NameDialogue
scene1夢に見た君
ファラリンネル村まであと少しだね。メルディ、驚くかなあ?
リッドそりゃ、驚くだろ。何の連絡もせずに来たからな。会うのはいつぶりだっけ?
ファラいつだったかな。キール、覚えてる?
キール……
リッドおい、キール。さっきから全然喋んねぇけどどうしたんだよ
ファラ結構歩いてきたし、疲れちゃった?
キールいや…。少し考え事をしてただけだ
ファラもしかして、コルテア街を出る時に気にしてた夢の事?
ファラ確か…リンネル村が炎に包まれてメルディが危険な目に遭ってる夢を見たんだよね?
キール…ああ
リッドおまえがいきなりデカい荷物背負って「リンネル村に行く」って言い出した時は驚いたぜ
リッドその時も言ったけど夢に見ただけでここまでするって珍しいよな
キールぼくだって非合理的なのはわかってるさ
キールただ、胸騒ぎがして仕方がないんだ。手紙を書く事も考えたが、実際に訪ねていく方が早いだろう
ファラキールはメルディが心配なんだよ。いいじゃない、わたし達も久しぶりに友達に会えるんだから
キールそれに、今回の旅はア・ジュールの調査も兼ねている。無駄足にはならないさ
リッド調査って言ってもなぁ…
リッドシルヴァラントみたいに地震が起こってる様子はなさそうだぜ?
キールそう結論付けるのは早計だ。ぼく達はア・ジュールに到着したばかりだからな
キールそれに異変は地震だけとは限らない。シルヴァラントでも突然の豪雨という現象が確認されているだろう
ファラ「一見無関係の自然現象に見えるが 同時期に群発するのには 共通の因果がある」…だっけ
ファラ道中、何度も聞かされたから覚えちゃった
キールああ。もっとも、あくまで推測の段階だ。だから裏付け調査が必要なんだ
キールそれに…この災害の先に何が起ころうとしているのかも確かめなければならない
リッド災害の先に…って、もっと大きな何かが起こる前触れって事か?
キール…断言は出来ない。ただ、大精霊の影響で起きていた以前の異変と類似している点が多い
キール災害の原因が大精霊に関係している可能性もあるとぼくは考えている
リッド──って事は、まさか、また魔導器が!?
キールだから結論を急ぐな。可能性は否定しないが、ぼくの意見としては違うと思う
リッドだったら何が原因なんだよ
キールそれがわからないから調査をするんだって、今説明したばかりだろう
リッドつまり何もわかってないんだな
キールわかっていたら調査の必要はないだろう…
ファラまあまあ。キールが調査を急ぎたい理由はよくわかったよ
ファラ前みたいに火山が噴火したり湖が凍ったりしたら大変な事になっちゃうもんね
キールそうなる前に、異変についてもっと詳しく調べる必要がある
リッドそんじゃ、リンネル村でメルディに会ったら変わった事がなかったか聞いてみるか
キールああ、それがいいだろう
リッドん…?雨が近いな
キールわかるのか?
リッドこれでも猟師だからな。森の天候の変化には敏感なんだ
ファラ雪じゃなくて雨?降るの?
リッド雨だけど、風向きからいってこのあたりは大丈夫だと思うぜ
リッドほら、あっちの方に黒い雲が見えるだろ?
ファラほんとだー
キールあの方角は…
ファラわっ、光った!
リッド雷か?
キール……
ドドーン!
キール…!二人とも、急ぐぞ!
リッド何だ、雷が怖いのか?
キール違う。12秒だったんだ
ファラ12秒…?
キール光ってから音が聞こえるまでだ。あの方角に、音速で12秒の距離…
キール雷が落ちた場所は、リンネル村のあたりだ!
リッドまじかよ…
ファラ大変!
キール急ごう!
scene2夢に見た君
キール村が燃えてる…!まさか、夢の通りに…
ファラ大変!早く火を消さなきゃ!
リッド二人とも落ち着けって。こういう時に焦ると危険だ
ファラでも、急がないと…!
リッドああ。でもオレ達はどこで水を汲めばいいかもわかんねぇだろ?
ファラそ、そうだね。じゃあ村の人に声をかけて消火を手伝おう!
キール…あそこにいるの、レイアじゃないか?
ファラ本当だ!おーい!
レイアリッド、ファラ、キール!村に来てたんだね、怪我はない?
リッドああ。大丈夫だ。雷が落ちたように見えたんだがこの火事はそれが原因なのか?
レイアそうなの。近くの森に雷が落ちて、燃え広がってきちゃって…
ファラ早く消し止めなきゃ!消火、手伝うよ!
レイアありがとう!
キールメルディはどこに…?
レイアそれが、火事になってから見かけてなくて…逃げ遅れてないといいけど
キール…!メルディ!
リッド待てよ!どこ行くつもりだ?
キール離してくれ!メルディを捜さないと…!
リッドメルディが心配な気持ちはわかるけど少し落ち着け。とっくに避難してるかもしれないだろ
キール夢で見た光景に似てるんだ。このままじゃ、本当に…
クィッキークィッキー!
キール…!クィッキー!
クィッキークィッキー!クィック、クィック!クィッキー!
リッドクィッキー!メルディと一緒じゃないのか!?
クィッキークィッキー!
ファラついて来いって言ってるみたい
レイア行こう!メルディがいるのかも!
メルディ──スプレッド!
ザバァーン!
メルディこれで火はこっち来ないよ。怪我、大丈夫か?
村の男ああ。ちょっと足を捻っただけだ。この程度で動けねぇとは、情けねぇ…
メルディごめんな。メルディ、運んでいけない
メルディクィッキーが助け呼んでくれてるからもう少し辛抱よ
レイアメルディー!こっちにいるのー?
メルディこの声、レイアか?こっちだよぅ!
メルディバイバ!キール、リッド、ファラ!どうしているか!?
キール話は後だ。怪我はないか?
メルディメルディは大丈夫だよー
村の男すまねぇ。俺が動けなくなっちまったんでメルディが守ってくれてたんだ
メルディメルディ一人では運べないからクィッキーに人呼んでもらってたよ
レイアそういう事だったんだね
リッドオレの肩につかまれ。安全なとこまで行こう
村の男ああ。助かるよ。ありがとう
レイアわたし達は消火しながら他に怪我人がいないか確認してまわろう!
ファラうん!
メルディメルディ、水が術で消火するよ!
キールぼくも手伝おう!
リッドふー。何とか、火は消えたみてぇだな
レイアリッド達が手伝ってくれたお蔭で助かったよ。ありがとう
リッド別に、大した事してねぇって。消火も村の人達をちょっと手伝っただけだし
キールああ。とても効率的な消火活動だった。村の人達は訓練でもしているのか?
レイアうん。前にも村が燃えた事があったからいろいろ備えてたんだ
レイア怪我人もいるけどみんな軽傷で済んだみたい
メルディよかったよぅ
ファラうん。よかったぁ…
メルディファラ!?
リッドどうした?大丈夫か
ファラうん、平気。安心したら、力が抜けちゃって…
レイア…そっか、村に着くなりこの騒動だったもんね。巻き込んじゃってごめんね
レイア村の事はもう大丈夫だから、ゆっくり休んでてよ
メルディそれならメルディが家来るよ。火もつかなかったから無事!ゆっくり休めるよぅ
キールそうさせてもらおう。ぼくもヘトヘトだし、落ち着いた場所で話もしたい
リッド決まりだな。ファラ、メルディの家まで歩けるか?
ファラうん、もう平気!
レイアわたしは村の片付けを手伝うから、また後で。ゆっくり休んでね
キール──やっと落ち着いて話せるな。メルディ、元気だったか?
メルディはいな!げんきだったよ!メルディ、またキール達に会えてとてもうれしー!
メルディみんな、どーしてリンネル村に来たか?
ファラキールがね、メルディが困ってる夢を見たんだって
ファラだから心配で、みんなでメルディに会いに来たんだよ
メルディバイバ!キールもメルディが夢、見たか?
メルディメルディも、キールが会いに来てくれる夢、見たよ!
リッドメルディも?
ファラへえ…お互いに夢を見てたなんて不思議だね
メルディキール、ありがとな!メルディが事、心配してくれて
キール…感謝の言葉は「ありがとう」!「な」は余計って言ってるだろう
リッドまったく、素直じゃねぇなぁ
ファラところで、メルディ。森に雷が落ちたって言ってたけど…それって、よくある事なの?
メルディううん。こんな事初めて。突然空が真っ暗になって、強い雨が降り始めたな
メルディそしたら空が光って、ドカーン!メルディ、びっくりしたよー
クィッキークィイ…
メルディ慌てて外に出たら空はもう晴れてたよぅ
キールそういえば、ぼく達が村についた時は黒い雲は消えていたな。リッド、森ではよくある事なのか?
リッド急に天気が変わる事はあるけどさすがに極端過ぎるだろ。そんなのオレも聞いた事ねぇぜ
キール…もしかしたら、その雷もシルヴァラントで起こっているような異変と同種のものかもしれないな
メルディキール達が街も、雷落ちたか?
リッド雷は落ちてねぇけど、雨が大量に降ったり地震が起きたりしてるんだよ
ファラキールは、自然災害の原因が大精霊にあるんじゃないかって考えてるんだって
メルディ…!
メルディまた、あの時みたいに大地震が起きるのか…?
キール…ぼくの考えはあくまで推測にすぎない。そう不安がる事はないさ
メルディはいな!キールがそう言うなら、心配ないな
メルディみんな、これからメルディが家でゆっくりしていくといいよ!
キールいや…こんな状況で、村に居座ると迷惑が掛かるだろう
キールぼく達はこれからア・ジュールを回って他に異変が起きていないか調べるつもりだ
キール当初の予定にはなかったが…ウィンドルやキムラスカの様子も見に行くべきかもしれないな
メルディそれなら、メルディも一緒に行くよ!
メルディ異変の調査、手伝わせてほしいな!
キール一緒に?…いや、でも村の事もあるだろ?
リッドいいんじゃねぇか?メルディなら、オレ達よりア・ジュールに詳しいだろ
ファラメルディは調査に一緒に行くってレイアに伝えておかないとね
キールおい、勝手に…
メルディメルディ、キール達と一緒にまた旅がしたいよ。…だめか?
キール…わかったよ
メルディワイール!キール、ありがとな!
キールわ、わ、くっつくな!
メルディあ!待ってよぅ、キール!
クィッキークィッキー!
ファラあはは!賑やかな旅になりそうだね
リッドまったくだ
天災の因果
騎士お待ちしておりました。陛下は来客中のため待合室までご運内いたします
ルドガーよろしくお願いします
エルうわー、お城広ーい!きれーい!!
エル──わっ、声がすごいひびいてる。うるさかったかな…
ルドガーまぁ、もう少し静かな方がいいな。エルはお城初めてなんだっけ?
エルうん。入るのは初めて!この前、ミクリオと一緒に来た時は中に入らなかったし
エルショーカの時はルドガーひとりでお城に行っちゃったし!
ルドガーショーカ…ああ、晶化現象の時か。そういえばあの時も一緒に行きたいって言ってたな
エルエルは子どもだからってお留守番になっちゃったけど今回はエルも王様に呼ばれたもんね!
ルドガーエルにとっては念願の城内か。でも、少し気をつけてくれよ
エルもう、大丈夫!エル、場はワキマエてるもん
騎士もしよければ陛下とのお話が終わった後、城内を見て回られますか?
エルえっ、いいの!?
騎士ええ。陛下からお二人をおもてなしするよう仰せつかってますから
エルやったーっ!
エルあっ!
エル…大声出ちゃった
ルドガーはは…
騎士こちらの部屋でお待ちください
ルドガーわかりました
エル中にいっぱい人がいる。もしかしてみんな、王様に会いに来たの?
騎士ええ。特に最近は異変に関する報告や相談で謁見を希望される方が多いのです
エルエルたちは呼ばれたんだからすぐなんだよね?
騎士お嬢様のおっしゃる通りです。それでは陛下の手が空くまで今しばらくお待ちください
ルドガーありがとうございます
エルえへへ、エルがオジョーサマだって
ルドガーよかったな
???あ、ルドガー!…と、もしかしてエル?
ルドガーえっ…?
リッドほんとだ。奇遇だな、ルドガー
ルドガーみんな…!久しぶりだな。リッドとキールはアヴァロン島以来か
ルドガーファラとメルディはもっと久しぶりだな。元気だったか?
メルディはいな。元気だよー!
エルルドガー。この人たちは?
ルドガーああ、エルは初めて会うんだったな。リッドにファラ、キール、メルディだ
エルメルディは聞いた事ある。レイアの友達だよね!
メルディバイバ!レイア知ってるか!
クィッキークィッキー!
エルわ!かわいい!
メルディクィッキーだよぅ。メルディが大切なともだち
リッドきっとレイアの名前に反応したんだな
エルあなたもレイアと友達なの?じゃあ、エルとも友達だね!
クィッキークィッキー♪
ルドガー他のみんなの事も前に話したよな。ほら、ファラはエルへのお土産を一緒に選んでくれた人だ
エルネコの人形!
ファラあなたがエルだったんだね。お土産は気に入ってくれた?
エルうん、ずっと大事にしてるよ!
ルドガーリッドとキールの話も前に聞かせただろう?
エルそういえば、聞いた事あるかも
リッドオレがリッドで、こっちがキールだ。よろしくな
キールよろしく
エルうん。エルはエルだよ!よろしくね!
リッドここに来たって事はルドガー達も陛下に用事があるのか?
ルドガーああ。実は陛下から呼ばれて来たんだ。異変についての話だと思うんだけど…
キール…という事は、異変について何か知っているのか?
ルドガー確証はないんだけど関係はあると思う
リッド実はオレ達も異変について調べてんだ。陛下と会うのもその関係でさ
メルディずっと待ってるよぅ、でも、次ぐらいメルディ達が順番!
ルドガーそうだったのか
キールよかったら知っている事を教えてくれないか?
ルドガーああ。俺もいろいろと気になってるからみんなが調べた事も教えてほしい
キールわかった。情報交換と行こう
キールなるほど、分史世界か…。異変との関係性は不明だが無関係とも思えないな
ルドガーキールもそう思うか。この話を陛下にして、異変の原因究明が進めばいいんだけど
キール検証するべき事がいくつかあるが、可能性は高いだろう
騎士ご歓談のところ失礼します。ルドガー様、謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします
メルディルドガー達が先みたいな
ファラ王様から呼ばれたって言ってたもんね
キールルドガー。異変の話をするのならぼく達も一緒に話した方が早いんじゃないか?
ルドガー確かにそうだな
ルドガーすみません。彼らも一緒に謁見して構いませんか?
騎士わかりました。そちらの方々の順番はルドガー様の次でしたので問題ないでしょう
騎士ご案内いたします。みなさまご一緒にお越しください
ルドガーありがとうございます
エルやった!みんなで王様のところに行こー!
リチャードなるほど…。分史世界でそんな事があったんだね
リチャードそれに負の因子…。それは一体、何なんだい?
ルドガー詳しい事はわかりません。ただ、スレイに異変をもたらしていた原因なのは確かです
ルドガーそれに、キール達の話を聞く限り世界で異変が起こり始めた時期とも一致しています
ルドガー勿論、偶然かも知れませんが…
リチャード僕もルドガーと同意見だよ。リッド達は、世界の異変について調べてると言ったね?
リッドオレ達…と言ってもほとんどキールが調べてるようなもんですけど
リチャードキール。君の見解を教えてくれないか
キールはい。まず前提として、これは可能性であり結論ではありません
リチャードああ、それでかまわないよ
キールでは…ルドガーの言う「負の因子」は異変と密接な関係があると思います
リチャードなるほど。何か繋がりが見えたんだね
キールはい。まず、異変についてですが、地震や豪雨など現象は様々でも共通する因果があると考えています
キールぼくはシルヴァラントとア・ジュールで実際に異変を体験してその事に確信を抱き始めていました
リチャードその共通の因果というのが負の因子だというのかい?
キールいえ…ぼくの考えでは、共通の因果というのは世界のマナである可能性が高い
キールかつて大精霊が暴走した時と同様に…
キールそしてスレイに回復術が効かなかったという話から、おそらく負の因子もマナの異常を伴った現象です
キールそれが異変の原因なのか、あるいは異変の結果の一つなのか、そこまではわかりません
リチャードなるほど…
リチャードシルヴァラントやア・ジュール…そしてキムラスカでも災害が続いている事は聞いている
リチャードこちらに入ってくる情報は確かに大精霊が暴走した時と似たようなものばかりだった
リッドじゃあ、やっぱり大精霊が原因なんですか?それとも魔導器がまた…
リチャード大精霊はともかく、魔導器の心配はないよ
リチャード僕も気になって調べさせたがかつてのように魔導器が使われた形跡はなかった
ファラもし負の因子が関係してるならスレイに何か影響が残ったりしてないでしょうか…?
リチャードアスベルとエステリーゼから事情を聞いて、すぐにスレイの身体も診てもらったよ
リチャード医師も魔術師も、特におかしなところはないと言っていた
リチャード一緒に来たミクリオからも話は聞いたが、特に変わった事はないそうだ
エルスレイ、ちゃんと元気なんだ。よかったね、ルドガー
ルドガーああ
キールスレイが倒れたのはウィンドルでの事だったんだな?
ルドガーえっ、ああ。そうだけど…
キール陛下。ぼくはウィンドル国内をもう少し調査してみたいと思います
キールもしかするとどこかにマナの乱れた痕跡があるかもしれません
リチャードわかった。調査しやすいように便宜を図ろう。何でも言ってくれ
キールありがとうございます
メルディワイール!キールすごいな。王様公認で調査出来るか
エルすごーい。えらい学者さんみたい
キール学者だよ。偉くはないけどね
リチャードなら、ウィンドルに来ないかい?地位を用意して歓迎するよ
キールいえ、ご厚意には感謝しますが、ぼくは高い地位よりも自由に研究出来る事が大事なので
リチャードそうか。残念だけど、そんな君だからこそ調べられる事もあるのだろうね
キールはい。高い地位でないと調べられない事は陛下にお願いします
リチャードはは、確かにそれは僕の務めだね
リチャードこちらでも引き続き調査を続ける。君達も何かわかったら、どんな些細な事でも報告して欲しい
キールはい
ルドガーわかりました。俺も負の因子の事、もう少し調べてみます
エルエルも手伝うよ
リチャードああ、そうだ。エルさん、ルドガーの話に出た時計は今持ってるかい?
エルうん。いつでも持ってるよ!
リチャードよかったら少し見せてもらえるかな?
エルいいけど…パパのだから大切にしてね
リチャードああ、勿論さ
エルはい、これだよ
リチャードありがとう。…見たところ、普通の時計だな
キール反応する条件があるのかもしれません。次、ぼくにも見せてください
メルディメルディも見たい!
