Name | Dialogue |
| 眠れる導師 |
エル | ルドガー、はやくー! |
ルドガー | あんまり急ぐと危ないぞ、エル |
エル | だいじょうぶですー。ルドガーこそ、のんびりしすぎ! |
エル | メガネのおじさんに渡すプレゼント、買いに行こうって言ったのルドガーなのに |
ルドガー | 確かにそうだけど…そんなに急がなくてもいいだろ? |
エル | 甘いなー、ルドガーは。のんびりしてる間にいいもの全部取られちゃうかもしれないよ? |
エル | 早くお店行って選ぼ。プレゼントするなら、おじさんが喜ぶものにしなきゃ! |
ルドガー | わかったよ。だけど、ちゃんと前を向いて歩くんだぞ |
エル | 子ども扱い禁止!エルとルドガーは、対等のアイボーだし! |
ルドガー | そ、そうだな。ごめん… |
エル | わかればいいよ、わかれば |
ルドガー | はは… |
エル | …ねえ、ルドガー。メガネのおじさん、今日は一緒にご飯食べられるのかな? |
エル | 昨日はおじさん、遅い時間になっても帰って来なかったんだよね…? |
ルドガー | 仕事が忙しい時は、泊まり込みが続く事があるんだ |
エル | そっか…。お仕事なら、仕方ないね |
ルドガー | …でも、そういう時は着替えを取りに一旦帰って来るから、きっともうすぐ会えるよ |
エル | ほんと?じゃあ、その時にプレゼント渡せるかな? |
ルドガー | ああ。二人で兄さんを驚かせよう |
エル | うん!おじさんのびっくりした顔、見るの楽しみだなー |
エル | よーし。早く行こ、ルドガー! |
ルドガー | あ、こら!走ったら危ないって! |
| |
ルドガー | うーん… |
エル | ルドガー、まだなに買うか決まらないの? |
ルドガー | ああ。兄さんに贈り物をするためにお金を貯めたところまではよかったんだけど… |
ルドガー | 何を買うかまでは、決めてなかったんだ |
エル | そういうの、ケイカクセーが足りないって言うんだよ! |
ルドガー | はは…エルの言う通りだな |
エル | 仕方ないなぁ─。ルドガーの代わりに、エルがプレゼント、選んであげる! |
ルドガー | ありがとう。何か気になる物、あるか? |
エル | うーんとねえ…あ、これ! |
ルドガー | ──カメラ? |
エル | うん!カメラで写真を撮れば、家族の思い出が残せるんだよ |
エル | パパともたくさん二人で写真を撮って、エルのお家に飾ったの |
エル | エル、それがすっごく嬉しかったから…おじさんにも写真、飾ってほしいなって |
ルドガー | それなら、一緒に写真立ても買って帰ろう |
ルドガー | 三人で写真を撮って、家の中に飾らないとな |
エル | ルルも! |
ルドガー | 勿論、ルルも一緒に。きっと兄さん、すごく喜ぶよ |
エル | えへへ、そーかな? |
ルドガー | ああ。エルが選んでくれたプレゼントだからな |
エル | うん! |
| |
ライフィセット | ここがイニル街、か…。綺麗な街だなぁ |
ライフィセット | ベルベットが戻って来るまで時間がかかるだろうし、いろいろ見て回ろうかな… |
??? | ──レイ!スレイ! |
ライフィセット | …ん?あれって… |
| |
スレイ | …… |
ミクリオ | しっかりしろ、スレイ!スレイ…! |
ライフィセット | あの…大丈夫? |
ミクリオ | …!君は…天族だな |
ライフィセット | うん。歩いてたら、声が聞こえて来たから何かあったのかと思って… |
ライフィセット | …その人、どうしたの?気を失ってるみたいだけど… |
ミクリオ | …わからない。突然倒れたんだ |
ライフィセット | それなら僕に任せて。──快癒瞬け!ファーストエイド! |
| パアア… |
スレイ | …… |
ミクリオ | これは…! |
ライフィセット | 駄目だ。モヤに阻まれて、術が届かない…! |
ミクリオ | …スレイが倒れる直前にも同じようにモヤが出ていた |
ミクリオ | スレイの身に何かが起こっているのは確かだな… |
ライフィセット | 力になれなくて、ごめん… |
ミクリオ | いや、君が謝る事はない。ひと先ず、スレイを安全な場所に運んで── |
ルドガー | …あれ?ミクリオじゃないか |
ミクリオ | ルドガー! |
ライフィセット | …! |
エル | ルドガーの知り合い? |
ルドガー | ああ。前に一緒に旅をして… |
ルドガー | …!そこに倒れてるのは…スレイか…!? |
ルドガー | 何があったんだ!? |
ミクリオ | 原因はわからない。話している最中に、突然倒れたんだ |
ルドガー | そんな… |
ルドガー | エル、俺は医者を呼んで来るから、ミクリオ達を家まで案内してくれないか? |
エル | うん、わかった! |
ミクリオ | 迷惑をかけてすまない、ルドガー |
ルドガー | いいんだ。医者を連れて行くまで、俺の家で休んでてくれ |
ミクリオ | ありがとう |
ルドガー | それじゃ、後で。エル、二人をよろしくな |
ライフィセット | …びっくりした。アヴァロン島の中じゃないのに姿が見えるなんて |
ミクリオ | ああ。前に、不可視物質を可視化する装置の光を浴びて… |
エル | …誰と話してるの? |
ミクリオ | あ、いや…。何でもない |
エル | ルドガーの家はこっちだよ!早くその人を連れて行ってあげなきゃ |
ミクリオ | …そうだな。案内を頼むよ |
| |
医者 | …特に異常は見当たりませんね。ただ眠っているだけのようにも見える |
ルドガー | でも、目覚めないのはおかしいですよね? |
医者 | ええ…。ですが、原因がわからない限り治療を施す事は出来ません |
ルドガー | そう、ですか… |
ルドガー | ミクリオ。スレイはいきなり倒れたって言ってたよな? |
ルドガー | 倒れる前に何か変わった事はなかったのか? |
ミクリオ | スレイが倒れる直前に、身体から黒いモヤのようなものが溢れたんだ |
ミクリオ | 彼が回復術を施そうとした時も同じようにモヤが出て… |
ルドガー | 彼って…? |
ミクリオ | ああ、すまない。言ってなかったな |
ミクリオ | ここにもう一人、天族がいるんだ。君には見えないだろうけど… |
ルドガー | え、そうなのか…? |
スレイ | …… |
ルル | …… |
エル | この人、全然起きないね、ルル。大丈夫なのかな… |
ルル | ナァ~… |
エル | あ、駄目だよルル…!ベッドの上にあがっちゃ…! |
エル | ほら、ルル。降りよう? |
| |
エル | え…? |
| |
| ヒュンッ |
エル | な、なにこれ…。足元になんか広がって… |
ルドガー | …!エル、危ない…! |
| ドンッ! |
ミクリオ | っ…!二人共、早くこっちへ…! |
ライフィセット | わっ…!身体が吸い込まれる…! |
ルドガー | ミクリオ、エルを頼む! |
| シュン… |
| |
ミクリオ | くっ…!ルドガーとライフィセットが穴の中に吸い込まれた…! |
エル | ルドガー!ルドガー! |
医者 | い、今のは一体… |
エル | どうしよう、ルドガーが! |
ミクリオ | 落ち着くんだ。君は、何であの穴が現れたのか、わかるかい? |
エル | ううん、わかんない…。時計が光ったと思ったら、いきなり… |
ミクリオ | この時計か?…今は光ってないみたいだな |
エル | これは、パパがエルにくれた時計なんだ |
エル | パパはずっと帰って来てなくて…。だからエル、ルドガーのとこにイソーローしてるの |
ミクリオ | そうか…。なら、時計の事はよく知らないんだな |
エル | うん…。パパがいたら、聞けたんだけど… |
ミクリオ | 今は時計の謎よりも、二人を探す事を優先しよう |
エル | これからどうするの? |
ミクリオ | そうだな…。二人を追いかけたくても、穴は閉じてしまったし… |
ミクリオ | 僕達だけで原因を解明するのは難しそうだ。誰かに助けを求めるべきだろう |
エル | …ルドガーなら、大丈夫だよね? |
ミクリオ | ああ、ルドガーは強いから大丈夫だ。僕は彼と一緒に戦った事があるからわかるよ |
エル | …うん |
エル | さっき、誰かに助けてもらおうって言ってたけど…ミクリオには他にも仲間がいるの? |
ミクリオ | いつも一緒に旅をしている仲間とは今は別行動を取ってるんだ |
ミクリオ | 里帰りをしているから当分戻って来ないだろうし… |
エル | そっか…。じゃあ、どうしよう… |
| |
ミクリオ | ──バロニアに行けば、何人か知り合いがいる |
ミクリオ | でも、僕がここを離れるわけには… |
医者 | 彼の事は、私が看ておくから心配しなくてもいいよ。その子とバロニアに行ってくるといい |
医者 | 状況はよく分からないが…何かあてがあるんだろう? |
ミクリオ | …ありがとう、助かります |
ミクリオ | エル、今からバロニアへ行こう。道案内を頼めるか? |
エル | うん!エルにお任せ! |
医者 | …もし可能なら、バロニアからより専門的な治療が出来る人を連れてきてくれ |
医者 | 街医者の私では、今の診断が限界だからね |
ミクリオ | ああ、わかった。…スレイの事、よろしく頼む |
エル | すぐに戻って来るから!ルルも大人しく待っててね |
ルル | ナァ~ |
scene1 | 久年の邂逅 |
| ヒュンッ |
ライフィセット | うわっ…! |
ルドガー | くっ…! |
| ドサッ!ドサッ! |
| シュン… |
ライフィセット | いたた…。ここは、一体…? |
ルドガー | 遺跡…みたいだな。──あの裂け目から、別の場所に移動したのか… |
ルドガー | 君も裂け目から出て来たみたいだけど怪我はないか? |
ライフィセット | うん、大丈夫。…って、あれ? |
ライフィセット | もしかして、僕の姿が見えてるの…!? |
ルドガー | え…?ああ、見えてるけど… |
ライフィセット | どうしていきなり…。さっきまでは見えてなかったはずなのに… |
ルドガー | 見えてなかったって… |
ルドガー | …!そうか、君がさっきミクリオの言っていた── |
| |
| ガサガサ… |
ルドガー | …!誰だ…!? |
| |
??? | ──まさか、こんなところに人間が紛れ込んでるとはな |
ライフィセット | …あの人達、天族だよ。やっぱりここでは天族の姿が見えるようになってるみたいだね |
ライフィセット | ここがどこなのか聞いて、元の場所に戻らないと… |
ルドガー | ああ…。だけど、何か様子が変だ |
天族の男2 | どうする? |
天族の男1 | 決まってるだろう。人間は一人残らず始末する! |
| バシュッ! |
ルドガー | ぐ…っ!? |
ライフィセット | …!いきなり、何を…! |
天族の男2 | そいつを生かしたまま、ここから出すわけにはいかねえんだよ |
天族の男2 | お前こそ、天族のくせにどうして人間と一緒にいるんだ |
ライフィセット | どうしてって…。人間と天族が一緒にいたらおかしいの? |
天族の男2 | ああ、おかしいね |
天族の男3 | …邪魔をするなら、お前もそいつと一緒に死ぬ事になるぞ |
ライフィセット | そんな…! |
ルドガー | 話し合いで解決とはいかないみたいだな… |
| チャキッ |
ルドガー | 今はとにかく、この場を切り抜ける事を考えよう |
ライフィセット | …うん、そうだね |
scene2 | 久年の邂逅 |
ルドガー | ──アサルトダンス! |
天族の男2 | ぐ…! |
天族の男3 | 怯むな!数はこちらの方が優勢だ |
天族の男1 | 数人で囲んで、一気に畳みかけろ! |
ライフィセット | っ…この人数相手じゃ、僕達が不利だよ |
ルドガー | ああ。どうにかして、包囲網を突破しないと… |
天族の男2 | させるか…! |
| バシュッ! |
ライフィセット | ううっ! |
ルドガー | …くそっ、このままじゃ… |
??? | ──フリーズランサー! |
天族の男1 | ぐう…!? |
??? | こっちだ!走れ! |
ルドガー | …!行こう! |
ライフィセット | うん! |
| |
ルドガー | はあ…はあ…。さっきの攻撃は一体… |
ライフィセット | …!あそこに、誰かいるよ |
| コツコツ… |
ミクリオ | …危ないところだったね |
ライフィセット | 君は… |
ルドガー | もしかして…ミクリオ、なのか…? |
ミクリオ | …君が知っているミクリオと僕は別人だ |
ミクリオ | 僕が知っているルドガーが君と違う人物であるように |
ルドガー | それは、どういう… |
ミクリオ | 詳しい事は彼らを倒してから、場所を変えて話そう |
| タッタッタッ |
天族の男2 | 見つけたぞ…! |
ルドガー | …!もう追いついて来たのか…! |
天族の男1 | さっきの攻撃はお前だな。何故、人間の味方をする |
ミクリオ | 僕は誰の味方でもない。ただ、人間という理由だけで人を襲う君達とは相容れないだけだ |
天族の男2 | 裏切者め…! |
天族の男1 | …構うな。天族だろうと関係ない、こいつらにはここで死んでもらう! |
ミクリオ | ──来るぞ、構えるんだ! |
ルドガー | あ、ああ! |
scene3 | 久年の邂逅 |
ミクリオ | こっちだ。彼らの仲間が追ってくる前に遺跡を出よう |
ライフィセット | …遺跡の内部に詳しいんだね |
ミクリオ | ああ…。昔はよく、遺跡の中を探索していたから |
ルドガー | …君は、俺達が知ってるミクリオじゃないって言ったよな? |
ミクリオ | そうだ。それに…僕が知ってるルドガーは、ずっと前に亡くなっているからね |
ルドガー | …!つまりここは…分史世界、なのか? |
ミクリオ | そうだよ |
ライフィセット | 分史世界って…? |
ルドガー | 信じてもらえないかもしれないけど…俺達のいた世界から分岐した、別の可能性の世界が存在するんだ |
ルドガー | それが、分史世界だよ |
ライフィセット | えっと…つまり、僕らが元々いた世界とは別の世界が存在してて… |
ライフィセット | いきなり現れた穴に落ちたら、別の世界に飛ばされちゃった…って事なの? |
ルドガー | ああ、おそらく。普通なら骸殻の力を持った者しか入れないはずなんだけど… |
ミクリオ | 君達はどうやってこの世界に? |
ライフィセット | ルドガーの家にいた時に、突然足元に穴が開いて…落ちたと思ったら、ここにいたんだ |
ルドガー | 普段は特定の場所からしか入れない分史世界へ繋がる入り口が開いたって事は… |
ルドガー | スレイに起こった異変と分史世界に何か関係があるのかもしれないな… |
ミクリオ | …!そっちの世界のスレイに、何かあったのか? |
ルドガー | ああ…。突然倒れて、未だに目が覚めないままなんだ |
ミクリオ | …… |
ルドガー | ミクリオは俺の事を知ってるみたいだけど…一応、自己紹介をしておくべきかな |
ルドガー | 君の名前も、知らないままだし… |
ライフィセット | あ…、まだ名乗ってなかったね。僕はライフィセット |
ルドガー | ルドガー・ウィル・クルスニクだ。よろしく |
ミクリオ | ミクリオだ。よろしく頼むよ |
ミクリオ | 人と天族が共にいるところを見るのは随分久しぶりだな… |
ミクリオ | 君達は、正史世界から来たんだろう? |
ルドガー | …!ミクリオは、正史世界の事も知ってるんだな |
ミクリオ | ああ。長い間、生きているからね |
ミクリオ | 古い文献を読む内に、正史世界の存在を知ったんだ |
ミクリオ | 僕達が住んでいる世界が正史世界でない事は、薄々気付いていた |
ルドガー | …そうなのか |
ミクリオ | ルドガーとライフィセットが共に行動してるって事は… |
ミクリオ | そっちの世界では人間と天族の戦いは起こっていないんだな |
ライフィセット | この世界では、人間と天族が争ってるの…? |
ミクリオ | ああ、随分前からね |
ルドガー | ミクリオ。この世界について詳しく教えてくれ |
ルドガー | 君は、俺達が知っているミクリオよりもかなり成長しているようだし |
ミクリオ | …おそらく、僕達の世界はルドガー達がいる正史世界よりも長い時間が経過しているんだろう |
ミクリオ | この世界では、ある日突然天族の姿が見えるようになった |
ミクリオ | その後世界が厄災に見舞われて…人間達は、厄災の原因が天族にあると考えたんだ |
ライフィセット | そんな… |
ミクリオ | 僕は…人間と天族の争いを止めるために、スレイと奔走した |
ミクリオ | …だけど、戦いは激しさを増す一方でどんどん仲間達が傷付いていったんだ |
ミクリオ | その頃から、スレイの様子が少しずつおかしくなっていった |
ルドガー | …何が、あったんだ? |
ミクリオ | たまに、人が変わったような態度を取るようになったんだ。攻撃的になるって感じかな |
ミクリオ | …多分、あのモヤのせいで |
ライフィセット | モヤ? |
ミクリオ | ああ。ある時期から時々黒いモヤがスレイの身体から溢れ出すようになったんだ |
ミクリオ | あのモヤが出始めた頃から…スレイは、自分が自分じゃなくなる感覚に苛まれると言っていた |
ルドガー | …確か、正史世界のミクリオも黒いモヤの話をしてたな… |
ライフィセット | うん。スレイが倒れる前に身体からモヤが溢れたって… |
ライフィセット | 僕が回復しようとしたんだけど、モヤに阻まれてきかなかったんだ |
ルドガー | もしかしたら… |
ルドガー | …ミクリオ。モヤが出た後、この世界のスレイはどうなったんだ? |
ミクリオ | スレイは自我が残っている内に自分を封印する道を選んだ |
ミクリオ | それから長い年月、異変の原因を探し求めて来たけど…解決の糸口は見つからなかった |
ライフィセット | スレイが封印されてから、どのくらい探したの? |
ミクリオ | …数百年、かな |
ルドガー | そんなに…!? |
ミクリオ | ああ。スレイを救う方法を探すために世界中を歩いて回ったよ |
ミクリオ | それなのに…手がかり一つ見つからなかった |
ミクリオ | 封印で抑え込んでいた力は日に日に増大していって…遂には抑えきれなくなった |
ミクリオ | ──そして少し前に、封印が破れてスレイが目覚めたんだ |
ルドガー | …その後、スレイはどうなったんだ? |
ミクリオ | 人間と天族の争いに加担するようになった。以前のスレイとはまるで別人だ |
ルドガー | …ミクリオ。今、スレイがどこにいるかわかるか? |
ミクリオ | …どうしてそれを聞くんだい? |
ルドガー | この世界のスレイに会わせてほしい |
ルドガー | 正史世界のスレイに起こった異変の原因を、突き止めるためにも |
ミクリオ | …今のスレイは、仲間の話に耳を傾けていた頃の彼とは違う |
ミクリオ | スレイが目覚めてから、何度も話をしようとしたけど僕の言葉に耳を貸す事はなかった |
ライフィセット | …… |
ルドガー | それでも、確かめなくちゃいけない事があるんだ。…正史世界のスレイを助けるために |
ミクリオ | …… |
ミクリオ | …わかった。スレイがいる場所は、把握してる |
ミクリオ | 案内するよ。…ついて来てくれ |
| イズチへ |
ミクリオ | …日が落ちたな。ここで少し休息を取ろう |
ミクリオ | 夜が更けてから移動した方が動きを悟られにくいだろうし |
ルドガー | そうだな |
| |
ルドガー | …スレイは、近くにいるのか? |
ミクリオ | ああ。ここから少し歩いたところに、イズチがある |
ライフィセット | どうして、スレイがそこにいるってわかったの? |
ミクリオ | 数日前、スレイがイズチに天族を集めているという話を聞いたんだ |
ルドガー | …だから、さっきの遺跡にも天族が大勢いたんだな。皆、イズチを目指していたのか |
ライフィセット | スレイは天族を集めて何をする気なんだろう… |
ミクリオ | 詳しい事はわからない。ただ…集められた天族達は酷く人間を恨んでいる連中だ |
ミクリオ | さっきの様子を見る限り、人間に復讐しようとしているのは確かだろう |
ライフィセット | …あの天族達は、人間と、戦うつもりなんだね |
ライフィセット | 傷付けられたから傷付けて、傷付けたから傷付けられて…それで何か、変わるのかな |
ミクリオ | …… |
ミクリオ | …ルドガー。君は、スレイの異変の原因を確かめると言ったね |
ミクリオ | 見ただけで原因がわかるものなのか? |
ルドガー | …見てみない事にはわからない。けど、俺は今までいくつかの分史世界を見て来たから… |
ルドガー | 俺の予測通りだったとしたら、異変の原因になっているものを突き止められるかもしれない |
ミクリオ | …そうか。随分前から、スレイの異変の原因を探る事は諦めてたんだ |
ミクリオ | 君がこの世界に来た事で何かが変わってくれたら…そう思わずにはいられない |
ミクリオ | だけど、ルドガー。もし君にも異変の原因がわからなかった場合は── |
ミクリオ | 僕は、スレイを殺してでも争いを止めさせるつもりだ |
| |
ルドガー | …! |
ミクリオ | 僕がイズチの近くに来ていた理由は初めからその目的のためだったからね |
ライフィセット | 殺す、って…スレイはミクリオの友達なんじゃないの? |
ミクリオ | …スレイを助けるためにあらゆる手を尽くしてきた。君達以外に、もう希望は残っていない |
ミクリオ | スレイが望まない罪を犯させるわけにはいかないんだ。僕は、彼の尊厳を守りたいから |
ミクリオ | だから… |
ライフィセット | 諦めちゃ駄目だよ…! |
ライフィセット | 原因を突き止められなかったとしても希望を捨てるべきじゃない |
ミクリオ | …僕も、昔はそう思っていたさ |
ミクリオ | だけど、スレイを封印してから何百年もの間…僕は、彼を救う方法を探してきたんだ |
ミクリオ | それなのに、彼を助ける術も戦争を止める手段も何も…何も見つける事が出来なかった…っ! |
ルドガー | ミクリオ… |
ミクリオ | ──これ以上、彼に罪を重ねさせるわけにはいかない |
ライフィセット | だから、殺すって言うの…?そんなの駄目だよ! |
ライフィセット | 絶対に何か、まだ方法があるはずだ |
ミクリオ | …君にも、いずれわかる。何も出来ない自分を持て余したままただ年月を重ねていくだけの空しさが |
ミクリオ | 人間の寿命は僕達よりもはるかに短い… |
ミクリオ | 今回の事がなくても、いずれ別れが来る事は決まっていたんだ… |
ライフィセット | ミクリオの言う通りだとしても、僕は──! |
| |
ルドガー | 静かに…!何か聞こえないか? |
ミクリオ | …! |
| |
| ザッザッザッ |
ライフィセット | 足音だ…。大勢で移動してるみたいだね |
ルドガー | …急に、森の中が騒がしくなってきたな |
ミクリオ | 天族達が、イズチの方へ移動しているみたいだ |
ミクリオ | 何か動きがあったのかもしれない。僕達も、移動しよう |
ミクリオ | …彼らが向かう先に、スレイもいる |
ルドガー | ああ、わかった |
ライフィセット | …… |
scene1 | かつて見た夢 |
ミクリオ | ここから先がイズチだ |
ライフィセット | …ここに、スレイがいるんだね |
ミクリオ | ああ… |
| ピッピピッ |
ライフィセット | わ… |
ミクリオ | どうやら、君が好きみたいだな。鳥達が集まって来た |
ライフィセット | かわいい鳥だね。ひばりかな? |
ミクリオ | イズチひばりだよ。僕とスレイが幼かった頃もこの森でよく見かけた |
ライフィセット | …ここはミクリオとスレイが生まれ育った場所なの? |
ミクリオ | …ああ。二人一緒に、育てられたんだ |
ルドガー | ここにいた頃はどんな風に暮らしてたんだ? |
ミクリオ | あの頃はよく二人でイズチの長老だったジイジに怒られてたな |
ミクリオ | 勝手にイズチの外に出て遺跡探索をした事がバレた時は、肝が冷えたよ |
ルドガー | 俺達の世界にいるスレイとミクリオもよく二人で遺跡を探索してたよ |
ミクリオ | 僕達は互いに、天遺見聞録という本に夢中になった。そっちの世界の二人もきっと同じだろう |
ライフィセット | その本には、どんな事が書かれているの? |
ミクリオ | 人と天族の歴史が残された古代遺跡を巡って、その謎に迫った人物の旅の記録が記してある |
ミクリオ | ──いつか世界中の遺跡を回りたい |
ミクリオ | スレイはよく、そう言ってたよ。すっかりあの本に影響されたんだろうね |
ルドガー | 二人は兄弟みたいに育ったんだな… |
ミクリオ | ああ。天遺見聞録には導師の伝説が書かれているんだ |
ミクリオ | だから、スレイが導師になった時は嬉しかったし…誇らしかった |
ミクリオ | だけど、導師になった後のスレイはいつも無茶ばかりしていて… |
ミクリオ | 人と天族の関係が悪化してからは更に無理を重ねるようになったんだ |
ライフィセット | その後、スレイに異変が起こったんだね… |
ミクリオ | ──同じものを見聞き出来ねば共に生きる仲間とは言えん…か |
ルドガー | それは…? |
ミクリオ | 昔、ジイジに言われたんだ。今の僕は、スレイと同じ方向を向いていない |
ミクリオ | いつの間にか、気持ちが遠く離れてしまったものだと思ってね |
ルドガー | ミクリオ… |
ルドガー | (…ミクリオは俺達が ここに来るまでに、どれくらい 苦しんで来たんだろう…) |
ルドガー | (スレイを殺す事でしか 終止符を打てないと考えるまでに、 どれだけ…) |
ルドガー | (もし兄さんを殺せって言われたら… 俺は、そう簡単には決断出来ない) |
ルドガー | ──ミクリオ。俺が言っていた、スレイの異変の原因についてなんだけど… |
| |
| ガサッガサッ |
ライフィセット | …!誰か来るよ…! |
| |
天族の男1 | お前達は… |
ミクリオ | 遺跡にいた天族達か… |
天族の男2 | ここで再会するとはな。お前達、やはり何か嗅ぎまわってるのか…? |
ミクリオ | 君達に危害を加えるつもりはない。ただ、イズチの遺跡にいるスレイに用があるだけだ |
天族の男1 | …それは容認出来ないな。俺達はこの辺りの警備を任されてる |
天族の男1 | 不穏分子はすべて排除しなければ |
ライフィセット | ミクリオはスレイの友達なんだ…!不穏分子なんかじゃ… |
ミクリオ | 言っても無駄だ。話の通じる相手じゃない |
天族の男2 | そっちの人間を置いていくなら、お前達だけ助けてやってもいいぜ? |
ルドガー | …… |
ミクリオ | 君達に温情をかけてもらうほど僕らは弱くないよ |
ライフィセット | 僕は、仲間を見捨てて逃げたりしない…! |
ルドガー | 二人共… |
天族の男1 | 馬鹿な奴らだ。なら、その人間と共にここで朽ち果てるがいい |
天族の男1 | かかれ! |
ミクリオ | …長引くと面倒だ。早々に決着をつけよう |
ルドガー | ああ! |
scene2 | かつて見た夢 |
天族の男1 | ぐ…う… |
| ドサッ |
ライフィセット | これで全員、倒せたね |
ミクリオ | ああ。だけど、油断は出来ない |
ミクリオ | この先も天族達が待ち構えているだろうから慎重に進もう |
ミクリオ | …そう言えば、ルドガー。天族達が襲って来る前に何か話そうとしてたんじゃないか? |
ルドガー | あ、ああ… |
ルドガー | …いや、何でもない。気にしないでくれ |
ミクリオ | そうか |
ミクリオ | …この先に、遺跡がある。スレイはそこにいるはずだ |
ライフィセット | …スレイを助ける方法が見つかるといいね |
ミクリオ | …… |
ルドガー | ──行こう。俺達が行く事で何かが変わると信じて |
scene1 | 友との決別 |
スレイ | …… |
| コツコツコツ… |
ミクリオ | …スレイ。やっぱり、ここにいたんだな |
スレイ | 久しぶりだな、ミクリオ |
天族の男3 | 貴様ら、どこから入った…!警備の者は何をしてるんだ! |
ライフィセット | …囲まれちゃったね |
ルドガー | ああ…。流石にここまで来ると警備も手厚いな |
天族の男4 | スレイ様、ご安心を。今すぐこの者達を排除して… |
スレイ | いいんだ。ミクリオは、オレの友達だから |
天族の男3 | しかし…! |
スレイ | 何か話したい事があるみたいだからさ。下がってていいよ |
天族の男3 | …わかりました |
スレイ | …外が騒がしいと思ってたけどここに乗り込んでくるなんて、無茶をするようになったな |
ミクリオ | 僕が君に、無茶だと言われる日が来るとはね |
ルドガー | ミクリオ。スレイの、あの服は… |
ミクリオ | …封印から目覚めた後、彼は導師の服を脱ぎ捨てたんだ |
スレイ | そうそう。もう、オレは導師じゃないからさ |
ミクリオ | …… |
スレイ | …それにしても、おかしいな。何でここにルドガーがいるんだ? |
スレイ | ずっと前に亡くなったはずだろ? |
ミクリオ | 彼は、この世界の人間じゃない |
スレイ | 別の世界からやってきたルドガーって事か? |
スレイ | …信じられないような話だけどミクリオが言うなら、本当の話なんだろうな |
スレイ | 別の人間だってわかってても…君を見てると、少し懐かしい気持ちになるよ |
ルドガー | …スレイはどうして遺跡に天族を集めてるんだ? |
スレイ | 彼らに無念を晴らす機会を与えるため…かな |
ミクリオ | 人間と天族を戦わせるつもりなのか。これ以上争いを広げてどうするんだ! |
ミクリオ | 君が望んでいた世界は、こんな… |
スレイ | ──人も天族も、存在する限り争い続ける |
スレイ | 負の連鎖を断ち切るにはすべて無かった事にした方がいいんだ |
スレイ | だからオレは、災禍の顕主になる道を選んだ |
ミクリオ | …やはり君には僕の声が届かないようだな |
ミクリオ | なら、どんな手段を使っても…僕は君を止めないといけない |
ライフィセット | ミクリオ、待って…! |
スレイ | …オレは、ミクリオ達とここで戦うつもりはないよ |
スレイ | 何もしないで、このまま帰るんだ。そうすれば、君達に手を出させないって約束する |
ミクリオ | そんな要求が飲めると思ってるのか? |
スレイ | これは要求じゃない、警告だ。ミクリオ達と傷付け合うのはオレの望みじゃないしな |
スレイ | ただし、これ以上オレの邪魔をするようなら… |
| |
| チャキッ |
スレイ | ミクリオでも、容赦はしない |
ライフィセット | …!あのモヤは… |
ルドガー | (あれは…) |
ルドガー | ミクリオ、ライフィセット。ここは俺に任せてくれないか? |
ミクリオ | ルドガー…? |
ルドガー | 確かめたい事があるんだ。頼むよ |
ミクリオ | …わかった。この場は、君に託そう |
ルドガー | ああ、任せてくれ |
ルドガー | はっ! |
ライフィセット | …!ルドガー、その姿は… |
ルドガー | 骸殻の力を使うと、この姿になるんだ |
スレイ | ──骸殻の力、か。それを使って、何をするつもりなんだ? |
ルドガー | 異変の正体を確かめさせてもらう!行くぞ、スレイ! |
| ガキンッ! |
スレイ | どんな力を使おうと、オレは止められないよ |
ルドガー | (やはり、時歪の因子なのか…? だけど、何か──) |
| |
| ドオオオンッ |
ライフィセット | 何…!? |
ミクリオ | あれは… |
シュヴァルツ | …… |
人間の男1 | いたぞ!シュヴァルツ様が仰った事は本当だったんだ…! |
人間の男2 | 天族め…!結託して俺達を襲うつもりだったのか! |
| ドタドタドタッ |
| |
天族の男4 | 侵入者はこっちだ…!集え! |
天族の男3 | 人間共が何故、ここに…!嗅ぎつけられたのか! |
天族の男4 | ここは我々で抑えます!スレイ様はお逃げください…! |
スレイ | …邪魔が入ったみたいだな |
ルドガー | 待つんだ、スレイ!戦いはまだ… |
シュヴァルツ | わきまえよ、人の子よ |
ルドガー | …!いつの間に… |
シュヴァルツ | 滅びの時は近付いている。抵抗など無意味 |
ルドガー | この…! |
| ガキン…! |
ルドガー | っ…!?弾かれた!? |
シュヴァルツ | 死に急ぐ子よ。ならば、虚無の彼方へと還るがよい |
シュヴァルツ | 我が永遠の闇の眠りへと、子をいざなおうぞ |
ライフィセット | させない…! |
| バシュッ |
シュヴァルツ | …… |
ライフィセット | …! |
ルドガー | どうして、何ともないんだ? |
シュヴァルツ | 器の違いを知れ |
ミクリオ | 危ない…! |
ライフィセット | わ…! |
ミクリオ | ぐ…っ |
ライフィセット | ミクリオ…! |
ミクリオ | ──大丈夫だ。油断するな、すごい力だ |
シュヴァルツ | あくまで、あがくというのか。…愚かな |
ルドガー | 二人共、気を付けろ!来るぞ! |
scene2 | 友との決別 |
ルドガー&ミクリオ | ぐうう…っ |
ライフィセット | ルドガー!ミクリオ! |
ルドガー | 何て力だ… |
ミクリオ | 実力が違いすぎると言うのか…。このままじゃ… |
天族の男4 | あれだけの攻撃を受けて無傷とは…本当に人間なのか |
天族の男3 | 人間相手に怯むな!スレイ様の退路をお守りするんだ…! |
天族の男4 | ああ!──はあああああ! |
| バシュッバシュッ |
シュヴァルツ | …… |
天族の男4 | 畳みかけろ! |
シュヴァルツ | …死を選ぶ子よ。ならば、その道を歩むがいい |
人間の男1 | シュヴァルツ様に続け!天族共を一掃するぞ! |
人間達 | おお! |
ミクリオ | …今の内に、遺跡を抜けよう |
ライフィセット | ミクリオ…!? |
ミクリオ | 今の僕らじゃ、彼女の力には太刀打ち出来ない |
ミクリオ | 混戦状態が続いている今の内に、早く…! |
ルドガー | …わかった、出よう! |
| 敵対する種族 |
ライフィセット | はぁ…はぁ…。…誰も追って来てないみたいだね |
ルドガー | ああ…。無事に遺跡から脱出できたな |
ルドガー | ミクリオ。遺跡に侵入した人間達を率いていた女性は何者なんだ? |
ミクリオ | …彼女はシュヴァルツ。スレイと共に世界を滅ぼそうとしている存在だ |
ライフィセット | スレイの仲間って事…!? |
ライフィセット | でも、あの人はスレイが遺跡に集めた天族達と戦うよう人間に指示してたよ |
ミクリオ | それが狙いなんだ。シュヴァルツはスレイと結託して、大規模な戦争を起こそうとしている |
ミクリオ | 人間をそそのかすシュヴァルツと、天族を率いるスレイが裏で繋がる事で厄災をもたらそうとしているんだ |
ルドガー | そんな…。人間や天族達は、二人の思惑に気付いてないのか? |
ミクリオ | 彼らには見るべきものが見えていない。互いへの憎悪で頭が一杯になっているからね |
ライフィセット | スレイは負の連鎖を断ち切るために全てをなかった事にするって言ってたけど… |
ライフィセット | シュヴァルツの目的は何なの…? |
ミクリオ | 僕にも、彼女の狙いはわからない。どうやら、人間や天族の負の感情を地上に蔓延させようとしているようだ |
ルドガー | 負の感情…。怒りや悲しみの感情を増幅させたいのか? |
ミクリオ | ああ。負の感情が、シュヴァルツ自身の力と深く関係しているみたいだな |
ミクリオ | 何にせよ、いい目的でない事は確かだ |
ルドガー | そんな得体のしれない人物と手を組むなんて…スレイは何を考えてるんだ? |
ミクリオ | …今の僕に、彼の考えはわからない |
ミクリオ | 同じものを見聞き出来ていた、あの頃とは違ってね |
ライフィセット | …ミクリオは、導師だったスレイが天族と人間の争いを止めるために奔走してたって言ってたよね? |
ライフィセット | 戦いが激しさを増す一方で、どんどん仲間達が傷付いていったって… |
ミクリオ | ああ、そうだ |
ライフィセット | スレイの負の感情が膨れ上がる前に何があったのか…聞いてもいいかな? |
| |
ミクリオ | …人間と天族の争いは、スレイから大切なものを奪っていった |
ミクリオ | ジイジやイズチの仲間達…それに、エドナも |
| |
ライフィセット | そんな…! |
ライフィセット | この世界のアイゼンはどうしてたの!? |
ライフィセット | アイゼンなら、エドナを助けようとするはずでしょ? |
ミクリオ | アイゼンは海賊の仲間を助けるために戦い、人間に捕らえられた |
ミクリオ | …彼も、もうこの世にはいない |
ルドガー | …… |
ミクリオ | 仲間を失う度に、スレイ自身の心も削られていった |
ミクリオ | 彼の心が弱った隙をついて何かが憑りついたようだ |
ライフィセット | …その「何か」が黒いモヤと関係してるって事だね |
ミクリオ | おそらく、そうだろう |
ルドガー | …ミクリオ。「時歪の因子」という名称を聞いた事はあるか? |
ミクリオ | いいや。初めて聞く言葉だ |
ルドガー | 時歪の因子は分史世界を形成する要で正史世界との違いが大きいものに憑依する性質がある |
ルドガー | この世界のスレイは、俺達の世界にいた彼と大きく違っていると思うんだ |
ミクリオ | …!つまり、スレイに憑りついたものがその時歪の因子だと? |
ルドガー | 黒いモヤの話を聞いた時、その可能性を考えたんだ |
ルドガー | 時歪の因子に憑依されたものは黒いモヤに身体が覆われるから |
ライフィセット | スレイとの戦いで言ってた確かめたい事って、時歪の因子の事だったんだね |
ルドガー | ああ。近くでスレイと対峙すればモヤの正体を掴めるかもしれないと思ったんだ |
ミクリオ | それで…あのモヤは君の言う時歪の因子だったのか? |
ルドガー | …わからない。ただモヤを見た時、違和感を感じたんだ |
ルドガー | 時歪の因子かどうか見極めようとしたけど、シュヴァルツが介入してきて確かめられなかった |
ライフィセット | スレイが時歪の因子に憑依されてたとして…助ける方法はあるの? |
ルドガー | …さっきも話した通り、時歪の因子は分史世界を形成する要なんだ |
ルドガー | 破壊すれば、憑依された者だけじゃなく…その分史世界ごと、消滅する事になる |
ライフィセット | …! |
ルドガー | 俺や兄さん…クルスニクの一族は、骸殻の力を使って時歪の因子を破壊する事が出来る |
ルドガー | 正史世界に悪影響を及ぼす分史世界は兄さんと手分けして破壊してきたんだ |
ミクリオ | …もし、スレイが時歪の因子だったとしたら、君はこの世界ごと破壊するつもりなのか? |
ルドガー | 俺は…この世界を壊さずにスレイを助ける道を探したい |
ルドガー | 今まで破壊してきた分史世界とはいろいろと状況が違ってるんだ |
ルドガー | モヤの影響が正史世界のスレイにあらわれた事も気になる |
ライフィセット | …それなら、もう一度スレイに会って、憑りついたものの正体を見極めるべきだね |
ルドガー | ああ。正体がわかれば、スレイを助ける方法が見つかるかもしれない |
ミクリオ | …わかった。人の集まる場所に行って、情報を集めよう |
ミクリオ | スレイをどうするのかは彼に憑依したものの正体を確かめてから考えるよ |
ライフィセット | …… |
ルドガー | それじゃあ、ここから一番近い街かどこかに… |
| |
| グオオオオッ! |
ミクリオ | …!魔物の声だ |
??? | …… |
ライフィセット | あそこ…!魔物の傍に、誰か倒れてるみたいだよ…! |
ルドガー | このままじゃ危ない!助けよう |
| 森での出会い |
ルドガー | はああっ! |
| ズバッ! |
| ギャウウッ! |
ライフィセット | ふう、何とか間に合ったみたいだね |
ミクリオ | ああ。倒れている女性も無事だ |
ミクリオ | 見たところ、怪我はないみたいだな。魔物が現れた事に驚いて気を失ったのか… |
ルドガー | あの、起きてください…!大丈夫ですか? |
| |
??? | ん…? |
??? | あら、おはよう |
ルドガー | お、おはようございます… |
??? | ここは…どこだったかしら? |
ライフィセット | 森の中だよ。大丈夫?どこか痛いところはない? |
??? | 大丈夫よぉ。どうしてそんなに心配そうな顔をしてるのかしら? |
ミクリオ | 君は、魔物に襲われそうになっていたんだ。覚えてないのか? |
??? | あら、そうなの。あなた達が助けてくれたのね、ありがとう |
ライフィセット | どうしてこんなところで倒れてたの? |
??? | …思い出したわ。森の中を歩いている時に眠くなって… |
ルドガー | もしかして…寝ていたんですか? |
??? | うららかな陽気に誘われて、つい… |
ミクリオ | この森にはよく魔物が出る。あまり気を抜かない方がいい |
??? | 知らなかったわぁ。次は魔物ちゃんの邪魔にならない場所を探すわね |
ミクリオ | …僕は、昼寝をしない方がいいと言ったつもりなんだが |
??? | 些細な事は、気にしないでおきましょう?だって、些細な事ですもの |
ミクリオ | …… |
??? | ところで、あなた達はだあれ? |
ルドガー | 俺はルドガー・ウィル・クルスニク。こっちはライフィセットとミクリオです |
グリューネ | わたくしはグリューネ。よろしくね |
ライフィセット | グリューネは、どこかに向かう途中だったの? |
グリューネ | そうねぇ。確か、人を捜していて… |
グリューネ | この辺りで気配を感じたんだけど…お昼寝している間に、消えちゃったみたいね |
ミクリオ | 本当に捜す気があるのか…? |
ルドガー | は、はは… |
グリューネ | みんな、黒い仮面をつけた女性を見なかったかしら? |
ミクリオ | 黒い仮面…もしかして、シュヴァルツの事か? |
グリューネ | …だったと思うけれど。違うかしら? |
ミクリオ | 僕に聞かれても困る… |
ライフィセット | どうしてシュヴァルツを捜してるの? |
グリューネ | …理由はわからないけれど、シュヴァルツちゃんを止めなければいけない気がするの |
グリューネ | それに、何故かシュヴァルツちゃんの居場所がわかるのよねぇ |
ルドガー | 実は俺達も、捜している人がいるんです |
ルドガー | もしかしたら、シュヴァルツは俺達が捜している人の傍に現れるかもしれない |
グリューネ | そうなの? |
ミクリオ | 僕達が捜しているスレイとシュヴァルツは人間と天族を戦わせるために裏で結託している |
ミクリオ | どちらかを追えば、必ずもう片方が現れるはずだ |
ライフィセット | 僕達はこれから人の集まる場所に行って情報を集めるつもりなんだ |
ライフィセット | グリューネも一緒に行かない?この森を一人で抜けるのは危険だと思うし |
グリューネ | 誘ってもらえて嬉しいわぁ。ピクニックは大勢の方が、楽しいものねぇ |
ルドガー | ピクニック…じゃないけど、まあ、いいのかな |
ライフィセット | 些細な事は気にしないって言ってたもんね |
ミクリオ | 連れて行く事に不安がないわけじゃないが… |
ミクリオ | シュヴァルツの気配が読めるなら彼女が傍にいた方が心強い |
グリューネ | みんなでピクニックね。楽しみだわぁ |
グリューネ | 改めてよろしくね |
ライフィセット | よろしく、グリューネ |
ミクリオ | 不安だな… |
ルドガー | …… |
| |
エル | やっと着いた~! |
ミクリオ | バロニアは、いつ来ても人で賑わってるな |
ミクリオ | ここまで結構距離があったけど、歩き疲れてないか? |
エル | 全然よゆー!エル、前に一人でバロニアまで来た事あるし |
ミクリオ | それは頼もしいな |
エル | これからどうしよう?エル達を助けてくれる人、見つけなきゃだよね |
ミクリオ | …まずはウィンドル城の近くに行ってみよう |
ミクリオ | あそこに行けば、騎士団の誰かに会えるかもしれない |
エル | わかった! |
エル | エルが一人でバロニアに来た時は、ユーリが助けてくれたんだけど今は騎士じゃないんだって |
ミクリオ | …!エルはユーリの知り合いなんだな |
エル | うん。ミクリオもユーリ、知ってるの? |
ミクリオ | ああ。他にも何人か騎士団の中に知り合いがいるんだ |
エル | じゃあ、早くお城に向かおう!ルドガー達を助けてもらわないと |
ミクリオ | そうだな |
| |
アスベル | ──被害の規模は? |
騎士 | 山道は封鎖されているが、幸い土砂崩れによる怪我人は出ていないそうだ |
アスベル | そうか。それなら、増援は必要ないな |
騎士 | ああ。状況が変化した場合は、報告する |
アスベル | わかった |
ミクリオ | アスベル! |
アスベル | …!ミクリオじゃないか |
アスベル | ウィンドルに来ていたんだな |
ミクリオ | ああ。城の騎士達が慌ただしくしていたが、何か問題があったのか? |
アスベル | 山岳地帯で土砂災害が起こったんだ。道が塞がれるくらいの小規模な被害で済んだそうだから、心配はない |
ミクリオ | そうか |
アスベル | 久しぶりに会えて嬉しいよ。一緒にいるその子は…? |
エル | エルはエル。エル・メル・マータ |
ミクリオ | 彼女は、訳あってルドガーの家で暮らしているんだ |
アスベル | そう言えば、ルドガーが一緒に住んでいる女の子がいるって話していたな |
アスベル | 俺は、アスベル・ラント。ルドガーとは友達なんだ |
エル | そうなの?じゃ、エルもアスベルと友達になる! |
アスベル | ああ、よろしく、エル |
アスベル | それで…二人はどうしてここに? |
ミクリオ | 実は── |
アスベル | そんな事があったのか…。ルドガーとライフィセットの行方は掴めていないんだな? |
ミクリオ | ああ…。スレイも目を覚まさないままだ |
アスベル | わかった。国王陛下に話して手を貸してくれる人を捜そう |
アスベル | 心配だから、俺もイニル街に向かうよ |
エル | アスベル、王様と話せるの?すごー |
エル | 王様は忙しいって、前にユーリが言ってたのに |
アスベル | …!エルはユーリとも知り合いなんだな |
アスベル | 大丈夫だ。リチャード陛下なら、ちゃんと話を聞いてくれる |
エル | よかった! |
アスベル | 陛下に状況を報告したら、バロニアで治療が出来る人を何人かあたってみよう |
アスベル | 一人では無理でも、数人ならスレイを治療出来るかもしれない |
ミクリオ | 助かるよ |
アスベル | 今から陛下と騎士団に話を通してくる。二人はここで待っていてくれ |
エル | うん、わかった!いってらっしゃい |
scene1 | 襲いくる魔の手 |
グリューネ | ──あっちからシュヴァルツちゃんの気配を感じるわ |
ミクリオ | …!確かなのか? |
グリューネ | そうねぇ…何となくわかるの |
ミクリオ | …なら、向こうの方角へ向かおう。丁度あの先にメルトキオがある |
ミクリオ | あそこにはいろいろな情報が集まっているはずだ |
ルドガー | そうだな。メルトキオなら、たくさん人がいるだろうし |
ライフィセット | ねぇ、どうしてグリューネはシュヴァルツの気配が読めるのかな? |
グリューネ | ええと、どうしてかしら? |
ミクリオ | さっきから話を聞いているとまるで自分の事がわかっていないみたいだ |
ルドガー | もしかして、記憶を失ってるんじゃ… |
グリューネ | あら、記憶はちゃんとあるわよ。お昼寝から起きたら、みんながいたわ |
ライフィセット | それって、ついさっきの事だよね… |
ミクリオ | 彼女から詳しい情報を聞き出すのは難しそうだな |
ルドガー | ああ…。シュヴァルツを捜してるって事は何か関わりがあるんだろうけど… |
| ザッザッザ |
グリューネ | …あら?何か聞こえるわね |
ライフィセット | 向こうから、誰か歩いて来るよ。…大勢いるみたい |
ミクリオ | あれは…シルヴァラントの兵士だ |
ルドガー | やけに急いでるみたいだ |
ルドガー | 何かあったのかもしれない。話を聞いてみよう |
ライフィセット | うん! |
ルドガー | あの…! |
兵隊長 | ん?まだこんなところに人が残っていたのか |
兵隊長 | 避難指示を出しているはずだが、行き届いていないようだな |
ミクリオ | 何かあったのか? |
兵士1 | 王都メルトキオに魔物の大群が押し寄せたらしい |
ライフィセット | …!魔物が!? |
ライフィセット | メルトキオの人達は、無事なの? |
兵隊長 | 街の中で大規模な戦いが起こっている。人的な被害も相当出ているだろう |
ライフィセット | そんな… |
兵隊長 | この辺りも安全とは言えない。君達も早く避難しなさい |
| ザッザッザ |
ルドガー | 今の話…何か、スレイ達と関係があるんじゃないか? |
ミクリオ | ああ…。いきなり魔物が大群で襲って来るなんて、通常じゃ考えられない |
ミクリオ | それに、メルトキオの方角はグリューネが気配を感じた方向と一致してる |
ミクリオ | おそらく、シュヴァルツが関わっているんだろう |
ライフィセット | メルトキオに行けば戦いに巻き込まれる事になるけど…グリューネは平気? |
グリューネ | 勿論よぉ。わたくしも、みんなと一緒に戦うわよ |
ミクリオ | …戦えるのか? |
グリューネ | きっと何とかなるわよぉ |
ルドガー | …… |
グリューネ | 早く行きましょう?街で美味しいものを食べたいわぁ |
ライフィセット | 本当に、ピクニック気分なんだね… |
scene2 | 襲いくる魔の手 |
兵士2 | 早く港へ!停泊している船に乗って、安全な場所に避難するんだ! |
女性 | まだ家に夫が残っているの…!メルトキオに行かせて |
兵士2 | 駄目だ!街中はすでに魔物だらけで戻れるような状況じゃない! |
女性 | そんな… |
兵士3 | …すまない。我々も、対応が追い付いていない状況なんだ |
兵士3 | どうして急に、あれだけの魔物が襲ってきたのか… |
女性 | 天族達よ。…彼らが、魔物をけしかけたんだわ! |
ルドガー | あれは…メルトキオから出て来た人達か? |
ミクリオ | そうみたいだな。港に向かっているんだろう |
ライフィセット | それだけ、街の被害が大きいんだろうね… |
ミクリオ | メルトキオの人間達は天族が魔物を誘導したと考えているみたいだが… |
ミクリオ | ──グリューネ。シュヴァルツの気配を追えるか? |
グリューネ | そうねぇ…。あっちの方にいる気がするわ |
ミクリオ | …やはり、メルトキオにシュヴァルツがいるようだな |
ライフィセット | 魔物を動かしてるのはシュヴァルツって事…? |
ミクリオ | まだわからないが、彼女が騒動に関与している事は間違いなさそうだ |
ルドガー | メルトキオへ急ごう。被害が大きくなる前にシュヴァルツを捜さないと |
ミクリオ | ああ、そうだな |
scene1 | 人間と天族 |
ルドガー | 人が多くて進み辛いな… |
ミクリオ | メルトキオに近付くにつれて、避難者が増えてるんだ。この辺りは特に混乱してるみたいだね |
ライフィセット | うん…。ここに来るまでに何度か避難する人達に会ったけど… |
ライフィセット | みんな、メルトキオの街が悲惨な状況になってるって言ってたよね… |
| きゃあああっ! |
グリューネ | あら、賑やかねぇ |
| グルルルルル… |
女の子 | こ、来ないで…! |
ライフィセット | あそこを見て!女の子が魔物に襲われてるよ! |
ルドガー | このままじゃ危ない!助けないと! |
ミクリオ | ああ、行こう |
scene2 | 人間と天族 |
ライフィセット | ──ジルクラッカー! |
| ギャゥウウウ |
女の子 | あ、あれ…? |
ルドガー | 間一髪だったな。間に合ってよかった |
ライフィセット | 君、大丈夫…? |
女の子 | う、うん!助けてくれてありがとう |
女の子 | お兄ちゃん達、強いんだね |
グリューネ | 一人じゃ危ないわよぉ。お母さんとお父さんは? |
女の子 | あ、二人ならあそこに… |
女の子 | お父さん!お母さん! |
母親 | ああ…!無事だったのね…よかった |
女の子 | うん!お兄ちゃん達が助けてくれたんだよ |
父親 | ありがとうございます。何とお礼を言っていいか… |
ライフィセット | お礼なんて…僕達は、当たり前の事をしただけだから |
母親 | 優しいのね。あなた達も避難を? |
ミクリオ | いいや。僕達はメルトキオに向かってる |
父親 | メルトキオに…!?やめておいた方がいい、あそこはもう… |
| ピーピー |
| |
父親 | …ん?装置が反応している…!? |
女の子 | どうしたの、お父さん? |
父親 | この装置は、天族に反応するんだ。君達は…天族なんだな |
ミクリオ | …… |
ライフィセット | そう、だけど… |
父親 | 離れなさい!彼らは私達の敵だ |
女の子 | え、でも…お兄ちゃん達は、私を助けてくれたよ…? |
母親 | 信じちゃ駄目よ!街に魔物を呼び込んだのも天族なのよ…! |
母親 | 誰か!ここに天族がいるわ…! |
ライフィセット | っ… |
| タッタッタ… |
兵士4 | こんなところに天族が紛れ込んでいたのか! |
兵士4 | やはり、魔物をけしかけたのは貴様達だな!? |
ルドガー | そんな…!ミクリオ達は何も── |
兵士5 | 早くこの家族を港へ!天族から民衆を守るんだ! |
女の子 | お、お兄ちゃん… |
ミクリオ | ──行くんだ。僕達は、大丈夫だから |
女の子 | …わかった |
兵士4 | お前達の目的は何だ |
グリューネ | どうしてそんなに怒ってるの?わたくし達は街に行きたいだけよぉ |
兵士5 | メルトキオの街に魔物を誘導するためか!? |
ルドガー | そうじゃないって言ってるだろう!俺達は、ただ… |
ミクリオ | …仕方ないな |
| チャキッ… |
| |
ライフィセット | ミクリオ…!? |
ミクリオ | 人間にとって僕と君は天族という敵でしかない |
ミクリオ | いつまでもここで足止めされているわけにはいかないんだ |
ライフィセット | でも…! |
ルドガー | …戦おう、ライフィセット。俺達は、先に進まないといけない |
ルドガー | スレイ達を止めない限り、この戦いに終わりは来ないんだ |
ライフィセット | っ…わかった |
scene3 | 人間と天族 |
ミクリオ | 増援は到着していない。今の内に、メルトキオへ── |
| ガルルルル! |
兵士6 | く、来るな…!うあああああ! |
| ザシュッ! |
兵士6 | ぐああああ…! |
ライフィセット | 人が襲われてる…!行かないと! |
グリューネ | あら、走って行っちゃったわね |
ルドガー | まずい!ライフィセットを追おう! |
ミクリオ | ああ |
ライフィセット | はっ! |
| ギャゥウウウ |
兵士6 | う…ぐっ |
ライフィセット | 大丈夫!?待ってて、今、僕が…! |
ライフィセット | ──快癒瞬け!ファーストエイド! |
| パアア… |
ルドガー | ライフィセット!その人の様子は? |
兵士6 | ぐう… |
ライフィセット | 傷が深い…!このままじゃ… |
グリューネ | …苦しそうねぇ |
ミクリオ | ──やめるんだ、ライフィセット。彼はもう… |
ライフィセット | まだわからないよ…!もしかしたら、助かるかも… |
兵士6 | はぁ…はぁ… |
| |
ミクリオ | …ルドガー、剣を貸してくれ |
ルドガー | ああ…でも何に使うんだ? |
ミクリオ | …こうするんだ |
| チャキッ |
ライフィセット | …!ミクリオ、待っ── |
| グサッ |
ルドガー | …! |
| |
ライフィセット | どうして…!何で、こんな…! |
ミクリオ | いつまでも、苦しみを与え続けるべきじゃない |
ライフィセット | っ…だから、殺すって言うの!?スレイの事も!? |
ミクリオ | …… |
ミクリオ | …殺す事が救いになると、ある男に教わった |
ミクリオ | 殺す事でしかスレイを守れないなら僕は…親友をこの手で殺める覚悟がある |
ミクリオ | たとえ刺し違えたとしても…スレイが望まない罪を犯させるわけにはいかない |
ルドガー | ミクリオ… |
ライフィセット | …たとえその人が変わってしまっても僕は…大切な人に生きていてほしいと思うよ |
ライフィセット | ミクリオは、スレイと一緒に生きたいと思わないの…!? |
ミクリオ | …… |
グリューネ | まあ。ミクリオちゃんとライフィセットちゃんはと~っても優しいのねぇ |
ミクリオ | …唐突だな |
グリューネ | だって二人共、お互いを心配して言葉をかけてるんでしょう? |
グリューネ | それって、相手を思い遣ってるのは、同じって事よねぇ |
ライフィセット | …! |
ミクリオ | …悪かった。僕が感情的になったようだ |
ライフィセット | …ううん、僕も…ごめんなさい |
ルドガー | まだ、スレイを救う方法がないと決まったわけじゃない |
ルドガー | 今、俺達に出来る事を探そう |
ライフィセット | うん、そうだね |
グリューネ | みんなの気持ちを合わせれば、きっとうまくいくわ |
scene1 | 虚ろなる導き手 |
ライフィセット | ここがメルトキオ… |
ミクリオ | ああ。だけど…いつもとはまるで雰囲気が違う |
| グルルル… |
ルドガー | 人影は見えないけど…そこら中に魔物がいるな。空気が張り詰めてる感じがする |
ミクリオ | 普段はもっと活気に溢れて穏やかな街だ。今は…見る影もない状態だけど |
ミクリオ | 兵士達以外は街の外に避難したんだろう。建物の損壊も激しい |
グリューネ | …シュヴァルツちゃんの気配が強くなったわ。近くにいるみたいねぇ |
ライフィセット | どっちの方向にいるかわかる? |
グリューネ | そうねぇ…。多分…あっちの方、かしら |
ミクリオ | 酷く曖昧だが…君の言葉を信じるしかないな |
グリューネ | 大丈夫よ。この気配だけは、読み違えた事がないもの |
| グルルルルル…! |
ルドガー | …!魔物達に気付かれたみたいだな |
ミクリオ | ああ。先へ進むには魔物を倒すしかなさそうだ |
ミクリオ | 少し数が多いが…こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。行こう |
scene2 | 虚ろなる導き手 |
ルドガー | …ふう、この辺りの魔物は大体倒せたな |
ミクリオ | ああ。だけど、油断は禁物だ |
ミクリオ | 街の中にはまだかなりの数の魔物が残っているだろうから |
| |
グリューネ | …! |
グリューネ | 来るわ… |
ライフィセット | え…? |
| |
シュヴァルツ | 久しいな、グリューネ |
ミクリオ | …!いつの間に背後に…! |
グリューネ | あなたは…わたくしの、お知り合いの方かしら? |
シュヴァルツ | よもや記憶すら戻っておらぬとは |
シュヴァルツ | グリューネが我を知るのと同様に、我はグリューネを知る存在 |
グリューネ | わたくしも、あなたを知ってるのね? |
グリューネ | だから、あなたの気配が追えるのかしら… |
シュヴァルツ | 我を感じるまでには、力を取り戻しているわけか |
シュヴァルツ | 記憶がなければそれでよい。すべての力を取り戻す前に…滅びの道を歩め |
| バシュッ |
グリューネ | うう…っ |
ライフィセット | グリューネ! |
ルドガー | いきなり何をするんだ! |
シュヴァルツ | 邪魔立てするな、人の子よ |
ミクリオ | …シュヴァルツ、答えろ。スレイと結託して、何をするつもりなんだ |
ミクリオ | 負の感情を蔓延させる事に、何の意味がある |
シュヴァルツ | 愚問だな。我は破壊神としてこの世界ごと無に帰すのみ |
ライフィセット | …!どうしてそんな事を…! |
シュヴァルツ | この世界に、如何ほどの価値があると言える? |
シュヴァルツ | 醜態を晒すなら、潔く虚無の彼方へと還る方がよい |
ルドガー | スレイと手を組んだのは…その計画を進めるためなのか |
シュヴァルツ | あの者の心に憑りついた闇は我に大きな力を与える |
シュヴァルツ | 時が来るまで、利用しているだけだ。所詮はあの者も人の子よ |
ミクリオ | …! |
ミクリオ | スレイを利用して…世界を壊すつもりなのか! |
ミクリオ | 彼の怒りや悲しみは君に利用されるために生まれたものじゃない! |
シュヴァルツ | 人の子よ。わきまえよと教えた |
シュヴァルツ | このまま無に還るがよい |
ライフィセット | させない…! |
| バシュッ! |
シュヴァルツ | …哀れな。その程度の力で我を止めようとは |
グリューネ | どうして優しい子達を苦しめるの? |
シュヴァルツ | グリューネよ、何故わからぬ。我に過ちはない |
シュヴァルツ | 過ちを犯すは人の子の業。幾度の過ちは人の子の罪 |
シュヴァルツ | これがこの星の実態だ。守る価値など到底ありはしない |
グリューネ | …あなたが奪おうと言うのなら、わたくしは立ちはだかるわ |
シュヴァルツ | 何故、脆弱な人の子を守ろうとする?記憶すら失ったその身で |
シュヴァルツ | 争いに疲れた人の子の願いを、我がかなえようというのだ |
シュヴァルツ | 全てが無ければ、痛みも苦しみもない |
シュヴァルツ | すべてが虚無へと還ればよい |
グリューネ | あなたはわかっていないのね |
グリューネ | この世界には命を懸けるに値するくらい素晴らしいものがたくさんあるのよ |
シュヴァルツ | …グリューネよ。もう我の邪魔をするな |
| バシュッバシュッ |
ルドガー&ミクリオ | くっ…!? |
グリューネ | やめなさい |
シュヴァルツ | …… |
グリューネ | わたくしは、あなたと、戦わなければならない |
グリューネ | 不思議と…その事だけは思い出せたわ |
シュヴァルツ | そのような半端な覚醒で、我の前に立ちはだかった事、後悔するぞ |
グリューネ | 後悔なんてしないわよぉ。わたくしが正しいと思う道ですもの |
グリューネ | わたくしが守りたいと思うみんなをあなたに壊させたりしないわ |
シュヴァルツ | あわれな存在だな、グリューネよ。記憶がなくとも道を変えられぬとは |
グリューネ | それはあなたも同じなのでしょう? |
シュヴァルツ | …言葉は無意味だ。始めようか |
| |
グリューネ | 来るわよ。みんな、大丈夫? |
ライフィセット | うん。何があってもあの人を止めなくちゃ |
ミクリオ | …僕は、彼女を許さない |
ミクリオ | シュヴァルツがスレイを利用しようとするなら僕が止めて見せる |
ルドガー | そうだな。俺達で、人と天族の争いを終わらせよう |
シュヴァルツ | 人の子よ、我が腕に抱かれ、安らかなる眠りに落ちよ |
シュヴァルツ | 我が力をもって、無に還るがよい! |
scene3 | 虚ろなる導き手 |
シュヴァルツ | これが…人の子の力だと言うのか… |
グリューネ | わたくしの力が完全ではないようにあなたの力も完全ではなかったようね |
シュヴァルツ | おのれ…。我の糧となる人の業がこの地を満たしていれば… |
シュヴァルツ | 何故抗う。いずれこの世界は負の感情で満たされると言うのに |
ライフィセット | そんな未来にはさせない! |
ライフィセット | 諦めなければきっと、人間と天族は手を取り合う事が出来るはずだから |
ミクリオ | …! |
シュヴァルツ | 戯言を。人は迷い、苦しみ、悲しむ事から逃れられはしない |
ルドガー | そんなの、やってみないとわからないだろう |
グリューネ | みんなの言う通りよ。未来なんて、誰にもわからないわ |
シュヴァルツ | 愚かな… |
ミクリオ | 彼女をこのままにしておくと危険だ。何か策を考えないと… |
グリューネ | わたくしが封印するわ。シュヴァルツちゃんの力が弱まっている、今の内にね |
ミクリオ | そんな事が出来るのか? |
グリューネ | 出来るわよぉ。何となく、やり方がわかるの |
グリューネ | ずっと前にも同じ事をしたような気がするわぁ |
グリューネ | それじゃあ、始めるわね |
| |
??? | そうはさせない |
??? | ──はああっ! |
グリューネ | っ…!? |
| |
ミクリオ | スレイ…!何を… |
スレイ | ありがとう、ミクリオ。シュヴァルツを弱らせてくれて |
スレイ | オレは…この時を待ってたんだ |
| パアア… |
ルドガー | あれは…! |
グリューネ | シュヴァルツちゃんの力を自分の中に取り込んだのね |
ライフィセット | そんな…! |
スレイ | これで…オレの願いがかなえられるよ |
ミクリオ | っ…スレイ… |
scene1 | スレイの目的 |
グリューネ | …あなたは、その力を取り込んで何をするつもりなのかしら? |
スレイ | それは── |
| ガサッ |
スレイ | …邪魔が入ったみたいだな |
| ガルルルル! |
ルドガー | くっ…まだ魔物が残ってたのか! |
スレイ | ここは、ミクリオ達に任せるよ |
ミクリオ | 待て、スレイ…!逃げるつもりか! |
スレイ | オレは、逃げも隠れもしない。その魔物を倒して追って来られたら話をしよう |
スレイ | いつまでも、ミクリオ達にオレの目的を邪魔されるわけにもいかないしね |
ミクリオ | スレイ… |
| ガルルルル… |
グリューネ | あら、何だか気が立ってるみたいねぇ |
ライフィセット | 魔物を操ってたシュヴァルツが消えたから、制御が解けて混乱してるのかな |
| ザザッ…! |
ルドガー | …!こっちに向かってくる! |
ライフィセット | グリューネ、危ない! |
グリューネ | あらあら |
ミクリオ | はああっ! |
| バシュッ! |
| ギャゥウウウウ… |
ミクリオ | 怪我はないか? |
グリューネ | 大丈夫よぉ。強いわねぇ、ミクリオちゃん |
