| Name | Dialogue |
| scene1 | 脱獄 |
| ベルベット | … |
| ベルベット | …こんな世界、絶対に認めない |
| ベルベット | ラザリス…あんたと、この世界を覆う化けの皮はあたしが剥ぎ取ってやるわ |
| ベルベット | そして今度こそ必ず、この手で「あいつ」を…… |
| ベルベット | …… |
| ベルベット | そのためにもまずはここを脱出しないと──… |
| | コツ… |
| ベルベット | …! |
| | コツ…コツ…コツ… |
| | |
| レイヴン | さーて、例のお嬢さんはどこにいるかなっと… |
| レイヴン | おっ、早速はっけ~ん!宮殿の地下牢に、こんな素敵な美女がいるとはねぇ |
| | |
| ベルベット | … |
| | |
| レイヴン | しっかし、これまたクールビューティな… |
| | カシャンッ |
| レイヴン | ん? |
| | |
| ベルベット | 用件があるならさっさと言いなさい |
| ベルベット | それとも何、あたしを処刑しにでも来たの? |
| | |
| レイヴン | まぁまぁ、落ち着いて。若い子は急ぎ癖があるからよくないわね |
| レイヴン | 初対面同士、こういうのはまず挨拶からって相場は決まってるもんでしょ |
| | |
| ベルベット | あいにく、処刑人と話してるほど暇じゃないの |
| | |
| レイヴン | 処刑人?…ああ、お嬢さん何か勘違いしてるみたいだから言っとくけど… |
| レイヴン | おっさん、処刑人でもなければ警備兵でもないし、安心して── |
| | |
| ベルベット | …なら、何者なのよ |
| ベルベット | ここはラザリスの宮殿よ。それなりに警備だっているはず |
| ベルベット | …関係者じゃないなら、どうやってここまで来たわけ? |
| | |
| レイヴン | およ?安心させるつもりが逆に警戒させちゃった感じかしら |
| | |
| ベルベット | …つべこべ言わずに目的を言いなさい |
| | |
| レイヴン | まあまあ、そんな怖い顔しなさんなって。せっかくの可愛い顔が台無しよ |
| レイヴン | …それよりお嬢さん、こんな暗い牢獄、とっととおさらばしたいーとか、思わない? |
| | |
| ベルベット | …! |
| | |
| レイヴン | 名前、教えてくれたらこの扉開けてあげてもいいけど~ |
| | |
| ベルベット | 名前…? |
| | |
| レイヴン | そそ。名前がわからなけりゃ口説けもしないってね |
| レイヴン | ほら、これが条件。どうする? |
| | |
| ベルベット | …ベルベットよ |
| | |
| レイヴン | ベルベットちゃん、ね。へぇ、可愛い名前じゃないの |
| レイヴン | 俺はレイヴン、よろしくね。んじゃ、約束通り… |
| | カチャ…カチャカチャ… |
| | ガチャン! |
| | キイイ… |
| レイヴン | はい、この通り。牢の扉が開きましたよっと |
| ベルベット | …本当に助けるのね |
| レイヴン | まぁねぇ。牢に入る前のベルベットちゃんの持ち物もほら、この通り揃えておいたわよ |
| ベルベット | あたしの武器まで…一体どうやって… |
| レイヴン | おっさん、準備いいでしょ |
| ベルベット | … |
| レイヴン | 手厳しいなぁ。一言くらいくれても罰は当たらないと思うけど |
| ベルベット | … |
| レイヴン | 無視、ね。はぁ、おっさん悲しい── |
| レイヴン | …っと、ベルベットちゃん。そんなに慌ててどこに行こうっての? |
| レイヴン | ラザリス様なら今この宮殿にはいないけど? |
| ベルベット | …! |
| レイヴン | まあ、宮殿って言うか、シャングレイスにはいないって言った方が正しいかも── |
| ベルベット | 何であんたがその事を…? |
| レイヴン | なぁに、風の噂でね |
| ベルベット | ラザリスはどこなの?知ってるなら言いなさい |
| ベルベット | もったいぶらずに吐いた方が身のためよ |
| | チャキッ |
| レイヴン | うわっと…!剣なんか突き付けて…物騒なお嬢さんだ事 |
| レイヴン | …けど、脅したところで無駄よ。だって、おっさんこれ以上の事なーんも知らないし |
| ベルベット | …本当に? |
| レイヴン | 本当、本当!信じてって! |
| ベルベット | …… |
| レイヴン | ほっ…助かった |
| ベルベット | ラザリスがどこへ行ったのか…宮殿内の人間から情報を聞き出して居場所を突き止めるしかないわね |
| レイヴン | え?助けてあげたのに、置き去り? |
| レイヴン | ちょ、ベルベットちゃん!待ってってば── |
| | |
| 衛兵 | お前達、そこで何をしている! |
| ベルベット | …! |
| レイヴン | あら、ばれちゃった?もう少しくらい余裕はあると思ってたんだけど |
| ベルベット | ちっ… |
| レイヴン | うおっと、待って待って!おっさんを置いてかないでってば! |
| 衛兵 | 脱獄だ!あいつらを捕まえろ! |
| scene2 | 脱獄 |
| レイヴン | ──その先を右 |
| ベルベット | … |
| レイヴン | 次は左。そしたら階段があるから、そこを… |
| 衛兵 | いたぞ、あっちだ! |
| 衛兵 | 逃がすな! |
| ベルベット | …関係者じゃないって割にやけに詳しいのね |
| レイヴン | まぁね |
| ベルベット | …にしても、衛兵の数が多いわ |
| レイヴン | そりゃあね。重罪人を収監してるわけだから、警備も厳しくなるのも当然でしょ |
| ベルベット | 重罪人? |
| レイヴン | 誰それ、って顔しないの。ベルベットちゃんの事でしょ |
| ベルベット | … |