エルうん。順番だよ
リチャード反応する条件…か。エルさん、前に反応した時の事を詳しく教えてくれるかい?
エルえっと…ルルがスレイの寝てるベッドの上に乗っちゃったから、下ろそうと思って──
ゴゴゴゴゴ…
リッドな、なんだ!?地震か!?
エルうわわぁっ!!
キール…!危ない!
メルディバイバ!
ルドガーメルディ!掴まれ!
エルえっ、また時計が…!
リチャード反応した…!
ルドガーまずい!エル…!
ヒュンッ
メルディバイバ!
キール何だ、これは…!
エル吸い込まれる…!ルドガー!
ルドガーエルーっ!
リチャードエルさん!
リチャードくっ、ダメだ、落ち──
ルドガーエル!陛下!
キールくっ、ダメだ…!
メルディ吸い込まれるよぅ…!
リッドキール、掴まれ!
キールああ!
ファラメルディ、危ない!
メルディっ!
ファラ受け取って!リッド!
ファラきゃあっ!
メルディバイバ!
キール自分が落ちてどうするんだ!
リッドファラ!!
シュン…
メルディおさまったか…?
キールそう…みたいだな。
メルディうん。でも、みんなが…
リッドキール。さっきのって分史世界への入口だよな…?
キールああ、おそらく
リッドファラ…またかよ!
キールファラだけじゃない…。ルドガーにエル…それに陛下まで飲み込まれてしまった
リッドまあ、ルドガーが一緒ならその内、戻ってくんだろ
キールそういう問題じゃない。王が消えたんだぞ。国の一大事だ
メルディとても大変!どうする、キール
キールどうするったって…
???今の騒ぎは…!?陛下、何事ですか!?
リッド誰か来たぞ!
メルディキールぅ…どうするか?
キール落ち着け。信じてもらえるかわからないがぼくが説明する
???陛下?入りますよ
キィィィ…
リッド…!おまえは…
フレン──つまり、突然現れた分史世界に繋がる穴に陛下やみんなが吸い込まれた、と
キールああ
リッド来たのがフレンで助かったぜ
フレンただ…僕が信じても他の人は信じないだろうね
フレン君達に疑いをかけられたら一介の騎士にはどうする事も出来ない
メルディメルディ達、どうなるか?
フレン悪いようにはしないよ
フレンとはいえ、陛下が消えたとなると混乱が起こるのは避けられない。みだりに公にしない方がいいな…
リッドけど、バレないか?謁見予定すげぇ入ってんだろ?
フレン確かにそうだね。まず、エステリーゼ様に相談してくるよ
フレンこの状況を信じてくれて陛下の代わりを務めていただけるのはエステリーゼ様だけだ
フレンだから、それまではこの事が他に知られないよう内密にお願いしたい
キールわかった。ぼく達はここに残るから急いでもらえると助かる
リッドどうして一緒に行かねぇんだよ
キールぞろぞろ動いても怪しまれるだけだ。それにぼくは、もう一度分史世界への入口を開けられないか確かめたい
フレンわかった。これからこの部屋は封鎖する
フレン封鎖は信頼出来る者に任せるから何かあれば扉の外にいる騎士に声をかけてくれ
キールああ。助かる。これで余計な邪魔はされずに調べられるな
フレンそれじゃあ、また後で
リッドさて、と。とりあえず、いきなり逆賊扱いで牢屋入りって事はなくなったな
リッドこれからどうする?
メルディメルディ、ファラ達助けたい!
クィッキークィッキー!
キールそうは言っても、現状は分史世界に行く手段がないからな。出来る事からやっていくしかない
キールまずは分史世界への入口が開いたあたりを調べてみよう
冷たき牢獄
ヒュンッ
ファラわわっ!
リチャードく…!
ドサッ!ドサドサッ!
シュン…
エルつ、冷た…!これ…雪?
ルドガー大丈夫か、エル?ほら、手に掴まって
エルうん。ありがと、ルドガー
ファラ王様、大丈夫ですか?
リチャードああ。雪がクッションになってくれたよ
リチャードここは…カン・バルクの近くか
ファラカン・バルク…ってア・ジュールの首都ですよね。こんな遠いところに、どうして…
ルドガーあの時計の反応に、突然開いた穴…前の時と同じだった…。きっとここは、分史世界だ
ファラ分史世界…
リチャードなるほど、ここが…
リチャード…こちらに移動してきたのは僕達四人だけかな?
ファラはい。リッドとキールとメルディは穴から逃れてました
エルルドガー、エルたちちゃんと元の世界に戻れるの?
ルドガーああ、心配ないよ。まずはこの世界について調べてから──
ア・ジュール兵1全員、動くな!
チャキンッ
ルドガーっ…!
ファラあ、あの…!わたし達、怪しい者じゃ…
ア・ジュール兵2お前達が空中からいきなり現れたと通報があったぞ。今まで何処に隠れていた?
ア・ジュール兵1逆徒の一派だろう。連行する!
ファラま、待って!この人がわからない?捕まえたら大問題だと思うよ!
リチャード……
ア・ジュール兵1…誰だ?身なりはいいようだが…
ア・ジュール兵2貴族だか商人だか知らんがこっちも見逃せない状況だ。大人しくついて来い
ファラえぇっ!?リチャード陛下がわからないの!?どうして…
ルドガー…ここは分史世界だ。時代や歴史が違えば、こういう事もあり得る
リチャード事情がわからない以上、今は大人しく従った方がよさそうだね
ア・ジュール兵2何をしている。早く来るんだ
ファラまさか、こんな事になるなんて…
リチャード兵の話を聞く限り、僕達が城に攻め込んできたと思ったようだね
リチャード逆徒と言われたね。もしかすると内乱でも起きているのかもしれない
ルドガーそうだとしたら話をしたところで信じてもらうのは難しいか…
ファラそれにしても、王様をこんなところに閉じ込めるなんて…
リチャードこういう経験も悪くないよ
エル王様ってマエムキだね
リチャード残念がっていても仕方ないからね
リチャードところで、ここでは僕の事をリチャードと呼んでくれないかい?
エルどうして?王様は王様でしょ?
リチャードここでは違うようだからね。権力者に見られて危険な事になるのを避けたいんだ
リチャードここでは僕も対等な仲間として扱ってほしい。勿論、敬語もなしでお願いするよ
エルそうなんだ。じゃあ、リチャードって呼ぶね!
リチャードありがとう。みんな、かまわないかな?
ファラわかりま──よろしくね、リチャード!
エルそれじゃあ、リチャードもエルと友達だね!
ルドガー改めてよろしく、リチャード
リチャードああ、よろしく頼むよ。ふふ、まさかこんな形でみんなと距離を縮められるとはね
リチャード後は無事に元の世界に戻れたら言う事はないんだが…
ファラそうだね…。ルドガー、わたし達が元の世界に戻るにはどうしたらいいのかな?
ルドガー…この前と同じなら、負の因子を壊せば帰れるようになるかもしれない
リチャードさっき話してくれた、スレイに憑りついていたというものだね?
ルドガーああ。あの時のように、分史世界に異変をもたらしているかも知れない
ルドガーまずはこの世界に起こっている異変を調べてみよう
エルでも、どうやって調べるの?エルたち、ここから出られないんだよ
リチャードまずは僕達の置かれた状況について情報が欲しいところだ
ファラそうだね。何が何だかわからないまま捕まっちゃったし…
???ここか?
ルドガーん?誰か来たのか
ファラ今の声って…
キール──こいつらか?何の前触れもなく突然現れたというのは
看守1はっ。そのように聞いております
ファラキール!?
キールなぜ、ぼくの名を知っている?怪しいな…敵国の密偵…?いや…だとすると不自然か…
ファラな、何言ってるの?わたしだよ、幼馴染のファラ!
キール知らないな
ファラえ…っ
キール…まさか、こいつら──
キール──まぁいい。確かめてみれば、わかる事だな
リチャードあれは…?
ルドガー何かの装置…みたいだな。小さくてよく見えないけど…
ビービー!
キール…!やはりそうか…
キール反応が強いのは…
ビービービービー!
エルなっ、何…?
キール看守。あの子どもを出せ
看守1はっ!
ガチャッ
エル…!ルドガー!
ルドガーエルに近づくな!
看守1邪魔だ!
看守2取り押さえろ!
ドカッ
ルドガーくっ、この…!
エルルドガー!
看守1お前はこっちに来るんだ
エルやだ!はなして、痛いよ!
ファラ何するの!
リチャードファラさん、待つんだ。ここで暴れたら僕達の立場はもっと悪くなる
ファラでも、エルが…!
リチャードキールさん、と言ったかな。理由を教えてくれないか
キール…あんたには関係ない事だ
リチャード…取り付く島もなしか
ルドガー待て!エルに怪我でもさせたら容赦しないぞ!
キール怪我をさせたくないなら大人しくしていろ
キール…つれて行くぞ
看守1はっ
エルルドガー!助けて…っ!
ルドガーくっ、エルー!
看守2動くな!
ドスッ
ルドガーぐっ…エ…ル…
ドサッ
ファラルドガー…!もう我慢出来ない!
リチャード駄目だ、ファラさん!ここは…堪えてくれ…!
ファラでも、わたし…!
看守2な、何だその反抗的な目は!歯向かうならお前も容赦せんぞ!
リチャードよした方がいい。さすがに僕も黙っていられなくなる
看守2何…!に、逃げられると思ってるのか。外には兵がいくらでも…
リチャードそうだね。君がここまでにしてくれるなら僕達も大人しく従おう
看守2ふ…ふん。わかればいいんだ
リチャードそれと、もう暴れないと約束するから君が怪我をさせた友人を手当てしてやってくれないか
看守2ちっ、仕方ないな。少し待ってろ。逃げようとするんじゃないぞ
ガチャン
ファラ鍵閉められちゃった…。リチャード…わたし…ついカッとなっちゃって…
リチャード気にしなくていいよ。ファラさんの気持ちは痛いほどわかるからね
リチャードだが、怒りに任せて動いても事態は好転しない
リチャード気絶したルドガーを置いていけないし看守が言ったように、ここを出てもすぐに囲まれてしまうだろう
リチャードそれに…キールさんは怪我をさせたくなければ大人しくしていろと言っていた
リチャードあの言葉を聞く限り、何もしなければ彼女に危害を加えるつもりはないのだろう
ファラ…確かに、わたしの知ってるキールは、そんな事する人じゃないけど…
ファラでも…
リチャード…不安なんだね。すまないが今はその不安を解消してあげる事が出来ない
リチャード今は目の前の問題から片付けよう。まずはルドガーの手当てをする事が先決だ
ファラそうだね…
ルドガー……
ファラ…大丈夫?まだどこか痛む?
ルドガーああ、もう平気だ。大した事ない
ルドガーただ…エルの事が心配だ。どうしてキールはエルだけを連れて行ったんだろう
リチャード何か理由がありそうだね。彼が使った小型の装置が気になる
リチャードあの装置は、エルさんに強く反応していたようだが一体…
ルドガーいつまでもここにいるわけにはいかない。エルを助けにいかないと…!
ファラうん。ただ…わたし達が下手な事を考えないようにって看守の目が厳しくなったみたいなの
リチャードエルさんの居場所もわからない以上今行動を起こすのは得策とは言えないだろうね
ルドガー…そう、だよな。でも、どうしたら…
看守1なあ、聞いたか?ウィンドルの話
看守2ああ。セルディク王の事だろう
看守1我らが姫様に婚約を迫っているとか。政略結婚が行われない場合、戦争に発展する可能性もあるんだとさ
看守2戦争か…嫌だなぁ。姫様には悪いけど円満に事が進めばと思うよ
ルドガー…!今の話…
リチャードなるほど…。この世界のウィンドルを統治しているのはセルディク公のようだ
リチャードだから僕が何者なのか、門番達は知らなかったんだね
ファラ政略結婚を迫られるお姫様か…。何だか、可哀想だね…
看守1…!どうして、あなた様がこのような場所に!
リチャードん…?急に騒がしくなったみたいだ
ファラ誰かがこっちに来るよ
看守2姫様、お待ちを…!
コツコツコツ…
メルディ……
ファラえっ。め、メルディ…!?
雪の国の王女
メルディ今すぐこの人達を解放するよ
看守1しかし、姫様…!
メルディ罪を犯してない人を牢に入れる必要、あるか?
看守2…わかりました
ガチャッ
看守2外に出ろ
メルディ大丈夫か?手荒な真似してごめんな…
クィッキークィック!クィック!
ファラ…あなたが、この城のお姫様なの?
メルディはいな!メルディがおカーサン、この国の偉い人!
ファラそうなんだ。ねぇ、わたしの事、わかる?
メルディんー…?どこかで会ったか?ごめん、覚えてないよぅ
ファラ…ううん、いいの。よく考えたら他人の空似だったよ。あはは…
メルディ…?
リチャードお互いに面識はないという事か…ならば、なぜ見ず知らずの僕達を助けてくれたんだい?
メルディそれは…ここじゃゆっくり話せない。みんな、メルディに付いてくるよ!
ルドガー処刑…!?
メルディはいな。牢に入れられた人、みんな処刑されちゃうよ…
リチャード事情も聴かずにか…
メルディおカーサン、公務で今いないけど出かける時にそう命令して行ったよ
メルディ厳しい思ったけど、ここに捕まる人は滅多にいないからホントに処刑はない思ってた
メルディそんな時に誰か捕まったって聞いて様子を見に来たよ
ファラメルディ──王女様のお蔭で助かったよ。ありがとう!
メルディお礼はいらない!ただ…堅苦しいのは嫌だからメルディって呼んでほしいよ
ファラうん、勿論!私はファラだよ
ルドガー俺はルドガーだ
リチャード僕はリチャード。よろしく
メルディよろしくな!それと、こっちは友達のクィッキーだよぅ
クィッキークィッ、クィッキー!
ファラクィッキーもよろしく
クィッキークィッキー!
リチャードところでさっきの話だけど僕達を助けてくれたという事はメルディは処刑に反対なのかい?
メルディはいな。法律とか難しい事はメルディよくわからないけど…
メルディ罪もない人、処刑したら絶対ダメだよぅ
ルドガー俺達が怪しい者じゃないって信じてくれるんだな
メルディはいな。クィッキー懐いてるからみんないい人!
メルディただ、ひとつだけ教えてほしいな。みんなは、どうして城の前に落ちて来たのか?
ルドガー説明が難しいんだけど…たまたま落ちた場所が城の前だった、というか…
ルドガー兎に角、用事があって来たってわけじゃないんだ
ルドガーこの国にも来たばかりで何が起こってるのかわかってなくて…勿論、逆徒なんかじゃないよ
メルディそうなのか…。運、悪かったな
メルディ最近、おカーサンと敵対する人多くて、城が中、ピリピリしてるよ
リチャードなるほど。警戒を強めていたところに僕達が怪しい登場をしたわけか…
メルディでも安心するよ。メルディ、お城の外まで連れてく!
ルドガーありがとう。けど、少し待ってくれないか。ここを出る前にエルを連れ戻さないと
メルディエル…?
ルドガーああ。俺達と一緒にもう一人女の子がいたんだ。キールがどこかに連れて行って…
メルディキールが…?どうして…
ルドガー彼がいる場所を教えてくれないか?
メルディ……
メルディみんなが事、おカーサンに知られたら牢に戻されるかもしれない。早くお城から出た方がいいよ
メルディだから、その子が事、メルディに任せてくれるか?
ルドガー何か考えがあるのか?
メルディキールに言って、何とかするよ!メルディ、キールとは仲よしだからな
メルディ街で待っててくれたら必ずその子を連れて行くよ!だからみんなは先にここを出るよ!
ルドガー…………
リチャード…ひとつ聞いてもいいかな?キールさんは何か目的があってエルさんを連れて行ったようなんだ
リチャード何をするつもりなのか知っているかい?
メルディ…メルディ、キールが何してるか知らない。でも、これだけは言えるよぅ
メルディメルディは、キールに人を傷つけさせたくないよぅ!
ファラメルディ…
ファラルドガー、大丈夫だよ。このメルディはわたし達の知ってるメルディと同じ優しい子だから
ルドガー…そうみたいだな。メルディ、エルの事よろしく頼む
メルディまかせるよ!
クィッキークィッキー!
キールやはり…。別の世界からここへ飛ばされて来たんだな
キールおまえ達、クルスニクの一族が持つ力の謎に迫れば、きっと…
エル…ルドガーのところに帰して
キールそれは聞けない相談だな。おまえが持ってるその時計を渡してもらえれば考えてもいいが
エルこれはパパの大切な時計だから、ダメ!触らないで!
バシッ
キール…ふん、意地を張りたいならそうしているといいさ。おまえがいつまでも帰れないだけだ
ガチャ
メルディキール!
キール…メルディか。どうしたんだ、ノックもせず
キール…怒っているのか?
メルディ外まで声聞こえてた。その子、嫌がってる!乱暴な事よくない!
キール…はあ。仕方ない、自分から渡す気になるまで待つとするか
エル……
メルディキール。牢に入ってた人達、何も悪い事してないって言ってたよ
メルディその子も…何も悪い事してないな
キール…!おまえ、あいつらに会ったのか!?
メルディその子をルドガー達がところに帰してあげないと
エルルドガーの事、知ってるの!?
メルディはいな。エルの事、連れ戻す約束したよ
キール…駄目だ。時計と、こいつの力を調べるまで、外には出さない
メルディキール!
キールこの研究が進めば、ぼくは更に認められる…
キール誰にも見下されない偉大な研究者になるんだ
メルディキール…
クィッキークィイ…
キールそんな顔をするな。用が済めば、こいつは帰してやる。いつになるかはわからないけどな
メルディキール、約束してほしいよ。絶対、酷い事しないって
キール…善処はする。人の事より、メルディ。おまえは何か身体に変化はないか?
キール最近、政務続きで疲れていただろう
メルディ何ともないよ。いつも通り!
キール…そうか
キールだったら話はここまでだ。ぼくは研究で忙しい。おまえも、早く部屋に戻れ
メルディキール…
メルディ行っちゃったな…
エル…あの人、性格悪い!
メルディ……
メルディキール、昔は…すごく優しかったよ
メルディ最近は少し、おかしいけどメルディが事…いつも心配してくれる
メルディメルディを姫じゃなくてメルディとして見てくれるよ
エル…メルディはこのお城のお姫様なの?
メルディはいな!
エルあの人と、仲がよかったんだね
エル…お姫様の友達を悪く言ってごめんなさい…
メルディ謝らずでいいよ。エルは優しい子だな!
ガッガガガ…
エル…!何の音?
