるかもしれないね! |
カイル | あ、うん…えーっと、そうだね |
コハク | よーし、それじゃはりきって行こう!神殿の入口はもうすぐだよ! |
レイヴン | … |
| |
コハク | …さあ、神殿の入口に着いたよ |
カイル | これが…! |
レイヴン | 随分物々しい雰囲気ね。こりゃ大層大事なもんが隠されているんだろうねえ |
ヴェイグ | しかし、こんなところに入口があるとはな… |
カイル | コハク、よく見つけられたね。オレだったら見逃してたかも |
コハク | あはは…実はわたし、前からこの辺りにはよく来てたんだ |
コハク | それでね、偶然この扉を見つけちゃって… |
カイル | え、でもこの辺りって近づいちゃ駄目だって話じゃ… |
コハク | それはその…ここで捕れる淡水イカが味噌との相性が抜群だったから…! |
レイヴン | イカ!?まさかそのためにこんなとこまで来てたなんて、よっぽど好きなのね… |
ヴェイグ | …まあ、お蔭で無事たどり着けたわけだが |
スタン | ああ、そうだな。コハクがいてくれて助かったよ! |
コハク | えへへ、お礼なんていいよ。でも、気を付けてね?この中は魔物でいっぱいだから |
カイル | わかってるよ!よーし、それじゃあ早速… |
| |
| ズズズ… |
| |
| ギャオオオッ! |
カイル | うわぁっ! |
| |
| バタンッ! |
| |
ヴェイグ | カイル、大丈夫か!? |
カイル | だ、大丈夫です…。開けた瞬間目の前に魔物がいたからちょっと驚いただけで… |
スタン | まさかあんなところで待ち構えてるなんて… |
レイヴン | こりゃ気を付けて開けるしかないね。みんな、構えて── |
コハク | あ、そういう事なら任せて! |
カイル | …どうするの? |
コハク | 見ててね… |
| |
コハク | …はぁあ! |
| |
| ドガンッ!! |
| ギャウッ! |
| |
スタン | 何て、威力だ…!扉ごと魔物を蹴り飛ばしたぞ… |
コハク | ふぅ、結構固かった…! |
レイヴン | ははは…あまりコハクちゃんを怒らせない方がよさそうね |
ヴェイグ | 油断するな…!奥から魔物が押し寄せて来るぞ! |
scene3 | 蒼流の神殿へ |
カイル | せいっ! |
| ギャウウッ…! |
カイル | …よし、今のでとりあえず最後かな |
コハク | それじゃ、神殿の中に入ろう! |
レイヴン | ああ、ちょっと待ってコハクちゃん! |
コハク | …? |
レイヴン | おっさんからの提案なんだけど… |
レイヴン | 今回みたいに、魔物達がまたいつ飛び出しちゃうかわからないでしょ? |
レイヴン | あんな凶悪な魔物が外に出てったら、近くの村が襲われるかも… |
レイヴン | だから、ここで魔物を逃がさないよう見張っておく必要があるとおっさん思うのよね |
レイヴン | そして今の戦闘を見て、おっさん、ピンッと来たのよ! |
レイヴン | あのすごい足さばき!見張り役に一番ふさわしいのはコハクちゃんに違いないってね! |
コハク | でもわたし、神殿の中を調べないと…扉は閉めておけば大丈夫じゃない? |
レイヴン | その事なんだけど…ほら、コハクちゃんが蹴ったせいで閉まらなくなっちゃってる |
コハク | あ… |
ヴェイグ | 頼む、コハク。神殿を調べている間に村が襲われたら元も子もない |
スタン | 光の柱の事はちゃんと調べて来るよ。だから俺達に任せてくれ! |
コハク | …わかったよ。わたしはここに残る。魔物が出て来ないように見張ってるね |
スタン | ありがとう! |
スタン | それじゃあ、俺達行ってくるよ |
コハク | ちゃんと無事に戻ってきてね! |
scene1 | 夢と現実 |
カイル | …これでよかったのかなあ?何か、コハクを騙してるみたいで… |
レイヴン | これもお互いのため、世界のためよ |
レイヴン | さて、核の破壊と青年との再会…。ここからが本番ね |
| |
スタン | にしても…ここは妙な部屋だな |
ヴェイグ | 壁に小部屋がいくつもあって、鉄柵に囲われている… |
カイル | 牢屋みたいだね |
レイヴン | …暗くて小部屋の奥まで見えないねえ |
ヴェイグ | 白き獅子も…いないな |
ヴェイグ | ここにもいないとなると…上の階か |
スタン | 随分静かだよな…魔物もいないみたいだし… |
レイヴン | 最初のであらかた倒しちゃった?…でも、たったあれだけなんて妙ねぇ |
ヴェイグ | ひとまず、慎重に進むとしよう |
ヴェイグ | それと、気を付けるのは魔物だけじゃなく… |
| |
| ガゴゴゴゴゴゴゴッ… |
カイル | おわぁぁぁぁ!?お、落とし穴──っ!? |
ラピード | ワフッ! |
スタン | カイル!?大丈夫か? |
カイル | ぎ、ぎりぎり、何とか… |
ヴェイグ | 罠にも気を付けよう…と、言おうと思ったんだが… |
レイヴン | 早速、か。全く、先走りすぎなんだから |
ヴェイグ | 穴の淵に手をかけてなければ、危ないところだったな |
レイヴン | どれどれ?うわー…すごく深い穴。こりゃ落ちたらタダじゃすまないぞ |
カイル | か、観察するより…引き上げてもらえると助かります! |
ヴェイグ | と、そうだったな。スタンは右を持ってくれ、オレは左を持つ |
スタン | わかった。それじゃあ引き上げるぞ |
スタン | いくぞ、せーの…! |
カイル | ふう、助かったぁ… |
カイル | ありがとうございます。スタンさん、ヴェイグさん |
スタン | こういう事もあるから、もっと慎重に行こうな |
スタン | それにしても、落とし穴か…。厄介だな |
ヴェイグ | 侵入者を捕えるための罠なのだろうか |
レイヴン | ん?これはもしかして…… |
| ガゴゴゴゴゴゴゴッ… |
カイル | うわっ!また床が抜けて…ちょっとレイヴンさん、一体何を── |
レイヴン | なるほどなるほど…そういう事ね |
ヴェイグ | この仕掛けについて何かわかったのか? |
レイヴン | これはどうも罠ってわけじゃなさそうね |
レイヴン | 単に経年劣化で床が落ちやすくなってるだけ |
レイヴン | …ほら、こういうとことか |
| ギィ…ガゴゴゴッ! |
カイル | うわっ!?また…! |
スタン | もろくなってる床は落ちるんだな |
レイヴン | そーゆー事 |
カイル | そうとわかれば安心ですね!よーし、じゃあしっかり足元に注意して── |
| |
| ギギギギギッ… |
スタン | …ん?今の音は何だ? |
ヴェイグ | 床が落ちたというわけではなさそうだが… |
| |
| ギギギギギギギギギギッ… |
カイル | な、何だ…!?また… |
ラピード | …グルルルルッ! |
レイヴン | …!この気配は… |
| |
| グォオオオオオ!! |
| |
スタン | なっ…魔物!?しかも大群…!? |
カイル | さっきまでどこにもいなかったのに…こいつら、一体どこから出てきたんだ!? |
スタン | …!壁の小部屋の鉄柵が全部開いてるぞ |
カイル | もしかして、あの中にいたのか…?でも、何で急に…! |
レイヴン | 決まってるでしょ、誰かさんがおっさん達に向けて魔物の群れを放った |
レイヴン | …そうとしか考えられない |
ヴェイグ | …床抜けとは違ってこっちはれっきとした罠という事か |
カイル | とにかく、早く何とかしないと! |
ヴェイグ | なら、不用意に動かずここで迎え撃つべきだ… |
レイヴン | そうね。気乗りはしないけどうっかり床抜けに巻き込まれたらたまったもんじゃないし |
ラピード | ワオーーーン! |
スタン | みんな、来るぞ!構えろ! |
カイル | …はい! |
scene2 | 夢と現実 |
カイル | くそっ…!こいつら、どれだけいるんだよ…! |
スタン | 倒しても倒しても…数が多すぎてキリがない…! |
ラピード | グルルルルッ…! |
レイヴン | くっ…これじゃ消耗戦だ。まずいな… |
レイヴン | まだ青年はおろか、核の元にすら辿りつけていないってのに |
カイル | …なら、ここはオレが引き受けます!その間にみんなは上に向かってください! |
スタン | この数を一人で!?無茶だ! |
ヴェイグ | ここにたった一人で残ったら、間違いなく死ぬぞ…! |
カイル | 大丈夫です! |
スタン | 大丈夫って、どうしてそんな事… |
カイル | だって英雄はこんなところで死んだりなんかしませんから! |
レイヴン | … |
カイル | だから、みんなは早く上に── |
レイヴン | やれやれ、この馬鹿野郎が… |
| |
| ゴンッ |
| |
カイル | いったぁ!?な、何するんですか!レイヴンさん! |
レイヴン | 全員でも厳しい状況だってのに、たった一人で何とかなるわけないでしょ |
カイル | けど…! |
レイヴン | 英雄だから大丈夫だって? |
レイヴン | 馬鹿な事言ってないでここは全員で切り抜けるのよ |
カイル | … |
レイヴン | …って、勝手に仕切っちゃったけど、みんなもそれでいい? |
スタン | うん、俺もその方がいいと思う |
ヴェイグ | 一人も欠けず突破しよう |
ラピード | ワオーン! |
カイル | …… |
レイヴン | 体力の問題は後で考えるとして…──さあ、行きますか! |
scene3 | 夢と現実 |
スタン | こいつで、最後だ! |
| |
| ザシュッ |
| グガアアア!! |
| |
ヴェイグ | …はあ、何とかなったな… |
レイヴン | あー、疲れた…全く。本当にギリギリだったわ… |
カイル | はぁ…はぁ… |
スタン | …カイル。さっきは何であんな事、言い出したんだ? |
カイル | …だって、ユーリさんや元の世界を救うためにも…誰かが上の階に行かないと… |
スタン | だからって、カイル一人が残ってどうにかなる状況じゃなかった。そうだろ? |
スタン | あまり無茶はしないでくれ…な? |
カイル | でも… |
レイヴン | …やれやれ。少年、ちょっといいかしら |
カイル | …何ですか、レイヴンさん |
レイヴン | おっさんからの忠告よ |
レイヴン | 「英雄」に憧れるのは結構だけど、夢や憧れに囚われるなんて事、あっちゃいけないよ |
レイヴン | ましてそれが原因で命を落とすなんて馬鹿馬鹿しい事なんだから |
カイル | …!別に死ぬつもりなんて…! |
カイル | …オレはただ、一人でも何とか出来るって本当にそう思ったから…… |
レイヴン | おっさんには、そうは見えなかったけど |
レイヴン | みんなで戦った後でさえ息を切らしてるくらいだったのに、一人で太刀打ち出来るわけがない |
レイヴン | もっと自分の力量をわきまえて、冷静に周りを見極めないと |
カイル | オ、オレは…ちゃんと見極めてるつもりで…! |
スタン | まあまあ、二人共 |
スタン | いろいろと言いたい事があるかもしれないけど、今は言い争ってる場合じゃない |
スタン | いつまた魔物が現れるとも限らないし、とにかく先に進んだ方がいいんじゃないのか? |
レイヴン | …ごめんごめん。スタンの言うとおりだね |
レイヴン | おっさんの説教話はこのくらいにしてさっさと上を目指すとしますか |
スタン | カイル、お前もそれでいいよな? |
カイル | …はい。それで大丈夫です… |
カイル | … |
ヴェイグ | …レイヴン、一ついいか?聞きたい事があるんだが |
レイヴン | うん?何? |
ヴェイグ | …レイヴンは「英雄」に、随分とこだわっているように思える |
レイヴン | …そう?そんな風に見えた? |
ヴェイグ | いつものレイヴンなら、飄々と受け流すか、茶化して終わりだ |
レイヴン | 英雄を語る時だけ、らしくないって言いたいわけね… |
ヴェイグ | ああ |
ヴェイグ | 前に話していた英雄の話…あれはやはり、レイヴン自身に関係があったんじゃないか? |
レイヴン | …どうしてそう思ったのかしら? |
ヴェイグ | …あの話をしている時、どこか実感がこもっているように感じた |
ヴェイグ | まるで自分の経験を語るかのような、そんな話し方だったからな |
レイヴン | あー、あの時は酔いすぎたみたい。余計な事、言っちゃったかねぇ |
レイヴン | …て言うか、おっさんと英雄の話がそんなに気になる? |
ヴェイグ | 仲間の事を知っておきたいだけだ |
レイヴン | …… |
レイヴン | …少年 |
カイル | は、はい… |
レイヴン | この前話した「英雄」の話、もう少し詳しく話す事にしたわ |
レイヴン | あれね、実はおっさんの昔話でね |
カイル | …えっ? |
レイヴン | あんまり気持ちのいい話じゃないし、少年の夢を壊すかもしれない |
レイヴン | それでも、聞きたい? |
カイル | …はい、聞きたいです。どんな話でも |
レイヴン | そう…わかった |
レイヴン | じゃあ話すけど、ちょっとここじゃ駄目ね。また魔物が現れるかもしれないし |
レイヴン | とりあえず先に進みましょうか。話はその先でするわ |
カイル | はい…! |
scene1 | 喪失の英雄譚 |
ヴェイグ | 階段を登ってみたが…ここもさっきと同じような部屋か |
レイヴン | えーっと、壁の小部屋に魔物はっと… |
スタン | …いないな。今度こそ間違いなく |
ヴェイグ | 相変わらず、白き獅子の姿もないな。上層で待ち構えているという事か…? |
レイヴン | あと気がかりなのは一つだけね |
レイヴン | そーれっと! |
| |
| ガゴゴゴゴゴゴゴッ… |
スタン | ここも床がボロボロだ |
レイヴン | 引き続き足元にはご注意を、っと… |
ヴェイグ | …それで、レイヴン。さっきの話の事だが… |
レイヴン | お?話?何の話だったかしら |
ヴェイグ | … |
レイヴン | 嘘、嘘。ちょっと場を和ませようとしたおっさんなりの冗談だから |
レイヴン | それじゃあ、聞かせてあげるわ。英雄と呼ばれた…ろくでもない男の話を |
カイル | … |
| |
レイヴン | …おっさんはね、昔はシルヴァラントに仕える騎士だったのよ |
カイル | レイヴンさんが?意外です… |
ヴェイグ | 全然そうは見えないな… |
レイヴン | おっさんもそう思う。今からしたら考えられないね |
レイヴン | と言っても、その実は褒められたもんでもなくって |
レイヴン | 放蕩息子がそのまま騎士になったようなものだから… |
レイヴン | 任務はいい加減だし、酔って女の子を引っかけたり |
カイル | 何だか…今と全然変わらないような… |
レイヴン | 今よりやる気はあったけどね。情熱と呼べるような…何せ若かったし |
レイヴン | ま、そんな感じで騎士生活を送って、仲間も出来たわけよ |
レイヴン | 信頼のおける同僚とか、ちょっと小生意気な後輩とか |
レイヴン | それと…目標になる憧れるような先輩もいたしね |
カイル | レイヴンさんが憧れるなんてきっとすごい人だったんですね |
レイヴン | …そうね。おっさんだけじゃなくて、みんなの憧れの的だった |
レイヴン | その人に出会って、心を入れ替えたつもりで特訓して… |
レイヴン | そして、ようやくその人に追いついたと思った |
レイヴン | けど…、あれは十年くらい前だったかしら。シルヴァラントで内乱が起きたのよ |
スタン | 内乱…?もしかして、キムラスカの国境近くで起きたっていう… |
レイヴン | お。詳しいのね |
ヴェイグ | …あれほどの内乱だ。シルヴァラントの国民なら誰でも耳にした事はあるだろう |
ヴェイグ | 多くの街が消失し、たくさんの市民の命が失われたと聞く |
レイヴン | …そうね。何もかもがめちゃくちゃになった酷い争いだったわ |
レイヴン | 自国民だけに留まらず隣国キムラスカの、とある街まで巻き込む事になったくらいだし |
カイル | 大きな内乱だったんですね… |
レイヴン | その戦いで同僚も部下も、そして…憧れだった上司も全員死んだわ |
| |
レイヴン | そして最後に、俺自身も… |
スタン | えっ…?でも、レイヴンさんは生きて… |
レイヴン | その後にいろいろあってね |
レイヴン | …まあ、そんなこんなで何とか生き返ったはいいけど、気付けば俺は世間から英雄扱い |
レイヴン | 内乱を終わらせるために散った「救国の英雄」ってさ |
カイル | 救国の、英雄… |
レイヴン | ──冗談じゃない |
レイヴン | 仲間も、憧れも…何一つ守れなかった男が英雄?…笑わせてくれる |
カイル | レイヴンさん… |
レイヴン | 生きる理由をなくした男はどうなったと思う? |
レイヴン | 命令を聞くだけの騎士として、ただ国に尽くす存在になった |
| |
レイヴン | …そこからまた紆余曲折あって今のおっさんに至るわけだけど |
レイヴン | ま、それはとりあえず今は置いておきましょう |
レイヴン | …以上が、おっさんの知ってる英雄の話 |
ヴェイグ | それが…レイヴンが英雄にこだわる理由か… |
カイル | だから、英雄なんていいもんじゃないって… |
スタン | レイヴンさんが話してた事、ようやく繋がった気がする… |
ラピード | ワフ… |
カイル | … |
scene2 | 喪失の英雄譚 |
カイル | … |
ヴェイグ | あの「救国の英雄」がまさか生きていたとはな… |
スタン | しかも、それがレイヴンさんでさらにはそんな背景まであったなんて… |
スタン | 命を懸けて内乱を終わらせた勇敢な英雄… |
スタン | 俺達はずっとそう聞かされてきたけど…結局は表側の話しか知らなかったって事だよな… |
レイヴン | …ちょっとちょっと、そんな辛気臭い顔しないでよ |
レイヴン | でもまあ、真実なんてさ所詮はそんなもんよ |
カイル | …あの、レイヴンさん |
レイヴン | うん?どうしたの、少年 |
カイル | オレ…その… |
ラピード | …!ワウッ!ワウッ! |
| |
騎士団員1 | …!こいつらは…やはり例の咎人共か。クロー隊長の仰った通りだ… |
騎士団員2 | 例の魔物の罠は突破してきたらしい。様子を見に来て正解だったな |
スタン | …!白き獅子のお出ましか! |
ヴェイグ | ユーリはいないな…。…となると、まだ上か |
レイヴン | 全く…もう少し休ませてくれてもいいんじゃない? |
騎士団員1 | はっ、何をふざけた事を… |
騎士団員1 | これより上層へは行かせん、…まあ、行ったところでどうせ我々の守備は突破出来んがな…! |
騎士団員2 | お前達の身柄はこの場で私達が拘束する!…総員、構え! |
カイル | ぐっ… |
レイヴン | せっかちだねぇ。それじゃ、話の続きは後にして… |
ヴェイグ | 今は目の前の敵に集中する!来るぞ…! |
カイル | …わかりました! |
レイヴン | よしよし。んじゃまあ、かかってきなさいよ。白き獅子共 |
scene3 | 喪失の英雄譚 |
ヴェイグ | はっ…! |
| ザシュッ! |
騎士団員1 | ぐぅぅ…おのれ咎人め… |
| |
| ドサッ |
| |
スタン | …よし、終わったな |
レイヴン | はー、連戦は疲れるわぁ。やっぱり無理するもんじゃないねぇ |
ヴェイグ | それより、やはりユーリはオレ達の侵入に気付いていたらしいな |
レイヴン | まあ、あの不自然な魔物の罠の時点でそうだろうと思ってたけどね |
スタン | しかも、あの口振りだとこの先白き獅子との戦いは避けられそうにない |
レイヴン | …そうねぇ |
カイル | あ、あの、レイヴンさん! |
レイヴン | ん?何? |
カイル | えっと、さっきの話なんだけど…オレ…その… |
カイル | レイヴンさんが英雄にどういう事を感じてるとか、そういうの、全然考えられてなくて… |
レイヴン | やれやれ… |
レイヴン | 何を気にしてるのか知らないけど、おっさん、昔の事は整理ついてんの |
レイヴン | …おせっかいな奴らがいたからね |
カイル | おせっかいな奴ら…?それって、もしかして… |
レイヴン | とにかく、さっきは悪かったね |
カイル | いえ…。オレの方こそ、ごめんなさい |
カイル | レイヴンさんにそんな過去があったって知らなかったとはいえ… |
カイル | それに、みんなが言うようにさっきは無謀だったと反省してます… |
レイヴン | わかってくれたならそれでよし、ってね |
レイヴン | そんじゃ、おっさんの話はこれで終わり |
ヴェイグ | レイヴン、辛い話をさせてすまなかった |
レイヴン | だから言ったでしょ~?もう整理ついてるって |
ヴェイグ | そうか。ならいいんだが… |
スタン | とにかく、そろそろ先に進もう。いつまでもここで立ち止まっているわけにはいかない |
レイヴン | 若者と違っておっさんには休息が──…と言いたいところだけど、そうも言ってられないね |
レイヴン | さてと、行きますか |
カイル | …レイヴンさんにあんな過去があったなんて… |
スタン | カイル、何をやってるんだ?行くぞ! |
カイル | …はい、今行きます! |
scene1 | 変えられる未来 |
レイヴン | そろそろ半分登ったくらいか。さーて、お次は何が出るか… |
ヴェイグ | 本命には近づいているはずだが気は抜けないな |
レイヴン | でもま、気張るのもほどほどにね。何かいる時は、ワンコも教えてくれるでしょ |
ラピード | ワンッ! |
スタン | …あれ、カイルは? |
カイル | … |
スタン | おーい、カイル? |
カイル | …へっ?は、はい。何ですか、スタンさん |
スタン | やっぱり上の空だったな。敵がいつ出てくるかわからないんだ、気を付けないと |
カイル | は、はい。ごめんなさい… |
スタン | …もしかして、レイヴンさんの事で悩んでたのか? |
カイル | …はい。オレ、レイヴンさんの事情とか、何も考えてなかったなって… |
カイル | 知らなかったとはいえ、無神経な事たくさん言っちゃったから… |
スタン | カイル… |
スタン | …カイルは、今どう思ってるんだ?レイヴンさんの事情を聞いて |
カイル | …オレ、レイヴンさんの気持ちはわかったつもりです |
カイル | でも…レイヴンさんが何一つ守れなかったなんて…そんな風にはやっぱり思えないんです |
カイル | …仲間を守る事が出来なかったのは事実かもしれないけど…… |
カイル | それでも、英雄だってみんなから認められた人なんです。きっと何かは成し遂げたはずで… |
カイル | これからも、何かを成し遂げられる人だって…そう思うんです! |
カイル | だからその…何て言うか、レイヴンさんに自分自身の事、信じてほしいって言うか… |
カイル | あと、オレ達の事も… |
スタン | そうか…。それが、カイルの気持ちなんだな |
カイル | …はい! |
スタン | それなら、一緒に考えてみよう。どうしたらレイヴンさんが自分自身を信じられるようになるか |
カイル | うーん、レイヴンさんが英雄って呼ばれるのを受け入れられないのは仲間を救えなかったから、ですよね… |
スタン | ああ。でも、過去を変えるなんて事は出来ないしな… |
カイル | そうですね…、過去はさすがに──… |
カイル | …あっ! |
スタン | カイル?何か思い付いたか? |
カイル | はい、多分…! |
カイル | オレ、もう一度レイヴンさんと話してみます! |
| |
ヴェイグ | どうやら、ここが三階のようだが… |
レイヴン | 人っ子一人いない…。白き獅子は上層で固まってるのかねぇ |
カイル | レイヴンさん!オレ、聞きたい事があるんです! |
レイヴン | うおっ!ビックリしたぁ!急に追い付いてきたと思ったらどうしたのよ、少年 |
カイル | 教えてください。ユーリさんと、何があったのか! |
レイヴン | ユーリ?何よ突然 |
カイル | レイヴンさんが言ってた「おせっかいな奴ら」って、ユーリさんの事じゃないですか? |
レイヴン | …へえ、少年案外察しがいいのね |
レイヴン | そうよ、ユーリ達の事。でも、改まって話すような事じゃ── |
カイル | いえ…ちゃんと聞かせてください! |
カイル | …知りたいんです |
カイル | ユーリさんを助ける事が、レイヴンさんが自分自身を信じられるきっかけになるかもしれないから |
| |
レイヴン | …! |
| |
カイル | レイヴンさんが英雄って呼ばれる事を受け入れられないのは、かつての仲間を救えなかったからだ… |
カイル | …過去に戻ってあの時の仲間を助ける事は出来ないかもしれません |
カイル | けど、未来なら…今目の前にいるユーリさんの事は助けられます! |
レイヴン | … |
カイル | 今のレイヴンさんがあるのはユーリさん達の「おせっかい」のお蔭なんですよね |
カイル | …レイヴンさん。ユーリさんを…大切な仲間を、今度こそ助けましょうよ! |
レイヴン | 少年… |
カイル | オレ、レイヴンさんの事大切な仲間だと思ってるんです |
カイル | だから、レイヴンさんには自分自身を信じてほしい…! |
カイル | そのためには何としてもユーリさんを助けないと駄目なんです! |
カイル | …だから、二人の事をちゃんと知りたい |
カイル | 知った上で、レイヴンさんの力になりたいんだ! |
レイヴン | カイル… |
スタン | レイヴンさん、俺とヴェイグも同じ気持ちですよ |
ラピード | ワフッ! |
レイヴン | やれやれ、おたくらまで…。暑苦しいったらないね |
ヴェイグ | レイヴン、お前はオレ達に余計な気遣いをかけさせまいと考えているのかもしれないが──… |
レイヴン | …買い被りすぎよ。単純に話すほどの事じゃない、それだけ |
ヴェイグ | それも本音かもしれない。だが、レイヴンが自分の事を隠しすぎるのも事実だ |
ヴェイグ | 無理に話せとは言わない。だが…オレ達もレイヴンの気持ちを理解したい |
スタン | ああ。カイルの言う通り、俺達はレイヴンさんの力になりたいんです |
カイル | 聞かせてください!お願いします…レイヴンさん! |
レイヴン | …はぁ、若いってのはいいねぇ。そういうまっすぐな目に、おっさん弱いんだわ |
レイヴン | どっかの誰かさんも、そんな目をしてたっけね… |
レイヴン | わかった、おっさんの負け。聞きたいって言うなら、聞かせてやろうじゃないの |
カイル | あ、ありがとうございます! |
レイヴン | 礼を言われるような話じゃないよ。ま、暇潰しだと思って聞いておくれや |
scene2 | 変えられる未来 |
レイヴン | …あれは確か、青年達に初めておっさんの素性を明かした日だったかね |
カイル | 素性って… |
レイヴン | 当時のおっさんにはもう一つの顔があったのよ。シュヴァーンって言う騎士の顔が… |
| |
ユーリ | ──レイヴン…いや、今はシュヴァーンか |
ユーリ | あの時は取り逃がしちまったが、まさかこんな形で再会する事になるなんてな |
シュヴァーン | …… |
ユーリ | 聞きたい事は山ほどあるが、今は急いでんだ。そこを通してくんねぇか |
ユーリ | …それとも、本気でやり合うつもりか? |
シュヴァーン | … |
| チャキッ |
シュヴァーン | シルヴァラント騎士団隊長首席シュヴァーン・オルトレイン、……参る |
ユーリ | ちっ、馬鹿野郎が… |
| |
シュヴァーン | ……ぐっ… |
ユーリ | はあっ…はぁっ… |
シュヴァーン | 俺の負け…のようだな |
シュヴァーン | ……殺せ |
ユーリ | 何だと…? |
シュヴァーン | 国のため、俺は剣になった。命令を完遂するためだけに存在する国の剣だ |
シュヴァーン | …それがこの様だ。唯一の使命すらこなせないなら生きている意味はない |
シュヴァーン | 何より元々死んだ身だ、今さら命など惜しくもない。…わかったら殺れ── |
| |
ユーリ | 一人で勝手に終わった気になってんじゃねぇ! |
| バキィ! |
| |
シュヴァーン | …つっ! |
ユーリ | 何が死んだ身だ!あんたの身体はまだ動くじゃねえか! |
ユーリ | 国の剣だと…?なら、オレの目の前にいるのは誰だ? |
シュヴァーン | …何? |
ユーリ | 情けねえツラしたただのおっさんだ。オレには「国の剣」なんて御大層なもんには見えねえな! |
ユーリ | その目で見ろ。足で歩け。てめえの頭で考えろ! |
ユーリ | 他人にゆだねてんじゃねえよ…てめえの人生だろうが。シャンと生きやがれ! |
シュヴァーン | 俺の…人生… |
| |
スタン | そんな事が… |
レイヴン | …こっぴどく叱られちゃってねえ。ありゃーほんとに立場なかったわよ |
レイヴン | ま、でもそのお蔭で目が覚めてね。もっぺん、自分の人生を生きてみようかって気になったわけ |
レイヴン | もっとも、今はまだ生きる意味を探してるところだけど |
カイル | それじゃあ、ユーリさんは人生の恩人って事ですか? |
レイヴン | 大げさに言うとそんなとこねえ。いやぁ、頭があがらないわ |
レイヴン | 青年も、おっさんなんて「裏切り者」って捨て置けばよかったのに… |
レイヴン | まぁ、そんな奴だから自然に仲間が集まってたわ |
レイヴン | 「凛々の明星」って言ってね。おっさんやワンコもそこに属してた |
レイヴン | …当時の仲間達は、今この世界のどこにいんのかすらわかんない状況だしね |
レイヴン | だから、青年を助けてやれんのはおっさん達だけってわけ。ね、ワンコ |
ラピード | ワフッ! |
スタン | その仲間達の事…大切だったんですね |
レイヴン | …そういう言い方も出来るかな |
レイヴン | … |
レイヴン | …あ、まずいわ。じわじわ効く。我ながら超恥ずかしくない?コレ |
スタン | そんな事ないですよ!いい話じゃないですか! |
ヴェイグ | …ああ恥ずかしがる必要はない |
カイル | やっぱり聞いてよかったです…!オレ、レイヴンさんの力になります! |
カイル | 今度こそ必ず、オレ達の仲間を… |
カイル | ユーリさんを助けましょう! |
スタン | ああ。レイヴンさんの話をここまで聞いて、負けるわけにはいかないよな |
ヴェイグ | …レイヴンには、ユーリに「借り」を返させなければな |
ラピード | ワンッ! |
レイヴン | …それじゃ、遠慮なく力を貸してもらおうかね |
カイル | へへへ…。任せてください! |
| |
| …グ…ルル… |
| |
ヴェイグ | …待て、何か聞こえないか? |
レイヴン | …ああ、いるね。こりゃ魔物の声だ |
ラピード | ガウッ!ガウッ! |
スタン | 後ろ!?…って事は下の階か…! |
ヴェイグ | どうする、魔物が来る前に先へ進むのも手だが… |
レイヴン | …残念だけど、その暇はないみたい |
| |
| グルルルァ!! |
ヴェイグ | 相当な数だ…。まだこれほど残っていたとは…! |
カイル | くっ…!こっちは急いでるんだ、邪魔するな!行くぞぉーっ!! |
scene3 | 変えられる未来 |
カイル | 蒼破刃!! |
| ギャウゥ… |
カイル | くそっ!いくら倒してもキリがないよ! |
レイヴン | 焦ったら駄目よ、少年。数は多いけど、こいつらも無限に湧き出るわけじゃないんだから |
| |
| ゴゴゴゴゴゴ… |
騎士団員1 | ──何の騒ぎだ! |
騎士団員2 | …!まさか咎人がここまで!? |
レイヴン | こんな時に…全く、空気読めっての |
騎士団員1 | 四階への守りを固めろー! |
カイル | 扉の向こうは上への階段…。騎士達が集まって来る! |
レイヴン | 何が何でも登らせないつもりね。このまま階段に向かうのは…ちょっとキツいかも |
スタン | …みんな、まずは階段前の騎士達を蹴散らそう! |
レイヴン | 魔物を引き連れて?下手すりゃ挟み撃ちよ |
スタン | けど、上手くいけば騎士達も魔物と戦闘になる |
ヴェイグ | 隙を見て、扉を閉められればいいが…! |
カイル | 行きましょう!扉が開いている内に! |
騎士団員1 | 咎人共が来るぞ! |
騎士団員2 | 魔物にも注意しろ! |
カイル | どけぇーっ! |
| ザシュッ! |
騎士団員1 | ぐっ! |
| ドサッ |
カイル | みんな急いで!扉を閉め──!? |
| グルルルァ!! |
カイル | くっ、魔物が…!うわあっ…! |
| ザシュッ! |
| ギャウゥ… |
スタン | カイル、どうした!扉は閉まらないのか!? |
カイル | それが… |
ヴェイグ | まずい、動きそうにないな… |
スタン | そんな…!さっきは普通に開いたのに… |
ヴェイグ | 連中の仕業かもしれないな。…何にせよ、魔物が押し寄せて来る、このままではらちが明かない…! |
スタン | なら… |
スタン | カイル、レイヴンさん、ラピード! |
スタン | ここは俺とヴェイグで食い止める、みんなは先へ進んでくれ! |
レイヴン | あんた達…! |
ヴェイグ | …核とユーリを頼む |
カイル | でも…! |
騎士団員2 | 先へは行かせん! |
ヴェイグ | お前の相手はこっちだ! |
| ザシュッ! |
騎士団員2 | ぐあっ! |
| ドサッ |
レイヴン | …ここは頼んだよ、二人共! |
スタン | 任せてください!絶対、無茶はしないし…そりゃあっ! |
| ギャウゥ… |
スタン | 負ける気もない! |
レイヴン | 頼もしいわね。…行くわよ、カイル、ラピード |
ラピード | ワンッ! |
カイル | …ヴェイグさん、スタンさん!気を付けて! |
ヴェイグ | 心配するな、行け! |
スタン | 上の方は頼んだぞ!それと…カイル! |
カイル | は、はい! |
スタン | …頑張ってこい! |
カイル | …はいっ!!必ず、ユーリさんを助け出します! |
スタン | ひとまず、ここは送り出せたか…無事にたどり着いてくれよ…! |
ヴェイグ | あいつらなら大丈夫だ。オレ達が…抑えていればなっ! |
| ギャウゥ… |
スタン | はは、心強いな!それはそうと、勝手に俺と一緒に残らせちゃって悪かっ── |
| グルルルァ!! |
スタン | しまった…! |
ヴェイグ | スタン、伏せろ! |
| パキパキパキッ!! |
| グ…ギャ…ガ…!! |
スタン | す、すごいな…あれだけの魔物を一瞬で氷漬けに…ありがとう、ヴェイグ! |
ヴェイグ | それより、次が来るぞ! |
スタン | よーし…俺も負けてられないな!どおりゃあああっ!! |
| ゴオオオオッ!! |
| グギャアアッ…! |
| |
ヴェイグ | フッ…「すごいな」か。これだけの炎を扱っておいて、よく言う |
スタン | 情けないところばっかりじゃ、先に行ったみんなにも笑われるからな! |
ヴェイグ | では…背中は任せるぞ、スタン! |
ヴェイグ | 絶氷刃! |
スタン | ああ、お互いにな!こいつら全員、一匹だって通さない! |
スタン | 爆炎剣! |
| グルルルァアアッ!! |
スタン・ヴェイグ | うおおおおおおおっ!! |
| パキパキパキッ!! |
| ゴオオオオオッ!! |
| |
| ギャオオォン……! |
騎士団員3 | この咎人共、何て強さだ…! |
| グルルルァ!! |
騎士団員3 | ちっ!邪魔をするな、魔物め! |
ヴェイグ | どうやら、三つ巴になっているようだ |
スタン | ああ…少しは楽になるといいな |
スタン | …こっちは必ず食い止める。任せたぞ、カイル…! |
scene1 | 咎を断つ爪 |
騎士団員1 | 止まれ!ここは通さんぞ! |
カイル | レイヴンさん、待ち伏せされてます!仲間を呼ばれたみたいです! |
レイヴン | ま、そうなるわね。止まれと言われて止まるわけにはいかないけどさ |
カイル | ですね!そこをどけえっ! |
騎士団員1 | うぐっ…! |
カイル | …はあっ…ふう…ん…?レイヴンさん、あれ見てください! |
カイル | 外から光が…!きっと、あそこが頂上ですよ! |
レイヴン | …っは、そりゃよかった。おっさん、こいつらの相手に飽き飽きしてたとこよ |
レイヴン | さっさと突破して、先に行くとしますか! |
騎士団員2 | そうやすやすと通すと思うな、咎人共が!! |
レイヴン | …ふっ!! |
騎士団員2 | ぐっ…これだけの数を相手にして、まだ歯向かうか…! |
レイヴン | やすやすとなんて思ってないよ。こちとら二人も欠けてんだからさ…。ま、お勤めご苦労さん |
騎士団員2 | お…おの…れ…! |
レイヴン | ふぅ…大体片付いたみたいね。少年、ワンコ、そっちはどうよ? |
ラピード | …ワフ! |
カイル | 問題なし!行きましょう! |
レイヴン | ふ、頼もしくて結構結構 |
レイヴン | 青年もお待ちかねだろうし…それじゃあいっちょ、本命にご対面といこうじゃないの! |
カイル | はい!! |
| |
カイル | うわっ、眩しい! |
カイル | ここが最上階…!ついに── |
カイル | …!レイヴンさん、あのクリスタル…! |
レイヴン | …へえ、まさかあんなにもギラギラ光ってるなんてね。一目瞭然じゃない |
カイル | じゃあ、やっぱりあれが… |
レイヴン | 例の「核」って事で、間違いないでしょ |
レイヴン | 勿論…お守りは付いてるけど |
| |
クロー | …来たか |
カイル | …… |
ラピード | …ワオーン! |
レイヴン | とっくに臨戦態勢ってわけね。厳重な警戒にあの派手なクリスタル…わかりやすくていいわ |
カイル | あれを壊せばいいってわけですね |
クロー | させやしねえよ。ただ、ここまで来たのは褒めてやる |
レイヴン | お蔭様で戦う前からクタクタだけどね |
クロー | …ふ、よく言うぜ |
| チャキンッ! |
クロー | …一応聞いておくが、大人しく捕まる気は当然ねぇよな? |
レイヴン | …ちょっと見ない内にくだらない質問をするようになったのね |
クロー | なら仕方ねぇ。ちょっと痛い目見てもらうぜ |
レイヴン | やだねえ、ピリピリしちゃって |
クロー | させてんのはあんただろ。…それより、何故天帝の命を狙う? |
レイヴン | 別に命までは狙ってないわよ。おっさん達はただ…元の世界を取り戻しにきただけ |
クロー | 取り戻す?…これだから咎人の言う事は聞いちゃいられねぇ |
クロー | お前達がやってる事は天帝の守る平和の破壊…。だから天帝は結界を張った |
クロー | この結界はな、天帝が命の危機を感じない限り、発動しないって話だ |
クロー | その結界の核を潰しに来たって事はお前らはつまり、天帝の命を狙う者って事だろ |
レイヴン | ふーん…そんな風に説明を受けて守備させられてるってわけね |
レイヴン | ま、大体合ってる事にしといてあげるわ |
レイヴン | …こっちとしても細かい事情とかさ、言いたい事は山ほどあるんだけど…今さらだわ |
レイヴン | ここまで来たら、お互いやる事は変わんないでしょ |
レイヴン | まずはそのクリスタル、ぶっ壊させてもらうわ |
クロー | させるわけにはいかねぇ。全力で叩きのめす! |
レイヴン | くく… |
クロー | 何がおかしい? |
レイヴン | いや、天帝に忠実な騎士様の割に随分とおしゃべりだなーと思ってね |
レイヴン | 「咎人の言葉に耳を貸すな」だっけ?ラザリスの言いつけで確か、そんなんがあったでしょ |
クロー | ……何が言いたい。はっきり言ってみろよ |
レイヴン | ただ忠実に使命を全うするだけなら、言葉を交わす必要なんてないのよ。とっとと襲ってくればいい |
レイヴン | なのにそうしないって事は…本当は出ちゃってるんじゃないの? |
レイヴン | 本物の青年の感情、がさ |
クロー | 何だと…? |
レイヴン | …他人の命令に従ってるなんてらしくないじゃないの、ユーリ |
クロー | …!おい、いくらあんたにでもその名前を教えた覚えはないぜ |
レイヴン | この世界では、ね |
クロー | …ちっ |
カイル | ユーリさん、思い出してください!レイヴンさんは、あなたの大事な── |
クロー | 黙れ。お前らの虚言に付き合う気はない |
クロー | 総員、かかれ!咎人共を捕えろ! |
カイル | ちょ…ユーリさん、話を──…! |
レイヴン | ありがとよ、少年。けど、もう戦闘は避けて通れないわ |
カイル | …レイヴンさん。って、あれ、ラピードは…? |
ラピード | ワウッ! |
騎士団員3 | 気を付けろ!そいつはただの犬じゃない! |
カイル | ラピード、いつの間に…! |
騎士団員4 | くそっ、抜かれた!クロー隊長、申し訳ありません!犬が一匹、そちらに! |
クロー | ちっ、そいつはオレがやる。お前らは構わずその二人をやれ! |
騎士団員4 | …はっ! |
レイヴン | ふ、ワンコってば随分気合入ってるじゃない |
レイヴン | こっちも負けてらんないってね。…それじゃ、行きますか! |
カイル | わかりました! |
scene2 | 咎を断つ爪 |
ラピード | ワンッ、ワンッ! |
クロー | 頼もしいペット連れてるじゃねえか。躾はなってねえみてえだがな |
