| Name | Dialogue |
| scene1 | 夢に見た君 |
| ファラ | リンネル村まであと少しだね。メルディ、驚くかなあ? |
| リッド | そりゃ、驚くだろ。何の連絡もせずに来たからな。会うのはいつぶりだっけ? |
| ファラ | いつだったかな。キール、覚えてる? |
| キール | …… |
| リッド | おい、キール。さっきから全然喋んねぇけどどうしたんだよ |
| ファラ | 結構歩いてきたし、疲れちゃった? |
| キール | いや…。少し考え事をしてただけだ |
| ファラ | もしかして、コルテア街を出る時に気にしてた夢の事? |
| ファラ | 確か…リンネル村が炎に包まれてメルディが危険な目に遭ってる夢を見たんだよね? |
| キール | …ああ |
| リッド | おまえがいきなりデカい荷物背負って「リンネル村に行く」って言い出した時は驚いたぜ |
| リッド | その時も言ったけど夢に見ただけでここまでするって珍しいよな |
| キール | ぼくだって非合理的なのはわかってるさ |
| キール | ただ、胸騒ぎがして仕方がないんだ。手紙を書く事も考えたが、実際に訪ねていく方が早いだろう |
| ファラ | キールはメルディが心配なんだよ。いいじゃない、わたし達も久しぶりに友達に会えるんだから |
| キール | それに、今回の旅はア・ジュールの調査も兼ねている。無駄足にはならないさ |
| リッド | 調査って言ってもなぁ… |
| リッド | シルヴァラントみたいに地震が起こってる様子はなさそうだぜ? |
| キール | そう結論付けるのは早計だ。ぼく達はア・ジュールに到着したばかりだからな |
| キール | それに異変は地震だけとは限らない。シルヴァラントでも突然の豪雨という現象が確認されているだろう |
| ファラ | 「一見無関係の自然現象に見えるが 同時期に群発するのには 共通の因果がある」…だっけ |
| ファラ | 道中、何度も聞かされたから覚えちゃった |
| キール | ああ。もっとも、あくまで推測の段階だ。だから裏付け調査が必要なんだ |
| キール | それに…この災害の先に何が起ころうとしているのかも確かめなければならない |
| リッド | 災害の先に…って、もっと大きな何かが起こる前触れって事か? |
| キール | …断言は出来ない。ただ、大精霊の影響で起きていた以前の異変と類似している点が多い |
| キール | 災害の原因が大精霊に関係している可能性もあるとぼくは考えている |
| リッド | ──って事は、まさか、また魔導器が!? |
| キール | だから結論を急ぐな。可能性は否定しないが、ぼくの意見としては違うと思う |
| リッド | だったら何が原因なんだよ |
| キール | それがわからないから調査をするんだって、今説明したばかりだろう |
| リッド | つまり何もわかってないんだな |
| キール | わかっていたら調査の必要はないだろう… |
| ファラ | まあまあ。キールが調査を急ぎたい理由はよくわかったよ |
| ファラ | 前みたいに火山が噴火したり湖が凍ったりしたら大変な事になっちゃうもんね |
| キール | そうなる前に、異変についてもっと詳しく調べる必要がある |
| リッド | そんじゃ、リンネル村でメルディに会ったら変わった事がなかったか聞いてみるか |
| キール | ああ、それがいいだろう |
| | |
| リッド | ん…?雨が近いな |
| キール | わかるのか? |
| リッド | これでも猟師だからな。森の天候の変化には敏感なんだ |
| ファラ | 雪じゃなくて雨?降るの? |
| リッド | 雨だけど、風向きからいってこのあたりは大丈夫だと思うぜ |
| リッド | ほら、あっちの方に黒い雲が見えるだろ? |
| ファラ | ほんとだー |
| キール | あの方角は… |
| ファラ | わっ、光った! |
| リッド | 雷か? |
| キール | …… |
| | |
| | ドドーン! |
| キール | …!二人とも、急ぐぞ! |
| リッド | 何だ、雷が怖いのか? |
| キール | 違う。12秒だったんだ |
| ファラ | 12秒…? |
| キール | 光ってから音が聞こえるまでだ。あの方角に、音速で12秒の距離… |
| | |
| キール | 雷が落ちた場所は、リンネル村のあたりだ! |
| リッド | まじかよ… |
| ファラ | 大変! |
| キール | 急ごう! |
| scene2 | 夢に見た君 |
| キール | 村が燃えてる…!まさか、夢の通りに… |
| ファラ | 大変!早く火を消さなきゃ! |
| リッド | 二人とも落ち着けって。こういう時に焦ると危険だ |
| ファラ | でも、急がないと…! |
| リッド | ああ。でもオレ達はどこで水を汲めばいいかもわかんねぇだろ? |
| ファラ | そ、そうだね。じゃあ村の人に声をかけて消火を手伝おう! |
| キール | …あそこにいるの、レイアじゃないか? |
| ファラ | 本当だ!おーい! |
| レイア | リッド、ファラ、キール!村に来てたんだね、怪我はない? |
| リッド | ああ。大丈夫だ。雷が落ちたように見えたんだがこの火事はそれが原因なのか? |
| レイア | そうなの。近くの森に雷が落ちて、燃え広がってきちゃって… |
| ファラ | 早く消し止めなきゃ!消火、手伝うよ! |
| レイア | ありがとう! |
| キール | メルディはどこに…? |
| レイア | それが、火事になってから見かけてなくて…逃げ遅れてないといいけど |
| キール | …!メルディ! |
| リッド | 待てよ!どこ行くつもりだ? |
| キール | 離してくれ!メルディを捜さないと…! |
| リッド | メルディが心配な気持ちはわかるけど少し落ち着け。とっくに避難してるかもしれないだろ |
| キール | 夢で見た光景に似てるんだ。このままじゃ、本当に… |
| クィッキー | クィッキー! |
| キール | …!クィッキー! |
| クィッキー | クィッキー!クィック、クィック!クィッキー! |
| リッド | クィッキー!メルディと一緒じゃないのか!? |
| クィッキー | クィッキー! |
| ファラ | ついて来いって言ってるみたい |
| レイア | 行こう!メルディがいるのかも! |
| メルディ | ──スプレッド! |
| | ザバァーン! |
| メルディ | これで火はこっち来ないよ。怪我、大丈夫か? |
| 村の男 | ああ。ちょっと足を捻っただけだ。この程度で動けねぇとは、情けねぇ… |
| メルディ | ごめんな。メルディ、運んでいけない |
| メルディ | クィッキーが助け呼んでくれてるからもう少し辛抱よ |
| レイア | メルディー!こっちにいるのー? |
| メルディ | この声、レイアか?こっちだよぅ! |
| メルディ | バイバ!キール、リッド、ファラ!どうしているか!? |
| キール | 話は後だ。怪我はないか? |
| メルディ | メルディは大丈夫だよー |
| 村の男 | すまねぇ。俺が動けなくなっちまったんでメルディが守ってくれてたんだ |
| メルディ | メルディ一人では運べないからクィッキーに人呼んでもらってたよ |
| レイア | そういう事だったんだね |
| リッド | オレの肩につかまれ。安全なとこまで行こう |
| 村の男 | ああ。助かるよ。ありがとう |
| レイア | わたし達は消火しながら他に怪我人がいないか確認してまわろう! |
| ファラ | うん! |
| メルディ | メルディ、水が術で消火するよ! |
| キール | ぼくも手伝おう! |
| | |
| リッド | ふー。何とか、火は消えたみてぇだな |
| レイア | リッド達が手伝ってくれたお蔭で助かったよ。ありがとう |
| リッド | 別に、大した事してねぇって。消火も村の人達をちょっと手伝っただけだし |
| キール | ああ。とても効率的な消火活動だった。村の人達は訓練でもしているのか? |
| レイア | うん。前にも村が燃えた事があったからいろいろ備えてたんだ |
| レイア | 怪我人もいるけどみんな軽傷で済んだみたい |
| メルディ | よかったよぅ |
| ファラ | うん。よかったぁ… |
| メルディ | ファラ!? |
| リッド | どうした?大丈夫か |
| ファラ | うん、平気。安心したら、力が抜けちゃって… |
| レイア | …そっか、村に着くなりこの騒動だったもんね。巻き込んじゃってごめんね |
| レイア | 村の事はもう大丈夫だから、ゆっくり休んでてよ |
| メルディ | それならメルディが家来るよ。火もつかなかったから無事!ゆっくり休めるよぅ |
| キール | そうさせてもらおう。ぼくもヘトヘトだし、落ち着いた場所で話もしたい |
| リッド | 決まりだな。ファラ、メルディの家まで歩けるか? |
| ファラ | うん、もう平気! |
| レイア | わたしは村の片付けを手伝うから、また後で。ゆっくり休んでね |
| | |
| キール | ──やっと落ち着いて話せるな。メルディ、元気だったか? |
| メルディ | はいな!げんきだったよ!メルディ、またキール達に会えてとてもうれしー! |
| メルディ | みんな、どーしてリンネル村に来たか? |
| ファラ | キールがね、メルディが困ってる夢を見たんだって |
| ファラ | だから心配で、みんなでメルディに会いに来たんだよ |
| メルディ | バイバ!キールもメルディが夢、見たか? |
| メルディ | メルディも、キールが会いに来てくれる夢、見たよ! |
| リッド | メルディも? |
| ファラ | へえ…お互いに夢を見てたなんて不思議だね |
| メルディ | キール、ありがとな!メルディが事、心配してくれて |
| キール | …感謝の言葉は「ありがとう」!「な」は余計って言ってるだろう |
| リッド | まったく、素直じゃねぇなぁ |
| ファラ | ところで、メルディ。森に雷が落ちたって言ってたけど…それって、よくある事なの? |
| メルディ | ううん。こんな事初めて。突然空が真っ暗になって、強い雨が降り始めたな |
| メルディ | そしたら空が光って、ドカーン!メルディ、びっくりしたよー |
| クィッキー | クィイ… |
| メルディ | 慌てて外に出たら空はもう晴れてたよぅ |
| キール | そういえば、ぼく達が村についた時は黒い雲は消えていたな。リッド、森ではよくある事なのか? |
| リッド | 急に天気が変わる事はあるけどさすがに極端過ぎるだろ。そんなのオレも聞いた事ねぇぜ |
| キール | …もしかしたら、その雷もシルヴァラントで起こっているような異変と同種のものかもしれないな |
| メルディ | キール達が街も、雷落ちたか? |
| リッド | 雷は落ちてねぇけど、雨が大量に降ったり地震が起きたりしてるんだよ |
| ファラ | キールは、自然災害の原因が大精霊にあるんじゃないかって考えてるんだって |
| メルディ | …! |
| メルディ | また、あの時みたいに大地震が起きるのか…? |
| キール | …ぼくの考えはあくまで推測にすぎない。そう不安がる事はないさ |
| メルディ | はいな!キールがそう言うなら、心配ないな |
| メルディ | みんな、これからメルディが家でゆっくりしていくといいよ! |
| キール | いや…こんな状況で、村に居座ると迷惑が掛かるだろう |
| キール | ぼく達はこれからア・ジュールを回って他に異変が起きていないか調べるつもりだ |
| キール | 当初の予定にはなかったが…ウィンドルやキムラスカの様子も見に行くべきかもしれないな |
| メルディ | それなら、メルディも一緒に行くよ! |
| メルディ | 異変の調査、手伝わせてほしいな! |
| キール | 一緒に?…いや、でも村の事もあるだろ? |
| リッド | いいんじゃねぇか?メルディなら、オレ達よりア・ジュールに詳しいだろ |
| ファラ | メルディは調査に一緒に行くってレイアに伝えておかないとね |
| キール | おい、勝手に… |
| メルディ | メルディ、キール達と一緒にまた旅がしたいよ。…だめか? |
| キール | …わかったよ |
| | |
| メルディ | ワイール!キール、ありがとな! |
| キール | わ、わ、くっつくな! |
| メルディ | あ!待ってよぅ、キール! |
| クィッキー | クィッキー! |
| ファラ | あはは!賑やかな旅になりそうだね |
| リッド | まったくだ |
| | 天災の因果 |
| 騎士 | お待ちしておりました。陛下は来客中のため待合室までご運内いたします |
| ルドガー | よろしくお願いします |
| エル | うわー、お城広ーい!きれーい!! |
| エル | ──わっ、声がすごいひびいてる。うるさかったかな… |
| ルドガー | まぁ、もう少し静かな方がいいな。エルはお城初めてなんだっけ? |
| エル | うん。入るのは初めて!この前、ミクリオと一緒に来た時は中に入らなかったし |
| エル | ショーカの時はルドガーひとりでお城に行っちゃったし! |
| ルドガー | ショーカ…ああ、晶化現象の時か。そういえばあの時も一緒に行きたいって言ってたな |
| エル | エルは子どもだからってお留守番になっちゃったけど今回はエルも王様に呼ばれたもんね! |
| ルドガー | エルにとっては念願の城内か。でも、少し気をつけてくれよ |
| エル | もう、大丈夫!エル、場はワキマエてるもん |
| 騎士 | もしよければ陛下とのお話が終わった後、城内を見て回られますか? |
| エル | えっ、いいの!? |
| 騎士 | ええ。陛下からお二人をおもてなしするよう仰せつかってますから |
| エル | やったーっ! |
| エル | あっ! |
| エル | …大声出ちゃった |
| ルドガー | はは… |
| | |
| 騎士 | こちらの部屋でお待ちください |
| ルドガー | わかりました |
| エル | 中にいっぱい人がいる。もしかしてみんな、王様に会いに来たの? |
| 騎士 | ええ。特に最近は異変に関する報告や相談で謁見を希望される方が多いのです |
| エル | エルたちは呼ばれたんだからすぐなんだよね? |
| 騎士 | お嬢様のおっしゃる通りです。それでは陛下の手が空くまで今しばらくお待ちください |
| ルドガー | ありがとうございます |
| エル | えへへ、エルがオジョーサマだって |
| ルドガー | よかったな |
| | |
| ??? | あ、ルドガー!…と、もしかしてエル? |
| ルドガー | えっ…? |
| | |
| リッド | ほんとだ。奇遇だな、ルドガー |
| ルドガー | みんな…!久しぶりだな。リッドとキールはアヴァロン島以来か |
| ルドガー | ファラとメルディはもっと久しぶりだな。元気だったか? |
| メルディ | はいな。元気だよー! |
| エル | ルドガー。この人たちは? |
| ルドガー | ああ、エルは初めて会うんだったな。リッドにファラ、キール、メルディだ |
| エル | メルディは聞いた事ある。レイアの友達だよね! |
| メルディ | バイバ!レイア知ってるか! |
| クィッキー | クィッキー! |
| エル | わ!かわいい! |
| メルディ | クィッキーだよぅ。メルディが大切なともだち |
| リッド | きっとレイアの名前に反応したんだな |
| エル | あなたもレイアと友達なの?じゃあ、エルとも友達だね! |
| クィッキー | クィッキー♪ |
| ルドガー | 他のみんなの事も前に話したよな。ほら、ファラはエルへのお土産を一緒に選んでくれた人だ |
| エル | ネコの人形! |
| ファラ | あなたがエルだったんだね。お土産は気に入ってくれた? |
| エル | うん、ずっと大事にしてるよ! |
| ルドガー | リッドとキールの話も前に聞かせただろう? |
| エル | そういえば、聞いた事あるかも |
| リッド | オレがリッドで、こっちがキールだ。よろしくな |
| キール | よろしく |
| エル | うん。エルはエルだよ!よろしくね! |
| リッド | ここに来たって事はルドガー達も陛下に用事があるのか? |
| ルドガー | ああ。実は陛下から呼ばれて来たんだ。異変についての話だと思うんだけど… |
| キール | …という事は、異変について何か知っているのか? |
| ルドガー | 確証はないんだけど関係はあると思う |
| リッド | 実はオレ達も異変について調べてんだ。陛下と会うのもその関係でさ |
| メルディ | ずっと待ってるよぅ、でも、次ぐらいメルディ達が順番! |
| ルドガー | そうだったのか |
| キール | よかったら知っている事を教えてくれないか? |
| ルドガー | ああ。俺もいろいろと気になってるからみんなが調べた事も教えてほしい |
| キール | わかった。情報交換と行こう |
| | |
| キール | なるほど、分史世界か…。異変との関係性は不明だが無関係とも思えないな |
| ルドガー | キールもそう思うか。この話を陛下にして、異変の原因究明が進めばいいんだけど |
| キール | 検証するべき事がいくつかあるが、可能性は高いだろう |
| 騎士 | ご歓談のところ失礼します。ルドガー様、謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします |
| メルディ | ルドガー達が先みたいな |
| ファラ | 王様から呼ばれたって言ってたもんね |
| キール | ルドガー。異変の話をするのならぼく達も一緒に話した方が早いんじゃないか? |
| ルドガー | 確かにそうだな |
| ルドガー | すみません。彼らも一緒に謁見して構いませんか? |
| 騎士 | わかりました。そちらの方々の順番はルドガー様の次でしたので問題ないでしょう |
| 騎士 | ご案内いたします。みなさまご一緒にお越しください |
| ルドガー | ありがとうございます |
| エル | やった!みんなで王様のところに行こー! |
| | |
| リチャード | なるほど…。分史世界でそんな事があったんだね |
| リチャード | それに負の因子…。それは一体、何なんだい? |
| ルドガー | 詳しい事はわかりません。ただ、スレイに異変をもたらしていた原因なのは確かです |
| ルドガー | それに、キール達の話を聞く限り世界で異変が起こり始めた時期とも一致しています |
| ルドガー | 勿論、偶然かも知れませんが… |
| リチャード | 僕もルドガーと同意見だよ。リッド達は、世界の異変について調べてると言ったね? |
| リッド | オレ達…と言ってもほとんどキールが調べてるようなもんですけど |
| リチャード | キール。君の見解を教えてくれないか |
| キール | はい。まず前提として、これは可能性であり結論ではありません |
| リチャード | ああ、それでかまわないよ |
| キール | では…ルドガーの言う「負の因子」は異変と密接な関係があると思います |
| リチャード | なるほど。何か繋がりが見えたんだね |
| キール | はい。まず、異変についてですが、地震や豪雨など現象は様々でも共通する因果があると考えています |
| キール | ぼくはシルヴァラントとア・ジュールで実際に異変を体験してその事に確信を抱き始めていました |
| リチャード | その共通の因果というのが負の因子だというのかい? |
| キール | いえ…ぼくの考えでは、共通の因果というのは世界のマナである可能性が高い |
| キール | かつて大精霊が暴走した時と同様に… |
| キール | そしてスレイに回復術が効かなかったという話から、おそらく負の因子もマナの異常を伴った現象です |
| キール | それが異変の原因なのか、あるいは異変の結果の一つなのか、そこまではわかりません |
| リチャード | なるほど… |
| リチャード | シルヴァラントやア・ジュール…そしてキムラスカでも災害が続いている事は聞いている |
| リチャード | こちらに入ってくる情報は確かに大精霊が暴走した時と似たようなものばかりだった |
| リッド | じゃあ、やっぱり大精霊が原因なんですか?それとも魔導器がまた… |
| リチャード | 大精霊はともかく、魔導器の心配はないよ |
| リチャード | 僕も気になって調べさせたがかつてのように魔導器が使われた形跡はなかった |
| ファラ | もし負の因子が関係してるならスレイに何か影響が残ったりしてないでしょうか…? |
| リチャード | アスベルとエステリーゼから事情を聞いて、すぐにスレイの身体も診てもらったよ |
| リチャード | 医師も魔術師も、特におかしなところはないと言っていた |
| リチャード | 一緒に来たミクリオからも話は聞いたが、特に変わった事はないそうだ |
| エル | スレイ、ちゃんと元気なんだ。よかったね、ルドガー |
| ルドガー | ああ |
| キール | スレイが倒れたのはウィンドルでの事だったんだな? |
| ルドガー | えっ、ああ。そうだけど… |
| キール | 陛下。ぼくはウィンドル国内をもう少し調査してみたいと思います |
| キール | もしかするとどこかにマナの乱れた痕跡があるかもしれません |
| リチャード | わかった。調査しやすいように便宜を図ろう。何でも言ってくれ |
| キール | ありがとうございます |
| メルディ | ワイール!キールすごいな。王様公認で調査出来るか |
| エル | すごーい。えらい学者さんみたい |
| キール | 学者だよ。偉くはないけどね |
| リチャード | なら、ウィンドルに来ないかい?地位を用意して歓迎するよ |
| キール | いえ、ご厚意には感謝しますが、ぼくは高い地位よりも自由に研究出来る事が大事なので |
| リチャード | そうか。残念だけど、そんな君だからこそ調べられる事もあるのだろうね |
| キール | はい。高い地位でないと調べられない事は陛下にお願いします |
| リチャード | はは、確かにそれは僕の務めだね |
| リチャード | こちらでも引き続き調査を続ける。君達も何かわかったら、どんな些細な事でも報告して欲しい |
| キール | はい |
| ルドガー | わかりました。俺も負の因子の事、もう少し調べてみます |
| エル | エルも手伝うよ |
| リチャード | ああ、そうだ。エルさん、ルドガーの話に出た時計は今持ってるかい? |
| エル | うん。いつでも持ってるよ! |
| リチャード | よかったら少し見せてもらえるかな? |