メルディあそこにある機械、見えるか?あれが動く音だよ
エルあの機械…すごく、いやな感じがする
メルディいやな感じ?
エルうん…。イニル街にあった魔導器に似てるから…
メルディあれは、人を殺すものだから…メルディも嫌い
メルディ…エル。必ずここから出すよ。もう少し待てるか?
エル…わかった。メルディの事、待ってる
メルディ約束な!ルドガー達にエルが事伝えておくよ!
キール何をコソコソ話してたんだ?
エル教えない!
エルルドガーたちがギャクトじゃないってお姫様が言ってたのに、どうしてカイホーしてくれないの
キールおまえ達が逆徒だろうがそうでなかろうが、ぼくには関係ない
キール自由に動き回られると困るってだけだ
兵士──キール様!
キール何だ。騒々しいな
兵士牢に入れていた逆徒達が城の外に出たとの報告がありました
キール何…!?
兵士看守の話だと、メルディ様が逆徒を逃がしたとかで…。いかがいたしましょう
キールくそっ。すでに逃がしていたのか…
キールあいつらを追え。絶対に捕らえろ
兵士し、しかし…メルディ様の命に逆らうわけには…
キールメルディの命令が正しいと思うならどうしてぼくに伺いを立てにきた?追うべきだとわかっているのだろう?
キールメルディの命に反した責任ならぼくが取ってやる。あいつらをすぐ牢に連れ戻せ
キール抵抗するなら生死は問わない
兵士はっ!
エルっ…!行っちゃダメ!
ガシッ
兵士な、なんだ…!?
キールおい、勝手な事をするな!
エルいーかーせーなーいー!
兵士この!離れろ!
キール大人しくしていろ!
エルはなしてー!
キール今だ、早く行け!
兵士はっ!失礼します!
エルうぅ…。…ルドガーにひどい事したら、許さないから!
キールふん
scene1為政者の悩み
ファラ誰も追って来てないみたいだね
リチャードああ。この国の姫君が直々に送り出してくれたんだ。脱走とはわけが違うだろう
ルドガーけど、キールや女王に知られたらどうなるかわからない
ルドガーそれまでにエルと合流出来るといいんだけど…
ファラメルディがきっと上手くやってくれるよ
リチャードそうだね。その間、僕達は少しでもこの世界の事を調べておこう
ルドガーここまで歩いてきた感じだとカン・バルクの街並みは正史世界とあまり変わらないみたいだな
リチャードああ、しかし国の体制は大きく違う。ガイアス王でなくメルディの母上がア・ジュールを統治しているようだ
ファラまさか、メルディがお姫様になってるなんて…わたし、びっくりしちゃった
ルドガーああ、俺も驚いたよ。政略結婚を迫られているのはメルディだったんだな
リチャードどうやらウィンドルの事情も僕達の世界とは異なるようだな
リチャード道中で街の人達の話を聞いた感じだとこの世界のウィンドルは大国として大きな武力を有しているようだ
ルドガーこの国の女王は秘密裡に兵器の開発も進めているという噂もあったな
リチャード政略結婚による同盟か、戦争の始まりか…
リチャード国中が緊張しながら成り行きを見守っているようだ
ファラア・ジュールとウィンドルが戦争するの…?
リチャード僕達の世界でも、四大国は長く良好な関係が築けず歴史の中で何度も戦って来た…
リチャード分史世界でも、同じような事が繰り返されようとしているのだろうか…
ファラ何とかして止められないのかな…
リチャード誰しも戦争なんてしたくない。それでも…武器を取らなければ民を守れない事があるのも事実なんだ
ファラそんなの…悲しすぎるよ。何か他の、平和的な方法がきっとあるはずだよ
ファラメルディが結婚させられる以外の方法が、きっと…
リチャード…平和的な方法を考えて考えて…けれど答えが出ないまま戦いが始まってしまう事もある
リチャード…ア・ジュールの女王も僕と同じ苦悩の中でもがいているのかもしれないね
ルドガーリチャード…
ファラ…王様やお姫様がこんなに大変だなんて知らなかったな
ファラ小さな頃は煌びやかなお城暮らしに憧れて、お姫様ごっこなんてしてたけど…
ファラ何もわかってなかったな…。何だか恥ずかしいよ
リチャードすまない。不安にさせてしまったね
リチャード勿論、戦争を止められるならそれに越したことはない。やれるだけの事は──
ザッザッザッザ
兵士1おい、いたぞ!あそこだ!
ファラ…!
リチャードやはり、そう簡単にはいかないみたいだね
兵士2もう逃げられないぞ!
ルドガーくっ、囲まれた…!どうすれば…
リチャード不本意だが戦うしかないだろうね。突破口を切り拓こう!
ルドガーわかった!
scene2為政者の悩み
兵士1くっ、こいつら、やるぞ…!
ファラ道が開いたよ!あそこから抜け出そう!
ルドガーああ!
兵士2待て!
兵士3くそ、応援を呼ぶんだ!逃げられないよう城門を閉めろ!
リチャード何とか撒いたが、追いつかれるのも時間の問題だな
ファラすぐ隠れないとまた囲まれちゃうよ…!
ルドガー街の外にも逃げられそうにない…!どうすれば…!
メルディみんな!こっちだよぅ!
ルドガーメルディ…!
メルディあの建物、隠れられる!
ルドガーわかった!みんな、あそこに急ごう!
ファラ…外ではまだわたし達の事捜してるみたいだね
メルディこの宿、メルディが知り合い。みんなが事、匿ってくれるな
ルドガー助かったよ
ファラねぇ、メルディ。その服って…
メルディこれか?こっそり街に出る時、いつも着てるよ
メルディ…何か変か?
ファラううん。すっごく似合ってる
メルディありがとな!
ルドガー…ところで、メルディ。エルの姿が見えないようだけど…
メルディ…ごめんな。連れてくる事、出来なかったよ。キール、すぐには帰してくれないな
ルドガーそうか…。怪我とかはしてなかったか?
メルディはいな!
ルドガーよかった…。今はそれだけで十分だ
リチャード…メルディさん。追手が来たのは女王様の指示かい?
メルディううん、キールが命令って兵士達言ってたよぅ
リチャードそうか…
リチャードしかし、君は王女だ。君の意志を無視して僕達に追手を差し向けるなんて…
リチャードキールさんは一体、何者だい?
メルディ…キールは、王室専属が研究員
リチャード研究員…?一介の研究員が、王女を超える実権を握っているのかい?
メルディキールが研究、おカーサン進めてる兵器開発に貢献してるよ
メルディだから軍はメルディよりキールが言う事聞くな。メルディも少しは権限あるけど…
リチャードそういう事か…。王女とはいえ、君も苦しい立場なんだね
ルドガーなのにエルを取り戻せるよう掛け合ってくれたのか…ありがとう、メルディ
メルディでもメルディ、連れてこられなかったよぅ…
メルディおカーサン帰ってきたらエルが事お願いしてみるな。けど…たぶん…
ルドガー聞き入れてもらえないか…
メルディでも、考えあるよ!みんな、リンネル村知ってるか?
ファラ勿論!この世界にもリンネル村はあるんだね
メルディ…?この世界?
ファラあ、ううん。こっちの話!それで、リンネル村に何かあるの?
メルディ力を貸してくれそうな人いるよ。先王が息子、話聞いてくれるよ
リチャード先王の息子が王位を継承せず首都から離れて暮らしている…何か事情がありそうだね
ルドガーわかった、リンネル村に行ってみよう
ファラでも、街の外には出られないんだよね。城門を閉められてたし…
メルディメルディ、何とかするよ。そのぐらいは出来ると思う
メルディ地図を描くからその通りに行くよ!誰にも見つからないで街を出られるな
ファラありがとう。だけど、いいの?メルディの立場が悪くならない?
メルディ平気だよ。それにメルディ、ルドガー達捕まる方がやだよ
ファラ…だからって、会ったばかりのわたし達のためにそんなに無理して──
ファラ…あっ
メルディ…?どうかしたか?
ファラううん、何でもない
ファラ(これって、わたしが リッドにいつも言われてる事だ…)
リチャードありがとう、メルディさん。みんな、疲れていると思うが早速出発してもいいかな?
ルドガーああ。エルのためにも、少しでも急ぎたい
ファラうん。それに、いつまでもここにいると、宿にも迷惑かかっちゃうもんね
メルディわかったよぅ。すぐに城門を開けるよう手配するな
メルディリンネル村についたらブウサギがいっぱいいる家を探すといい!
ルドガーわかった。その人の名前は?
メルディピオニー!
scene1雪国の実力者
ファラあっ、あれ!リンネル村が見えてきたよ。このまま行けばあと少しで──
ルドガー…ん?ちょっと待ってくれ
リチャードどうかしたのかい?
ルドガーあの木の陰になっているところ…
怪しい男……
ファラ誰かいる!あんな場所で何してるんだろう?
ルドガー村の人…と言うには動きが少し怪しい気がするんだ
リチャード…確かに。姿を隠しながら、何かを見張っているのか?
リチャードあれは…
ルドガー何か気になる事でも…?
リチャード彼が腰に下げている剣に見覚えがあるんだ
リチャードア・ジュールの兵士達が使っていた剣と同じように見える。軍服を着ていないが、彼も兵士だろう
ファラもしかして、わたし達を捜しに来たのかな?
リチャードいや…僕達を捕まえるつもりなら一人という事はないだろう。もっと多くの兵士を派遣するはずだよ
ルドガー確かに…。他に兵士はいないようだし、俺達を待ち伏せしてるわけじゃないのか…
ファラそれなら、旅人のふりをして前を通り過ぎちゃおうよ!
ルドガーさすがに堂々としすぎじゃないか?
ファライケる、イケる!何とかなるって!コソコソしてる方が怪しいよ!
リチャード時には大胆さも必要かもしれないね。行こう、リンネル村はすぐそこだ
ルドガーふぅ…。何事もなく村の中に入れたな
ファラうん!でも、どうして兵士があんなところに立ってたんだろ?
リチャード真意はわからないけど…村の中で目立つような行動は控えた方がよさそうだね
ルドガーそうだな。とりあえず早くピオニーさんを捜さないと
ファラえっと、確か…村に着いたらブウサギがたくさんいる家を探せってメルディが言ってたっけ
リチャードブウサギか…。あ、あそこに何匹かいるようだよ
ブウサギぶー、ぶー
ファラあんなにいっぱい…!放し飼いにされてるみたいだね
ルドガー近くピオニーさんがいるかもしれない。行ってみよう!
ブウサギぶひ、ぶひっ
ファラわっ、近付いてきた…!人に慣れてるみたい
リチャードこうやって見ると、愛らしいものだね
???おっ。何だおまえら、俺のブウサギを見に来たのか?可愛いぞ!
ルドガー俺の、って事は…もしかして貴方がピオニーさんですか?
ピオニーああ、そうだ。おまえ達は?
ファラメルディ…王女様からこの場所を聞いて、訪ねて来たんです
ファラあなたなら、わたし達を助けてくれるかもしれないってこれを…
ピオニー確かにメルディからの手紙か…今は少しばかり都合が悪いんだが何か事情がありそうだな
ピオニー王女の頼みを、無下には出来ないしな。中で話を聞こう
ピオニー大した持て成しは出来ないが、楽にしてくれ
リチャードありがとうございます
ブウサギぶひー、ぶひー
ルドガー家の中にもブウサギがいるんですね…
ピオニー可愛いだろ?他の奴らも寝る時はちゃんと自分から家の中に戻って来るんだぜ
ピオニーさて、話が途中だったな。ここに来るまでに何があったかざっと説明してくれ
ピオニー──成程な。おまえ達はそのエルって子を城から連れ戻したいわけだ
ルドガーはい。ただ、出来るだけ目立たずに穏便に済ませたいんです
ルドガー俺達が下手に動いてメルディに迷惑をかけるのは避けたいので
ファラメルディもいろいろ大変そうだったもんね。それなのに協力してくれて…
リチャード難しいかもしれませんが、メルディ王女のためにも力を貸していただけないでしょうか
ピオニーそうか。そういう事なら協力しよう。その代わり…条件がある
ルドガー条件、ですか…?
ピオニーああ。実はブウサギが一匹逃げ出したんだ
ピオニー多分リンネル村の近くにいるはずだから探してくれないか
ファラえっ、ブウサギ探しですか…?
ピオニー一刻も早く城へ向かいたいというおまえ達の気持ちはわかっているつもりだ
ピオニーだが、俺の可愛いジェイドが丸焼きにされたらと思うと、心配で村を出られない
リチャード…ジェイド?
ピオニー逃げ出したブウサギの名前だ
ファラジェイド、って…ア・ジュールにいる軍人さんと同じ名前だね
ルドガーああ。たまたまにしても奇妙な感じだな…
ピオニー何をコソコソ話してるんだ?俺の頼みは聞いてくれるのか?
ルドガー…ブウサギ探しを手伝えば、俺達に協力してもらえるんですよね?
ピオニーああ、約束する
ピオニーおまえ達がジェイドを探してくれている間に、俺は村を出る準備をしておこう
ルドガーわかりました
ルドガー今から探しに行くので、特徴を教えてもらえますか?
ピオニーいいぞ。俺の可愛いジェイドはな芸の覚えは悪いが毛並みだけはぴかぴかで…
ファラ…何だか名前に違和感があるなぁ
リチャード慣れるしかなさそうだね…
ルドガー…ここにもいないみたいだな。どこへ逃げたんだろう?
ファラん~、人に育てられたブウサギだからそう遠くには行っていないと思うんだよね
リチャード手当たり次第に探すよりもここの近くで姿を現すのを待っていた方がいいという事かな?
リチャードでも、僕達の姿を見たら驚いて逃げてしまうかもしれないね…
ファラ…!それなら、わたしにいい考えがあるよ!
ファラ…よし。この辺りに隠れていれば大丈夫かな
ルドガーへぇ、ここから仕掛けた罠を見張るのか
ファラうん。餌につられたブウサギが罠にかかったところを捕まえようと思って
リチャードあの短時間で捕獲用の罠を仕掛けるなんて、ファラさんは器用なんだね
ファラリッドがやってるのを見てたから作れたんだ!罠で怪我したりしないように、工夫もしたし…
ファラ後はブウサギが来るまでじっと待つだけだよ!
リチャードここまでずっと慌ただしかったし、少しのんびり待つとしようか
ルドガー…のんびりしていていいんだろうか
ルドガーこうしている間にもエルは辛い思いをしているかもしれないのに…
ファラ心配なんだね…。でも…きっと、大丈夫だよ
ファラあの時はちょっと変な感じだったけどキールが小さい子に酷い事するわけないもん
ルドガー俺もそう信じたいけど…ここは分史世界だからな…
ファラそう言われるとわたしも自信なくなっちゃうけど…
ルドガー…ごめん。酷い人だと思ってるわけじゃない。ただ、どうしても不安で…
ファラうん…わたしも不安だもん…メルディの事も…
リチャード…厳しい事を言うようだけど不安な事ばかりを考えると気持ちの焦りに繋がってしまう
リチャードここでブウサギが罠にかかるのを待っているのも、二人を助ける事に繋がるはずだよ
リチャード目の前の問題から着実に片付けていこう
ルドガー…そうだな。ありがとう、リチャード
ファラさすが王様だね。いつも冷静で頼りになるなぁ
リチャードそんな事ないさ。僕だって心乱れる事はあるし…今だってとても不安だよ
リチャードだけど自分の気持ちは別として状況を俯瞰的に見るよう努めているんだ
リチャード僕はかつて黒い衝動に呑まれるまま国を動かしてしまっていた…。それを繰り返すわけにいかないからね
ファラでも、それじゃあリチャードは国のために自分の気持ちを閉じ込めてるの?
リチャードそんな事はないよ。ウィンドルに住むみんなの事を大切にしたいのは、僕の本心だからね
リチャードそれに、何も自分の気持ちを閉じ込めてしまうべきだと言ってるわけじゃないんだ
リチャード気持ちは気持ち、やるべき事はやるべき事と切り分けて考えているだけさ
ルドガーなるほど…。なかなか出来る事じゃないな
ルドガーリチャードは本当に尊敬出来る王様だと思うよ
リチャードありがとう、ルドガー
ガサ…ガサガサ…
ファラ…!あれは…
ブウサギ……
ルドガージェイド、なのか…?首輪をしてるみたいだから飼われてるブウサギだと思うけど
ファラ餌に興味を示してるみたい。罠にかかったら、捕まえよう…!
ガサガサ…
ルドガー…!今、あの辺りの茂みが動いたような
グルル…
ルドガー魔物…!?
リチャードあの魔物、ブウサギを狙っているのか!?
ファラまさか、食べる気なの!?止めないと!
ルドガーああ!俺達の方に魔物を引き付ける!
ルドガー──ゼロディバイド!
ギャウウ…ッ!?
ダッ──
ファラ魔物の注意がこっちに向いた!作戦成功だね!
リチャードよし、ここで迎え撃とう!
scene2雪国の実力者
ファラよかった…。ブウサギに怪我はないみたいだね
ブウサギぶーぶー
リチャード大人しいね。魔物から守った僕達を信頼してくれているのかな
ルドガージェイドも無事に見つかった事だし、リンネル村に戻ろう
ルドガー早くピオニーさんの元に連れて帰らないと
ファラうん、そうだね!
ピオニーさて、準備は終わったな。あとはあいつら次第か…
ファラあっ、ピオニーさん!ジェイド、見つけて来ましたよ!
ブウサギぶひっ、ぶひっ
ピオニーおお!戻ったか、ジェイド!
ブウサギぶひー
ピオニー助かったぜ、おまえ達。ジェイドが戻ってきてくれて一安心だ
ルドガーこれで、エルを連れ戻すための手助けをしてくれるんですよね?
ピオニーああ、勿論だ。俺は、約束を守る男だからな
ピオニー準備は整ってる。今すぐカン・バルクへ向かうぞ!
ファラえっ、わたし達も一緒に…ですか?
ピオニーああ。何か問題でもあるのか?
ファラ一緒に行動しているところを見られたら、ピオニーさんまで捕まっちゃうかも…
ピオニー心配ない。俺に任せろ
母と娘
ファラ堂々とお城の前まで来ちゃった…
リチャード街にいた兵士達とのやり取りを見ていた感じだと、彼の一言にはかなりの影響力があるようだったね
ルドガーただ、お城に入るとなるとそう簡単にいくかどうか…
ピオニー大丈夫だ。俺に任せろって言っただろう?
ピオニーよう、調子はどうだ
兵士1ピオニー殿下!?何か御用でしょうか…!
ピオニーああ。こいつらと俺を城の中に通してほしい
兵士2なっ、お前達は…!どうして貴殿がそのような者達と共に!?
兵士1お下がりください、ピオニー殿下。そやつらは逆徒として投獄されていた罪人達です!