ラピード | …!ウウウッ…! |
クロー | 遊んでやるよ。来な、犬っころ |
ラピード | ワウッ! |
クロー | ふっ…なかなかいい攻撃だが…まだまだ! |
| ザシュッ! |
ラピード | グ、ウゥッ! |
クロー | 攻撃が直線的過ぎるぜ。周りが見えてないみてぇだが、どうした、何かに怒ってんのか? |
ラピード | ワウウウッ! |
カイル | 大丈夫か、ラピード! |
騎士団員 | 他の心配をしている余裕があるのか、咎人! |
カイル | くそ…! |
| カキーンッ! |
カイル | うっ…!本当に強いな、こいつら… |
レイヴン | ひとまずは目の前の敵に集中しなさい…! |
レイヴン | 心配ないわ。あのワンコの事よ、一筋縄じゃいかない…! |
ラピード | グルルルル! |
クロー | おっと…へえ、やるじゃねぇか犬っころ。部下にほしいくらいだぜ |
ラピード | …ッ!ワォーン!! |
クロー | ぐっ…!単なるペットのじゃれつきとはわけが違うってか |
クロー | ふ、何度も近くで見たがまた一段とキレがよくなって──… |
クロー | …! |
クロー | 「何度も近くで見た」だと…?オレは一体、何を言って… |
ラピード | ワンッ!! |
| ザシュッ! |
クロー | …ちっ! |
カイル | ユーリさんの襟が…! |
レイヴン | やっと青年の素顔を拝めたわね |
ラピード | ワンッ! |
クロー | 犬っころだと思って手加減してたが… |
| チャキンッ! |
クロー | 悪かったな。こっからは、本気で叩きのめしてやる |
ラピード | ワオーーーーン! |
カイル | はあぁぁ! |
| ズバッ! |
騎士団員 | ぐ、ぐふっ…! |
| ドサッ… |
カイル | はぁっ…はぁっ…!あと、少し…! |
レイヴン | 騎士達もだいぶ減ってきたし少年、ちょっと休んでてもいいのよ? |
カイル | …っ、まだいけます! |
レイヴン | 少年は元気だねぇ…。こりゃ、おっさんももうひと頑張りしなきゃ駄目だね…! |
scene3 | 咎を断つ爪 |
レイヴン | …はぁっ! |
騎士団員 | おのれ、咎人め…お許しを、ラザリス、さ…ま…! |
| ドサッ… |
レイヴン | いっちょ…あがり、かね…ぜぇっ… |
カイル | は、はい…。一人一人、すごい気迫で…、はぁっ…手強かった… |
カイル | ……っ。そうだ、ラピードは!? |
クロー | はぁ…はぁ…。ここにいるぜ、坊主 |
ラピード | グ…ウゥ… |
カイル | そんな…ラピード!?しっかりしろよ、ラピード! |
ラピード | … |
カイル | 息はある…!けど、ボロボロだ… |
レイヴン | …容赦ないじゃない |
クロー | 当然だろ…ぐっ…!こっちも無傷じゃ済まなかった。…ったく、信じられねえ犬だぜ |
クロー | 何にせよ、次はお前達だ |
レイヴン | へっ…そりゃお互い様でしょ。そっちこそ、残りはおたくだけよ |
クロー | まさかうちの部下達が揃ってやられちまうとはな |
クロー | だが、所詮は半人前のガキ一人と肩で息するおっさんが一人…。今のあんたらならオレ一人で十分だ |
レイヴン | …見くびってもらっちゃ困るね。こう見えて…おっさんまだまだ元気よ? |
クロー | はっ、そんな面してよく言うぜ。立ってんのも精一杯だろ |
クロー | だが、あんたの実力はオレもよく知ってる。見くびるつもりなんざねえさ |
クロー | …あんたの息が整う前に一瞬で、ケリつけさせてもらうぜ |
レイヴン | …!速い…! |
レイヴン | 避けきれな── |
クロー | …しばらく、寝ときな。レイヴン |
カイル | くっ…させるもんか!間に合えっ…! |
| ガキーンッ! |
カイル | …!?つっ──…! |
クロー | オレの一撃を受け止めた事は褒めてやるぜ。だがその腕、いつまでもつか…! |
カイル | くっ…! |
クロー | はああっ! |
| ザシュッ! |
カイル | うわあぁっ!? |
レイヴン | カイル! |
カイル | … |
クロー | 殺しちゃいねえよ。気を失って寝てるだけだ |
レイヴン | っ…!てめえ、いい加減に──…くっ! |
クロー | もはや抵抗する力すら残ってねえってか |
レイヴン | …ったく、情けないね |
クロー | …レイヴン、お前もここまでだ |
クロー | 帝都に連行する。それまではこのガキと一緒に大人しく寝てな |
| チャキッ… |
クロー | …それじゃあな。いい夢見ろよ、おっさん |
レイヴン | くっ… |
| |
レイヴン | 俺は… |
レイヴン | 俺はまた、救えないまま── |
scene1 | 自分の正義 |
クロー | ──いい夢見ろよ、おっさん |
レイヴン | …… |
| |
| カキーーンッ! |
| |
レイヴン | …?今のは… |
クロー | お前…! |
| |
カイル | はぁ…はぁ…レイヴンさんは、…オレが守る! |
クロー | …当分目覚める事はねえと思ってたがまだそんな力が残ってたとはな |
カイル | …甘く見るなよ!オレはまだ…、まだ戦える!はああああぁぁぁぁっ!! |
| キンッ!キンッ! |
クロー | どうした?太刀筋、ふらついてるぜ! |
カイル | くっ…! |
レイヴン | 少年…! |
カイル | はぁ…はぁ… |
カイル | 立ってください、レイヴンさん! |
カイル | ここで立たなきゃ、また仲間を助けられない…!そうでしょ!? |
レイヴン | …! |
カイル | ユーリさんを助けるんじゃなかったんですか!? |
カイル | 「借り」を返さなくていいんですか!? |
カイル | だったら…、だったら向き合って戦わないと! |
レイヴン | 少年… |
カイル | レイヴンさんならきっとユーリさんを助けられます! |
カイル | ──英雄だから! |
カイル | オレはレイヴンさんを信じる!だから…レイヴンさんも自分自身を信じてください…! |
クロー | 何をごちゃごちゃと…!はっ! |
| ズガッ! |
カイル | うぐっ…! |
クロー | おいおい、もう終わりか? |
カイル | はぁ…はぁ…ま、まだだ!今ぶっ倒してやるから覚悟しろよ! |
カイル | はあーっ! |
レイヴン | …英雄、ね。言ってくれるじゃない |
レイヴン | …全く、おっさん使いの荒い少年だわ |
レイヴン | …でも、少年の言う通りね。借りを返すまで、諦めるわけにはいかないものね…! |
scene2 | 自分の正義 |
| キンッ!ガキイィン! |
カイル | はぁ…はぁ…くぅ! |
クロー | おい、もう剣を持つ力も残っていないんじゃねえのか? |
カイル | そんな事…ないっ! |
クロー | まぁ、いいさ。これで、終わりにしてやる…!はぁっ! |
| ガキィィインッ! |
カイル | うっ、うわああああっ! |
レイヴン | カイル! |
カイル | うっ…! |
レイヴン | 少年、大丈夫!? |
カイル | …だ、大丈夫です…!オレはまだ…、全然… |
レイヴン | カイル… |
レイヴン | 悪かったね、ここまで頑張らせて |
| |
レイヴン | …後はおっさんに任せなさい |
カイル | レイヴンさん… |
カイル | …オレ、レイヴンさんなら絶対に立ち上がってくれるって思ってました… |
レイヴン | はは…。お待たせ──っと |
| |
クロー | やる気になったのか? |
クロー | さっきまで、何もかも諦めたような顔してたくせに |
レイヴン | おっさんには退くに退けない理由があるからね |
レイヴン | 大人として…情けない背中は見せらんないでしょ |
クロー | …へえ、勘違いしてたぜ。あんたはもっと枯れた人間だと思ってたが |
レイヴン | 何を言ってんのよ。水を与えたのはおたくでしょーが |
クロー | …覚えてねぇな |
レイヴン | あったのよ。青年が、おっさんの心を潤わせてくれた事が |
クロー | ……やっぱり咎人だな。聞くんじゃなかったぜ |
レイヴン | あら、年上の話は素直に聞いておくものよ? |
クロー | 口車には乗らねぇよ。オレは白き獅子として、あんたを捕まえる…それだけだ |
レイヴン | 白き獅子として、か… |
レイヴン | ふ、まるで昔のおっさんみたいね |
レイヴン | 騎士として盲目的に国に仕えてたあの頃の俺と同じ… |
クロー | あんたが国に仕える騎士だと?何を寝ぼけた事言って──… |
| |
クロー | うっ…! |
クロー | な、何だ…?頭が… |
| |
シュヴァーン | ──殺せ |
ユーリ | 何だと…? |
シュヴァーン | 国のため、俺は剣になった。命令を完遂するためだけに存在する国の剣だ |
シュヴァーン | …それがこの様だ。唯一の使命すらこなせないなら生きている意味はない |
| |
クロー | くっ…!今のは…… |
カイル | ユーリさん…?もしかして記憶が…!? |
レイヴン | へぇ、いい兆候じゃない。ちょっとはおっさんの言う事信じる気になった? |
クロー | …馬鹿言うな。信じるわけねぇだろ |
クロー | 咎人の術だか何だか知らねぇが、不発に終わったな |
レイヴン | ったく、何を言っても駄目か |
レイヴン | けど、こうやって見てると、あの時偉そうにおっさんに説教たれた青年と同じ人物だなんて思えないね |
レイヴン | …自らの正義を見失って騎士として天帝に仕えてるなんて、全然ユーリらしくない |
クロー | オレらしさだって?あんたにオレの何がわかる |
レイヴン | わかってるよ。少なくとも、今のお前さんよりはね |
カイル | オレにだってわかります…!ユーリさんが、大切な事を忘れちゃってるって! |
クロー | …何を言おうが無駄だぜ。オレはあんたのように、咎人の言葉に惑わされやしない |
レイヴン | やれやれ、頭が固いねぇ |
レイヴン | やっぱり、あの時の俺みたいに… |
レイヴン | 一発ぶん殴らないと、治らないみたいだな |
クロー | 上等だ。返り討ちにしてやるよ |
| |
レイヴン | …少年、今こそお前さんの力が必要よ |
レイヴン | 「今度こそ」仲間を助けたいの。…手伝ってくれるんでしょ? |
カイル | …!はい、勿論です! |
レイヴン | よーし、それじゃあ… |
レイヴン | いくぞっ…!! |
カイル | うおおおおおっ! |
クロー | 来い…! |
scene3 | 自分の正義 |
レイヴン | はぁ…はっ…ごほっ…。随分いい顔になったじゃない、ユーリ |
クロー | ぐっ…がはっ…!はぁ…はぁ… |
クロー | まさか、このオレが…くっ…! |
カイル | はぁ、はぁ…ユーリさん、ここまでにしましょう…!これ以上戦う必要は── |
クロー | …いや、まだだ。お前ら咎人は必ず捕える |
クロー | それに、天帝の命をあんたらに狙わせやしな── |
| |
レイヴン | いい加減にしな、青年 |
レイヴン | 青年の意思はどこにあるのよ |
レイヴン | おたくが今必死になってやろうとしてる事のどこに正義が? |
| |
レイヴン | …ふざけんじゃねえ! |
クロー | … |
カイル | レイヴンさん… |
レイヴン | 正義を他人にゆだねてんじゃないよ |
レイヴン | 「その目で見ろ。 足で歩け。 てめえの頭で考えろ!」 |
クロー | …! |
レイヴン | …ユーリ、おたくが教えてくれたんでしょうが |
クロー | くっ…!また、この感覚──… |
| |
ユーリ | 一人で勝手に終わった気になってんじゃねぇ! |
| バキィ! |
シュヴァーン | …つっ! |
ユーリ | 何が死んだ身だ!あんたの身体はまだ動くじゃねえか! |
ユーリ | 国の剣だと…?なら、オレの目の前にいるのは誰だ? |
シュヴァーン | …何? |
ユーリ | 情けねえツラしたただのおっさんだ。オレには「国の剣」なんて御大層なもんには見えねえな! |
ユーリ | その目で見ろ。足で歩け。てめえの頭で考えろ! |
| |
クロー | くそっ…!また、頭の中に── |
レイヴン | 思い出したかい?青年 |
レイヴン | …いい加減やめにしようや。他人にゆだねんのはさ |
レイヴン | ──てめえの人生だろ、シャンと生きやがれ! |
scene1 | 明星は再び瞬く |
レイヴン | ──てめえの人生だろ、シャンと生きやがれ! |
クロー | …!その、言葉は──… |
クロー | うっ…! |
カイル | ユーリさん!?まさか…! |
クロー | ………… |
クロー | オレは… |
レイヴン | 目ぇ覚ましな、ユーリ! |
クロー | え、おいちょっと待て!おっさ── |
| バキィ! |
クロー | いって…。おっさん、やり方が荒っぽいぜ… |
レイヴン | はぁ、はぁ…。おや…? |
レイヴン | その様子、もしかして… |
| |
クロー | …ああ、思い出したさ。お蔭様でな |
カイル | やっぱり!ユーリさん、記憶が…! |
レイヴン | おっさんの拳が効いたのね |
ユーリ | いや、あんたが殴る直前には記憶は取り戻してた。明らかに余計な一発だ |
レイヴン | ええ!?そ、そうなの…? |
レイヴン | …まあまあ、おっさんも前に一度おもっきし青年にぶん殴られた事あるしさ |
レイヴン | ほら、覚えてるでしょ?勝手に終わった気になってんじゃねぇ!とか言って |
レイヴン | だからほら、お互い様って事で~ |
ユーリ | そんな事もあったっけな。…ったく、執念深いおっさんだぜ |
レイヴン | 少年もよく頑張ったわね |
レイヴン | いやー、さすがのおっさんも今回はちょっとマズイと思ってたのよね |
レイヴン | 何せほら、青年ってば容赦なかったじゃない? |
ユーリ | …はいはい、悪かったよ |
レイヴン | でも、青年もこうして記憶を取り戻す事が出来たし… |
レイヴン | これも少年が協力してくれたお蔭。ありがとね…カイル |
カイル | レイヴンさん…。力になれたならよかったです! |
カイル | オレ、レイヴンさんの事信じてました |
カイル | レイヴンさんなら、絶対ユーリさんを助けられるって |
レイヴン | ふ、まあね |
レイヴン | …俺様にかかれば、記憶の一つや二つ、取り戻すのなんて楽勝よ!なーんて── |
ユーリ | やれやれ、どこが楽勝だって?もうよれよれじゃねーか |
レイヴン | うっ…。…て、それ青年が言うの? |
ユーリ | それより、クリスタルの事はいいのか? |
ユーリ | お前ら、あれが目当てで来たんだろ? |
カイル | そうだった!オレ達、あのクリスタルを壊しに来たんだ! |
カイル | レイヴンさん、早くクリスタルを壊しましょう! |
レイヴン | はいはい、わかってるよ。んじゃ、最後の大仕事と行きますか |
レイヴン | 青年、あんたはワンコの事見ててやってちょうだい |
ユーリ | ああ、勿論言われなくてもそうするさ |
ユーリ | …相棒だからな |
| |
カイル | ──これがクリスタルか。近くで見ると、やっぱり強い力を感じる… |
レイヴン | そりゃそうでしょ。あんなでっかい結界を作る力を送ってるんだから |
レイヴン | じゃ、少年。とっととやっちゃって! |
カイル | えっ、オレがやるんですか!? |
レイヴン | 少年なら出来ると思ってるから言ってるのよ |
レイヴン | おっさんが見届けてるからさ、ばっちり決めてみせなさい |
カイル | …わかりました! |
カイル | …はあああっ! |
| パキイィンッ! |
| |
カイル | 空に伸びてた光が消えていく…。これでやっと… |
レイヴン | そうね |
レイヴン | …さてと。これで核も残り二つ…他のみんなも上手くいってるといいんだけど |
カイル | みんなならきっと、大丈夫ですよ! |
カイル | それより… |
| |
カイル | …あの、レイヴンさん |
レイヴン | ん? |
カイル | さっきの戦い…レイヴンさん、本当にかっこよかったです |
レイヴン | この少年は、何を言い出すかと思えば… |
カイル | ユーリさんを助けて、核も壊せた。やっぱりオレ、レイヴンさんは英雄だと思います |
レイヴン | …そうだとしたら、少年のお蔭だけどね |
カイル | え?今何て… |
レイヴン | 何でもないわ、こっちの話 |
| |
レイヴン | …それより少年、まだ英雄になりたいって思ってる? |
レイヴン | 憧れの英雄も、成れの果てはこーんなおっさんだったりするのよ |
カイル | はい!むしろ、レイヴンさんの事を知って憧れる英雄がもう一人増えました |
カイル | オレは父さんやレイヴンさんのような英雄になります、絶対に! |
レイヴン | 少年… |
レイヴン | お前さんならなれるよ、きっと |
scene2 | 明星は再び瞬く |
レイヴン | ユーリ、ワンコの様子はどう? |
ユーリ | ああ、ようやく意識は取り戻した。命には別状なさそうだが… |
ユーリ | 見たところ、自力で歩けるようになるまでは少し時間がかかりそうだな |
ラピード | クゥン… |
ユーリ | …悪かったな、ラピード |
ユーリ | それとレイヴン。あんたにも随分と世話かけちまったな |
レイヴン | さて、何の事かしらね~。おっさん忘れっぽいからなーんも覚えてないわ |
レイヴン | …でもまあ、これで貸し借りなしってわけだし、あんま気にしなくていいんでない? |
ユーリ | レイヴン… |
ユーリ | …ふ、それもそうだな |
カイル | ふふっ |
レイヴン | ん?少年、何笑ってんのよ |
カイル | あ、いや、二人は本当に仲がいいんだなーって思って── |
レイヴン | 少年~、前にも言ったはずよ。おっさん達は単なる腐れ縁みたいなもんだって |
レイヴン | そんな暑苦しい青春みたいな関係じゃないんだって |
カイル | えぇ~?うーん、やっぱりどう見ても仲良しだと思うんだけど… |
レイヴン | …さてと。ここはもう用済みだし、そろそろおいとましますか |
カイル | そうですね、スタンさんやヴェイグさんの事も気がかりだし…! |
ユーリ | スタンとヴェイグ…?あいつらも一緒なのか? |
カイル | はい。オレ達を先に進ませるために、二人は下の階に残ってくれたんです |
レイヴン | あー…その辺りの事とかおっさん達の目的の事とか、青年にも話しておいた方がよさそうだな |
レイヴン | 下へ降りながら諸々の事情は説明するわ |
ユーリ | ああ、頼む |
ユーリ | …それじゃ、早速行くか。ラピードはオレが担いで連れて行く |
カイル | よーし、行きましょう! |
scene3 | 明星は再び瞬く |
スタン | はぁ…はぁ…。ヴェイグ… |
ヴェイグ | 何だ…? |
スタン | 生きてるか? |
ヴェイグ | …生きてなきゃ返事は出来ないだろう |
スタン | ははっ、そりゃそうか |
ヴェイグ | よし、スタン。大分休めたし、そろそろ── |
カイル | …あっ!スタンさん!ヴェイグさん! |
スタン | カイル…?レイヴンさん、ラピード…、それにユーリも…! |
レイヴン | 無事でよかったわ。お互いボロボロだけど |
ヴェイグ | …ユーリ、記憶が戻ったようだな |
ユーリ | ああ、お蔭様でな |
ユーリ | おっさんから事情は聞いたぜ。二人にも随分と心配かけちまったみたいだな |
スタン | いや、構わないさ!ユーリが戻って来てくれて本当によかったよ |
ヴェイグ | ところで、例の核はどうなった? |
レイヴン | ちゃーんと壊したよ。空に伸びてた光の柱も、綺麗さっぱり消えたし |
スタン | そっか、よかった…! |
カイル | それより、この魔物の数…スタンさん達が全部倒したんですか? |
カイル | しかも、騎士達まで同時に… |
スタン | ああ。かなり大変だったけどヴェイグと一緒だったからな、どうって事ないさ |
ヴェイグ | ああ。安心して背中を預けられた事が勝因だ |
カイル | たった二人で…すごい。さすがです! |
ユーリ | …この騎士達は死んでんのか? |
ヴェイグ | いや、気絶させただけだ |
スタン | この人達も記憶を改変されてるだけだ。罪はないからな… |
ユーリ | … |
カイル | このままにしておくのは可哀想ですね… |
レイヴン | そうね。いつまた魔物達が出てくるかわかったもんじゃないし |
ユーリ | 心配ない、オレがここに残るさ |
ユーリ | 記憶を操作された偽りの世界であれこいつらは一応、オレの部下だったわけだ |
ユーリ | なら、オレが面倒見る…それが筋ってもんだろ? |
ユーリ | 騎士ってのは気乗りしないが、むざむざ見殺しにも出来ねえしな |
カイル | ユーリさん… |
ユーリ | ま、上手い事クローのふりしてりゃオレに危害が及ぶ事もないだろ |
レイヴン | それもそうね |
ユーリ | それじゃ、決まりだな。…っつーわけで、ラピード。お前ともここで一旦お別れだ |
ユーリ | ヴェイグ、こっからは代わりに担いでやってくれねえか? |
ヴェイグ | ああ、勿論だ。来い、ラピード |
ラピード | …… |
カイル | …?ラピード? |
ラピード | ワフ、ワフワフッ! |
ユーリ | …やれやれ |
レイヴン | ん?どしたのワンコ |
ユーリ | ああ、ここに残るってよ |
ユーリ | オレの事、よっぽど心配してくれてるみてぇだな |
ヴェイグ | ふ、頼もしいな。さすがお前の相棒だ |
スタン | ラピード、ユーリの事頼んだぞ! |
ラピード | …ワフッ! |
ユーリ | それじゃ、ひとまず決まりだな |
ユーリ | …こいつらの安全が確認出来たらオレ達もすぐに後を追う |
カイル | はい!必ず、追って来てくださいね! |
レイヴン | よーし、そんじゃおっさん達もさっさと神殿から出るとするかね |
カイル | …!そういえば、入口でコハクを待たせたままじゃない!? |
ヴェイグ | そうだったな。もう随分時間が経ってる気がするが、まだいるだろうか |
レイヴン | 問題は、光の柱の事何て説明するかね。さて、どうしたもんか… |
スタン | まあ、何とかなるって! |
レイヴン | …何とかって、何よ。コハクちゃんを怒らせたら、あの強烈な蹴りが飛んでくるわよ |
レイヴン | 下に着くまでにマトモな言い訳考えないと… |
カイル | ……。と、とにかくオレ達は行きます! |
カイル | ユーリさんとラピードも気を付けて!また会えるの、楽しみにしてます! |
ユーリ | おう、またな |
ラピード | ワフッ! |
Name | Dialogue |
scene1 | 神殿への道程 |
ゼロス | いやー、結構歩いて来たな。さすがに疲れたぜ… |
スレイ | うん。でも、そのお蔭で光の柱にも大分近づいてきた |
ミクリオ | 翠樹の神殿に着くのももうすぐじゃないか? |
コレット | うん…!あともう少し、頑張らなきゃ |
コレット | そだ、私、ちょっと先の様子を見てくるね?みんなはここで待ってて! |
スレイ | あ、コレット…って行っちゃった |
ミクリオ | きっと、落ち着かないんだろうな。覚悟したとは言え、ロイドを相手にするんだ、無理もないよ |
ゼロス | … |
ゼロス | …なあ、ここまでは順調に来てるよな? |
スレイ | そうだけど…どうかした? |
ゼロス | ずっと強行軍だったし、ちょっとどこかで休まねぇか? |
ミクリオ | それは、コレットのためかい? |
ゼロス | おうよ。さっきも元気な風に見せてたけど、ありゃ上辺だけだろうし |
ゼロス | それに俺さま達だって、肝心の神殿で十分に動けないんじゃどうしようもねーぜ? |
ミクリオ | 確かに、出来れば休息をとりたいけど…少し難しいだろうね |
ミクリオ | この辺りに休めそうな場所はないし、街もない。戻って休むにしても人目を気にしなければならない |
スレイ | そうだな。…オレ達の事がばれて、騒ぎになったらまずいもんな |
ミクリオ | それに何より時間が惜しい。今は一刻も早く核を破壊しないと |
ゼロス | … |
コレット | みんなー!こっち、道があったよー! |
ゼロス | おう!すぐ行くぜ、コレットちゃん! |
ゼロス | …ま、ミクリオの言う通りだな。よっしゃ、んじゃさっさと神殿まで行っちまおうぜ |
ミクリオ | そうだね。今は少しでも早く問題を解決するのが一番の方法だと思う |
スレイ | よし…じゃあコレットに合流しよう! |
scene2 | 神殿への道程 |
コレット | … |
ミクリオ | 光の柱を見ているのかい? |
コレット | …うん、やっぱり気になっちゃって |
コレット | あの光の柱は結界の核から出てて…確か光の下に神殿があるんだよね |
スレイ | うん、ハロルドさんはそう言ってたな |
| |
コレット | ロイドもそこに… |
ゼロス | …だろうな。白き獅子が咎人の捜索を放り出してまで守りに入ってんだ |
ゼロス | そうすんなりと、核を破壊ってわけにはいかねぇだろうな |
ミクリオ | ああ、だが僕達も逃げるわけにはいかない |
ミクリオ | 例えロイドと戦う事になっても… |
スレイ | でもさ、ロイドの記憶が戻る事だってあるかもしれないだろ? |
スレイ | そうなれば、戦う理由はなくなる。ロイドの記憶を戻す方法を考えてみてもいいんじゃないか? |
ミクリオ | それが出来れば最善だろうね…。けれど、僕らにはその明確な手段がわからない |
ミクリオ | 僕の記憶が戻った時だって、スレイと共に行動していても時間がかかったんだ |
ミクリオ | …その間スレイを疑い続けながら…ね |
スレイ | そっか… |
ミクリオ | 特異点の修復は今も続いている。やはり僕達は核の破壊を最優先で考えるべきだと思う |
ゼロス | …あれもこれもってのは、虫がよすぎるのかねぇ |
ゼロス | ロイドの野郎、世話かけさせやがって… |
コレット | だいじょぶだよ、ゼロス |
コレット | 私、決めてるから。世界からもロイドからも逃げない、今度は私が助けるって |
スレイ | コレット… |
スレイ | よし!世界とロイドを取り戻すために、オレ達ももっと気合を入れていこう! |
ミクリオ | 肩に力が入りすぎると空回りするよ、スレイ |
スレイ | いいだろ?ロイドはオレ達にとっても大事な仲間なんだからさ |
ゼロス | …ま、気楽に行こうぜ。核を破壊する前に、バテるわけにはいかねぇしな |
コレット | まだ光の柱にも辿りつけてないもんね |
ミクリオ | ああ、僕達の戦いは神殿の中に入ってからが本番だ |
ミクリオ | ロイドだけじゃない、あちらはラザリスの結界を守るためにあらゆる手を尽くしてくるだろう |
コレット | うん…!それも覚悟の上だよ |
スレイ | 大丈夫、みんながいればきっと何とかなるさ |
ミクリオ | …よし。じゃあ、まずは神殿に到着しないとね |
スレイ | ああ、行こう! |
| |
ゼロス | …ロイドから逃げない、かコレットちゃんの言う通りだよな |
ゼロス | 待ってろよハニー、俺さまが目を覚まさせてやるぜ…! |
scene1 | 遺跡好きの学者先生 |
コレット | 見て、光の柱まであと少しだよ |
スレイ | そうだな。にしても、わかりやすい目印があって助かった~ |
ミクリオ | ああ。神殿の事は名前と大まかな場所以外、ほとんど情報が出てこなかったからね |
ミクリオ | あの光の柱がなかったら神殿を探すのさえ一苦労だったよ |
ゼロス | …うん?おい、向こうから誰か来るみたいだぜ |
コレット | …! |
??? | ふう、疲れたわね… |
コレット | あ、あなたは…! |
| |
??? | あら?えーっと… |
??? | 知り合いか?リフィルさん |
リフィル | いえ、覚えはないのだけど…どこかで会った事あったかしら…? |
コレット | あ…え、えっと… |
ゼロス | 会いましたとも、夢の中でね。こんな美人、忘れるはずがない |
リフィル | ちょ、ちょっと、何よあなたは… |
ゼロス | まさか現実でも会えるなんてこれはもう運命!でしょ |
リフィル | …はぁ |
| |
リフィル | そう思うなら、自分の名前くらい名乗ってはどうかしら? |
ゼロス | おっと、これは失礼!胸の高まりに我を忘れてたぜ |
ゼロス | 俺さまはゼロス・ワイルダー。気軽にゼロスくんって呼んでくれよな! |
??? | あはは、面白い奴だな |
ティトレイ | おれはティトレイだ。よろしくな |
ゼロス | お付きの男にゃ興味ねぇな |
ティトレイ | …まぁ、別にいいけどよ。リフィルさんに手を出すのはやめておいた方がいいぜ |
ティトレイ | 何せこの人、学者のくせにすぐ── |
リフィル | すぐ…何かしら? |
ティトレイ | いや…。手が出るなんて、そんな失礼な噂があったような気が… |
リフィル | 噂、ね。まぁいいわ、ティトレイ、この件は後でゆっくり聞かせてもらうわね |
ティトレイ | か、勘弁してくれ~ |
スレイ | えっと…学者さんなんですか? |
リフィル | ええ、そうよ。ちょうどこの先の森で薬草を取って来たところなの |
ティトレイ | おれはその護衛。魔物がよく出てくるからな |
リフィル | あなた達も森へ? |
スレイ | はい。あの光の柱が気になって |
リフィル | ああ、あれね。本当に不思議な光よね… |
リフィル | あの光は森にある大樹から出ているみたいだし、一体何なのかしらね? |
ミクリオ | 大樹から…?それでは、やはりその付近に翠樹の神殿があるという事か… |
| |
リフィル | お前もそう思うのか!? |
ミクリオ | っ、あ、ああ… |
リフィル | そう…昔から、森のどこかに翠樹の神殿があると噂されている |
リフィル | その噂を元に精査を重ね、私も何度も探してみた。しかし、未だに見つけられてはいない… |
リフィル | もしこれが、巧妙に隠されているためだとしよう。だがそうなると、その理由は何だ? |
リフィル | 何のために、そしてどういう歴史的背景で造られたのか。非常に興味深い… |
| |
ティトレイ | おーい、リフィルさん。リーフィールーさーん |
リフィル | 何だ!?ティトレイにはこの素晴らしさが理解出来ないのか!? |
ティトレイ | ほらほら、みなさん呆気に取られてるでしょ!! |
コレット | …遺跡、お好きなんですね |
リフィル | ええ!遺跡や歴史的建造物に興味があるの。本業以外の、趣味みたいなものね |
ゼロス | ふ、ふーん… |
ティトレイ | 何だ、その妙な反応? |
スレイ | いや、リフィルさんと同じように遺跡が好きな人がいたなって… |
リフィル | あら、私と気が合いそうね。是非とも会って話がしてみたいわ |
スレイ | それが…遠くに住んでいて、会いに行くのは難しいというか… |
リフィル | …それは残念ね |
リフィル | …あら。もうこんな時間だわ。ティトレイ、私達はそろそろ街へ帰りましょうか |
リフィル | あなた達、もし神殿を見つけたら是非詳しく教えてほしいわ。私達はアルメリアにいるから |
スレイ | わかりました |
リフィル | …ああ、それと森に白き獅子の方々がいたからくれぐれも迷惑はかけないようにね |
コレット | 白き獅子が… |
ティトレイ | んじゃあな。気を付けて行けよ |
ゼロス | いや~、何とか誤魔化せたな |
コレット | ごめんなさい。思わず、リフィル先生に声かけちゃって… |
コレット | 咎人だって知られちゃうかもしれなかったのに |
ミクリオ | 知り合いなら無理もないさ、気にする事はないよ |
ゼロス | そうそう。俺さまだって、思わずリフィルさま~って、呼びそうになったもんな |
コレット | ありがと。次からはちゃんとするね |
ミクリオ | それより、気がかりなのは白き獅子の方だ |
スレイ | 森にいるって話だったし、ここから先は、もっと警戒して進んだ方がいいな |
コレット | そだね。私達が捕まったりしたら、世界はこのままになっちゃう |
コレット | ロイドやリフィル先生も、私やゼロスの事を思い出せないまま… |
コレット | そんなのは悲しすぎるよ |
ゼロス | 大丈夫だって、コレットちゃん。俺さまがついてるんだからよ! |
ミクリオ | ゼロスがついているのはともかく、世界を元に戻せさえすればきっとみんなの記憶も元に戻るさ |
ミクリオ | そのためにもまずは神殿に辿りつかないといけない |
コレット | うん…!進もう、みんな |
コレット | リフィル先生も、ロイドも…今度は私が助けなくちゃ… |
scene2 | 遺跡好きの学者先生 |
スレイ | あれがリフィルさんの言ってた大樹… |
コレット | すごい…他の木とは桁違いの大きさだよ |
ゼロス | おいおい、こりゃとんでもねぇな… |
| |
ミクリオ | 聞いた通り、光の柱も大樹の頂上から伸びているようだ |
スレイ | 本当だ。…でも、ここから見た感じ神殿みたいな建物は見当たらない |
ミクリオ | ああ、僕もそこが気になっている。大樹を神殿とは呼ばないだろうし |
コレット | でも、光が出てるって事は核はこの大樹の上の方にあるんだよね? |
ミクリオ | ああ、それは間違いないと思う |
スレイ | もしかして、この大樹の中に神殿があるんじゃないか? |
コレット | 樹の中に神殿が? |
ミクリオ | これだけ巨大なら考えられなくはないけれど、僕らの知る限りそんな神殿は今まで一度も見た事も聞いた事もない |
スレイ | 確かに今まではないけど、そうだったら面白いと思わないか? |
ミクリオ | …それは否定しないよ。だが、だとすれば気になるのは、どのようにして造られたのか、だ |
ミクリオ | 大樹を土台に後から造られたのか、それとも、神殿を覆うように大樹が成長したのか…気になるな |
ゼロス | はあ…忘れてた。こいつらもこういう考察大好きな遺跡馬鹿だった… |
ゼロス | とにかく、それを確かめるためにももっと近くに行ってみようぜ |
ゼロス | ハッキリ言ってここからじゃなーんも見えねぇ。だろ? |
ミクリオ | 確かに、ゼロスの言う通りだな |
スレイ | それじゃ、先に進もう! |
コレット | うん! |
コレット | 待っててね、ロイド… |
scene1 | 門前の攻防 |
スレイ | 見えた!大樹の根本だ! |
コレット | あれは…扉? |
ゼロス | …おい、あそこを見てみろよ。扉を守ってるの、あれって白き獅子じゃねーのか? |
ミクリオ | ああ、間違いない。という事は、あれが翠樹の神殿への入口か |
ミクリオ | まさか本当に大樹の中に神殿があるなんてね |
ゼロス | 後は、あの中に入るだけか…。入口の騎士が邪魔だな… |
ゼロス | どうするよ?力ずくでご退場願うか? |
ミクリオ | いや、それは避けたいね |
ミクリオ | 正面からの戦いとなれば、増援を呼ばれる可能性がある |
コレット | そだね。それにあの人達も記憶を改変されてるだけだし… |
スレイ | でも、彼らに気付かれないで侵入するにはどうしたらいいんだろう |
スレイ | この辺り、扉までは隠れる場所もないし… |
ミクリオ | 何かで気を引く…のも難しいか。彼らがそう易々と扉の前をがら空きにするとは思えない |
スレイ | うーん…あ!…じゃあさ、こういうのは? |
スレイ | 誰かが気を引いてる隙に、他の人が後ろから奇襲をかけるんだ |
ミクリオ | 確かに、一瞬で気絶させれば最小限の被害で済むし、仲間も呼ばれない、か… |
ゼロス | いいじゃねぇか。それならいけそうだな |
ミクリオ | となると陽動側と奇襲側、二手に分かれる必要があるね |
コレット | … |
コレット | あのね、私が陽動側じゃ駄目かな? |
ゼロス | いやいや!?コレットちゃん、それは危ないって! |
ミクリオ | ゼロスに賛成だね。陽動側は、一歩間違えれば騎士達に捕まってしまう危険な役だ |
コレット | で、でも… |
ミクリオ | これは僕とスレイが適任だろう。いざとなれば神依も使えるからね |
スレイ | そうだな。オレ達が引き付けるから、コレットはゼロスと一緒に奇襲を頼めないかな? |
コレット | … |
ゼロス | コレットちゃん、心配すんなって。大丈夫、いざとなりゃ俺さまが守ってやるからさ |
コレット | …うん。ありがと、ゼロス |
scene2 | 門前の攻防 |
スレイ | 準備はいいか?ミクリオ |
ミクリオ | …ああ、行こう |
| |
騎士団員1 | こちら異常なし。そっちはどうだ? |
騎士団員2 | こっちも何も見つからない。…本当に敵なんか…むっ!? |
| |
スレイ | 白き獅子だな! |
ミクリオ | そこをどいてもらおうか…! |
騎士団員1 | 貴様ら…咎人か! |
騎士団員2 | たった二人でここに来るとは…!舐められたものだな |
ゼロス | 残念。二人じゃないんだわ。これが |
騎士団員1 | なっ、こいつら後ろから── |
コレット | ご、ごめんなさい…! |
ゼロス | よっと! |
| バシッ! |
騎士団員1 | ぐぁ…ファング、様に報告を… |
| |
| ドサッ |
| |
スレイ | ふぅ…上手くいったね。戦闘にならなくてよかった |
ミクリオ | 一瞬だったし、これなら神殿の中の騎士達にも僕達の事は気付かれていないだろう |
ミクリオ | けど、油断はせずに行こうか。見張りは彼らだけじゃないかもしれない |
ゼロス | 別の奴に見られちまっても困るしな。早いとこ入っちまおうぜ |
ミクリオ | そうだね。よし、扉を開けるよ |
| |
| ガゴゴゴゴゴ |
ミクリオ | 見たところ敵の姿はない…か? |
スレイ | っ!ミクリオ!上だ! |
| |
| グルルルル! |
| |
ミクリオ | …魔物!?一体どこから!? |
ゼロス | 大樹の表面にくっついてやがったんだ! |
| ギャオオ! |
ミクリオ | くっ、ツインフロウ! |
| バシュウッ! |
ミクリオ | …ふぅ。これで── |
コレット | ミクリオ、まだ魔物が! |
| グオオオオッ! |
ミクリオ | くっ…!さっきの魔物の陰に潜んでいたのか! |
スレイ | まるで最初の魔物は囮みたいだ…!──まさか、魔物同士が連携してるのか…!? |
コレット | 危ない! |
| ドゴッ! |
コレット | きゃっ! |
ミクリオ | コレット!僕を庇ったのか… |
ゼロス | てめぇ!食らえ! |
| ザシュ |
| グギャアアッ…! |
コレット | うぅ… |
ミクリオ | っ…!怪我はないか!?コレット! |
| グルルルル!! |
スレイ | ミクリオ!まだ魔物が残ってるぞ! |
ミクリオ | くっ、こいつら…!どんどん数が増えて… |
ゼロス | このままじゃ囲まれちまうぞ! |
コレット | 私は平気…だから、先に魔物を! |
ミクリオ | しかし…! |
スレイ | ミクリオ!今は魔物を倒す事を優先しよう! |
ミクリオ | …!わかった、さっさと片付けてしまおう…! |
scene3 | 門前の攻防 |
ゼロス | こいつで最後だ! |
| ザシュ! |
| |
| ギャウゥ… |
| |
スレイ | …ふぅ。これで全部かな |
ミクリオ | ああ。…コレット、大丈夫か? |
コレット | うん、だいじょぶだよ。心配かけてごめんね |
ミクリオ | そうか…よかった |
コレット | ミクリオこそ怪我とかない? |
ミクリオ | 僕は大丈夫だ。君のお蔭だな…ありがとう |
コレット | そんな、守るのは当然だよ |
コレット | 守られるばかりじゃ、駄目だから… |
ミクリオ | コレット…? |
ゼロス | しっかし、上から魔物が降ってくるとはなぁ。たまげたぜ |
スレイ | うん、意表をつかれたな |
ミクリオ | …さらに注意するよ。こんな事はもうないようにね |
コレット | 白き獅子は、さっきの見張りだけだったのかな? |
ミクリオ | そうみたいだ。けど、神殿内には確実にいるだろうね |
スレイ | 魔物と白き獅子…どっちにも注意しないとな |
ゼロス | ま、何が来たって俺さまが返り討ちにしてやるぜ |
| |
コレット | っ…!だいじょぶ…腕はちゃんと動く… |
コレット | 頑張らないと…! |
scene1 | コレットの隠し事 |
ファング | … |
騎士団員 | ファング様。どうかされましたか? |
ファング | …いや、何でもない。クリスタルの様子を見ていたんだ |
騎士団員 | しかし、ラザリス様の命を狙う輩…やはり、あの遺跡にいた咎人達なのでしょうか |
ファング | ああ、おそらく奴らだ |
ファング | シャングレイスで決着がつくと思っていたが…まさかこんな事になるなんてな |
ファング | 今回はラザリス様の命がかかっている |
ファング | 全力で警戒を続けてくれ |
騎士団員 | はっ! |
ファング | …あの遺跡の咎人達か |
ファング | コレット…だったよな |
ファング | あいつは俺の名前を知っていた…一体どうして…? |
ファング | いや、今はそんな事どうだっていい |
ファング | 奴らは咎人だ。それに今はラザリス様の命まで狙ってる…そんなの許されない事だ |
ファング | 必ず、この手で捕まえてみせる…! |
| |
ミクリオ | これが神殿の内部か… |
ゼロス | 壁や床に枝が絡みついてやがる… |
スレイ | すごい…まるで神殿と大樹が一体になってるみたいだ |