| エル | いいけど…パパのだから大切にしてね |
| リチャード | ああ、勿論さ |
| エル | はい、これだよ |
| リチャード | ありがとう。…見たところ、普通の時計だな |
| キール | 反応する条件があるのかもしれません。次、ぼくにも見せてください |
| メルディ | メルディも見たい! |
| エル | うん。順番だよ |
| リチャード | 反応する条件…か。エルさん、前に反応した時の事を詳しく教えてくれるかい? |
| エル | えっと…ルルがスレイの寝てるベッドの上に乗っちゃったから、下ろそうと思って── |
| | |
| | ゴゴゴゴゴ… |
| | |
| リッド | な、なんだ!?地震か!? |
| エル | うわわぁっ!! |
| キール | …!危ない! |
| メルディ | バイバ! |
| ルドガー | メルディ!掴まれ! |
| エル | えっ、また時計が…! |
| リチャード | 反応した…! |
| ルドガー | まずい!エル…! |
| | ヒュンッ |
| メルディ | バイバ! |
| キール | 何だ、これは…! |
| エル | 吸い込まれる…!ルドガー! |
| ルドガー | エルーっ! |
| リチャード | エルさん! |
| リチャード | くっ、ダメだ、落ち── |
| ルドガー | エル!陛下! |
| キール | くっ、ダメだ…! |
| メルディ | 吸い込まれるよぅ…! |
| リッド | キール、掴まれ! |
| キール | ああ! |
| ファラ | メルディ、危ない! |
| メルディ | っ! |
| ファラ | 受け取って!リッド! |
| ファラ | きゃあっ! |
| メルディ | バイバ! |
| キール | 自分が落ちてどうするんだ! |
| リッド | ファラ!! |
| | シュン… |
| | |
| メルディ | おさまったか…? |
| キール | そう…みたいだな。 |
| メルディ | うん。でも、みんなが… |
| リッド | キール。さっきのって分史世界への入口だよな…? |
| キール | ああ、おそらく |
| リッド | ファラ…またかよ! |
| キール | ファラだけじゃない…。ルドガーにエル…それに陛下まで飲み込まれてしまった |
| リッド | まあ、ルドガーが一緒ならその内、戻ってくんだろ |
| キール | そういう問題じゃない。王が消えたんだぞ。国の一大事だ |
| メルディ | とても大変!どうする、キール |
| キール | どうするったって… |
| ??? | 今の騒ぎは…!?陛下、何事ですか!? |
| リッド | 誰か来たぞ! |
| メルディ | キールぅ…どうするか? |
| キール | 落ち着け。信じてもらえるかわからないがぼくが説明する |
| ??? | 陛下?入りますよ |
| | キィィィ… |
| リッド | …!おまえは… |
| | |
| フレン | ──つまり、突然現れた分史世界に繋がる穴に陛下やみんなが吸い込まれた、と |
| キール | ああ |
| リッド | 来たのがフレンで助かったぜ |
| フレン | ただ…僕が信じても他の人は信じないだろうね |
| フレン | 君達に疑いをかけられたら一介の騎士にはどうする事も出来ない |
| メルディ | メルディ達、どうなるか? |
| フレン | 悪いようにはしないよ |
| フレン | とはいえ、陛下が消えたとなると混乱が起こるのは避けられない。みだりに公にしない方がいいな… |
| リッド | けど、バレないか?謁見予定すげぇ入ってんだろ? |
| フレン | 確かにそうだね。まず、エステリーゼ様に相談してくるよ |
| フレン | この状況を信じてくれて陛下の代わりを務めていただけるのはエステリーゼ様だけだ |
| フレン | だから、それまではこの事が他に知られないよう内密にお願いしたい |
| キール | わかった。ぼく達はここに残るから急いでもらえると助かる |
| リッド | どうして一緒に行かねぇんだよ |
| キール | ぞろぞろ動いても怪しまれるだけだ。それにぼくは、もう一度分史世界への入口を開けられないか確かめたい |
| フレン | わかった。これからこの部屋は封鎖する |
| フレン | 封鎖は信頼出来る者に任せるから何かあれば扉の外にいる騎士に声をかけてくれ |
| キール | ああ。助かる。これで余計な邪魔はされずに調べられるな |
| フレン | それじゃあ、また後で |
| リッド | さて、と。とりあえず、いきなり逆賊扱いで牢屋入りって事はなくなったな |
| リッド | これからどうする? |
| メルディ | メルディ、ファラ達助けたい! |
| クィッキー | クィッキー! |
| キール | そうは言っても、現状は分史世界に行く手段がないからな。出来る事からやっていくしかない |
| キール | まずは分史世界への入口が開いたあたりを調べてみよう |
| | 冷たき牢獄 |
| | ヒュンッ |
| ファラ | わわっ! |
| リチャード | く…! |
| | ドサッ!ドサドサッ! |
| | シュン… |
| エル | つ、冷た…!これ…雪? |
| ルドガー | 大丈夫か、エル?ほら、手に掴まって |
| エル | うん。ありがと、ルドガー |
| ファラ | 王様、大丈夫ですか? |
| リチャード | ああ。雪がクッションになってくれたよ |
| リチャード | ここは…カン・バルクの近くか |
| ファラ | カン・バルク…ってア・ジュールの首都ですよね。こんな遠いところに、どうして… |
| ルドガー | あの時計の反応に、突然開いた穴…前の時と同じだった…。きっとここは、分史世界だ |
| ファラ | 分史世界… |
| リチャード | なるほど、ここが… |
| リチャード | …こちらに移動してきたのは僕達四人だけかな? |
| ファラ | はい。リッドとキールとメルディは穴から逃れてました |
| エル | ルドガー、エルたちちゃんと元の世界に戻れるの? |
| ルドガー | ああ、心配ないよ。まずはこの世界について調べてから── |
| | |
| ア・ジュール兵1 | 全員、動くな! |
| | チャキンッ |
| | |
| ルドガー | っ…! |
| ファラ | あ、あの…!わたし達、怪しい者じゃ… |
| ア・ジュール兵2 | お前達が空中からいきなり現れたと通報があったぞ。今まで何処に隠れていた? |
| ア・ジュール兵1 | 逆徒の一派だろう。連行する! |
| ファラ | ま、待って!この人がわからない?捕まえたら大問題だと思うよ! |
| リチャード | …… |
| ア・ジュール兵1 | …誰だ?身なりはいいようだが… |
| ア・ジュール兵2 | 貴族だか商人だか知らんがこっちも見逃せない状況だ。大人しくついて来い |
| ファラ | えぇっ!?リチャード陛下がわからないの!?どうして… |
| ルドガー | …ここは分史世界だ。時代や歴史が違えば、こういう事もあり得る |
| リチャード | 事情がわからない以上、今は大人しく従った方がよさそうだね |
| ア・ジュール兵2 | 何をしている。早く来るんだ |
| | |
| ファラ | まさか、こんな事になるなんて… |
| リチャード | 兵の話を聞く限り、僕達が城に攻め込んできたと思ったようだね |
| リチャード | 逆徒と言われたね。もしかすると内乱でも起きているのかもしれない |
| ルドガー | そうだとしたら話をしたところで信じてもらうのは難しいか… |
| ファラ | それにしても、王様をこんなところに閉じ込めるなんて… |
| リチャード | こういう経験も悪くないよ |
| エル | 王様ってマエムキだね |
| リチャード | 残念がっていても仕方ないからね |
| リチャード | ところで、ここでは僕の事をリチャードと呼んでくれないかい? |
| エル | どうして?王様は王様でしょ? |
| リチャード | ここでは違うようだからね。権力者に見られて危険な事になるのを避けたいんだ |
| リチャード | ここでは僕も対等な仲間として扱ってほしい。勿論、敬語もなしでお願いするよ |
| エル | そうなんだ。じゃあ、リチャードって呼ぶね! |
| リチャード | ありがとう。みんな、かまわないかな? |
| ファラ | わかりま──よろしくね、リチャード! |
| エル | それじゃあ、リチャードもエルと友達だね! |
| ルドガー | 改めてよろしく、リチャード |
| リチャード | ああ、よろしく頼むよ。ふふ、まさかこんな形でみんなと距離を縮められるとはね |
| リチャード | 後は無事に元の世界に戻れたら言う事はないんだが… |
| ファラ | そうだね…。ルドガー、わたし達が元の世界に戻るにはどうしたらいいのかな? |
| ルドガー | …この前と同じなら、負の因子を壊せば帰れるようになるかもしれない |
| リチャード | さっき話してくれた、スレイに憑りついていたというものだね? |
| ルドガー | ああ。あの時のように、分史世界に異変をもたらしているかも知れない |
| ルドガー | まずはこの世界に起こっている異変を調べてみよう |
| エル | でも、どうやって調べるの?エルたち、ここから出られないんだよ |
| リチャード | まずは僕達の置かれた状況について情報が欲しいところだ |
| ファラ | そうだね。何が何だかわからないまま捕まっちゃったし… |
| ??? | ここか? |
| ルドガー | ん?誰か来たのか |
| ファラ | 今の声って… |
| キール | ──こいつらか?何の前触れもなく突然現れたというのは |
| 看守1 | はっ。そのように聞いております |
| ファラ | キール!? |
| キール | なぜ、ぼくの名を知っている?怪しいな…敵国の密偵…?いや…だとすると不自然か… |
| ファラ | な、何言ってるの?わたしだよ、幼馴染のファラ! |
| キール | 知らないな |
| ファラ | え…っ |
| キール | …まさか、こいつら── |
| キール | ──まぁいい。確かめてみれば、わかる事だな |
| リチャード | あれは…? |
| ルドガー | 何かの装置…みたいだな。小さくてよく見えないけど… |
| | ビービー! |
| キール | …!やはりそうか… |
| キール | 反応が強いのは… |
| | ビービービービー! |
| エル | なっ、何…? |
| キール | 看守。あの子どもを出せ |
| 看守1 | はっ! |
| | |
| | ガチャッ |
| エル | …!ルドガー! |
| ルドガー | エルに近づくな! |
| 看守1 | 邪魔だ! |
| 看守2 | 取り押さえろ! |
| | ドカッ |
| ルドガー | くっ、この…! |
| エル | ルドガー! |
| 看守1 | お前はこっちに来るんだ |
| エル | やだ!はなして、痛いよ! |
| ファラ | 何するの! |
| リチャード | ファラさん、待つんだ。ここで暴れたら僕達の立場はもっと悪くなる |
| ファラ | でも、エルが…! |
| リチャード | キールさん、と言ったかな。理由を教えてくれないか |
| キール | …あんたには関係ない事だ |
| リチャード | …取り付く島もなしか |
| ルドガー | 待て!エルに怪我でもさせたら容赦しないぞ! |
| キール | 怪我をさせたくないなら大人しくしていろ |
| キール | …つれて行くぞ |
| 看守1 | はっ |
| エル | ルドガー!助けて…っ! |
| ルドガー | くっ、エルー! |
| 看守2 | 動くな! |
| | ドスッ |
| ルドガー | ぐっ…エ…ル… |
| | ドサッ |
| ファラ | ルドガー…!もう我慢出来ない! |
| リチャード | 駄目だ、ファラさん!ここは…堪えてくれ…! |
| ファラ | でも、わたし…! |
| 看守2 | な、何だその反抗的な目は!歯向かうならお前も容赦せんぞ! |
| リチャード | よした方がいい。さすがに僕も黙っていられなくなる |
| 看守2 | 何…!に、逃げられると思ってるのか。外には兵がいくらでも… |
| リチャード | そうだね。君がここまでにしてくれるなら僕達も大人しく従おう |
| 看守2 | ふ…ふん。わかればいいんだ |
| リチャード | それと、もう暴れないと約束するから君が怪我をさせた友人を手当てしてやってくれないか |
| 看守2 | ちっ、仕方ないな。少し待ってろ。逃げようとするんじゃないぞ |
| | |
| | ガチャン |
| | |
| ファラ | 鍵閉められちゃった…。リチャード…わたし…ついカッとなっちゃって… |
| リチャード | 気にしなくていいよ。ファラさんの気持ちは痛いほどわかるからね |
| リチャード | だが、怒りに任せて動いても事態は好転しない |
| リチャード | 気絶したルドガーを置いていけないし看守が言ったように、ここを出てもすぐに囲まれてしまうだろう |
| リチャード | それに…キールさんは怪我をさせたくなければ大人しくしていろと言っていた |
| リチャード | あの言葉を聞く限り、何もしなければ彼女に危害を加えるつもりはないのだろう |
| ファラ | …確かに、わたしの知ってるキールは、そんな事する人じゃないけど… |
| ファラ | でも… |
| リチャード | …不安なんだね。すまないが今はその不安を解消してあげる事が出来ない |
| リチャード | 今は目の前の問題から片付けよう。まずはルドガーの手当てをする事が先決だ |
| ファラ | そうだね… |
| | |
| ルドガー | …… |
| ファラ | …大丈夫?まだどこか痛む? |
| ルドガー | ああ、もう平気だ。大した事ない |
| ルドガー | ただ…エルの事が心配だ。どうしてキールはエルだけを連れて行ったんだろう |
| リチャード | 何か理由がありそうだね。彼が使った小型の装置が気になる |
| リチャード | あの装置は、エルさんに強く反応していたようだが一体… |
| ルドガー | いつまでもここにいるわけにはいかない。エルを助けにいかないと…! |
| ファラ | うん。ただ…わたし達が下手な事を考えないようにって看守の目が厳しくなったみたいなの |
| リチャード | エルさんの居場所もわからない以上今行動を起こすのは得策とは言えないだろうね |
| ルドガー | …そう、だよな。でも、どうしたら… |
| 看守1 | なあ、聞いたか?ウィンドルの話 |
| 看守2 | ああ。セルディク王の事だろう |
| 看守1 | 我らが姫様に婚約を迫っているとか。政略結婚が行われない場合、戦争に発展する可能性もあるんだとさ |
| 看守2 | 戦争か…嫌だなぁ。姫様には悪いけど円満に事が進めばと思うよ |
| ルドガー | …!今の話… |
| リチャード | なるほど…。この世界のウィンドルを統治しているのはセルディク公のようだ |
| リチャード | だから僕が何者なのか、門番達は知らなかったんだね |
| ファラ | 政略結婚を迫られるお姫様か…。何だか、可哀想だね… |
| 看守1 | …!どうして、あなた様がこのような場所に! |
| リチャード | ん…?急に騒がしくなったみたいだ |
| ファラ | 誰かがこっちに来るよ |
| 看守2 | 姫様、お待ちを…! |
| | コツコツコツ… |
| | |
| メルディ | …… |
| ファラ | えっ。め、メルディ…!? |
| | 雪の国の王女 |
| メルディ | 今すぐこの人達を解放するよ |
| 看守1 | しかし、姫様…! |
| メルディ | 罪を犯してない人を牢に入れる必要、あるか? |
| 看守2 | …わかりました |
| | ガチャッ |
| 看守2 | 外に出ろ |
| メルディ | 大丈夫か?手荒な真似してごめんな… |
| クィッキー | クィック!クィック! |
| ファラ | …あなたが、この城のお姫様なの? |
| メルディ | はいな!メルディがおカーサン、この国の偉い人! |
| ファラ | そうなんだ。ねぇ、わたしの事、わかる? |
| メルディ | んー…?どこかで会ったか?ごめん、覚えてないよぅ |
| ファラ | …ううん、いいの。よく考えたら他人の空似だったよ。あはは… |
| メルディ | …? |
| リチャード | お互いに面識はないという事か…ならば、なぜ見ず知らずの僕達を助けてくれたんだい? |
| メルディ | それは…ここじゃゆっくり話せない。みんな、メルディに付いてくるよ! |
| | |
| ルドガー | 処刑…!? |
| メルディ | はいな。牢に入れられた人、みんな処刑されちゃうよ… |
| リチャード | 事情も聴かずにか… |
| メルディ | おカーサン、公務で今いないけど出かける時にそう命令して行ったよ |
| メルディ | 厳しい思ったけど、ここに捕まる人は滅多にいないからホントに処刑はない思ってた |
| メルディ | そんな時に誰か捕まったって聞いて様子を見に来たよ |
| ファラ | メルディ──王女様のお蔭で助かったよ。ありがとう! |
| メルディ | お礼はいらない!ただ…堅苦しいのは嫌だからメルディって呼んでほしいよ |
| ファラ | うん、勿論!私はファラだよ |
| ルドガー | 俺はルドガーだ |
| リチャード | 僕はリチャード。よろしく |
| メルディ | よろしくな!それと、こっちは友達のクィッキーだよぅ |
| クィッキー | クィッ、クィッキー! |
| ファラ | クィッキーもよろしく |
| クィッキー | クィッキー! |
| リチャード | ところでさっきの話だけど僕達を助けてくれたという事はメルディは処刑に反対なのかい? |
| メルディ | はいな。法律とか難しい事はメルディよくわからないけど… |
| メルディ | 罪もない人、処刑したら絶対ダメだよぅ |
| ルドガー | 俺達が怪しい者じゃないって信じてくれるんだな |
| メルディ | はいな。クィッキー懐いてるからみんないい人! |
| メルディ | ただ、ひとつだけ教えてほしいな。みんなは、どうして城の前に落ちて来たのか? |
| ルドガー | 説明が難しいんだけど…たまたま落ちた場所が城の前だった、というか… |
| ルドガー | 兎に角、用事があって来たってわけじゃないんだ |
| ルドガー | この国にも来たばかりで何が起こってるのかわかってなくて…勿論、逆徒なんかじゃないよ |
| メルディ | そうなのか…。運、悪かったな |
| メルディ | 最近、おカーサンと敵対する人多くて、城が中、ピリピリしてるよ |
| リチャード | なるほど。警戒を強めていたところに僕達が怪しい登場をしたわけか… |
| メルディ | でも安心するよ。メルディ、お城の外まで連れてく! |
| ルドガー | ありがとう。けど、少し待ってくれないか。ここを出る前にエルを連れ戻さないと |
| メルディ | エル…? |
| ルドガー | ああ。俺達と一緒にもう一人女の子がいたんだ。キールがどこかに連れて行って… |
| メルディ | キールが…?どうして… |
| ルドガー | 彼がいる場所を教えてくれないか? |
| メルディ | …… |
| メルディ | みんなが事、おカーサンに知られたら牢に戻されるかもしれない。早くお城から出た方がいいよ |
| メルディ | だから、その子が事、メルディに任せてくれるか? |
| ルドガー | 何か考えがあるのか? |
| メルディ | キールに言って、何とかするよ!メルディ、キールとは仲よしだからな |
| メルディ | 街で待っててくれたら必ずその子を連れて行くよ!だからみんなは先にここを出るよ! |
| ルドガー | ………… |
| リチャード | …ひとつ聞いてもいいかな?キールさんは何か目的があってエルさんを連れて行ったようなんだ |
| リチャード | 何をするつもりなのか知っているかい? |
| メルディ | …メルディ、キールが何してるか知らない。でも、これだけは言えるよぅ |
| メルディ | メルディは、キールに人を傷つけさせたくないよぅ! |
| ファラ | メルディ… |
| ファラ | ルドガー、大丈夫だよ。このメルディはわたし達の知ってるメルディと同じ優しい子だから |
| ルドガー | …そうみたいだな。メルディ、エルの事よろしく頼む |
| メルディ | まかせるよ! |
| クィッキー | クィッキー! |
| | |
| キール | やはり…。別の世界からここへ飛ばされて来たんだな |
| キール | おまえ達、クルスニクの一族が持つ力の謎に迫れば、きっと… |
| エル | …ルドガーのところに帰して |
| キール | それは聞けない相談だな。おまえが持ってるその時計を渡してもらえれば考えてもいいが |
| エル | これはパパの大切な時計だから、ダメ!触らないで! |
| | バシッ |
| キール | …ふん、意地を張りたいならそうしているといいさ。おまえがいつまでも帰れないだけだ |
| | ガチャ |
| メルディ | キール! |
| キール | …メルディか。どうしたんだ、ノックもせず |
| キール | …怒っているのか? |
| メルディ | 外まで声聞こえてた。その子、嫌がってる!乱暴な事よくない! |
| キール | …はあ。仕方ない、自分から渡す気になるまで待つとするか |
| エル | …… |
| メルディ | キール。牢に入ってた人達、何も悪い事してないって言ってたよ |
| メルディ | その子も…何も悪い事してないな |
| キール | …!おまえ、あいつらに会ったのか!? |
| メルディ | その子をルドガー達がところに帰してあげないと |
| エル | ルドガーの事、知ってるの!? |
| メルディ | はいな。エルの事、連れ戻す約束したよ |
| キール | …駄目だ。時計と、こいつの力を調べるまで、外には出さない |
| メルディ | キール! |
| キール | この研究が進めば、ぼくは更に認められる… |
| キール | 誰にも見下されない偉大な研究者になるんだ |
| メルディ | キール… |
| クィッキー | クィイ… |
| キール | そんな顔をするな。用が済めば、こいつは帰してやる。いつになるかはわからないけどな |
| メルディ | キール、約束してほしいよ。絶対、酷い事しないって |
| キール | …善処はする。人の事より、メルディ。おまえは何か身体に変化はないか? |
| キール | 最近、政務続きで疲れていただろう |
| メルディ | 何ともないよ。いつも通り! |
| キール | …そうか |
| キール | だったら話はここまでだ。ぼくは研究で忙しい。おまえも、早く部屋に戻れ |
| メルディ | キール… |
| | |
| メルディ | 行っちゃったな… |
