| Name | Dialogue |
| scene1 | カルミナ街の食料泥棒 |
| ジュード | やあ、ジーニアス。はい、牛乳だよ |
| ジーニアス | ありがとう、ジュード。毎日精が出るね |
| ジュード | うん、仕事だからね |
| ジーニアス | それでもすごいよ。重たい牛乳を持って、街中を配達して回ってるなんて |
| ジーニアス | シャングレイスほどじゃないにしてもこのカルミナ街だって結構広いし… |
| ジュード | 確かに広いけど、最短ルートで回れば大した事ないよ。重さだってそれほどじゃないしね |
| ジーニアス | 前から思ってたけど、ジュードって見かけのわりに体力あるよね。もしかして武術か何かやってたの? |
| ジュード | ううん、何もしてないよ。慣れただけ、かな? |
| ジーニアス | すごいなぁ。本格的に武術を学んでいたら、達人になれてたかもしれないね! |
| ジーニアス | ところで、話は変わるけどさ。この前の生誕祭で見たラザリス様のお力、すごかったよね! |
| ジュード | はは、ジーニアスは生誕祭が本当に楽しかったんだね。もう毎日、あの日の話してない? |
| ジーニアス | 楽しかった以上に、感動したんだよ!ラザリス様がお力を使う姿を目撃出来たんだから! |
| ジュード | あの謎の女性の事件か…。あの時は驚いたなぁ。一時はどうなる事かと思ったよ |
| ジーニアス | でも、冷静な判断で対処してその人を簡単に捕えたラザリス様。さすがだよね… |
| ジーニアス | 年齢はボクと変わらなそうなのに、きっと精神力が強いんだね |
| ジュード | それにしてもあの女性は一体何者だったんだろう…。あんな恐ろしい事をするなんて… |
| ジーニアス | まあ、いいじゃない。ラザリス様も無事だったんだし、今日もこうしていつも通り平和── |
| ジーニアス | …じゃないんだった |
| ジュード | 何かあったの? |
| ジーニアス | 実は最近、この辺りで不思議な事が起きてるんだ |
| ジュード | 不思議な事って…? |
| ジーニアス | 何でも、机に置いてあった食べ物がいつの間にか消えたりするとか… |
| ジュード | それって、食べてしまったけど忘れちゃってるだけじゃ…。それか家族の誰かが食べちゃったとか |
| ジーニアス | うん。そう思うよね。けどそんな事が、あちこちで起きてるらしくてさ… |
| ジュード | 一件じゃないのか…確かに勘違いにしては不自然だね |
| ジーニアス | それで一応、食料泥棒の可能性があるから戸締りに気を付けようって連絡が回ってきたんだよ |
| ジュード | 戸締りは大事だよね。僕も気を付けるようにするよ |
| ジュード | また何か情報があったら教えてよ。僕にも何か出来るかもしれないから |
| ジーニアス | うん。調べておくよ |
| ジュード | ふぅ、今日の配達終わり…っと |
| ジュード | …ん? |
| | |
| ??? | … |
| | |
| ジュード | あの人、何をコソコソと…食堂から何か持って…あれって…お肉…? |
| ジュード | …!ひょっとして…ジーニアスが言ってた食料泥棒…!? |
| ジュード | …よし、後をつけてみよう… |
| scene2 | カルミナ街の食料泥棒 |
| ??? | … |
| ジュード | こんな街外れに…? |
| ジュード | ひょっとして、街の住人じゃないんじゃ── |
| ??? | おーい、食べ物持ってきたぞー |
| ジュード | …!仲間がいるのか…? |
| ??? | …あれ、おかしいな。いつもならすぐ出て来るのに… |
| ジュード | …? |
| | ミャー |
| ??? | お、来た来た。よしよし、お腹が空いただろう。今餌をやるからな |
| ジュード | …猫…の親子…? |
| | ミャアッ…! |
| ??? | ん?どうして隠れる?何を怖がってるんだ? |
| ??? | …!誰かそこにいるのか!? |
| | |
| ジュード | 見つかっちゃったか… |
| ??? | 君は…?俺に何か用があるのか? |
| ジュード | …単刀直入に聞きます。あなた、食料泥棒じゃないですか? |
| ??? | なっ…、食料泥棒だって!? |
| ジュード | 僕、見てたんです。あなたが食堂からそのお肉を持ってコソコソと出てくるのを… |
| ??? | 誤解だよ。だいいち、俺はコソコソなんか──……! |
| ??? | ああ、そういう事か… |
| ジュード | …? |
| ??? | 猫達が食べてるこの肉…。これ、食堂の残り物なんだ |
| ??? | 持ち出している事が店主にばれたら大目玉を食らうからこっそり出てきたんだけど… |
| ??? | その様子を見れば、誤解されるのも当然かもしれないな |
| ジュード | あ、という事は、食堂の人…? |
| ??? | ああ、コックとして雇われている |
| ジュード | もしかして、あなたの名前はルドガーさん…? |
| ルドガー | そうだけど…どこかで会った事あったか? |
| ジュード | いえ、初めてです。あの食堂のルドガーさんと言えば街で評判だから |
| ジュード | 若いコックだって聞いてたし、もしかしたら…と思ったんです |
| ジュード | 知らなかったとはいえ…疑ったりして、ごめんなさい |
| ルドガー | いや、気にしないでくれ。驚いたけど、誤解が解けてよかったよ |
| ジュード | 知り合えて光栄です。僕はジュード、よろしくお願いします、ルドガーさん |
| ルドガー | そんなにかしこまらなくても、ルドガーでいいよ。名探偵さん |
| ジュード | ははは…。「迷」探偵の間違いでしょ。ありがとう、ルドガー |
| ルドガー | しかし、何だか…照れるな。そんな噂になってるとは… |
| ジュード | 僕も恥ずかしいよ…そんな人を食料泥棒と勘違いするなんて |
| ルドガー | ところで、その食料泥棒の話だけど…犯人は人間なのか? |
| ジュード | えっ…どういう事? |
| ルドガー | …正体がわかってないなら、おそらく犯人はこいつらだ… |
| ルドガー | たまに、人の食べ物を取って来てここで食べてる事があるから… |
| ジュード | 何だ、猫の仕業だったのか… |
| ルドガー | 餌を持って来てやればそんな事もしなくなるかと思ってたんだけどな… |
| ジュード | でもよかったよ、正体がわかって。猫なら仕方ないけど、泥棒するような悪い人間がいたら、少し怖いもんね |
| | |
| | …ミャー |
| ルドガー | お、出てきたな。ジュードをいい人だと認めてくれたみたいだぞ |
| ジュード | はは、ありがとう。それにしても、野良猫の親子なんて、珍しいね |
| ルドガー | 子猫も小さいからちゃんと保護してやりたいんだけど、俺も食堂に住み込みの身だからな… |
| ルドガー | 店主にも打診してみたが動物は連れ込むなときっぱり言われてしまった |
| ジュード | 食堂じゃ仕方ないよ。僕も猫は嫌いじゃないんだけど── |
| | ナーオ |
| ルドガー | 何だ、急にジュードにすり寄って…えらく懐かれたな |
| ジュード | あ、僕、牛乳配達してたからその匂いがしてるのかも… |
| ジュード | …──っくしゅん! |
| ルドガー | ジュード? |
| ジュード | ごめん、大丈夫。それより、これからは僕も、時々食べ物を持ってくるよ |
| ジュード | 食堂の残り物だって、いつも出るわけじゃないでしょ? |
| ルドガー | ああ、ありがたいよ。毎日持ち出してると、いつばれるかひやひやものなんだ |
| ジュード | それから、この猫を飼ってくれる人がいないかどうか、配達のついでに聞いてみる |
| ルドガー | 俺も食堂のお客さんの中にいい人がいないか、捜してみよう |
| | ニャー |
| ジュード | よろしく…って言ってるのかな? |
| ルドガー | ははは、そうかもな |
| scene1 | 猫を助ける方法 |
| ジュード | おはよう、ジーニアス。はい、朝の牛乳だよ |
| ジーニアス | ジュード、おはよう。どう、猫達の飼い手は見つかった? |
| ジュード | うーん、毎日あちこちで聞いてみてはいるんだけど、なかなか見つからなくて… |
| ジーニアス | 猫が犯人だったって聞いた時はほっとしたけど、こう何日も飼い手が見つからないのも心配だね |
| ジュード | うん…。今でもたまに、食料をどこかの家から持ってきてるみたいだし… |
| ジーニアス | 実は昨日、うちに来たよ |
| ジュード | 何か取られたの? |
| ジーニアス | ジュードから受け取った牛乳を狙ってたんだよ。ビンを眺めながらニャアニャア鳴くから、可愛くて… |
| ジュード | はは、なるほど。いつも牛乳配達の後に会いに行くから匂いで覚えてくれたのかな? |
| ジーニアス | ボクから牛乳を取ろうなんて酷い食料泥棒だよね、全く |
| ジュード | ジーニアスも牛乳好きだもんね |
| ジュード | …やっぱり、早く飼ってくれる人を見つけないと…猫達のためにもこのままじゃよくないよね… |
| ジーニアス | うーん…ボクの家も、猫はちょっと歓迎してもらえないみたいだし… |
| ジュード | ルドガーもいろいろ当たってくれてるんだけど…一匹ならともかく親子で二匹ってなると難しいのかな… |
| ジーニアス | …そうだ!生誕祭に行った時、シャングレイスですっごくたくさんの猫を飼ってる人を見たんだ |
| ジーニアス | 確か…ココネ・ネココさんって言ったかな。その人に相談してみたらどうだろう? |
| ジュード | それいいかも!ルドガーに会ったら相談してみるよ。情報ありがとう! |
| ジュード | よし、配達も終わったし…猫の事、ルドガーに相談しに行かないと… |
| ??? | ねぇ!あなた今、ルドガーって言った!? |
| ジュード | えっ? |
| ??? | もしかして、あなたがルドガー? |
| ジュード | 違うよ。僕はジュード。ルドガーとは知り合いなんだ |
| ??? | じゃあ、ルドガーどこにいるか知らない?どうして今、食堂にいないの? |
| ジュード | えっ、食堂にいないんだ?僕もルドガーに会いに来たんだけど…えっと…君は? |
| エル | エルはエル!ルドガーっていう人の料理を食べに市都レイザベールから来たんだよ! |
| ジュード | そんな遠い街から…。まさか君一人じゃないよね? |
| エル | 大人のドウハンシャもいるし。遠かったけど、ずっとずっと歩いてやっと食べれるって思ったのに… |
| ジュード | そっか…でも食堂は営業してるよね。他の人の料理もきっと美味しいよ |
| エル | それじゃ意味ないの!みんな言ってたもん。ルドガーの料理がシコウだって! |
| ジュード | …!レイザベールみたいな遠くの街でも評判なんだね |
| エル | エルずっと待ってたのにルドガーって人、戻ってこないし。もう時間ないのに… |
| ジュード | わかった、ルドガーを捜してすぐに戻るよう伝えるよ。ここでもう少し待っててよ |
| エル | もう待てない…。早く戻らないと置いてかれちゃうし |
| ジュード | そっか…ごめんね。じゃあ、また来てあげてよ |
| エル | …うん、わかった。お願いしてみる |
| エル | じゃあエル、行くね。ありがとう、ジュード |
| ジュード | ごめんねー!ルドガーに会ったら伝えておくからー! |
| ジュード | ルドガー、食堂にはいないのか… |
| ジュード | とりあえず猫のところに行こう。あそこで待っていれば、その内、ルドガーも来るよね |
| scene2 | 猫を助ける方法 |
| ルドガー | … |
| | ミャア…? |
| ジュード | ルドガー…!何だ、先に来てたんだね |
| ルドガー | ジュード…猫を飼ってくれるって人が見つかったぞ… |
| ジュード | えっ、本当に!?でもそれにしては、浮かない顔をしているようだけど… |
| ルドガー | 子猫と親猫を、別々の人が引き取ると言うんだ。親子が引き離される形になる |
| ルドガー | このまま野良猫にしておくわけにはいかない…それはわかっているが…家族がバラバラになるのは辛い |
| ルドガー | どうすればいいのか…こいつらの顔を見ながらずっと考えていたんだ… |
| ジュード | それで食堂にいなかったんだね。あの子、ついてないな… |
| ルドガー | あの子…? |
| ジュード | さっき、ルドガーの料理を食べに来たっていう小さな女の子と食堂の前で出会ったんだ |
| ジュード | レイザベールから来たみたいだけどタイミングが合わなかったって残念がってたよ |
| ルドガー | それは悪い事をしたな。まだ食堂にいるかな? |
| ジュード | もう帰るって言ってたよ。ギリギリまで待ってたみたいだけど時間がないって… |
| ルドガー | そっか…。その小さい子、きっと家族と一緒だったんだよな |
| ジュード | 大人と一緒に来たとは言ってたけど…でも、それがどうかしたの? |
| ルドガー | いや、ただ家族との食事ってものは大切なものだから…悪い事したと思ってさ |
| | ナーオ… |
| ルドガー | ごめんごめん、今はお前の家族の問題だったな。さて、どうするか… |
| ジュード | あのさ、それなんだけど…ひょっとしたら何とかなるかもしれない |
| ルドガー | …どういう事だ? |
| ジュード | シャングレイスに、猫をたくさん飼ってる人がいるんだって。頼んでみる価値はあるんじゃないかな |
| ルドガー | なるほど、確かにいいかもしれないな |
| ルドガー | シャングレイスなら例えその人が無理でもたくさん人がいるし |
| ジュード | うん。いい飼い主を見つけられるといいよね |
| ルドガー | 別々に引き取ると言ってくれた人達には、少し待ってもらうように頼んでおくよ |
| ルドガー | お前達も、それでいいか? |
| | ニャー |
| ルドガー | 異論はないそうだ。よし、早速、明日にでも行ってみよう |
| ジュード | うん! |
| scene1 | 森と柵と侵入者 |
| ルドガー | もうすぐシャングレイスが見えてくる頃だな… |
| ジュード | 猫達、大人しいね |
| ルドガー | …俺の腕の中で寝てるよ。呑気なもんだ |
| | …ニャッ! |
| ルドガー | ん、起きたのか… |
| | ニャニャニャ! |
| ルドガー | こら、親子そろって暴れるなって。どうしたんだ突然… |
| | ニャー! |
| ルドガー | あ、おい…!お前達、どこへ行くんだ! |
| ジュード | 森に入って行った…急いで捕まえよう! |
| | |
| ジュード | あれは… |
| ルドガー | 猫…あんなにたくさん…そうか、あいつら、仲間を見つけて走り出したのか… |
| ジュード | 子猫もたくさんいて、みんなくつろいでる…。ここに住み着いてるのかな |
| ルドガー | 多分そういう事だろうな |
| ジュード | …ねぇ、ルドガー。下手に飼い主を捜すより、これでよかったんじゃないかな |
| ジュード | ここに住み着いてるって事はきっと食べ物も自分達で採って生活してるんだと思う |
| ジュード | だとしたら…人に飼われるよりも、ここで仲間達と自由に居られる方が幸せなんじゃないかな |
| ジュード | あの猫の親子にとって… |
| ルドガー | …確かに、そうかもしれないな |
| ルドガー | あいつらもあんなに生き生きと楽しそうに走り回ってるし |
| ジュード | 何だか、あっという間に馴染んじゃったね |
| ルドガー | …よし、なら決まりだな。飼うと言ってくれた人達には俺から説明しておくよ |
| ジュード | うん、ありがとう。時々一緒に様子を見にこようね |
| ルドガー | ああ、勿論──……ん? |
| ジュード | どうかしたの? |
| ルドガー | ジュード、見ろ。あの柵は… |
| | |
| ジュード | あれは…!もしかして、この森って… |