スレイ | こんな時でもなければ、隅々まで探検してみたいなぁ…! |
ミクリオ | 確かにこの場所は興味深いね。どうやって作られたのか、大樹がここまで成長したわけとは── |
| |
ゼロス | おいおい、今はそれどころじゃねーだろ?早いとこ進もうぜ |
スレイ | そうだよな。ごめん、先へ進もう |
コレット | 道は…こっちみたいだね。明かりもあるし |
スレイ | でも、こうも薄暗いと魔物に気付けないかもな…。注意して進もう |
ゼロス | さっきの不意打ちはやばかったぜ。いきなりすぎだっつの |
スレイ | でもさっきの魔物、何か変だったような…? |
コレット | 変? |
ミクリオ | 確かにね。連携してきたというか、妙に統率が取れていた…一体何故── |
| |
| グオオオオオ! |
| |
コレット | えっ、魔物…!?警戒はしてたはずなのに…! |
ゼロス | おいおい、マジかよ冗談だろ。囲まれちまってるじゃねーか! |
スレイ | いつの間に…!気配なんて全然感じなかった…! |
ミクリオ | くっ、応戦するぞ! |
scene2 | コレットの隠し事 |
スレイ | こいつら、やけに手強い…! |
ミクリオ | やはり、この動きは…!間違いなく、何かに統率されている!どういう事だ!? |
| グルアアアア! |
ゼロス | このっ…!しつこい奴は嫌われるぜ! |
| ザシュッ! |
ゼロス | よし、いっちょ上がり! |
スレイ | ゼロス、後ろ! |
| グルアアアア! |
ゼロス | うおっと!? |
ミクリオ | 仲間が倒された隙に、後ろに回っただと…?そんな連携までしてくるとは… |
ゼロス | 油断ならねー奴らだな… |
| グルルルァアアッ!! |
スレイ | コレット、そっちに魔物が行ったよ! |
コレット | うん!任せて── |
コレット | っ…! |
ミクリオ | コレット!?まずいっ! |
| グオオオオッ!! |
スレイ | くそっ、間に合え…! |
| ガギィン! |
スレイ | はあっ! |
| ギャウウッ…! |
| |
スレイ | …ふぅ。コレット、大丈夫? |
コレット | う、うん…助けてくれてありがと |
スレイ | 今のが最後の魔物だったみたいだな。とにかく、無事でよかったよ |
ゼロス | … |
ゼロス | なぁ、コレットちゃん。何かあったのか?さっき、動きがおかしかったぜ |
コレット | え?そ、そんな事ないよ? |
ミクリオ | いや、僕にもそう見えた。あの一瞬、動きが止まったような… |
コレット | そ、それは…ちょっと気合が入りすぎちゃったのかな…? |
コレット | でも、次は大丈夫だから。ほら、早く進もう |
ミクリオ | … |
scene3 | コレットの隠し事 |
ミクリオ | それにしても、どうしてこうも魔物に不意打ちされるんだろうか…? |
スレイ | ああ、ここの魔物は何かおかしいよ。魔物同士で連携するなんて |
ミクリオ | …そうだね。普通なら群れで襲ってくる程度だ |
ゼロス | 自分を犠牲にして他の奴に攻撃させるなんて、いくら何でも頭よすぎだよな |
ミクリオ | コレット、君はどう感じた? |
コレット | …… |
ミクリオ | コレット? |
コレット | え…!あ、ごめん…ぼーっとしちゃってた |
ゼロス | …コレットちゃん、やっぱり何か変だぜ? |
コレット | そ、そんな事…痛っ…! |
スレイ | コレット…! |
スレイ | 腕が痛むのか…?もしかして、さっきの魔物との戦闘でどこか怪我したんじゃ… |
ミクリオ | …そうだ、さっきの戦闘でも腕をかばっていたね? |
コレット | ち、違うよ…これは… |
ゼロス | …コレットちゃん、悪ぃが腕、ちょっと見せてもらうぜ |
コレット | …うん |
ゼロス | おいおい…!めちゃくちゃ腫れてるじゃねぇか! |
ミクリオ | …この怪我は、神殿の入口で魔物から僕をかばった時のものか…? |
コレット | あ、えと… |
ミクリオ | すまない…僕が油断したせいだ。でも、どうして隠したりなんか… |
コレット | た、大した怪我じゃなかったから…だから、だいじょぶだよ |
コレット | そんな事より、先を急がなきゃ。核を早く壊さないといけないし… |
コレット | ロイドの事だって、私が頑張らなくちゃ… |
ゼロス | … |
ゼロス | なぁ、コレットちゃん、そんなに無理しなくてもいいんだぜ? |
ゼロス | それによ、ロイドの相手ならコレットちゃんの代わりに俺が── |
| |
コレット | ──駄目っ! |
ゼロス | っ…!? |
| |
コレット | あっ…ご、ごめんねゼロス…。おっきな声出しちゃって… |
コレット | でも、これは私がやらないといけない事だから |
コレット | ロイドは私が助けなくちゃ…。いつまでもこのままじゃいられないから…! |
ミクリオ | … |
ゼロス | だけどよ── |
| |
| グルルル…! |
| |
スレイ | 魔物の声…!また来たのか!? |
ミクリオ | …話は後だね。今はここから離れよう |
コレット | うん…そだね。早く進もっか… |
ゼロス | コレットちゃん、怪我してるだろ?俺さまが肩を貸して── |
コレット | ありがと。でも、一人で歩けるよ |
ゼロス | コレットちゃん… |
scene1 | 仲間であるという事 |
スレイ | …ふぅ。何とか逃げ切れたみたいだな |
ゼロス | しっかし、魔物が多いよなぁ…。白き獅子まで出てこねぇのはいいけどよ |
コレット | そういえば、白き獅子を見ないね |
ゼロス | ああ、全然姿を見せねぇ。一体どこに潜んでるんだ? |
スレイ | ここに来るまでに彼らを見たのは、神殿の入口だけだよな |
ミクリオ | おそらく最上階にいるんだろう |
ミクリオ | 僕達を待ち構えるために、兵力を分散して配置するのは魔物に襲われて効率が悪い |
スレイ | つまり、核を守るために、その周りに集まってるって事か |
ミクリオ | そういう事さ。途中の階層で、彼らと会わなくて済むけど── |
スレイ | 代わりに、一度に全部を相手しないといけなくなる… |
ゼロス | だったら、ここで態勢を整えとこうぜ。見たところ魔物もいねぇようだし |
ゼロス | コレットちゃんの怪我の事も、いい加減何とかしねぇと |
コレット | …ごめんね |
ゼロス | 気にすんなって~。俺さま達も、ちょうど休みたいと思ってたところだったからさ |
ミクリオ | コレット。腕の怪我を見せてくれ |
コレット | …うん |
| |
ミクリオ | 結構酷いな…。少しじっとしていてくれ |
| パアアア… |
ミクリオ | 完治とまではいかないけどこれでかなり楽になるはずだ |
コレット | …うん。ありがと、ミクリオ |
ミクリオ | とは言え、無理は禁物だ。あまり動かしたりしないように |
ゼロス | 大事に至らなくてよかったぜ… |
コレット | ゼロスも…ごめんね |
ゼロス | ん?何の事だ? |
コレット | さっきの事。ゼロスが私の代わりに、ロイドと向き合ってくれるって言ったのに… |
コレット | 私、咄嗟に「駄目っ!」なんて、ゼロスに酷い事言っちゃった… |
ゼロス | ああ、いいっていいって~。俺さま全然気にしてねぇから |
コレット | … |
| |
ミクリオ | …コレット、少し聞きたいんだがいいだろうか |
コレット | あ、うん。何かな…? |
ミクリオ | 何故、怪我を隠していたのか聞かせてほしい |
ゼロス | いいじゃねぇか、もう終わった事なんだし |
ミクリオ | 駄目だ、聞く必要がある。大事な事なんだ |
ミクリオ | 庇ってくれた事には感謝しているし申し訳ないとも思っている…でも、怪我を隠していた事はまた別だ |
ミクリオ | 前の戦いは、スレイが間に合ったから何事もなかったけれど… |
ミクリオ | もっと早くに怪我について打ち明けくれていれば、何か対策を練る事だって出来たはずだ |
ミクリオ | …違うかい? |
コレット | …そう、だね |
コレット | でも、怪我の事をみんなが知ったらみんなきっと私を庇ってくれる…。それじゃ駄目だと思ったの |
スレイ | えーっと、どういう事…? |
| |
コレット | あのね、私、今までたくさんの人に助けられて、守られてきたんだ… |
コレット | 元の世界では、いつもロイドが側で守ってくれて |
コレット | さっきだって、危ない陽動役はスレイとミクリオが… |
コレット | ゼロスにも気を使わせちゃってる |
ゼロス | コレットちゃん… |
コレット | でも、今回も守られてばっかりじゃ、私がここにいる意味がなくなっちゃう |
コレット | 私は…今のロイドと向き合いたい… |
コレット | ロイドは幼馴染でかけがえのない大切な人だから… |
コレット | だから…ちゃんと向き合って、私が助けないといけない |
コレット | そのためにも、今度は私がみんなを助けて、守らないと…って思ったの |
ゼロス | … |
スレイ | それで、さっきゼロスが任せろって言った時、あんな反応だったのか… |
コレット | うん… |
コレット | その上、怪我の事がばれちゃったら── |
コレット | そう思ったら、どうしても言えなくなっちゃって… |
ゼロス | …なるほど、な。そういう事なら言いにくいのもちょっとはわかるぜ |
コレット | …でも、結局みんなに迷惑かけちゃってる |
コレット | ごめんね。私のせいで… |
ミクリオ | … |
ミクリオ | 迷惑って…君は本当にそう思っているのか? |
コレット | え…? |
ミクリオ | 仲間を頼る事が、周りにとって迷惑な事だと…本当にそう思っているのか? |
コレット | う…うん。今まで力になれてなかったから… |
コレット | でも、もう大丈夫だよ。これ以上迷惑はかけない── |
ミクリオ | コレット、それは間違っているよ |
scene2 | 仲間であるという事 |
ゼロス | おい、ミクリオ。コレットちゃんだっていろいろ考えて── |
スレイ | 待って、ゼロス |
ゼロス | 何だよ? |
スレイ | ここはミクリオに任せてくれないか?何か考えがあると思うんだ |
| |
ミクリオ | コレット。君がロイドを大切な人だと思っているのは知っている |
ミクリオ | だからロイドと向き合うのは自分だというのも理解出来る |
ミクリオ | けど、君は一人で背負いこみすぎなんじゃないのか? |
コレット | そ、そんな事は… |
ミクリオ | あるよ。現に君は怪我を隠した。放置する方が危ないというのに |
コレット | う… |
ミクリオ | …大切な人の力になれないのが、悔しい気持ちは僕にもよくわかる |
ミクリオ | 僕だって…似たような経験をしたから |
コレット | ミクリオも…? |
ミクリオ | ああ、前にスレイといろいろあってね |
ミクリオ | 君がどんな想いでいるか…。どれほど悩んでいるかは少しは理解出来ると思う |
ミクリオ | …だからこそ、自分の傷を隠すなんてやめてくれ |
ミクリオ | 誰かに守られるだけの人も、誰かを守るだけの人もいないんだ |
コレット | でも、私は── |
ミクリオ | コレットだってそうだ |
ミクリオ | 僕らがコレットを助けたように、コレットが僕らを助けた事だって、たくさんある |
コレット | 私がみんなを…? |
ミクリオ | ああ。だから僕らは君を信頼して背中を任せるし、君が危ない時は助けるんだ |
ミクリオ | そうじゃなかったら、一体何のための仲間なんだい? |
ミクリオ | 迷惑だなんて言わないでくれ |
コレット | ミクリオ… |
コレット | …うん、そだね |
コレット | 私、間違ってたみたい。ロイドを助けたい、みんなを守りたい… |
コレット | そればっかりになってて…。みんなの事を…仲間と一緒って事を忘れてた |
ゼロス | … |
コレット | 私はロイドと向き合いたい。この気持ちに変わりはないけど… |
コレット | みんなで…一緒に向き合ってもらっても、いい…かな? |
ミクリオ | 勿論。当然だろ、仲間なんだから |
ミクリオ | 核を破壊して、一緒にロイドを助けよう |
スレイ | ああ、オレ達にとっても、ロイドは大切な仲間だしね |
コレット | …うん。ありがとう、二人共 |
ゼロス | …あー、コレットちゃん。俺からも話をしていいか? |
コレット | うん、どしたの? |
ゼロス | 実は…ロイドの事、俺も自分で何とかしようと思ってたんだ |
ゼロス | 手前勝手に二人を戦わせるわけにはいかねーとか息巻いてな |
コレット | そうだったんだ… |
ゼロス | だけどそれじゃ、ミクリオの言う通りコレットちゃんの事を信じてねぇって言ってるようなもんだよな |
コレット | そんな事ないよ…ゼロスは私の事を気遣ってくれたんでしょ? |
ゼロス | そんないいもんじゃねぇさ |
コレット | ゼロス… |
ゼロス | だからさ、改めて言わせてくれ。…俺達とロイドのところへ行こう |
ゼロス | 一緒に、世界を元に戻してハニーの目を覚まさせてやろうぜ |
コレット | お願いするのは私の方だよ。よろしくね、ゼロス |
ゼロス | こちらこそだぜ、コレットちゃん |
| |
ミクリオ | 話はまとまったようだね |
スレイ | よし、それじゃあ次の階に── |
| |
| グルルルル…! |
ゼロス | って、また魔物かよ! |
ミクリオ | …おかしいな |
スレイ | ああ。さっきから警戒はしているのに…。ずっと不意を突かれっぱなしだよな? |
ミクリオ | 気配を隠して近づいてきたんだろう。戦いの時の動きといい、頭がよすぎるな…それに── |
コレット | また囲まれちゃってる… |
スレイ | この数の魔物が気配を隠して、取り囲もうとするなんて…。やっぱり何か変だ… |
ミクリオ | 考えるのは後だ!今はここを突破しよう! |
scene1 | 神殿の主 |
スレイ | はぁ、はぁ。何とか三階までたどり着いたね |
ゼロス | くそっ、あいつら妙に強いな…。お蔭で余計な体力を使っちまったぜ |
ミクリオ | けど、倒しきる事は出来た。このまま最上階まで… |
コレット | …!みんな、あれ! |
| |
| フォォォォ… |
| |
ゼロス | 何だ、あのデカブツは… |
スレイ | この大きさは…。みんな、注意して! |
| |
| …! |
| |
ゼロス | おっと、気付かれたみたいだ。だが先制はもらった── |
| |
| フォォォォォォォッ!! |
| |
ミクリオ | くっ!?こいつ一体何を…! |
| グガァアアアアアア!! |
コレット | 見て、魔物が! |
ゼロス | いきなり沸いてきやがった!? |
スレイ | こっちにもだ!こいつら、どこかに隠れていたのか? |
| |
| フォォォォォォォッ!! |
| |
| グガァアアアアアア!! |
ゼロス | うおっと!こいつら、なかなかやるじゃねーの! |
ミクリオ | さっきの行動といい、あの大きな魔物の鳴き声に反応しているような…まさか! |
スレイ | この大きな魔物が、他の魔物を統率しているのか…? |
ゼロス | …なるほど、このデカブツが親玉か。なら話は早ぇ! |
ミクリオ | ああ!あいつを倒せば、指揮がとれなくなるはずだ |
スレイ | そうだな!他の魔物の動きだって、今みたいにはいかなくなるかもしれない! |
コレット | でも、あの魔物を守るように他の魔物達が… |
スレイ | よし、だったらまずは周りの魔物を一掃しよう! |
scene2 | 神殿の主 |
ゼロス | 雑魚はこいつで最後だ! |
| ザシュ! |
スレイ | よし、後はこの親玉だけだ…! |
| |
| フォォォォォ!! |
| |
スレイ | 一気に叩こう!オレは正面から行く!ゼロスは後ろから頼む! |
ゼロス | よし!食らえ! |
スレイ | せいっ! |
| ガキィン! |
スレイ | …弾かれた!? |
ゼロス | 硬すぎだろ、こいつ! |
| |
| フォォォォォ!! |
| |
ゼロス | うぉっ!?危ねぇ! |
コレット | ゼロス…! |
ゼロス | 大丈夫大丈夫~!大振りだからそう当たらないって |
スレイ | でも…これは相当手強いぞ |
ミクリオ | 硬い体は攻撃が通らない、か…。でも眼の部分、あそこならどうだろう |
ゼロス | なるほどな、確かに硬そうには見えねぇが… |
コレット | 動いてる状態で、狙って攻撃するのは難しいかも |
ミクリオ | ここはみんなで連携を取るべきだろう |
ミクリオ | まず、僕が術であいつの足を止める。そうしたらスレイとゼロスはあいつの両腕を押さえてくれ |
スレイ | わかった! |
ゼロス | おう、任せとけ! |
ミクリオ | 動けなくなったあいつに、術を叩き込むのは…コレット、君に頼めるかな |
コレット | やってみる…。ううん、任せて! |
| |
| フォォォォォ!! |
| |
ミクリオ | よし、それじゃあ── |
コレット | 行こう、みんな! |
scene3 | 神殿の主 |
ミクリオ | 今だ!アイスシアーズ! |
| |
| フォォォォォ!? |
| |
ミクリオ | よし、動きが止まった…!スレイ!ゼロス! |
スレイ | わかってる! |
ゼロス | 防御はさせねぇぜ!はあっ! |
| ヒュン!ガシッ! |
スレイ | 大人しくしてもらうぞ! |
ミクリオ | コレット、今だ! |
コレット | その御名の元、この汚れた魂に裁きの光を降らせたまえ… |
コレット | ──行くよ、ジャッジメント! |
| |
| ドーンッ! |
| フォォォォォォォ… |
| |
コレット | はぁ…はぁ…。やった…? |
ミクリオ | ああ、気絶したようだ |
スレイ | この様子だと、しばらくは動かなさそうだな |
ミクリオ | そうだね、何よりも時間が惜しい。こいつは放っておいて、早く核を破壊しに行こう |
コレット | 急がなきゃ、だもんね。次の階にはどこから進むんだろ…? |
| |
スレイ | あ、見て。親玉が居た後ろ、扉があったぞ |
ゼロス | こいつは…いかにも、って感じだな |
ミクリオ | おそらくあの先が最上階、そこに核があるはずだ。勿論、白き獅子も… |
ゼロス | しかし、さっきの戦いであんだけ大騒ぎしたんじゃ、さすがに侵入はばれちまってるよなぁ |
ミクリオ | ああ、おそらく騎士達は臨戦態勢だ。問答無用で戦いになるかもしれない |
コレット | … |
ゼロス | 大丈夫かい?コレットちゃん |
コレット | うん、みんながいるから平気だよ。それに覚悟はしてきたから |
| |
コレット | …ロイドも、世界も私達が助けよう |
ゼロス | おうよ、さくっと核をぶっ壊してハニーの驚く顔でも拝んでやろうぜ |
スレイ | ああ、オレ達なら大丈夫! |
ミクリオ | …みんな、準備は出来てるみたいだね |
コレット | うん、行こ! |
scene1 | 罪を砕く焔牙 |
コレット | …ここが最上階…! |
騎士団員 | 来たか!平和を乱す不届き者め! |
スレイ | 白き獅子…! |
ゼロス | しっかし、これは…予想以上の数だな |
ミクリオ | それだけ核が重要という事だろう。油断するなよ、みんな |
コレット | …! |
コレット | 見て、あの大きなクリスタル!もしかして── |
ファング | …そう、これが結界の「核」だ |
コレット | ロイド…! |
ファング | …やっぱり、お前達だったか |
ファング | どんな理由があるのか知らないが、これはラザリス様の命にも等しいもの |
ファング | 誰にも、指一本触れさせない! |
コレット | …でも、私達も引けない。本当の世界を、ロイドを取り戻すために |
ファング | 俺を取り戻す…?咎人の虚言も大概にしてくれ |
ファング | お前達はここで捕まえる。…だけど、俺は咎人だからって、傷つけていいとは思ってない |
ファング | 最後にもう一度だけ聞いておく。投降するつもりはないか? |
ファング | ラザリス様は争いを望んでるわけじゃない |
ファング | 悪いようにはしない。他の咎人達と同じようにお前達の事も救済してくれるはずだ |
ファング | 俺からも掛け合ってやるから |
コレット | ロイド… |
ゼロス | ははっ…。あんな風になっちまっても、元の性格までは変わらないんだな |
ゼロス | 一応俺さま達、お尋ね者なのによ |
コレット | うん。ロイドらしいよね… |
コレット | ねえロイド。やっぱり私達の事、思い出せない? |
ファング | 思い出すも何も何度も言ってるだろ。俺はお前達の事なんか知らない |
ゼロス | ったく…つれねー野郎だな |
ファング | …やっぱり咎人の言葉なんて嘘ばっかりだ |
ミクリオ | 待ってくれロイド、僕達は── |
ファング | どうしても、投降する気はないみたいだな…。だったら仕方ない…… |
| |
ファング | 総員、構えろ! |
騎士団員 | はっ! |
スレイ | …ちょっと話したくらいじゃ、記憶を取り戻すのは難しいか |
コレット | うん…でも、諦めない。核を壊して、世界も、ロイドも元に戻さないと…! |
ミクリオ | そうだね。いつか機会は訪れるはずさ。だから今は、核の破壊に集中しよう |
ファング | やっぱり目的は核の破壊か。お前達はどうしてそんな事を… |
ファング | けど、ラザリス様の命を狙うなら…容赦はしないぞ |
コレット | わかってる… |
コレット | ロイド…何を言われたって、私達は絶対に諦めないよ! |
ファング | …そうか |
ファング | 行くぞ!奴らを捕えるんだ! |
騎士団員 | はっ! |
ゼロス | 来るぜ、コレットちゃん! |
コレット | うん、戦いたくはないけど…ここだけは引けない! |
スレイ | ミクリオ!神依で一気にクリスタルを壊そう! |
ミクリオ | わかった! |
スレイ&ミクリオ | ルズローシヴ── |
ファング | させるか! |
| ガキィン! |
スレイ | ぐっ…!? |
ミクリオ | スレイ! |
騎士団員2 | よそ見している暇はないぞ!お前の相手はこっちだ! |
ミクリオ | くっ…!このっ! |
スレイ | これじゃ神依が出来ない…! |
ファング | あの力は厄介だからな。お前達二人に隙は与えない! |
ファング | そっちの二人も捕まえるんだ! |
ゼロス | 来いよ、そう簡単には捕まらないぜ |
コレット | うん。私が、みんなを守る! |
scene2 | 罪を砕く焔牙 |
スレイ | はあっ! |
騎士団員 | くっ…申し訳ありません。ラザリス様…ファング様… |
| |
ゼロス | はぁ、はぁ…。これで後はお前だけだな、ハニー |
ミクリオ | 数ではこちらが優勢だ…。大人しく諦めてくれないか? |
ファング | …ここで諦めたらラザリス様を裏切る事になる。それに… |
コレット | はぁ…はぁ… |
スレイ | …ふぅ |
ファング | そっちこそ随分、疲れてるみたいじゃないか |
コレット | ううん、まだまだ…やれるよ |
ファング | …お前達は、何でそこまでしてラザリス様の命を狙うんだ? |
ゼロス | へっ、別にラザリスがどうこうってわけじゃねぇ |
ゼロス | ただ、ラザリスに俺さま達の大事なものが奪われちまってな… |
ファング | 大事な、もの…? |
ファング | いや、誰かから何かを奪うなんて事ラザリス様がするはずない |
ゼロス | やれやれ、自分が奪われたってのに、何にも気付いてねぇんだもんな… |
ゼロス | なあ、ハニー。俺さま達ってば、元の世界では仲間だったんだぜ? |
ファング | バカを言うな。お前と仲間になった覚えなんて、俺にはない |
ゼロス | けっ…バカはお前だっての |
コレット | ゼロス… |
コレット | ねぇ、ロイド…。星のカケラを探して遺跡に行ったの覚えてないかな… |
コレット | あの時ゼロスを誰よりも信じてたのはロイドだったよね…! |
コレット | 記憶はないかもしれないけど…でも、ロイドの心は変わってないはずだよ? |
コレット | 今…何も感じない?信じたゼロスが、ロイドのためにここまで来てくれたんだよ…! |
コレット | 仲間の…友達のために…! |
ファング | 何を…星の…カケラ…?くっ… |
ゼロス | ああ、そうだな…仲間だの友達だのいつもそう言ってたのはお前じゃねぇかロイド |
ファング | …やめろ!そんな事言った覚えはない |
ファング | 俺を惑わせようったってそうはいかない |
ゼロス | …やれやれ。何を言っても無駄ってか |
ゼロス | けどな、それでも俺さまもまだ諦めるわけにはいかねーんだわ |
ゼロス | お前が言ってたんだぜ、友達はそんな軽いもんじゃない、そう簡単にやめられるかよ、ってな! |
ファング | …!その言葉は… |
ファング | …っ!? |
| |
ロイド | バカはお前だ、ゼロス。お前だって今まで俺の事を、ずっと友達だって言ってただろ? |
ロイド | 友達ってのは、そんなに軽いものじゃないんだ。そう簡単にやめられるかよ |
| |
ファング | ぐっ…何だ、今のは…! |
ファング | 俺の知らない光景が… |
コレット | ロイド…? |
ファング | …今のはお前達の仕業か?咎人の言葉が人を惑わせるって、こういう事だったんだな |
| |
| パサ… |
| |
ファング | 本気で行かせてもらう。もうお前達の言葉は聞かないぞ! |
ミクリオ | …! |
スレイ | 来るぞ、みんな! |
コレット | うん!私は逃げないよ、ロイド! |
ゼロス | ちょっと痛い目にあっても我慢してくれよ、ロイドくん |
ファング | 違う!俺の名は…ファング!白き獅子のファングだ! |
ファング | この世界を守るためだ…これ以上、お前達を野放しにするわけにはいかない! |
scene3 | 罪を砕く焔牙 |
ゼロス | はあ、はあ… |
ファング | はあ、はあ… |
ファング | …まさかここまでやるなんてな。けど、これで終わりだ…! |
ファング | 決めてやる!喰らえ── |
ゼロス | ちっ!一撃で全員ぶっ飛ばそうってか… |
ゼロス | させるかよ! |
スレイ | ゼロス!?待て、一人じゃ無茶だ! |
ファング | 焔牙翔双斬──!! |
| ゴオオオオオオ!! |
ミクリオ | スレイ!ゼロス! |
スレイ | うぐっ…! |
ゼロス | つっ…! |
| ドサッ |
ファング | 仲間を庇ったか…。でも、その二人はもう動けないはずだ |
コレット | そんな… |
ファング | あとはお前達だけ、だな |
ミクリオ | くっ…! |
コレット | ミクリオ、あれ…! |
騎士団員1 | はぁ…はぁ…すみません、隊長… |
騎士団員2 | …すぐに、この者達を捕えます…! |
ミクリオ | 騎士達…!まだ動けたのか…! |
ファング | お前達はコレット──そっちの咎人を拘束してくれ |
騎士団員1 | …はっ!さぁ、大人しくこちらへ来い! |
コレット | いや!離して…! |
コレット | 私はロイドを…! |
騎士団員2 | こいつ、いつまで抵抗を── |
ファング | …心苦しいけど、女の子一人に、あれだけの数だもう勝目はない |
ファング | これで後はお前だけだ。今からでも遅くない、投降しろ |
ミクリオ | 愚問だね |
ミクリオ | 僕も諦めはしない!最後まで、抵抗させてもらう |
ファング | お前…! |
ミクリオ | 双流放て!ツインフロウ! |
| バシャァ! |
ファング | その程度の術、正面からなら簡単に避けきれる! |
ファング | 戦うっていうなら、容赦はしない! |
ミクリオ | くっ── |
ファング | 終わりだ! |
| ガキィィィン… |
ミクリオ | ぐぅぅっ…! |
ファング | もう諦めてくれ。お前達の負けだ |
ミクリオ | ……いや、諦めるのは君の方だ |
ファング | この状況でお前は何を言ってるんだ。もう手は残されてなんか── |
ミクリオ | あるさ |
ミクリオ | 本当の記憶を失っている君の隙が、ね |
ファング | 隙、だと…? |
ファング | …! |
騎士団員1 | なっ──! |
騎士団員2 | ぐわぁ! |
ファング | そんな、騎士達が…!? |
コレット | …っ!はぁ…はぁ… |
ファング | コレット一人であいつらを…!? |
ミクリオ | 彼女はただの女の子じゃない。ちゃんと戦う力を持ってるのさ、僕らを守れるくらいのね |
ファング | …くっ! |
ミクリオ | コレット! |
コレット | うん!クリスタル…今なら! |
ファング | 駄目だ!クリスタルだけは絶対に── |
ミクリオ | ここは通さないさ! |
ミクリオ | アクアサーペント! |
| バシュウ! |
ファング | なっ…! |
ミクリオ | ロイド…いや、ファング。君の負けだよ |
ミクリオ | 彼女は強いんだ。──君は、忘れているだろうけどね |
ファング | ぐっ…こんな事が…! |
ミクリオ | コレット、急げ!クリスタルを! |
ファング | やめろ!! |
コレット | …ロイド、必ずあなたを助けるから… |
コレット | やぁああああああ!! |
| |
| パキイィンッ! |
scene1 | 蘇る、いつかの約束 |
コレット | …やった! |
ミクリオ | ああ、光の柱も消えた |
ミクリオ | 君に助けられたね、コレット |
コレット | ミクリオ!ううん、私の方こそ助かったよ…! |
ファング | そんな、クリスタルが… |
コレット | ロイド… |
ファング | お前達…よくも…! |
ファング | 絶対に捕まえて── |
| |
| ゴゴゴゴゴゴ…! |
ファング | …何だ!? |
コレット | 揺れが…近づいて来る…? |
| |
| フォォォォォォ! |
ミクリオ | こ、こいつは!? |
コレット | 下の階にいた魔物…!もう起きちゃったの!? |
| フォォォッ! |
ミクリオ | まずい!あいつスレイ達の方へ…! |
| フォォォッ! |
スレイ | …… |
ゼロス | …… |
コレット | ミクリオ!お願い、二人のところに行ってあげて! |
ミクリオ | しかし… |
コレット | だいじょぶ、魔物は私が引きつけるから…!だから、その間に二人を助けて |
ミクリオ | コレット… |
ミクリオ | …わかった。だけど、無茶はしないでくれ |
コレット | うん…! |
ファング | お前達何を── |
コレット | ロイドも早く逃げて!…魔物さん!こっちだよ!! |
| フォォォォォォ! |
| ドガァァン! |
コレット | きゃっ…! |
ファング | …ちぃっ!そこをどくんだ! |
コレット | えっ、ロイド…!? |
ファング | 来い、俺が相手だ! |
| ドガァァァ!! |
ファング | ぐぅっ! |
コレット | もしかして…私を庇ってくれたの…? |
ファング | 見過ごせなかっただけだ。咎人を捕まえるのが、俺の任務だからな! |
| フォォォォォォ! |
ファング | …くそっ!避けきれないか…! |
| |
コレット | させない! |
| フォォォォォォ! |
コレット | ロイドは私が守る! |
ファング | な、何を!?そこを退け、俺はお前の敵で── |
コレット | ロイドだって、さっき助けてくれたでしょ? |
ファング | あれは…! |
コレット | それにね、ミクリオに聞いてわかったんだけど… |
コレット | 誰かに守られるだけの人も、誰かを守るだけの人もいない── |
コレット | お互いに助け合うのが、仲間なんだって |
ファング | … |
コレット | 私はロイドに守られて、助けられてばっかりだったよね… |
コレット | たくさんもらってばっかりで、返しきれないけど…。今、少しだけ返すね…! |
ファング | お前は何を言って… |
コレット | …さぁ!あなたの相手は私だよ!ほら、こっちに来て! |
| フォォォォォ! |
コレット | きゃあっ! |
ファング | くっ…何してるんだ。俺の事など放っておけ! |
ファング | このままだとお前が── |
コレット | 大丈夫、それより動けそうならロイドは少しでも遠くに逃げて |
ファング | 何だ…一体何なんだお前は! |
コレット | …私はロイドの幼馴染だよ |
コレット | 前とは逆だけど、今度は私から言うね |
コレット | 「大切な仲間なんだから、 助けるのは当たり前」 |
コレット | ロイド、私に任せて |
コレット | 大切な仲間は、必ず守るから! |
ファング | …っ! |
| |
ロイド | コレットは大切な幼馴染だ。助けるのは当たり前だろ |
ロイド | 今回だって、俺が必ず守るって約束する |
| |
コレット | まだ、まだ…。私が守らなきゃ…あぅっ! |
| フォォォォォ! |
コレット | あっ…! |
| キイイイィンッ! |
ファング | … |
コレット | え?ロイド…? |
ファング | はあっ! |
| ザシュ!ザシュッ! |
| フォォォォォ!? |
| ズシン… |
ファング | ふぅ…。一安心、かな |
コレット | …守って、くれたの? |
ファング | 当たり前だろ |
ファング | コレットを必ず守るって、約束したからな |
コレット | もしかして、記憶… |
ロイド | ああ、コレットやゼロス…みんなのお蔭だ |
ロイド | あと…守られてばかりだって言ってたけど、助けられてるのは俺の方なんだぜ |
コレット | ロイド…! |
ロイド | お、おい、コレット!? |
コレット | おかえり…おかえり、ロイド! |
ロイド | …ああ、ただいま。悪かったな、ずっと… |
コレット | ううん、だいじょぶ |
コレット | クリスタルも壊したし、ロイドも一緒に── |
| |
| キシャアアアア! |
| |
ロイド | ここの魔物達…!親玉がやられた事で、今度は自由に暴れ始めたか! |
ロイド | この数は…まずい…! |
コレット | …だいじょぶ。だって、私達二人だけじゃないから |
ロイド | 何を… |
| グオオオオッ! |
??? | はあっ! |
| バシュン! |
| |
| グゥゥゥゥ!? |
ロイド | お前は……! |
| |
ミクリオ | 遅れてすまない、二人共 |
コレット | ミクリオ! |
ミクリオ | 彼らの治療に手間取ってね |
スレイ | ごめん、遅くなった! |
ゼロス | おう、こっからは挽回させてもらうぜ! |
ロイド | スレイ、ゼロスも…!傷は大丈夫なのか!? |
ロイド | …二人共、さっきは悪かった!忘れてたとはいえ、俺… |
スレイ | 気にする事ないって!記憶を書き換えられてたんだしさ |
スレイ | そんな事より、ロイドの記憶が戻ってよかったよ! |
ゼロス | ちくしょ~、ハニーめ!コレットちゃんを独占しやがって。そこは俺さまの役目だろ! |
ロイド | ゼロスは相変わらずだな。でも、何だか安心するよ |
ロイド | …みんな、心配かけてごめんな。もう大丈夫だから、俺も一緒に戦わせてくれ |
スレイ | ああ!一気に魔物を片付けよう |
ミクリオ | 相手もお待ちかねのようだしね |
| グルルルルァッ! |
ロイド | よーし、それじゃあ行くぞ! |
コレット | うん! |
scene2 | 蘇る、いつかの約束 |
スレイ | ふぅ…何とかなったな |
ゼロス | 全くよ~、魔物にも遠慮してほしいもんだぜ |
ゼロス | せっかくの感動の再会が、台無しじゃねぇか |
スレイ | だけど、本当によかったよ |
コレット | うん、ロイド…帰ってきてくれたんだよね。ほんとに、ほんとによかった… |
ロイド | … |
ロイド | …その…みんな。改めて、本当にありがとう |
ゼロス | おうよ、この礼はたーっぷりとしてもらうからな |
スレイ | 元に戻ったなら全てよし!だよな、ミクリオ |
ミクリオ | ああ。それとお礼を言うなら、コレットに頼むよ |
ミクリオ | 君の事を一番心配してたのは、コレットなんだから |
ロイド | そっか…そうだよな。コレット、ありがとう! |
ロイド | やっぱ、コレットには助けられっぱなしだな |
コレット | そんな事ないよ?私の方こそ、助けるのが遅くなってごめんね |
ゼロス | ところでよ、ハニー。今の状況って理解出来てるか? |
ロイド | うーん…かなりまずいって事だけは何となく… |
ロイド | だけど、記憶が混乱してて…出来れば詳しく教えてくれないか |
スレイ | うん、実は── |
スレイ | ──という事なんだ |
ロイド | そうだったのか…。なるほどなー |
ゼロス | ロイドくん、本当にわかってんのか~? |
ロイド | わ、わかってるよ!ラザリスとヴァンを何とかしないとまずいって事だろ? |
ミクリオ | まあ、大体そういう事だね。とは言え、僕らも理解出来ていない事がまだまだ多いけど |
スレイ | そういえば、ロイドは白き獅子の隊長だったんだよね? |
ロイド | ん?ああ、それがどうかしたのか? |
ミクリオ | …なるほど。ロイドなら、ラザリス達に関する情報を何か持っているかも…という事か |
ミクリオ | ロイド、何でもいいんだ。ラザリスやヴァンについて知っている事を教えてくれないか |
ロイド | うーん…情報って言われてもな…。あいつらの事はほとんど何も… |
ロイド | ここの事だって、ヴァンから「ラザリスの命に関わるから、 核を守れ」って言われてたくらいだ |
ロイド | ラザリスについて詳しい奴なんて、ヴァンくらいなんじゃないかな… |
ミクリオ | そうか…。隊長だった君なら、と思ったが… |
ロイド | ごめん、力になれなくて… |
ロイド | むしろ、俺の方がわかんねぇ事ばっかだ |
ロイド | 記憶を変えて、仲間に刃を向けさせるなんてさ… |
ロイド | ラザリスやヴァンはどうしてそんな事をさせるんだよ… |
コレット | ロイド… |
ゼロス | まー、核は結局コレットちゃんに壊されて、守れてなかったけどな! |
ゼロス | しっかり見させてもらったぜ~。あの時のロイドの顔っつったら。やめろ!ってすげー剣幕でやんの |
ロイド | あ、あの時は俺、本気で焦ってたんだから仕方ないだろ! |
ゼロス | いつか話のネタにしてやろーっと |
ロイド | 勘弁してくれよ~… |
コレット | ふふっ。ロイドとゼロス、すっかり元通りだね |
ミクリオ | …話を戻そうか |
スレイ | オレ達は、ラザリスの結界を解くために核を壊しているんだ |
スレイ | ここ以外だと、ミラとユーリがいる場所にも核がある |
スレイ | そっちにも今、みんなが向かってるよ |
ロイド | そうなのか… |
ロイド | でも、ミラもユーリも、きっと思い出してくれるはずだ。俺みたいにな! |
ゼロス | でもハニーは頑固だったな~。ミラさまとユーリなら戦う必要すらないんじゃねぇ? |
ロイド | ぐっ…!も、もういいだろ、それは! |
ロイド | 他のところはともかく、ここにはもう用はないんだろ? |
ロイド | なら、俺もみんなと一緒に── |
ミクリオ | いや、ロイド。出来れば君には頼みたい事がある |
ミクリオ | 今はまだ、ラザリスやヴァンに、君の記憶が戻った事は知られていない |
ミクリオ | なら、部下の騎士達を使って、裏から僕達に協力してもらう事は出来ないか? |
スレイ | そうか、ミラやユーリとも協力して…上手くすればヴァン達をかく乱出来るかもしれない |
ロイド | なるほど…ファングのふりを続けるって事だな。ああ、やってみるよ! |
ゼロス | ちゃんとやれんのかよ、ファング様~? |
ロイド | おう、任せとけって! |
ロイド | ラザリス達の事だって何かわかるかもしれないし── |
ロイド | それにこの世界じゃ、騎士達は俺の仲間なんだ。倒れたまま放ってはおけないしな |
コレット | ふふ、ロイドらしいね |
ロイド | コレットとはまた離れる事になっちまうけど… |
コレット | だいじょぶ、きっとすぐに合流出来るよ |
ゼロス | んじゃまぁ、行きますか。リッカ村でいいんだよな? |
スレイ | ああ。みんな無事に帰ってきてるといいな |
コレット | ロイド、また会おうね! |
ロイド | ああ!約束だ! |
Name | Dialogue |
scene1 | ミラという存在 |
ジュード | ふう…神殿まではまだ距離があるね |
エリーゼ | 急がないと…。特異点の修復が終わっちゃいます… |
ティポ | 早くミラ君を助けないとー! |
ティア | …確かに急ぎたいところだけど、神殿までの道中で白き獅子が待ち伏せているかもしれない |
ティア | 慎重に進んだ方が賢明よ |
ルドガー | そうだな… |
エリーゼ | でも… |
ジュード | 気持ちはわかるよ、エリーゼ。僕も、どうしても気がはやるから… |
ジュード | でも、ここはみんなの言う通りだよ。ミラを助けるためにも、慎重に進もう |
エリーゼ | ジュード… |
エリーゼ | …そうですね。少し焦っていたかもしれません… |
ベルベット | ミラ…ね |
ベルベット | …ちょっといい?そのミラについて、聞いておきたい事があるんだけど |
ジュード | うん、僕達で答えられる事なら何でも聞いて |
ベルベット | あいつは何者なの? |
ベルベット | 以前戦った時、詠唱もせずに術のようなものを使ってきたわ |