| エル | …あの人、性格悪い! |
| メルディ | …… |
| メルディ | キール、昔は…すごく優しかったよ |
| メルディ | 最近は少し、おかしいけどメルディが事…いつも心配してくれる |
| メルディ | メルディを姫じゃなくてメルディとして見てくれるよ |
| エル | …メルディはこのお城のお姫様なの? |
| メルディ | はいな! |
| エル | あの人と、仲がよかったんだね |
| エル | …お姫様の友達を悪く言ってごめんなさい… |
| メルディ | 謝らずでいいよ。エルは優しい子だな! |
| | ガッガガガ… |
| エル | …!何の音? |
| メルディ | あそこにある機械、見えるか?あれが動く音だよ |
| エル | あの機械…すごく、いやな感じがする |
| メルディ | いやな感じ? |
| エル | うん…。イニル街にあった魔導器に似てるから… |
| メルディ | あれは、人を殺すものだから…メルディも嫌い |
| メルディ | …エル。必ずここから出すよ。もう少し待てるか? |
| エル | …わかった。メルディの事、待ってる |
| メルディ | 約束な!ルドガー達にエルが事伝えておくよ! |
| キール | 何をコソコソ話してたんだ? |
| エル | 教えない! |
| エル | ルドガーたちがギャクトじゃないってお姫様が言ってたのに、どうしてカイホーしてくれないの |
| キール | おまえ達が逆徒だろうがそうでなかろうが、ぼくには関係ない |
| キール | 自由に動き回られると困るってだけだ |
| | |
| 兵士 | ──キール様! |
| キール | 何だ。騒々しいな |
| | |
| 兵士 | 牢に入れていた逆徒達が城の外に出たとの報告がありました |
| キール | 何…!? |
| 兵士 | 看守の話だと、メルディ様が逆徒を逃がしたとかで…。いかがいたしましょう |
| キール | くそっ。すでに逃がしていたのか… |
| キール | あいつらを追え。絶対に捕らえろ |
| 兵士 | し、しかし…メルディ様の命に逆らうわけには… |
| キール | メルディの命令が正しいと思うならどうしてぼくに伺いを立てにきた?追うべきだとわかっているのだろう? |
| キール | メルディの命に反した責任ならぼくが取ってやる。あいつらをすぐ牢に連れ戻せ |
| キール | 抵抗するなら生死は問わない |
| 兵士 | はっ! |
| エル | っ…!行っちゃダメ! |
| | ガシッ |
| 兵士 | な、なんだ…!? |
| キール | おい、勝手な事をするな! |
| エル | いーかーせーなーいー! |
| 兵士 | この!離れろ! |
| キール | 大人しくしていろ! |
| エル | はなしてー! |
| キール | 今だ、早く行け! |
| 兵士 | はっ!失礼します! |
| エル | うぅ…。…ルドガーにひどい事したら、許さないから! |
| キール | ふん |
| scene1 | 為政者の悩み |
| ファラ | 誰も追って来てないみたいだね |
| リチャード | ああ。この国の姫君が直々に送り出してくれたんだ。脱走とはわけが違うだろう |
| ルドガー | けど、キールや女王に知られたらどうなるかわからない |
| ルドガー | それまでにエルと合流出来るといいんだけど… |
| ファラ | メルディがきっと上手くやってくれるよ |
| リチャード | そうだね。その間、僕達は少しでもこの世界の事を調べておこう |
| ルドガー | ここまで歩いてきた感じだとカン・バルクの街並みは正史世界とあまり変わらないみたいだな |
| リチャード | ああ、しかし国の体制は大きく違う。ガイアス王でなくメルディの母上がア・ジュールを統治しているようだ |
| ファラ | まさか、メルディがお姫様になってるなんて…わたし、びっくりしちゃった |
| ルドガー | ああ、俺も驚いたよ。政略結婚を迫られているのはメルディだったんだな |
| リチャード | どうやらウィンドルの事情も僕達の世界とは異なるようだな |
| リチャード | 道中で街の人達の話を聞いた感じだとこの世界のウィンドルは大国として大きな武力を有しているようだ |
| ルドガー | この国の女王は秘密裡に兵器の開発も進めているという噂もあったな |
| リチャード | 政略結婚による同盟か、戦争の始まりか… |
| リチャード | 国中が緊張しながら成り行きを見守っているようだ |
| ファラ | ア・ジュールとウィンドルが戦争するの…? |
| リチャード | 僕達の世界でも、四大国は長く良好な関係が築けず歴史の中で何度も戦って来た… |
| リチャード | 分史世界でも、同じような事が繰り返されようとしているのだろうか… |
| ファラ | 何とかして止められないのかな… |
| リチャード | 誰しも戦争なんてしたくない。それでも…武器を取らなければ民を守れない事があるのも事実なんだ |
| ファラ | そんなの…悲しすぎるよ。何か他の、平和的な方法がきっとあるはずだよ |
| ファラ | メルディが結婚させられる以外の方法が、きっと… |
| リチャード | …平和的な方法を考えて考えて…けれど答えが出ないまま戦いが始まってしまう事もある |
| リチャード | …ア・ジュールの女王も僕と同じ苦悩の中でもがいているのかもしれないね |
| ルドガー | リチャード… |
| ファラ | …王様やお姫様がこんなに大変だなんて知らなかったな |
| ファラ | 小さな頃は煌びやかなお城暮らしに憧れて、お姫様ごっこなんてしてたけど… |
| ファラ | 何もわかってなかったな…。何だか恥ずかしいよ |
| リチャード | すまない。不安にさせてしまったね |
| リチャード | 勿論、戦争を止められるならそれに越したことはない。やれるだけの事は── |
| | |
| | ザッザッザッザ |
| | |
| 兵士1 | おい、いたぞ!あそこだ! |
| ファラ | …! |
| リチャード | やはり、そう簡単にはいかないみたいだね |
| 兵士2 | もう逃げられないぞ! |
| ルドガー | くっ、囲まれた…!どうすれば… |
| リチャード | 不本意だが戦うしかないだろうね。突破口を切り拓こう! |
| ルドガー | わかった! |
| scene2 | 為政者の悩み |
| 兵士1 | くっ、こいつら、やるぞ…! |
| ファラ | 道が開いたよ!あそこから抜け出そう! |
| ルドガー | ああ! |
| 兵士2 | 待て! |
| 兵士3 | くそ、応援を呼ぶんだ!逃げられないよう城門を閉めろ! |
| リチャード | 何とか撒いたが、追いつかれるのも時間の問題だな |
| ファラ | すぐ隠れないとまた囲まれちゃうよ…! |
| ルドガー | 街の外にも逃げられそうにない…!どうすれば…! |
| メルディ | みんな!こっちだよぅ! |
| ルドガー | メルディ…! |
| メルディ | あの建物、隠れられる! |
| ルドガー | わかった!みんな、あそこに急ごう! |
| | |
| ファラ | …外ではまだわたし達の事捜してるみたいだね |
| メルディ | この宿、メルディが知り合い。みんなが事、匿ってくれるな |
| ルドガー | 助かったよ |
| ファラ | ねぇ、メルディ。その服って… |
| メルディ | これか?こっそり街に出る時、いつも着てるよ |
| メルディ | …何か変か? |
| ファラ | ううん。すっごく似合ってる |
| メルディ | ありがとな! |
| ルドガー | …ところで、メルディ。エルの姿が見えないようだけど… |
| メルディ | …ごめんな。連れてくる事、出来なかったよ。キール、すぐには帰してくれないな |
| ルドガー | そうか…。怪我とかはしてなかったか? |
| メルディ | はいな! |
| ルドガー | よかった…。今はそれだけで十分だ |
| リチャード | …メルディさん。追手が来たのは女王様の指示かい? |
| メルディ | ううん、キールが命令って兵士達言ってたよぅ |
| リチャード | そうか… |
| リチャード | しかし、君は王女だ。君の意志を無視して僕達に追手を差し向けるなんて… |
| リチャード | キールさんは一体、何者だい? |
| メルディ | …キールは、王室専属が研究員 |
| リチャード | 研究員…?一介の研究員が、王女を超える実権を握っているのかい? |
| メルディ | キールが研究、おカーサン進めてる兵器開発に貢献してるよ |
| メルディ | だから軍はメルディよりキールが言う事聞くな。メルディも少しは権限あるけど… |
| リチャード | そういう事か…。王女とはいえ、君も苦しい立場なんだね |
| ルドガー | なのにエルを取り戻せるよう掛け合ってくれたのか…ありがとう、メルディ |
| メルディ | でもメルディ、連れてこられなかったよぅ… |
| メルディ | おカーサン帰ってきたらエルが事お願いしてみるな。けど…たぶん… |
| ルドガー | 聞き入れてもらえないか… |
| メルディ | でも、考えあるよ!みんな、リンネル村知ってるか? |
| ファラ | 勿論!この世界にもリンネル村はあるんだね |
| メルディ | …?この世界? |
| ファラ | あ、ううん。こっちの話!それで、リンネル村に何かあるの? |
| メルディ | 力を貸してくれそうな人いるよ。先王が息子、話聞いてくれるよ |
| リチャード | 先王の息子が王位を継承せず首都から離れて暮らしている…何か事情がありそうだね |
| ルドガー | わかった、リンネル村に行ってみよう |
| ファラ | でも、街の外には出られないんだよね。城門を閉められてたし… |
| メルディ | メルディ、何とかするよ。そのぐらいは出来ると思う |
| メルディ | 地図を描くからその通りに行くよ!誰にも見つからないで街を出られるな |
| ファラ | ありがとう。だけど、いいの?メルディの立場が悪くならない? |
| メルディ | 平気だよ。それにメルディ、ルドガー達捕まる方がやだよ |
| ファラ | …だからって、会ったばかりのわたし達のためにそんなに無理して── |
| ファラ | …あっ |
| メルディ | …?どうかしたか? |
| ファラ | ううん、何でもない |
| ファラ | (これって、わたしが リッドにいつも言われてる事だ…) |
| リチャード | ありがとう、メルディさん。みんな、疲れていると思うが早速出発してもいいかな? |
| ルドガー | ああ。エルのためにも、少しでも急ぎたい |
| ファラ | うん。それに、いつまでもここにいると、宿にも迷惑かかっちゃうもんね |
| メルディ | わかったよぅ。すぐに城門を開けるよう手配するな |
| メルディ | リンネル村についたらブウサギがいっぱいいる家を探すといい! |
| ルドガー | わかった。その人の名前は? |
| メルディ | ピオニー! |
| scene1 | 雪国の実力者 |
| ファラ | あっ、あれ!リンネル村が見えてきたよ。このまま行けばあと少しで── |
| ルドガー | …ん?ちょっと待ってくれ |
| リチャード | どうかしたのかい? |
| ルドガー | あの木の陰になっているところ… |
| 怪しい男 | …… |
| ファラ | 誰かいる!あんな場所で何してるんだろう? |
| ルドガー | 村の人…と言うには動きが少し怪しい気がするんだ |
| リチャード | …確かに。姿を隠しながら、何かを見張っているのか? |
| リチャード | あれは… |
| ルドガー | 何か気になる事でも…? |
| リチャード | 彼が腰に下げている剣に見覚えがあるんだ |
| リチャード | ア・ジュールの兵士達が使っていた剣と同じように見える。軍服を着ていないが、彼も兵士だろう |
| ファラ | もしかして、わたし達を捜しに来たのかな? |
| リチャード | いや…僕達を捕まえるつもりなら一人という事はないだろう。もっと多くの兵士を派遣するはずだよ |
| ルドガー | 確かに…。他に兵士はいないようだし、俺達を待ち伏せしてるわけじゃないのか… |
| ファラ | それなら、旅人のふりをして前を通り過ぎちゃおうよ! |
| ルドガー | さすがに堂々としすぎじゃないか? |
| ファラ | イケる、イケる!何とかなるって!コソコソしてる方が怪しいよ! |
| リチャード | 時には大胆さも必要かもしれないね。行こう、リンネル村はすぐそこだ |
| | |
| ルドガー | ふぅ…。何事もなく村の中に入れたな |
| ファラ | うん!でも、どうして兵士があんなところに立ってたんだろ? |
| リチャード | 真意はわからないけど…村の中で目立つような行動は控えた方がよさそうだね |
| ルドガー | そうだな。とりあえず早くピオニーさんを捜さないと |
| ファラ | えっと、確か…村に着いたらブウサギがたくさんいる家を探せってメルディが言ってたっけ |
| リチャード | ブウサギか…。あ、あそこに何匹かいるようだよ |
| ブウサギ | ぶー、ぶー |
| ファラ | あんなにいっぱい…!放し飼いにされてるみたいだね |
| ルドガー | 近くピオニーさんがいるかもしれない。行ってみよう! |
| ブウサギ | ぶひ、ぶひっ |
| ファラ | わっ、近付いてきた…!人に慣れてるみたい |
| リチャード | こうやって見ると、愛らしいものだね |
| ??? | おっ。何だおまえら、俺のブウサギを見に来たのか?可愛いぞ! |
| ルドガー | 俺の、って事は…もしかして貴方がピオニーさんですか? |
| ピオニー | ああ、そうだ。おまえ達は? |
| ファラ | メルディ…王女様からこの場所を聞いて、訪ねて来たんです |
| ファラ | あなたなら、わたし達を助けてくれるかもしれないってこれを… |
| ピオニー | 確かにメルディからの手紙か…今は少しばかり都合が悪いんだが何か事情がありそうだな |
| ピオニー | 王女の頼みを、無下には出来ないしな。中で話を聞こう |
| | |
| ピオニー | 大した持て成しは出来ないが、楽にしてくれ |
| リチャード | ありがとうございます |
| ブウサギ | ぶひー、ぶひー |
| ルドガー | 家の中にもブウサギがいるんですね… |
| ピオニー | 可愛いだろ?他の奴らも寝る時はちゃんと自分から家の中に戻って来るんだぜ |
| ピオニー | さて、話が途中だったな。ここに来るまでに何があったかざっと説明してくれ |
| ピオニー | ──成程な。おまえ達はそのエルって子を城から連れ戻したいわけだ |
| ルドガー | はい。ただ、出来るだけ目立たずに穏便に済ませたいんです |
| ルドガー | 俺達が下手に動いてメルディに迷惑をかけるのは避けたいので |
| ファラ | メルディもいろいろ大変そうだったもんね。それなのに協力してくれて… |
| リチャード | 難しいかもしれませんが、メルディ王女のためにも力を貸していただけないでしょうか |
| ピオニー | そうか。そういう事なら協力しよう。その代わり…条件がある |
| ルドガー | 条件、ですか…? |
| ピオニー | ああ。実はブウサギが一匹逃げ出したんだ |
| ピオニー | 多分リンネル村の近くにいるはずだから探してくれないか |
| ファラ | えっ、ブウサギ探しですか…? |
| ピオニー | 一刻も早く城へ向かいたいというおまえ達の気持ちはわかっているつもりだ |
| ピオニー | だが、俺の可愛いジェイドが丸焼きにされたらと思うと、心配で村を出られない |
| リチャード | …ジェイド? |
| ピオニー | 逃げ出したブウサギの名前だ |
| ファラ | ジェイド、って…ア・ジュールにいる軍人さんと同じ名前だね |
| ルドガー | ああ。たまたまにしても奇妙な感じだな… |
| ピオニー | 何をコソコソ話してるんだ?俺の頼みは聞いてくれるのか? |
| ルドガー | …ブウサギ探しを手伝えば、俺達に協力してもらえるんですよね? |
| ピオニー | ああ、約束する |
| ピオニー | おまえ達がジェイドを探してくれている間に、俺は村を出る準備をしておこう |
| ルドガー | わかりました |
| ルドガー | 今から探しに行くので、特徴を教えてもらえますか? |
| ピオニー | いいぞ。俺の可愛いジェイドはな芸の覚えは悪いが毛並みだけはぴかぴかで… |
| ファラ | …何だか名前に違和感があるなぁ |
| リチャード | 慣れるしかなさそうだね… |
| | |
| ルドガー | …ここにもいないみたいだな。どこへ逃げたんだろう? |
| ファラ | ん~、人に育てられたブウサギだからそう遠くには行っていないと思うんだよね |
| リチャード | 手当たり次第に探すよりもここの近くで姿を現すのを待っていた方がいいという事かな? |
| リチャード | でも、僕達の姿を見たら驚いて逃げてしまうかもしれないね… |
| ファラ | …!それなら、わたしにいい考えがあるよ! |
| ファラ | …よし。この辺りに隠れていれば大丈夫かな |
| ルドガー | へぇ、ここから仕掛けた罠を見張るのか |
| ファラ | うん。餌につられたブウサギが罠にかかったところを捕まえようと思って |
| リチャード | あの短時間で捕獲用の罠を仕掛けるなんて、ファラさんは器用なんだね |
| ファラ | リッドがやってるのを見てたから作れたんだ!罠で怪我したりしないように、工夫もしたし… |
| ファラ | 後はブウサギが来るまでじっと待つだけだよ! |
| リチャード | ここまでずっと慌ただしかったし、少しのんびり待つとしようか |
| ルドガー | …のんびりしていていいんだろうか |
| ルドガー | こうしている間にもエルは辛い思いをしているかもしれないのに… |
| ファラ | 心配なんだね…。でも…きっと、大丈夫だよ |
| ファラ | あの時はちょっと変な感じだったけどキールが小さい子に酷い事するわけないもん |
| ルドガー | 俺もそう信じたいけど…ここは分史世界だからな… |
| ファラ | そう言われるとわたしも自信なくなっちゃうけど… |
| ルドガー | …ごめん。酷い人だと思ってるわけじゃない。ただ、どうしても不安で… |
| ファラ | うん…わたしも不安だもん…メルディの事も… |
| リチャード | …厳しい事を言うようだけど不安な事ばかりを考えると気持ちの焦りに繋がってしまう |
| リチャード | ここでブウサギが罠にかかるのを待っているのも、二人を助ける事に繋がるはずだよ |
| リチャード | 目の前の問題から着実に片付けていこう |
| ルドガー | …そうだな。ありがとう、リチャード |
| ファラ | さすが王様だね。いつも冷静で頼りになるなぁ |
| リチャード | そんな事ないさ。僕だって心乱れる事はあるし…今だってとても不安だよ |
| リチャード | だけど自分の気持ちは別として状況を俯瞰的に見るよう努めているんだ |
| リチャード | 僕はかつて黒い衝動に呑まれるまま国を動かしてしまっていた…。それを繰り返すわけにいかないからね |
| ファラ | でも、それじゃあリチャードは国のために自分の気持ちを閉じ込めてるの? |
| リチャード | そんな事はないよ。ウィンドルに住むみんなの事を大切にしたいのは、僕の本心だからね |
| リチャード | それに、何も自分の気持ちを閉じ込めてしまうべきだと言ってるわけじゃないんだ |
| リチャード | 気持ちは気持ち、やるべき事はやるべき事と切り分けて考えているだけさ |
| ルドガー | なるほど…。なかなか出来る事じゃないな |
| ルドガー | リチャードは本当に尊敬出来る王様だと思うよ |
| リチャード | ありがとう、ルドガー |
| | ガサ…ガサガサ… |
| ファラ | …!あれは… |
| ブウサギ | …… |
| ルドガー | ジェイド、なのか…?首輪をしてるみたいだから飼われてるブウサギだと思うけど |
| ファラ | 餌に興味を示してるみたい。罠にかかったら、捕まえよう…! |
| | |
| | ガサガサ… |
| ルドガー | …!今、あの辺りの茂みが動いたような |
| | |
| | グルル… |
| ルドガー | 魔物…!? |
| リチャード | あの魔物、ブウサギを狙っているのか!? |
| ファラ | まさか、食べる気なの!?止めないと! |
| ルドガー | ああ!俺達の方に魔物を引き付ける! |
| ルドガー | ──ゼロディバイド! |
| | ギャウウ…ッ!? |
| | ダッ── |
| ファラ | 魔物の注意がこっちに向いた!作戦成功だね! |
| リチャード | よし、ここで迎え撃とう! |
| scene2 | 雪国の実力者 |
| ファラ | よかった…。ブウサギに怪我はないみたいだね |
| ブウサギ | ぶーぶー |
| リチャード | 大人しいね。魔物から守った僕達を信頼してくれているのかな |
| ルドガー | ジェイドも無事に見つかった事だし、リンネル村に戻ろう |
| ルドガー | 早くピオニーさんの元に連れて帰らないと |
| ファラ | うん、そうだね! |
| | |
| ピオニー | さて、準備は終わったな。あとはあいつら次第か… |
| ファラ | あっ、ピオニーさん!ジェイド、見つけて来ましたよ! |
| ブウサギ | ぶひっ、ぶひっ |
| ピオニー | おお!戻ったか、ジェイド! |
| ブウサギ | ぶひー |
| ピオニー | 助かったぜ、おまえ達。ジェイドが戻ってきてくれて一安心だ |
| ルドガー | これで、エルを連れ戻すための手助けをしてくれるんですよね? |
| ピオニー | ああ、勿論だ。俺は、約束を守る男だからな |
| ピオニー | 準備は整ってる。今すぐカン・バルクへ向かうぞ! |
| ファラ | えっ、わたし達も一緒に…ですか? |
| ピオニー | ああ。何か問題でもあるのか? |
| ファラ | 一緒に行動しているところを見られたら、ピオニーさんまで捕まっちゃうかも… |
| ピオニー | 心配ない。俺に任せろ |
| | 母と娘 |
| ファラ | 堂々とお城の前まで来ちゃった… |
| リチャード | 街にいた兵士達とのやり取りを見ていた感じだと、彼の一言にはかなりの影響力があるようだったね |
| ルドガー | ただ、お城に入るとなるとそう簡単にいくかどうか… |
| ピオニー | 大丈夫だ。俺に任せろって言っただろう? |
| ピオニー | よう、調子はどうだ |
| 兵士1 | ピオニー殿下!?何か御用でしょうか…! |
| ピオニー | ああ。こいつらと俺を城の中に通してほしい |
| 兵士2 | なっ、お前達は…!どうして貴殿がそのような者達と共に!? |