| ルドガー | 白き獅子が管理している「立入禁止区域」のようだな |
| ルドガー | こんなに近づいてしまってたとは…猫に夢中で気が付かなかったな |
| ジュード | けど、柵の中に入らなければ大丈夫だよ |
| ルドガー | 規則の上ではそうだろうが、そもそも立入禁止区域というものには近づかない方がいい |
| ルドガー | 白き獅子としても、ここまで近づいている人間を放っておくわけにはいかないだろう? |
| ジュード | それは…そうか…うん、見張りに見つかる前に離れた方がいいね |
| ジュード | それじゃあ、来た道をたどって… |
| ルドガー | …待て、ジュード。何か聞こえないか…? |
| ジュード | え? |
| | |
| 騎士団員1 | 侵入者を見つけたぞ! |
| 騎士団員2 | 急げ、逃がすな! |
| ルドガー | あれは…見張りの騎士か!? |
| ジュード | 侵入者って言ってたけど、もしかして、僕達の事!? |
| ルドガー | 早速勘違いされたらしいな…これでますます見つかるわけにはいかなくなった |
| ジュード | …!こっちに来るみたいだ。逃げよう…! |
| scene2 | 森と柵と侵入者 |
| 騎士団員1 | 侵入者はまだ見つからないのか!白き獅子の名に懸けて捜し出せ! |
| 騎士団員2 | お前達はあっちだ!俺は向こうを捜す! |
| ジュード | …行ったみたいだね。それにしても、こんなに警戒が厳しいなんて… |
| ルドガー | この様子じゃ、下手に動けないな |
| ジュード | …ねぇ、ルドガー。僕達、悪い事はしてないんだから堂々と名乗り出てもいいんじゃない? |
| ルドガー | 侵入者だと思われてるんだ…そう簡単に信じてはくれないだろう |
| | |
| ??? | そうそう。頭の固い連中じゃからのー |
| | |
| ジュード・ルドガー | うわぁっ!? |
| ??? | こりゃ、静かにせんか!せっかくほとぼりが冷めるまで、ここに身を潜めていようと思ったのに |
| ??? | そんな大声を出されたら、白き獅子の連中にあっさり見つかってしまうじゃろ? |
| ルドガー | だ、誰だ? |
| | |
| ??? | よう聞いた。自分で言うのも嬉しいが儂こそは八紘四界を股にかける大魔法使いにして大奇術師! |
| ??? | マジギギカ・ミルディン・ド・ディン・ノルルン・ドゥ!略して── |
| ジュード | マギルゥ、でしょ… |
| ルドガー | 知り合いなのか? |
| ジュード | 知り合いって言うか…前に一度、生誕祭で会って── |
| マギルゥ | おお!誰かと思えばあの時の…! |
| マギルゥ | いや~、ここで会ったが百年目!誰だか忘れたが奇遇じゃの! |
| ジュード | …ジュード、だよ。コレット達と一緒にいた…と言えば思いだせるかな? |
| マギルゥ | おお、あの両手に花の色男か!覚えておるとも。片時も忘れた事はないぞ |
| ルドガー | 何だかいい加減な事ばかり言ってるみたいだが… |
| ルドガー | 騎士団員ではないみたいだけど、一体、何者なんだ? |
| マギルゥ | 何じゃ、また聞きたいのかえ?お主も好きじゃの~。ならば仕方あるまい、もう一度… |
| マギルゥ | 儂こそは八紘四界を股にかけ── |
| ルドガー | わかったわかった!マギルゥだったな。魔法使いと言ってたか… |
| マギルゥ | チッチッチッ…「大」魔法使いじゃ |
| ルドガー | その大魔法使いが、こんなところで何をしてるんだ? |
| マギルゥ | それは…乙女のひ・み・つ…じゃ |
| ジュード | 言えないような事をしてたって事だよね?もしかして… |
| マギルゥ | そういうお主らこそ侵入者ではないのかや? |
| ジュード | ち、違うよ。僕達は偶然、近くに来ただけで… |
| マギルゥ | 儂もじゃよー。お互い侵入者騒動に巻き込まれていやはや、迷惑な話じゃのー |
| ルドガー | …しっ!また見張りが戻って来た…!息を潜めるんだ |
| 騎士団員1 | くそ、見失ったか… |
| 騎士団員2 | いや、あんな派手で奇抜な格好の女、見つけるのは難しくないはずだ |
| 騎士団員1 | ああ。あの尖った帽子は遠くからでも一目でわかる。よし、もう一度捜そう。あっちだ! |
| ジュード | 派手で奇抜な格好… |
| ルドガー | 尖った帽子の女… |
| マギルゥ | ほう~。偶然の一致とはまさにこの事じゃな! |
| ジュード | とぼけたって駄目だよ、侵入者はマギルゥなんでしょ! |
| ルドガー | つまり、白き獅子が捜していたのは俺達じゃなかったって事か |
| マギルゥ | まぁまぁ。物は相談なんじゃが…ここは一つ、互いに協力せんかの? |
| マギルゥ | お互いすねに傷を持つ者同士。悪い話ではなかろ? |
| ジュード | すねに傷って…僕達、何も悪い事はしてないよ! |
| ルドガー | ああ。むしろマギルゥを突き出して正直に話した方がいいんじゃないか |
| マギルゥ | それを連中に言ったところで、すんなり信じてもらえるかの? |
| ジュード | それは…きちんと話して調べてもらえばきっと大丈夫だよ |
| マギルゥ | どうかの?ちなみに儂は、お主らをかけがえのない仲間じゃと証言するぞ |
| ジュード | ちょ、そんな嘘… |
| マギルゥ | それに…無実を証明出来たとしてもそれまでにながーい取り調べがあるじゃろうな |
| マギルゥ | 何日か…いや、何年かもしれん…… |
| マギルゥ | 取り調べを終えた頃には職はおろか居場所も何もかも失って一生路頭に迷う事になるじゃろ… |
| ジュード | そんな… |
| ルドガー | …はあ、仕方ない |
| ルドガー | ジュード、不本意だけどここは協力しよう |
| ジュード | ルドガー、本気!?まさか、マギルゥの話に… |
| ルドガー | いや、そうじゃない |
| ルドガー | けど、俺達が怪しい事に変わりないし彼女の言うように無実を訴えてもすんなり信じてもらえるとは思えない |
| ルドガー | …今はこの場を離れよう。マギルゥを突き出すとしても、ここを出てからでも遅くない |
| マギルゥ | よくも悪くも大人の意見じゃの。そういう考え方、嫌いじゃないぞえ |
| ジュード | わかったよ…。それで、協力するって、何か策があるの? |
| マギルゥ | そ・れ・は・の──… |
| マギルゥ | ない! |
| ジュード | えぇ… |
| マギルゥ | しかーし、三人にして迷う事なしと言うじゃろう!力を合わせれば妙案も浮かぶというものじゃ! |
| ジュード | そういうものなのかな… |
| マギルゥ | さぁ、キリキリと考えよ。儂を無事に逃がすのじゃ! |
| ジュード | それって結局、自分は何もしないって事じゃ… |
| マギルゥ | 言われた事はしてやるぞ。さぁ、願いを言うがよいー! |
| ルドガー | ふざけてる場合じゃないぞ。こんな茂みに隠れていても捕まるのは時間の問題だ |
| ルドガー | 見つからない内に、隙を突いて一気に走り抜けよう |
| ジュード | …それは無理だよ |
| ルドガー | 何故だ…? |
| ジュード | ずっと観察してたけど、見張りは適当に動いてるように見えて完璧に統率が取れた動きをしてる |
| ジュード | 一瞬、隙が出来たように見える場所も、その先で必ず塞がれている |
| ジュード | 少ない人数で広い範囲を封鎖する、緻密に計算された布陣になってるよ。白き獅子…さすがだよね |
| ルドガー | そうなのか…? |
| マギルゥ | ふむ。それは困ったの!まさに魔女が通る隙もないとはー! |
| ジュード | …いや、まだ活路はあるよ |
| ジュード | 完璧に計算されてるだけに、崩すと脆い部分もはっきり見える… |
| ジュード | 例えば、あの見張りの人。あの人さえいなければ少しの間だけど、隙が出来るはずだ |
| ルドガー | 一人だけか…何とかなるか、マギルゥ? |
| マギルゥ | そこで儂に振るかー!? |
| ルドガー | 願いをかなえてくれるんだろう?奇術師と言っていたが、今何か仕込んでたりしないか? |
| マギルゥ | それならあるぞ。種も仕掛けも盛りだくさんじゃ |
| ジュード | それなら、他の人に気付かれずにあの人の注意だけ引くなんて事、出来るかな? |
| マギルゥ | それは、ちょいと難しいのー。ド派手が売りの奇術師には荷の重い話じゃが──… |
| マギルゥ | 大魔法使いなら造作もない!見ておれー… |
| | |
| | ガサガサ… |
| 騎士団員3 | …ん? |
| 騎士団員3 | な、何だ…?何か近づいて… |
| 騎士団員3 | 紙?いや、顔があるぞ…?一体、何なんだ… |
| 騎士団員3 | ひぃっ!増えた!?く、来るなぁっ…! |
| | |
| マギルゥ | ほれ、今の内に行くぞよ |
| ジュード | い、今のは…何…? |
| マギルゥ | なぁに、種も仕掛けもないただの式神という紙じゃよ。不気味で不思議で面白かろ? |
| ジュード | うん…あれは誰でも逃げるよ |
| ルドガー | この際、何でもいい。今の内に急ごう |
| | |
| ルドガー | 追手は来てないようだな。上手く撒けたか… |
| マギルゥ | ジュードの言うた通りじゃったの。使える男は儂、好きじゃぞ |
| ジュード | 僕は観察してただけだよ。上手くいったのはマギルゥのお蔭だって |
| マギルゥ | ほう、謙遜するとは…よほど自信があるのかあるいはないのか… |
| ルドガー | 二人共、森の出口が見えて来たぞ。もう少しだ… |
| ジュード | ──!危ない! |
| ルドガー | !? |
| | シュトッ! |
| マギルゥ | おろ?今帽子にサクッと何かが… |
| ルドガー | 手裏剣…!?一体どこから… |
| ??? | まさか避けられるとは…やはりただ者ではないようですね |
| ジュード | そこに誰か隠れてる! |
| ??? | …ここは通しません |
| ルドガー | くっ、白き獅子か…? |
| ??? | すず、危ないじゃないですか |
| ??? | いきなり手裏剣なんて投げつけて、あの人達に当たりでもしたら怪我させてしまいます |
| マギルゥ | いや、当たっとるぞ!儂の脳天を直撃しとるぞー! |
| ??? | 大変です!大丈夫ですか、すぐに手当てを! |
| すず | エステルさん騙されてはいけません。帽子に刺さっただけです |
| エステル | …本当です? |
| マギルゥ | ちっ、無防備に近づいたところを捕まえて人質にしようかと思うたのにのぉ? |
| すず | …!やはり凶悪な犯罪者のようです |
| エステル | でも、いきなり乱暴はよくないです。もし無関係の人だったらどうするんです? |
| エステル | みなさん、申し遅れました。わたし達はロランドファミリー。近くの村の自警団です |
| エステル | 白き獅子から侵入者の連絡を受けこの辺りの警備をお手伝いしてました |
| マギルゥ | ほう…ただの民間組織か。ならば、従わなくともラザリス様への反逆にはならんの? |
| すず | 聞きましたか。話をしても無駄なようです |
| ジュード | 待ってよ。僕達は何も言ってないし、彼らに追われてるのも誤解なんだ。全部マギルゥが… |
| マギルゥ | おおーっと、ジュードぉ?儂ら千辛万苦を共にした仲間であろう? |
| ルドガー | どうあっても巻き込むつもりか… |
| マギルゥ | 仲間は多い方が楽しかろ? |
| マギルゥ | それに、見よ。奴らの後ろ… |
| マギルゥ | 魔物じゃー! |
| すず | なっ…! |
| エステル | 魔物です!? |
| マギルゥ | それ、今の内に逃げるぞ! |
| ジュード | えっ、ちょっ… |
| ルドガー | やむを得ないな…躊躇している暇はない、行こう |
| すず | 足元にご注意を |
| ジュード | わあ!?何これ…!? |
| すず | まきびしを撒いておきました。あんな手にはひっかかりません |
| ルドガー | くっ、迂闊に動けない…! |
| マギルゥ | こりゃあ、危ないではないか!大人しく逃がさんかー! |
| | |
| すず | エステルさん。もう甘い事は言いっこなしです。このまま逃がす事は出来ませんから |
| エステル | でも、手荒な事は… |
| マギルゥ | やれやれ、火に油を注いでしまったようじゃのー |
| ジュード | 待ってよ…!逃げようとしたのは悪かったけど僕達、戦うつもりは… |
| すず | 問答無用です。あなた達は油断も隙もありません |
| すず | はっ! |
| ジュード | おっと…! |
| すず | あれを避けるとは、やはりただ者ではありませんね… |
| ジュード | ちょっ…待ってって…! |
| すず | 行きます! |
| scene3 | 森と柵と侵入者 |
| すず | くっ… |
| エステル | すず、やめてください |
| すず | いえ、それは出来ません。任務ですから |
| ジュード | お願い、もうやめてよ!僕達だって、君を傷つけたくない |
| ルドガー | 俺達は本当に何もしてないんだ。話を聞いてくれ! |
| マギルゥ | 無益な戦いは犬も食わんぞ? |
| すず | そんな甘言には… |
| すず | 乗りません! |
| | ヒュッ! |
| ジュード | わっとっと…!ほら、足元がふらついてる。無茶はやめなって… |
| すず | 敵からの情けなど無用です。これは…任務ですから…! |
| ルドガー | その任務がどんなものかは知らないが立入禁止区域に侵入したのは俺達じゃない |
| マギルゥ | そう、儂らではない。三人共、潔白じゃ! |
| ジュード | マギルゥ… |
| すず | 問答無用と言ったはずです! |
| エステル | 待ってください、すず。ちゃんとお話を伺いましょう |
| すず | そんな事をしている間にまた逃げようとするかもしれません。それに話も信じられるかどうか… |
| ジュード | そんな…もう逃げないし、ちゃんと全部話すから、せめて聞いてから判断してよ…! |
| エステル | うーん…わかりました。それでは、こうしましょう |
| エステル | みなさん、わたし達ロランドファミリーの拠点までご同行いただけませんか? |
| エステル | そこでわたし達のリーダーと会って、事情をお話してほしいんです |
| エステル | それならすずも問題ないですよね? |
| すず | …まぁ…それだったら… |
| エステル | その判断が出るまで白き獅子への報告は一旦、保留にします |
| すず | ただし、もし途中で逃げようとしたらエステルさんが何と言おうと今度こそ容赦しません |
| ジュード | …どうしよう? |
| ルドガー | 大人しく従おう。こうなった以上、荒事を避けるにはそれが一番の選択だろう |
| マギルゥ | うむ。連中に引き渡されるよりはずっとマシかもしれんの |
| エステル | 決まりですね |
| すず | それではエステルさん、先導してください。私は逃げないよう後ろから見張ります |
| ルドガー | あの子には完全に疑われてるな…リーダーが話のわかる相手である事を祈ろう… |
| ジュード | うん… |
| scene1 | ロランドファミリー |
| ロアー | では先の件、よろしく頼む。時間を取らせて済まなかったな |
| レイア | い、いえ、そんな事…!むしろ、こんなところまでわざわざ足を運んでいただいて、恐縮です |
| ロアー | そうかしこまらなくてもいい。それに、卑下する事もない |
| ロアー | リッカ村と言ったか。いい村じゃないか |
| ロアー | 君達、地元の自警団を中心に皆が助け合って生活している |
| ロアー | まさに天帝の祈りのまま、平和を体現したようではないか |
| レイア | はい。みなさんに迷惑をかけないよう自分達で出来る事は自分達でするって村のみんなで決めましたから |