兵士2殿下から離れろ!脱獄犯共め!
チャキッ
ピオニーおいおい、おまえ達は何か勘違いをしているみたいだ。こいつらは罪人なんかじゃない
ピオニー身元は俺が保証する。城の中に用があるから、通してくれ
兵士1し、しかし殿下…!
ピオニーこいつらが城に忘れたものを取りに来ただけだ。用が済んだらすぐに出ていくさ
兵士1…わかりました。殿下をお通しするぞ
兵士2ああ…
ピオニー突然押しかけて悪いな。恩に着るぜ
シゼル…投獄していた逆徒を逃がしたそうだな、メルディ
メルディあのまま牢にいたらルドガー達、処刑されちゃう
メルディ罪のない人達、処刑されるの間違ってるよ!
シゼル罪がないとなぜ言い切れる?おまえはその者達の何を知っているのだ?
メルディそれは…でも、悪い人違うのわかるよ!
シゼル…おまえは何もわかっていない。世にどれほど善良な顔をした悪人が蔓延っているかという事を
シゼルよいか。世の中には自らの都合を正義と称する厚顔無恥な者もいるのだぞ
メルディルドガー達、そんな人違う!
シゼルおまえは王女だ。個人の感情だけでなく周囲の状況を冷静に考えよ
シゼルその上で信用に足ると判断する材料を提示すれば、私もその者達を認めてやろう
シゼルもっとも…今はそのような細事にかまけている暇はないがな
メルディ…おカーサン、ウィンドルとの交渉また上手くいかなかったか
シゼル…交渉は継続中だ
メルディこのまま折り合わなかったら…ウィンドルと戦争するのか?
シゼル…戦争は避けられぬであろうな。だが、兵器開発が間に合えば被害は最小限に抑えられる
シゼル先制攻撃であの兵器の威力を知ればウィンドルとて全面戦争を避けるだろう
メルディ最小限でも、戦争よくない。…おカーサン、メルディ、みんながためなら結婚出来るよ
シゼル愚かな事を。おまえを差し出すという事は事実上の降伏を意味するのだぞ
メルディ降伏でも戦争ない方がみんな平和。違うか?
シゼル違うな。結婚など建前にすぎん。実際は人質だ。我々は友好国という名の属国となる
シゼルそうなれば待ち受けるのは一方的に搾取され続ける未来だ。到底受け入れられるものではない
シゼルこちらとしても婚約交渉は建前だ。兵器が完成するまで時間を稼ぐ手段でしかない
メルディ…戦争は死ぬ人いるよ。最小限だとしても…メルディ、一人も死なせたくない
シゼル私とて死なせたいわけではない。だが先ほども伝えた通り、感情よりも状況を優先するべきなのだ
メルディ…本当に他の方法、ないか…?
シゼルそのようなものがあるのなら、教えてもらいたいものだな
シゼルさぁ、もうわかっただろう。この話は終わりだ
メルディ待って。最後に一つだけお願いあるよ
メルディキールが研究室にいるエル、ルドガー達のところに帰すよう言ってほしいな
シゼルその願いは聞けぬ。研究に必要と聞いている。おまえが口を出す事ではない
シゼル話はここまでだ。下がれ、メルディ
メルディ……わかった…よぅ…
シゼル…得心のいかぬ顔をしておったな。今は大事な時だ。面倒が起こる前に手を打つべきか
シゼル誰かいるか!
ファラ──本当にお城の中に入れちゃった…
タタタッ
兵士3お待ちください!
兵士1何事だ。殿下と客人の前で失礼だろう
兵士3そ、それが…
ファラ何かあったのかな?すごく慌ててるみたいだけど…
ルドガー…嫌な予感がするな
兵士1っ…それは本当か!?
兵士3ああ、女王陛下直々の命令だ
ピオニー何だ何だ、悪い知らせか?
兵士1…殿下。あなた方を研究室へお連れするわけにはいかなくなりました
兵士1取り押さえろ!
チャキッ!
ルドガー…!
ピオニーこれは何の冗談だ?
兵士3この者達を捕えよと女王陛下の命令です
ファラえぇっ…!
リチャードどうやら女王に目を付けられてしまったようだね
ピオニー彼らは俺の連れだ。女王と話をさせてくれ
兵士4それはかないません、殿下
ピオニーおまえは…リンネル村で何度か見た顔だな
ルドガーあの時の…!
リチャード僕達も見かけた村を見張っていた兵士だね
ピオニーなるほど。俺の周りをこそこそ嗅ぎまわってたってわけか
兵士4ご察しいただけたのなら話は早い。殿下、あなたには逆徒達に加担した謀反の疑いがかけられています
ファラピオニーさんが…逆徒…!?
ピオニー……
兵士1手荒な真似はしたくありません。…ご同行願います
ピオニーいやぁ、参った参った。まさか俺まで罪人扱いされるとは
ルドガー笑い事じゃありませんよ…!
ファラまた、牢の中に戻ってきちゃった…
ルドガー逆徒達に手を貸したって話、本当なんですか?
ピオニー大した事はしてないぞ。俺はただ金を──
看守1何だ貴様らは!?
バシュッバシュッ
看守2ぐう…!?
ドサッドサッ
ファラ何…!?
リチャード看守達が誰かに襲われたようだ!
逆徒の男カーティス司令官、こちらです!
ピオニー誰かと思ったらおまえか、ジェイド
ジェイドこんなところで何をしていらっしゃるのですか、殿下
ピオニー俺の可愛いジェイドを助けてくれた奴らに恩返ししようと思っただけだ
ジェイド…不気味なのでその言い方はやめてもらえませんか
ピオニー安心しろ。おまえは可愛くない方のジェイドだ
ジェイド私が言いたいのは、ブウサギに人の名前を付けるなという事で…
ジェイド…はぁ、今はそんな話をしている場合ではありませんでしたね。早くここから出なければ
ジェイドそちらの方々が一度城から逃げた事で兵士達が警戒を強めているようですから
ルドガーえっ…!俺達の事を知っているんですか?
ジェイドええ、勿論。殿下と共にリンネル村からカン・バルクに戻って来た事も知っています
ピオニーその様子だと、俺が牢に入れられる事を見越して城内に潜入していたみたいだな
ジェイド殿下に謀反の疑いがかけられていると情報が入りましてね。事前に手を打つ予定でしたが…
ジェイドあなたがリンネル村を出てカン・バルクに来たりするから手間が増えました
ピオニー危険を冒して俺を助けに来るとは、実に友達がいのある奴だ
ジェイド城の人間にあなたが持っている私達の情報を渡すわけにはいきませんからね
ジェイド…牢を開けてください
逆徒の男はっ
ガチャガチャ…
キー…
ピオニー思ったより早く出られたな
ファラはい。一時はどうなる事かと思いましたけど…
逆徒の男おい、止まれ。お前達まで牢の外へ出すとは言っていない
ファラえっ、そんな…!
ピオニーおいおい、それはないだろ?あいつらも出してやってくれ
ジェイドどうして得体の知れない者を助け出す必要があるんです?
ピオニー俺はメルディから、こいつらの事を頼まれたんだ。見捨てていくわけにはいかないだろうが
ピオニーそれに、こいつらはシゼル女王に対抗するための戦力になるぞ
ピオニー何たって俺の可愛いジェイドを魔物から救ってくれた奴らだからな。戦力は保証する
リチャード少なくとも僕達はあなた達に襲い掛かったりしません
ジェイド……
ジェイドいいでしょう。あなた方も付いて来てください
逆徒の男この辺りに兵士はいないようです。一気に逃走用の通路まで進みますか?
ジェイドいえ、油断は出来ません。廊下の先まで行って安全かどうか確かめてください
逆徒の男はっ
ファラ…ピオニーさんはあの人とどういう関係なんですか?
ピオニージェイドの事か?あいつとは長い付き合いでな
ピオニージェイドが率いている組織はシゼル女王の兵器開発を止めるために動いてるんだ
リチャードあなたも、その活動に協力を?
ピオニーまあ、そうだな。多少の資金援助をしたくらいだが
ルドガーピオニーさんは地位もあるし、女王陛下に直接進言する事も出来るんじゃないんですか?
ピオニーいいや、今の俺にそこまでの力はないぜ。ただ、俺にも国を憂う心はあるからな
ジェイド…殿下、話はここを出てからにしてください。いつ兵士に見つかるかわからないんですよ
ピオニーおまえの事だ。見つかってもいいように策くらいは立ててあるだろ?
ジェイド……
ジェイド我々がここで捕まるような事があれば誰が民の生活を守るのですか
ジェイド民を思う心があるなら慎重に行動してください
ピオニーはいはい、わかってるって
リチャード…彼は正史世界のジェイドさんと少し違うようだね
ファラ確かに…、前に会った時はもっと飄々としてて、何を考えてるかわかり辛い人だった気がするなぁ
ルドガー分史世界ではよくある事だよ。環境や立場が少し違うだけでも人の印象が違って見えるものなんだ
リチャードそうか…僕がこの世界では王として振舞わないように、同じ人でも行動が変わるんだね
ファラなるほど
逆徒の男司令官、安全の確認が取れました!
ジェイドわかりました。逃走用の経路まで一気に進んで──
ルドガー待ってください…!
ルドガー俺達は研究室にいるエルを助けに来たんです!
ジェイド残念ですが、それは聞けませんね
ジェイド兵器開発の要ともいえる研究室にそう易々と近づく事は出来ません
ルドガーそんな…
ファラそれじゃあ、わたし達だけでも研究室に向かいます!
ジェイド…本気ですか?
ファラ今またここを出たらもう戻ってくる方法はないし…エルを助けないと!
ルドガーああ、たとえ危険でもエルをこのままにしておけない
リチャード…待ってくれ、二人共
リチャードジェイドさん。再び城内に戻って来る事が出来ないなら、僕達は行きます
リチャードですが、この騒ぎの中、研究室まで辿り着ける可能性は確かに低い…
リチャードなので単刀直入に聞きますが、この先、ここに戻って来る機会はありませんか?
ジェイド……お答え出来ません。少なくとも、今、ここでは
リチャード…わかりました。ルドガー、ファラさん、今はここを出よう
ファラえっ、でも…
リチャード焦る気持ちはわかるが今は僕を信じてくれ
ルドガー……わかった
ファラうん
ダダダッ
兵士1いたぞ!!!
ファラ…!後ろから追手が来たよ!
リチャード僕達が牢から逃げ出した事に気付かれたみたいだね
ジェイドやれやれ。あなた方がのんびりしているからですよ
ジェイドこうなってはどの道研究室に向かうのは不可能でしょう
ジェイド脱出するのであれば、ついて来てください。いいですね
ルドガーはい!
scene1すれ違う想い
メルディおカーサンが事、説得出来なかったな…
クィッキークキュウ…
メルディ心配してくれるか?ありがとな、クィッキー
メルディいつまでも落ち込むいけないな!
クィッキークィッキー!
メルディ決めた!もう一度、キールのところ行くよ!
メルディキールに人殺しの兵器なんて作ってほしくないからな…
クィッキーククキュキュキ…
キール──駄目だ。話にならない
エル……
メルディどうして!その兵器、完成したらおカーサン使うよ!
メルディそしたら人がいっぱい死ぬ!キール、それが望みか!?
キール別に人が死ぬ事を望んでいるわけじゃない。だが、兵器の開発は止められない
メルディどうして…
キール…メルディ。おまえはぼくに、城から出て行けと言うつもりか?
メルディそんな事ない!どうしてそうなる!?
キールぼくは兵器開発のためにシゼル陛下から宮廷学者に取り立ててもらったんだ
キール兵器開発を中止にするという事はその立場を手放すという事だ。当然、城にぼくの居場所はなくなる
メルディそれは…
キール…兵器開発の責任者という立場をなくしたぼくを周りの研究者はどう見ると思う?
キールぼくの研究はただでさえ学会で認められていないんだ
キールこの世界が本当の世界ではない…分史の世界だなんて誰も信じてくれなかった
エル分史…!キールの研究って分史世界の事だったの!?
メルディエル…分史世界が事知ってるか?
エルう、うん…ちょっとだけ。ルドガーとメガネのおじさんは詳しいかもだけど…
メルディキール、もしかしてエル返してくれないの、このためか?
キール…他に何があるって言うんだ
メルディ研究がためにエルを無理やり連れてきたか。ちゃんとお願いすればよかったのに…
キールそれは出来ない。あの男もクルスニクの一族だ、警戒する必要がある
エルルドガー?どうして…
キール…おまえに説明するつもりはない。とにかくあの男がいると困るんだ
エル…ルドガー…
メルディキール…変だよぅ。研究がために兵器を作ったりエルを返してくれなかったり…
キール手段を選んでいる余裕はないんだ。時間がなさすぎる
キールせっかくここまで来て…女王直々に研究を認められて学会の連中を見返せたっていうのに…
メルディキール…キールはそんな事のために研究をしているのか?
キールそんな事とは何だ!誰にも認められずに馬鹿にされ夢を笑われたぼくがどれほどみじめか…
キールぼくはこの研究に全てを賭けている。それなのに、おまえは…
メルディ…?メルディ、関係あるか?
キール…いや、何でもない。とにかく、この研究の前には些細な事だ
メルディたくさんの人が死ぬ事、些細な事言うか!
キールぼくには関係ない事だ
メルディどうして…キール、そんな事言う人違う!
メルディキール、世界が未来よくするため研究する優しい人!
メルディその研究使った兵器でたくさん人死ぬなんて耐えられないはずよ!
キールうるさいっ!!
キール何も知らないくせに口を出すな!
メルディ…出すよ!メルディ知っている!キールとたくさんお話したよ。あの花畑で…
メルディそうだ、メルディと一緒にまた行こう!キールきっと疲れてるだけ
キール時間がないと言ったはずだ。ぼくは一刻も早くこの兵器を完成させなければならないんだ
メルディ休憩必要!前は…研究が事、世界が事話してくれたな
メルディまたお話してほしいよ…そしたらキールも、あの頃が気持ち思い出せる
キール気持ちだと?
キールそんなもの、思い出している暇はないっていうのがわからないのか
メルディでも…
キールぼくが研究を完成させればこの国は強くなる!
キールウィンドルに脅されて王女を差し出すような弱い国じゃなくなるんだぞ!
メルディ弱くたっていい!人を殺す兵器、作らないでほしいよ!
キール…話は平行線だな。これ以上は時間の無駄だ。出て行ってくれ
メルディどうしても…やめてくれないか
キールくどいぞ
メルディメルディ、ウィンドルに行ってもメルディごと撃つか?
キール…何?
メルディ……
メルディメルディ、決めたよ。ウィンドルが王様と結婚する!
キールな、何をバカな事を…
メルディ今のキールきらい!ウィンドルが王様は、結婚すれば戦争しないでくれる
メルディメルディ…戦争しない人が方、好きだよ!
キール国の存続の話だ好きか嫌いかの話じゃない!
キールそもそもこんな交渉を持ち出す王だ。おまえの思うような結末になると思っているのか!
メルディやってみないとわからない!メルディ、本気!おカーサンにそう言ってくる!
キール……
エル…追いかけなくていいの?
キール必要ない。シゼル陛下が止めるだろう
エル泣いちゃってるかもしれないよ
キール…。そんな暇はない。放っておけばいいさ
エル…メルディ本当に結婚しちゃったらどうするの?
キール…兵器の開発が間に合わなければ遅かれ早かれそうなるんだ
キールとやかく言うのなら、まずその時計を渡したらどうなんだ
エルこれだけはダメ!
キールふん…。どいつもこいつもぼくの邪魔ばかりする…
キール……
兵士5止まれー!
兵士6抵抗すると容赦せんぞ!
リチャード追手が増えてきたね
ジェイド出口までもう少しですが…妙ですね。兵士が後ろからしか来ないというのは…
ピオニーわざとこっちに追い込んでるって事か?
ジェイドええ。事前に把握していた警備の配置とも違うようです。これは罠の可能性が高いですね
ルドガーそれじゃあ、逃げる事も出来ないんですか?
ジェイドいえ、予備の逃走経路を使います。人目につく可能性はありますが追手を撒くには適した道です
リチャード流石ですね
ジェイド流石…とは、どういう事でしょう。普段の私の事をご存じかのような言い方ですが…
リチャードああ、いえ。ピオニーさんが一目置くだけあると思っただけです
ジェイド殿下は私を買い被っているだけですよ
ジェイドさぁ、こちらです。ついて来てください
scene2すれ違う想い
ジェイドここを抜ければ城の外です
ルドガー追手は撒けたようですね
ピオニーこの道は、なまじ人目があるから逃走に使われるとは思わなかったんだな
リチャード上手く盲点を突けたようですね
ファラ掃除してたお姉さんがびっくりして逃げて行ったのはちょっと申し訳なかったけど…
ジェイド彼女が通報したら終わりです。早くここを離れましょう
メルディ…はぁ。キール…どうして…
メルディここに連れて来てくれたキール…いろいろお話してくれたキール…優しくて、不器用だけど頑張ってて…
メルディ立派な人だと思ったよぅ。だからメルディ、おカーサンにキールが論文紹介したな
メルディなのに…
クィッキークィィ…
メルディクィッキー、心配してくれるか。ありがとな
メルディでもメルディ、今はちょと元気出ないよ。ごめんな…
ザッザッザッ…
メルディ…!誰か来た!
メルディキール、来てくれたか…?
ファラメルディ!?
メルディファラ!?みんなに…ピオニーもいるか!?
ピオニー奇遇だな、メルディ
メルディ無事会えたんだな。よかったよぅ。これから研究室に行くのか?
ルドガーいや…実は…
メルディバイバ!ピオニー、逆徒と繋がりがあったか!?それで捕まってたなんて…
ピオニーそういえば話した事はなかったな!
メルディピオニーの話なら、おカーサンも聞いてくれる思ったよ…ルドガー達、ごめんな…
ルドガーいや、知らなかったんだからメルディのせいじゃないよ
ピオニーまぁ、繋がりをもったのもつい最近の事だからな
ジェイド私達が活動を始めたのは王室での兵器開発が始まってから…
ジェイド具体的には、ウィンドルとの戦争を積極的に進める動きを感知してからでして
リチャードウィンドルと戦争を…
ルドガー可能性はあるって噂は聞いたけど積極的に進めていたなんて…
ファラという事は…メルディが結婚するっていう話はなくなったんですか?