| 兵士1 | お下がりください、ピオニー殿下。そやつらは逆徒として投獄されていた罪人達です! |
| 兵士2 | 殿下から離れろ!脱獄犯共め! |
| | チャキッ |
| ピオニー | おいおい、おまえ達は何か勘違いをしているみたいだ。こいつらは罪人なんかじゃない |
| ピオニー | 身元は俺が保証する。城の中に用があるから、通してくれ |
| 兵士1 | し、しかし殿下…! |
| ピオニー | こいつらが城に忘れたものを取りに来ただけだ。用が済んだらすぐに出ていくさ |
| 兵士1 | …わかりました。殿下をお通しするぞ |
| 兵士2 | ああ… |
| ピオニー | 突然押しかけて悪いな。恩に着るぜ |
| | |
| シゼル | …投獄していた逆徒を逃がしたそうだな、メルディ |
| メルディ | あのまま牢にいたらルドガー達、処刑されちゃう |
| メルディ | 罪のない人達、処刑されるの間違ってるよ! |
| シゼル | 罪がないとなぜ言い切れる?おまえはその者達の何を知っているのだ? |
| メルディ | それは…でも、悪い人違うのわかるよ! |
| シゼル | …おまえは何もわかっていない。世にどれほど善良な顔をした悪人が蔓延っているかという事を |
| シゼル | よいか。世の中には自らの都合を正義と称する厚顔無恥な者もいるのだぞ |
| メルディ | ルドガー達、そんな人違う! |
| シゼル | おまえは王女だ。個人の感情だけでなく周囲の状況を冷静に考えよ |
| シゼル | その上で信用に足ると判断する材料を提示すれば、私もその者達を認めてやろう |
| シゼル | もっとも…今はそのような細事にかまけている暇はないがな |
| メルディ | …おカーサン、ウィンドルとの交渉また上手くいかなかったか |
| シゼル | …交渉は継続中だ |
| メルディ | このまま折り合わなかったら…ウィンドルと戦争するのか? |
| シゼル | …戦争は避けられぬであろうな。だが、兵器開発が間に合えば被害は最小限に抑えられる |
| シゼル | 先制攻撃であの兵器の威力を知ればウィンドルとて全面戦争を避けるだろう |
| メルディ | 最小限でも、戦争よくない。…おカーサン、メルディ、みんながためなら結婚出来るよ |
| シゼル | 愚かな事を。おまえを差し出すという事は事実上の降伏を意味するのだぞ |
| メルディ | 降伏でも戦争ない方がみんな平和。違うか? |
| シゼル | 違うな。結婚など建前にすぎん。実際は人質だ。我々は友好国という名の属国となる |
| シゼル | そうなれば待ち受けるのは一方的に搾取され続ける未来だ。到底受け入れられるものではない |
| シゼル | こちらとしても婚約交渉は建前だ。兵器が完成するまで時間を稼ぐ手段でしかない |
| メルディ | …戦争は死ぬ人いるよ。最小限だとしても…メルディ、一人も死なせたくない |
| シゼル | 私とて死なせたいわけではない。だが先ほども伝えた通り、感情よりも状況を優先するべきなのだ |
| メルディ | …本当に他の方法、ないか…? |
| シゼル | そのようなものがあるのなら、教えてもらいたいものだな |
| シゼル | さぁ、もうわかっただろう。この話は終わりだ |
| メルディ | 待って。最後に一つだけお願いあるよ |
| メルディ | キールが研究室にいるエル、ルドガー達のところに帰すよう言ってほしいな |
| シゼル | その願いは聞けぬ。研究に必要と聞いている。おまえが口を出す事ではない |
| シゼル | 話はここまでだ。下がれ、メルディ |
| メルディ | ……わかった…よぅ… |
| シゼル | …得心のいかぬ顔をしておったな。今は大事な時だ。面倒が起こる前に手を打つべきか |
| シゼル | 誰かいるか! |
| | |
| ファラ | ──本当にお城の中に入れちゃった… |
| | タタタッ |
| 兵士3 | お待ちください! |
| 兵士1 | 何事だ。殿下と客人の前で失礼だろう |
| 兵士3 | そ、それが… |
| ファラ | 何かあったのかな?すごく慌ててるみたいだけど… |
| ルドガー | …嫌な予感がするな |
| 兵士1 | っ…それは本当か!? |
| 兵士3 | ああ、女王陛下直々の命令だ |
| ピオニー | 何だ何だ、悪い知らせか? |
| 兵士1 | …殿下。あなた方を研究室へお連れするわけにはいかなくなりました |
| | |
| 兵士1 | 取り押さえろ! |
| | |
| | チャキッ! |
| ルドガー | …! |
| ピオニー | これは何の冗談だ? |
| 兵士3 | この者達を捕えよと女王陛下の命令です |
| ファラ | えぇっ…! |
| リチャード | どうやら女王に目を付けられてしまったようだね |
| ピオニー | 彼らは俺の連れだ。女王と話をさせてくれ |
| 兵士4 | それはかないません、殿下 |
| ピオニー | おまえは…リンネル村で何度か見た顔だな |
| ルドガー | あの時の…! |
| リチャード | 僕達も見かけた村を見張っていた兵士だね |
| ピオニー | なるほど。俺の周りをこそこそ嗅ぎまわってたってわけか |
| 兵士4 | ご察しいただけたのなら話は早い。殿下、あなたには逆徒達に加担した謀反の疑いがかけられています |
| ファラ | ピオニーさんが…逆徒…!? |
| ピオニー | …… |
| 兵士1 | 手荒な真似はしたくありません。…ご同行願います |
| | |
| ピオニー | いやぁ、参った参った。まさか俺まで罪人扱いされるとは |
| ルドガー | 笑い事じゃありませんよ…! |
| ファラ | また、牢の中に戻ってきちゃった… |
| ルドガー | 逆徒達に手を貸したって話、本当なんですか? |
| ピオニー | 大した事はしてないぞ。俺はただ金を── |
| | |
| 看守1 | 何だ貴様らは!? |
| | バシュッバシュッ |
| 看守2 | ぐう…!? |
| | ドサッドサッ |
| ファラ | 何…!? |
| リチャード | 看守達が誰かに襲われたようだ! |
| 逆徒の男 | カーティス司令官、こちらです! |
| ピオニー | 誰かと思ったらおまえか、ジェイド |
| | |
| ジェイド | こんなところで何をしていらっしゃるのですか、殿下 |
| ピオニー | 俺の可愛いジェイドを助けてくれた奴らに恩返ししようと思っただけだ |
| ジェイド | …不気味なのでその言い方はやめてもらえませんか |
| ピオニー | 安心しろ。おまえは可愛くない方のジェイドだ |
| ジェイド | 私が言いたいのは、ブウサギに人の名前を付けるなという事で… |
| ジェイド | …はぁ、今はそんな話をしている場合ではありませんでしたね。早くここから出なければ |
| ジェイド | そちらの方々が一度城から逃げた事で兵士達が警戒を強めているようですから |
| ルドガー | えっ…!俺達の事を知っているんですか? |
| ジェイド | ええ、勿論。殿下と共にリンネル村からカン・バルクに戻って来た事も知っています |
| ピオニー | その様子だと、俺が牢に入れられる事を見越して城内に潜入していたみたいだな |
| ジェイド | 殿下に謀反の疑いがかけられていると情報が入りましてね。事前に手を打つ予定でしたが… |
| ジェイド | あなたがリンネル村を出てカン・バルクに来たりするから手間が増えました |
| ピオニー | 危険を冒して俺を助けに来るとは、実に友達がいのある奴だ |
| ジェイド | 城の人間にあなたが持っている私達の情報を渡すわけにはいきませんからね |
| ジェイド | …牢を開けてください |
| 逆徒の男 | はっ |
| | ガチャガチャ… |
| | キー… |
| ピオニー | 思ったより早く出られたな |
| ファラ | はい。一時はどうなる事かと思いましたけど… |
| 逆徒の男 | おい、止まれ。お前達まで牢の外へ出すとは言っていない |
| ファラ | えっ、そんな…! |
| ピオニー | おいおい、それはないだろ?あいつらも出してやってくれ |
| ジェイド | どうして得体の知れない者を助け出す必要があるんです? |
| ピオニー | 俺はメルディから、こいつらの事を頼まれたんだ。見捨てていくわけにはいかないだろうが |
| ピオニー | それに、こいつらはシゼル女王に対抗するための戦力になるぞ |
| ピオニー | 何たって俺の可愛いジェイドを魔物から救ってくれた奴らだからな。戦力は保証する |
| リチャード | 少なくとも僕達はあなた達に襲い掛かったりしません |
| ジェイド | …… |
| ジェイド | いいでしょう。あなた方も付いて来てください |
| | |
| 逆徒の男 | この辺りに兵士はいないようです。一気に逃走用の通路まで進みますか? |
| ジェイド | いえ、油断は出来ません。廊下の先まで行って安全かどうか確かめてください |
| 逆徒の男 | はっ |
| ファラ | …ピオニーさんはあの人とどういう関係なんですか? |
| ピオニー | ジェイドの事か?あいつとは長い付き合いでな |
| ピオニー | ジェイドが率いている組織はシゼル女王の兵器開発を止めるために動いてるんだ |
| リチャード | あなたも、その活動に協力を? |
| ピオニー | まあ、そうだな。多少の資金援助をしたくらいだが |
| ルドガー | ピオニーさんは地位もあるし、女王陛下に直接進言する事も出来るんじゃないんですか? |
| ピオニー | いいや、今の俺にそこまでの力はないぜ。ただ、俺にも国を憂う心はあるからな |
| ジェイド | …殿下、話はここを出てからにしてください。いつ兵士に見つかるかわからないんですよ |
| ピオニー | おまえの事だ。見つかってもいいように策くらいは立ててあるだろ? |
| ジェイド | …… |
| ジェイド | 我々がここで捕まるような事があれば誰が民の生活を守るのですか |
| ジェイド | 民を思う心があるなら慎重に行動してください |
| ピオニー | はいはい、わかってるって |
| リチャード | …彼は正史世界のジェイドさんと少し違うようだね |
| ファラ | 確かに…、前に会った時はもっと飄々としてて、何を考えてるかわかり辛い人だった気がするなぁ |
| ルドガー | 分史世界ではよくある事だよ。環境や立場が少し違うだけでも人の印象が違って見えるものなんだ |
| リチャード | そうか…僕がこの世界では王として振舞わないように、同じ人でも行動が変わるんだね |
| ファラ | なるほど |
| 逆徒の男 | 司令官、安全の確認が取れました! |
| ジェイド | わかりました。逃走用の経路まで一気に進んで── |
| ルドガー | 待ってください…! |
| ルドガー | 俺達は研究室にいるエルを助けに来たんです! |
| ジェイド | 残念ですが、それは聞けませんね |
| ジェイド | 兵器開発の要ともいえる研究室にそう易々と近づく事は出来ません |
| ルドガー | そんな… |
| ファラ | それじゃあ、わたし達だけでも研究室に向かいます! |
| ジェイド | …本気ですか? |
| ファラ | 今またここを出たらもう戻ってくる方法はないし…エルを助けないと! |
| ルドガー | ああ、たとえ危険でもエルをこのままにしておけない |
| リチャード | …待ってくれ、二人共 |
| リチャード | ジェイドさん。再び城内に戻って来る事が出来ないなら、僕達は行きます |
| リチャード | ですが、この騒ぎの中、研究室まで辿り着ける可能性は確かに低い… |
| リチャード | なので単刀直入に聞きますが、この先、ここに戻って来る機会はありませんか? |
| ジェイド | ……お答え出来ません。少なくとも、今、ここでは |
| リチャード | …わかりました。ルドガー、ファラさん、今はここを出よう |
| ファラ | えっ、でも… |
| リチャード | 焦る気持ちはわかるが今は僕を信じてくれ |
| ルドガー | ……わかった |
| ファラ | うん |
| | |
| | ダダダッ |
| 兵士1 | いたぞ!!! |
| | |
| ファラ | …!後ろから追手が来たよ! |
| リチャード | 僕達が牢から逃げ出した事に気付かれたみたいだね |
| ジェイド | やれやれ。あなた方がのんびりしているからですよ |
| ジェイド | こうなってはどの道研究室に向かうのは不可能でしょう |
| ジェイド | 脱出するのであれば、ついて来てください。いいですね |
| ルドガー | はい! |
| scene1 | すれ違う想い |
| メルディ | おカーサンが事、説得出来なかったな… |
| クィッキー | クキュウ… |
| メルディ | 心配してくれるか?ありがとな、クィッキー |
| メルディ | いつまでも落ち込むいけないな! |
| クィッキー | クィッキー! |
| メルディ | 決めた!もう一度、キールのところ行くよ! |
| メルディ | キールに人殺しの兵器なんて作ってほしくないからな… |
| クィッキー | ククキュキュキ… |
| | |
| キール | ──駄目だ。話にならない |
| エル | …… |
| メルディ | どうして!その兵器、完成したらおカーサン使うよ! |
| メルディ | そしたら人がいっぱい死ぬ!キール、それが望みか!? |
| キール | 別に人が死ぬ事を望んでいるわけじゃない。だが、兵器の開発は止められない |
| メルディ | どうして… |
| キール | …メルディ。おまえはぼくに、城から出て行けと言うつもりか? |
| メルディ | そんな事ない!どうしてそうなる!? |
| キール | ぼくは兵器開発のためにシゼル陛下から宮廷学者に取り立ててもらったんだ |
| キール | 兵器開発を中止にするという事はその立場を手放すという事だ。当然、城にぼくの居場所はなくなる |
| メルディ | それは… |
| キール | …兵器開発の責任者という立場をなくしたぼくを周りの研究者はどう見ると思う? |
| キール | ぼくの研究はただでさえ学会で認められていないんだ |
| キール | この世界が本当の世界ではない…分史の世界だなんて誰も信じてくれなかった |
| エル | 分史…!キールの研究って分史世界の事だったの!? |
| メルディ | エル…分史世界が事知ってるか? |
| エル | う、うん…ちょっとだけ。ルドガーとメガネのおじさんは詳しいかもだけど… |
| メルディ | キール、もしかしてエル返してくれないの、このためか? |
| キール | …他に何があるって言うんだ |
| メルディ | 研究がためにエルを無理やり連れてきたか。ちゃんとお願いすればよかったのに… |
| キール | それは出来ない。あの男もクルスニクの一族だ、警戒する必要がある |
| エル | ルドガー?どうして… |
| キール | …おまえに説明するつもりはない。とにかくあの男がいると困るんだ |
| エル | …ルドガー… |
| メルディ | キール…変だよぅ。研究がために兵器を作ったりエルを返してくれなかったり… |
| キール | 手段を選んでいる余裕はないんだ。時間がなさすぎる |
| キール | せっかくここまで来て…女王直々に研究を認められて学会の連中を見返せたっていうのに… |
| メルディ | キール…キールはそんな事のために研究をしているのか? |
| キール | そんな事とは何だ!誰にも認められずに馬鹿にされ夢を笑われたぼくがどれほどみじめか… |
| キール | ぼくはこの研究に全てを賭けている。それなのに、おまえは… |
| メルディ | …?メルディ、関係あるか? |
| キール | …いや、何でもない。とにかく、この研究の前には些細な事だ |
| メルディ | たくさんの人が死ぬ事、些細な事言うか! |
| キール | ぼくには関係ない事だ |
| メルディ | どうして…キール、そんな事言う人違う! |
| メルディ | キール、世界が未来よくするため研究する優しい人! |
| メルディ | その研究使った兵器でたくさん人死ぬなんて耐えられないはずよ! |
| キール | うるさいっ!! |
| キール | 何も知らないくせに口を出すな! |
| メルディ | …出すよ!メルディ知っている!キールとたくさんお話したよ。あの花畑で… |
| メルディ | そうだ、メルディと一緒にまた行こう!キールきっと疲れてるだけ |
| キール | 時間がないと言ったはずだ。ぼくは一刻も早くこの兵器を完成させなければならないんだ |
| メルディ | 休憩必要!前は…研究が事、世界が事話してくれたな |
| メルディ | またお話してほしいよ…そしたらキールも、あの頃が気持ち思い出せる |
| キール | 気持ちだと? |
| キール | そんなもの、思い出している暇はないっていうのがわからないのか |
| メルディ | でも… |
| キール | ぼくが研究を完成させればこの国は強くなる! |
| キール | ウィンドルに脅されて王女を差し出すような弱い国じゃなくなるんだぞ! |
| メルディ | 弱くたっていい!人を殺す兵器、作らないでほしいよ! |
| キール | …話は平行線だな。これ以上は時間の無駄だ。出て行ってくれ |
| メルディ | どうしても…やめてくれないか |
| キール | くどいぞ |
| | |
| メルディ | メルディ、ウィンドルに行ってもメルディごと撃つか? |
| キール | …何? |
| | |
| メルディ | …… |
| メルディ | メルディ、決めたよ。ウィンドルが王様と結婚する! |
| キール | な、何をバカな事を… |
| メルディ | 今のキールきらい!ウィンドルが王様は、結婚すれば戦争しないでくれる |
| メルディ | メルディ…戦争しない人が方、好きだよ! |
| キール | 国の存続の話だ好きか嫌いかの話じゃない! |
| キール | そもそもこんな交渉を持ち出す王だ。おまえの思うような結末になると思っているのか! |
| メルディ | やってみないとわからない!メルディ、本気!おカーサンにそう言ってくる! |
| キール | …… |
| エル | …追いかけなくていいの? |
| キール | 必要ない。シゼル陛下が止めるだろう |
| エル | 泣いちゃってるかもしれないよ |
| キール | …。そんな暇はない。放っておけばいいさ |
| エル | …メルディ本当に結婚しちゃったらどうするの? |
| キール | …兵器の開発が間に合わなければ遅かれ早かれそうなるんだ |
| キール | とやかく言うのなら、まずその時計を渡したらどうなんだ |
| エル | これだけはダメ! |
| キール | ふん…。どいつもこいつもぼくの邪魔ばかりする… |
| キール | …… |
| | |
| 兵士5 | 止まれー! |
| 兵士6 | 抵抗すると容赦せんぞ! |
| リチャード | 追手が増えてきたね |
| ジェイド | 出口までもう少しですが…妙ですね。兵士が後ろからしか来ないというのは… |
| ピオニー | わざとこっちに追い込んでるって事か? |
| ジェイド | ええ。事前に把握していた警備の配置とも違うようです。これは罠の可能性が高いですね |
| ルドガー | それじゃあ、逃げる事も出来ないんですか? |
| ジェイド | いえ、予備の逃走経路を使います。人目につく可能性はありますが追手を撒くには適した道です |
| リチャード | 流石ですね |
| ジェイド | 流石…とは、どういう事でしょう。普段の私の事をご存じかのような言い方ですが… |
| リチャード | ああ、いえ。ピオニーさんが一目置くだけあると思っただけです |
| ジェイド | 殿下は私を買い被っているだけですよ |
| ジェイド | さぁ、こちらです。ついて来てください |
| scene2 | すれ違う想い |
| ジェイド | ここを抜ければ城の外です |
| ルドガー | 追手は撒けたようですね |
| ピオニー | この道は、なまじ人目があるから逃走に使われるとは思わなかったんだな |
| リチャード | 上手く盲点を突けたようですね |
| ファラ | 掃除してたお姉さんがびっくりして逃げて行ったのはちょっと申し訳なかったけど… |
| ジェイド | 彼女が通報したら終わりです。早くここを離れましょう |
| | |
| メルディ | …はぁ。キール…どうして… |
| メルディ | ここに連れて来てくれたキール…いろいろお話してくれたキール…優しくて、不器用だけど頑張ってて… |
| メルディ | 立派な人だと思ったよぅ。だからメルディ、おカーサンにキールが論文紹介したな |
| メルディ | なのに… |
| クィッキー | クィィ… |
| メルディ | クィッキー、心配してくれるか。ありがとな |
| メルディ | でもメルディ、今はちょと元気出ないよ。ごめんな… |
| | |
| | ザッザッザッ… |
| メルディ | …!誰か来た! |
| メルディ | キール、来てくれたか…? |
| ファラ | メルディ!? |
| メルディ | ファラ!?みんなに…ピオニーもいるか!? |
| | |
| ピオニー | 奇遇だな、メルディ |
| メルディ | 無事会えたんだな。よかったよぅ。これから研究室に行くのか? |
| ルドガー | いや…実は… |
| メルディ | バイバ!ピオニー、逆徒と繋がりがあったか!?それで捕まってたなんて… |
| ピオニー | そういえば話した事はなかったな! |
| メルディ | ピオニーの話なら、おカーサンも聞いてくれる思ったよ…ルドガー達、ごめんな… |
| ルドガー | いや、知らなかったんだからメルディのせいじゃないよ |
| ピオニー | まぁ、繋がりをもったのもつい最近の事だからな |
| ジェイド | 私達が活動を始めたのは王室での兵器開発が始まってから… |
| ジェイド | 具体的には、ウィンドルとの戦争を積極的に進める動きを感知してからでして |
| リチャード | ウィンドルと戦争を… |
| ルドガー | 可能性はあるって噂は聞いたけど積極的に進めていたなんて… |
| ファラ | という事は…メルディが結婚するっていう話はなくなったんですか? |
| ジェイド | いえ。表向きは和平の条件が折り合わず結論は保留…という事になっています |
| ジェイド | しかしそれは、戦争の準備が整うまでの時間稼ぎにすぎないでしょう |
| メルディ | おカーサンもそう言ってたな。メルディ、戦争やめるよう頼んだけど聞いてもらえなかったよ |
| ジェイド | やはりそうですか |
| ファラ | どうしてだろう。戦争なんて誰もしたくないと思うんだけど… |
| ピオニー | セルディクは野心家で知られている |