| ロアー | 別に頼ってくれて構わない…と言いたいところだが助かっているのは事実だ |
| ロアー | それに最近はこの村とは関係ない場所でさえ我々を手伝ってくれていると聞く |
| ロアー | そして今回の依頼もだ。本来、我々で処理すべき事案なのにすまないが…事は急を要するのでな |
| レイア | いいえ、力になれて光栄です!みんな、喜んで協力しますよ! |
| ロアー | そうか。そう言ってもらえると助かる。では、邪魔したな |
| レイア | いえいえー。お気をつけてー! |
| レイア | ふう…緊張したー! |
| エステル | ──着きました。ここがリッカ村です |
| ジュード | へぇ…自然に囲まれた村だけど、何だかカルミナ街より活気があるね |
| すず | …褒めたからって酌量はしませんよ |
| ルドガー | はは、別にお世辞じゃないよ |
| エステル | ではみなさん、拠点へ案内します。こちらに── |
| エステル | …!あちらから来る方…まさか… |
| | |
| ロアー | … |
| | |
| ジュード | あ… |
| ロアー | … |
| ジュード | …今のって… |
| マギルゥ | 顔の見えん不審者じゃったのー。捕まえんでよいのか? |
| すず | 不審者なんてとんでもありません。あの白き隊服…誰かなんてすぐわかります |
| ルドガー | 白き獅子の幹部…その頂点とも言われているロアーか。こんなところでお目にかかれるとはな |
| ジュード | うん…話には聞いた事があったけど…神秘的な人だったね… |
| すず | …もう姿が見えなくなりましたよ。エステルさん、そろそろ拠点へ |
| エステル | あ…すみません、つい見惚れてしまって……改めてみなさん、こちらです |
| | |
| エステル | ただ今戻りました |
| レイア | あ、エステル、すず、お帰り。そちらは…お客さん? |
| すず | 立入禁止区域に侵入した可能性のある容疑者です |
| ジュード | いや、だから… |
| レイア | 容疑者…?って事は、犯人かどうかはまだはっきりしないって事? |
| エステル | はい。事情をお聞きするためにここまでご同行いただいたんです |
| レイア | なるほどね。他に変わった事はなかった? |
| エステル | ありました!さっき、そこで誰に会ったと思います? |
| レイア | ふふふ…知ってるよ。その人、誰に用事があってこの村にいたと思う? |
| エステル | まさか…!すごいです、レイア!そんな身分の高い方とお知り合いだったんですか? |
| レイア | ロアー様と会うのは初めてだよ。仕事を手伝って欲しいって、直々に依頼しに来てくれたんだ |
| マギルゥ | それは恐悦至極という奴じゃのう。他の幹部と会う事もあるのかえ? |
| レイア | それはまだだけど、この調子ならいつかはって思ってるよ |
| エステル | 世界中が憧れる存在ですよね。小さな子どもが、将来の夢は白き獅子とまで言うそうです |
| レイア | そんな人達に頼られるなんて何かこう、燃えてくるものがあるよね! |
| レイア | わたし達ロランドファミリーの活動が白き獅子に認められたんだ! |
| エステル | はい。みなさんのお役に立てている証拠だと思います |
| マギルゥ | よかったよかった、めでたしめでたしじゃ。それでは儂らはこれにて… |
| すず | 逃がしません…! |
| ジュード | マギルゥ…そういう事するとまた疑いが深くなるよ…? |
| ルドガー | 俺達は逃げない。ちゃんと話して誤解を解くためにここまで来たんじゃないか |
| レイア | よし…!じゃあ、そっちの話を聞こうか |
| レイア | …なるほど、事情はわかった。全部、猫を助けようとしてやった事だったんだね |
| すず | …カルミナ街の食料泥棒の情報は私も聞いた事があります。犯人が猫だったとは… |
| エステル | では、すずもこの方達の無実を信じるという事でいいです? |
| すず | いえ…猫の話が事実だとしても、立入禁止区域に入らなかった証拠にはなりません |
| レイア | んー、それもそうか…ジュード、その辺りはどうなの? |
| ジュード | 近くまで行った事は認めるけど、柵の中には決して入らなかったよ。入る理由もないしね |
| すず | お二人はそうかもしれませんが、マギルゥさんは?さっきから話に出てきませんが |
| マギルゥ | ぎく! |
| ルドガー | マギルゥとは、警備の人達が騒ぎ出してから出会ったんだ |
| ジュード | うん。だから僕達もマギルゥが何をしていたのかはよく知らないんだよ |
| レイア | なら事情は飛ばして、ズバリ聞くよ。マギルゥ、柵は越えたの、越えてないの? |
| マギルゥ | 迷っておったからのー。柵は越えたかもしれんし、越えてないかもしれんし… |
| マギルゥ | そういう事、誰にでもあるじゃろ? |
| エステル | 侵入者は昨日も現れたと聞いています。だからわたし達が呼ばれたわけですし… |
| ルドガー | 二日連続…どっちもマギルゥが? |
| マギルゥ | おお、そうじゃった!二日間ぐらい彷徨い続けておったのじゃ! |
| ジュード | それにしては体調がよさそうだけど…疲弊した感じもないし、顔色も── |
| マギルゥ | えーい、黙れ黙れ!証拠はあるのか、証拠はー! |
| レイア | 確かに証拠はないね。ふむぅ… |
| レイア | うん…なるほど。そっちの事情はわかったよ |
| レイア | ジュードとルドガーについては、説明も筋が通ってるし、問題ないんじゃないかな |
| レイア | というわけで、二人は釈放!疑ってごめんね。何かお詫びしないと |
| エステル | よかったですね、二人共 |
| すず | レイアさんがそう判断するなら私も信じます |
| ルドガー | いや、わかってもらえたならそれでいいよ。そっちの事情もわかるし |
| マギルゥ | よかったよかった。それでは今度こそ帰るとしようかのう |
| レイア | 待って!今のは、ジュードとルドガーの話! |
| レイア | マギルゥは…まだ怪しいよね。筋は通ってるようで通ってないし… |
| レイア | …と言っても、ロアー様が捜してるっていう咎人とは違うみたいだけど… |
| すず | …!今、何と…! |
| エステル | 咎人が出たんです…? |
| レイア | そう。ロアー様からの依頼。女性の咎人が一人、こっち方面に逃げたから情報集めてって言われてて |
| ジュード | 待ってよ。咎人って確か、人を惑わすような事を言う人の事だよね? |
| レイア | うん。ありもしない事を本当にあったかのように話して、世間を混乱させるとか… |
| ジュード | 確かにマギルゥは怪しいところもたくさんあるけど、さすがに咎人ではないと思うよ |
| ジュード | 筋は通ってないかもだけど、意味不明な事は…たまに言うけど… |
| ジュード | それで人を惑わす事も…言うね……あれ…? |
| マギルゥ | ええい、「まさか!」みたいな顔をするでないわ! |
| ルドガー | マギルゥは確かに人を惑わせるしお騒がせなところもあるけど、人を煙に巻いてるだけだ |
| ルドガー | 話に聞く咎人のイメージとはちょっと違うような気がするけど… |
| レイア | ごめんごめん、わたしもマギルゥは咎人ではなさそうって言いたかったの |
| すず | …よかったです。もしマギルゥさんが咎人だったら、わたしはラザリス様に背いた事になりますから |
| エステル | 咎人を見つけたら、その言葉に耳を傾けてはならず、誰にも接触しないよう閉じ込める… |
| ルドガー | 咎人が現れた時の緊急対応法か。ラザリス様直々のお言葉だったな |
| エステル | はい。でも、よく考えると難しい事かもしれませんね。話も聞かずに判断というのは… |
| レイア | 咎人の言葉は人を惑わせるって言うからね |
| ルドガー | ラザリス様が仰るぐらいだ。マギルゥのように人を煙に巻くのとはまた違った意味じゃないかな |
| マギルゥ | 何にしても儂は咎人ではないのじゃ。もうよかろう? |
| レイア | ダ~メ。侵入の事に関しては、結局、何も説明してくれてないよね。そこはっきりするまでは帰せないかな |
| マギルゥ | 何も説明する事はないんじゃがのー |
| レイア | でも、それじゃ疑いも晴れないし、その間はここにいてもらうしかなくなっちゃうよ? |
| マギルゥ | 三食昼寝付きならいくらでもいてやるぞー |
| レイア | 食事は出すけど…仕方ないね。じゃあどこか部屋を…鍵を掛けられるのは地下倉庫かな? |
| マギルゥ | 倉庫じゃとー!?こんなか弱い乙女をそんなところに閉じ込めるというのかー! |
| レイア | すず。案内してあげて |
| すず | 了解しました。こっちです |
| マギルゥ | は~な~せ~!魔女さらい~! |
| ジュード | いいのかな…悪い人ではないと思うんだけど |
| ルドガー | 気の毒ではあるが、疑いがある以上、仕方ないだろう。善人と言い切れないのも事実だしな |
| レイア | 悪いようにはしないよ。事情があるなら、それもきちんと聞いた上で考えるから |
| レイア | それはそうと、二人共、もう日も暮れるし、今日はこの村に泊まって行くんでしょ? |
| レイア | よかったら、ここの客室を貸すけどどうかな?ベッドもふかふかだよ |
| ルドガー | いや、そこまでの気遣いは… |
| レイア | まぁまぁ、遠慮しないでよ。それで、出来たらなんだけど… |
| レイア | ルドガー、ご飯作るの手伝ってくれない? |
| ルドガー | あぁ、それは構わないけど… |
| エステル | レイア、ルドガーの料理食べてみたいってずっと言ってましたもんね |
| ルドガー | ずっと…? |
| レイア | あはは。実は噂はかねがね…カルミナ街のルドガーって言えばこの村でも有名だよ |
| ルドガー | ちょっと照れくさいな…わかった、今夜はお言葉に甘えるよ。食事の用意も手伝おう |
| レイア | やった!じゃあ早速、厨房に案内するね |
| ジュード | あ、僕も手伝うよ |
| エステル | 今夜は、いつもより一層、賑やかになりそうですね |
| エステル | わたしも手伝います! |
| | |
| ジュード | ふぁ…よく寝た |
| ルドガー | おはよう、ジュード。朝食の用意出来てるぞ |
| ジュード | ありがとう。朝食もルドガーが作ってくれたんだ |
| ルドガー | ああ。朝から出かけるからってレイアに弁当をねだられてね。そのついでだよ |
| ジュード | 人気のコックも大変だね。昨日の夕食も、結局ほとんどルドガーが作ってたし… |
| ルドガー | いや、喜んでもらえるならどうって事ないよ |
| ルドガー | それに…俺は、ああしてわいわいと大勢で食卓を囲む姿を見るのが好きなんだ |
| ルドガー | まるで家族のように仲のいい彼女達が俺の料理を美味しい美味しいと喜んで食べてくれているのを見ると… |
| ルドガー | 心に空いた穴が埋まっていくような不思議な気持ちになる… |
| ジュード | 心に空いた穴…? |
| | |
| ルドガー | 上手く言えないんだけど…これは義務感に近いかもしれないな |
| ルドガー | 使命感と言い換えてもいい。誰かに料理をふるまう事を約束したような気がして落ち着かないんだ |
| ルドガー | そんな約束をした記憶もないし、誰に何を食べさせたいのかもわからないんだけどな |
| ジュード | 使命感か…変な話だけど、ちょっとうらやましいかも |
| ジュード | 僕には、そういうどうしてもやらなきゃって思う事、特にないから… |
| | |
| ルドガー | … |
| ジュード | そういえば、マギルゥはどうなったのかな? |
| ルドガー | レイアが言うには、事情を話すどころか寝床を整えたりしているそうだ |
| ジュード | 住みつく気なのかな…何がしたいんだろう? |
| ジュード | 昨日も何だか変なはぐらかし方をしてわざと捕まってるようにも思えたし… |
| ルドガー | さぁ…。彼女に関しては言動が全く読めないから、何とも… |
| | |
| | ドォォォォォンッ! |
| ジュード | な、何…!? |
| ルドガー | 外が騒がしい。何かあったのか… |
| ジュード | 窓の外見て、ルドガー!村の中に魔物の群れが… |
| ルドガー | それだけじゃない!あそこで煙が上がってる…火事じゃないか!? |
| エステル | た、大変です!魔物の群れが… |
| ジュード | うん、わかってる。ねぇエステル、遠くだけど火も上がってるし、マギルゥも… |
| エステル | …!このままじゃ危ないですね…!わたし、お迎えにいきます! |
| ルドガー | 何があるかわからない。俺達も行こう、ジュード! |
| scene2 | ロランドファミリー |
| ルドガー | …!魔物がこんなに…! |
| マギルゥ | おーおー、圧巻じゃのー |
| ジュード | 村のみんなは大丈夫!? |
| エステル | わたし、様子を見てきます。みなさんは安全なところへ避難してください |
| ジュード | いや、手伝うよ。僕、治癒術も使えるからきっと役に立てると思うし |
| エステル | ですが… |
| ジュード | こんな状況なのに、自分達だけ安全なところに避難するなんて出来ないよ |
| ルドガー | 俺もだ。それにレイアが出かけている今、人手が必要だろう |
| マギルゥ | 仕方ないのう、儂も手伝うわい。ただし…この恩義、忘れるでないぞー |
| エステル | ありがとうございます。とても頼もしいです |
| エステル | 既に、すずが村の人達の避難誘導に動いてくれています |
| エステル | わたし達は手分けして逃げ遅れた人や怪我人がいないか見て回りましょう |
| ジュード | うん、わかった。急ごう |
| ジュード | たあっ! |
| | バシィッ! |
| | ギャウッ! |
| ジュード | ふぅ、何匹か倒したけど、まだまだいるな… |
| ジュード | でも村人達の避難はほとんど終えてるみたいだ…人っ子一人いない。さすが、すずだね |
| すず | ロランドファミリーは自警団。その一員として当然の仕事です |
| ジュード | すず…! |
| すず | 逃げ遅れた人かと思ったらあなたでしたか…お怪我もないようで、何よりです |
| ジュード | そっちは大丈夫?怪我があるなら、すぐ治療を… |
| すず | いえ、平気です。魔物も数は多いですが、私も手数の多さには自信があります |
| すず | 魔物は私に任せて、ジュードさんは消火活動を。村の食料庫が燃えているらしいので |
| ジュード | うん、わかった |
| ジュード | ここが食料庫…!酷い燃え方だ、早く消さないと… |
| マギルゥ | おお、ジュードではないか!よいところに来た! |
| ジュード | マギルゥ! |
| マギルゥ | 急げ!消火じゃ、消火!ここが燃えたら居候の儂らは飯にありつけんようになるやもしれん |
| マギルゥ | ほれ、水をじゃんじゃん持って来い!ザバザバぶっかけよ! |
| ジュード | う、うん…! |
| | |
| ジュード | ふぅ…何とか火は消し止めたかな… |
| マギルゥ | な、中は…?儂らの食料… |
| ジュード | 駄目だよ、マギルゥ!食料庫に入っちゃ!崩れ落ちるかもしれないよ!? |
| マギルゥ | かっはぁ…!黒焦げじゃあぁぁ…! |
| ジュード | まぁ…自分が無事だっただけよしとしようよ…村の火事も収まったみたいだし |
| マギルゥ | いや、諦めるのはまだ早いぞ。無事な食べ物を探し出しておけば自警団の連中も儂を見直すじゃろ |
| マギルゥ | 儂は食料庫を調べておるから、村の事、後は任せたぞ! |
| ジュード | マギルゥがあんなに必死に… |
| ルドガー | ジュード!そっちはどうだ、無事か? |
| ジュード | うん。火も消し止まったとこ。ルドガーは? |
| ルドガー | 俺は大丈夫だけど、逃げ遅れた怪我人を見つけたんだ。動かせないほど酷いんだ、治療を頼む |