ジェイドいえ。表向きは和平の条件が折り合わず結論は保留…という事になっています
ジェイドしかしそれは、戦争の準備が整うまでの時間稼ぎにすぎないでしょう
メルディおカーサンもそう言ってたな。メルディ、戦争やめるよう頼んだけど聞いてもらえなかったよ
ジェイドやはりそうですか
ファラどうしてだろう。戦争なんて誰もしたくないと思うんだけど…
ピオニーセルディクは野心家で知られている
ピオニーメルディと結婚したとしてもこの国を乗っ取るつもりだろう
ピオニー王位についた背景もいろいろな策謀があるって噂だからな
リチャード……
ピオニーア・ジュールの国を守るためにはセルディクを跳ね除ける力がいるとシゼル女王は考えたんだろう
メルディおカーサン、守るために兵器作ってるか…?
ピオニー…そうだろうな。ただ、力が拮抗してしまえば消耗戦になりどちらかが滅ぶまで戦う事になる
ピオニー国を第一に思うなら、それを避けるために早期決着を狙うはずだ
リチャード相手が戦う気を無くすほどの強力な兵器…という事ですね
メルディそれを…キールが作ってる…
ファラ大変…!どうにか止められないんですか?
ジェイドそれを止めるために策謀しているのが私達です。逆徒などと呼ばれていますがね
メルディそれじゃ、みんなで戦争止めてくれるか!?
ジェイドええ。ただ…この先の話を聞くといくら王女殿下とは言え城に帰すわけにいかなくなりますよ
ジェイド万が一にでも城の者に情報が伝わったら困りますからね
メルディ…わかった。メルディ、お城戻れなくてもいい
メルディ戦争を…兵器開発を止めてくれるならメルディ手伝うよ!
ファラメルディ…本当にいいの?
メルディはいな。メルディ、おカーサンやキールに戦争してもらいたくないよ
ジェイド…わかりました。では話しましょう
ジェイド私達は兵器の研究室に侵入して開発中の兵器を破壊し──
ジェイド開発責任者、キール・ツァイベルを暗殺します
ルドガーなっ…
ファラそんな…!
メルディキ…キールが事…こ、殺す…か?
ピオニーその計画は初耳だが…確かに兵器開発を止めるには一番確実な方法だな
リチャード女王に抜擢されるくらいだ。彼にしか出来ない開発なんだろう。確かに頓挫する可能性はある
リチャードしかし…
ジェイド抵抗があるという事でしたら協力していただく必要はありません
ジェイド事が終わるまで私達の拠点で大人しくしていてもらうだけです
ジェイドただ…暗殺のためには当然、研究室に入ります。となれば、同行したいのでは?
ルドガーエル…!
リチャード戦闘になる事を考えれば僕達も同行してエルさんを保護した方がいいね
ジェイド勿論、可能な限り保護はしますが保証は出来ませんからね
ジェイド例えばその方が人質に取られた時私達がどういう決断をするか…何しろこちらも命がけですから
ルドガーわかりました。俺達も行きます…!
リチャードああ…エルさんを助けよう
ファラ勿論、私も行くよ!でも…
メルディ…メルディも、行くよ!
ファラメルディ…!?
メルディメルディも戦争止めたい。だからキールがとこ一緒に行く!
メルディでも、殺しに行くと違う。メルディ、もう一度キールを説得する!
ファラメルディ…
ジェイド盛り上がっているところ申し訳ありませんが王女殿下の同行は許可出来ません
ジェイド私達は万が一の事があったらあなたの身を切り札として使わせていただくつもりです
ジェイドそのため、危険な場所に王女殿下を連れて行く事は出来ません
ファラそんな…!メルディを道具みたいに!
メルディ…それで戦争止まるならメルディ道具でも構わないよ
メルディだけどその前にキールが説得させてほしい
ジェイドですから、切り札であるあなたを危険な戦いに連れて行くわけにはいかないと言っているんですよ
ピオニーまあまあ、落ち着けよ。メルディの身に何かあったら困るっていうだけなんだろ?
ピオニーそれならルドガー達に守らせたらどうだ?
ピオニー俺達だって国民の一人を殺して平和を作りたいわけじゃないだろ。それは最終手段だ
ファラわたし…やる!メルディの事、守るよ!
ジェイド守りながら戦うというのは相当な能力が必要ですよ
リチャード僕も尽力させてもらうよ。要人の警護はいつも間近で見てきたから、多少心得があるしね
ルドガージェイドさん、メルディは俺達が必ず守ると約束します
ジェイド…みなさんの気持ちはわかりました。では、こうしましょう
チャキッ
ルドガー…!何を…
ジェイドここであなた方の実力を試させてもらいます
ジェイド王女殿下を守りながら私と戦ってみてください
ファラそんな、いきなり…
ジェイド敵はいきなり襲ってくるものです。それも複数で
ジェイド私一人からも守れないのなら王女殿下の同行は認められません
ピオニーよく言うぜ。そこらの雑兵が束になってもおまえほどじゃないだろ
ジェイドどうでしょうねぇ。私も、もう年ですから、そこまでの力はありませんよ
ジェイドさぁ、どうしますか?私はどちらでも構いませんよ
メルディみんな…力貸してくれるか?
ルドガー勿論だ
ルドガージェイドさん、その条件、受けて立ちます
ジェイド心は決まったようですね。それでは、お手並み拝見といきましょうか
scene3すれ違う想い
ジェイドふむ…思ったよりやりますね。王女殿下まで攻撃が届く気がしません
ジェイドこれなら合格と言ってもいいでしょう
ルドガーはぁ、はぁ…ありがとうございます
ファラふぅ、よかった…
リチャードそれにしても、三対一なのにここまで追いつめられるとはね…
ピオニーなっ、強いだろ?
ジェイド何故あなたが誇らしげなんですか…
ジェイド…さて、それでは正式にご協力いただけるという事ですし私達の拠点まで案内しましょう
ピオニーカン・バルクの街中にあるんだったな
ジェイドええ。街中に入ったら警戒を怠らないようにしてください。至るところに兵士がいるはずです
ルドガーわかりました
ルドガー(ごめん、エル。 もう少しだけ、待っててくれ)
迫る時限
キール…ここを…こうして…
カチャカチャ
キール……
メルディメルディ、ウィンドルに行ってもメルディごと撃つか?
キール…何?
メルディメルディ、決めたよ。ウィンドルが王様と結婚する!
キール…別にどうでもいいそんな事は些細な事だ
キールこの術式さえ完成すれば兵器の完成は目前だというのに…
キール長年の研究で培ってきた知識と技術がやっと活かされるんだ…これで…
メルディキール、世界が未来よくするため研究する優しい人!
メルディその研究使った兵器でたくさん人死ぬなんて耐えられないはずよ!
キール…ぼくの、何を知っているというんだ
キールぼくを認めない人達が死んだって…関係ない
キール……くそっ。少し休憩するか…
キールそういえばあの子どもさっきから静かだが…
エルすー…すー…
キール大人しいと思ったら眠っているのか
キール時計は握ったままか。…今なら、慎重にやれば…
コンコン
兵士キール様。よろしいでしょうか
キール…っ!だ、誰だ、こんな時に
ガチャ
シゼル誰だとは挨拶だな
キール陛下…!
シゼル首尾はどうだ?
キール順調です。完成は時間の問題でしょう
シゼルその時間がもうないのだ。ウィンドルに不穏な動きがあるという情報が入って来た
シゼルこうなっては、もはや一刻を争う。完成を急げ
キール…陛下。失礼を承知で申し上げます
キール開発が万が一遅れてメルディが…王女がウインドルに嫁いでこの国から出て行った場合
キールそれでも、兵器をウインドルへ使うのでしょうか
シゼル愚問だな。…メルディに何か言われたか
キール開発は勿論間に合わせますが少し、気になったまでです
シゼル遅れた結果メルディを差し出したとしても研究は続けていく
シゼル他にこの国を存続する手立てはない。私は守らなければならぬのだ。例え尊い犠牲を払おうとも
シゼル…これでよいか。私の決心は揺るがぬ
キール…はい
シゼル兼ねてより約束していたがこの開発が成功したらおまえの望むものをやろう
シゼル地位も、名誉も好きに与える。それこそ本来の研究に戻っても構わぬ
シゼル励めよ
キールはっ
キール…。そうだ。ぼくの望みはこれなんだ
ジェイド何とか、兵士に見つからず辿り着けましたね
ピオニーまさか、酒場の上とはな。昔、カン・バルクにいた頃はよくこの店で飲み明かしたよな
ジェイドあの頃の友人達も私達の仲間ですよ
ルドガーその仲間って何人ぐらいいるんですか?
ジェイド少なく見積もって二百人…ですが、全員が戦えるわけではありません
ファラにひゃ──そんなにたくさん!?
リチャード相当な数ではあるが…ア・ジュールの兵力を考えると足元にも及ばないだろうね
ジェイドええ。ですから正面突破ではなく暗殺という方法を取るわけです
ジェイドそのための計画をここで着々と進めてきました
メルディけどここ、普通の酒場よ。お城が兵士、店に来る事ないか?
ジェイド客には兵士に限らず一般人も来ますが店主が上手く仕切ってくれていますから、問題はありませんよ
ジェイドもっとも作戦の決行が近い今は臨時休業にしていただいてますが
ルドガー作戦の決行って、いつなんですか?
ジェイドピオニー殿下を救出次第でしたので…今から準備を整えて、出発は明朝ですね
ルドガーそんなに早く…!
リチャードしかし今日あんな事があった後では警戒されているのではないですか?
ジェイドはい。ですが、時間が経てば警戒が解けるというものでもありません
ジェイド何せ戦争の準備をしている国です。警戒はどんどん強まる事でしょう
リチャード確かに…。それなら急いだ方が虚を衝ける可能性があるか…
ファラそっか。さすがにすぐ戻ってくるとは思わないもんね
ジェイドええ。それに…もう時間がないかもしれないんです
ピオニーまさか、戦争が始まるのか?
ジェイド情報を集めてくれている仲間達からウィンドルに不穏な動きがあると連絡がありました
ジェイドおそらくその情報はシゼル女王の耳にも入っているでしょう
メルディどうしよう…。おカーサン、完成したらすぐ兵器使うかもしれない
メルディ先制攻撃で兵器の威力を知らせる言ってたよ…
ジェイド…まさに一刻を争う状況ですね
ジェイド準備があるため出発は早められませんが正直もどかしいですよ
メルディおカーサン…お願いな…早まらないでほしいよ…
ファラメルディ…。大丈夫だよ。きっとみんなで止められるから…
ジェイドさて、作戦を説明しようと思いますがその前にいくつか質問させてください
ルドガー何ですか?
ジェイド門番が話しているのを聞きました。あなた方は「何の前触れもなく突然空から現れた」と
ジェイドこの国の情勢についてもあまり詳しくないようですし…あなた方は一体何者なのですか?
ルドガーそれは…
リチャードルドガー。彼らには正直に話すべきじゃないかな
リチャードエルさんを助けた後に元の世界へ戻るためには協力者がいた方がいい
ピオニー元の世界って?
ルドガー実は…俺達は、この世界とは別の世界から来たんです
ジェイド…にわかには信じがたい話ですが冗談を言っているわけではなさそうですね
ジェイドそれに気になる事もあります…。もう少し詳しく、あなた方の事を聞かせてもらえますか?
ルドガーわかりました
ジェイド──成程。あなた方がこちらの世界に来た経緯はある程度理解しました
ジェイドこれで証明されましたね…キール・ツァイベルは優秀な学者なのだと
ファラ…?どういう事?
ピオニー女王がどういう兵器を作っているか調べるために、開発責任者の研究を調べたんだ
ピオニー専門はマナの革新的な技術応用。そこから発展して、今研究しているのは──
ピオニーこことは別の世界…分史世界の存在についてだ
ルドガー何だって…!
メルディメルディもよく話聞いてたから知ってるよ
メルディキール、世界が研究してたけど誰も信じてくれなかったな
ジェイド学者の中では嘲笑の的だったと聞いています
ジェイド私も論文を読みました。理屈は通っていますが、仮説も多く机上の空論だと思っていました
ジェイドしかし正しいのは彼の方だった…。つまり、彼の学者としての能力は世界中の学者を凌駕しているんです
ファラキールって、そんなにすごいんだ
リチャードしかしその頭脳が今、兵器開発に向けられている…
ジェイドええ。元々由々しき事態ではありましたが思っていた以上にマズい状況ですね
ジェイドそれほどの頭脳があれば我々の想像を超えた恐ろしい兵器の可能性があります
ジェイド──例えば、魔導器とか
ピオニー魔導器?まさか。あれは実現不可能な都市伝説だって話だろ?
メルディでもエル、兵器が事見て魔導器って言ってたよ
ジェイド…という事は、あなた方の世界では実在しているのですか?
ルドガーはい。俺達の世界では戦争で魔導器が使われていました
ルドガーエルはその時、実際に魔導器を見た事があって…
リチャードイニル街の魔導器か…
ジェイドでは、あなた方は魔導器の効果や対策についてもご存知ですか?
リチャード対策は、本体から魔核を取り出すなど直接の破壊が有効です
リチャード効果については、魔導器にもいろいろあるので断定は出来ません
ジェイド…それなら、こんな魔導器を聞いた事はありますか?
ジェイド周囲のマナを吸い尽くし、生命が存在出来ない土地にする兵器…
リチャード…あり得ると思います
リチャード魔導器の動力源はマナです。僕達の世界でも、命を吸い上げると言われた事がありました
ジェイドそうですか…。…出来れば、不可能であってほしかったのですが…
メルディ……
ジェイド我々が掴んだ情報では、そのような効力があるそうです。それも、街一つが一瞬で枯れると…
ジェイドその情報を聞いた時、さすがに偽の情報を掴まされたのだと思いましたよ
ジェイド理論上は可能ですが、実用化は不可能な技術で現実的ではありません
ジェイドしかし…彼がそれ相応の頭脳を持っていると知った今、考えは変わりました
ピオニー使い方を誤ると世界が滅ぶ危険性すらあるな。絶対に阻止しないと
メルディ…キール…どうしてそんな怖いもの作れるか…?
ジェイド…負の因子の影響、という事は考えられませんか?
ルドガー負の因子…!
ジェイドさっきあなた方の話を聞いてから気になっていたのです
ジェイドそれに憑りつかれた人は普段と様子が違ったのですよね?
ルドガーはい。必ずそうなるかどうかはわかりませんが…
ジェイドならば、シゼル女王か、キールに憑りついた可能性は十分ありますね
ルドガー確かに…!もしそうだったら負の因子を破壊すれば解決するかも知れません
ピオニー因子を破壊すれば元の人格に戻るか…
ピオニー憑りついてるのがセルディクだったら話が早かったかもなぁ
リチャードそうですね…でもセルディクは僕達の世界でも好戦的な性格の人物でした
リチャードもし王になっていたら、こういう状況になる可能性は十分あり得ます
ジェイド興味本位で聞きますがそちらの世界ではウィンドルの王はどんな方なのですか?
リチャード僭越ながら僕が務めています
ジェイドなるほど…道理で。品格のある方だとは思っていましたが国王陛下だったとは…
ピオニーリチャード…そういえば聞いた事あるな
ピオニー確かウィンドルの王子だったが幼い頃に病死したとか
ルドガー病死…。それでこっちの世界ではリチャードが王じゃないのか
ファラ誰も気付かなかったのは大人のリチャードを知ってる人がいなかったからなんだね
リチャード…なるほど、病死…か
ファラリチャード…大丈夫?
リチャードああ。少し驚いたけど、平気だよ
リチャード負の因子の話に戻ろう。僕達が元の世界に戻るために必要なものだ
ピオニーと言っても、誰についてるかわからないんだろ?
ルドガー確かに…手がかりは少ないですね
リチャードもし見つからなかった場合、他に元の世界に戻る方法はないのかい?
ルドガーいや、実は戻るだけなら他にも手はあるんだ
ルドガー異変の前までは元の世界に戻るために時歪の因子(タイムファクター)というものを壊していた
ファラあっ、前にわたしとルークが分史世界に迷い込んだ時に倒した黒いモヤの魔物…
ルドガーああ。あの時は魔物だったけど…人間に憑りついている事の方が多いかな
ルドガー時歪の因子は…その世界を作っている中核なんだ
ルドガー憑りつかれた者は俺達のような骸殻能力を持つ者が近づくと黒いモヤを出し始める
ルドガーそして骸殻の力を使って時歪の因子を破壊すると……その…元の世界に戻れるんだ
リチャードなるほど…。異変の原因と思われる負の因子を見つける方が理想的だがその方法も検討するべきだね
ファラ勿論、エルを助けてからね
ルドガーああ。とにかく今は、エルを助ける事とキールを止める事に専念しよう
ジェイドいやー、皆さんの方針が定まったようでよかったですね
ルドガーあ、すみません。俺達の話ばかりしてしまって…
ジェイドいえいえ。私としても、皆さんの行動目的を把握出来ましたので有意義でしたよ
ジェイドそれでは、改めて突入作戦の打ち合わせと行きましょう
ピオニーその後は、朝まで自由行動だ。寝床は用意させてるから今日の疲れをゆっくり癒してくれ
ルドガーありがとうございます
決意の夜
ピオニーここで呑むのは久しぶりだな。たまにこの店の味が恋しくなるんだ
リチャード今日は臨時休業と言っていましたがいいんですか?
ジェイドええ、作戦決行に備えて士気を上げるためにと、店主が厚意でやってくれているんです
ルドガーじゃあ、ここにいる人達はみんな仲間なんですね。俺達がいていいのかな…
ジェイドあなた方や王女殿下の事も協力者として説明してありますから気にする必要はありませんよ
ピオニーその王女はふらふらとどっか行っちまったけどな
リチャード作戦の説明を聞いて思い詰めていたようだね…
ルドガー無理もないな。キールを確実に殺すための計画を聞かされたら…
ジェイドだからといって作戦の説明を曖昧にする事は出来ません。あれでも表現には配慮したんですよ
ピオニーそれはメルディもわかっているさ
ピオニー今は考えを整理したいんだろう。ほんの数時間の間にいろいろありすぎたからな
リチャードそうですね。ファラさんがついてくれていますから彼女に任せましょう
ジェイド念のため我々の仲間にも護衛させてますから問題はないでしょう
ピオニーそれじゃ、男だけでむさくるしいがこっちはこっちで男同士楽しく食事でもするか!
ルドガー…いいんでしょうか。仲間が悩んでるのに楽しく食事なんて…
ピオニー気持ちはわかるが、ずっと張り詰めたままじゃ身が持たないぞ
リチャードそうだね。ルドガーはこの世界に来てからどこか気負っているように感じる
ルドガー…そうか?エルの事があるからかな…
リチャード僕も最初はそう思った。けど、それだけじゃないように感じてね
リチャード分史世界に詳しいから、僕達に対してまで責任を感じているんじゃないかい?
ルドガーそう…なのかな。確かに、みんなを元の世界に連れて帰らないとって思っていたけど
リチャード君の気持ちは嬉しいが、少し気を休めた方がいい
リチャード前に、感情に流されずやるべき事を見極めるという話をしただろう?