| ピオニー | メルディと結婚したとしてもこの国を乗っ取るつもりだろう |
| ピオニー | 王位についた背景もいろいろな策謀があるって噂だからな |
| リチャード | …… |
| ピオニー | ア・ジュールの国を守るためにはセルディクを跳ね除ける力がいるとシゼル女王は考えたんだろう |
| メルディ | おカーサン、守るために兵器作ってるか…? |
| ピオニー | …そうだろうな。ただ、力が拮抗してしまえば消耗戦になりどちらかが滅ぶまで戦う事になる |
| ピオニー | 国を第一に思うなら、それを避けるために早期決着を狙うはずだ |
| リチャード | 相手が戦う気を無くすほどの強力な兵器…という事ですね |
| メルディ | それを…キールが作ってる… |
| ファラ | 大変…!どうにか止められないんですか? |
| ジェイド | それを止めるために策謀しているのが私達です。逆徒などと呼ばれていますがね |
| メルディ | それじゃ、みんなで戦争止めてくれるか!? |
| ジェイド | ええ。ただ…この先の話を聞くといくら王女殿下とは言え城に帰すわけにいかなくなりますよ |
| ジェイド | 万が一にでも城の者に情報が伝わったら困りますからね |
| メルディ | …わかった。メルディ、お城戻れなくてもいい |
| メルディ | 戦争を…兵器開発を止めてくれるならメルディ手伝うよ! |
| ファラ | メルディ…本当にいいの? |
| メルディ | はいな。メルディ、おカーサンやキールに戦争してもらいたくないよ |
| ジェイド | …わかりました。では話しましょう |
| ジェイド | 私達は兵器の研究室に侵入して開発中の兵器を破壊し── |
| | |
| ジェイド | 開発責任者、キール・ツァイベルを暗殺します |
| | |
| ルドガー | なっ… |
| ファラ | そんな…! |
| メルディ | キ…キールが事…こ、殺す…か? |
| ピオニー | その計画は初耳だが…確かに兵器開発を止めるには一番確実な方法だな |
| リチャード | 女王に抜擢されるくらいだ。彼にしか出来ない開発なんだろう。確かに頓挫する可能性はある |
| リチャード | しかし… |
| ジェイド | 抵抗があるという事でしたら協力していただく必要はありません |
| ジェイド | 事が終わるまで私達の拠点で大人しくしていてもらうだけです |
| ジェイド | ただ…暗殺のためには当然、研究室に入ります。となれば、同行したいのでは? |
| ルドガー | エル…! |
| リチャード | 戦闘になる事を考えれば僕達も同行してエルさんを保護した方がいいね |
| ジェイド | 勿論、可能な限り保護はしますが保証は出来ませんからね |
| ジェイド | 例えばその方が人質に取られた時私達がどういう決断をするか…何しろこちらも命がけですから |
| ルドガー | わかりました。俺達も行きます…! |
| リチャード | ああ…エルさんを助けよう |
| ファラ | 勿論、私も行くよ!でも… |
| | |
| メルディ | …メルディも、行くよ! |
| | |
| ファラ | メルディ…!? |
| メルディ | メルディも戦争止めたい。だからキールがとこ一緒に行く! |
| メルディ | でも、殺しに行くと違う。メルディ、もう一度キールを説得する! |
| ファラ | メルディ… |
| ジェイド | 盛り上がっているところ申し訳ありませんが王女殿下の同行は許可出来ません |
| ジェイド | 私達は万が一の事があったらあなたの身を切り札として使わせていただくつもりです |
| ジェイド | そのため、危険な場所に王女殿下を連れて行く事は出来ません |
| ファラ | そんな…!メルディを道具みたいに! |
| メルディ | …それで戦争止まるならメルディ道具でも構わないよ |
| メルディ | だけどその前にキールが説得させてほしい |
| ジェイド | ですから、切り札であるあなたを危険な戦いに連れて行くわけにはいかないと言っているんですよ |
| ピオニー | まあまあ、落ち着けよ。メルディの身に何かあったら困るっていうだけなんだろ? |
| ピオニー | それならルドガー達に守らせたらどうだ? |
| ピオニー | 俺達だって国民の一人を殺して平和を作りたいわけじゃないだろ。それは最終手段だ |
| ファラ | わたし…やる!メルディの事、守るよ! |
| ジェイド | 守りながら戦うというのは相当な能力が必要ですよ |
| リチャード | 僕も尽力させてもらうよ。要人の警護はいつも間近で見てきたから、多少心得があるしね |
| ルドガー | ジェイドさん、メルディは俺達が必ず守ると約束します |
| ジェイド | …みなさんの気持ちはわかりました。では、こうしましょう |
| | |
| | チャキッ |
| | |
| ルドガー | …!何を… |
| ジェイド | ここであなた方の実力を試させてもらいます |
| ジェイド | 王女殿下を守りながら私と戦ってみてください |
| ファラ | そんな、いきなり… |
| ジェイド | 敵はいきなり襲ってくるものです。それも複数で |
| ジェイド | 私一人からも守れないのなら王女殿下の同行は認められません |
| ピオニー | よく言うぜ。そこらの雑兵が束になってもおまえほどじゃないだろ |
| ジェイド | どうでしょうねぇ。私も、もう年ですから、そこまでの力はありませんよ |
| ジェイド | さぁ、どうしますか?私はどちらでも構いませんよ |
| メルディ | みんな…力貸してくれるか? |
| ルドガー | 勿論だ |
| ルドガー | ジェイドさん、その条件、受けて立ちます |
| ジェイド | 心は決まったようですね。それでは、お手並み拝見といきましょうか |
| scene3 | すれ違う想い |
| ジェイド | ふむ…思ったよりやりますね。王女殿下まで攻撃が届く気がしません |
| ジェイド | これなら合格と言ってもいいでしょう |
| ルドガー | はぁ、はぁ…ありがとうございます |
| ファラ | ふぅ、よかった… |
| リチャード | それにしても、三対一なのにここまで追いつめられるとはね… |
| ピオニー | なっ、強いだろ? |
| ジェイド | 何故あなたが誇らしげなんですか… |
| ジェイド | …さて、それでは正式にご協力いただけるという事ですし私達の拠点まで案内しましょう |
| ピオニー | カン・バルクの街中にあるんだったな |
| ジェイド | ええ。街中に入ったら警戒を怠らないようにしてください。至るところに兵士がいるはずです |
| ルドガー | わかりました |
| ルドガー | (ごめん、エル。 もう少しだけ、待っててくれ) |
| | 迫る時限 |
| キール | …ここを…こうして… |
| | カチャカチャ |
| キール | …… |
| メルディ | メルディ、ウィンドルに行ってもメルディごと撃つか? |
| キール | …何? |
| メルディ | メルディ、決めたよ。ウィンドルが王様と結婚する! |
| キール | …別にどうでもいいそんな事は些細な事だ |
| キール | この術式さえ完成すれば兵器の完成は目前だというのに… |
| キール | 長年の研究で培ってきた知識と技術がやっと活かされるんだ…これで… |
| メルディ | キール、世界が未来よくするため研究する優しい人! |
| メルディ | その研究使った兵器でたくさん人死ぬなんて耐えられないはずよ! |
| キール | …ぼくの、何を知っているというんだ |
| キール | ぼくを認めない人達が死んだって…関係ない |
| キール | ……くそっ。少し休憩するか… |
| キール | そういえばあの子どもさっきから静かだが… |
| エル | すー…すー… |
| キール | 大人しいと思ったら眠っているのか |
| キール | 時計は握ったままか。…今なら、慎重にやれば… |
| | コンコン |
| 兵士 | キール様。よろしいでしょうか |
| キール | …っ!だ、誰だ、こんな時に |
| | ガチャ |
| シゼル | 誰だとは挨拶だな |
| キール | 陛下…! |
| シゼル | 首尾はどうだ? |
| キール | 順調です。完成は時間の問題でしょう |
| シゼル | その時間がもうないのだ。ウィンドルに不穏な動きがあるという情報が入って来た |
| シゼル | こうなっては、もはや一刻を争う。完成を急げ |
| キール | …陛下。失礼を承知で申し上げます |
| キール | 開発が万が一遅れてメルディが…王女がウインドルに嫁いでこの国から出て行った場合 |
| キール | それでも、兵器をウインドルへ使うのでしょうか |
| シゼル | 愚問だな。…メルディに何か言われたか |
| キール | 開発は勿論間に合わせますが少し、気になったまでです |
| シゼル | 遅れた結果メルディを差し出したとしても研究は続けていく |
| シゼル | 他にこの国を存続する手立てはない。私は守らなければならぬのだ。例え尊い犠牲を払おうとも |
| シゼル | …これでよいか。私の決心は揺るがぬ |
| キール | …はい |
| シゼル | 兼ねてより約束していたがこの開発が成功したらおまえの望むものをやろう |
| シゼル | 地位も、名誉も好きに与える。それこそ本来の研究に戻っても構わぬ |
| シゼル | 励めよ |
| キール | はっ |
| キール | …。そうだ。ぼくの望みはこれなんだ |
| | |
| ジェイド | 何とか、兵士に見つからず辿り着けましたね |
| ピオニー | まさか、酒場の上とはな。昔、カン・バルクにいた頃はよくこの店で飲み明かしたよな |
| ジェイド | あの頃の友人達も私達の仲間ですよ |
| ルドガー | その仲間って何人ぐらいいるんですか? |
| ジェイド | 少なく見積もって二百人…ですが、全員が戦えるわけではありません |
| ファラ | にひゃ──そんなにたくさん!? |
| リチャード | 相当な数ではあるが…ア・ジュールの兵力を考えると足元にも及ばないだろうね |
| ジェイド | ええ。ですから正面突破ではなく暗殺という方法を取るわけです |
| ジェイド | そのための計画をここで着々と進めてきました |
| メルディ | けどここ、普通の酒場よ。お城が兵士、店に来る事ないか? |
| ジェイド | 客には兵士に限らず一般人も来ますが店主が上手く仕切ってくれていますから、問題はありませんよ |
| ジェイド | もっとも作戦の決行が近い今は臨時休業にしていただいてますが |
| ルドガー | 作戦の決行って、いつなんですか? |
| ジェイド | ピオニー殿下を救出次第でしたので…今から準備を整えて、出発は明朝ですね |
| ルドガー | そんなに早く…! |
| リチャード | しかし今日あんな事があった後では警戒されているのではないですか? |
| ジェイド | はい。ですが、時間が経てば警戒が解けるというものでもありません |
| ジェイド | 何せ戦争の準備をしている国です。警戒はどんどん強まる事でしょう |
| リチャード | 確かに…。それなら急いだ方が虚を衝ける可能性があるか… |
| ファラ | そっか。さすがにすぐ戻ってくるとは思わないもんね |
| ジェイド | ええ。それに…もう時間がないかもしれないんです |
| ピオニー | まさか、戦争が始まるのか? |
| ジェイド | 情報を集めてくれている仲間達からウィンドルに不穏な動きがあると連絡がありました |
| ジェイド | おそらくその情報はシゼル女王の耳にも入っているでしょう |
| メルディ | どうしよう…。おカーサン、完成したらすぐ兵器使うかもしれない |
| メルディ | 先制攻撃で兵器の威力を知らせる言ってたよ… |
| ジェイド | …まさに一刻を争う状況ですね |
| ジェイド | 準備があるため出発は早められませんが正直もどかしいですよ |
| メルディ | おカーサン…お願いな…早まらないでほしいよ… |
| ファラ | メルディ…。大丈夫だよ。きっとみんなで止められるから… |
| ジェイド | さて、作戦を説明しようと思いますがその前にいくつか質問させてください |
| ルドガー | 何ですか? |
| ジェイド | 門番が話しているのを聞きました。あなた方は「何の前触れもなく突然空から現れた」と |
| ジェイド | この国の情勢についてもあまり詳しくないようですし…あなた方は一体何者なのですか? |
| ルドガー | それは… |
| リチャード | ルドガー。彼らには正直に話すべきじゃないかな |
| リチャード | エルさんを助けた後に元の世界へ戻るためには協力者がいた方がいい |
| ピオニー | 元の世界って? |
| ルドガー | 実は…俺達は、この世界とは別の世界から来たんです |
| ジェイド | …にわかには信じがたい話ですが冗談を言っているわけではなさそうですね |
| ジェイド | それに気になる事もあります…。もう少し詳しく、あなた方の事を聞かせてもらえますか? |
| ルドガー | わかりました |
| ジェイド | ──成程。あなた方がこちらの世界に来た経緯はある程度理解しました |
| ジェイド | これで証明されましたね…キール・ツァイベルは優秀な学者なのだと |
| ファラ | …?どういう事? |
| ピオニー | 女王がどういう兵器を作っているか調べるために、開発責任者の研究を調べたんだ |
| ピオニー | 専門はマナの革新的な技術応用。そこから発展して、今研究しているのは── |
| ピオニー | こことは別の世界…分史世界の存在についてだ |
| ルドガー | 何だって…! |
| メルディ | メルディもよく話聞いてたから知ってるよ |
| メルディ | キール、世界が研究してたけど誰も信じてくれなかったな |
| ジェイド | 学者の中では嘲笑の的だったと聞いています |
| ジェイド | 私も論文を読みました。理屈は通っていますが、仮説も多く机上の空論だと思っていました |
| ジェイド | しかし正しいのは彼の方だった…。つまり、彼の学者としての能力は世界中の学者を凌駕しているんです |
| ファラ | キールって、そんなにすごいんだ |
| リチャード | しかしその頭脳が今、兵器開発に向けられている… |
| ジェイド | ええ。元々由々しき事態ではありましたが思っていた以上にマズい状況ですね |
| ジェイド | それほどの頭脳があれば我々の想像を超えた恐ろしい兵器の可能性があります |
| ジェイド | ──例えば、魔導器とか |
| ピオニー | 魔導器?まさか。あれは実現不可能な都市伝説だって話だろ? |
| メルディ | でもエル、兵器が事見て魔導器って言ってたよ |
| ジェイド | …という事は、あなた方の世界では実在しているのですか? |
| ルドガー | はい。俺達の世界では戦争で魔導器が使われていました |
| ルドガー | エルはその時、実際に魔導器を見た事があって… |
| リチャード | イニル街の魔導器か… |
| ジェイド | では、あなた方は魔導器の効果や対策についてもご存知ですか? |
| リチャード | 対策は、本体から魔核を取り出すなど直接の破壊が有効です |
| リチャード | 効果については、魔導器にもいろいろあるので断定は出来ません |
| ジェイド | …それなら、こんな魔導器を聞いた事はありますか? |
| ジェイド | 周囲のマナを吸い尽くし、生命が存在出来ない土地にする兵器… |
| リチャード | …あり得ると思います |
| リチャード | 魔導器の動力源はマナです。僕達の世界でも、命を吸い上げると言われた事がありました |
| ジェイド | そうですか…。…出来れば、不可能であってほしかったのですが… |
| メルディ | …… |
| ジェイド | 我々が掴んだ情報では、そのような効力があるそうです。それも、街一つが一瞬で枯れると… |
| ジェイド | その情報を聞いた時、さすがに偽の情報を掴まされたのだと思いましたよ |
| ジェイド | 理論上は可能ですが、実用化は不可能な技術で現実的ではありません |
| ジェイド | しかし…彼がそれ相応の頭脳を持っていると知った今、考えは変わりました |
| ピオニー | 使い方を誤ると世界が滅ぶ危険性すらあるな。絶対に阻止しないと |
| メルディ | …キール…どうしてそんな怖いもの作れるか…? |
| ジェイド | …負の因子の影響、という事は考えられませんか? |
| ルドガー | 負の因子…! |
| ジェイド | さっきあなた方の話を聞いてから気になっていたのです |
| ジェイド | それに憑りつかれた人は普段と様子が違ったのですよね? |
| ルドガー | はい。必ずそうなるかどうかはわかりませんが… |
| ジェイド | ならば、シゼル女王か、キールに憑りついた可能性は十分ありますね |
| ルドガー | 確かに…!もしそうだったら負の因子を破壊すれば解決するかも知れません |
| ピオニー | 因子を破壊すれば元の人格に戻るか… |
| ピオニー | 憑りついてるのがセルディクだったら話が早かったかもなぁ |
| リチャード | そうですね…でもセルディクは僕達の世界でも好戦的な性格の人物でした |
| リチャード | もし王になっていたら、こういう状況になる可能性は十分あり得ます |
| ジェイド | 興味本位で聞きますがそちらの世界ではウィンドルの王はどんな方なのですか? |
| リチャード | 僭越ながら僕が務めています |
| ジェイド | なるほど…道理で。品格のある方だとは思っていましたが国王陛下だったとは… |
| ピオニー | リチャード…そういえば聞いた事あるな |
| ピオニー | 確かウィンドルの王子だったが幼い頃に病死したとか |
| ルドガー | 病死…。それでこっちの世界ではリチャードが王じゃないのか |
| ファラ | 誰も気付かなかったのは大人のリチャードを知ってる人がいなかったからなんだね |
| リチャード | …なるほど、病死…か |
| ファラ | リチャード…大丈夫? |
| リチャード | ああ。少し驚いたけど、平気だよ |
| リチャード | 負の因子の話に戻ろう。僕達が元の世界に戻るために必要なものだ |
| ピオニー | と言っても、誰についてるかわからないんだろ? |
| ルドガー | 確かに…手がかりは少ないですね |
| リチャード | もし見つからなかった場合、他に元の世界に戻る方法はないのかい? |
| ルドガー | いや、実は戻るだけなら他にも手はあるんだ |
| ルドガー | 異変の前までは元の世界に戻るために時歪の因子(タイムファクター)というものを壊していた |
| ファラ | あっ、前にわたしとルークが分史世界に迷い込んだ時に倒した黒いモヤの魔物… |
| ルドガー | ああ。あの時は魔物だったけど…人間に憑りついている事の方が多いかな |
| ルドガー | 時歪の因子は…その世界を作っている中核なんだ |
| ルドガー | 憑りつかれた者は俺達のような骸殻能力を持つ者が近づくと黒いモヤを出し始める |
| ルドガー | そして骸殻の力を使って時歪の因子を破壊すると……その…元の世界に戻れるんだ |
| リチャード | なるほど…。異変の原因と思われる負の因子を見つける方が理想的だがその方法も検討するべきだね |
| ファラ | 勿論、エルを助けてからね |
| ルドガー | ああ。とにかく今は、エルを助ける事とキールを止める事に専念しよう |
| ジェイド | いやー、皆さんの方針が定まったようでよかったですね |
| ルドガー | あ、すみません。俺達の話ばかりしてしまって… |
| ジェイド | いえいえ。私としても、皆さんの行動目的を把握出来ましたので有意義でしたよ |
| ジェイド | それでは、改めて突入作戦の打ち合わせと行きましょう |
| ピオニー | その後は、朝まで自由行動だ。寝床は用意させてるから今日の疲れをゆっくり癒してくれ |
| ルドガー | ありがとうございます |
| | 決意の夜 |
| ピオニー | ここで呑むのは久しぶりだな。たまにこの店の味が恋しくなるんだ |
| リチャード | 今日は臨時休業と言っていましたがいいんですか? |
| ジェイド | ええ、作戦決行に備えて士気を上げるためにと、店主が厚意でやってくれているんです |
| ルドガー | じゃあ、ここにいる人達はみんな仲間なんですね。俺達がいていいのかな… |
| ジェイド | あなた方や王女殿下の事も協力者として説明してありますから気にする必要はありませんよ |
| ピオニー | その王女はふらふらとどっか行っちまったけどな |
| リチャード | 作戦の説明を聞いて思い詰めていたようだね… |
| ルドガー | 無理もないな。キールを確実に殺すための計画を聞かされたら… |
| ジェイド | だからといって作戦の説明を曖昧にする事は出来ません。あれでも表現には配慮したんですよ |
| ピオニー | それはメルディもわかっているさ |
| ピオニー | 今は考えを整理したいんだろう。ほんの数時間の間にいろいろありすぎたからな |
| リチャード | そうですね。ファラさんがついてくれていますから彼女に任せましょう |
| ジェイド | 念のため我々の仲間にも護衛させてますから問題はないでしょう |
| ピオニー | それじゃ、男だけでむさくるしいがこっちはこっちで男同士楽しく食事でもするか! |
| ルドガー | …いいんでしょうか。仲間が悩んでるのに楽しく食事なんて… |
| ピオニー | 気持ちはわかるが、ずっと張り詰めたままじゃ身が持たないぞ |
| リチャード | そうだね。ルドガーはこの世界に来てからどこか気負っているように感じる |
| ルドガー | …そうか?エルの事があるからかな… |
| リチャード | 僕も最初はそう思った。けど、それだけじゃないように感じてね |
| リチャード | 分史世界に詳しいから、僕達に対してまで責任を感じているんじゃないかい? |
| ルドガー | そう…なのかな。確かに、みんなを元の世界に連れて帰らないとって思っていたけど |
| リチャード | 君の気持ちは嬉しいが、少し気を休めた方がいい |
| リチャード | 前に、感情に流されずやるべき事を見極めるという話をしただろう? |
| リチャード | 今は力を抜いて、明日に備える時だ。焦る気持ちを抑えてね |
| ルドガー | …そうだな |
| ピオニー | いいとこ取られたな、ジェイド |
| ルドガー | えっ…? |
| リチャード | ふふ、実は、君の緊張に気付いて休ませた方がいいと教えてくれたのはジェイドさんなんだよ |
| ジェイド | 手合わせした時に、あなたの太刀筋から何となく感じただけですよ |
| ジェイド | 少し肩の力を抜けば、もっと強くなる…とね |