| ジュード | …!わかった、すぐ行くよ! |
| scene3 | ロランドファミリー |
| ルドガー | こっちだ |
| ジュード | 大丈夫ですか!? |
| 村の男 | あ、あんた…!治療出来るって人だろ?頼む、この子を助けてくれ…! |
| ジュード | 大変だ、すぐ治療します。あなたは大丈夫ですか?その顔の傷は… |
| 村の男 | こいつぁ元々ある古傷だ。今更治療なんていらねぇよ。それよりこの子…意識がねぇんだよ |
| 男の子 | ぅ…うぅぅ… |
| ジュード | …傷が深い。脈は……まずいな… |
| ジュード | 時間がかかるかもしれません。その間、声をかけ続けてください |
| ルドガー | ジュード、手慣れてるな。医学の心得が? |
| ジュード | え…いや、見よう見まねだよ。だから大した事は出来ないけど、命だけは助けるから… |
| ルドガー | 酷いのか…? |
| ジュード | 大丈夫…絶対治してみせるから… |
| | |
| すず | やあっ! |
| | グギャァアッ! |
| すず | …ふぅ。魔物はだいたい片付きましたね |
| エステル | すず、怪我はないです? |
| すず | エステルさん、ご心配には及びません。あの数だったので疲れはしましたが… |
| エステル | 無理は禁物です。少し休んでください |
| すず | いえ、そうはいきません。一匹、取り逃がした魔物がいます。まだ村の中にいるかもしれないので |
| エステル | …確かにそれは心配ですね。わかりました、わたしも行きます |
| | |
| ジュード | はぁ…はぁ…ここが正念場だ…あと少し… |
| ルドガー | ジュード、顔色悪いけど大丈夫か…?少し休んだ方が… |
| ジュード | 今、手を放すわけにいかないんだ。この子の意識が戻るまでは集中し続けないと… |
| ジュード | 僕が休んだら、ここまでの治療が無駄になるかもしれない…! |
| ルドガー | …わかった。ならここは任せた。俺はエステル達の様子を見に行くよ |
| ジュード | うん、お願いするよ。この子は僕が絶対に助けるから…! |
| | |
| ルドガー | …ジュード…優しい奴だな。弱音も吐かず、あんなに献身的に頑張って… |
| | ガサガサ… |
| ルドガー | …!何だ…?あの辺りの茂みが動いたような… |
| | グルル… |
| ルドガー | 魔物…!?まだ残ってたのか… |
| エステル | ルドガー!無事です? |
| ルドガー | エステル、すず…! |
| すず | 最後の一匹、ここにいましたか…! |
| | ガウウ… |
| | ダッ── |
| エステル | 逃げました! |
| ルドガー | まずい!あっちにはジュードと怪我人が… |
| すず | …!行きましょう! |
| | |
| ジュード | はぁ…はぁ…くぅ…集中力が…でも、まだ…手を放すわけには…! |
| | ガルルルル! |
| ジュード | えっ…? |
| ルドガー | ジュード、魔物だ!避けろっ…! |
| ジュード | なっ…!うわあぁっ!? |
| | グオオッ! |
| ジュード | ──っ! |
| | ザシュッ! |
| 村の男 | ぐああっ!? |
| ジュード | おじさん!?そんな、僕を庇って…! |
| ルドガー | はああっ! |
| | ズバッ! |
| | ギャウウッ! |
| | |
| すず | 魔物は仕留めましたか… |
| エステル | ですが… |
| ジュード | おじさんが…!顔から血が出て… |
| 村の男 | くっ…お、俺は大丈夫…ちょいと古傷が開いただけだ…それより…せがれを頼む…! |
| エステル | その子意識がないんです?ジュード、わたしも手伝います! |
| ジュード | もう少しだ… |
| 男の子 | うぅ…ん… |
| ジュード | 意識が戻った…! |
| エステル | ああ…!よかったです…! |
| 男の子 | あれ…お父ちゃんは…? |
| ジュード | 大丈夫。お父さんの怪我もすぐに治すからね |
| 村の男 | …!?うぅ… |
| ジュード | …おじさん…? |
| 村の男 | … |
| 村の男 | …これは…どうした事だ、俺は… |
| ジュード | どうしたの、おじさん?じっとしてて。早く治療を… |
| 村の男 | それどころじゃない。それより…どうして今まで…! |
| 村の男 | 俺はいつここへ…そうだ、戦争はどうなったんだ? |
| ルドガー | …戦争? |
| エステル | 何の事を仰ってるのでしょうか… |
| 村の男 | 何って、戦争だよ!あんな大きな戦争を知らないのか?ほら、この顔の傷だってその戦争で… |
| 男の子 | お父…ちゃん…?どうしたの…? |
| すず | … |
| 村の男 | それにこの辺りは…あの結晶がない…ここはまだ安全な場所…なのか…? |
| エステル | あの、お気を確かに。落ち着いてください |
| 村の男 | …!あ、あなたは…!エステリーゼ様…!? |
| エステル | はい…? |
| ジュード | …エステリーゼ、様…? |
| 村の男 | どうしてこんなところに── |
| すず | …! |
| | ガシッ |
| 村の男 | ──うぐっ!?な、何をする…! |
| エステル | すず!?何を…! |
| すず | みなさん落ち着いて聞いてください。この人は…咎人です |
| ジュード | まさか…!? |
| すず | エステルさん、この方の言葉、理解出来ましたか? |
| エステル | いえ…何の事か、わたしには… |
| すず | 咎人の言葉は人を惑わせる…今、エステルさんを惑わせた言葉こそまさしく咎人の証…! |
| すず | ラザリス様のお言葉通り、誰にも接触しないよう閉じ込めねばなりません |
| 村の男 | おい、やめろ、違う!意味がわからないのはお前らだ。どうしてこんな事になってるんだ! |
| すず | お静かに。咎人の言葉は聞いてはいけない…これ以上の発言は慎んでください |
| 村の男 | なっ… |
| エステル | すず…!咎人とはいえ、あまり手荒な事は… |
| すず | 取り押さえているだけです。静かにしていてくれれば、これ以上の事はしません |
| ジュード | …ねぇ、すず。その人だけどさ…本当に捕まえちゃうのかな… |
| ルドガー | ジュード…よせ… |
| ジュード | だって、僕の事を助けてくれた人なのに!息子想いの、優しい人なのに! |
| エステル | ジュード…お気持ちはお察しします。けど…咎人は咎人ですから… |
| ジュード | そんな… |
| ルドガー | ジュード、諦めた方がいい。ラザリス様の言葉に逆らってくれと頼んでいるようなものだから |
| ルドガー | それに…君よりずっと辛い想いをしてる人がいる事も忘れちゃいけない |
| ジュード | あ… |
| 男の子 | …お父ちゃん… |
| 男の子 | ぐすっ…ぅ…ラザリス様のため…お父ちゃん…うぅ… |
| ジュード | … |
| 村の男 | くっ…血も涙もねぇのかよ |
| すず | 黙ってください。決まりですから |
| 村の男 | くっ…! |
| すず | この人はロランドファミリーで預かります。地下倉庫に閉じ込め、白き獅子を呼びましょう |
| エステル | そうですね…マギルゥはどうしますか? |
| すず | …客室で見張りましょう。そもそもマギルゥさんが逃げず、大人しく戻ってくれれば、ですが |
| ジュード | … |
| | |
| ジュード | …鍵がかかってる。ここだね… |
| ジュード | おじさん…聞こえる? |
| 村の男 | …!その声は、あの時の…助けに来てくれたのか? |
| ジュード | いや…あの…あの時のお礼をちゃんと言いたくて… |
| 村の男 | そんな事はもうどうでもいい。なぁ、あの子…俺の息子はどうなった? |
| ジュード | あの子ならもう大丈夫です。すっかり元気になりました |
| 村の男 | そうか…ありがとうよ… |
| 村の男 | なあ、あんたも俺が人を惑わす悪い人間だと思うか? |
| ジュード | いえ、そんな事は… |
| 村の男 | だろ?お願いだ、ここから出してくれ |
| 村の男 | このままだと俺は、シャングレイスまで連行される。あの子に会えなくなっちまうんだ… |
| ジュード | 出来る事ならそうしてあげたいけど…でも、あなたは咎人で── |
| 村の男 | 咎人なんか知ったもんか!大体、咎人って何なんだ!? |
| 村の男 | この国は何か変だ…!そもそもエンテレスティアなんて国…一体いつから… |
| 村の男 | 人を惑わせるだって…?戸惑ってるのはこっちだ… |
| ジュード | おじさん…僕は… |
| ジュード | ……ごめん |
| 村の男 | ま、待ってくれ!行かないでくれよ!おい…! |
| | |
| ルドガー | …ジュード。やっぱりここにいたのか |
| ジュード | ルドガー!?あの、これは… |
| ルドガー | 地下倉庫の鍵を持ち出しただろう? |
| ジュード | ばれてたんだ… |
| | |
| ジュード | ルドガー…僕は…どうすればいいんだろう… |
| ジュード | ラザリス様は信じてる…けど…あの人は命の恩人なんだ |
| ルドガー | 咎人を相手に取るべき対応…そんな事は、言うまでもなくジュードだってわかっているだろう? |
| ルドガー | それでも悩むのは、君の気持ちがあの人が咎人になったっていう結果を受け止めきれていないから…違うか? |
| ジュード | … |
| ルドガー | …ジュード。君は優しいし、あの人に同情する気持ちもわかる… |
| ルドガー | けど、その考えは現実から目を背けているだけだ |
| ジュード | 僕は… |
| ジュード | おじさんを見捨てたくはない…けど、ラザリス様を裏切る事なんてしたくない |
| ルドガー | ジュード… |
| ジュード | 頭ではわかってるんだ。おじさんは咎人になってしまった…。白き獅子に引き渡すべきなんだって |
| ジュード | けど同時に、そうしなくて済むのならどんなにいいだろうって考えてしまう… |
| ジュード | ルドガー、僕は…自分がどうすればいいのかわからないんだ…! |
| ルドガー | …ジュード。その答えは俺には出せないよ |
| ルドガー | やるべき事はわかってるのに悩むっていうのは、君の気持ちの問題なんだと思う |
| ルドガー | 気持ちの問題に答えを出せるのは、君自身だけ…どうするべきかは自分で決めるんだ |
| ルドガー | 仮に俺が答えを言ったところで、君の気持ちが納得出来なければ結局、後悔が残るだけだからね |
| ルドガー | 辛い選択だとは思うが…現実と、何より自分の気持ちと、きちんと向き合うんだ |
| ジュード | … |
| ジュード | 僕は…僕の、選択は… |
| ジュード | …ルドガー…これ… |
| | チャリ… |
| ルドガー | ジュード?この鍵は…どういう… |
| ジュード | ルドガーを信じる事が僕の選択…ていうのは、駄目かな… |
| ルドガー | それは選択じゃない。流されているだけだ |
| ジュード | …ごめん |
| | |
| ルドガー | ジュード… |
| ルドガー | … |
| scene1 | やるべき事、やりたい事 |
| ジュード | はぁ…昨日はあんまり眠れなかったな。疲れてるはずなのに… |
| マギルゥ | どうしたどうした。冴えない面して、色男が台なしじゃぞ |
| ジュード | その色男って言うの、そろそろやめてくれないかな…全然そんなのじゃないし |
| マギルゥ | 話は聞いたぞ。この村で咎人が出たらしいのー。それもお主の命の恩人じゃとか |
| ジュード | …その話はしたくない |
| マギルゥ | レイアも大変だったようじゃぞ。昨晩、疲れて帰ってきてみれば村はボロボロじゃし、咎人はおるし |
| マギルゥ | まさに目の回る忙しさ!ルドガーの夜食を食べる暇もなかったと聞くぞ |
| マギルゥ | そのルドガーも、村の連中にせがまれて、料理をふるまいにあちこち奔走しとるのじゃとか… |
| ジュード | …何が言いたいの? |
| マギルゥ | 思い悩む暇があるのは幸せ、という事じゃよ |
| ジュード | マギルゥは、人の痛みとか苦しみって考えた事ないの? |
| マギルゥ | さぁのー。儂にとってはどーでもいい事じゃ |
| ジュード | そんな言い方…まるで人の気持ちになんて関心ないみたいだよ… |
| マギルゥ | 魔女じゃからのー |
| マギルゥ | それに言っておくが、これは別に悪い事ではないのじゃぞ |
| マギルゥ | どーでもよいと思える方が、くだらん事で悩むより、ずっと人生を楽しめるものじゃ |
| ジュード | 僕にはそんな風に思えないよ。どうでもいい事なんてないからこうして悩んでるんじゃないか |
| マギルゥ | 人は気付かぬ内に、どーでもよい事に捉われる生き物なんじゃて… |
| マギルゥ | そうじゃ、どーでもいい事がどーでもよくなるまじないの呪文を教えてやろうかの? |
| ジュード | いいよ、そんなの… |
| マギルゥ | まぁまぁ、物は試しじゃ。よいか?こうして足を曲げて、マギン──… |
| ジュード | もう、いいって…僕、部屋に帰るから |
| マギルゥ | おー、思春期という奴かの。難しい年頃じゃな |
| マギルゥ | …とにかく、こうなってしまえばレイアからの初任務は失敗じゃの |
| マギルゥ | はぁ、せっかくロランドファミリーに加入したというのに、先が思いやられるわい… |
| | |
| ジュード | はぁ…どうでもいい、か…。そうだよね、普通は咎人の事なんて心配する方がおかしいんだし… |
| | コンコン |
| ??? | ジュード、あの… |
| ??? | 少し、よろしいでしょうか? |
| ジュード | その声は、エステルとすず?どうぞ、入って |
| エステル | お邪魔します |
| ジュード | あれ…何か甘い匂いが… |
| すず | 実はエステルさんと二人でお菓子を作りました。よかったら食べてください |
| ジュード | そうなんだ。ありがとう…クッキーか。いただくよ |
| エステル | お口に合うといいのですが… |
| ジュード | …ん、美味しい。サクサクした歯ごたえにバターのいい香りがする |
| エステル | わあ、よかったです! |
| すず | 元気、出ましたか? |
| ジュード | …え? |
| ジュード | そっか…元気づけようとしてくれたんだ… |
| ジュード | マギルゥにも言われたしそんなに落ち込んで見えてたんだね |
| すず | 元気出してください。あんな事があれば悩むのもわかりますが… |
| エステル | わたし達に出来る事があれば言ってください |
| ジュード | ありがとう、二人共。その気持ちだけで十分だよ |
| エステル | よかった…レイアも心配してたんですよ。こんな任務を発令するぐらい |
| すず | エステルさん…!任務の事は… |
| ジュード | 任務…? |
| | |
| ジュード | レイア、どういう事?僕を元気づける任務なんて… |
| レイア | ごめん、どうしても気になってさ。気に障ったなら謝るよ。ほんと、ごめん! |
| ジュード | そうじゃなくて…ロランドファミリーがそんな事に人員を割いてていいの? |
| ジュード | 村の復興とか、もっと優先してやる事がいろいろあるでしょ? |
| レイア | …何言ってるの? |
| ジュード | 何って…だから焼けた食料庫を立て直したり… |
| レイア | 心の修復は、食料庫の修復なんかよりよっぽど優先すべきだと思いますけど? |
| ジュード | でも、僕一人のための事より村のみんなのために動くべきで… |
| レイア | むむむ…あのね、ジュード。「村のみんな」なんて人はいないんだよ |
| レイア | わたし達は、村の一人一人のために出来る事なら何でもやるの。そこにはジュードも入ってる |