ミクリオ | …君はもう少し周りを警戒した方がいい |
ミクリオ | スレイを追おう。今の彼を野放しにしておくわけにはいかない |
ルドガー | ああ… |
scene2 | スレイの目的 |
ルドガー | ──この辺りも、かなり荒らされてるな |
ミクリオ | それだけ魔物達が暴れまわったという事だろう |
ライフィセット | …!みんな、あそこ…! |
スレイ | …やっぱり、追いついて来たな |
スレイ | あの程度の魔物じゃ足止めくらいにしかならないと思ってたよ |
ミクリオ | スレイ!君は…シュヴァルツの力が弱まる時を待っていたと言ったな |
ミクリオ | 初めから、彼女の力を取り込むつもりだったのか |
スレイ | そうだよ。オレの願いをかなえるためには、彼女の力が必要だった |
スレイ | 封印から目覚めたシュヴァルツがある程度力を取り戻してから取り込むつもりだったんだ |
グリューネ | わたくし達がシュヴァルツちゃんを倒さなくても、あなた自身の手で力を奪うつもりだったのね |
スレイ | ああ。人間と天族の負の感情を取り込んで彼女はかなり力を取り戻してたからね |
ライフィセット | シュヴァルツがスレイを利用してたんじゃなくて… |
ライフィセット | スレイが、シュヴァルツを利用してたって事? |
スレイ | どっちだって同じさ。最終的に残った方が、力を得られるってだけで |
スレイ | 結果的に、オレがシュヴァルツを取り込む事になったけどね |
ルドガー | …!あのモヤは… |
ルドガー | はっ! |
ミクリオ | …!モヤの正体を確かめるのか? |
ルドガー | ああ。今度こそ、見極めてみせる! |
ルドガー | ──はああっ! |
| ガキンッ! |
スレイ | その力…前に会った時も使ってたな |
スレイ | 力が強化されるみたいだけど、今のオレには通用しないよ |
scene3 | スレイの目的 |
ルドガー | くっ…!? |
ライフィセット | ルドガー!大丈夫!? |
ルドガー | ああ…。それにしても、何て力だ… |
ルドガー | 前に遺跡で戦った時と、全然違う… |
グリューネ | シュヴァルツちゃんを取り込んでより強い力を手に入れたのねぇ |
ミクリオ | ルドガー。スレイに憑りついたものの正体はわかったのか? |
ルドガー | ああ。近くで見て確信したよ |
ルドガー | あれは、時歪の因子じゃない。あのモヤは一体、何なんだ… |
ミクリオ | …! |
ミクリオ | …そうか。やはり、モヤの正体は掴めないんだな… |
ライフィセット | ミクリオ… |
ルドガー | スレイ。君は、シュヴァルツのように世界を無に帰すつもりなのか? |
スレイ | …そんな事はしないよ |
スレイ | オレの目的は、全ての人間を滅ぼす事だから |
ミクリオ | …! |
グリューネ | 何故、人間を…? |
スレイ | 人がいなくなれば天族を傷付ける存在はいなくなる |
スレイ | もう二度と…エドナ達のように、仲間を失う事もなくなるだろ? |
ミクリオ | っ…だから、消し去ると言うのか!君と同じ人間を、この世界から! |
スレイ | ああ。それで、争いが終わるなら |
スレイ | オレは一人残らず人間を滅ぼしてみせる |
ミクリオ | …君に、そんな事をさせるわけにはいかない! |
ライフィセット | ミクリオ、待って…! |
スレイ | 本当は、ミクリオとは戦いたくないんだけど |
スレイ | このまま何もせず立ち去ってはくれないみたいだな |
ミクリオ | …君はもう、同じ夢をみた友じゃない |
ミクリオ | 僕は君を…止めてみせる!この戦いで、君の命を奪う事になったとしても…! |
scene1 | ミクリオの選択 |
ミクリオ | ──はああっ! |
| キィィンッ! |
スレイ | ミクリオは、本気でオレを殺すつもりなのか? |
ミクリオ | ああ…。僕は、そのために今、ここにいる! |
ミクリオ | 君を救えないとわかった時から今日まで生き長らえて来たのは君にこれ以上、罪を犯させないためだ |
スレイ | …わかった。ミクリオにその覚悟があるなら── |
スレイ | オレも、もう戦いを避けるのはやめにする |
| カシーン! |
ミクリオ | くっ…!? |
スレイ | ──地竜連牙斬! |
ミクリオ | ぐう…っ |
ルドガー | ミクリオ…! |
ライフィセット | やめてよ、二人共…!どうして友達同士で戦わなくちゃいけないの!? |
ミクリオ | っ…邪魔をしないでくれ!これは、僕とスレイの問題なんだ |
ミクリオ | それに、ここにいるスレイを倒せば君達の世界のスレイが救われるかもしれない |
ライフィセット | そんな事、誰も望んでないよ…! |
ミクリオ | 望む望まないに関わらず生きていれば選択を迫られる時が必ず来る |
ミクリオ | 僕は、スレイを苦しみから解放したい。だから…彼と戦う道を選ぶ |
ミクリオ | スレイの尊厳を守るためにはもう、この方法しかないんだ…! |
ルドガー | ミクリオ… |
スレイ | ──悲しいな。イズチにいた時も、導師になって旅をしていた時もいつも一緒にいたのに |
スレイ | 今は、こんな風に剣を交えるようになるなんて…あの頃は、考えもしなかった |
ミクリオ | …… |
ミクリオ | スレイ、君は…人と天族を繋ぐ架け橋になりたいと言っていただろう |
ミクリオ | その時の気持ちを失ってしまったのか…?あの頃の夢を、思い出せないのか? |
スレイ | あんな風に仲間を殺されたのにミクリオは人間を恨んだりしないんだな |
スレイ | オレは、もう決めたんだ。人間を滅ぼして、天族達が平和に暮らせる世界を作るって |
ミクリオ | っ… |
ミクリオ | …覚えているか、スレイ。僕は君に…何もかも一人で背負わせたりしないと、そう言った |
ミクリオ | だからこそ、僕の手で…君を止めてみせる。他の誰にも、この役目は譲らない |
ミクリオ | …終わりにしよう、スレイ。ここで、何もかも! |
グリューネ | …ミクリオちゃん、すごく悲しそうだわ |
ライフィセット | 二人を止めなきゃ…!あんな風に友達同士で傷付け合うのは間違ってるよ…! |
ルドガー | 待つんだ!下手に飛び込んだら、ライフィセットも無事じゃすまない |
ライフィセット | でも…! |
天族の男1 | ──いたぞ!スレイ様を狙う人間と天族だ! |
ルドガー | …!スレイが率いている天族達か…! |
グリューネ | と~っても気が立ってるみたいねぇ。何か嫌な事があったのかしら |
ライフィセット | そんな事言ってる場合じゃないよ!あの人達を倒して、早くミクリオとスレイを止めないと! |
グリューネ | みんな、戦いが好きなのねぇ。メルトキオのご飯を食べられるのはもう少し先になるかしら… |
scene2 | ミクリオの選択 |
ミクリオ | ──ヴァイオレットハイ! |
| バシュッ |
スレイ | …強くなったな、ミクリオ |
ミクリオ | 僕の術を余裕で躱しておいて、よく言うよ |
スレイ | ミクリオの戦い方はよく知ってる |
スレイ | 隣でずっと見てたから、手に取るようにわかるんだ |
ミクリオ | …あれから数百年経った。何もかも同じだと思っていたら痛い目を見るよ |
スレイ | 忠告どうも。でも… |
| タタッ |
ミクリオ | (早い…!?) |
スレイ | オレも、あの頃とは違うんだよ、ミクリオ |
ミクリオ | くっ…! |
| |
| パアアア… |
スレイ | …… |
シェリア | モヤのせいで術が届かない…。厄介ね |
エステル | はい…。ですが、少しずつモヤが薄まっている気がします |
シェリア | そうですね。少しきついけど…このまま二人で治癒を続けましょう |
エステル | はい、任せてください! |
アスベル | シェリア。少し休んだ方がいいんじゃないか? |
アスベル | エステリーゼ様も… |
エステル | 私は大丈夫ですよ、アスベル。このまま続けさせてください |
シェリア | ここでやめたら、振り出しに戻っちゃうかもしれないしね |
アスベル | …わかった。くれぐれも、無理はしないでくれ |
シェリア | うん、わかってる。心配しないで |
エル | …なんか、すごー。ルドガーの家にお姫様がいるよ、ルル |
ルル | ナァ~ |
エル | 王様とも話せるし、もしかしてアスベルってタダモノじゃない…? |
アスベル | い、いや…そうじゃないんだ |
アスベル | リチャード陛下にスレイの事を報告していた時に、たまたまエステリーゼ様がいらっしゃって |
アスベル | スレイを助けるために同行したいと申し出てくださったんだ |
エル | へ~。シェリアは、アスベルの幼馴染なんだよね? |
アスベル | ああ。スレイの治療は、シェリアとエステリーゼ様に任せよう |
アスベル | 俺達は、スレイに起こった異変の原因を調べないといけないな |
ミクリオ | …おそらく、ルドガー達が落ちた穴とスレイの異変には何か関係性があるはずだ |
ミクリオ | エル。もう一度、その時計を見せてもらえるかな? |
エル | うん、いいよ |
アスベル | 穴が現れる前に、この時計が光ったんだよな…? |
ミクリオ | ああ。今は特に変化がないようだけど何かの要因で時計が反応したんだと思う |
アスベル | エル。穴が現れる前に、変わった事はなかったか? |
エル | うーん…。確か、ルルがスレイのベッドに登っちゃって… |
スレイ | う… |
シェリア&エステル | …! |
シェリア | みんな、来て!スレイの様子が… |
エステル | 意識が戻りそうです! |
エル | スレイ、苦しそうだよ…?大丈夫かな… |
スレイ | うぅ… |
ミクリオ | っ…しっかりするんだ、スレイ! |
ミクリオ | スレイ!! |
scene1 | 呼応する世界 |
スレイ | っ… |
| カラン… |
ミクリオ | …! |
| |
スレイ | こんな事しちゃ駄目だ…。でも、天族のみんなを守らないと… |
ミクリオ | スレイ…? |
人間の男 | く、来るな…! |
スレイ&ミクリオ | …! |
ミクリオ | どうしてあんなところに人間が!?全員避難したわけじゃなかったのか…! |
人間の男 | 頼む、見逃してくれ…! |
天族の男2 | ──今更手遅れだ。逃げ遅れた自分を呪うんだな |
人間の男 | うう…どうか…命だけは… |
天族の男2 | はっ、命乞いか? 俺達の仲間が泣き叫んで助けを乞うてもお前達は剣を振り下ろしただろう! |
天族の男2 | お前にも同じ苦痛を与えてやるよ。死んで罪を償え! |
天族の男2 | はあああああっ! |
スレイ | やめろ! |
| カシーン! |
天族の男2 | な…! |
ミクリオ | …! |
ミクリオ | スレイが、人間を助けた…? |
天族の男2 | 何故止めるのですか、スレイ様! |
スレイ | 駄目だ、こんな事…オレ、は… |
スレイ | う… |
ミクリオ | …!スレイ! |
スレイ | 逃げ、ろ…ミクリオ。オレが、まだ…抑えられている間に…! |
ミクリオ | …!スレイ、まさか君は… |
スレイ | オレ、は…人間を… |
スレイ | 人間を、滅ぼさないと…。違う、オレは… |
ミクリオ | しっかりするんだ、スレイ…! |
天族の男3 | ──スレイ様から離れろ! |
ミクリオ | …! |
ルドガー | ミクリオ、危ない! |
| ガキーンッ |
ルドガー | くっ…! |
ミクリオ | ルドガー! |
天族の男4 | スレイ様、今の内です!こちらへ! |
スレイ | …ああ… |
ミクリオ | 待て…!スレイをどこへ連れて行く気だ! |
天族の男5 | 邪魔をするな! |
| ザシュッ |
ミクリオ | ぐう…っ!? |
天族の男5 | あの方は我々を導く光。決してお前達に討ち取らせるわけにはいかない |
ミクリオ | 今のスレイが、光だって…?笑わせないでくれ |
ミクリオ | 君達の相手をしている暇はない。どいてくれ! |
ミクリオ | あの頃のスレイがまだ失われていないなら、僕は…彼を諦めるわけにはいかないんだ! |
天族の男5 | 人間に下った天族が…!軽々しくスレイ様の名を呼ぶな! |
ライフィセット | ミクリオ、下がって!──虹香澄! |
| バシュウウッ |
天族の男5 | ぐう…!? |
ライフィセット | みんな、構えて!天族達がこっちに迫って来てるよ |
ルドガー | ミクリオ、怪我は大丈夫なのか? |
ミクリオ | この程度の傷なら、問題ないよ |
グリューネ | スレイちゃんを追いかけるためにまずはあの人達をどうにかしないといけないわねぇ |
ミクリオ | …ああ。早々に、片を付ける! |
scene2 | 呼応する世界 |
グリューネ | 静かになったわねぇ |
ルドガー | ああ。街に攻めて来た天族達は全員倒せたみたいだな |
| パアア… |
ライフィセット | よし。これで治療は済んだよ |
人間の男 | …君は天族なのに、私の事を助けてくれるんだな |
ライフィセット | うん。傷付いてる人を助けるのに人間も天族も関係ないよ |
人間の男 | そうか…。君の言う通りだ |
人間の男 | 助けてくれてありがとう。心から感謝しているよ |
ライフィセット | どういたしまして |
ミクリオ | …… |
グリューネ | ミクリオちゃん、どうかしたの?辛そうな顔をしてるわ |
ミクリオ | …ライフィセットを見ていると、時々ひどく眩しく感じるんだ |
ミクリオ | 全ての人間が天族を恨んでるわけじゃない… |
ミクリオ | そんな当たり前の事を、ずっと忘れていた |
ルドガー | …スレイと何かあったのか? |
ミクリオ | …戦っている最中に、スレイの身体から溢れていたモヤが一瞬消えたんだ |
ミクリオ | その後、スレイは天族に襲われそうになっていた人間を助けた |
ミクリオ | あの時のスレイは…昔の彼に戻っていたと思う |
ルドガ | …! |
ルドガー | 何かの要因で、スレイに憑りついたものの力が弱まったのか… |
グリューネ | それなら、スレイちゃんを助けられる方法があるかもしれないわねぇ |
グリューネ | 一度、元の自分自身を取り戻せたんだもの。可能性はあるはずだわ |
ミクリオ | …スレイを追いかけよう |
ミクリオ | 人間を助けた時のスレイは、かなり精神が混乱しているみたいだった |
ミクリオ | あんな状態で人間や天族と戦ったりしたら、危険だ |
ルドガー | ああ、そうだな |
ミクリオ | グリューネ。スレイの中にいるシュヴァルツの気配をたどる事は出来るか? |
グリューネ | 出来るわよぉ。あっちの方から、シュヴァルツちゃんの気配を感じるわ |
ミクリオ | ──案内してくれ。僕はもう一度…スレイと話さなくちゃいけないんだ |
scene1 | 夢の続きを |
グリューネ | スレイちゃん達は、あっちの方に向かったみたいねぇ |
ライフィセット | 見て、あそこに村があるよ |
ミクリオ | トーティス村だ。何か情報を得られるかもしれない、寄ってみよう |
ルドガー | ああ |
| |
| グルルルル… |
| |
グリューネ | あら、こんなところに魔物ちゃんが… |
ライフィセット | グリューネ、危ないよ!手を伸ばさないで! |
グリューネ | どうして?仲良くなれるかもしれないわよぉ |
| ギャァアアア! |
ルドガー | ますます怒らせたみたいだな… |
ミクリオ | メルトキオを襲った魔物がここまで逃げて来たんだろう |
ミクリオ | このまま放置しておけば怪我人が出る。僕達で倒してから進もう |
ルドガー | ああ、わかった! |
scene2 | 夢の続きを |
ルドガー | ──これは… |
兵士1 | うう… |
兵士2 | 兵隊長!魔物との戦いで、半数の兵が動けない状態です |
兵隊長 | 怪我人は奥の小屋に運べ!動ける者は私と村の警護に当たる |
兵隊長 | いつ魔物がこの村にも押し寄せてくるかわからん!早急に兵を配備するぞ |
兵士2 | はっ! |
ミクリオ | メルトキオの周辺で魔物と戦っていたシルヴァラントの兵士達だね |
ライフィセット | ひどい…。みんな、傷だらけだ |
グリューネ | シュヴァルツちゃんの気配はここで一旦途切れているわ |
グリューネ | スレイちゃんが力を使えばまた追えると思うのだけれど |
ミクリオ | …おそらく、戦いはこれだけじゃ終わらない。彼らが動く前に居場所を突き止めないと |
ミクリオ | スレイ達を見かけた人間がいないか捜してみよう |
ルドガー | そうだな。もしかしたら、スレイ達が向かった場所がわかるかもしれないし… |
兵士1 | ぐっ…! |
兵士2 | くそっ、血が止まらない…! |
ライフィセット | …! |
| ガシッ |
ミクリオ | 待つんだ、ライフィセット。どこへ行くつもりなんだ |
ライフィセット | あの人を助けないと…! |
ミクリオ | 君の気持ちはわかる。だけど、天族を恨んでいる人間もいるんだ! |
ミクリオ | むやみやたらに人間と関わって、もし君が傷付くような事があったら…! |
ライフィセット | 危険な事はわかってるよ。でも…僕は、人間を信じたい |
ライフィセット | それに、もし恨まれたとしても自分の意思を貫いた事を後悔したりはしないよ! |
ミクリオ | …! |
| |
ライフィセット | あの…! |
| |
| ピーピー |
兵士2 | …!装置が反応してる!? |
| チャキッ |
| |
兵士2 | お、お前…天族だな! |
ミクリオ | くっ…! |
グリューネ | 待って、ミクリオちゃん |
ミクリオ | どうして止めるんだ!? |
グリューネ | 少し、様子を見守りましょう。ライフィセットちゃんならきっと、大丈夫よぉ |
ミクリオ | …… |
ライフィセット | ──確かに、僕は天族だけど…ここにいる人達を傷付けたりしないよ |
ライフィセット | その人を助けたいんだ。だから、僕に治療させてほしい |
| |
兵士2 | …! |
兵士1 | うう…っ |
| |
兵士2 | …わかった。頼めるか? |
ライフィセット | うん! |
| パアア… |
兵士2 | 傷が…塞がっていく… |
ライフィセット | とりあえずはこれで、大丈夫だと思う |
兵士2 | そうか…。…ありがとう |
ライフィセット | ううん。役に立てたなら、よかった |
兵士2 | …まだ、奥の小屋に大勢怪我人がいるんだ |
兵士2 | もしよかったら、手を貸してくれないか |
兵士2 | 自分でも、都合のいい事を言っている自覚はある…。さっきの態度は詫びるよ |
ライフィセット | …ちょっとだけ、待ってて |
ライフィセット | ミクリオ、僕… |
ミクリオ | ──行くといい。スレイ達の事は、僕達の方で探っておくから |
ライフィセット | …!うん! |
ライフィセット | じゃあ、僕はあっちの方にいるから、何かあったら声をかけてね! |
ミクリオ | …彼は、どんな人間にも天族にも分け隔てなく接するんだな |
グリューネ | それがライフィセットちゃんの優しいところよねぇ。お姉さん、感動しちゃうわ |
ミクリオ | …… |
ルドガー | ミクリオ?どうかしたのか? |
ミクリオ | 本当の事を打ち明けると…僕は人を救おうとするライフィセットを見るたびに、苦しかった |
ミクリオ | 過去の自分と重なるようで、心が痛むんだ |
グリューネ | ミクリオちゃん |
| ギュッ… |
ミクリオ | グ、グリューネ…何を… |
グリューネ | お疲れさま。よく頑張ったわね |
グリューネ | きっとミクリオちゃんは…ずーっと一人で悩んで来たのよねぇ |
グリューネ | 本当は…ミクリオちゃんだって人間と仲良くしたいんでしょう? |
ミクリオ | と、とにかく…離れてくれないか |
ミクリオ | ──君の言う通りだ。僕も昔は…人間と天族の争いを止めようと必死になっていた |
ミクリオ | だけど、長い時が過ぎて…いつまでも終わらない戦いに疲れてしまったんだ |
ミクリオ | …ライフィセットと違って僕は、全てを諦めようとしていた |
ルドガー | それでも、ミクリオはスレイから逃げなかったじゃないか |
ルドガー | 大切な人を倒してでも救いたい…その決断を下したミクリオはすごいと思うよ |
ルドガー | ミクリオがどれだけスレイの事を大事だと思っているのか伝わってくるんだ |
ミクリオ | …… |
ミクリオ | …聞いてくれ、ルドガー |
ミクリオ | 僕はスレイが人間を助ける姿を見て、確信したんだ |
ミクリオ | 彼の中にはまだ、人間を助けたいと願う気持ちが残っている |
ミクリオ | 僕は…スレイを取り戻したい。スレイが諦めていないのに、僕が諦めるわけにはいかないからね |
ルドガー | ああ、そうだな |
ルドガー | ミクリオなら絶対にスレイを助ける方法を見つけ出せるよ |
ミクリオ | ありがとう、ルドガー。僕はもう、どんな事があっても立ち止まったりしない |
ミクリオ | スレイを取り戻して…もう一度、途切れた夢の続きを二人で見たいんだ |
グリューネ | 素敵ねぇ。きっと、ミクリオちゃんならなし遂げられると思うわぁ |
ルドガー | そのためにはまず、人間と天族の戦いを止めないとな |
ミクリオ | ああ。──諦めなければきっと、人間と天族は手を取り合う事が出来る… |
ミクリオ | ライフィセットが言っていた言葉を僕も信じようと思う |
ミクリオ | だから今は…僕に出来る精一杯の事をするだけだ |
| |
ミクリオ | 僕はもう一度スレイを封印する |
| |
ルドガー | …! |
ミクリオ | そのためには…グリューネ、君の力が必要だ。手伝ってくれないか |
グリューネ | ミクリオちゃんは、それでいいのね? |
ミクリオ | ああ。僕は必ず世界を変えてみせる |
ミクリオ | 何百年…何千年かかっても人間と天族が平和に暮らせる世界を作るよ |
ミクリオ | スレイが次に目を覚ました時に…苦しむ事がないように |
ルドガー | ミクリオ… |
ミクリオ | 君達に出会ってから、少しずつ状況が変わって来た |
ミクリオ | この数百年で知り得なかった事が少しずつ解き明かされていってる |
ミクリオ | スレイに人を救いたいと願う心が残っている限り、希望はあるはずだ |
ミクリオ | だから…僕はもう二度と、スレイを救う事を諦めないよ |
ルドガー | ああ。俺達も、手を貸すよ |
ミクリオ | ありがとう |
グリューネ | …それなら、早くスレイちゃん達を捜さないといけないわねぇ |
ルドガー | ひとまず、村の人達に話を聞いてみよう |
ルドガー | 怪我をした人が多いみたいだから、薬を運ぶ手伝いをしながら一人一人に聞いて回った方がいいな |
グリューネ | そうねぇ。私達もライフィセットちゃんを見習って、お手伝いしましょうか |
ミクリオ | ああ、そうだね |
scene1 | 暗躍する影 |
ライフィセット | グリューネ。シュヴァルツの気配は感じる? |
グリューネ | そうねぇ…今はまだ何も感じないわぁ |
ルドガー | トーティス村にいた人達の話だと、スレイ達はこっちの方角に向かったみたいだけど… |
ミクリオ | この先にあるのは、ウィンドルの王都、バロニアだ |
ミクリオ | スレイの目的が人間を滅ぼす事なら人の集まる場所が標的になるだろう |
ライフィセット | だったら、急いでバロニアに行かないと! |
ルドガー | ああ。スレイ達が動けばメルトキオの時のように怪我人が大勢出る事になる… |
ミクリオ | …ああ |
ライフィセット | 大丈夫だよ、ミクリオ!僕達ならきっと、スレイを止められる |
ライフィセット | ミクリオがスレイを助けたいって話してくれた時…僕、本当に嬉しかったんだ |
ライフィセット | 二人が戦う姿を見るのは、すごく…辛かったから |
ミクリオ | ライフィセット… |
グリューネ | ミクリオちゃんを変えたのは、ライフィセットちゃんよねぇ |
ライフィセット | え、僕が…? |
ルドガー | ああ。ミクリオはライフィセットが人を助ける姿を見て、昔の気持ちを思い出したんだ |
ミクリオ | 君には感謝してる。ありがとう…僕に、あの頃の気持ちを取り戻させてくれて |
ライフィセット | そ、そんな風に言われるとなんだか照れるね… |
ライフィセット | でも、ミクリオはきっと一人でも同じ答えを出していたと思うよ |
ライフィセット | ミクリオはずっとスレイを助けようと頑張って来たんだから |
ミクリオ | …どうだろうね。君達がいなければ、僕は絶望したままだった |
ミクリオ | 君達がこの世界に来た事で風向きが変わったのは確かだよ |
グリューネ | あら?ルドガーちゃん達はどこか遠いところから来たの? |
ルドガー | あ…そう言えば、グリューネにはちゃんと説明してなかったな |
ルドガー | 俺達は、この世界とは別の世界から来たんだ |
グリューネ | 世界って、そんなにたくさんあるものなのねぇ |
グリューネ | わたくし、ルドガーちゃんとライフィセットちゃんに会えてとーっても嬉しいわぁ |
ライフィセット | 僕も。こんな風に別の世界で仲間が出来るなんて思ってなかった |
ライフィセット | ここに来た時は戸惑ったけど…今は来てよかったって思ってるよ |
ミクリオ | …この世界のスレイを封印した後で君達が元の世界に戻るための方法を探そう |
ミクリオ | 正史世界にいるスレイが目を覚ましているのかも気になる |
ルドガー | ああ。次こそ必ずスレイとの戦いに決着をつけよう |
グリューネ | 悔いが残らないようにルドガーちゃん達との時間を過ごしたいわねぇ |
グリューネ | バロニアに着いたら、何か美味しいものを食べましょう |
ライフィセット | あはは。グリューネはどんな時でも変わらないね |
ミクリオ | …君のそういうところに、僕達も救われているのかもしれないな |
グリューネ | みんながにこにこしてるのを見るとわたくし、と~っても気持ちがいいわぁ |
| |
ルドガー | 街はまだ、無事みたいだな |
ライフィセット | うん。でも…やけに静かだね |
ミクリオ | ああ…人の気配がしない。まるで、街の中が空になったみたいだ |
グリューネ | …シュヴァルツちゃんの気配がするわ |
グリューネ | 街の中で力を使ったみたい |
ミクリオ | …一歩遅かったようだね。この辺りにいた人間達は街の外へ避難したんだろう |
ミクリオ | 急ごう。早くしないと、メルトキオの街のようにバロニアがめちゃくちゃになる |
ライフィセット | うん…! |
| |
| ザッザッザ… |
| |
天族の男1 | ──そんなに簡単にこの先へ進ませると思うか? |
ルドガー | お前達は… |
天族の男1 | 必ずまた邪魔をしに来ると踏んでいたが…こんなに早く、ここを嗅ぎ付けるとは |
天族の男1 | 厄介な連中だな、お前達は。そこまでして人間を守りたいのか |
ミクリオ | 人間も天族も関係ない。僕達は、この無意味な戦いを止めたいだけだ |
天族の男2 | 俺達は人間と相容れない。あいつらが生きている限り殺し合う運命なんだ |
ライフィセット | そんな事ない…!僕らは人間と一緒に生きていける |
ミクリオ | ああ。互いに理解しようと努力すれば必ず、わかり合えるはずだ |
天族の男1 | 戯言を! |
天族の男1 | お前達にはここで死んでもらう。スレイ様の邪魔はさせない |
グリューネ | …シュヴァルツちゃんの力が強くなっているわ。あまり時間はなさそうねぇ |
ミクリオ | 彼らを倒して前に進もう。スレイが人間達を攻撃する前に止めないといけない |
ルドガー | ああ、そうだな |
scene2 | 暗躍する影 |
スレイ | これでやっと、終わる…。人間と、天族の戦いが… |
| コツコツコツ… |
??? | ──順調に事が進んでいるようだな |
スレイ | …そうでもないよ。ミクリオがオレを止めようとしてくるから |
スレイ | それに、別の世界から来たルドガーと、ライフィセットもね |
??? | だが、お前は全てをやり遂げるつもりだろう |
スレイ | …ああ。どうやったって人と天族の争いは止まらない |
スレイ | あなたが言ったように…平和な世界を作るためにはそれ相応の犠牲が必要なんだ |
??? | …… |
スレイ | オレはもう行くよ。ミクリオ達が来てるみたいだから |
??? | …やはり、この世界にたどり着いたか |
??? | お前は、どう選択する?ルドガー |
scene1 | 友の救済 |
ミクリオ | …スレイ |
スレイ | また、追いかけて来たんだな |
ミクリオ | ああ。君に人間を滅ぼさせるわけにはいかないからね |
スレイ | 何時からミクリオは人間の肩を持つようになったんだ? |
ミクリオ | 僕は、天族の味方でも人間の味方でもないよ |
ミクリオ | ただ君と見た夢を…平和な世界の実現を、望んでいるだけだ |
スレイ | 人と天族が平和に暮らせる世界を作る…今更そんな事が出来るはずがないだろ |
スレイ | どちらか一方が滅びない限り…この争いは、終わらない |
ミクリオ | …君は、またその感情に飲まれてしまったんだな |
ルドガー | スレイに憑りついたものの力は一時的に弱まっただけだったのか… |
グリューネ | そうねぇ。モヤがスレイちゃんの心の闇を増幅させているみたいだわ |
ライフィセット | …ミクリオ、大丈夫? |
ミクリオ | ああ。もう諦めないと、自分で決めたからね |
ミクリオ | スレイ。僕は…必ず君を助けてみせる |
スレイ | …何だか顔つきが変わったな、ミクリオ |
スレイ | 迷いがなくなったみたいに見えるよ |
ミクリオ | ルドガー達のお蔭だ。僕は、僕の夢を取り戻した |
ミクリオ | だからスレイ。君が昔の君に戻るまで…一人でも足掻いてみるつもりだ |
スレイ | 何をする気か知らないけど、オレはそう簡単に止められないよ |
| |
スレイ | …この前の続きをしようか。今でもミクリオと戦いたいとは思ってないけど |
| |
スレイ | オレ達はどっちも諦めが悪いみたいだからさ |
ルドガー | く…すごい気迫だな |
グリューネ | スレイちゃんの中からシュヴァルツちゃんの力を感じるわぁ |
ライフィセット | 僕達がスレイを止めないとバロニアが大変な事になるよ |
ミクリオ | ああ。ここで負ける事は許されない |
ミクリオ | スレイ…君を救ってみせる。すべての、苦しみから |
スレイ | 無理だよ、ミクリオ。オレが救われるのは…人間を滅ぼした後だけだ |
スレイ | だから…オレの目的のためにみんなにはここで消えてもらう! |
scene2 | 友の救済 |
ミクリオ | ──はああ! |
| ガキィィン |
スレイ | っ…この…! |
グリューネ | スレイちゃんの体勢が崩れたわ |
ライフィセット | 僕に任せて!──カレイドイグニス! |
| バシュッ |
スレイ | くっ…!? |
ライフィセット | 今だよ、ルドガー! |
ルドガー | ああ! |
ルドガー | はああああっ |
スレイ | ぐうううう… |
ルドガー | …!?これは… |
ライフィセット | モヤの形が変わった…!? |
グリューネ | 強い力を感じるわぁ。スレイちゃんの身体から溢れていたモヤをぎゅっと濃縮させたみたいな… |
ルドガー | …! |
ルドガー | ミクリオ、あれを壊すんだ!おそらくあれが…スレイに憑りついたものの正体だ! |
ミクリオ | …!ああ、わかった! |
ミクリオ | 双流放て!──ツインフロウ! |
| バシュッ |
| |
スレイ | ぐうっ… |
ミクリオ | …! |
| |
スレイ | …うっ… |
ミクリオ | スレイ…! |
スレイ | …ミク、リオ… |
ミクリオ | 大丈夫か!?痛むところは… |
スレイ | …大丈夫。相変わらず心配性だな、ミクリオは |
ミクリオ | スレイ…戻ったんだな。よかった… |
グリューネ | モヤの影響が消えたみたいねぇ |
ライフィセット | うん。さっきミクリオが壊したもの…あれが、異変の原因だったんだね |
ルドガー | っ…この光は…!? |
シュヴァルツ | …… |
ライフィセット | あれ…!スレイの傍にシュヴァルツが倒れてるよ! |
グリューネ | スレイちゃんが元に戻ったからシュヴァルツちゃんも出てこられたのね |
グリューネ | シュヴァルツちゃんが目覚める前に、封印しましょう |
グリューネ | スレイちゃんは…もう大丈夫よね? |
ミクリオ | …ああ |
グリューネ | それじゃあ、シュヴァルツちゃん。おやすみなさい |
グリューネ | ──次に会う時は楽しくお話出来たらいいわねぇ |
| |
| パアア… |
| |
ルドガー | …! |
ライフィセット | シュヴァルツは、眠りについたの? |
グリューネ | ええ、そうよぉ。わたくしの役目は終わったわ |
グリューネ | みんなが手伝ってくれたから上手く出来たわねぇ |
ルドガー | あの…グリューネ、君は今、ライフィセットと話してるのか? |
グリューネ | そうよぉ。どうしたの、ルドガーちゃん |
ルドガー | 見えないんだ…ライフィセットも、ミクリオも |
ミクリオ | …! |
スレイ | もしかしたら…シュヴァルツが封印されたから、人間の目に天族の姿が見えなくなったのかもしれない |
ライフィセット | 天族を可視化してたのは、シュヴァルツの力だったの…? |
スレイ | シュヴァルツは負の感情を地上に蔓延させるために、人間と天族を戦わせようとしてた |
スレイ | 天族の姿が見えるようになった後、世界が厄災に見舞われたのは… |
スレイ | シュヴァルツが裏で暗躍してたからだと思うんだ |
ミクリオ | なるほど。争いを起こさせるために天族が厄災の原因を生み出したように見せかけたんだな |
ミクリオ | だけど、困ったな。僕達の姿が見えなくなると、ルドガーに不便をかけるだろうし… |
グリューネ | それなら心配いらないわぁ |
グリューネ | ミクリオちゃん、ライフィセットちゃん、ここに並んでくれるかしら |
ライフィセット | 何をするの…? |
グリューネ | こうするのよぉ。えいっ |
| ギュッ |
ミクリオ | な、突然何を…! |
ルドガー | …!見えるようになった…!? |
ライフィセット | ええ…!? |
グリューネ | シュヴァルツちゃんもしてたから、わたくしにも出来る気がしたのよねぇ |
グリューネ | 二人の姿が人間に見えるようにしておいたわぁ |
ミクリオ | 君は…本当に何でもありだな |
スレイ | いきなり天族の姿が見えなくなったら…世界中の人が混乱するだろうな |
ミクリオ | ああ…。…スレイ、君は今までの記憶があるのかい? |
スレイ | 全部覚えてる。ずっと自分を止めようともがいてたけどどうする事も出来なかった… |
スレイ | ミクリオが苦しんでるってわかってたのに…ごめん |
ミクリオ | いいんだ、スレイ。君が戻ってきてくれただけで…それだけで、十分だ |
ルドガー | …スレイ。君があのモヤに憑りつかれてる間、どんな状態だったか教えてくれないか? |
スレイ | …モヤに覆われていた間は、戦争を止めるために、とにかく人間を滅ぼさなきゃいけないと思ってた |
スレイ | 自分の中の怒りとか…悲しいって感情が、どんどん膨れ上がっていったんだ |
スレイ | …エドナやアイゼン、ジイジが亡くなった後、人間と天族の争いは一層激しさを増した |
スレイ | このままじゃ、ミクリオ達まで失うかもしれないって…あの頃はそんな事ばっかり考えてたな |
ミクリオ | スレイ… |
スレイ | でも今は、不思議と心が軽いんだ。あのモヤが消えたからかな |
ルドガー | スレイはすっかり元通りになったみたいだな |
ライフィセット | うん。やっぱりあのモヤが全ての元凶だったのかな? |
グリューネ | そうねぇ。心の闇を増幅させる因子のようなものかしら |
ミクリオ | 憑りついた者の闇を深める…負の因子、といったところだね |
ルドガー | 負の因子、か…。正史世界のスレイとは、症状が違うのが気になるな… |
ライフィセット | そう言えば、あれを破壊した後にミクリオの身体に何かが移ったように見えたけど…大丈夫? |
ミクリオ | ああ。特に変化はないよ |
ルドガー | スレイは、大丈夫か?どこかおかしいところは? |
スレイ | もう大丈夫。気持ちも落ち着いてるし |
スレイ | …ありがとう、二人共。別の世界の人なのに、オレの事を助けようとしてくれて |
ルドガー | どの世界のスレイでも、俺にとっては仲間だよ |
ライフィセット | 僕も同じ気持ち。だから…スレイを助けられて本当に嬉しいんだ |
スレイ | …うん。オレも、二人に会えて嬉しいよ |
スレイ | オレはこれから、平和な世界を作るために、一からやり直すよ |
スレイ | それが、オレが犯した罪を償う事にも繋がるから… |
ミクリオ | …君はそうやって何でも一人で解決しようとする |
ミクリオ | 僕も一緒に背負うさ。二人でやり直していこう |
スレイ | うん、ありがとう。…これからもよろしくな、ミクリオ |
ミクリオ | ああ |
ライフィセット | 二人はもう、大丈夫そうだね |
ルドガー | ああ。この世界を壊さずに済んでよかった… |
ルドガー | 後は、正史世界に戻る方法を考えないとな |
ミクリオ | 僕達も一緒に、帰る手段を探そう |
ルドガー | いいのか?やらなきゃいけない事が、たくさんあるんだろ? |
スレイ | でも、ルドガー達にはたくさん助けてもらったから |
ミクリオ | ああ。いくらでも頼ってくれて構わない。君達の事は…大切な仲間だと思っているから |
ライフィセット | ミクリオ… |
グリューネ | 素敵ねぇ。お姉さん、感動しちゃったわ |
グリューネ | こういう時は確か…友情の証に、握手するのよねぇ |
ミクリオ | いや、そんな決まりは… |
グリューネ | あら、やり方を知らないの?ミクリオちゃんが、ルドガーちゃんの手を握って…ぎゅってするのよぉ |
| ギュッ |
ルドガー | …!これは… |
| ヒュンッ |
ライフィセット | 僕達が分史世界に来る時に通った穴だ…! |
ミクリオ | どうして、今… |
ルドガー | 負の因子を破壊した事で、正史世界に戻る道が現れたのか…? |
ライフィセット | だったら、正史世界のスレイにも何か変化が起こってるかもしれないね |
ルドガー | ああ。──ミクリオ、俺達は元の世界に戻るよ |
ミクリオ | …そうか。どうやら、お別れのようだね |
グリューネ | 寂しくなるわねぇ。また、遊びに来てね |
グリューネ | みんなで一緒にピクニックしましょう |
ライフィセット | あはは…。そんなに簡単に世界って行き来出来るのかな… |
スレイ | …ルドガー、ライフィセット。本当にありがとう |
スレイ | これからは、人と天族が幸せに暮らせる世界をミクリオと一緒に作っていくよ |
グリューネ | わたくしも、ミクリオちゃん達のお手伝いをするわねぇ |
ミクリオ | ──二人のお蔭で、僕は大切なものを取り戻せた。君達には、心から感謝してる |
ミクリオ | これからは、この世界をよい方向へ導いていけるように力を尽くすつもりだ |
ルドガー | ああ。ミクリオ達なら、きっと出来るよ |
ライフィセット | みんな、またね! |
| シュン… |
スレイ | 行っちゃったな |
ミクリオ | ああ。これから僕達も忙しくなるよ |
スレイ | そうだな。まずはライラに会いに行こう |
ミクリオ | ライラなら、争いを望まない天族達と一緒に姿を隠しているはずだ |
グリューネ | たくさんする事がありそうねぇ。でも、その前に… |
グリューネ | みんなで一緒に、美味しいものを食べましょう。その後で頑張ればいいわ |
ミクリオ | …全く、君はどんな時でも変わらないな |
| |
| ヒュンッ |
| |
ライフィセット | あれ…?ここ…元の場所じゃないよ |
ルドガー | ここは、時空の歪みだな… |
ライフィセット | 時空の歪み? |
ルドガー | ああ。正史世界と分史世界を繋ぐ場所だ |
ライフィセット | そんな…僕達、元の世界に戻れるの? |
ルドガー | 安心してくれ。骸殻の力があれば時空の歪みから正史世界に移動出来る |
ライフィセット | そっか…よかった |
ルドガー | ここに移動してもライフィセットの姿が消えないって事は… |
ルドガー | 正史世界に戻っても姿が見えなくなる事はなさそうだな |
ライフィセット | そっか、これからはアヴァロン島にいた時みたいに、普通に人と話せるようになるんだね |
ライフィセット | 姿が見えた方がルドガー達と話しやすいから嬉しいよ |
ルドガー | ああ、俺もだ |
ルドガー | さぁ、そろそろ元の世界に戻ろう。エル達が心配してるだろうから |
ライフィセット | うん、そうだね! |
| 異変の始まり |
ミクリオ | スレイ、本当に大丈夫なのか…? |
スレイ | 心配しすぎだって、ミクリオ。別に何ともないよ |
シェリア | 不思議ね。突然目が覚めるなんて… |
アスベル | ああ。後は、ルドガー達の行方がわかれば… |
| |
エステル | …!これは…? |
ミクリオ | 部屋の中が、光り出した…? |
エル | ううっ…!まぶし── |
| |
ライフィセット | っ…ここは… |
ミクリオ | ライフィセット! |
ライフィセット | ミクリオ! |
ルドガー | …どうやら、ちゃんと戻って来られたみたいだな |
エル | ルドガー!どこに行ってたの…!? |
ルドガー | ただいま、エル。心配かけてごめんな |
エル | べ、別に…心配なんかしてないし |
エル | エル、ルドガーなら大丈夫だってわかってたもん |
ルドガー | そうか |
スレイ | ルドガー!無事だったんだな、よかった |
ルドガー | …!目が覚めてたのか、スレイ |
スレイ | うん。知らない内に、迷惑かけちゃったみたいでごめん |
スレイ | 目が覚めたら、みんながベッドの周りにいて…すごく驚いたよ |
スレイ | オレ、何が起こってたのかよくわかってないんだけど…みんなに心配かけたみたいで |
ルドガー | アスベル達も、スレイを助けるために来てくれたのか? |
アスベル | ああ。バロニアでミクリオとエルに会って何が起こったのか聞いたんだ |
ミクリオ | 事情を知ったシェリアとエステルがイニル街まで来てくれたんだよ |
ルドガー | そうなのか。スレイから溢れていた負の因子は…もう出ていないみたいだな |
エステル | はい…少し前に、突然モヤが消えたんです。あれは、負の因子と言うのですね |
シェリア | 私達が術をかけている間はモヤの力を弱められても、消す事は出来なかったのに… |
シェリア | 何の前触れもなくモヤが消えてスレイが目を覚ましたから驚いたわ |
エステル | ええ。術の効果でスレイの意識が戻ったのも、一瞬だけでしたし |
ライフィセット | それって…あの時、分史世界のスレイが一瞬動きを止めたのと何か関係があるのかな? |
ルドガー | …わからない。だけど、スレイに起こった異変の原因が分史世界にあった事は確かだと思う |
ルドガー | 俺達が負の因子を破壊した頃にスレイが目を覚ましていたみたいだしな |
エル | …ルドガー、その子誰?ルドガーの知り合い? |
ルドガー | ああ、そうか…エルは初めて会うんだよな。彼はライフィセットだ |
ミクリオ | …!エルやルドガーにも姿が見えるようになったのか |
エステル | そう言えば、天族は人には見えない種族でしたよね |
ミクリオ | ああ。僕は前に、可視化装置の光を浴びたから、人に姿が見えるようになったんだ |
シェリア | 前にパスカルが言っていた装置ね…。ライフィセットも、その光を浴びたの? |
ライフィセット | ううん。別の方法で、姿が見えるようにしてもらったんだよ |
エル | 何か不思議… |
アスベル | ルドガー、ここに戻って来るまでに何があったのか詳しく聞かせてくれないか? |
アスベル | もしかしたら、今後スレイと同じような異変が起こる人が出てくるかもしれない |
ルドガー | ああ、わかった |
| |
アスベル | 分史世界、か…。前にも一度、ルーク達が地割れから移動していたよな |
ルドガー | ああ。だけど、あの時とは少し状況が違ってるみたいだ |
ミクリオ | 分史世界のスレイに憑りついていた負の因子が気になるね |
ミクリオ | 話を聞いていると、正史世界と分史世界、双方のスレイに影響を及ぼしていたみたいだし |
スレイ | 数百年後のミクリオって想像出来ないよなぁ… |
スレイ | ちょっと見てみたいよ |
ミクリオ | スレイ、今はそんな事を話している場合じゃないだろう |
ミクリオ | 全く、君は…緊張感がないというか、何というか |
ライフィセット | …… |
ルドガー | ライフィセット、何で笑ってるんだ? |
ライフィセット | 分史世界のミクリオとスレイはずっと戦ってたから… |
ライフィセット | 二人がこんな風に当たり前に一緒にいられるのが嬉しいなって思って |
ルドガー | …そうだな |
アスベル | 話してくれてありがとう、ルドガー。今聞いた事は陛下にも伝えておくよ |
ルドガー | ああ、頼む |
シェリア | それじゃあ、私達はそろそろバロニアに戻りましょうか |
アスベル | そうだな。いつまでもエステリーゼ様を連れ出しているわけにはいかないし |
スレイ | 助けてくれてありがとう、シェリア、エステル |
エステル | いいえ。力になれたならとても嬉しいです |
ルドガー | ミクリオ達はこれからどうするんだ? |
ミクリオ | 僕達も旅を続ける事にするよ。いつまでも、ここで世話になっているわけにはいかないしね |
スレイ | 旅の途中で何か負の因子に関する事がわかったら、ルドガーにも知らせるよ |
ルドガー | ああ、ありがとう |
ライフィセット | 僕は、港の方に行くね。…いきなりいなくなって、ベルベットが心配してると思うから |
エル | えっと…ルドガーと一緒に戦ってくれてありがとう |
エル | 今度、ベルベットって人とルドガーのご飯、食べに来てね |
ライフィセット | うん!ベルベットに話してみる |
ライフィセット | それじゃあ…ルドガー、エル、またね |
ルドガー | ああ、また。みんなも気を付けて |
| |
エル | ルドガー!今日のご飯、何にするの? |
ルドガー | そうだな…。確か、冷蔵庫の中に野菜がいくつか残ってたはずだから… |
ルドガー | ん…? |
エル | どうかしたの? |
ルドガー | 机の上に置いてあるこれ…誰からもらったんだ? |
ルドガー | 包装されてるし、プレゼントみたいだけど |
エル | え… |
エル | ルドガー、二人で一緒に買いに行ったのに忘れちゃったの? |
エル | メガネのおじさんにあげるプレゼントだよ! |
ルドガー | メガネのおじさんて…? |
エル | ルドガーのお兄ちゃんでしょ… |
ルドガー | 何言ってるんだよ、エル。俺に兄さんなんていないだろ? |
エル | …ルドガー? |
ルドガー | ん…? |
エル | 冗談、だよね…?どうしてメガネのおじさんの事、そんな風に言うの…? |
ルドガー | 兄さんがどうしたんだ? |
エル | え…っ。ルドガーが今、おじさんの事知らないみたいに言うから… |
ルドガー | そんなわけないだろ? |
ルドガー | 二人で兄さんにプレゼントを渡そうって話してたじゃないか |
エル | う、うん… |
ルドガー | さて、と…。何を作ろうかな… |
エル | ねぇ、ルル… |
ルル | ナァ~? |
エル | ルドガーがね、「俺には兄さんなんていない」って言ったんだよ |
エル | …もしかして、メガネのおじさんがぜんぜん帰って来ないから、怒ってるのかな…? |
エル | 仕事ばっかりでエル達と一緒にご飯食べてくれないから、拗ねてるんだよね? |
ルル | ナァ~… |
| |
門番1 | む…?何だ、貴様 |
キール | …そこを通してくれ |
門番2 | お前は確か、研究施設の学生だろう |
門番2 | 一介の研究者が城の中に立ち入る事は許されない。即刻、立ち去れ |
キール | 無礼な奴らだな |
門番1 | 何だと…!? |
キール | ──これを見ろ |
門番2 | こ、これは…!宮廷学者の認定証明書… |
キール | 通してもらえるよな? |
門番1 | し、失礼致しました…!どうぞお通りください |
キール | …… |
| コツコツコツ… |
キール | やっとここまで来た… |
キール | もうすぐ、おまえと同じ場所に立てるな…メルディ |
Name | Dialogue |
scene1 | 夢に見た君 |
ファラ | リンネル村まであと少しだね。メルディ、驚くかなあ? |
リッド | そりゃ、驚くだろ。何の連絡もせずに来たからな。会うのはいつぶりだっけ? |
ファラ | いつだったかな。キール、覚えてる? |
キール | …… |
リッド | おい、キール。さっきから全然喋んねぇけどどうしたんだよ |
ファラ | 結構歩いてきたし、疲れちゃった? |
キール | いや…。少し考え事をしてただけだ |
ファラ | もしかして、コルテア街を出る時に気にしてた夢の事? |
ファラ | 確か…リンネル村が炎に包まれてメルディが危険な目に遭ってる夢を見たんだよね? |
キール | …ああ |
リッド | おまえがいきなりデカい荷物背負って「リンネル村に行く」って言い出した時は驚いたぜ |
リッド | その時も言ったけど夢に見ただけでここまでするって珍しいよな |
キール | ぼくだって非合理的なのはわかってるさ |
キール | ただ、胸騒ぎがして仕方がないんだ。手紙を書く事も考えたが、実際に訪ねていく方が早いだろう |
ファラ | キールはメルディが心配なんだよ。いいじゃない、わたし達も久しぶりに友達に会えるんだから |
キール | それに、今回の旅はア・ジュールの調査も兼ねている。無駄足にはならないさ |
リッド | 調査って言ってもなぁ… |
リッド | シルヴァラントみたいに地震が起こってる様子はなさそうだぜ? |
キール | そう結論付けるのは早計だ。ぼく達はア・ジュールに到着したばかりだからな |
キール | それに異変は地震だけとは限らない。シルヴァラントでも突然の豪雨という現象が確認されているだろう |
ファラ | 「一見無関係の自然現象に見えるが 同時期に群発するのには 共通の因果がある」…だっけ |
ファラ | 道中、何度も聞かされたから覚えちゃった |
キール | ああ。もっとも、あくまで推測の段階だ。だから裏付け調査が必要なんだ |
キール | それに…この災害の先に何が起ころうとしているのかも確かめなければならない |
リッド | 災害の先に…って、もっと大きな何かが起こる前触れって事か? |
キール | …断言は出来ない。ただ、大精霊の影響で起きていた以前の異変と類似している点が多い |
キール | 災害の原因が大精霊に関係している可能性もあるとぼくは考えている |
リッド | ──って事は、まさか、また魔導器が!? |
キール | だから結論を急ぐな。可能性は否定しないが、ぼくの意見としては違うと思う |
リッド | だったら何が原因なんだよ |
キール | それがわからないから調査をするんだって、今説明したばかりだろう |
リッド | つまり何もわかってないんだな |
キール | わかっていたら調査の必要はないだろう… |
ファラ | まあまあ。キールが調査を急ぎたい理由はよくわかったよ |
ファラ | 前みたいに火山が噴火したり湖が凍ったりしたら大変な事になっちゃうもんね |
キール | そうなる前に、異変についてもっと詳しく調べる必要がある |
リッド | そんじゃ、リンネル村でメルディに会ったら変わった事がなかったか聞いてみるか |
キール | ああ、それがいいだろう |
| |
リッド | ん…?雨が近いな |
キール | わかるのか? |
リッド | これでも猟師だからな。森の天候の変化には敏感なんだ |
ファラ | 雪じゃなくて雨?降るの? |
リッド | 雨だけど、風向きからいってこのあたりは大丈夫だと思うぜ |
リッド | ほら、あっちの方に黒い雲が見えるだろ? |
ファラ | ほんとだー |
キール | あの方角は… |
ファラ | わっ、光った! |
リッド | 雷か? |
キール | …… |
| |
| ドドーン! |
キール | …!二人とも、急ぐぞ! |
リッド | 何だ、雷が怖いのか? |
キール | 違う。12秒だったんだ |
ファラ | 12秒…? |
キール | 光ってから音が聞こえるまでだ。あの方角に、音速で12秒の距離… |
| |
キール | 雷が落ちた場所は、リンネル村のあたりだ! |
リッド | まじかよ… |
ファラ | 大変! |
キール | 急ごう! |
scene2 | 夢に見た君 |
キール | 村が燃えてる…!まさか、夢の通りに… |
ファラ | 大変!早く火を消さなきゃ! |
リッド | 二人とも落ち着けって。こういう時に焦ると危険だ |
ファラ | でも、急がないと…! |
リッド | ああ。でもオレ達はどこで水を汲めばいいかもわかんねぇだろ? |
ファラ | そ、そうだね。じゃあ村の人に声をかけて消火を手伝おう! |
キール | …あそこにいるの、レイアじゃないか? |
ファラ | 本当だ!おーい! |
レイア | リッド、ファラ、キール!村に来てたんだね、怪我はない? |
リッド | ああ。大丈夫だ。雷が落ちたように見えたんだがこの火事はそれが原因なのか? |
レイア | そうなの。近くの森に雷が落ちて、燃え広がってきちゃって… |
ファラ | 早く消し止めなきゃ!消火、手伝うよ! |
レイア | ありがとう! |
キール | メルディはどこに…? |
レイア | それが、火事になってから見かけてなくて…逃げ遅れてないといいけど |
キール | …!メルディ! |
リッド | 待てよ!どこ行くつもりだ? |
キール | 離してくれ!メルディを捜さないと…! |
リッド | メルディが心配な気持ちはわかるけど少し落ち着け。とっくに避難してるかもしれないだろ |
キール | 夢で見た光景に似てるんだ。このままじゃ、本当に… |
クィッキー | クィッキー! |
キール | …!クィッキー! |
クィッキー | クィッキー!クィック、クィック!クィッキー! |
リッド | クィッキー!メルディと一緒じゃないのか!? |
クィッキー | クィッキー! |
ファラ | ついて来いって言ってるみたい |
レイア | 行こう!メルディがいるのかも! |
メルディ | ──スプレッド! |
| ザバァーン! |
メルディ | これで火はこっち来ないよ。怪我、大丈夫か? |
村の男 | ああ。ちょっと足を捻っただけだ。この程度で動けねぇとは、情けねぇ… |
メルディ | ごめんな。メルディ、運んでいけない |
メルディ | クィッキーが助け呼んでくれてるからもう少し辛抱よ |
レイア | メルディー!こっちにいるのー? |
メルディ | この声、レイアか?こっちだよぅ! |
メルディ | バイバ!キール、リッド、ファラ!どうしているか!? |
キール | 話は後だ。怪我はないか? |
メルディ | メルディは大丈夫だよー |
村の男 | すまねぇ。俺が動けなくなっちまったんでメルディが守ってくれてたんだ |
メルディ | メルディ一人では運べないからクィッキーに人呼んでもらってたよ |
レイア | そういう事だったんだね |
リッド | オレの肩につかまれ。安全なとこまで行こう |
村の男 | ああ。助かるよ。ありがとう |
レイア | わたし達は消火しながら他に怪我人がいないか確認してまわろう! |
ファラ | うん! |
メルディ | メルディ、水が術で消火するよ! |
キール | ぼくも手伝おう! |
| |
リッド | ふー。何とか、火は消えたみてぇだな |
レイア | リッド達が手伝ってくれたお蔭で助かったよ。ありがとう |
リッド | 別に、大した事してねぇって。消火も村の人達をちょっと手伝っただけだし |
キール | ああ。とても効率的な消火活動だった。村の人達は訓練でもしているのか? |
レイア | うん。前にも村が燃えた事があったからいろいろ備えてたんだ |
レイア | 怪我人もいるけどみんな軽傷で済んだみたい |
メルディ | よかったよぅ |
ファラ | うん。よかったぁ… |
メルディ | ファラ!? |
リッド | どうした?大丈夫か |
ファラ | うん、平気。安心したら、力が抜けちゃって… |
レイア | …そっか、村に着くなりこの騒動だったもんね。巻き込んじゃってごめんね |
レイア | 村の事はもう大丈夫だから、ゆっくり休んでてよ |
メルディ | それならメルディが家来るよ。火もつかなかったから無事!ゆっくり休めるよぅ |
キール | そうさせてもらおう。ぼくもヘトヘトだし、落ち着いた場所で話もしたい |
リッド | 決まりだな。ファラ、メルディの家まで歩けるか? |
ファラ | うん、もう平気! |
レイア | わたしは村の片付けを手伝うから、また後で。ゆっくり休んでね |
| |
キール | ──やっと落ち着いて話せるな。メルディ、元気だったか? |
メルディ | はいな!げんきだったよ!メルディ、またキール達に会えてとてもうれしー! |
メルディ | みんな、どーしてリンネル村に来たか? |
ファラ | キールがね、メルディが困ってる夢を見たんだって |
ファラ | だから心配で、みんなでメルディに会いに来たんだよ |
メルディ | バイバ!キールもメルディが夢、見たか? |
メルディ | メルディも、キールが会いに来てくれる夢、見たよ! |
リッド | メルディも? |
ファラ | へえ…お互いに夢を見てたなんて不思議だね |
メルディ | キール、ありがとな!メルディが事、心配してくれて |
キール | …感謝の言葉は「ありがとう」!「な」は余計って言ってるだろう |
リッド | まったく、素直じゃねぇなぁ |
ファラ | ところで、メルディ。森に雷が落ちたって言ってたけど…それって、よくある事なの? |
メルディ | ううん。こんな事初めて。突然空が真っ暗になって、強い雨が降り始めたな |
メルディ | そしたら空が光って、ドカーン!メルディ、びっくりしたよー |
クィッキー | クィイ… |
メルディ | 慌てて外に出たら空はもう晴れてたよぅ |
キール | そういえば、ぼく達が村についた時は黒い雲は消えていたな。リッド、森ではよくある事なのか? |
リッド | 急に天気が変わる事はあるけどさすがに極端過ぎるだろ。そんなのオレも聞いた事ねぇぜ |
キール | …もしかしたら、その雷もシルヴァラントで起こっているような異変と同種のものかもしれないな |
メルディ | キール達が街も、雷落ちたか? |
リッド | 雷は落ちてねぇけど、雨が大量に降ったり地震が起きたりしてるんだよ |
ファラ | キールは、自然災害の原因が大精霊にあるんじゃないかって考えてるんだって |
メルディ | …! |
メルディ | また、あの時みたいに大地震が起きるのか…? |
キール | …ぼくの考えはあくまで推測にすぎない。そう不安がる事はないさ |
メルディ | はいな!キールがそう言うなら、心配ないな |
メルディ | みんな、これからメルディが家でゆっくりしていくといいよ! |
キール | いや…こんな状況で、村に居座ると迷惑が掛かるだろう |
キール | ぼく達はこれからア・ジュールを回って他に異変が起きていないか調べるつもりだ |
キール | 当初の予定にはなかったが…ウィンドルやキムラスカの様子も見に行くべきかもしれないな |
メルディ | それなら、メルディも一緒に行くよ! |
メルディ | 異変の調査、手伝わせてほしいな! |
キール | 一緒に?…いや、でも村の事もあるだろ? |
リッド | いいんじゃねぇか?メルディなら、オレ達よりア・ジュールに詳しいだろ |
ファラ | メルディは調査に一緒に行くってレイアに伝えておかないとね |
キール | おい、勝手に… |
メルディ | メルディ、キール達と一緒にまた旅がしたいよ。…だめか? |
キール | …わかったよ |
| |
メルディ | ワイール!キール、ありがとな! |
キール | わ、わ、くっつくな! |
メルディ | あ!待ってよぅ、キール! |
クィッキー | クィッキー! |
ファラ | あはは!賑やかな旅になりそうだね |
リッド | まったくだ |
| 天災の因果 |
騎士 | お待ちしておりました。陛下は来客中のため待合室までご運内いたします |
ルドガー | よろしくお願いします |
エル | うわー、お城広ーい!きれーい!! |
エル | ──わっ、声がすごいひびいてる。うるさかったかな… |
ルドガー | まぁ、もう少し静かな方がいいな。エルはお城初めてなんだっけ? |
エル | うん。入るのは初めて!この前、ミクリオと一緒に来た時は中に入らなかったし |
エル | ショーカの時はルドガーひとりでお城に行っちゃったし! |
ルドガー | ショーカ…ああ、晶化現象の時か。そういえばあの時も一緒に行きたいって言ってたな |
エル | エルは子どもだからってお留守番になっちゃったけど今回はエルも王様に呼ばれたもんね! |
ルドガー | エルにとっては念願の城内か。でも、少し気をつけてくれよ |
エル | もう、大丈夫!エル、場はワキマエてるもん |
騎士 | もしよければ陛下とのお話が終わった後、城内を見て回られますか? |
エル | えっ、いいの!? |
騎士 | ええ。陛下からお二人をおもてなしするよう仰せつかってますから |
エル | やったーっ! |
エル | あっ! |
エル | …大声出ちゃった |
ルドガー | はは… |
| |
騎士 | こちらの部屋でお待ちください |
ルドガー | わかりました |
エル | 中にいっぱい人がいる。もしかしてみんな、王様に会いに来たの? |
騎士 | ええ。特に最近は異変に関する報告や相談で謁見を希望される方が多いのです |
エル | エルたちは呼ばれたんだからすぐなんだよね? |
騎士 | お嬢様のおっしゃる通りです。それでは陛下の手が空くまで今しばらくお待ちください |
ルドガー | ありがとうございます |
エル | えへへ、エルがオジョーサマだって |
ルドガー | よかったな |
| |
??? | あ、ルドガー!…と、もしかしてエル? |
ルドガー | えっ…? |
| |
リッド | ほんとだ。奇遇だな、ルドガー |
ルドガー | みんな…!久しぶりだな。リッドとキールはアヴァロン島以来か |
ルドガー | ファラとメルディはもっと久しぶりだな。元気だったか? |
メルディ | はいな。元気だよー! |
エル | ルドガー。この人たちは? |
ルドガー | ああ、エルは初めて会うんだったな。リッドにファラ、キール、メルディだ |
エル | メルディは聞いた事ある。レイアの友達だよね! |
メルディ | バイバ!レイア知ってるか! |
クィッキー | クィッキー! |
エル | わ!かわいい! |
メルディ | クィッキーだよぅ。メルディが大切なともだち |
リッド | きっとレイアの名前に反応したんだな |
エル | あなたもレイアと友達なの?じゃあ、エルとも友達だね! |
クィッキー | クィッキー♪ |
ルドガー | 他のみんなの事も前に話したよな。ほら、ファラはエルへのお土産を一緒に選んでくれた人だ |
エル | ネコの人形! |
ファラ | あなたがエルだったんだね。お土産は気に入ってくれた? |
エル | うん、ずっと大事にしてるよ! |
ルドガー | リッドとキールの話も前に聞かせただろう? |
エル | そういえば、聞いた事あるかも |
リッド | オレがリッドで、こっちがキールだ。よろしくな |
キール | よろしく |
エル | うん。エルはエルだよ!よろしくね! |
リッド | ここに来たって事はルドガー達も陛下に用事があるのか? |
ルドガー | ああ。実は陛下から呼ばれて来たんだ。異変についての話だと思うんだけど… |
キール | …という事は、異変について何か知っているのか? |
ルドガー | 確証はないんだけど関係はあると思う |
リッド | 実はオレ達も異変について調べてんだ。陛下と会うのもその関係でさ |
メルディ | ずっと待ってるよぅ、でも、次ぐらいメルディ達が順番! |
ルドガー | そうだったのか |
キール | よかったら知っている事を教えてくれないか? |
ルドガー | ああ。俺もいろいろと気になってるからみんなが調べた事も教えてほしい |
キール | わかった。情報交換と行こう |
| |
キール | なるほど、分史世界か…。異変との関係性は不明だが無関係とも思えないな |
ルドガー | キールもそう思うか。この話を陛下にして、異変の原因究明が進めばいいんだけど |
キール | 検証するべき事がいくつかあるが、可能性は高いだろう |
騎士 | ご歓談のところ失礼します。ルドガー様、謁見の準備が整いましたので、ご案内いたします |
メルディ | ルドガー達が先みたいな |
ファラ | 王様から呼ばれたって言ってたもんね |
キール | ルドガー。異変の話をするのならぼく達も一緒に話した方が早いんじゃないか? |
ルドガー | 確かにそうだな |
ルドガー | すみません。彼らも一緒に謁見して構いませんか? |
騎士 | わかりました。そちらの方々の順番はルドガー様の次でしたので問題ないでしょう |
騎士 | ご案内いたします。みなさまご一緒にお越しください |
ルドガー | ありがとうございます |
エル | やった!みんなで王様のところに行こー! |
| |
リチャード | なるほど…。分史世界でそんな事があったんだね |
リチャード | それに負の因子…。それは一体、何なんだい? |
ルドガー | 詳しい事はわかりません。ただ、スレイに異変をもたらしていた原因なのは確かです |
ルドガー | それに、キール達の話を聞く限り世界で異変が起こり始めた時期とも一致しています |
ルドガー | 勿論、偶然かも知れませんが… |
リチャード | 僕もルドガーと同意見だよ。リッド達は、世界の異変について調べてると言ったね? |
リッド | オレ達…と言ってもほとんどキールが調べてるようなもんですけど |
リチャード | キール。君の見解を教えてくれないか |
キール | はい。まず前提として、これは可能性であり結論ではありません |
リチャード | ああ、それでかまわないよ |
キール | では…ルドガーの言う「負の因子」は異変と密接な関係があると思います |
リチャード | なるほど。何か繋がりが見えたんだね |
キール | はい。まず、異変についてですが、地震や豪雨など現象は様々でも共通する因果があると考えています |