| ルドガー | はは、あんなに強いジェイドさんにそう言ってもらえると嬉しいですね |
| ピオニー | さぁ、もういいだろう。ここからは戦いの事を忘れてのんびり食事しようぜ |
| ルドガー | はい! |
| 店主 | お待たせしましたー! |
| ピオニー | 来たな。これがこの店の看板料理だ。ほら、食べてみろ |
| ルドガー | それじゃあ… |
| ルドガー | …! |
| ピオニー | どうだ?旨いだろ? |
| ルドガー | はい。濃厚な魚介の旨味がぎゅっと詰まったスープですね。これ、どうやって作ってるんだろう |
| 店主 | ははは、それは企業秘密です。しかし喜んでもらえてよかった |
| 店主 | それと、ジェイドの旦那はいつもの入れておきましたぜ |
| ジェイド | ありがとうございます |
| ルドガー | 豆腐入りですか?確かに、このスープに合うかも |
| ジェイド | おや、わかってくださいますか。店主、彼にも豆腐入りをお願いします |
| ルドガー | えっ、いや、そんなつもりじゃ… |
| ジェイド | まぁまぁ、遠慮なさらずに |
| ピオニー | ルドガー、すっかり懐かれちまったな |
| ジェイド | 酷いですね。ペットのように言わないでください |
| | |
| 逆徒の男 | お食事中失礼します。ジェイド様、例の件について報告書をまとめました |
| ジェイド | ありがとうございます。仕事が早いですね |
| 逆徒の男 | いえ。セルディクに関しては前々から情報を集めていましたから |
| ジェイド | なるほど。あなたも休んでください |
| 逆徒の男 | はい。失礼します |
| リチャード | もう調べていてくれたんですね |
| ジェイド | …。あなたの推理は的中していたようです |
| リチャード | …素直に喜んでいいのか、複雑な気持ちだな… |
| ピオニー | いい知らせなのか?それとも悪い知らせなのか? |
| ジェイド | そうですね。場合によっては、王女殿下よりもずっと強い切り札になる情報です |
| ピオニー | もったいぶってないで内容を教えろよ |
| ジェイド | そうしたいのは山々なんですが今は楽しい食事中ですので… |
| ピオニー | そういう皮肉が出るあたり相当いい知らせなんだろ。いいから、さっさと言え |
| ジェイド | 承知いたしました。いい知らせ…といっても楽しい話ではないのでご承知ください |
| | |
| ジェイド | これは、とある高貴な方が、セルディクに殺された…という話です |
| ルドガー | なっ…! |
| | |
| メルディ | …… |
| メルディ | キール… |
| ファラ | …メルディ、大丈夫? |
| メルディ | ファラ…!ついて来てたか? |
| ファラ | ごめんね。何だか心配で… |
| メルディ | …誰かついてきてる思ってたけどジェイドがつけた見張りと思ってたよ |
| ファラ | 見張りの人も後ろにいるみたい。夜は危ないから心強いけど… |
| メルディ | 無理ないな。メルディ、逃げ出したらみんな困るよぅ |
| メルディ | それに、少しは思ったよ。先にキールがとこ行って話した方がキールは安全かもしれないって… |
| メルディ | でも、そうしたら…今度はピオニー達が危ないな |
| メルディ | みんな捕まったら今度こそ処刑されちゃう… |
| メルディ | メルディ、キールが事、大切。だけど、みんなが事も大切 |
| メルディ | だから…明日、みんなと一緒にキールがとこ行って、説得するよ |
| ファラ | メルディ…。ありがとう。わたし達の事まで心配してくれてたんだね |
| メルディ | ファラ達、友達。心配するが当たり前!だから決心、揺るがないよ |
| メルディ | ただ…メルディ、明日キールに上手く話せるか…不安な |
| ファラ | そうだよね…わたしにも手伝える事があればいいんだけど… |
| メルディ | ありがとな。でもキール、メルディが友達だからメルディお話頑張るよ |
| ファラ | …実はね、わたし達の世界のキールとは幼なじみなんだ |
| メルディ | バイバ!ファラ達が世界にもキールいるか? |
| ファラ | うん。メルディもいるよ。わたし達、友達なんだ |
| ファラ | メルディは王女様じゃなくてわたし達と一緒に冒険したりしてたんだよ |
| メルディ | 冒険!みんな一緒にか?キールも、ファラも? |
| ファラ | うん。もう一人リッドっていう幼なじみも一緒に旅をしてたんだ |
| メルディ | ファラの世界ではみんな…キールもメルディも仲良しなんだな |
| ファラ | うん… |
| ファラ | …わたし達の世界のキールはメルディが嫌な目に遭う夢を見たっていうだけで大慌てだったんだ |
| メルディ | 夢だけでか?…おかしなキールだな |
| ファラ | 勉強ばかりのキールをわたし達が振り回してたくらいなのに |
| ファラ | メルディの事になるとわたし達の事を逆に振り回すくらいなんだよ |
| メルディ | …ファラ、その話、もっと聞かせてほしいよ |
| ファラ | うん。ある日、キールが突然わたし達のところに来て── |
| ファラ | …と、いうわけなの |
| メルディ | 違う世界のキールの話なのにメルディが大切にされたみたいで嬉しいな |
| ファラ | そう思えるって事はここのキールだって大切に思ってくれてた時があったんじゃない? |
| ファラ | 今はきっと、研究とか戦争とかメルディが結婚を迫られてるとかいろいろあって大変なだけだよ |
| メルディ | …うん。メルディ、覚えてるよ。キールと過ごしてた時間 |
| メルディ | キールが研究、最初は世界の未来がためって言ってた |
| メルディ | この世界が人々、生き続けさせるため必要な研究って |
| メルディ | キールがそのため、すっごく頑張ってた事は知ってる |
| メルディ | それに…キール、研究でとても忙しいはずなのにこの花畑に連れて来てくれたよ |
| ファラ | ここに?…そっか、だからメルディ、ここで考え事してたんだね |
| メルディ | はいな。ここの花はマナが影響受けて色を変える… |
| メルディ | マナ、生き物にとってどれほど大事かわかる場所ってキール言ってたよ |
| メルディ | なのにキールが兵器、そのマナを吸い取って生き物殺すなんて… |
| ファラ | 明日、説得できたらキールと二人でまたここに来たらいいよ! |
| ファラ | そうすればきっとキールもあの時の気持ち、思い出すんじゃないかな |
| メルディ | それは、多分…出来ないな |
| ファラ | どうして…? |
| メルディ | キールに研究止めてほしくて、メルディ、ウィンドル王に嫁ぐって言ったよ |
| メルディ | メルディが話、聞いてくれなくてキールにきらい、言っちゃったよ |
| ファラ | そっか…ケンカ、しちゃったんだね |
| メルディ | うん…それに、キールを説得出来ても戦争しないためメルディお嫁行く |
| メルディ | だから、もうきっとここにキールとは来れない |
| ファラ | そんな事…。また二人で来られるようにわたし達も協力するよ! |
| メルディ | ありがとな。でも、メルディキールともうここに来れなくてもいい |
| メルディ | メルディ嫌われても、キール無事、みんなも無事。だったらメルディ、平気だよぅ |
| メルディ | メルディが大事な人誰も傷つかないのがメルディ、一番嬉しい |
| ファラ | …。でも、それじゃメルディが… |
| メルディ | メルディ、夜にここに来たの初めてマナの光が空に昇ってお星さまに生まれ変わってるみたい… |
| メルディ | …ファラ。この綺麗な星空。メルディが代わりにキールに教えてあげてほしいよ |
| ファラ | そんなの、駄目だよ…絶対、二人は大丈夫だから。そんな顔しないで、メルディ… |
| メルディ | ありがとな。ファラ… |
| | |
| 騎士 | 王の間の封鎖は完了しました。これより先はフレン隊長の指示があるまで外で待機します |
| キール | ありがとうございます |
| キール | さあ、陛下の行方を追う手段がないか改めて探るぞ |
| リッド | 探すったって…何の手掛かりも残ってないんだぜ |
| メルディ | ルドガーもエルも消えちゃったしな… |
| キール | だからと言って諦めるわけにはいかないだろう |
| キール | いつまでもリチャード陛下の事を隠し通せるわけじゃない。早くしないと… |
| キール | っ… |
| メルディ | キール?どうかしたか? |
| キール | …少し眩暈がしただけだ。心配するな |
| リッド | 少し休んだ方がいいんじゃねえか?ここに来るまでずっと歩き通しだったし |
| メルディ | メルディ、リッドと一緒に部屋の中調べるよ!その間、キール休むといいな |
| キール | …わかった |
| リッド | よし。俺達はあっちの方を調べてるから、何かあったら呼べよ |
| キール | …全く、ぼくは子どもじゃないんだぞ |
| キール | …… |
| scene1 | 陽動作戦と包囲網 |
| | キィ──…バタン |
| キール | …試験運転も上手くいった。これでようやく── |
| ??? | 戻ったか |
| キール | …!何だ、おまえか |
| ??? | 研究は順調か? |
| キール | ああ。小型の試作機で実験をして来たが、上手く動作した。兵器の完成は目前だ |
| ??? | …私が聞いているのはその研究の事ではない |
| キール | ……。分史の研究は保留中だ。兵器が完成次第、再開する |
| ??? | そうか |
| キール | …ところで、どうやってここに入り込んだ? |
| キール | この部屋の警備は厳重だ。国家機密を扱っている上、保護している研究対象もいるからな |
| キール | …何かの術か?だとしたら対策を打っておかねば… |
| ??? | 心配するな。私以外が使える方法ではない |
| キール | そういう問題じゃない。…答える気はなさそうだな |
| ??? | …その研究対象の様子はどうだ。今は眠っているようだが |
| キール | ああ。静かにしているが…眠っていても時計だけは放そうとしない |
| キール | この子どもを傷つけるなと言われてさえいなければ楽だったんだが… |
| ??? | …真の価値は時計ではなくその娘にある |
| キール | わかっているさ。でも、いよいよとなれば多少の怪我は目を瞑ってもらうぞ |
| ??? | ………… |
| キール | それにしてもおまえは一体、何者なんだ?どうしてそんな事まで知っている |
| キール | ぼくに分史世界の知識を与えただけでなくクルスニク一族の力にも詳しいときた |
| キール | 正体を明かすつもりはないだろうが何が目的かぐらいは知っておきたい |
| ??? | おまえは知る必要のない事だ。そんな事より今は時間がないのだろう? |
| キール | …それはそうだが… |
| エル | う…ん… |
| ??? | …! |
| エル | あれ…?寝ちゃってた… |
| キール | 何だ、起きたのか |
| エル | 今…誰かと話してた? |
| キール | …いや |
| キール | (もう姿を消したか… どういう事情か知らないが こいつに何かあるのは間違いない…) |
| キール | (真の価値…か。 まだぼくの知らない何かが 隠されてるようだな…) |
| | |
| 兵士1 | 異常はないか? |
| 兵士2 | はっ。問題ありません |
| 兵士1 | 警戒は怠るな。またいつ逆徒共が入り込むとも── |
| | |
| | パンッパンパンッ |
| | |
| 兵士1 | っ、何事だ!? |
| 兵士2 | あれは…!街の方から煙が上がっています! |
| 兵士3 | た、大変です!ウィンドルが攻めて来ました! |
| 兵士1 | 何!?くっ…こうしてはおれん! |
| 兵士1 | 私は女王陛下へ報告に行く!お前はすぐに動ける兵を集めて街へ向かえ! |
| 兵士2 | はっ! |
| 兵士1 | お前は待機中の兵を率いて街の外にある門を閉じよ!これ以上、敵の進軍を許すな! |
| 兵士3 | 承知いたしました! |
| | タッタッタ… |
| | |
| ジェイド | 始まりましたね。兵も動き始めたようですから、隙を見て侵入を開始します |
| ピオニー | 街を巻き込んだ大規模な陽動作戦はやり直しがきかない。正真正銘、最後の決戦だな |
| ジェイド | ええ、もう後には引けません。私達はこの作戦の成否に全てを賭けています |
| ジェイド | 決行前に、作戦を再確認しておきましょう |
| ジェイド | まず、さっきの音と煙に加え、街ではウィンドル軍が攻めてきたと仲間達が吹聴してまわっています |
| ジェイド | 城の兵士達はこれに対応するため大半が街に出払う。それが今の状況です |
| ジェイド | この隙に仲間達が城の正門を占拠します。これで出ていった兵士達は戻れません |
| ジェイド | さらに、城内に残った兵力も正門の対応にまわるでしょう。その隙に我々が裏から侵入します |
| ジェイド | そして素早く研究室に向かい、兵器を破壊して、キールに開発を止めさせれば作戦完了です |
| ルドガー | 正門の占拠もいつまでもつか、わからないしな…時間との勝負だ |
| ジェイド | ええ。…さて、そろそろ── |
| | ドォン! |
| リチャード | 正門で戦闘が始まったようですね |
| ジェイド | 我々も侵入を始めましょう |
| ファラ | はいっ。行こう、メルディ |
| メルディ | …はいな |
| クィッキー | クィィ… |
| scene2 | 陽動作戦と包囲網 |
| ピオニー | ここまでは問題なさそうだな。作戦通り、警備も手薄になっているようだ |
| ジェイド | 喜ぶのはまだ早いですよ。油断せず、このまま研究室に向かいましょう |
| ルドガー | 今行くからな、エル… |
| | |
| ??? | 止まれ |
| ピオニー | …!まさか、あなたが直々にお出ましとは |
| メルディ | おカーサン! |
| | |
| シゼル | …やはり騒ぎの元凶はおまえ達だったか |
| | ザッザッザッ |
| ファラ | 囲まれた…! |
| リチャード | まるで僕達がここに来るのがわかっていたみたいだ |
| ジェイド | …陽動が見破られていたようですね。それなら我々の目的が城内にあると推測するのは容易でしょう |
| ジェイド | しかし、侵入経路まで特定し女王陛下自らが兵を率いて待ち構えているとは、予想外でした |
| クィッキー | クィィ… |
| シゼル | ここから先へは進ませぬ。勿論、おまえもだメルディ |
| メルディ | おカーサン、聞いて!兵器使うの、絶対ダメ! |
| シゼル | …逆徒共に何を吹き込まれたのかは知らぬが… |
| シゼル | あの兵器は我々に必要な物だ。強い力がなければ我が国と民を守る事は出来ぬ |
| リチャード | それは違います。強い力は、さらに強い力を呼ぶ…その先に待っているのは破滅だけです |
| リチャード | あなたは民を想える王妃だ |
| リチャード | 叶うのであれば戦争をせず解決する事をお望みではないのですか? |
| シゼル | 黙れ。戯言を。おまえ達の言葉に耳を貸すつもりはない |
| メルディ | おカーサン、お願いよ…メルディ達が話聞いてほしい! |
| シゼル | くどい。──こやつらを拘束しろ |
| シゼル | メルディもろともだ |
| 兵士3 | はっ! |
| メルディ | …っ |
| ジェイド | …想定していた中で最悪から二番目の展開ですね |
| ピオニー | おまえが想定してたならまだ大丈夫そうだな。ちなみに最悪ってどんな状況だ? |
| ジェイド | 戦う間もなく奇襲で全滅する事です |
| ピオニー | 抗えるだけマシって事か…それじゃ、ひとまず周りの奴らを大人しくさせないとな |
| ファラ | …メルディ、大丈夫? |
| メルディ | …はいな。メルディ、みんなと一緒に戦う |
| メルディ | おカーサンとキールが事、絶対止めてみせる! |
| scene1 | 曇天穿つ |
| ルドガー | はあっ! |
| | ザシュッ |
| 兵士 | くっ…申し訳…ございません… |
| | |
| | ドサッ |
| | |
| シゼル | …ほう。我が軍の精鋭達がこうも容易く倒されるとはな |
| シゼル | ……情けない事だ |
| ルドガー | 容易くだって?こっちもギリギリだったさ |
| ジェイド | ですが、形勢逆転です。あとはあなただけですよ、女王陛下 |
| シゼル | だから何だと言うのだ。私が生きている限り兵器開発は諦めぬぞ |
| メルディ | やめて!おカーサン、みんなで他の道、探すんだよ! |
| シゼル | その議論は終わった。今はウィンドルを凌ぐ強い力こそが我が国に安寧をもたらすのだ |
| ジェイド | それはどうでしょう国内の反乱分子に刃を向けられている今の状況をどうお考えですか? |
| シゼル | …私がここで果てようが武力を持って目的を成そうとしているのは今のおまえ達も同じ… |
| シゼル | ウィンドルからこの国を守るにはもはや力を得る以外方法がないのだ。おまえ達の言葉は偽善でしかない |
| ジェイド | 同じで結構です。しかしそれだと、矛盾していませんか |
| シゼル | 何だと…? |
| ジェイド | 我々を「同じ」と言うのであれば兵器でウィンドルを追い詰めてもあなたの要望は通らないのでは? |
| ピオニー | 追い詰められてもこっちの話を聞く気にまだならないみたいだしな |
| シゼル | ふ、そのような詭弁は私を追い詰めてから言うのだな! |
| ファラ | まだ戦うつもりなの…! |
| シゼル | 兵器の開発を止めたとてウィンドルはこの国を支配するだろう |
| シゼル | それは、メルディが嫁いでも同じ事 |
| シゼル | ア・ジュールは戦い続けるあの男に、私の愛しいものを傷つけさせてなるものか |
| メルディ | メルディ、イヤだよ!キールが研究でたくさん人死ぬ…おカーサンの号令で人が死ぬ |
| メルディ | そんなのメルディは絶対にイヤ! |
| シゼル | 子どものわがままだな。私達は王族なのだ個人の感情は持ち出すなと言ったはず |
| メルディ | わがままなのはわかってる。メルディ一人で、解決できないのも… |
| メルディ | でも、ここには助けてくれる人がいる! |
| メルディ | メルディ、子どもで、わがままでお嫁に行くくらいしかア・ジュールの役に立てないけど… |
| メルディ | おカーサン、一人で悩まないで!みんな、ア・ジュールのため一緒に考えてくれるから |
| | |
| シゼル | …メルディそこの者共に、唆されているのだな |
| | |
| シゼル | 愚かなる逆徒共よ我が娘を誑かした罪この私自らの手で罰を下してやろう |
| リチャード | 話し合う事は出来ないのか… |
| ジェイド | 今は何を言っても無駄でしょう。まずは頭を冷やしていただきます |
| メルディ | ………… |
| クィッキー | クィック… |
| ルドガー | メルディ、無理はしなくていい。ここは俺達で… |
| メルディ | …心配いらないメルディ、戦える! |
| メルディ | 決めてたよ。おカーサンやキールと戦う事なっても絶対に諦めないって |
| ファラ | メルディ… |
| シゼル | その覚悟、口だけとは言わせんぞ。国を背負う者の責任の重さ、その身に刻み込んでくれよう! |
| メルディ | いくよ、おカーサン…! |
| scene2 | 曇天穿つ |
| シゼル | くっ! |
| ジェイド | どうやらここまでのようですね。道を開けてもらいましょう |
| シゼル | まだだ…! |
| シゼル | この身がどうなろうとおまえ達を通すわけにはいかぬ…! |
| ファラ | どうしてそこまで… |
| シゼル | この国を…あの暴君…セルディクごときに支配させてなるものか! |
| ジェイド | …なるほど。では、支配されないのであれば問題ないですね? |
| シゼル | 世迷い言を… |
| ジェイド | 我々が手に入れた情報を使えばセルディクを黙らせる事が出来ますよ |
| シゼル | セルディクを黙らせるだと…?そのようなもの… |
| ジェイド | 信じるかどうかは話を聞いてからご判断いただければいいでしょう |
| メルディ | おカーサン…ジェイドの話、聞いてほしいよ |
| シゼル | …申してみよ |
| ジェイド | セルディクには後ろ暗い過去があります。四大国の中で立場を失うほどの、ね |
| シゼル | ああ、それなら私も入念に調べた。だが黒い噂は絶えないものの決定的な証拠は何一つ見つからぬ |
| ジェイド | 我々も最初はそうでした。しかし、ここに…この世界では誰も知り得ない事を知る人物がいるのです |
| シゼル | この世界では…だと? |
| ジェイド | では、後の説明はお願いしますよ、リチャード「様」 |
| リチャード | はい |
| シゼル | その者が、一体、何だと── |
| シゼル | ──いや、リチャード…確かウィンドルの病死した王子の名だったか |
| リチャード | その通りです。僕はこことは違う世界でウィンドルを治めている者です |
| シゼル | こことは違う世界…キールの提唱する分史世界から来たというのか… |
| リチャード | 結論から言いましょう。この世界のリチャードはセルディクに暗殺されています |
| リチャード | 病死というのは、セルディクが自分の悪事を隠すために流した嘘の情報… |
| リチャード | しかし事実は、王である父と共に毒を盛られて死んでいたのです |
| リチャード | 僕達の世界のセルディクも同じ企てをしていました。幸いにも失敗に終わりましたが… |
| シゼル | …この世界でもセルディクを疑う者はいたが、何の証拠も出てこなかったと記憶している |
| シゼル | そちらの世界ではどのように発覚した? |
| リチャード | 以前、僕が動けなくなった時にセルディクが実権を握り、暴走した事があったんです |
| ルドガー | ああ…世界が晶化現象に包まれてリチャードが晶化してしまった時か |
| ルドガー | セルディクが結成した「赤の騎士団」には、みんな酷い目にあわされた… |
| リチャード | 本当に迷惑をかけたね… |
| リチャード | …全てが解決して「赤の騎士団」を解体した後、僕はセルディクが他に何か企んでいなかったか調べたんだ |
| リチャード | その中で、わかった。彼にはかつて、僕を暗殺する計画があったという事がね |
| ジェイド | もうおわかりですね。調査の結果、この世界でも同じ暗殺計画は進められていました |