| レイヴン | あのラザリス様を、衆人環視の中襲うなんて前代未聞だわ |
| レイヴン | いやあ、驚いたの何のって。まさかラザリス様に不満を抱く人がいるとはねぇ |
| レイヴン | 何が気に入らなかったんだか |
| ベルベット | 不満なんかじゃない。そのラザリスが奪ったのよ、あたしの世界を |
| ベルベット | あたしはただそれを取り戻したいだけ |
| ベルベット | …成すべき事のために |
| レイヴン | 成すべき事…? |
| ベルベット | … |
| ベルベット | これ以上話す義理はないわ |
| レイヴン | やっぱりつれないねぇ。こうして一緒に、苦難を乗り越えようとしてるのに |
| レイヴン | こうやってるとだんだん俺様に、仲間意識を感じてきたりしない? |
| ベルベット | あんたが何者かもわからないのに、そんなもの芽生えるわけないでしょ |
| レイヴン | あっ…はい、そうですか |
| ベルベット | それより、出口はまだなの? |
| レイヴン | それならもうすぐ近くよ。向こうの角を曲がった先 |
| ベルベット | それを早く言いなさいよ |
| レイヴン | いや、でもねえ… |
| 衛兵 | 見つけたぞ! |
| 衛兵 | ここは通さん!おとなしくしろ! |
| ベルベット | … |
| レイヴン | ま、当然こうなるわよね。思ったよりも、衛兵の数が多いかも |
| ベルベット | 何人いようと関係ないわ。あいつらがあたしの邪魔をするなら、全員倒すだけよ |
| レイヴン | おーおー、勇ましい事で |
| ベルベット | 巻き込まれたくなかったら、あんたはどこかへ行けば? |
| レイヴン | 今更遅いでしょ。やります、やりますよ |
| ベルベット | そう。だったら行くわよ! |
| scene1 | 天帝の行方 |
| レイヴン | はー…ようやく地下牢から抜け出せたわね |
| レイヴン | 道中の衛兵は一人残らず倒したけど、気休めね。脱獄の情報も少しすれば宮殿内に知れ渡るだろうし |
| レイヴン | 騒ぎが大きくなる前に、ベルベットちゃんの気になる情報を調べるとしますかね |
| ベルベット | …何であんたがやる気なの。これはあたしの問題よ、ついてこないで |
| ベルベット | ラザリスの居場所くらい、あたし自身の手で見つけられるわ。あんたの手を借りなくてもね |
| レイヴン | そうは言われてもこっちにも事情ってのがあんのよ |
| レイヴン | ベルベットちゃんが嫌でもおっさんは勝手に手を貸すからね |
| ベルベット | どういう事?あんた、一体何が目的なわけ |
| レイヴン | まあまあ…それより、ほら。こんな話してる暇ないんじゃない? |
| レイヴン | 衛兵に気付かれたら応援も来ちゃうし、早く行動しないとね |
| ベルベット | … |
| ベルベット | あんたが何をしようと勝手だけどあたしの邪魔はしないで |
| レイヴン | それは勿論。んじゃ、行きますかね |
| | |
| ベルベット | ここが大広間かしら… |
| ベルベット | …! |
| 衛兵1 | そっちはどうだ? |
| 衛兵2 | 特に異常はない。引き続き警備にあたる… |
| ベルベット | …行った…わね |
| レイヴン | ここも衛兵だらけね。はぁ、先に進むのも一苦労だわこりゃ |
| ベルベット | でも、あの様子…。あたしが脱獄した事はまだ知れ渡ってなさそう |
| レイヴン | ま、けどそれも時間の問題だわね |
| ベルベット | …! |
| レイヴン | またぞろぞろと… |
| 衛兵3 | 今日も異常なし、っと。ほんと、平和だよなー |
| 衛兵4 | ラザリス様のお蔭さ。視察であちこち行ってらして大変だろうに |
| 衛兵3 | 民思いの素晴らしいお方だよっと、そうだ。次の見張り番に見回りの報告をしないと |
| 衛兵3 | その後ヴァン様へのご報告か…緊張するな… |
| 衛兵4 | 粗相のないように気を付けろよ |
| 衛兵3 | ああ、勿論だ |
| ベルベット | ヴァン…確か、ラザリスの側近の── |
| レイヴン | …なるほど。確かに宰相様ならラザリス様の行先を知ってるかもしれないわね |
| ベルベット | なら… |
| レイヴン | ベルベットちゃん、宰相様のところに行くつもり? |
| ベルベット | ええ |
| レイヴン | 宰相様の周りを探るってわけね。随分と大胆な事で |
| ベルベット | 今はそれしか方法がなさそうだわ |
| レイヴン | なるほど。それで? |
| ベルベット | あの衛兵の後を追えば確実にヴァンにたどり着ける。でも… |
| レイヴン | だいぶ時間がかかるわね。先に次の見張り番に報告に行くって言ってたから |
| ベルベット | それだけこっちが見つかる危険も増す… |
| レイヴン | おっさん、お偉いさんの居そうな場所はいくつか見当つくんだけどなぁ… |
| ベルベット | 例えば? |
| レイヴン | 宮殿の中でも重要な役どころの人は個室を与えられていてねぇ |
| レイヴン | 宮殿の上層部にその個室が並ぶ階があるらしいわ |
| ベルベット | なら、そこにヴァンの部屋があってもおかしくないわね |
| ベルベット | 時間を無駄に出来ない。そこに向かうわよ |
| レイヴン | はいよ |
| scene2 | 天帝の行方 |
| ティア | … |
| ティア | 兄さん、部屋に飾る花は、私が選んでみたのだけれど… |
| ティア | その…どうかしら? |
| ヴァン | ああ、綺麗だ。それに香りもいい |
| ティア | ふふっ、気に入ってくれてよかった |
| ティア | 中庭に咲いている花の中から選ぶしかないから、どうしても種類に限りはあるけれど… |
| ティア | … |
| | |
| ヴァン | …外の世界が気になるか、ティア |
| ティア | …べ、別に、そんな事は…… |