リチャード今は力を抜いて、明日に備える時だ。焦る気持ちを抑えてね
ルドガー…そうだな
ピオニーいいとこ取られたな、ジェイド
ルドガーえっ…?
リチャードふふ、実は、君の緊張に気付いて休ませた方がいいと教えてくれたのはジェイドさんなんだよ
ジェイド手合わせした時に、あなたの太刀筋から何となく感じただけですよ
ジェイド少し肩の力を抜けば、もっと強くなる…とね
ルドガーはは、あんなに強いジェイドさんにそう言ってもらえると嬉しいですね
ピオニーさぁ、もういいだろう。ここからは戦いの事を忘れてのんびり食事しようぜ
ルドガーはい!
店主お待たせしましたー!
ピオニー来たな。これがこの店の看板料理だ。ほら、食べてみろ
ルドガーそれじゃあ…
ルドガー…!
ピオニーどうだ?旨いだろ?
ルドガーはい。濃厚な魚介の旨味がぎゅっと詰まったスープですね。これ、どうやって作ってるんだろう
店主ははは、それは企業秘密です。しかし喜んでもらえてよかった
店主それと、ジェイドの旦那はいつもの入れておきましたぜ
ジェイドありがとうございます
ルドガー豆腐入りですか?確かに、このスープに合うかも
ジェイドおや、わかってくださいますか。店主、彼にも豆腐入りをお願いします
ルドガーえっ、いや、そんなつもりじゃ…
ジェイドまぁまぁ、遠慮なさらずに
ピオニールドガー、すっかり懐かれちまったな
ジェイド酷いですね。ペットのように言わないでください
逆徒の男お食事中失礼します。ジェイド様、例の件について報告書をまとめました
ジェイドありがとうございます。仕事が早いですね
逆徒の男いえ。セルディクに関しては前々から情報を集めていましたから
ジェイドなるほど。あなたも休んでください
逆徒の男はい。失礼します
リチャードもう調べていてくれたんですね
ジェイド…。あなたの推理は的中していたようです
リチャード…素直に喜んでいいのか、複雑な気持ちだな…
ピオニーいい知らせなのか?それとも悪い知らせなのか?
ジェイドそうですね。場合によっては、王女殿下よりもずっと強い切り札になる情報です
ピオニーもったいぶってないで内容を教えろよ
ジェイドそうしたいのは山々なんですが今は楽しい食事中ですので…
ピオニーそういう皮肉が出るあたり相当いい知らせなんだろ。いいから、さっさと言え
ジェイド承知いたしました。いい知らせ…といっても楽しい話ではないのでご承知ください
ジェイドこれは、とある高貴な方が、セルディクに殺された…という話です
ルドガーなっ…!
メルディ……
メルディキール…
ファラ…メルディ、大丈夫?
メルディファラ…!ついて来てたか?
ファラごめんね。何だか心配で…
メルディ…誰かついてきてる思ってたけどジェイドがつけた見張りと思ってたよ
ファラ見張りの人も後ろにいるみたい。夜は危ないから心強いけど…
メルディ無理ないな。メルディ、逃げ出したらみんな困るよぅ
メルディそれに、少しは思ったよ。先にキールがとこ行って話した方がキールは安全かもしれないって…
メルディでも、そうしたら…今度はピオニー達が危ないな
メルディみんな捕まったら今度こそ処刑されちゃう…
メルディメルディ、キールが事、大切。だけど、みんなが事も大切
メルディだから…明日、みんなと一緒にキールがとこ行って、説得するよ
ファラメルディ…。ありがとう。わたし達の事まで心配してくれてたんだね
メルディファラ達、友達。心配するが当たり前!だから決心、揺るがないよ
メルディただ…メルディ、明日キールに上手く話せるか…不安な
ファラそうだよね…わたしにも手伝える事があればいいんだけど…
メルディありがとな。でもキール、メルディが友達だからメルディお話頑張るよ
ファラ…実はね、わたし達の世界のキールとは幼なじみなんだ
メルディバイバ!ファラ達が世界にもキールいるか?
ファラうん。メルディもいるよ。わたし達、友達なんだ
ファラメルディは王女様じゃなくてわたし達と一緒に冒険したりしてたんだよ
メルディ冒険!みんな一緒にか?キールも、ファラも?
ファラうん。もう一人リッドっていう幼なじみも一緒に旅をしてたんだ
メルディファラの世界ではみんな…キールもメルディも仲良しなんだな
ファラうん…
ファラ…わたし達の世界のキールはメルディが嫌な目に遭う夢を見たっていうだけで大慌てだったんだ
メルディ夢だけでか?…おかしなキールだな
ファラ勉強ばかりのキールをわたし達が振り回してたくらいなのに
ファラメルディの事になるとわたし達の事を逆に振り回すくらいなんだよ
メルディ…ファラ、その話、もっと聞かせてほしいよ
ファラうん。ある日、キールが突然わたし達のところに来て──
ファラ…と、いうわけなの
メルディ違う世界のキールの話なのにメルディが大切にされたみたいで嬉しいな
ファラそう思えるって事はここのキールだって大切に思ってくれてた時があったんじゃない?
ファラ今はきっと、研究とか戦争とかメルディが結婚を迫られてるとかいろいろあって大変なだけだよ
メルディ…うん。メルディ、覚えてるよ。キールと過ごしてた時間
メルディキールが研究、最初は世界の未来がためって言ってた
メルディこの世界が人々、生き続けさせるため必要な研究って
メルディキールがそのため、すっごく頑張ってた事は知ってる
メルディそれに…キール、研究でとても忙しいはずなのにこの花畑に連れて来てくれたよ
ファラここに?…そっか、だからメルディ、ここで考え事してたんだね
メルディはいな。ここの花はマナが影響受けて色を変える…
メルディマナ、生き物にとってどれほど大事かわかる場所ってキール言ってたよ
メルディなのにキールが兵器、そのマナを吸い取って生き物殺すなんて…
ファラ明日、説得できたらキールと二人でまたここに来たらいいよ!
ファラそうすればきっとキールもあの時の気持ち、思い出すんじゃないかな
メルディそれは、多分…出来ないな
ファラどうして…?
メルディキールに研究止めてほしくて、メルディ、ウィンドル王に嫁ぐって言ったよ
メルディメルディが話、聞いてくれなくてキールにきらい、言っちゃったよ
ファラそっか…ケンカ、しちゃったんだね
メルディうん…それに、キールを説得出来ても戦争しないためメルディお嫁行く
メルディだから、もうきっとここにキールとは来れない
ファラそんな事…。また二人で来られるようにわたし達も協力するよ!
メルディありがとな。でも、メルディキールともうここに来れなくてもいい
メルディメルディ嫌われても、キール無事、みんなも無事。だったらメルディ、平気だよぅ
メルディメルディが大事な人誰も傷つかないのがメルディ、一番嬉しい
ファラ…。でも、それじゃメルディが…
メルディメルディ、夜にここに来たの初めてマナの光が空に昇ってお星さまに生まれ変わってるみたい…
メルディ…ファラ。この綺麗な星空。メルディが代わりにキールに教えてあげてほしいよ
ファラそんなの、駄目だよ…絶対、二人は大丈夫だから。そんな顔しないで、メルディ…
メルディありがとな。ファラ…
騎士王の間の封鎖は完了しました。これより先はフレン隊長の指示があるまで外で待機します
キールありがとうございます
キールさあ、陛下の行方を追う手段がないか改めて探るぞ
リッド探すったって…何の手掛かりも残ってないんだぜ
メルディルドガーもエルも消えちゃったしな…
キールだからと言って諦めるわけにはいかないだろう
キールいつまでもリチャード陛下の事を隠し通せるわけじゃない。早くしないと…
キールっ…
メルディキール?どうかしたか?
キール…少し眩暈がしただけだ。心配するな
リッド少し休んだ方がいいんじゃねえか?ここに来るまでずっと歩き通しだったし
メルディメルディ、リッドと一緒に部屋の中調べるよ!その間、キール休むといいな
キール…わかった
リッドよし。俺達はあっちの方を調べてるから、何かあったら呼べよ
キール…全く、ぼくは子どもじゃないんだぞ
キール……
scene1陽動作戦と包囲網
キィ──…バタン
キール…試験運転も上手くいった。これでようやく──
???戻ったか
キール…!何だ、おまえか
???研究は順調か?
キールああ。小型の試作機で実験をして来たが、上手く動作した。兵器の完成は目前だ
???…私が聞いているのはその研究の事ではない
キール……。分史の研究は保留中だ。兵器が完成次第、再開する
???そうか
キール…ところで、どうやってここに入り込んだ?
キールこの部屋の警備は厳重だ。国家機密を扱っている上、保護している研究対象もいるからな
キール…何かの術か?だとしたら対策を打っておかねば…
???心配するな。私以外が使える方法ではない
キールそういう問題じゃない。…答える気はなさそうだな
???…その研究対象の様子はどうだ。今は眠っているようだが
キールああ。静かにしているが…眠っていても時計だけは放そうとしない
キールこの子どもを傷つけるなと言われてさえいなければ楽だったんだが…
???…真の価値は時計ではなくその娘にある
キールわかっているさ。でも、いよいよとなれば多少の怪我は目を瞑ってもらうぞ
???…………
キールそれにしてもおまえは一体、何者なんだ?どうしてそんな事まで知っている
キールぼくに分史世界の知識を与えただけでなくクルスニク一族の力にも詳しいときた
キール正体を明かすつもりはないだろうが何が目的かぐらいは知っておきたい
???おまえは知る必要のない事だ。そんな事より今は時間がないのだろう?
キール…それはそうだが…
エルう…ん…
???…!
エルあれ…?寝ちゃってた…
キール何だ、起きたのか
エル今…誰かと話してた?
キール…いや
キール(もう姿を消したか… どういう事情か知らないが こいつに何かあるのは間違いない…)
キール(真の価値…か。 まだぼくの知らない何かが 隠されてるようだな…)
兵士1異常はないか?
兵士2はっ。問題ありません
兵士1警戒は怠るな。またいつ逆徒共が入り込むとも──
パンッパンパンッ
兵士1っ、何事だ!?
兵士2あれは…!街の方から煙が上がっています!
兵士3た、大変です!ウィンドルが攻めて来ました!
兵士1何!?くっ…こうしてはおれん!
兵士1私は女王陛下へ報告に行く!お前はすぐに動ける兵を集めて街へ向かえ!
兵士2はっ!
兵士1お前は待機中の兵を率いて街の外にある門を閉じよ!これ以上、敵の進軍を許すな!
兵士3承知いたしました!
タッタッタ…
ジェイド始まりましたね。兵も動き始めたようですから、隙を見て侵入を開始します
ピオニー街を巻き込んだ大規模な陽動作戦はやり直しがきかない。正真正銘、最後の決戦だな
ジェイドええ、もう後には引けません。私達はこの作戦の成否に全てを賭けています
ジェイド決行前に、作戦を再確認しておきましょう
ジェイドまず、さっきの音と煙に加え、街ではウィンドル軍が攻めてきたと仲間達が吹聴してまわっています
ジェイド城の兵士達はこれに対応するため大半が街に出払う。それが今の状況です
ジェイドこの隙に仲間達が城の正門を占拠します。これで出ていった兵士達は戻れません
ジェイドさらに、城内に残った兵力も正門の対応にまわるでしょう。その隙に我々が裏から侵入します
ジェイドそして素早く研究室に向かい、兵器を破壊して、キールに開発を止めさせれば作戦完了です
ルドガー正門の占拠もいつまでもつか、わからないしな…時間との勝負だ
ジェイドええ。…さて、そろそろ──
ドォン!
リチャード正門で戦闘が始まったようですね
ジェイド我々も侵入を始めましょう
ファラはいっ。行こう、メルディ
メルディ…はいな
クィッキークィィ…
scene2陽動作戦と包囲網
ピオニーここまでは問題なさそうだな。作戦通り、警備も手薄になっているようだ
ジェイド喜ぶのはまだ早いですよ。油断せず、このまま研究室に向かいましょう
ルドガー今行くからな、エル…
???止まれ
ピオニー…!まさか、あなたが直々にお出ましとは
メルディおカーサン!
シゼル…やはり騒ぎの元凶はおまえ達だったか
ザッザッザッ
ファラ囲まれた…!
リチャードまるで僕達がここに来るのがわかっていたみたいだ
ジェイド…陽動が見破られていたようですね。それなら我々の目的が城内にあると推測するのは容易でしょう
ジェイドしかし、侵入経路まで特定し女王陛下自らが兵を率いて待ち構えているとは、予想外でした
クィッキークィィ…
シゼルここから先へは進ませぬ。勿論、おまえもだメルディ
メルディおカーサン、聞いて!兵器使うの、絶対ダメ!
シゼル…逆徒共に何を吹き込まれたのかは知らぬが…
シゼルあの兵器は我々に必要な物だ。強い力がなければ我が国と民を守る事は出来ぬ
リチャードそれは違います。強い力は、さらに強い力を呼ぶ…その先に待っているのは破滅だけです
リチャードあなたは民を想える王妃だ
リチャード叶うのであれば戦争をせず解決する事をお望みではないのですか?
シゼル黙れ。戯言を。おまえ達の言葉に耳を貸すつもりはない
メルディおカーサン、お願いよ…メルディ達が話聞いてほしい!
シゼルくどい。──こやつらを拘束しろ
シゼルメルディもろともだ
兵士3はっ!
メルディ…っ
ジェイド…想定していた中で最悪から二番目の展開ですね
ピオニーおまえが想定してたならまだ大丈夫そうだな。ちなみに最悪ってどんな状況だ?
ジェイド戦う間もなく奇襲で全滅する事です
ピオニー抗えるだけマシって事か…それじゃ、ひとまず周りの奴らを大人しくさせないとな
ファラ…メルディ、大丈夫?
メルディ…はいな。メルディ、みんなと一緒に戦う
メルディおカーサンとキールが事、絶対止めてみせる!
scene1曇天穿つ
ルドガーはあっ!
ザシュッ
兵士くっ…申し訳…ございません…
ドサッ
シゼル…ほう。我が軍の精鋭達がこうも容易く倒されるとはな
シゼル……情けない事だ
ルドガー容易くだって?こっちもギリギリだったさ
ジェイドですが、形勢逆転です。あとはあなただけですよ、女王陛下
シゼルだから何だと言うのだ。私が生きている限り兵器開発は諦めぬぞ
メルディやめて!おカーサン、みんなで他の道、探すんだよ!
シゼルその議論は終わった。今はウィンドルを凌ぐ強い力こそが我が国に安寧をもたらすのだ
ジェイドそれはどうでしょう国内の反乱分子に刃を向けられている今の状況をどうお考えですか?
シゼル…私がここで果てようが武力を持って目的を成そうとしているのは今のおまえ達も同じ…
シゼルウィンドルからこの国を守るにはもはや力を得る以外方法がないのだ。おまえ達の言葉は偽善でしかない
ジェイド同じで結構です。しかしそれだと、矛盾していませんか
シゼル何だと…?
ジェイド我々を「同じ」と言うのであれば兵器でウィンドルを追い詰めてもあなたの要望は通らないのでは?
ピオニー追い詰められてもこっちの話を聞く気にまだならないみたいだしな
シゼルふ、そのような詭弁は私を追い詰めてから言うのだな!
ファラまだ戦うつもりなの…!
シゼル兵器の開発を止めたとてウィンドルはこの国を支配するだろう
シゼルそれは、メルディが嫁いでも同じ事
シゼルア・ジュールは戦い続けるあの男に、私の愛しいものを傷つけさせてなるものか
メルディメルディ、イヤだよ!キールが研究でたくさん人死ぬ…おカーサンの号令で人が死ぬ
メルディそんなのメルディは絶対にイヤ!
シゼル子どものわがままだな。私達は王族なのだ個人の感情は持ち出すなと言ったはず
メルディわがままなのはわかってる。メルディ一人で、解決できないのも…
メルディでも、ここには助けてくれる人がいる!
メルディメルディ、子どもで、わがままでお嫁に行くくらいしかア・ジュールの役に立てないけど…
メルディおカーサン、一人で悩まないで!みんな、ア・ジュールのため一緒に考えてくれるから
シゼル…メルディそこの者共に、唆されているのだな
シゼル愚かなる逆徒共よ我が娘を誑かした罪この私自らの手で罰を下してやろう
リチャード話し合う事は出来ないのか…
ジェイド今は何を言っても無駄でしょう。まずは頭を冷やしていただきます
メルディ…………
クィッキークィック…
ルドガーメルディ、無理はしなくていい。ここは俺達で…
メルディ…心配いらないメルディ、戦える!
メルディ決めてたよ。おカーサンやキールと戦う事なっても絶対に諦めないって
ファラメルディ…
シゼルその覚悟、口だけとは言わせんぞ。国を背負う者の責任の重さ、その身に刻み込んでくれよう!
メルディいくよ、おカーサン…!
scene2曇天穿つ
シゼルくっ!
ジェイドどうやらここまでのようですね。道を開けてもらいましょう
シゼルまだだ…!
シゼルこの身がどうなろうとおまえ達を通すわけにはいかぬ…!
ファラどうしてそこまで…
シゼルこの国を…あの暴君…セルディクごときに支配させてなるものか!
ジェイド…なるほど。では、支配されないのであれば問題ないですね?
シゼル世迷い言を…
ジェイド我々が手に入れた情報を使えばセルディクを黙らせる事が出来ますよ
シゼルセルディクを黙らせるだと…?そのようなもの…
ジェイド信じるかどうかは話を聞いてからご判断いただければいいでしょう
メルディおカーサン…ジェイドの話、聞いてほしいよ
シゼル…申してみよ
ジェイドセルディクには後ろ暗い過去があります。四大国の中で立場を失うほどの、ね
シゼルああ、それなら私も入念に調べた。だが黒い噂は絶えないものの決定的な証拠は何一つ見つからぬ
ジェイド我々も最初はそうでした。しかし、ここに…この世界では誰も知り得ない事を知る人物がいるのです
シゼルこの世界では…だと?
ジェイドでは、後の説明はお願いしますよ、リチャード「様」
リチャードはい
シゼルその者が、一体、何だと──
シゼル──いや、リチャード…確かウィンドルの病死した王子の名だったか
リチャードその通りです。僕はこことは違う世界でウィンドルを治めている者です
シゼルこことは違う世界…キールの提唱する分史世界から来たというのか…
リチャード結論から言いましょう。この世界のリチャードはセルディクに暗殺されています
リチャード病死というのは、セルディクが自分の悪事を隠すために流した嘘の情報…
リチャードしかし事実は、王である父と共に毒を盛られて死んでいたのです
リチャード僕達の世界のセルディクも同じ企てをしていました。幸いにも失敗に終わりましたが…
シゼル…この世界でもセルディクを疑う者はいたが、何の証拠も出てこなかったと記憶している
シゼルそちらの世界ではどのように発覚した?