| ジェイド | そして…この世界ではセルディクの思い通りに事が進んでいたのです |
| シゼル | …その話が本当だとして、証拠は掴めているのだろうな? |
| ジェイド | いただいた情報のお蔭ですんなりと。あちらの世界と全く同じ計画だったのは幸いでした |
| ジェイド | 使われた毒、利用された者達、毒の入手経路や、根回しの手段など外堀を埋める情報は揃っています |
| ジェイド | これだけ揃っていれば言い逃れは出来ませんよ |
| ピオニー | それに俺なら、この報告書を使ってシルヴァラントとキムラスカを味方に付ける自信があるぜ |
| ピオニー | 隠居していようと思っていたがこの国の危機なんだ。協力させてくれ |
| シゼル | ……確かに。それらの国を敵に回して戦おうとは思わぬか… |
| メルディ | おカーサン!これなら戦争しなくても国を守れるな! |
| シゼル | この話が真実なら奴を失脚させるには十分であろう |
| メルディ | それじゃ、おカーサン! |
| シゼル | 兵器を使って戦うよりも確実で犠牲も出さずに済むというなら…その策に乗る価値はあろう |
| シゼル | ……だが、これからも国を守るために兵器を持つ事に価値がないとはいえぬ |
| ルドガー | っ!? |
| シゼル | ──が、兵器開発を中止しなければその男は私に情報はくれまい |
| ジェイド | 勿論です |
| | |
| シゼル | ……兵器開発は中止させよう |
| | |
| メルディ | おカーサン…ありがとう! |
| ピオニー | 話はついたな。ここで女王に会えたのは不幸中の幸いだったぜ |
| ジェイド | 私達の話を信じていただけなければ、終わりでしたから |
| ファラ | メルディの気持ちが伝わったんだよ信じてもらえてよかった! |
| ジェイド | 皆さんの頑張りで話を聞いていただける状態になりましたしね |
| メルディ | お蔭でみんな助かった!ありがとな! |
| シゼル | 喜ぶのはまだ早い。まずは急ぎこの内乱を止めなければ |
| シゼル | 私はウィンドルと戦争になる前に会談を申し込む。ピオニー他国への根回しは頼んだぞ |
| ピオニー | 任せてくれ |
| リチャード | 会談は可能でしたらウィンドルのデールを同席させてください |
| リチャード | 僕の世界のデールと同じなら、セルディクを上手く抑え込んでくれるかもしれません |
| シゼル | わかった、要請してみよう |
| シゼル | メルディ、私は急がねばならない。兵器開発の中止をおまえから伝えてくれるか |
| シゼル | 後で正式に命令書を届けさせるが急ぎ伝えた方がよいだろうからな |
| メルディ | はいな!キールに全部説明するよ |
| ルドガー | これで兵器開発は止まるとして…あとはエルだ |
| メルディ | きっと、だいじょぶ!兵器開発なくなったらエルが事も解放してくれる! |
| メルディ | みんなで一緒にキールがとこ行こ! |
| ジェイド | 私も同行しますよ。兵器開発の中止を見届けるまでが任務ですので |
| メルディ | はいな!ジェイド達納得してくれる事も大事だからな |
| ピオニー | よし、こっちは作戦終了の伝達とこの国を守るための準備を進めてくるぜ |
| ピオニー | キールにもしっかり伝えろよ。メルディ |
| メルディ | はいな! |
| ルドガー | それじゃあ研究室に行こう!エルも待ってるはずだ |
| | 因子のありか |
| | カチャカチャ── |
| キール | よし、完成だ |
| エル | 魔導器…ほんとに使うの?絶対、やめた方がいいよ! |
| キール | おまえが自分の世界で見たという魔導器の話か? |
| エル | …うん。街が病気になっちゃうんだよ。さっきも言ったでしょ |
| キール | ああ。別世界での実例だから無視出来ない話だったさ |
| キール | だがその問題は既に解決したし、その過程で術式の効率化にも成功した |
| キール | 試験運転の結果も上々だったしな |
| エル | シケンウンテン…?もしかして、本当に使っちゃったの!? |
| キール | ああ。今朝、街外れの花畑を利用した |
| | |
| キール | マナに反応して色を変える花だ。もし失敗しても花の色からその原因を探れると思ったが── |
| | |
| キール | 試作機を起動したら花畑が一瞬で枯れ果てた。最小出力でもすさまじい効果だ |
| | |
| エル | お花が…ひどい… |
| キール | 酷いものか。最高の結果だ!生命の根源であるマナを一瞬で奪い取ったんだぞ! |
| エル | お花がかわいそう!何とも思わないの!? |
| キール | 別に。兵器開発のためなら花畑ぐらい──… |
| | |
| メルディ | ワイール!お花きれい! |
| キール | 気に入ったか?研究の一環で見つけたんだ |
| キール | この花はマナに反応して色が変わるから、研究でよく使うんだ |
| メルディ | じゃあ、キールは研究がためここに来る事たくさんあるか? |
| キール | ああ…まぁ、それなりによく来るな |
| メルディ | わかった!メルディ、キールに会いたくなったらここで待ってるよ! |
| キール | …毎日来るとは限らないぞ |
| メルディ | でもメルディずっと待ってたらいつかキールやってくる。それでいいよ |
| キール | おまえだって、毎日ここに来る時間なんて取れないだろ… |
| キール | ぼくに用があるなら研究所に来た方が確実だぞ |
| メルディ | 研究所行ったら、メルディ、みんな、王女様扱いするからキールと自由に話せない |
| メルディ | ここでなら王女なんて関係ない。キールとメルディ、遠慮なく話せるよ |
| キール | …そうだな |
| | |
| キール | ………… |
| キール | (…どうして今更、こんな事を 思い出すんだ…) |
| キール | (…過去なんてどうだっていい。 大切なのは今だ) |
| キール | (あの花畑は確かに示していた。 ぼくの兵器の性能は想定以上… 一瞬で死の大地を作り出せる) |
| キール | (これでぼくは… 目的に一歩近づいた。 全ての邪魔者を…排除してやる!) |
| エル | …… |
| キール | こんな事してる場合じゃない。女王陛下に完成を報告して…早速、ウィンドルに向けて発動を── |
| | |
| | バタンッ |
| | |
| 兵士 | 失礼します!緊急事態です! |
| 兵士 | 先ほど、逆徒が城内に侵入しました |
| キール | 何っ…!兵達は何をしている? |
| 兵士 | 敵の陽動に騙されてしまい出払っており… |
| 兵士 | 女王陛下自らが、残った兵を率いて逆徒共を捕えようとされましたが、状況は劣勢… |
| 兵士 | 私は隊長の指示によりキール様に一刻も早くお伝えするべく戦闘を抜け出して参りました |
| キール | 陛下自らだと?…逆徒共の目的は何だ |
| 兵士 | 情報によると──兵器の破壊と、キール様の暗殺だとか |
| キール | …ぼくの命を狙うか。ならば返り討ちにするまで! |
| キール | 報告ご苦労だった。おまえは戻って女王陛下の加勢に向かえ |
| 兵士 | はっ! |
| | バタン |
| エル | …戦うの? |
| キール | ああ。おまえは安全なところで大人しくしていろ |
| キール | 大事な研究対象だ。もしもの事があったら── |
| | コンコン |
| メルディ | キール、いるか? |
| キール | メルディか。おまえもここに匿ってやる。入れ |
| | |
| | ガチャ── |
| キール | ──なっ! |
| | |
| ジェイド | 失礼しますよ |
| エル | ルドガー! |
| ルドガー | エル!無事だったか!? |
| キール | 待て! |
| エル | うぅっ、ルドガー…! |
| ルドガー | エル…! |
| メルディ | キール、何する!乱暴やめて! |
| キール | うるさい!メルディ…おまえ…逆徒共と手を組んだのか |
| キール | そいつらは、ぼくの事を殺そうとしてるんだぞ。わかっているのか? |
| メルディ | 違うよ! |
| キール | 何が違うんだ!そうか、メルディ…戦争を止めたいと言っていたな |
| キール | ぼくを殺すつもりだったのか…そのために逆徒共をここまで引き入れたのか! |
| メルディ | 違う!キール、話聞いて!誰もキールが事、殺さないよ! |
| キール | …逆徒と組んでいる事は否定しないんだな |
| メルディ | それは… |
| キール | ぼくの気持ちも知らないでおまえは…!ぼくはおまえのために…! |
| ファラ | えっ…!黒いモヤ!?ねぇ、あれって… |
| ルドガー | 負の因子だ…!キールに憑りついていたのか! |
| キール | やはりこれが気になるか。だからぼくを殺そうというんだな! |
| メルディ | キール、違うよ!どう言えばわかってくれる? |
| ジェイド | 私が端的に説明しましょう。よろしいですか、王女殿下? |
| メルディ | うん…ごめんな |
| ジェイド | ルドガー。話の間、あの子に下手に動かないよう伝えてもらえますか |
| ルドガー | ああ。エル、聞こえたな。少し辛抱してくれ |
| エル | …うん |
| ジェイド | さて、本題に入りましょう |
| ジェイド | あなたの言う通り、我々は逆徒と呼ばれる集団で、あなたを暗殺する事も考えていました |
| ジェイド | しかしもう、その必要がありません。シゼル女王は兵器開発の中止を決定したからです |
| キール | 何…? |
| メルディ | メルディ達はその事、伝えに来ただけよ |
| キール | そんな言葉を信じろと言うのか? |
| ジェイド | 事実でなければ女王陛下が私達をここまで通すとお思いですか? |
| キール | …… |
| ジェイド | まぁ、そう簡単には納得出来ないでしょう。ですので、順を追って説明します |
| キール | …なるほど。セルディクが失脚すれば戦争をする必要はなくなる…か |
| メルディ | おカーサンは今、その話をしに動き回ってるよ |
| メルディ | だから兵器はもういらない!戦う必要もない!エルも解放してほしいよ |
| キール | …駄目だ |
| メルディ | キール…! |
| キール | メルディ…。上手く言いくるめられたものだな |
| メルディ | 信じてくれないか? |
| キール | セルディクの件は信じてもいい。兵器も、もういらないのかもしれない |
| キール | だが、そいつらの事を信じるかどうかは別の話だ |
| キール | 妙だと思わなかったのか?どうして別の世界から来たやつらがそこまで力を貸すのか |
| メルディ | ルドガー達が事か…? |
| ルドガー | そんな…俺達はただ目の前で困ってる人を放っておけなかっただけだ |
| ファラ | そうだよ!それにメルディはわたし達を助けてくれたもん |
| リチャード | それに、別の世界とはいえウィンドルが関係している事を見過ごせなかったからね |
| ルドガー | この世界に来たのだって偶然なんだ。他意はないよ |
| キール | …本当にそういう理由ならそれでいい |
| キール | いい奴らなんだろう。メルディが信用するだけの事はある |
| キール | だから、残念だ |
| | |
| キール | …ルドガー!ぼくは、おまえを殺す! |
| | |
| ルドガー | 何だって…!? |
| メルディ | キール、どうして!? |
| ジェイド | …もしや、これが負の因子というものの影響なのですか? |
| リチャード | 詳しくはわかりませんが…それだけではルドガーを名指しする理由がないと思います |
| キール | とぼけても無駄だぞ。おまえ達、クルスニク一族が分史に来た目的はわかっているんだ |
| キール | 殺す…殺さなければ…ここで…絶対に…殺す…殺すんだ…殺してやる…! |
| メルディ | キール… |
| エル | ルドガー… |
| ルドガー | ………… |
| ルドガー | 事情はわからないが、キールは俺に用があるんだろ?ならエルは放してくれないか |
| キール | 残念だが、それは出来ない。こいつにはまだ用があるんだ |
| キール | クルスニク一族の力を研究するために、こいつと時計を手放すわけにいかない |
| ルドガー | どうしてエルなんだ。クルスニク一族を研究したいのなら俺を好きにすればいい |
| キール | ……必要なのはこいつであっておまえじゃない |
| ルドガー | エルが必要…?どういう事だ…? |
| キール | 答える必要はない。こいつを傷つけたくなければ武器を捨てて、大人しく死んでくれ |
| | |
| | チャキ |
| | |
| ファラ | ナイフ…!?そんな、卑怯だよ! |
| キール | 手段なんて選んでいられないんだ! |
| メルディ | せっかく兵器使わなくてよくなった…人、殺さなくてもよくなったのにどうしてこんな事する!? |
| キール | 黙れ。おまえも妙な動きをしたら、こいつはただじゃ済まないぞ |
| メルディ | キール… |
| ジェイド | …小型のナイフですが、精密作業にも使える非常に切れ味のいいものです |
| ジェイド | もしもの場合、怪我では済みません。ここは従った方がいいでしょう |
| ルドガー | くっ… |
| エル | ルドガー、ダメだよ。エルの事はいいから、戦って! |
| キール | もう遅い!死ね!ブラッディハウリング! |
| | ヴォンッ── |
| ルドガー | しまっ── |
| メルディ | …させない! |
| キール | 何っ…! |
| | ドォン! |
| メルディ | きゃうっ…! |
| | ドサッ |
| ルドガー | メルディ! |
| キール | くっ…何故だ、メルディ…! |
| ルドガー | 大丈夫か…!?すぐに手当てを… |
| キール | …!やめろ、メルディに近づくな! |
| メルディ | うぅっ… |
| メルディ | ルドガー…無事か…? |
| ルドガー | なっ…今のは…! |
| リチャード | 黒いモヤ…?負の因子とも少し違うようだが… |
| ファラ | …わたし、これと同じものを見た事があるよ。ルークと一緒に分史に行った時… |
| ルドガー | ああ。あの時の魔物と同じだ |
| ルドガー | メルディ…君が時歪の因子だったのか… |
| メルディ | 時歪の…因子…? |
| キール | …… |
| | |
| キール | くっ、うっ… |
| リッド | キール!?どうした! |
| メルディ | バイバ!黒いモヤモヤ…ルドガー達言ってた、負の因子か! |
| キール | こ、好都合だ…自分の身体の事なら…いろいろと…調べられる… |
| キール | ぐうぅっ…! |
| | ドサッ |
| リッド | キール!無理するな! |
| メルディ | 今、治療するよ!じっとしてて! |
| | パアアア… |
| キール | うぅ… |
| メルディ | うー、術が力、モヤのせいで散ってしまうよ! |
| キール | メルディ、やめろ…。おまえまで、消耗するぞ… |
| メルディ | 嫌!メルディ、諦めない! |
| メルディ | モヤにも負けないぐらい、力、出し切る! |
| | パアアア… |
| リッド | エステルや、治療出来るやつに手伝ってもらえねぇか、フレンに頼んでくる! |
| キール | 二人共…すまない… |
| | パアアア… |
| メルディ | はぁ、はぁ…まだよ… |
| クィッキー | クィィ… |
| キール | メルディ…もう…いい。これ以上は、おまえが… |
| メルディ | ううん。ちょっとずつ、よくなってる。もう少しで、きっと治る! |
| メルディ | あとちょっと…頑張る…!メルディ、キール助ける…だから── |
| | フラッ… |
| クィッキー | クィィッ! |
| キール | メルディ!危ない! |
| | ガシッ |
| | |
| キール | …!何だ、これは… |
| キール | 何か…見える… |
| | |
| メルディ | うぅ…よかったな、キール…メルディ生きてる…誰も殺さず、すんだ…な… |
| キール | くっ…。どうしておまえがぼくの邪魔をするんだ! |
| | |
| キール | …今の景色は、一体…。それに、ぼくだけでなくメルディにも黒いモヤが… |
| メルディ | キール…?もうだいじょぶだから、手、放していいよぅ |
| キール | あっ…! |
| キール | す、すまない |
| メルディ | ワイール!キール、元気なったな!よかったよかった! |
| キール | ああ、メルディのお蔭だ。ありがとう |
| キール | (しかし…さっき見えたのは 一体何だったんだ…) |
| scene1 | 因子と骸殻能力者 |
| ファラ | メルディ、大丈夫!? |
| メルディ | はいな…。メルディ死なないよ。キール、人殺しにはさせない… |
| キール | 無駄な事を… |
| キール | おまえが時歪の因子だと知られた今、もはや生かしておくという選択肢はなくなったんだぞ |
| ルドガー | キールは、メルディが時歪の因子だと知ってたのか? |
| キール | 当然だ。だから封印の術式で時歪の因子を抑えていた |
| キール | 骸殻能力者が近づいても気付かれないようにな |
| ルドガー | …そんな事が出来るのか |
| キール | …… |
| | パァァ… |
| メルディ | …! |
| リチャード | 消えた…。これが封印の術式… |
| キール | もっとも、おまえ達には意味がなかったようだ |
| キール | おまえ達はメルディに時歪の因子が憑りついている事を知っていて近づいたんだろ |
| キール | 何せクルスニク一族は──時歪の因子を消すために分史に来ているのだからな |
| ルドガー | なっ…! |
| リチャード | ……ルドガー、どういう事だい? |
| ルドガー | …本来、分史世界を出るためには時歪の因子を破壊する必要がある。多分、その事を言っているんだ |
| ルドガー | 分史世界に入り込んだ骸殻能力者はまず時歪の因子を壊す事を目指すものだから… |
| ファラ | でも、わたし達はそんなつもり── |
| | |
| エル | ルドガー、危ない! |
| | |
| キール | ファイアーボール! |
| | バシュッ |
| ルドガー | くっ…! |
| | ヒュン── |
| キール | …避けられたか。おまえさえ余計な事を言わなければ! |
| エル | うぅ…怖い… |
| メルディ | やめて、キール!これ以上は、メルディ…許さない! |
| キール | うるさい!邪魔をするならおまえでも容赦しない |
| キール | 例えおまえを傷つける事になっても…そいつは必ず殺す! |
| メルディ | どうして!そんな事するキール、メルディ嫌いよ! |
| キール | 構うもんか。例え嫌われようと…おまえさえ生きていればそれでいい |
| メルディ | ……! |
| ジェイド | 本気のようですね。負の因子の影響…というのもあるでしょうが |
| ルドガー | 待ってくれ!俺達は戦うつもりはないんだ!話を聞いてくれ! |
| キール | 無駄だ!ぼくには、おまえを殺す以外の道はないんだ! |
| リチャード | このままでは危険だ。彼には悪いが、取り押さえる他ないだろうね |
| キール | やってみろ。その前にそいつを殺してみせる! |
| エル | ルドガー… |
| ルドガー | …キール。相手になるからエルは安全な場所に避難させてくれ。何かあったらキールも困るんだろう? |
| キール | …いいだろう。後ろの机に行っていろ |
| キール | あいつを殺すまで、そこを動くなよ。おまえも無事では済まなくなるぞ |
| エル | ルドガーは、負けないもん!ベーッだ! |
| ルドガー | ああ。メルディを悲しませないためにも誰も殺させない! |
| メルディ | メルディも、戦う!キールが目を覚まさせる! |
| クィッキー | クィッキー! |
| ジェイド | やれやれ。手伝わないわけにはいかなさそうですね |
| キール | ぼくの目的はおまえただ一人だ!滅べ、クルスニク! |
| scene2 | 因子と骸殻能力者 |
| キール | ぐっ…手こずらせるな…だが…まだ… |
| メルディ | もうやめよ。これ以上は、キールが… |
| キール | ……メルディ。こっちに来い |
| メルディ | キール…? |
| キール | 早く来るんだ! |
| | グイッ |
| メルディ | バイバ…!? |
| キール | おまえもだ |
| エル | えっ…?うわっ… |
| ルドガー | エル…!メルディ! |
| ファラ | 何するの!? |
| キール | こうするんだ! |
| | |
| | ピピッ… |
| | |
| ジェイド | まずいですね。魔導器が動き始めました |
| リチャード | 何だって…! |
| ファラ | そんな…! |
| メルディ | キール!やめて! |
| キール | もう遅い。間もなくこの周辺は生物の生きられない環境になる |
| キール | 助かるのは専用の防御術に入ったぼく達だけだ |
| | キィン… |
| ジェイド | やられましたね。まだあんな高度な術を使う力を残していたとは |
| メルディ | キール、魔導器止めて!このままじゃ…みんな死んじゃう! |
| キール | 構わないさ。あいつらは勿論、城のみんなを犠牲にしたって構わない |
| キール | おまえが生きていられるのならぼくは世界のすべてを焼き払ってやる! |
| メルディ | キール…! |
| ジェイド | もう時間がありません!魔導器を壊せるだけの術を詠唱しますので、援護してください |
| ルドガー | わかりました! |
| ジェイド | 天光満つる処我はあり、黄泉の門開く処に汝あり── |
| キール | ふん、無駄だ |
| ジェイド | ──…何て事です。術に必要なマナが…吸われて… |
| ファラ | わ、わたしも…何だか力が抜けていくみたい… |
| メルディ | みんな…! |
| | ダッ── |
| キール | 待て、メルディ!防御術から出るんじゃない!こっちに戻れ! |
| メルディ | キール!殺すなら、メルディごと殺して! |
| キール | 何を言っているんだ!正気か!? |
| メルディ | 正気じゃないのはキールよ!こんな事、望む人じゃないってメルディ知ってる! |
| キール | 魔導器はもう動いている。ここのマナがなくなるまであと数秒だ |
| キール | だから… |
| メルディ | 嫌だよ…!メルディ、キールが事、信じてる…最後まで、ずっと… |