キール | ぼくはシルヴァラントとア・ジュールで実際に異変を体験してその事に確信を抱き始めていました |
リチャード | その共通の因果というのが負の因子だというのかい? |
キール | いえ…ぼくの考えでは、共通の因果というのは世界のマナである可能性が高い |
キール | かつて大精霊が暴走した時と同様に… |
キール | そしてスレイに回復術が効かなかったという話から、おそらく負の因子もマナの異常を伴った現象です |
キール | それが異変の原因なのか、あるいは異変の結果の一つなのか、そこまではわかりません |
リチャード | なるほど… |
リチャード | シルヴァラントやア・ジュール…そしてキムラスカでも災害が続いている事は聞いている |
リチャード | こちらに入ってくる情報は確かに大精霊が暴走した時と似たようなものばかりだった |
リッド | じゃあ、やっぱり大精霊が原因なんですか?それとも魔導器がまた… |
リチャード | 大精霊はともかく、魔導器の心配はないよ |
リチャード | 僕も気になって調べさせたがかつてのように魔導器が使われた形跡はなかった |
ファラ | もし負の因子が関係してるならスレイに何か影響が残ったりしてないでしょうか…? |
リチャード | アスベルとエステリーゼから事情を聞いて、すぐにスレイの身体も診てもらったよ |
リチャード | 医師も魔術師も、特におかしなところはないと言っていた |
リチャード | 一緒に来たミクリオからも話は聞いたが、特に変わった事はないそうだ |
エル | スレイ、ちゃんと元気なんだ。よかったね、ルドガー |
ルドガー | ああ |
キール | スレイが倒れたのはウィンドルでの事だったんだな? |
ルドガー | えっ、ああ。そうだけど… |
キール | 陛下。ぼくはウィンドル国内をもう少し調査してみたいと思います |
キール | もしかするとどこかにマナの乱れた痕跡があるかもしれません |
リチャード | わかった。調査しやすいように便宜を図ろう。何でも言ってくれ |
キール | ありがとうございます |
メルディ | ワイール!キールすごいな。王様公認で調査出来るか |
エル | すごーい。えらい学者さんみたい |
キール | 学者だよ。偉くはないけどね |
リチャード | なら、ウィンドルに来ないかい?地位を用意して歓迎するよ |
キール | いえ、ご厚意には感謝しますが、ぼくは高い地位よりも自由に研究出来る事が大事なので |
リチャード | そうか。残念だけど、そんな君だからこそ調べられる事もあるのだろうね |
キール | はい。高い地位でないと調べられない事は陛下にお願いします |
リチャード | はは、確かにそれは僕の務めだね |
リチャード | こちらでも引き続き調査を続ける。君達も何かわかったら、どんな些細な事でも報告して欲しい |
キール | はい |
ルドガー | わかりました。俺も負の因子の事、もう少し調べてみます |
エル | エルも手伝うよ |
リチャード | ああ、そうだ。エルさん、ルドガーの話に出た時計は今持ってるかい? |
エル | うん。いつでも持ってるよ! |
リチャード | よかったら少し見せてもらえるかな? |
エル | いいけど…パパのだから大切にしてね |
リチャード | ああ、勿論さ |
エル | はい、これだよ |
リチャード | ありがとう。…見たところ、普通の時計だな |
キール | 反応する条件があるのかもしれません。次、ぼくにも見せてください |
メルディ | メルディも見たい! |
エル | うん。順番だよ |
リチャード | 反応する条件…か。エルさん、前に反応した時の事を詳しく教えてくれるかい? |
エル | えっと…ルルがスレイの寝てるベッドの上に乗っちゃったから、下ろそうと思って── |
| |
| ゴゴゴゴゴ… |
| |
リッド | な、なんだ!?地震か!? |
エル | うわわぁっ!! |
キール | …!危ない! |
メルディ | バイバ! |
ルドガー | メルディ!掴まれ! |
エル | えっ、また時計が…! |
リチャード | 反応した…! |
ルドガー | まずい!エル…! |
| ヒュンッ |
メルディ | バイバ! |
キール | 何だ、これは…! |
エル | 吸い込まれる…!ルドガー! |
ルドガー | エルーっ! |
リチャード | エルさん! |
リチャード | くっ、ダメだ、落ち── |
ルドガー | エル!陛下! |
キール | くっ、ダメだ…! |
メルディ | 吸い込まれるよぅ…! |
リッド | キール、掴まれ! |
キール | ああ! |
ファラ | メルディ、危ない! |
メルディ | っ! |
ファラ | 受け取って!リッド! |
ファラ | きゃあっ! |
メルディ | バイバ! |
キール | 自分が落ちてどうするんだ! |
リッド | ファラ!! |
| シュン… |
| |
メルディ | おさまったか…? |
キール | そう…みたいだな。 |
メルディ | うん。でも、みんなが… |
リッド | キール。さっきのって分史世界への入口だよな…? |
キール | ああ、おそらく |
リッド | ファラ…またかよ! |
キール | ファラだけじゃない…。ルドガーにエル…それに陛下まで飲み込まれてしまった |
リッド | まあ、ルドガーが一緒ならその内、戻ってくんだろ |
キール | そういう問題じゃない。王が消えたんだぞ。国の一大事だ |
メルディ | とても大変!どうする、キール |
キール | どうするったって… |
??? | 今の騒ぎは…!?陛下、何事ですか!? |
リッド | 誰か来たぞ! |
メルディ | キールぅ…どうするか? |
キール | 落ち着け。信じてもらえるかわからないがぼくが説明する |
??? | 陛下?入りますよ |
| キィィィ… |
リッド | …!おまえは… |
| |
フレン | ──つまり、突然現れた分史世界に繋がる穴に陛下やみんなが吸い込まれた、と |
キール | ああ |
リッド | 来たのがフレンで助かったぜ |
フレン | ただ…僕が信じても他の人は信じないだろうね |
フレン | 君達に疑いをかけられたら一介の騎士にはどうする事も出来ない |
メルディ | メルディ達、どうなるか? |
フレン | 悪いようにはしないよ |
フレン | とはいえ、陛下が消えたとなると混乱が起こるのは避けられない。みだりに公にしない方がいいな… |
リッド | けど、バレないか?謁見予定すげぇ入ってんだろ? |
フレン | 確かにそうだね。まず、エステリーゼ様に相談してくるよ |
フレン | この状況を信じてくれて陛下の代わりを務めていただけるのはエステリーゼ様だけだ |
フレン | だから、それまではこの事が他に知られないよう内密にお願いしたい |
キール | わかった。ぼく達はここに残るから急いでもらえると助かる |
リッド | どうして一緒に行かねぇんだよ |
キール | ぞろぞろ動いても怪しまれるだけだ。それにぼくは、もう一度分史世界への入口を開けられないか確かめたい |
フレン | わかった。これからこの部屋は封鎖する |
フレン | 封鎖は信頼出来る者に任せるから何かあれば扉の外にいる騎士に声をかけてくれ |
キール | ああ。助かる。これで余計な邪魔はされずに調べられるな |
フレン | それじゃあ、また後で |
リッド | さて、と。とりあえず、いきなり逆賊扱いで牢屋入りって事はなくなったな |
リッド | これからどうする? |
メルディ | メルディ、ファラ達助けたい! |
クィッキー | クィッキー! |
キール | そうは言っても、現状は分史世界に行く手段がないからな。出来る事からやっていくしかない |
キール | まずは分史世界への入口が開いたあたりを調べてみよう |
| 冷たき牢獄 |
| ヒュンッ |
ファラ | わわっ! |
リチャード | く…! |
| ドサッ!ドサドサッ! |
| シュン… |
エル | つ、冷た…!これ…雪? |
ルドガー | 大丈夫か、エル?ほら、手に掴まって |
エル | うん。ありがと、ルドガー |
ファラ | 王様、大丈夫ですか? |
リチャード | ああ。雪がクッションになってくれたよ |
リチャード | ここは…カン・バルクの近くか |
ファラ | カン・バルク…ってア・ジュールの首都ですよね。こんな遠いところに、どうして… |
ルドガー | あの時計の反応に、突然開いた穴…前の時と同じだった…。きっとここは、分史世界だ |
ファラ | 分史世界… |
リチャード | なるほど、ここが… |
リチャード | …こちらに移動してきたのは僕達四人だけかな? |
ファラ | はい。リッドとキールとメルディは穴から逃れてました |
エル | ルドガー、エルたちちゃんと元の世界に戻れるの? |
ルドガー | ああ、心配ないよ。まずはこの世界について調べてから── |
| |
ア・ジュール兵1 | 全員、動くな! |
| チャキンッ |
| |
ルドガー | っ…! |
ファラ | あ、あの…!わたし達、怪しい者じゃ… |
ア・ジュール兵2 | お前達が空中からいきなり現れたと通報があったぞ。今まで何処に隠れていた? |
ア・ジュール兵1 | 逆徒の一派だろう。連行する! |
ファラ | ま、待って!この人がわからない?捕まえたら大問題だと思うよ! |
リチャード | …… |
ア・ジュール兵1 | …誰だ?身なりはいいようだが… |
ア・ジュール兵2 | 貴族だか商人だか知らんがこっちも見逃せない状況だ。大人しくついて来い |
ファラ | えぇっ!?リチャード陛下がわからないの!?どうして… |
ルドガー | …ここは分史世界だ。時代や歴史が違えば、こういう事もあり得る |
リチャード | 事情がわからない以上、今は大人しく従った方がよさそうだね |
ア・ジュール兵2 | 何をしている。早く来るんだ |
| |
ファラ | まさか、こんな事になるなんて… |
リチャード | 兵の話を聞く限り、僕達が城に攻め込んできたと思ったようだね |
リチャード | 逆徒と言われたね。もしかすると内乱でも起きているのかもしれない |
ルドガー | そうだとしたら話をしたところで信じてもらうのは難しいか… |
ファラ | それにしても、王様をこんなところに閉じ込めるなんて… |
リチャード | こういう経験も悪くないよ |
エル | 王様ってマエムキだね |
リチャード | 残念がっていても仕方ないからね |
リチャード | ところで、ここでは僕の事をリチャードと呼んでくれないかい? |
エル | どうして?王様は王様でしょ? |
リチャード | ここでは違うようだからね。権力者に見られて危険な事になるのを避けたいんだ |
リチャード | ここでは僕も対等な仲間として扱ってほしい。勿論、敬語もなしでお願いするよ |
エル | そうなんだ。じゃあ、リチャードって呼ぶね! |
リチャード | ありがとう。みんな、かまわないかな? |
ファラ | わかりま──よろしくね、リチャード! |
エル | それじゃあ、リチャードもエルと友達だね! |
ルドガー | 改めてよろしく、リチャード |
リチャード | ああ、よろしく頼むよ。ふふ、まさかこんな形でみんなと距離を縮められるとはね |
リチャード | 後は無事に元の世界に戻れたら言う事はないんだが… |
ファラ | そうだね…。ルドガー、わたし達が元の世界に戻るにはどうしたらいいのかな? |
ルドガー | …この前と同じなら、負の因子を壊せば帰れるようになるかもしれない |
リチャード | さっき話してくれた、スレイに憑りついていたというものだね? |
ルドガー | ああ。あの時のように、分史世界に異変をもたらしているかも知れない |
ルドガー | まずはこの世界に起こっている異変を調べてみよう |
エル | でも、どうやって調べるの?エルたち、ここから出られないんだよ |
リチャード | まずは僕達の置かれた状況について情報が欲しいところだ |
ファラ | そうだね。何が何だかわからないまま捕まっちゃったし… |
??? | ここか? |
ルドガー | ん?誰か来たのか |
ファラ | 今の声って… |
キール | ──こいつらか?何の前触れもなく突然現れたというのは |
看守1 | はっ。そのように聞いております |
ファラ | キール!? |
キール | なぜ、ぼくの名を知っている?怪しいな…敵国の密偵…?いや…だとすると不自然か… |
ファラ | な、何言ってるの?わたしだよ、幼馴染のファラ! |
キール | 知らないな |
ファラ | え…っ |
キール | …まさか、こいつら── |
キール | ──まぁいい。確かめてみれば、わかる事だな |
リチャード | あれは…? |
ルドガー | 何かの装置…みたいだな。小さくてよく見えないけど… |
| ビービー! |
キール | …!やはりそうか… |
キール | 反応が強いのは… |
| ビービービービー! |
エル | なっ、何…? |
キール | 看守。あの子どもを出せ |
看守1 | はっ! |
| |
| ガチャッ |
エル | …!ルドガー! |
ルドガー | エルに近づくな! |
看守1 | 邪魔だ! |
看守2 | 取り押さえろ! |
| ドカッ |
ルドガー | くっ、この…! |
エル | ルドガー! |
看守1 | お前はこっちに来るんだ |
エル | やだ!はなして、痛いよ! |
ファラ | 何するの! |
リチャード | ファラさん、待つんだ。ここで暴れたら僕達の立場はもっと悪くなる |
ファラ | でも、エルが…! |
リチャード | キールさん、と言ったかな。理由を教えてくれないか |
キール | …あんたには関係ない事だ |
リチャード | …取り付く島もなしか |
ルドガー | 待て!エルに怪我でもさせたら容赦しないぞ! |
キール | 怪我をさせたくないなら大人しくしていろ |
キール | …つれて行くぞ |
看守1 | はっ |
エル | ルドガー!助けて…っ! |
ルドガー | くっ、エルー! |
看守2 | 動くな! |
| ドスッ |
ルドガー | ぐっ…エ…ル… |
| ドサッ |
ファラ | ルドガー…!もう我慢出来ない! |
リチャード | 駄目だ、ファラさん!ここは…堪えてくれ…! |
ファラ | でも、わたし…! |
看守2 | な、何だその反抗的な目は!歯向かうならお前も容赦せんぞ! |
リチャード | よした方がいい。さすがに僕も黙っていられなくなる |
看守2 | 何…!に、逃げられると思ってるのか。外には兵がいくらでも… |
リチャード | そうだね。君がここまでにしてくれるなら僕達も大人しく従おう |
看守2 | ふ…ふん。わかればいいんだ |
リチャード | それと、もう暴れないと約束するから君が怪我をさせた友人を手当てしてやってくれないか |
看守2 | ちっ、仕方ないな。少し待ってろ。逃げようとするんじゃないぞ |
| |
| ガチャン |
| |
ファラ | 鍵閉められちゃった…。リチャード…わたし…ついカッとなっちゃって… |
リチャード | 気にしなくていいよ。ファラさんの気持ちは痛いほどわかるからね |
リチャード | だが、怒りに任せて動いても事態は好転しない |
リチャード | 気絶したルドガーを置いていけないし看守が言ったように、ここを出てもすぐに囲まれてしまうだろう |
リチャード | それに…キールさんは怪我をさせたくなければ大人しくしていろと言っていた |
リチャード | あの言葉を聞く限り、何もしなければ彼女に危害を加えるつもりはないのだろう |
ファラ | …確かに、わたしの知ってるキールは、そんな事する人じゃないけど… |
ファラ | でも… |
リチャード | …不安なんだね。すまないが今はその不安を解消してあげる事が出来ない |
リチャード | 今は目の前の問題から片付けよう。まずはルドガーの手当てをする事が先決だ |
ファラ | そうだね… |
| |
ルドガー | …… |
ファラ | …大丈夫?まだどこか痛む? |
ルドガー | ああ、もう平気だ。大した事ない |
ルドガー | ただ…エルの事が心配だ。どうしてキールはエルだけを連れて行ったんだろう |
リチャード | 何か理由がありそうだね。彼が使った小型の装置が気になる |
リチャード | あの装置は、エルさんに強く反応していたようだが一体… |
ルドガー | いつまでもここにいるわけにはいかない。エルを助けにいかないと…! |
ファラ | うん。ただ…わたし達が下手な事を考えないようにって看守の目が厳しくなったみたいなの |
リチャード | エルさんの居場所もわからない以上今行動を起こすのは得策とは言えないだろうね |
ルドガー | …そう、だよな。でも、どうしたら… |
看守1 | なあ、聞いたか?ウィンドルの話 |
看守2 | ああ。セルディク王の事だろう |
看守1 | 我らが姫様に婚約を迫っているとか。政略結婚が行われない場合、戦争に発展する可能性もあるんだとさ |
看守2 | 戦争か…嫌だなぁ。姫様には悪いけど円満に事が進めばと思うよ |
ルドガー | …!今の話… |
リチャード | なるほど…。この世界のウィンドルを統治しているのはセルディク公のようだ |
リチャード | だから僕が何者なのか、門番達は知らなかったんだね |
ファラ | 政略結婚を迫られるお姫様か…。何だか、可哀想だね… |
看守1 | …!どうして、あなた様がこのような場所に! |
リチャード | ん…?急に騒がしくなったみたいだ |
ファラ | 誰かがこっちに来るよ |
看守2 | 姫様、お待ちを…! |
| コツコツコツ… |
| |
メルディ | …… |
ファラ | えっ。め、メルディ…!? |
| 雪の国の王女 |
メルディ | 今すぐこの人達を解放するよ |
看守1 | しかし、姫様…! |
メルディ | 罪を犯してない人を牢に入れる必要、あるか? |
看守2 | …わかりました |
| ガチャッ |
看守2 | 外に出ろ |
メルディ | 大丈夫か?手荒な真似してごめんな… |
クィッキー | クィック!クィック! |
ファラ | …あなたが、この城のお姫様なの? |
メルディ | はいな!メルディがおカーサン、この国の偉い人! |
ファラ | そうなんだ。ねぇ、わたしの事、わかる? |
メルディ | んー…?どこかで会ったか?ごめん、覚えてないよぅ |
ファラ | …ううん、いいの。よく考えたら他人の空似だったよ。あはは… |
メルディ | …? |
リチャード | お互いに面識はないという事か…ならば、なぜ見ず知らずの僕達を助けてくれたんだい? |
メルディ | それは…ここじゃゆっくり話せない。みんな、メルディに付いてくるよ! |
| |
ルドガー | 処刑…!? |
メルディ | はいな。牢に入れられた人、みんな処刑されちゃうよ… |
リチャード | 事情も聴かずにか… |
メルディ | おカーサン、公務で今いないけど出かける時にそう命令して行ったよ |
メルディ | 厳しい思ったけど、ここに捕まる人は滅多にいないからホントに処刑はない思ってた |
メルディ | そんな時に誰か捕まったって聞いて様子を見に来たよ |
ファラ | メルディ──王女様のお蔭で助かったよ。ありがとう! |
メルディ | お礼はいらない!ただ…堅苦しいのは嫌だからメルディって呼んでほしいよ |
ファラ | うん、勿論!私はファラだよ |
ルドガー | 俺はルドガーだ |
リチャード | 僕はリチャード。よろしく |
メルディ | よろしくな!それと、こっちは友達のクィッキーだよぅ |
クィッキー | クィッ、クィッキー! |
ファラ | クィッキーもよろしく |
クィッキー | クィッキー! |
リチャード | ところでさっきの話だけど僕達を助けてくれたという事はメルディは処刑に反対なのかい? |
メルディ | はいな。法律とか難しい事はメルディよくわからないけど… |
メルディ | 罪もない人、処刑したら絶対ダメだよぅ |
ルドガー | 俺達が怪しい者じゃないって信じてくれるんだな |
メルディ | はいな。クィッキー懐いてるからみんないい人! |
メルディ | ただ、ひとつだけ教えてほしいな。みんなは、どうして城の前に落ちて来たのか? |
ルドガー | 説明が難しいんだけど…たまたま落ちた場所が城の前だった、というか… |
ルドガー | 兎に角、用事があって来たってわけじゃないんだ |
ルドガー | この国にも来たばかりで何が起こってるのかわかってなくて…勿論、逆徒なんかじゃないよ |
メルディ | そうなのか…。運、悪かったな |
メルディ | 最近、おカーサンと敵対する人多くて、城が中、ピリピリしてるよ |
リチャード | なるほど。警戒を強めていたところに僕達が怪しい登場をしたわけか… |
メルディ | でも安心するよ。メルディ、お城の外まで連れてく! |
ルドガー | ありがとう。けど、少し待ってくれないか。ここを出る前にエルを連れ戻さないと |
メルディ | エル…? |
ルドガー | ああ。俺達と一緒にもう一人女の子がいたんだ。キールがどこかに連れて行って… |
メルディ | キールが…?どうして… |
ルドガー | 彼がいる場所を教えてくれないか? |
メルディ | …… |
メルディ | みんなが事、おカーサンに知られたら牢に戻されるかもしれない。早くお城から出た方がいいよ |
メルディ | だから、その子が事、メルディに任せてくれるか? |
ルドガー | 何か考えがあるのか? |
メルディ | キールに言って、何とかするよ!メルディ、キールとは仲よしだからな |
メルディ | 街で待っててくれたら必ずその子を連れて行くよ!だからみんなは先にここを出るよ! |
ルドガー | ………… |
リチャード | …ひとつ聞いてもいいかな?キールさんは何か目的があってエルさんを連れて行ったようなんだ |
リチャード | 何をするつもりなのか知っているかい? |
メルディ | …メルディ、キールが何してるか知らない。でも、これだけは言えるよぅ |
メルディ | メルディは、キールに人を傷つけさせたくないよぅ! |
ファラ | メルディ… |
ファラ | ルドガー、大丈夫だよ。このメルディはわたし達の知ってるメルディと同じ優しい子だから |
ルドガー | …そうみたいだな。メルディ、エルの事よろしく頼む |
メルディ | まかせるよ! |
クィッキー | クィッキー! |
| |
キール | やはり…。別の世界からここへ飛ばされて来たんだな |
キール | おまえ達、クルスニクの一族が持つ力の謎に迫れば、きっと… |
エル | …ルドガーのところに帰して |
キール | それは聞けない相談だな。おまえが持ってるその時計を渡してもらえれば考えてもいいが |
エル | これはパパの大切な時計だから、ダメ!触らないで! |
| バシッ |
キール | …ふん、意地を張りたいならそうしているといいさ。おまえがいつまでも帰れないだけだ |
| ガチャ |
メルディ | キール! |
キール | …メルディか。どうしたんだ、ノックもせず |
キール | …怒っているのか? |
メルディ | 外まで声聞こえてた。その子、嫌がってる!乱暴な事よくない! |
キール | …はあ。仕方ない、自分から渡す気になるまで待つとするか |
エル | …… |
メルディ | キール。牢に入ってた人達、何も悪い事してないって言ってたよ |
メルディ | その子も…何も悪い事してないな |
キール | …!おまえ、あいつらに会ったのか!? |
メルディ | その子をルドガー達がところに帰してあげないと |
エル | ルドガーの事、知ってるの!? |
メルディ | はいな。エルの事、連れ戻す約束したよ |
キール | …駄目だ。時計と、こいつの力を調べるまで、外には出さない |
メルディ | キール! |
キール | この研究が進めば、ぼくは更に認められる… |
キール | 誰にも見下されない偉大な研究者になるんだ |
メルディ | キール… |
クィッキー | クィイ… |
キール | そんな顔をするな。用が済めば、こいつは帰してやる。いつになるかはわからないけどな |
メルディ | キール、約束してほしいよ。絶対、酷い事しないって |
キール | …善処はする。人の事より、メルディ。おまえは何か身体に変化はないか? |
キール | 最近、政務続きで疲れていただろう |
メルディ | 何ともないよ。いつも通り! |
キール | …そうか |
キール | だったら話はここまでだ。ぼくは研究で忙しい。おまえも、早く部屋に戻れ |
メルディ | キール… |
| |
メルディ | 行っちゃったな… |
エル | …あの人、性格悪い! |
メルディ | …… |
メルディ | キール、昔は…すごく優しかったよ |
メルディ | 最近は少し、おかしいけどメルディが事…いつも心配してくれる |
メルディ | メルディを姫じゃなくてメルディとして見てくれるよ |
エル | …メルディはこのお城のお姫様なの? |
メルディ | はいな! |
エル | あの人と、仲がよかったんだね |
エル | …お姫様の友達を悪く言ってごめんなさい… |
メルディ | 謝らずでいいよ。エルは優しい子だな! |
| ガッガガガ… |
エル | …!何の音? |
メルディ | あそこにある機械、見えるか?あれが動く音だよ |
エル | あの機械…すごく、いやな感じがする |
メルディ | いやな感じ? |
エル | うん…。イニル街にあった魔導器に似てるから… |
メルディ | あれは、人を殺すものだから…メルディも嫌い |
メルディ | …エル。必ずここから出すよ。もう少し待てるか? |
エル | …わかった。メルディの事、待ってる |
メルディ | 約束な!ルドガー達にエルが事伝えておくよ! |
キール | 何をコソコソ話してたんだ? |
エル | 教えない! |
エル | ルドガーたちがギャクトじゃないってお姫様が言ってたのに、どうしてカイホーしてくれないの |
キール | おまえ達が逆徒だろうがそうでなかろうが、ぼくには関係ない |
キール | 自由に動き回られると困るってだけだ |
| |
兵士 | ──キール様! |
キール | 何だ。騒々しいな |
| |
兵士 | 牢に入れていた逆徒達が城の外に出たとの報告がありました |
キール | 何…!? |
兵士 | 看守の話だと、メルディ様が逆徒を逃がしたとかで…。いかがいたしましょう |
キール | くそっ。すでに逃がしていたのか… |
キール | あいつらを追え。絶対に捕らえろ |
兵士 | し、しかし…メルディ様の命に逆らうわけには… |
キール | メルディの命令が正しいと思うならどうしてぼくに伺いを立てにきた?追うべきだとわかっているのだろう? |
キール | メルディの命に反した責任ならぼくが取ってやる。あいつらをすぐ牢に連れ戻せ |
キール | 抵抗するなら生死は問わない |
兵士 | はっ! |
エル | っ…!行っちゃダメ! |
| ガシッ |
兵士 | な、なんだ…!? |
キール | おい、勝手な事をするな! |
エル | いーかーせーなーいー! |
兵士 | この!離れろ! |
キール | 大人しくしていろ! |
エル | はなしてー! |
キール | 今だ、早く行け! |
兵士 | はっ!失礼します! |
エル | うぅ…。…ルドガーにひどい事したら、許さないから! |
キール | ふん |
scene1 | 為政者の悩み |
ファラ | 誰も追って来てないみたいだね |
リチャード | ああ。この国の姫君が直々に送り出してくれたんだ。脱走とはわけが違うだろう |
ルドガー | けど、キールや女王に知られたらどうなるかわからない |
ルドガー | それまでにエルと合流出来るといいんだけど… |
ファラ | メルディがきっと上手くやってくれるよ |
リチャード | そうだね。その間、僕達は少しでもこの世界の事を調べておこう |
ルドガー | ここまで歩いてきた感じだとカン・バルクの街並みは正史世界とあまり変わらないみたいだな |
リチャード | ああ、しかし国の体制は大きく違う。ガイアス王でなくメルディの母上がア・ジュールを統治しているようだ |
ファラ | まさか、メルディがお姫様になってるなんて…わたし、びっくりしちゃった |
ルドガー | ああ、俺も驚いたよ。政略結婚を迫られているのはメルディだったんだな |
リチャード | どうやらウィンドルの事情も僕達の世界とは異なるようだな |
リチャード | 道中で街の人達の話を聞いた感じだとこの世界のウィンドルは大国として大きな武力を有しているようだ |
ルドガー | この国の女王は秘密裡に兵器の開発も進めているという噂もあったな |
リチャード | 政略結婚による同盟か、戦争の始まりか… |
リチャード | 国中が緊張しながら成り行きを見守っているようだ |
ファラ | ア・ジュールとウィンドルが戦争するの…? |
リチャード | 僕達の世界でも、四大国は長く良好な関係が築けず歴史の中で何度も戦って来た… |
リチャード | 分史世界でも、同じような事が繰り返されようとしているのだろうか… |
ファラ | 何とかして止められないのかな… |
リチャード | 誰しも戦争なんてしたくない。それでも…武器を取らなければ民を守れない事があるのも事実なんだ |
ファラ | そんなの…悲しすぎるよ。何か他の、平和的な方法がきっとあるはずだよ |
ファラ | メルディが結婚させられる以外の方法が、きっと… |
リチャード | …平和的な方法を考えて考えて…けれど答えが出ないまま戦いが始まってしまう事もある |
リチャード | …ア・ジュールの女王も僕と同じ苦悩の中でもがいているのかもしれないね |
ルドガー | リチャード… |
ファラ | …王様やお姫様がこんなに大変だなんて知らなかったな |
ファラ | 小さな頃は煌びやかなお城暮らしに憧れて、お姫様ごっこなんてしてたけど… |
ファラ | 何もわかってなかったな…。何だか恥ずかしいよ |
リチャード | すまない。不安にさせてしまったね |
リチャード | 勿論、戦争を止められるならそれに越したことはない。やれるだけの事は── |
| |
| ザッザッザッザ |
| |
兵士1 | おい、いたぞ!あそこだ! |
ファラ | …! |
リチャード | やはり、そう簡単にはいかないみたいだね |
兵士2 | もう逃げられないぞ! |
ルドガー | くっ、囲まれた…!どうすれば… |
リチャード | 不本意だが戦うしかないだろうね。突破口を切り拓こう! |
ルドガー | わかった! |
scene2 | 為政者の悩み |
兵士1 | くっ、こいつら、やるぞ…! |
ファラ | 道が開いたよ!あそこから抜け出そう! |
ルドガー | ああ! |
兵士2 | 待て! |
兵士3 | くそ、応援を呼ぶんだ!逃げられないよう城門を閉めろ! |
リチャード | 何とか撒いたが、追いつかれるのも時間の問題だな |
ファラ | すぐ隠れないとまた囲まれちゃうよ…! |
ルドガー | 街の外にも逃げられそうにない…!どうすれば…! |
メルディ | みんな!こっちだよぅ! |
ルドガー | メルディ…! |
メルディ | あの建物、隠れられる! |
ルドガー | わかった!みんな、あそこに急ごう! |
| |
ファラ | …外ではまだわたし達の事捜してるみたいだね |
メルディ | この宿、メルディが知り合い。みんなが事、匿ってくれるな |
ルドガー | 助かったよ |
ファラ | ねぇ、メルディ。その服って… |
メルディ | これか?こっそり街に出る時、いつも着てるよ |
メルディ | …何か変か? |
ファラ | ううん。すっごく似合ってる |
メルディ | ありがとな! |
ルドガー | …ところで、メルディ。エルの姿が見えないようだけど… |
メルディ | …ごめんな。連れてくる事、出来なかったよ。キール、すぐには帰してくれないな |
ルドガー | そうか…。怪我とかはしてなかったか? |
メルディ | はいな! |
ルドガー | よかった…。今はそれだけで十分だ |
リチャード | …メルディさん。追手が来たのは女王様の指示かい? |
メルディ | ううん、キールが命令って兵士達言ってたよぅ |
リチャード | そうか… |
リチャード | しかし、君は王女だ。君の意志を無視して僕達に追手を差し向けるなんて… |
リチャード | キールさんは一体、何者だい? |
メルディ | …キールは、王室専属が研究員 |
リチャード | 研究員…?一介の研究員が、王女を超える実権を握っているのかい? |
メルディ | キールが研究、おカーサン進めてる兵器開発に貢献してるよ |
メルディ | だから軍はメルディよりキールが言う事聞くな。メルディも少しは権限あるけど… |
リチャード | そういう事か…。王女とはいえ、君も苦しい立場なんだね |
ルドガー | なのにエルを取り戻せるよう掛け合ってくれたのか…ありがとう、メルディ |
メルディ | でもメルディ、連れてこられなかったよぅ… |
メルディ | おカーサン帰ってきたらエルが事お願いしてみるな。けど…たぶん… |
ルドガー | 聞き入れてもらえないか… |
メルディ | でも、考えあるよ!みんな、リンネル村知ってるか? |
ファラ | 勿論!この世界にもリンネル村はあるんだね |
メルディ | …?この世界? |
ファラ | あ、ううん。こっちの話!それで、リンネル村に何かあるの? |
メルディ | 力を貸してくれそうな人いるよ。先王が息子、話聞いてくれるよ |
リチャード | 先王の息子が王位を継承せず首都から離れて暮らしている…何か事情がありそうだね |
ルドガー | わかった、リンネル村に行ってみよう |
ファラ | でも、街の外には出られないんだよね。城門を閉められてたし… |
メルディ | メルディ、何とかするよ。そのぐらいは出来ると思う |
メルディ | 地図を描くからその通りに行くよ!誰にも見つからないで街を出られるな |
ファラ | ありがとう。だけど、いいの?メルディの立場が悪くならない? |
メルディ | 平気だよ。それにメルディ、ルドガー達捕まる方がやだよ |
ファラ | …だからって、会ったばかりのわたし達のためにそんなに無理して── |
ファラ | …あっ |
メルディ | …?どうかしたか? |
ファラ | ううん、何でもない |
ファラ | (これって、わたしが リッドにいつも言われてる事だ…) |
リチャード | ありがとう、メルディさん。みんな、疲れていると思うが早速出発してもいいかな? |
ルドガー | ああ。エルのためにも、少しでも急ぎたい |
ファラ | うん。それに、いつまでもここにいると、宿にも迷惑かかっちゃうもんね |
メルディ | わかったよぅ。すぐに城門を開けるよう手配するな |
メルディ | リンネル村についたらブウサギがいっぱいいる家を探すといい! |
ルドガー | わかった。その人の名前は? |
メルディ | ピオニー! |
scene1 | 雪国の実力者 |
ファラ | あっ、あれ!リンネル村が見えてきたよ。このまま行けばあと少しで── |
ルドガー | …ん?ちょっと待ってくれ |
リチャード | どうかしたのかい? |
ルドガー | あの木の陰になっているところ… |
怪しい男 | …… |
ファラ | 誰かいる!あんな場所で何してるんだろう? |
ルドガー | 村の人…と言うには動きが少し怪しい気がするんだ |
リチャード | …確かに。姿を隠しながら、何かを見張っているのか? |
リチャード | あれは… |
ルドガー | 何か気になる事でも…? |
リチャード | 彼が腰に下げている剣に見覚えがあるんだ |
リチャード | ア・ジュールの兵士達が使っていた剣と同じように見える。軍服を着ていないが、彼も兵士だろう |
ファラ | もしかして、わたし達を捜しに来たのかな? |
リチャード | いや…僕達を捕まえるつもりなら一人という事はないだろう。もっと多くの兵士を派遣するはずだよ |
ルドガー | 確かに…。他に兵士はいないようだし、俺達を待ち伏せしてるわけじゃないのか… |
ファラ | それなら、旅人のふりをして前を通り過ぎちゃおうよ! |
ルドガー | さすがに堂々としすぎじゃないか? |
ファラ | イケる、イケる!何とかなるって!コソコソしてる方が怪しいよ! |
リチャード | 時には大胆さも必要かもしれないね。行こう、リンネル村はすぐそこだ |
| |
ルドガー | ふぅ…。何事もなく村の中に入れたな |
ファラ | うん!でも、どうして兵士があんなところに立ってたんだろ? |
リチャード | 真意はわからないけど…村の中で目立つような行動は控えた方がよさそうだね |
ルドガー | そうだな。とりあえず早くピオニーさんを捜さないと |
ファラ | えっと、確か…村に着いたらブウサギがたくさんいる家を探せってメルディが言ってたっけ |
リチャード | ブウサギか…。あ、あそこに何匹かいるようだよ |
ブウサギ | ぶー、ぶー |
ファラ | あんなにいっぱい…!放し飼いにされてるみたいだね |
ルドガー | 近くピオニーさんがいるかもしれない。行ってみよう! |
ブウサギ | ぶひ、ぶひっ |
ファラ | わっ、近付いてきた…!人に慣れてるみたい |
リチャード | こうやって見ると、愛らしいものだね |
??? | おっ。何だおまえら、俺のブウサギを見に来たのか?可愛いぞ! |
ルドガー | 俺の、って事は…もしかして貴方がピオニーさんですか? |
ピオニー | ああ、そうだ。おまえ達は? |
ファラ | メルディ…王女様からこの場所を聞いて、訪ねて来たんです |
ファラ | あなたなら、わたし達を助けてくれるかもしれないってこれを… |
ピオニー | 確かにメルディからの手紙か…今は少しばかり都合が悪いんだが何か事情がありそうだな |
ピオニー | 王女の頼みを、無下には出来ないしな。中で話を聞こう |
| |
ピオニー | 大した持て成しは出来ないが、楽にしてくれ |
リチャード | ありがとうございます |
ブウサギ | ぶひー、ぶひー |
ルドガー | 家の中にもブウサギがいるんですね… |
ピオニー | 可愛いだろ?他の奴らも寝る時はちゃんと自分から家の中に戻って来るんだぜ |
ピオニー | さて、話が途中だったな。ここに来るまでに何があったかざっと説明してくれ |
ピオニー | ──成程な。おまえ達はそのエルって子を城から連れ戻したいわけだ |
ルドガー | はい。ただ、出来るだけ目立たずに穏便に済ませたいんです |
ルドガー | 俺達が下手に動いてメルディに迷惑をかけるのは避けたいので |
ファラ | メルディもいろいろ大変そうだったもんね。それなのに協力してくれて… |
リチャード | 難しいかもしれませんが、メルディ王女のためにも力を貸していただけないでしょうか |
ピオニー | そうか。そういう事なら協力しよう。その代わり…条件がある |
ルドガー | 条件、ですか…? |
ピオニー | ああ。実はブウサギが一匹逃げ出したんだ |
ピオニー | 多分リンネル村の近くにいるはずだから探してくれないか |
ファラ | えっ、ブウサギ探しですか…? |
ピオニー | 一刻も早く城へ向かいたいというおまえ達の気持ちはわかっているつもりだ |
ピオニー | だが、俺の可愛いジェイドが丸焼きにされたらと思うと、心配で村を出られない |
リチャード | …ジェイド? |
ピオニー | 逃げ出したブウサギの名前だ |
ファラ | ジェイド、って…ア・ジュールにいる軍人さんと同じ名前だね |
ルドガー | ああ。たまたまにしても奇妙な感じだな… |
ピオニー | 何をコソコソ話してるんだ?俺の頼みは聞いてくれるのか? |
ルドガー | …ブウサギ探しを手伝えば、俺達に協力してもらえるんですよね? |
ピオニー | ああ、約束する |
ピオニー | おまえ達がジェイドを探してくれている間に、俺は村を出る準備をしておこう |
ルドガー | わかりました |
ルドガー | 今から探しに行くので、特徴を教えてもらえますか? |
ピオニー | いいぞ。俺の可愛いジェイドはな芸の覚えは悪いが毛並みだけはぴかぴかで… |
ファラ | …何だか名前に違和感があるなぁ |
リチャード | 慣れるしかなさそうだね… |
| |
ルドガー | …ここにもいないみたいだな。どこへ逃げたんだろう? |
ファラ | ん~、人に育てられたブウサギだからそう遠くには行っていないと思うんだよね |
リチャード | 手当たり次第に探すよりもここの近くで姿を現すのを待っていた方がいいという事かな? |
リチャード | でも、僕達の姿を見たら驚いて逃げてしまうかもしれないね… |
ファラ | …!それなら、わたしにいい考えがあるよ! |
ファラ | …よし。この辺りに隠れていれば大丈夫かな |
ルドガー | へぇ、ここから仕掛けた罠を見張るのか |
ファラ | うん。餌につられたブウサギが罠にかかったところを捕まえようと思って |
リチャード | あの短時間で捕獲用の罠を仕掛けるなんて、ファラさんは器用なんだね |
ファラ | リッドがやってるのを見てたから作れたんだ!罠で怪我したりしないように、工夫もしたし… |
ファラ | 後はブウサギが来るまでじっと待つだけだよ! |
リチャード | ここまでずっと慌ただしかったし、少しのんびり待つとしようか |
ルドガー | …のんびりしていていいんだろうか |
ルドガー | こうしている間にもエルは辛い思いをしているかもしれないのに… |
ファラ | 心配なんだね…。でも…きっと、大丈夫だよ |
ファラ | あの時はちょっと変な感じだったけどキールが小さい子に酷い事するわけないもん |
ルドガー | 俺もそう信じたいけど…ここは分史世界だからな… |
ファラ | そう言われるとわたしも自信なくなっちゃうけど… |
ルドガー | …ごめん。酷い人だと思ってるわけじゃない。ただ、どうしても不安で… |
ファラ | うん…わたしも不安だもん…メルディの事も… |
リチャード | …厳しい事を言うようだけど不安な事ばかりを考えると気持ちの焦りに繋がってしまう |
リチャード | ここでブウサギが罠にかかるのを待っているのも、二人を助ける事に繋がるはずだよ |
リチャード | 目の前の問題から着実に片付けていこう |
ルドガー | …そうだな。ありがとう、リチャード |
ファラ | さすが王様だね。いつも冷静で頼りになるなぁ |
リチャード | そんな事ないさ。僕だって心乱れる事はあるし…今だってとても不安だよ |
リチャード | だけど自分の気持ちは別として状況を俯瞰的に見るよう努めているんだ |
リチャード | 僕はかつて黒い衝動に呑まれるまま国を動かしてしまっていた…。それを繰り返すわけにいかないからね |
ファラ | でも、それじゃあリチャードは国のために自分の気持ちを閉じ込めてるの? |
リチャード | そんな事はないよ。ウィンドルに住むみんなの事を大切にしたいのは、僕の本心だからね |
リチャード | それに、何も自分の気持ちを閉じ込めてしまうべきだと言ってるわけじゃないんだ |
リチャード | 気持ちは気持ち、やるべき事はやるべき事と切り分けて考えているだけさ |
ルドガー | なるほど…。なかなか出来る事じゃないな |
ルドガー | リチャードは本当に尊敬出来る王様だと思うよ |
リチャード | ありがとう、ルドガー |
| ガサ…ガサガサ… |
ファラ | …!あれは… |
ブウサギ | …… |
ルドガー | ジェイド、なのか…?首輪をしてるみたいだから飼われてるブウサギだと思うけど |
ファラ | 餌に興味を示してるみたい。罠にかかったら、捕まえよう…! |
| |
| ガサガサ… |
ルドガー | …!今、あの辺りの茂みが動いたような |
| |
| グルル… |
ルドガー | 魔物…!? |
リチャード | あの魔物、ブウサギを狙っているのか!? |
ファラ | まさか、食べる気なの!?止めないと! |
ルドガー | ああ!俺達の方に魔物を引き付ける! |
ルドガー | ──ゼロディバイド! |
| ギャウウ…ッ!? |
| ダッ── |
ファラ | 魔物の注意がこっちに向いた!作戦成功だね! |
リチャード | よし、ここで迎え撃とう! |
scene2 | 雪国の実力者 |
ファラ | よかった…。ブウサギに怪我はないみたいだね |
ブウサギ | ぶーぶー |
リチャード | 大人しいね。魔物から守った僕達を信頼してくれているのかな |
ルドガー | ジェイドも無事に見つかった事だし、リンネル村に戻ろう |
ルドガー | 早くピオニーさんの元に連れて帰らないと |
ファラ | うん、そうだね! |
| |
ピオニー | さて、準備は終わったな。あとはあいつら次第か… |
ファラ | あっ、ピオニーさん!ジェイド、見つけて来ましたよ! |
ブウサギ | ぶひっ、ぶひっ |
ピオニー | おお!戻ったか、ジェイド! |
ブウサギ | ぶひー |
ピオニー | 助かったぜ、おまえ達。ジェイドが戻ってきてくれて一安心だ |
ルドガー | これで、エルを連れ戻すための手助けをしてくれるんですよね? |
ピオニー | ああ、勿論だ。俺は、約束を守る男だからな |
ピオニー | 準備は整ってる。今すぐカン・バルクへ向かうぞ! |
ファラ | えっ、わたし達も一緒に…ですか? |
ピオニー | ああ。何か問題でもあるのか? |
ファラ | 一緒に行動しているところを見られたら、ピオニーさんまで捕まっちゃうかも… |
ピオニー | 心配ない。俺に任せろ |
| 母と娘 |
ファラ | 堂々とお城の前まで来ちゃった… |
リチャード | 街にいた兵士達とのやり取りを見ていた感じだと、彼の一言にはかなりの影響力があるようだったね |
ルドガー | ただ、お城に入るとなるとそう簡単にいくかどうか… |
ピオニー | 大丈夫だ。俺に任せろって言っただろう? |
ピオニー | よう、調子はどうだ |
兵士1 | ピオニー殿下!?何か御用でしょうか…! |
ピオニー | ああ。こいつらと俺を城の中に通してほしい |
兵士2 | なっ、お前達は…!どうして貴殿がそのような者達と共に!? |
兵士1 | お下がりください、ピオニー殿下。そやつらは逆徒として投獄されていた罪人達です! |
兵士2 | 殿下から離れろ!脱獄犯共め! |
| チャキッ |
ピオニー | おいおい、おまえ達は何か勘違いをしているみたいだ。こいつらは罪人なんかじゃない |
ピオニー | 身元は俺が保証する。城の中に用があるから、通してくれ |
兵士1 | し、しかし殿下…! |
ピオニー | こいつらが城に忘れたものを取りに来ただけだ。用が済んだらすぐに出ていくさ |
兵士1 | …わかりました。殿下をお通しするぞ |
兵士2 | ああ… |
ピオニー | 突然押しかけて悪いな。恩に着るぜ |
| |
シゼル | …投獄していた逆徒を逃がしたそうだな、メルディ |
メルディ | あのまま牢にいたらルドガー達、処刑されちゃう |
メルディ | 罪のない人達、処刑されるの間違ってるよ! |
シゼル | 罪がないとなぜ言い切れる?おまえはその者達の何を知っているのだ? |
メルディ | それは…でも、悪い人違うのわかるよ! |
シゼル | …おまえは何もわかっていない。世にどれほど善良な顔をした悪人が蔓延っているかという事を |
シゼル | よいか。世の中には自らの都合を正義と称する厚顔無恥な者もいるのだぞ |
メルディ | ルドガー達、そんな人違う! |
シゼル | おまえは王女だ。個人の感情だけでなく周囲の状況を冷静に考えよ |
シゼル | その上で信用に足ると判断する材料を提示すれば、私もその者達を認めてやろう |
シゼル | もっとも…今はそのような細事にかまけている暇はないがな |
メルディ | …おカーサン、ウィンドルとの交渉また上手くいかなかったか |
シゼル | …交渉は継続中だ |
メルディ | このまま折り合わなかったら…ウィンドルと戦争するのか? |
シゼル | …戦争は避けられぬであろうな。だが、兵器開発が間に合えば被害は最小限に抑えられる |
シゼル | 先制攻撃であの兵器の威力を知ればウィンドルとて全面戦争を避けるだろう |
メルディ | 最小限でも、戦争よくない。…おカーサン、メルディ、みんながためなら結婚出来るよ |
シゼル | 愚かな事を。おまえを差し出すという事は事実上の降伏を意味するのだぞ |
メルディ | 降伏でも戦争ない方がみんな平和。違うか? |
シゼル | 違うな。結婚など建前にすぎん。実際は人質だ。我々は友好国という名の属国となる |
シゼル | そうなれば待ち受けるのは一方的に搾取され続ける未来だ。到底受け入れられるものではない |
シゼル | こちらとしても婚約交渉は建前だ。兵器が完成するまで時間を稼ぐ手段でしかない |
メルディ | …戦争は死ぬ人いるよ。最小限だとしても…メルディ、一人も死なせたくない |
シゼル | 私とて死なせたいわけではない。だが先ほども伝えた通り、感情よりも状況を優先するべきなのだ |
メルディ | …本当に他の方法、ないか…? |
シゼル | そのようなものがあるのなら、教えてもらいたいものだな |
シゼル | さぁ、もうわかっただろう。この話は終わりだ |
メルディ | 待って。最後に一つだけお願いあるよ |
メルディ | キールが研究室にいるエル、ルドガー達のところに帰すよう言ってほしいな |
シゼル | その願いは聞けぬ。研究に必要と聞いている。おまえが口を出す事ではない |
シゼル | 話はここまでだ。下がれ、メルディ |
メルディ | ……わかった…よぅ… |
シゼル | …得心のいかぬ顔をしておったな。今は大事な時だ。面倒が起こる前に手を打つべきか |
シゼル | 誰かいるか! |
| |
ファラ | ──本当にお城の中に入れちゃった… |
| タタタッ |
兵士3 | お待ちください! |
兵士1 | 何事だ。殿下と客人の前で失礼だろう |
兵士3 | そ、それが… |
ファラ | 何かあったのかな?すごく慌ててるみたいだけど… |
ルドガー | …嫌な予感がするな |
兵士1 | っ…それは本当か!? |
兵士3 | ああ、女王陛下直々の命令だ |
ピオニー | 何だ何だ、悪い知らせか? |
兵士1 | …殿下。あなた方を研究室へお連れするわけにはいかなくなりました |
| |
兵士1 | 取り押さえろ! |
| |
| チャキッ! |
ルドガー | …! |
ピオニー | これは何の冗談だ? |
兵士3 | この者達を捕えよと女王陛下の命令です |
ファラ | えぇっ…! |
リチャード | どうやら女王に目を付けられてしまったようだね |
ピオニー | 彼らは俺の連れだ。女王と話をさせてくれ |
兵士4 | それはかないません、殿下 |
ピオニー | おまえは…リンネル村で何度か見た顔だな |
ルドガー | あの時の…! |
リチャード | 僕達も見かけた村を見張っていた兵士だね |
ピオニー | なるほど。俺の周りをこそこそ嗅ぎまわってたってわけか |
兵士4 | ご察しいただけたのなら話は早い。殿下、あなたには逆徒達に加担した謀反の疑いがかけられています |
ファラ | ピオニーさんが…逆徒…!? |
ピオニー | …… |
兵士1 | 手荒な真似はしたくありません。…ご同行願います |
| |
ピオニー | いやぁ、参った参った。まさか俺まで罪人扱いされるとは |
ルドガー | 笑い事じゃありませんよ…! |
ファラ | また、牢の中に戻ってきちゃった… |
ルドガー | 逆徒達に手を貸したって話、本当なんですか? |
ピオニー | 大した事はしてないぞ。俺はただ金を── |
| |
看守1 | 何だ貴様らは!? |
| バシュッバシュッ |
看守2 | ぐう…!? |
| ドサッドサッ |
ファラ | 何…!? |
リチャード | 看守達が誰かに襲われたようだ! |
逆徒の男 | カーティス司令官、こちらです! |
ピオニー | 誰かと思ったらおまえか、ジェイド |
| |
ジェイド | こんなところで何をしていらっしゃるのですか、殿下 |
ピオニー | 俺の可愛いジェイドを助けてくれた奴らに恩返ししようと思っただけだ |
ジェイド | …不気味なのでその言い方はやめてもらえませんか |
ピオニー | 安心しろ。おまえは可愛くない方のジェイドだ |
ジェイド | 私が言いたいのは、ブウサギに人の名前を付けるなという事で… |
ジェイド | …はぁ、今はそんな話をしている場合ではありませんでしたね。早くここから出なければ |
ジェイド | そちらの方々が一度城から逃げた事で兵士達が警戒を強めているようですから |
ルドガー | えっ…!俺達の事を知っているんですか? |
ジェイド | ええ、勿論。殿下と共にリンネル村からカン・バルクに戻って来た事も知っています |
ピオニー | その様子だと、俺が牢に入れられる事を見越して城内に潜入していたみたいだな |
ジェイド | 殿下に謀反の疑いがかけられていると情報が入りましてね。事前に手を打つ予定でしたが… |
ジェイド | あなたがリンネル村を出てカン・バルクに来たりするから手間が増えました |
ピオニー | 危険を冒して俺を助けに来るとは、実に友達がいのある奴だ |
ジェイド | 城の人間にあなたが持っている私達の情報を渡すわけにはいきませんからね |
ジェイド | …牢を開けてください |
逆徒の男 | はっ |
| ガチャガチャ… |
| キー… |
ピオニー | 思ったより早く出られたな |
ファラ | はい。一時はどうなる事かと思いましたけど… |
逆徒の男 | おい、止まれ。お前達まで牢の外へ出すとは言っていない |
ファラ | えっ、そんな…! |
ピオニー | おいおい、それはないだろ?あいつらも出してやってくれ |
ジェイド | どうして得体の知れない者を助け出す必要があるんです? |
ピオニー | 俺はメルディから、こいつらの事を頼まれたんだ。見捨てていくわけにはいかないだろうが |
ピオニー | それに、こいつらはシゼル女王に対抗するための戦力になるぞ |
ピオニー | 何たって俺の可愛いジェイドを魔物から救ってくれた奴らだからな。戦力は保証する |
リチャード | 少なくとも僕達はあなた達に襲い掛かったりしません |
ジェイド | …… |
ジェイド | いいでしょう。あなた方も付いて来てください |
| |
逆徒の男 | この辺りに兵士はいないようです。一気に逃走用の通路まで進みますか? |
ジェイド | いえ、油断は出来ません。廊下の先まで行って安全かどうか確かめてください |
逆徒の男 | はっ |
ファラ | …ピオニーさんはあの人とどういう関係なんですか? |
ピオニー | ジェイドの事か?あいつとは長い付き合いでな |
ピオニー | ジェイドが率いている組織はシゼル女王の兵器開発を止めるために動いてるんだ |
リチャード | あなたも、その活動に協力を? |
ピオニー | まあ、そうだな。多少の資金援助をしたくらいだが |
ルドガー | ピオニーさんは地位もあるし、女王陛下に直接進言する事も出来るんじゃないんですか? |
ピオニー | いいや、今の俺にそこまでの力はないぜ。ただ、俺にも国を憂う心はあるからな |
ジェイド | …殿下、話はここを出てからにしてください。いつ兵士に見つかるかわからないんですよ |
ピオニー | おまえの事だ。見つかってもいいように策くらいは立ててあるだろ? |
ジェイド | …… |
ジェイド | 我々がここで捕まるような事があれば誰が民の生活を守るのですか |
ジェイド | 民を思う心があるなら慎重に行動してください |
ピオニー | はいはい、わかってるって |
リチャード | …彼は正史世界のジェイドさんと少し違うようだね |
ファラ | 確かに…、前に会った時はもっと飄々としてて、何を考えてるかわかり辛い人だった気がするなぁ |
ルドガー | 分史世界ではよくある事だよ。環境や立場が少し違うだけでも人の印象が違って見えるものなんだ |
リチャード | そうか…僕がこの世界では王として振舞わないように、同じ人でも行動が変わるんだね |
ファラ | なるほど |
逆徒の男 | 司令官、安全の確認が取れました! |
ジェイド | わかりました。逃走用の経路まで一気に進んで── |
ルドガー | 待ってください…! |
ルドガー | 俺達は研究室にいるエルを助けに来たんです! |
ジェイド | 残念ですが、それは聞けませんね |
ジェイド | 兵器開発の要ともいえる研究室にそう易々と近づく事は出来ません |
ルドガー | そんな… |
ファラ | それじゃあ、わたし達だけでも研究室に向かいます! |
ジェイド | …本気ですか? |
ファラ | 今またここを出たらもう戻ってくる方法はないし…エルを助けないと! |
ルドガー | ああ、たとえ危険でもエルをこのままにしておけない |
リチャード | …待ってくれ、二人共 |
リチャード | ジェイドさん。再び城内に戻って来る事が出来ないなら、僕達は行きます |
リチャード | ですが、この騒ぎの中、研究室まで辿り着ける可能性は確かに低い… |
リチャード | なので単刀直入に聞きますが、この先、ここに戻って来る機会はありませんか? |
ジェイド | ……お答え出来ません。少なくとも、今、ここでは |
リチャード | …わかりました。ルドガー、ファラさん、今はここを出よう |
ファラ | えっ、でも… |
リチャード | 焦る気持ちはわかるが今は僕を信じてくれ |
ルドガー | ……わかった |
ファラ | うん |
| |
| ダダダッ |
兵士1 | いたぞ!!! |
| |
ファラ | …!後ろから追手が来たよ! |
リチャード | 僕達が牢から逃げ出した事に気付かれたみたいだね |
ジェイド | やれやれ。あなた方がのんびりしているからですよ |
ジェイド | こうなってはどの道研究室に向かうのは不可能でしょう |
ジェイド | 脱出するのであれば、ついて来てください。いいですね |
ルドガー | はい! |
scene1 | すれ違う想い |
メルディ | おカーサンが事、説得出来なかったな… |
クィッキー | クキュウ… |
メルディ | 心配してくれるか?ありがとな、クィッキー |
メルディ | いつまでも落ち込むいけないな! |
クィッキー | クィッキー! |
メルディ | 決めた!もう一度、キールのところ行くよ! |
メルディ | キールに人殺しの兵器なんて作ってほしくないからな… |
クィッキー | ククキュキュキ… |
| |
キール | ──駄目だ。話にならない |
エル | …… |
メルディ | どうして!その兵器、完成したらおカーサン使うよ! |
メルディ | そしたら人がいっぱい死ぬ!キール、それが望みか!? |
キール | 別に人が死ぬ事を望んでいるわけじゃない。だが、兵器の開発は止められない |
メルディ | どうして… |
キール | …メルディ。おまえはぼくに、城から出て行けと言うつもりか? |
メルディ | そんな事ない!どうしてそうなる!? |
キール | ぼくは兵器開発のためにシゼル陛下から宮廷学者に取り立ててもらったんだ |
キール | 兵器開発を中止にするという事はその立場を手放すという事だ。当然、城にぼくの居場所はなくなる |
メルディ | それは… |
キール | …兵器開発の責任者という立場をなくしたぼくを周りの研究者はどう見ると思う? |
キール | ぼくの研究はただでさえ学会で認められていないんだ |
キール | この世界が本当の世界ではない…分史の世界だなんて誰も信じてくれなかった |
エル | 分史…!キールの研究って分史世界の事だったの!? |
メルディ | エル…分史世界が事知ってるか? |
エル | う、うん…ちょっとだけ。ルドガーとメガネのおじさんは詳しいかもだけど… |
メルディ | キール、もしかしてエル返してくれないの、このためか? |
キール | …他に何があるって言うんだ |
メルディ | 研究がためにエルを無理やり連れてきたか。ちゃんとお願いすればよかったのに… |
キール | それは出来ない。あの男もクルスニクの一族だ、警戒する必要がある |
エル | ルドガー?どうして… |
キール | …おまえに説明するつもりはない。とにかくあの男がいると困るんだ |
エル | …ルドガー… |
メルディ | キール…変だよぅ。研究がために兵器を作ったりエルを返してくれなかったり… |
キール | 手段を選んでいる余裕はないんだ。時間がなさすぎる |
キール | せっかくここまで来て…女王直々に研究を認められて学会の連中を見返せたっていうのに… |
メルディ | キール…キールはそんな事のために研究をしているのか? |
キール | そんな事とは何だ!誰にも認められずに馬鹿にされ夢を笑われたぼくがどれほどみじめか… |
キール | ぼくはこの研究に全てを賭けている。それなのに、おまえは… |
メルディ | …?メルディ、関係あるか? |
キール | …いや、何でもない。とにかく、この研究の前には些細な事だ |
メルディ | たくさんの人が死ぬ事、些細な事言うか! |
キール | ぼくには関係ない事だ |
メルディ | どうして…キール、そんな事言う人違う! |
メルディ | キール、世界が未来よくするため研究する優しい人! |
メルディ | その研究使った兵器でたくさん人死ぬなんて耐えられないはずよ! |
キール | うるさいっ!! |
キール | 何も知らないくせに口を出すな! |
メルディ | …出すよ!メルディ知っている!キールとたくさんお話したよ。あの花畑で… |
メルディ | そうだ、メルディと一緒にまた行こう!キールきっと疲れてるだけ |
キール | 時間がないと言ったはずだ。ぼくは一刻も早くこの兵器を完成させなければならないんだ |
メルディ | 休憩必要!前は…研究が事、世界が事話してくれたな |
メルディ | またお話してほしいよ…そしたらキールも、あの頃が気持ち思い出せる |
キール | 気持ちだと? |
キール | そんなもの、思い出している暇はないっていうのがわからないのか |
メルディ | でも… |
キール | ぼくが研究を完成させればこの国は強くなる! |
キール | ウィンドルに脅されて王女を差し出すような弱い国じゃなくなるんだぞ! |
メルディ | 弱くたっていい!人を殺す兵器、作らないでほしいよ! |
キール | …話は平行線だな。これ以上は時間の無駄だ。出て行ってくれ |
メルディ | どうしても…やめてくれないか |
キール | くどいぞ |
| |
メルディ | メルディ、ウィンドルに行ってもメルディごと撃つか? |
キール | …何? |
| |
メルディ | …… |
メルディ | メルディ、決めたよ。ウィンドルが王様と結婚する! |
キール | な、何をバカな事を… |
メルディ | 今のキールきらい!ウィンドルが王様は、結婚すれば戦争しないでくれる |
メルディ | メルディ…戦争しない人が方、好きだよ! |
キール | 国の存続の話だ好きか嫌いかの話じゃない! |
キール | そもそもこんな交渉を持ち出す王だ。おまえの思うような結末になると思っているのか! |
メルディ | やってみないとわからない!メルディ、本気!おカーサンにそう言ってくる! |
キール | …… |
エル | …追いかけなくていいの? |
キール | 必要ない。シゼル陛下が止めるだろう |
エル | 泣いちゃってるかもしれないよ |
キール | …。そんな暇はない。放っておけばいいさ |
エル | …メルディ本当に結婚しちゃったらどうするの? |
キール | …兵器の開発が間に合わなければ遅かれ早かれそうなるんだ |
キール | とやかく言うのなら、まずその時計を渡したらどうなんだ |
エル | これだけはダメ! |
キール | ふん…。どいつもこいつもぼくの邪魔ばかりする… |
キール | …… |
| |
兵士5 | 止まれー! |
兵士6 | 抵抗すると容赦せんぞ! |
リチャード | 追手が増えてきたね |
ジェイド | 出口までもう少しですが…妙ですね。兵士が後ろからしか来ないというのは… |
ピオニー | わざとこっちに追い込んでるって事か? |
ジェイド | ええ。事前に把握していた警備の配置とも違うようです。これは罠の可能性が高いですね |
ルドガー | それじゃあ、逃げる事も出来ないんですか? |
ジェイド | いえ、予備の逃走経路を使います。人目につく可能性はありますが追手を撒くには適した道です |
リチャード | 流石ですね |
ジェイド | 流石…とは、どういう事でしょう。普段の私の事をご存じかのような言い方ですが… |
リチャード | ああ、いえ。ピオニーさんが一目置くだけあると思っただけです |
ジェイド | 殿下は私を買い被っているだけですよ |
ジェイド | さぁ、こちらです。ついて来てください |
scene2 | すれ違う想い |
ジェイド | ここを抜ければ城の外です |
ルドガー | 追手は撒けたようですね |
ピオニー | この道は、なまじ人目があるから逃走に使われるとは思わなかったんだな |
リチャード | 上手く盲点を突けたようですね |
ファラ | 掃除してたお姉さんがびっくりして逃げて行ったのはちょっと申し訳なかったけど… |
ジェイド | 彼女が通報したら終わりです。早くここを離れましょう |
| |
メルディ | …はぁ。キール…どうして… |
メルディ | ここに連れて来てくれたキール…いろいろお話してくれたキール…優しくて、不器用だけど頑張ってて… |
メルディ | 立派な人だと思ったよぅ。だからメルディ、おカーサンにキールが論文紹介したな |
メルディ | なのに… |
クィッキー | クィィ… |
メルディ | クィッキー、心配してくれるか。ありがとな |
メルディ | でもメルディ、今はちょと元気出ないよ。ごめんな… |
| |
| ザッザッザッ… |
メルディ | …!誰か来た! |
メルディ | キール、来てくれたか…? |
ファラ | メルディ!? |
メルディ | ファラ!?みんなに…ピオニーもいるか!? |
| |
ピオニー | 奇遇だな、メルディ |
メルディ | 無事会えたんだな。よかったよぅ。これから研究室に行くのか? |
ルドガー | いや…実は… |
メルディ | バイバ!ピオニー、逆徒と繋がりがあったか!?それで捕まってたなんて… |
ピオニー | そういえば話した事はなかったな! |
メルディ | ピオニーの話なら、おカーサンも聞いてくれる思ったよ…ルドガー達、ごめんな… |
ルドガー | いや、知らなかったんだからメルディのせいじゃないよ |
ピオニー | まぁ、繋がりをもったのもつい最近の事だからな |
ジェイド | 私達が活動を始めたのは王室での兵器開発が始まってから… |
ジェイド | 具体的には、ウィンドルとの戦争を積極的に進める動きを感知してからでして |
リチャード | ウィンドルと戦争を… |
ルドガー | 可能性はあるって噂は聞いたけど積極的に進めていたなんて… |