リチャード以前、僕が動けなくなった時にセルディクが実権を握り、暴走した事があったんです
ルドガーああ…世界が晶化現象に包まれてリチャードが晶化してしまった時か
ルドガーセルディクが結成した「赤の騎士団」には、みんな酷い目にあわされた…
リチャード本当に迷惑をかけたね…
リチャード…全てが解決して「赤の騎士団」を解体した後、僕はセルディクが他に何か企んでいなかったか調べたんだ
リチャードその中で、わかった。彼にはかつて、僕を暗殺する計画があったという事がね
ジェイドもうおわかりですね。調査の結果、この世界でも同じ暗殺計画は進められていました
ジェイドそして…この世界ではセルディクの思い通りに事が進んでいたのです
シゼル…その話が本当だとして、証拠は掴めているのだろうな?
ジェイドいただいた情報のお蔭ですんなりと。あちらの世界と全く同じ計画だったのは幸いでした
ジェイド使われた毒、利用された者達、毒の入手経路や、根回しの手段など外堀を埋める情報は揃っています
ジェイドこれだけ揃っていれば言い逃れは出来ませんよ
ピオニーそれに俺なら、この報告書を使ってシルヴァラントとキムラスカを味方に付ける自信があるぜ
ピオニー隠居していようと思っていたがこの国の危機なんだ。協力させてくれ
シゼル……確かに。それらの国を敵に回して戦おうとは思わぬか…
メルディおカーサン!これなら戦争しなくても国を守れるな!
シゼルこの話が真実なら奴を失脚させるには十分であろう
メルディそれじゃ、おカーサン!
シゼル兵器を使って戦うよりも確実で犠牲も出さずに済むというなら…その策に乗る価値はあろう
シゼル……だが、これからも国を守るために兵器を持つ事に価値がないとはいえぬ
ルドガーっ!?
シゼル──が、兵器開発を中止しなければその男は私に情報はくれまい
ジェイド勿論です
シゼル……兵器開発は中止させよう
メルディおカーサン…ありがとう!
ピオニー話はついたな。ここで女王に会えたのは不幸中の幸いだったぜ
ジェイド私達の話を信じていただけなければ、終わりでしたから
ファラメルディの気持ちが伝わったんだよ信じてもらえてよかった!
ジェイド皆さんの頑張りで話を聞いていただける状態になりましたしね
メルディお蔭でみんな助かった!ありがとな!
シゼル喜ぶのはまだ早い。まずは急ぎこの内乱を止めなければ
シゼル私はウィンドルと戦争になる前に会談を申し込む。ピオニー他国への根回しは頼んだぞ
ピオニー任せてくれ
リチャード会談は可能でしたらウィンドルのデールを同席させてください
リチャード僕の世界のデールと同じなら、セルディクを上手く抑え込んでくれるかもしれません
シゼルわかった、要請してみよう
シゼルメルディ、私は急がねばならない。兵器開発の中止をおまえから伝えてくれるか
シゼル後で正式に命令書を届けさせるが急ぎ伝えた方がよいだろうからな
メルディはいな!キールに全部説明するよ
ルドガーこれで兵器開発は止まるとして…あとはエルだ
メルディきっと、だいじょぶ!兵器開発なくなったらエルが事も解放してくれる!
メルディみんなで一緒にキールがとこ行こ!
ジェイド私も同行しますよ。兵器開発の中止を見届けるまでが任務ですので
メルディはいな!ジェイド達納得してくれる事も大事だからな
ピオニーよし、こっちは作戦終了の伝達とこの国を守るための準備を進めてくるぜ
ピオニーキールにもしっかり伝えろよ。メルディ
メルディはいな!
ルドガーそれじゃあ研究室に行こう!エルも待ってるはずだ
因子のありか
カチャカチャ──
キールよし、完成だ
エル魔導器…ほんとに使うの?絶対、やめた方がいいよ!
キールおまえが自分の世界で見たという魔導器の話か?
エル…うん。街が病気になっちゃうんだよ。さっきも言ったでしょ
キールああ。別世界での実例だから無視出来ない話だったさ
キールだがその問題は既に解決したし、その過程で術式の効率化にも成功した
キール試験運転の結果も上々だったしな
エルシケンウンテン…?もしかして、本当に使っちゃったの!?
キールああ。今朝、街外れの花畑を利用した
キールマナに反応して色を変える花だ。もし失敗しても花の色からその原因を探れると思ったが──
キール試作機を起動したら花畑が一瞬で枯れ果てた。最小出力でもすさまじい効果だ
エルお花が…ひどい…
キール酷いものか。最高の結果だ!生命の根源であるマナを一瞬で奪い取ったんだぞ!
エルお花がかわいそう!何とも思わないの!?
キール別に。兵器開発のためなら花畑ぐらい──…
メルディワイール!お花きれい!
キール気に入ったか?研究の一環で見つけたんだ
キールこの花はマナに反応して色が変わるから、研究でよく使うんだ
メルディじゃあ、キールは研究がためここに来る事たくさんあるか?
キールああ…まぁ、それなりによく来るな
メルディわかった!メルディ、キールに会いたくなったらここで待ってるよ!
キール…毎日来るとは限らないぞ
メルディでもメルディずっと待ってたらいつかキールやってくる。それでいいよ
キールおまえだって、毎日ここに来る時間なんて取れないだろ…
キールぼくに用があるなら研究所に来た方が確実だぞ
メルディ研究所行ったら、メルディ、みんな、王女様扱いするからキールと自由に話せない
メルディここでなら王女なんて関係ない。キールとメルディ、遠慮なく話せるよ
キール…そうだな
キール…………
キール(…どうして今更、こんな事を 思い出すんだ…)
キール(…過去なんてどうだっていい。 大切なのは今だ)
キール(あの花畑は確かに示していた。 ぼくの兵器の性能は想定以上… 一瞬で死の大地を作り出せる)
キール(これでぼくは… 目的に一歩近づいた。 全ての邪魔者を…排除してやる!)
エル……
キールこんな事してる場合じゃない。女王陛下に完成を報告して…早速、ウィンドルに向けて発動を──
バタンッ
兵士失礼します!緊急事態です!
兵士先ほど、逆徒が城内に侵入しました
キール何っ…!兵達は何をしている?
兵士敵の陽動に騙されてしまい出払っており…
兵士女王陛下自らが、残った兵を率いて逆徒共を捕えようとされましたが、状況は劣勢…
兵士私は隊長の指示によりキール様に一刻も早くお伝えするべく戦闘を抜け出して参りました
キール陛下自らだと?…逆徒共の目的は何だ
兵士情報によると──兵器の破壊と、キール様の暗殺だとか
キール…ぼくの命を狙うか。ならば返り討ちにするまで!
キール報告ご苦労だった。おまえは戻って女王陛下の加勢に向かえ
兵士はっ!
バタン
エル…戦うの?
キールああ。おまえは安全なところで大人しくしていろ
キール大事な研究対象だ。もしもの事があったら──
コンコン
メルディキール、いるか?
キールメルディか。おまえもここに匿ってやる。入れ
ガチャ──
キール──なっ!
ジェイド失礼しますよ
エルルドガー!
ルドガーエル!無事だったか!?
キール待て!
エルうぅっ、ルドガー…!
ルドガーエル…!
メルディキール、何する!乱暴やめて!
キールうるさい!メルディ…おまえ…逆徒共と手を組んだのか
キールそいつらは、ぼくの事を殺そうとしてるんだぞ。わかっているのか?
メルディ違うよ!
キール何が違うんだ!そうか、メルディ…戦争を止めたいと言っていたな
キールぼくを殺すつもりだったのか…そのために逆徒共をここまで引き入れたのか!
メルディ違う!キール、話聞いて!誰もキールが事、殺さないよ!
キール…逆徒と組んでいる事は否定しないんだな
メルディそれは…
キールぼくの気持ちも知らないでおまえは…!ぼくはおまえのために…!
ファラえっ…!黒いモヤ!?ねぇ、あれって…
ルドガー負の因子だ…!キールに憑りついていたのか!
キールやはりこれが気になるか。だからぼくを殺そうというんだな!
メルディキール、違うよ!どう言えばわかってくれる?
ジェイド私が端的に説明しましょう。よろしいですか、王女殿下?
メルディうん…ごめんな
ジェイドルドガー。話の間、あの子に下手に動かないよう伝えてもらえますか
ルドガーああ。エル、聞こえたな。少し辛抱してくれ
エル…うん
ジェイドさて、本題に入りましょう
ジェイドあなたの言う通り、我々は逆徒と呼ばれる集団で、あなたを暗殺する事も考えていました
ジェイドしかしもう、その必要がありません。シゼル女王は兵器開発の中止を決定したからです
キール何…?
メルディメルディ達はその事、伝えに来ただけよ
キールそんな言葉を信じろと言うのか?
ジェイド事実でなければ女王陛下が私達をここまで通すとお思いですか?
キール……
ジェイドまぁ、そう簡単には納得出来ないでしょう。ですので、順を追って説明します
キール…なるほど。セルディクが失脚すれば戦争をする必要はなくなる…か
メルディおカーサンは今、その話をしに動き回ってるよ
メルディだから兵器はもういらない!戦う必要もない!エルも解放してほしいよ
キール…駄目だ
メルディキール…!
キールメルディ…。上手く言いくるめられたものだな
メルディ信じてくれないか?
キールセルディクの件は信じてもいい。兵器も、もういらないのかもしれない
キールだが、そいつらの事を信じるかどうかは別の話だ
キール妙だと思わなかったのか?どうして別の世界から来たやつらがそこまで力を貸すのか
メルディルドガー達が事か…?
ルドガーそんな…俺達はただ目の前で困ってる人を放っておけなかっただけだ
ファラそうだよ!それにメルディはわたし達を助けてくれたもん
リチャードそれに、別の世界とはいえウィンドルが関係している事を見過ごせなかったからね
ルドガーこの世界に来たのだって偶然なんだ。他意はないよ
キール…本当にそういう理由ならそれでいい
キールいい奴らなんだろう。メルディが信用するだけの事はある
キールだから、残念だ
キール…ルドガー!ぼくは、おまえを殺す!
ルドガー何だって…!?
メルディキール、どうして!?
ジェイド…もしや、これが負の因子というものの影響なのですか?
リチャード詳しくはわかりませんが…それだけではルドガーを名指しする理由がないと思います
キールとぼけても無駄だぞ。おまえ達、クルスニク一族が分史に来た目的はわかっているんだ
キール殺す…殺さなければ…ここで…絶対に…殺す…殺すんだ…殺してやる…!
メルディキール…
エルルドガー…
ルドガー…………
ルドガー事情はわからないが、キールは俺に用があるんだろ?ならエルは放してくれないか
キール残念だが、それは出来ない。こいつにはまだ用があるんだ
キールクルスニク一族の力を研究するために、こいつと時計を手放すわけにいかない
ルドガーどうしてエルなんだ。クルスニク一族を研究したいのなら俺を好きにすればいい
キール……必要なのはこいつであっておまえじゃない
ルドガーエルが必要…?どういう事だ…?
キール答える必要はない。こいつを傷つけたくなければ武器を捨てて、大人しく死んでくれ
チャキ
ファラナイフ…!?そんな、卑怯だよ!
キール手段なんて選んでいられないんだ!
メルディせっかく兵器使わなくてよくなった…人、殺さなくてもよくなったのにどうしてこんな事する!?
キール黙れ。おまえも妙な動きをしたら、こいつはただじゃ済まないぞ
メルディキール…
ジェイド…小型のナイフですが、精密作業にも使える非常に切れ味のいいものです
ジェイドもしもの場合、怪我では済みません。ここは従った方がいいでしょう
ルドガーくっ…
エルルドガー、ダメだよ。エルの事はいいから、戦って!
キールもう遅い!死ね!ブラッディハウリング!
ヴォンッ──
ルドガーしまっ──
メルディ…させない!
キール何っ…!
ドォン!
メルディきゃうっ…!
ドサッ
ルドガーメルディ!
キールくっ…何故だ、メルディ…!
ルドガー大丈夫か…!?すぐに手当てを…
キール…!やめろ、メルディに近づくな!
メルディうぅっ…
メルディルドガー…無事か…?
ルドガーなっ…今のは…!
リチャード黒いモヤ…?負の因子とも少し違うようだが…
ファラ…わたし、これと同じものを見た事があるよ。ルークと一緒に分史に行った時…
ルドガーああ。あの時の魔物と同じだ
ルドガーメルディ…君が時歪の因子だったのか…
メルディ時歪の…因子…?
キール……
キールくっ、うっ…
リッドキール!?どうした!
メルディバイバ!黒いモヤモヤ…ルドガー達言ってた、負の因子か!
キールこ、好都合だ…自分の身体の事なら…いろいろと…調べられる…
キールぐうぅっ…!
ドサッ
リッドキール!無理するな!
メルディ今、治療するよ!じっとしてて!
パアアア…
キールうぅ…
メルディうー、術が力、モヤのせいで散ってしまうよ!
キールメルディ、やめろ…。おまえまで、消耗するぞ…
メルディ嫌!メルディ、諦めない!
メルディモヤにも負けないぐらい、力、出し切る!
パアアア…
リッドエステルや、治療出来るやつに手伝ってもらえねぇか、フレンに頼んでくる!
キール二人共…すまない…
パアアア…
メルディはぁ、はぁ…まだよ…
クィッキークィィ…
キールメルディ…もう…いい。これ以上は、おまえが…
メルディううん。ちょっとずつ、よくなってる。もう少しで、きっと治る!
メルディあとちょっと…頑張る…!メルディ、キール助ける…だから──
フラッ…
クィッキークィィッ!
キールメルディ!危ない!
ガシッ
キール…!何だ、これは…
キール何か…見える…
メルディうぅ…よかったな、キール…メルディ生きてる…誰も殺さず、すんだ…な…
キールくっ…。どうしておまえがぼくの邪魔をするんだ!
キール…今の景色は、一体…。それに、ぼくだけでなくメルディにも黒いモヤが…
メルディキール…?もうだいじょぶだから、手、放していいよぅ
キールあっ…!
キールす、すまない
メルディワイール!キール、元気なったな!よかったよかった!
キールああ、メルディのお蔭だ。ありがとう
キール(しかし…さっき見えたのは 一体何だったんだ…)
scene1因子と骸殻能力者
ファラメルディ、大丈夫!?
メルディはいな…。メルディ死なないよ。キール、人殺しにはさせない…
キール無駄な事を…
キールおまえが時歪の因子だと知られた今、もはや生かしておくという選択肢はなくなったんだぞ
ルドガーキールは、メルディが時歪の因子だと知ってたのか?
キール当然だ。だから封印の術式で時歪の因子を抑えていた
キール骸殻能力者が近づいても気付かれないようにな
ルドガー…そんな事が出来るのか
キール……
パァァ…
メルディ…!
リチャード消えた…。これが封印の術式…
キールもっとも、おまえ達には意味がなかったようだ
キールおまえ達はメルディに時歪の因子が憑りついている事を知っていて近づいたんだろ
キール何せクルスニク一族は──時歪の因子を消すために分史に来ているのだからな
ルドガーなっ…!
リチャード……ルドガー、どういう事だい?
ルドガー…本来、分史世界を出るためには時歪の因子を破壊する必要がある。多分、その事を言っているんだ
ルドガー分史世界に入り込んだ骸殻能力者はまず時歪の因子を壊す事を目指すものだから…
ファラでも、わたし達はそんなつもり──
エルルドガー、危ない!
キールファイアーボール!
バシュッ
ルドガーくっ…!
ヒュン──
キール…避けられたか。おまえさえ余計な事を言わなければ!
エルうぅ…怖い…
メルディやめて、キール!これ以上は、メルディ…許さない!
キールうるさい!邪魔をするならおまえでも容赦しない
キール例えおまえを傷つける事になっても…そいつは必ず殺す!
メルディどうして!そんな事するキール、メルディ嫌いよ!
キール構うもんか。例え嫌われようと…おまえさえ生きていればそれでいい
メルディ……!
ジェイド本気のようですね。負の因子の影響…というのもあるでしょうが
ルドガー待ってくれ!俺達は戦うつもりはないんだ!話を聞いてくれ!
キール無駄だ!ぼくには、おまえを殺す以外の道はないんだ!
リチャードこのままでは危険だ。彼には悪いが、取り押さえる他ないだろうね
キールやってみろ。その前にそいつを殺してみせる!
エルルドガー…
ルドガー…キール。相手になるからエルは安全な場所に避難させてくれ。何かあったらキールも困るんだろう?
キール…いいだろう。後ろの机に行っていろ
キールあいつを殺すまで、そこを動くなよ。おまえも無事では済まなくなるぞ
エルルドガーは、負けないもん!ベーッだ!
ルドガーああ。メルディを悲しませないためにも誰も殺させない!
メルディメルディも、戦う!キールが目を覚まさせる!
クィッキークィッキー!
ジェイドやれやれ。手伝わないわけにはいかなさそうですね
キールぼくの目的はおまえただ一人だ!滅べ、クルスニク!
scene2因子と骸殻能力者
キールぐっ…手こずらせるな…だが…まだ…
メルディもうやめよ。これ以上は、キールが…
キール……メルディ。こっちに来い
メルディキール…?
キール早く来るんだ!
グイッ
メルディバイバ…!?
キールおまえもだ
エルえっ…?うわっ…
ルドガーエル…!メルディ!
ファラ何するの!?
キールこうするんだ!
ピピッ…
ジェイドまずいですね。魔導器が動き始めました
リチャード何だって…!
ファラそんな…!
メルディキール!やめて!
キールもう遅い。間もなくこの周辺は生物の生きられない環境になる
キール助かるのは専用の防御術に入ったぼく達だけだ
キィン…
ジェイドやられましたね。まだあんな高度な術を使う力を残していたとは
メルディキール、魔導器止めて!このままじゃ…みんな死んじゃう!
キール構わないさ。あいつらは勿論、城のみんなを犠牲にしたって構わない
キールおまえが生きていられるのならぼくは世界のすべてを焼き払ってやる!
メルディキール…!
ジェイドもう時間がありません!魔導器を壊せるだけの術を詠唱しますので、援護してください
ルドガーわかりました!
ジェイド天光満つる処我はあり、黄泉の門開く処に汝あり──
キールふん、無駄だ
ジェイド──…何て事です。術に必要なマナが…吸われて…
ファラわ、わたしも…何だか力が抜けていくみたい…
メルディみんな…!
ダッ──
キール待て、メルディ!防御術から出るんじゃない!こっちに戻れ!
メルディキール!殺すなら、メルディごと殺して!