ジュード | 詠唱なしで…。たぶん、それはミラの力の一つだと思う |
ベルベット | ミラの力…? |
ベルベット | 地、水、火、風の力ね…。…あの時の力はそれだったわけね |
ティア | 今度は不意を突かれないように気を付けましょう |
ルドガー | とはいえ、その力を抜きにしてもミラは強い。もし戦いになればきっと厳しい状況になるな… |
ジュード | うん…。それでミラが諦める事はないだろうし… |
ジュード | ミラは自分の責務を果たすために突き進む人だから |
ベルベット | …責任感が強くて迷いがない、ってわけね |
エリーゼ | はい、だからこそミラはとても頼りがいがある仲間なんです |
ルドガー | そうだな。俺もエルも、ミラには世話になったんだ |
ティア | 晶化現象の原因を突き止められたのも彼女のお蔭よ |
ティア | ミラがいなければ兄さんが晶化現象を引き起こしていたなんて…わからなかったかもしれないわ |
エリーゼ | でも、そうやって晶化現象を調べている途中に…ミラは、わたしの目の前で晶化して… |
エリーゼ | だから、今度は…今度はわたし達の番なんです |
エリーゼ | また…仲間だって、呼び合えるように…!ミラを助けないと! |
ベルベット | …とにかく、あんた達にとってミラってのが大きな存在なのはわかったわ |
ベルベット | …それが今や、敵の幹部…か |
ティア | ベルベット? |
ベルベット | …ふざけた話ね。それより…気を付けなさい! |
| |
| ガルルルルルル…! |
| |
ジュード | 魔物か! |
ベルベット | 時間が惜しい。速攻で倒すわよ! |
scene2 | ミラという存在 |
ジュード | これで最後だ!はああっ! |
| バキィッ! |
| |
| ギャオォン…! |
| |
ベルベット | …ミラが相手じゃ、こう簡単にはいかないでしょうね |
ジュード | うん。でも、ある程度は対応出来ると思う |
ベルベット | …妙に自信あるのね。策でもあるの? |
ジュード | ミラの戦い方はずっと近くで見てた。完璧にとは言えないけど、どんな攻撃か予想は出来るよ |
ルドガー | そうか…。戦い方の癖っていうのは、そうそう変えられないもんな |
ジュード | うん。もっとも、そんな予想をするような状況にならないのが一番なんだけどね… |
ジュード | …それでも、もしミラが本気でかかって来たら、かなうかどうかはわからない |
ジュード | 僕一人の力じゃ出来る事は限られると思う。…みんなの力が絶対に必要なんだ |
ジュード | だから、力を貸してほしい!元の世界とミラを、取り戻すために! |
エリーゼ | 勿論です!わたし達で…絶対に! |
ティポ | 取り戻すぞー! |
ティア | そうね。私達にとっても、大事な事だもの |
ルドガー | ああ、俺もミラには恩がある。それに、みんな最初からそのつもりで来てる |
ベルベット | …あくまで核を壊すのが目的よ。それさえ忘れなければ、文句はないわ |
ジュード | うん、勿論わかってるよ。核の破壊は、僕達が果たさなきゃならない事だ |
ベルベット | …ならいいわ |
ジュード | それじゃあ、案内は任せて。この先は、僕がこの世界で住んでた街の近くなんだ |
ジュード | さあ行こう、みんな! |
scene1 | 霧の中の戦い |
ロアー | ──その力を──────ここに…! |
ロアー | 集え!! |
| |
| キュイーーン… |
ロアー | …ふう。想定より時間がかかってしまったが… |
ロアー | これで、私がいる限りクリスタルは守られる… |
騎士団員 | ロアー隊長。準備はいかがでしょうか…? |
ロアー | 問題ない。先ほどのものはあくまで最後の保険のようなものだがな |
ロアー | …隊の皆はここに集まっているな |
騎士団員 | はっ。隊長のご命令通り、総員、クリスタル周辺で待機させております |
ロアー | そうか、ならばいい。警戒を怠るな |
ロアー | このクリスタルはラザリス様の命にも等しい。何に代えても守るぞ |
騎士団員 | はっ!!…しかし隊長、よろしいのでしょうか |
ロアー | 何がだ? |
騎士団員 | 出すぎた真似を承知で申し上げます。総員をクリスタルに配置した事で、階下の警備に手が回りませんが…? |
ロアー | ああ…その点は心配ない |
ロアー | 既に、手は打ってあるからな。お前達は、クリスタルを守る事のみに集中してくれ |
| |
ジュード | 見えた…あれだよ、みんな。雲の向こうにうっすら見える…あそこが虹雲の神殿だ |
ティポ | すっごーーーい!!雲の上に神殿が浮いてるよー! |
ティア | これは…驚いたわね。こんな光景、初めて見るわ |
ルドガー | なるほど…。虹雲の神殿って呼ばれるわけだ |
エリーゼ | …でも、よく見れば雲の上に神殿があるわけじゃないんですね |
ティポ | ほんとだ、雲の中にうっすら地面が見えてるー |
ジュード | うん、そうなんだ。ここから遠くに見えるあの神殿まで、ちゃんと地続きだよ |
ルドガー | ただ、雲のせいで視界は悪そうだ。あまり入り組んでないといいが… |
ティア | …神殿から光の柱が伸びてる。あそこに核があるのは間違いないようね |
ティア | でも、この辺りに白き獅子の気配はない…。神殿で待ち構えていると見るべきね |
エリーゼ | やっぱり、あそこにミラが… |
ジュード | … |
ベルベット | …さっさと行くわよ |
ベルベット | こうしている間にもラザリスがいつ特異点の修復を終えるかわからないんだから |
ルドガー | …はは、相変わらずだな |
ティア | けれど、ちゃんと私達に声をかけてくれるようになったわ |
ジュード | うん、そうだね。今は「自分一人」じゃなく僕達と一緒に進もうとしてくれてる |
ジュード | …さあ、置いてかれない内に僕達も行こう。ミラのところへ |
エリーゼ | はい。ミラ、待っててください…! |
scene2 | 霧の中の戦い |
ジュード | うーん…。わかってたけど、かなり霧が深いね… |
ルドガー | …視界がほぼ真っ白だ。はぐれないようにしないとな |
ティア | ええ、一度はぐれたら合流は難しそうだものね |
ティポ | うー、遠くから見た時はもっとふわふわだったのにー! |
ジュード | しょうがないよ、ティポ。ほら、みんなの側から離れないでね |
ティポ | りょーかいー! |
エリーゼ | ベルベットも一人で先に進んだら駄目ですよ |
ベルベット | わかってるわよ。それにしても…本当に鬱陶しい霧ね |
ルドガー | ああ。光の柱のお蔭で方向は見失わずに済むが、問題は敵が現れた時だな… |
ルドガー | この視界じゃ接近に気付けないし、もし乱戦になったら敵味方の区別も難しい |
ベルベット | …対策の立てようもないわ。警戒する他ないでしょうね |
ジュード | うん。神殿にさえたどり着けば、視界の問題はなくなるはず…。とにかく、前に進もう |
ルドガー | 参ったな…。進んでいるはずなのに、神殿に近付いている気がしない |
ティア | それでも、進むしかないわね。大丈夫。確実に近付いているはずよ |
| |
ベルベット | …!全員、止まりなさい |
ジュード | …!?ベルベット、この気配は… |
| |
| グオオオオオオオッ! |
ティポ | で、でたーーー! |
ジュード | くっ…!ここまで接近を許すなんて…!みんな、気を付けて! |
scene3 | 霧の中の戦い |
ジュード | せいっ! |
| …グルルル…!! |
ジュード | くっ…!攻撃しようとするとすぐ霧に紛れて──… |
ルドガー | この悪状況にも慣れっこってわけか。さすがはここに巣食う魔物だな…! |
ティア | でも、数は減ってきたわ!そろそろ終わりのはずよ! |
ジュード | お互いが見える範囲に固まろう!バラバラに戦ったら魔物達の思うツボだよ! |
ベルベット | …その方がいいわね |
| ウウゥ… |
ジュード | あれは…!ベルベット、後ろから来るよ! |
| ガウッ!! |
ベルベット | …!!はあっ!! |
| ザシュッ! |
| グッ…グルルルル…!! |
ベルベット | ちっ、仕留め損ねた!そっちに行ったわよ! |
ジュード | 任せて! |
ベルベット | そいつは傷を負ってる!動きは鈍ってるはずよ! |
ジュード | わかった!それなら…ここだ! |
| バキィッ! |
| |
| ギャオォン… |
| |
ルドガー | どうやら今の魔物が最後みたいだな |
ティア | ふう…ひとまずは安心ね。それにしても、二人共いい連携だったわ |
エリーゼ | はい、すごいです!ジュードとベルベット、息ピッタリでした! |
ベルベット | …まあ、今のは悪くなかったわ |
ジュード | …!あ、ありがとう…! |
エリーゼ | …ベルベットとジュードが仲よくなったみたいで嬉しいです |
ベルベット | …何よ、いきなり |
ティポ | 仲よしだからー、さっきみたいにレンケイ出来たんだよねー! |
ジュード | な、仲よし…なの、かな? |
ベルベット | …勝手に言ってなさい |
ベルベット | 先に行くわよ |
ティア | ベルベット、一人じゃ危ないわ |
ルドガー | 俺達も行こう |
| |
エリーゼ | あっ…!入口がありました!ここから入れそうですよ |
ジュード | 白き獅子に見つからないように忍び込めればいいけど… |
ルドガー | いや、おかしいぞ…?見たところ、見張りが一人もいない |
ベルベット | 好都合、ではあるけれど。さすがに罠でしょうね |
ティア | …。こうは考えられないかしら? |
ティア | 白き獅子からすれば、私達の目的が結界の核にある事は明白よ |
ティア | だったら最初から核の近くで守りを固めて、待ち伏せていれば間違いはない |
ルドガー | …理屈は通るな。もっとも、だからと言って油断は出来ないが… |
ティア | ジュードはどう思う? |
ジュード | …ティアの予想、当たってるんじゃないかな |
ティポ | どーしてー? |
ジュード | ほら、光の柱をよく見て。光が出ている根本…一番眩しい場所は、神殿の上の方だ |
エリーゼ | …本当です。あれは最上階みたいですね |
ジュード | 核があそこにあると考えると… |
ジュード | ティアの予想通り、下の方の警備が手薄なのも説明がつかない? |
エリーゼ | 確かに…。じゃあ、ミラは最上階にいるって事でしょうか…? |
ジュード | 可能性は高いと思う |
ベルベット | そうだったら願ったりかなったりね。いちいち足止めされるよりは楽でいいわ |
ルドガー | …とは言え、それでも最上階まで素通りは出来ないだろうな。何らかの罠はあると考えるべきだ |
ジュード | うん。気を付けて進もう、みんな! |
scene1 | 水源をたどって |
ベルベット | ここまで特に問題なく進んでこられたけど、これは… |
ジュード | うん…この部屋…どうなってるんだろう |
| ザアアアアー… |
エリーゼ | あちこちから水が流れ込んでるみたいです… |
ティア | 流れ込んだ水で、部屋が池のようになってるわね…。辛うじて足場は残ってるけど |
ルドガー | …だけど、これだけの水があるなんて不自然だな |
エリーゼ | はい。水源がどこにも見当たらないです |
ジュード | うん。霧で視界はぼやけてたけどこれほどの水を引いてるなら、水音くらいは聞こえてたはずだし |
エリーゼ | じゃあ、この部屋の水は一体どこから…? |
ベルベット | 警戒するに越した事はないわ。慎重に、上の階へ続く道を探すわよ |
ジュード | うん。水中も怪しそうだけど、まずは歩ける部分から調べてみようか |
ルドガー | そうだな |
ティア | それじゃあ、私達はあっちを── |
エリーゼ | あっ…!あれ、何でしょう?水の中でキラキラ光って… |
ティポ | キラキラの奥にも、何かあるよー! |
エリーゼ | …?本当です。何かうっすら見えて… |
| |
ベルベット | …!下がりなさい! |
| |
| シャアアアアアアアッ!! |
ティポ | うわーーーっ!!魚の魔物! |
ルドガー | そうか、こいつの鱗が光っていたんだ…! |
ベルベット | くっ…!消えろっ!! |
| ザシュッ!! |
| シャアアァ… |
エリーゼ | あ、ありがとうございます。ティポを助けてくれて…! |
ティポ | ベルベット君、ありがとー! |
ベルベット | 礼を言うのはまだ早いわ。…ほら、来るわよ! |
| シャアアアアアアアッ!! |
ジュード | すごい数だ…!くっ!みんな、構えて! |
scene2 | 水源をたどって |
ティア | 何とか、倒せたみたいね… |
エリーゼ | あの…みんな、ちょっと来てくれませんか? |
ジュード | どうしたの?エリーゼ |
エリーゼ | あそこ、見てください |
| |
ティア | 水が深くてよく見えないけど…。あれ、扉かしら? |
ジュード | 本当だ、もしかしたら、上の階への道かもしれない…。よく見つけたね、エリーゼ |
エリーゼ | 何かあるって、さっきティポが教えてくれたんです |
ティポ | えへへー、ぼくのお蔭だよー! |
ルドガー | お手柄だな、ティポ |
エリーゼ | あっ、あともう一つあるんです |
エリーゼ | ほら、あそこ…滝みたいになってるところの奥に、青白く光る球のようなものが… |
ティア | 確かに…球体があるわ。あれは何かしら? |
ジュード | うーん…扉と、球か… |
ルドガー | 扉までは潜っていくしかない…が、やはり難しいな。水中は魔物だらけだ |
ティア | ええ、危険すぎるわ。そもそも、この深さじゃ息が続くかもわからないし… |
ティア | 上手く扉まで行けても、すんなり開かないかもしれない |
ベルベット | 水を抜く方法があればいいんだけど… |
ジュード | となると、怪しいのはあの球だね |
エリーゼ | ジュードは、あの球が水源だと思いますか? |
ジュード | 断定は出来ないけど…。あまりに不自然だし、他に説明がつかないからね |
ベルベット | なら、壊せばいい |
ジュード | …問題は、あそこまで行く方法かな |
ルドガー | 直接は無理でも、ティアやエリーゼの術なら届くんじゃないか? |
ティア | そうね…やってみましょう |
ジュード | じゃあ、まずは…。いや…待って、何か聞こえる! |
| |
| バシャーンッ… |
| |
ティポ | こ、この音はー!また魔物ー!? |
ベルベット | 球の前に結局魔物を相手にしなきゃいけないってわけね |
| シャアアアアアアアッ!! |
エリーゼ | 来ました…!みんな、気を付けてください! |
scene3 | 水源をたどって |
ベルベット | この…!しつこいわね! |
| ザシュッ!! |
| シャアアアアアアアッ!! |
ルドガー | かなり頑丈な奴だな!それに水中からの攻撃は、どこから来るのか予想しづらい…! |
ジュード | 霧の中で戦った奴らより厄介だね。水中で加速してくるせいで、動きが捉えきれないよ |
ベルベット | ちっ…どうにか奴らの動きを止められれば、片付けられるんだけど…! |
ティア | … |
ティア | …相手が水中にいるなら、何とか出来るかもしれない |
ベルベット | どうやって?術だって、あの速さじゃ避けられるわ |
ティア | 当てなくても…上手くいくと思うわ |
ティア | 少しだけ援護を頼めるかしら |
ルドガー | わかった。任せてくれ |
ティア | 水の中なら衝撃が広がっていくはず… |
ティア | …バニシングソロゥ!! |
| ドンッ!! |
| シャッ…シャアアアアアッ!? |
ルドガー | 魔物の動きが止まった!? |
ジュード | 術の衝撃で気絶させたんだ…!今だよ、みんな! |
ベルベット | 言われなくても…はあああっ!! |
| ザシュッ…!! |
| |
| シャアアァ…! |
| |
ルドガー | よし!やったみたいだな! |
ジュード | …他に魔物はいないみたいだね |
ジュード | ティアのお蔭で助かったよ |
ティア | 上手くいってよかったわ |
ルドガー | ああ。あとは、あの球を壊すだけだな |
エリーゼ | それなら、今度はわたしにやらせてください |
ティポ | エリーにお任せー! |
エリーゼ | はい。それじゃ、いきますよ…! |
エリーゼ | ネガティブゲイト! |
| |
| バキィイイン! |
| ズ…ズズズズズズ!!!! |
| |
ルドガー | こ…この揺れは!? |
ジュード | み…みんな、見て!あれだけあった水が…! |
ジュード | どんどん引いていくよ! |
ティポ | わ、わ、わー!あっという間になくなっちゃったー! |
ルドガー | 揺れも徐々に収まってきた…。やっぱり、あの球が大量の水を作り出していたんだな |
エリーゼ | …!あれ、見てください!扉のところに行けるようになりました |
ベルベット | よし、行くわよ…! |
ティア | ええ、先を急ぎましょう |
ジュード | …水を生み出す仕掛け、か。あの球は最初からあった…? |
ジュード | それとも… |
ルドガー | ジュード、考え事なら後にしよう。ベルベット達に置いて行かれるぞ |
ジュード | えっ…?っと…、そうだね。今は進もう…! |
scene1 | 孤立した二人 |
ジュード | ふう、結構長い階段だったね。ここが二階か… |
ルドガー | 水の次は岩だらけの部屋、か… |
エリーゼ | 何だか不気味です…。通路がすごく狭くて、どこを見ても岩の壁ばかり… |
ティア | エリーゼの言う通り、かなり入り組んでるみたいね |
ベルベット | まあ、ただの通路って事はないでしょうね。油断せずに行くわよ |
ジュード | うん。何か気付いた事があったら、すぐに教え合おう |
ルドガー | ああ…って、いきなり道が分かれてるな… |
エリーゼ | 次の階に続いてるのは、どっちなんでしょう? |
ジュード | …もし間違えたら、かなり時間を取られそうだね。慎重に進まないと── |
| |
| ゴゴゴゴゴゴゴ…!! |
ティポ | 何だー!? |
ティア | この揺れは…地震? |
ルドガー | どんどん揺れが激しくなっていくぞ!みんな、固まって… |
| ズズズ…ドン!! |
ジュード | うっ…!今度は何!? |
エリーゼ | い、岩です、ジュード!いきなり大きな岩が飛び出してきました! |
ティア | 退路を塞がれている…!いけない、前に走って!閉じ込められるわよ! |
ベルベット | ここもタダじゃ通してもらえないってわけね…! |
| ゴゴゴゴゴ…! |
ティア | あちこちで岩が隆起してる…! |
ルドガー | 手当たり次第って感じだな…!少しでも立ち止まったら、まずい…! |
| ズズズ… |
ジュード | くっ…!この道も塞がってる…! |
ジュード | みんな、脇道に逃げよう!こっちに── |
| ボゴォン!! |
ジュード | し、しまった!足元から…! |
ベルベット | ちいっ…!! |
エリーゼ | あっ…!ジュード!ベルベット!! |
| |
| ボゴォン!!ボゴォン…!! |
ルドガー | 危ない、エリーゼ! |
エリーゼ | でも…!でも、二人が壁の向こうに!! |
ティポ | ジュード君ー!ベルベット君ー! |
| |
ジュード | いたたっ…すごい大岩…。ベルベット、大丈夫? |
ベルベット | 問題ないわ。あたしよりも、向こうの心配をするべきね |
ジュード | そうだ…!他のみんなは!? |
| |
ジュード | みんな!僕の声が聞こえる!? |
エリーゼ | ジュード!はい、聞こえます…! |
ジュード | よかった…。僕もベルベットも無事だよ。そっちはどう? |
ティア | かすり傷程度で、全員無事よ。ただ…問題はこの岩の壁ね |
ルドガー | 何とか壊そうとしてるんだが、まるでビクともしない。ただの岩じゃなさそうだ |
ティポ | ガチガチのゴリゴリだよー… |
ベルベット | …合流は難しそうね。どうするの? |
ジュード | …仕方ないか。ここで合流するのはひとまず諦めよう |
ジュード | ルドガー、そっちの通路は完全に塞がれてる? |
ルドガー | いや。通路が入り組んでるお蔭で塞がってない道もありそうだ |
ジュード | それじゃあ、お互い別の道を探してこの階を抜けよう。今は、その方がいいと思う |
エリーゼ | …そうですね。この先で道が繋がってるかもしれませんし |
ティア | …なら、急いだ方がいいわ。揺れは収まってるけど、いつまた岩が隆起してくるか… |
ジュード | うん。とにかく、早くこの階を抜けないとね |
ルドガー | わかった。お互い気を付けよう |
エリーゼ | ジュード、後で合流しましょうね…! |
| |
ベルベット | あたし達も行くわよ。グズグズしてる時間はないんだから |
ジュード | そうだね。行こう、ベルベット! |
scene2 | 孤立した二人 |
ベルベット | 進んでも進んでも岩壁ね。本当に出口に近付いてるのかわからなくなってくるわ |
ジュード | 一応、通ったところに目印は付けてるから、進んではいるはずだよ |
ジュード | それにしても、みんなは大丈夫かな… |
ベルベット | 心配する必要はないでしょ。誰か一人がはぐれたわけでもないんだから |
ジュード | …そうだね。向こうも同じ事を言ってるかも |
ベルベット | 余計な心配をするのも、されるのもごめんよ |
ベルベット | それに、世界とミラを取り戻すつもりならうろたえてる場合じゃないでしょ |
ジュード | …うん。ねえ、ベルベット |
ベルベット | 何? |
ジュード | 何て言うか、その… |
ベルベット | …言いたい事があるなら、はっきり言いなさいよ |
ジュード | …ありがとう |
ベルベット | …何の事よ? |
ジュード | …僕がここに来れたのは、ベルベットのお蔭みたいなものだから |
ジュード | 大切な仲間だから、ミラは僕自身の手で助けたい。そのためなら、戦う覚悟も出来てる |
ジュード | でも、その覚悟は…君の言葉と行動があったからこそ持てたものなんだ |
ジュード | だから、一度しっかりお礼を言いたくて |
ベルベット | …全く。買いかぶりもいいとこね |
ベルベット | 悪いけど、あたしはあたしのやりたいようにやってるだけよ |
ジュード | わかってる。…でも、僕はベルベットのお蔭だと思ってるんだ |
ベルベット | 売った覚えのない恩に、礼なんていらないわ |
ジュード | …そっか、ならわかった。お互いの勝手って事にしよう。お礼を言うのも、受け取らないのも |
ベルベット | … |
ベルベット | 代わりに一つ、聞いてもいいかしら |
ジュード | うん…何? |
ベルベット | ミラの話の続きよ |
ベルベット | …ティアが前に言っていたわ。あんた達にとってミラは「家族」のようなものだって |
ジュード | …家族、か。うん、それも正しいと思う |
ジュード | でも、それ以上に…ミラは僕やエリーゼにとって特別な人なんだ |
ベルベット | … |
ジュード | ミラは自分の使命や困難に、正面から挑んでいく人だった。どんな時だって… |
ジュード | そんな姿を見てる内に、僕も変わらないとって思うようになれたんだ |
ジュード | 誰かに引っ張られるだけじゃない、僕の力で出来る事があるんだ、ってね |
ベルベット | …つまり憧れや目標にしてるって事? |
ジュード | そんな感じ、かな。ミラがいたから、今の僕がいるんだ |
ベルベット | なるほど…だからそんなにも必死なわけね |
ジュード | うん。それに…ラザリスがミラを無理やり従わせているのが、絶対に許せないんだ |
ジュード | ミラは自分の使命をすごく大切にしてた。使命を果たすために自分はいる、ってくらいにね |
ジュード | …なのに今は偽物の使命を上書きされて、ラザリスにいいように使われてる… |
ジュード | きっとミラだけじゃない…。他にも大勢「自分」を捻じ曲げられてしまった人がいて… |
ジュード | その分、悲しい思いをしてる人がいるはずなんだ |
ジュード | だから、一刻も早く核を壊して世界を元に戻さないと…! |
ベルベット | …変わってしまった人、それを悲しむ人…か |
ジュード | …でも、改めて思い返すと、ミラに助けられてばっかりだったな… |
ジュード | …だから今度は僕の番なんだ |
ベルベット | ミラを取り戻す事が、あんたの恩返しってわけね |
ジュード | うん。追いかけてばかりじゃ駄目だから |
ジュード | ミラがここまで僕を引っ張ってきてくれたなら… |
ジュード | 今度は僕がこの手でミラを助け出したいんだ! |
ベルベット | …あんたの想いはよくわかったわ |
ベルベット | せいぜい頑張んなさい。あたしはあたしの目的のために動くけど… |
ベルベット | …まあ、少しくらいなら力を貸すわ |
ジュード | ベルベット… |
ベルベット | あくまで世界を取り戻すためよ。あんたとミラの事はあたしには関係ない |
ジュード | うん…それでも、ありがとう |
ベルベット | … |
| |
ベルベット | …!見て、どうやら出口みたいよ |
ジュード | 本当だ!よかった、どうにか突破出来たね |
ジュード | エリーゼ達は近くにいるかな?ちょっと様子を見てくるよ…! |
| |
| ゴゴゴゴゴゴゴ…!! |
ベルベット | …この揺れは! |
ジュード | あと少しなのに…!また岩壁だ! |
| |
| ゴゴゴゴ…!! |
ベルベット | 隆起する速度が段違いね…あっという間に囲まれたわ |
ジュード | それだけじゃないみたい!あれを見て! |
| グオオオ…! |
ベルベット | 岩壁と一緒に魔物まで出てくるとはね…! |
| グオオオオッ!! |
ベルベット | 来るわよ! |
ジュード | くっ…!こんなところで…負けられない! |
scene3 | 孤立した二人 |
ジュード | 砕けろっ! |
| バキィッ! |
| ゴ…ゴ、ゴゴッ……! |
ベルベット | ちっ…この魔物達、倒しても倒しても、岩から無限に湧いてくる…! |
ジュード | むしろ、戦う前より増えてるような…っ! |
ジュード | ──危ない!後ろ! |
ベルベット | っ!? |
| ガッ! |
ジュード | くっ…何て重い攻撃だ…!受け止めるのが精一杯…! |
ジュード | …ベルベット!僕がこいつを抑えている内に、早く! |
ベルベット | ええ! |
| ザシュッ! |
ベルベット | 助かったわ…。けど、らちが明かない |
ジュード | 数が多すぎる…!それに… |
ベルベット | これ以上後ろには下がれないか…!完全に囲まれたわね |
ジュード | 何か手は… |
ジュード | …ん? |
| ゴゴゴゴゴゴゴ…!! |
ジュード | また…地面が揺れ出してる!? |
ベルベット | まだ魔物が増えるって言うの!? |
| ゴゴゴゴ…ッ!! |
ジュード | 待って!壁にひびが…? |
| ドドドドドドッ…! |
| |
ジュード | 岩壁が、粉々に崩れた!? |
ベルベット | 一体何が起こって… |
??? | ジュード!ベルベット!二人共、無事ですか!? |
ジュード | この声は…エリーゼ! |
ティポ | こらー!ぼくらもいるぞー! |
ルドガー | どうやら間一髪だったみたいだな |
ベルベット | そっちも、全員無事みたいね |
ベルベット | …それで、これはあんた達がやったの? |
ティア | ええ。通路を進んでる途中、一階にあった球体とよく似たものを見つけたの |
ティア | たった今破壊してきたわ。やっぱりあの球体は階層ごとの仕掛けを解く鍵のようね |
ジュード | ありがとう、みんな!助かったよ…! |
| |
| グオオーーーッ!! |
| |
ジュード | あとは魔物…! |
ベルベット | ふん…岩壁がなくなったせいか、もう増えないみたいね…! |
ティア | 残りの魔物も片づけましょう! |
エリーゼ | みんな揃えば、こんな魔物怖くありません! |
ジュード | よし、一気に蹴散らそう! |
ジュード | はっ!! |
| バキィッ! |
| |
| グ…オ、オオッ……! |
| |
ルドガー | 今ので終わりだな |
ティポ | みんな、お疲れー |
ベルベット | 本当よ…。この先も妙な仕掛けばかりなわけ? |
ティア | 気が抜けないけど…今は、とにかく先に進みましょう |
ジュード | うん、気を付けて行こう |
scene1 | 傷ついたとしても |
ベルベット | 水没した部屋に、岩壁だらけの通路と続いて… |
| ゴオオオオオオオッ!! |
ルドガー | 三階は大竜巻か!何て風の勢いだ…! |
ジュード | 水、岩…そして、風か…。これってやっぱり… |
ティア | 何かあるとは思ってたけど、随分大掛かりな仕掛けね…!くっ…! |
エリーゼ | 立ってるのがやっとです…! |
ティポ | と、飛ーばーさーれーるー! |
ジュード | エリーゼ、ティポをしっかり押さえてて! |
エリーゼ | は、はい!ティポ、早く腕の中に… |
ティポ | 離さないでねー、エリー! |
ルドガー | …! |
ルドガー | 見てくれ、みんな。竜巻の向こうに階段がある。きっとあれが次の階への道だ |
ティポ | あっさり見つけたー!うーん、でもー… |
エリーゼ | あの竜巻のせいでとても近付けません… |
ティア | そうね…でも、見たところ部屋自体はかなり開けてるわ |
ベルベット | ここは大広間みたいなものね。なら、竜巻さえ何とかすれば… |
ティア | 壁にいくつもある小部屋が気になるけど… |
ティア | 竜巻以外に障害らしきものはないわ。あれを止める方法を考えましょう |
ルドガー | …それなら、まずは「あれ」だな |
ジュード | うん…球体、だね |
ルドガー | 一階でも二階でも、あれを壊した事で道が開けた |
ルドガー | ここの竜巻だって例外じゃないはずだ |
ジュード | それに、今回はわざわざ球体を探す必要もなさそうだよ |
ベルベット | …そのようね。これ見よがしに置いてあるわ |
| ゴオオオオオオオッ!! |
エリーゼ | で、でもあそこ、竜巻の中心ですよ…!? |
ティア | …壊せるか、試してみましょう |
ティア | ──ホーリーランス! |
| バシュウゥゥ… |
エリーゼ | 竜巻にかき消されてしまいました… |
ティア | すごい勢い…。これではいくら術を放っても無駄ね |
ベルベット | …接近して壊すしかないってわけね。辺りを調べるわよ |
| |
| ピィイイイッ!! |
ジュード | 今のは!? |
| |
| ピィイイイッ!! |
ティア | 鳥型の魔物!壁の小部屋から、次々出て来るわ! |
ルドガー | いや…おかしいぞ。あいつら、俺達じゃなく竜巻の方に突っ込んでないか? |
エリーゼ | 本当です…!この風じゃ、魔物も上手く飛べないんでしょうか? |
ベルベット | そんな間抜けなら、倒す手間が省けるわ。もっともあたしには… |
ベルベット | 旋回してるように見えるわね。…獲物を狙う鳥みたいに |
ジュード | …そうか!あの動き…竜巻に乗って、勢いを増すつもりだ! |
ベルベット | しっかり構えなさい、あんた達。中途半端に受け止めると、吹き飛ばされるわよ! |
| ピィイイイッ!! |
ジュード | 来る…!やるよ、みんなっ! |
scene2 | 傷ついたとしても |
ジュード | うぐっ…! |
ティア | ジュード!今回復するわ…! |
| パアアア… |
ジュード | ありがとう、ティア |
ジュード | この魔物…本当に速い。どうしても反応が遅れるよ…! |
エリーゼ | 狙いが付けられません…! |
ティア | …!あれを見て…! |
ジュード | 魔物達が急に不規則に…? |
ルドガー | さっきとはまた違う動きだ…!あいつら、一体何をしようと── |
| ビュオオオオ…!! |
ティア | くっ、すごい風よ…! |
ジュード | …!あの魔物の動き、それに突風… |
ジュード | まさか… |
ティア | ジュード、何か気付いたの? |
| ピィイイイッ!! |
ジュード | まずい!みんな、下がって! |
| ビュオオオオッ!! |
ルドガー | くっ、すさまじい風だ…!一体何が── |
| ザシュ! |
ルドガー | うっ…! |
ジュード | ぐっ…!やっぱり、かまいたちだ…! |
ベルベット | かまいたち…!? |
ジュード | うん…!あの魔物達は竜巻を利用して周囲に空気の刃を生み出してるんだ! |
| ザシュ!ザシュ! |
ジュード | ぐぅ…!! |
ベルベット | ジュード…!ちっ…、あれじゃ避けきれない…! |
エリーゼ | みんな傷だらけです!このままじゃ身が持ちません…──つっ…! |
ティア | エリーゼ! |
ルドガー | …!魔物達がまた… |
ティア | 今の内よ…!再びかまいたちが放たれる前に一度引いて── |
ジュード | いや、駄目だ! |
ジュード | この状況で引いたら、きっと今の距離にだって近づけなくなる… |
ジュード | それはつまりこの先へ進む機会を失うって事だ |
ジュード | …危険なのはわかってるけど、それでも引くわけにはいかないよ |
ジュード | ミラのためにも |
ベルベット | … |
エリーゼ | ジュード… |
エリーゼ | そう、ですよね…。こんなところで引き下がるわけにはいきません…! |
ティポ | うん、エリー!ミラ君待ってるもんねー |
エリーゼ | 球体は…わたしとティポで壊します |
ルドガー | だけど…どうやって? |
エリーゼ | わたしとティポで一番強い術をありったけの力を込めてぶつけます…! |
エリーゼ | いつもより力を貯めるのに時間がかかりますが、それならきっと…! |
ティポ | あんな竜巻になんか負けないぞー! |
ルドガー | 待ってくれ、エリーゼ |
ルドガー | 仮にあの竜巻を突破出来るとして…最初から使わなかったのには何か理由があるんじゃないのか |
エリーゼ | … |
エリーゼ | …あの竜巻を越えるだけの力を貯めるには時間がたくさん必要なんです |
エリーゼ | その間、無防備になってしまうので… |
ルドガー | なっ…! |
ティア | 駄目よ、そんな危険な目に遭わせられないわ |
エリーゼ | …ティア、大丈夫です。ただただ無防備になるつもりはありません |
エリーゼ | みんなの力、貸してくれませんか? |
エリーゼ | 力をためる間だけでいいんです、わたし達を守ってください |
エリーゼ | そしたらきっと何とかしてみせます…! |
ジュード | エリーゼ… |
ジュード | …わかった。魔物は先行して僕らが倒すよ |
ジュード | かまいたちは作らせないし、二人に魔物を近づかせもしない。みんなもそれでいい? |
ルドガー | …ああ、わかった |
ティア | 全力でエリーゼ達を守ると約束するわ |
ベルベット | …決まりね。なら早速魔物潰しに動くわよ |
ジュード | うん、行こう! |
エリーゼ | よろしくお願いします、みんな! |
エリーゼ | …始めます! |
scene3 | 傷ついたとしても |
ジュード | はああっ!! |
| バキィッ! |
| ピ…ピィイ…!! |
ジュード | はあ…、はあ…っ!間に合ったか… |
ティア | けれど、魔物が一向に減らないわ… |
ベルベット | かまいたちこそ防げているものの、これじゃキリがないわね…!エリーゼ、まだなの!? |
エリーゼ | もう少しです……! |
ティポ | あとちょっとだよー! |
ルドガー | …くっ!また魔物が増えて──…!ベルベット、後ろだ! |
| ピィイイイッ!! |
ベルベット | …!しまった、死角から… |
ジュード | 危ない、エリーゼ!魔物がそっちに── |
| ピィイイイッ!! |
エリーゼ | …! |
| ザシュッ! |
エリーゼ | うう…っ! |
ジュード | エリーゼ! |
ティア | 一度下がって!こうなったら、何か別の方法を── |
エリーゼ | だ、大丈夫です…!続けます! |
エリーゼ | もうすぐ…準備が出来ますから…! |
ティア | エリーゼ… |
ベルベット | …… |
| ピィイイイッ!! |
ルドガー | …!エリーゼ、後ろだ!さっきの魔物がまた── |
ジュード | …!させないっ! |
| ザシュッ! |
ジュード | ぐ…ううっ!! |
ティポ | ジュ、ジュード君ー!ぼく達を庇って―…! |
ルドガー | 二人共、大丈夫か!? |
ベルベット | ダメージ覚悟の捨て身で庇うなんて…全く無茶を…! |
ジュード | 二人には…近寄らせない! |
| バキィッ! |
| ピ…ピィイ…!! |
エリーゼ | ジュード…みんな…!準備、出来ました! |
ジュード | よし…!それじゃ、頼むよエリーゼ!ティポ! |
エリーゼ | はい!…この一撃、無駄にはしません! |
ティポ | 行くよー!エリー! |
ティポ | 目標ロック! |
エリーゼ | チャージ完了… |
エリーゼ | 発射!! |
ルドガー | ティポが竜巻の中に…! |
ティポ | エリーも頑張ってるんだー!ぼくだって、負けてらんないよー! |
ティポ | 覚悟しろー!! |
| |
ティポ | ただいまー! |
エリーゼ・ティポ | リベールゴーランド!! |
| ズオオオオオオッ!!! |
| |
ジュード | すごい…!エリーゼの術が…球体ごと竜巻を飲み込んでいく! |
エリーゼ | お願い…壊れて!! |
| |
| バキィイイン! |
| |
ベルベット | 竜巻が… |
ルドガー | 止んだ…! |
| |
ティポ | へへー、やったねー! |
エリーゼ | これで…次の階に…うっ…! |
ジュード | エリーゼ!今、傷を治すから…! |
エリーゼ | わ…わたしは後でも大丈夫です。ジュードだって、わたし達を庇って、傷だらけで… |
ティア | 動いちゃ駄目よ、二人共!今回復するから、じっとして…! |
ティア | …はい、これで終わり。幸い傷は浅かったから、動くのに支障はないはずよ |
エリーゼ | はい。もう大丈夫、です |
エリーゼ | みんな…。守ってくれて、ありがとうございます |
ルドガー | いや、礼を言われるどころか…守り切れなくて、すまなかった |
ティア | ありがとう、エリーゼ。お蔭で次の階に進めるわ |
ベルベット | …… |
ベルベット | ジュード…あんた、よくあんな無茶するわね |
ジュード | え…? |
ベルベット | 魔物の攻撃を生身で受けて…一歩間違えれば死んでたわよ |
ベルベット | それにエリーゼ、あんたも。魔物が目の前にいるのに、どうして── |
ジュード・エリーゼ | …… |
ベルベット | 何よ、きょとんとして…。ちゃんと今の話、聞いてたの? |
ジュード | う、うん。勿論。ただ、ちょっと意外で… |
エリーゼ | はい…ベルベットなら、わたし達の気持ちはわかるはずですから |
ベルベット | …どういう事よ? |
ジュード | だって…誰かのために戦ってるのは、ベルベットだって一緒でしょ? |
エリーゼ | わたし達と、同じです |
ベルベット | ……! |
ティア | 確かに、無茶の仕方はそっくりね。…さて、それじゃ行きましょうか |
ジュード | うん。先へ進もう。時間も気になるからね |
ティポ | あれー?ベルベット君、ボーっとしてると置いてっちゃうぞー |
ベルベット | すぐに…追いつくわ。先に行ってなさい |
ティポ | へんなのー |
エリーゼ | 早く来てくださいね、ベルベット! |
ベルベット | … |
ベルベット | 大切な人のために戦っているのは、あたしもあの子達も、一緒…か |
scene1 | 覚悟に応えて |
ジュード | かなり登って来たね |
ティポ | まだミラ君のところに着かないのー? |
ジュード | …最上階は、近いかもしれないよ |
ルドガー | わかるのか?神殿の外観からすると、半分以上は来ていると思うが… |
ジュード | 根拠というほどでもないんだけどね。…今までの階を思い出してみて |
エリーゼ | 水浸しの部屋に、岩壁の通路、あと、竜巻の部屋…ですね |
ティポ | それがどーしたのー? |
ジュード | 多分…それらはミラが仕掛けた罠だと思うんだ |
ティア | …可能性は高いわね。水、地、風…全部、彼女の司る力だわ |
ジュード | そして全ての階には鍵になる球体があった |
ジュード | やっぱり最初に予想した通り、白き獅子は全員核の近くにいて… |
ベルベット | あの仕掛けで、あたし達を足止めする気だったってわけね |
ジュード | うん。そう考えれば、残るはあと一つ。火だけなんだ |
エリーゼ | それじゃあ、次の階を越えれば…! |
ルドガー | 核…そしてミラが俺達を待ってるって事か |
ジュード | その可能性は高いと思う |
ジュード | …とにかく進んでみよう。何にせよ、核に近づいているのは確かだから |
| |
| ゴオオオ… |
ベルベット | あんたが言ってた事、当たりみたいよ |
ジュード | けど、正直ここまでとは思ってなかったよ… |
ティア | 見て、部屋の中央に例の球体もあるわ |
ジュード | まずは壊せるか試してみよう |
ジュード | …って、うわっ! |