| ジュード | レイア… |
| ジュード | …そっか、すごいな…レイア達はやるべき事を考えて、きちんと選んで動いてる… |
| ジュード | 僕も、そんな風になれたら… |
| ジュード | … |
| ジュード | ねぇ、レイア。お願いがあるんだけど… |
| レイア | ん? |
| | |
| レイア | …というわけで、ジュードのロランドファミリー加入を認めたいと思うんだけど、どうかな? |
| エステル | 賛成です。ジュードは昨日も、消火活動の手伝いに魔物退治、負傷者の治療と大活躍でしたから |
| すず | 私も異存はありません。マギルゥさんの方はまだ賛成ではありませんが… |
| マギルゥ | 何とでも言うがよいわ。入ったもん勝ちじゃ。入れた方が悪いのじゃ |
| ジュード | そんな事言われたら僕も入り辛くなるんだけど… |
| ジュード | というか、マギルゥはいつの間にロランドファミリーに加入していたの? |
| マギルゥ | 昨晩、レイアに頼み込んだのじゃ。儂もリッカ村の力になりたいと思ってのー |
| レイア | 消火を手伝ってくれた上に、村のために燃え跡から使える食料を探し出してくれたって聞いてね |
| レイア | お蔭で十分な食料も確保出来たし、悪い人じゃないってわかったならそれでいいと思って |
| マギルゥ | ジュードこそ、急にファミリーに入れてくれとは…ははーん…わかったぞ… |
| マギルゥ | 思春期の男が持つ熱き魂が女だらけの禁断の花園に導かれたというわけじゃな~? |
| ジュード | そ、そんなんじゃないから…! |
| レイア | 別に禁断でもないからね。たまたま女の子ばかりなだけで、男の子も大歓迎だから! |
| ジュード | 僕はただ…レイア達みたいに、自分のやる事をちゃんと決めたいって思ったんだ |
| ジュード | 昨晩の事も、結局、僕自身の意志では何も… |
| レイア | ん、昨晩何かあったの? |
| ジュード | あ、いや、今のは独り言。忘れて |
| マギルゥ | … |
| ジュード | とにかく僕は、みんなみたいにやるべき事を自分で決めたいって思ったんだ |
| ジュード | その初めの一歩として、ファミリーに入る事を自分で決めたんだけど… |
| マギルゥ | 自分探し、という奴じゃな。若いのー、青いのー |
| ジュード | 駄目かな…?こんな動機じゃ… |
| レイア | ううん、駄目なんて事ないよ。別に面接してるってわけじゃないんだしね |
| エステル | はい。歓迎します。ね、すず |
| すず | はい |
| レイア | というわけで、改めてよろしくね、ジュード |
| ジュード | うん、こちらこそ |
| レイア | 男手があると便利な時も多いしね。いろいろあてにすると思うけど、いいかな? |
| ジュード | うん。何でも言って |
| レイア | じゃあ早速。これから村の人の依頼で、買い物に行くんだ |
| レイア | 量が多いから、わたし一人じゃ大変で。付き合ってもらえるかな? |
| ジュード | わかった |
| レイア | よおし、じゃあ初仕事、張り切って行きましょう! |
| エステル | いってらっしゃい |
| すず | お気をつけて |
| scene2 | やるべき事、やりたい事 |
| ジュード | それにしても、買い物の手伝いまで任務だなんて… |
| レイア | 言ったでしょ。村の一人一人のために出来る事なら何でもやるって |
| レイア | 依頼主は足の悪いおばあちゃんでね。たまにまとめて買い出しをしてあげてるんだ |
| ジュード | 出来る事なら何でも…か… |
| レイア | ジュード、暗い顔は禁止! |
| ジュード | えっ…? |
| レイア | みんなの笑顔を守るのがわたし達の仕事なのに、わたし達が笑ってないでどうするの |
| ジュード | …そっか。そうだね |
| レイア | そうそう。いい顔してないといい買い物は出来ないんだからね |
| ジュード | うん…そう…だね…?え、顔と買い物、関係ある? |
| レイア | おじさーん!このリンゴ、たくさん買うからちょっとまけてくださーい! |
| 店主 | お、レイアちゃんか。今日も元気いいねぇ。よし、目いっぱい安くしちゃおう! |
| レイア | …ほらね? |
| ジュード | あはは、さすが |
| 店主 | おっ、そっちの兄ちゃんも確か昨日、何かと頑張ってくれたって人だよな? |
| ジュード | え、僕? |
| 店主 | みんな感謝してるよ。こいつもおまけだ、持っていきな |
| ジュード | いや、そんな、大した事してませんから… |
| 店主 | まぁまぁ、遠慮しなさんな。これは俺の気持ちなんだ。迷惑でなきゃ受け取ってくれよ |
| ジュード | でも… |
| レイア | おじさん、ありがとう!よかったじゃない、ジュード。もっと喜びなよ |
| ジュード | そうだね。ありがとうございます |
| 店主 | いいって事よ。しばらくこの村にいるのかい? |
| レイア | ふふふ、実はね。何を隠そう、ジュードは今日からロランドファミリーの一員なんだよ! |
| 店主 | へぇ、そいつぁいいや!村のみんなもきっと喜ぶぜ!よろしくな、兄ちゃん! |
| ジュード | うん…よろしくお願いします |
| ジュード | いいのかな… |
| レイア | 何が? |
| ジュード | あんなに感謝されるほど、僕は立派な事はしてないよ。僕は僕に出来る事をやっただけで… |
| レイア | うーん、それでいいんじゃないかな |
| レイア | 出来る事をやっただけ…ジュードは謙遜して言ってるけどそれが一番大事だと思うよ? |
| レイア | 出来る事なら何でもやるって言ったのは、別に、もっとやれるって意味じゃなくて… |
| レイア | 一生懸命にやってれば何とかなるから元気出して頑張ろう! |
| レイア | …って、それだけの事なんだよ。特別な事なんてわたし達も何もやってないから |
| レイア | だからジュードは、それでいいと思うよ、わたしは。褒められたんだから、胸を張りなって |
| ジュード | わかった。褒められた事は素直に受け止めるよ。けど、胸を張る事は、出来ないかな… |
| レイア | …何かあったの? |
| ジュード | うん…実は… |
| | |
| レイア | そっか、ジュードにとっては命の恩人が捕まってる状況なんだね… |
| ジュード | 怒られるかもしれないけど…昨晩、僕、地下倉庫の鍵を持っておじさんのところに行ったんだ… |
| ジュード | けど、結局、開けられなかった…出来る事を僕はやらなかったんだ… |
| レイア | ジュード… |
| ジュード | …ねぇ。レイアはあの、咎人になった人の事、どう思ってる? |
| レイア | んー…わたしの立場でこんな事言うと、おかしいんだけど… |
| レイア | 命の恩人の事が気がかりだっていうジュードの気持ちも理解は出来るよ |
| レイア | けど、咎人となると、やっぱり別かな…どんないい人でも、咎人は、その… |
| ジュード | …いいよ、レイア。わかってる。だから悩んでるんだ… |
| ジュード | 咎人は放っておいちゃいけない…閉じ込めて、ちゃんと白き獅子に通報する… |
| ジュード | けど…僕にはおじさんのために出来る事は何もないのかなって… |
| レイア | …ジュード。ちょっと寄り道してもいいかな |
| ジュード | え…?うん… |
| | |
| レイア | 着いた。あそこに見える家、わかる? |
| ジュード | あ…あそこにいる男の子、昨日の…じゃあ、もしかして… |
| レイア | そう。咎人になったおじさんの家 |
| ジュード | …あの子…やっぱり、元気ないね… |
| レイア | うん。元気出してもらいたくて、わたし、声かけてみたんだけどね… |
| レイア | あの子が落ち込んでる原因を取り除いてあげる事は出来ないから… |
| レイア | どーしようもない事、なんだけどさ。だからって諦めたくないじゃない |
| レイア | でも、すごく悔しいけど…やっぱり難しいね |
| レイア | 何かを大事にすると、他の何かがやり辛くなったりしてさ… |
| ジュード | …どっちも大事にしたい時はどうすればいいんだろう…? |
| レイア | んー、わかんないけど、とにかく、くよくよしてるのはよくないよね |
| レイア | 悩んで落ち込んでるだけじゃ本当に大事にしたい事までどーにもならなくなっちゃうよ |
| レイア | だからわたしは、せめて出来る事だけは悔いのないよう全力投球するってわけ |
| レイア | ロランドファミリーを作ったのもそのためなんだよ。仲間がいた方が出来る事はもっと多くなるから |
| ジュード | …すごいね、レイアは。どんな事があっても、前向きに考えて進んでるんだ… |
| レイア | まぁ、わたし、じっと考えるよりとにかく動きたい方だからね |
| レイア | 悩むにしても、動きながら悩むようにしようって、自分に言い聞かせてるんだ |
| ジュード | 答えを出さないまま動くなんて…失敗が怖くはないの? |
| レイア | うーん、そうだなぁ…勿論、失敗もするし、こうしておけばよかったって思う事もあるよ |
| レイア | でも、反省はしても、後悔はしないようにって思ってる。それは自分で決めた事の結果だから |
| レイア | って言ってても、後悔する事もしょっちゅうだけどね。昨日、村にいなかった事とか、あと… |
| ジュード | …レイアは大人なんだね |
| レイア | えっ、そ…そんな事ないよ。そんな風に言われると、ちょっと照れるな… |
| ジュード | 出来ない事も糧にして、ちゃんと前に進んでる… |
| ジュード | 僕なんて…自分の進むべき方向すら見えてないのに… |
| レイア | ジュードは…難しく考えすぎなんじゃないかな |
| レイア | だからいろんな事に縛られて本当にやりたい事がわからなくなってるんじゃない? |
| レイア | 本気でやりたいって思ったら考える前に身体が動いてるもんだよ |
| ジュード | そっか…。そういうものかもね… |
| | ガサッ! |
| ジュード | …!何の音!? |
| | |
| | ガルルル! |
| レイア | 魔物…!?まさか、また…? |
| ジュード | 大丈夫、他にはいないみたいだ。…僕に任せて! |
| scene3 | やるべき事、やりたい事 |
| ジュード | ふう…レイア、大丈夫!? |
| レイア | う、うん…いきなりでびっくりしたけど |
| レイア | ジュード、すごいね。一人であっと言う間に倒しちゃって。わたしも手伝えたのに… |
| ジュード | …さっき、レイアが言ってた通りだよ |
| ジュード | レイアを守らなきゃって思ったら身体が自然と動いたんだ |
| レイア | わたしを…守りたい…?それって… |
| レイア | …っ!うっ… |
| ジュード | レイア!どうしたの!?どこか怪我でもした!? |
| レイア | だ、大丈夫。ごめん、ただの立ちくらみだと思う。平気だから… |
| ジュード | ならいいけど…。怪我じゃなくても疲れてるなら無理しない方がいいよ |
| レイア | もう、大丈夫だってば。ジュードは心配性すぎるよ |
| ジュード | そうかなぁ? |
| レイア | そうだよ。ジュードは昔から── |
| レイア | …! |
| レイア | …昔から…ジュードは…いつだって… |
| レイア | …!ジュード、後ろ! |
| | |
| | ガアアッ! |
| ジュード | なっ…!さっきの魔物…!? |
| レイア | はああっ! |
| | ドゴォッ! |
| | ギャウウ…ッ! |
| | |
| ジュード | あ、ありがとう |
| レイア | …わたしも、身体が自然に動いた |
| レイア | ジュードの事、守りたかったから… |
| ジュード | 僕ら、いいコンビかもね |
| レイア | そうかも。でも何か、ちょっとくすぐったいね。あははは… |
| レイア | に、任務の続き…買い物、行こっか。依頼主のおばあちゃんも待ってるし |
| ジュード | あ、そうだったね。急ごう |
| | |
| レイア | おばあちゃん、頼まれてたもの買ってきたよ! |
| 村の老婦 | ありがとう。そこに置いといておくれ |
| レイア | ジュード、そこだって |
| ジュード | よい…しょっ…! |
| 村の老婦 | ふふふ…二人でそうしてると買い物帰りの夫婦みたいねぇ |
| レイア | お、おばあちゃんったら、もう、やめてよ |
| レイア | わたし達はそんなんじゃなくて、ただの幼なじみ── |
| ジュード | え? |
| | |
| レイア | …あ…れ? |
| レイア | …っ! |
| ジュード | レイア? |
| | |
| レイア | …そう、わたし達は、ただの幼なじみなんだから。買い物くらい…普通に行くよ… |
| ジュード | え? |
| 村の老婦 | おや、そうだったのかい。レイアと幼なじみって事は、兄さんもこの村の出身かい? |
| ジュード | いえ…違いますけど… |
| レイア | えっ… |
| レイア | …うっ! |
| レイア | わたし…ジュードと…ううん、最近会ったばかり…あれ…? |
| ジュード | レイア、大丈夫? |
| レイア | わたし… |
| レイア | …わたしは… |
| レイア | ジュード…と… |
| レイア | …あっ… |
| レイア | そっか、そうなんだ…わたし… |
| ジュード | レイア、どうしたの?やっぱりさっきの戦いでどこか怪我を… |
| レイア | …あ、ううん。違う違う、何でもないの |
| レイア | あはは…わたし、ちょっと疲れてるみたい |
| ジュード | ちょっと休みなよ。おばあちゃんの手伝いは僕がやっておくからさ |
| レイア | うん…ごめんね。そうさせてもらうよ。少し休んだら、落ち着くと思うから… |
| 村の老婦 | …ちょっと様子が変だったねぇ。何かあったのかい? |
| ジュード | さあ…僕にもよくわからないです… |
| ジュード | レイア…どうしたんだろう… |
| scene1 | それぞれの迷い |
| レイア | はあ…どうしてこんな事になっちゃったんだろ |
| レイア | ここはどこなのかな…エンテレスティアなんて前は聞いた事もなかったのに… |
| レイア | リンネル村は…ア・ジュールはどっちだろ。それにメルディの事も… |
| レイア | どうして今まで忘れてたんだろ…ジュードの事まで…そのジュードも今は何も覚えてないみたいだし… |
| レイア | ああー!頭がごちゃごちゃして、考えがまとまらないよ! |
| レイア | そもそも晶化現象はどうなってるの?わたし、晶化したミラの事見てるってエリーゼ達と約束したのに… |
| レイア | はぁ…咎人になるって、こういう事だったんだ… |
| レイア | … |
| レイア | 記憶を…失ってたって事になるのかなぁ… |
| レイア | でもじゃあ、どうして記憶が急に戻ったんだろ… |
| レイア | …あれ、そういえば… |
| レイア | 記憶を取り戻すだけなら、咎人なんて言って、悪い事のように言う必要あるのかな…? |
| レイア | 別にこんなの、誰に危害を加えるわけでもないよね |
| レイア | むしろ、他の人もわたしと同じように記憶を失ってるんだとしたら、早く取り戻した方がいいに決まってる── |
| レイア | ──まさか、それが罪って事? |
| レイア | 記憶を取り戻す事がいけない事で、他の人の記憶を取り戻させないために誰とも接触しないように…? |
| レイア | … |
| | コンコン |
| レイア | ひゃいっ!? |
| ??? | レイア…大丈夫?入るよ…? |
| レイア | あ、う、うん。どうぞ |
| | |
| ジュード | 調子はどう?食べる物持ってきたんだけど食欲はあるかな…? |
| レイア | あ、そういえばお腹空いたかも。ありがとう…って、この匂いはもしかして? |
| ジュード | うん、これ |