| ティア | ただ…外にはどんな花が咲いているのか… |
| ティア | ひょっとしたら、そこには見た事のない花があるかもしれない… |
| ティア | …そんな風に思っただけよ |
| ヴァン | フッ…お前は正直だな |
| ヴァン | その様子だと、生誕祭に出られなかった事も、まだ気にしているようだが |
| ティア | それは──… |
| ティア | … |
| ヴァン | 確かにお前の言う通り、宮殿の外には、ここでは見られぬ多くの花が存在する |
| ヴァン | しかし、その花も踏まれれば終い…。…こことは違い、外の世界はそれだけ危険も多いという事だ |
| ティア | …… |
| ヴァン | …わかってくれるな、ティア。私はお前を危険に晒したくないのだ |
| ティア | 兄さん… |
| ティア | 私の事を心配してくれてありがとう。でも、兄さんが考えているような事にはならないわ |
| ティア | 私はそんな兄さんを裏切るような事、したくはないから |
| ヴァン | …そうか。私の杞憂だったようだ |
| | |
| ベルベット | 今までの階と様子が違うわね。おそらく、ここが… |
| レイヴン | 警備が厳重な事で。いかにもお偉いさんがいそうな気配だわ |
| ベルベット | …進みながら、ヴァンの部屋を探すわよ |
| レイヴン | ついでに部屋に宰相様が居てくれると、ベルベットちゃんとしては助かるわね |
| ベルベット | 居なければ待ち伏せる、それだけの事だわ |
| scene1 | 深窓の姫君 |
| レイヴン | ちょっ、ベルベットちゃん、ガンガン行きすぎだって! |
| レイヴン | 急ぐ気持ちはわかるけど、もう少し慎重に動かないと… |
| ベルベット | 言われなくてもわかってるわ |
| | コツ…コツ… |
| ベルベット | …! |
| レイヴン | ん? |
| ベルベット | 誰か来るわ。隠れて |
| | |
| ティア | 兄さんが元気そうで安心したわ。最近忙しそうにしてたから |
| 衛兵1 | ヴァン様も妹君のティア様にお会い出来て、嬉しそうでしたね |
| ティア | そうかしら… |
| ティア | ところで、ラザリス様はいつ頃戻られるのかしら |
| 衛兵1 | 申し訳ありません、自分は存じ上げておらず… |
| ティア | そう…いつも遠方に出向かれて大変ね |
| | |
| レイヴン | 兄さんって…。あの娘、宰相様の妹? |
| ベルベット | だとしたら… |
| ベルベット | … |
| ベルベット | 娘の後を追うわよ |
| レイヴン | ありゃま。宰相様の部屋探しからいきなり方針変更? |
| ベルベット | あの口ぶり…ラザリスの行方を知っている可能性は高いわ |
| ベルベット | ここからヴァンの部屋を探し出すより、あの娘から話を聞き出した方が手っ取り早そう |
| レイヴン | なるほどねぇ。ま、大事になる前に、彼女が話してくれる事を祈るわ |
| レイヴン | さてと、んじゃおっさんはここらでお暇するわね |
| ベルベット | …随分勝手な話ね |
| ベルベット | 頼んでもないのについてきたと思ったら、今度は急に去るなんて |
| レイヴン | ある程度情報のあてはついたし、おっさんはもう用済みでしょ? |
| レイヴン | 可愛いベルベットちゃんのお役に立てて、おっさん大満足~みたいな |
| ベルベット | … |
| ベルベット | …止めはしないわ |
| レイヴン | う…最後の最後まで本当クールなんだから…。ま、けど… |
| レイヴン | だいぶ話も出来たし、また今度があればその時はよろしくね |
| ベルベット | 今度なんてあるわけ… |
| レイヴン | 先はわからないもんだよ?んじゃ、またね。ベルベットちゃん |
| ベルベット | …結局あいつは何だったの… |
| ベルベット | …ま、いいわ。あの娘を追わないと |
| scene2 | 深窓の姫君 |
| | カチャ… |
| ファラ | あっ!お帰りなさいませ、ティア様! |
| ティア | ただいま、ファラ |
| | |
| ファラ | ヴァン様のところに行ってらしたんですか? |
| ティア | もう、ファラったら、またそんな固い口調で |
| ティア | 今は他に誰もいないわ。普通にしてくれていいのよ |
| ファラ | そう?じゃあ、そうするね! |
| ティア | ええ、その方が私も気が楽だわ。あら…私の部屋を掃除してくれたのね |
| ティア | ファラ、いつもありがとう。本当に助かっているわ |
| ファラ | お礼なんていいよ。ティアのお世話をするのがわたしの仕事なんだから |
| ファラ | ほら、見てティア!窓だってピッカピカに磨いておいたんだから |
| ティア | どうりで日の光がいつもより明るく差し込んでいると思ったわ |
| ファラ | 本当は窓を開けて、ぱーっと思い切り風を通せるといいんだけど |
| ティア | それは難しいわね。窓には格子が嵌まっているから… |
| ファラ | ティア… |
| ティア | そういえば、この間聞かせてもらったお店の話、また聞きたいわ |
| ファラ | あっ、ドーナツ屋さんの話ね!実はあそこのお店、昨日から新しい種類のドーナツが売られててね |
| ファラ | すっごく美味しいんだ~!今度買ってきてティアにもわけてあげる! |
| ティア | ありがとう。その日が楽しみね |
| ファラ | うん!楽しみにしてて! |
| ファラ | それじゃ、私そろそろ行くね。何かあったらいつでも声かけてね! |
| ティア | わかったわ。またね、ファラ |
| | カチャ… |
| | バタン |
| ティア | … |
| ティア | ふう… |
| | |
| | カタン… |
| ティア | …! |
| ティア | 誰!? |
| | チャキッ |
| | |
| ベルベット | 動かないで |