| ゴオオオオオッ!!! |
ジュード | 危なかった…!あれに近づくと、炎の勢いが強くなるんだ…! |
エリーゼ | 術なら、どうでしょう…?──えいっ! |
| ズオオッ! |
| ゴオオオオオッ!!! |
ティア | …駄目ね。下の階と同じ、全て炎で打ち消されてしまったわ |
ルドガー | やっぱりここも直接破壊するしかなさそうだな |
ルドガー | しかし、竜巻と同じでここの炎の勢いも凄まじいな… |
エリーゼ | もう一度、わたしとティポで… |
| ゴオオオオオッ!!! |
ジュード | あの炎の勢いじゃ、ティポが無事じゃ済まなさそうだね… |
ティポ | ぼく、燃えちゃうー!? |
エリーゼ | べ、別の方法を考えましょう、ティポ |
ルドガー | とは言え、この熱じゃ長居するのも難しそうだな… |
ティア | ええ…それに炎のせいか息も苦しく── |
| |
| ガチャン! |
| |
エリーゼ | 何ですか…今の音…? |
ジュード | …!まさか! |
ベルベット | やられたわね…。入ってきた扉が塞がれてる。術か何かみたいだけど… |
ティア | … |
ティア | …駄目ね、簡単には開きそうにもない |
ルドガー | まずいな…このまま進む事も戻る事も出来なければ炎にやられるぞ |
エリーゼ | はあ…はあ…そんな… |
ジュード | くっ…何かあるはずなんだ。必ず、打開するための方法が… |
ベルベット | … |
ティア | 待って!あれは… |
| ヴォオオオオ!! |
エリーゼ | ま、魔物です!炎の中から! |
ジュード | くっ…! |
ベルベット | …仕方ない。まずはこいつらを片付けるわよ! |
scene2 | 覚悟に応えて |
ジュード | はあっ…!はあっ…!何とか魔物は倒せた、けど… |
| ゴオオオオオッ!!! |
エリーゼ | はあ…はあ… |
エリーゼ | い、息が…… |
| ドサッ |
ルドガー | くそっ…エリーゼ…っ |
ティア | …くっ |
| ドサッ |
ルドガー | ティア…! |
ベルベット | はあ…はあっ…ちょっと、まずいわよ… |
ジュード | すぐに炎を消さないと、このままじゃみんな… |
| ゴオオオオオッ!!! |
ジュード | … |
ジュード | ルドガー、ごめん…。もしもの時はミラの事をお願い |
ルドガー | ジュード…?まさか… |
ルドガー | やめろ…! |
ルドガー | 駄目だ…!!炎に突っ込むなんて |
ジュード | だけど……! |
ベルベット | … |
ベルベット | …どきなさい |
ジュード | ベルベット…? |
ベルベット | 何、呆けた顔してんのよ…… |
ベルベット | ミラのところまで行って……世界も、元に戻すんでしょ…? |
ジュード | …!うん、勿論だよ…! |
ベルベット | …あたしも、同じよ |
ベルベット | あたしも…早く帰らないといけない… |
ベルベット | ラフィのため…復讐を果たすために…っ……! |
| |
ベルベット | だから…ここは任せなさい |
ジュード | え…? |
ジュード | 待って…!ベルベット、何を…! |
| ゴオオオオオッ!!! |
ルドガー | ベルベット…!くっ、炎の中に突っ込んで…! |
ジュード | どうして…君が…! |
| ゴオオオオオッ!!! |
ベルベット | く、ぅ…!たかが、炎くらい…! |
ベルベット | …はああっ!! |
ジュード | あれは…腕の力で、炎を喰らっている…? |
ベルベット | ぐっ…ううう…っ!! |
ルドガー | ベルベット…!戻って…!いくら君でも…! |
ベルベット | ふん…!こんなもので、あたしは…! |
| ゴオオオオオッ!!! |
ベルベット | うぅっ!! |
ジュード | ベルベット!! |
ベルベット | …あたし達は…! |
ベルベット | 止められや…しないわ!! |
| ゴオオオオオッ!!! |
ベルベット | …砕け散れ!! |
| |
| バキィイイン! |
| |
ジュード | 炎が…収まった… |
ベルベット | これで、少しは涼しくなったわね…。ぐっ…! |
ジュード | ベルベット!! |
エリーゼ | …けほっ!けほっ!あれ…息が… |
ティア | うっ…炎が消えてる…? |
ルドガー | エリーゼ!ティア!よかった…目を覚ましたんだな |
ベルベット | ふっ、どうやら全員無事みたいね… |
エリーゼ | ベルベット…!その火傷…! |
ティポ | ボロボロだよー! |
ティア | まさか炎に突っ込んだの…?何て無茶を… |
ベルベット | …別に、生きてるんだからいいでしょ |
ジュード | 先に一言くらい言ってよ!心配するじゃないか! |
ベルベット | ふん…。何度も言ってるじゃない |
ベルベット | あたしは、あたしのために──… |
ベルベット | … |
ベルベット | …いえ、いいわ。…今回は、あんた達のためって事にしておく |
ジュード | え…?ベルベット、今… |
ベルベット | …ほら、さっさと次の階への道を探してきなさい |
ベルベット | 先を急ぐわよ。ミラとこの世界の両方、元に戻すんでしょ? |
ジュード | …うん。ありがとう、ベルベット |
ベルベット | …ふん |
ルドガー | それじゃあ、俺達は次の階への道を探してくる |
ジュード | ティア。ベルベットの事、お願い |
ティア | ええ、任せて |
ベルベット | …… |
ティア | …ベルベット。変な事を言うようだけど…あなた、また少し変わった気がする |
ベルベット | 別に…変わったわけじゃない。ただ、気付いただけよ |
ティア | …何に? |
ベルベット | 自分の気持ちの…正体、かしらね |
ベルベット | 元々、あの子達の覚悟はわかってた。この神殿に入ってからは、尚更よ |
ベルベット | 言葉と行動で、自分達の覚悟が本物だって証明してきた。そんな姿を見てたら…気付いたのよ |
ベルベット | あの子達がミラを想う気持ちは、あたしがラフィを想う気持ちとよく似てるんだ、って… |
scene1 | 忠義の証 |
ジュード | …水、地、風、火。これで四つとも突破してきた |
ベルベット | 次が最後の階になる可能性が高いわけね |
ジュード | うん。核を守るため、白き獅子が待ち構えてると思う |
ジュード | …勿論、ミラもそこにいる |
ルドガー | 下の階に白き獅子はいなかった。やはり全戦力はこの上に固められてるはずだ |
ティア | ええ。少なくとも、人数の不利は避けられない。気を引き締めないとね |
エリーゼ | はい。ここで壊せないと、意味がありません |
ティポ | せっかく頑張ったんだもんねー、やってやるぞー! |
ジュード | ティポも気合十分だね |
ジュード | …それで、改めて聞いてほしいんだ。簡単にだけど、作戦を立ててみたから |
ベルベット | へえ…。じゃ、早速聞かせてもらいましょうか |
ジュード | うん、まずは── |
ルドガー | …理に適った作戦だと思う。俺は異存ないよ |
ベルベット | そうね。わかりやすくていいわ |
ティア | ええ。その作戦でいきましょう。一番確実性があるもの |
ジュード | …目的はあくまで核の破壊。それが最優先だよ |
エリーゼ | ミラを傷つけなくて済むならそれが一番ですよね |
ルドガー | ああ。みんなで力を合わせよう。核は、必ず破壊する! |
ティポ | おー!燃えてきたぞー!! |
ベルベット | …悔いの残らないよう、やり切るわよ |
ジュード | …うん!行こう、みんな! |
| |
ロアー | …来たか |
ジュード | ミラ…! |
騎士団員 | … |
ベルベット | おまけの騎士共も、雁首揃えてお待ちかねよ |
ティア | 彼らの背後にあるクリスタル。あれが核ね…! |
ルドガー | ああ、敵の布陣から見ても間違いない! |
ロアー | 四つの階層を突破し、ここまで来るとは… |
ロアー | 咎人と言えど、お前達は相当の覚悟を持っているようだな |
ロアー | …しかしそれもここまでだ。お前達はここで捕えられる、私の手によってな |
ジュード | …ミラ! |
ロアー | …! |
エリーゼ | わたし達がわかりませんか…!本当に…何も |
ティポ | ミラ君ー!ぼくだよ、ティポだよー! |
ジュード | ミラ…!僕達の声、僕達を見ても君は何も感じない? |
ロアー | 感じる、か… |
ロアー | ああ、感じているとも。お前達から名を呼ばれるたびにな… |
ジュード | …! |
ロアー | 教えてもいない私の本当の名── |
ロアー | ──それを咎人などに気安く呼ばれる屈辱を、な |
ジュード | …くっ |
エリーゼ | そん、な… |
ロアー | お前達は何故、私のその名を知っている? |
ロアー | そして…もう一つ。そこの、黒髪の少年 |
ジュード | …… |
ロアー | 帝都でお前達を捕えようとしたあの時、お前は私を庇ったな |
ロアー | 答えろ。あれは一体どういう事だ? |
ジュード | 答えは、一つだよ。…君が僕達の仲間だから |
ロアー | …仲間? |
ジュード | ラザリスは…元々僕達が住んでいた世界を創り変えてしまったんだ |
ジュード | それだけじゃない…! |
ジュード | そこにいた人が仲間と過ごした大切な記憶、使命まで…全部を書き換えた |
ジュード | 僕達と君はラザリスを阻止するため、一緒に戦っていたけど…結局、世界は変えられてしまった |
ロアー | ふむ…つまり、私は別の世界に、別の人間として新たに生を受けた、という事か? |
ジュード | そうだよ…!それが真実なんだ、ミラ! |
エリーゼ | 思い出してください…!ジュードも、ティポもティアもルドガーもみんな仲間だったんです! |
ロアー | … |
ジュード | だから…!僕達は、元の世界を取り戻したいだけなんだ! |
ジュード | 君とだって、戦うつもりなんてない!そのクリスタルさえ壊せれば、それでいいんだ…! |
ロアー | …ふっ。よくわかった |
エリーゼ | …ミラ、わたし達の言う事、信じてもらえましたか…? |
ロアー | 勘違いするな。虚言に惑わされる私ではない |
ロアー | …だが、興味深かったぞ。お前達咎人とは、本で読むよりも奇抜な事を言うのだな |
ジュード | …ミラ、僕は! |
| |
ロアー | ──総員、抜剣! |
騎士団員1 | はっ! |
| ジャキンッ! |
ティア | ジュード、エリーゼ!今はやるしか…! |
ベルベット | 来るわよ! |
ベルベット | はああっ! |
| ザシュッ! |
騎士団員1 | 攻撃が軽い…!かなり疲労しているようだな |
ベルベット | ちっ…! |
ジュード | 数が多い…!やっぱりそう簡単にクリスタルは壊させてくれないよね…! |
ルドガー | …だが、道がないなら作るまでだ。そうだろ、ジュード |
ジュード | うん!ティア、エリーゼ、お願い! |
ティア | ええ、任せて!手はず通りにやるわよ! |
エリーゼ | はい! |
騎士団員2 | 何をするつもりか知らんが、みすみすやらせるものか! |
ルドガー | それはこっちの台詞だ! |
ルドガー | はああああああっ! |
| ガキンッ…!!! |
騎士団員2 | な、何だ?貴様…一体…! |
ルドガー | …! |
ルドガー | はああっ!! |
| ジャキンッ! |
騎士団員2 | ぐぅっ! |
ルドガー | お前達だって記憶を改変されているだけ…だから、傷つけたくはない |
ルドガー | けど、俺達の前に立ち塞がるっていうなら、悪いが手加減はできないよ |
ルドガー | 元世界のため、そしてミラのために…少しだけ眠っててくれ! |
ルドガー | はあああっ! |
騎士団員2 | くっ…!陣形が崩されて…! |
騎士団員1 | だが、いくら一人が粘ったとしても数の有利は覆せまい…! |
ティア | ルドガーだけじゃない…! |
騎士団員1 | …っ! |
ティア | グランドクロス! |
騎士団員1 | しまっ…ぐああっ! |
ティア | ルドガーが作ってくれたこの瞬間、無駄にしないために… |
ティア | 私達が道をつくるわ |
騎士団員2 | 咎人共の策にはまったか…! |
騎士団員2 | 被害状況を報告しろ!陣を再編し、一度立て直すんだ! |
ティア | させない…!エリーゼ、今よ! |
エリーゼ | はい!行きますよ、ティポ! |
エリーゼ・ティポ | リベール・イグニッション! |
騎士団員2 | なっ…!おのれええっ!!! |
| ズオオオオオッ!! |
ティア | やったわ…!上手く騎士達を弾き飛ばせたわね |
ティア | ルドガーの骸殻の力で斬り込み、私とエリーゼの術で突破口を開く… |
エリーゼ | ジュードの作戦通りです!道が開けました! |
ルドガー | ジュード!ベルベット!今の内に早く! |
ルドガー | 核は任せた!残った奴らは、俺達が相手をする! |
エリーゼ | お願いします、ジュード!ミラを…わたし達の世界を、取り戻しましょう! |
ジュード | みんな…ありがとう! |
ベルベット | さあ、けりを付けるわよ! |
scene2 | 忠義の証 |
ロアー | …ここまでたどり着くとはな |
ロアー | ならば、この私が相手をしよう! |
| チャキンッ! |
ジュード | そうはいかないよ…!君と向き合うために、僕は…ここまで来たんだ! |
ベルベット | 隙を作って核を壊す、だったわね。…やるわよ、ジュード |
ジュード | うん!頼りにしてるよ、ベルベット…! |
ロアー | 何をごちゃごちゃと…来ないならこちらから行くぞ! |
ロアー | はああっ! |
| ガキィンッ! |
ロアー | ほう…今のを受け止めるか |
ジュード | 当たり前だよ。僕は君に倒されるわけにはいかない! |
ジュード | ミラ…!思い出して…僕達の事を…元の世界を! |
ロアー | いつまで虚言を吐けるか…やってみろ! |
ジュード | うおおおっ! |
ロアー | はあっ! |
| ヒュッ!ガキィンッ! |
ジュード | よし、これでミラは抑えた…! |
ジュード | ベルベット! |
ベルベット | 手筈通りね。悪いけど、クリスタルは壊させてもらうわよ |
ロアー | … |
ベルベット | もらった! |
ベルベット | はああっ!! |
| ガキン───! |
ベルベット | 馬鹿な…弾かれた!? |
ベルベット | クリスタルの周りに…何かある! |
ロアー | …ふっ |
ロアー | クリスタルは壊させん!ファイアボール! |
| ゴオオオオオッ! |
ベルベット | ちっ! |
ジュード | ベルベット、大丈夫!? |
ベルベット | ええ |
ベルベット | でも何なの、さっきのは…? |
ロアー | クリスタルを守る障壁だ。私の命を源とする特殊な術… |
ロアー | つまり、この私を倒さなければ決して破れる事はない |
ベルベット | ちっ… |
ジュード | それってまさか── |
| |
ジュード | 障壁を解くには君の命を奪わないといけないって事…? |
ロアー | お前達が私に敵うなら、だがな |
ジュード | そんな… |
ロアー | …何を怖気づいている?敵を討つ覚悟もせずにこの場へ来たわけでもあるまい |
ジュード | 違う、僕は── |
ロアー | 諦めろ、咎人。私がいる限り、お前達の刃が天帝に届く事はない |
ジュード | ミラ…… |
ベルベット | とことんラザリスに尽くすつもりってわけね。…馬鹿な事を |
ロアー | クリスタルはラザリス様の命に等しい |
ロアー | ならば、私も命を賭けて守る。それが白き獅子である、私の使命だ |
ジュード | …っ!ミラ、待って! |
ジュード | 僕達が戦う必要はないんだ!それに君を殺すなんて…僕には…! |
ロアー | ふっ、それで私を惑わせようとしているつもりか?愚かな… |
| ザシュッ! |
ジュード | っ…!! |
ロアー | ──終わりだ、咎人 |
ベルベット | させるか…! |
| ガキィイン! |
ロアー | …邪魔をするな、と言うのも無理な話か |
ベルベット | ちっ…! |
ジュード | ベルベット…! |
ベルベット | …ジュード、あたしはそんな情けない顔を見るためにここに来たんじゃないわ |
ベルベット | ──あんたでしょ、あの時… |
ベルベット | 覚悟を見届けてほしいって言ったのは…! |
ジュード | …! |
ジュード | …ベルベット |
ジュード | …ありがとう。僕は決めたんだった… |
ジュード | もう、迷ったりしないって |
ベルベット | ふん…わかればいいわ。ひとまず、ここは任せなさい |
ベルベット | その間にどうすればいいか考えて。あんた、得意でしょう |
ジュード | うん…! |
ロアー | 余裕だな…。面白い、まずはお前から倒すとしよう |
ベルベット | 出来るものならね…! |
ベルベット | はああっ!! |
| ヒュッ…キィンッ!ガキィンッ! |
ベルベット | 思えばあんたの相手もこれで三回目…いい加減飽きてきたわ |
ロアー | そうだな…最初はガハラム山、次は帝都の広場…そして今… |
ロアー | お前とは妙な縁がある |
ロアー | だが、今が決着の時だ。お前も…それを望んでいるだろう |
ベルベット | …ふっ |
ロアー | …何かおかしいか? |
ベルベット | …違うわよ。ただ…そうね。残念だけど、決着はつけられそうにないわ |
ベルベット | …あんたの相手はあたしじゃないから |
ロアー | 何…? |
ジュード | … |
ベルベット | …じゃ、そういう事だから。後は任せたわよ |
ジュード | うん…!ありがとう、ベルベット |
| |
| ザッ… |
ジュード | …ミラ。命を賭けて使命に立ち向かう君は、やっぱりミラだ |
ジュード | そんな君がいたから、僕はここに立っていられる |
ジュード | だから、今度は僕の番だ。君も…世界も…どっちも救うよ |
ロアー | …咎人の虚言は聞き飽きた |
ロアー | 腑抜けたかと思えば、今度は私とあの女の決着を邪魔するか |
ロアー | …覚悟は、出来ているな? |
scene3 | 忠義の証 |
ルドガー | よし…騎士達は全員倒した!ティア、エリーゼ!ジュード達の援護に行こう! |
??? | 加勢は必要ないわ |
ティア | ベルベット!?ミラはどうなって…? |
ベルベット | 障壁を張られたせいで核が壊せないの |
ベルベット | その障壁を破るには、ミラの命を奪うしかない…みたいね |
エリーゼ | …そんな!ミラと世界、どっちかを選べって事ですか…! |
ティポ | そんなの、出来っこないよー! |
ルドガー | ああ、状況が悪すぎる。尚更放っておけないだろう…! |
ベルベット | あいつはミラも世界もどっちも救うって言ってたわ |
ベルベット | 本人がそう言うんだからあたしは約束通り、それを見届けるだけよ |
ティア | ベルベット… |
ティア | そうね…ジュードがそう言うのなら私も彼の為す事を見守るわ |
ルドガー | …危険だと思ったら、すぐに助けよう |
エリーゼ | はい。でも、ジュードは…どうやって… |
ベルベット | … |
| |
ジュード | はあっ…はっ…! |
ロアー | くっ…まさかここまでやるとはな… |
ロアー | よく受け流すものだ…まるで私の動きを知り尽くしているかのように |
ジュード | はあっ…はあっ…。うん、ミラの動きはずっと隣で見て来たからね |
ロアー | 虚言を… |
ロアー | だが、長くは持つまい。次で決めるぞ |
ジュード | その前に一つ、聞いてもいいかな |
ジュード | あの障壁を破る方法…君は自分を倒すしかないって言ってたけど |
ジュード | …術者である君の意思ならどうかな? |
ロアー | いきなり何を言うかと思えば、くだらぬ問いを |
ロアー | 私がラザリス様を裏切るとでも言うのか? |
ジュード | 君が元のミラに戻れば…ね |
ロアー | 言わせておけば…咎人め |
ジュード | 君が僕の問いを否定しないのなら、やる事は決まってる |
ジュード | ──今、この場で君の記憶を取り戻す |
ジュード | そして、ミラ。元に戻った君自身の手で、障壁を解除してもらう! |
ロアー | いい加減にその虚言をやめろ…! |
ロアー | 咎人と言えど、命まで取る気はなかったが… |
ロアー | 私の忠誠と、ラザリス様をこれ以上愚弄する事は許さん…! |
ロアー | その口、黙らせる! |
| |
| キン!ガキィン! |
ジュード | …僕は決めたんだ。目をそらさないって |
| |
ジュード | …だから、ミラ。僕は君からもう、一歩も引かない |
ロアー | …お前、何故構えを解く? |
ジュード | 君から逃げないためだよ |
ジュード | 思い出して。そして…みんなで一緒に帰ろうよ、ミラ |
ロアー | …そうか。私の覚悟と忠誠を愚弄し、あまつさえ… |
ロアー | 戦いの決着すらつける気はないというのか! |
| ザシュッ!! |
ジュード | …ぐっ!ううっ! |
ロアー | どうしたっ…!拳を構えろ!はああっ!! |
| ズバッ!! |
ジュード | 逃げないって…言ったんだ…! |
ロアー | こ、のっ…!!まだそのような事を── |
ロアー | …くっ……! |
ジュード | はあっ…ぐぅっ…どう、したの…斬らないの? |
ロアー | …何故だ…何故避けない?何故、無抵抗で私の剣を受ける… |
ロアー | 咎人だろうと、自分の命は惜しいだろう |
ジュード | …うん、勿論 |
ジュード | でも…ミラが命を賭けてるんだから、僕だって…同じように命を賭けるよ |
ジュード | はあ…はっ…それに、僕は死なない。絶対、記憶を取り戻してくれるって、信じてるから |
ジュード | 僕は君を知ってる…君の強さを |
ロアー | 何を言って── |
ジュード | 思い出して、ミラ! |
ロアー | くっ、それ以上…その名で呼ぶな! |
| ドシュッ…! |
ジュード | つっ──…! |
ロアー | なっ…お前、素手で剣を受け止めたのか…? |
ロアー | くっ、何故いつもそんな無茶ばかり── |
ロアー | 「いつも」…だと?私は何を…… |
| |
ジュード | 危ない!ミラ!! |
ミラ | …! |
イフリート | グオオオオッ! |
| ズガッ!! |
ジュード | う…っ |
| |
ロアー | 何だ…何なのだ、この光景は…! |
ジュード | ミラ…!もしかして、元の記憶が… |
ロアー | 有り得ない…。でたらめを言うな、咎人! |
ロアー | もういい…終わりにしよう! |
エリーゼ | ジュード…! |
ルドガー | くっ…、これ以上見ていられない── |
ベルベット | 駄目よ |
ルドガー | ベルベット…?何で… |
ティア | このままじゃ危険よ。ミラの攻撃を無抵抗で受け続けたら── |
ベルベット | …言ったでしょ、覚悟を見届けるって |
エリーゼ | ベルベット… |
エリーゼ | …ごめんなさい。でも、わたし…見守ってるだけなんて出来ません! |
ベルベット | … |
ジュード | う…っ、ぐぅ……! |
ロアー | はあっ…はあっ…。これでも、まだ…足りないか…っ! |
エリーゼ | やめてください、ミラ!わたしです、エリーゼです! |
ティポ | ミラ君ー!もうやめようよー! |
ロアー | 黙れ!私の名を…呼ぶな! |
ロアー | 私は白き獅子の…ロアーだ!私は私の果たすべき使命のために…お前達を討つ! |
ジュード | ミ、ラ… |
エリーゼ | ジュード!動いちゃ駄目です…! |
ティポ | 死んじゃうよー!! |
ジュード | 大丈夫、だよ…エリーゼ |
ジュード | 「使命」… |
ジュード | ミラ…君はいつもそうやって、全部…一人で抱え込もうとする、よね |
ジュード | うぐっ…はあっ…はあっ… |
エリーゼ | ジュード…! |
ジュード | 思い出すよ…四大の暴走を鎮めないとって、焦って周りが見えなくなった時の事… |
ロアー | ──っ!? |
| |
ジュード | 確かに、マナや精霊達を感じ取れるミラと僕達は立場が違う… |
ジュード | でも、この世界に生きているという点では、一緒のはずでしょ? |
ミラ | … |
ジュード | この世界を何とかしたい、何とかしなくっちゃって気持ちを、誰もが持っているはずなんだ |
ジュード | だから…一人で背負わず、僕達の事を頼ってほしいんだ |
| |
ロアー | くっ…私に一体何をした… |
エリーゼ | もしかしてミラ、記憶を… |
ジュード | …ね、エリーゼ。ミラはいつも…いつも…そうだったよね |
エリーゼ | …! |
エリーゼ | はい、ミラはいつもそうです。微精霊が晶化してしまった時だって、誰も頼らずに悩んで…! |
ロアー | …うぅっ! |
| |
エリーゼ | わたしだって…ティポやジュード、それにミラが晶化してしまったら…… |
エリーゼ | …そう考えただけで、すごく怖くて… |
エリーゼ | わたしにとって、みんなすごく…大切なんです。だから──…… |
エリーゼ | 一人で抱え込まないでください… |
| |
ロアー | 一人で、抱え込むな…? |
エリーゼ | そうです。あの時、そう言ったじゃないですか |
ロアー | …!この光景…この感覚は…! |
ジュード | 君は一人じゃないんだ、ミラ!僕らは君と一緒に生きていきたい!ミラと一緒に、歩いていきたいんだ! |
ロアー | やめろと言っているだろう!その名を…その名を呼ぶな! |
ロアー | …私はお前達の事など──…私は…私は…! |
エリーゼ | ミラは、ミラです! |
ロアー | 違う…私は…!白き獅子の…! |
ジュード | ミラは、誰かに操られるような弱い人じゃない!そうでしょ、ミラ! |
ロアー | うう…あああああ!! |
ジュード | ミラ! |
ロアー | …黙れ |
| |
| チャキンッ! |
| |
ロアー | それでも…我が、「使命」は……! |
エリーゼ | ミラ…? |
ロアー | これで終わりだ…! |
ロアー | ──ギルティカル、フェイト!! |
ティア | あの強烈な光は…! |
ルドガー | あんなのを食らったら…! |
ベルベット | …… |
ロアー | っ…!避けなければどうなっても知らんぞ! |
エリーゼ | ミラ! |
ジュード | 帰ってきてよ…! |
ロアー | …!──…つっ!お前達……! |
| |
ジュード | ミラ |
エリーゼ | ミラ! |
| |
ロアー | ……!お前達は…いや、君達は──…!! |
| |
| ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!! |
| |
ロアー | くっ…!!駄目だ、やめろ─────ッ!!! |
scene1 | おかえり |
ジュード | …… |
ジュード | あれ…どうして僕達…… |
エリーゼ | ミラの術が…外れた…? |
| |
ロアー | ジュード!!エリーゼ!! |
ジュード | ミ、ラ…? |
エリーゼ | もしかして…! |
ミラ | ああ、君達のお蔭で全て思い出せた。本当にすまない、君達をこんな── |
ジュード | はは…このくらい大丈夫だよ。でも、記憶が戻って本当によかった… |
ジュード | 本当に──ってあれ…? |
ミラ | おっと!大丈夫か、ジュード! |
ジュード | あ、あはは。何だか安心したら、どっと疲れが出ちゃって… |
ミラ | 私が不甲斐ないばかりに、心配をかけた… |
ジュード | …何て事ないよ |
ジュード | だって、こうしてミラは帰ってきてくれたから |
ジュード | おかえり、ミラ |
ミラ | …ああ。ただいま、ジュード |
エリーゼ | ミラー!!! |
ティポ | ミラぐんーーー!!! |
ミラ | おっと…二人共、急に抱き着くと危ないだろう |
エリーゼ | お帰りなさい…!お帰りなさい、ミラ! |
ミラ | …記憶がなかったとは言え、剣を向けてしまった私を迎えてくれるのか? |
エリーゼ | そんなの当たり前です…! |
エリーゼ | だって…わたしはこうしてミラと話せるだけで嬉しいんですから…! |
ミラ | …ああ、私も記憶を取り戻せてよかったよ |
ルドガー | ははっ、熱烈だな。まあ、あれだけミラの事を想っていたから仕方ないか |
ティア | ふふっ…そうね。本当によかった |
ミラ | ルドガー、ティア…!お前達にも、礼を言わなくてはな。本当に…ありがとう |
ジュード | ミラ、あのクリスタルに張られている障壁を解除してほしい。僕達はあれを壊すために来たんだ |
ミラ | …わかった。では、手早く済ませてこよう |
ジュード | 僕も行くよ…うぅっ |
ミラ | ジュード! |
ベルベット | …あたしが行くわ。あんた達はそこで待ってなさい |
ジュード | ベルベット…ありがとう |
ベルベット | …あたしは自分の手で壊すまで安心出来ないだけよ |
ミラ | お前は…。いや、話は後にしよう |
scene2 | おかえり |
ミラ | はあっ!! |
ミラ | ふう…これでいい |
ベルベット | …ふん、どうするのかと思えばまさか本人に解かせるなんてね |
ミラ | ジュードらしい方法だ。最後まで諦めずに危機的状況で成すべき事を成す… |
ミラ | …今回もまた助けられたな |
ベルベット | じゃあ、やるわよ。はあっ!! |
| |
| パキイィンッ! |
| |
ベルベット | よし、これでクリスタルは壊せた |
ミラ | …ベルベット、だったか。少しいいだろうか |
ベルベット | 何? |
ミラ | 私はミラ、ここにいるジュード達の仲間だ。改めて礼を言わせてほしい |
ミラ | 助けてくれて本当に感謝している。ありがとう |
ミラ | …それと、すまなかった |
ミラ | 記憶を失くしていたとは言え、私はこれまでに何度もお前に剣を向けてきた |
ベルベット | 記憶を変えられてた頃の話なんて、どうだっていいわ。元々責める気もない |
ベルベット | それに、あんたを助けたのはあたしじゃなくてあの子達よ。礼を言われる義理もないわ |
ミラ | …ああ。エリーゼも少し見ぬ間に大人になった |
ミラ | …もっとも、さっき抱き付かれた時の事を思うと、まだまだ子どもかもしれないが |
ミラ | …ふっ |
ベルベット | …ジュードは?あの子もまだまだ子ども? |
ミラ | …ジュードか。彼は、ずっと前から大人だ。むしろ… |
ミラ | 今回の一件で、私の方が追い越されてしまったかもな |
ベルベット | …へえ |
ミラ | どうした?私は…何か変な事を言っただろうか |
ベルベット | 少し、聞いていた話と違うと思っただけよ |
ベルベット | そういうどっちが強いか、みたいな事は口にしない印象だったから |
ミラ | ふっ…。私にも感情はあるからな… |
ミラ | すぐに抜き返すさ。失望させるのは…嫌だからな |
scene3 | おかえり |
ミラ | …そうか。事のいきさつは皆の説明で理解出来た |
ミラ | ラザリスは必ず倒さねばな。私も最大限力になろう |
ミラ | この後の集合場所は、リッカ村…と言っていたな? |
ルドガー | ああ、その予定だよ |
ミラ | では、ジュード達は先にそちらへ向かってくれ。私は後で合流する |
ティポ | えー!せっかく元に戻ったのにー? |
ミラ | お前達は帝都に向かうのだろう? |
ミラ | ならば相手の戦力は少ない方がいい、白き獅子はここで抑えておこう。私にしか出来ない役目だ |
エリーゼ | でも…ミラ…! |
ジュード | エリーゼ、ここはミラに任せよう。大丈夫、また会えるから |
エリーゼ | …わかってます。わたしだって、わがまま言うほど子どもじゃないです |
ティポ | 一緒に行こうよー、ミラ君ー! |
エリーゼ | …ティポ、我慢しましょう |
ミラ | すまないな、エリーゼ。ひと段落ついたら、すぐに合流するよ |
ミラ | ほら、善は急げだ。行ってくれ、皆 |
ルドガー | せっかくの再会だが、仕方がないか |
ティア | 積もる話はまた今度、ね |
ジュード | ミラ、くれぐれも無理はしないようにね。それじゃあ…気を付けて! |
ミラ | ああ、お前達も |
| |
ジュード | ふう…。何とか外に出れたみたいだね |
ジュード | ベルベット、少しいい? |
ベルベット | …どうしたの |
ジュード | まだ、お礼を言ってなかったから |
ジュード | ミラを助けられたのは君のお蔭だよ。本当にありがとう |
ベルベット | 助けたのはあんた達でしょ。あたしは何もしてない |
ジュード | そんな事ないよ。あの時、クリスタルを破壊するためにミラを倒そうとする事だって出来た |
ジュード | でも、そうしなかった。つまり、僕らのために、時間をくれたんだよね |
ベルベット | はぁ…。相変わらず、いちいち理屈っぽいわね |
ベルベット | でも、そうね。貸し一つ、って事にしといてあげるわ |
ジュード | うん、ちゃんと返すから任せてよ |
ルドガー | 二人共、話しているところ悪いがあれを見てくれ |
ジュード | あっ……! |
ベルベット | 光の柱…他の神殿も全部消えてるわね |
エリーゼ | よかったです…!他のみんなも無事クリスタルを壊せたんですね |
ティア | ええ…! |
ベルベット | これであいつのもとに行けるはず!待ってなさい、ラザリス…! |
ジュード | よし、リッカ村に急ごう、みんな! |
scene1 | 同志との再会 |
ジュード | やっと着いた…!リッカ村… |
エリーゼ | すっかり暗くなってしまいました… |
ルドガー | でも、お蔭でこっそり忍び込めた。明るい内は、見つかる可能性が高いからな |
ティア | 誰かさんは特に、大暴れしてるものね |
ベルベット | ふん。そろそろあんた達も、手配書くらい出回ってるんじゃない? |
ジュード | かもしれないね。ひとまず、早くレイアを捜して── |
村人 | …ん?誰かそこにいるのか? |
ルドガー | まずいな、こっちにくるぞ…!隠れろ、みんな! |
エリーゼ | で、でもみんなが隠れる場所なんて… |
ティポ | わ、わ、みつかっちゃうよー! |
??? | みんな…!こっちこっち…! |
ジュード | その声は…レイア…!?一体どこに… |
レイア | 後ろ、後ろ…!ほら、こっちの道なら安全だよ |
ジュード | わかった…! |
| |
レイア | ふう、何とか見つからずに済んだね。…それよりみんな、久しぶり! |
レイア | 光の柱が消えたから、そろそろだって思って見張ってたの |
ジュード | そっか、ありがとう。お蔭で助かったよ。ところで、他のみんなは? |
レイア | 安心して。みんな少し前に到着してジュード達の事、待ってるよ |
ティア | 無事だったのね。よかった… |
レイア | それじゃ、早速行こっか |
レイア | 見かけない顔の人もいるから挨拶…といきたかったけど、今は後回し!まずは拠点まで案内するね |
ルドガー | 拠点か…。って事は、ロランドファミリーのみんなもいるんだよな |
ジュード | 会えるのは嬉しいけど、咎人だってバレないように気を付けないとね |
レイア | それなら心配いらないよ。今は、みんな留守にしてるから |
ルドガー | 留守? |
レイア | その辺の事も後で説明しないとね。…それじゃ、行こう。ついてきてね |
ジュード | うん、わかった |
scene2 | 同志との再会 |
レイヴン | なーんか、こうして顔合わせるのも久しぶりの気がするわ |
ミクリオ | けれど、安心したよ。これで全員揃ったみたいだ |
コレット | おかえり、みんな |
ジュード | ただいま。みんな無事で安心したよ |
スレイ | ジュード達こそ大きな怪我はなさそうでよかった |
ゼロス | しっかし、遅かったじゃねーの!お前ら随分、遅れての登場だぜ |
ベルベット | 仕方ないでしょ、一番遠い神殿だったんだから |
レイヴン | 全くよ。お蔭でおっさん達、余計な苦労しちゃったんだから |
エリーゼ | え?余計な苦労、って…? |
レイア | あ、あはは!実は、ね…? |
レイヴン | それがねぇ…ジュードの仲間だって言っても、レイアちゃんが信じてくれなくってさ |
レイア | だ、だって、ジュードやルドガーと全然感じが違ったし…! |
レイヴン | え…!?悲しい…おっさんは悲しいわ!ちょっと老け込んでるからって…! |
ベルベット | …あんたがうさんくさすぎるのよ。当然の反応だわ |
レイヴン | べ、ベルベットちゃんまで… |
ヴェイグ | 最初に会ったのが、レイヴンだったからな…。オレ達も誤解を解くのに苦労した |
カイル | そうそう、スタンさんが顔見知りじゃなかったら、危なかったですよ |
ミクリオ | …ちょうどそれで揉めてる頃、僕達も村に着いたんだ。ある意味、手間は省けたが |
スタン | ま…まあいいじゃないか!今はこうして、仲良くなれたし…! |
コレット | うん、ジュード達を待ってる間、たくさんお話し出来たよ |
ティア | …それじゃあ、私達も情報共有しないとね |
ジュード | そうだね。まずは、クリスタルだけど──… |
| |
カイル | …じゃあミラさんも、白き獅子の足止めに残ったんだ… |
レイヴン | 結局全員残ったわけか…。ま、あの三人なら大丈夫でしょ |
スレイ | うん、オレもそう思うよ。…とにかく、これで帝都の結界は解けた |
スタン | ああ。後は帝都に乗り込んで、ラザリスを止めるだけだ! |
ミクリオ | まずは状況の確認をしよう。レイア。帝都は今、どうなっているんだ? |
レイア | …結界が解けた後、ラザリスの安否を気遣った人達で、帝都は大騒ぎになったの |
レイア | ヴァンから無事だって発表があったから、何とか収まったんだけど… |
レイア | 街は今、ピリピリしててネズミ一匹見逃さない、って感じだよ |
ジュード | 当然と言えば当然だよね…。侵入するのは容易じゃないか |
レイア | うん。しかも…それだけじゃないの |
ベルベット | どういう事? |
レイア | 街の人達の中には、ラザリスの役に立とうって有志で警備を始めた人もいてね |
レイア | ロランドファミリーのみんなも、これに参加してるせいで留守にしてるんだ… |
ミクリオ | 少しでも見つかれば大騒ぎになるか。一筋縄ではいかないな… |
レイア | 街の人も、白き獅子も、神兵も、本当は記憶を改変されただけの人達。あまり対立はしたくないよね |
レイア | ロランドファミリーのみんなと鉢合わせちゃう事だってあるし… |
ジュード | うん。手荒な真似は極力避けたいね |
スレイ | こっちは傷つけたくないのに、向こうは捕まえようって気合が入ってるのか… |
ミクリオ | 僕達からすれば、記憶を改変された人達を人質にされてるようなものだ |
レイヴン | ま、ラザリスからしたら、憎~い人間がどうなろうと知ったこっちゃないって事でしょ |
カイル | ん~。何かその辺、引っ掛かるんだよなあ… |
レイヴン | どうしたのよ、少年 |
カイル | ラザリスって、人間が嫌いって感じなのに、何でこんな世界を作ったんだろう? |
カイル | 平和な世界なんて創らないで、憎いなら壊せばよかったんじゃ?極端な話ですけど… |
レイヴン | ふーむ…そうね。その辺に関しちゃ、おっさんも気になってたわ |
レイヴン | 人間の扱いが妙に丁寧…ってのも、変な言い方だけど。なーんか、違和感あってね |
ゼロス | ああ…。人間を嫌っておきながら、人間を生かしておくなんて、一体どういう事なんだ? |
ミクリオ | しかもわざわざ、一人一人の記憶を改変してまで… |
スレイ | 何か裏があるのかな?憎しみ以外の何かが… |
ヴェイグ | それに関しては、本人に聞く他ないだろう |
コレット | …… |
コレット | 私は…やっぱりラザリスにも、事情があるんだと思う |
ゼロス | コレットちゃん、だからそりゃあ── |
コレット | わかってる。ラザリスのしてる事は、私だって許せない… |
コレット | でも…でもね。だからって、あの時感じた気持ちは…簡単に忘れられないよ |
ジュード | コレット… |
コレット | わかり合えないからって、諦めちゃうのは…多分、違う… |
コレット | 自分でもよくわからないけど、そう思うの |
レイヴン | ま…無理に気持ちの整理をつける必要はないわよ、コレットちゃん |
ティア | そうね。簡単に解決出来るような問題でもないもの |
コレット | …そだね。ごめん、みんな。今は、悩んでてもしょうがないよね |
レイア | …それじゃあ、みんな!話も落ち着いたし、とりあえずご飯にしよう? |
レイア | 何はともあれ、まずは腹ごしらえだよ! |
スタン | 腹ごしらえ…!そう言えば、夕食まだだったもんな |
ティポ | やったー!! |
ジュード | そうしようか。明日のためにしっかり食べよう! |
scene1 | 決意の形 |
スタン | いやー、食べた食べた |
カイル | オレも、お腹いっぱい…。はー、美味しかった… |
ルドガー | さて、片付けてくれてるレイアを手伝ってくるかな |
ヴェイグ | …いや、手伝いは必要ないそうだ |
ルドガー | あれ、ヴェイグにジュードも。必要ないってどういう事だ…? |
ジュード | 僕達も手伝うつもりだったんだけど…追い出されちゃった |