| レイア | フルーツ焼きそば!わたしの大好物! |
| ジュード | 変わった料理だと思ったけど…レイアは好きなんだ? |
| レイア | 好きなんだって…ジュードが思い出してくれたわけじゃないの…? |
| ジュード | 思い出す…?えっと、前に聞いた事あったっけ。ごめん、忘れてたかも |
| ジュード | エステルがルドガーに頼んでくれたんだ。僕は持ってきただけ |
| レイア | そうなんだ…エステルが… |
| レイア | って、あぁっ…!エステルって、エステリーゼ様…! |
| ジュード | エステリーゼ様…?それって… |
| レイア | あ、あの…何でもないの、今のは忘れて! |
| レイア | それより、フルーツ焼きそば!冷めない内に食べないと…いただきます! |
| レイア | …はむ…ちゅるる… |
| レイア | うーん、美味しい! |
| ジュード | …ねぇ、何があったの?部屋にこもるなんて珍しいって、みんなも心配してたよ |
| レイア | そうなんだ、迷惑かけちゃったね。ごめん!でも、もう大丈夫だから! |
| ジュード | 迷惑なんて思ってないよ。ただ、心配なだけ。どこか悪いんじゃないかって |
| レイア | …ジュードは相変わらず、人の心配ばっかりだよね。そういうところは変わらないんだ… |
| ジュード | え、それってどういう… |
| レイア | 優しいよねって事。エステルや、すずや、マギルゥにルドガーも、みんな優しいけど… |
| レイア | ジュードは昔から、こっちが心配になっちゃうぐらい、人の心配ばっかりしてたなぁって |
| ジュード | 昔から…?一体、何の事…? |
| レイア | ね、ジュード。わたし達が幼なじみだって話、本当に何も思い出せない? |
| ジュード | さっきもそんな事言ってたけど…何の事だか僕にはわからないよ… |
| レイア | …そっか…上手くいかないな… |
| | |
| ジュード | … |
| ジュード | レイア…聞いてもいいかな |
| レイア | ん、何? |
| ジュード | 僕の間違いだったら、本当に悪いんだけど… |
| | |
| ジュード | レイア、もしかして…咎人になったんじゃ? |
| レイア | … |
| ジュード | 明らかに、いつものレイアと様子が違うよね |
| ジュード | さっきから変な事ばかり言うし…違うなら、それでいいんだけど |
| レイア | あはは、そっか、ごめん。変な事にしか聞こえないよね |
| レイア | … |
| レイア | ねぇ、ジュード。変な事ばかり言うけど、ちょっとだけ聞いてくれる? |
| ジュード | …レイア? |
| レイア | ア・ジュールっていう国、知ってるかな?ガイアスっていう王様がいてね |
| ジュード | 国…?王様…? |
| レイア | ガイアスまんじゅうなんて売り出しちゃう、面白い国でさ。ジュードも一緒に食べたよね |
| レイア | メルディが慌てて食べちゃって喉に詰まらせたところを、ジュードが助けてくれたんだよね |
| ジュード | 待ってよ、レイア…何の話を… |
| レイア | そうそう、ジュードは医学の道を志して勉強してたんだよ。だからメルディへの処置も的確で… |
| ジュード | レイア、待ってってば… |
| レイア | それから、小さい頃からよく遊んでてその頃にお母さんから── |
| ジュード | 待ってよ…! |
| レイア | ジュード… |
| ジュード | どうして…レイア…本当に咎人に… |
| ジュード | 僕はただ…一言、違うよ誤解だよって言ってほしかっただけなのに… |
| レイア | …最後に一つだけ |
| レイア | ミラの事も…覚えてない? |
| ジュード | ミ…ラ…? |
| レイア | …… |
| ジュード | …ごめん、何の事だか僕にはわからないよ… |
| レイア | …駄目、か。言葉だけじゃ無理なのかな… |
| レイア | それとも、これでいいのかな…記憶を取り戻すって事は、エンテレスティアでは罪なんだし… |
| ジュード | ねぇ、レイア…もうやめてよ…君まで咎人になってしまったら僕はどうしたらいいんだ… |
| ジュード | 君をあのおじさんのように閉じ込めて白き獅子に通報するなんて…僕には耐えられないよ… |
| ジュード | 咎人になったからって…君を守りたいっていう気持ちが変わるわけじゃないのに… |
| レイア | ジュード…すっごく嬉しい言葉… |
| レイア | だけど…ジュードが一緒にいるべきなのはわたしじゃない… |
| ジュード | レイア…? |
| レイア | あっ、ううん、何でもない。ごめん、少し一人にしてくれる? |
| ジュード | …わかったよ。僕も…少し頭を冷やしたいから… |
| ジュード | あとでまた来るよ… |
| | バタン |
| レイア | …見てられないな。ミラの事まで完全に忘れちゃってるんだもんね… |
| レイア | …言葉だけじゃジュードの記憶は戻りそうになかった… |
| レイア | 何とかしてあげたいけど、一体どうすれば… |
| レイア | …… |
| レイア | そうだ…咎人だ…咎人を危険だって言ってるのは天帝だし、何か知ってるかも |
| レイア | はぁ、わたしもジュードに負けないぐらいお人好しなのかも |
| レイア | でも、ま、ジュードがあれじゃ仕方ない…わたしがひと肌、脱ぎますか! |
| scene2 | それぞれの迷い |
| ジュード | …はぁ。どうしてこんな事ばかり… |
| ジュード | 僕は…どうすればいいんだろう… |
| ジュード | おじさんを助ける事もレイアを通報する事も僕はしてないし、出来てない… |
| ジュード | レイアは、くよくよせず出来る事を全力でやるんだって言ってたけど… |
| ジュード | 今の僕に…出来る事なんて何があるんだろう… |
| ルドガー | ジュード、ここにいたのか |
| ジュード | あ…ルドガー…さっきはありがとう。レイア、喜んでたよ |
| ルドガー | それはよかった。しかし、それにしては浮かない顔をしているな? |
| ルドガー | …何かあったのか? |
| ジュード | うん…まあ… |
| ルドガー | 俺でよかったら話を聞くけど…昨日の咎人の事か? |
| ジュード | …咎人の事っていうのは、確かなんだけど… |
| ジュード | …ねぇ、ルドガーは…前に僕が鍵を持って咎人のところへ行った時も黙っててくれたよね… |
| ジュード | 何で黙っててくれたの…?咎人を逃がしていたかもしれないのに |
| ルドガー | 何で…か…そうだなぁ… |
| ルドガー | 結局、ジュードは逃がしてない。だったら、誰かに言う必要なんてないと思うんだ |
| ルドガー | 悩む事は誰にでもあるし、ああいう場合なら、尚更だと思う。でも、悩む事は悪じゃない |
| ジュード | じゃあ、僕が咎人を逃がしていたらやっぱり僕の事を捕まえて通報してた…? |
| ルドガー | …ああ。けど俺も、その結論を出すまでに悩みはしていただろうけどね |
| ジュード | ルドガー… |
| ジュード | …ルドガーになら、いいよね…実は── |
| | |
| ルドガー | レイアが咎人…!確かなのか? |
| ジュード | はっきりそうだと言ったわけじゃないけど、おそらく… |
| ルドガー | それで…ジュードは今回、どうするつもりなんだ? |
| ジュード | 咎人が現れた時の緊急対応法… |
| ジュード | 咎人を見つけたら、誰とも接触しないように捕えて、騎士団…白き獅子に引き渡す… |
| ジュード | そんなの当たり前の事だ…今更言われなくてもわかってるよ… |
| ジュード | けど…僕は… |
| ルドガー | … |
| ルドガー | 当たり前なら、いいじゃないか。君の言ってる事は間違ってない。すぐにレイアの事を通報しよう |
| ジュード | ルドガー!?で、でも、そんないきなり… |
| ルドガー | 躊躇する必要はないだろ?ジュードの言う通り、咎人はすぐに捕まえるべきなんだ |
| ルドガー | 世のため人のため、何よりラザリス様のためにもそうするのが一番じゃないのか? |
| ジュード | それは…そうだけど… |
| ジュード | でもレイアは、すごくいい子なんだ |
| ジュード | 優しくて明るくて、この村には欠かせない人なんだ |
| ジュード | なのに、こんな形で…黙って通報してさよならなんて出来ないし、したくない…! |
| ジュード | ちゃんと、レイアと話さないと… |
| | |
| ルドガー | …ジュード、君自身の気持ちはもう見えてるんじゃないのか? |
| ジュード | 僕自身の…気持ち…? |
| ルドガー | 自分で言ったじゃないか。こんな形でさよならはしたくないって |
| ルドガー | 俺はレイアの事を通報するべきだと答えを言ったのに、君は反論して、自分の気持ちをはっきり言っている |
| ルドガー | ラザリス様を裏切るような気持ちを認めたくないんだろうけど… |
| ルドガー | ラザリス様を言い訳にして辛い現実から目をそらすのはちょっといただけないな |
| ジュード | 僕…僕は… |
| ルドガー | 前にも言ったけど、気持ちの問題には自分で答えを出さないときっと後悔する事になる |
| ルドガー | その答えを出せるのは、俺でもラザリス様でもない、君自身だけだ |
| ルドガー | ジュード。レイアの通報は少し待つ。だから後悔しないように自分の気持ちとちゃんと向き合うんだ |
| ルドガー | 何もせず成り行きに任せるなら、それもまた一つの選択だと思う。俺はこれ以上、何も言わないよ |
| ルドガー | 後悔さえしなければいい…。どうしようもない事なのは確かだからね… |
| ジュード | どうしようもない事…そうかもしれない… |
| ジュード | でも、それを悩んで落ち込んでいたら本当に大事にしたい事までどうにもならなくなる… |
| ジュード | 僕は、レイアを… |
| ジュード | ありがとう、ルドガー。僕、レイアと話してくる |
| | |
| ルドガー | … |
| マギルゥ | 何やら面白い事になってきたようじゃのー? |
| ルドガー | なっ、マギルゥ…!?いつからそこに…まさか立ち聞きしてたのか? |
| マギルゥ | 何の事やら、さぱらんのう。儂はたった今やって来た通りすがりの大魔法使いじゃー |
| ルドガー | …マギルゥ。通報するのは待ってやってくれないか? |
| マギルゥ | ほほう、お主には儂がそんな真面目な魔女に見えるかや?あの出会いを忘れたわけではあるまい |
| マギルゥ | 安心せい。邪魔も協力もする気はないわい。儂にも事情があるでの |
| マギルゥ | 儂はただの見物客じゃ。咎人に情を感じる若人!純粋さ故の過ち、その悲劇の物語! |
| ルドガー | … |
| マギルゥ | 何じゃその目は…言っておくが本当じゃぞ。儂は成り行きを見守りたいだけじゃ |
| ルドガー | そうか…俺も同じだよ。これはあの二人の問題だから |
| マギルゥ | ほう?それにしては妙にはっぱをかけておったようじゃが? |
| マギルゥ | 咎人を守るという事は、ラザリス様に逆らうという事…下手をすれば大罪人じゃぞ? |
| ルドガー | 俺はジュードを煽ったわけじゃない。気持ちに整理をつけさせないときっと後で後悔すると思ったんだ |
| ルドガー | 自分の心に従えば、後悔をなくす事は出来なくとも、後悔を減らしていく事は出来る |
| マギルゥ | 熱いのう。熱すぎて、水をかけたくなるわい |
| マギルゥ | 酸いも甘いも受け入れてどーでもよくなれば楽じゃのに |
| ルドガー | …それが出来れば、誰も悩んだりしないよ |
| scene3 | それぞれの迷い |
| | コンコン |
| ジュード | レイア、ちょっといいかな |
| ジュード | … |
| ジュード | …レイア?入るよ…? |
| | カチャ… |
| ジュード | あれ…いない…どこか出かけちゃったのかな… |
| ジュード | ん…?何か置いてある…手紙…? |
| ジュード | …… |
| ジュード | これって…!大変だ、みんな…っ! |
| | |
| ルドガー | 置き手紙? |
| マギルゥ | ほほう、そう来おったか… |
| エステル | 何と書いてあるんです? |
| すず | 見せてください |
| すず | 「突然、いなくなってごめんなさい。 みんなと話すと決心が揺らぐから 黙って出る事にしました」 |
| すず | 「後の事はエステルに任せます」 |
| エステル | …っ! |
| すず | 「エステル。いきなり押し付ける形に なっちゃって本当にごめんなさい」 |
| すず | 「けどわたしの知る本当のあなたなら わたしよりずっと上手に みんなを導いてくれるはずだから」 |
| エステル | レイア… |
| すず | 「みんな、今まで本当にありがとう。 ロランドファミリーとしての活動は すっごく楽しかったです」 |
| すず | 「みんなの事はずっと忘れません。 さようなら」 |
| ジュード | … |
| すず | …手紙は以上です。出ていく理由が明記されてませんね。…レイアさん、一体… |
| エステル | 何か事情があるのでしょうけど…。こんな手紙、少しレイアらしくないです… |
| すず | すぐに捜しに出ましょう。さっきまで居たのですから、まだそう遠くには行ってないはずです |
| エステル | ええ。どんな事情があるにせよこんな形でのお別れなんてわたし、絶対嫌です! |
| ジュード | 手分けして捜そう!すずとエステルは村の中でレイアが行きそうなところを |
| ジュード | 僕とルドガーは村の外を見て回るよ |
| ジュード | マギルゥはどうせ動きたがらないだろうからレイアが帰ってこないか留守番してて |
| マギルゥ | 儂の事、ようわかっとるのう |
| エステル | わかりました、そうしましょう |
| すず | はい |
| ルドガー | よし行こう! |
| | |
| レイア | … |
| レイア | みんな…もう手紙を見つけた頃かな… |
| レイア | …駄目駄目。未練がましく後ろを振り返ったりしちゃ |
| レイア | こうするのが一番…咎人がファミリーにいるなんてみんなにも迷惑かかっちゃうし… |
| レイア | それにジュードの記憶を取り戻させる方法を探すんだったら、一人の方が動きやすい… |
| レイア | …まずは、情報を集めよう。とりあえず天帝のいるシャングレイスに行って… |
| 騎士団員1 | おい、そこの娘 |
| レイア | …!白き獅子…! |
| 騎士団員1 | こんな時間に何をしている。夜道の一人歩きは危ないぞ。ここらは魔物もよく出るからな |
| レイア | あ、す、すみません。大丈夫ですから、お気遣いなく… |
| 騎士団員2 | …ん?君、ロランドファミリーのレイアじゃないか? |
| レイア | あ、ど、どうも… |
| 騎士団員2 | 丁度いいところで会った。君達から通報のあった咎人を引き取りに来たんだ |
| 騎士団員2 | 咎人のところへ案内してくれないか? |
| レイア | それは… |
| レイア | しまった…あのおじさん、釈放してから出てくるんだった |
| 騎士団員1 | どうした?何をぶつぶつ言っている? |
| レイア | …案内の必要はありません |
| レイア | 咎人は…わたしです。わたしをシャングレイスまで連行してください |
| 騎士団員2 | 君が?そんな馬鹿な。それじゃあ何か。自分の組織に通報されたというのか? |
| レイア | 身内でも関係ありません。咎人を捕えるのは天帝のためですから |
| 騎士団員2 | それはそうだが… |
| レイア | 疑うなら証拠を見せましょうか? |
| レイア | わたしは元々、ア・ジュールにあるリンネル村で暮らしていて、ア・ジュールはウィンドルと戦争を… |
| 騎士団員1 | リンネル…村…?どこの村だ、それは。それに、ア、ア・ジュール…? |
| 騎士団員2 | やめろ、耳を貸すな! |