ファラ | という事は…メルディが結婚するっていう話はなくなったんですか? |
ジェイド | いえ。表向きは和平の条件が折り合わず結論は保留…という事になっています |
ジェイド | しかしそれは、戦争の準備が整うまでの時間稼ぎにすぎないでしょう |
メルディ | おカーサンもそう言ってたな。メルディ、戦争やめるよう頼んだけど聞いてもらえなかったよ |
ジェイド | やはりそうですか |
ファラ | どうしてだろう。戦争なんて誰もしたくないと思うんだけど… |
ピオニー | セルディクは野心家で知られている |
ピオニー | メルディと結婚したとしてもこの国を乗っ取るつもりだろう |
ピオニー | 王位についた背景もいろいろな策謀があるって噂だからな |
リチャード | …… |
ピオニー | ア・ジュールの国を守るためにはセルディクを跳ね除ける力がいるとシゼル女王は考えたんだろう |
メルディ | おカーサン、守るために兵器作ってるか…? |
ピオニー | …そうだろうな。ただ、力が拮抗してしまえば消耗戦になりどちらかが滅ぶまで戦う事になる |
ピオニー | 国を第一に思うなら、それを避けるために早期決着を狙うはずだ |
リチャード | 相手が戦う気を無くすほどの強力な兵器…という事ですね |
メルディ | それを…キールが作ってる… |
ファラ | 大変…!どうにか止められないんですか? |
ジェイド | それを止めるために策謀しているのが私達です。逆徒などと呼ばれていますがね |
メルディ | それじゃ、みんなで戦争止めてくれるか!? |
ジェイド | ええ。ただ…この先の話を聞くといくら王女殿下とは言え城に帰すわけにいかなくなりますよ |
ジェイド | 万が一にでも城の者に情報が伝わったら困りますからね |
メルディ | …わかった。メルディ、お城戻れなくてもいい |
メルディ | 戦争を…兵器開発を止めてくれるならメルディ手伝うよ! |
ファラ | メルディ…本当にいいの? |
メルディ | はいな。メルディ、おカーサンやキールに戦争してもらいたくないよ |
ジェイド | …わかりました。では話しましょう |
ジェイド | 私達は兵器の研究室に侵入して開発中の兵器を破壊し── |
| |
ジェイド | 開発責任者、キール・ツァイベルを暗殺します |
| |
ルドガー | なっ… |
ファラ | そんな…! |
メルディ | キ…キールが事…こ、殺す…か? |
ピオニー | その計画は初耳だが…確かに兵器開発を止めるには一番確実な方法だな |
リチャード | 女王に抜擢されるくらいだ。彼にしか出来ない開発なんだろう。確かに頓挫する可能性はある |
リチャード | しかし… |
ジェイド | 抵抗があるという事でしたら協力していただく必要はありません |
ジェイド | 事が終わるまで私達の拠点で大人しくしていてもらうだけです |
ジェイド | ただ…暗殺のためには当然、研究室に入ります。となれば、同行したいのでは? |
ルドガー | エル…! |
リチャード | 戦闘になる事を考えれば僕達も同行してエルさんを保護した方がいいね |
ジェイド | 勿論、可能な限り保護はしますが保証は出来ませんからね |
ジェイド | 例えばその方が人質に取られた時私達がどういう決断をするか…何しろこちらも命がけですから |
ルドガー | わかりました。俺達も行きます…! |
リチャード | ああ…エルさんを助けよう |
ファラ | 勿論、私も行くよ!でも… |
| |
メルディ | …メルディも、行くよ! |
| |
ファラ | メルディ…!? |
メルディ | メルディも戦争止めたい。だからキールがとこ一緒に行く! |
メルディ | でも、殺しに行くと違う。メルディ、もう一度キールを説得する! |
ファラ | メルディ… |
ジェイド | 盛り上がっているところ申し訳ありませんが王女殿下の同行は許可出来ません |
ジェイド | 私達は万が一の事があったらあなたの身を切り札として使わせていただくつもりです |
ジェイド | そのため、危険な場所に王女殿下を連れて行く事は出来ません |
ファラ | そんな…!メルディを道具みたいに! |
メルディ | …それで戦争止まるならメルディ道具でも構わないよ |
メルディ | だけどその前にキールが説得させてほしい |
ジェイド | ですから、切り札であるあなたを危険な戦いに連れて行くわけにはいかないと言っているんですよ |
ピオニー | まあまあ、落ち着けよ。メルディの身に何かあったら困るっていうだけなんだろ? |
ピオニー | それならルドガー達に守らせたらどうだ? |
ピオニー | 俺達だって国民の一人を殺して平和を作りたいわけじゃないだろ。それは最終手段だ |
ファラ | わたし…やる!メルディの事、守るよ! |
ジェイド | 守りながら戦うというのは相当な能力が必要ですよ |
リチャード | 僕も尽力させてもらうよ。要人の警護はいつも間近で見てきたから、多少心得があるしね |
ルドガー | ジェイドさん、メルディは俺達が必ず守ると約束します |
ジェイド | …みなさんの気持ちはわかりました。では、こうしましょう |
| |
| チャキッ |
| |
ルドガー | …!何を… |
ジェイド | ここであなた方の実力を試させてもらいます |
ジェイド | 王女殿下を守りながら私と戦ってみてください |
ファラ | そんな、いきなり… |
ジェイド | 敵はいきなり襲ってくるものです。それも複数で |
ジェイド | 私一人からも守れないのなら王女殿下の同行は認められません |
ピオニー | よく言うぜ。そこらの雑兵が束になってもおまえほどじゃないだろ |
ジェイド | どうでしょうねぇ。私も、もう年ですから、そこまでの力はありませんよ |
ジェイド | さぁ、どうしますか?私はどちらでも構いませんよ |
メルディ | みんな…力貸してくれるか? |
ルドガー | 勿論だ |
ルドガー | ジェイドさん、その条件、受けて立ちます |
ジェイド | 心は決まったようですね。それでは、お手並み拝見といきましょうか |
scene3 | すれ違う想い |
ジェイド | ふむ…思ったよりやりますね。王女殿下まで攻撃が届く気がしません |
ジェイド | これなら合格と言ってもいいでしょう |
ルドガー | はぁ、はぁ…ありがとうございます |
ファラ | ふぅ、よかった… |
リチャード | それにしても、三対一なのにここまで追いつめられるとはね… |
ピオニー | なっ、強いだろ? |
ジェイド | 何故あなたが誇らしげなんですか… |
ジェイド | …さて、それでは正式にご協力いただけるという事ですし私達の拠点まで案内しましょう |
ピオニー | カン・バルクの街中にあるんだったな |
ジェイド | ええ。街中に入ったら警戒を怠らないようにしてください。至るところに兵士がいるはずです |
ルドガー | わかりました |
ルドガー | (ごめん、エル。 もう少しだけ、待っててくれ) |
| 迫る時限 |
キール | …ここを…こうして… |
| カチャカチャ |
キール | …… |
メルディ | メルディ、ウィンドルに行ってもメルディごと撃つか? |
キール | …何? |
メルディ | メルディ、決めたよ。ウィンドルが王様と結婚する! |
キール | …別にどうでもいいそんな事は些細な事だ |
キール | この術式さえ完成すれば兵器の完成は目前だというのに… |
キール | 長年の研究で培ってきた知識と技術がやっと活かされるんだ…これで… |
メルディ | キール、世界が未来よくするため研究する優しい人! |
メルディ | その研究使った兵器でたくさん人死ぬなんて耐えられないはずよ! |
キール | …ぼくの、何を知っているというんだ |
キール | ぼくを認めない人達が死んだって…関係ない |
キール | ……くそっ。少し休憩するか… |
キール | そういえばあの子どもさっきから静かだが… |
エル | すー…すー… |
キール | 大人しいと思ったら眠っているのか |
キール | 時計は握ったままか。…今なら、慎重にやれば… |
| コンコン |
兵士 | キール様。よろしいでしょうか |
キール | …っ!だ、誰だ、こんな時に |
| ガチャ |
シゼル | 誰だとは挨拶だな |
キール | 陛下…! |
シゼル | 首尾はどうだ? |
キール | 順調です。完成は時間の問題でしょう |
シゼル | その時間がもうないのだ。ウィンドルに不穏な動きがあるという情報が入って来た |
シゼル | こうなっては、もはや一刻を争う。完成を急げ |
キール | …陛下。失礼を承知で申し上げます |
キール | 開発が万が一遅れてメルディが…王女がウインドルに嫁いでこの国から出て行った場合 |
キール | それでも、兵器をウインドルへ使うのでしょうか |
シゼル | 愚問だな。…メルディに何か言われたか |
キール | 開発は勿論間に合わせますが少し、気になったまでです |
シゼル | 遅れた結果メルディを差し出したとしても研究は続けていく |
シゼル | 他にこの国を存続する手立てはない。私は守らなければならぬのだ。例え尊い犠牲を払おうとも |
シゼル | …これでよいか。私の決心は揺るがぬ |
キール | …はい |
シゼル | 兼ねてより約束していたがこの開発が成功したらおまえの望むものをやろう |
シゼル | 地位も、名誉も好きに与える。それこそ本来の研究に戻っても構わぬ |
シゼル | 励めよ |
キール | はっ |
キール | …。そうだ。ぼくの望みはこれなんだ |
| |
ジェイド | 何とか、兵士に見つからず辿り着けましたね |
ピオニー | まさか、酒場の上とはな。昔、カン・バルクにいた頃はよくこの店で飲み明かしたよな |
ジェイド | あの頃の友人達も私達の仲間ですよ |
ルドガー | その仲間って何人ぐらいいるんですか? |
ジェイド | 少なく見積もって二百人…ですが、全員が戦えるわけではありません |
ファラ | にひゃ──そんなにたくさん!? |
リチャード | 相当な数ではあるが…ア・ジュールの兵力を考えると足元にも及ばないだろうね |
ジェイド | ええ。ですから正面突破ではなく暗殺という方法を取るわけです |
ジェイド | そのための計画をここで着々と進めてきました |
メルディ | けどここ、普通の酒場よ。お城が兵士、店に来る事ないか? |
ジェイド | 客には兵士に限らず一般人も来ますが店主が上手く仕切ってくれていますから、問題はありませんよ |
ジェイド | もっとも作戦の決行が近い今は臨時休業にしていただいてますが |
ルドガー | 作戦の決行って、いつなんですか? |
ジェイド | ピオニー殿下を救出次第でしたので…今から準備を整えて、出発は明朝ですね |
ルドガー | そんなに早く…! |
リチャード | しかし今日あんな事があった後では警戒されているのではないですか? |
ジェイド | はい。ですが、時間が経てば警戒が解けるというものでもありません |
ジェイド | 何せ戦争の準備をしている国です。警戒はどんどん強まる事でしょう |
リチャード | 確かに…。それなら急いだ方が虚を衝ける可能性があるか… |
ファラ | そっか。さすがにすぐ戻ってくるとは思わないもんね |
ジェイド | ええ。それに…もう時間がないかもしれないんです |
ピオニー | まさか、戦争が始まるのか? |
ジェイド | 情報を集めてくれている仲間達からウィンドルに不穏な動きがあると連絡がありました |
ジェイド | おそらくその情報はシゼル女王の耳にも入っているでしょう |
メルディ | どうしよう…。おカーサン、完成したらすぐ兵器使うかもしれない |
メルディ | 先制攻撃で兵器の威力を知らせる言ってたよ… |
ジェイド | …まさに一刻を争う状況ですね |
ジェイド | 準備があるため出発は早められませんが正直もどかしいですよ |
メルディ | おカーサン…お願いな…早まらないでほしいよ… |
ファラ | メルディ…。大丈夫だよ。きっとみんなで止められるから… |
ジェイド | さて、作戦を説明しようと思いますがその前にいくつか質問させてください |
ルドガー | 何ですか? |
ジェイド | 門番が話しているのを聞きました。あなた方は「何の前触れもなく突然空から現れた」と |
ジェイド | この国の情勢についてもあまり詳しくないようですし…あなた方は一体何者なのですか? |
ルドガー | それは… |
リチャード | ルドガー。彼らには正直に話すべきじゃないかな |
リチャード | エルさんを助けた後に元の世界へ戻るためには協力者がいた方がいい |
ピオニー | 元の世界って? |
ルドガー | 実は…俺達は、この世界とは別の世界から来たんです |
ジェイド | …にわかには信じがたい話ですが冗談を言っているわけではなさそうですね |
ジェイド | それに気になる事もあります…。もう少し詳しく、あなた方の事を聞かせてもらえますか? |
ルドガー | わかりました |
ジェイド | ──成程。あなた方がこちらの世界に来た経緯はある程度理解しました |
ジェイド | これで証明されましたね…キール・ツァイベルは優秀な学者なのだと |
ファラ | …?どういう事? |
ピオニー | 女王がどういう兵器を作っているか調べるために、開発責任者の研究を調べたんだ |
ピオニー | 専門はマナの革新的な技術応用。そこから発展して、今研究しているのは── |
ピオニー | こことは別の世界…分史世界の存在についてだ |
ルドガー | 何だって…! |
メルディ | メルディもよく話聞いてたから知ってるよ |
メルディ | キール、世界が研究してたけど誰も信じてくれなかったな |
ジェイド | 学者の中では嘲笑の的だったと聞いています |
ジェイド | 私も論文を読みました。理屈は通っていますが、仮説も多く机上の空論だと思っていました |
ジェイド | しかし正しいのは彼の方だった…。つまり、彼の学者としての能力は世界中の学者を凌駕しているんです |
ファラ | キールって、そんなにすごいんだ |
リチャード | しかしその頭脳が今、兵器開発に向けられている… |
ジェイド | ええ。元々由々しき事態ではありましたが思っていた以上にマズい状況ですね |
ジェイド | それほどの頭脳があれば我々の想像を超えた恐ろしい兵器の可能性があります |
ジェイド | ──例えば、魔導器とか |
ピオニー | 魔導器?まさか。あれは実現不可能な都市伝説だって話だろ? |
メルディ | でもエル、兵器が事見て魔導器って言ってたよ |
ジェイド | …という事は、あなた方の世界では実在しているのですか? |
ルドガー | はい。俺達の世界では戦争で魔導器が使われていました |
ルドガー | エルはその時、実際に魔導器を見た事があって… |
リチャード | イニル街の魔導器か… |
ジェイド | では、あなた方は魔導器の効果や対策についてもご存知ですか? |
リチャード | 対策は、本体から魔核を取り出すなど直接の破壊が有効です |
リチャード | 効果については、魔導器にもいろいろあるので断定は出来ません |
ジェイド | …それなら、こんな魔導器を聞いた事はありますか? |
ジェイド | 周囲のマナを吸い尽くし、生命が存在出来ない土地にする兵器… |
リチャード | …あり得ると思います |
リチャード | 魔導器の動力源はマナです。僕達の世界でも、命を吸い上げると言われた事がありました |
ジェイド | そうですか…。…出来れば、不可能であってほしかったのですが… |
メルディ | …… |
ジェイド | 我々が掴んだ情報では、そのような効力があるそうです。それも、街一つが一瞬で枯れると… |
ジェイド | その情報を聞いた時、さすがに偽の情報を掴まされたのだと思いましたよ |
ジェイド | 理論上は可能ですが、実用化は不可能な技術で現実的ではありません |
ジェイド | しかし…彼がそれ相応の頭脳を持っていると知った今、考えは変わりました |
ピオニー | 使い方を誤ると世界が滅ぶ危険性すらあるな。絶対に阻止しないと |
メルディ | …キール…どうしてそんな怖いもの作れるか…? |
ジェイド | …負の因子の影響、という事は考えられませんか? |
ルドガー | 負の因子…! |
ジェイド | さっきあなた方の話を聞いてから気になっていたのです |
ジェイド | それに憑りつかれた人は普段と様子が違ったのですよね? |
ルドガー | はい。必ずそうなるかどうかはわかりませんが… |
ジェイド | ならば、シゼル女王か、キールに憑りついた可能性は十分ありますね |
ルドガー | 確かに…!もしそうだったら負の因子を破壊すれば解決するかも知れません |
ピオニー | 因子を破壊すれば元の人格に戻るか… |
ピオニー | 憑りついてるのがセルディクだったら話が早かったかもなぁ |
リチャード | そうですね…でもセルディクは僕達の世界でも好戦的な性格の人物でした |
リチャード | もし王になっていたら、こういう状況になる可能性は十分あり得ます |
ジェイド | 興味本位で聞きますがそちらの世界ではウィンドルの王はどんな方なのですか? |
リチャード | 僭越ながら僕が務めています |
ジェイド | なるほど…道理で。品格のある方だとは思っていましたが国王陛下だったとは… |
ピオニー | リチャード…そういえば聞いた事あるな |
ピオニー | 確かウィンドルの王子だったが幼い頃に病死したとか |
ルドガー | 病死…。それでこっちの世界ではリチャードが王じゃないのか |
ファラ | 誰も気付かなかったのは大人のリチャードを知ってる人がいなかったからなんだね |
リチャード | …なるほど、病死…か |
ファラ | リチャード…大丈夫? |
リチャード | ああ。少し驚いたけど、平気だよ |
リチャード | 負の因子の話に戻ろう。僕達が元の世界に戻るために必要なものだ |
ピオニー | と言っても、誰についてるかわからないんだろ? |
ルドガー | 確かに…手がかりは少ないですね |
リチャード | もし見つからなかった場合、他に元の世界に戻る方法はないのかい? |
ルドガー | いや、実は戻るだけなら他にも手はあるんだ |
ルドガー | 異変の前までは元の世界に戻るために時歪の因子(タイムファクター)というものを壊していた |
ファラ | あっ、前にわたしとルークが分史世界に迷い込んだ時に倒した黒いモヤの魔物… |
ルドガー | ああ。あの時は魔物だったけど…人間に憑りついている事の方が多いかな |
ルドガー | 時歪の因子は…その世界を作っている中核なんだ |
ルドガー | 憑りつかれた者は俺達のような骸殻能力を持つ者が近づくと黒いモヤを出し始める |
ルドガー | そして骸殻の力を使って時歪の因子を破壊すると……その…元の世界に戻れるんだ |
リチャード | なるほど…。異変の原因と思われる負の因子を見つける方が理想的だがその方法も検討するべきだね |
ファラ | 勿論、エルを助けてからね |
ルドガー | ああ。とにかく今は、エルを助ける事とキールを止める事に専念しよう |
ジェイド | いやー、皆さんの方針が定まったようでよかったですね |
ルドガー | あ、すみません。俺達の話ばかりしてしまって… |
ジェイド | いえいえ。私としても、皆さんの行動目的を把握出来ましたので有意義でしたよ |
ジェイド | それでは、改めて突入作戦の打ち合わせと行きましょう |
ピオニー | その後は、朝まで自由行動だ。寝床は用意させてるから今日の疲れをゆっくり癒してくれ |
ルドガー | ありがとうございます |
| 決意の夜 |
ピオニー | ここで呑むのは久しぶりだな。たまにこの店の味が恋しくなるんだ |
リチャード | 今日は臨時休業と言っていましたがいいんですか? |
ジェイド | ええ、作戦決行に備えて士気を上げるためにと、店主が厚意でやってくれているんです |
ルドガー | じゃあ、ここにいる人達はみんな仲間なんですね。俺達がいていいのかな… |
ジェイド | あなた方や王女殿下の事も協力者として説明してありますから気にする必要はありませんよ |
ピオニー | その王女はふらふらとどっか行っちまったけどな |
リチャード | 作戦の説明を聞いて思い詰めていたようだね… |
ルドガー | 無理もないな。キールを確実に殺すための計画を聞かされたら… |
ジェイド | だからといって作戦の説明を曖昧にする事は出来ません。あれでも表現には配慮したんですよ |
ピオニー | それはメルディもわかっているさ |
ピオニー | 今は考えを整理したいんだろう。ほんの数時間の間にいろいろありすぎたからな |
リチャード | そうですね。ファラさんがついてくれていますから彼女に任せましょう |
ジェイド | 念のため我々の仲間にも護衛させてますから問題はないでしょう |
ピオニー | それじゃ、男だけでむさくるしいがこっちはこっちで男同士楽しく食事でもするか! |
ルドガー | …いいんでしょうか。仲間が悩んでるのに楽しく食事なんて… |
ピオニー | 気持ちはわかるが、ずっと張り詰めたままじゃ身が持たないぞ |
リチャード | そうだね。ルドガーはこの世界に来てからどこか気負っているように感じる |
ルドガー | …そうか?エルの事があるからかな… |
リチャード | 僕も最初はそう思った。けど、それだけじゃないように感じてね |
リチャード | 分史世界に詳しいから、僕達に対してまで責任を感じているんじゃないかい? |
ルドガー | そう…なのかな。確かに、みんなを元の世界に連れて帰らないとって思っていたけど |
リチャード | 君の気持ちは嬉しいが、少し気を休めた方がいい |
リチャード | 前に、感情に流されずやるべき事を見極めるという話をしただろう? |
リチャード | 今は力を抜いて、明日に備える時だ。焦る気持ちを抑えてね |
ルドガー | …そうだな |
ピオニー | いいとこ取られたな、ジェイド |
ルドガー | えっ…? |
リチャード | ふふ、実は、君の緊張に気付いて休ませた方がいいと教えてくれたのはジェイドさんなんだよ |
ジェイド | 手合わせした時に、あなたの太刀筋から何となく感じただけですよ |
ジェイド | 少し肩の力を抜けば、もっと強くなる…とね |
ルドガー | はは、あんなに強いジェイドさんにそう言ってもらえると嬉しいですね |
ピオニー | さぁ、もういいだろう。ここからは戦いの事を忘れてのんびり食事しようぜ |
ルドガー | はい! |
店主 | お待たせしましたー! |
ピオニー | 来たな。これがこの店の看板料理だ。ほら、食べてみろ |
ルドガー | それじゃあ… |
ルドガー | …! |
ピオニー | どうだ?旨いだろ? |
ルドガー | はい。濃厚な魚介の旨味がぎゅっと詰まったスープですね。これ、どうやって作ってるんだろう |
店主 | ははは、それは企業秘密です。しかし喜んでもらえてよかった |
店主 | それと、ジェイドの旦那はいつもの入れておきましたぜ |
ジェイド | ありがとうございます |
ルドガー | 豆腐入りですか?確かに、このスープに合うかも |
ジェイド | おや、わかってくださいますか。店主、彼にも豆腐入りをお願いします |
ルドガー | えっ、いや、そんなつもりじゃ… |
ジェイド | まぁまぁ、遠慮なさらずに |
ピオニー | ルドガー、すっかり懐かれちまったな |
ジェイド | 酷いですね。ペットのように言わないでください |
| |
逆徒の男 | お食事中失礼します。ジェイド様、例の件について報告書をまとめました |
ジェイド | ありがとうございます。仕事が早いですね |
逆徒の男 | いえ。セルディクに関しては前々から情報を集めていましたから |
ジェイド | なるほど。あなたも休んでください |
逆徒の男 | はい。失礼します |
リチャード | もう調べていてくれたんですね |
ジェイド | …。あなたの推理は的中していたようです |
リチャード | …素直に喜んでいいのか、複雑な気持ちだな… |
ピオニー | いい知らせなのか?それとも悪い知らせなのか? |
ジェイド | そうですね。場合によっては、王女殿下よりもずっと強い切り札になる情報です |
ピオニー | もったいぶってないで内容を教えろよ |
ジェイド | そうしたいのは山々なんですが今は楽しい食事中ですので… |
ピオニー | そういう皮肉が出るあたり相当いい知らせなんだろ。いいから、さっさと言え |
ジェイド | 承知いたしました。いい知らせ…といっても楽しい話ではないのでご承知ください |
| |
ジェイド | これは、とある高貴な方が、セルディクに殺された…という話です |
ルドガー | なっ…! |
| |
メルディ | …… |
メルディ | キール… |
ファラ | …メルディ、大丈夫? |
メルディ | ファラ…!ついて来てたか? |
ファラ | ごめんね。何だか心配で… |
メルディ | …誰かついてきてる思ってたけどジェイドがつけた見張りと思ってたよ |
ファラ | 見張りの人も後ろにいるみたい。夜は危ないから心強いけど… |
メルディ | 無理ないな。メルディ、逃げ出したらみんな困るよぅ |
メルディ | それに、少しは思ったよ。先にキールがとこ行って話した方がキールは安全かもしれないって… |
メルディ | でも、そうしたら…今度はピオニー達が危ないな |
メルディ | みんな捕まったら今度こそ処刑されちゃう… |
メルディ | メルディ、キールが事、大切。だけど、みんなが事も大切 |
メルディ | だから…明日、みんなと一緒にキールがとこ行って、説得するよ |
ファラ | メルディ…。ありがとう。わたし達の事まで心配してくれてたんだね |
メルディ | ファラ達、友達。心配するが当たり前!だから決心、揺るがないよ |
メルディ | ただ…メルディ、明日キールに上手く話せるか…不安な |
ファラ | そうだよね…わたしにも手伝える事があればいいんだけど… |
メルディ | ありがとな。でもキール、メルディが友達だからメルディお話頑張るよ |
ファラ | …実はね、わたし達の世界のキールとは幼なじみなんだ |
メルディ | バイバ!ファラ達が世界にもキールいるか? |
ファラ | うん。メルディもいるよ。わたし達、友達なんだ |
ファラ | メルディは王女様じゃなくてわたし達と一緒に冒険したりしてたんだよ |
メルディ | 冒険!みんな一緒にか?キールも、ファラも? |
ファラ | うん。もう一人リッドっていう幼なじみも一緒に旅をしてたんだ |
メルディ | ファラの世界ではみんな…キールもメルディも仲良しなんだな |
ファラ | うん… |
ファラ | …わたし達の世界のキールはメルディが嫌な目に遭う夢を見たっていうだけで大慌てだったんだ |
メルディ | 夢だけでか?…おかしなキールだな |
ファラ | 勉強ばかりのキールをわたし達が振り回してたくらいなのに |
ファラ | メルディの事になるとわたし達の事を逆に振り回すくらいなんだよ |
メルディ | …ファラ、その話、もっと聞かせてほしいよ |
ファラ | うん。ある日、キールが突然わたし達のところに来て── |
ファラ | …と、いうわけなの |
メルディ | 違う世界のキールの話なのにメルディが大切にされたみたいで嬉しいな |
ファラ | そう思えるって事はここのキールだって大切に思ってくれてた時があったんじゃない? |
ファラ | 今はきっと、研究とか戦争とかメルディが結婚を迫られてるとかいろいろあって大変なだけだよ |
メルディ | …うん。メルディ、覚えてるよ。キールと過ごしてた時間 |
メルディ | キールが研究、最初は世界の未来がためって言ってた |
メルディ | この世界が人々、生き続けさせるため必要な研究って |
メルディ | キールがそのため、すっごく頑張ってた事は知ってる |
メルディ | それに…キール、研究でとても忙しいはずなのにこの花畑に連れて来てくれたよ |
ファラ | ここに?…そっか、だからメルディ、ここで考え事してたんだね |
メルディ | はいな。ここの花はマナが影響受けて色を変える… |
メルディ | マナ、生き物にとってどれほど大事かわかる場所ってキール言ってたよ |
メルディ | なのにキールが兵器、そのマナを吸い取って生き物殺すなんて… |
ファラ | 明日、説得できたらキールと二人でまたここに来たらいいよ! |
ファラ | そうすればきっとキールもあの時の気持ち、思い出すんじゃないかな |
メルディ | それは、多分…出来ないな |
ファラ | どうして…? |
メルディ | キールに研究止めてほしくて、メルディ、ウィンドル王に嫁ぐって言ったよ |
メルディ | メルディが話、聞いてくれなくてキールにきらい、言っちゃったよ |
ファラ | そっか…ケンカ、しちゃったんだね |
メルディ | うん…それに、キールを説得出来ても戦争しないためメルディお嫁行く |
メルディ | だから、もうきっとここにキールとは来れない |
ファラ | そんな事…。また二人で来られるようにわたし達も協力するよ! |
メルディ | ありがとな。でも、メルディキールともうここに来れなくてもいい |
メルディ | メルディ嫌われても、キール無事、みんなも無事。だったらメルディ、平気だよぅ |
メルディ | メルディが大事な人誰も傷つかないのがメルディ、一番嬉しい |
ファラ | …。でも、それじゃメルディが… |
メルディ | メルディ、夜にここに来たの初めてマナの光が空に昇ってお星さまに生まれ変わってるみたい… |
メルディ | …ファラ。この綺麗な星空。メルディが代わりにキールに教えてあげてほしいよ |
ファラ | そんなの、駄目だよ…絶対、二人は大丈夫だから。そんな顔しないで、メルディ… |
メルディ | ありがとな。ファラ… |
| |
騎士 | 王の間の封鎖は完了しました。これより先はフレン隊長の指示があるまで外で待機します |
キール | ありがとうございます |
キール | さあ、陛下の行方を追う手段がないか改めて探るぞ |
リッド | 探すったって…何の手掛かりも残ってないんだぜ |
メルディ | ルドガーもエルも消えちゃったしな… |
キール | だからと言って諦めるわけにはいかないだろう |
キール | いつまでもリチャード陛下の事を隠し通せるわけじゃない。早くしないと… |
キール | っ… |
メルディ | キール?どうかしたか? |
キール | …少し眩暈がしただけだ。心配するな |
リッド | 少し休んだ方がいいんじゃねえか?ここに来るまでずっと歩き通しだったし |
メルディ | メルディ、リッドと一緒に部屋の中調べるよ!その間、キール休むといいな |
キール | …わかった |
リッド | よし。俺達はあっちの方を調べてるから、何かあったら呼べよ |
キール | …全く、ぼくは子どもじゃないんだぞ |
キール | …… |
scene1 | 陽動作戦と包囲網 |
| キィ──…バタン |
キール | …試験運転も上手くいった。これでようやく── |
??? | 戻ったか |
キール | …!何だ、おまえか |
??? | 研究は順調か? |
キール | ああ。小型の試作機で実験をして来たが、上手く動作した。兵器の完成は目前だ |
??? | …私が聞いているのはその研究の事ではない |
キール | ……。分史の研究は保留中だ。兵器が完成次第、再開する |
??? | そうか |
キール | …ところで、どうやってここに入り込んだ? |
キール | この部屋の警備は厳重だ。国家機密を扱っている上、保護している研究対象もいるからな |
キール | …何かの術か?だとしたら対策を打っておかねば… |
??? | 心配するな。私以外が使える方法ではない |
キール | そういう問題じゃない。…答える気はなさそうだな |
??? | …その研究対象の様子はどうだ。今は眠っているようだが |
キール | ああ。静かにしているが…眠っていても時計だけは放そうとしない |
キール | この子どもを傷つけるなと言われてさえいなければ楽だったんだが… |
??? | …真の価値は時計ではなくその娘にある |
キール | わかっているさ。でも、いよいよとなれば多少の怪我は目を瞑ってもらうぞ |
??? | ………… |
キール | それにしてもおまえは一体、何者なんだ?どうしてそんな事まで知っている |
キール | ぼくに分史世界の知識を与えただけでなくクルスニク一族の力にも詳しいときた |
キール | 正体を明かすつもりはないだろうが何が目的かぐらいは知っておきたい |
??? | おまえは知る必要のない事だ。そんな事より今は時間がないのだろう? |
キール | …それはそうだが… |
エル | う…ん… |
??? | …! |
エル | あれ…?寝ちゃってた… |
キール | 何だ、起きたのか |
エル | 今…誰かと話してた? |
キール | …いや |
キール | (もう姿を消したか… どういう事情か知らないが こいつに何かあるのは間違いない…) |
キール | (真の価値…か。 まだぼくの知らない何かが 隠されてるようだな…) |
| |
兵士1 | 異常はないか? |
兵士2 | はっ。問題ありません |
兵士1 | 警戒は怠るな。またいつ逆徒共が入り込むとも── |
| |
| パンッパンパンッ |
| |
兵士1 | っ、何事だ!? |
兵士2 | あれは…!街の方から煙が上がっています! |
兵士3 | た、大変です!ウィンドルが攻めて来ました! |
兵士1 | 何!?くっ…こうしてはおれん! |
兵士1 | 私は女王陛下へ報告に行く!お前はすぐに動ける兵を集めて街へ向かえ! |
兵士2 | はっ! |
兵士1 | お前は待機中の兵を率いて街の外にある門を閉じよ!これ以上、敵の進軍を許すな! |
兵士3 | 承知いたしました! |
| タッタッタ… |
| |
ジェイド | 始まりましたね。兵も動き始めたようですから、隙を見て侵入を開始します |
ピオニー | 街を巻き込んだ大規模な陽動作戦はやり直しがきかない。正真正銘、最後の決戦だな |
ジェイド | ええ、もう後には引けません。私達はこの作戦の成否に全てを賭けています |
ジェイド | 決行前に、作戦を再確認しておきましょう |
ジェイド | まず、さっきの音と煙に加え、街ではウィンドル軍が攻めてきたと仲間達が吹聴してまわっています |
ジェイド | 城の兵士達はこれに対応するため大半が街に出払う。それが今の状況です |
ジェイド | この隙に仲間達が城の正門を占拠します。これで出ていった兵士達は戻れません |
ジェイド | さらに、城内に残った兵力も正門の対応にまわるでしょう。その隙に我々が裏から侵入します |
ジェイド | そして素早く研究室に向かい、兵器を破壊して、キールに開発を止めさせれば作戦完了です |
ルドガー | 正門の占拠もいつまでもつか、わからないしな…時間との勝負だ |
ジェイド | ええ。…さて、そろそろ── |
| ドォン! |
リチャード | 正門で戦闘が始まったようですね |
ジェイド | 我々も侵入を始めましょう |
ファラ | はいっ。行こう、メルディ |
メルディ | …はいな |
クィッキー | クィィ… |
scene2 | 陽動作戦と包囲網 |
ピオニー | ここまでは問題なさそうだな。作戦通り、警備も手薄になっているようだ |
ジェイド | 喜ぶのはまだ早いですよ。油断せず、このまま研究室に向かいましょう |
ルドガー | 今行くからな、エル… |
| |
??? | 止まれ |
ピオニー | …!まさか、あなたが直々にお出ましとは |
メルディ | おカーサン! |
| |
シゼル | …やはり騒ぎの元凶はおまえ達だったか |
| ザッザッザッ |
ファラ | 囲まれた…! |
リチャード | まるで僕達がここに来るのがわかっていたみたいだ |
ジェイド | …陽動が見破られていたようですね。それなら我々の目的が城内にあると推測するのは容易でしょう |
ジェイド | しかし、侵入経路まで特定し女王陛下自らが兵を率いて待ち構えているとは、予想外でした |
クィッキー | クィィ… |
シゼル | ここから先へは進ませぬ。勿論、おまえもだメルディ |
メルディ | おカーサン、聞いて!兵器使うの、絶対ダメ! |
シゼル | …逆徒共に何を吹き込まれたのかは知らぬが… |
シゼル | あの兵器は我々に必要な物だ。強い力がなければ我が国と民を守る事は出来ぬ |
リチャード | それは違います。強い力は、さらに強い力を呼ぶ…その先に待っているのは破滅だけです |
リチャード | あなたは民を想える王妃だ |
リチャード | 叶うのであれば戦争をせず解決する事をお望みではないのですか? |
シゼル | 黙れ。戯言を。おまえ達の言葉に耳を貸すつもりはない |
メルディ | おカーサン、お願いよ…メルディ達が話聞いてほしい! |
シゼル | くどい。──こやつらを拘束しろ |
シゼル | メルディもろともだ |
兵士3 | はっ! |
メルディ | …っ |
ジェイド | …想定していた中で最悪から二番目の展開ですね |
ピオニー | おまえが想定してたならまだ大丈夫そうだな。ちなみに最悪ってどんな状況だ? |
ジェイド | 戦う間もなく奇襲で全滅する事です |
ピオニー | 抗えるだけマシって事か…それじゃ、ひとまず周りの奴らを大人しくさせないとな |
ファラ | …メルディ、大丈夫? |
メルディ | …はいな。メルディ、みんなと一緒に戦う |
メルディ | おカーサンとキールが事、絶対止めてみせる! |
scene1 | 曇天穿つ |
ルドガー | はあっ! |
| ザシュッ |
兵士 | くっ…申し訳…ございません… |
| |
| ドサッ |
| |
シゼル | …ほう。我が軍の精鋭達がこうも容易く倒されるとはな |
シゼル | ……情けない事だ |
ルドガー | 容易くだって?こっちもギリギリだったさ |
ジェイド | ですが、形勢逆転です。あとはあなただけですよ、女王陛下 |
シゼル | だから何だと言うのだ。私が生きている限り兵器開発は諦めぬぞ |
メルディ | やめて!おカーサン、みんなで他の道、探すんだよ! |
シゼル | その議論は終わった。今はウィンドルを凌ぐ強い力こそが我が国に安寧をもたらすのだ |
ジェイド | それはどうでしょう国内の反乱分子に刃を向けられている今の状況をどうお考えですか? |
シゼル | …私がここで果てようが武力を持って目的を成そうとしているのは今のおまえ達も同じ… |
シゼル | ウィンドルからこの国を守るにはもはや力を得る以外方法がないのだ。おまえ達の言葉は偽善でしかない |
ジェイド | 同じで結構です。しかしそれだと、矛盾していませんか |
シゼル | 何だと…? |
ジェイド | 我々を「同じ」と言うのであれば兵器でウィンドルを追い詰めてもあなたの要望は通らないのでは? |
ピオニー | 追い詰められてもこっちの話を聞く気にまだならないみたいだしな |
シゼル | ふ、そのような詭弁は私を追い詰めてから言うのだな! |
ファラ | まだ戦うつもりなの…! |
シゼル | 兵器の開発を止めたとてウィンドルはこの国を支配するだろう |
シゼル | それは、メルディが嫁いでも同じ事 |
シゼル | ア・ジュールは戦い続けるあの男に、私の愛しいものを傷つけさせてなるものか |
メルディ | メルディ、イヤだよ!キールが研究でたくさん人死ぬ…おカーサンの号令で人が死ぬ |
メルディ | そんなのメルディは絶対にイヤ! |
シゼル | 子どものわがままだな。私達は王族なのだ個人の感情は持ち出すなと言ったはず |
メルディ | わがままなのはわかってる。メルディ一人で、解決できないのも… |
メルディ | でも、ここには助けてくれる人がいる! |
メルディ | メルディ、子どもで、わがままでお嫁に行くくらいしかア・ジュールの役に立てないけど… |
メルディ | おカーサン、一人で悩まないで!みんな、ア・ジュールのため一緒に考えてくれるから |
| |
シゼル | …メルディそこの者共に、唆されているのだな |
| |
シゼル | 愚かなる逆徒共よ我が娘を誑かした罪この私自らの手で罰を下してやろう |
リチャード | 話し合う事は出来ないのか… |
ジェイド | 今は何を言っても無駄でしょう。まずは頭を冷やしていただきます |
メルディ | ………… |
クィッキー | クィック… |
ルドガー | メルディ、無理はしなくていい。ここは俺達で… |
メルディ | …心配いらないメルディ、戦える! |
メルディ | 決めてたよ。おカーサンやキールと戦う事なっても絶対に諦めないって |
ファラ | メルディ… |
シゼル | その覚悟、口だけとは言わせんぞ。国を背負う者の責任の重さ、その身に刻み込んでくれよう! |
メルディ | いくよ、おカーサン…! |
scene2 | 曇天穿つ |
シゼル | くっ! |
ジェイド | どうやらここまでのようですね。道を開けてもらいましょう |
シゼル | まだだ…! |
シゼル | この身がどうなろうとおまえ達を通すわけにはいかぬ…! |
ファラ | どうしてそこまで… |
シゼル | この国を…あの暴君…セルディクごときに支配させてなるものか! |
ジェイド | …なるほど。では、支配されないのであれば問題ないですね? |
シゼル | 世迷い言を… |
ジェイド | 我々が手に入れた情報を使えばセルディクを黙らせる事が出来ますよ |
シゼル | セルディクを黙らせるだと…?そのようなもの… |
ジェイド | 信じるかどうかは話を聞いてからご判断いただければいいでしょう |
メルディ | おカーサン…ジェイドの話、聞いてほしいよ |
シゼル | …申してみよ |
ジェイド | セルディクには後ろ暗い過去があります。四大国の中で立場を失うほどの、ね |
シゼル | ああ、それなら私も入念に調べた。だが黒い噂は絶えないものの決定的な証拠は何一つ見つからぬ |
ジェイド | 我々も最初はそうでした。しかし、ここに…この世界では誰も知り得ない事を知る人物がいるのです |
シゼル | この世界では…だと? |
ジェイド | では、後の説明はお願いしますよ、リチャード「様」 |
リチャード | はい |
シゼル | その者が、一体、何だと── |
シゼル | ──いや、リチャード…確かウィンドルの病死した王子の名だったか |
リチャード | その通りです。僕はこことは違う世界でウィンドルを治めている者です |
シゼル | こことは違う世界…キールの提唱する分史世界から来たというのか… |
リチャード | 結論から言いましょう。この世界のリチャードはセルディクに暗殺されています |
リチャード | 病死というのは、セルディクが自分の悪事を隠すために流した嘘の情報… |
リチャード | しかし事実は、王である父と共に毒を盛られて死んでいたのです |
リチャード | 僕達の世界のセルディクも同じ企てをしていました。幸いにも失敗に終わりましたが… |
シゼル | …この世界でもセルディクを疑う者はいたが、何の証拠も出てこなかったと記憶している |
シゼル | そちらの世界ではどのように発覚した? |
リチャード | 以前、僕が動けなくなった時にセルディクが実権を握り、暴走した事があったんです |
ルドガー | ああ…世界が晶化現象に包まれてリチャードが晶化してしまった時か |
ルドガー | セルディクが結成した「赤の騎士団」には、みんな酷い目にあわされた… |
リチャード | 本当に迷惑をかけたね… |
リチャード | …全てが解決して「赤の騎士団」を解体した後、僕はセルディクが他に何か企んでいなかったか調べたんだ |
リチャード | その中で、わかった。彼にはかつて、僕を暗殺する計画があったという事がね |
ジェイド | もうおわかりですね。調査の結果、この世界でも同じ暗殺計画は進められていました |
ジェイド | そして…この世界ではセルディクの思い通りに事が進んでいたのです |
シゼル | …その話が本当だとして、証拠は掴めているのだろうな? |
ジェイド | いただいた情報のお蔭ですんなりと。あちらの世界と全く同じ計画だったのは幸いでした |
ジェイド | 使われた毒、利用された者達、毒の入手経路や、根回しの手段など外堀を埋める情報は揃っています |
ジェイド | これだけ揃っていれば言い逃れは出来ませんよ |
ピオニー | それに俺なら、この報告書を使ってシルヴァラントとキムラスカを味方に付ける自信があるぜ |
ピオニー | 隠居していようと思っていたがこの国の危機なんだ。協力させてくれ |
シゼル | ……確かに。それらの国を敵に回して戦おうとは思わぬか… |
メルディ | おカーサン!これなら戦争しなくても国を守れるな! |
シゼル | この話が真実なら奴を失脚させるには十分であろう |
メルディ | それじゃ、おカーサン! |
シゼル | 兵器を使って戦うよりも確実で犠牲も出さずに済むというなら…その策に乗る価値はあろう |
シゼル | ……だが、これからも国を守るために兵器を持つ事に価値がないとはいえぬ |
ルドガー | っ!? |
シゼル | ──が、兵器開発を中止しなければその男は私に情報はくれまい |
ジェイド | 勿論です |
| |
シゼル | ……兵器開発は中止させよう |
| |
メルディ | おカーサン…ありがとう! |
ピオニー | 話はついたな。ここで女王に会えたのは不幸中の幸いだったぜ |
ジェイド | 私達の話を信じていただけなければ、終わりでしたから |
ファラ | メルディの気持ちが伝わったんだよ信じてもらえてよかった! |
ジェイド | 皆さんの頑張りで話を聞いていただける状態になりましたしね |
メルディ | お蔭でみんな助かった!ありがとな! |
シゼル | 喜ぶのはまだ早い。まずは急ぎこの内乱を止めなければ |
シゼル | 私はウィンドルと戦争になる前に会談を申し込む。ピオニー他国への根回しは頼んだぞ |
ピオニー | 任せてくれ |
リチャード | 会談は可能でしたらウィンドルのデールを同席させてください |
リチャード | 僕の世界のデールと同じなら、セルディクを上手く抑え込んでくれるかもしれません |
シゼル | わかった、要請してみよう |
シゼル | メルディ、私は急がねばならない。兵器開発の中止をおまえから伝えてくれるか |
シゼル | 後で正式に命令書を届けさせるが急ぎ伝えた方がよいだろうからな |
メルディ | はいな!キールに全部説明するよ |
ルドガー | これで兵器開発は止まるとして…あとはエルだ |
メルディ | きっと、だいじょぶ!兵器開発なくなったらエルが事も解放してくれる! |
メルディ | みんなで一緒にキールがとこ行こ! |
ジェイド | 私も同行しますよ。兵器開発の中止を見届けるまでが任務ですので |
メルディ | はいな!ジェイド達納得してくれる事も大事だからな |
ピオニー | よし、こっちは作戦終了の伝達とこの国を守るための準備を進めてくるぜ |
ピオニー | キールにもしっかり伝えろよ。メルディ |
メルディ | はいな! |
ルドガー | それじゃあ研究室に行こう!エルも待ってるはずだ |
| 因子のありか |
| カチャカチャ── |
キール | よし、完成だ |
エル | 魔導器…ほんとに使うの?絶対、やめた方がいいよ! |
キール | おまえが自分の世界で見たという魔導器の話か? |
エル | …うん。街が病気になっちゃうんだよ。さっきも言ったでしょ |
キール | ああ。別世界での実例だから無視出来ない話だったさ |
キール | だがその問題は既に解決したし、その過程で術式の効率化にも成功した |
キール | 試験運転の結果も上々だったしな |
エル | シケンウンテン…?もしかして、本当に使っちゃったの!? |
キール | ああ。今朝、街外れの花畑を利用した |
| |
キール | マナに反応して色を変える花だ。もし失敗しても花の色からその原因を探れると思ったが── |
| |
キール | 試作機を起動したら花畑が一瞬で枯れ果てた。最小出力でもすさまじい効果だ |
| |
エル | お花が…ひどい… |
キール | 酷いものか。最高の結果だ!生命の根源であるマナを一瞬で奪い取ったんだぞ! |
エル | お花がかわいそう!何とも思わないの!? |
キール | 別に。兵器開発のためなら花畑ぐらい──… |
| |
メルディ | ワイール!お花きれい! |
キール | 気に入ったか?研究の一環で見つけたんだ |
キール | この花はマナに反応して色が変わるから、研究でよく使うんだ |
メルディ | じゃあ、キールは研究がためここに来る事たくさんあるか? |
キール | ああ…まぁ、それなりによく来るな |
メルディ | わかった!メルディ、キールに会いたくなったらここで待ってるよ! |
キール | …毎日来るとは限らないぞ |
メルディ | でもメルディずっと待ってたらいつかキールやってくる。それでいいよ |
キール | おまえだって、毎日ここに来る時間なんて取れないだろ… |
キール | ぼくに用があるなら研究所に来た方が確実だぞ |
メルディ | 研究所行ったら、メルディ、みんな、王女様扱いするからキールと自由に話せない |
メルディ | ここでなら王女なんて関係ない。キールとメルディ、遠慮なく話せるよ |
キール | …そうだな |
| |
キール | ………… |
キール | (…どうして今更、こんな事を 思い出すんだ…) |
キール | (…過去なんてどうだっていい。 大切なのは今だ) |
キール | (あの花畑は確かに示していた。 ぼくの兵器の性能は想定以上… 一瞬で死の大地を作り出せる) |
キール | (これでぼくは… 目的に一歩近づいた。 全ての邪魔者を…排除してやる!) |
エル | …… |
キール | こんな事してる場合じゃない。女王陛下に完成を報告して…早速、ウィンドルに向けて発動を── |
| |
| バタンッ |
| |
兵士 | 失礼します!緊急事態です! |
兵士 | 先ほど、逆徒が城内に侵入しました |
キール | 何っ…!兵達は何をしている? |
兵士 | 敵の陽動に騙されてしまい出払っており… |
兵士 | 女王陛下自らが、残った兵を率いて逆徒共を捕えようとされましたが、状況は劣勢… |
兵士 | 私は隊長の指示によりキール様に一刻も早くお伝えするべく戦闘を抜け出して参りました |
キール | 陛下自らだと?…逆徒共の目的は何だ |
兵士 | 情報によると──兵器の破壊と、キール様の暗殺だとか |
キール | …ぼくの命を狙うか。ならば返り討ちにするまで! |
キール | 報告ご苦労だった。おまえは戻って女王陛下の加勢に向かえ |
兵士 | はっ! |
| バタン |
エル | …戦うの? |
キール | ああ。おまえは安全なところで大人しくしていろ |
キール | 大事な研究対象だ。もしもの事があったら── |
| コンコン |
メルディ | キール、いるか? |
キール | メルディか。おまえもここに匿ってやる。入れ |
| |
| ガチャ── |
キール | ──なっ! |
| |
ジェイド | 失礼しますよ |
エル | ルドガー! |
ルドガー | エル!無事だったか!? |
キール | 待て! |
エル | うぅっ、ルドガー…! |
ルドガー | エル…! |
メルディ | キール、何する!乱暴やめて! |
キール | うるさい!メルディ…おまえ…逆徒共と手を組んだのか |
キール | そいつらは、ぼくの事を殺そうとしてるんだぞ。わかっているのか? |
メルディ | 違うよ! |
キール | 何が違うんだ!そうか、メルディ…戦争を止めたいと言っていたな |
キール | ぼくを殺すつもりだったのか…そのために逆徒共をここまで引き入れたのか! |
メルディ | 違う!キール、話聞いて!誰もキールが事、殺さないよ! |
キール | …逆徒と組んでいる事は否定しないんだな |
メルディ | それは… |
キール | ぼくの気持ちも知らないでおまえは…!ぼくはおまえのために…! |
ファラ | えっ…!黒いモヤ!?ねぇ、あれって… |
ルドガー | 負の因子だ…!キールに憑りついていたのか! |
キール | やはりこれが気になるか。だからぼくを殺そうというんだな! |
メルディ | キール、違うよ!どう言えばわかってくれる? |
ジェイド | 私が端的に説明しましょう。よろしいですか、王女殿下? |
メルディ | うん…ごめんな |
ジェイド | ルドガー。話の間、あの子に下手に動かないよう伝えてもらえますか |
ルドガー | ああ。エル、聞こえたな。少し辛抱してくれ |
エル | …うん |
ジェイド | さて、本題に入りましょう |
ジェイド | あなたの言う通り、我々は逆徒と呼ばれる集団で、あなたを暗殺する事も考えていました |
ジェイド | しかしもう、その必要がありません。シゼル女王は兵器開発の中止を決定したからです |
キール | 何…? |
メルディ | メルディ達はその事、伝えに来ただけよ |
キール | そんな言葉を信じろと言うのか? |
ジェイド | 事実でなければ女王陛下が私達をここまで通すとお思いですか? |
キール | …… |
ジェイド | まぁ、そう簡単には納得出来ないでしょう。ですので、順を追って説明します |
キール | …なるほど。セルディクが失脚すれば戦争をする必要はなくなる…か |
メルディ | おカーサンは今、その話をしに動き回ってるよ |
メルディ | だから兵器はもういらない!戦う必要もない!エルも解放してほしいよ |
キール | …駄目だ |
メルディ | キール…! |
キール | メルディ…。上手く言いくるめられたものだな |
メルディ | 信じてくれないか? |
キール | セルディクの件は信じてもいい。兵器も、もういらないのかもしれない |
キール | だが、そいつらの事を信じるかどうかは別の話だ |
キール | 妙だと思わなかったのか?どうして別の世界から来たやつらがそこまで力を貸すのか |
メルディ | ルドガー達が事か…? |
ルドガー | そんな…俺達はただ目の前で困ってる人を放っておけなかっただけだ |
ファラ | そうだよ!それにメルディはわたし達を助けてくれたもん |
リチャード | それに、別の世界とはいえウィンドルが関係している事を見過ごせなかったからね |
ルドガー | この世界に来たのだって偶然なんだ。他意はないよ |
キール | …本当にそういう理由ならそれでいい |
キール | いい奴らなんだろう。メルディが信用するだけの事はある |
キール | だから、残念だ |
| |
キール | …ルドガー!ぼくは、おまえを殺す! |
| |
ルドガー | 何だって…!? |
メルディ | キール、どうして!? |
ジェイド | …もしや、これが負の因子というものの影響なのですか? |
リチャード | 詳しくはわかりませんが…それだけではルドガーを名指しする理由がないと思います |
キール | とぼけても無駄だぞ。おまえ達、クルスニク一族が分史に来た目的はわかっているんだ |
キール | 殺す…殺さなければ…ここで…絶対に…殺す…殺すんだ…殺してやる…! |
メルディ | キール… |
エル | ルドガー… |
ルドガー | ………… |
ルドガー | 事情はわからないが、キールは俺に用があるんだろ?ならエルは放してくれないか |
キール | 残念だが、それは出来ない。こいつにはまだ用があるんだ |
キール | クルスニク一族の力を研究するために、こいつと時計を手放すわけにいかない |
ルドガー | どうしてエルなんだ。クルスニク一族を研究したいのなら俺を好きにすればいい |
キール | ……必要なのはこいつであっておまえじゃない |
ルドガー | エルが必要…?どういう事だ…? |
キール | 答える必要はない。こいつを傷つけたくなければ武器を捨てて、大人しく死んでくれ |
| |
| チャキ |
| |
ファラ | ナイフ…!?そんな、卑怯だよ! |
キール | 手段なんて選んでいられないんだ! |
メルディ | せっかく兵器使わなくてよくなった…人、殺さなくてもよくなったのにどうしてこんな事する!? |
キール | 黙れ。おまえも妙な動きをしたら、こいつはただじゃ済まないぞ |
メルディ | キール… |
ジェイド | …小型のナイフですが、精密作業にも使える非常に切れ味のいいものです |
ジェイド | もしもの場合、怪我では済みません。ここは従った方がいいでしょう |
ルドガー | くっ… |
エル | ルドガー、ダメだよ。エルの事はいいから、戦って! |
キール | もう遅い!死ね!ブラッディハウリング! |
| ヴォンッ── |
ルドガー | しまっ── |
メルディ | …させない! |
キール | 何っ…! |
| ドォン! |
メルディ | きゃうっ…! |
| ドサッ |
ルドガー | メルディ! |
キール | くっ…何故だ、メルディ…! |
ルドガー | 大丈夫か…!?すぐに手当てを… |
キール | …!やめろ、メルディに近づくな! |
メルディ | うぅっ… |
メルディ | ルドガー…無事か…? |
ルドガー | なっ…今のは…! |
リチャード | 黒いモヤ…?負の因子とも少し違うようだが… |
ファラ | …わたし、これと同じものを見た事があるよ。ルークと一緒に分史に行った時… |
ルドガー | ああ。あの時の魔物と同じだ |
ルドガー | メルディ…君が時歪の因子だったのか… |
メルディ | 時歪の…因子…? |
キール | …… |
| |
キール | くっ、うっ… |
リッド | キール!?どうした! |
メルディ | バイバ!黒いモヤモヤ…ルドガー達言ってた、負の因子か! |
キール | こ、好都合だ…自分の身体の事なら…いろいろと…調べられる… |
キール | ぐうぅっ…! |
| ドサッ |
リッド | キール!無理するな! |
メルディ | 今、治療するよ!じっとしてて! |
| パアアア… |
キール | うぅ… |
メルディ | うー、術が力、モヤのせいで散ってしまうよ! |
キール | メルディ、やめろ…。おまえまで、消耗するぞ… |
メルディ | 嫌!メルディ、諦めない! |
メルディ | モヤにも負けないぐらい、力、出し切る! |
| パアアア… |
リッド | エステルや、治療出来るやつに手伝ってもらえねぇか、フレンに頼んでくる! |
キール | 二人共…すまない… |
| パアアア… |
メルディ | はぁ、はぁ…まだよ… |
クィッキー | クィィ… |
キール | メルディ…もう…いい。これ以上は、おまえが… |
メルディ | ううん。ちょっとずつ、よくなってる。もう少しで、きっと治る! |
メルディ | あとちょっと…頑張る…!メルディ、キール助ける…だから── |
| フラッ… |
クィッキー | クィィッ! |
キール | メルディ!危ない! |
| ガシッ |
| |
キール | …!何だ、これは… |
キール | 何か…見える… |
| |
メルディ | うぅ…よかったな、キール…メルディ生きてる…誰も殺さず、すんだ…な… |
キール | くっ…。どうしておまえがぼくの邪魔をするんだ! |
| |
キール | …今の景色は、一体…。それに、ぼくだけでなくメルディにも黒いモヤが… |
メルディ | キール…?もうだいじょぶだから、手、放していいよぅ |
キール | あっ…! |
キール | す、すまない |
メルディ | ワイール!キール、元気なったな!よかったよかった! |
キール | ああ、メルディのお蔭だ。ありがとう |
キール | (しかし…さっき見えたのは 一体何だったんだ…) |
scene1 | 因子と骸殻能力者 |
ファラ | メルディ、大丈夫!? |
メルディ | はいな…。メルディ死なないよ。キール、人殺しにはさせない… |
キール | 無駄な事を… |
キール | おまえが時歪の因子だと知られた今、もはや生かしておくという選択肢はなくなったんだぞ |
ルドガー | キールは、メルディが時歪の因子だと知ってたのか? |
キール | 当然だ。だから封印の術式で時歪の因子を抑えていた |
キール | 骸殻能力者が近づいても気付かれないようにな |
ルドガー | …そんな事が出来るのか |
キール | …… |
| パァァ… |
メルディ | …! |
リチャード | 消えた…。これが封印の術式… |
キール | もっとも、おまえ達には意味がなかったようだ |
キール | おまえ達はメルディに時歪の因子が憑りついている事を知っていて近づいたんだろ |
キール | 何せクルスニク一族は──時歪の因子を消すために分史に来ているのだからな |
ルドガー | なっ…! |
リチャード | ……ルドガー、どういう事だい? |
ルドガー | …本来、分史世界を出るためには時歪の因子を破壊する必要がある。多分、その事を言っているんだ |
ルドガー | 分史世界に入り込んだ骸殻能力者はまず時歪の因子を壊す事を目指すものだから… |
ファラ | でも、わたし達はそんなつもり── |
| |
エル | ルドガー、危ない! |
| |
キール | ファイアーボール! |
| バシュッ |
ルドガー | くっ…! |
| ヒュン── |
キール | …避けられたか。おまえさえ余計な事を言わなければ! |
エル | うぅ…怖い… |
メルディ | やめて、キール!これ以上は、メルディ…許さない! |
キール | うるさい!邪魔をするならおまえでも容赦しない |
キール | 例えおまえを傷つける事になっても…そいつは必ず殺す! |
メルディ | どうして!そんな事するキール、メルディ嫌いよ! |
キール | 構うもんか。例え嫌われようと…おまえさえ生きていればそれでいい |
メルディ | ……! |
ジェイド | 本気のようですね。負の因子の影響…というのもあるでしょうが |
ルドガー | 待ってくれ!俺達は戦うつもりはないんだ!話を聞いてくれ! |
キール | 無駄だ!ぼくには、おまえを殺す以外の道はないんだ! |
リチャード | このままでは危険だ。彼には悪いが、取り押さえる他ないだろうね |
キール | やってみろ。その前にそいつを殺してみせる! |
エル | ルドガー… |
ルドガー | …キール。相手になるからエルは安全な場所に避難させてくれ。何かあったらキールも困るんだろう? |
キール | …いいだろう。後ろの机に行っていろ |
キール | あいつを殺すまで、そこを動くなよ。おまえも無事では済まなくなるぞ |
エル | ルドガーは、負けないもん!ベーッだ! |
ルドガー | ああ。メルディを悲しませないためにも誰も殺させない! |
メルディ | メルディも、戦う!キールが目を覚まさせる! |
クィッキー | クィッキー! |
ジェイド | やれやれ。手伝わないわけにはいかなさそうですね |
キール | ぼくの目的はおまえただ一人だ!滅べ、クルスニク! |
scene2 | 因子と骸殻能力者 |
キール | ぐっ…手こずらせるな…だが…まだ… |
メルディ | もうやめよ。これ以上は、キールが… |
キール | ……メルディ。こっちに来い |
メルディ | キール…? |
キール | 早く来るんだ! |
| グイッ |
メルディ | バイバ…!? |
キール | おまえもだ |
エル | えっ…?うわっ… |
ルドガー | エル…!メルディ! |
ファラ | 何するの!? |
キール | こうするんだ! |
| |
| ピピッ… |
| |
ジェイド | まずいですね。魔導器が動き始めました |
リチャード | 何だって…! |
ファラ | そんな…! |
メルディ | キール!やめて! |
キール | もう遅い。間もなくこの周辺は生物の生きられない環境になる |
キール | 助かるのは専用の防御術に入ったぼく達だけだ |
| キィン… |
ジェイド | やられましたね。まだあんな高度な術を使う力を残していたとは |
メルディ | キール、魔導器止めて!このままじゃ…みんな死んじゃう! |
キール | 構わないさ。あいつらは勿論、城のみんなを犠牲にしたって構わない |
キール | おまえが生きていられるのならぼくは世界のすべてを焼き払ってやる! |
メルディ | キール…! |
ジェイド | もう時間がありません!魔導器を壊せるだけの術を詠唱しますので、援護してください |
ルドガー | わかりました! |
ジェイド | 天光満つる処我はあり、黄泉の門開く処に汝あり── |
キール | ふん、無駄だ |
ジェイド | ──…何て事です。術に必要なマナが…吸われて… |
ファラ | わ、わたしも…何だか力が抜けていくみたい… |
メルディ | みんな…! |
| ダッ── |
キール | 待て、メルディ!防御術から出るんじゃない!こっちに戻れ! |
メルディ | キール!殺すなら、メルディごと殺して! |
キール | 何を言っているんだ!正気か!? |
メルディ | 正気じゃないのはキールよ!こんな事、望む人じゃないってメルディ知ってる! |
キール | 魔導器はもう動いている。ここのマナがなくなるまであと数秒だ |
キール | だから… |
メルディ | 嫌だよ…!メルディ、キールが事、信じてる…最後まで、ずっと… |
メルディ | だから、メルディ、動かない!キールは、きっと…止めてくれるよ! |
キール | メルディ…!くっ…! |
| ピピピッ… |
| |
| シュウゥゥゥ… |
| |
リチャード | 魔導器が…止まった…! |
メルディ | キール!ありがとな。やっぱりキールは、優しい── |
| |
キール | …何故だ!メルディ…どうして、そうまで…ぼくの邪魔をする |
キール | ぼくは、おまえを守ろうと…なのに… |
メルディ | キール… |
キール | どうして、ぼくを…!どうして… |
キール | どうしてぼくに、おまえを傷つけるような事をさせるんだ! |
| |
メルディ | メルディ、キールが事、大好きだからだよ! |
| |
キール | …! |
ファラ | メルディ… |
メルディ | メルディ、大好きなキールが怖い顔してるの、耐えられない! |
メルディ | 優しいキールに戻ってくれるならメルディ、どうなったって平気! |
キール | な、何を言ってるんだ。それじゃあ、話があべこべじゃないか |
キール | ぼくは、おまえを守るために全てを費やしたんだぞ! |
キール | おまえをクルスニク一族から守るため分史の研究に心血を注いできた!どんなに人から嘲笑されてもだ! |
キール | その上、こんな兵器まで作り上げた!大勢の人を犠牲にする覚悟もした! |
キール | それを…全部否定するのか! |
キール | ぼくがおまえを守ろうとするほどおまえが傷つくというのなら… |
キール | ぼくは一体、どうすればいいんだ! |
メルディ | キール…わからないか? |
キール | ……何をするつもりだ |
| ギュウッ… |
キール | …! |
メルディ | 一人で背負い込まないでほしいよ |