キール何を言っているんだ!正気か!?
メルディ正気じゃないのはキールよ!こんな事、望む人じゃないってメルディ知ってる!
キール魔導器はもう動いている。ここのマナがなくなるまであと数秒だ
キールだから…
メルディ嫌だよ…!メルディ、キールが事、信じてる…最後まで、ずっと…
メルディだから、メルディ、動かない!キールは、きっと…止めてくれるよ!
キールメルディ…!くっ…!
ピピピッ…
シュウゥゥゥ…
リチャード魔導器が…止まった…!
メルディキール!ありがとな。やっぱりキールは、優しい──
キール…何故だ!メルディ…どうして、そうまで…ぼくの邪魔をする
キールぼくは、おまえを守ろうと…なのに…
メルディキール…
キールどうして、ぼくを…!どうして…
キールどうしてぼくに、おまえを傷つけるような事をさせるんだ!
メルディメルディ、キールが事、大好きだからだよ!
キール…!
ファラメルディ…
メルディメルディ、大好きなキールが怖い顔してるの、耐えられない!
メルディ優しいキールに戻ってくれるならメルディ、どうなったって平気!
キールな、何を言ってるんだ。それじゃあ、話があべこべじゃないか
キールぼくは、おまえを守るために全てを費やしたんだぞ!
キールおまえをクルスニク一族から守るため分史の研究に心血を注いできた!どんなに人から嘲笑されてもだ!
キールその上、こんな兵器まで作り上げた!大勢の人を犠牲にする覚悟もした!
キールそれを…全部否定するのか!
キールぼくがおまえを守ろうとするほどおまえが傷つくというのなら…
キールぼくは一体、どうすればいいんだ!
メルディキール…わからないか?
キール……何をするつもりだ
ギュウッ…
キール…!
メルディ一人で背負い込まないでほしいよ
メルディメルディ、キールが事、好き。キールも、メルディが事、大事に想ってくれてる…だな?
キール……ああ
メルディ相手がためにどっちか犠牲になったら二人共、悲しい事になる
メルディだから辛い事、一緒に乗り越える。メルディとキールならきっと上手く出来るよ
キール…感情論だ。合理的とは言えない
キール…どうしてだ…頭では間違っていると思っているのに…
メルディキール、素直になって。気持ちに嘘つかなくて、いいよ
ギュウゥ…
キール……!
メルディバイバ…!
ファラ何…?今、キールから何か…
ルドガースレイの時と同じだ…負の因子が壊れたんだ
ジェイドようやく一件落着ですね…少々青臭いですが
ファラふふ、それがいいんだよ。見てるこっちまで照れちゃうぐらい気持ちが伝わってくるもん
エルルドガー!
ルドガーエル…!怪我はないか?
エルうん!
キール…悪かった。話も聞かず殺そうとしたり…小さな子どもまで巻き込んでしまった
エル…!エル、そんなに小さくないですよーだ!
エルだから許してあげる。メルディのためにね
メルディエル…ありがとな
キールルドガーと言ったか。正直に話してほしい。時歪の因子の事…どうするつもりだ?
ルドガーどうもしないよ。元の世界に戻る方法が、きっと他にあるからな
キール本当か?
キール…ぼくの研究もまだまだだな。知らない事だらけのようだ
キールあの男、そんな事は言っていなかったな…
ルドガーあの男…?
キール分史世界について妙に詳しい男だ。ぼくの研究の礎となる知識を与えたのはそいつなんだ
キール詳しい事はぼくも知らないが、突然現れて、煙のように消えるんだ
ルドガー分史に詳しい男…。まさか、兄さんか…?いや、そんなはずは…
キールとにかく、メルディに手を出さないと約束してくれるのなら、ぼくとしては何も問題はない
ルドガーああ。それは約束する
ジェイド話はついたようですしこちらの用件も済ませていただけますか?
キール…魔導器の破壊だったな
キール…………
メルディキール…?
ジェイドまさか、今更嫌だと言わないでくださいね
キールいや、破壊するさ。こんな物があれば、また戦争の火種になりかねない
キールだが学者として…やっと完成した研究成果を破壊するのは気が引けただけだ
ジェイドそれなら私が破壊しましょうか?
キールいや…ぼくにやらせてほしい。他人に壊されるのは、もっと辛い
メルディキール…魔導器は壊れてしまってもまた作ればいいよ。今度は、みんなが喜ぶものを
キール…そうだな
キールメルディ。ぼくは、おまえと一緒にやり直すと決めた
キールこれは、そのケジメだ
キールホーリーランス!!
キール…魔核も壊れたな。これで再起不能だ
ジェイド確かに見届けました
ファラこれで全部解決だね!
ジェイド全部…ではないですね。まだまだ課題は山積みです
エル何かあるの?
ジェイドあなた方は元の世界に戻る必要があるでしょうし、私達も外交問題が残っています
リチャードそういえば、負の因子は壊れたけど元の世界に戻るためにはこの後どうすればいいんだい?
ルドガー前の時は、突然、時空の穴が開いたんだけど……何か他にも条件があるのかな
キール少し調べてみよう。幸い、ここには時空移動に関する文献や計器も揃っている
ルドガーありがとう。よろしく頼むよ
リチャードところで、さっき外交問題も残っていると言ってましたが…
ジェイドええ。あなたのお蔭でセルディクの失脚は確実と言えますが重要なのはその後です
ジェイド王の変わったウィンドルがどのような国に変わるかはまだ未知数ですからね
リチャード…なら、参考になるかわかりませんがぼく達の世界のウィンドルについて話をしましょうか
リチャードこの世界では全く同じとはいかないでしょうが何の情報もないよりはいいでしょう
ジェイドいいですね。では私はその話を元に、この世界でも使えそうな事を書き取ります
ジェイド王女殿下。私が書き取った内容をシゼル女王にお伝えいただけますか?
メルディはいな!おまかせー!
クィッキークィッキー!
キール…では、その間にぼくはルドガー達が元の世界に戻る方法を考えるとしよう
キールまずは、前例を詳しく聞かせてくれ
ルドガーわかった
キール……なるほど
ルドガーどうかな?かなり細かい事まで話したと思うけど…
キールそのグリューネという人物…底知れない力を持っているようだ。それに天族の力も興味深い…
キールしかし時計が反応していたという事はこの二人の力は関係ないだろう
キール残った要素は、道標…破壊された負の因子か
ファラそれって、さっきメルディにパーッて入っていったやつだよね。どうなってるの?
キールあれについては、ぼくも知らない。今のところ害はないようだが…後で詳しく調べてみるつもりだ
キール調査には時間がかかるだろう。だが、仮説を試すぐらいはすぐに出来る
ファラ仮説?
キールルドガーとミクリオという天族がやった事を再現するんだ
キールメルディ。こっちに来てくれるか
メルディはいな。どうした?
キールルドガーと握手してみてくれ
メルディ…?はいな
ギュッ
ルドガー…!これは、また…!
ヒュンッ
メルディバイバ!
ファラあっさり開いちゃったね
キール…推測通りとはいえ、さすがに驚いたな…。こんな簡単に時空の穴が開くとは…
エルよかった!これで帰れるんだね
ジェイドおや、お帰りですか?唐突ですね…
リチャード…後の事はジェイドさんにお任せします
ジェイド言ってくれますね
キール急いだ方がいい。未知の現象なんだ。穴が閉じてしまう可能性もある
ファラそれじゃ、メルディ…わたし達、もう行くね
メルディまだちゃんとお礼もしてないのに…
ファラそんなの、いいよ。それより、キールと仲良くね!
メルディはいな。ファラが世界のメルディとキールにもよろしく伝えてな
キール別世界のぼく…?…そうだ!
キールルドガー。これを、そっちの世界のぼくに渡してくれないか
ルドガーこれは…?
キール分史世界に関する研究資料だ。そっちの世界で起きている異変の調査に役立つだろう
ルドガーいいのか!?ありがとう
メルディみんな…元気でな
ルドガーああ。メルディも
エルみんな、ばいばーい!またねー!
ヒュンッ
キール…ルドガー達が入っていったら穴は閉じた…か
キールこうしちゃいられない。この空間に残ったマナの痕跡を解析しないと…!
ジェイド…ついて行く、という手もあったのではないですか?
キール…興味はあった。だけど、それは出来ないんだ
キールこの世界は分史世界。そしてルドガー達の世界はおそらく正史世界だ
キール正史世界に同一の存在がある場合外から入り込めても共存する事は出来ないらしい
ジェイドなるほど。あちらの世界にキールがいるとあなたは共存出来ないわけですね
キールああ。…それに…
キールメルディを残して別の世界に旅立つなんて、今は考えられないからな
メルディキール…
ジェイドやれやれ。年寄りには刺激が強すぎます
帰還、それから…
リッドおーい、大丈夫か?今、フレンが治療出来るやつを集めてくれてるからな
キールありがとう。だが…もう大丈夫だ。急に身体が軽くなった
メルディ黒いモヤも消えたみたいだな。よかったよぅ
クィッキークィック、クィッキー!
メルディクィッキーも嬉しいな
リッドならいいけど…。念のため治療を受けて休んだ方がいいんじゃねぇか?
キール…いや、分史世界への入口の調査が先決だ
キールぼくの体調の変化もおそらく分史世界が関係して──
リッド…!?何だ!?
エルただいまー!
リッドエル!?って事は…
リチャード無事に戻って来られたようだね
ルドガーこれで一安心だな
ファラリッド!キール!メルディ!みんな大丈夫だった?
リッド大丈夫って…それはこっちの台詞だ!
メルディファラ!みんな!心配したよ。何があったか?
ファラえっと…どこから説明したらいいのかな
リチャードあの穴に入った時の事から順を追って話そうか
キール…ぼくに負の因子が…。やはり、そうだったのか
ルドガーやはりって…わかってたのか?
キールああ。少し前、ぼくにも黒いモヤが出て危うく意識を失いかけた
ファラえっ!?体調は大丈夫なの?
キールああ。今はもう何ともない
リッドメルディが必死に治癒術をかけてくれたお蔭だな
メルディでもメルディも疲れちゃって今度はキールに助けられたな
リチャードお互いに助け合う絆…。分史と同じように、二人は支え合っているんだね
キール同じではありません…!ぼく達は、そういう、その…とにかく違います!
メルディ…?何慌ててる?おかしなキール!
キールこほん!とにかく──
キール黒いモヤが出た時、メルディに触れたら、頭の中に妙な景色が流れ込んできた
キール黒いモヤを出すメルディの姿が…
ルドガーそれって…まさか、分史世界が見えたっていうのか…!?
キール話を聞く限り、可能性はある
キール負の因子に憑りつかれると正史と分史の同一人物に影響が出た。つまり何かの形で繋がっているんだ
キール詳しく調査してみる必要があるな。もしマナが影響しているのだとすれば異変にも関係があるかもしれない
ファラキールならきっと解明出来るよ!あっちのキールに負けないぐらいすごいもん!
ルドガーそうだな。あ…そうだ、これを分史のキールから預かって来たんだ
キールこれは…研究論文か?確かにぼくの筆跡だな
キール表題は…「創世原理~分史とマナ~」だって…!?
リチャード分史世界の研究を熱心に続けてきた別世界の君が書いた論文だ
リチャード異変の調査にも有用じゃないかと言っていたよ。読み終えたら見解を教えてほしい
キールわかりました。少し時間をください
リチャードさて。何日も留守にしていたが城の方は大丈夫だっただろうか。みんなに迷惑をかけてしまったな…
リッド何日も…?みんなが穴に落ちてから、まだ半日ってとこですけど
リチャード何だって…?
ルドガー驚いたな…。確かに分史世界では時間の流れ方が違う事もあるけど…
リチャードそうか…少しほっとしたよ。もっとも、半日でも迷惑をかけた事は確かだ…みんなには謝らないとね
リッドそうだ!フレンにも知らせてやらないと!キールの事も伝えてくる
リチャードそれなら僕が行くよ。今の状況を聞きたいし、留守の対応について礼を言いたいしね
リッド陛下直々にか。フレンのやつ、驚くだろうなー
エル…ねぇ、ルドガー
ルドガーどうした?
エルエル、おなかすいたー
ルドガーはは、そうか
ルドガー…エルもお疲れ様だったな。いろいろあって辛かっただろう
エルエル、ルドガーの事、信じてたし!
エルそれより、早く何か食べよ。もうおなかペコペコ
ファラそういえば、わたしも…戻ってきて気が抜けたのかな
ルドガーはは。それじゃあ、みんなで何か食べに行こうか
エルやったー!
リチャードそれなら食事を用意させよう。大したもてなしは出来ないが、料理人の腕は保証するよ
エルほんと!?やったー、お城のごはんだー!
メルディワイール!きっとすごく美味しいな!
クィッキークィッキー!
ルドガーいいのか?
リチャードああ。実は僕も空腹なんだ。フレンと話して城の事が落ち着いたら後で合流するよ
ルドガーありがとう、リチャード
エルあー、美味しかった!おなかいっぱい!
ルドガーリチャードが言うだけあって料理人の腕を感じられる食事だったな
リッドその陛下は、食べ終わったらすぐに公務に戻っていったけどな
リッドもっと味わう時間があればいいのに、王様ってのは大変な仕事だよなー
ファラ…あの世界のメルディ達も同じように忙しくしてるのかな
ルドガーそうかもしれないな。でも、きっとピオニーさん達が支えてくれているよ
ファラうん。そうだね
メルディメルディ、王女様だった世界か…全然想像出来ないな。な、キール
キール……
メルディキール?
キール…ん?ああ、呼んだか…?
リッドその論文、よっぽど気になるみたいだな
ファラお腹もいっぱいになったし、キールも論文が気になるみたいだから宿に戻ろっか
キールそうだな
キール……
キール…ルドガー。ちょっといいか?
ルドガーうん?
キールこの論文…分史のぼくがメルディを守るための研究に力を注いでいた事がよくわかる
キールでも、だからといってメルディ以外の人間は死んでも構わないなんて異常だ…
ルドガーそれは、負の因子が憑りついていたから…
キールああ。その通りだ。でも全てが負の因子の影響だけではないように思うんだ
キール負の因子がなくても、分史のぼくには、兵器開発の他に選択肢がなかったんじゃないか?
ルドガー……
キール率直な意見を聞かせてほしい
キールぼくが同じ立場なら…やはり同じような行動を取ったと思うか?
ルドガーそれはわからない。分史世界のキールと今のキールは経験してきたものが違うんだから
ルドガーあっちのキールは、リッドやファラを知らないと言っていた
ルドガーもし同じ状況になっても、リッドやファラと共にいるキールは違う道を選べるんじゃないかな
キール…そうだな
ルドガー勿論、俺やリチャードもいる。困った時は力を貸すから遠慮しないで言ってほしい
キール…あっちの世界のぼくにもそうやって力を貸してくれたんだよな
キールぼくが言うのも変かもしれないが…感謝してるよ。ありがとう
ルドガーああ
リッドおーい、早くしないと置いていくぞー
ファラはぁー、やっと一息つけるー!
メルディふかふかベッドー!
クィッキークィッキー!
リッドおいおい、ベッドに飛び込むなって。じゃ、この部屋がファラとメルディでオレとキールは隣な
ルドガーエル、随分と眠そうだけど先に部屋に行ってるか?
エルうん。ちょっと休む…
ルドガーわかった。俺達の部屋は一番奥だからな
エルはぁーい…おやすみ…
キールさて、他のみんなも解散する前に明日からの事を話しておきたい
キールぼくは少しの間、ここで研究論文を熟読し、その上で調査を続けようと思う
キールそれには数日かかるだろうからみんなは一度、家に帰ってもらっても構わない
メルディメルディ、一緒にいる!キールが事、手伝うな
リッドオレも残るぜ。一度帰っちまったら、何かあった時にここまで駆けつけるのは大変だからな
ファラわたしも。キールが調べものに集中出来るように身の回りの事とか手伝うよ
キールわかった。ありがとう、助かるよ
キール…ルドガーの言う通りだな…
リッドん?何か言ったか?
キールいや、何でもない
キールルドガーはどうする?
ルドガーそうだな…。俺は一度、イニル街に戻ろうと思う
ルドガー今回の件と、世界の異変にどんな関係があるのか、俺の方でも調べてみるよ
キールわかった。ルドガーなら独自に調査も出来る…それなら別行動の方が効率的か
ルドガー調査のために動き回ってると連絡を取るのが難しくなるかもしれない
ルドガー何かわかったらリチャードに報告するって事でいいかな
キールわかった
リッドじゃ、明日からは別行動だな
ファラ寂しくなるね
メルディ全部終わったらまたみんなで食事しよな!
ルドガーああ。約束だ
エルただいまー!
ルドガーやっと帰ってきたな。お隣さんに預けてたルルも迎えに行かないと…
エルルル、きっと寂しがってるね
ルドガーそうかもな。…長い時間、留守にしてたから郵便物も溜まってるな…
エルじゃあ、メガネのおじさんは一度も帰ってきてないの?
エルこんなに長い間帰ってこないなんて何かあったのかな…
ルドガー…?誰の事を言ってるんだ?
エル誰って…メガネのおじさん!ずっと帰って来てないでしょ?
ルドガーメガネの…もしかしてジェイドさんの事か?
エルまたそんな事言って…ルドガー、何だかおかしいよ…?
ルドガーそんなつもりはないけど…エルの方こそ…
ルドガーこの家には、俺とエルと、ルルしか住んでないじゃないか
エル……!?
エル何で…?ルドガー、どうしてそんな事言うの…?
ルドガーどうしても何も……ん?
ルドガーこの郵便物の宛名…ユリウス…って
ルドガー全部、兄さん宛の物か
エル…!ほら、やっぱり、メガネのおじさんの事覚えてる!
ルドガー…?何言ってるんだ?おかしなエルだな
エルおかしいのはルドガーだって!じゃあ、これの事は覚えてる?
エルメガネのおじさんのために買ったプレゼント!
ルドガーああ。一緒に買いに行ったな
ルドガー…でも、何のために買ったんだっけ。誰かにプレゼントを贈る予定なんてあったかな…
エル…今言ったでしょ。メガネのおじさんの事って…
ルドガーメガネのおじさん…?ああ…えっと…そうだ、兄さんの事か
エルどうして…ルドガー…おかしいよ…
エル何だか怖いよ…パパ…
怪しい男1…いよいよ決行だな
怪しい男2手筈は整った。あとは、お前の腕の見せどころだな
ルーク……
怪しい男3おいおい。今更、怖気づいたのか?ちゃんと作戦通りやれんのかよ
ルーク……当たり前だっつーの
ルークここまで来たんだ。作戦通り完璧にやってやるよ
ルークもう決めたんだ。例え相手が実の兄だろうと、俺は──