ジュード | 「みんな戦い詰めだったんだから、 大人しく休んでて!」だってさ |
コレット | レイア、気を使ってくれたんだね |
ゼロス | いいねえ~…!そういう気配りの上手な子、俺さま好きよ? |
ティア | せっかくの好意だし、甘えさせてもらいましょう |
ティア | 勝負はもう、明日だもの。今日は英気を養わないと |
スレイ | そうだな。オレ達でヴァンとラザリスを止めよう |
ミクリオ | ああ、天帝の御座での借りも返さないと |
ティア | ええ…兄の望んだこの世界を、自分の目で見て改めてわかった |
ティア | みんなの大切な記憶を改変して成り立つ平和なんて間違ってる。その間違いは、私が必ず正すわ |
ティア | 妹として…家族としてね |
ルドガー | …そうだな。向こうがどんな理屈を並べても、俺達には助けたい人達がいる |
ルドガー | 兄さん、そしてエル。…もう二度とエルに怖い思いはさせられないからな |
ヴェイグ | 助けたい人はそれぞれいる。だからこそ、その人達のために元の世界を取り戻す |
ヴェイグ | …クレアはオレの迎えをずっと待っているからな |
エリーゼ | 大切な人のためにわたし達は戦ってきました。だから絶対みんなと一緒に… |
ティポ | 元の世界を取り戻すんだ―! |
ゼロス | へっ。涼しい夜だってのに、急に熱くなっちまったな~ |
スタン | そんな事言って、ゼロスもあいつにはもう負けられないだろ? |
ゼロス | あー、お前も相変わらず熱い奴だな。でもまあ、今回ばかりは俺さまも、クールな美男子じゃいられねーわ |
ゼロス | …やられっぱなしは性に合わねえ。とっとと片付けて、元の世界を取り戻そうぜ |
スタン | ああ!俺達なら、今度こそ勝てるさ! |
カイル | きっと大丈夫ですよ!今度はオレ達だっているんですから!それに… |
カイル | 父さんみたいな英雄になるなら、ラザリスみたいな奴に負けられないですから! |
ジュード | カイルの言う通りだ。何とか、ミラを助ける事は出来たけど… |
ジュード | 記憶を上書きして…人の生き方を捻じ曲げてしまうラザリスは許せないよ |
レイヴン | ま、ありゃあ気分悪いからね。どの道、ここまで来ちゃったからには負けられないし… |
レイヴン | 若人に当てられて世界を取り戻すってのも、悪くないわ |
カイル | はい!リアラもソフィも…そして世界も!オレ達が絶対取り戻しましょう! |
ベルベット | そうね…理由は違っても、目的はみんな一緒。一刻も早く、この世界を元に戻す |
ベルベット | そのためなら…ラザリスだろうが、ヴァンだろうが、まとめてなぎ払うまでよ…! |
コレット | ラザリスの事…私は、みんなみたいにまだ答えを出せない… |
コレット | でも、ラザリスと向き合うにはとにかく特異点の修復を止めないと!まずはそこからだよね! |
ゼロス | おうよ!…さーて、それじゃそろそろ寝るとしますか |
ジュード | そうだね。明日も早いし、今日はもう身体を休めよう |
エリーゼ | わたし、レイアに部屋の場所を聞いてきます |
ティア | それなら、私も一緒に行くわ。お休みなさい、みんな |
ベルベット | … |
| キィ… |
スレイ | …?ベルベット? |
ミクリオ | よし、明日の朝にここに集合だな。…って、スレイ。どこに行くんだ? |
スレイ | ちょっと夜風に当たってくる。すぐに戻るから、先に寝ててくれ |
scene2 | 決意の形 |
スレイ | 多分、こっちに来たと思ったけど…。…ああ、やっぱりいた |
ベルベット | スレイ…。何か用? |
スレイ | 君が外に出た時、妙に険しい顔をしてたから |
スレイ | どうかしたのかなって |
ベルベット | …別に |
スレイ | … |
| |
スレイ | 明日…全てが終わったら、やっぱり復讐の旅に戻るの? |
ベルベット | 当然よ。あの子の無念は必ず晴らすわ |
ベルベット | それだけが、あたしのいる理由なんだから |
スレイ | …そっか |
ベルベット | そう言うあんたはどうなの? |
ベルベット | 元の世界を取り戻してその後、何をしたいの? |
スレイ | オレ?オレは世界を巡るつもりだよ |
スレイ | オレは導師として元の…みんなの暮らす世界を守りたい |
スレイ | そのために世界を旅して…行った事のない場所や、会った事のない人に会ってみる |
ベルベット | 漠然とした話ね… |
スレイ | うーん、そうかな…あ、じゃあこういうのは?「元の世界で、改めてみんなに会う」 |
ベルベット | … |
スレイ | こんな状況だけど、みんなと会えたのは嬉しいからさ。最近は、そんな事も考えてるんだ |
ベルベット | …あんた、物好きね |
スレイ | そんな事ないよ。それにこの中には、勿論ベルベットだって入ってる |
スレイ | 君はオレ達の仲間だ、きっと会いに行くよ |
ベルベット | あたしに? |
スレイ | ああ。いつか、きっと |
| |
ベルベット | …… |
ベルベット | それはないわ |
スレイ | …! |
ベルベット | 元の世界に戻れば、あたしとあんたの道は正反対よ |
ベルベット | あたしは人を殺す復讐の道、あんたは人を助ける救世の道… |
ベルベット | …決して交わる事はない。あんただって、そのくらいわかっているはずでしょ |
スレイ | …… |
スレイ | ……わかってる。多分…そう、なんだと思う |
ベルベット | … |
スレイ | … |
ベルベット | でも…「この世界」では、違う |
スレイ | え…? |
ベルベット | まるで違うはずなのに、あたし達は今同じ道を歩いてる |
ベルベット | 仲間、なんて言い方をするつもりはないけれど… |
ベルベット | 明日の戦いは、あんたに背中を預けるわ、スレイ |
スレイ | ベルベット… |
スレイ | …ああ、任せて! |
スレイ | 一緒に世界を取り戻そう |
ベルベット | …ええ |
スレイ | …それじゃ、オレ戻るよ。ベルベットもあんまり遅くならないように |
スレイ | おやすみ |
ベルベット | …おやすみ |
ベルベット | 待っていて、ラフィ。仇をとるまで、あたしは戦い抜くから…! |
| |
スレイ | 全員、いるよな? |
ミクリオ | ああ、後はレイアを待って、出発するだけだ |
ジュード | 結局、巻き込む形になっちゃったな… |
レイア | 何言ってんの! |
ジュード | わっ…!!レ、レイア! |
レイア | 記憶を取り戻した後、私だって頑張ってたんだからね!そんな事気にしなくていいの! |
レイア | 帝都の案内は、ばっちりしてあげるから! |
ジュード | うん…わかってる。お願いするよ。これがこの世界での最後の戦いだもんね |
レイヴン | んじゃ、準備完了って事でいいわね。目的は昨日確認した通り |
コレット | まず一番に、特異点の修復を阻止、だね |
カイル | それから、ラザリス達を倒して…! |
スレイ | 世界を取り戻そう! |
ベルベット | 行くわよ。帝都…シャングレイスへ! |
Name | Dialogue |
scene1 | 残された刻 |
ジュード | …この辺りなら大丈夫かな。みんな、こっちだよ |
ゼロス | やれやれ…。帝都に着いたはいいけどよ、これじゃまるでコソ泥だぜ |
ルドガー | 人目に付くだけでも危険だからな。仕方がないさ |
レイヴン | …そうねえ、レイアちゃんに聞いてた通りかなり警戒されてるわ。ほら、あれ… |
| |
見回りの男1 | おい、咎人はいたか? |
見回りの男2 | いいや。ただ、宰相様の話じゃもう帝都に来ててもおかしくないとよ |
見回りの男1 | よーし…!ラザリス様の命を狙う罰当たりめ、絶対に捕まえてやる…! |
| |
カイル | 街の人達、めちゃくちゃ殺気立ってますね…! |
エリーゼ | …あの人達は、有志の見回り…なんですよね? |
ティポ | みんな、目がギラギラしてるよー |
ジュード | …うん。ラザリスが狙われてるのは街中に知れ渡ってるみたいだ |
ヴェイグ | 咎人とばれたら、最悪の場合…強行突破も有り得るか |
コレット | …やっぱり街の人達とも戦うんだね。白き獅子の人達とだって、ほんとは戦いたくないのに… |
スタン | だから、そうならないように人目は避けたいって事だよな |
ミクリオ | そうだね。やはり、この人数で動くと咎人とばれる可能性が高いと思う |
ミクリオ | 道中で話した通り、三組に分かれよう |
スレイ | まずはオレとミクリオ、それにコレットとゼロスの組だな |
レイヴン | おっさんの組は、少年とスタンとヴェイグ。何とまあ、花がない組み合わせよ |
ジュード | 僕達は…ベルベットに、エリーゼとティポ。それに、ティアとルドガー… |
ジュード | あと、レイアも僕達と一緒でいいよね? |
レイア | 勿論! |
レイア | ──っとと…大声禁物…! |
ゼロス | 三組で別々に街を進んで宮殿を目指すってわけだ。とにかく目立つな、が合言葉だな |
コレット | 合流場所は宮殿前でいいんだよね? |
ミクリオ | ああ。三組が揃った時点で突入する |
ルドガー | でも、どうやって突入するんだ?人目につかない道があればいいが… |
ティア | 隠し通路…もあるけど、この状況で使うには危険だと思うわ。兄さんが何か対策をとっているはずよ |
ベルベット | 同じ手は通用しないって事ね。まあ、当然か… |
ミクリオ | …他にも道はあるかもしれないが、まずは宮殿前に行く事にしよう |
ミクリオ | 中に入る方法は、その時の状況を見て考えるしかない |
ルドガー | そうだな…ここで話してても結論は出ないか |
ベルベット | あとはラザリスの居場所ね |
ベルベット | ティアの話じゃ宮殿の上層部って話だったけど…間違いないの? |
ティア | ええ。私が宮殿にいた頃…ラザリスと兄さんしか入れない階層があったわ |
ティア | いるとしたら、あそこしかない。宮殿の中を駆け上がる形になるわね |
カイル | 特異点の修復は、絶対に止めさせなきゃ…! |
ゼロス | …でもよ、特異点の修復って、どうやって止めりゃいいんだ?ラザリスを倒しちまえば終わりか? |
スレイ | それはわからないけど…。宮殿に結界まで張ったのは、邪魔をされたくないからだと思う |
ミクリオ | ああ。それほどまでに修復に集中しなければならないか、あるいは… |
レイヴン | 大掛かりな装置を使ってるのかもね。邪魔者にそれを壊されちゃ、おしまいとか? |
スタン | 特異点を修復する装置か。本当にそれがあるなら、わかりやすいですね |
ジュード | いずれにしても、ラザリスの元にたどり着く事が先決だよ |
ジュード | …僕達の動きが知られている以上、ラザリスも特異点の修復を急ぐはずだ |
エリーゼ | はい…!時間との勝負、です…! |
ティポ | 早く行こー! |
ジュード | それじゃあみんな、宮殿前で会おう |
scene2 | 残された刻 |
ラザリス | …忌々しい特異点も、あと少しで… |
ラザリス | もうすぐだ…。もうすぐ…僕の世界が完成する |
ラザリス | そうすれば…やっと、僕は── |
| |
カイル | 思ったよりは、すんなり進めてますね |
ヴェイグ | ああ…だが、油断は禁物だ。怪しまれる前に、ここを抜けよう |
レイヴン | そうね、この分なら宮殿に一番乗り出来るんじゃない? |
カイル | 宮殿…。いよいよ、ですね |
カイル | あそこにはリアラとソフィもいるんだ… |
スタン | そうだったな…。前に捕まったところを見た時は、助けられなかったけど… |
カイル | はい。絶対ラザリスを止めて、二人を今度こそ助けます! |
スタン | ああ、俺達も力を貸すから安心してくれよな! |
カイル | …はい! |
ヴェイグ | …待て |
カイル | ヴェイグさん? |
ヴェイグ | 何か…妙な感じがしないか? |
スタン | 誰かに見られているのか?おかしいな、気配はないぞ |
ヴェイグ | いや、そうじゃない。…空気が震えているような── |
| |
| コオオオオオッ……! |
| |
スタン | うっ…!なっ…何だ、この光!? |
カイル | 空の様子が変わってる…!これも、ラザリスの仕業!? |
レイヴン | 攻撃を受けた感じはないけど…妙な事になってるのは間違いないね |
レイヴン | この空の様子は異常だわ…。おっさんこんなの初めて見るし |
スタン | 一体、何がどうなってるんだ? |
ハロルド | これは、まずい事になったわね |
カイル | うん…。何かよくない事が起こって… |
ハロルド | … |
カイル | ──うわあっ!?ハロルド!? |
リオン | …相変わらず騒々しい奴だ。街の人間に怪しまれるだろう |
スタン | リオンも…!二人共、どうしてここに? |
ハロルド | どうしてって、単純な話よ |
ハロルド | 三つの光の柱が消えたんだからあんた達は当然、帝都を目指すでしょ? |
ハロルド | だから、ちょっと前から帝都であんた達の事待ってたの。手伝ってあげようと思ってね |
リオン | …この事態だ。お前達だけには任せられないからな |
リオン | 僕達の方でも帝都の状況を探っていたわけだ |
ヴェイグ | そうか…助かる |
カイル | ねえ、ハロルド。あの空が何なのかわかる? |
ハロルド | そうねえ。まずは天文と気象の見地から説明を… |
レイヴン | ちょーっと待った。ここは一つ、手短に… |
ハロルド | あ、そう?それじゃあ簡単に言ってあげる |
ハロルド | あの空の様子は、世界が完全になろうとしてる証ね。特異点修復の影響よ |
スタン | まさか、ラザリスはもう修復を…! |
ハロルド | 話は最後まで聞く! |
ハロルド | …歪みを直すだけとはいえ、ラザリスでもそう簡単には出来る事じゃないの |
ハロルド | 今頃、人知を超えた莫大な力があの宮殿の中に渦巻いてるはずよ |
ハロルド | つまり、それが外気に影響を及ぼしてこの歪んだ空を生み出してると推測するわ |
レイヴン | ふうむ…。その推測が正しければまだ特異点の修復は終わってないって事? |
ハロルド | その通りよ。おそらくだけど、猶予はあるわ |
リオン | …もっとも、時間はほとんどないと見ていいだろう |
ハロルド | そうね。これまでの観測でも、小規模な世界の歪みは確認してた |
ハロルド | でも今回みたいな現象は初めてよ。いよいよ本格的にヤバいって事は間違いない |
ヴェイグ | …この機会を逃せばもう後はないという事だな |
ハロルド | ええ。特異点の修復はもう、いつ終わってもおかしくないわね |
スタン | わかった。いろいろ教えてくれて、ありがとう |
レイヴン | お二人さんはこの後どうするつもり? |
カイル | ハロルドとリオンさんも一緒に… |
ハロルド | ああ、それなんだけど、私達は別行動を取るわ |
リオン | 宮殿に向かっているのは、お前達だけじゃないだろう |
ヴェイグ | ああ。出来るだけ目立たないよう、三組に分かれて動いている |
ハロルド | それなら、このまま少人数で行きなさいな |
ハロルド | 私とリオンはもう少し辺りを調べてみるわ |
ハロルド | 他の仲間も、手伝えるかもしれないしね |
カイル | そっか…。じゃあ、オレ達は宮殿に行くよ。二人も気を付けて |
ハロルド | ちょい待ち。…あんた達に一応伝えとくわ |
カイル | 何? |
| |
ハロルド | ヴァンによるとこれまでに捕まっていた咎人の問題は解決したらしいわよ |
カイル | えっ…! |
| |
リオン | …光の柱が消えた後、ヴァンが民衆を落ち着かせるために演説をした |
リオン | その時、確かにそう言っていたな |
ハロルド | カイル、あんた核を壊しに行く前、リアラ達が目の前で捕まったって言ってたわね |
ハロルド | …解決したってどういう事かわかる? |
レイヴン | もしかしたら…救済されたって事かもね |
カイル | それって!? |
ハロルド | 救済って言うのは? |
カイル | …晶化の事だよ。多分、二人はもう晶化させられたんだ |
カイル | くそっ、オレがもっと早く二人を助けていれば… |
スタン | カイル、まだ… |
カイル | …大丈夫です、スタンさん |
カイル | オレが何とかしてみせます。世界を取り戻せば二人にまた会えるはずですから |
スタン | …ああ、そうだな |
ヴェイグ | … |
ハロルド | …まあ、安心しなさい。こっちも出来る限りの事はするわ |
リオン | 早く行くぞ。いつまでもここで立ち話は出来ない |
リオン | 僕も世界は取り戻したいからな |
スタン | ああ!そっちも気を付けてくれ |
ヴェイグ | …大丈夫か? |
カイル | そりゃ…辛いです |
カイル | …でも、へこたれるつもりはありませんよ |
カイル | リアラ達は、オレを信じて庇ってくれたんです |
カイル | だったら、今やるべきは悲しむ事じゃない |
カイル | 晶化された人も、記憶を書き換えられた人も…みんなオレが助けるんです! |
カイル | それこそが、信じてもらったオレのやるべき事です! |
ヴェイグ | そうか…。愚問だったな。忘れてくれ |
スタン | はは…!カイルが言うと、絶対出来るって気がしてくるな! |
レイヴン | …そーね。能天気なんだか、心強いんだか…。不思議な少年だわ |
レイヴン | …とはいえ、そのお蔭でユーリに借りを返せたのも事実か |
レイヴン | 今度は世界に恩を売るってのも、悪くないわね。全速力で行こうじゃないの、少年 |
カイル | …はいっ!行きましょう!宮殿はすぐそこです! |
scene1 | 苦渋の道 |
ジュード | この空…戻る気配がないね。やっぱり、ラザリスの仕業かな? |
ルドガー | 他に心当たりもないし、きっとそうなんだろう |
ベルベット | …何のつもりかはわからないけど、気にしていて作戦に遅れが出たら意味ないわ |
ティア | そうね。とにかく先を急ぎましょう |
エリーゼ | はい。次は…あっちの通りを行きましょう。誰もいないみたいですし… |
レイア | じゃ、わたしの後について来て。誰か来たら、教えるから── |
??? | レイアさん…?帝都に来ていたんですね。…それにあなたは |
ジュード | …!君はすず…! |
すず | …ジュードさん |
エリーゼ | い、いつの間に…。さっきまで、確かに人の気配はありませんでした…! |
すず | 私、忍者ですから。…!! |
ベルベット | … |
すず | …エステルさん、こっちへ来てください! |
レイア | ま、待ってすず!わたし達、今ちょっと急いでて… |
エステル | すず、どうしたんです? |
ジュード | え、エステル…。久しぶり、だね |
エステル | あ、レイアに、ジュード!帝都にいらしてたんですね! |
エステル | それに、ルドガーも…!お久しぶりです…!そちらの方達は、お友達ですか? |
エリーゼ | …あの… |
ティア | 悪いけどちょっと急いでいて…。自己紹介はまた今度でいいかしら? |
エステル | あ、すいません…。引き止めてしまって… |
エステル | …あれ?でも、あなたはどこかで… |
ベルベット | … |
すず | … |
ベルベット | …そこら中を旅してるから、どこかで見かけたのかもね |
エステル | …そう、ですか?でも、つい最近見たような… |
ルドガー | …エステル。再会出来たのは嬉しいけど、今は失礼するよ |
レイア | そ、そうそう!今度ゆっくり紹介するからさ!また── |
すず | いえ。それは出来ません |
エステル | どうしたんですか、すず?怖い顔をして… |
| |
すず | エステルさん。この女性の格好…手配書のものと一致しています |
エリーゼ | 手配書…! |
| |
すず | この人は、ベルベット・クラウ…!ラザリス様の命を狙った咎人です! |
すず | それに他の人達も、手配書に書いてある特徴に似ている人ばかり… |
ティア | …いつの間にか私達の手配書も回っていたのね |
すず | …レイアさんが一緒にいるのに、そんなはずはないと思いましたが…証拠が出揃ってます |
すず | 答えてください。どうして咎人とジュードさん達が一緒にいるんですか? |
ジュード | それは…! |
エステル | レイアやジュードが…咎人だって言うんですか? |
エステル | そ…そんなの、何かの誤解です!…そうでしょう、レイア? |
レイア | … |
エステル | …そう…なんですよね?ねえ、ジュード? |
ジュード | … |
エステル | …どうして、答えてくれないんですか… |
すず | …あなた達を捕えます。大人しくしていただけるのであれば、手荒な事は… |
ジュード | …ごめん。それは出来ないよ |
ジュード | 僕達は、この先に行かなくちゃならないから |
エステル | やめてください、ジュード!この先は…ラザリス様の宮殿です! |
エステル | これじゃやっぱり、あなた達まで…! |
見回りの男 | おい、お前達!騒がしいけど、何かあったのか!? |
エステル | あっ…え、ええっと…この人達は… |
ルドガー | まずいな。人が集まってきた… |
ベルベット | やるしかないなら、やるだけよ |
レイア | …待って!ここはわたしが引き受けるよ。みんなは先に行って! |
ジュード | レイア…! |
レイア | こんな風になっちゃったけど、ファミリーのリーダーだもん。これはわたしの役目だよ |
ジュード | …わかった。行こう、みんな! |
すず | 待ってください!あなた達を逃がすわけには…! |
レイア | 行かせないよ、すず! |
エステル | レイア…!一体…どうしてしまったんです!? |
レイア | 本当に…ごめんね |
レイア | でも、ここは通せないんだ |
見回りの男 | ロランドファミリーがもめてると思ったら、手配書で見た奴らだ!みんなで囲め! |
見回りの女 | ここは通さないわよ! |
ティア | くっ…!これじゃ、もう言い逃れは出来ないわね…! |
エリーゼ | 完全に、囲まれてます… |
ティポ | 捕まっちゃうよー! |
見回りの男1 | おい、そこの女はラザリス様を襲った咎人だぞ… |
見回りの男2 | ここまで潜り込んでいたのか…!一体、何を企んでる!? |
ジュード | くっ…この人達と戦うわけにはいかないけど…抜け道が完全に塞がれてる |
見回りの男1 | 動くな、大人しくしろ! |
見回りの女 | この先で、何をするつもりなの…?あの方の身には、指一本だって触れさせないから! |
見回りの男2 | そうだ…またラザリス様を襲うつもりだったんだろう!?そんな事、俺達がさせないぞ! |
ティア | 待って!お願いだから、私達の話を聞いて! |
見回りの男1 | うるさい!ラザリス様の言葉は絶対なんだ。お前達の言葉なんて聞く気はない |
見回りの男2 | お前達を捕まえて、兵に引き渡してやる! |
エリーゼ | お願いです…!ここを通してください |
見回りの男1 | やっぱりだ…!やっぱりラザリス様を…!くそっ、これでも…くらえ! |
| ヒュッ! |
エリーゼ | きゃっ…! |
ジュード | 石!?くっ── |
| ガッ! |
ジュード | エリーゼ!大丈夫!? |
エリーゼ | はい…助かりました、ジュード…! |
ティポ | 何するんだよー! |
ルドガー | やめろ!こんな子どもに、石を投げるのか!? |
見回りの男2 | うるさい!みんな早く捕まえるぞ! |
ティア | …ラザリスへの妄信は思った以上みたいね |
ジュード | …うん。僕達はどうあっても悪なんだ |
ベルベット | 全く… |
| チャキン! |
見回りの男1 | …っ!お、お前!やるってのか! |
ベルベット | 笑わせないで。あんた達なんか相手にならないわ |
見回りの男1 | なっ…何だと!? |
ベルベット | …見てられないのよ。顔を歪ませて、口汚く罵って、挙句子どもに石まで投げる… |
ベルベット | 憎しみのない世界とやらは、どこにいったわけ? |
見回りの女 | …憎しみ?よくわからないけど、私達はラザリス様を守りたいだけよ! |
ベルベット | 誰かを守るためなら、何の疑問もなく人を傷つける… |
ベルベット | それが正しいとされるなら、そんな世界、歪んでる…! |
ベルベット | …だから── |
ジュード | …! |
ベルベット | ──この歪んだ世界は、あたしが壊す!!岩斬滅砕陣! |
| ドゴォオ!! |
見回りの男1 | なっ…地面が、吹っ飛んだ!? |
ジュード | みんな、今の内だ!突っ切るよ! |
見回りの男1 | ま、待て…!ごほっ、ごほっ…!くそ、土煙で目が…! |
| |
ベルベット | まいたみたいね。…ちゃんと反応してくれてよかったわ |
ジュード | もう何度も一緒に戦ってるからね |
ルドガー | しかし…ラザリスへの妄信があれほどとは… |
エリーゼ | わかってたつもりでしたけど…。いざ目にしてみると…辛いです |
ベルベット | それだけラザリス達のやってる事が異常なのよ。さ、行くわよ |
ジュード | うん。早く、世界を元に戻さないと…! |
スレイ | …何だか街が騒がしくなってきたな |
ミクリオ | ああ、あっちはジュード達の進んだ辺りだね… |
コレット | みんな、だいじょぶかな…? |
スレイ | それでも今は先に進むしかないよ。上手くやってくれてるはずと信じよう |
ゼロス | それっきゃねーな。こっちも状況は同じだ。いつ邪魔が入るかわかんねえ |
ゼロス | …っと。噂をすればって奴か? |
??? | …止まってください |
ゼロス | …なかなかキリッとした可愛い子ちゃんだが、ちょーっと急いでるのよねー |
??? | 私は話をしに来たんです |
スレイ | ミクリオ、彼女は… |
ミクリオ | わかってる…。久しぶりだね、エレノア |
エレノア | はい。本当に…お久しぶりです |
エレノア | まさか、このようなところで出会ってしまうなんて… |
scene2 | 苦渋の道 |
ミクリオ | レイザベールから警護に来たんだな、エレノア |
エレノア | … |
ミクリオ | だったら話をしている暇はない…そうじゃないか? |
エレノア | …はい。確かに私がここにいる理由はラザリス様を守るためです |
エレノア | だからこそ、はっきりさせたい事があるんです |
エレノア | …以前、帝都から逃げ出した咎人と手引きした者の情報が届きました |
コレット | えっ、手配書が出回ってるって事? |
エレノア | ええ、そこにはおおよその年齢に背格好、髪の色も書かれていました |
エレノア | 率直に言います。ミクリオ、あなたには咎人の疑いがかけられています |
ミクリオ | … |
エレノア | その上で問います。あなた達は何をしにここまで来たのですか? |
ミクリオ | … |
エレノア | 私は…ミクリオが咎人だなんて信じたくはありません |
エレノア | だから、この緊急事態にあなたもラザリス様の警護に来たんですよね? |
ミクリオ | … |
エレノア | 答えてください…ミクリオ! |
ミクリオ | …エレノア。僕達には、大事な目的がある |
ミクリオ | そのために、宮殿まで行かなければならない |
ミクリオ | …僕に言えるのは、それだけだ |
エレノア | 目的…ですか |
エレノア | …それでは説明になっていません。その目的とは何ですか? |
ミクリオ | … |
エレノア | もう一度聞きます。…咎人ではないんですよね? |
ミクリオ | …君に嘘はつけないな |
ミクリオ | 僕達は…咎人だ |
エレノア | …!わかりました…なら…! |
| |
| チャキン! |
| |
ミクリオ | 僕達に戦う意思はない。武器を収めてくれ、エレノア |
ゼロス | それにこの人数差だ。捕まえるにしても応援を呼びに行った方がいいぜ? |
エレノア | その隙に逃げるのでしょう?私を見くびらないでください |
エレノア | 戦う意思がないのなら…。黙って倒されてもらいますよ…! |
ゼロス | …しゃーねーか |
コレット | やっぱり…戦いになっちゃうんだね… |
ミクリオ | ロイドの時と一緒だよ。これが、この世界の歪みなんだ |
スレイ | 記憶を捻じ曲げられた人と戦うのは…やっぱり慣れないな |
ミクリオ | ああ、僕だって戦いたくはない… |
ミクリオ | だが、彼女の意志の強さはよく知ってる。…避けられないさ |
エレノア | やる気になったみたいですね |
エレノア | あなたが咎人になったというのなら…せめて、私の手で捕まえます…! |
エレノア | 行きますよ…ミクリオ!! |
scene3 | 苦渋の道 |
ミクリオ | もう限界だろう、エレノア!武器を収めてくれ |
エレノア | まだまだ…!私はまだ戦えます…! |
ミクリオ | あくまでも戦うつもりなんだね…。なら…ツインフロウ! |
エレノア | なっ…!! |
| バシュ! |
ミクリオ | 僕らの勝ちだ、エレノア |
エレノア | 今の攻撃…何故、槍だけを…? |
エレノア | どうして…?その気になれば、私にとどめをさす事だって簡単だったはず…! |
スレイ | そんな事、君ならよくわかるはずだ |
スレイ | 君を傷つけたくないんだよ。…ミクリオは |
エレノア | … |
ミクリオ | 聞いてくれ、エレノア。さっきも言った通り、僕にはやるべき事がある |
ミクリオ | それは…何に代えても成し遂げないとならない事だ |
ミクリオ | 咎人となった僕を、信じてくれとは言わないよ |
ミクリオ | だが、ここは黙って通してくれないか |
ミクリオ | …友人として、お願いする |
エレノア | …友人…だからこそです |
ミクリオ | …! |
エレノア | あなたには大きな恩があります。それに報いるためにも、私は…かつてのあなたを取り戻したい |
コレット | ミクリオは何も変わってないよ…。友達なら、あなただってわかってるはずだよね? |
エレノア | …ええ…わかっています |
エレノア | わかっているんです…! |
ミクリオ | エレノア…? |
エレノア | ラザリス様に、害をなそうとしているのは明白なのに…。それ以外は… |
エレノア | それ以外は何も変わってない…! |
エレノア | そんなあなたと戦うなんて、嫌に決まっています! |
エレノア | でも…でも!ラザリス様を狙うあなたは間違っているはずなんです…! |
エレノア | だから友人の私が、ミクリオを間違った道に行かせないように…。だから、私は── |
ミクリオ | もういい、エレノア |
エレノア | …っ |
ミクリオ | 僕達は先に進むよ。止めたいのなら、その槍を拾ってくれ |
ミクリオ | 僕は君とは戦いたくない。けど、後は君の判断に任せるよ |
エレノア | 私は…私は…っ! |
ミクリオ | …行こう、みんな |
ミクリオ | エレノア…苦しませてすまない |
エレノア | …ここで槍を拾うのが正しい事のはずなのに!私はどうしてっ… |
ミクリオ | … |
ゼロス | いいのか?あの可愛い子ちゃんを置いて行って? |
ミクリオ | もう時間がない。僕の都合でこれ以上、足止めされるわけにはいかないだろう |
コレット | あの子…動けないみたい |
スレイ | ミクリオの事を想っているからこそ、ラザリスへの忠誠が邪魔して板挟みになってるんだ… |
ミクリオ | 記憶の改変…。今までも随分苦労してきたけど、今は腹が立って仕方がないよ |
ミクリオ | こんな世界は…許せない |
ミクリオ | 宮殿へ急ごう。みんなが待ってる |
スレイ | ああ…! |
scene1 | 世界の中心へ |
ルドガー | …この道も見張られている。引き返すか? |
見回りの男 | こっちだ、こっちへ逃げたぞ! |
エリーゼ | 駄目です…!後ろからも来てます…! |
ベルベット | もう宮殿は見えてる。突っ切る方が早いわ |
ジュード | 仕方ないね…。あまり戦いたくはないけど── |
カイル | …みんな、こっちこっち! |
ジュード | …あっ、カイル! |
レイヴン | おっさんもいるよ |
レイヴン | 向こうに細い裏路地があってね。案内するから、付いて来な |
カイル | 急いで!見つかる前に、街の人達をやりすごさないと! |
| |
ジュード | …ふう。助かったよ、二人共 |
カイル | 間に合ってよかった!なかなか来ないから、みんな心配してたんだ |
ティア | みんなって事は…スレイ達も合流してるの? |
レイヴン | おたくらの少し前にね。人目に付かないとこで待ってたのよ |
カイル | 誰かが追われてるみたいだったから、レイヴンさんと一緒に見に来たんだ |
カイル | みんな、この先で待ってるよ |
| |
ジュード | みんな…。ごめん、遅くなったみたいだね |
ゼロス | お前らも…ってあれ?…レイアちゃんがいなくね? |
ジュード | …レイアはエステルとすずから僕達を逃がしてくれたんだ |
ジュード | ロランドファミリーのリーダーである自分の役目だって言ってね |
コレット | そっか…。レイアらしいね |
ゼロス | しっかし、お前ら随分派手に暴れたみたいじゃねえか?全く、ひやひやしたぜ |
ティア | 他に方法がなかったの。どうにか傷つけないようにして切り抜ける事は出来たけど… |
スレイ | はは…あちこちで騒ぎを起こして、オレ達、何だか悪役みたいだな |
ベルベット | …何のんきな事言ってんのよ |
ヴェイグ | …とにかく、全員合流出来たな |
ヴェイグ | だが、喜んでいる時間はない |
ミクリオ | ああ、宮殿に突入する前にいろいろと確認したい事がある── |
ジュード | …なるほどね。この空の異変は、そういう事だったんだ |
ゼロス | そう聞くとますます不気味だぜ。とっととラザリスを止めねえとな |
ヴェイグ | 肝心の宮殿の突入方法だが… |
ミクリオ | 本当は忍び込むのが一番いいんだ。だが、隠し通路はティアの言うように罠を張られている可能性が高い |
ジュード | 何より他の道を探す時間も惜しい。探している間に特異点が修復されるかもしれないからね |
ジュード | そうなるとやっぱり正面の道を通るのが最善だよ |
レイヴン | …ただねえ。そう簡単に通してくれそうにないのよ |
レイヴン | 宮殿前は警備でぎっちり。特に宮殿に続く大扉の前は、蟻一匹通さないって感じね |
カイル | ここまで来たんだ…!だからって、引き返すわけにはいかないですよ! |
スタン | ああ、止まってる暇はないんだ!正面から突破しよう! |
レイヴン | …ま、そうなるわね |
ベルベット | とっくに覚悟は決めてるわ |
ベルベット | ──宮殿前に出るわよ、構えて! |
| チャキン! |
| |
神兵1 | 来たぞ!咎人共だ! |
スレイ | やるぞ、みんな! |
scene2 | 世界の中心へ |
ルドガー | みんな、立ち止まるな!とにかく前に進むんだ! |
神兵1 | 通しはしない! |
| ギィイン! |
ルドガー | くっ…! |
ティア | ルドガー、下がって!──ホーリーランス! |
神兵1 | おい、もっと応援を呼べ!咎人を通すな! |
ジュード | どんどん兵が集まってくる! |
ヴェイグ | 個々の力も相当なものだ…!これ以上、集まるとまずい |
レイヴン | その前に振り切りたいところだけど一歩進むだけでも一苦労…! |
ミクリオ | まずいな、時間がないのに。このままじゃ…! |
エリーゼ | いえ、諦めちゃ駄目です!──リベールイグニッション! |
| ズオオオオッ! |
神兵1 | ぐうっ!? |
エリーゼ | みんな、今です!先へ行ってください! |
ジュード | 一人でここに残る気!?無茶だよ、エリーゼ! |
エリーゼ | 無茶なのはわかってます…!でも、このままじゃ誰も助けられません…! |
ティポ | ジュード君ー!ラザリスを止めてー! |
エリーゼ | そうです…!一人でも多く、ラザリスのところへ── |
神兵2 | あの子どもか…!もう撃たせんぞ! |
エリーゼ | …っ! |
ヴェイグ | ──させん!絶氷刃! |
| パキィン! |
神兵2 | き、貴様…! |
エリーゼ | ヴェイグ…! |
ヴェイグ | エリーゼ、オレが攻撃を防ぐ |
ヴェイグ | お前達は先に行ってくれ…! |
スレイ | いや、二人を置いて行けない! |
ヴェイグ | 違う。任せてくれ、と言っているんだ |
ヴェイグ | オレ達がいる限り、こいつらを追わせはしない |
ヴェイグ | ──そうだろう、エリーゼ? |
エリーゼ | …はい!行ってください、みんな! |
ベルベット | …進むわよ! |
ジュード | …わかった!通り抜けるまででいいから、無茶しないでよ、二人共! |
神兵3 | おのれ、そうはさせるか…!──後衛部隊! |
神兵4 | 点火! |
ティア | ──大砲!? |
ティア | みんな伏せて! |
| ドオオオオンッ! |
ジュード | ぐうっ…!みんな、大丈夫!? |
ミクリオ | …ああ、直撃は避けた! |
ゼロス | くそっ、危ねえじゃねーか…!これをまた撃たせるわけにはいかねえな |
コレット | あっ…ゼロス!? |
神兵4 | ちっ…上手く避けたか。だが、二発目はそうはいかん…! |
ゼロス | ──おっと、させねーよ!サンダーブレード! |
| バシュウッ! |
神兵4 | ぬうっ…!? |
ゼロス | 後ろからこそこそ狙いやがって、卑怯な奴らだぜ! |
ゼロス | 今度は俺さまが相手だ。ありがたく思えよ? |
神兵3 | たった一人で何が出来── |
| ゴオオオオオオオッ!! |
神兵3 | なっ…何だ、この炎は!? |
スタン | 一人じゃないさ…俺もいる! |
ゼロス | おいおい、何ついて来ちゃってんのよ |
スタン | 一人で相手するのは大変だろ?ゼロスが術で牽制してくれたお蔭で、距離は詰めやすかったよ |
ゼロス | ったく…。ただでさえヴェイグに先越されてるってのに、これじゃ格好つかねえな~ |
スタン | 十分格好いいよ、ゼロスは |
ゼロス | 野郎に褒められてもな…。…ま、たまには悪くねえか |
神兵3 | 術に気をとられたあの一瞬で、ここまで距離を詰めて来るとは…!気を付けろ、こいつら手練れだぞ! |
ゼロス | へっ、案外見る目があるじゃねえの。ご期待に応えて、お前らにゃ二度と大砲は撃たせねえぜ |
スタン | …そういう事だな。ここは俺とゼロスが引き受ける!みんなは先に行ってくれ! |
カイル | …スタンさん! |
スタン | カイル、お前なら大丈夫だ!みんなと一緒に、ラザリスを止めてくれ! |
レイヴン | へっ、ああまで言われちゃ、万が一にも失敗出来ないじゃないの |
コレット | 行ってくるね、二人共! |
| |
スレイ | …みんな、扉が見えた! |
神兵5 | 咎人共を止めろ! |
神兵5 | どうせ扉は開かん!取り囲んで一網打尽だ! |
ティア | …わかってたけど、そう簡単には扉まで行けないみたいね |
レイヴン | 今の騒ぎを前にしても、扉の前を固めてる奴がいるわけね。冷静すぎて嫌になるわ |
ミクリオ | だが、みんなのお蔭で守りの一部が崩れてる。この隙に、どうにか…! |
ルドガー | …俺に任せてくれ |
ジュード | ルドガー? |
ルドガー | エリーゼ、ヴェイグ、ゼロス、スタン…!みんながここまで送ってくれたんだ |
ルドガー | その想い、無駄には出来ない! |
ルドガー | はああああああっ! |
神兵5 | なっ…何だ、あいつは!? |
ルドガー | みんな、そのまま走り続けるんだ!扉までの道は、俺が開く! |
神兵5 | ま、まずい…!来るぞ、奴の正面を固めて── |
ルドガー | 遅い! |
神兵5 | くっ…!こいつ、強い! |
ベルベット | …やるわね。連中の守りが崩れた!扉を開けるわよ! |
| |
ルドガー | 今だ、みんな!早く宮殿の中へ! |
ルドガー | ここは俺が守り抜く! |
ミクリオ | …すまない、頼む! |
ルドガー | 後ろの心配はしなくていい。だから…この先は任せるぞ、みんな |
ルドガー | エルとの約束…いや── |
ルドガー | 他のみんなの抱えてるもの全部、ここで託すぞ! |
ルドガー | 俺達の世界を…頼む! |
スレイ | 任せてくれ! |
ベルベット | 必ず、成し遂げるわ |
ベルベット | …だから、無事でいなさい。あんた達の犠牲の上、なんて後味が悪いわ |
ルドガー | …ああ!わかった!必ずまた、後で会おう! |
| |
ルドガー | …さてと後はここを守り切るだけだな |
エリーゼ | みんなが、ラザリスを倒すために…元の世界を取り戻すために…! |
ヴェイグ | オレ達は一歩も引かない! |
ゼロス | ここから先は…誰一人通さないぜ |
スタン | …さあ、来い!俺達が相手だ! |
scene1 | 書き換えられた日々 |
スレイ | くっ…わかってたけど、宮殿の中も神兵だらけだ! |
カイル | どいてくれ!お前らの相手をしてる暇はないんだ! |
| ギィイン! |
神兵1 | あの包囲網を突破して来るとは!しかし、我々が通しはしない! |
スレイ | 無理にでも通らせてもらう!オレ達を信じてくれたみんなのためにも…! |
ティア | そうね。止まってる暇はないわ。上の階を目指しましょう! |