メルディ | メルディ、キールが事、好き。キールも、メルディが事、大事に想ってくれてる…だな? |
キール | ……ああ |
メルディ | 相手がためにどっちか犠牲になったら二人共、悲しい事になる |
メルディ | だから辛い事、一緒に乗り越える。メルディとキールならきっと上手く出来るよ |
キール | …感情論だ。合理的とは言えない |
キール | …どうしてだ…頭では間違っていると思っているのに… |
メルディ | キール、素直になって。気持ちに嘘つかなくて、いいよ |
| ギュウゥ… |
キール | ……! |
メルディ | バイバ…! |
ファラ | 何…?今、キールから何か… |
ルドガー | スレイの時と同じだ…負の因子が壊れたんだ |
ジェイド | ようやく一件落着ですね…少々青臭いですが |
ファラ | ふふ、それがいいんだよ。見てるこっちまで照れちゃうぐらい気持ちが伝わってくるもん |
| |
エル | ルドガー! |
ルドガー | エル…!怪我はないか? |
エル | うん! |
キール | …悪かった。話も聞かず殺そうとしたり…小さな子どもまで巻き込んでしまった |
エル | …!エル、そんなに小さくないですよーだ! |
エル | だから許してあげる。メルディのためにね |
メルディ | エル…ありがとな |
キール | ルドガーと言ったか。正直に話してほしい。時歪の因子の事…どうするつもりだ? |
ルドガー | どうもしないよ。元の世界に戻る方法が、きっと他にあるからな |
キール | 本当か? |
キール | …ぼくの研究もまだまだだな。知らない事だらけのようだ |
キール | あの男、そんな事は言っていなかったな… |
ルドガー | あの男…? |
キール | 分史世界について妙に詳しい男だ。ぼくの研究の礎となる知識を与えたのはそいつなんだ |
キール | 詳しい事はぼくも知らないが、突然現れて、煙のように消えるんだ |
ルドガー | 分史に詳しい男…。まさか、兄さんか…?いや、そんなはずは… |
キール | とにかく、メルディに手を出さないと約束してくれるのなら、ぼくとしては何も問題はない |
ルドガー | ああ。それは約束する |
ジェイド | 話はついたようですしこちらの用件も済ませていただけますか? |
キール | …魔導器の破壊だったな |
キール | ………… |
メルディ | キール…? |
ジェイド | まさか、今更嫌だと言わないでくださいね |
キール | いや、破壊するさ。こんな物があれば、また戦争の火種になりかねない |
キール | だが学者として…やっと完成した研究成果を破壊するのは気が引けただけだ |
ジェイド | それなら私が破壊しましょうか? |
キール | いや…ぼくにやらせてほしい。他人に壊されるのは、もっと辛い |
メルディ | キール…魔導器は壊れてしまってもまた作ればいいよ。今度は、みんなが喜ぶものを |
キール | …そうだな |
キール | メルディ。ぼくは、おまえと一緒にやり直すと決めた |
キール | これは、そのケジメだ |
キール | ホーリーランス!! |
| |
キール | …魔核も壊れたな。これで再起不能だ |
ジェイド | 確かに見届けました |
ファラ | これで全部解決だね! |
ジェイド | 全部…ではないですね。まだまだ課題は山積みです |
エル | 何かあるの? |
ジェイド | あなた方は元の世界に戻る必要があるでしょうし、私達も外交問題が残っています |
リチャード | そういえば、負の因子は壊れたけど元の世界に戻るためにはこの後どうすればいいんだい? |
ルドガー | 前の時は、突然、時空の穴が開いたんだけど……何か他にも条件があるのかな |
キール | 少し調べてみよう。幸い、ここには時空移動に関する文献や計器も揃っている |
ルドガー | ありがとう。よろしく頼むよ |
リチャード | ところで、さっき外交問題も残っていると言ってましたが… |
ジェイド | ええ。あなたのお蔭でセルディクの失脚は確実と言えますが重要なのはその後です |
ジェイド | 王の変わったウィンドルがどのような国に変わるかはまだ未知数ですからね |
リチャード | …なら、参考になるかわかりませんがぼく達の世界のウィンドルについて話をしましょうか |
リチャード | この世界では全く同じとはいかないでしょうが何の情報もないよりはいいでしょう |
ジェイド | いいですね。では私はその話を元に、この世界でも使えそうな事を書き取ります |
ジェイド | 王女殿下。私が書き取った内容をシゼル女王にお伝えいただけますか? |
メルディ | はいな!おまかせー! |
クィッキー | クィッキー! |
キール | …では、その間にぼくはルドガー達が元の世界に戻る方法を考えるとしよう |
キール | まずは、前例を詳しく聞かせてくれ |
ルドガー | わかった |
キール | ……なるほど |
ルドガー | どうかな?かなり細かい事まで話したと思うけど… |
キール | そのグリューネという人物…底知れない力を持っているようだ。それに天族の力も興味深い… |
キール | しかし時計が反応していたという事はこの二人の力は関係ないだろう |
キール | 残った要素は、道標…破壊された負の因子か |
ファラ | それって、さっきメルディにパーッて入っていったやつだよね。どうなってるの? |
キール | あれについては、ぼくも知らない。今のところ害はないようだが…後で詳しく調べてみるつもりだ |
キール | 調査には時間がかかるだろう。だが、仮説を試すぐらいはすぐに出来る |
ファラ | 仮説? |
キール | ルドガーとミクリオという天族がやった事を再現するんだ |
キール | メルディ。こっちに来てくれるか |
メルディ | はいな。どうした? |
キール | ルドガーと握手してみてくれ |
メルディ | …?はいな |
| ギュッ |
ルドガー | …!これは、また…! |
| ヒュンッ |
メルディ | バイバ! |
ファラ | あっさり開いちゃったね |
キール | …推測通りとはいえ、さすがに驚いたな…。こんな簡単に時空の穴が開くとは… |
エル | よかった!これで帰れるんだね |
ジェイド | おや、お帰りですか?唐突ですね… |
リチャード | …後の事はジェイドさんにお任せします |
ジェイド | 言ってくれますね |
キール | 急いだ方がいい。未知の現象なんだ。穴が閉じてしまう可能性もある |
ファラ | それじゃ、メルディ…わたし達、もう行くね |
メルディ | まだちゃんとお礼もしてないのに… |
ファラ | そんなの、いいよ。それより、キールと仲良くね! |
メルディ | はいな。ファラが世界のメルディとキールにもよろしく伝えてな |
キール | 別世界のぼく…?…そうだ! |
キール | ルドガー。これを、そっちの世界のぼくに渡してくれないか |
ルドガー | これは…? |
キール | 分史世界に関する研究資料だ。そっちの世界で起きている異変の調査に役立つだろう |
ルドガー | いいのか!?ありがとう |
メルディ | みんな…元気でな |
ルドガー | ああ。メルディも |
エル | みんな、ばいばーい!またねー! |
| ヒュンッ |
キール | …ルドガー達が入っていったら穴は閉じた…か |
キール | こうしちゃいられない。この空間に残ったマナの痕跡を解析しないと…! |
ジェイド | …ついて行く、という手もあったのではないですか? |
キール | …興味はあった。だけど、それは出来ないんだ |
キール | この世界は分史世界。そしてルドガー達の世界はおそらく正史世界だ |
キール | 正史世界に同一の存在がある場合外から入り込めても共存する事は出来ないらしい |
ジェイド | なるほど。あちらの世界にキールがいるとあなたは共存出来ないわけですね |
キール | ああ。…それに… |
キール | メルディを残して別の世界に旅立つなんて、今は考えられないからな |
メルディ | キール… |
ジェイド | やれやれ。年寄りには刺激が強すぎます |
| 帰還、それから… |
リッド | おーい、大丈夫か?今、フレンが治療出来るやつを集めてくれてるからな |
キール | ありがとう。だが…もう大丈夫だ。急に身体が軽くなった |
メルディ | 黒いモヤも消えたみたいだな。よかったよぅ |
クィッキー | クィック、クィッキー! |
メルディ | クィッキーも嬉しいな |
リッド | ならいいけど…。念のため治療を受けて休んだ方がいいんじゃねぇか? |
キール | …いや、分史世界への入口の調査が先決だ |
キール | ぼくの体調の変化もおそらく分史世界が関係して── |
| |
リッド | …!?何だ!? |
| |
エル | ただいまー! |
リッド | エル!?って事は… |
リチャード | 無事に戻って来られたようだね |
ルドガー | これで一安心だな |
ファラ | リッド!キール!メルディ!みんな大丈夫だった? |
リッド | 大丈夫って…それはこっちの台詞だ! |
メルディ | ファラ!みんな!心配したよ。何があったか? |
ファラ | えっと…どこから説明したらいいのかな |
リチャード | あの穴に入った時の事から順を追って話そうか |
| |
キール | …ぼくに負の因子が…。やはり、そうだったのか |
ルドガー | やはりって…わかってたのか? |
キール | ああ。少し前、ぼくにも黒いモヤが出て危うく意識を失いかけた |
ファラ | えっ!?体調は大丈夫なの? |
キール | ああ。今はもう何ともない |
リッド | メルディが必死に治癒術をかけてくれたお蔭だな |
メルディ | でもメルディも疲れちゃって今度はキールに助けられたな |
リチャード | お互いに助け合う絆…。分史と同じように、二人は支え合っているんだね |
キール | 同じではありません…!ぼく達は、そういう、その…とにかく違います! |
メルディ | …?何慌ててる?おかしなキール! |
キール | こほん!とにかく── |
キール | 黒いモヤが出た時、メルディに触れたら、頭の中に妙な景色が流れ込んできた |
キール | 黒いモヤを出すメルディの姿が… |
ルドガー | それって…まさか、分史世界が見えたっていうのか…!? |
キール | 話を聞く限り、可能性はある |
キール | 負の因子に憑りつかれると正史と分史の同一人物に影響が出た。つまり何かの形で繋がっているんだ |
キール | 詳しく調査してみる必要があるな。もしマナが影響しているのだとすれば異変にも関係があるかもしれない |
ファラ | キールならきっと解明出来るよ!あっちのキールに負けないぐらいすごいもん! |
ルドガー | そうだな。あ…そうだ、これを分史のキールから預かって来たんだ |
キール | これは…研究論文か?確かにぼくの筆跡だな |
キール | 表題は…「創世原理~分史とマナ~」だって…!? |
リチャード | 分史世界の研究を熱心に続けてきた別世界の君が書いた論文だ |
リチャード | 異変の調査にも有用じゃないかと言っていたよ。読み終えたら見解を教えてほしい |
キール | わかりました。少し時間をください |
リチャード | さて。何日も留守にしていたが城の方は大丈夫だっただろうか。みんなに迷惑をかけてしまったな… |
リッド | 何日も…?みんなが穴に落ちてから、まだ半日ってとこですけど |
リチャード | 何だって…? |
ルドガー | 驚いたな…。確かに分史世界では時間の流れ方が違う事もあるけど… |
リチャード | そうか…少しほっとしたよ。もっとも、半日でも迷惑をかけた事は確かだ…みんなには謝らないとね |
リッド | そうだ!フレンにも知らせてやらないと!キールの事も伝えてくる |
リチャード | それなら僕が行くよ。今の状況を聞きたいし、留守の対応について礼を言いたいしね |
リッド | 陛下直々にか。フレンのやつ、驚くだろうなー |
エル | …ねぇ、ルドガー |
ルドガー | どうした? |
エル | エル、おなかすいたー |
ルドガー | はは、そうか |
ルドガー | …エルもお疲れ様だったな。いろいろあって辛かっただろう |
エル | エル、ルドガーの事、信じてたし! |
エル | それより、早く何か食べよ。もうおなかペコペコ |
ファラ | そういえば、わたしも…戻ってきて気が抜けたのかな |
ルドガー | はは。それじゃあ、みんなで何か食べに行こうか |
エル | やったー! |
リチャード | それなら食事を用意させよう。大したもてなしは出来ないが、料理人の腕は保証するよ |
エル | ほんと!?やったー、お城のごはんだー! |
メルディ | ワイール!きっとすごく美味しいな! |
クィッキー | クィッキー! |
ルドガー | いいのか? |
リチャード | ああ。実は僕も空腹なんだ。フレンと話して城の事が落ち着いたら後で合流するよ |
ルドガー | ありがとう、リチャード |
| |
エル | あー、美味しかった!おなかいっぱい! |
ルドガー | リチャードが言うだけあって料理人の腕を感じられる食事だったな |
リッド | その陛下は、食べ終わったらすぐに公務に戻っていったけどな |
リッド | もっと味わう時間があればいいのに、王様ってのは大変な仕事だよなー |
ファラ | …あの世界のメルディ達も同じように忙しくしてるのかな |
ルドガー | そうかもしれないな。でも、きっとピオニーさん達が支えてくれているよ |
ファラ | うん。そうだね |
メルディ | メルディ、王女様だった世界か…全然想像出来ないな。な、キール |
キール | …… |
メルディ | キール? |
キール | …ん?ああ、呼んだか…? |
リッド | その論文、よっぽど気になるみたいだな |
ファラ | お腹もいっぱいになったし、キールも論文が気になるみたいだから宿に戻ろっか |
キール | そうだな |
キール | …… |
キール | …ルドガー。ちょっといいか? |
ルドガー | うん? |
キール | この論文…分史のぼくがメルディを守るための研究に力を注いでいた事がよくわかる |
キール | でも、だからといってメルディ以外の人間は死んでも構わないなんて異常だ… |
ルドガー | それは、負の因子が憑りついていたから… |
キール | ああ。その通りだ。でも全てが負の因子の影響だけではないように思うんだ |
キール | 負の因子がなくても、分史のぼくには、兵器開発の他に選択肢がなかったんじゃないか? |
ルドガー | …… |
キール | 率直な意見を聞かせてほしい |
キール | ぼくが同じ立場なら…やはり同じような行動を取ったと思うか? |
ルドガー | それはわからない。分史世界のキールと今のキールは経験してきたものが違うんだから |
ルドガー | あっちのキールは、リッドやファラを知らないと言っていた |
ルドガー | もし同じ状況になっても、リッドやファラと共にいるキールは違う道を選べるんじゃないかな |
キール | …そうだな |
ルドガー | 勿論、俺やリチャードもいる。困った時は力を貸すから遠慮しないで言ってほしい |
キール | …あっちの世界のぼくにもそうやって力を貸してくれたんだよな |
キール | ぼくが言うのも変かもしれないが…感謝してるよ。ありがとう |
ルドガー | ああ |
リッド | おーい、早くしないと置いていくぞー |
| |
ファラ | はぁー、やっと一息つけるー! |
メルディ | ふかふかベッドー! |
クィッキー | クィッキー! |
リッド | おいおい、ベッドに飛び込むなって。じゃ、この部屋がファラとメルディでオレとキールは隣な |
ルドガー | エル、随分と眠そうだけど先に部屋に行ってるか? |
エル | うん。ちょっと休む… |
ルドガー | わかった。俺達の部屋は一番奥だからな |
エル | はぁーい…おやすみ… |
キール | さて、他のみんなも解散する前に明日からの事を話しておきたい |
キール | ぼくは少しの間、ここで研究論文を熟読し、その上で調査を続けようと思う |
キール | それには数日かかるだろうからみんなは一度、家に帰ってもらっても構わない |
メルディ | メルディ、一緒にいる!キールが事、手伝うな |
リッド | オレも残るぜ。一度帰っちまったら、何かあった時にここまで駆けつけるのは大変だからな |
ファラ | わたしも。キールが調べものに集中出来るように身の回りの事とか手伝うよ |
キール | わかった。ありがとう、助かるよ |
キール | …ルドガーの言う通りだな… |
リッド | ん?何か言ったか? |
キール | いや、何でもない |
キール | ルドガーはどうする? |
ルドガー | そうだな…。俺は一度、イニル街に戻ろうと思う |
ルドガー | 今回の件と、世界の異変にどんな関係があるのか、俺の方でも調べてみるよ |
キール | わかった。ルドガーなら独自に調査も出来る…それなら別行動の方が効率的か |
ルドガー | 調査のために動き回ってると連絡を取るのが難しくなるかもしれない |
ルドガー | 何かわかったらリチャードに報告するって事でいいかな |
キール | わかった |
リッド | じゃ、明日からは別行動だな |
ファラ | 寂しくなるね |
メルディ | 全部終わったらまたみんなで食事しよな! |
ルドガー | ああ。約束だ |
| |
エル | ただいまー! |
ルドガー | やっと帰ってきたな。お隣さんに預けてたルルも迎えに行かないと… |
エル | ルル、きっと寂しがってるね |
ルドガー | そうかもな。…長い時間、留守にしてたから郵便物も溜まってるな… |
エル | じゃあ、メガネのおじさんは一度も帰ってきてないの? |
エル | こんなに長い間帰ってこないなんて何かあったのかな… |
| |
ルドガー | …?誰の事を言ってるんだ? |
| |
エル | 誰って…メガネのおじさん!ずっと帰って来てないでしょ? |
ルドガー | メガネの…もしかしてジェイドさんの事か? |
エル | またそんな事言って…ルドガー、何だかおかしいよ…? |
ルドガー | そんなつもりはないけど…エルの方こそ… |
ルドガー | この家には、俺とエルと、ルルしか住んでないじゃないか |
エル | ……!? |
エル | 何で…?ルドガー、どうしてそんな事言うの…? |
ルドガー | どうしても何も……ん? |
ルドガー | この郵便物の宛名…ユリウス…って |
ルドガー | 全部、兄さん宛の物か |
エル | …!ほら、やっぱり、メガネのおじさんの事覚えてる! |
ルドガー | …?何言ってるんだ?おかしなエルだな |
エル | おかしいのはルドガーだって!じゃあ、これの事は覚えてる? |
エル | メガネのおじさんのために買ったプレゼント! |
ルドガー | ああ。一緒に買いに行ったな |
ルドガー | …でも、何のために買ったんだっけ。誰かにプレゼントを贈る予定なんてあったかな… |
エル | …今言ったでしょ。メガネのおじさんの事って… |
ルドガー | メガネのおじさん…?ああ…えっと…そうだ、兄さんの事か |
エル | どうして…ルドガー…おかしいよ… |
エル | 何だか怖いよ…パパ… |
| |
怪しい男1 | …いよいよ決行だな |
怪しい男2 | 手筈は整った。あとは、お前の腕の見せどころだな |
ルーク | …… |
怪しい男3 | おいおい。今更、怖気づいたのか?ちゃんと作戦通りやれんのかよ |
ルーク | ……当たり前だっつーの |
ルーク | ここまで来たんだ。作戦通り完璧にやってやるよ |
ルーク | もう決めたんだ。例え相手が実の兄だろうと、俺は── |
Name | Dialogue |
| 異変の兆候 |
店主 | どうです、お味は? |
ルーク | 美味い!「ルークまんじゅう」って言うからには味もよくないとな! |
ミュウ | ご主人様のお顔のまんじゅう、とっても美味しそうですの~! |
店主 | お墨付きをいただけて光栄です。試作を繰り返した甲斐があります…! |
ルーク | これなら、ガイアスまんじゅうやリチャードまんじゅうより人気出ちまうかもな! |
ルーク | …ところで、どうして俺なんだ?他の国では王のまんじゅうを作ってるだろ? |
店主 | ルーク様は我が国の親善大使ですからこれから各国でもっとお顔を知られ有名になられる事でしょう |
店主 | あなた様の上昇傾向にある人気にあやかりたいのです |
ルーク | へへ、なるほどな。いいぜ!それじゃあ正式に「ルークまんじゅう」を認めてやるよ |
店主 | ありがとうございます!量産体制を整えたら、すぐにでも大々的に売り出します! |
ルーク | ああ。応援してるぜ!それじゃあな! |
ミュウ | 応援してますですのー! |
店主 | どうぞ、今後ともご贔屓にー! |
店主 | ふう。緊張した。しかしこれで俺の商売も上手く── |
| |
店主 | …ん?何だこのまんじゅう… |
| |
店主 | 誰の顔だ?入れ物にはルークまんじゅうって書いてあるけど… |
店主 | ルーク…?聞いた事のない名前だな… |
| |
ルーク | いやー、まんじゅうまで作られるなんて俺も人気者になったもんだな! |
ミュウ | …… |
ルーク | ん?どうした、黙っちまって |
ミュウ | …… |
ルーク | おい、ブタザル。…おい |
ミュウ | …… |
ルーク | 聞こえてねぇのか!?ブタザル! |
ミュウ | みゅ…?もしかしてボクに言ってるんですの? |
ルーク | 当たり前だろ!他に誰がいんだよ!? |
ミュウ | 違うですの。ボクはブタザルじゃなくてミュウって言うですの |
ルーク | な、なんだよ、急に。今更、気に食わねぇってか?ずっとこう呼んできたじゃねぇかよ |
ミュウ | ずっと…?…そういえばボクの事をそう呼ぶ人がいた気がするですの… |
ミュウ | ……みゅ?ご主人様ですの! |
ルーク | はあ?何言ってんだよ |
ミュウ | ごめんなさいですの。ボク、どうしてかご主人様が誰かわからなかったですの… |
ルーク | 何だそれ。まぁいいけどよ…おまえだけじゃなく、最近こういう事がたまにあるんだよな |
ルーク | 声かけてんのにボーッとして聞いてなかったり俺に気付かなかったり… |
ミュウ | みゅうぅ…。ボクはもうしないですの。約束ですの |
ミュウ | もしみんながご主人様に気付かなくてもボクだけは、お返事しますの |
ルーク | 大げさなんだよ。みんなが気付かないなんて事あるわけねぇだろ |
ミュウ | みゅうぅぅ… |
??? | あら…? |
ティア | ミュウ!ここにいたの |
ミュウ | あっ、ティアさんですの! |
ルーク | よう、ティア。おまえも散歩か? |
ティア | …?ミュウ、こちらの方は…? |
ルーク | は?おい、何言ってんだ。俺だよ、俺! |
ミュウ | ご主人様ですの! |
ティア | ご主人様…? |
ルーク | おまえ、まさかさっきの俺達の話を聞いててわざとやってるんじゃないだろうな? |
ティア | …さっきの話?何の事かわからないけれどふざけているつもりはないわ |
ティア | 私はルークを捜していたら遠くから見えたから、それで… |
ティア | え、あ…ルーク!そう、あなたルークよね…! |
ルーク | だから俺だっつってんだろ |
ティア | ごめんなさい。どうしてかしら…私、あなたの事がわからなくて… |
ミュウ | ティアさんもですの?ボクもさっき、同じような事があったですの |
ルーク | おまえらちょっと変だぜ。医者に診てもらった方がいいんじゃねぇか |
ティア | …そうね。疲れてるだけならいいのだけど… |
ルーク | で、捜してたって言ってたけど何か用か? |
ティア | そうだったわ。ルーク、国王陛下がお呼びよ。何か大事な用件だと仰っていたわ |
ルーク | 伯父上が?一体何だろう…親善大使としての仕事か何かか? |
ティア | そうかもしれないわ。今は異変の対策で各国と協力体制を取ろうとしている時だから… |
ルーク | あー。昨日、ルドガーが城に来てたやつか。異変の兆候があるから調査したいって |
ティア | ええ。その時、ウィンドルでまとめられた異変の調査書を持ってきてくれたの |
ルーク | 国を跨いで情報交換か。そりゃ確かに、親善大使の出番かもしんねぇな |
ルーク | しかしルドガーも大変だよな。異変の調査をしながら、国同士の橋渡しもしてんだもんな |
ティア | ええ、とても忙しそうだったわね。昨日もあまり話せなかった── |
ティア | …あっ! |
ルーク | 何だ?急に大きな声出して |
ティア | ねぇ、ルーク。昨日ルドガーと会った時に、話した事を覚えてる? |
ルーク | あー…異変は自然災害だけでなく人にも起こるとか何とか…分史世界の影響だっけか? |
ティア | そうよ。分史世界にある負の因子というものの影響で、正史世界の人に異変が起こる |
ティア | だから、おかしな現象に心当たりがあったら教えてほしいって言われたわよね |
ルーク | …つまり何が言いてぇんだ? |
ティア | さっき、あなたの事を忘れてしまっていた事がその異変なんじゃないかしら |
ティア | だって、疲れて頭が回らないのとは全然違う感じだったもの。もっと超常的な何かに思えたわ |
ルーク | …考えすぎだろ? |
ティア | そうかも知れない…。でも何だかすごく嫌な予感がするから念のためルドガーに話してみるわ |
ルーク | わかったよ。たしか街の宿屋に滞在してるんだよな。俺とミュウも一緒に行くぜ |
ティア | 待って。ルークは陛下のところに行くのが先よ |
ルーク | っと、そうだった。んじゃ、ルドガーのとこにはティアとミュウで行ってくれ |
ルーク | ミュウも俺の事忘れてたんだ。異変が起こってるとしたら二人共だろ |
ミュウ | みゅう…怖いですの |
ティア | …大丈夫よ。ルドガーに相談してみましょう |
ルーク | それじゃあ俺は伯父上の用が済んだら合流するから、ルドガーと一緒に宿で待っててくれ |
ティア | わかったわ。それじゃあ、また後でね |
| |
ルーク | 伯父上。お話と言うのは? |
インゴベルト六世 | うむ。突然呼び出してすまなかったな |
インゴベルト六世 | …この話は、もしかするとおまえを困らせてしまうだけやも知れん… |
インゴベルト六世 | だが、いずれ伝えねばならん事だ。最近のおまえは成長著しい…そろそろ話してもよいだろう |
ルーク | 成長…ですか |
インゴベルト六世 | うむ。おまえは親善大使として各国首脳陣との関係作りに貢献した |
インゴベルト六世 | またアヴァロン島でも成果を上げ、今やキムラスカの顔としての地位を確立しつつある |
インゴベルト六世 | 最初、勝手に親善大使を名乗って国を出たり、シルヴァラントの神子を誘拐するという大罪を犯したが… |
インゴベルト六世 | それを払拭して余りある活躍をしていると認めてよいだろう |
インゴベルト六世 | ヴァンという大罪人を輩出した我が国が、今でも四大国たりえるのもおまえの活躍あってのものだ |
インゴベルト六世 | おまえは様々な経験を通して人としての器を大きく成長させた。今のおまえになら真実を話せる |
ルーク | 真実…?何か隠してたって言うんですか? |
インゴベルト六世 | ああ。だが仕方なかったのだ。これは王位にも関わる事…おいそれと外に漏らす事は出来ぬでな |
ルーク | 王位に関わる隠し事…まさか、伯父上…どこかお身体が… |
インゴベルト六世 | 早まるな。わしはまだ死なん |
インゴベルト六世 | これからする話は王位継承権に深く関わりのある事…おまえの出生についてだ |
ルーク | 俺の、出生…? |
インゴベルト六世 | うむ。ここからが本題だ。心して聞くがよい |
| |
インゴベルト六世 | ルークよ、実はおまえには── |
ルーク | 俺には…? |
インゴベルト六世 | …… |
ルーク | …… |
ルーク | 伯父上、あの…? |
| |
インゴベルト六世 | …誰…だ?今…わしは、おまえと話しておったのか…? |
ルーク | どうしたんですか、急に。しっかりしてください |
ルーク | 王位継承権にも関わる大事な話だって伯父上が言ったんですよ |
インゴベルト六世 | 王位継承…?そのような話を、見知らぬ者にするはずがないだろう |
ルーク | 見知らぬって… |
ルーク | 俺の事がわからないんですか?甥のルークです! |
インゴベルト六世 | そうか、その顔に髪形…我が甥に似せたつもりか!だが甥はルークなどという名ではない |
ルーク | えっ…?それって、どういう… |
インゴベルト六世 | 衛兵!誰かおらぬか!侵入者だ! |
ルーク | 伯父上…! |
| バタンッ! |
衛兵1 | 陛下!ご無事ですか! |
衛兵2 | おのれ侵入者!覚悟しろ! |
ルーク | おまえらまで…!みんな俺の事がわかんねぇのかよ! |
ルーク | …まさかミュウやティアと同じ事が城のみんなに起こってんのか…!? |
インゴベルト六世 | よいか!生きたまま捕え、目的を吐かせよ!仲間がおるやもしれんからな! |
衛兵1 | はっ! |
ルーク | 捕まってたまるかよ! |
衛兵2 | くっ、逃がすか!待て! |
| |
| タッタッタッタッ… |
衛兵1 | くそっ、見失ったか! |
衛兵2 | 城の構造に精通しているようだった。綿密な計画があったに違いない |
衛兵1 | 兵を集め、人海戦術で街を捜索する。おまえは目撃者を捜してくれ |
衛兵2 | 了解! |
| タッタッタッタッ… |
ルーク | …行ったか。でも、このままじゃその内捕まっちまうな |
ルーク | このままティアと合流するか。これが分史世界の影響だって言うならルドガーに話すしかねぇだろうし… |
??? | …こんなところで何してるんだ? |
ルーク | ガイじゃねぇか!よかった、困ってたんだ! |
ガイ | ん?おまえ、どうして俺の名前を知ってるんだ? |
ルーク | なっ…おまえもかよ!おまえは、俺の教育係だろ!? |
ガイ | 俺がおまえの教育係…?誰かと勘違いしてるんじゃないのか? |
ガイ | それよりおまえ…おまえ、今、兵士に追われてたよな |
ルーク | ああ。けど誤解なんだ!何もしてないのに、城への侵入者だとか言われちまって |
ガイ | 城に入るには許可がいる。知らなかったのか? |
ルーク | 今更許可なんて必要ないだろ!昔から自由に出入りしてたんだから |
ガイ | 昔から…? |
ルーク | そうだよ!ガイ、おまえ本当に俺の事がわかんねぇのか!? |
ルーク | 俺だ、ルークだよ!思い出してくれよ…! |
ガイ | …ルーク…? |
ルーク | ああ! |
ガイ | 悪い、聞き覚えのない名前だ。どこかで会った事があるか…? |
ルーク | ……っ! |
ルーク | もういい!どけっ! |
| ドンッ |
ガイ | なっ…!おい、待て! |
ガイ | 行っちまった…。変な奴。ま、後は兵士達が何とかするか |
ルーク | くそっ…!もしかして誰も俺の事わかんねぇのか…!? |
ルーク | あっ…!おい、おまえ! |
店主 | ん?いらっしゃいませ |
ルーク | あんたなら、俺の事わかるだろ!?ルークまんじゅうを作ってたんだ、忘れるわけねぇよな!? |
店主 | はぁ?お客さん、何言ってんです? |
ルーク | 忘れたなら、おまえが作ってるまんじゅうを見てみろよ!俺の顔のまんじゅうがあるだろ!? |
店主 | お客さんの顔のまんじゅう…?そりゃ、注文されたら作りますが… |
店主 | …そういや、お客さん、さっき大量に処分したまんじゅうに顔が似てるな… |
ルーク | 処分しただぁ!? |
店主 | ええ。いつの間にか、人の顔みたいなまんじゅうを作っちまってたんですがね |
店主 | 誰の顔かもわかんなくて不気味だったんで全部捨てちまったんです |
ルーク | …そうかよ。わかった。邪魔したな… |
ルーク | (って事は…みんな俺がルークだって わからなくなっちまった わけじゃねぇ…) |
ルーク | (俺が…ルークっていう人間が 存在した事自体を 忘れちまってるんだ…!) |
ルーク | ルドガーのところに急がねぇと…! |
| 目に見えぬもの |
ルドガー | さて、調査に備えて食料も買ったし一度、宿に戻ろうか |
エル | うん。これからしばらく街の外で調査するんだよね |
ルドガー | ああ。キールからの連絡によると異変の原因になりそうなマナの変動が王都近郊の広い範囲で起こってるんだ |
ルドガー | 昨日、街を見て回った時は何もなかったから、今度は外を調べてみよう |
エル | せめて、どんな異変が起こるかわかればいいのに |
ルドガー | …そうだな。でも、何もわかってなかった頃から考えると、これでもすごい進歩だ |
ルドガー | キールの調査は着実に進んでるんだな |
エル | そのキールは今もウィンドルにいるんだよね? |
ルドガー | 忙しいみたいだからな。リチャードが世界中に調査結果を公表してから、引っ張りだこらしい |
ルドガー | だから、キールがすぐには動けない分俺達が先に調べておかないとな |
エル | 世話が焼けるなぁ |
ルドガー | 頼りにしてくれてるんだ。期待に応えられるよう頑張ろう |
エル | うん |
ルドガー | (危険かもしれないから 本当はエルはウィンドルに 残っていてほしかったけど…) |
ルドガー | (キールの研究結果が正しいとすれば 分史世界への鍵は エルかもしれないんだ…) |
ルドガー | (また何が起こるかわからないから 一緒にいる方が安全だよな…) |
| |
エル | …あれ?今、宿から出て来た人… |
ルドガー | あれは…! |
ティア | あっ…!ルドガー! |
ミュウ | 会えてよかったですの! |
ルドガー | ティア、ミュウ? |
ティア | 宿にいなかったから捜しに行こうとしていたの。ちょっと聞きたい事があって… |
ルドガー | 俺に聞きたい事?…もしかして、異変絡みか? |
ティア | ええ、おそらく…。その…人の事を忘れてしまう異変ってあるのかしら? |
ミュウ | すごく大切な人を忘れちゃうですの… |
エル | ……! |
ルドガー | 人の事を忘れる異変…?今まで聞いた事はないけど… |
エル | エル、知ってる!ルドガーも時々そうなってる! |
ルドガー | 俺が…?そんな事あったか? |
ティア | 自覚がないだけかもしれないわ |
ティア | 私も、その人を忘れてしまっている事に違和感すらなかったもの。目の前に本人がいても、ね… |
ミュウ | みゅぅぅ…ボクもですの |
ルドガー | なるほど…。初めて聞く現象ではあるけど異変という可能性はあるな |
ルドガー | だけど、これまでは負の因子の影響を受けた一人だけに異変が起こっていた |
ルドガー | ティアとミュウ…それに俺にも同じ現象が起こってるなんて、一体… |
エル | ティアとミュウは、誰の事忘れちゃったの? |
| |
ティア | それが、その…おかしいわ… |
| |
ティア | 忘れる…って、何の事だったかしら… |
ミュウ | みゅうぅ…ボクも何だか変ですの。ボクの中に大きな穴が空いたみたいですの… |
ルドガー | …まさか、今またその現象が起こってるのか…? |
ティア | ええ、おそらく…。だけど、さっきと違って、何かを忘れているという事はわかるわ |
ルドガー | 記憶が消えているというよりはその人の存在だけが抜け落ちてる…って事か? |
ティア | …ええ。何かわかりそうかしら? |
ルドガー | …これは推測なんだけど、もしティアとミュウが同じ人の事を言ってるのだとしたら… |
ルドガー | 異変が起こっているのは、その人なんじゃないか? |
ルドガー | 誰かを忘れるという異変じゃなく、みんなから忘れられるという異変がその人の身に起こってると思うんだ |
ミュウ | みゅうぅぅ…。その人を助けてあげてほしいですの! |
ミュウ | 誰だか思い出せないけど…その人が悲しいとボクも悲しいですの… |
ルドガー | ああ。だけど、それにはまず、その人に会わないといけない |
ルドガー | でも、それが誰かもわからないんじゃ── |
ルーク | …いた!おーい! |
ミュウ | みゅ…? |
ルドガー | どうしたんだ、ミュウ? |
ミュウ | …今、ボク達を呼ぶ声が聞こえた気がしたんですの |
ルドガー | …誰もいないぞ?気のせいじゃないか? |
ルーク | 何言ってんだ!俺がいるだろ!もしかして姿まで見えねぇのか!? |
ルーク | おい、ティア、ブタザル!おまえらはさっき思い出してただろ! |
ティア | …!ルドガー、私も今、誰かに呼ばれた気がしたわ |
エル | えっ!? 本当に誰かいるの?…なんかこわっ! |
ルドガー | …もし二人の言う人がそこにいて、なのに俺達が気付けていないんだとしたら… |
ルドガー | 単にその人を忘れてるだけじゃない。存在そのものが消えかかってる可能性がある! |
ルーク | っ…!俺が、消えかかってるだって…!? |
ルーク | 冗談じゃねぇ!おい、頼む!誰か気付いてくれよ! |
ルーク | ティア! |
ティア | …… |
ルーク | ブタザル! |
ミュウ | …… |
ルーク | 他の誰が気付かなくてもおまえだけは返事してくれるんじゃなかったのかよ! |
ルーク | 何とか言えよ、ミュウ! |
| |
ミュウ | …みゅ? |
ミュウ | この声… |
| |
ミュウ | ──ご主人様ですの! |
ルーク | ミュウ! |
ミュウ | ご主人様! |
ルーク | 俺の声が聞こえるのか!? |
ミュウ | 聞こえますの! |
ルーク | 姿が見えるのか!? |
ミュウ | はいですの! |
ティア | ミュウ…? |
エル | 一人で話してる…? |
ミュウ | 皆さん、思い出してほしいですの!ボクのご主人様…ルーク…フォン・ファブレ…ですの! |
ティア、ルドガー、エル | …! |
ティア | そうだわ…そうよ、ルーク!思い出したわ! |
ルドガー | ああ、俺も今、ミュウのお蔭で思い出せたよ |
エル | …って、わぁ!ルーク、いつからいたの!? |
ルーク | おまえらも俺の事がわかるのか?見えてるんだな? |
ティア | ええ、わかるわ。よかった、本当に… |
ルーク | 思い出してくれてひと安心だぜ。ずっとここにいたのに、誰も気付かねぇからよ |
| |
ルドガー | ルーク。安心するのは早い |
ルドガー | もし分史世界の影響でルークに異変が起こっているならまた同じ事が起こるかもしれない |
ルドガー | いや、それどころか次はもっと悪化する事もあり得る |
ルドガー | 今でも、ルークに意識を集中してないと、すぐに分からなくなりそうなんだ |
ルーク | …やっぱり異変が起きてるのはみんなじゃなくて俺なんだな |
ティア | ルーク、気付いていたのね |
ルーク | ああ。城でもいろいろあったしな |
ルーク | でも分史絡みならルドガーが解決策を知ってるんだろ?どうすりゃいいんだ? |
ルドガー | 今までと同じなら分史世界にいるルークが負の因子に憑りつかれてるはずなんだ |
ルドガー | 分史世界に行ってその負の因子を破壊すればこの正史世界での異変も止まるはず |
ルーク | 分史世界の俺?前に分史世界に行った時は、ルークなんていないって感じだったぞ |
ルドガー | あの時とは別の分史世界だよ。分史世界は無数にあるんだ |
ルーク | なるほどな。とにかく、そこにいる俺を捜しに行かなきゃならねぇんだな |
ルーク | で、どうやったらその負の因子に憑りつかれた俺がいる分史世界に行けるんだ? |
ルドガー | キールの仮説が正しいなら… |
ルドガー | エル、時計を出してくれるか |
エル | わかった |
ルドガー | ルーク。この時計に触れてみてくれ |
ルーク | …こうか? |
ルーク | 何だ!?光が…! |
| ヒュンッ |
ルドガー | よし、思った通りだ |
ルーク | この穴の向こうが分史世界って事か…? |
エル | ルドガー、行っちゃうの? |
ルドガー | ああ。前のように危険な目に遭うかもしれない。エルは宿で待っていてくれるか? |
エル | うん… |
ティア | ルーク、私も── |
ルーク | 待てって。おまえまで来たら誰がミュウとエルを見てるんだよ |
ティア | でも… |
ティア | …いえ、そうね。わかったわ。私はこっちで待ってる |
ティア | だから必ず、無事に帰って来て |
ルーク | 当たり前だろ |
ルーク | じゃあな。おまえも大人しくしてろよ |
ミュウ | ご主人様…ボクは…ボクは… |
ルーク | そんな顔すんなって。すぐ帰ってくるからよ |
ルーク | ほら、ルドガー。早く行こうぜ |
ルドガー | ああ。それじゃあ、ティア。エルをよろしく頼む |
ティア | わかったわ |
エル | ルドガー、気を付けてね |
ルドガー | ありがとう。…それじゃあ、ルーク。その穴に飛び込んでくれ |
ルーク | よーし、行くぜ |
ミュウ | …ボクも行くですの! |
ルーク | あっ…バカ!戻れ!くっつくな──… |
ミュウ | 嫌ですの!ボクはどこまでもご主人様と一緒ですのー! |
| シュンッ |
ティア | ミュウ! |
エル | 行っちゃった…! |
ティア | 大丈夫かしら… |
エル | 平気だよ!ルドガーが一緒だし! |
エル | それに、ルドガーが言ってたけどルークもすごく強いんでしょ? |
ティア | …そうね |
ティア | (…もしもの事があれば 私はルークを忘れて しまうのかしら…) |
ティア | (…ううん。 そんな事… ないわよね…) |
scene1 | キムラスカの親善大使 |
| ヒュンッ |
ルドガー | …よし、分史世界に着いたようだな |
ミュウ | みゅっ…! |
| ドンッ |
ルドガー | ミュウ!大丈夫か? |
ミュウ | だ、大丈夫ですの。木にぶつかっただけですの… |
| シュン… |
ミュウ | みゅ?穴が閉じたですの… |
ルドガー | ああ。これまでも分史世界に移動したらすぐに穴が閉じたんだ |
ミュウ | …ご主人様はどこですの? |
ルドガー | …!ルーク…まさか時空の裂け目に入りそびれたのか!? |
ミュウ | そんなことないですの!ボク、ご主人様にくっついて一緒に穴に入りましたの! |
ミュウ | そうしたら、来るなって突き飛ばされたですの… |
ルドガー | そうか…なら、その勢いではぐれた可能性が高いな |
ミュウ | ルドガーさん!ご主人様はどこですの!? |
ルドガー | 一緒に時空の裂け目に入ったなら、この世界には来ているはずだ |
ルドガー | この世界の別の場所に飛ばされたのかもしれない |
ミュウ | 大変ですの!早く捜しに行くですの! |
ルドガー | 落ち着くんだ、ミュウ。状況がわからない中、闇雲に動くのは危険だ |
ルドガー | こういう時こそ冷静にならないと…まずは、ここがどこなのかを調べよう |
ミュウ | みゅううぅぅ…。でも心配ですの… |
ルドガー | 気持ちはわかるけど… |
ミュウ | もしかしたら近くにいるかもですの。ボク、ちょっとだけ捜してきますの |
ルドガー | 待ってくれ、ミュウ…! |
ミュウ | すぐに戻るですのー! |
ルドガー | …ミュウ。よほどルークの事が心配なんだな |
ルドガー | (…俺もミュウも ルークの事をしっかり覚えてる。 存在が消えたわけではなさそうだ) |
ルドガー | (ルーク… どこにいるんだ…) |
| |
ガイ | はぁ、はぁ…くそ、まだ追って来るのか |
アッシュ | 奴ら、一体何者なんだ。シルヴァラントの兵士に見えるが |
ガイ | さあな。出会ってすぐ問答無用で追いかけられたんじゃ検討もつかないな |
ガイ | 止まって話を聞いてみるか? |
アッシュ | …いや。この森を利用して追手を撒く |
ガイ | 了解! |
| ザッザッザッザッ… |
兵士1 | ちっ、見失ったか! |
兵士2 | 引き返しますか? |
兵士1 | そうはいくか!シルヴァラントの威信に賭けて奴を必ず捕らえるぞ! |
兵士1 | このまま王都に帰らせてはならん!各員、散開して捜索せよ! |
兵士2 | はっ! |
| ザッザッザッザッ… |
| |
ガイ | …ふう。行ったみたいだな |
アッシュ | 王都に帰らせない…か。やはり俺が誰か理解した上で追って来てるようだな |
アッシュ | だが、何故だ。俺は親善大使として赴いただけで、捕らえられるような事をした覚えは… |
??? | 説明してやろうか? |
アッシュ | …ちっ、見つかったか! |
ゼロス | 落ち着けよ。俺だ、アッシュ |
アッシュ | …ゼロスか |
ガイ | 騎士のおまえまで動いてるって事は国をあげて俺達を追って来てるみたいだな |
ゼロス | そりゃ、あわや王が殺されるなんて事件があれば、騎士団も動くぜ |
アッシュ | 王が…!?どういう事だ |
ゼロス | その反応…やっぱりあれはおまえじゃないんだな |
ゼロス | アッシュが王の命を狙うわけねぇとは思ってたんだ |
アッシュ | 一体、何を… |
ゼロス | 事情を説明する前に、ここを離れようぜ。騎士団の連中が近づいて来てるからな |
アッシュ | …わかった |
scene2 | キムラスカの親善大使 |
ゼロス | こんぐらい離れれば大丈夫だろ |
ガイ | ゼロス、早速で悪いが何があったのか教えてくれないか |
ゼロス | ああ。と言っても俺も伝令で聞いただけだから細かい事までは知らねぇんだが… |
ゼロス | 一言で言うと、キムラスカの親善大使を名乗る男が王に斬りかかったんだ |
アッシュ | 何っ…! |
ゼロス | 幸い、陛下は無事だったが陛下を守った兵士が一人、負傷しちまってな |
ガイ | その兵士は、大丈夫なのか? |
ゼロス | ああ、命に別状はないらしい。ただ…もしあいつが守らなかったら王の命は危なかっただろうって話だ |
ゼロス | 親善大使はそのまま逃走。兵士達はそれを追って来たってわけだ |
アッシュ | …親善大使は俺だが、まだ王には会えていない |
ゼロス | ああ。要はアッシュの名を騙った偽者って事だ |
ゼロス | 俺がその場にいればそう言ってやれたんだけどな… |
ゼロス | 交流剣技大会で何度も辛酸を舐めさせられた相手を見間違えるわけがねぇ |
ガイ | また随分前の話を持ち出すな…。それにその大会には他の兵士だって参加してただろう |
ゼロス | ああ。でもあいつらは、俺さまみたいに毎回アッシュと優勝争いしてたわけじゃねぇからな |
ゼロス | つまり、その偽者ってのは一度や二度会ったぐらいじゃ見抜けないぐらい似てるって事だ |
アッシュ | …俺とそっくり… |
ゼロス | というわけで、今おまえはシルヴァラントで大々的に指名手配されてるときた |
ガイ | …だから兵士達はアッシュを見るなり追いかけて来たんだな |
ゼロス | 偽者が逃げた方角からおまえらが来たってのもあるな。わざとだとしたら── |
ガイ | 俺達の移動ルートを知った上での罠か…! |
アッシュ | …… |
アッシュ | その偽者は、他に何か言っていなかったか? |
ゼロス | …これも伝令で聞いただけなんだが… |
ゼロス | 「キムラスカはシルヴァラントとの 和平を望まず、 服従のみを受け入れる──」 |
ゼロス | そんな感じの事を言ってから剣を抜いたらしいぜ |
ガイ | それじゃまるで、宣戦布告じゃないか |
アッシュ | ちっ…何て事をしやがる。キムラスカとシルヴァラントの親交を深める予定が台無しだ |
ガイ | それで…ゼロスはどうするんだ。俺達を捕まえるのか? |
ゼロス | まさか。そんな事したら真犯人の思うつぼじゃねーか |
ゼロス | 俺は、おまえの無実を確認しに来ただけだ。偽者だとはっきりして、ほっとしたぜ |
ガイ | それを聞いてひと安心だ。おまえが相手となればお互い無事にはすまないからな |
アッシュ | …その偽者を捕らえるぞ。放っておけば、また何をしでかすかわからない |
ゼロス | それはそうだが、何もおまえ達が無理する事もねぇだろ |
ゼロス | ひとまず、真犯人捜索は俺達に任せて二人は一旦国に帰った方がいいんじゃねぇか? |
ゼロス | 今おまえ達が捕まったらいくら俺さまでも、助けられるだけの証拠がねぇ |
アッシュ | …いや。要は、真犯人を突き出せばいいんだろう? |
ゼロス | …心当たりでもあんのか? |
アッシュ | …… |
ガイ | おい、アッシュ。まさか、ルークを疑ってるんじゃないだろうな? |
ゼロス | ルークって、双子の弟だったよな? |
ゼロス | いくら真犯人の顔がおまえにそっくりだからって、弟を疑うのは感心しねぇな |
アッシュ | それだけじゃない。俺が親善大使に任命された時…少し気がかりな事があった |
| |
インゴベルト六世 | アッシュよ。各国を回る親善大使には、そちを任命する |
アッシュ | 俺…一人ですか? |
インゴベルト六世 | 勿論、付き人はつける。誰でも指名するがいい |
アッシュ | はい。では── |
インゴベルト六世 | ただし、ルーク以外でな |
アッシュ | …何故です |
インゴベルト六世 | ルークは最近、たるんでおる。剣の稽古には熱心なようだが国政の事にはまるで無関心だ |
インゴベルト六世 | 先日は国賓の集まる社交の場にも顔を見せなかった。…今のあやつを外に出すのは不安だ |
アッシュ | …… |
インゴベルト六世 | あやつには王位継承権を持つ者としての自覚が足らぬ |
インゴベルト六世 | その事を自戒させるため敢えて今回は親善大使から外した。付き人として同行する事も禁じる |
インゴベルト六世 | わかってくれるな |
アッシュ | はっ… |
| |
| コンコン |
アッシュ | ルーク、入るぞ |
| ガチャ |
アッシュ | …おまえ、その髪。切ったのか? |
ルーク | 親善大使様がわざわざ髪型の話をしに来たわけじゃねぇだろ。…落ちこぼれに何の用だ? |
アッシュ | 親善大使…か。随分と耳が早いな |
アッシュ | なら、おまえが任命されなかった理由も聞いているな? |
ルーク | ああ、知ってるよ。全部、先生が教えてくれたからな |
アッシュ | 先生…騎士団長か |
ルーク | …もういいだろ。先生が待ってるんだ。行かねぇと |
アッシュ | おい、待て。おまえのそういう態度が── |
ルーク | …うるせぇな。話は終わりだ |
アッシュ | 一つだけ聞かせろ |
アッシュ | その髪…何か心変わりがあったんじゃないのか |
ルーク | …… |
| バタン |
アッシュ | …ちっ。何を考えてやがる |
| |
アッシュ | …俺にはあいつが何を考えてるのかわからなかった |
アッシュ | だが、まさかこんな大それた事を計画していたとは… |
ゼロス | 待てって。決めつけるにはまだ早いんじゃねーか? |
アッシュ | 状況証拠が揃っている |
ゼロス | まだ、状況証拠だけだろ?僅かでも可能性があるなら最後まで信じてやれよ |
ゼロス | それが、兄貴ってもんだろ |
アッシュ | 妙にルークに肩入れするな |
ゼロス | そういうわけじゃねぇよ。ただ…俺と同じ間違いをしてほしくないんだよ |
アッシュ | 間違い…? |
| |
ゼロス | …ああ。この事は、他人にはあんまり話した事ねぇんだけど… |
| |
ゼロス | 俺には一人、妹がいるんだ。そいつの事で、昔ちょっとあってな… |
ガイ | ああ、剣技大会に応援に来てるのを見た事あるな。確か、セレス…だったか? |
ゼロス | そうそう!今でこそ仲良くしてるし、あいつも俺を慕ってくれてるけどな… |
ゼロス | 昔は俺…あいつが苦手だったんだよ |
ゼロス | 小さい頃から病弱でな。ちょっと何かあると親はあいつにつきっきりの看病だ |
ゼロス | まだ子どもだった俺は親の愛情を独り占めするセレスをよく思ってなかった… |
ゼロス | それにあいつ、俺と二人の時は弱ってる素振りなんて全く見せなかったしな |
ゼロス | だから…いつしか、あいつは親の気を引くために病弱なフリをしてるんだって… |
ゼロス | そう思い込むようになっちまってた |
ゼロス | …ある日、家に俺しかいねぇ時に、あいつが急に苦しみだしたんだ |
ゼロス | なのに、馬鹿な俺は騙されてたまるかって、ずっと無視してたんだ |
ゼロス | さすがに様子がおかしいと気付いて医者を呼んだ時にはかなり酷い状態になってた |
ゼロス | 何とか大事に至らなかったが…俺は自分の馬鹿さ加減を呪ったぜ |
ゼロス | 後からわかったんだが、あいつは俺に心配かけまいと二人の時は元気なフリをしてたんだ |
ゼロス | なのに俺は、大事な妹を勝手に悪者だと決めつけて…嘘だと思いこんじまってさ |
ゼロス | それから俺は、信じるべき相手の事は最後まで信じるって心に誓ったんだ |
アッシュ | …それはおまえが勝手に誓った事だ |
ゼロス | ああ、確かにそうだ。でも、おまえにも関係のある話だぜ |
ゼロス | 俺さまが、おまえが犯人じゃないって信じた理由だからな |
アッシュ | どうして俺に繋がる? |
ゼロス | 言ったろ?信じるべき相手を最後まで信じるってな |
ゼロス | その上で、兄として、妹や弟ってのは信じてやるべき相手に入るだろって言いてぇんだ |
アッシュ | …… |
ガイ | なぁ、アッシュ。俺はおまえら兄弟の問題には口を出さないようにしてたけど… |
ガイ | ゼロスの言う事、少し考えた方がいいぞ |
アッシュ | …今回の件は、二つの国を巻き込んだ大きな話だ。俺が信じるかどうかは関係ない |
アッシュ | 弟だろうが可能性があれば疑う。…だが… |
アッシュ | おまえの話は教訓として肝に銘じておく |
ゼロス | ああ。それで充分だと思うぜ |
ゼロス | …ルークが犯人じゃなかったらいいな |
アッシュ | …そうだな |
| |
ガイ | さて、それじゃあこれからどうする? |
| |
アッシュ | 本来なら、さっきゼロスが言った通り急ぎ国に戻って伯父上に報告するべきだろう |
アッシュ | そして王の名でシルヴァラントに対し事情を説明して、犯人は両国で協力して捜すのが筋だ |
ガイ | …けど、おまえは違う方法を取ろうとしてる。だろ? |
アッシュ | ああ。今の段階で報告すると、おそらく最初に疑われるのはルークだ |
アッシュ | だが、もし犯人がルークでない場合それこそが犯人の狙いという可能性もある |
ガイ | うちも一枚岩じゃないからな。アッシュを陥れようとする奴もいればルークを狙いそうな連中もいるか… |
アッシュ | いずれにせよ、国内の派閥同士が疑心暗鬼になれば、政治機能が一時的に低下するだろう |
アッシュ | それを防ぐためには、報告と共に犯人を突き出し、断罪する事が理想だ |
ガイ | 俺達で犯人を捕まえるって事か… |
ゼロス | 今ならまだ、そう遠くまで逃げちゃいねーと思うぜ。捕まえるなら急いだ方がいい |
アッシュ | わかった。…犯人は俺達が来た方角に逃げたと言っていたな |
アッシュ | なら、この近く…身を隠すのなら森の中にいる可能性が高いだろう |
ガイ | 森か…この森、かなり広いよな |
アッシュ | ああ。だからといって、諦めるわけにはいかない |
ガイ | そうだな。大変そうだが、おまえと一緒なら、出来ない事なんてないよな |
アッシュ | ふっ、当たり前だ。やる事は決まったな |
兵士の声 | ここもいないか。次はあっちを捜すぞ! |
ゼロス | おっと、そろそろここもやばそうだな |
ゼロス | ここは俺さまが誤魔化しといてやる。おまえらは犯人を捜しに行け |
アッシュ | …恩に着る。 |
ゼロス | いいって事よ。剣技大会の好敵手がいなくなるのは寂しいからな |
ゼロス | 俺は俺の方で王都に戻って何とか誤解が解けないか試してみる |
ゼロス | あんまり期待は出来ねぇだろうがちょっとでも根回ししておきゃ犯人を捕まえた後、話が早いだろ |
アッシュ | 世話になる。ガイ、行くぞ |
ガイ | ああ |
scene1 | 邂逅と誤解 |
ルーク | …ったく。どこなんだよ、この森 |
ルーク | ここは分史世界…でいいんだよな。でもルドガーもミュウもいねぇし、どうなってんだ? |
ルーク | …ん?何か声が聞こえるような… |
兵士1 | まだ見つからんのか! |
兵士2 | 騎士殿が仰るには確かにこちらの方向だと… |
兵士1 | 他に手がかりもない。この辺りを徹底的に調べるぞ! |
兵士達 | はっ! |
ルーク | …あの格好、兵士か。誰か捜してるみてぇだな |
ルーク | ちょうどいいや。ルドガー達を見てないか、聞いてみるか |
ルーク | おーい、そこの人! |
兵士1 | むっ、誰だ…! |
ルーク | 忙しそうなところ悪いんだけどさ。仲間とはぐれちまって困ってんだ。もし見かけてたら── |
| |
兵士1 | おまえは…!服を変えたようだが、俺の目はごまかせんぞ! |
| |
ルーク | な、何だよ急に… |
兵士2 | そっちから出てきてくれるとはな!絶対に逃がさんぞ! |
ルーク | はぁ?待てよ、俺、何か悪い事したか? |
兵士3 | とぼけるな!国王に刃を向けた罪、忘れたとは言わせんぞ! |
兵士2 | 我らシルヴァラントの威信に賭けて貴様を捕らえる! |
ルーク | シルヴァラントの国王に刃を向けた!?んな事、するわけねぇだろ! |
ルーク | だいたい、俺はついさっきこっちの世界に来たばっかなんだ!人違いもいいとこだぜ! |
兵士1 | 問答無用!総員、掛かれ! |
兵士達 | はっ! |
ルーク | だーっ!何だってんだよ!俺は戦う気なんてねぇっての! |
兵士2 | 逃がすか! |
| ヒュンッ! |
ルーク | やめろって! |
| ガキィン…! |
兵士2 | くっ、剣を弾かれた…! |
ルーク | 今だ! |
兵士3 | 逃げるのか!待てー! |
兵士1 | 待て、闇雲に追うのは危険だ!先程の戦いぶり…噂以上の手練れだ。他の兵と合流し、数で追い詰めるぞ! |
兵士3 | はっ! |
ルーク | はぁ、はぁ…追ってこねぇのか…? |
ルーク | よくわかんねぇけど、なるべく離れた方がよさそうだよな… |
| ガサガサ… |
ルーク | …さっきの奴らか!? |
魔物 | グルルルル… |
ルーク | 今度は魔物かよ!?こんな時に、邪魔すんじゃねぇ! |
scene2 | 邂逅と誤解 |
| バシュッ |
魔物 | ギャウゥ… |
ルーク | …ふぅ。今ので最後か |
ルーク | 兵士も追ってこねぇようだしとりあえずミュウとルドガーを捜しに行くか |
アッシュ | …ガイ、見たか。今、魔物と戦っていた奴… |
ガイ | ああ。あれは、ルーク…だよな? |
アッシュ | いや、確かに似てるが… |
アッシュ | 俺が国を旅立つ直前、あいつは髪を切っていた |
アッシュ | それを知らない奴がルークに成りすましているんだろう |
ガイ | アッシュに成りすませるならルークにも成りすませる、か… |
アッシュ | あそこまで似ているとなれば、事件に無関係とは言い難い。…追うぞ |
ガイ | ああ |
ルーク | おーい、ルドガー!ミュウー!いねぇのかー? |
??? | おい、そこのおまえ |
ルーク | …! |
アッシュ | 動くな |
| チャキ… |
ルーク | なっ…!アッシュにガイ!? |
ガイ | …本当にそっくりだな。アッシュ、こいつ本当にルークじゃないのか? |
アッシュ | ああ。さっき言ったとおりだ |
ルーク | いや…俺はルークだぞ…? |
ルーク | 何を誤解してんのか知らねぇけどおまえらと戦う気はねぇんだ。剣を下ろしてくれよ |
アッシュ | 黙れ。おまえは、俺の質問にだけ答えろ |
ルーク | すげぇ剣幕だな…。わかったよ。そうすりゃ解放してくれんのか? |
アッシュ | 事と次第によっては…な |
アッシュ | シルヴァラントでキムラスカの親善大使を勝手に名乗ったのは、おまえか? |
ルーク | は?何だよ、そんな昔の事… |
アッシュ | おまえなんだな? |
| チャキ |
ルーク | ああ、そうだよ。俺だよ!でもあれは、星のカケラの件を解決した事で不問になっただろ! |
ルーク | そりゃ、後で伯父上やティアからこってり絞られたけどよ。今更、剣を向けられる事なのか!? |
アッシュ | 星のカケラ…?ティア…?何の話をしている |
ルーク | ガイはその事もよく知ってんだろ!? |
アッシュ | …そうなのか、ガイ? |
ガイ | いや、何の事を言ってるのかさっぱりだな |
ルーク | (…そうか。ここは分史世界だから 星のカケラの事もティアの事も こいつらは知らねぇのか…) |
ルーク | (…ん? って事は、何かおかしいぞ…) |
ルーク | なぁ。おまえらはどうして俺が親善大使として各国を回った事を知ってんだ!? |
ルーク | あれは星のカケラを巡る戦争を避けるためにやったんだぞ!? |
ガイ | おい、アッシュ。こいつ何か様子がおかしくないか? |
アッシュ | ……次の質問だ。シルヴァラント王に剣を向けた目的は何だ? |
ルーク | さっきの兵士もそんな事言ってたな。俺はそんな事してねぇ! |
アッシュ | なら誰がやった。親善大使アッシュの名を騙ったのはおまえじゃないのか? |
ルーク | アッシュはおまえだろ?つーか、この世界じゃ、おまえが親善大使なのか? |
アッシュ | この世界…? |
ガイ | …なぁ、アッシュ。少しこいつの話を聞いてみないか? |
ガイ | 抵抗したり逃げたりする素振りもないし… |
ガイ | もしかしたら、俺達の知らない何かがあるんじゃないか? |
アッシュ | …誤魔化しているという感じでもなさそうだな |
ルーク | 話聞いてくれるんなら、とりあえずその剣をしまってくれ。物騒で仕方ねぇよ |
アッシュ | …… |
| …カチャ |
アッシュ | 妙な動きをしたら怪我じゃすまないぞ |
ルーク | わかってる、何もしねぇよ |
アッシュ | まず、おまえが何者でどうしてルークの格好をしているのか説明してもらおう |
ルーク | 何者も何も…さっきも言ったけど…俺はルーク。ルーク・フォン・ファブレだ |
アッシュ | 嘘を言うな |
アッシュ | 確かに似てはいるが、俺の弟のルークは髪を短く切ったばかりだ |
ルーク | 弟?この前会った時は、俺の事なんて見た事ねぇって感じじゃなかったか? |
アッシュ | この前…? |
ルーク | あー、いや…。ここはあの時とは違う分史世界ってルドガーが言ってたっけ… |
ルーク | …じゃあ、この二人は俺と初対面の分史世界のアッシュとガイって事か?ややこしいな… |
アッシュ | 何をブツブツ言っている。俺達にもわかるように話せ |
ルーク | あーっと、だからな?俺はおまえ達に会った事があるけど、それは別の分史世界のおまえ達で… |
ルーク | だからおまえ達が俺を知らないのは無理もないってか…当然か… |
アッシュ | …要領を得ないな。さっきも別の世界と言っていたがそれは何の事だ? |
ルーク | だからえっと…世界には正史世界ってのと、分史世界ってのがあって… |
ルーク | 俺は正史世界から来たから、この世界のルークじゃなくて正史世界のルークなんだ |
アッシュ | ……ガイ、わかったか? |
ガイ | うーん…おそらくだが、こことは別に同じような世界があってそこにもルークやアッシュや俺がいる |
ガイ | こいつはその別の世界のルークで、俺達の知るルークとは別の存在…って事か? |
ルーク | そう!そういう事だ!さすがガイだぜ! |
ガイ | 別の世界に行ける機械の研究ってのを聞いた事があったから、何となく…な |
アッシュ | その研究とやらは信用出来るのか? |
ガイ | 正直、眉唾だと思うが… |
アッシュ | だとするなら、そんな突拍子もない話、にわかには信じられんな |
ルーク | じゃあ信じなくてもいいよ。とにかく俺は、どっかの王様相手に剣を向けたりしてねぇ! |
アッシュ | その言葉を信じる証拠はあるか? |
ルーク | 証拠って言ってもな… |
ルーク | そうだ。おまえら、要するに俺にそっくりの顔した悪い奴を捜してるんだろ? |
ルーク | 俺がおまえらと一緒にそいつを捜す。それでどうだ?真犯人が見つかりゃ文句はないだろ |
アッシュ | …いいだろう。だが、もし他に犯人が見つからなければ、次はないぞ |
ルーク | わかったよ。俺もそんな悪い奴は許せねぇ。絶対とっ捕まえてやるぜ! |
ガイ | いいのか、アッシュ? |
アッシュ | ああ。こいつの言う事が本当ならば犯人は別にいるはずだ。そいつが見つかるなら文句はない |
アッシュ | そしてこいつが犯人だった場合…自分が生き残るために、共犯者を真犯人として突き出す事だろう |
アッシュ | それなら捕らえた真犯人を問い詰めて全てを明るみに出す |
アッシュ | いずれにしても俺達は真実に近づく事が出来る |
ガイ | なるほどな。嘘でも本当でも問題ないって事か |
アッシュ | ああ…だが警戒は解くなよ。隙を見て逃げる可能性もあるからな |
ルーク | おい、さっきから何二人だけでこそこそ話してんだよ |
| |
| ザッザッザッザッ… |
兵士の声 | こっちにいたぞ!皆、陣形を崩すな! |
| |
ルーク | げっ、あいつら…!俺を追って来たのか! |
ガイ | シルヴァラントの兵士か!随分と数が多いな |
アッシュ | …ああ。まるでこっちに俺達がいるのを知っていたかのようだ |
| チャキ… |
ルーク | なっ…!おまえ、なんで俺に剣を向けんだよ! |
アッシュ | 嵌めやがったな。俺を足止めしておいて、自分ごと兵士に捕らえさせる算段だったんだろ |
アッシュ | アッシュが二人いるのは不自然だ。だからルークに変装してたってわけか? |
ルーク | なっ…違う!誤解だって!自分まで捕まるなんておかしいだろ! |
ガイ | …犯人は国の根幹を揺るがす大事件を起こすような奴だ。そのぐらいの犠牲は覚悟の上かもな |
ルーク | ガイまで…!おまえら、本気で言ってんのか!? |
アッシュ | もはや問答している時間はない |
アッシュ | ここでおまえを捕らえ、シルヴァラントの兵士に引き渡す |
ルーク | 冗談じゃねえ…!俺だって捕まるわけにはいかねえんだ |
アッシュ | 拘束するぞ!ガイ! |
ガイ | ああ!観念しろ! |
ルーク | だーっ!こうなりゃ逃げるしかねぇ! |
ガイ | させるか! |
ルーク | すまねぇ、ガイ! |
| ドンッ |
ガイ | くっ…! |
アッシュ | 待ちやがれ! |
| ガサササ… |
アッシュ | 茂みに入ったのか。どっちに逃げやがった |
アッシュ | …… |
アッシュ | …ちっ、見失った。ガイ、大丈夫か? |
ガイ | 悪い。転んだだけだ |
アッシュ | あいつ…ガイの動きの癖を知り尽くしているような動きだった… |
ガイ | 逃げられちまったな |
アッシュ | 兵士がもうそこまで来ている。俺達もここを離れるぞ |