| ベルベット | それ以上動くと、この剣の切っ先が、あんたの喉に突き刺さるわよ |
| ベルベット | 大人しくこちらの質問に答えれば、危害は加えない。わかった? |
| ティア | … |
| ベルベット | …ラザリスは今どこにいるの?あんたの知ってる事を、洗いざらい話しなさい |
| ティア | … |
| ベルベット | さあ、早く── |
| | |
| ティア | はあっ! |
| | カシーン! |
| ベルベット | な…! |
| ベルベット | この状態から、剣を払うなんて…大した身のこなしね |
| ベルベット | どうやら誤解していたみたい。あんた、ただの大人しいお姫様じゃなさそうね |
| ティア | あなたは何者なの…!?どうしてこんな事── |
| ベルベット | もう一度聞くわ。ラザリスは今、どこにいるの |
| ティア | … |
| ベルベット | …答えないなら仕方ないわね |
| | チャキ… |
| ティア | …! |
| scene1 | 欠けた心 |
| ベルベット | はああっ! |
| ティア | はっ! |
| | キィィンッ! |
| ベルベット | … |
| ティア | はあ…はあ… |
| ベルベット | …まさか宮殿の衛兵よりも強いだなんてね |
| ベルベット | ──あんたは何者? |
| ティア | 今まで戦った事もないのに、身体が勝手に… |
| ティア | 私…どうしてこんな… |
| ベルベット | あたしに聞かれたって知らないわよ。それより… |
| ティア | 近寄らないで! |
| ベルベット | … |
| ティア | …侵入者ね。あなたこそ、一体何者なの? |
| ベルベット | さぁね。少なくとも味方じゃない事はわかってもらえたかしら |
| ティア | …目的は何?宮殿に侵入した上、こんな事するなんて── |
| ベルベット | 言ったはずよ。あたしが知りたいのはラザリスの居場所だと |
| ベルベット | 欲しい情報はどんな手段を使ってでも手に入れてみせるわ |
| ベルベット | …そのためなら、何だってする |
| | |
| ティア | …… |
| ティア | あなた、名前は? |
| ベルベット | ベルベットよ。ベルベット・クラウ |
| ティア | ベルベット… |
| | |
| ティア | …ラザリス様なら、市都ファルカームへ視察に行かれているわ |
| ベルベット | ファルカーム… |
| ティア | …ベルベット、一つ聞かせて |
| ベルベット | … |
| ティア | あなたがそうまでしてラザリス様を捜す理由は何? |
| ティア | ただ行方を知るためだけに、こんな事までするなんて… |
| | |
| ベルベット | 決まってるじゃない。あいつを殺すためよ |
| | |
| ティア | なっ…! |
| ティア | ラザリス様を殺すなんて何て事を…っ |
| ティア | 私達がこうして平和に暮らせるのもラザリス様のお蔭…なのに──…どうしてそんな… |
| ベルベット | 平和ねえ… |
| ティア | そうよ。ラザリス様は常に万物を愛し、私達を幸せへと導いて下さるわ |
| ベルベット | あんたの中のラザリス様はそうなんでしょうね。でもね、それが全部嘘だとしたら? |
| ティア | 嘘? |
| ベルベット | どうしてかは知らない。でも、あたしは確信してる |
| ベルベット | このエンテレスティアは嘘で塗り固められた偽りの世界… |
| ベルベット | 見るものの全て、あたしの知っている世界と違う |
| ベルベット | 歴史も、平和も、幸せも……そんなもの、全て創られた偽物よ |
| ベルベット | こんな世界、あたしは絶対に認めないわ |
| ティア | 偽りの世界…?偽物なんて…そんな… |
| ティア | そんな事あり得ないわ! |
| ティア | エンテレスティアは、ずっとラザリス様の庇護の下、発展してきた |
| ティア | 人々はラザリス様が見守る中、互いに認め合い、助け合い、争う事もなく過ごしてきた… |
| ティア | そのエンテレスティアの繁栄の象徴が、今私達のいる帝都シャングレイスなのよ |
| ティア | それが紛れもない真実、私が実際に生きてきた歴史。決して嘘や偽りのはずがない! |
| ベルベット | あたしは信じろなんて言ってない |
| ベルベット | あんた達みたいなのが何の疑問も持たずラザリスを受け入れ妄信している… |
| ベルベット | この現実が嫌いなだけ |
| ベルベット | …ま、その信じる感情もこの世界と同じで捏造されたものなのかもしれないけど |
| ティア | そんな… |
| ベルベット | この世界はおかしい。その原因はラザリスにある |
| ベルベット | だからあたしはラザリスに会って、全てを暴いて見せる |
| ベルベット | あたしの「世界」を取り戻すために |
| ティア | あなたは… |
| scene2 | 欠けた心 |
| ティア | ──わからないわ… |
| ベルベット | わからない? |
| ティア | ラザリス様を殺そうだなんて… |
| ティア | どうしてあなたは、そんな事を思うの? |
| ティア | あなたをそこまで駆り立てるものは何? |
| ベルベット | 聞くまでもないわ。許せないから、あいつを殺す。それだけよ |
| ティア | 許せない… |
| ベルベット | あたしには、やるべき事があった。なのに、あいつがそれを邪魔したの |
| ベルベット | そんな事をされたら怒るのは当然でしょ |
| ベルベット | だからあいつを殺して、あたしの世界を取り戻す |
| ティア | …何故許せないの?私には、あなたのその憤りが理解出来ないわ |
| ベルベット | もし、あんたがわけもなく誰かに傷つけられたらどう感じるの? |
| ベルベット | そんな状況でもまだ、相手を憎む感情や怒りがわからないとでも言うつもり? |