| レイア | わたし達の国はガイアス王が治めていて…天帝なんて崇拝どころか知りもしなかった… |
| 騎士団員1 | き、貴様、ラザリス様を侮辱しているのか…!? |
| 騎士団員2 | 落ち着け、惑わされるな!お前も、口を閉じろ。これ以上、勝手にしゃべるな! |
| レイア | … |
| 騎士団員2 | ロランドファミリーのリーダーが咎人になるとは、皮肉なものだな…。咎人確保だ。これより護送を開始する |
| レイア | これならおじさんも大丈夫だよね。後戻りは出来なくなっちゃったけど… |
| レイア | ううん、元より戻る必要なんてない。シャングレイスに行けば、咎人の事も何かわかるかも知れないし |
| レイア | 待っててね、ジュード…。わたしが絶対に記憶を取り戻させてあげるんだから…! |
| scene1 | 譲れない決意 |
| ジュード | はあ…はあ… |
| ルドガー | かなり走ったが…ジュード、本当にレイアはこっちにいるのか? |
| ジュード | 多分ね…今回の一件がレイアが咎人になった事と関係あるなら、村にはいないと思う |
| ジュード | 手紙では咎人になった事を伏せてた。それを隠しておきたいのなら、きっと村からは離れようとするはず… |
| ルドガー | それでエステルとすずには村の中を捜させたのか…レイアの気持ちを尊重して… |
| ジュード | それもあるけど、もし僕の考え違いで村の中にいるならあの二人の方が土地勘もあるしね |
| ルドガー | …ジュード。見つけたら、どうするつもりだ…? |
| ジュード | どうするって…レイアと話をするよ |
| ルドガー | その後だ。彼女は咎人で、しかも一度逃げ出した… |
| ジュード | …まだわからない。けど、今は… |
| ルドガー | …!ジュード、見ろ! |
| ジュード | あれは…! |
| レイア | … |
| ジュード | レイアだ!よかった、追いついた! |
| ルドガー | 待て、ジュード。横にいる二人…白き獅子じゃないか? |
| ジュード | そんな…!それじゃあ、咎人だって事がばれちゃったって事!? |
| マギルゥ | おやおや。すんでのところで間に合わなんだかー |
| ジュード | …マギルゥ!どうしてここに…留守番は!? |
| マギルゥ | いや、マギルゥ占いでレイアはこっちじゃと出てのー |
| マギルゥ | 感動のクライマックスを見逃すわけにいかんと思うたが…どうやらもう幕引きのようじゃな |
| ジュード | まだ諦めるのは早いよ。マギルゥ、お願い!あの時みたいに、紙を飛ばして白き獅子を散らしてよ! |
| ジュード | その隙にレイアを話が出来る場所まで連れていくからさ! |
| マギルゥ | 無茶を言うでない!あれは姿の見えぬ森の中じゃから効果があったのじゃ |
| ルドガー | ジュード、落ち着け。相手は白き獅子だぞ |
| ジュード | でも…こんな別れ方なんて… |
| ルドガー | 残念だが、こうなってしまっては、もうどうにもならないだろう |
| マギルゥ | うむ、白き獅子ならば、咎人をぬかりなく連行するじゃろうな |
| マギルゥ | もはや民間人の口出し出来る状況ではない。このまま任せておくしかないのう |
| ジュード | それって…酷い事はされないのかな… |
| ルドガー | 大丈夫。咎人とはいえ相手は白き獅子だからね |
| ルドガー | それに咎人は、ラザリス様が適切に処置してくださるはずだ。何も心配する必要はないだろう |
| ジュード | そうだけど…でも…だったら… |
| | |
| ルドガー | 「でも」「だったら」…か |
| ルドガー | …ジュード |
| ルドガー | 言ったはずだ。どうしようもない事は確かだけど後悔だけはしないようにって |
| | |
| ジュード | …!そうだ…ここで悩んでいてもレイアが遠くに行ってしまうだけ… |
| ジュード | 咎人でも何でも…僕はレイアが一人で抱え込んだまま黙って行ってしまうのは嫌なんだ! |
| ジュード | ちゃんとレイアと話がしたい… |
| ジュード | それが僕の譲れない気持ちなんだ。このままだと絶対に後悔する…! |
| マギルゥ | ほほう… |
| ジュード | 二人は…巻き込んだら悪いからリッカ村に戻ってて! |
| ジュード | レイア…! |
| マギルゥ | さて、どうなる事やら…果報は寝て待つとするかの。青臭いのは趣味でないのでな |
| ルドガー | 俺達はジュードを信じて村に戻ろうか。あの二人にも報告してやらないと… |
| マギルゥ | しっかし、お主もやりおるの。あの優柔不断なジュードにあれほどの決心をさせるとは… |
| ルドガー | さて、どうかな。決心は俺がさせたんじゃない |
| ルドガー | ジュードは元々、芯のある奴なんだ。カルミナ街で猫の世話をした時からそれは感じていた… |
| ルドガー | ただあいつの芯は、他人のためのものばかりで、自分の事は二の次だった…優しすぎるんだよ |
| マギルゥ | それよりも、よいのか?白き獅子相手に何をするかわからんぞ |
| ルドガー | 心配しなくても、ジュードだってわきまえてるさ。だからこそ悩んでたんだ |
| ルドガー | 今はただ、レイアの事が突然すぎて、気持ちの整理がつかないだけだと思う |
| ルドガー | 別れの挨拶でもすれば、落ち着いて戻って来るはずだ |
| ルドガー | 咎人に話しかけるんだから、白き獅子から説教ぐらいはされるかもしれないけどな |
| マギルゥ | それだけかのう。儂はもう少し面白い方向に転がりそうな気がするがのー |
| scene2 | 譲れない決意 |
| レイア | あの、騎士さん。ここは…?シャングレイスへ向かうんじゃ…? |
| 騎士団員1 | 今日は遅い。ここで夜営をする。君には悪いが、そこの小屋に入っててもらうぞ |
| レイア | はい… |
| 騎士団員2 | …従順なものだな。咎人とはもっと反抗的なものだと思っていたが |
| 騎士団員1 | 全くだ。閉じ込めなければならないのも心が痛むぐらいだよ |
| レイア | …咎人の言葉は…人を惑わせますから |
| 騎士団員1 | 物わかりがよくて助かるよ。明日、日が昇り次第、出発だ。それまで大人しくしていてくれよ |
| レイア | はい… |
| | |
| ジュード | レイアー! |
| レイア | ジュード…!?どうして… |
| ジュード | やっと追いついたよ! |
| レイア | まさか…わたしを追いかけて…? |
| ジュード | 当然じゃないか。あんな手紙を見て黙っていられるロランドファミリーじゃないでしょ |
| レイア | そっか…確かにそうかも |
| 騎士団員1 | おい、何だお前は!そいつは咎人だぞ! |
| ジュード | 少しでいい、話をさせてください。レイアをこのまま黙って行かせたくないんです! |
| 騎士団員2 | ならん!ラザリス様のお言葉を知らないわけではないだろう? |
| ジュード | ほんの少しでいいんです!お願いします、レイアと話を…! |
| レイア | ジュード… |
| 騎士団員2 | ラザリス様のお言葉に背くのか!話をするだけとはいえ、それは重罪になるんだぞ! |
| レイア | ジュード!村に帰ってよ!わたしの事なんて放っといて! |
| レイア | でないと、ジュードまで捕まっちゃうよ! |
| ジュード | それでもいい。ラザリス様に背いた罰なら後でちゃんと受ける…! |
| ジュード | でも今は…レイアをこのまま行かせてしまったら絶対に後悔すると思うんだ |
| ジュード | だから…! |
| レイア | ジュード…どうしてそこまで… |
| 騎士団員1 | ええい、聞き入れないか!仕方ない、取り押さえるぞ! |
| レイア | 待ってください!ジュードは話がしたいって言ってるだけじゃないですか! |
| 騎士団員1 | 口を閉じろ。ここまで多少大目に見ていたが、こうなっては咎人の発言は許容出来ん |
| レイア | 天帝の命令だからって、おかしいよ!乱暴にしなくても少し話をさせてくれればいいだけでしょ! |
| 騎士団員1 | 黙れと言ってるのがわからんか! |
| 騎士団員2 | その女の口を封じろ!手荒な事はしたくなかったが、こうなっては止むを得ん! |
| ジュード | …!レイアを放せ! |
| | ドゴッ |
| 騎士団員2 | ──ぐっ…何を…!? |
| | ドサッ |
| レイア | ジュード!? |
| 騎士団員1 | おのれ、逆らうか! |
| ジュード | レイアに手荒な真似はさせない…! |
| | ドカッ |
| 騎士団員1 | うぐっ…くそ… |
| | ドサッ |
| レイア | ジュード…!?なんて事を… |
| ジュード | 急所は外してる。少しの間、眠ってもらっただけだよ |
| ジュード | 僕のした事は許される事じゃない…。でも… |
| ジュード | レイアやルドガーが教えてくれたんだ。それでも後悔だけはするなって |
| レイア | ジュード…ねぇ、そうまでしてわたしとしたい話って…何…? |
| ジュード | …僕は、レイアの望みをかなえたい。あんな別れ方、レイアだって本当は嫌なはずだと思うから |
| ジュード | だからレイアの望みを聞きたいんだ。こうして出て行く事が本当にレイアの意志だって言うなら尊重する… |
| ジュード | けど、そうじゃないなら僕は… |
| レイア | …はぁ |
| レイア | ジュードは優しいね…。誰にでも優しすぎる。ほんと、昔から変わらないなぁ |
| レイア | けど、それじゃ駄目なんだよ。ジュードは自分が本当にやりたい事を忘れちゃってる… |
| ジュード | 本当にやりたい事…? |
| レイア | わたしはジュードにそれを思い出してほしくて…そのために村を出て来たの |
| ジュード | レイア、じゃあ君は… |
| レイア | …戻るつもりはないよ。手紙にもそう書いてあったでしょ |
| レイア | だから、こんな事されると困っちゃうんだ。気持ちは、嬉しかったけどね |
| ジュード | …レイア。本気なの…? |
| ジュード | レイアがそれでいいって言うなら僕にはもう何も出来ない…でも僕は… |
| ジュード | ねぇ、本心を聞かせてよ。レイアが本当に望んでる事を知りたいんだ… |
| レイア | わたしの望みは今言った通りだよ |
| ジュード | ううん。レイアは、戻るつもりはないって言った…。けど、戻りたくないとは言ってない |
| レイア | …! |
| レイア | …だったら、どうするの?わたしを連れて逃げたりしたら天帝に逆らう事になっちゃうでしょ? |
| ジュード | それは… |
| レイア | こんな話をして悩ませるつもりはなかった…だから一人で出て来たのにどうしてわかってくれないの… |
| レイア | もう帰って。それがわたしの本当の望み |
| レイア | 何も思い出せないなら、何もわかってくれないなら、わたしの事は放っといてよ…! |
| ジュード | レイア、待って…! |
| レイア | ついて来ないでって言ってるの! |
| ジュード | 待ってよ。そんなの本気じゃないよね。レイアだって本当は… |
| レイア | … |
| レイア | わかってくれないみたいだね… |
| レイア | 言葉で言っても信じられないって言うなら… |
| | |
| レイア | その身体にわからせてあげる!ぶん殴ってでも帰ってもらうから! |
| ジュード | レ、レイア…!?どうしてそうなるの…!? |
| レイア | わたしは、帰りたいなんて絶対に望まない。それだけの覚悟をしてきた |
| レイア | やらなきゃいけない事があるの…お願いだから邪魔しないでよ! |
| ジュード | レ、レイア…!?待ってよ、こんなのおかしいって |
| レイア | 問答無用!はぁぁっ! |
| ジュード | うわっと…! |
| レイア | これ以上、何か話したいなら決着を付けてからにして! |
| ジュード | くっ…レイアの、強情っぱり! |
| scene1 | 彼の日の想いを胸に |
| レイア | はぁ、はぁ…結構やるね… |
| レイア | 記憶はなくても、身体は覚えてるんだ… |
| ジュード | レイア…もうこれくらいで… |
| レイア | 隙あり! |
| | ドッ──…! |
| ジュード | ぐぅぅっ…! |
| レイア | あれで終わりだと思うなんて…覚えてるのは身体の動かし方だけみたいだね |
| レイア | 忘れてるんだろうけど…お母さんのしごきはもっと厳しかったんだからね! |
| ジュード | お母さんのしごき… |
| レイア | 何だか懐かしいな。昔も、こうして… |
| レイア | はあっ! |
| | ドッ、ドッ! |
| ジュード | ぐっ、重い…! |
| レイア | 昔、よく組手したよね。ジュードの動き、あの頃から変わってない… |
| レイア | この後、隙が出来る事もね…!たあっ! |
| | ヒュッ…! |
| ジュード | うわっ…! |
| レイア | 避けた…!? |
| ジュード | 何だろう…どうしてか今、レイアがどう動くかわかった… |
| ジュード | まるで見た事があるような…頭の中に…違う、これは… |
| ジュード | 小さい頃の…レイア…?今と同じ動きを… |
| ジュード | うっ…!? |
| レイア | ジュード、もしかして記憶が…?…だったらこの攻撃も…! |
| | バコッ…! |
| ジュード | ぐあっ…! |
| レイア | 避けない…昔、ジュードに完全に見切られてたはずの技なのに…やっぱりさっきのは偶然…? |
| ジュード | …僕は前にも、あの技を受けた事が…? |
| ジュード | うぅ…っ! |
| レイア | …そうだよね。そう上手い話はないよね… |
| レイア | 忘れたままなら…わたしに殴られて、村に帰りなさい!やぁっ! |
| | ヒュッ…バシッ! |
| レイア | 止められた…!?くっ、まだまだ!はああぁっ! |
| | ヒュッヒュッ…バシバシッ! |
| レイア | また…!この連携を受け止めるなんて… |
| ジュード | …どうして…僕は… |
| ジュード | 初めて見る攻撃なのに…身体が勝手に… |
| レイア | ジュード…!なら、これは!? |
| | ヒュッヒュヒュッ…バシバシバシッ! |
| ジュード | 僕…知ってる…このレイアの攻撃…どうしてだろう… |
| ジュード | うっ…レイアの動きが…脳裏に焼き付いてる…!右、左…いや、右…! |
| レイア | やっぱり…型が読まれてる…!完全に見切られた…わたしのクセを知り尽くしてる動き… |
| ジュード | そう…ずっと前から…何度も受け止めてきた… |
| ジュード | わかるんだ、次の動き…僕は知ってる…覚えてる… |
| ジュード | あの時は…掃除をしていて…ほうきで、レイアはこの技を出してきて… |
| レイア | ジュード!?そう、そうだよ!ほうきで遊んで、叱られたよね! |
| ジュード | 遊びだしたのはレイアだから…レイアがいつも叱られて…でも僕は、一緒に遊んだからって… |
| レイア | うん。いつも庇ってくれた…。ジュード、本当に、記憶が… |
| ジュード | それでも懲りずに…罰の掃除もサボッて…組手…上手く避けるまで… |
| ジュード | うぅっ…!何だ、この感じ…! |
| ジュード | っ…何度も…そう、組手…小さな…レイア…師匠… |
| ジュード | うあああぁぁぁ…っ! |
| | |
| レイア | …ジュード? |
| ジュード | そうだ…そうだよ… |
| ジュード | どうして僕は、今まで… |
| レイア | ジュード、まさか… |
| ジュード | ねぇ、レイア。僕は… |
| レイア | 隙ありっ! |
| ジュード | おっと! |
| レイア | やっぱり避けた…!ジュード…もしかして… |
| ジュード | レイア、ごめん。思い出したよ。僕がこんなにも戦える理由… |
| ジュード | 見てて…はっ! |
| | バシッ──ガシッ──! |
| レイア | これはお母さんに習った型…じゃあ、完全に… |