神兵2 | 抜かせ!我らがそう簡単に行かせるか! |
ベルベット | あんた達の都合なんて、どうだっていいのよ! |
神兵2 | あくまで、抵抗するか… |
神兵1 | …総員、距離を取れ!手はず通りだ! |
コレット | …あ、あれ?下がっちゃったよ |
神兵1 | 咎人共、ここから先は通さん |
レイヴン | あらら…随分慎重になっちゃって。無暗に突っ込んで来てくれれば、もうちょい楽なんだけどねえ |
ティア | 恐らく…兄さんの指示ね。向こうにしてみれば、特異点修復さえ終わればいいんだから |
ミクリオ | まさか、修復が終わるまでここで時間を稼ぐつもりか? |
ベルベット | いちいちこいつらに付き合ってたら、キリがないわ。無理矢理にでも突破するわよ! |
スレイ | よし、ベルベットに続くぞ! |
神兵2 | くっ…!回り込んで進路を塞げ! |
ミクリオ | そうはさせない! |
コレット | えいっ! |
| バシュウッ! |
神兵2 | ぐああっ!! |
ティア | …!今の内よ! |
カイル | みんな、走って! |
神兵1 | くっ…待て! |
| |
ジュード | よし、包囲網を抜けた! |
神兵1 | 追え、追え―っ! |
コレット | でも、まだ追って来てるよ…! |
レイヴン | そりゃそうなるでしょうね…!ずっと追われてちゃまずいわ。おっさんの体力が心配、ってね |
カイル | あいつらを、どっかでまかないと! |
ティア | みんな、こっちよ! |
ベルベット | 当てがあるの? |
ティア | ええ。この辺りなら、私の庭みたいなものよ |
ティア | …こっちよ。この先に… |
| |
| キィ……ガチャン! |
| |
神兵1 | ちっ…どこに行った、咎人め |
神兵2 | 扉の閉まる音がした。この辺りに隠れているのは間違いない |
神兵1 | 手当たり次第に捜せ。もはや逃げられん、袋の鼠だ! |
| |
ティア | …どうやら、行ったみたい。みんな、全員いるわね? |
コレット | うん、だいじょぶだよ。ちょっと驚いちゃったけど |
ジュード | まさかあそこから隠し通路に入れるなんてね |
スレイ | あれは知らないとわからないな。ティアがいてくれて助かったよ |
ジュード | そうだね。よし、行こう |
scene2 | 書き換えられた日々 |
スレイ | 見通しはあまりよくないな…。みんな気を付けて進もう |
コレット | …神兵の人達には、まだ気付かれてないかな? |
スレイ | 一応、扉の前は塞いできた。少しは時間稼ぎになるはずだ |
ジュード | うん。今のところは静かだし、上手くまけたんじゃないかな |
ティア | …気は抜かないでね。ずっと追われながら戦うよりはいいけど── |
ティア | 前に言った通り、兄さんが罠を張っている可能性が高いわ |
ミクリオ | 実際、あの状況じゃ他に手はなかった。仕方がないさ |
レイヴン | せいぜい警戒するしかないねえ… |
レイヴン | …にしても、隠し通路がこんなところにもあったとはね |
ティア | …子どもの頃は、宮殿から外に出れなかったからこういう通路は格好の遊び場だったわ |
ティア | 急に時間が出来た時とか、こっそり部屋を抜け出して、それで… |
ティア | … |
コレット | どうしたの、ティア? |
ティア | …ああ、ごめんなさい。いろいろと思い出していたら、つい |
ティア | 私には確かにこの宮殿の記憶がある。探検したり、兄さんと一緒に遊んだりした記憶が… |
ティア | 勿論、この思い出は偽物だってわかってる…でも、どこか信じられない気持ちもあるのよ |
ティア | 植え付けられた記憶なのに…。確かに私の中に根を張っているのね… |
ミクリオ | エレノア…僕の友人も、ラザリスへの忠誠と感情の板挟みになっていたよ |
ジュード | ロランドファミリーのみんなもね… |
ジュード | それに、街の人達の様子もはっきり言って、異常だった |
コレット | 私達も記憶を取り戻せてなかったら、あんなふうだったかもしれないんだよね… |
コレット | みんなとも敵同士になってたのかな。元の世界の記憶を取り戻せて、ほんとによかったよ |
ベルベット | 元の世界の記憶、か…あたしは最初から持ってたわ |
スレイ | そういえばこの世界に来てからずっと、左腕がうずくって… |
ベルベット | ええ、もしかしたら… |
ベルベット | 記憶もこの左腕のせいか…。あたしの憎しみが強すぎて、消せなかったのかもね |
ジュード | ラザリスの世界を破るほどの力を持った左腕なんだし、有り得るかもしれないね |
レイヴン | おっと、そんな事言ってたら…そろそろ、出口じゃない? |
レイヴン | あの光の漏れてるとこでしょ?ティアちゃん |
ティア | ええ、そうよ |
ティア | あの扉の向こうに、見張りがいるはず… |
ベルベット | 飛び出して、一気に片付けるわ |
ベルベット | …行くわよ! |
| |
神兵1 | …む?なっ…咎人── |
スレイ | はあっ! |
| ドサッ… |
| |
ジュード | ──…ふう、何とかなったみたいだね |
ティア | でも、思っていたより見張りの兵は少なかったわ。…これは何か意図があるのかしら? |
レイヴン | 確かに、あの切れ者にしちゃ少し甘いかもね |
スレイ | とにかく、今は好都合だ。少しでも早く先に進めるなら、それに越した事はない |
ジュード | うん、急ごう。ティア、案内をお願い |
ティア | ええ、あそこが上の階への階段よ。だけど… |
| |
神兵2 | …!見つけたぞ!ラザリス様の命を狙う咎人共め! |
スレイ | 階段前は神兵が見張ってるか…。当然だよな |
ジュード | 戦いは避けたいところだけど、ここは行くしかない…! |
scene1 | 今、英雄として |
ミクリオ | あの神兵達、まだ追って来るようだね |
神兵1 | 咎人達を捜せ!こちらに逃げたはずだ! |
ジュード | …!その扉に入ろう! |
| |
コレット | …この部屋、ちょっと、雰囲気が違うみたい… |
ミクリオ | …随分広いな。儀礼用の大部屋だろうか |
レイヴン | …?いや、この床の紋様はどこかで… |
| |
| キンッ!キィィィィッ…! |
| |
ベルベット | …っ!この光は…!? |
レイヴン | …まずい!みんな、下がれ! |
カイル | えっ…うわあっ!! |
| キンッ!キンッ!キンッ! |
ジュード | な、何だ…!?うわああっ! |
| |
カイル | いてて…!何するんですかレイヴンさん!いきなり引っ張るなんて── |
レイヴン | いやいや、悪いね。でも…少年だけでも間に合ってよかったわ |
カイル | オレだけでも、って…他のみんなは? |
レイヴン | …部屋の様子を見てみなって |
カイル | …え!?み、みんな! |
スレイ | くっ…!ここまで来て罠にはまるなんて…! |
ミクリオ | まんまとやられたな…。あの一瞬で、僕達の身体を縛る術があるとは… |
レイヴン | 侵入者拘束用の罠よ。床の紋様が昔見たのとよく似てるし、間違いないわ |
ベルベット | ふん、こんなもの── |
レイヴン | あっ…!ちょ、ちょい待ち── |
| バチッ…バチチチッ!!! |
ベルベット | くっ…!?あああああっ!!! |
コレット | べ、ベルベット!今のは…!? |
レイヴン | やっぱりね…。ちょっとでも刺激を与えると、電流が流れるようになってんのよ |
ベルベット | あんたね…!そういうのはっ…先に言いなさい |
レイヴン | 言う前に暴れたでしょーが… |
レイヴン | 確か解除方法は… |
| |
神兵1 | …ここにいたか!観念しろ、咎人! |
カイル | 神兵…!追いついて来たのか! |
レイヴン | 全く…どいつもこいつも、人の話聞いてくんないんだから…! |
カイル | ここは…やるしかないですよ!増援なんか呼ばれたら、まとめてやられちゃいます! |
レイヴン | わかってるよ、少年!気は進まないけど…ちょっと眠っててもらおうか |
scene2 | 今、英雄として |
カイル | くっ…こいつら、強い…! |
神兵1 | 仲間を庇いながら戦えるほど、我らは甘くはない…!大人しく投降するのが身のためだ |
カイル | くそっ、勝手な事言いやがって…! |
レイヴン | 安い挑発に乗るんじゃないの。闇雲に突っ込んでも、返り討ちに遭うだけよ |
カイル | でも、このままだと、いずれ他の奴らに見つかっちゃいますよ! |
レイヴン | …そうねえ。考えがない事もないんだけど… |
カイル | 何でもいいです…!この状況を突破出来るなら! |
レイヴン | …この術の起点は床の紋様のはず。だから、あの紋様さえ崩せば拘束は解けるはずなのよ |
レイヴン | 本当は鍵になるところから一つずつ崩してくつもりだったんだけど…。こう邪魔が入ってちゃ、それも無理 |
レイヴン | となると…一か八か、紋様自体を粉々に壊すしかないわ |
カイル | じゃあ、すぐに…! |
レイヴン | ちょっと待った!話は最後まで聞きなって── |
神兵1 | 投降する気はないようだな。ならば…! |
| キーンッ |
レイヴン | くっ…と言っても、ゆっくり話す時間はないみたいね |
レイヴン | 少年、手っ取り早く言うと紋様を壊したら、状況が悪化するかもしれないのよ |
カイル | 悪化って…みんなを傷つけるかもしれないって事ですか? |
レイヴン | 傷つくだけならいいさ。もっと悪い結果になるかもしれない |
レイヴン | で、問題はそれでもやるかどうか… |
カイル | そんな…! |
ベルベット | …迷う必要はないわ!やりなさい! |
スレイ | そうだ!オレ達に構わず── |
| バチバチバチッ!! |
スレイ | ぐうっ…! |
カイル | み、みんな! |
スレイ | …大丈夫だ。オレ達に構わず、思い切りやってくれ! |
カイル | だ、だけど… |
神兵2 | 罠を解く時間など与えん! |
| ガキン! |
レイヴン | …っ!少年、悪いけどおっさん、神兵を抑えるのに手一杯! |
レイヴン | 少年の方が罠に近いし、迷っているところ悪いけど任せるわ |
カイル | …はい。レイヴンさんは、神兵を頼みます! |
神兵1 | 何をごちゃごちゃと…!はあっ!! |
レイヴン | ふっ! |
| ギィン!! |
神兵2 | 貴様…!一人で我々を相手にすると言うのか? |
レイヴン | 聞いてたでしょ。あんたら団体様の相手はおっさんだけ |
レイヴン | しばらくの間、世間話にでも付き合ってよ |
カイル | レイヴンさん、少しの間…お願いします! |
レイヴン | この人数相手にすんの、結構しんどいんだからね! |
レイヴン | 紋様が削れちまえばどこを攻撃してもいいはず…。さっさと済ませちまいな! |
カイル | これしか方法がないんだ…。行くぞっ…! |
カイル | 爆炎剣! |
| ギィイン! |
カイル | なっ…何だ!?弾かれた!? |
| バチバチバチッ!! |
ティア | ああっ…!! |
カイル | し、しまった!電撃が…! |
カイル | ごめん、みんな…!痛い思いをさせて…。やっぱりこの方法じゃ── |
ティア | あ…謝らないでいいわ。おそらく、紋様自体に防御術式がかかっているのよ…! |
カイル | …くっ!もっと強い力じゃないと駄目なのか…! |
カイル | …だけど、もしそれで失敗したらもっとみんなを傷つけるんじゃ… |
ベルベット | …あんたのさっきの攻撃じゃ、壊れるものも壊れないわ |
カイル | えっ… |
ティア | …カイル、私達の身体を気遣う事はないわ。さっきの攻撃は迷いがあった |
カイル | で、でもオレのせいでみんなを傷つけるかもって思ったら… |
ジュード | …カイル、僕達を信じてくれないかな |
カイル | 信じる? |
スレイ | こんな罠で、オレ達はやられたりしないって事だよ |
ミクリオ | ああ、だから思いきり攻撃してくれ! |
カイル | …!そっか、そうだよね…!オレ、やるよ |
カイル | …みんなを信じるんだ。次こそ、大丈夫 |
scene3 | 今、英雄として |
カイル | くそっ…このっ!! |
| ギィイン! |
カイル | 駄目だ…!何度やっても壊れない!本気で攻撃してるのに… |
カイル | どうすればいい…どうすればいいんだ…!? |
レイヴン | くっ…! |
カイル | レイヴンさん!! |
レイヴン | いたた…あらら、少年も随分追い詰められてるじゃない |
カイル | みんながオレのせいでボロボロに……このままじゃ… |
レイヴン | おっと少年!勘違いすんじゃないの! |
レイヴン | 焦りが出て当然よ。自分の行動一つに仲間の命、かかってんだからさ… |
レイヴン | でも、それで自分を見失うなんて…少年らしくないんじゃないの? |
カイル | えっ…? |
レイヴン | 全部救いたいって啖呵まで切ったんだからさ。救ってみせなよ |
カイル | …わかってます…!救いたいって言ったのに、こんなの情けないって |
カイル | このままじゃ、世界どころかみんなも… |
ベルベット | その時はその時よ。中途半端に痛めつけられ続けるよりはマシかもね |
カイル | …! |
ティア | でも、あなたに出来ないと思うなら私もベルベットも最初から任せたりしてないわ |
ジュード | そうだよ、カイルなら出来るって僕達は信じてる。だから、後は君がやり遂げるだけだ! |
| |
カイル | …そうだ。オレ、大事な事を忘れるとこだった |
カイル | …オレがみんなを信じてるのと同じようにみんなオレを信じてくれてる |
カイル | なら、オレが出来るのはみんなが信じてくれたオレを、信じ抜く事だ! |
カイル | スタンさん達、そしてリアラ達もオレを信じて託してくれたんだ |
カイル | …必ず助けるから! |
神兵2 | させるか! |
| バシュッ! |
神兵2 | ぐっ…!き、貴様…! |
レイヴン | 少年!正直おっさんもう限界よ。だから…根性見せな! |
カイル | …はい!これで決める…! |
カイル | 行くぞ── |
カイル | 爆炎剣!! |
| ギィイン! |
カイル | …! |
カイル | まだだ!信じて信じて… |
カイル | 信じ抜く!! |
| |
スタン | カイル、お前なら大丈夫だ!みんなと一緒に、ラザリスを止めてくれ! |
| |
カイル | オレだけの力じゃない…!信じてくれた人達のために…! |
カイル | ぶち抜いてやるっ!! |
カイル | 燃えろ!!爆炎…連焼!!! |
| ゴオオオオオオッ!! |
カイル | いけええええっ!! |
| |
| ピキッ…ピキピキッ…! |
| バリィィン!! |
| |
スレイ | 身体が自由に動く…ありがとう、カイル! |
カイル | へ、へへ…!よかった、みんな… |
ベルベット | 礼を言うわ。後の神兵はあたし達が引き受ける |
ジュード | うん、レイヴンを助けないとここから出る事も出来ないしね |
カイル | だったら、オレも行かなきゃ… |
ミクリオ | 今ので相当疲弊しているはずだ。大丈夫なのか? |
カイル | これくらいでへこたれてちゃ、ラザリスは倒せないよ!やってやるさ! |
ベルベット | …そう。なら、止めないわ |
神兵1 | 術を解いたからどうしたというのだ!ここで我らが貴様らを捕らえる!行くぞ! |
レイヴン | ち、ちょっとー!?終わったんなら、おっさんの事も早く助けてー!? |
ベルベット | …うるさいわね。わかってるわよ |
ベルベット | それじゃ、さっさと突破するわよ! |
カイル | はい!…よーし、行くぞ! |
scene1 | 神域への扉 |
ティア | …着いたわ。この先が、ラザリスと兄さん以外立入禁止にされていた場所よ |
スレイ | …どうやら、敵はいないみたいだ |
スレイ | ジュード、後ろの様子は? |
ジュード | …大丈夫。神兵達は振り切れたみたいだよ |
レイヴン | 結構、結構。少しばかり遠回りだったけど、お蔭で目立たずに済んだわ |
レイヴン | しかしまあ…えらく面倒くさそうなところに来ちゃったねえ… |
コレット | すごく大きな門…!こんなに大きいの、どうやって開けばいいのかな? |
ミクリオ | 開閉装置のようなものは見当たらないが…。ティア、何か知らないか? |
ティア | ごめんなさい。私が知っているのは、ここの場所だけなの |
レイヴン | おっさんも話に聞いた事があるくらいで、ここまで来たのは初めてよ |
ジュード | 何か仕掛けてあるのは間違いないね。ただの扉じゃないみたいだ |
コレット | 何だろう、これ。光の線が、何本も… |
レイヴン | 封印用ってとこかね。厳重にもほどがあるでしょうに |
ベルベット | 力押しはお気に召さないみたいね |
ミクリオ | 確かに、このままでは無理そうだ。扉自体も巨大だが…重さの問題じゃないみたいだな |
ジュード | この光線が扉を封印してる…。そう考えて間違いないと思う |
レイヴン | じゃあ、まずはそこからかね。とりあえず、光線を解けば… |
レイヴン | ──ん?この気配…! |
| |
| ウウウウウッ…! |
ティア | 晶化した魔物だわ!一体どこから…! |
コレット | 数がたくさん…どんどん来てるよ! |
カイル | 魔物の相手はオレ達がやるよ!その間に、扉を! |
ベルベット | ええ、もうやってる! |
ベルベット | はあっ! |
| バキィン! |
ベルベット | なっ…!? |
ティア | 光線が…再生した!? |
ジュード | 今のは…! |
ジュード | 点滅…いや、補完し合っている…?どうなってるんだろう…? |
| ウウウウウッ…! |
スレイ | 考えるのは後だ!封印が解けないなら、まずは魔物を蹴散らそう! |
ベルベット | ちっ、仕方ないか…! |
scene2 | 神域への扉 |
スレイ | みんな、大丈夫か? |
ティア | 問題ないわ |
ティア | でも、困ったわね…。まさか封印が解けないなんて |
コレット | 直る前に、扉を開けちゃえないかな? |
ミクリオ | いや。近くで見ていたが、かなりの再生速度だった |
ミクリオ | あれじゃ、扉を開けようとする間もなく再生が終わってしまう |
レイヴン | 宮殿を丸ごと結界に包むような相手だからねえ…。こういうのは天帝様の得意分野ってわけだ |
ベルベット | だったら再生が間に合わないくらい、一瞬で粉々にしてやるだけよ |
カイル | そうですよ、全員でかかれば、何とか…! |
レイヴン | いや、ここは落ち着いて突破口を見つけた方がむしろ時間短縮になると思うね |
レイヴン | 再生はしたけど、確かに光線は消えた。この封印も無敵ってわけじゃないでしょ |
スレイ | オレもそう思う。解けない封印を張れるなら、とっくにそうしてるはずだ |
スレイ | 宮殿の結界だって、クリスタルを破壊する事で解けた。何か…必ず方法はあるはずだ |
ジュード | …。方法なら…あるかもしれない |
ベルベット | …へえ? |
スレイ | 何か気付いたのか、ジュード? |
ジュード | うん。扉の封印だけど…一度に全て破壊する必要はないと思う |
ジュード | さっき、光線が再生する直前…二本だけ、他と違う光を放っているものがあったんだ |
ミクリオ | …言われてみれば、その違う光を放つ光線が真っ先に再生を始めたように見えた |
ジュード | うん。そして後から他の光線も再生した… |
ジュード | 多分…最初の二本が他の光線を再生させる鍵になっていると思うんだ |
ジュード | この二本はお互いに補完し合ってるんじゃないかな |
カイル | じゃあ、その二本を壊せばいいんだ! |
レイヴン | いや…口で言うのは簡単だけどね?二本が補完し合うっていう事は… |
ジュード | 壊すタイミングが少しでもズレたら、どちらかが再生し始めて…失敗するって事だよ |
ジュード | この封印を突破するには、「全く同時に」二本の線を破壊する。…それしかないと思う |
カイル | 全く同時って… |
スレイ | それならオレ達に任せてくれ!いいだろ、ミクリオ |
ミクリオ | ああ、僕達が一番息を合わせやすい |
ジュード | …ありがとう。頼むよ、二人共! |
ティア | ここは二人に任せるわ |
ジュード | まずは僕が一部の線を破壊して、どれが鍵になっているか見極める。その後は…お願いするよ |
スレイ | よし、そうと決まったら早速やろう。念のため、みんなは扉から離れて── |
| |
| ウウウウウッ…! |
| |
カイル | この声…また晶化した魔物か!もう、いちいち邪魔するなよ! |
レイヴン | …もしかして、こいつら扉に近付くと出て来るようになってんのかね? |
ベルベット | …どっちだっていいわ。あたし達は── |
| ズバッ! |
| ギャウゥ…! |
ベルベット | ──こいつらを蹴散らせばいい!邪魔はさせない |
ジュード | ベルベット達が止めてくれてる間に……はあっ! |
| バキィィン! |
スレイ | ジュード!鍵はどれだ!? |
ジュード | 右から二番目と、一番左の線だよ!間違いないと思う! |
スレイ | よし…ミクリオ |
ミクリオ | ああ、いくぞ |
スレイ・ミクリオ | はあああああっ!! |
| |
| バキィィン! |
| |
カイル | や、やった…!? |
ジュード | 封印が消えていくよ!成功したんだ! |
スレイ | やったな、ミクリオ! |
ミクリオ | ああ!よし、扉を開けよう |
| |
ティア | 通れるだけの隙間が出来たわ!みんな、中へ入って! |
| |
| ズズ…ズズズズ…ズン!! |
| |
レイヴン | 扉を閉めて…よし、魔物は入ってきてないわ |
ジュード | …上手く、いったね |
カイル | 二人のお蔭だよ! |
スレイ | オレ達だけじゃないさ。みんなの力あってこそだ |
ベルベット | …そうね |
ベルベット | ほら、息も整ったなら進むわよ。ラザリスはすぐそこのはず |
ミクリオ | ああ、そうだな。じゃあ、行こうか |
スレイ | よしっ、あと少しだみんな! |
scene1 | 戦争と平和 |
スレイ | 大分進んで来たけど…。今までとは、かなり雰囲気が違うな |
ベルベット | 妙に薄暗い…。気味が悪いわね |
コレット | ──!この感じ…! |
ジュード | コレット? |
コレット | 今ね、ラザリスの感情が私の中に流れ込んできたの |
コレット | …たぶん、ラザリスは近くにいるよ |
ジュード | もういつ現れてもおかしくないって事だね。気を引き締めていこう |
カイル | あ、えーと…ちょっといい? |
ティア | どうしたの、カイル? |
カイル | あの、あそこ…上の方に、何かあるんだけど…何だろう、あれ? |
ティア | …!あれは、まさか…! |
コレット | 天啓の石碑…!どうしてここに… |
ベルベット | 天啓の石碑…?どこかで聞いたような気がするわ |
スレイ | 時代の節目に起こった出来事が書かれた石碑だよ |
スレイ | ヴァンは、この石碑を利用して元の世界で戦争を起こし、晶化現象を早めたんだ |
ミクリオ | そしてラザリスの出現とこの世界の誕生に繋がった。だが、まさかこの世界にもあるとは… |
ミクリオ | ラザリスと天啓の石碑に、一体どういう関係があるんだろうか |
ベルベット | …とにかく、これが今回の厄介の元なのは理解したわ |
コレット | 石碑自体に害はないよ。こんなにたくさんあるのは、初めて見るけど… |
ジュード | ひとまず、先に進もうか。ほら、あれ扉じゃないかな? |
スレイ | …この扉は! |
ミクリオ | ああ、まさかここにもあるなんて思わなかった… |
ティア | コレットがいたのが幸いね。これだったら…開けられるわ |
コレット | えっ? |
レイヴン | 何なに?お三方この扉知ってんの? |
ティア | 元の世界で、ラザリスの居城に乗り込んだ時にね |
スレイ | ああ、天帝の御座にこれと同じ扉があったんだ |
ミクリオ | 扉の上部に石碑と同じ紋章がある。間違いない |
ティア | 以前は、神子であるゼロスの力で扉は開いたのよ |
ティア | だから…コレット。あなたなら、この扉を開けられるかもしれないわ |
コレット | …よくわからないけど、石碑と同じようなものって事だよね?じゃあ…やり方はわかると思う |
コレット | みんな、離れててね。えっと… |
コレット | 大いなる世界の意志よ。我が主たる地上の神よ |
コレット | 我、コレット・ブルーネルを汝の代行者と認めるならば… |
コレット | その言葉を我に聞かせたまえ── |
スレイ | …!成功だ!門が光りだしたぞ! |
ミクリオ | いや、待て… |
ミクリオ | 門だけじゃない。この部屋そのものが光ってないか? |
コレット | …し、失敗しちゃったかな?でも、前に石碑を読んだ時と同じ感じだったのに… |
ティア | …もしかして、この部屋全体が天啓の石碑と同じもので出来ているのかしら |
ミクリオ | 確かに、それなら部屋が発光している説明はつくが… |
ベルベット | とにかく気を付けなさい。光が収まってきたわよ |
カイル | …本当だ。これで扉は開くのかな?とりあえず試して── |
| ブウゥ──ン… |
| |
カイル | …って、うわあ!何かいっぱい出てきた!! |
ティア | これは…鏡? |
ミクリオ | いや、空間に何か…映し出されているみたいだ |
スレイ | みんな、静かに。…何か声が聞こえるぞ…? |
| |
| ──を…!!戦い…──奪え!! |
| 見つけ出し…──!!必ずや、我が国に持ち帰るのだ! |
| |
レイヴン | 何だ、こりゃ…!何かの…記録か…? |
コレット | 多分だけど…元の世界で起こった事を映し出してるのかも |
コレット | 天啓の石碑は、過去の出来事を記したものだから… |
スレイ | じゃあこれは、元の世界の過去…?いや、それにしても…! |
ジュード | うん。これ、戦いの記録ばかりだよ。映し出されてるもの、全部…! |
| |
| 進め!国のためだ!邪魔をするなら民衆とて容赦するな! |
| やめて!やめてください…!せめて、この子だけは…! |
| |
レイヴン | …!!あの腕章、まさか…! |
カイル | どうしたんですか? |
レイヴン | …嫌なもん見せてくれるじゃない。こいつは…! |
レイヴン | …シルヴァラントの…内乱だ |
ティア | … |
レイヴン | …間違いない。10年前…この戦場にいたからね。忘れようにも忘れられないのよ |
ティア | …私にも、記憶があるわ |
ティア | シルヴァラントの内乱に、キムラスカの街も巻き込まれて… |
カイル | それって…!レイヴンさんが話してくれた… |
レイヴン | …内乱に巻き込まれた街に、嬢ちゃん達もいたわけね… |
ティア | ええ。そこで、私達は両親を失った。兄さんが騎士を志したのは、あれからよ |
ジュード | …!みんな、こっちの光を見て!これって…! |
ミクリオ | この男は…!ヴァンだ!間違いない! |
| |
ヴァン | ──しっかりしろ!あと少し…あと少しで友軍が…! |
| いいえ…私は、もう駄目です…。どうか…この国を…!家族を…! |
ヴァン | 待て!逝くな…逝くな!! |
| |
カイル | な…何だよ、これ…。さっきから、仲間が死んでばかり…! |
ティア | …!これは恐らくソドスの内乱ね。こっちの光は、その記録を映し出しているんだわ |
ティア | …兄さんは、この内乱のある作戦で騎士団の部下、ほとんどを失ったの |
| |
ヴァン | …!!何故だ…何故死なねばならん…!!何故、お前達が…!! |
ヴァン | 戦争…殺し…憎しみ…!!いつ終わるのだ…?一体、いつになれば…! |
ヴァン | その間、私に…私達に死に続けろと言うのか!?ならば…!! |
ヴァン | ならばいっそ──!! |
| |
ジュード | …これって |
レイヴン | …知られざる秘密って奴か |
ティア | 思えば、兄さんは両親を失ってからずっと考えていたのかもしれない |
ティア | 争いのない世界…。何も失わずに済む世界…。ただ、それだけを… |
レイヴン | …そんで、ようやく一人前の騎士になったところで…ソドスの内乱が起きたってわけか |
レイヴン | 守れるだけの力を手に入れたはずが、仲間を全員失って…世界に絶望した |
レイヴン | 新世界を創ったのは、そのためか…。…わからなくは、ないかもね |
スレイ | …あの強さの裏には、そういう理由があったのか… |
ティア | …それでも、兄さんは間違っている |
ティア | 間違っているのよ…! |
ベルベット | … |
ティア | 兄さんの想いを知っても…。いえ、知ったからこそ… |
ティア | 私が止めなくてはならない。あの人の家族として…必ず! |
スレイ | くっ…またこの光か…! |
カイル | …見て!散っていた光が集まっていく…! |
scene2 | 戦争と平和 |
コレット | また、空間に何か映って… |
スレイ | …何だ?この光景、見覚えが── |
スレイ | まさか、これは…!? |
| |
スレイ | この光景、やっぱりそうだ!天帝の御座…結晶の花だ! |
ミクリオ | ああ、間違いない。だが…一体どうして…? |
ジュード | …静かに。何か聞こえてくるよ |
??? | …──して。…どうして…!! |
コレット | この声…ラザリス! |
ラザリス | どうして!わからない、わからない!わからないわからない、わからない! |
ラザリス | 何でこんな…こんなもののために!僕は消えなくてはいけないんだ…! |
ラザリス | …こんな…ヒトなんかのために! |
コレット | …!! |
| |
カイル | 今のって…ラザリス、だよね? |
ティア | え、ええ…。そのはずよ |
ベルベット | 人間のために…あいつが、消えなくてはならない?何を言ってるの…? |
レイヴン | さっきの記録が本物なら…。今のも、ラザリス自身の記憶って事になるのかね… |
ジュード | …ラザリスにも、ヴァンみたいに新しい世界を創る理由があったって事かな…? |
コレット | …うん…きっとそう |
コレット | やっぱり、私が感じた気持ちは嘘じゃなかったんだ… |
コレット | 今のラザリス…すごく辛そうだった |
ジュード | うん。まるで、人間のために生かされてるみたいな言い方だったね… |
カイル | それじゃあラザリスは、人間の敵じゃなかったって事? |
ジュード | そうとは言い切れないけど…。あの取り乱し方は普通じゃないよ |
コレット | うん…ただの憎しみじゃない。感情が絡み合って、どうしようもない…そんな感じだった |
ジュード | …ラザリスと人間の間には、何か深い繋がりがあるのかもしれない |
ミクリオ | さっきのラザリスから感じたのは悪意だけじゃなかった。それは確かだが… |
スレイ | だからと言って、この世界の存在を認めるわけにはいかない…だろ? |
レイヴン | そりゃ勿論 |
レイヴン | まあ…人間を憎んでいるなら、何でこの世界で生かし続けるのか…そこは引っ掛かるけどねえ |
コレット | 晶化は人の負の心で進むんだよね? |
コレット | だから、さっきの記録はそういう戦争の悲劇を映したものばかりだったんじゃないかな |
コレット | 立入禁止の場所にあった事を考えても、あの記録がラザリスと無関係とは思えないよ |
コレット | ラザリスの行動の理由が人間なら…私達はそれを知るべきだと思う… |
ベルベット | …どんな理由があろうと、ラザリスを許すわけにはいかないわ |
コレット | ラザリスのした事は許せない…。でも、私は…やっぱりこのまま戦うのは嫌だよ |
ベルベット | … |
コレット | もし何か繋がりがあるなら、きっとわかり合えると思う |
コレット | それに、もしわかり合えなくても…せめて戦う理由くらいは知りたいよ |
コレット | …今の声を無視するなんて…出来ない |
ベルベット | …あんたの気持ちは十分わかったわ。なら、全て説明してもらえばいい。扉も開いたみたいだしね |
ベルベット | 本人に直接確かめてみなさい。人間とどういう関係があるのかを |
ベルベット | 特異点の修復さえ止めれば、話す機会くらいあるでしょう |
スレイ | …そうだな。行こうか、みんな |
コレット | うん。きっとわかり合える… |
コレット | そうだよね、ラザリス… |
scene1 | 天帝の守護者 |
スレイ | …この階は、さっきと変わらない雰囲気だな |
レイヴン | 石碑が浮いてないくらいかね。よかった、よかった。何度もあんなもん見たくないし |
ジュード | ラザリスのところまであと少しのはずだよ、いよいよ── |
| ズ…ズズズズ…!! |
ミクリオ | この揺れは…!? |
ベルベット | ラザリスの攻撃…じゃないか。地震みたいね |
カイル | もしかしてこれもハロルドが言ってた、特異点の修復の影響なのかも…! |
ミクリオ | …休んでいる暇はないな。次の階が最上階のはずだ、先を急ごう |
コレット | 待って、ミクリオ!何かいるよ! |
| |
| グルルル…!! |
| |
ミクリオ | …また魔物か。着実にこちらの体力を削るつもりだな…! |
レイヴン | 上手い事隠すもんだわ、ほんと。こっちはもう顔も見たくないってのに逃げる暇も与えてくれないんだから |
スレイ | …構えるんだ、みんな!来るぞ! |
ベルベット | 何度襲って来ようが一緒よ…! |
scene2 | 天帝の守護者 |
ベルベット | くっ…!しつこいわね |
| ザシュッ! |
| |
| ギャウゥ…! |
| |
ジュード | はあっ…はあっ…!今ので、最後だね…! |
レイヴン | はあ…。おっさん、もう体力の限界に近いわ |
スレイ | けど、休む時間もない。このまま行くしか…! |
ティア | ええ…階段はあそこよ。罠がないか、今調べて── |
| ズズズズ…!! |
レイヴン | …おいおい、また地震かい |
カイル | …違います、レイヴンさん!これは…地震じゃない! |
コレット | この気配って… |
| |
ベルベット | …っ!階段から離れて!来るわ! |
| |
| グ…ググ…グオオオオオオオオッ!! |
ジュード | なっ…巨大な…竜!? |
コレット | やっぱり…!私、宮廷神子の試験でこの竜を見た事があるよ! |
コレット | あの時の竜もラザリスが作り出してたんだ…! |
ベルベット | これまでの魔物とは明らかに違う。簡単には通してくれなさそうね…! |
ジュード | コレット、試験の時はどうやってあの竜を突破したの? |
コレット | えっと、あの時は…祭壇にクリスタルがあって──それが出現の鍵になってたの! |
コレット | だから、クリスタルを戻せば、この竜も消えるはずだよ! |
ミクリオ | クリスタルか…!それを見つければ── |
| グオオオオオオオオッ!! |
スレイ | っ!来るぞ!みんな、避けろ!! |
| ドゴォオン! |
レイヴン | …間一髪ね…!全く、冷や冷やさせるわ… |
ジュード | 近くにクリスタルは見当たらないし…探す余裕もなさそうだね |
ティア | …これは試験じゃない。最初からクリスタルなんて用意されてないのかもしれないわ |
ジュード | それなら、直接叩くしかないか…! |
| グオオオオオオオオッ!! |
ベルベット | せいぜい吠えてなさい…!やるわよ! |
scene3 | 天帝の守護者 |
スレイ | …はあっ…はあっ!これで…どうだっ! |
| ザシュッ! |
| グウウゥ…ッ! |
ミクリオ | 効いている…!一気にたたみかけるぞ! |
ティア | これでとどめ── |
| グオオオオオオオオッ!! |
コレット | ──きゃああっ!! |
| ドゴォオン! |
カイル | ぐ…ううっ…!み、みんな…!大丈夫…? |
ベルベット | あんな攻撃で…!やられや…しないわ…! |
レイヴン | 腕の一振りで、全員吹っ飛ばすとはね…!ったく、まだそんな力が…! |
| フウゥゥ…フウゥウ…! |
ジュード | …!今ので向こうも限界みたいだ…!これを逃すわけには… |
ティア | 早く態勢を立て直さないと…! |
| ズズズズ…!! |
スレイ | この揺れは…!? |
コレット | まさか…嘘… |
| グオオオオオオオオッ!! |
ベルベット | 二体目の…竜…! |
レイヴン | おいおい、勘弁してよ…。もう少しだったってのに…! |
| オオッ…オオオオッ! |
ミクリオ | ブレスが来る…!みんな、逃げるんだ…! |
コレット | 駄目…!足が…動かない…! |
| ゴオオオオオッ! |
コレット | …っ!! |
ジュード | 駄目だ、これじゃ避けきれない…!!くうっ…!! |
| |
??? | ──ならば、受け止めるまでだ! |
ジュード | えっ… |
| バシュウウッ…! |
コレット | 竜のブレスが、消えた…? |
ジュード | これは…精霊術?──まさか!? |
| |
ミラ | 待たせてしまったな、ジュード |
ジュード | …ミラ!来てくれたんだね! |
ミラ | ああ。どうやら、私達は間に合ったようだな |
コレット | 私達って…じゃあ、もしかして…! |
??? | はああっ!! |
| ザシュッ! |
| グオゥッ!? |
??? | よそ見してんなよ、デカブツ! |
??? | ワン! |
| ザシュッ!ザシュッ! |
| グウウゥ…ッ! |
コレット | ロイド…!それに…! |
レイヴン | 青年に、ワンコじゃないの! |
ユーリ | 情けねえぞ、おっさん。年だ年だと言ってたら、本当に膝やっちまったか? |
レイヴン | …言ってくれるねえ。こっちは戦い詰めでボロボロだったのよ? |
ユーリ | …みてえだな。宮殿前の連中も、かなりギリギリだったし… |
カイル | スタンさん達は無事なんですか!? |
ミラ | 私達も神兵を押さえるのを手伝っていたのだが… |
ロイド | キリがないって事で、こっちを助けるよう送り出されたんだ |
ロイド | コレット達に「安心してくれ」って、伝言を預かってきたよ |
コレット | よかった… |
| |
| グオオオオオオオオッ!! |
| |
ユーリ | おっと!これ以上、無駄話をしてる時間はねえみてえだな |
| フウゥゥ…フウゥウ…! |
ミラ | 相手は二体…。だが一体は深手を負っているようだな |
ジュード | かなり追い詰めたんだけど、後から二体目が出てきたんだ |
ジュード | ラザリスが作り出してる魔物なら、まだ何体も出てくる可能性があるよ |
ユーリ | …へっ。とりあえず、弱ってる方から片付けるか |
ロイド | ああ、数を減らさないとな! |
ミラ | 私はもう一体を引き付ける。ジュード、君達はその間に回復してくれ |
ジュード | ありがとう、三人共 |
| グウゥゥ…オオオッ!! |
ロイド | 随分好き勝手やってくれたな…! |
ロイド | ──くらえ!獅吼烈風!! |
| グオッ…!! |
ロイド | 動きは止めたぞ!今だ! |
ユーリ | ああ、上出来だぜ!やるぞ、ラピード! |
ラピード | ワン!! |
ユーリ | 爪竜連牙斬!はああっ!! |
ラピード | ワン!ワオーン!! |
| グッ…オオ…!!グオオオオオオオオッ…!? |
| ズ…ズズゥン!! |
スレイ | やった…! |
カイル | 竜が、消えていく… |
ミラ | 流石だな。私も負けていられない |
| グオオオオオオオオッ!! |
ミラ | お前の相手はこっちだ──カタラクトレイ! |
| グウウゥゥ…オオオオ! |
ミラ | やはり、簡単には倒れないか…! |
| ゴオオオオオッ! |
ミラ | くっ…! |
ロイド | 大丈夫か!?すぐに行く!! |
ユーリ | ちっ…!二体目は厄介そうだな |
ティア | これでみんな動けるはずよ…! |
ジュード | 早くあいつを倒さないと…! |
ユーリ | …いいや。お前らには先に行ってもらうぜ |
ミラ | ここに留まる時間は、もうないはずだ |
ロイド | そうだな。こいつの相手は、俺達に任せてくれ |
ミクリオ | しかし…! |
ユーリ | お前らを先に進ませるために、オレ達は来たんだぜ? |
ミクリオ | …!! |
ミラ | 目的を見誤ってはいけない |
ジュード | …ミラ |
ミラ | 誰しも役目というものがある |
ミラ | お前達の役目は、この先にいるラザリスを止める事だ |
ロイド | それに、俺達だけじゃない…。いろんな奴の助けがあったからこそ、ここまでたどり着いたんだろ? |
ロイド | お前達ならやれる!そう思ったから、みんな力を貸してくれたんだ |
ロイド | ここまで来て大トカゲの相手なんかしてる場合かよ!こんな奴、どうって事ないさ! |
ユーリ | …そういうこった |
ユーリ | 行けよ。ラザリスの野郎が、首長くして待ってるぜ |
レイヴン | …そうね。ここは一つ、後始末お願いするわ |
ユーリ | へっ…。最後の詰めをしくじるんじゃねえぞ |
カイル | はい!絶対、世界を元に戻してきますから! |
ロイド | それだけ元気があれば大丈夫だな!行って来い、みんな! |
コレット | …うん!全部…終わらせてくるよ! |
ミラ | ああ。任せた |
ジュード | …よし。行こう、ラザリスのところへ! |