ガイ | ああ |
| 繋がる点と点 |
ガイ | ふう…何とか見つからずに済んだな。あの偽ルークの事も完全に見失っちまったが |
アッシュ | …… |
ガイ | 何か気になる事でもあるのか? |
アッシュ | 些細な事だが…一つ引っかかる点がある |
アッシュ | あいつの身のこなし…幼い頃、ルークと剣を交えた時の事を思い出すものがあった… |
アッシュ | もっとも、太刀筋や間合いの取り方は似ても似つかなかったが… |
ガイ | って言っても、魔物と戦ってるのを少し見ただけだろ?気のせいって事もあるんじゃないか |
アッシュ | だが…おまえの動きを読んだあの動きも偶然か? |
ガイ | …まさか、別世界のルークだっていう話を信じるのか? |
アッシュ | …信じられんが、筋は通る。今はあらゆる可能性を検討すべきだ |
ガイ | なるほどな。ゼロスに言われた事を肝に銘じてるってわけか |
ガイ | 注意深く真実に辿り着きさえすればルークが真犯人なわけがないって信じてるんだな |
アッシュ | …違う。雑な調査をしたくないだけだ |
ガイ | それでもいいさ。俺は少しほっとしたぜ |
ガイ | おまえもやっぱりルークの事を気にかけてたんだってわかったからな |
アッシュ | 何を勘違いしているかは知らんが…俺には弟を守ろうなどという気はないぞ |
アッシュ | 例え、ルークが無実の罪を着せられてもその疑いを晴らすのはあいつ自身だ |
アッシュ | ただ俺は、この事件の解決のため真犯人を慎重に捜しているにすぎない |
ガイ | …もし、ルークが犯人でも捕らえてシルヴァラントに引き渡すって事か? |
アッシュ | 当然だ。これは責任の問題だ |
ガイ | …だよな。変な事聞いて悪かったよ |
| |
ルドガー | なかなか戻って来ないな…ミュウどこまで行ったんだ? |
ルドガー | まさか、道に迷ったんじゃ… |
| |
| ガサガサ… |
ルドガー | ん?ミュウか? |
| ガサッ |
ルーク | おわっ!? |
ルドガー | …っ!?ルーク! |
| |
ルーク | ルドガーか!会えてよかったぜ |
ルドガー | あれ…?ミュウは一緒じゃないのか? |
ルーク | ミュウ?会ってねぇけど…ここにいないのか? |
ルドガー | 分史世界についてすぐ、ルークを捜しに行ったんだ |
ルドガー | すぐに戻るって言ってたんだけど…会えてないって事は道に迷ったのかもしれないな… |
ルーク | ったく、あいつは… |
ルーク | まあ…心配ねえよああ見えてしぶとい奴だ。その内ひょっこり姿を見せるだろ |
ルーク | それより、さっきの奴らの事を何とかしねぇと… |
ルドガー | さっきの奴ら?誰かと会ったのか? |
ルーク | ああ。アッシュとガイなんだけどよ。俺を何かの犯人だと思ってるみてぇなんだ |
ルドガー | 犯人…?何か事件が起こってるのか? |
ルーク | ああ…それも、ちょっと厄介な事になってるらしくてな |
ルドガー | 何があったのか詳しく聞かせてくれ |
ルーク | わかった。俺もよくわかんねぇから、あいつらの言葉をそのまま言うぜ |
ルーク | …で、何でか俺が真犯人だろって急に言われ出して、逃げるしかなかったんだ |
ルドガー | なるほど… |
ルーク | な?わけわかんねぇだろ? |
ルドガー | …少し整理させてくれ。この世界で起こった事を順に並べて行こう |
ルドガー | 話を総合すると、アッシュがキムラスカの親善大使で、ガイと共にシルヴァラントに向かった |
ルドガー | だけどシルヴァラントでは親善大使を名乗る何者かが王に斬りかかる事件が起こって |
ルドガー | その犯人は、ルークに似た顔をしている。…ここまでは合ってるか? |
ルーク | たぶんな |
ルドガー | 複雑なのはここからだ。その犯人は逃げて、シルヴァラントの兵士が追っている |
ルドガー | そこで俺達が正史世界からやってきてルークはその兵士達に見つかってしまった |
ルドガー | 兵士達から逃げたと思ったら、今度はアッシュ達にも捕まりそうになった |
ルーク | ああ。その通りだ |
ルドガー | これは推測だけど、アッシュ達も、その兵士達から逃げてる最中だったんじゃないかな |
ルーク | 何でだよ。兵士達が追ってるのは俺だぞ? |
ルドガー | 自分では気付きにくいと思うけど…ルークとアッシュはよく似た顔をしてる |
ルドガー | 前に…クロノスと戦った後倒れた君をアッシュが宿まで運んでくれた事があっただろう |
ルドガー | あの時も、二人の顔が並んでいるとまるで兄弟のように似てるってみんな言ってたぐらいだ |
ルドガー | それに、この世界では実際に二人は兄弟だと言ってたんだろ? |
ルドガー | そっくりだったとしても不思議はないと思わないか? |
ルーク | うーん…そういや、前にアッシュと会った時、ミュウが変な事言ってたな |
ルーク | 俺とアッシュの雰囲気が似てるとか何とか…あん時は、ふざけんなって怒ったけど |
ルドガー | それに、その真犯人が似せるならルークじゃなくアッシュに似せるはずなんだ |
ルドガー | だってこの世界ではアッシュが親善大使なんだから |
ルーク | それもそうか… |
ルドガー | だから兵士達が本来追ってるのはアッシュ達なんだと思う |
ルドガー | その最中にアッシュと似ているルークを見かけたものだから犯人だと誤解したんじゃないか? |
ルドガー | それにアッシュからすれば、自分にそっくりの知らない人がいたら犯人だと思い込むのも当然だろう |
ルーク | えっと、真犯人がアッシュに似てて俺がアッシュに似てるから俺が真犯人に間違われて… |
ルーク | だーっ!わけわかんねぇつーの! |
ルドガー | いや…この話、もう少し単純かもしれないぞ |
ルーク | …?どういう事だよ |
ルドガー | この世界のルークがアッシュを装って事件を起こした…そういう可能性もあるんじゃないかな |
ルドガー | もしそうだとしたら、兵士がルークやアッシュを追う理由もアッシュがルークを疑う理由もわかる |
ルーク | いくら世界が違うからって、俺がいきなり国王に斬りかかったりすると思うか!? |
ルドガー | しない…と言いたいけど世界が違えば、性格も違う事がある。負の因子に憑りつかれれば、尚更だ |
ルドガー | 前に行った分史世界では、あのスレイが人類を滅ぼそうとしてた事もあったぐらいだ |
ルーク | スレイが!?そんなに変わる事もあんのかよ! |
ルーク | …じゃあ、本当に…この世界の俺が… |
ルドガー | あくまで推測の域は出ないが… |
ルドガー | ルークに異変が起こったのは、この分史世界のルークが負の因子に憑りつかれたからのはずだ |
ルドガー | この世界のルークが関わっている可能性は高いと思う |
ルーク | なるほどな…。んじゃ、俺の事もアッシュの事もこの世界の俺を見つければ解決か |
ルドガー | そういう事になるな |
ルーク | …ん?そういや、こっちに来てから俺、異変っての起こってねぇな |
ルーク | 認識されねぇどころか見つかって追い回されたりしてたぐらいだ |
ルドガー | 確かに、俺もルークの事を忘れたりしてない。分史世界では異変が止まるのか…? |
ルーク | じゃあ、慌てなくてよさそうだな |
ルドガー | そうだといいけど…早く行動するに越した事はないと思う |
ルドガー | …なあ、ルーク。アッシュと協力する事は出来ないか? |
ルーク | アッシュと?無理じゃねえかな…俺を斬ろうとした奴だぜ? |
ルドガー | でも、この世界のルークが犯人の可能性がある以上、利害は一致するだろう |
ルドガー | ルークの話の通りなら話せば聞いてくれる人みたいだし丁寧に説明すればわかってくれるかも |
ルーク | それはそうかもしれねえけどよ… |
ルドガー | このままアッシュや兵士達に追われていたら俺達はろくに動けない |
ルドガー | アッシュを説得出来れば、だいぶ状況がよくなると思わないか? |
ルーク | まあ、確かに、そうかもな…。わかった。もう一度話してみるか |
ルドガー | ああ。ミュウが戻ってきたらすぐに── |
ルーク | …いや、行くなら今すぐだ。アッシュも兵士達に追われてるからこの森を離れちまうかもしれねぇ |
ルーク | ミュウの事なら心配ねぇよ。言ったろ?あいつはあれで、結構しぶといって |
ルドガー | …ルークがそう言うなら、俺もミュウを信じるよ |
ルーク | そうと決まりゃ、アッシュを捜そうぜ |
ルドガー | ああ。まずはルークが来た方向に行ってみよう |
scene1 | 偽の親善大使 |
ガイ | さて、これからの動きだが── |
アッシュ | さっきの奴を捜す。今のところ他に手がかりはないからな |
ガイ | そうだな。でも、どうやって捜す?もう森を出てるかもしれないぞ |
アッシュ | いや。よく思い出してみろ。あいつは誰かの名前を呼びながら歩いていた |
ガイ | 最初に声をかけた時か…確か、ルドガーとかミュウとか言ってたな |
アッシュ | この森の中で仲間と合流出来ずにいるんだ。まだ近くにいる可能性は高い |
アッシュ | それに俺達は、ルークに似た奴本人でなくその仲間の方を見つけてもいいんだ |
アッシュ | たった一人を捜すよりも幾分かマシだろう |
ガイ | わかった。このまま森の中を捜してみよう |
アッシュ | …もし、日没までに奴らを見つけられなければ… |
アッシュ | 一度国に戻り、全て報告して、ルークの所在を調べる |
ガイ | ルークの所在を…。それはつまり、さっきの奴の話を信じるって事か? |
アッシュ | 全ての可能性を考えているだけだ |
アッシュ | 先入観で決めつけたり、感情に流されたりしないようにな |
ガイ | 感情、か。やっぱりおまえ、ルークの事… |
アッシュ | ふん。あんな奴でも弟だ。 |
| |
ガイ | アッシュ!危ない! |
| ドンッ |
| |
アッシュ | なっ…!? |
| ザシュ…! |
ガイ | ぐっ! |
| |
| ドサッ |
| |
アッシュ | ガイ! |
??? | ちっ。邪魔しやがって… |
アッシュ | おまえ…まさか、ルーク…なのか? |
ルーク | ふん。信じられねぇって顔だな。俺に斬りかかられるのがそんなに意外か? |
アッシュ | 何の真似だ! |
ルーク | …次は仕留める! |
| |
| ギィンッ! |
アッシュ | くっ…! |
ルーク | これを受け止めるとはさすがだな。だが…! |
| キンッ! |
アッシュ | ぐっ…!弾かれただと!? |
ルーク | 俺も強くなったんだよ! |
| キンッ!キン、キン! |
アッシュ | この太刀筋…!間違いない…!ルーク! |
ルーク | 相変わらず強いな、アッシュ |
ルーク | でも、これなら…ついに、俺が、おまえに勝つんだ! |
アッシュ | …! |
| ガギィン! |
ルーク | 避けずに受け止めるとはな。その従者がそこまで大切か? |
アッシュ | 手負いの人間を狙うとは…落ちるとこまで落ちたな、ルーク! |
ルーク | はっ。おまえに勝つためなら何だって利用する |
アッシュ | …おまえがそこまでの屑だとはな |
ルーク | ああ。俺は屑だ。でも、おまえは違うんだろ? |
ルーク | 優等生のおまえなら怪我人を見捨てたりは出来ねぇよな! |
アッシュ | …ふん。卑怯な真似をしないと戦えないような奴に遅れは取らねぇ |
ルーク | これは殺し合いだ。どんな手を使っても、命を取れば勝ちだ! |
アッシュ | やれるもんならやってみやがれ! |
| ガンッ! |
ルーク | くっ…! |
アッシュ | おまえの望みどおり、殺し合いをしてやる。だが一つだけ答えろ |
アッシュ | 親善大使である俺の名を騙ってシルヴァラント王に会い、剣を向けたのは…おまえか? |
ルーク | ……ああ |
ルーク | おまえに成り代わってシルヴァラントに宣戦布告をしたのはこの俺だ |
アッシュ | っ…! |
ルーク | おまえは他国でも顔が通ってるんだな |
ルーク | 念のためにと思って用意した偽の親書も使う事なく、この顔だけで王に会う事が出来たぜ |
アッシュ | 何が目的だ。俺を消して、王にでもなりたいのか |
ルーク | …わかってんじゃねぇか |
ルーク | おまえはシルヴァラントから追われる身。逃亡中に殺されても不思議はない |
ルーク | もし無事に国まで逃げ帰れたとしても大罪人として処分される |
ルーク | そうしないと、シルヴァラントとの戦争は避けられねぇもんな |
アッシュ | …浅いな。おまえの計略はそれだけか |
アッシュ | 今の話をバチカルに持ち帰り伯父上に報告する。それでおまえは終わりだ |
ルーク | …へっ、それは無理な話だぜ |
アッシュ | どういう意味だ |
ルーク | 俺の仲間がナタリアを監禁してる |
アッシュ | 何っ! |
ルーク | もし俺に何かあって王位を継げないような事態になったら…ナタリアはこの世から消える |
ルーク | 俺達はナタリアと結婚する事ではじめて王位を継げるんだ。そのナタリアがいなくなれば… |
アッシュ | …そこまでするのか |
ルーク | さっきも言っただろ。どんな手でも使うってな |
ルーク | 諦めろ、アッシュ。おまえはもう終わりだ。どうあがいても王にはなれない |
ルーク | 最後に選べよ。おまえ一人が犠牲になるか、俺を殺してナタリアも失うか |
アッシュ | 期待に沿えなくて悪いが俺はどっちも選ばねぇ |
アッシュ | 目的がおまえの王位継承ならおまえが生きている限りナタリアに下手な事は出来ないはずだ |
アッシュ | なら俺は、おまえを生け捕りにしてナタリアも救う |
| チャキッ |
アッシュ | 大罪人、ルーク・フォン・ファブレ。この俺が直々に裁いてやる! |
ルーク | やってみろ、アッシュ!俺は遠慮なく剣を振り抜く──! |
scene2 | 偽の親善大使 |
| ザシュ! |
ルーク | ぐぅっ…!…さすがに無傷とはいかないか。やるな |
アッシュ | …ふん。おまえこそ腕を上げたな。 |
アッシュ | だがその怪我なら、動きは鈍る。降参した方が身のためだぞ |
ルーク | この程度の傷…! |
アッシュ | (ちっ…踏み込みが甘かったか? 本気で俺を殺すつもりの奴を 生け捕りにするのは厳しいか) |
ルーク | …おまえは昔からそうだったな。いつも冷静なくせに、ナタリアの事になると頭に血が上る |
アッシュ | …何? |
ルーク | 大事な従者を忘れてたろ?ここからなら… |
アッシュ | てめぇ!ガイには手を出すな! |
ルーク | アッシュ。ガイとナタリアを助けたけりゃ自害するんだな |
アッシュ | …… |
ガイ | …くっ…アッシュ…だめだ… |
ルーク | 何だ。目を覚ましてたのか |
ガイ | 俺に構うな…。おまえなら、わかるはずだ…どうするべきか… |
ガイ | 国に必要なのは…おまえと…ナタリア…! |
ルーク | …そうか。国に必要とされなかった者同士…せめて楽に殺してやるよ |
| チャキッ |
アッシュ | ガイ! |
ルーク | じゃあな |
| |
??? | やめろーーーっ!! |
| ギィン! |
ルーク | くっ、誰だ…!? |
アッシュ | …おまえは! |
| |
ルーク | あいつは俺が引き付ける!おまえは今のうちにガイを! |
アッシュ | ああ…! |
アッシュ | 掴まれ、ガイ! |
ガイ | …悪い、足引っ張っちまって… |
アッシュ | おまえが無事ならそれでいい |
ルドガー | こっちだ! |
アッシュ | おまえは…? |
ルドガー | 詳しい事は後で。今は逃げる事を優先するんだ。援護は任せてくれ |
アッシュ | …わかった、頼む |
ルドガー | 行くぞ、ルーク! |
ルーク | はあ!?何言って── |
ルーク | おう! |
ルーク | …その姿、その声…同じ名前…?何なんだ、おまえ… |
ルーク | その質問には答えらんねーな!へっ、隙だらけだぜ! |
| ギィン! |
ルーク | しまっ…! |
| ドサッ |
ルーク | ぐあっ…! |
ルーク | じゃあな! |
ルーク | 待ちやがれ…! |
ルーク | ぐぅっ…!…傷が… |
ルーク | くそっ、アッシュ…!絶対に許さねぇ… |
ルーク | 次は必ず…この手で…! |
| 共同作戦 |
ルーク | この辺りまで来ればいいだろ。あいつも、すぐには追ってこれねぇみたいだったしな |
アッシュ | 見通しが利く奇襲されにくい場所…湖のお蔭で警戒する方角も限られている…か |
アッシュ | 腰を落ち着けるには適しているな |
ルーク | お、おう。まぁな |
ルーク | (そこまで考えてなかったけど…) |
ルーク | ところで、ガイ。怪我はどうだ? |
ガイ | ああ…大丈夫だ。もう自分で歩けるし、傷もそんなに深くない |
アッシュ | …浅くもないだろう。見せてみろ |
ガイ | 意外と心配性だよな、お前。いててて… |
アッシュ | 俺を助けた怪我が原因で倒れられても面倒だからな。…礼は言っておく |
ガイ | はは。従者が主を守るのは当然だろ?それより、礼を言うべきなのはあっちの二人にだ |
ガイ | 誰だかは知らないがお蔭で命拾いしたぜ。ありがとな |
アッシュ | 礼を言う。世話になった |
ルーク | 気にすんなって。…しかし、ガイがよそよそしいと何か調子狂うんだよな |
ルドガー | 仕方ないさ。彼は俺達の知ってるガイとは別人なんだから |
アッシュ | …別のガイ、か。こことは別の世界のガイがいる…という事か? |
ルドガー | ああ |
ガイ | 嘘をついているようには見えないし別の世界から来たって話を信じるしかないみたいだな |
アッシュ | …そのようだな。改めて聞く。おまえ達は何者で、何を目的にしている |
ルドガー | じゃあ、まず名前から。俺は、ルドガー・ウィル・クルスニクこっちは── |
ルーク | さっきも言ったけど、一応な。ルーク・フォン・ファブレだ |
アッシュ | ルドガーに…ルーク…か。…俺達の事はわかっているようだが礼儀としてこちらも名乗っておく |
アッシュ | 俺の名はアッシュ・フォン・ファブレだ |
ガイ | 俺はガイ・セシル |
ルドガー | 俺達の目的については…どう説明していいのか難しいんだけど… |
ルドガー | 一言で言うと、この世界のルークに会いに来たんだ |
アッシュ | ……。あいつに何かあるんだな? |
ルドガー | ああ。事の起こりは、俺達の世界でルークが── |
アッシュ | …正史と分史…。そして負の因子…か |
ガイ | 驚くような話ばかりだな…こっちの世界の影響でそっちのルークが忘れられるだなんて |
アッシュ | …負の因子の目印になる黒いもやというやつには心当たりがある |
アッシュ | さっきルークと戦っている最中にそれらしいものを見た |
ルドガー | やはりそうか…早く取り除かないとどんな事が起こるかわからない |
ガイ | 今回の大事件も負の因子の影響によるものって事なんだよな? |
ルドガー | 可能性は…ある。抱えていた強い感情の一部が膨らんで凶行に及ばすのを見てきた |
アッシュ | …凶行、か。まさしく、そのものだな |
ルドガー | これまでの経験だと負の因子を破壊すれば、本来の自分を取り戻せると思う |
ガイ | 本当か!光明が見えたな、アッシュ |
アッシュ | …… |
ルーク | そういや、負の因子を破壊ってどうすりゃいいんだ? |
ルドガー | おそらく…戦う必要がある。今までも説得してみたけど行動を止める事は出来なかったんだ |
ルドガー | 仮説だけど、戦って消耗させる事が条件になっているんじゃないかな |
ガイ | …それじゃあ、ルークと戦う事は避けられないのか… |
アッシュ | 負の因子とやらを破壊するのに戦う事が必要であればやるしかないだろう |
ガイ | そりゃそうだが…俺はお前とルークの確執が深まらないかが心配なんだよ |
アッシュ | …くだらない心配をするな |
ルーク | 二人の確執ってなんだ?ここじゃ、兄弟なんだろ? |
アッシュ | 取るに足らん些細な事だ |
ルドガー | この世界のルーク…。負の因子の持ち主の事は知っておきたい。もし何かあるなら教えてほしい |
アッシュ | …くだらん昔話にすぎんぞ |
ルドガー | ああ、頼むよ |
アッシュ | …俺とルークは、ファブレ公爵家に生まれた双子の兄弟だ |
アッシュ | 俺達は国王の甥にあたり、どちらかが王位を継承すると生まれた時から決められている |
アッシュ | だから俺達は幼い頃から王位を継ぐに相応しい人間になるべく教育を受けて来た |
ルーク | どっちが王位継承者になるか、揉めそうな話だな… |
ガイ | そうならないようにって国王陛下もいろいろ考えてたんだけどな |
ガイ | 俺は子どもの頃から二人とずっと一緒だったから細かく様子を聞かれたりしてたんだ |
ガイ | 二人も、争うより協力しようって話していたしそのために切磋琢磨していた |
ガイ | …はずなのに、いつの間にか王位を巡って二人は争っている状態になっちまった |
アッシュ | くだらん。俺は争っているつもりはない。あいつが勝手に暴走してやがるんだ |
ルーク | …でも、それは負の因子の影響があるからだろ? |
アッシュ | どうだかな。今になって考えれば、ずっと昔から計画してたようにも思える |
ルドガー | そうなのか? |
アッシュ | あいつは数年前から俺を避けていやがった |
アッシュ | 話す機会もなくなったし何を考えてるのか、わからん |
ガイ | だからって、アッシュを殺す計画を練っていたとは思えないぞ |
アッシュ | だが実際、ルークは俺を殺しに来た。あいつの抱えていた感情がはっきりしたというわけだ |
ルーク | それは、負の因子が影響してるせいかもしれないだろ!? |
アッシュ | …どうだかな |
ガイ | 結局、負の因子ってのを破壊してから本人に直接聞くしかない |
ルドガー | 負の因子を破壊したいのは俺達も一緒だ |
ルドガー | 利害は一致してるし、力を合わせないか? |
アッシュ | …そうだな。ルークを捕えるためにも人手がある方がいい |
アッシュ | それにナタリアの事もある。俺とガイだけでは手に余る事態だ |
ガイ | 俺も賛成だ。よろしく頼むな |
ルーク | あ~、よかった!これで、おまえらからは逃げなくてすむな |
アッシュ | 元より、追う理由はなくなった。ルークが罪を白状した事でおまえの疑いも晴れたからな |
ルーク | そういやそっか |
ルーク | ところで、そのルークって呼び方何とかならねぇかな。一瞬、俺の事かと思っちまうんだよ |
ルドガー | …確かに、これから一緒にルークを追うなら呼び分けた方がいいかもな |
ガイ | …とは言ってもどっちも全く同じ名前なんだよな。どうする? |
アッシュ | 無理に呼び方を変えても混乱の元だ。どちらの事を言ってるかぐらい話の流れで理解しろ |
ルーク | いや理解は出来るけど一瞬びっくりするんだって |
アッシュ | 慣れろ |
ルーク | はぁ…仕方ねぇか |
ルーク | よし!負の因子を破壊して、二人が仲直り出来るように頑張ろうぜ! |
アッシュ | …待て。何を勘違いしている? |
ルーク | ん…?何がだ? |
アッシュ | 俺の目的はルークを捕え、その罪を裁く事だ |
アッシュ | 今更、良好な関係を築くつもりなどない |
ルーク | 何でだよ。罪を裁くにしたって仲直りしてもいいだろ? |
アッシュ | …必要ない |
アッシュ | 私情は邪魔になる。相手は国を揺るがす大罪人…厳格な処罰が必要だ |
ルーク | 厳格な…って、まさか… |
| |
アッシュ | 極刑も、十分あり得るという事だ |
| |
ルーク | な、何とかならねえのか?実の弟なんだろ!?おまえだって嫌なはずだ! |
アッシュ | 今言った通りだ |
アッシュ | 弟の罪は、俺が責任を持って裁く。それが兄として出来る唯一の事だ |
ルーク | ぐっ…!ガイはどうなんだよ。止めなくていいのか? |
ガイ | …俺はアッシュの意志を尊重する |
ルーク | ガイもか…。ああもう…この世界の俺、何て事しでかしてんだよ… |
アッシュ | …これ以上、ごちゃごちゃ抜かすなら協力の話はなしだ |
アッシュ | いざという時に邪魔されるかも知れないからな |
ルーク | そんなつもりはねぇけどよ… |
ルドガー | アッシュ、君達の事情はわかった。君の覚悟についても |
ルドガー | 俺達は、負の因子を破壊して、アッシュ達は、ルークを捕まえる。その目的さえ変わらないなら問題ない |
ルドガー | それぞれの目的のために力を合わせよう |
アッシュ | …いいだろう。行くぞ |
| |
ルドガー | 行くって…ルークの居場所に目星がついてるのか? |
アッシュ | ああ。首謀者が俺の考える人物なら拠点は大体絞れる |
ルドガー | 首謀者…!? |
ルーク | そんな奴がいるのかよ! |
アッシュ | おそらく…ルークが妄信する剣術の師… |
アッシュ | キムラスカの騎士団長アレクセイ・ディノイアだ |
| 帳の裏側 |
ルーク | はぁ…はぁ…ちっ、完全に見失った… |
ルーク | ぐっ…!くそっ…アッシュにやられたとこが… |
| ガサガサ… |
ルーク | …!誰だ! |
ミュウ | ご主人様!やっと見つけたですの! |
ルーク | な、何だ、おまえは!魔物…チーグル族か!?何でしゃべれるんだ!? |
ミュウ | …あれ?髪が短い…服も違うですの… |
ミュウ | あの、ご主人様…ですの? |
ルーク | 気味悪ぃな、あっち行け!ご主人様なんて知らねぇ── |
ルーク | ──っ!ぐっ… |
ミュウ | どうしたんですの!? |
ミュウ | あ!大変ですの!怪我してるですの! |
ルーク | 寄るんじゃねえ! |
| バシッ! |
ミュウ | みゅぅぅ! |
ルーク | ふんっ… |
ミュウ | みゅうぅ…やっぱり…ご主人様じゃないですの… |
ルーク | ちっ…。一度先生のところに戻った方がよさそうだな… |
ミュウ | あっ、待ってくださいですの!無理に動いたら傷が開きますの! |
ルーク | うるせぇ。大声出すんじゃねぇよ。兵士達に見つかるだろうが |
ミュウ | みゅ…追われてるですの?…何か悪い事したですの? |
ルーク | 余計なお世話なんだよ。これ以上ごちゃごちゃ言うなら斬るぞ |
| チャキ |
ミュウ | みゅうぅっ!ごめんなさいですのー! |
ルーク | …行ったか |
| ズリ…ズリ… |
ルーク | はぁ…はぁ… |
ルーク | (くそっ…あいつの言う通り 動くと傷が…) |
ルーク | (何だこのぐらい…) |
ルーク | ぐぅっ…!駄目だ…痛ぇ… |
ミュウ | あ、いたですの! |
ルーク | おまえ…何で戻ってきやがった… |
ミュウ | 薬草を採ってきたんですの!これ、傷口に貼ってくださいですの! |
ルーク | …おまえ…これを渡すために…? |
ミュウ | あ、あの、これをお渡ししたらボクはすぐ行きますの。だから斬らないでほしいですの |
ルーク | ああ、そうしろ── |
ルーク | …ん?おまえ、よく見たら泥だらけの傷だらけじゃねえか |
ミュウ | これは、ちょっと転んだだけですの |
ルーク | …薬草を採ろうとして無理したんじゃねぇのかよ |
ミュウ | みゅうぅ… |
ミュウ | で、でも、これぐらい平気ですの!ボクの心配をしている場合じゃないですの! |
ルーク | …… |
ルーク | …はぁ、わかった。貸せよ |
ミュウ | はいですの! |
| ムギュッ |
ミュウ | みゅ? |
ルーク | そのままじっとしてろよ |
ミュウ | あの…ボクの怪我に使うんじゃないですの |
ルーク | …いいんだよ。もらった薬草をどう使おうが、俺の勝手だろ |
ルーク | こんだけありゃ、俺の分も十分足りる。おまえは大人しくしてろ |
ミュウ | …ありがとうですの |
ルーク | …これで少しすりゃ傷も治るか |
ミュウ | あの…その傷、何があったんですの? |
ルーク | …見りゃわかんだろ。斬られたんだよ…兄貴にな |
| |
ルーク | だが、次こそは必ず俺があいつを殺してやる |
| |
ミュウ | こ、殺す…ですの!?そんなの、駄目ですの! |
ルーク | 何も知らねぇくせに説教でもする気か? |
ミュウ | みゅうう…ごめんなさいですの |
ミュウ | でも、ボクを助けてくれた優しい人がお兄さんと殺し合いなんて…きっと辛いですの |
ルーク | …優しい人、か。嬉しくねぇ言葉だな |
ルーク | 俺は情を捨てたんだ…。あいつと殺し合うと決めた時に |
ミュウ | みゅう…仲直りは出来ないんですの? |
ルーク | 命の取り合いはとっくに始まってる |
ルーク | …先生があいつの謀略を教えてくれなかったら俺は知らない内に殺されてた |
ルーク | どっちかが消えるしかねぇんだよ |
ミュウ | そんな… |
ルーク | …ったく、何を焦ってやがんだろうな |
ルーク | 俺は出来が悪いんだから、放っておいても王位はあいつのもんだったのによ |
ミュウ | …本当はお兄さんと殺し合いなんてしたくないんですの…そういうお顔ですの… |
ルーク | …違う!俺は…! |
| |
??? | この声…ルーク、そこにいるのか? |
| |
ルーク | っ!この声は…先生! |
ミュウ | ルーク…? |
ルーク | おまえなんかと一緒にいるところを見られたくねぇ。そこの茂みに隠れてろ! |
ミュウ | え…? |
ルーク | 早く!絶対に出てくるなよ! |
ミュウ | は、はいですの! |
| ガサガサ |
アレクセイ | …ここにいたのか、ルーク |
ルーク | 先生…! |
ミュウ | (ルーク…って、やっぱりあの人、 この世界のご主人様ですの!) |
ミュウ | (…それに先生って… ヴァンさんとは違う人ですの…) |
アレクセイ | 話し声が聞こえた気がしたが……一人か? |
ルーク | はい |
アレクセイ | 任せていた件はどうなった |
ルーク | それが…その… |
アレクセイ | その怪我…返り討ちに遭ったか |
ルーク | すみません…。せっかく、先生が期待して任せてくれたのに… |
アレクセイ | 気に病む事はない。まだ機会はある |
アレクセイ | おまえはまだ生きている。まだ剣を握り、アッシュに立ち向かえるだろう |
アレクセイ | 諦めず何度でも戦うのだ |
アレクセイ | それとも…やはり兄に剣を向ける事は出来ないか? |
ルーク | いえ…。今度こそ、必ず仕留めます |
アレクセイ | 剣を交えてわかっただろう。アッシュはおまえを本気で殺すつもりだ |
アレクセイ | あいつは欲に溺れている。自らの王位継承権を盤石にするためどんな手段でも使ってくるだろう |
アレクセイ | もしかすると最初はおまえを殺す気などないような素振りを見せたのではないか? |
ルーク | そういえば…確かに |
アレクセイ | 奴の狡猾な手段だ。結果を見ろ。おまえは奴に斬られた |
アレクセイ | 迷いがあってはアッシュに勝てない。おまえも非情になれ |
アレクセイ | ……。おまえが斬れぬなら私がやろう |
ルーク | …いえ。今度こそ…必ず…アッシュを…この手で殺します! |
ルーク | 俺を殺そうとした事、必ず後悔させてやる…! |
アレクセイ | いいだろう。おまえ自身の手で決着を付け、国を背負う者としての覚悟を見せよ |
ルーク | はい…! |
ミュウ | (だ、駄目ですの!) |
アレクセイ | 拠点まで戻るぞ |
ルーク | はい、先生 |
ミュウ | (行っちゃうですの! 止めなきゃ…ですの!) |
| 軋轢の始まり |
ガイ | アレクセイ騎士団長…って、アッシュ、本気で言ってるのか? |
ガイ | あの人が裏で糸を引いてるとなると一大事だぞ |
ガイ | ルークの不祥事どころじゃない。最悪、国を真っ二つに分けた抗争になりかねない |
アッシュ | …既に始まってる。アレクセイは戦争による国力増強を主張していただろう |
アッシュ | 今回、ルーク達の行動によってシルヴァラントとの和平を望む俺達の親善活動が妨害された |
アッシュ | そして親善大使となった俺を殺害しアレクセイを妄信するルークを王にしようとしている… |
ガイ | …確かに、全て騎士団長にとって優位に働く事ばかりだ… |
ガイ | でも、仮にも騎士団長としてこんな行動に出るとは思えない |
アッシュ | 俺もそう思っていたが…ルークを巻き込んでこんな事が出来る人物も、他にいないだろう |
アッシュ | …あいつは数年に渡って人との接触を自ら断っていた。剣の師であるアレクセイ以外とはな |
ルーク | 剣の師…か |
ルーク | 自分の師匠を信頼する気持ちはよくわかるんだけどよ… |
ルーク | いくらなんでも実の兄を殺そうなんて思うか? |
ルーク | 兄弟の絆ってのがどんなもんか俺にはわかんねぇけど、師弟の妄信を超えてるだろ |
ルドガー | ルーク…そうか、ヴァンの事… |
ルーク | ああ…。俺は師匠を信じて人さらいもやった |
ルーク | でもそれは、騙されてたとはいえいい事だと思ったからやったんだ |
ルーク | もし誰かを殺せって言われても絶対にやらないし、師匠が間違ってるなら剣も交えた |
ルーク | だからこそ信じらんねぇんだ。師匠に言われただけで家族を殺そうとするなんてな |
アッシュ | 何が言いたい。ルークが俺を殺しに来たのは事実だ |
ルーク | そうだけどよ…!それは負の因子の影響ってやつだと思うんだ |
ルーク | だから負の因子さえ破壊すりゃそのアレクセイって奴のいいようにはされねぇんじゃねぇかって |
アッシュ | …それはあくまでおまえの話だろう |
ガイ | まぁ…ルークは騎士団長に依存している部分があるよな |
アッシュ | アレクセイは人心掌握に長けた男だ |
アッシュ | 負の因子の影響がなくてもルークを思い通りに動かす事は出来るだろう。妙な期待はするな |
ルドガー | …そうか。負の因子を壊しても、ルークが変わらない事を心配してるんだな… |
アッシュ | アレクセイの言葉だけであいつが豹変したのなら、負の因子を破壊しても何も変わらん |
ルーク | なぁ、そもそも、こっちの俺はどうしてそこまでアレクセイだけを妄信してんだ? |
ルーク | アッシュだってずっと一緒にいたんだろ?何も言わなかったのかよ |
アッシュ | …… |
ガイ | さっきも言ったが、ルークは騎士団長以外とはまともに口を利かなかったんだ |
ガイ | 俺やアッシュも含めてな… |
ルドガー | 何か事情があったのか? |
ガイ | きっかけはたぶん…あの時の事だ。アッシュ、話していいか? |
アッシュ | 勝手にしろ |
ガイ | わかった |
| |
ガイ | …アッシュとルークは幼い頃から将来王位を継げるようにって、厳しく育てられてきたんだ |
ガイ | 二人は、どちらが王になっても協力して国を背負っていくんだって誓いあったりしてな |
アッシュ | …… |
ガイ | 二人は何をやらせても優秀だったが剣術に関しては、ルークはアッシュになかなか勝てずにいた |
ガイ | その様子を見てた騎士団長が、ルークが勝てないのは優しすぎるせいだと指摘したんだ |
ガイ | 相手に強力な一撃を入れる事を迷ってほんの僅かに踏み込みが甘くなるんだと |
ガイ | ルークは騎士団長に頼み込んで猛特訓してもらってな。ついにアッシュに勝つ事が出来た |
ガイ | それがきっかけで、ルークは騎士団長を信頼し始めたんだ |
ガイ | 何か困った事があるとアッシュや俺よりもまず騎士団長に相談したりしてな |
ガイ | それから少しずつ話す機会が減っていったんだ |
ルーク | 待てよ。さっき、どっちが王になってもいいようにって言ってたよな |
ルーク | なのにどうして、アッシュを殺して王位を奪おうなんて話になってんだよ |
ガイ | 俺もそこが腑に落ちないんだ |
ガイ | ルークはアッシュに勝った時も、アッシュと肩を並べて国を守れるなんて喜んでたのに… |
アッシュ | …肩を並べて、か… |
ガイ | だから、アッシュ。ルークの行動には負の因子の影響があると思うんだが…どうだ? |
アッシュ | ……。確かにその可能性が高いと考えた方が全てに説明がつくな |
アッシュ | あいつに負の因子が憑りついた事で変化が起きたなら、それを見逃すアレクセイじゃない |
アッシュ | 上手く便乗して今回の計画を立てたんだろう |
ルーク | つまり…負の因子の影響とアレクセイの計画、両方合わさって今の状況って事か |
| |
ガイ | そういう事になるな。少し複雑だが… |
| |
ルーク | 複雑でも関係ねぇ。原因が二つあるなら二つとも取り除けばいいんだ |
ルーク | 負の因子もぶっ壊してアレクセイって奴もぶっ飛ばしてあいつの目を覚まさせてやる! |
アッシュ | 闘志を燃やすのは勝手だが人質を取られていると動きづらい。まずナタリアの救出が先だ |
アッシュ | アレクセイが首謀者だという裏付けも取る必要がある。まずは調査からだ |
ルーク | お、おう。それで、調査ってのはどうやるんだ? |
アッシュ | さっきも言ったが、奴らの居場所に心当たりがある |
アッシュ | シルヴァラントとキムラスカの国境近くにある建物──かつて騎士団の駐屯施設だった場所だ |
ガイ | そうか…!確か騎士団長が中心となっている強硬派の連中が密かに使ってた場所だ |
アッシュ | ああ。強硬派の動きを探った時に騎士団を使って武器や資材を運び込んでいる事が判明した |
アッシュ | あの時は怪しい物も見つからず急を要する状況ではないと判断したが… |
アッシュ | この時のための拠点だった可能性がある |
ガイ | この森からそう遠くないし、行ってみる価値はありそうだ |
アッシュ | ああ。まずはそこを偵察するぞ |
ルドガー | わかった |
ルーク | 待ってくれ、アッシュ。その建物ってこの森の外にあるのか? |
アッシュ | ああ。街道を挟んで内海側の別の森の中だ |
ルーク | もう一人…いや一匹か。仲間がこの森ではぐれてんだけど見かけてねぇか? |
ルーク | しゃべるチーグル族なんだけどよ |
アッシュ | …いや、見てないな。ガイはどうだ? |
ガイ | 俺も見てない。捜しに行くか? |
アッシュ | 捜すなら一旦別行動だ。人質を取られている以上、あまり時間をかけていられないからな |
ルドガー | ミュウの事は心配だけど…どうする、ルーク? |
ルーク | …… |
ルーク | あいつなら…心配ないよな。悪い、大丈夫だ |
ガイ | いいのか? |
ルーク | ああ。全部終わってから捜しに戻ってくりゃいいだろ |
ガイ | わかった。その時は、俺達も捜すのを手伝うよ |
ルーク | ありがとな |
アッシュ | 行くぞ |
scene1 | 罪と覚悟 |
アッシュ | あの建物だ |
ルーク | 結構、でけぇな |
アッシュ | 以前調査した時よりも見張りが多く厳重だ。何かあるのは間違いない |
ルドガー | 正面突破は無理だな。どうする? |
アッシュ | 誰かが敵の注意を引き付けて他の者で調査する |
ガイ | …あいつらの注意を引けるといえば… |
アッシュ | 奴らの標的である俺か…ルーク、おまえだろうな |
ルーク | 仕方ねーな。俺が行ってやるよ |
ルーク | 敵の本命であるアッシュが行ったんじゃ囮の意味ねぇからな |
アッシュ | わかった |
ルーク | じゃあ、決まりだな。早速── |
アッシュ | …!待て、声を抑えろ |
ルーク | えっ…? |
| |
| ガサガサ |
アッシュ | そこの茂みに誰かいるな。出てこい |
| ガサッ |
ルーク | あ、おまえ…! |
ミュウ | みゅうぅ… |
ルドガー | ミュウ!? |
ミュウ | あっ…!ルドガーさん!それに… |
ルーク | ブタザル!こんなとこまで来てたのかよ! |
ミュウ | ご主人様!会いたかったですのー! |
ルーク | おわっ!くっつくなって! |
ガイ | しゃべるチーグル…そいつがさっき言ってた仲間か? |
ルーク | ああ。ミュウって言うんだ |
ミュウ | はじめまして…って、あれ?ガイさんと、アッシュさんですの |
ルドガー | この世界のガイとアッシュだ。ミュウとは初対面だよ |
ミュウ | そうでしたの。ミュウですの。よろしくお願いしますですの |
アッシュ | …ああ |
ガイ | よろしくな。…ん?もしかしてそのリング… |
ミュウ | はい、ソーサラーリングですの。これのお蔭でボクみなさんとおしゃべり出来るですの |
ルーク | しゃべれるだけじゃねぇんだぜ。こいつ炎が吐けるんだけどリングの力ですげぇ火力を出せるんだ |
ガイ | そりゃすげぇ |
ガイ | …ん?待てよ、炎か… |
アッシュ | おい、そのぐらいにしろ。作戦通り、あそこに乗り込むぞ |
ミュウ | みゅっ…!?みなさん、あそこに行くんですの? |
ルーク | ああ。何かあるのか? |
ミュウ | ボクは…あそこに入って行ったこの世界のルークさんを追って来たんですの |
ルーク | なっ…! |
アッシュ | おまえ、ルークに会ったのか |
ミュウ | はいですの。でもあの建物に入って行って…ボク、怖くて近づけなかったんですの |
ルドガー | それでこの辺りから遠巻きに様子を見てたのか |
ミュウ | そうですの。…あっ、そういえば… |
ミュウ | ルークさん、先生っていう人とアッシュさんの事を話してたんですの |
ミュウ | その…こ、殺す…って… |
アッシュ | …気を遣う必要はない。それはもうルークから直接言われている |
アッシュ | それにしても…先生…やはりアレクセイか |
ガイ | ミュウ。どんな話をしてたのか詳しく教えてくれるか? |
ミュウ | はいですの |
アッシュ | ここで長話をするわけにもいかない。一度離れるぞ |
scene2 | 罪と覚悟 |
ミュウ | …と、いうわけですの |
ガイ | 何か、アレクセイの言い方だとまるでアッシュが先にルークを殺そうとしたみたいだな |
アッシュ | おそらくルークはそう思い込まされているんだろう。アレクセイならそのぐらい造作もない |
アッシュ | だが、そんな嘘に乗せられて大罪を犯すほど愚かだったとはな |
ルーク | そんな言い方する事ねぇだろ。誤解があるってわかったんだ、ちゃんと説明すりゃいいじゃねぇか |
アッシュ | 説明してどうなる。誤解がとけたところであいつの罪が消えるわけじゃない |
ミュウ | でも…ルークさん、辛そうでしたのお話してあげたら、きっと喜ぶと思うですの |
アッシュ | くどいぞ。この話は終わりだ |
| |
ルーク | いや、終わらせんじゃねぇ。ちゃんと向き合えよ |
アッシュ | だから。今更あいつと向き合ったところでもう遅いと言ってるんだ |
ルーク | なあ、おまえ何から逃げようとしてんだよ |
アッシュ | 逃げる…だと? |
ルーク | ルークと本音で向き合うのが怖いのか? |
アッシュ | 馬鹿を言うな。俺は何も恐れてなどいない! |
ルーク | 俺の目を見て言えよ! |
アッシュ | ……っ |
ルーク | おまえは本当に…後悔しねぇのか? |
アッシュ | …うるせぇ。俺が後悔したら何だってんだ |
アッシュ | これは俺だけの問題じゃねぇ。あいつの気持ちはどうなる? |
アッシュ | 誤解がとけるという事は信頼しているアレクセイと袂を分かつという事だ |
アッシュ | そしてその後、和解した俺から断罪されるんだぞ |
アッシュ | …あいつは何回絶望すればいい? |
ルーク | …!おまえ… |
アッシュ | それだったら…アレクセイを信じ、俺を恨んだまま断罪される方がずっといいだろう |
ガイ | アッシュ…そんな事を考えてたのか… |
ルドガー | …君の気持ちはわかった。でも、だからこそ俺はルークと話をしてほしいと思う |
アッシュ | …何故そこまで対話にこだわる。これは俺とルークの問題であって、おまえ達には関係のない話だろ |
ルドガー | …俺にも兄さんがいるんだ。だから…俺がルークの立場だったらって想像したんだよ |
ルドガー | すれ違ったまま…兄さんが俺をどう思って断罪するのかわからないなんて辛い |
ルドガー | アッシュからの言葉で今のルークの絶望を少しでも和らげられると思うんだ |
アッシュ | ………… |
| |
アッシュ | …ちっ。俺も腹を括るか |
| |
アッシュ | あいつには…言いたい事が山程ある |
アッシュ | これまで何も言ってこなかったのは俺が手を差し伸べる必要はないと思ってたからだ |
アッシュ | だが、その結果…あいつはアレクセイから差し伸べられた手を取った… |
ルーク | だったら、今からでもいい。ちゃんと話し合おうぜ |
ルーク | 上手くいけば、殺し合いまではしなくて済むかも知れねぇだろ |
アッシュ | …そう上手く行くかはわからんが… |
アッシュ | いいだろう。ルークに会ったら、全て話そう |
ルーク | よし来た!じゃあ、二人が話せるように作戦を考えねぇとな! |
アッシュ | いや…これは俺の個人的な問題だ。おまえ達が危険を冒してまで付き合う必要はない |
ルーク | おいおい。今更、水臭い事言うなって! |
ルドガー | ああ。乗りかかった舟だ。それにルークを説得するとなると負の因子の事も考えなきゃならない |
ルドガー | 俺達にとっても重要な事なんだ |
ガイ | 俺も、二人の幼馴染として最後まで見届けたいしな |
アッシュ | わかった。…頼む |
ガイ | 任せてくれ。で、その作戦だが… |
ルーク | 俺が囮になるって話だったよな。一人で飛び出して行って見張りの気を引けばいいのか? |
ガイ | それなんだが、もしかすると誰も囮にならなくてもいいかもしれない |
アッシュ | 何か考えがあるんだな |
ガイ | ああ。ちょっと試したい作戦がある。ミュウ、手伝ってくれるか? |
ミュウ | みゅ…? |
scene1 | 強襲の騎士団長 |
アッシュ | ──では、今話した作戦で潜入する。成功するかどうかは、おまえ達の陽動にかかっている |
ルーク | おう。任せとけって! |
ルーク | 万が一、ガイとミュウの作戦に支障があったら、元の作戦通り、俺が囮になるぜ |
アッシュ | わかった |
アッシュ | 互いに隙を見つけて潜入した後、合流はせず、二手に分かれて拠点を調べるぞ |
ガイ | 確か、中はかなり広いよな。入ってからの作戦は? |
アッシュ | 第一の目的は人質の確保。ナタリアの安全を確保出来れば、格段に動きやすくなる |
ルドガー | ナタリアはここにいる可能性が高いんだよな? |
アッシュ | ああ。奴らの拠点の数と位置を考えるとここが一番適している |
アッシュ | それにあの警備の数…ナタリアがここにいる前提で行動した方がいいだろう |
アッシュ | …他に確認しておく事はないな?敵拠点に近づいたら速やかに作戦を開始する |
ルドガー | ああ、もう大丈夫だ |
アッシュ | 行くぞ |
scene2 | 強襲の騎士団長 |
警備兵1 | …はぁ、暇だな。こんな場所、誰も来ねぇだろうに警備なんて必要か? |
警備兵2 | おい、口を慎めよ。騎士団長に聞こえるぞ |
警備兵1 | 聞こえてもどうって事ねぇさ。俺はただの傭兵で、奴に忠誠を誓ってるわけじゃねぇからな |
警備兵2 | だったら、どうしてここにいるんだ |
警備兵1 | この計画が成功して戦争が始まりゃいい金になるからな |
警備兵2 | それなら尚更、口に気を付けた方がいいぞ。あの方の逆鱗に触れでもしたら── |
| |
| ガサガサ… |
警備兵2 | む、何だ…!? |
警備兵1 | …見ろ!あそこの茂み、動いてないか!?こっちに来るぞ! |
| |
警備兵2 | 動く茂みなんてあるか!魔物じゃないのか? |
魔物? | がおおおおおっ!…ですの |
警備兵2 | やはり魔物か! |
ルーク | うまく騙されてるみてぇだな。ミュウにそこらの枝をかぶせて大きくしただけなのによ |
ガイ | 問題なさそうだな。よし、次の段階に行こう |
ルーク | わかった。ミュウに合図を送るぜ |
ミュウ | (…ご主人様が手を上げたですの。 合図ですの!) |
ミュウ | がおお、がおおおおっ!…ですの |
| ボボボボォォォッ! |
警備兵1 | うわっ、あちっ!こいつ、火を噴くのか!? |
| ボボォ!ボボボォ! |
警備兵2 | こいつ、手当たり次第に…! |
| タッタッタッタッ… |
警備兵3 | 何の騒ぎ──なっ…!?何だこの巨大な魔物は…! |
警備兵4 | しかも火を噴いてる!?燃え移ったら一大事だ! |
警備兵2 | はい!すぐ騎士団長に報告を… |
警備兵4 | そんな暇はない!すぐに討伐するぞ! |
ルーク | 入口の方にいた警備兵もこっちに来たぞ! |
ガイ | アッシュ達が入って行くのが見えた。作戦成功だな |
ルーク | よし、仕上げだ、ミュウ |
ミュウ | (…ご主人様から合図ですの。 作戦成功ですの。 あとは…) |
ミュウ | がおおおおおおっ!…ですの |
| ガサガサガサ… |
警備兵3 | 逃げるぞ! |
警備兵4 | 森が燃やされては困る!追いかけて仕留めるぞ! |
警備兵2 | はい! |
警備兵1 | 行くぜ! |
| |
ルーク | あいつやるなぁ |
ガイ | 手筈通り、警備兵を誘導して戻って来られたらいいけど… |
ミュウ | はぁ、はぁ…お待たせしましたですの! |
ルーク | お。上手く逃げて来たみたいだな |
ミュウ | はいですの。ガイさんが用意した枝の魔物相手に戦いを挑もうとしていたですの |
ガイ | ひとまず警備兵は引き離せたな。とはいえ、はりぼての魔物だから、気付かれるのも時間の問題だろう |
ルーク | だな。今の内に移動しちまおうぜ |
ガイ | ああ。そこの裏口から中に入ろう |
| |
ガイ | …さて、入ったはいいが思ってたより広いな。どこから探すべきか… |
ミュウ | ナタリアさん、どこにいるんですの…? |
| コッコッコッ… |
ルーク | しっ…足音だ。誰か来るぞ |
ガイ | …!そこの資材の影に身を隠すんだ |
警備兵5 | …… |
ルーク | あいつ、食事を運んでるみてぇだな |
ガイ | 食堂があるにも関わらず、わざわざ食事を運び出してるのか…? |
ルーク | 誰かのために運んでる…って事は、ナタリア用か? |
ガイ | …その可能性は高いな。後をつけてみよう |
| |
警備兵5 | 姫様の食事を持って来たぞ |
警備兵6 | わかった。今開ける |
ルーク | (姫様…って事は…) |
| ガチャ |
警備兵5 | 姫、お食事です |
??? | …必要ないですわ |
ルーク | 今の声…ナタリアだ |
ガイ | ああ、間違いない。行こう |
| |
警備兵5 | 召し上がってください、姫。もし体調を崩されては困りますから… |
ナタリア | 私の体調を気にするなら、早く縄を解いて、帰しなさい |
警備兵6 | それは── |
| |
??? | ああ、すぐに帰してやるぜ |
警備兵6 | …!誰だ! |
| ドゴッ |
警備兵6 | うっ… |
| |
| バタン |
警備兵5 | し、侵入者──!? |
ガイ | はぁっ! |
| バキッ |
ナタリア | ルーク!ガイ! |
| |
ガイ | 無事か? |
ナタリア | ええ、大丈夫ですわ |
ルーク | …よかった。待ってろ、今縄を切るからな |
| ブチブチ… |
ルーク | これでよし |
ナタリア | ふう…助かりましたわ |
ナタリア | …ルーク、嬉しいですわ。最近こもりがちだったあなたがこうして助けに来てくれるなんて… |
ルーク | あー…俺はおまえの知ってるルークじゃねぇんだ |
ガイ | …信じられないだろうけど、こいつは、別の世界のルーク・フォン・ファブレなんだよ |
ナタリア | 別の世界…? |
ガイ | 説明は後だ。とにかくここを離れよう |
ナタリア | わかりましたわ |
| |
ナタリア | …では、こちらのルークは別の世界にいるルークなのですね |
ガイ | 理解が早くて助かるぜ |
ガイ | なあ、ナタリア。最後にルークと会ったのっていつだ? |
ナタリア | …かなり前ですわ。少なくともアッシュが親善大使として国を発つよりは前でしたもの |
ナタリア | どうして今そんな事を聞くんですの?まさか、ルークに何か…? |
ガイ | 何かあった…というか…実はナタリアの誘拐にあいつも関与しているんだ |
ナタリア | そんな…!どうして…!? |
ガイ | アッシュの読みでは首謀者はアレクセイ騎士団長だ。だからルークも言いなりに… |
ナタリア | アレクセイが?本当ですの? |
| |
??? | 勝手に出歩かれては困ります。ナタリア姫 |
ナタリア | …! |
ルーク | 誰だ! |
ミュウ | あっ、この人… |
ガイ | アレクセイ…騎士団長! |
| |
アレクセイ | 外で妙な魔物が出たと報告を受けて念のために見に来たが…嫌な予感ほどよく当たる |
ルーク | おまえが全ての元凶か!よくも、のこのこ出てきやがったな! |
アレクセイ | …おまえがもう一人のルークか。ルークから話は聞いている |
アレクセイ | まさに瓜二つだな。利用価値がありそうだ |
ルーク | 何…!? |
ナタリア | その言い方…罪を認めるのですね |
アレクセイ | この期に及んで弁解など意味を持ちますまい |
アレクセイ | 全てを知られてしまった以上、始末するほか道はありません |
ナタリア | 何ですって…? |
ガイ | 一国の王女に手をかけるっていうのか…! |
アレクセイ | 騎士団が守るべきは国。我が国をより豊かにするためなら王女とて斬るのみ |
アレクセイ | それに…表向き、犯人はおまえ達という事になる |
アレクセイ | 我々騎士団による救出作戦も空しく王女はおまえ達の凶刃に倒れてしまわれたという筋書きだ |
ルーク | 好き勝手言いやがって… |
ナタリア | あなたの好きにはさせませんわ! |
ガイ | ああ。いくら騎士団長と言えど三対一ではどうにもならないだろ |
ルーク | おまえの事は許せねぇと思ってたんだ… |
ルーク | あいつはおまえを信じてるんだ、そんな奴の気持ちを弄びやがって…俺が代わりにぶっ飛ばしてやる! |
アレクセイ | 威勢のいい連中だ。口だけでないといいがな |
ルーク | …ミュウ。先に行って、ナタリアを助けた事アッシュ達に伝えてくれ |
ミュウ | は、はいですの! |
アレクセイ | 行かせると思うか? |
| チャキ |
ルーク | おらぁっ! |
| ガキィン! |
アレクセイ | …中々やるようだな |
ルーク | 今だ、行け!ミュウ! |
ミュウ | はいですのー! |
アレクセイ | 一匹逃がしたか。…まあいい |
| ガンッ |
ルーク | くっ…! |
ガイ | ルーク! |
アレクセイ | 覚悟は出来ているのだろうな。我が力…その身をもって思い知るがいい |
scene3 | 強襲の騎士団長 |
| ガキィン──! |
ガイ | くっ…! |
ナタリア | さすがは騎士団長…強いですわね |
ルーク | やっぱ一筋縄ではいかねぇな |
アレクセイ | ふっ…思いの他やるようだな |
ルーク | (…こいつの戦い方、 何か違和感がある…) |
ルーク | (手加減されてるような… まさか…時間を稼いでる? でも、何のために…) |
ルーク | …!そうか! |
ルーク | ガイ、ナタリア!聞いてくれ! |
ガイ | 何だ、こんな時に…! |
アレクセイ | ふ、構わん。作戦会議が必要ならするがいい。戦局は何も変わらんがな |
ルーク | (やっぱりだ…。 あいつは時間を稼ぎたがってる) |
ルーク | …いいか。よく聞いてくれ── |
scene1 | 果たせない誓い |
アッシュ | …首尾よく潜入出来たな |
ルドガー | 広いとは聞いていたが、想像以上だな。…調べるのは骨が折れそうだ |
アッシュ | 手分けするぞ。おまえは向こう端から頼む |
ルドガー | わかった。何かあれば合図を出すよ |
ルドガー | …アッシュ、一つだけ確認しておきたいんだ |
アッシュ | 何だ |
ルドガー | 人質救出より先にルークに会ったらどうする? |
アッシュ | 状況による。話せる機会があれば様子を確認する |
アッシュ | 負の因子とやらの影響がどの程度か見極めねぇと話が通じるかどうか判断出来ん |
アッシュ | 話し合いが無理だと少しでも感じたら実力行使だ。長々と説得する余裕はないからな |
ルドガー | そうか…わかった。…ルークと話せるといいな |
アッシュ | …ああ。行くぞ |
ルドガー | (…この部屋にも何もない…か。 資材や武器を置いている部屋が 多いな…) |
ルドガー | (次は…) |
ルドガー | (人の気配が…) |
ルドガー | (…! あれは…!) |
アッシュ | …ルークはこの中か |
ルドガー | ああ。見た限りでは、一人のようだ |
アッシュ | 話をするにはおあつらえ向きか… |
アッシュ | …俺が入って話す。外で何か問題があれば、知らせてくれ |
ルドガー | わかった。…上手く行くよう祈ってる |
アッシュ | …ああ |
| |
| ガチャ |
アッシュ | …ルーク |
ルーク | アッシュ!どうしてここに…? |
アッシュ | ケリを付けに来た。…おまえが俺に聞きたいのはそんな事なのか? |
ルーク | …… |
ルーク | …どうして裏切ったんだ。二人で国を背負おうってこの剣に誓ったのに… |
アッシュ | 誤解だ。俺は裏切ってなど── |
ルーク | 嘘をつくな! |
ルーク | 隠したって無駄だぜ。おまえ、俺を消すためにいろいろ根回ししてたんだろ |
ルーク | 全部、先生から聞いてるよ |
アッシュ | 俺の言葉には聞く耳も持たねぇ癖にアレクセイの言葉は信じるのか |
ルーク | うるせぇ! |
ルーク | おまえは、俺が邪魔なんだろ。わかるんだ |
ルーク | 俺も、おまえが憎くて憎くて邪魔で仕方ねぇ。絶対に許せねぇんだ |
ルーク | こそこそと人を消して王になろうとする、おまえみたいな屑に国は任せらんねぇ! |
ルーク | おまえを殺して、俺が王になる。これが俺の選んだ道だ! |
アッシュ | …ルーク。それは本当に、国のためなのか。ただの俺への憎しみじゃないのか |
ルーク | おまえを憎む事が!おまえを王にさせない事が!国のためになるんだ! |
アッシュ | …話にならんな。これも、負の因子の影響ってやつか |
| |
ルーク | 剣を抜けよ、アッシュ |
| チャキ |
| |
ルーク | 今ここで、息の根を止めてやる! |
| ヒュンッ |
| ガキィィン! |
アッシュ | ちっ…!目を覚ましやがれ! |
| ドカッ |
| |
| バゴォンッ! |
アッシュ | くっ…! |
ルドガー | アッシュ…!大丈夫か!? |
ルーク | 仲間もいたのか |
警備兵の声 | 何の騒ぎだ!? |
アッシュ | ちっ、邪魔な奴らが集まって来そうだな |
ルドガー | どうする。一度態勢を立て直すか? |
アッシュ | いや…ここで退くわけにはいかねぇ |
ルドガー | わかった。警備兵は俺が相手する |
アッシュ | 任せた |
ルーク | …今度は逃げねぇんだな |
アッシュ | おまえと向き合うと決めたからな |
scene2 | 果たせない誓い |
ルドガー | はぁっ! |
| ドカッ |
警備兵7 | ぐっ… |
| ドサッ |
警備兵8 | おのれ!大人しくしろ! |
ルドガー | くっ…次から次へと…! |
アッシュ | はっ! |
| キィン! |
アッシュ | …今のも弾くか。腕を上げたな |
ルーク | 当たり前だ。おまえに勝ったあの日から二度と負けねぇように鍛えて来たんだ |
ルーク | なのに…何だ、その戦い方は!おまえはそんなもんじゃねぇはずだろ! |
| キィン! |
アッシュ | …ふん。俺の心配をする余裕まであるとはな |
ミュウ | 見つけたですの!ルドガーさん!アッシュさん! |
ルドガー | ミュウ! |
ルーク | あいつ…あの時の… |
ミュウ | ナタリアさんを見つけて救出しましたの! |
ルーク | ちっ…警備の奴らは何してやがんだ |
アッシュ | そうか…。 |
| チャキ |
アッシュ | もう手加減はしねぇ |
ルーク | 本気で来い、アッシュ!それでも俺の方が強いって事を見せてやる! |
scene3 | 果たせない誓い |
ルーク | ぐぅっ…!さすがだな…! |
ルーク | だが、まだ…! |
アッシュ | おまえは強くなった。…だからこそ残念だ |
| ドカッ |
ルーク | ぐあぁぁっ! |
| ガタガタガタ |
ルーク | 残念…だって…?それは…こっちの台詞だぜ… |
アッシュ | …何? |
ルーク | おまえに俺を殺す事は出来ねぇ。偽親善大使の犯人として、差し出す必要があるもんな? |
アッシュ | …… |
ルーク | その顔、図星ってわけだ。この状況でまだ俺を捕らえられるって? |
ルーク | 笑わせんな! |
ルーク | 相手を殺す覚悟のねぇ奴に俺は負けたりしねぇ!! |
| ガキィン! |
アッシュ | くっ…おまえ…まだこんな力が… |
ルーク | 俺は!自分だけの居場所を手に入れるんだ!! |
ルーク | そのためには、おまえが邪魔だ! |
アッシュ | この… |
| |
??? | ふざけるな! |
| |
ガイ | おまえの居場所はアッシュの隣じゃなかったのかよ! |
ルーク | なっ…! |
アッシュ | はあっ! |
| ガキィンッ |
ルーク | しまっ… |
ナタリア | アッシュ!無事ですの!? |
アッシュ | ああ、問題ない |
ルドガー | 二人共、無事でよかった。…ルークは一緒じゃないのか? |
ガイ | …アレクセイと戦ってたんだが警備兵に囲まれそうだからって俺達だけ先に逃がしてくれたんだ |
ナタリア | 私やガイが捕まって人質になったらアッシュが戦いにくいからと… |
ミュウ | ご主人様…ボクにもアッシュさんのために先に行けって…心配ですの |
アッシュ | ふん…ルークの奴…余計な気を回しやがって |
ルーク | ルーク、ルークって… |
ルーク | 俺の事は消そうとしたくせにあいつとは手を取り合って仲良しごっこか? |
ナタリア | ルーク… |
ルーク | …なあ、ナタリア。どうして大人しくしててくれないんだ |
ルーク | 先生から言われてるんだ。逃がすぐらいなら…口を封じなくちゃいけないって |
ナタリア | 本気ですの…? |
ルーク | 俺はやらなきゃならねぇんだ! |
ルーク | 邪魔をする奴は誰だろうと斬る!相手が誰であろうと関係ねぇ! |
| |
??? | いい心掛けだ、ルーク |
アッシュ | …!おまえは… |
| |
アレクセイ | 私も加勢しよう |
scene1 | 交わる剣 |
ルーク | 先生! |
ガイ | 騎士団長がここにいるって事は…ルークは…!? |
アレクセイ | 今頃、私の部下が捕えているだろうな |
ミュウ | そんな…!ご主人様を助けるですの! |
ルドガー | ミュウ!アッシュ、俺もルークのところへ行く。ここは任せていいか |
アッシュ | ああ、こっちは気にするな |
ルドガー | すまない! |
ナタリア | もう一人のルークを捕らえて手駒としての利用を企むなど、どこまでも下劣ですわね |
アレクセイ | キムラスカの発展のためになるならどのような汚名も我が誉れです |
アッシュ | キムラスカの発展だと?笑わせるな |
アッシュ | シルヴァラントとの親交を妨げ、王家を転覆させようとする者が国の未来を語るんじゃねぇ! |
アレクセイ | 解釈の相違だな。王家など、ただの象徴にすぎん。国民が納得さえすればルークで十分だ |
アレクセイ | シルヴァラントとの親交も国の発展を想えば必要のない事 |
アレクセイ | 対等な和睦を結ぶより実力で支配してしまった方が富国強兵に繋がる事は明白だ |
アッシュ | だが多くの血が流れる事になる |
アレクセイ | そう。おまえや王は手を汚す事を嫌って親睦策を進めて来た |
アレクセイ | だが私は、国のために手を汚す事を厭わない。大義のためなら罪を背負おう |
ガイ | こんな事に大義なんてあるかよ! |
アレクセイ | 綺麗事の中にしか大義を見出せぬ者にはわからんだろうな |
ナタリア | 詭弁ですわ。そんな事に民がついて来ると思っていますの? |
アレクセイ | 私について来る必要はない。私が豊かにした国を治めるのはここにいるルークだ |
ルーク | …わかっただろ、アッシュ。先生は俺を王として認めてくれてるんだ |
ルーク | 俺は先生や民の期待に応えられる立派な王になってやる。おまえなんていなくてもな! |
アッシュ | 何でわからねぇんだ、ルーク |
アッシュ | おまえを必要としてるのはアレクセイだけじゃない |
アッシュ | 俺が王になった時、おまえが一緒に国を背負ってくれるんじゃなかったのか |
ルーク | 今さら何言ってんだ。親善大使として供にガイを連れて出たのだって、俺は不要だと知らしめるためだろ |
アッシュ | …そう吹き込まれていたのか |
ガイ | 誤解だ、ルーク!あの時、アッシュはおまえを連れて出ようとしてたんだぞ |
ルーク | 嘘をつくな! |
ナタリア | その話は私も聞いています。本当ですわよ! |
アレクセイ | …ルーク。私か奴ら、どちらの言葉を信じるかはおまえの自由だ |
アレクセイ | だが、何が真実であれ今、この状況でやるべき事は変わらないのではないか? |
ルーク | …そうだ。もう、過去の約束なんて関係ねぇ |
| |
ルーク | 話は終わりだ!全員まとめて殺してやる! |
| |
| チャキ |
アッシュ | ちっ…結局こうなるのか…! |
| |
ルーク | はぁ…はぁ…あいつの部下は何人いやがんだ。いくらぶっ飛ばしても減らねぇ |
ルーク | いい加減、そこを通しやがれ! |
警備兵9 | アレクセイ様の命だ!行かせるわけにはいかん! |
警備兵10 | この数に囲まれてるんだ、おまえこそ観念しろ! |
ルーク | 何人に囲まれようと、全員ぶっ飛ばしてやるだけだ! |
警備兵11 | 奴は疲れてきてる。仕上げだ、全員一斉に── |
| |
| ドカッ |
警備兵11 | ぐあっ… |
| |
| ドサッ |
警備兵10 | 何だ、おまえは! |
| |
ルドガー | ルーク、無事か! |
ミュウ | ご主人様!助けに来たですの! |
ルーク | おまえら!へっ、俺は一人でも平気だったのによ |
ルーク | …って言いたいとこだけど、正直、助かったぜ。ありがとな |
警備兵9 | 報告にあった侵入者か! |
警備兵12 | 一人増えたところで同じだ!全員捕えるぞ! |
ルーク | 一人と一匹だ!それに同じなんてとんでもねぇ |
ルーク | これで百人力だぜ! |