| ジュード | 小さい頃…レイアとはご近所さんで…レイアのお母さんに武術の手ほどきを受けてた… |
| ジュード | こうやって、何度も何度も…毎日毎日、何百回も何千回も…僕らは手合わせをしてきた |
| レイア | ジュード、ならこれも受けられるよね! |
| レイア | せいっ! |
| | バシバシッ──ガガッ──! |
| ジュード | 懐かしいな、この技…。厳しい修行だったよね… |
| レイア | …そうそう、二人して毎日お母さんにしごかれたよね。身体中、傷だらけになってさ |
| ジュード | でも、それで僕達は強くなった…! |
| レイア | ジュードはいつも、わたしに負けてたけどね |
| ジュード | 今はそうはいかないよ! |
| レイア | …言っとくけど、記憶が戻ったからってわたしの決心は変わらないよ |
| レイア | 世界に今、何が起こってるのかよくわからないけど…ここでは咎人は他人に迷惑をかけるだけ… |
| レイア | リッカ村に戻る事は出来ない…! |
| ジュード | 決心が変わらないのは僕も同じだよ。レイアに少しでも迷いがあるのなら…僕は絶対に負けたりしない |
| | バシッ──ガッガッ──! |
| レイア | 全部受け止められるなんて…ジュードの言う通り、迷いがあるのかもね |
| レイア | でも…だったら尚の事…ジュードを倒して迷いを断ち切る! |
| ジュード | …!その構えは…! |
| レイア | お母さん直伝!活伸棍・神楽! |
| | ドゴォッ──! |
| ジュード | うっ…ぐっ…!重い…!けど、今は…今だけは…! |
| ジュード | 倒れるわけに…いかないんだ…! |
| レイア | うそ…昔のジュードなら… |
| ジュード | はあああっ! |
| レイア | …! |
| | ドッ──! |
| ジュード | …ごめん、レイア。君相手だと、手加減する余裕なかった |
| レイア | よかった、ジュード…思い出してくれて… |
| | ドサッ… |
| ジュード | ちゃんと連れて帰るから、そのまま休んでて… |
| 騎士団員1 | うっ…ま、待て…咎人を連れて帰るなど…我々が…ぐっ、身体が、動けば… |
| ジュード | もう気が付いたんだ…。けど、もう少し安静にしておいた方がいいよ |
| 騎士団員2 | …に、逃げ切れると思うなよ。お前達は指名手配になる…白き獅子は二人を絶対に逃さん… |
| ジュード | … |
| ジュード | そうか、それは困ったね。まんまとレイアに騙されたよ |
| 騎士団員2 | 何…? |
| ジュード | まさか自分が咎人のふりをしてまで咎人である僕をおびき出すとはね… |
| ジュード | 咎人の仲間だと思ったのに白き獅子に指名手配させるため自分を餌にして僕を釣ったんだ |
| ジュード | 力尽くでは捕まえられないからってこんな作戦を思いつくとはね! |
| 騎士団員2 | そういう事か‥何か不自然だと思ってたが… |
| 騎士団員2 | 全てロランドファミリーの作戦だったというわけか… |
| ジュード | そうそう。けど、その作戦も失敗だよね。僕は今から逃げるんだから |
| ジュード | レイアは人質にもらっていくよ。後で仕返ししなくちゃね |
| 騎士団員1 | やめろ…!例え咎人相手でも、酷い行いは…いや、咎人ではなかったのか… |
| 騎士団員2 | 善良な協力者だったんだ…ならば、なおさら助けねば…!くそっ…身体さえ動けば…! |
| ジュード | そうなる前に僕は逃げるよ |
| 騎士団員2 | 待てぇっ…! |
| scene2 | 彼の日の想いを胸に |
| レイア | … |
| ジュード | …えっと…そういうわけなんだけど… |
| レイア | …それでわたしが納得すると思う? |
| ジュード | 納得はしなくていいよ。レイアの決断に反する事をしたのもわかってる… |
| ジュード | けどこれが、僕の意志なんだ。あのままレイアを行かせるのだけは絶対に嫌だったから |
| ルドガー | だとしても…指名手配になって来る事はないだろ… |
| マギルゥ | くっくっくっ…もう駄目じゃ、笑いが止まらんわい。だから言ったじゃろうに |
| レイア | 笑い事じゃないよ。ジュード、これからどうするつもりなの? |
| ジュード | うん。明日の朝ぐらいには手配書も配られるだろうからそれまでには出ていくよ |
| ジュード | みんなを捜してみようと思ってるんだ |
| ジュード | ミラやエリーゼ達…スレイやスタンや、他のみんなも僕達のように困ってるかもしれない |
| ジュード | 記憶をなくしてたらどうするかは、わからないけど…様子を見て考えないとね |
| レイア | 平和に暮らしてるならそっとしておいた方が幸せかもしれないもんね… |
| ジュード | うん…少なくとも今は何がどうなってるのかわからないから下手な事は出来ないよ |
| ジュード | ともあれ、まずは、レイザベールに向かおうと思ってるんだ |
| ジュード | 確かミクリオがあの街の良家の出身って事になってるだろ?それにローエンも一緒だった |
| ジュード | 記憶がないのか、記憶はあるけどここでの立場を演じ続けてるのか…まずはそれを確認しようと思う |
| レイア | そう言えば…変な感じだよね。ミクリオが貴族やってるし、エステルはわたしの部下だし… |
| ジュード | ほんとだね。でも、今ここではみんながその立場を受け入れてる… |
| レイア | いきなりエステルをお姫様だって言っても誰も信じないだろうね…わたし達には確かな記憶なのに |
| ジュード | うん。黙っておいた方がいいよ。記憶は取り戻してほしいけど下手な事をするのはかえって危険かも |
| ルドガー | …その記憶の話だが、つまりはジュード…君も咎人になったって事だよな? |
| ルドガー | 咎人のはずのレイアを連れて帰ってきたからどういう事情かと思っていたが… |
| ルドガー | 咎人が咎人を逃がしてきた。…そういう事なら、俺達は黙って見過ごすわけにいかない… |
| ジュード | 待ってよ、ルドガー!咎人って言っても、記憶を取り戻しただけなんだよ!? |
| ルドガー | …悪いがジュード。記憶の事が真実かどうかなんて俺達には確認のしようがないんだ |
| ルドガー | それにさっきから二人の話を聞いていても、俺には理解出来ない突拍子もない話ばかりに感じる… |
| ルドガー | レイアもジュードもいい奴だから信じてやりたい気持ちはあるけど… |
| ルドガー | ラザリス様と、咎人の言葉、どちらを選ぶかとなると悪いけど答えは決まってる… |
| ジュード | …ルドガー。記憶の事、真実かどうか確認してもらえると思う |
| ルドガー | え…? |
| ジュード | 僕は記憶を失う前のルドガーを知ってるんだ。信じられないかもしれないけど… |
| ジュード | カルミナ街で、ルドガーの料理を食べに来てたエルって女の子の事、話したの覚えてる? |
| ルドガー | ああ、覚えてるけど… |
| ジュード | 前はルドガー、その子と一緒に暮らしてたんだ |
| ジュード | あとユリウスっていうお兄さんと、ルルっていう猫も一緒にね。思い出せないかな? |
| ルドガー | エル…ユリウス…ルル… |
| ルドガー | … |
| ルドガー | いや、やっぱり何も思い出せない… |
| ルドガー | ジュード、お前は俺を惑わせようとしているのか? |
| ジュード | そんな…違うよ! |
| レイア | ジュードの時もそうだったけどやっぱり言葉だけじゃ記憶は戻らないのかな? |
| ジュード | わからないけど…言葉だけじゃ駄目でも、僕みたいに何かの行動と記憶が結びつけば… |
| ジュード | … |
| ジュード | …そうだ、ルドガーは誰かに料理をふるまう約束をした気がするって言ってたよね? |
| ルドガー | ああ。…まさか、その相手が…? |
| ジュード | うん。きっとエルとの約束だと思う |
| ジュード | エルももしかすると、何か感じるところがあって訪ねて来たのかもしれないし |
| ルドガー | … |
| ジュード | それに、家族の姿を見ると不思議な気持ちになるとも言ってたでしょ? |
| ジュード | それってきっと、エルやユリウスさんとの記憶が心のどこかに響いてるんだと思うんだ |
| ルドガー | しかし… |
| ジュード | ルドガー、少しの間でいいんだ…!僕を信じてよ |
| ジュード | これから向かうレイザベールにはエルもいるはずなんだ |
| ジュード | 僕と一緒に来て、確かめてみてよ。僕を突き出すなら、それからでも遅くないでしょ? |
| ジュード | その時は、逃げも隠れもしないから…! |
| ルドガー | … |
| ルドガー | 咎人は白き獅子に引き渡す…俺はそれが正しいと思っている。だが── |
| ルドガー | もしジュードの言う事が本当だとしたら、それを知った時俺はきっと後悔するだろう |
| ジュード | …!それじゃあ… |
| ルドガー | …ああ、俺も同行しよう |
| ルドガー | ただし、完全に信じたわけじゃない。そのエルと会ってみても、真実かどうか確かめられなかったら… |
| ルドガー | 悪いが、君達の事は全て白き獅子に話す。それでいいな? |
| ジュード | …うん、わかったよ。ありがとう、ルドガー |
| ルドガー | マギルゥ、聞いた通りだ。君もジュード達を通報したいだろうがしばらくは黙っていてくれないか? |
| マギルゥ | …ま、ええじゃろう |
| マギルゥ | 場合によっては、ジュードの言う事の真偽が確認出来そうじゃしのー |
| レイア | あら、すんなり…。マギルゥももしかして何か心当たりがあるの? |
| マギルゥ | 実を言うと儂は、ちと咎人について調べておってのう |
| マギルゥ | 咎人の話す内容には、何ぞ秘密があると考えておったのじゃ。民間人には知らされておらん秘密がの |
| マギルゥ | じゃから、立入禁止区域に行けば何か掴めると踏んだんじゃが… |
| レイア | それで侵入を!?じゃあやっぱり、あの時の侵入者っていうのは… |
| マギルゥ | 咎人に何を言われてものー? |
| レイア | うっ…痛いとこ突くじゃない |
| マギルゥ | いや、しかし困ったわい…我らがロランドファミリーのリーダーが咎人になってしまうとは… |
| マギルゥ | ロアーに一目置かれるほどの組織ならその内、立入禁止区域や咎人の情報も得られるかと思うて加入したが… |
| マギルゥ | リーダーが咎人とあっては地位も大暴落の大撃沈。せっかくの努力が水の泡じゃー! |
| マギルゥ | …じゃが、ジュードの機転のお蔭で今のところレイアが咎人な事はバレとらんのじゃろう? |
| ジュード | うん。演技だった事にしてきたからね |
| マギルゥ | ならば儂は、利用価値がある限りレイアを庇ってやってもよいぐらいじゃぞ? |
| マギルゥ | ジュードと一緒で、通報する事はいつでも出来そうじゃしのー |
| マギルゥ | その代わり、儂の咎人研究にいろいろと協力してもらうがの |
| レイア | うん。それは構わないよ |
| ルドガー | 咎人研究…レイアとジュードをずっと見ていたのも、そういう理由か… |
| ルドガー | しかし、どうして咎人の事を調べたりしているんだ? |
| マギルゥ | いや何、そこは単純な理由じゃよ |
| マギルゥ | ラザリス様も疎む存在、咎人。彼らはどこからやって来るのか、何故現れるのか… |
| マギルゥ | それを解明して予防策を考えればラザリス様も嬉しかろ?褒美もたんまり出そうなものじゃ |
| ルドガー | そのために、立入禁止区域に入ってラザリス様の意に背いていたら意味がないだろう |
| マギルゥ | 大義を取り小義を捨てただけじゃ。手段を選んでおってはこの偉業は成せんわい |
| ジュード | マギルゥがそこまでするなんて…何か事情が…? |
| マギルゥ | 実は…奇術団の興行が大失敗してのー |
| マギルゥ | 正攻法ではとても返せん額の借金が、この身にズシーンとのしかかっておるのじゃよー |
| ジュード | 借金…そのために褒美をもらおうと… |
| ルドガー | 借金なんて大変だな… |
| マギルゥ | ま、そんなわけじゃ。咎人の味方をするわけではないが、観察対象の保護ぐらいはするぞい |
| ジュード | うん、それでもいいよ。レイアがこのファミリーに戻るには、マギルゥの協力も必要だしね |
| レイア | … |
| レイア | ね、ねぇ、ジュード。それなんだけど、わたしもジュードと一緒に── |
| | バタンッ! |
| エステル | レイアが戻ったって本当です!? |
| すず | レイアさん…! |
| レイア | エステル…すず…! |
| すず | ジュードさん、どうしてすぐに知らせてくれなかったんですか! |
| ジュード | ご、ごめん… |
| マギルゥ | それはの。今までこやつら二人には聞かせられん内緒の話を… |
| ジュード | マギルゥ、言っちゃ駄目だよ |
| エステル | 何か事情があったんだと思います。内緒だと言うのなら無理に聞き出したりはしません |
| エステル | けど、レイア。黙って出ていくなんて事は二度としないでください! |
| レイア | ご、ごめんね。二人共。でもわたしやっぱり、ジュードと一緒に… |
| ジュード | レイア。ごめん、君は連れて行けないよ |
| レイア | えっ、ど、どうして!? |
| ジュード | 僕は、あの手紙を読んだ時に二人がどんな顔してたか知ってるからね |
| ジュード | レイアはロランドファミリーに、そしてリッカ村に、欠かせない人なんだよ |
| エステル | その通りです。もし重荷になっていたのならわたし、もっともっと手伝います |
| エステル | けどやっぱり、リーダーとしてレイアが必要です |
| すず | 私も同意見です |
| レイア | 二人共…そこまでわたしを…? |
| エステル・すず | 当然です! |
| レイア | …… |
| レイア | そっか…うん、わかった。わたしはここに残るよ |
| レイア | もう何も言わずに出て行ったりしないから、安心して |
| エステル | はい…!そうしてください、是非…! |
| すず | …待ってください。今「わたしは」と言いましたか。という事は… |
| レイア | あ、うん。ジュードはちょっと事情があってね。ルドガーと旅に出る事になったんだ |
| レイア | ねぇ、ジュード。わたしは旅にはついていけないけどメルディやみんなの事── |
| ジュード | うん、わかってる。何かあればすぐに知らせるよ |
| レイア | ありがとう。わたしも全力で援護するから |
| すず | でしたら、シルフモドキを一羽、お貸ししましょう |
| ジュード | シルフモドキ…?鳥…? |
| すず | 手紙を配達してくれる鳥です。遠方からの急ぎの連絡に便利ですよ |
| ルドガー | 急ぎの連絡…そうだ、食堂にしばらく休むって連絡しないと… |
| ジュード | 僕もついでに連絡を頼めるかな?牛乳配達はしばらく休みますって… |
| すず | では早速、使ってみましょう。手紙を用意してください |
| | バサバサバサ… |
| すず | 飛んでいきました。明朝にはカルミナ街に着くでしょう |
| ルドガー | 外は暗いのに、鳥を飛ばして大丈夫なのか? |
| すず | 訓練してありますから大丈夫です |
| ジュード | 連絡手段も整ったし、そろそろ出発しようか |
| ルドガー | そうだな |
| エステル | そんなに急ぐ旅です? |
| ジュード | うん、そうなんだ。…あ、そうだ、レイア。あの咎人のおじさんの事だけど… |
| レイア | 大丈夫。ちゃんと話しとくし、あの子のところに戻れるようにしておくから |
| すず | …何の話ですか? |
| ジュード | あ、いや、何でもない。それじゃレイア、後は任せたよ |
| ルドガー | 行こう、ジュード |
| ジュード | うん。いざ、レイザベールへ |