| ティア | 憎む…?それはどういう感情なの? |
| ベルベット | …本気? |
| ティア | 私なら、相手は何故そんな事をしたのだろうと真っ先に考えるわ |
| ティア | そうやって他人を傷付けたのには、きっと何かやむを得ない事情があると思うから |
| ティア | 私はその理由を知りたいと思う。ただそれだけ。怒りはおろか、やっぱり仕返しをしようなんて── |
| ベルベット | 傷付けるだけの事情があれば殺されたって仕方がない、…そう言いたいわけ? |
| ティア | それは極論だけれど…でも… |
| ベルベット | …あんたに何がわかるのよ… |
| ティア | ベルベット…? |
| ベルベット | そんなもの、あるわけがない。…いや、あったとしてもあたしは認めない…絶対に! |
| | |
| ティア | …!?っ… |
| ベルベット | ラザリスの居場所を教えてくれた事、感謝するわ |
| ベルベット | 後は衛兵に告げるなり、助けを呼ぶなり、好きにすればいい |
| ベルベット | じゃあね |
| ティア | ベルベット、まっ… |
| ティア | …! |
| ティア | …今のは…何… |
| ティア | あの人の言葉を聞いた瞬間、何か鼓動が──… |
| ティア | ベルベットのような強い意志…私、前にもどこかで… |
| ティア | いえ、そんなはずは…でも… |
| ティア | … |
| scene1 | 逃亡 |
| 衛兵1 | 宮殿内に異常はありませんでした。定期報告は以上となります |
| ヴァン | ご苦労、下がっていいぞ |
| 衛兵1 | はっ…それでは──… |
| | |
| | バンッ |
| 衛兵2 | 失礼致します!火急のご報告のため無礼を承知で、ただ今申し上げます! |
| ヴァン | 何事だ、騒々しい |
| 衛兵2 | 地下牢に捕らえておりました例の咎人が、脱獄した模様です…! |
| | |
| ヴァン | 何だと… |
| 衛兵2 | 咎人は警備にあたっていた衛兵全てを昏倒させておりました。依然、逃走中です |
| ヴァン | 速やかに兵を展開し、行方を突き止めよ |
| ヴァン | 既に宮殿を出ているやもしれぬ。全兵士に伝令を… |
| 衛兵3 | 申し上げます! |
| ヴァン | 今度は何だ |
| 衛兵3 | ティア様が行方不明に!ティア様の部屋を警備している者は何者かの襲撃を受け意識がありません |
| ヴァン | …! |
| 衛兵2 | 何と…!同時に…咎人の仕業でしょうか? |
| ヴァン | そう考えるのが妥当であろう |
| ヴァン | …咎人の生死は問わんが、ティアには決して傷をつけるな |
| 衛兵1 | はっ! |
| ヴァン | 私も出るとしよう |
| 衛兵達 | かしこまりました |
| | タッタッタッ… |
| ヴァン | ティア… |
| | |
| ベルベット | …こっちも衛兵が押さえてる |
| ベルベット | 仕方ないわね。他の出口を… |
| ティア | どこへ行っても無駄よ |
| ベルベット | あんた… |
| ティア | 宮殿の外へ通じる全ての出入口は、封鎖されてる。通常の方法で出るのは無理よ |
| ティア | これだけ緊張感のある宮殿の空気は初めて… |
| ティア | この警備の状況…侵入者である、あなたの存在に気付いたという事かしら |
| ベルベット | あんたには関係ないでしょ。それとも何? |
| ベルベット | そんな事を言うためにわざわざ追いかけてきたわけ?ご苦労な事ね |
| ティア | …これだけの数の衛兵を真正面からかいくぐるなんて無茶よ |
| ベルベット | 無茶でもやるしかないわ |
| ベルベット | そろそろ情報が回った頃だろうと思ってはいたけど |
| ベルベット | まさかたった一匹のねずみ取りにここまで躍起になるなんてね |
| ティア | …ねぇ、聞いてベルベット |
| ベルベット | 何? |
| ティア | …この宮殿には秘密の地下通路があるの。それを使えば外に出られるわ |
| ベルベット | … |
| ティア | あそこは宮殿の人間でも知っている人はほとんどいないから、衛兵もいないはず… |
| ティア | 私ならその通路を案内出来る。昔、一度だけ入った事があるから |
| ベルベット | そうやってあたしを誘い出せば楽に捕まえられるわね |
| ティア | 違うわ!そうじゃなくて、私はただ── |
| ティア | …!隠れて… |
| 衛兵1 | そっちはどうだ? |
| 衛兵2 | いない。奥を捜そう |
| | タッタッタッ… |
| ティア | このままだとただ囲まれて捕まるだけよ |
| ティア | どうせなら、逃げられる可能性のある方にかけてみたらどうかしら |
| ベルベット | …不本意だけど、あんたの案に乗るしかないみたいね |
| ベルベット | で、どうすればいいの? |
| ティア | 地下通路への入口はこっちよ |
| | |
| ベルベット | ここが地下通路… |
| ティア | 外へ通じる出口はこっちよ |
| ベルベット | ねえ。どうしてあんたが、あたしを助けるような真似をするの? |
| ティア | …信じてくれるかどうか、わからないけれど |
| ティア | さっき、あなたの言葉を聞いた時、何か大切な事を思い出したような…そんな不思議な感覚に襲われたの |
| ベルベット | 思い出した? |
| ティア | ええ…。自分でも上手く説明が出来ないのだけれど |
| ティア | このままじゃいけない、あなたともっと話をしなくちゃと思って、それで… |
| ベルベット | あんたも酔狂ね。そんな好奇心のために、あたしを追いかけて来るなんて |
| ベルベット | 言ったでしょ?あたしの目的。ラザリスを殺すって |
| ティア | それは…っ!…それは絶対に駄目よ |
| ベルベット | でも、逃がすのね。あたしの事 |
| ティア | ……。わからない…の…まるで自分が二人いるみたい |