ルドガー | ここを切り抜けてみんなのところに戻ろう! |
ルーク | ああ! |
| |
アッシュ | はぁっ! |
| ガキィン! |
ルーク | ぐっ! |
ナタリア | 今ですわ…!はっ! |
| ヒュンヒュン |
| キン、キン |
ナタリア | そんな…二本とも…! |
ガイ | これならどうだ!秋沙雨! |
アレクセイ | 遅い |
| キンキキキキキキン…! |
ガイ | 全部受け止めるって…化け物かよ |
ルーク | 隙だらけだな!空破絶風撃! |
| バシュッ |
ガイ | くっ、かすった…! |
ナタリア | やはり、手ごわいですわね |
ガイ | ああ。息が合ってる。師弟だけあってお互いの戦い方を熟知してるな |
アッシュ | それだけじゃない。ルークは大胆な攻撃をするようになった |
アッシュ | アレクセイに背中を預けられるという信頼があってこそだ… |
ルーク | しゃべってる暇があんのか。俺と先生の連携に、おまえらが勝てるはずねぇんだよ! |
| ガキン! |
アッシュ | …ちっ、てめぇ── |
| |
??? | 連携が何だってんだ!だりゃぁっ! |
ルーク | なっ…! |
| |
| ガキィン! |
ルーク | おまえは…! |
| |
ルドガー | みんな、大丈夫か!? |
ガイ | ルーク、ルドガー!ミュウも!無事だったんだな! |
ミュウ | はいですの! |
アレクセイ | …使えん部下共だ。足止めすら出来ないとは |
ルーク | 何人増えようと同じだ、邪魔する奴は斬る! |
ルーク | 同じ顔はいらねぇ…俺は、俺だけで十分だ! |
アレクセイ | そうだ。もう一人のルークには利用価値があるが、元より計画にはいない存在… |
アレクセイ | 殺したところでどうにでもなる |
ルーク | 好き勝手言いやがって。こっちだって、おまえらまとめてぶっ飛ばさねぇと気が済まねぇんだ! |
アッシュ | ここで方を付けるぞ! |
アレクセイ | 来るがいい。この戦いが、私の理想の礎となるのだ! |
scene2 | 交わる剣 |
ルーク | ぐっ…俺は…まだ… |
| |
アッシュ | もういいだろう、ルーク。いい加減、俺と…そして自分自身と向き合う覚悟を決めろ |
ルーク | 俺は…何も間違ってねぇ…!苦しくて辛くて…足掻いて…やっと見つけた道なんだ! |
ルーク | 間違ってたって言うんなら… |
ルーク | じゃあ俺はどうすればよかったんだ!教えてくれよ!! |
アッシュ | 情けねぇ。持ち主が腑抜けじゃ、誓いの剣が泣いてるな |
ルーク | 剣が…誓いが何だってんだ!こんなもの…! |
アッシュ | この剣に恥じるような事してんじゃねぇ…この屑が!! |
| バキィッ |
ルーク | うぅっ…! |
| |
ルーク | なぁ、アッシュ…王様になれなかった方は大人になったらどうなるんだろうな? |
アッシュ | わかんねぇが、好きなもんになりゃいいだろ |
ルーク | だったら俺は…王様を支える騎士になりてぇな。アッシュは? |
アッシュ | …俺も似たようなもんだ |
アッシュ | なぁ、どっちが王になっても、俺達は二人で国を背負おう |
ルーク | 一緒に王様をやるって事か? |
アッシュ | 王は一人だ。だが、王の誇りは二人で持てる |
アッシュ | 二人、肩を並べて対等の関係で国のために生きるんだ |
ルーク | へへ、いいな!じゃあ、この剣に誓おうぜ!せっかくお揃いなんだし |
アッシュ | 伯父上からいただいた双子の剣か。ああ、ちょうどいい |
ルーク | 決まりだな。じゃあ、剣先を合わせて… |
アッシュ | …こうか |
| チャキン |
ルーク | 俺は誓う。いかなる時も王者の誇りを持ち力を合わせて国を背負う |
アッシュ | 俺も誓おう。どれだけ時が経とうと、俺達は肩を並べ、国を守る |
| |
ルーク | …ごめん…アッシュ… |
| |
| ドサッ |
アッシュ | …! |
| |
アッシュ | …何だ、今のは… |
ルドガー | 負の因子が壊れたんだ…! |
ルーク | じゃ、これで元に戻るのか!? |
ルドガー | そのはずだけど、あとは目が覚めるのを待つしかない |
アッシュ | なら、他の事を片付けるぞ |
ガイ | そうだな。他の奴らが起きる前に縛っておかないと |
ナタリア | それなら地下室の縄を使うといいですわ |
ルドガー | それじゃあ、手分けして拘束していこう |
| 兄として |
ルーク | …う…ここは…? |
ルーク | ん…? |
| ギシッ |
ルーク | 俺、縛られて… |
ルーク | …ああ、そうか俺…何て事を… |
アッシュ | …気分はどうだ、ルーク |
ルーク | アッシュ…。何だか長い事、悪い夢を見てたみたいだ |
ルーク | …俺、またおまえに負けたんだな |
アッシュ | …ああ |
ルーク | 話したい事がたくさんあるんだ…でも…何を話せばいいのか…わからない |
ルーク | ただ…謝っても済まない事をたくさんしちまったのはわかってる |
アッシュ | …… |
アッシュ | …何から話すべきだろうな |
アッシュ | 我ながら情けない事だ。おまえと向き合うと決めておきながらいざとなると言葉が出ない |
| |
ルーク | …俺は…こんな言葉で済むとは思ってねぇけど… |
| |
ルーク | 悪かった、アッシュ。全部…俺が弱かったせいだ |
ルーク | 少し考えれば、先生の言ってた事がおかしいって…わかったはずなんだ |
アッシュ | …気付いていたのか |
ルーク | …ああ。でも、何も考えられなかった。おまえへの憎しみで頭がいっぱいで… |
アッシュ | ………… |
アッシュ | …わかっているようだが |
アッシュ | 俺は、おまえを殺そうなんてしていない。不要だと思った事もない |
アッシュ | おまえと二人、肩を並べて国を支えていくと誓ったあの日から俺の気持ちは変わっちゃいない |
ルーク | そんなの、俺だって…!なのに、どうしてこんな事になっちまったんだろうな… |
アッシュ | …その憎しみの原因は、負の因子ってやつらしい |
ルーク | 負の因子…? |
アッシュ | ああ。俺も詳しくは知らないが性格が変わっちまうものらしい |
アッシュ | そいつを壊したから今こうして話が出来ているんだろう |
ルーク | ──『負の因子は道標』 |
アッシュ | …何だ、それは |
ルーク | ずっと前に、変な男と会ってそう言われたんだ |
ルーク | 意味わかんなかったけど、何でか忘れられなくて |
アッシュ | …ルドガーなら何か知っているかもしれないな |
ルーク | …でも、関係ねぇんだ。負の因子ってやつのせいで憎しみが芽生えたんだとしても… |
ルーク | その憎しみで行動に移しちまったのは、俺だ |
ルーク | …アッシュ。俺の首をシルヴァラントに差し出してくれ |
アッシュ | …… |
ルーク | おまえは親善大使としてシルヴァラントとの親交を取り戻す必要がある |
ルーク | おまえのために出来る事はもうこれしか残ってない |
アッシュ | …それでいいのか |
ルーク | ああ |
アッシュ | …… |
アッシュ | …わかった |
アッシュ | ルーク、ひとつ言っておく |
アッシュ | おまえは大罪人だ。国葬もされないだろう |
アッシュ | 国民から、世界中から、罵倒されるかも知れん |
アッシュ | だが…俺にとっては… |
アッシュ | …自慢の弟だ |
ルーク | …ありがとう、アッシュ。それが聞けただけで、満足だ |
| |
| ガチャ |
| |
ガイ | 話は終わったのか? |
アッシュ | …ああ |
ナタリア | ルークの事…これからどうするんですの? |
アッシュ | …まず国に連れて帰り、伯父上に全てを報告する |
アッシュ | おそらく、シルヴァラントに引き渡すという事になるだろう。本人もそれを希望している |
ナタリア | そんな… |
ガイ | やっぱり…そうなるよな… |
アッシュ | ああ… |
ルーク | なぁそれって、シルヴァラントの王に斬りかかった犯人が裁きを受ければいいって事だろ? |
アッシュ | その通りだが…何がいいたい? |
ルーク | 名案を思いついたんだよ。シルヴァラントも納得出来てこっちの俺も助かる方法だ |
アッシュ | …何? |
ガイ | そんな方法があるのか…!? |
ルーク | ああ!超名案、聞いて驚くなよ!それは… |
ルーク | 俺が犯人になる事だ! |
| 紡ぐ未来 |
インゴベルト六世 | …そのような事件が起こっておったとはな |
アッシュ | 俺も想定外でした |
インゴベルト六世 | うむ…。しかし、偽者のルークとは敵も考えたものよ |
アッシュ | 偽の親善大使として俺を失脚させ同時にルークをも陥れる…実に巧妙な計画でした |
インゴベルト六世 | しかしルークはそれを暴き、おまえと共に犯人を捕らえた |
インゴベルト六世 | このところのあやつには目に余る物があったが…見直さねばならんようだな |
アッシュ | はい。それについては本人も反省しこれからを見ていてほしいと申しております |
インゴベルト六世 | わかった。期待しておると伝えよ |
アッシュ | はい |
| |
ガイ | さすがアッシュ。王様相手に嘘ついて汗一つかいてないとはな |
ナタリア | まあ、ガイ。それではまるでアッシュが大嘘つきみたいですわ |
アッシュ | …大嘘つきには違いない |
ルーク | でも…本当にこれでよかったのか…?あいつらは牢に入れられたんだろ? |
アッシュ | 問題ないだろう。本人がいいと言ったんだからな |
| |
ルーク | 超名案、聞いて驚くなよ!それは… |
ルーク | 俺が犯人になる事だ! |
ガイ | おまえが犯人に…?身代わりにでもなるってのか? |
ルーク | まぁ、そんなとこだな |
アッシュ | わかって言ってるのか?処刑される事になるんだぞ |
ルーク | 俺は殺されねぇよ。ただ、この世界から消えてなくなるだけだ |
アッシュ | この世界から…消える? |
アッシュ | …そうか。別の世界から来たおまえ達なら元の世界に戻れば済むという事か |
ルーク | そういう事。これにはルドガーの力が必要なんだけどな |
ルドガー | なるほどな |
ガイ | そんな簡単に戻れるものなのか? |
ルドガー | 元の世界に戻る時空の裂け目は俺とアッシュが接触すれば出現するはずなんだ |
アッシュ | 俺が? |
ルドガー | ああ。ルークの負の因子が壊れた時、アッシュに何か宿らなかったか? |
アッシュ | …そういえば、あったな。あれは何だ? |
ルドガー | ごめん…詳しくはわかってないんだ。ただ…ある人は、あれの事を道標と呼んでいた |
ルドガー | そしてこれまでは、あれが宿った人と俺が触れる事で元の世界に戻れていたんだ |
アッシュ | …つまり、俺とおまえが揃えばこの世界から離脱出来るんだな |
ルドガー | ああ |
| |
アッシュ | …ルドガーの言う通り、あいつに触れたら、時空の裂け目とやらが出現した |
アッシュ | 裂け目を観測して出現の法則性もわかったしな |
アッシュ | 後はその時空の裂け目を使ってあいつらを上手く逃がしてやれば今回の件は終わりだ |
ルーク | …いいのかな。先生は牢に入ってるのに俺だけ無罪放免なんて… |
ガイ | 騎士団長──じゃなかった。元騎士団長は、さすがに野放しには出来ないからな |
アッシュ | だが、偽ルークに騙されていた事になっている。本来の罪よりも、よほど軽い |
アッシュ | もしおまえが気が咎めるからと真実を話せば、二人共、処刑という事もあり得る |
ルーク | それはそうだけど…アッシュらしくないな |
アッシュ | 「自分と向き合え」…そう言われたからな |
アッシュ | それに、親善大使としても、この嘘は悪くないと思っている |
アッシュ | シルヴァラントや諸外国から見たキムラスカの印象が変わってくるからな |
ナタリア | 確かに…騎士団長と王位継承候補者が結託したとなると、国の威信に関わりますわ |
ナタリア | 国内に不穏分子を抱えているとなればまた何か事件を起こす可能性を孕んでいるように感じますし… |
ナタリア | その点、偽ルークという一人の悪党が騎士団長を騙して起こした事件なら犯人さえ捕まれば解決ですわね |
アッシュ | そういう事だ。この方が各国と良好な関係を築きやすい |
ガイ | 問題は、現実は不穏分子を抱えたままだって事だけどな。強硬派はまだいるだろ? |
アッシュ | その事については考えがある。ついて来てくれ |
ガイ | どこへ行くんだ? |
アッシュ | 地下牢だ |
| |
アッシュ | …気分はどうだ、アレクセイ |
アレクセイ | ……。このようなところにお揃いで…王女殿下までお越しとは光栄ですな |
ナタリア | 皮肉を言う元気がおありのようで安心しましたわ |
ガイ | まぁ落ち込んでるとも思ってなかったけどな |
ルーク | 先生…俺… |
アレクセイ | 私はもう先生ではない。ただの罪人だ |
ルーク | ………… |
アレクセイ | …それで、何をしに来た。事実を随分と捻じ曲げているようだが |
アッシュ | ああ。察しのいいおまえの事だ、どういう話になっているかはわかっているだろう |
アレクセイ | 全ての罪をあのもう一人のルークに背負わせるのだろう |
アレクセイ | 私がおまえにやろうとしていた計画と同じだ |
アッシュ | 口裏を合わせろ。そうすればおまえは、ただの騙されていた被害者だ |
アッシュ | 情状酌量の余地ありとなれば、騎士団長の肩書きを失うだけで済む |
アレクセイ | …甘いな。おまえも |
アッシュ | …… |
アレクセイ | 二人共、非情となれ。これは強硬派、穏健派などという話ではない |
アレクセイ | 真に国を思うなら、情に流されず大局的に物事を判断するべきなのだ |
アッシュ | アレクセイ。おまえが国を想う気持ちは本物のようだな |
アレクセイ | 当然だ。大義もなくあのような事はしない |
アッシュ | わかった。その大義を信じよう。アレクセイ、おまえの力を借りたい |
アレクセイ | 何…? |
アッシュ | 強硬派をただ排除するのではなく意見の一つとして耳を傾けるべきだと俺達は思っている |
アッシュ | だが、なかなか意見が通らないからと今回のような事件を繰り返されても困る |
ルーク | 先生が連れて来た傭兵の中には戦争さえ出来ればいいって奴もいました |
ルーク | もしそんな奴らが強硬派の実権を握ればこの国は大変な事になりかねない… |
ルーク | だから先生はここから釈放されたら強硬派をまとめあげて暴走しないようにしてほしいんです |
アレクセイ | …なるほど。今度は強硬派で獅子身中の虫になれと言うわけか |
アッシュ | 裏切れと言っているわけではない。それに断っても構わん。これは命令ではなく依頼だ |
アレクセイ | …いいだろう |
アレクセイ | アッシュ、ルーク。おまえ達が作り上げていく国、しかとこの目で見させてもらうぞ |
ガイ | …なるほど。まさか不穏分子を不穏でなくならせるとはな |
ナタリア | 一筋縄ではいかないでしょうけどアッシュとルークならいい国にしてくれそうですわね |
アッシュ | 他人事だな。その国の王妃になるのはおまえなんだぞ |
ナタリア | わかっています。私、今日ほどその事を誇らしく思った事はありませんもの |
アッシュ | …そうか |
ガイ | あとは、ルーク達を元の世界に帰せば、万事解決だな |
アッシュ | その件も、もう動いている。ゼロスが協力してくれるそうだ |
| |
ルーク | 今日で何日目だ?いつまでここに閉じ込めとくつもりなんだよ |
ルドガー | いろいろと根回しも必要だろうから時間がかかるんだろうな |
ミュウ | ボク達、このまま処刑されたりはしないですの…? |
ルーク | 縁起でもねぇ事言うんじゃねぇ。さすがにその心配はねぇよ |
| コツコツコツ… |
ミュウ | 誰か来ましたの… |
看守 | 迎えが来た。出ろ |
ルーク | 迎え…? |
| |
ゼロス | よう。おまえが、もう一人のルークか |
ルドガー | なっ…! |
ルーク | ゼロス!? |
ゼロス | 俺さまの事、知ってんのか?いや、アッシュの話からすると別世界の俺さまと知り合い…か |
ルーク | 別世界…って、俺達の事、聞いてるのか? |
ゼロス | ああ。全部聞いてるぜ。まぁ、ここだと他の兵士もいるからあんまり話してらんねぇけど |
ルドガー | さっき迎えが来たって言われたけどどういう事なんだ? |
ゼロス | 話は簡単だ。おまえらは親善大使を騙ってシルヴァラントに来た犯人だよな? |
ルーク | あ、ああ… |
ゼロス | シルヴァラントでは、王に斬りかかった大罪人だ |
ゼロス | だから、おまえらの身柄はシルヴァラントで預かる事になった |
ミュウ | みゅ…!それじゃ、ボク達は… |
ゼロス | これからシルヴァラントに護送する。その間、絶対に逃げないよう俺さまとアッシュ、ルークで見張る |
ゼロス | 絶対に逃げんなよ!絶対だぞ! |
ミュウ | ボク達、もう助からないですの…?シルヴァラントで処刑ですの!? |
ルーク | 何言ってんだ、ミュウ。今、誰が護送するって言ったか聞いてなかったのか? |
ミュウ | みゅ…? |
ルドガー | …これって…そういう事か |
ルーク | ああ。待ちわびたぜ、まったくよ |
| |
キムラスカ騎士1 | あの、アッシュ様。どうしてこのような山を通るのですか? |
シルヴァラント兵1 | メルトキオに向かうなら街道を通った方が安全で早いですよ |
アッシュ | 出発の直前に情報が入った |
アッシュ | この罪人共を逃がそうとする勢力が街道で待ち伏せているとな |
ゼロス | で、俺とアッシュで話し合って急遽この山を通る事にしたってわけだ |
ルーク | まぁ、街道を通っていてもこのキムラスカとシルヴァラントの連合部隊なら、負けないだろうけどな |
キムラスカ騎士1 | なるほど、そうでしたか。得心いたしました |
ゼロス | 逃げられなくて残念だったな。大人しくシルヴァラントで刑を受けてもらうぜ |
ルーク | ちくしょう。全部バレてやがったのかー |
アッシュ | ………… |
| |
ルドガー | こうなったら、一か八かだ。ミュウ! |
ミュウ | はいですの! |
| ボォォォッ! |
| |
シルヴァラント兵2 | こいつ、炎を! |
キムラスカ騎士2 | まずい、縄が焼き切られたぞ! |
ルーク | あちち…! |
ルドガー | 行くぞ! |
ルーク | おう! |
ルーク | 待て! |
アッシュ | 奴らは俺達で追う!ゼロス、包囲網を張る指揮を頼む! |
ゼロス | わかった! |
ゼロス | おまえらは無暗に追うな!奴らの退路を塞ぎながら徐々に追い詰めるぞ! |
シルヴァラント兵1 | はっ! |
キムラスカ騎士1 | 承知しました |
| |
ルーク | はぁ、はぁ…この辺でいいか? |
ルドガー | ああ。ちょうどよさそうだ |
アッシュ | ルドガー、手を |
ルドガー | ああ |
| |
| ヒュンッ |
| |
アッシュ | 練習通り、崖の下に開いたな |
ルーク | 後は、兵士達が見てる前で俺達が崖から飛び降りればいいんだな |
ルーク | ちゃんと裂け目に入ってくれよ。もし失敗したら… |
ルーク | 怖ぇ事言うなよ… |
ミュウ | 大丈夫ですの。もし少しずれても、ボクが飛んで、ちゃんと裂け目に入るようにしますの |
アッシュ | …ルーク、ルドガー、ミュウ。おまえ達には世話になった |
ルーク | 俺も助けてくれて…何て感謝すればいいんだろうな… |
ルーク | へへっ、別にいいって |
ルドガー | ああ。二人でいい国を作って行ってくれ |
アッシュ | 勿論だ |
キムラスカ騎士の声 | いたぞ! |
ルーク | …来たみたいだな |
ルドガー | よし、行こう |
ルーク | ああ |
シルヴァラント兵1 | もう逃げ場はないぞ! |
キムラスカ騎士1 | これだけの包囲網に後ろは崖…観念するんだな |
ルーク | 捕まるぐらいなら、死んだ方がマシだ! |
ルーク | とりゃあっ! |
キムラスカ騎士2 | なっ…! |
ルドガー | はっ! |
ミュウ | さよならですの! |
| |
| ヒュンッ |
| |
シルヴァラント兵2 | あいつら、飛び降りやがった…! |
アッシュ | ……行っちまったな |
ルーク | ああ |
ゼロス | ふぅ、やっと追いついたぜ |
ゼロス | ん?どうなったんだ? |
シルヴァラント兵1 | それが…奴ら、崖から飛び降りて… |
ゼロス | なるほど。ここから飛び降りたらまぁ助からねぇわな |
ゼロス | 奴ら、途中で引っ掛かったり飛んで逃げたりしてねぇよな? |
アッシュ | ああ。落ちて行って、そのままだ。もう姿も見えない |
ゼロス | なるほど。じゃあ、この件は被疑者死亡って事で報告しておくぜ |
アッシュ | ああ。すまないな、引き渡せなくて |
ゼロス | こっちの兵士もいたんだ。問題にはならねぇよ |
アッシュ | ルーク、このままシルヴァラントに謝罪と説明に向かうぞ |
アッシュ | キムラスカの親善大使としてついて来るだろう? |
ルーク | …ああ! |
| 予言と予感 |
ルーク | やっと帰って来たぜー! |
ミュウ | ただいまですのー |
ルドガー | ふう。今回もどうにかなったな |
ルドガー | …ん? |
エル | ルドガー!もう戻ってきたの!? |
ルドガー | エル…!…という事は、こっちではそんなに時間が経ってないのか? |
エル | うん。これからどうしようってティアと話してたところだよ |
ティア | ええ、5分も経ってないわ。まさか…もう解決してきたの? |
ルドガー | ああ。分史世界と正史世界では時間の流れが違うから…、向こうでは何日も経っていたんだよ |
ルーク | なぁ、ティア。俺の事、わかるか? |
ティア | ええ、大丈夫。ちゃんとルークの事がわかるわ |
ルーク | よかった!異変もばっちり解決したんだな!苦労した甲斐があったぜ |
ティア | 随分と大冒険だったようね |
ルーク | ああ。聞いてくれよ。あっちの世界ではキムラスカの王位継承者が二人いて── |
ルーク | ──って、そうだ。伯父上の方はどうなってんだ? |
ルーク | 話してる途中で俺の事が認識出来なくなっちまって俺、逃げるように出て来たんだけど… |
ティア | わからないわ。すぐに行った方がいいわね |
ルーク | ああ、行ってくる! |
エル | ルドガー、これからどうする?異変の調査は、終わったんでしょ? |
ルドガー | ああ。宿に戻って、今回の事を整理してから王様に報告しに行こう |
ルドガー | 少し気になる事もあるしな |
エル | 何かあったの? |
ルドガー | 後で話すよ |
エル | うん |
ルドガー | (…『負の因子は道標』… 分史のルークが謎の男から 言われた言葉らしいが…) |
ルドガー | (分史のキールが言ってた男と 同一人物か…? それに、道標って…一体…) |
| |
インゴベルト六世 | ルーク、どこへ行っておったのだ? |
ルーク | すみません、ちょっと野暮用で…それで、お話とは? |
インゴベルト六世 | うむ…ずっと隠しておったのだが、昨今の成長したおまえを見ているとそろそろ話してもよいと思ってな |
インゴベルト六世 | 実は…お主には、双子の兄がいる |
ルーク | なっ…! |
インゴベルト六世 | 名をアッシュと言ってな… |
ルーク | (アッシュ…!? って事は、こっちの世界でも 俺とアッシュは兄弟…!) |
インゴベルト六世 | 事情があって身分を隠し養子に出しておったのだ |
ルーク | 事情?何です、それは? |
インゴベルト六世 | …天啓の儀式があるだろう。シルヴァラントの神子が歴史の記された石碑を読み解く儀式だ |
ルーク | はい。世界が結晶に包まれた時に問題になったやつですね |
インゴベルト六世 | うむ…かつて天啓の儀式で予言された歴史によると、双子の王位継承者は国を破滅に導くとされていた… |
インゴベルト六世 | その予言を避けるために…な |
インゴベルト六世 | しかし最近、どういう経緯か、自らの出自を知り、ナタリアとも知り合っているようだ |
インゴベルト六世 | ナタリアから、バチカルに呼び戻せないかと相談を受けてな… |
インゴベルト六世 | おまえにも関わる話ゆえ、伝える事にしたのだ |
ルーク | なるほど…。お話はわかりました |
ルーク | 伯父上は、アッシュを俺の兄として呼び戻すおつもりなんですか? |
インゴベルト六世 | うむ。前向きに検討するつもりだが…何じゃ、思ったより驚いておらんな |
ルーク | 兄貴がいるってのも悪くねぇかもって思う事があったんです |
ルーク | 大丈夫、破滅なんてしません |
ルーク | むしろ二人で力を合わせて国を発展させてやりますよ! |
インゴベルト六世 | そうか。それを聞いて安心した |
インゴベルト六世 | …大人になったのう |
ルーク | へへっ、俺だって成長しますって |
ルーク | (分史での事がなけりゃ 取り乱してたかも しんねぇけどな…) |
| |
ルドガー | …よし。書き終わった |
エル | キールへの手紙? |
ルドガー | ああ。今回の顛末を報告するんだ |
ルドガー | 分史世界の情報は少しでも多い方がいいってキールも言ってたしな |
エル | そっかー。それじゃあ、メガネのおじさんの話も聞けたらよかったのにね |
ルドガー | …?誰の事を言ってるんだ? |
エル | ルドガー、また忘れちゃったの!?ルドガーのお兄さんだよ! |
ルドガー | …誰の事かわからない。けど…この感じ、覚えがある… |
ルドガー | ルークの事を認識出来なくなった時と似てる…気がする… |
エル | じゃあ、メガネのおじさんに異変が起きてて…ルドガー、忘れちゃってるって事? |
ルドガー | …そうかも知れない |
| |
ルドガー | (けど…その人の事を エルは認識出来ているみたいだ。 なら、ルークの時とは違う) |
ルドガー | (まさか… 異変が起きているのは──) |
| |
??? | …正史世界に戻って行ったな |
??? | これで三度目…道標は集まりつつある |
??? | 我々の悲願を達成するまであと少しだな、相棒… |
Name | Dialogue |
| マナと異変 |
エル | ルドガー!バロニアについたよ! |
エル | キールにみてもらって、メガネのおじさんのこと、思い出せるといいね |
ルドガー | メガネの──? |
エル | また忘れちゃったんだ…ルドガーのお兄さんだよ |
ルドガー | 忘れるって、何の…ああ、いや、そうか… |
ルドガー | 俺は誰かを忘れてるんだったな…。異変でルークを認識出来なくなった時みたいだ |
ルドガー | 俺にも異変が起きてると考えて、キールに会いに来たって事はわかってるんだが… |
ルドガー | 何を認識出来なくなっているのか、エルに指摘されても次の瞬間には頭から消えているんだ |
エル | 前はエルが言ったら少しは思い出してたのに… |
ルドガー | 不安にさせて、ごめん。きっと何とかして解決するから |
エル | 大丈夫!それまで、エルがルドガーの代わりにちゃんと覚えててあげる! |
ルドガー | ありがとう。エルがいてくれて本当に助かるよ |
エル | えへへ、頼りになるアイボーでしょ! |
エル | でも、ほんとにルドガーは負の因子の影響でそうなってるのかな? |
ルドガー | エルは違うと思うのか? |
エル | だって、スレイやキールみたいな黒いモヤ、ルドガーには出てないよ? |
ルドガー | …確かに。それも、キールに調べてもらえばはっきりするはずだ。行こう |
エル | うん…なにかわかりますように…! |
| |
エル | すごー!ケンキューシセツってこんなに立派なんだ! |
ルドガー | 四大国の有識者が集まってどんどん大規模になって行ったと聞いていたけど、ここまでとは… |
エル | これなら、きっとすぐにルドガーも治してもらえちゃうね! |
ルドガー | はは、そうだといいな── |
| |
??? | いい加減にして!! |
ルドガー | な、何だ?聞いた事ある声だった気がするけど… |
エル | あっちだよ!行ってみよう! |
| |
リタ | 魔導器に罪はないわよ! |
ダオス | 危険な物に違いあるまい。愚かな目的で使われる科学など存在する必要はない |
ロンドリーネ | まぁまぁ、二人共。話が逸れてるから… |
ルドガー | 言い争ってるのは、リタとダオス!?それにロディ!? |
エル | ケンカしてる!ルドガー、とめよう |
ルドガー | ああ。ロディも困ってるみたいだしな |
ルドガー | ロディ! |
ロンドリーネ | ルドガー!いいところに、二人を止めるの手伝って |
ルドガー | ああ。何があったんだ? |
ロンドリーネ | えーっと、どこから説明すればいいかな… |
リタ | 説明も何もないわよ!この二人、いきなり来て魔導器を愚かだって言うのよ |
ルドガー | 魔導器…確かに俺もあまりいい思い出はないけどどうしてまた? |
ダオス | 私はくだらぬ言い争いをしに来たわけではない |
リタ | くだらないとは何よ!そっちが言い出したんでしょ! |
エル | ケンカはやめて!エルとルドガーが話聞くから |
リタ | 別に、これ以上話す事なんてないわ |
ダオス | ならば仕方あるまい。この研究施設ごと── |
ロンドリーネ | 待って、ダオス!ちゃんと話し合おう |
ダオス | …… |
ロンドリーネ | えっと…、説明するね。私達は、今世界中で起きてるマナの減少について調べてるの |
ルドガー | マナの減少?そんな事が起きてるのか? |
ロンドリーネ | うん。前に会った時もそうだったけど私達はダオスの故郷を救うためにマナについて調べてたの |
ロンドリーネ | あちこち旅しながら調べたんだけどダオスの故郷を救うにはこの世界のマナだけじゃ足りないらしいんだ |
ダオス | …かつてデリス・カーラーンからこの星を調べた時と比べ、明らかにマナが減っている |
ダオス | その原因の一つは、魔導兵器──特にかつての戦争で使われた魔導器だ |
ダオス | ディセンダーによる世界の再生とマナの晶化現象の解決で少しは元に戻ったようだが… |
ダオス | また急激にマナが減少し始めている |
ロンドリーネ | しかも同時期に、魔導器を兵器として使ったウィンドルに大きな研究施設が出来た |
ルドガー | それで、また魔導器が兵器として使われてるんじゃないかと調べに来たって事か |
リタ | 何よ。要はマナの減少の原因を知りたいの?だったら最初からそう言いなさいよ |
リタ | 来るなり魔導器を諸悪の根源だ、愚かだとか言うからケンカ売りに来たのかと思ったわ |
ロンドリーネ | ごめん。ダオス、ちょっと言い方キツくてさ… |
ダオス | マナの減少について何か知っているようだな? |
リタ | ええ。マナの減少については、あたし達も最近気付いて調べてたのよ |
リタ | 調査報告書を見せるわ |
ダオス | …こちらで調べたものと一致する |
リタ | このマナの減り方が魔導器の影響に近い事は認めるわ。大精霊が暴走した時とも一部一致する |
ルドガー | そんなに!? |
エル | 大精霊のボーソーって、イニル街も凍っちゃって大変だった時だよね? |
リタ | そうよ。でも、大規模な魔導器が使われたなら特有のマナの揺らぎも観測されるはず |
リタ | あたし達の調査では、それは一切観測されなかった。だから原因は魔導器じゃないわ |
ダオス | …そのようだな |
ロンドリーネ | 魔導器のせいだって決めつけちゃってごめんね |
リタ | わかってくれれば、それでいいわ |
ルドガー | しかしマナの大量減少か…。そんな事まで起こってたなんて… |
リタ | 実際、その影響で世界各地で地震や集中豪雨が起こってる…憂慮すべき事態だわ |
ルドガー | えっ、あの異変は、負の因子の影響じゃないのか?俺はてっきり… |
リタ | 問題はそこよ |
リタ | 確かに負の因子の影響が観測された場所に天変地異が集中している |
リタ | ここから導き出される仮説… |
ルドガー | …!まさか、負の因子がマナの減少にも関係している!? |
リタ | そういう事。まだ原理まではわかってないけど調査結果は明確な関連性を示してるわ |
ロンドリーネ | ごめん、ちょっと話について行けてないんだけど負の因子って何? |
リタ | それはルドガーから話してくれた方が早いわね。あたしは話に聞いただけだし |
ルドガー | ああ。わかった |
ロンドリーネ | そんな事が起こってたんだ… |
ダオス | マナの減少、負の因子、分史世界… |
ダオス | …… |
ダオス | …収穫はあった |
ロンドリーネ | えっ?ダオス、どこ行くの? |
ダオス | 確かめたい事がある |
ロンドリーネ | ちょ、ちょっと待って!じゃあみんな、またね! |
エル | 行っちゃった… |
リタ | 一人で納得してたけど、何だったのかしら… |
ルドガー | ロディも大変だな… |
リタ | さて、問題がひとつ解決したところで次はルドガーの番ね |
リタ | 兄のユリウスの事が思い出せないんだったわよね |
ルドガー | ああ。そうらしいんだ |
リタ | らしいって事は、もう兄がいた記憶すら残ってないようね |
リタ | キールのところに行きましょう。こっちよ |
| |
キール | よく来たな。手紙をもらった時は驚いたが… |
キール | …こうして見る限り、いつもと変わらないように見えるな |
キール | ぼくの時は立っていられなくなったが体調に問題はないか? |
ルドガー | ああ…。今はただ、何かを忘れてるという感覚があるだけだ… |
エル | 前はエルが言ったら思い出してたんだよ。でも最近はぜんぜんダメ… |
キール | 進行しているという事か… |
リタ | 負の因子の影響を受けているならマナの流れに特徴が出るはずよね。あたしが見てみるわ |
キール | 助かる |
エル | 負の因子のエイキョウを受けてる人がわかるようになったの? |
キール | ああ。ぼくやスレイ、ルークを調べたところ僅かだがマナの流れに不自然な揺らぎがあった |
キール | ルドガーに負の因子が今まさに憑りついているなら、それが顕著に出るはずなんだ |
リタ | …で、そのマナの流れだけど… |
ルドガー | …どうだった? |
リタ | これまでの調査結果と一致する、負の因子の影響だと思われる反応を示してるけど… |
リタ | こんな反応見た事ないわ。未知の現象よ |
キール | 普通の負の因子とは違うという事か? |
リタ | もう少し調べてみるから、ちょっと待って |
リタ | この反応…マナの流れ…ルドガーの傍にあるマナから減少してる…? |
キール | 何だって…!これは…負の因子がマナを吸収しているのか…!? |
リタ | 詳しく調べてみないと何とも言えないわね… |
ルドガー | よくわからないけど、負の因子なんだよな? |
リタ | ええ。それは間違いないわ |
ルドガー | …… |
ルドガー | エル、時計を触らせてくれないか |
エル | うん |
ルドガー | みんな、念のため近くのものに掴まっていてくれ |
キール | ルドガー?まさか… |
ルドガー | …… |
ルドガー | …何も起きないな。時空の裂け目が開く条件は揃ってるのに |
ルドガー | これまでも、エルの時計に触れる機会はあったんだ。だけど何も起こらなかった |
キール | つまり、負の因子とは似て非なるもの…という事か? |
リタ | …いいえ。確かに負の因子の影響よ。ただ、その働きが大きく抑制されているみたい |
リタ | 魔導器の術式でね |
キール | 何かわかったのか? |
リタ | ええ。マナの流れをずっとたどってみたら、見た事もない術式が仕込まれていたわ |
リタ | おそらくこれは魔導器の術式。でも見た事もない、新しい型よ。つまり… |
キール | 分史世界の魔導器か! |
エル | ねぇ、エルわかんない。どういうこと? |
キール | 分史世界には、負の因子の影響を制御出来る高度な魔導器があるという事だ |
キール | その力で影響が抑制されているからルドガーの異変は、他の人と比べて進行が緩やかなんだろう |
リタ | この術式を応用すれば異変を少しは抑えられるかも。とんだ拾いものだわ── |
| |
リタ | ──って、えっ、ちょっと待って!何これ!? |
ルドガー | どうした!? |
| |
リタ | 術式が解かれていくわ! |
キール | 一体、何が起こっているんだ! |
リタ | ルドガー、時計を放して!負の因子の影響が、一気に── |
| ヒュンッ |
ルドガー | 時空の裂け目が…! |
エル | あっ…わあぁっ!! |
ルドガー | しまった…!エル!! |
リタ | これが時空の裂け目…!あたし達も追うわよ! |
ルドガー | ああ! |
キール | 待ってくれ!ぼくとリタは、ここに残ろう |
リタ | どうしてよ!早くしないとエルが危ないじゃない! |
キール | ルドガーに任せるんだ。ぼく達には…特にリタにはこの世界でやるべき事がある |
ルドガー | …そうだな。さっきの術式ってやつで異変が抑えられるかもしれないんだろ? |
ルドガー | リタとキールはその研究を進めてこの世界を守ってくれ。エルは、俺が助ける! |
リタ | …わかったわ。絶対エルと一緒に無事で戻ってきなさい! |
ルドガー | ああ!必ず二人で戻るよ |
| |
| シュンッ |
| |
リタ | …閉じたわね |
キール | ああ。心配ない、ルドガーならきっと大丈夫だ |
リタ | 別に心配してないわ。そんな暇なんてないもの |
リタ | さぁ、忙しくなるわよ。まずはさっき見た術式を書き出して解析と計算から始めないと |
キール | ぼくは研究者みんなに伝えて意見を聞いて来る。この研究、必ず成功させないとな |
| 双つの世界 |
ルドガー | ここは…バロニアか? |
ルドガー | そうだ、まずはエルを捜さないと…! |
ルドガー | おーい!エル!聞こえたら返事をしてくれ! |
| |
エル | あっ、ルドガー! |
ルドガー | エル!近くにいてよかった…! |
エル | エル、待ってたんだよ! |
ルドガー | 無事でよかった。怪我してないか? |
エル | うん、平気!ここ、別の世界なんだよね? |
ルドガー | ああ、そうだ。負の因子を持つ俺がいる分史世界…兄さんの事を思い出すためにも── |
エル | あっ!ルドガー、メガネのおじさんのこと、ちゃんと覚えてる! |
ルドガー | うん?そういえば… |
ルドガー | ルークも分史に移動してから認識出来なくなる事はなかったし、分史では異変が収まるのか…? |
エル | とにかくよかったね! |
ルドガー | ああ。…思い出せるようになると不思議だな |
ルドガー | 兄さんの事を完全に忘れてしまうなんて想像も出来ない… |
エル | だよね。だからエル、びっくりしたし |
ルドガー | …とはいってもまだ解決したわけじゃないか |
ルドガー | この世界の俺を捜し出さないとな。手始めにこの辺りを調べたいところだけど… |
ルドガー | この世界のバロニアは知っているようで知らない街だ。俺達の世界とは街並みが違う |
エル | そう?エルは見覚えあるけど |
ルドガー | 一見同じように見えても分史世界によって微妙に違うってエルも知ってるだろ? |
ルドガー | 例えばあそこの喫茶店は、同じ建物だけど正史ではパン屋だった |
エル | でもパン屋さんになる前は喫茶店だった?エル、喫茶店のこと、覚えてるし |
ルドガー | いや…あのパン屋は28代続くワンダーパン職人の店でかなりの老舗だったはずだ |
エル | でもエル、あの喫茶店見たことあるよ! |
ルドガー | 別の店と間違えてないか?例えば、そこの角を曲がった先にも喫茶店があるから… |
エル | …雑貨店 |
ルドガー | えっ? |
エル | この先を曲がったら雑貨店がある…と思う。正史世界では、喫茶店のところ |
ルドガー | …確かめてみようか |
エル | うん |
| |
エル | ほら、雑貨店! |
ルドガー | …!本当だ… |
ルドガー | どうしてエルは初めて来た分史世界の街並みを知っているんだ…? |
エル | わかんないけど…ここのお店にはねよくパパと一緒に買い物に来たんだ |
エル | おもちゃを買ってもらったりしたからよく覚えてるよ! |
ルドガー | 俺が道を間違えてるのか…?でも似たような場所は他にないはずだし… |
エル | パパはここで食器とか買ってたの!エルのお気に入りのお皿もあるよ。こっちに── |
| ドンッ |
エル | あっ! |
??? | おっと、すまない |
エル | ううん、だいじょう── |
| |
エル | ……えっ? |
ルドガー | エル?どうした? |
エル | パ…パ…? |
ルドガー | …パパ…? |
| |
??? | エル…!エルじゃないか |
エル | パパ!パパだ!! |
??? | エル…どうしてここへ…!? |
エル | パパこそ、どこ行ってたの!?エル、ずっと待ってたんだよ! |
ルドガー | エル。ちょっと待ってくれ。この人は、分史の人だ。だから── |
??? | 失礼だが、あなたは…? |
ルドガー | あ、えっと、ルドガーと言います。どう説明すればいいのか… |
エル | ルドガーは、エルのアイボーだよ! |
エル | ルドガー、こっちはエルのパパ! |
ルドガー | あ、ああ… |
??? | ルドガー君と言ったか…娘が世話になったようだね |
ルドガー | いえ… |
ルドガー | (この人がエルの父親… あの仮面は…素性を隠す必要が あるという事か…?) |
??? | エルも、寂しい思いをさせて悪かった |
??? | でも大丈夫、パパはちゃんとここにいるよ |
エル | パパ… |
??? | エル、今までよく頑張ったな |
エル | パパぁ…!ぐすっ、うわ…うわあぁんっ!! |
エル | パパぁ、パパぁっ…!!うわああぁぁんっ!! |
ルドガー | (…分史の別人にしては 話が嚙み合っている。 ただの偶然か…?) |
ルドガー | (それに、エルはこの街の景色を 覚えていた…。 もしかして、エルは…) |
ルドガー | (…もう少し話を聞いてみた方が よさそうだな) |
??? | …事情を聞きたいという顔だね |
ルドガー | はい。少し、話してもいいですか? |
??? | 君から見れば私は娘を長期間放っておいた父親…聞きたい事があるのは当然だ |
??? | 私も、これまでの事を聞きたい。すぐそこに喫茶店があるんだ。そこで話そうか |
ルドガー | はい |
| |
店員 | いらっしゃいませ。メニューをどうぞ |
ルドガー | ありがとう。エル、先に── |
エル | エルはミラクルイチゴチョコパフェ! |
エルの父 | エルはいつもそれだな。私はコーヒーを。ルドガー君は決まったかい? |
ルドガー | あっ、同じもので… |
店員 | かしこまりました |
ルドガー | (メニューも見ずに注文するなんて この店に来た事がなきゃ 出来ないな…) |
ルドガー | (エルは本当にこの世界の…) |
エルの父 | ルドガー君には、本当に世話になったようだね |
エルの父 | 世話になった恩人に、仮面の無礼を許してほしい |
エルの父 | ある戦いで、顔に傷を負ってしまってね |
ルドガー | そんな、気にしないでください |
エルの父 | エルは、迷惑をかけたりはしていなかっただろうか? |
ルドガー | エルはとてもいい子でしたよ。いつも前向きで頑張り屋で助けられた事も多いです |
エル | そうだよ!エルはルドガーのアイボーなんだから! |
エルの父 | エルは、誰とでもすぐ仲よくなれるね。ママに似たんだな |
エル | うん!もちろん、パパにも似てるよ!しっかり者なところとか |
エルの父 | はは、そうだと嬉しいな |
ルドガー | …こうしてると、二人が親子なんだなってよくわかります |
エル | だって親子だもん!こんなところでグーゼン会えるぐらい強いキズナで結ばれてるんだよ! |
エルの父 | 絆か…そうかも知れないね |
エルの父 | やっと帰宅の目処がたったからエルを迎えに行く前に買い出しに来ていたんだ |
ルドガー | そうだったんですね。そこにちょうど俺達が来たのか…すごい偶然だ |
エルの父 | …ところで、今日帰るとは伝えていなかったのにどうしてここに来たんだい? |
エル | あ、そうだった。エル達、ルドガーに起こった異変を解決しに来たんだよね! |
ルドガー | …… |
エル | ルドガー?どうしたの? |
ルドガー | エル、ちょっと考えたんだけど、せっかくお父さんと出会えたんだ。二人でゆっくり過ごしたらどうだ? |
エル | えっ?それはもちろんそうしたいけど…いいの? |
エルの父 | 私としてはありがたい申し出だが…君はその間、どうするんだい? |
ルドガー | 俺は少し調べたい事があって…街の外にも出るかもしれません |
エルの父 | なるほど。街の外は危険も多いからね |
エル | そのぐらい、エル平気だよ。それにルドガー、一人で寂しくない? |
ルドガー | 大丈夫だよ。せっかくの親子水入らずなんだ、遠慮せずお父さんと仲よくな |
エル | うん、わかった!ありがとう、ルドガー! |
エル | パパ!お家に帰ったら、たくさんお話しよっ! |
エルの父 | ああ |
エル | そうだ、パパ、荷物いっぱいでしょ!エルも持ってあげるね! |
エルの父 | 本当かい?助かるよ |
エル | それとね、それとね!えっとー… |
ルドガー | いつもよりはしゃいでるな…パパに会えなくても平気だと時々強がっていたけど |
ルドガー | やっぱり寂しかったんだな。…会えて、よかったな |
ルドガー | (さて、俺は俺の出来る事をしよう) |
ルドガー | (負の因子に取り憑かれた 分史世界の俺…… 一体どこにいる?) |
ルドガー | (…ひとまずは、 イニル街の俺の家に行ってみるか) |
ルドガー | (この分史世界で同じ場所に 住んでいるかはわからないが… 他に手がかりもないしな) |
| 兄からの手紙 |
ルドガー | あった…俺の家…ところどころ街並みは違ったがこの辺りは同じで助かった |
ルドガー | まぁ、正史と同じように俺が住んでいるとは限らないけど… |
| コン、コンッ |
ルドガー | すみません。誰かいらっしゃいませんか? |
ルドガー | … |
ルドガー | 反応はない…人がいる気配もないな、留守か? |
| ガチャ、キイィ… |
ルドガー | 鍵が開いている…? |
| |
ルドガー | これは…ゴホッ、ゴホッ! |
ルドガー | 内装は正史の家と同じだけど…埃まみれだ… |
ルドガー | 床にも…ん?これは? |
ルドガー | 足跡…ここ最近、誰かが出入りしたようだな… |
ルドガー | 足跡をたどってみるか。何か痕跡があるかもしれない |
ルドガー | 食卓の前で折り返している… |
ルドガー | …ん?テーブルクロスの下に何か… |
ルドガー | これは、手紙? |
| |
| ペラッ |
| |
ルドガー | 「この手紙が 弟に届く事を望む」 |
ルドガー | !!この字は…兄さんの字だ! |
ルドガー | 「事情があって 姿を隠さざるを得ない状況に 陥ってしまった」 |
ルドガー | 「助けが必要だ。 今は街外れの廃墟に 身を潜めている」 |
ルドガー | これだけか…よっぽど慌てて書いたんだな |
ルドガー | 街外れの廃墟、か…行ってみよう |
| |
ルドガー | 確か、この坂を下って… |
ルドガー | 違うな…記憶と街並みが一致しない |
ルドガー | さっきから同じ場所をグルグル回っているような… |
??? | あのー、もしかして困ってる? |
ルドガー | あ、はい。実は道に迷ってしまって… |
ルドガー | あっ…! |
??? | ん?どうかした? |
ルドガー | い、いや… |
ルドガー | (エルに似ている…? いやけど、そんな…まさかな) |
??? | …?私の顔に何かついてる? |
ルドガー | ごめん。前に会った事あるような気がして |
??? | え…もしかして口説かれてる? |
ルドガー | い、いや!そういうわけじゃ… |
??? | あはは、冗談だよ!声かけたのは私の方だもん |
??? | 道に迷ってるって言ったよね。どこに行きたいの? |
ルドガー | 街外れに廃墟があるはずなんだけど…知ってるかな? |
??? | うん、わかるよ。でも何の用?あの辺りは何もなかったはずだけど… |
ルドガー | 待ち合わせというか人捜しというか… |
??? | あんなとこで…?ふ~ん、変わってるね |
??? | まぁいいや。案内してあげる |
ルドガー | ありがとう。助かるよ |
??? | どういたしまして。そうだ、名前聞いてもいい? |
ルドガー | ルドガーだ。よろしく |
??? | よろしくね。私は、エルだよ |
ルドガー | えっ…!? |
エル | ん…? |
ルドガー | い、いや、知り合いに同じ名前の子がいて |
ルドガー | (やっぱり、 雰囲気も似てるな…。 だから会った事ある気がしたのか) |
エル | …やっぱりそれ口説き文句じゃない?運命の出会いを演出、的な? |
ルドガー | いや、本当なんだ。俺の知り合いは、エル・メル・マータって言うんだけど… |
エル | あれっ!?何で私のフルネームを知ってるの? |
ルドガー | …どういう事だ?君はまさかこの世界の…いや、でもそれだと… |
エル | この世界? |
ルドガー | あ、いや、なんでも── |
エル | あっ、わかった!もしかしてルドガーも別の世界から来たんでしょ! |
ルドガー | 俺『も』? |
エル | もう10年くらい前かな?私、こことは別の世界からやって来たみたいなんだよね |
ルドガー | …その話、詳しく聞かせてくれないか? |
| |
エル | こっちに来たばっかりの時はまだ子どもだったから、細かい事はよく覚えてないんだけど… |
エル | イニル街に来てから家が壊れて大変だったのはよく覚えてるよ |
ルドガー | それが10年前の出来事なのか… |
ルドガー | (家が壊れたのはたしか 大精霊が暴走した頃… ここは正史世界より未来なのか?) |
エル | …あ、そうだ。最近、この近くに美味しいアイスの店が出来たんだよ |
エル | ルドガーの世界にもある? |
ルドガー | …いや、ないな |
エル | だったら是非食べてよ!廃墟まではまだ距離があるし腹ごしらえしない? |
ルドガー | そうだな。案内してもらってるお礼にご馳走するよ |
エル | ほんと!?やったー! |
| |
エル | おじさん、フルーツ焼きそばアイス!二つちょうだい! |
ルドガー | フルーツ焼きそばアイス!? |
店主 | はいよ、フルーツ焼きそばアイス!ソース多めにかけといたよ! |
エル | ありがとう!はい、こっちはルドガーの! |
エル | この味が一番なんだから!ささ、食べてみて! |
ルドガー | … |
エル | どう? 美味しいでしょ! |
ルドガー | 何というか…個性的な味だな…。でも、癖になるかも |
エル | でしょ!?ルドガー、わかってるね! |
??? | … |
ルドガー | ん? |
エル | どうかした? |
ルドガー | いや、今ちょっと視線を感じたような… |
エル | ふふん、それはきっと私が注目を集めてるんだよ |
エル | 溢れ出る美貌…美しいのは罪よね。…ぷっ、なんちゃって! |
ルドガー | はは、そうだな。本当に、大人っぽくて美人だよ |
エル | え…あ……ありがと |
ルドガー | (あの小さなエルと比べたら 本当に大人っぽく見えるよな…) |
エル | そ、そろそろ休憩は終わり!廃墟に行こう! |
scene1 | 強襲 |
エル | ついたよ。ルドガーの言ってた廃墟はたぶんここだと思うけど… |
ルドガー | ここが…。案内ありがとう、エル |
エル | どういたしまして。捜してる人、ここにいるといいね |
ルドガー | ああ。中に入って、様子を見てくるよ |
エル | いってらっしゃい |
| |
ルドガー | 兄さん、いるか?俺だ、手紙を読んだよ |
??? | その声… |
ユリウス | ルドガー、来てくれたか…! |
ルドガー | 兄さん…!よかった、無事で… |
ユリウス | 何とかな…。…お前は正史世界のルドガーか? |
ルドガー | ああ。兄さんも…だよな。事情があってこの分史世界に来たんだ |
ルドガー | そこにまさか兄さんがいるなんて驚いたよ |
ユリウス | 俺も驚いた。僅かな可能性に賭けて手紙を残したが本当に見つけてくれるとはな |
エル | ルドガー。捜してる人はいたの? |
ユリウス | …!お前は…! |
ルドガー | そうだ、紹介するよ、兄さん。俺をこの廃墟まで案内してくれた、エル── |
| |
ユリウス | ルドガー、離れろ! |
ルドガー | えっ…?どうしたんだ、兄さん?急に大きな声を出して… |
ユリウス | 俺がここに隠れていた理由──それはこの世界で、ある二人組に襲われたからだ |
ユリウス | そいつは俺を襲った二人組の内の一人だ! |
ルドガー | そんな…何かの間違いじゃ…だって彼女は…エル、お前からも── |
エル | … |
ルドガー | エル? |
エル | みんな、今だよ!二人を囲んで! |
| |
傭兵1 | おう! |
傭兵2 | やっと出番か!いただいた料金分は働かせてもらうぜ |
ルドガー | これは一体… |
エル | …私が雇った傭兵だよ |
ルドガー | それじゃあ、本当に… |
エル | …自分から人のいない廃墟に向かってくれるなんて、好都合だったよ |
エル | ユリウスまで出てきたのは想定外だけど…捜す手間が省けてよかった |
ユリウス | …!今回はルドガーが狙いか! |
傭兵3 | 悪いな。あんたらに恨みはねぇが、こっちも商売なんだ |
ルドガー | まさか、道中で感じていたあの視線…こいつらのものだったのか…! |
ルドガー | 何故なんだ、エル!?どうしてこんな事… |
エル | そんな事、聞いてる余裕あるの? |
ルドガー | くっ… |
ユリウス | ルドガー、落ち着け!今はこの場を乗り切る、詳しい事はその後だ! |
ルドガー | ああ…! |
scene2 | 強襲 |
| ガキィン! |
ルドガー | くっ…! |
傭兵1 | これを受け取めるとは、中々やるな。だが… |
傭兵2 | 隙あり! |
ユリウス | ルドガー!危ない! |
| キィン! |
傭兵2 | ちっ、防がれた! |
傭兵3 | こっちだ! |
| ガキン! |
ユリウス | くぅっ…! |
ルドガー | はぁ、はぁっ…多勢に無勢か…。逃げる隙も作れない |
ユリウス | ああ。だが…妙だな。殺意は感じられない…。むしろ手加減されているような… |
ユリウス | …そうか、もし「殺さない事」が任務の内だったら… |
ユリウス | ルドガー。合図をしたら出口にまっすぐ走れ |
ルドガー | えっ? |
ユリウス | 殺す気がないなら強行突破は容易だ。俺が隙を作るから包囲を破って脱出するんだ |
ルドガー | でも、兄さんが危険じゃ… |
ユリウス | 大丈夫だ。それに、どう反応するかで彼女──エルの真意もわかるかもしれない |
ユリウス | 俺を信じろ |
ルドガー | …わかった |
ユリウス | よし…行くぞ! |
ユリウス | 一迅! |
| バシュッ! |
傭兵1 | ぐわあッ! |
傭兵2 | こいつ、まだこんな技を! |
ユリウス | 今だ!行け、ルドガー! |
ルドガー | ああ! |
エル | なっ…!逃がさないよ! |
ルドガー | エル、そこをどいてくれ…! |
エル | …みんな!ユリウスを捕まえて!そしたらルドガーは逃げられない! |
傭兵3 | 了解! |
ユリウス | ルドガー!俺に構わず走れ! |
ルドガー | いいや!二人で逃げるんだ、兄さん! |
ルドガー | 舞斑雪! |
| ズバッ、ズバッ! |
傭兵2 | ぬおっ!? |
傭兵3 | 何っ…! |
ルドガー | 兄さん、今だ! |
ユリウス | 助かった! |
エル | みんな、追いかけて! |
傭兵1 | ああ!仕事は必ずやり遂げる!行くぞ! |
傭兵2 | おう! |
エル | …はぁ。やっぱり、強いなぁ… |
| |
ルドガー | …ここまでくれば大丈夫か? |
ユリウス | 少なくとも今は追手はなさそうだ。ここまでくれば通行人も増える奴等もそう手出しは出来ないはず… |
ユリウス | ルドガー。さっきどうして俺を助けに戻った?一人なら簡単に逃げられたはずだ |
ルドガー | 兄さんらしくない質問だな。あの状況なら助けるに決まってるだろ |
ルドガー | 自分が助かるために兄さんを見捨てたりするもんか |
ユリウス | …そうだな。危ないだろうと言おうと思ったが、結果的に無事、二人共逃げられた |
ユリウス | 強くなったな、ルドガー |
ルドガー | 兄さんからそんな風に言われるとちょっと照れくさいな…。でも、ありがとう |
ルドガー | それにしても…エルは、どうして俺達を…。兄さんは何か知ってる? |
ユリウス | わからない。…もう少し離れた方がいいだろうから歩きながら状況を整理しよう |
| |
ユリウス | なるほどな。俺が正史世界を離れている間にそんな事になっていたのか |
ユリウス | そちらの事情はわかった。次は俺の知っている事を話そう |
ユリウス | 俺を襲ったのは先ほどの──10年後のエルと、ヴィクトルいう仮面を着けた男だった |
ルドガー | ヴィクトル…知らない名前だな |
ルドガー | (仮面を着けた男… エルの父親も仮面だったけど、 まさかな…) |
ユリウス | ああ。俺も初めて聞く名だ |
ルドガー | 襲われた理由もわからないのか? |
ユリウス | ああ。この世界に来て、異常なマナの流れについて調べ始めた矢先だったんだ |
ユリウス | 突然現れた二人に襲撃されて、逃げるので精一杯だった。事情など聞く暇もなかったよ |
ユリウス | しかも、その時に時計を奪われてしまってな…。今は骸殻能力も使えない |
ルドガー | まさか、兄さんがそんなに圧倒されるだなんて… |
ユリウス | …さっきは見ていただけだったがあのエルも腕が立つぞ |
ユリウス | それに、ヴィクトルという男は…かなりの手練れだ。骸殻化しても倒せるかどうか… |
ユリウス | 時計を奪われ、骸殻化出来ない今、また襲撃されたら勝ち目はない。それで廃墟に隠れていたんだ |
ユリウス | あの手紙に一縷の望みを託してな |
ルドガー | …一体、何が起こってるんだ…。エルと、ヴィクトルという男は一体何の目的で… |
ユリウス | 今の俺達にその事情を知る術はない… |
ユリウス | 今は出来る事を考えよう。この世界のルドガーを捜すんだったな |
ルドガー | ああ。兄さんは、この世界の俺について何か知ってるのか? |
ユリウス | …いいや。残念ながら、な |
ルドガー | 今のところ何の情報もない…全部が靄の中って感じだ。何から調べればいいんだ… |
ユリウス | …こうして情報を共有していて少し思い出した事がある |
ユリウス | もう一度俺達の家へと戻ろう。もしかしたらそこに手がかりがあるかもしれない |
ルドガー | エルの雇った傭兵達が見張っているんじゃないか? |
ユリウス | いや、人数が多いとそれだけ目立つ。腕のいい傭兵を雇っているようだし、少数精鋭だろう |
ユリウス | その人数なら街から逃がさないよう俺達を捜しまわるだけで手一杯だろう |
ユリウス | 見張りに割く人員もいない可能性は高い |
ユリウス | そこを突いて、調べに行くんだ。この世界の俺達がたどった過去の軌跡をな |
| オリジンの審判 |
ユリウス | 無事、たどり着けたな |
ルドガー | この世界の俺達はここに住んでいるのか? |
ルドガー | 埃の積もり方からするに何年も足を踏み入れていないように思うんだけど… |
ユリウス | ああ、お前の言うとおりだろう。おそらく長い間、この家には帰っていないと思われる |
ユリウス | だが、家具は俺達が使っている物と全く同じだ。俺達の家だと考えていいだろう |
ルドガー | そう言えば、そうか |
ユリウス | そして、家具が同じという事は、ここの引き出し…実は二重底になっていてな |
| ゴソッ |
ルドガー | 底が外れて、中に本が…!知らなかった、こんな仕掛けがあったなんて |
ユリウス | はは、それは知らないさ。俺の日記の隠し場所だからな |
ユリウス | 正史世界でもここに隠しているからもしかしてと思ったんだ |
ユリウス | …帰ったら隠し場所を変えておかないとな |
ルドガー | 盗み読みなんかしないよちょっと気になるけど… |
ユリウス | はは、冗談だよ。それよりほら、日記を確認するぞ |
ユリウス | 俺はこの日記に調査した事なんかを記録しているんだ |
ユリウス | この世界の俺も同じだったら何か情報が書かれているかもしれない |
ユリウス | ルドガーに負の因子が憑りついたなら俺は調査するに決まっているからな |
ルドガー | なるほど。それで日記を読みにここに戻って来たのか |
ユリウス | さて、読むぞ… |
| ペラッ |
ユリウス | ふむ…最初の方は正史世界で俺が書いている内容とほとんど同じだな |
| ペラッペラペラッ… |
ユリウス | …む。これは…! |
ルドガー | 何か見つけたのか? |
ユリウス | ああ。どうやら、これが…正史とこの世界の分岐点だ |
ルドガー | 世界の分岐点…?そこから歴史が大きく変わってるって事か? |
ユリウス | そうだ。魔導器を使った大きな戦争、マナの急激な減少と、大精霊の暴走… |
ルドガー | 正史世界でも起こった事件だな。時空の裂け目が出来て、人々が時空の歪みに巻き込まれた… |
ユリウス | ああ。正史では、俺達が骸殻能力でみんなを助け出したんだ |
ルドガー | という事は、この世界では違うのか |
ユリウス | ああ。どこにも時空の歪みに関する事件が書かれていない |
ルドガー | それが、世界の分岐点…? |
ユリウス | いや、重要なのはこの後だ |
ユリウス | 正史世界ではカノンノがディセンダーとして世界再生を行って解決したんだったな? |
ルドガー | ああ。後でアスベル達から聞いた話だけど… |
ユリウス | だがこの世界では、どうもその世界の再生に失敗したようだ |
ルドガー | え…!? |
ユリウス | 事件の元凶を倒し、ディセンダーの力でマナの消耗が穏やかになったのは確かだ… |
ユリウス | しかし既に失われたマナは戻らず世界はゆっくりと死に近付いている… |
ユリウス | この世界の俺達は、仲間達と共に死にゆく世界を救うため、動いていたらしい |
ルドガー | それで、救えたのか? |
ユリウス | …いや、おそらくこの方法では… |
| ペラッ… |
ユリウス | …やはり、上手く行かなかったようだ |
ルドガー | そんな… |
ルドガー | やはりって言ったけど、そんなに難しい方法だったのか? |
ユリウス | ああ。難しいさ。それに、分史世界の人達には…絶対に成し得ない方法だ |
ルドガー | それって、一体… |
| |
ユリウス | …彼らは挑んだんだ。クルスニク一族に伝わる伝承── |
| |
ユリウス | オリジンの審判にな |
ルドガー | オリジンの審判…? |
ルドガー | オリジンって、カノンノに力を貸してくれたっていうあの大精霊オリジンの事か? |
ユリウス | …いや。そのオリジンはおそらく根源を司る大精霊だろう。能力は物質の再生だったはずだ |
ユリウス | 一方オリジンの審判を行っているのは無を司る大精霊…世界を創造したとされる存在だ |
ルドガー | つまり…オリジンは二人いるのか? |
ユリウス | ああ。その理解で合っている |
ユリウス | 大昔の人々は、物質再生の能力が世界を創造した能力と似たものに見えた… |
ユリウス | 結果、混同した人々はふたりの精霊を同じ名で呼んだ…というのが定説だな |
ルドガー | …その無を司るオリジンは世界を救う力を持っているんだな。でもこの世界を救ってくれなかった… |
ユリウス | …正確には、この世界の俺達はオリジンに会う事すら出来ていないはずだ |
ユリウス | 分史世界には存在しないからな… |
ルドガー | …待ってくれ。知らない事が多すぎる |
ルドガー | 兄さんはオリジンの審判をクルスニク一族に伝わる伝承だって言ったよな |
ルドガー | だけど俺は、そんな話を聞いた事がない。まずはそこから教えてほしい |
ユリウス | …そうだな。すまない |
ユリウス | この話を今まで教えなかったのは、危険な事に巻き込む可能性があったからだ |
ユリウス | 様々な戦いを乗り越えて来たお前には話してもいい頃合いだろう |
ユリウス | だが、オリジンの審判を巡って、クルスニク一族がどれだけの犠牲を払って来たかわからない |
ユリウス | その事をよく覚えておいてくれ |
ルドガー | …わかった |
ユリウス | …事の始まりは、およそ2000年前と言われている |
ユリウス | 世界を作ったとされる精霊は三人いて原初の三精霊と呼ばれている。オリジンもその一人だ |
ユリウス | 残りの二人は元素を司るマクスウェル、そして時を司るクロノス… |
ルドガー | クロノス…!大精霊が暴走した時に会った…! |
ユリウス | ああ、ルークが戦って鎮め、カノンノに力を貸してくれたあのクロノスだ |
ユリウス | 彼はオリジンと違い、原初の三精霊本人だった |
ルドガー | …知らない間に俺は一族の伝承に伝わる存在に会ってたんだな… |
ユリウス | その原初の三精霊がまだ人と交流していた遥か昔、人々は魔導器を使い始めた |
ユリウス | 当時の魔導器はマナを大量に消費し、世界を蝕むものだった |
ユリウス | 放っておけばマナが枯渇し、精霊の生きられない世界となるだろう |
ユリウス | オリジンは悩んだ。魔導器というすぎた道具を使う人間を滅ぼすべきか… |
ユリウス | それとも警句を与え、自らの過ちに気付かせる事で救いの道を示すか… |
ユリウス | そうして人類を見定めるべく人間の賢者へと審判の始まりを告げた |
ユリウス | この人間の賢者というのが俺達の先祖、初代クルスニクだ |
ルドガー | 初代、クルスニク… |
ユリウス | オリジンは言った。「人類よ、世界の楔へたどり着け」 |
ユリウス | 「さすれば人類は存続し、 最初にたどり着いた者の願いが かなえられる」と… |
ユリウス | そして世界の楔へたどり着けるようクルスニク一族に骸殻の力を与えてくれた |
