| Name | Dialogue |
| 麗しのファッションショー | |
| スタッフ1 | プレセアさん、やはり船は── |
| プレセア | そうですか… |
| マリク | エステリーゼ様、ここが「ブラック・コレクション」の会場となります |
| エステル | …この街は、古くから深黒染めのサテン生地を特産として発展してきた歴史を持つ── |
| エステル | そのため黒はこの街のシンボルであり「ブラック・コレクション」は一大イベントとして有名である、です |
| マリク | よくご存知で。エステリーゼ様はこの街にいらっしゃった事がありましたか? |
| エステル | いえ、訪問は初めてです。でも予習はしてきました。何しろ今回はレザレノ・カンパニーが出資して── |
| プレセア | あの… |
| エステル | プレセアじゃないですか!もしかして、プレセアも「ブラコレ」の見学ですか? |
| プレセア | いえ、リーガルさんの手伝いで臨時スタッフとして「ブラコレ」の運営に参加しているのですが… |
| エステル | …もしかして、何かあったんです? |
| プレセア | はい。実は── |
| マリク | ファッションショーの主役モデルと専属スタッフが、定期船のトラブルで来られないとは… |
| プレセア | 結果、ショーは中止となりました…せっかくみなさん楽しみにしていてくれたのに…申し訳ありません |
| マリク | プレセアが謝る必要はない。定期船のトラブルは運が悪かったとしか言いようがないからな |
| プレセア | ですが、エステルさんやマリクさんをはじめ沢山の方が来られているのに…。残念です… |
| エステル | プレセア… |
| エステル | あ、あの!主役モデルさんの代役の方はいらっしゃらないのでしょうか? |
| プレセア | はい…今いる方々はあくまでも運営のスタッフなので、モデルの仕事をされている人はいません |
| エステル | そうなんですね…うーん、何とかわたし達にお手伝い出来る事があればいいんですが… |
| エステル | あ、そうです!マリク、モデルさんの代役、出来ませんか? |
| マリク | オレが…ですか? |
| エステル | はい!マリクなら背も高いですしモデルさん役にはぴったりだと思うんです! |
| マリク | …わかりました。モデルの仕事は初めてですが、エステリーゼ様の命とあらば、見事こなしてご覧に入れます |
| プレセア | 気持ちはありがたいのですが…今からマリクさん用の衣装を選定するのは難しいのでは… |
| マリク | ふむ、確かにブラコレの衣装はどれも特殊な作りの物が多いな。着こなすのは難儀か |
| プレセア | はい…専属スタッフの方がいないと、正しく着用するのも難しくて…試しにスタッフが着てみたんですが… |
| スタッフ2 | ねぇ、やっぱり駄目!?駄目かしら!?もう私がランウェイを行くしかないと思うの! |
| プレセア | … |
| マリク | ふむ…言われてみれば、確かに。全体がちぐはぐな印象というか |
| エステル | 装飾品も浮いてる気が…?何だかシルエットも不自然ですし |
| プレセア | …見ての通り、「ブラコレ」衣装は専門家の方でないと、コーディネートそのものが困難なんです |
| マリク | 素人のチョイスでは思い通りの魅力的な衣装にはならないというわけか… |
| エステル | やっぱり専門的な知識を持つ方が必要なんですね…どこかにいらっしゃらないでしょうか…? |
| マリク | 残念ですが、そう都合よくは… |
| ??? | この展示品は…特注の夜会服か。特徴的な拝絹付きのピークドラペルに裏地には金の刺繍が施されている |
| プレセア | この声は… |
| テュオハリム | 敢えて人目に付かぬ部位にこそ技巧を凝らす矛盾…衣装でありながら同時に見る者の見識をも問う、というわけか |
| テュオハリム | 視線の主体と客体の交差がテーマとはよくいったものだ。なるほど、これは期待も膨らむというもの |
| エステル | テュオハリム!プレセア、彼の知識なら、もしかすると…! |
| プレセア | は、はい!あの、テュオハリムさん…! |
| テュオハリム | ?何かね? |
| テュオハリム | …事情は承知した。来られなくなった専門スタッフの代わりを、私に任せたい、と? |
| プレセア | 急なお願いでごめんなさい…ですが何とかショーを開催したいんです。力を貸してもらえませんか…? |
| エステル | わたしからもお願いします!テュオハリムの知識があればきっと衣装を着こなせると思うんです |
| テュオハリム | 知識と言ってもね。書で読んだ内容そのままを誦じてみせただけだ。言わば付け焼き刃にすぎないのだが… |
| テュオハリム | しかし、付け焼き刃とて刃は刃か。服飾は専門ではないが、それでもよければ微力を尽くそう |
| プレセア | あ…ありがとうございます!では、次はモデル役が出来る方を捜しに── |