| ティア | 本当ならこんな事、許されるはずがないけど… |
| ベルベット | そのお蔭で逃げられそうだし、あたしは助かるけどね |
| ティア | … |
| ベルベット | 地下通路はまだ続くのかしら |
| ティア | …もう少しで宮殿の外よ。急ぎましょう |
| scene2 | 逃亡 |
| ベルベット | …ここに出るのね |
| ティア | これが…宮殿の外の景色… |
| ティア | まさか、こんな形で見る事になるなんて… |
| ベルベット | 外に出た事がない癖に、よく抜け道なんて知ってたわね |
| ティア | 偶然見つけたの。ずっと外を見てみたかったから兄さんにも黙っていたけれど… |
| ティア | …この一歩を越えてしまったら兄さんを裏切ってしまう…そう思ったら、出られなかった |
| ティア | まさかこういう形で役に立つなんて、その時は夢にも思っていなかったわ |
| ベルベット | ま、宮殿の外に出たってだけじゃ、安心出来ないわ。急いで帝都を抜けないと… |
| ベルベット | 確か…あの辺りだったわね… |
| ベルベット | … |
| ティア | … |
| ベルベット | ちょっと、あんた。どこまでついて来るつもり? |
| ティア | あんたじゃない、ティアよ。ティア・グランツ |
| ティア | 私の知りたい事をあなたが知っている気がするわ。だから、私もついていく |
| ティア | それが何なのか、わかるまで… |
| ベルベット | 邪魔なだけよ。来ないで |
| ティア | それは聞けないわ |
| ベルベット | 自分勝手ね…あんた。戦い振りといい、見た目とは大違い |
| ティア | 何とでも言って。ラザリス様に会った時、私はあなたを止めなければならないから |
| ベルベット | 邪魔するならもってのほかよ。ほら、お姫様は早くおうちに帰って── |
| | |
| ヴァン | …やはりここにいたか |
| ティア | 兄さん!? |
| ベルベット | …! |
| ヴァン | もしや地下通路を使ったかと思ったが、案の定だったな |
| ヴァン | 大方ティアを脅しつけ、無理に案内させたのだろう |
| ティア | 違うわ、兄さん!これは… |
| ベルベット | あたしが何を言ったところで、そう思うでしょうね |
| ベルベット | で、どうするの?またあたしをあそこに連れ戻すつもり? |
| ヴァン | いや、そのような煩わしい事はせん |
| ヴァン | …まさかあの時の「傷」がこのような不穏分子を生み出す事になるとはな |
| ヴァン | だが、それも過ぎた事… |
| ティア | 「傷」…?兄…さん…? |
| ヴァン | ベルベット、お前の持つ意志…それは争いの根源となり得る危険なものだ |
| ヴァン | みすみす見逃すつもりはない |
| | |
| | チャキッ… |
| ティア | …! |
| ティア | う…っ、また…… |
| ヴァン | この場で貴様を処刑するとしよう。私はラザリス様のように甘くはない… |
| ヴァン | 貴様のような存在、エンテレスティアには不要だ |
| ベルベット | 悪いけど、あんたの思惑通りにはならない |
| ベルベット | あたしはラザリスのところへ行く。誰にも邪魔はさせない…! |
| ヴァン | ならばその思いも一太刀に薙ぎ払ってくれよう |
| ヴァン | はああああっ! |
| | ガキィィンッ!! |
| ティア | そんな…っ!兄さん、やめて!! |
| ベルベット | はあああああっっ!! |
| scene1 | 揺り動かすもの |
| ヴァン | … |
| ベルベット | くっ…う… |
| ヴァン | あのような大胆な振る舞いに及ぶだけの事はある。それなりには使えるようだ |
| ヴァン | だが…私には、及ばぬ |
| ヴァン | はあああっ! |
| | ズバーーーッ! |
| ベルベット | うぐっ…! |
| ヴァン | とどめだ |
| ティア | 待って、兄さん! |
| | |
| ヴァン | そこを退くのだ、ティア。私はこの女を処刑せねばならん |
| ティア | いいえ… |
| ヴァン | そこを退け、ティア! |
| ティア | いいえ! |
| ヴァン | ティア…私に逆らうのか。あれほど従順だったお前が |
| ティア | 逆らうつもりなんてないわ。でも、殺すだなんて… |
| ティア | この人が、どんな罪を犯したと言うの? |
| ヴァン | そうか、お前は知らなかったな。その者の罪を… |
| ヴァン | その者は先の聖誕祭で、畏れ多くもラザリス様の命を狙った咎人だ |
| ティア | 咎人…!?ただの侵入者じゃなかったの…? |
| ヴァン | そればかりか、地下牢を脱獄し、お前を人質に取り逃亡を謀った。断じて許されぬ |
| ティア | それは… |
| ヴァン | 私はラザリス様の側近として、このエンテレスティアを守る義務がある |
| ヴァン | 世界の秩序を乱す咎人は始末しなければならないのだ |
| ティア | 兄さん…あのね…いえ、何て言えば。違うの…違うのよ…! |
| ヴァン | ティア? |
| | |
| ティア | まず、私は人質じゃない。自らの意志で、この人に協力したの |
| ヴァン | …! |
| ティア | それに、罪を犯したとは言え何の話も聞かずにこの場で処刑なんて許されるはずがないわ |
| ティア | そのような事はラザリス様も、決して望んでいない… |
| ヴァン | …ティア、お前は何故こやつの逃亡に手を貸したのだ。何故…! |
| ティア | …ごめんなさい、兄さん。私…どうしてもベルベットに聞きたい事があるの… |
| ヴァン | …! |
| ティア | 上手く言えないのだけど、何か心の中で引っ掛かっていてそれがもう少しでわかりそうで… |
| ティア | だから兄さん、お願い。処刑じゃなくて、別の方法を──… |