| グオオオオオオッ! |
ミラ | ふっ…そういきり立つな。お前の相手は、私達がしてやる…! |
| |
ベルベット | この階段の先にラザリスがいる…。覚悟はいいわね? |
レイヴン | 泣いても笑っても、これが最後ってか |
カイル | 準備万端です!行きましょう! |
ミクリオ | 聞きたい事は山ほどあるが…。まずは、特異点の修復を阻止する! |
コレット | うん…!みんなのためにも、絶対止めないと! |
ベルベット | これで決まるわ。あたし達の全てを…取り戻すわよ! |
scene1 | 世界の掟 |
スレイ | …ここが最上階 |
ベルベット | やけに静かね |
ジュード | ラザリスはどこに行ったんだろう |
ティア | 兄さんの姿も見えないわ |
カイル | 二人でどこかに隠れてオレ達を待ち構えてるのかも… |
カイル | …!なっ、あれは… |
スレイ | 光の玉が何個も…ミクリオ、これって… |
ミクリオ | ああ、おそらく特異点だろう。遺跡で見たものと同じだ |
ミクリオ | けど、妙だな。何故こんなところに…?しかも、複数集まって── |
| バチバチッ…!ジジ…キィンッ! |
カイル | うっ、眩しい!何が起きて… |
レイヴン | 光の玉だ…!けど、一つ消えちまったぜ? |
コレット | この感じ、もしかして… |
??? | ──そうさ。今この瞬間に特異点はまた一つ、修復された |
ベルベット | ラザリス…! |
ラザリス | ふふ… |
ラザリス | 本当に諦めが悪いんだね、君達は。…けど、もう終わりだよ |
ラザリス | ──傷はまもなく完治する |
ラザリス | あの光の玉の消滅と共に、この世界は完全なものになるんだ |
ミクリオ | つまり、この世界に残存する特異点の数は… |
レイヴン | あと三つ、か |
コレット | ねえ、ラザリス |
コレット | …教えて。あなたはどうしてこんな事をするの? |
ラザリス | …君はまだそんな事を? |
ラザリス | わからないよ。知ったって何になるんだ |
カイル | オレ達、聞いてしまったんだ。石碑の部屋で、ラザリスの声を… |
ジュード | 消えたくない、…どうして自分が消えなくちゃならないんだって |
コレット | ラザリスの本当の気持ちが知りたいの。じゃないと私達… |
ラザリス | …… |
レイヴン | ま、どんな理由であれ元の世界を返してもらうってのは譲るつもりはないけども |
ラザリス | くっ…くく…… |
ラザリス | 思い上がりも甚だしいな。僕を憐れんでるの? |
コレット | そうじゃないよ…!ただ、理由を知ったら、私達は話し合えるかもって── |
| |
ラザリス | ふざけるな!!!! |
| |
ラザリス | ……君達にはわからない!何も!何も! |
ベルベット | …交渉決裂ね |
コレット | ラザリス… |
| バチバチッ!ジジジ…キィンッ…! |
ティア | また、光が…! |
ジュード | これで残りは二つ… |
ミクリオ | …まずいな。消滅が思ったより速い…! |
スレイ | くっ…何とかして食い止めないと…! |
ラザリス | …無駄だよ。僕が存在する限り、この修復は止められない |
コレット | そんな… |
ベルベット | のんびりおしゃべりしてる時間はないってわけね |
ベルベット | …なら、仕方ないわ。今この場であんたを倒すまでよ |
スレイ | ああ…! |
コレット | …… |
ラザリス | …ふ、来なよ |
scene2 | 世界の掟 |
ベルベット | はああっ! |
ラザリス | ──無駄だよ |
| ピキピキッ! |
ジュード | 弾かれた…! |
カイル | またあの壁… |
ラザリス | はあ…はあ…そろそろ終わりにしようか |
ラザリス | …行くよ、ディバイン── |
レイヴン | させないっての! |
ラザリス | くっ…! |
スレイ | 今だ!ミクリオ! |
ミクリオ | ああ! |
スレイ・ミクリオ | ルズローシヴ=レレイ!! |
| |
ラザリス | …ふっ |
| |
スレイ | え…?まさか…何で…!? |
ミクリオ | 神依出来ないなんて、こんな事── |
ティア | そんな、どうして…! |
ラザリス | ──世界の掟(ワールドルール) |
| |
コレット | えっ…空中に、目…? |
レイヴン | こいつはまた随分と悪趣味な術ね。薄気味悪いったらなんの… |
ラザリス | この二人のつまらない力を僕が禁じたのさ |
ミクリオ | くっ… |
ラザリス | 僕の世界に背いた君達には、報いを受けてもらうよ…! |
ラザリス | はあああっ! |
| |
| バシュッ! |
| |
スレイ | うぐっ…! |
ジュード | 空中の目が攻撃を…!?スレイ! |
スレイ | 大丈夫…!だけど、神依が封じられるなんて一体どうやって… |
ラザリス | 忘れたのかい?ここが誰の世界なのか |
ラザリス | 僕には敵わない。君達のやっている事は全部無駄なんだ |
ベルベット | 無駄はどっちかしらね |
ベルベット | このくらいの事じゃあたし達は止まらないわ |
ミクリオ | 神依が使えなくとも勝機を失ったわけじゃない |
スレイ | うん、オレ達には仲間がいる |
カイル | そうだ…!まだ希望はあるよ、オレ達は諦めない! |
ラザリス | …希望、か。ヒトはいつもそれだ |
ラザリス | 都合よく耳触りのいい言葉を並べて自分達が正義だと主張する… |
| |
ラザリス | 全く、どこまで愚かしい──…つっ… |
コレット | ラザリス…? |
| |
| ピキッ… |
ジュード | …!ラザリスの身体が結晶に覆われて… |
ラザリス | くっ… |
レイヴン | どういう事よ?晶化ってあいつの力だろうに |
ミクリオ | 力を使いすぎたんじゃないのか |
ベルベット | 好都合じゃない。今の内に一気に── |
コレット | 待って、ベルベット! |
コレット | 少しでいいの…お願い、話させて…! |
ベルベット | … |
ベルベット | …急いで。時間はないわ |
ラザリス | …… |
コレット | ラザリス、お願い。教えてほしいの |
コレット | あなたは、一体何者なの?どうしてこんな事をするの? |
コレット | あなたのあの感情は…絶望は、どこから生まれるのか… |
コレット | それがわかれば、私達にも出来る事があるかもしれないから… |
ラザリス | … |
ラザリス | ……影… |
ラザリス | …そう、僕は「世界の影」さ |
コレット | 世界の、影…? |
ラザリス | 最初は意思も自我もない、ただ世界の歴史を静かに刻むだけの存在だった |
レイヴン | 「天啓の石碑」か… |
ラザリス | …けど、あの日全てが変わった |
ジュード | あの日…? |
ラザリス | ディセンダーによる世界の再生さ。あの力の余波で僕は思考と実体を手に入れた |
レイヴン | ディセンダーって確か、カノンノちゃんの事だっけ |
ジュード | …そっか。そして、見たんだね。世界の…争いや苦しみを |
ラザリス | ああ、ああ…思い出しただけでうんざりだ |
ラザリス | 君達の世界では、ヒトがヒトを見捨てている。国が民衆を、親が子を、友が友を… |
ラザリス | 大地が疲弊するまで自らのエゴのために争いを繰り返し、生き物を殺し、奪い、捨てて!! |
ラザリス | …確信したよ。君達の欲が満たされる事はない… |
ラザリス | それを追い求めていく中で、いずれ世界だけじゃなく自らをも死滅させるだろうって |
ラザリス | …だから僕がもらったんだ!世界ごと、全部! |
カイル | だからって…世界を全部好きなようにしていいわけないだろ! |
ラザリス | ふっ…。醜き憎きヒト…けど、安心して。死なせはしないよ |
ベルベット | …どういう事?あんたは争いを繰り返す人間に絶望してたんでしょ |
ラザリス | 耐え難い事実だけど、僕はヒトの意識の集合体のようなもの… |
ティア | それってつまり、私達人間が全ていなくなればあなたも存在し得ない… |
ラザリス | そうさ。僕を生んだのは君達ヒトの愚かな行為だ。…なのに、世界を返せだって? |
ラザリス | …僕に、このまま死ねと!?傲慢にも程があるよ! |
ラザリス | どうせ全てが腐り、滅びるまで争って奪い合うだけなのに! |
ラザリス | だったら何で、何故、僕を…… |
コレット | ラザリス…違うの、そうじゃな── |
| |
ラザリス | あああああああっ!! |
| |
| パキパキ…パリンッ! |
ミクリオ | …!ラザリスの身体の結晶が砕けた…! |
カイル | うっ、すごい力…!吹き飛ばされそうだ…! |
コレット | ラザリス…! |
ラザリス | …君達には、生きてもらうよ |
ラザリス | 僕の理の中でね |
| バチバチッ…!ジジ…キィン…… |
ジュード | 光の玉が、また…これで特異点はあと一つ…! |
レイヴン | …タイムリミットね。お話はここまで、戦闘再開といくわよ |
コレット | でも…!ラザリスが…! |
ミクリオ | コレット、これ以上、特異点を失うわけにはいかないんだ… |
コレット | … |
ラザリス | … |
scene3 | 世界の掟 |
ベルベット | はあ…はあ…!ここまでよ、ラザリス…! |
ラザリス | やるじゃないか…。でも……時間を使いすぎたね |
| ジジ…ッ!……バチバチ… |
カイル | …っ!光の玉が消えかかってる! |
ラザリス | …終わりだ!僕の世界が完成する…! |
| |
| キィンッ…! |
| |
ジュード | そんな、最後の光の玉が… |
ラザリス | …さようなら、咎人達 |
| ──ドクンッ! |
カイル | うっ、何だ…これ!?頭が割れそうに…っ! |
ティア | もしかして、これは…っ! |
ラザリス | …処理さ。君達が僕の世界の民へ戻るためのね |
| ──ドクンッ! |
レイヴン | うぐっ…さすがにまずいわ…これ…! |
ベルベット | くっ…!このままじゃ… |
コレット | …っ、お願い…力を貸して、世界の意志……! |
ミクリオ | コレッ…ト…? |
コレット | 元世界のために…ラザリスと向き合うために… |
| |
コレット | …今、この記憶を失うわけにはいかないの──…! |
| |
ジュード | …!痛みが消えた…! |
スレイ | もしかして、コレットの中の世界の意志が…? |
ラザリス | ちっ…最後まで僕の邪魔を… |
ラザリス | けど、一時的に免れたところでどうせすぐに── |
| |
| ピキピキピキッ! |
| |
ラザリス | …う、…ああ……っ…!! |
ティア | …!ラザリスがまた晶化していく…! |
スレイ | 今の戦闘で、力を使い果たしたのか… |
ミクリオ | あれでは、もう… |
コレット | ラザリス! |
ラザリス | ……近寄る…なっ! |
コレット | あなたが生まれた理由や私達人間に絶望していた気持ち…全部知った上で、思うの |
コレット | 元の世界であなたと一緒に生きたいって |
ラザリス | … |
コレット | …確かに私達はあなたが見てきたように多くの争いを繰り返してきた |
コレット | …けどね、それでもこうやって長い間滅びる事なく歴史を刻んでこられたのは── |
コレット | 人間があなたと同じように争いのない平和を望んできたからじゃないかな |
ラザリス | ……ヒトが、僕と同じ?何を馬鹿な… |
コレット | だってあなたは「人間の意識の集合体」なんだよね? |
コレット | そんなラザリスが望む事だもん、きっと人も、みんな同じ気持ちを持ってるって事だよ |
ラザリス | ……! |
コレット | 世界には大勢の人がいるからぶつかる事もたくさんあると思う |
コレット | けどその度に、人は考えて…それじゃいけないって思い直して、前に進んできたんじゃないかな |
コレット | …それはきっと、これからも同じだよ |
コレット | 時に道を間違えるかもしれないし時間がかかるかもしれない |
コレット | でも、その気持ちがあれば確実に、争いのない平和に向かって前進していけると思うの |
スレイ | コレット… |
ベルベット | …… |
コレット | ──だからお願い、ラザリス。私達の事を信じて、見守っていてくれないかな |
コレット | 世界や人間…そしてあなたの事、必ず守っていくって約束するよ |
コレット | あなたは世界の影なんかじゃない。平和を願うあなたの意志は、私達の世界そのものだと思うから… |
ラザリス | ……!僕と…同じだって…? |
ジュード | ラザリス、僕達も同じ気持ちだよ |
ジュード | 君が創ろうとした争いのない世界は必ず僕達自身の手で実現させる |
ミクリオ | 世界と人の滅び…僕らとしても見過ごせない問題だからね |
カイル | オレも、未来の時代でも変わらない平和を守り続けていけるように努力する! |
ラザリス | ……無理さ。ヒトは変わらない |
ティア | そんな事ない。人は必ず変わっていけるわ |
ティア | 時間がかかるかもしれないけれど、必ず |
ラザリス | ……そんなの、嘘だ… |
ベルベット | 少なくともここにいる全員、嘘をつくような連中じゃない事だけはあたしが保証してあげる |
ベルベット | …さあ、どうするの?世界を元に戻すなら殺しはしないわ |
ベルベット | けど、戻さないって言うなら、あんたを殺してこの世界ごと潰すしか選択肢はなくなる |
ラザリス | …僕は…君達と交わる事は出来ない…… |
コレット | ラザリス!どうして… |
ラザリス | 僕はずっと見てきたんだ。繰り返し繰り返し、ずっと… |
ラザリス | 今は都合よくそう言ってても最後は必ず裏切る。…ヒトはそういう生き物なんだ |
スレイ | ラザリス… |
ベルベット | …わかった。それがあんたの答えなのね |
| チャキッ |
ラザリス | …もう手遅れだよ |
ラザリス | 完全体になったこの世界は、僕を殺したところで元には戻らない |
カイル | そんな…!何か方法はないの!? |
ラザリス | …… |
ラザリス | …僕なら── |
| |
| ザシュッ!! |
| パキィィィィンッ!! |
| |
ラザリス | …かはっ……! |
コレット | え…? |
| |
| ドサッ |
| |
??? | ──機は熟した |
ティア | …!あなたは… |
ヴァン | …真の世界が到来したのだ |
スレイ | ヴァン…!! |
ヴァン | 今までご苦労だった。哀れな人形ラザリスよ |
ジュード | どうしてヴァンがラザリスを…! |
ベルベット | …あんた、裏切ったのね |
ヴァン | …… |
scene1 | 楽園の支配者 |
ベルベット | ──ヴァン…。あんた、ラザリスを裏切ったのね |
ヴァン | 裏切るも何も、仲間として手を組んだつもりなど毛頭ない |
ヴァン | 不要になったものを片付けた、ただそれだけの事だ |
カイル | それって、世界が完全体になったからラザリスはいらなくなったって事…? |
ティア | 兄さん…、あなたという人は… |
ラザリス | …はっ………やはり…食えない奴だね… |
ラザリス | 端から僕を…利用して──……う、っ…! |
コレット | ラザリス! |
ヴァン | …ほう、まだ息があったとはな |
ヴァン | だが、ここまでだ |
ヴァン | 国という隔たりのないこの新世界エンテレスティアを舞台に人間は一からやり直す |
ヴァン | …人間自らの意思で、だ。お前の理とやらは必要ない |
ラザリス | …く……っ! |
ヴァン | だが、ラザリスよ。これまでの働きには感謝しているぞ |
ヴァン | あの日、絶望を介してお前と通じていなければ、私一人では成し遂げられなかった |
ヴァン | …せめてもの礼だ。今、楽にしてやろう |
| チャキッ |
ヴァン | 安らかに眠るがいい── |
| |
スレイ | 駄目だ!させない! |
| ガキィンッ! |
| |
ヴァン | …何故止める?ラザリスはお前達にとっても敵。恨みはあるだろう |
スレイ | …ラザリスは自分を守ろうとした。だからこの世界を創ったんだ…! |
スレイ | そうなったのにはオレ達にだって責任がある |
ラザリス | ……っ… |
ティア | 兄さん、私達が相手よ。ラザリスには近づかせないわ |
ヴァン | ティア、お前もラザリスに与するのか |
ティア | 正解なんてわからないわ。でも、兄さんが間違ってるのはわかる |
ティア | ラザリスと私達が共存出来る未来があるかもしれない。その選択肢を断たないで! |
ヴァン | 共存か…。ふ、相変わらず温いな |
ジュード | 確かに、争いがなくなれば結果的には多くの人が助かる |
ジュード | けど、そのための方法が元世界の結末なんだとしたら、あまりにも犠牲が大きすぎる…! |
ヴァン | 元より業は背負うつもりだ。全ては人間のため…未来が繋がればそれでいい |
ミクリオ | 人間のため、だって?詭弁にしか聞こえないね |
レイヴン | 親を亡くし、部下を亡くし…それでも変わらず続く戦争 |
レイヴン | そんな世界に絶望するおたくの気持ち、少しはわかるつもりだったんだけどね |
ヴァン | 救国の英雄であるあなたが?…心外だな |
ヴァン | あの悲劇を二度と繰り返さぬためには、この世界が必要なのだ |
レイヴン | そうかい。…けどね、気づいてる? |
レイヴン | おたくのしてきた事は、戦争を起こした奴らや、俺を英雄に仕立て上げた連中と同じだって |
カイル | …そうだ!人間の未来のためと言いながら、目の前の命を踏みにじる! |
カイル | そんな身勝手な未来なんて、オレ達が許さない! |
ヴァン | 前にも言ったはずだ。お前達の理解を求める気はないと |
ヴァン | …既に世界は成った。人の手による完全な世界が、これから紡がれていくのだ |
| |
| チャキッ |
| |
ヴァン | そのためにも…、そこを退け。ラザリスを始末する必要がある |
コレット | 駄目だよ…!そんな事、絶対にさせない |
ラザリス | …… |
ベルベット | ヴァン…初めて会った時から思ってたわ。あんたはあいつに似てるって |
ベルベット | 自分の理想を振りかざし、あたしから弟を奪ったあいつとね |
ベルベット | あたしはあんた達みたいな奴らを絶対に、死んでも認めない! |
ヴァン | 相容れぬのは先刻承知。…かかってくるがいい! |
scene2 | 楽園の支配者 |
ヴァン | はあっ! |
スレイ | ぐっ、すごい気迫だ…! |
ベルベット | 気圧されないで!全力でぶつかるわよ! |
ヴァン | 一時の感情…覚悟のない剣で、この私を止める事は出来ん! |
カイル | 覚悟がないなんて…勝手に決めるな!覚悟がなきゃ、ここまで来てない! |
ヴァン | 大人しくこの世界を受け入れたらどうだ |
ヴァン | お前達とて記憶を取り戻す前は、この世界で何事もなく穏やかに暮らしていたはずだ |
ティア | …そうね。この世界での暮らしは平穏だった |
ティア | でも…あれはまやかしよ |
ティア | 兄さんは本当にそれでいいの?…こんな偽物の世界が、兄さんの望んだ世界なの? |
ヴァン | 今は偽物の記憶、世界であろうとやがて真実になる。覚めなければ、それは夢ではない |
ベルベット | …気に入らないわね。そうして嫌な事から目を背けていればいいって考えは |
ベルベット | …あたしは、この世界に来た時から元の記憶を持っていたわ |
ベルベット | …だからこの世界がどんなに素晴らしかろうが知らないし知りたいとも思わない |
ベルベット | ただ…弟を殺したあいつも、この世界でその記憶を失ってのうのうと生きてるというなら… |
ベルベット | そんな事は絶対に許せない。全てを思い出させた上で必ず、この手で殺すわ…! |
ヴァン | …ふん、まるで憎しみの化身だな。そのような感情が争いを生むと言う事がわからんのか |
ベルベット | 憎しみがなければ争いは起きない?そのために記憶を改変する?そんなの、楽をしたい奴の言い訳よ |
ベルベット | こんな世界、全部この手で喰らってやるわ! |
スレイ | …ヴァン。オレもベルベットの言う通りだと思う |
スレイ | 確かにこの世界は、争いを生まないかもしれない。みんな平和に暮らしてるし |
スレイ | けど、すごく歪なんだ… |
スレイ | 憎しみの感情を…本来あるはずのものを奪って、それでいいなんて間違ってる! |
スレイ | 悲しい事や辛い事があったら、怒ったり憎んだりするのが人間だ! |
スレイ | それがない世界なんて、本当の平和だとは言えない! |
ヴァン | やはりまだ青いな。言ったはずだ、いずれ私と同じ境地にたどり着くと |
スレイ | オレは、あなたとは違う答えを必ず見つけてみせる |
ミクリオ | ああ。きっとみんなが知恵を出し合えば、平和な未来は訪れるはずなんだ |
カイル | そうだ!争いのない世界は、この手で掴んでみせる! |
ジュード | 勿論、それがどれだけ困難な道のりかはわかってる |
ジュード | けど、いつか成し遂げてみせるよ。それが僕らの意志だ。あなたの好きなようにはさせない! |
レイヴン | …若い子達もこう言ってるし、信じてあげてもいいんじゃないの? |
コレット | あなたは結果が全てだって言った…。でも、本当にそうなの?あなたの心は痛んでないの…? |
ヴァン | くどい、私の信念は揺るがぬ…!互いに譲れぬものがあるならば、その剣で示してみよ! |
ベルベット | 言われなくても、そのつもりよ! |
scene3 | 楽園の支配者 |
スレイ・ミクリオ | 蒼の四連! |
ヴァン | それが届かぬのは知っているだろう! |
ベルベット | だったらこれはどう! |
ヴァン | 遅い! |
ベルベット | くっ…! |
コレット | みんな…… |
| |
ラザリス | … |
コレット | …わたしは、ここにいるよ。あなたを守るために |
ラザリス | 僕が、君なんかに? |
ラザリス | ……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ! |
コレット | …覚えてる?ブランの花束を渡した事 |
ラザリス | 花…? |
コレット | 私は宮廷神子になって、あなたを助けたい…支えたいって思ったんだ |
ラザリス | ああ…僕がそう仕向けたからね |
コレット | 今も、そう思ってるよ。あなたは苦しんでるから |
コレット | 傍にいて助けたいって思う気持ちは、変わらないよ |
ラザリス | ……っ… |
ヴァン | ──どうした?お前達の力は所詮、その程度か |
レイヴン | くっ…さすがね…!一筋縄じゃいかないか |
スレイ | 次で決めよう。力を合わせれば必ず倒せる…! |
ミクリオ | スレイ。まずは僕達で奴を引き付けよう |
カイル | その後、オレ達が全力で叩き込む! |
ティア | 半端な力じゃかわされて反撃を食らうわ |
ベルベット | …わかってる。必ずあいつをぶっ飛ばすわよ! |
ラザリス | ……何故、君達は戦う? |
ラザリス | ヴァンを倒したところで、この世界の完成はもう揺るがない |
ラザリス | どうしてこんな無意味な戦いを… |
コレット | ラザリスを、守りたいから。あなたは私達の世界そのものだから |
コレット | 一緒に、生き抜きたいの |
ラザリス | …… |
| |
ヴァン | 争いしか生まぬ世界のために、まだ歯向かうか! |
ミクリオ | 苦しい過去を忘れ、憎しみのない世界で生きるのは確かに楽だろう…だが! |
スレイ | そんな事しなくてもオレ達は自分の力で乗り越えられる! |
スレイ・ミクリオ | はあああああっ!! |
| ガキンッ! |
ヴァン | ぐっ…!だが、その程度…! |
ヴァン | せあ…っ! |
| ザシュ! |
スレイ | くっ… |
ミクリオ | しまった、神依が…! |
ヴァン | これで終わり──… |
??? | いいえ、まだよ! |
| バシュウ! |
ヴァン | くっ…!ティアか |
ティア | 兄さん… |
ティア | 私、兄さんがたくさんの争いの中でどれだけ辛い思いをしたか、わかってるつもりよ。だけど… |
ティア | 元の世界にはかけがえのないものもたくさんあった |
ティア | 築き上げてきた友情、仲間との絆とたくさんの笑顔、それに、家族で過ごした思い出…… |
ティア | それら全てをなくしていいと、本気でそう思ってるの!? |
ヴァン | …くどいぞ、ティア! |
ヴァン | 何度も言ったはずだ。大義の前に、そのような些細な事は捨て置かれるものだ! |
レイヴン | はっ…笑わせるね。おたくの都合を押し付けるなっての! |
| ヒュンッ! |
ヴァン | ふん、温い── |
レイヴン | 今よ、少年! |
ヴァン | なっ…、後ろか!? |
カイル | 父さんやみんなの歩んできた歴史を全部なかった事にするなんて、オレが許さない! |
カイル | はああっ! |
| ザシュッ! |
ジュード | 僕は…逃げないよ!自分で信じた未来を、守りたいから! |
| ドゴッ! |
ヴァン | ぐはっ…! |
ヴァン | はあ、はあ…愚かな…… |
ヴァン | だが、私は絶対に負けん…! |
ジュード | まだ立っていられるなんて…! |
ミクリオ | 一体どこにそんな力が… |
ベルベット | でも、目的のため、他を斬り捨てる奴には負けないわ |
ベルベット | でしょ、スレイ? |
スレイ | ベルベット…。ああ、そうだな! |
ヴァン | ──私の理想を邪魔する者は、全て消し去ってくれる! |
スレイ | そうはさせない!オレ達はオレ達の世界に戻るんだ! |
ベルベット | ええ、この世界を壊してでもね…! |
ベルベット | スレイ、行くわよ! |
スレイ | ああ! |
ベルベット | はあああああっ! |
| |
| |
ヴァン | ぐあああ…っ…! |
| |
ヴァン | ……う…、ぐ… |
ヴァン | …見事…だ…… |
ヴァン | …だが、それでも……我が大義は成し遂げねばならぬ…! |
ヴァン | ぬおおおおおおおっ…! |
ティア | …!まずい、すごいエネルギーだわ…! |
ヴァン | …この世界は、我が希望…!この身に代えても……必ず、守ってみせよう…!! |
ミクリオ | まさか、僕達諸共、道連れにする気じゃ… |
ベルベット | くっ、そんな事── |
ヴァン | ……ふっ、…もう遅い…! |
| |
??? | うわああああああ! |
| ピキ…ピキピキ… |
ヴァン | ぐぅっ…! |
スレイ | ヴァンが晶化!?もしかして、これ── |
| |
ラザリス | …はあ…はあ…っ… |
ベルベット | ラザリス… |
ヴァン | ぐっ…!…お前にまだ、これほどの力が残っていたとはな…… |
ラザリス | 僕を…見くびるからだよ |
| ピシッ…ピシッ…! |
コレット | ラザリス…!そんな… |
ヴァン | 相討ちか……ふ、それも悪くない……。お前さえ消えれば、私の役目は… |
ラザリス | ふっ…、君の思い通りにはならない、よ… |
ヴァン | …!? |
| ピシッ…ピシッ…! |
ヴァン | 何故だ…!まさかほだされたとでも── |
ラザリス | これは…僕の世界だ。君のじゃない… |
ヴァン | くっ…、おのれ……! |
ヴァン | お前達もじきに気づく…!この世界が……唯一の…答えだった、と── |
| ピキピキピキ…!! |
カイル | ヴァンが、完全に晶化した… |
ラザリス | ……っ、う…! |
コレット | ラザリス…!…助けてくれて、ありがとう |
ラザリス | 世界の、意志… |
| ピキピキピキ… |
ジュード | 晶化が… |
コレット | そんな…、駄目だよ!だってせっかく…… |
ラザリス | 僕には、もう、何も見えない…わからないんだ… |
ラザリス | あとは…君達の、好きにすればいい… |
コレット | ラザリス… |
ラザリス | …さようなら、…僕の…世界…… |
| ピシッ── |
カイル | ──っ!ラザリスに、ひびが…! |
| |
| ガシャーーン! |
コレット | そんな…嘘…ラザリス… |
コレット | ラザリスーーーーーー!! |
| |
コレット | ラザリス… |
スレイ | …ラザリスはオレ達を助けてくれたの、かな… |
レイヴン | 結果的にはそういう事になるのかね |
ジュード | 何て言うか…やりきれないね。まさかこんな幕引きになるなんて |
ティア | 真相はわからないけど…ラザリスに感謝すべきなのかもしれないわね |
コレット | …… |
カイル | …コレット、大丈夫? |
コレット | ラザリスには犠牲になってほしくなかった… |
コレット | 私も…私の中にある「世界の意志」も… |
スレイ | うん、オレもそう思うよ… |
コレット | … |
ベルベット | 感傷に浸ってる時間はないわ |
ベルベット | あたし達にはまだやる事がある |
ミクリオ | ベルベットの言う通りだ。二人はいなくなったけど、元の世界へ戻せたわけじゃない |
スレイ | ああ…。でも、ラザリスがいない今どうやって… |
ジュード | ん?あれ…ちょっとみんな、窓の外を見て! |
ティア | 空を舞っているのは…光の粒子…?あれは一体…… |
| |
| |
ジュード | すごい…まるで、世界が溶けていくみたいだ… |
レイヴン | …ん?ねえ、あそこに見え始めてる雪の大陸って、ひょっとして… |
ミクリオ | ア・ジュールだ…!間違いないよ |
ベルベット | それってつまり、世界が元に戻り始めてるって事…? |
ティア | でもどうして…?特異点がなくなった今、手の打ちようはないはずじゃ… |
スタン | おーい、みんな! |
カイル | スタンさん!?それに、他のみんなまで! |
ヴェイグ | ようやく追いついた。無事終わったみたいだな… |
ゼロス | さすがにボロボロみたいだけどな |
ルドガー | 世界が元に戻りかけてるって事は、決着がついたんだろう? |
ミクリオ | 確かにラザリスとヴァンは倒した。…けど、これがどういう事かは僕達にも… |
エリーゼ | 何があったんですか? |
スタン | …そっか。じゃあ、世界が元に戻り始めた理由はわからないって事か |
コレット | ううん、きっとラザリスだよ。私達に世界を返してくれたんだと思う |
コレット | …私にはわかるよ |
ルドガー | ラザリスが…? |
ミクリオ | 確かにこの世界の創造主であるラザリスなら、可能かもしれないが… |
エリーゼ | でも、ラザリスは砕けて… |
スタン | …エリーゼ、俺達に出来る事は、悲しむ事ばかりじゃない |
ヴェイグ | ああ。ラザリスへの宣言通りオレ達は世界をちゃんと平和に導いていかなければならない |
スレイ | うん。時間はかかるかもしれないけど、でも、絶対実現させないと |
スレイ | それがオレ達の使命だと思う |
ベルベット | …そうね。またこんな厄介事を起こされても面倒だし |
コレット | ラザリスにもうあんな想いをさせないためにも頑張らないと |
レイヴン | …そういえば、青年達とは途中で会わなかった? |
ルドガー | ユーリ達?いや、会わなかったけど… |
スレイ | どこ行ったんだろう?お礼を言いたかったんだけど… |
ゼロス | ま、あいつらなら大丈夫だろ |
スタン | ああ!元の世界に戻ったらまた会えるし、その時に言えばいいんじゃないか? |
ジュード | 元の世界でお礼を、か…。本当にそれが出来るのかな… |
カイル | …どういう事? |
ミクリオ | この世界での記憶を維持しておくのは難しいかもって事だろう? |
ジュード | …うん。世界が元に戻れば記憶自体もその世界のものに戻る、そう考えるのが自然かなって |
エリーゼ | じゃあ、この世界での旅も…みんなとの思い出も全部忘れてしまうんですか…? |
ジュード | 断定は出来ないけど…覚悟はしておいた方がいいと思う |
ティア | …!?光の粒子が…、これは一体… |
エリーゼ | わたし達に集まってきています…!溶けていく世界と同じ… |
ルドガー | 俺達も、元の世界に戻ろうとしている…? |
ヴェイグ | おそらく… |
スレイ | じゃあ、これが…みんなとの最後の別れになるかもって事? |
ベルベット | ……帰れるなら、いいわ。それに── |
ベルベット | 記憶がなくなるかどうかだって誰にもわからない。それこそ、帰ってみないとね |
ゼロス | そういう事!俺さま元の世界に戻っても、絶対にベルベットちゃんの事は忘れないぜ! |
レイヴン | おっさんも同感。こーんなクールビューティー、忘れられるわけないってね |
ジュード | はは…。二人とはちょっと違うけど、僕もこの旅は忘れられない…いや、忘れたくはないかな |
ミクリオ | …ああ。僕もそう思うよ |
コレット | 光が強くなってく…! |
エリーゼ | ヴェイグに光の粒子が集まって……!まさか…… |
ヴェイグ | …時間のようだな。なら、一言だけ言わせてくれ |
ヴェイグ | …お前達のお蔭でクレアも元に戻るはずだ。感謝をしてもしきれない |
ヴェイグ | 共に戦った事は忘れない。…向こうでもよろしくな |
カイル | うわ、次はオレみたいだ。あの…みんな、今までいろいろとありがとうございました |
カイル | レイヴンさん、オレ、ちゃんと英雄になるから! |
カイル | あ、あと父さ…スタンさん!その、えっと…あ、はは…やっぱ何でもないです。それじゃあ! |
スタン | カイル…何言おうとしたんだろう?ま、いいか。また会えるだろうし |
スタン | リオンとか、ここに来られなかった人達にもお別れをしたかったけどな。とりあえず、また会おう! |
ゼロス | ティアちゃん、ベルベットちゃん、エリーゼちゃん、コレットちゃん、キミ達のお蔭で世界は救われたぜ |
ゼロス | あー、あと野郎達にも一応お礼を言っておくかな。今回の旅、まあまあ悪くなかったぜ |
ジュード | ゼロスは変わらないな…。でもそれがゼロスのいいところだよね |
ジュード | ベルベット…。君のお蔭でミラと向き合えた。ありがとう、向こうでもよろしくね |
エリーゼ | わたし…すごく成長出来たような気がします。みんなとの旅のお蔭です |
エリーゼ | だから、絶対に忘れたくありません。また会えるのを楽しみにしてますね! |
レイヴン | おっさんも、若者達にパワーもらっちゃってすっかり若返っちゃったわ |
レイヴン | 大事な事はきっちり終わらせたし悔いなしって感じ!じゃね、みんな。また会いましょ |
ティア | 私もみんなには感謝してる。本当にありがとう。兄さんの事は何て言えばいいのか… |
ティア | でも、家族だからこそ想いは継ぎたいと思うの。兄さんとは違ったやり方で… |
コレット | うん…。私も誰もが笑える世界にしていきたいって思うよ |
ルドガー | ああ。みんなで平和な世界を築いていこう。俺達なら、大丈夫だ |
ルドガー | 手始めに、元の世界に戻ったらエルに特製のスープを作ろう。みんなも食べに来てくれ。待ってるよ |
ミクリオ | …どうやら僕も、元の世界に戻る時が来たみたいだ。記憶が消えたら残念だけど… |
ミクリオ | でも、世界を救えて本当によかった。スレイ、一足先に帰っているよ |
スレイ | ああ!またな、ミクリオ! |
スレイ | …っと、オレももう行かないといけないみたいだ |
スレイ | ベルベット…君と旅が出来て、本当によかった。ありがとう |
ベルベット | あたしも。あんたにはいろいろ驚かされたけどね |
スレイ | これまでの旅が、オレ達全員の絆をつないでくれたんだ。それはこの先もきっと変わらない |
スレイ | また会おう!それじゃ! |
ベルベット | ……絆、か |
ベルベット | あんた達との旅、悪くなかったわ。…ありがとね |
| |
エリーゼ | ──ジュード! |
ジュード | あれ…エリーゼ?それにルドガーとヴェイグまで。どうかしたの? |
ルドガー | ほら、差し入れの特製スープだ。ジュードにも食べてほしくて作ってきたんだ |
ヴェイグ | オレからもあるぞ。クレアがピーチパイを焼いてくれた |
ヴェイグ | 白桃のシロップ漬けが安くなってたから、大量に作ってしまったらしい |
ジュード | ありがとう!今日はご馳走だね |
ルドガー | そう言えば、クレアも無事戻ったみたいでよかったよ |
ヴェイグ | ああ、みんなのお蔭だ。晶化した人は勿論木々や草花も全て元に戻ったようだ |
エリーゼ | 本当によかった…。大事な人も、大切な記憶ももう二度と失いたくないですね… |
ルドガー | ああ、だからこそこの平和は守らないと |
ジュード | そうだね。みんなが出来る事を少しずつ頑張ればいつかきっと… |
| |
カイル | スタンさーん! |
スタン | カイルじゃないか!どうだ?ルイニス街にはそろそろ慣れたか? |
カイル | はい!けど、えっと、その…。オレ達そろそろ自分達の故郷に帰ろうって事になって… |
カイル | それで…お別れに来たんです! |
スタン | そうなのか…。残念だけど、仕方ないよな |
カイル | オレ、スタンさんみたいな英雄になりたいと思います。強くて格好いい英雄に! |
カイル | それに、一緒に旅をしたみんなもすごい格好よかった…。憧れの英雄がたくさん出来ました! |
スタン | ははっ。そっか、よかった!でも、みんなすごい人達だって事は俺も知ってるよ |
スタン | カイルならきっとなれるさ。強くて格好いい、立派な英雄に! |
カイル | はい!オレ、頑張ります! |
カイル | …それじゃあ、リアラ達が待ってるから行きます!スタンさん、お元気で! |
カイル | ……本当にありがとう、父さん |
| |
レイヴン | …いや~、よかったよかった。こうして平和に酔えるのも世界が元に戻ったお蔭だわ~ |
ユーリ | なーに言ってんだ。向こうでもしょっちゅうベロベロだったじゃねぇか |
レイヴン | それはそれ、これはこれ! |
レイヴン | …それにしてもまさか青年が例の世界の事、ちゃんと覚えてるなんてね~ |
レイヴン | 大抵の人は忘れてるみたいなのに。もしかして、おっさん達は向こうで記憶を取り戻してたから~、とか? |
ユーリ | さあな。理屈はわかんねぇけど |
ユーリ | それはそうと、うちの王様も晶化から復活したって話だ |
レイヴン | 聞いた聞いた。ウィンドル王の復帰で四大国の復興も進んでるし、世は全て事もなし!ってね |
ユーリ | だな。…っておいおい、おっさん。飲みすぎは禁物だぜ。もう若くないんだからよ |
レイヴン | 大丈夫、大丈夫。若い子にたくさん刺激受けて、おっさんも若くなってるからさ~ |
| |
ロイド | ──そっか。それじゃあ、天啓の石碑は全部なくなっちまったんだな |
ゼロス | ああ。まあ、ラザリスが作ってたもんだって言うしな |
ロイド | ラザリスがいなくなって、一緒に消えるのも当然って事か… |
ロイド | …コレット、ラザリスの事…大丈夫か? |
コレット | うん、だいじょぶだよ |
コレット | …私ね、ラザリスは今もこの世界をずっと見ている、そんな気がするの |
コレット | 石碑はなくなったけどラザリスがいた事は本当だよ |
コレット | だからちゃんと頑張らないと。約束を守れるように |
ロイド | …コレットの言う通りだな。よーし、ラザリスに胸張れるように俺達も頑張ろうぜ! |
ゼロス | おうよ。まーたおっかねぇ事企まれちゃたまんねぇからな |
コレット | …うん! |
| |
スレイ | うーん…!この辺りまで来ると、帰って来たって感じがするよな! |
ミクリオ | ジイジは心配しているだろうね。早い内に、顔を見せておこう |
スレイ | ああ!で、それが終わったら… |
ミクリオ | 新しい旅、だろ。ライラも誘って |
スレイ | うん、約束したからな。でも…また旅に出るって言ったら、ジイジに怒られるかな…? |
ミクリオ | どうだろうね。導師になった君が世界を巡る旅に出るのは、当然の事だと思うけど… |
スレイ | まあ、何とか説得してみるよ |
ミクリオ | お手並み拝見、だね。じゃあ、僕はその間に身支度を整えておくよ |
スレイ | うん、わかった。それと、…ありがとなミクリオ |
ミクリオ | お礼なんていいよ。僕がやりたくてやってる事だ。勿論、これからの旅も |
ミクリオ | だから、お礼じゃなくて…改めてよろしく頼むよ、スレイ |
スレイ | ミクリオ…ああ、こちらこそよろしく! |
| |
ティア | ──ベルベット、行くのね |
ベルベット | ええ |
ティア | 一言だけ、お礼を言わせて |
| |
ティア | あの世界では多くの事であなたに助けられたわ。…ありがとう、ベルベット |
ベルベット | 感謝される事じゃないわ。あたしはあたしのやりたいようにやっただけ |
ベルベット | 目の前の邪魔な敵を倒そうとしたら、あんた達が一緒になった、それだけよ |
ティア | …それでも、感謝してるわ。本当にありがとう |
ベルベット | … |
ベルベット | …言いたい事はそれだけ?なら、あたしはもう行くわ── |
ティア | 待って!…また、会えるわよね? |
ベルベット | どうかしら。別に会う理由なんてないもの |
ティア | …ベルベット |
ベルベット | でもそうね…また、いつか…どこかで会えたらいいわね |