| テュオハリム | いや。モデルは君達だ |
| プレセア | えっ? |
| テュオハリム | 衣装もまた一つの表現。であれば私が人となりを知る君達を題材にするのが適切と言えるだろう |
| マリク | なるほど…確かにその通りだ。モデル役、引き受けさせてもらおう。エステリーゼ様も是非 |
| エステル | わ、わたしもです!? |
| | |
| エステル | このデコルテなんかどうです?裾の形もとても個性的で可愛いと思うんですが── |
| テュオハリム | 悪くない選択だが、少々教科書的とも言える。ここは一つ、より鮮烈な漆黒の色彩に挑戦してみてはどうかね? |
| プレセア | こちらのスカートはどうでしょうか…? |
| テュオハリム | ふむ…君に黒はよく馴染む。なればこそ衣装が君に負けてしまう。もう少し華奢な品を選んだ方がいい |
| マリク | これはどうだ、テュオハリム。この装いに…黒眼鏡を足して夜でも敢えて視線を隠す、という方針だ |
| テュオハリム | …ほう、それは面白い。女性陣とは少々テイストは異なるが君らしい黒の表現は確かにそれだ |
| マリク | よし、ならオレのコーデは決まりだ。この手の装いは初めてだが、こいつは傑作の予感がするな…! |
| テュオハリム | ああ、早速着替えてくれ給え |
| エステル | ああっ、マリクだけずるいです…!プレセア、わたし達も頑張りましょう! |
| プレセア | はい…!テュオハリムさんの審美眼に敵うように…! |
| プレセア | 着替えは何とかなりましたが…あの、おかしくないですか…? |
| エステル | とってもお似合いですよ、プレセア!すごく可愛いです!モデル役にぴったりです! |
| プレセア | あ、ありがとうございます…。エステルさんこそ、本当に綺麗です。見とれてしまいます… |
| エステル | ありがとうございます。テュオハリムのお蔭ですね。知識も審美眼もお見事でした |
| マリク | 全くです。こちらの衣装も警護に対応出来る完璧な装いですよ |
| エステル | ええ、マリクもバッチリですね。テュオハリムのお蔭で何とかショーを開催出来ますね! |
| ??? | それは何よりだが…何故、私まで…? |
| エステル | せっかく、いい衣装の組み合わせが見つかったんです。モデル役も是非、ご一緒しましょう! |
| プレセア | エステルさんの言う通りです。それに、この街の文化を身をもって体験出来る貴重な機会だと思います |
| ??? | 同じ目線で文化を味わうには己もそこに身を浸す必要がある、か。確かに、道理ではある |
| テュオハリム | どうかね? |
| スタッフ3 | 着付けが大変でしたが、何とかなりました! |
| プレセア | …! |
| テュオハリム | …ん、私には似合わなかったか |
| エステル | ち、違うんです!ついびっくりしてしまって… |
| マリク | 似合いすぎて驚かれるな、テュオハリム。さて、早速だが次は舞台上での所作を教えてもらえるか? |
| テュオハリム | む、それは失敬した。そうだな、君達はモデルとして、身に纏う黒を際立たせる振る舞いを学ぶ必要がある |
| | |
| テュオハリム | ──そうだとも。靴底が刻む調べを意識し給え。足元を見てはいけない。背筋を伸ばし、視線は前を向くといい |
| プレセア | こ、こうでしょうか…!? |
| マリク | 流石のオレも、ランウェイ上での所作は学んでいません。テュオハリムに知識があって助かりました |
| エステル | 本で読んだ、と言ってましたが…すごい知識量です!わたしも負けていられません…! |
| マリク | その意気です。このまま彼のアドバイスに従って練習し、ショー本番に備えましょう |
| テュオハリム | 次は君の練習の番だ。さぁ、ランウェイへ |
| エステル | あっ、は、はい! |
| テュオハリム | そう…夜の帳が降りるように。君の歩みが、今は黄昏の潮目となる。まずはゆっくりと歩んで見せ給え |
| エステル | こ、こうでしょうか!? |
| テュオハリム | 否、それでは黒の衣装が際立たない。君が黒を体現するのだ。意識し給え、君自身が夜陰の影となる事を |
| エステル | ど、どういう意味です!? |
| プレセア | テュオハリムさんの表現は難解です… |
| マリク | そうでもない。テュオハリムの言葉は詩的だが、だからこそ直感的に理解出来る。こんな感じじゃないか |
| テュオハリム | む…!見事だ、マリク!宵闇に舞う一陣の風の如し。その歩み、まさに一つの作品だ |
| エステル | どうしてマリクはそんな簡単に出来ちゃうんです!? |
| プレセア | 直感的に、感じ取る…私が黒を、表現する… |
| プレセア | …私、やってみせます。リーガルさんから預かった、大切な仕事ですから…! |
| エステル | プレセア…!そうですね。わたしも、頑張ります! |