| ヴァン | … |
| ヴァン | ティア… |
| ヴァン | そう、か…お前は──… |
| ティア | …? |
| ヴァン | …ふっ、なるほど |
| ヴァン | 全ては私の幻想に過ぎなかった。お前だけは、と思ったが──… |
| ヴァン | どうやらそれすらも、私の甘えが見せた夢でしかなかったようだ |
| ティア | …?兄さん、それはどういう── |
| | |
| | チャキ… |
| ティア | 兄さん!? |
| ベルベット | ……妹にまで剣を向ける気? |
| ヴァン | 私は理想を実現するためなら、どのような犠牲もいとわぬ |
| ヴァン | そうとも…初めからこうするべきだったのだ |
| ティア | そんな──… |
| ティア | …! |
| ベルベット | ティア? |
| ティア | うっ… |
| ティア | あ…ああ…っ |
| ティア | …… |
| ティア | 兄さん……あなたは…また… |
| ヴァン | … |
| ベルベット | ヴァン、あんたを見てると、「あいつ」を思い出す… |
| ベルベット | 自分の理想とやらのために、平気で誰かを犠牲にする身勝手さ、残酷さ… |
| ベルベット | …本当、そっくり |
| ヴァン | 何とでも言うがいい。お前達が束になったところで、私を倒す事は出来ぬ |
| ティア | させない…わ…絶対に、あの時そう…私は思って… |
| ティア | いえ、そんな事…っなら兄さんとの時間は…?…どれが正しいものなの |
| ベルベット | ティア…? |
| ティア | うっ…く…でも、覚えてる。あの時の悲しみも…みんなの思いも…っ |
| ヴァン | …早くにこうしておくべきだったのだ… |
| ヴァン | 全ての憂いを、今ここで──… |
| ??? | 待て、ヴァン! |
| ヴァン | お前は…! |
| scene2 | 揺り動かすもの |
| ??? | … |
| ティア | …「白き獅子」 |
| | |
| ??? | ヴァン、この者をお前の一存で処断する事は認められない |
| ??? | 違うか? |
| ヴァン | ここにいるのは咎人だぞ |
| ??? | 例えそうであってもだ |
| ??? | 今我々が天帝から受けている命はこの者を地下牢に繋ぐ事 |
| ??? | 我らが天帝の意志を曲げる事は許されない |
| ヴァン | … |
| ??? | …剣を引け、ヴァン。引かぬのであれば、私達が相手になる |
| ??? | ロアーの言う通りだ。例え相手があんただろうが関係ねぇ |
| ??? | 筋は通させてもらうぜ。それがオレ達の流儀だ |
| ??? | ああ |
| ベルベット | …逃げるわよ! |
| ティア | えっ!? |
| ベルベット | いいから来なさい! |
| ティア | わ、わかったわ! |
| ヴァン | …! |
| ロアー | 待て、ヴァン。ここから先には行かせない |
| ヴァン | ふっ…お前達の仕事が咎人を私から逃がす事だったとはな |
| ヴァン | とんだ騎士が居るものだ |
| ロアー | いや、逃がしはしない。我々の包囲を持ってすれば追いつく事など容易い |
| ロアー | クロー、ファング、咎人は私が追おう |
| クロー | りょーかい、任せとけ。んじゃ、後で合流な |
| ファング | 宰相、今のあなたに二人を追わせるわけにはいかないんだ |
| クロー | 天帝様の意志とは関係なく、その手を汚しちまうだろうからな |
| ヴァン | …失敗は許されんぞ。必ず二人を連れ戻せ |
| クロー | ああ。オレ達「白き獅子」の名に懸けて |
| | |
| ヴァン | … |
| ヴァン | ティア… |
| scene1 | 白き獅子 |
| ベルベット | はあ…はあ… |
| ティア | はあ…はあ… |
| ティア | うっ…! |
| ベルベット | どうしたの?足でも痛めたわけ |
| ティア | いいえ…そんな事はないわ。大丈夫よ |
| ベルベット | う… |
| ティア | あなたの方こそ、私よりよほど傷ついているわ |
| ティア | 無理もないわね…あれほど兄さんの攻撃を受けたのだから |
| ベルベット | このくらい平気よ |
| ティア | 少しだけ、その岩陰で休憩しましょう |
| ベルベット | … |
| | |
| | パアア… |
| ベルベット | 傷が治っていく…あんた、こんな事も出来たのね |
| ティア | ええ、まあ |
| ティア | … |
| ベルベット | この辺りは宮殿からも見えない場所なんじゃない? |
| ティア | そうね。今まで見た事のある景色とは全然違う… |
| ティア | …本当なら、今頃この初めて見る景色に感動を覚えていたのかもしれない |
| ティア | けれど、もうそんな気分にはなれなさそうだわ |
| ティア | …兄さん… |
| ベルベット | …ちょっとあんたに聞きたいんだけど |
| ティア | 何かしら |
| ベルベット | あの「白き獅子」とかいう連中は何者なの? |
| ティア | 正式名称は「帝都騎士団」ラザリス様直属の精鋭騎士団よ |
| ティア | あの白い隊服と気高き振る舞い、獅子の如く勇猛な戦いぶりから白き獅子と呼ばれているわ |
| ティア | さっきの三人は騎士団を取りまとめる幹部… |
| ティア | 彼らの顔は、常に隠されていてあの下の本当の姿を見た者はいない… |
| ベルベット | へぇ… |
| ティア | 今までも宮殿内で何度か、すれ違った事があるわ… |
| ベルベット | ようするにラザリスの、忠実な犬って事ね |
| ティア | … |
| ティア | …私も聞いていいかしら |
| ベルベット | 何? |
| ティア | どうして一人で逃げなかったの? |
| ベルベット | …… |
| ベルベット | …ただの気まぐれよ。理由なんてないわ |