| メルディ | だから、メルディ、動かない!キールは、きっと…止めてくれるよ! |
| キール | メルディ…!くっ…! |
| | ピピピッ… |
| | |
| | シュウゥゥゥ… |
| | |
| リチャード | 魔導器が…止まった…! |
| メルディ | キール!ありがとな。やっぱりキールは、優しい── |
| | |
| キール | …何故だ!メルディ…どうして、そうまで…ぼくの邪魔をする |
| キール | ぼくは、おまえを守ろうと…なのに… |
| メルディ | キール… |
| キール | どうして、ぼくを…!どうして… |
| キール | どうしてぼくに、おまえを傷つけるような事をさせるんだ! |
| | |
| メルディ | メルディ、キールが事、大好きだからだよ! |
| | |
| キール | …! |
| ファラ | メルディ… |
| メルディ | メルディ、大好きなキールが怖い顔してるの、耐えられない! |
| メルディ | 優しいキールに戻ってくれるならメルディ、どうなったって平気! |
| キール | な、何を言ってるんだ。それじゃあ、話があべこべじゃないか |
| キール | ぼくは、おまえを守るために全てを費やしたんだぞ! |
| キール | おまえをクルスニク一族から守るため分史の研究に心血を注いできた!どんなに人から嘲笑されてもだ! |
| キール | その上、こんな兵器まで作り上げた!大勢の人を犠牲にする覚悟もした! |
| キール | それを…全部否定するのか! |
| キール | ぼくがおまえを守ろうとするほどおまえが傷つくというのなら… |
| キール | ぼくは一体、どうすればいいんだ! |
| メルディ | キール…わからないか? |
| キール | ……何をするつもりだ |
| | ギュウッ… |
| キール | …! |
| メルディ | 一人で背負い込まないでほしいよ |
| メルディ | メルディ、キールが事、好き。キールも、メルディが事、大事に想ってくれてる…だな? |
| キール | ……ああ |
| メルディ | 相手がためにどっちか犠牲になったら二人共、悲しい事になる |
| メルディ | だから辛い事、一緒に乗り越える。メルディとキールならきっと上手く出来るよ |
| キール | …感情論だ。合理的とは言えない |
| キール | …どうしてだ…頭では間違っていると思っているのに… |
| メルディ | キール、素直になって。気持ちに嘘つかなくて、いいよ |
| | ギュウゥ… |
| キール | ……! |
| メルディ | バイバ…! |
| ファラ | 何…?今、キールから何か… |
| ルドガー | スレイの時と同じだ…負の因子が壊れたんだ |
| ジェイド | ようやく一件落着ですね…少々青臭いですが |
| ファラ | ふふ、それがいいんだよ。見てるこっちまで照れちゃうぐらい気持ちが伝わってくるもん |
| | |
| エル | ルドガー! |
| ルドガー | エル…!怪我はないか? |
| エル | うん! |
| キール | …悪かった。話も聞かず殺そうとしたり…小さな子どもまで巻き込んでしまった |
| エル | …!エル、そんなに小さくないですよーだ! |
| エル | だから許してあげる。メルディのためにね |
| メルディ | エル…ありがとな |
| キール | ルドガーと言ったか。正直に話してほしい。時歪の因子の事…どうするつもりだ? |
| ルドガー | どうもしないよ。元の世界に戻る方法が、きっと他にあるからな |
| キール | 本当か? |
| キール | …ぼくの研究もまだまだだな。知らない事だらけのようだ |
| キール | あの男、そんな事は言っていなかったな… |
| ルドガー | あの男…? |
| キール | 分史世界について妙に詳しい男だ。ぼくの研究の礎となる知識を与えたのはそいつなんだ |
| キール | 詳しい事はぼくも知らないが、突然現れて、煙のように消えるんだ |
| ルドガー | 分史に詳しい男…。まさか、兄さんか…?いや、そんなはずは… |
| キール | とにかく、メルディに手を出さないと約束してくれるのなら、ぼくとしては何も問題はない |
| ルドガー | ああ。それは約束する |
| ジェイド | 話はついたようですしこちらの用件も済ませていただけますか? |
| キール | …魔導器の破壊だったな |
| キール | ………… |
| メルディ | キール…? |
| ジェイド | まさか、今更嫌だと言わないでくださいね |
| キール | いや、破壊するさ。こんな物があれば、また戦争の火種になりかねない |
| キール | だが学者として…やっと完成した研究成果を破壊するのは気が引けただけだ |
| ジェイド | それなら私が破壊しましょうか? |
| キール | いや…ぼくにやらせてほしい。他人に壊されるのは、もっと辛い |
| メルディ | キール…魔導器は壊れてしまってもまた作ればいいよ。今度は、みんなが喜ぶものを |
| キール | …そうだな |
| キール | メルディ。ぼくは、おまえと一緒にやり直すと決めた |
| キール | これは、そのケジメだ |
| キール | ホーリーランス!! |
| | |
| キール | …魔核も壊れたな。これで再起不能だ |
| ジェイド | 確かに見届けました |
| ファラ | これで全部解決だね! |
| ジェイド | 全部…ではないですね。まだまだ課題は山積みです |
| エル | 何かあるの? |
| ジェイド | あなた方は元の世界に戻る必要があるでしょうし、私達も外交問題が残っています |
| リチャード | そういえば、負の因子は壊れたけど元の世界に戻るためにはこの後どうすればいいんだい? |
| ルドガー | 前の時は、突然、時空の穴が開いたんだけど……何か他にも条件があるのかな |
| キール | 少し調べてみよう。幸い、ここには時空移動に関する文献や計器も揃っている |
| ルドガー | ありがとう。よろしく頼むよ |
| リチャード | ところで、さっき外交問題も残っていると言ってましたが… |
| ジェイド | ええ。あなたのお蔭でセルディクの失脚は確実と言えますが重要なのはその後です |
| ジェイド | 王の変わったウィンドルがどのような国に変わるかはまだ未知数ですからね |
| リチャード | …なら、参考になるかわかりませんがぼく達の世界のウィンドルについて話をしましょうか |
| リチャード | この世界では全く同じとはいかないでしょうが何の情報もないよりはいいでしょう |
| ジェイド | いいですね。では私はその話を元に、この世界でも使えそうな事を書き取ります |
| ジェイド | 王女殿下。私が書き取った内容をシゼル女王にお伝えいただけますか? |
| メルディ | はいな!おまかせー! |
| クィッキー | クィッキー! |
| キール | …では、その間にぼくはルドガー達が元の世界に戻る方法を考えるとしよう |
| キール | まずは、前例を詳しく聞かせてくれ |
| ルドガー | わかった |
| キール | ……なるほど |
| ルドガー | どうかな?かなり細かい事まで話したと思うけど… |
| キール | そのグリューネという人物…底知れない力を持っているようだ。それに天族の力も興味深い… |
| キール | しかし時計が反応していたという事はこの二人の力は関係ないだろう |
| キール | 残った要素は、道標…破壊された負の因子か |
| ファラ | それって、さっきメルディにパーッて入っていったやつだよね。どうなってるの? |
| キール | あれについては、ぼくも知らない。今のところ害はないようだが…後で詳しく調べてみるつもりだ |
| キール | 調査には時間がかかるだろう。だが、仮説を試すぐらいはすぐに出来る |
| ファラ | 仮説? |
| キール | ルドガーとミクリオという天族がやった事を再現するんだ |
| キール | メルディ。こっちに来てくれるか |
| メルディ | はいな。どうした? |
| キール | ルドガーと握手してみてくれ |
| メルディ | …?はいな |
| | ギュッ |
| ルドガー | …!これは、また…! |
| | ヒュンッ |
| メルディ | バイバ! |
| ファラ | あっさり開いちゃったね |
| キール | …推測通りとはいえ、さすがに驚いたな…。こんな簡単に時空の穴が開くとは… |
| エル | よかった!これで帰れるんだね |
| ジェイド | おや、お帰りですか?唐突ですね… |
| リチャード | …後の事はジェイドさんにお任せします |
| ジェイド | 言ってくれますね |
| キール | 急いだ方がいい。未知の現象なんだ。穴が閉じてしまう可能性もある |
| ファラ | それじゃ、メルディ…わたし達、もう行くね |
| メルディ | まだちゃんとお礼もしてないのに… |
| ファラ | そんなの、いいよ。それより、キールと仲良くね! |
| メルディ | はいな。ファラが世界のメルディとキールにもよろしく伝えてな |
| キール | 別世界のぼく…?…そうだ! |
| キール | ルドガー。これを、そっちの世界のぼくに渡してくれないか |
| ルドガー | これは…? |
| キール | 分史世界に関する研究資料だ。そっちの世界で起きている異変の調査に役立つだろう |
| ルドガー | いいのか!?ありがとう |
| メルディ | みんな…元気でな |
| ルドガー | ああ。メルディも |
| エル | みんな、ばいばーい!またねー! |
| | ヒュンッ |
| キール | …ルドガー達が入っていったら穴は閉じた…か |
| キール | こうしちゃいられない。この空間に残ったマナの痕跡を解析しないと…! |
| ジェイド | …ついて行く、という手もあったのではないですか? |
| キール | …興味はあった。だけど、それは出来ないんだ |
| キール | この世界は分史世界。そしてルドガー達の世界はおそらく正史世界だ |
| キール | 正史世界に同一の存在がある場合外から入り込めても共存する事は出来ないらしい |
| ジェイド | なるほど。あちらの世界にキールがいるとあなたは共存出来ないわけですね |
| キール | ああ。…それに… |
| キール | メルディを残して別の世界に旅立つなんて、今は考えられないからな |
| メルディ | キール… |
| ジェイド | やれやれ。年寄りには刺激が強すぎます |
| | 帰還、それから… |
| リッド | おーい、大丈夫か?今、フレンが治療出来るやつを集めてくれてるからな |
| キール | ありがとう。だが…もう大丈夫だ。急に身体が軽くなった |
| メルディ | 黒いモヤも消えたみたいだな。よかったよぅ |
| クィッキー | クィック、クィッキー! |
| メルディ | クィッキーも嬉しいな |
| リッド | ならいいけど…。念のため治療を受けて休んだ方がいいんじゃねぇか? |
| キール | …いや、分史世界への入口の調査が先決だ |
| キール | ぼくの体調の変化もおそらく分史世界が関係して── |
| | |
| リッド | …!?何だ!? |
| | |
| エル | ただいまー! |
| リッド | エル!?って事は… |
| リチャード | 無事に戻って来られたようだね |
| ルドガー | これで一安心だな |
| ファラ | リッド!キール!メルディ!みんな大丈夫だった? |
| リッド | 大丈夫って…それはこっちの台詞だ! |
| メルディ | ファラ!みんな!心配したよ。何があったか? |
| ファラ | えっと…どこから説明したらいいのかな |
| リチャード | あの穴に入った時の事から順を追って話そうか |
| | |
| キール | …ぼくに負の因子が…。やはり、そうだったのか |
| ルドガー | やはりって…わかってたのか? |
| キール | ああ。少し前、ぼくにも黒いモヤが出て危うく意識を失いかけた |
| ファラ | えっ!?体調は大丈夫なの? |
| キール | ああ。今はもう何ともない |
| リッド | メルディが必死に治癒術をかけてくれたお蔭だな |
| メルディ | でもメルディも疲れちゃって今度はキールに助けられたな |
| リチャード | お互いに助け合う絆…。分史と同じように、二人は支え合っているんだね |
| キール | 同じではありません…!ぼく達は、そういう、その…とにかく違います! |
| メルディ | …?何慌ててる?おかしなキール! |
| キール | こほん!とにかく── |
| キール | 黒いモヤが出た時、メルディに触れたら、頭の中に妙な景色が流れ込んできた |
| キール | 黒いモヤを出すメルディの姿が… |
| ルドガー | それって…まさか、分史世界が見えたっていうのか…!? |
| キール | 話を聞く限り、可能性はある |
| キール | 負の因子に憑りつかれると正史と分史の同一人物に影響が出た。つまり何かの形で繋がっているんだ |
| キール | 詳しく調査してみる必要があるな。もしマナが影響しているのだとすれば異変にも関係があるかもしれない |
| ファラ | キールならきっと解明出来るよ!あっちのキールに負けないぐらいすごいもん! |
| ルドガー | そうだな。あ…そうだ、これを分史のキールから預かって来たんだ |
| キール | これは…研究論文か?確かにぼくの筆跡だな |
| キール | 表題は…「創世原理~分史とマナ~」だって…!? |
| リチャード | 分史世界の研究を熱心に続けてきた別世界の君が書いた論文だ |
| リチャード | 異変の調査にも有用じゃないかと言っていたよ。読み終えたら見解を教えてほしい |
| キール | わかりました。少し時間をください |
| リチャード | さて。何日も留守にしていたが城の方は大丈夫だっただろうか。みんなに迷惑をかけてしまったな… |
| リッド | 何日も…?みんなが穴に落ちてから、まだ半日ってとこですけど |
| リチャード | 何だって…? |
| ルドガー | 驚いたな…。確かに分史世界では時間の流れ方が違う事もあるけど… |
| リチャード | そうか…少しほっとしたよ。もっとも、半日でも迷惑をかけた事は確かだ…みんなには謝らないとね |
| リッド | そうだ!フレンにも知らせてやらないと!キールの事も伝えてくる |
| リチャード | それなら僕が行くよ。今の状況を聞きたいし、留守の対応について礼を言いたいしね |
| リッド | 陛下直々にか。フレンのやつ、驚くだろうなー |
| エル | …ねぇ、ルドガー |
| ルドガー | どうした? |
| エル | エル、おなかすいたー |
| ルドガー | はは、そうか |
| ルドガー | …エルもお疲れ様だったな。いろいろあって辛かっただろう |
| エル | エル、ルドガーの事、信じてたし! |
| エル | それより、早く何か食べよ。もうおなかペコペコ |
| ファラ | そういえば、わたしも…戻ってきて気が抜けたのかな |
| ルドガー | はは。それじゃあ、みんなで何か食べに行こうか |
| エル | やったー! |
| リチャード | それなら食事を用意させよう。大したもてなしは出来ないが、料理人の腕は保証するよ |
| エル | ほんと!?やったー、お城のごはんだー! |
| メルディ | ワイール!きっとすごく美味しいな! |
| クィッキー | クィッキー! |
| ルドガー | いいのか? |
| リチャード | ああ。実は僕も空腹なんだ。フレンと話して城の事が落ち着いたら後で合流するよ |
| ルドガー | ありがとう、リチャード |
| | |
| エル | あー、美味しかった!おなかいっぱい! |
| ルドガー | リチャードが言うだけあって料理人の腕を感じられる食事だったな |
| リッド | その陛下は、食べ終わったらすぐに公務に戻っていったけどな |
| リッド | もっと味わう時間があればいいのに、王様ってのは大変な仕事だよなー |
| ファラ | …あの世界のメルディ達も同じように忙しくしてるのかな |
| ルドガー | そうかもしれないな。でも、きっとピオニーさん達が支えてくれているよ |
| ファラ | うん。そうだね |
| メルディ | メルディ、王女様だった世界か…全然想像出来ないな。な、キール |
| キール | …… |
| メルディ | キール? |
| キール | …ん?ああ、呼んだか…? |
| リッド | その論文、よっぽど気になるみたいだな |
| ファラ | お腹もいっぱいになったし、キールも論文が気になるみたいだから宿に戻ろっか |
| キール | そうだな |
| キール | …… |
| キール | …ルドガー。ちょっといいか? |
| ルドガー | うん? |
| キール | この論文…分史のぼくがメルディを守るための研究に力を注いでいた事がよくわかる |
| キール | でも、だからといってメルディ以外の人間は死んでも構わないなんて異常だ… |
| ルドガー | それは、負の因子が憑りついていたから… |
| キール | ああ。その通りだ。でも全てが負の因子の影響だけではないように思うんだ |
| キール | 負の因子がなくても、分史のぼくには、兵器開発の他に選択肢がなかったんじゃないか? |
| ルドガー | …… |
| キール | 率直な意見を聞かせてほしい |
| キール | ぼくが同じ立場なら…やはり同じような行動を取ったと思うか? |
| ルドガー | それはわからない。分史世界のキールと今のキールは経験してきたものが違うんだから |
| ルドガー | あっちのキールは、リッドやファラを知らないと言っていた |
| ルドガー | もし同じ状況になっても、リッドやファラと共にいるキールは違う道を選べるんじゃないかな |
| キール | …そうだな |
| ルドガー | 勿論、俺やリチャードもいる。困った時は力を貸すから遠慮しないで言ってほしい |
| キール | …あっちの世界のぼくにもそうやって力を貸してくれたんだよな |
| キール | ぼくが言うのも変かもしれないが…感謝してるよ。ありがとう |
| ルドガー | ああ |
| リッド | おーい、早くしないと置いていくぞー |
| | |
| ファラ | はぁー、やっと一息つけるー! |
| メルディ | ふかふかベッドー! |
| クィッキー | クィッキー! |
| リッド | おいおい、ベッドに飛び込むなって。じゃ、この部屋がファラとメルディでオレとキールは隣な |
| ルドガー | エル、随分と眠そうだけど先に部屋に行ってるか? |
| エル | うん。ちょっと休む… |
| ルドガー | わかった。俺達の部屋は一番奥だからな |
| エル | はぁーい…おやすみ… |
| キール | さて、他のみんなも解散する前に明日からの事を話しておきたい |
| キール | ぼくは少しの間、ここで研究論文を熟読し、その上で調査を続けようと思う |
| キール | それには数日かかるだろうからみんなは一度、家に帰ってもらっても構わない |
| メルディ | メルディ、一緒にいる!キールが事、手伝うな |
| リッド | オレも残るぜ。一度帰っちまったら、何かあった時にここまで駆けつけるのは大変だからな |
| ファラ | わたしも。キールが調べものに集中出来るように身の回りの事とか手伝うよ |
| キール | わかった。ありがとう、助かるよ |
| キール | …ルドガーの言う通りだな… |
| リッド | ん?何か言ったか? |
| キール | いや、何でもない |
| キール | ルドガーはどうする? |
| ルドガー | そうだな…。俺は一度、イニル街に戻ろうと思う |
| ルドガー | 今回の件と、世界の異変にどんな関係があるのか、俺の方でも調べてみるよ |
| キール | わかった。ルドガーなら独自に調査も出来る…それなら別行動の方が効率的か |
| ルドガー | 調査のために動き回ってると連絡を取るのが難しくなるかもしれない |
| ルドガー | 何かわかったらリチャードに報告するって事でいいかな |
| キール | わかった |
| リッド | じゃ、明日からは別行動だな |
| ファラ | 寂しくなるね |
| メルディ | 全部終わったらまたみんなで食事しよな! |
| ルドガー | ああ。約束だ |
| | |
| エル | ただいまー! |
| ルドガー | やっと帰ってきたな。お隣さんに預けてたルルも迎えに行かないと… |
| エル | ルル、きっと寂しがってるね |
| ルドガー | そうかもな。…長い時間、留守にしてたから郵便物も溜まってるな… |
| エル | じゃあ、メガネのおじさんは一度も帰ってきてないの? |
| エル | こんなに長い間帰ってこないなんて何かあったのかな… |
| | |
| ルドガー | …?誰の事を言ってるんだ? |
| | |
| エル | 誰って…メガネのおじさん!ずっと帰って来てないでしょ? |
| ルドガー | メガネの…もしかしてジェイドさんの事か? |
| エル | またそんな事言って…ルドガー、何だかおかしいよ…? |
| ルドガー | そんなつもりはないけど…エルの方こそ… |
| ルドガー | この家には、俺とエルと、ルルしか住んでないじゃないか |
| エル | ……!? |
| エル | 何で…?ルドガー、どうしてそんな事言うの…? |
| ルドガー | どうしても何も……ん? |
| ルドガー | この郵便物の宛名…ユリウス…って |
| ルドガー | 全部、兄さん宛の物か |
| エル | …!ほら、やっぱり、メガネのおじさんの事覚えてる! |
| ルドガー | …?何言ってるんだ?おかしなエルだな |
| エル | おかしいのはルドガーだって!じゃあ、これの事は覚えてる? |
| エル | メガネのおじさんのために買ったプレゼント! |
| ルドガー | ああ。一緒に買いに行ったな |
| ルドガー | …でも、何のために買ったんだっけ。誰かにプレゼントを贈る予定なんてあったかな… |
| エル | …今言ったでしょ。メガネのおじさんの事って… |
| ルドガー | メガネのおじさん…?ああ…えっと…そうだ、兄さんの事か |
| エル | どうして…ルドガー…おかしいよ… |
| エル | 何だか怖いよ…パパ… |
| | |
| 怪しい男1 | …いよいよ決行だな |
| 怪しい男2 | 手筈は整った。あとは、お前の腕の見せどころだな |
| ルーク | …… |
| 怪しい男3 | おいおい。今更、怖気づいたのか?ちゃんと作戦通りやれんのかよ |
| ルーク | ……当たり前だっつーの |
| ルーク | ここまで来たんだ。作戦通り完璧にやってやるよ |
| ルーク | もう決めたんだ。例え相手が実の兄だろうと、俺は── |