| ティア | そう… |
| ベルベット | さて。傷も治ったし、そろそろ出発するわよ |
| | |
| 騎士団員1 | 何をして…ああ、痕跡がある。行くぞ… |
| ティア | 待って!兵士の声が聞こえる… |
| ベルベット | 身をかがめて。様子を伺うわよ |
| | |
| 騎士団員2 | 咎人が逃げたのは、こっちの方だ! |
| 騎士団員1 | 手当たり次第捜せー!! |
| | ガサ…ガサガサッ… |
| ティア | …まずいわね。あの隊服…白き獅子だわ |
| ベルベット | 奴らに気付かれる前に移動するわよ |
| ティア | ええ… |
| 騎士団員1 | ! |
| 騎士団員2 | そこに誰かいるぞ! |
| ティア | 見つかった!? |
| ベルベット | ちっ…!走るわよ! |
| scene2 | 白き獅子 |
| ティア | 追っ手は撒けたかしら? |
| ベルベット | さあ、どうかしらね |
| 騎士団員1 | こっちだ! |
| ベルベット | まだ駄目みたい。しつこい連中ね |
| ティア | 山の頂上に向かっているけれど、逃げ切れるあてはあるの? |
| ベルベット | そんなの、あるわけないでしょ。あたしもこの辺りは初めて… |
| | |
| ベルベット | これは…! |
| ティア | 崖に行き止まり…ね。これ以上は進めないわ |
| ベルベット | 飛び降りるのは、さすがに厳しいかしらね |
| ティア | これだけの高さよ。私達が無事な保証なんて… |
| | |
| ロアー | そこまでだ、お前達 |
| ティア | あなたは…! |
| ベルベット | ふうん。あんたも追っ手に加わってたの |
| ティア | さっきは助けてくれたのに… |
| ロアー | 助けただと?助けたつもりなどないぞ |
| ロアー | 私達の役目は、あくまで民を守る事 |
| ロアー | そこには民が不当に虐げられぬよう目を光らせる事と共に、罪人を捕らえる事も含まれている |
| ロアー | 先ほどはヴァンの行き過ぎた行動を止めるため、あのような手段を取ったが… |
| ロアー | 咎人であるお前を捕らえ、再び牢に繋ぐのも、同じく私達の責務だ |
| ベルベット | 責務ね…嫌だと言ったら? |
| ロアー | 少々手荒な手段を取らざるを得ない |
| ロアー | 世界にとって害をなす者…咎人はその存在自体が罪だ |
| ロアー | あまつさえ天帝の命を狙い、収監されていた地下牢を脱獄し、さらには人質を取って逃走する… |
| ロアー | お前の重ねた罪は重い。しかるべき裁きを受けねばならん |
| ロアー | お前の行く手は、断崖に遮られている。もはやどこにも逃げられんぞ |
| ベルベット | …誰もあたしを裁く事は出来ないわ。断じてね |
| ロアー | あくまで逆らうか。ならば… |
| ロアー | お前達、下がっていろ |
| 騎士団員1 | はっ! |
| | |
| ロアー | 咎人、ベルベット・クラウはこの私…ロアーが騎士の名の元に捕えよう |
| ティア | ベルベット! |
| ベルベット | あんたは下がってなさい。こいつのご指名は私よ! |
| scene3 | 白き獅子 |
| ロアー | ほう、やるな。だが…! |
| | ガキィィンッ!! |
| ベルベット | ぐっ…! |
| | ガンッ、キィンッ! |
| ロアー | そろそろ諦めたらどうだ? |
| ベルベット | …っ、そっちこそね |
| ロアー | ふっ!笑わせてくれる… |
| ロアー | はあああああっっ!! |
| | ドンッ!ドンッ!ドンッ! |
| ベルベット | ぐあっ! |
| ティア | ベルベット!? |
| ベルベット | 地面から…急に…っ…妙な技を使ってくれるじゃない… |
| ロアー | 認めよう、お前は強い。だからこそ少し本気を出させてもらった |
| ベルベット | ちっ… |
| クロー | よっと、ここにいたか |
| ファング | やっと追いついたな |
| ロアー | 来たか、二人共 |
| ベルベット | まだ仲間が… |
| ティア | …っ! |
| ロアー | 既にお前の体力は限界に達していよう。私達三人を相手にするのは無理だ |
| ファング | 無駄な抵抗はよした方がいいぜ |
| ベルベット | あいにく、あたしは往生際が悪いのよ |
| ロアー | あくまで抵抗をやめないか。ならば… |
| ティア | …!今までと構えが違う… |
| ロアー | 殺しはしない。私はヴァンとは違うからな |
| ロアー | だが、無傷では済まぬ。覚悟してもらおう |
| ロアー | はああああっ! |
| ベルベット | っ!? |
| ティア | 危ない! |
| | ドゴオオオンッ!! |
| | ズ…ズズズズ…ッ |
| ファング | おい、地面が! |
| | ビシッ! |
| | ガラガラガラ…ッ! |
| クロー | 崩れるぞ! |
| ティア | !? |
| ベルベット | …ぐっ… |
| ティア | …! |
| ティア | ベルベット…っ! |
| ベルベット | あたしは、まだ戦え──… |
| ベルベット | …!くっ…! |
| | ガラガラガラガラ… |
| ティア | ベルベット──!!きゃ…っ! |
| | |
| | ズザザザザザザッ…ドシャアッ… |
| ティア | …う…っ、くぅ…お願い、間に合って…! |
| ティア | ──… |
| | |
| ロアー | …まさかあそこまで喰らいついてくるとはな |
| ファング | ロアーにここまでの力を使わせるなんて、…咎人ながらすごいヤツだ |
| クロー | ま、何にせよこの高さから落ちたんじゃ無傷じゃ済まねぇ── |
| | |
| | パアアアーーー……ッ! |
| クロー | …!何だ、あの光は… |
| ファング | くっ、眩しい…! |
| ロアー | これは…!一体崖下で何が起きて… |