ユリウス | しかし、同時にこの力は審判の終わりを告げるタイムリミットでもあった |
ルドガー | タイムリミット…? |
ユリウス | 骸殻の力は使いすぎれば自分自身が時歪の因子になる。それはルドガーも知っているな |
ルドガー | ああ。だから細心の注意を払って使ってきた |
ユリウス | だが、この話にはお前には伝えていない続きがあるんだ |
ユリウス | 時歪の因子となった者は新しく分史世界を作る |
ユリウス | 分史世界の数が百万に達した時オリジンは審判が失敗したと判断し、人類を滅ぼす |
ルドガー | そ、それじゃあ、骸殻能力は、自分の命だけじゃなく人類の存亡にも関わってるのか!? |
ユリウス | そういう事だ。だが審判を成功させるには骸殻能力を使わざるを得ない |
ユリウス | 世界の楔にたどり着く条件…それは世界に散らばる四つの「道標」を集める事だからな |
ルドガー | 「道標」… |
ユリウス | 元々は全て正史世界にあったらしいが分史が増え、審判に挑む者が増える中で、散らばっていったそうだ |
ルドガー | それじゃあ、数ある分史の中から四つの「道標」を探し出さないといけないのか… |
ルドガー | 途方もない話だな… |
ユリウス | 俺もそう思っていた。だがこの分史世界の俺達は、重要な手がかりを掴んでいたようだ |
ユリウス | 「道標」は負の因子を破壊する事で手に入る…そう、日記に書いてある |
ルドガー | 負の因子…!ここでその名が出てくるのか…! |
| |
ユリウス | …伝承の内容は以上だ |
| |
ルドガー | この世界の俺達は、この伝承を頼りにオリジンに願いをかなえてもらって世界を救おうとしたのか… |
ルドガー | だけど失敗した…。「道標」が集まらなかったという事か |
ユリウス | いや…。この日記には、苦難の末に、「道標」を集める事に成功したとある |
ルドガー | それじゃあ、どうして失敗したんだ? |
ユリウス | …さっきも言ったが、分史世界の人間にオリジンの審判を達成する事は出来ないんだ |
ユリウス | 原初の三精霊のうち、オリジンとクロノスは…正史世界にしか存在しない |
ユリウス | 分史世界で「道標」を集めても何も起こらないんだ… |
ルドガー | そんな…そんな事って… |
ユリウス | 「道標」を集めても世界の楔への道は開かれない…。そこで彼らは気付かざるを得なかった |
ユリウス | この世界にはオリジン達がおらず、世界の楔へ繋がっていない…つまり分史世界なのだとな |
ルドガー | ……。辛かっただろうな |
ユリウス | …ああ。だが、この世界の俺達はそれだけでは諦めなかったようだ |
ユリウス | ルドガーが「道標」を集めている間、ジュードを中心に別の方策を練っていたらしい |
ユリウス | その方法は上手くいったとしてもとても時間のかかるものだったが着実に進んでいた |
ユリウス | 世界が滅ぶのが先か、その方法が成就するのが先か…それだけが問題だったようだ |
ルドガー | 地道に確実に…か。ジュードらしいな |
ユリウス | ルドガーも、オリジンの審判が失敗した後も、決して希望は失わず、ジュードを手伝っていたようだ |
ユリウス | 世界を再生しようと努力するその姿を根源を司るオリジンも近くで見届けていたらしい |
ルドガー | 俺達の世界でも、カノンノの世界再生を見届けると言って力を貸してくれたらしいからな… |
ルドガー | この世界では世界再生に失敗した後もずっと傍にいて見守っていてくれたのか… |
ルドガー | …待てよ。という事は… |
ルドガー | オリジンなら、この世界の俺が今、どこにいるのか知ってるんじゃないか? |
ユリウス | なるほど、その可能性はあるな。だがオリジンの居場所はわかるか? |
ルドガー | オリジンが住処にしていた遺跡ならアスベルから場所を聞いてる。この世界でも同じかわからないけど… |
ユリウス | 他にあてもないんだ。そこに行ってみよう |
ルドガー | ああ。確か、バロニア北部…森の中の遺跡にいたらしい。行こう…! |
| これまでの事、これからの事 |
ルドガー | … |
ユリウス | どうした?急に立ち止まって |
ルドガー | ああ、ごめん。エルが今どうしてるかなってちょっと気になっただけなんだ |
ユリウス | そうか…俺達がよく知ってるエルもこの分史世界へ来ているんだったな |
ルドガー | お父さんと楽しく過ごせているといいな… |
| |
エル | たっだいま~! |
エル | ほら、パパも! |
エルの父 | …ああ、ただいま |
エルの父 | 久しぶりだな、この挨拶を口にするのは… |
エル | お買い物の片づけ、手伝うね! |
エルの父 | ありがとう。少し見ない間にエルは随分成長したみたいだな |
エル | えへへ…パパと離れ離れの間に、エルもいろいろあったんだよ! |
エル | イニル街でへんなビョーキが流行ってユーリやミラと一緒にカイケツしたんだ! |
エルの父 | エルも頑張ってくれていたんだな |
エル | でしょ? |
エル | でも、ビョーキが治ったらと思ったら今度はジシンでエルのおうちが壊れちゃったの! |
エル | だからね、今はルドガーのとこでイソーローしてるの |
エルの父 | そうだったのか。彼には改めてお礼をしないといけないな |
エルの父 | その後は、どんな事をしていたんだい? |
エル | えっとね、世界中がショーカ現象でパキーンってなっちゃった! |
エルの父 | ショーカ現象?何だいそれは? |
エル | えっと…人とか植物とか、ぜんぶ氷みたいに固まっちゃっうんだよ |
エルの父 | そんな事が…ショーカ現象…晶化現象か?大丈夫だったかい? |
エル | イニル街も固まっちゃたけど、すぐに大丈夫になったよ! |
エルの父 | それはよかった。他にはどんな事があったんだい? |
エル | えっと、急に島が見つかってルドガーがお仕事でお出かけしちゃったり! |
エルの父 | ふむ… |
エル | あとあと、最近だとルドガーと別の世界へ行って、お姫様を助けたりしたんだよ! |
エル | エルは捕まっちゃって、ちょっと怖かったけど… |
エルの父 | それは、怖かったな。エルが無事でよかったよ |
エル | でもね、エルは信じてたよ!ルドガーと友達のみんながエルを助けてくれるって! |
エルの父 | 友達、か… |
エル | うん、お姫様のメルディでしょ!ファラにクィッキーに…みんな友達! |
エル | みんなすごく優しいし、一緒にいると楽しいんだよ! |
エルの父 | …そうか、いい友達が出来たんだな。パパも嬉しいよ |
エルの父 | さて、そろそろご飯にしようか。エルは何を食べたい? |
エル | えー、どうしよっかな… |
エルの父 | 買い出しに行ってきたばかりだから何でも作れるよ |
エル | パパのごはん何でも美味しいから迷っちゃうなー |
エル | うーん… |
エル | そうだ!やっぱりアレがいいな!スープ! |
エルの父 | ははは…アレか。エルのお気に入りだもんな |
エルの父 | そう言うと思って、エルと会った後、ちゃんと材料は買っておいたんだ |
エル | えー!じゃあ聞かなくてよかったじゃん! |
エルの父 | ごめんごめん。本人の口からちゃんと聞きたかったんだよ |
エルの父 | それじゃあ久しぶりに腕を振るうとしようか |
エル | ん~!やっぱりパパのスープが一番! |
エルの父 | 喜んでくれて何よりだ。作った甲斐があるよ |
エル | そうだ!パパの料理、みんなにも食べてもらおうよ! |
エルの父 | …みんなに、かい? |
エル | ルドガーでしょ?メガネのおじさんでしょ?ルルに、ミラに、ユーリに… |
エル | みんなを家に呼んで、パーティーをするの! |
エルの父 | ああ…それは、楽しそうだ |
エル | えへへ、名案でしょー?よーしけってーい!パパ、約束だからね? |
エルの父 | ああ |
エル | それじゃ指切り! |
エルの父 | …ああ、いいよ。ほら、小指を出して |
| ギュッ… |
エル | 指切りげんまん!指切った! |
エル | これで約束── |
| |
エルの父 | うっ…!ぐ、うっ!! |
| |
エル | パパ!?大丈夫!? |
エルの父 | はぁ、は、はぁっ…ゴホ、ゴホッ! |
エルの父 | 大丈夫、ちょっとむせただけだよ |
エル | ほんと…? |
エルの父 | 本当だよ…ほら、もうこんなに元気だ |
エルの父 | それより、エル。スープを飲み切ってるじゃないか。おかわりするかい? |
エル | う、うん… |
エルの父 | すぐに入れてくるよ。待っていてくれ |
エル | パパ… |
scene1 | 失われた時 |
| ああ、これは…またあの時の夢だ── |
| |
エル | 負の因子、この世界にはなかったね |
ルドガー | そうだな。次こそは必ず── |
エル | うん!次こそ! |
ルドガー | ああ。俺達の世界を救うために… |
ルドガー | …こんな調子で本当に負の因子は見つかるんだろうか |
エル | 焦ったらダメだよ、気長にがんばろ! |
エル | 大丈夫、ルドガーには頼りになるアイボーがついてるでしょ! |
ルドガー | …ああ、そうだった。長い冒険になるけど、ついてきてくれるか、エル |
エル | もちろん! |
| |
ルドガー | うおおおぉっ!! |
| キィン! |
ヴィクトル | そこをどけ。これが世界を守る、たった一つのやり方なんだ |
ルドガー | こんな… |
ルドガー | こんなやり方が許されていいはずがない! |
ルドガー | お前は、お前はそれでもエルの…! |
エル | やだ…!パパもルドガーもやめて! |
ルドガー | 俺だって、こんな戦いしたくない!だけど… |
ルドガー | 引き下がるわけには行かないんだ!大事な相棒のために! |
エル | ルドガー…! |
ヴィクトル | 私とて…!だが…これで世界を救えるなら…! |
ルドガー | 世界が何だ!俺は、世界を敵に回してでも守るべきものを守る! |
ルドガー | うおおおぉっ!! |
ヴィクトル | 来い! |
| |
| バシュッ── |
| |
| ──ドサッ |
| |
エル | あ…あっ… |
エル | パパぁーっ!! |
ヴィクトル | くっ…あ、ぁ…エ…ル… |
ヴィクトル | すま…ない… |
| |
エル | パパ、パパぁーっ!!! |
エル | パパ、起きてよっ!目を開けてよぉ…! |
ルドガー | エル… |
エル | う、うぅ…うぅぅ… |
ルドガー | わかってくれとは言わない… |
エル | ぐすっ、うぅっ… |
エル | わかってる…ルドガーはエルを助けてくれたって… |
ルドガー | … |
エル | エル…カクゴを決めようって思ってた…世界の、みんなの、ためなら… |
エル | でも… |
エル | ほんとは、怖くて…生きてて、エル…ひっく! |
ルドガー | エル…それでいい生きている事が間違いだなんて思わないでくれ |
ルドガー | エルを犠牲にして世界を生かすなんて…そんなの、間違ってる |
ルドガー | 俺はエルを死なせない…絶対に死なせないから… |
| |
エル | ──っ! |
エル | はぁ、はぁっ… |
エル | 久しぶりに見たな…あの頃の夢… |
エル | …はぁ。駄目だよ、エル |
エル | あの頃の私は何も出来なかった…。でも、もう私は子どもじゃない… |
エル | 今度は私が、相棒を守るんだから |
| |
ユリウス | この森のどこかに大精霊オリジンのいる遺跡があるんだな |
ルドガー | ああ、この辺りだと思うんだけど…なかなか見つからないな |
ユリウス | 元々は文献でも所在が掴めなかった遺跡、だったか…探すのは大変そうだ |
ユリウス | ちょうどあそこに小屋がある。夜を越す準備もしておこう |
ユリウス | まだ僅かに日はあるが森の夜は早いからな |
ルドガー | ああ。そうしよう |
| |
| パチパチパチ… |
ユリウス | 今日は歩き詰めで疲れただろう。俺が見張っておくからルドガーは休むといい |
ルドガー | ありがとう兄さん。俺はまだ平気だから先に休んでいいよ |
ルドガー | 廃墟に隠れていたんじゃろくに眠れてなかっただろ? |
ユリウス | そうか?じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうとするか |
ユリウス | しかし見つからないものだな…小さな遺跡というわけでもないんだろう? |
ルドガー | うん。見落として通りすぎるような大きさじゃないはずなんだ |
ルドガー | ただ…どうにも聞いていたのとは森の景色が違うみたいで… |
ユリウス | …そうか。正史世界とこの分史世界では辺りの風景が違うのかもしれん |
ユリウス | この世界の俺の日記によるとあの天変地異からおよそ十年が経過し世界再生もかなっていない… |
ルドガー | …確かにそうだ。地震があれば地形は変わるし、樹の位置も変わる |
ルドガー | 景色が違って当然だったんだ。聞いた通りの道をたどったつもりでも全然違う方向に進んでいたのかも |
ルドガー | 明日は今日と違う方角を探してみよう |
ユリウス | そうだな。明日はきっと遺跡が見つかるさ |
scene2 | 失われた時 |
ルドガー | 遺跡だ!やっと見つけた!随分、遠回りしたけど… |
ユリウス | 見つかったのならそれでいいさ。早速、中に── |
ユリウス | …! |
| |
ユリウス | ルドガー! |
ルドガー | えっ!? |
エル | はあっ! |
| キィン! |
| |
ルドガー | エル…! |
ユリウス | 待ち伏せしていたな?どうしてここがわかった |
エル | あなた達がこの森へ行くのを見たって情報があって… |
エル | だったら目的地はここしかないと思った。オリジンに会いに行くんだろうって |
ルドガー | どうして俺達を狙うんだ!理由を聞かせてくれ! |
エル | 理由?そんなの簡単! |
エル | あなたがルドガーだからだよ! |
エル | はぁっ! |
| カキィン! |
ルドガー | 俺がルドガーだから…?どういう意味だ…? |
エル | 悪いけど、話してる余裕はないの! |
ユリウス | 隙ありだ! |
エル | …っ! |
| キンッ |
エル | うっ… |
ユリウス | 今日は一人か。それで俺達に勝てるとでも? |
エル | …さぁ。やってみないと、わからないでしょ! |
| キィンッ |
ユリウス | くっ…! |
ルドガー | やめろエル!俺はお前と戦いたくない! |
エル | だったら黙ってやられてよ! |
エル | はぁっ! |
| ガキンッ! |
ルドガー | エル…!どうしても、やるしかないのか!? |
ユリウス | ルドガー、これ以上は無駄だ。彼女は、お前の知っているエルとは違う |
ユリウス | 割り切れなければ、やられるのはお前だぞ! |
ルドガー | くそっ、腹を括るしかないのか… |
エル | 覚悟は出来た?今度は、逃がさない! |
scene3 | 失われた時 |
エル | はぁ、はぁっ… |
ルドガー | エル、もう諦めてくれ…! |
エル | 諦める?私の目的はあなたに勝つ事じゃない。必要な物は、もうもらった |
ルドガー | エル!! |
| |
ユリウス | やけにあっさり退いたな… |
ルドガー | エルも俺達と戦いたくなかった…なんて理由だったらいいんだけど |
ユリウス | …。それより気になる事を言っていたな |
ユリウス | 「必要な物はもらった」…一体、何を… |
ユリウス | …はっ!ルドガー、時計は!? |
ルドガー | 時計…!しまった、俺の時計がない! |
ユリウス | これが目的か…やられたな |
ユリウス | これで俺達は二人共、骸殻能力を封じられた。戦力を削ぐのが目的だったのか |
ルドガー | という事は、また改めて襲撃してくるつもりなんだろうか… |
ユリウス | ルドガー、腹を括っておくんだ。そうしないと、いざという時に剣が鈍るぞ |
ルドガー | わかってる… |
ルドガー | …今は前に進むしかないか。エルとはまた会う事になるだろうし |
ユリウス | ああ。今はここ…遺跡に集中しよう |
ユリウス | エルが言っていた。オリジンに会いにここに来たのだろうと |
ルドガー | つまり…俺達の考え通り、オリジンはここにいる…! |
ルドガー | この世界の顛末がついにわかるかもしれないんだ…! |
scene1 | 死にゆく世界 |
ユリウス | 随分と広い遺跡だ…。昔は立派な神殿だったのかも知れないな |
ルドガー | ここまで来たんだ。オリジンに会えるといいけど |
ユリウス | ああ、そうだな… |
ユリウス | (ジュードの確立した方法で 世界は救われるはずだった… それなのに、なぜ──) |
ユリウス | (…それ以前にあの日記… もしかして、途中で俺は…) |
ルドガー | …兄さん?何か気になる事でも? |
ユリウス | いや、何でもない。それより、先を急ごう |
scene2 | 死にゆく世界 |
ルドガー | 祭壇のようになっている特別な部屋…カノンノ達から聞いていたオリジンの居場所だ |
ユリウス | ここが… |
??? | 来たか |
ルドガー | あなたがオリジン…! |
オリジン | まさかまた、その顔を見る事になるとはな。ルドガー・ウィル・クルスニク |
ルドガー | 俺の事を知っているんですか!? |
オリジン | 無論。そちらは、ユリウス・ウィル・クルスニク… |
オリジン | どちらも別の世界から来たのだろう |
ユリウス | …俺達の事などお見通し、というわけですか |
オリジン | 単純な話だ。この遺跡内での会話は全て私に聞こえている |
オリジン | それに…この世界のユリウスがここに来るなどあり得ない事だからな |
ユリウス | …それは、どういう意味でしょうか |
オリジン | …説明してもよいが、まずはお前達の目的の詳細を聞かせてもらおうか |
ルドガー | わかりました。実は… |
オリジン | …なるほど。この世界のルドガーが原因で正史のお前に異変が… |
オリジン | 負の因子にそんな側面があったとはな |
オリジン | この世界でかつて道標を集めた時はそのような様子はなかった |
ルドガー | そうなんですか?では、どうやって道標にたどり着いたんです? |
オリジン | 分史の位置を座標で表し負の因子が存在する方角を示す装置、それを用いてだ |
オリジン | それで候補となる世界を数百まで絞り込んでしらみ潰しにしていったのだ |
ルドガー | 数百…そんなに世界を巡ったのか… |
ユリウス | 分史世界は今や何十万もあると言われている…数百に絞れたなら大したものだ |
ルドガー | それでも、大変だったはずだ。なのに、道標を揃えても上手くいかなかったなんて… |
オリジン | 確かにあの時のルドガー達は絶望していた |
オリジン | だが…まだ希望は残されていた |
オリジン | 道標を集める事とは別に、世界を救うための計画が進められていたのだ |
ユリウス | …日記にもそうあった。しかし、その計画がどうなったのか肝心なところは書かれていなかった… |
オリジン | 当然だ。その計画が結末を迎える前に… |
| |
オリジン | この世界のユリウスは、弟の手にかかって死んだのだからな |
| |
ユリウス | なっ…! |
ルドガー | 俺が、兄さんを…!? |
オリジン | ユリウスだけではない |
オリジン | 計画の中心人物であったジュード・マティスとリタ・モルディオ |
オリジン | 元ディセンダーのカノンノ・イアハートやアスベル・ラント |
ルドガー | ま、待ってくれ!頼む…少し、待ってくれ… |
オリジン | …… |
ユリウス | 本当に全員、ルドガーが殺したと? |
オリジン | そうだ。他にも大勢が死んだ。もっとも、私も全ての者の名を覚えているわけではないがな |
ルドガー | そんな…一体、どうして… |
ユリウス | …その計画の途中で何があったのか…経緯をお教え願いたい |
オリジン | いいだろう。では、話を道標を探す旅を終えた直後に戻そう |
オリジン | ルドガーが分史世界を旅している間この世界に残った者達は、新たな魔導器の開発に取り組んでいた |
ルドガー | 魔導器…それでリタの名前があったのか |
オリジン | そうだ。だが計画自体は、ミラ=マクスウェルの助言を受けたジュード・マティスによるものだ |
オリジン | 使用する際にマナを必要としない新型の魔導器…。彼らはそれをマティス式魔導器と呼んでいた |
ルドガー | マナを必要としない…!そんな事が可能なんですか |
オリジン | 理論上は可能だ。だが実現するには時間が必要だった |
オリジン | 私も契約の元、力を貸したが…完成する頃にはマナの枯渇は止められぬところまで来ていた |
オリジン | 魔導器を用いたところで世界の死を少し遅らせる事しか出来なかった |
オリジン | そんな折、新たに世界を救う方法が見つかった |
オリジン | その発見は一見希望に見えたが…絶望的な結末をもたらした |
オリジン | ルドガーが拒絶し強行しようとする者とその仲間を全員殺したのだ |
ルドガー | …それでみんなを…。どうしてこの世界の俺はその方法に反対したんですか? |
オリジン | 人の情、というものだろう |
オリジン | その方法とは、ある一人の人間を犠牲にする事でこの世界を救うというものだった |
オリジン | だが、それはルドガーにとって、かけがえのない存在だった |
ルドガー | 俺にとって、かけがえのない存在… |
オリジン | その方法を知った者の一部が、ルドガーからその人間を奪い強行しようとしたのだ |
オリジン | ルドガーは守るために戦った。だがその人間を守り切るには、事情を知る者全てを殺す必要があった |
オリジン | 一人でも生かせば、また同じ事を企む人間が現れると考えての事だろう |
ユリウス | …… |
オリジン | お前と一部の仲間は戦いを止めようとして殺された |
オリジン | 私はその光景に失望した。世界再生を見届けるという契約はカノンノの死とともに消えた |
オリジン | 世界再生を果たすどころか殺し合いを始めた人間に世界を救えるはずもあるまい |
オリジン | 私は人間を見限り、再びこの遺跡に戻ってきたのだ |
オリジン | 来るべき世界最後の日を人間に関わらず、穏やかに迎えるために |
ユリウス | …話していただき、感謝します |
ルドガー | …… |
オリジン | ルドガー。一つ聞こう |
オリジン | お前はまだ、そのかけがえのない存在と出会っていないのだろう |
オリジン | 今のお前なら、どう考える |
オリジン | 大切な者一人か、他の全ての者と世界。どちらの犠牲を選ぶ? |
ルドガー | 大切な者一人と、他の全ての者…それに世界… |
ユリウス | …… |
ルドガー | 俺…俺は… |
ルドガー | わかりません…。どっちも犠牲にしちゃいけない…そう思います |
オリジン | だが、どちらかを選ばねばならない時が来る。その時はどうする? |
ルドガー | それは… |
ルドガー | …… |
ルドガー | 俺は…どっちも犠牲にしません |
オリジン | …話にならん |
ルドガー | そうかも知れません。でも、俺は誰かを犠牲にする話なんてしたくない |
ルドガー | 俺は今まで、いろいろな分史に行って来ました |
ルドガー | そこでは、何かを犠牲にして世界や大切な人、自分の居場所を守ろうとしている人達と出会いました |
ルドガー | だけど、最後まで諦めずにいれば…少し見方を変えれば… |
ルドガー | 犠牲が必要だなんて、ただの思い込みだったと気付く事も少なくなかったんです |
ルドガー | だから俺は、何かを犠牲にする選択をするぐらいなら… |
ルドガー | 最後の最後、人類が滅ぶその瞬間までどちらも犠牲にしない方法を考え続ける! |
オリジン | お前が決断を鈍らせる事で世界が滅び、大勢が死ぬとしてもか |
ルドガー | …世界や、大勢の命を救うべきなのは確かです |
ルドガー | だけど大切な人だって、世界に生きる大勢の一人なんです |
ルドガー | その一人を犠牲にしてしまったら世界を救ったなんて言えません |
オリジン | …理想論だな |
オリジン | だが…お前の進む先、その結末を見届けよう |
オリジン | お前の行くべき先を示す。そこに行けば、お前は全てを知り、改めて決断に迫られるだろう |
ルドガー | …今、教えてくれた話で全てじゃないんですか? |
オリジン | 私が語れるのは、私が人間の元を去った時まで。8年近く前の話だ |
オリジン | お前達の話を聞く限り、あれからまた何かが起こっているようだ |
オリジン | …いざとなった時、お前が今と同じ決断が出来るのか…見させてもらおう |
ルドガー | …わかりました |
ユリウス | 大丈夫か、ルドガー |
ルドガー | …別の世界とはいえ、俺が大勢の仲間を手にかけるなんて……正直、戸惑ってる |
ルドガー | けど、立ち止まっていられない。俺は、今の俺に出来る事…為すべき事をやらないと |
ユリウス | …そうだな |
オリジン | …覚悟は決まったか |
ルドガー | はい、お願いします |
オリジン | …では、向かうべき場所について教えるとしよう |
scene1 | 守る者、守られる者 |
ルドガー | 北東の湖か…そこに一体、何があるんだろう |
ユリウス | …不安か? |
ルドガー | …ああ。大切な人を守るために他の人を殺すなんて |
ルドガー | 俺にとっては、兄さんや他のみんなも大切な人なのに… |
ユリウス | …俺は、少し理解出来る |
ユリウス | 例えば俺にとってお前は大事な弟で、守るべき存在だ |
ユリウス | もし誰かを傷つけないとお前を守れないのだとしたら…俺は迷わず、お前を守る選択をする |
ルドガー | …兄さんだけど殺すというのは… |
ユリウス | …そうだな。しかし、負の因子が憑りついていたらどうだ? |
ルドガー | …そうか。この世界の俺には負の因子が憑りついているはずなんだ |
ルドガー | 兄さんの言うような、誰かを守りたい気持ちが極端な形で表れても不思議じゃない |
ルドガー | だからといって…決して許されはしないけど |
ユリウス | ああ。だがお前が気にしすぎる必要はない |
ユリウス | 同じルドガーとはいえ、お前とは別の存在だ。しかも負の因子の影響を受けている |
ユリウス | お前は、自分がいつか同じように仲間を手にかけるんじゃないかと不安なんだろうが…そうはならない |
ルドガー | 兄さん…。うん、ありがとう |
ユリウス | …わかっているだろうが、この先、どこかで分史のルドガーと対峙しなければならないんだ |
ユリウス | どういう出方をしてくるかわからない相手だ。…心の準備が必要だぞ |
ルドガー | …うん |
ユリウス | …もし辛いなら俺が一人で分史のルドガーを捜してもいい |
ルドガー | いや…本人に直接聞いてみたいんだ。一体何を見て、何を感じたのか… |
ルドガー | どんな事を悩んで、どうしてその選択をしたのかを |
ユリウス | そうか…。不要な心配だったな |
ユリウス | 行こう。この先の森を抜ければ湖が見えて来るはずだ |
ルドガー | ああ |
scene2 | 守る者、守られる者 |
ルドガー | 湖が見えて来た。そろそろか… |
| |
??? | 待ちなさい! |
ユリウス | この声は…!そう簡単にはたどりつけなそうだな |
| |
エル | これ以上、先には行かせない! |
| チャキ |
ルドガー | エル…! |
| ヒュンッ |
ルドガー | くっ…! |
ルドガー | どうしてだ?この先に何があるって言うんだ! |
エル | 知らずに向かおうとしてるの? |
エル | …やっぱり、繰り返すの?あの戦いを… |
ユリウス | ここで会えたのはちょうどいい。時計を返してもらうぞ |
ユリウス | はぁっ! |
エル | っ…! |
エル | そんなに必死に時計を取り戻そうとするなんて… |
エル | やっぱり、ヴィクトルと戦う気なんでしょ!? |
ユリウス | ヴィクトルだと? |
ルドガー | ヴィクトル…彼女と一緒に兄さんを襲ったっていう…。この先にいるのか? |
エル | …! |
エル | (知らなかったっていうの? 嘘…それじゃ、今の私の言葉こそ 歴史を繰り返させる…) |
ユリウス | 奴がいるなら、彼女の言う通り時計が必要だ。ルドガー、彼女を捕まえるぞ |
エル | させない…!それに、私を捕まえても無駄だよ。ちゃんと隠してあるんだから! |
ユリウス | なら隠し場所を吐かせるまでだ |
エル | 死んでも言わないよ!あなた達に骸殻能力は使わせない! |
エル | それに!捕まる前に私があなた達を倒す! |
ルドガー | …本気なのか?エル、俺はお前を傷つけたくない |
エル | だったら大人しくやられて! |
| ヒュッ、ヒュッ── |
ルドガー | ぐっ…!? |
ユリウス | ルドガー! |
ユリウス | ルドガー、誰も傷つかずにこの場を収める事は不可能だ |
ユリウス | 彼女の戦いに向ける覚悟は本気だ。時計を奪いに来ただけの前回と同じだと思わない方がいい |
ルドガー | だけど… |
ユリウス | さっきも言った通り、俺はお前を守るためなら手段を選ばない |
ユリウス | 彼女を傷つけたくないならお前も戦って、無事に取り押さえるんだ |
ルドガー | …!ああ! |
エル | お喋りなんて、余裕だね。それとも観念した? |
エル | これでトドメ! |
| ヒュヒュヒュンッ──! |
ルドガー | はぁっ! |
| キンキンキン! |
エル | やっぱり戦うんじゃない。私の事、傷つけたくないなんて、嘘なんでしょ? |
ルドガー | ああ。傷つけたくない。だからって何もしなければ解決するわけじゃないんだ |
ルドガー | 誰も傷つけないために俺は戦う! |
エル | 綺麗事を…。出来るわけないでしょ!! |
scene3 | 守る者、守られる者 |
エル | うぅっ…!はぁ、はぁ…… |
エル | まだ…まだっ…! |
ルドガー | エル…一体何がお前をそこまで… |
エル | あんな歴史…はぁ、はぁっ…繰り返させないっ! |
| ガキィッ! |
ユリウス | まだ動くか…たいした信念だ |
エル | うぅぅ…!私じゃ、無理なの…? |
エル | でも、それでも私は…! |
ルドガー | なあ、エル。教えてくれないか?エルがそこまで頑張る意味… |
ルドガー | 何か事情があるんだろ?話してくれ。協力出来るかもしれないじゃないか |
エル | … |
エル | 私は… |
エル | ヴィクトルを守りたいだけだよ |
エル | あなたはヴィクトルを殺してしまうかも知れないから… |
ルドガー | 俺が…ヴィクトルを?どうして、そんな風に思うんだ? |
エル | 私のアイボーのルドガー…この世界のルドガーは、殺したから |
| |
エル | 私のパパを… |
| |
ルドガー | エルのパパ…?まさか、エルの父親がヴィクトルなのか? |
エル | …そう。あなたはバロニアで会ったよね |
ルドガー | ああ… |
エル | あなたが会ったのは、この世界のエルのパパ。私のパパは、別の世界にいたの |
エル | 子どもの頃、私は知らない内にこの世界にやって来て…イニル街に住んでた |
エル | 地震で家が壊れてルドガーの家に居候してたの |
ルドガー | 俺達の世界と同じだ… |
エル | それからはルドガーのアイボーとして一緒にいろんな冒険をしたの。道標を求めて他の分史にも行った |
エル | その旅の途中で、私が生まれた世界にも行った |
エル | そこでルドガーは私のパパに会ったの |
ルドガー | つまり、こことは別の世界のヴィクトルか… |
エル | そう。そこでルドガーはパパと対立して…最後には殺した |
ルドガー | … |
エル | 今、同じ状況がこの世界で起ころうとしてる |
エル | あの時と同じ年齢のエルを連れて、ルドガーがこの世界にやってきて、そしてヴィクトルと会った |
エル | きっとこの後、ルドガーとヴィクトルは戦う…そしたらヴィクトルは…! |
| |
??? | エル、どうかしたかい? |
エル | …! |
ルドガー | あなたは…! |
| クルスニクの鍵 |
ヴィクトル | 私の話をしていたようだが… |
エル | ヴィクトル…!! |
ユリウス | 貴様…! |
ヴィクトル | …ユリウス |
ヴィクトル | そう怖い顔をしないでくれ。今日は戦うつもりはないんだ |
ユリウス | 何を勝手な事を |
ルドガー | 待ってくれ、兄さん。この人はエルの父親でもあるんだ |
ルドガー | 戦わずに済むなら、その方がいい。まずは…話を聞きたい |
ユリウス | …そうだな、すまない |
ヴィクトル | 助かるよ。ここでこれ以上騒ぐ事は避けたい |
ヴィクトル | エルがさっき眠ったばかりでね |
ルドガー | エルも近くにいるのか |
ヴィクトル | ああ。この先にある私の家にいるよ |
エル | ヴィクトル…。ごめんなさい、私… |
ヴィクトル | …?何か謝るような事をしていたのか? |
エル | そう…じゃないけど…ヴィクトルに内緒でルドガー達と戦ってたから… |
ヴィクトル | …確かに、無茶をした事は褒められた事じゃない。でも、何か理由があったんだろう? |
エル | 私はただ…ヴィクトルを守りたかったんだ |
エル | いつも守られてばかりだけど私だって、ヴィクトルのために戦えるんだから…! |
エル | だから… |
ヴィクトル | ありがとう。その気持ちは嬉しいよ |
ヴィクトル | でも、危険な事はやめてくれないか |
エル | うん… |
ルドガー | 一つ、聞いていいか? |
ヴィクトル | 何かな? |
ルドガー | 今の話だと、彼女が俺達を襲った事をあなたは知らなかったようだ |
ヴィクトル | そうだね |
ルドガー | なら、あなたがエルと一緒に兄さんを襲ったのは何故だ? |
ヴィクトル | なるほど、もっともな疑問だ |
ヴィクトル | …エルがどうして一人で君達と戦おうとしたのか私にはわからないが… |
ヴィクトル | 君達はどちらも、この世界にとって脅威だからだよ |
ヴィクトル | 何故なら、別の世界から来た骸殻能力者は、時歪の因子を破壊して分史世界を壊すだろう? |
ユリウス | …詳しいな。お前は、何者だ |
ヴィクトル | そう驚く事でもない。私もこの世界を再生するために力を尽くした者の一人だ |
ヴィクトル | この世界が分史世界だと発覚した瞬間から世界の破壊には警戒していたんだよ |
ルドガー | そういう事だったのか…。でも、世界の破壊の事なら安心してほしい |
ルドガー | 俺達の今の目的は、時歪の因子じゃなくて、負の因子なんだ |
ヴィクトル | …負の因子か |
ヴィクトル | …なるほどな。それなら私達が戦う理由はなくなるというわけだ |
ユリウス | 理解が早くて助かるが…本当に今の説明だけで納得出来るのか? |
ヴィクトル | ああ。エルから、過去にルドガー君と道標を集めた時の話を聞いているからね |
ヴィクトル | 負の因子を破壊し、道標を手にすれば時空の歪みを通って元の世界に戻れる事は承知している |
ヴィクトル | もっとも、この世界に負の因子があり君達がそれを集めているという事は初めて知ったがね |
エル | …… |
ルドガー | エルも納得してくれたなら時計を返してもらいたいんだが… |
エル | …私は… |
ヴィクトル | エル、私からも頼む。彼らにとって時計は大切な物だと知っているだろう? |
エル | …わかった |
エル | 隠し場所まで案内するよ。二人共ついてきて |
ユリウス | ああ |
ルドガー | …… |
ルドガー | すまない。時計の事は兄さんに任せてもいいかな |
ルドガー | 俺は彼に聞きたい事があるんだ |
ユリウス | …?それなら二人で… |
ルドガー | 兄さん、頼む |
ユリウス | …わかった |
エル | そんなの、ダメ! |
ヴィクトル | 私は構わないよ |
エル | ヴィクトル!だって、この状況って… |
ヴィクトル | エル。わかってるよ |
ヴィクトル | 大丈夫だ。私は、あのヴィクトルとは違う…それは君がよく知っているだろう? |
エル | …… |
エル | …わかった。でも、気を付けてね |
ヴィクトル | ああ。ありがとう |
ヴィクトル | さて…立ち話もなんだ。大したもてなしは出来ないが、私の家で話さないか |
ルドガー | …ああ |
| 父と相棒 |
ルドガー | ここが… |
ヴィクトル | 長閑でいいところだろう?街から離れているのは少し不便だけどね |
ヴィクトル | さあ、入ってくれ。お茶でも淹れよう── |
| |
ヴィクトル | さて、何から話そうか… |
ルドガー | 単刀直入に聞かせてほしい。ヴィクトル…あなたは分史世界の俺なのか? |
ヴィクトル | …そうだ |
ルドガー | …!随分あっさり認めるんだな |
ヴィクトル | 隠していたつもりはないよ。気付かれるまで名乗るつもりもなかったがね |
ルドガー | つまり…あなたがこの世界の兄さんや、仲間達を… |
ヴィクトル | そこまで知っているのか |
ルドガー | オリジンが教えてくれたんだ。大切な人を守るためにみんなと戦ったって |
ルドガー | …その大切な人って、もしかして… |
ヴィクトル | ご察しの通り、私の娘──君と一緒に来たエルの事だよ |
ルドガー | …エル… |
ヴィクトル | …君は理解し難い事だろう。だが、これが何度も悩んで出した私の答えなんだ |
ヴィクトル | 私はエルの父親が娘に下した選択がどうしても理解出来なくてね |
ルドガー | … |
ヴィクトル | 彼は…世界を救うために娘を犠牲にする選択をして |
ヴィクトル | 私はエルを守るために…彼の命を奪った |
ルドガー | エルもそう言っていた…。彼女を犠牲にするっていうのはどういう事なんだ? |
ヴィクトル | エルは、クルスニクの鍵だ |
ルドガー | クルスニクの鍵…? |
ヴィクトル | クルスニクの鍵は時空を超越する力を持っている |
ヴィクトル | その力を持つエルを…時空の歪みに閉じ込めれば、全世界のマナの循環に干渉出来る |
ヴィクトル | つまり他の分史や正史から、対象の世界にマナを送り込む事が出来るんだ |
ルドガー | それでマナの枯渇は解決するとしてもエルは… |
ヴィクトル | …人間の肉体には寿命がある。だがマナは永久に送り続けなければならない |
ヴィクトル | …学者の研究によれば、エルの魂を取り出し、魔導器に閉じ込めれば可能だそうだ |
ルドガー | そんな… |
ヴィクトル | 私も今の君と同じ気持ちだった。だから戦い、エルを守った |
ヴィクトル | その後も私は悩んだ。自分の娘を犠牲にしようとするのはどういう気持ちなのかと… |
ヴィクトル | 娘のエルが生まれてからもその事について考え続けた |
ヴィクトル | だが、結局あの世界のルドガーが娘を犠牲にしようとした気持ちは理解出来ない |
ヴィクトル | いくら考えても、私がエルを犠牲にする選択肢を選ぶ可能性はない |
ルドガー | だから…エルを犠牲にしようとした人を殺したのか |
ヴィクトル | 先に強硬手段に出たのは向こうだ |
ルドガー | それを止めようとした仲間達まで…話し合う事は出来なかったのか? |
ヴィクトル | 話し合わなかったと思うか?私だってこんな結末は望まなかった |
ヴィクトル | 元より話し合いも上手くはいってなかったんだ |
ヴィクトル | 「子どもはまた産めばいい」とまで言われたのだぞ! |
ヴィクトル | 妻は、もう子を産める身体ではなかったのに…! |
ルドガー | それは… |
ヴィクトル | あがきにあがいた末の、これが私の最善だったんだ |
ルドガー | 最善?兄さんを…仲間を傷つけ、殺して、それが最善だったって言うのか! |
ヴィクトル | 私にとっては、娘が平穏に暮らせる事が何より重要だ |
ルドガー | そんな事…!エルが── |
| |
エル | むにゃ…ルドガー…? |
ルドガー | …! |
ヴィクトル | エル…起きてしまったのかい |
| |
エル | うん。話し声が聞こえたから |
エル | パパとルドガーって声がそっくりだね。一人でおしゃべりしてるのかと思った |
ルドガー | エル…それは… |
エル | ルドガー、迎えに来てくれたの?って事は、分史のルドガー見つかったんだ? |
ルドガー | いや…どう説明すればいいか… |
ヴィクトル | …私から説明しよう。エルにもいずれ話さなければならない事だからね |
エル | …?何のこと? |
エル | パパが、ルドガーだったの!? |
ヴィクトル | ああ |
ルドガー | エルは、パパの名前を知らなかったんだな |
エル | だって、パパはパパだもん。他の人は、ヴィクトルさんって呼ぶし… |
エル | エルの名前も、エル・メル・マータだし…ルドガーは、クルスニクでしょ? |
ヴィクトル | エルの名前はママのものなんだ。クルスニク一族だと知られないようにしたかったからね |
エル | そうだったんだ… |
ルドガー | エル、平気か…?分史の俺の事もだけど、その…世界を救うために… |
エル | エルが利用されるかもでしょ?でも、悪い人はパパがやっつけて守ってくれたんだよね! |
ヴィクトル | …そうだ |
ルドガー | (悪い人をやっつけた…か…) |
ルドガー | (ヴィクトルの話し方が上手いのか エルは人が死んだとまでは 思っていないみたいだな) |
ルドガー | (そしてヴィクトルが ジュードやリタと戦ったとも 思っていない…) |
ルドガー | (だが、エルにとっても酷な事実を 敢えて伝える必要もないか…) |
ルドガー | …事情はわかった。でも…今もこの世界はマナ減少が続いてるんだよな |
ヴィクトル | ああ、その通りだ |
ルドガー | あなたはこの先、どうするつもりなんだ? |
ヴィクトル | …エルを犠牲にしなくても世界はまだ救えるかもしれない。その方法を私は見つけたんだ |
ルドガー | 何だって…?オリジンは、そんな事一言も… |
ヴィクトル | これはオリジンが人間を見限って遺跡に帰った後に発見した新しい方法だからね |
ルドガー | それは一体… |
| |
ヴィクトル | 君もよく知っている…負の因子を使う方法だ |
| |
ルドガー | なっ…!? |
エル | それって、分史のルドガーが持ってるんだよね?つまり…パパ? |
ヴィクトル | そう。今まさに実践しているところだよ |
ルドガー | …キールが言っていた。負の因子がマナを吸収してるって… |
ルドガー | まさか、それが…! |
ヴィクトル | さすがキール…負の因子を憑りつかせた甲斐もあった |
エル | とりつかせたって…パパが? |
ヴィクトル | …そうだよ |
ヴィクトル | かつて負の因子を探す旅をした際、負の因子がマナの流れに影響を与える事を知った |
ヴィクトル | オリジンの審判に失敗した後も、負の因子の解析は続けられ、魔導器の研究に活かされたんだ |
ヴィクトル | そして最新のマティス式魔導器では負の因子の力の一部を操れるまでになった |
ヴィクトル | そこで私は、かつてと同じように負の因子を集めた。ただし破壊せず、そのまま持ち帰った |
ルドガー | そんな事が可能なのか? |
ヴィクトル | クルスニクの鍵の力を応用すればな。そのために、かつて相棒として共に旅したエルに手伝ってもらった |
エル | もう一人のエル…パパのアイボー… |
ルドガー | あのエルも、クルスニクの鍵なのか…! |
ヴィクトル | そうだ。そうして集めた負の因子を改造した |
ヴィクトル | 憑りついた者の世界のマナを、この世界へと送るようにね |
ルドガー | それじゃあ、スレイも、キールも、ルークもみんな…おかしくなったのはあなたの仕業か! |
ヴィクトル | そうだ。負の因子が強く影響を出せるよう彼らに助言もした |
ルドガー | そんな事まで…! |
エル | パパ…そんな… |
ルドガー | …一つ、わからない事がある。負の因子がこの世界にマナを送るためのものだとすれば… |
ルドガー | この世界の俺…つまりあなたに負の因子がついているのは、何故だ |
ヴィクトル | 私は受信機だ。各世界から送り出されたマナを私の負の因子が受け取っている |
ルドガー | それじゃあ、そのためにわざと自分に負の因子を…!? |
ヴィクトル | さっきも言った通り、負の因子は魔導器で制御出来る。大した問題ではない |
ヴィクトル | 私のこの仮面には負の因子の影響を抑える術式が組み込まれているんだ |
ルドガー | 負の因子の影響を抑える…そうか、リタが言っていた未知の術式… |
ヴィクトル | 君の世界では、未知の技術だろう |
ヴィクトル | もっとも、この世界でもまだ完璧とは言えない |
ヴィクトル | この術式を発動させ続けるには身体への負担が大きくてね |
エル | あ…。だからあのとき、急に苦しそうだったの? |
ヴィクトル | ああ。心配かけたね。でも、まだ大丈夫… |
ヴィクトル | 私がこうして生きている間は、世界と、大切なエルを守る事が出来る |
エル | でも…でも…!パパが苦しいんでしょ!? |
ヴィクトル | それでもいいんだ…エル、お前を犠牲にするより…ずっと |
ルドガー | っ…! |
ヴィクトル | 今、私が負の因子を使ってやっている事はクルスニクの鍵の代用品に他ならない |
ヴィクトル | 他の世界を犠牲にし、私自身の命を削り、それでもマナの供給効率は悪い… |
ヴィクトル | だが…エルを守れるのなら、そんな事、取るに足らない問題だ |
エル | パパ… |
ヴィクトル | 私の命で代用している間に世界を復活しきるか、それとも別の画期的な策が見つかるか… |
ヴィクトル | どちらにせよ、エルも世界も犠牲にならない方法は、これしかないんだ… |
ルドガー | それでも…間違ってる |
ルドガー | 確かにあなたにとってエルは何ものにも代えがたい大事な存在だろう |
ルドガー | でも!スレイを案じるミクリオの友情や! |
ルドガー | メルディのために全てを賭けたキールの想い! |
ルドガー | お互いを信じ切磋琢磨し続けたルークとアッシュの絆! |
ルドガー | そのどれ一つとして犠牲にしていいはずがないんだ! |
エル | …それに、エルパパが苦しむのも嫌だよ |
ルドガー | ヴィクトル…他の方法を探そう。俺や…正史のみんなにも頼んで協力する |
ヴィクトル | 他の方法などない! |
ヴィクトル | 私だって他の方法があると信じていた! |
ヴィクトル | だから私は、探し回ったんだ!あらゆる世界を旅して、様々な可能性を検討した |
ヴィクトル | 誰も傷つけない…誰も不幸にならない…そんな方法を求め続けていた |
ヴィクトル | だが、答えは見つからなかった…。どこにも…どんな世界にもなかった! |
ヴィクトル | そうしている間にも理想を追い求める時間は減り、刻一刻と世界の終わりが近付く |
ヴィクトル | だったら犠牲にするのは無関係の世界と自分自身だけでいい!これが精一杯だったんだ!! |
ルドガー | そんなの… |
エル | ダメだよ! |
ヴィクトル | エル…? |
エル | パパいつもエルに言ってるでしょ。人からされていやなことは、人にしちゃダメだって |
エル | パパもみんなも苦しいの、エルは嬉しくない! |
エル | こんなこと、やめてよ、パパ! |
ヴィクトル | エル… |
ヴィクトル | お前も私を認めてくれないのか…?いつも何でもパパの言う事を聞いてくれた、エルが… |
エル | エル、パパの言うこと聞くよ |
エル | でもこれは、ルドガーの方が正しいって思う |
ヴィクトル | 私より…ルドガーを信じるというのか… |
エル | …パパ? |
ルドガー | そういう話じゃない。エルは自分で考えて意見を言ってるだけだ |
エル | …そうだよ。パパ、何か、ヘン |
ヴィクトル | 私よりルドガーの方が…エルの事を…わかっていると… |
| |
ヴィクトル | そうだ…あの時も、エルは…父親を殺した私を受け入れた |
ヴィクトル | 一緒に冒険を重ねると…父親よりも相棒を取るのか、エル… |
| |
エル | 黒いモヤ…! |
ルドガー | 負の因子…!自身を制御出来なくなっているのか |
エル | そんな…!パパ…! |
ルドガー | エル、危ない!安全なところに隠れるんだ |
エル | 安全なところって…ルドガー、どうするの!? |
ルドガー | 冷静になってもらうだけだ!エル、俺に任せてくれ |
エル | う、うん!わかった! |
ヴィクトル | エル…!エルが、離れて行く…! |
ヴィクトル | どうして俺よりそいつを選ぶんだ…! |
ルドガー | 制御が出来ていない…?今まで抑えつけていた反動か…!? |
ヴィクトル | エルを…エルを返せッ!!! |
scene1 | 決戦!骸殻VS骸殻 |
ヴィクトル | エルを返せ、ルドガー! |
| ドカッ |
ルドガー | くっ…! |
| ドカアアァァン!!! |
| |
| パラパラパラ… |
ルドガー | ぐうっ…なんて力だ…壁を突き破るなんて…! |
エル | ルドガー!! |
ルドガー | 来ちゃダメだ、エル! |
エル | で、でも…!! |
ヴィクトル | うおおぉぉぉっ!! |
| ガキィン! |
ルドガー | ぐっ…!兄さんの言った通り、とんでもない強さだ…! |
ヴィクトル | どうした!そんなものか! |
ヴィクトル | エルを守るのは、この私だっ! |
| ギィンッ! |
ルドガー | くっ…!落ち着けヴィクトル!目を覚ませ!! |
ルドガー | 衝動に吞まれるな!それこそエルを危険に晒すぞ! |
ヴィクトル | 黙れ!! |
ルドガー | …!?その姿は…! |
ヴィクトル | その程度で、エルを守れるかぁぁぁっ!! |
| ドゴォッ! |
ルドガー | ぐっ…! |
ヴィクトル | お前は弱い!力も!意思も! |
| ドカッ! |
ルドガー | うぐっ…! |
ヴィクトル | 理想だけでエルを!世界を守れるなら! |
ヴィクトル | 今ここでやって見せろ! |
| ガンッ! |
ルドガー | ぐぁぁっ…! |
ヴィクトル | それが出来ないなら!ここで死ね! |
エル | ダメえええぇぇぇっ!! |
ルドガー | うおおおおおっ!! |
| ガギギィィンッ…!! |
ルドガー | はぁ、はぁ…この力は…! |
ルドガー | なんで、時計がないのに… |
ヴィクトル | お前のそれはエルの力だ!そんな道理もわからずに! |
| ドガッ! |
ルドガー | ぐぅっ…! |
ヴィクトル | 別の道があるだと!?みんな助かる方法を探せだと!! |
ヴィクトル | それは!選択する事を諦めただけだ! |
ヴィクトル | 何も選ばず、何かを守れると思うな! |
ルドガー | 違う!俺は、選ばないんじゃない! |
ルドガー | 何一つ、諦めたくないんだ! |
| ブンッ! |
ヴィクトル | …! |
ルドガー | 避けられた…!? |
ヴィクトル | 所詮、その程度だ! |
ヴィクトル | 邪魔をするな! |
| ガギィッ! |
ヴィクトル | 何っ…! |
ユリウス | 弟が世話になったな |
ルドガー | 兄さん…! |
ユリウス | 全く、話し合いをするんじゃなかったのか…? |
ルドガー | そのつもりだったんだけど… |
ユリウス | 何故その姿になれているのかわからないが…お前の時計も返してもらったぞ |
ルドガー | ああ |
エル | …やっぱり、戦う事になったんだ。このままじゃ、ヴィクトルは… |
ルドガー | エル…。ヴィクトルを守るためにまた俺達と戦うのか…? |
エル | …ううん。前に私と戦った時、あなた達は言ったよね |
エル | 傷つけないために戦うって |
ルドガー | ああ |
エル | 私もそうする。ヴィクトルをあのままにしておけない |
エル | それに、二人が全力で戦ったらあの歴史を繰り返して…ヴィクトルを殺すかもしれない |
エル | だったら…私が、ヴィクトルを死なせないように押さえつける! |
ルドガー | …わかった。確かに加減して戦える相手じゃない…エルの言う通りだ |
ヴィクトル | エル…お前まで、俺を裏切るのか… |
エル | 違う!ヴィクトル…私はあなたを絶対に裏切らない! |
エル | アイボーだから!あなたを守りたいし、間違ってたら止めるの! |
ヴィクトル | 私が間違っている…? |
エル | そうだよ!今、怒りのままにルドガーを殺したら、全部無駄になる! |
ルドガー | …? |
エル | だから、落ち着いてヴィクトル…!そのまま暴走を続ければヴィクトルの命が危ないんだよ! |
エル | またあの時と同じ事を繰り返すのは嫌だよ…! |
ヴィクトル | あの時…あの、時…?う、うぅっ…!! |
エル | パパ…!何だか苦しそう…!パパに何言ったの!? |
エル | 信じて!今はヴィクトルの理性に賭けるしかないの |
エル | パパ…! |
エル | とにかくここは危険だから、あなたは安全な場所に避難して! |
エル | あなたが傷ついたらヴィクトルが悲しむから |
エル | っ…わかった |
ヴィクトル | お前は…私から何もかもを奪うのか、ルドガー! |
ユリウス | …理性が負けたようだな |
エル | まだ!ヴィクトルはこんな衝動に負ける人じゃない! |
エル | ヴィクトルは間違えない!いつでも正しい選択をするの!だから… |
エル | 負の因子の衝動なんかに負けるはずない!そうでしょ、ヴィクトル! |
ヴィクトル | うぅっ…ぐぐぐっ…エル…私は… |
ユリウス | 動きが鈍った! |
エル | その調子だよ、ヴィクトル。あとは私に任せて |
エル | あなたは私が絶対に守る!だって私はヴィクトルのアイボーだから! |
エル | ルドガー、手伝って! |
ルドガー | ああ! |
ヴィクトル | 返せ…!私の全てを返せ、ルドガー!! |
scene2 | 決戦!骸殻VS骸殻 |
ヴィクトル | ぐっ… |
エル | はぁ、はぁ…ヴィクトル、落ち着いた? |
ヴィクトル | この程度で、私は…!私はぁぁぁぁっ! |
ユリウス | もうやめろ!その状態で戦い続ければお前の命も危ないだろう! |
ヴィクトル | なら、これで決着をつけるまでだ! |
ルドガー | くっ…!わかった、受けてやる! |
エル | …!待って、やめて…! |
ヴィクトル | ルドガアアァァッ!! |
ルドガー | うおおおおぉぉッ!!! |
| |
エル・エル | やめてぇぇぇぇぇっ!! |
| |
ヴィクトル | なっ…! |
ルドガー | 危ない…! |
| ドカッ── |
| |
ルドガー | エル! |
| |
エル | くっ…痛ったたた…間一髪だったね… |
エル | うぅ…怖かった… |
ルドガー | 二人共!怪我はないか? |
エル | 私は問題ないよ。それより… |
エル | パパ…!大丈夫!? |
ヴィクトル | あ、ああ…心配は、いらないよ… |
ルドガー | 力を使い果たしたのか… |
ヴィクトル | 二人共…危ないじゃ、ないか… |
エル | だって…!パパもルドガーも、何だか本気だったし |
エル | そうだよ。ルドガーにもヴィクトルにも…どっちにも死んでほしくないよ |
ヴィクトル | 私を見限って、ルドガーに…ついたのでは… |
エル | そんな…そんなわけ、ないよ…! |
ヴィクトル | だが…お前は、俺の事を…間違ってると… |
エル | 間違ってる…でも…パパ、だもん |
エル | エルの、とっても大事な…大好きなパパ…! |
ヴィクトル | …!エル…膝を擦りむいてるじゃないか! |
エル | あっ、ほんとだ…。でもこのぐらい、平気だよ!パパが無事だった方が大切! |
ヴィクトル | …エルを守るつもりで…エルに怪我を… |
ヴィクトル | 私は…! |
ルドガー | …!また負の因子が…! |
ユリウス | いや、待て…!よく見ろ!! |
ヴィクトル | エル…二度と、傷つけない… |
ヴィクトル | 絶対に…守る…! |
ルドガー | 負の因子を…制御している…!? |
| 巣立ちの時 |
ヴィクトル | くっ…はぁ…はぁ… |
ルドガー | 驚いたな。仮面の助けがあるとはいえ、衝動に打ち克つ事が出来るなんて… |
ヴィクトル | とはいえ…長く保っていられはしない… |
ヴィクトル | 私が抑えている間に…負の因子を… |
ルドガー | …ああ、わかった |
エル | … |
| チャキッ |
エル | ルドガー、違うよ! |
ルドガー | エル…? |
エル | 二人共、手、出して! |
エル | こうして、こうして…はい、握手! |
| ぎゅっ |
| |
ヴィクトル | …! |
ルドガー | これは…! |
| |
ヴィクトル | 負の因子が…道標へと変異し、お前に宿ったんだ |
ルドガー | 道標が…俺にも… |
| ヒュンッ |
ルドガー | …!時空の裂け目…! |
ユリウス | 確か時空の裂け目は道標を宿した者がルドガーに触れると現れると言っていたな |
ユリウス | 今、ルドガー自身が道標を宿した…。だから同時に裂け目が開いたのか |
ルドガー | そういう事か…。言われてみれば当然だけど、いきなりだと驚くな |
エル | 時空の裂け目か…何だか懐かしいね。昔、一緒に冒険した事を思い出すよ |
ヴィクトル | ああ…そうだな。しかし、私もかつて道標を集めたがあんな方法は初めてだ |
ヴィクトル | エル、どうして知っていたんだい? |
エル | 他の世界で見たんだよ。叩いたりしなくても、仲良くギュッてすればいいの! |
ルドガー | キールとメルディがそうだったな。なるほど、握手でもいいのか… |
ヴィクトル | …負の因子を破壊する方法は、力を消耗させ、狂気の元となる感情を崩した瞬間に力を加える… |
ヴィクトル | 今回は私の骸殻で力の消耗が激しかった上、術式で負の因子を抑えていた事も効いたのだろうが… |
ヴィクトル | こんな方法で破壊出来るとは思わなかった… |
ルドガー | …ヴィクトル。俺もあなたも、知らない事がきっとたくさんあるんだ |
ルドガー | こうして人を傷つけずに負の因子を破壊する方法があったように… |
ルドガー | 何も犠牲にせずこの世界を救う方法がきっとどこかにある |
ヴィクトル | … |
エル | 言われちゃったね、ヴィクトル |
ヴィクトル | …そうだな。数多の世界を調べて回っても見つからなかったが… |
ヴィクトル | 次の世界では見つかるかもしれない。そういう気持ちを忘れていたように思うよ |
エル | これで…もうヴィクトルとルドガーは戦わなくていいんだよね? |
ヴィクトル | ああ… |
エル | よかった…ヴィクトルがちゃんと生きてる!本当に無事でよかった |
エル | …そういえば、この人誰?あなたもエルって呼ばれてる気がするんだけど… |
エル | …えへへ。私はエルだよ |
エル | えっ、同じ名前!? |
エル | そうじゃなくて…何て言えばいいのかな… |
ヴィクトル | 彼女は、私がかつて一緒に冒険した相棒のエルだ。ルドガーにとってのエルと同じさ |
エル | んんん…?えっと、パパのアイボーで…ルドガーのアイボーはエルで… |
ルドガー | 簡単に言うと、10年後の未来のエルだ。別の世界の、だけどね |
エル | そうなの!?すごー! |
エル | よろしくね、10年前の私。あなたは幸せになるんだよ |
エル | うん!おとなのエル、すごく美人だね!エルもそういう風になれる? |
エル | なれるけど、簡単じゃないよ。美容にも結構気を使ってるんだから |
エル | わかった!エル、ビヨーに気を使う! |
ルドガー | こうして見ていると姉妹みたいだな |
ヴィクトル | ああ… |
ルドガー | …あの二人が生きるこの世界を俺も守りたい… |
ルドガー | 俺達の世界に戻ったら、この世界を救う方法はないか、みんなと相談してみるよ |
ヴィクトル | …ありがとう。私ももう一度、方法を探してみるとしよう |
ルドガー | ああ |
| |
ルドガー | …それじゃあ、帰ろうか。兄さん |
ユリウス | いいのか?エルは… |
ルドガー | エルにとっては、ここが自分の世界だ。だから… |
ユリウス | …別れの挨拶はしないのか? |
ルドガー | 挨拶すると、辛くなる。それに、エルならきっと── |
| |
エル | ついて行く! |
ルドガー | …!エル、聞いていたのか |
| |
エル | ルドガーひどい!アイボーを置いて行こうとするなんて! |
ルドガー | そう言うと思ったから黙って行こうとしたんだ… |
ルドガー | せっかくパパに会えたのに、また離れ離れになるんだぞ? |
エル | それは… |
エル | … |
エル | パパ… |
エル | エル、パパと一緒にいたい。けど… |
エル | ルドガーの手助けもしたい。ルドガーは、アイボーだから |
ヴィクトル | エル… |
ルドガー | エル、無理しなくても… |
エル | 無理なんかしてない!けど…確かにパパの事も…うーん… |
エル | エル、難しく考えなくていいよ。エルはどう思う? |
エル | …エルは… |
エル | パパ… |
ヴィクトル | …… |
エル | エルね、ルドガーと一緒に最後まで冒険したい! |
ヴィクトル | エル…そうか… |
エル | でも!エル、どこにいてもパパが、一番、大好きだよ! |
ヴィクトル | …エル…私は… |
ユリウス | …… |
ユリウス | 離れるのは辛いし心配だろう。だが、旅をする事でしか、得られない経験もある |
ユリウス | 信じて送り出してやるのも、家族の務めだ |
ヴィクトル | …ああ、そうだな |
ヴィクトル | エル、パパもエルの事が大好きだ。どんなに離れていたって、いつもエルの事を想ってる |
ヴィクトル | だから、安心して行ってきなさい |
エル | …うん!行ってきます! |
ヴィクトル | ルドガー。娘を、よろしく頼むよ |
ルドガー | …!はい! |
| 世界の楔 |
| ヒュンッ |
リタ | わっ!? |
キール | 時空の裂け目!?もしかして… |
エル | とうちゃーく! |
ルドガー | 無事に戻って来られたな |
キール | エル!ルドガー!それに… |
ユリウス | ここは…正史世界か?見覚えのない場所だが… |
リタ | もしかして…あんたがユリウス?えっ、何で!? |
ルドガー | 何があったか、説明するよ |
リタ | そう…あの時の世界再生が上手く行かなかった世界だったのね |
リタ | 分史世界にはクロノスがいない分、力が足りなかったのかしら |
ユリウス | なるほど…あり得る話だな |
キール | それにしても、エルの出自に、マティス式魔導器に負の因子の真実… |
キール | 新しい情報が多過ぎだ。そこから導き出される事もかなり多い… |
キール | あらゆる研究が進展するぞ…どこから手を付ければいいのかわからないぐらいだ! |
リタ | 嬉しい悲鳴って感じね |
キール | …とりわけ大きな情報は、マナの減少の原因がはっきりわかった事だな |
キール | 負の因子を改造し、新型の魔導器で操っていたなんて…ぼく達には解析出来ないわけだ |
ルドガー | …それから、二人に相談したい事があるんだ |
ルドガー | 実は俺達の行った世界は、滅びようとしてて── |
| |
| ビー、ビー、ビー |
| |
エル | わっ、何!? |
キール | 異変を観測する装置だ!この近くで何か起こる予兆── |
| ゴゴゴゴゴ!!!! |
ルドガー | …地震! |
エル | わわわっ! |
リタ | これが異変!?でも、こんな規模って… |
ユリウス | みんな、しゃがむんだ!頭を守れ!! |
| |
ミクリオ | スレイ、どうだった? |
スレイ | 問題ないよ。ライラが紹介してくれた天族がこの村に加護を与えてくれるってさ |
スレイ | 後は村の人達が建物を元に戻すだけだ。オレも手伝いたいけど… |
ミクリオ | 気持ちはわかるが、今は先を急がないとね |
ミクリオ | 何せ世界中の土地を回って、天族の加護を取り戻さないといけないんだから |
スレイ | けど、オレのせいで壊れた建物なんだ。ちょっとぐらい役に立ちたいよ |
スレイ | ミクリオ、ごめん。やっぱり、ちょっとだけ手伝ってくる |
ミクリオ | あっ、スレイ…! |
ミクリオ | 全く…仕方ないな。僕も手伝うか。その方が早く── |
| |
| ゴゴゴゴゴ!!!! |
| |
スレイ | …!地震!? |
スレイ | そんな…だってここに加護を与えてくれてるのは地の天族… |
ミクリオ | スレイ!これはただの地震じゃない!異常なマナの乱れを感じる! |
スレイ | マナ…?まさか… |
ミクリオ | 何だ、これは…! |
スレイ | ミクリオ!? |
ミクリオ | スレイ…!! |
スレイ | ミクリオ!! |
| |
| ビー、ビー、ビー |
キール | この反応は…! |
メルディ | バイバ!キール、これ何の音か!? |
キール | 時空間に大きな乱れが発生しているんだ! |
メルディ | 何か起こるか? |
キール | 詳しい事はわからないが…メルディ!近くの物に掴まれ! |
メルディ | えっ…? |
| |
| ゴゴゴゴゴゴゴ… |
メルディ | バイバ!? |
キール | これは地震じゃない…時空に生じた異常で、空間そのものが揺れているんだ! |
| |
キール | その異常の中心は、メルディ、おまえだ…! |
メルディ | …!メルディ、どうなるか? |
キール | 別の時空へ飛ばされるかもしれない!この世界の物に掴まっていても無駄だ… |
キール | メルディ!ぼくの手を握れ! |
メルディ | はいな! |
| ガシッ |
キール | これなら…例え別の世界に行くとしてもぼく達は一緒だ! |
メルディ | キール…!でも、キールも危ない… |
キール | 構うもんか!いいか、この手は絶対に放さないからな! |
メルディ | …!うん… |
メルディ | バイバ…! |
キール | 何っ…!まさか、これは… |
キール | しまった!時空の変化はメルディの内側から…! |
メルディ | キールっ!!! |
キール | メルディ…!待て! |
キール | メルディーーーっ!! |
| |
ルーク | 次は…ア・ジュールの大使館か。親善大使って忙しいんだな |
アッシュ | 当たり前だ。手分けすれば仕事は半分になるぞ |
ルーク | そうは言ってもな…。俺一人で行ったら嫌な顔する大使や大臣もいるからさ |
アッシュ | フンッ、甘い考えだな。国を代表する親善大使を名乗るなら成果を挙げて一人前だと認めさせろ |
ルーク | わかったよ。…とか言いつつ、しっかりついて来てくれるんだよな |
アッシュ | …お前の言う通りだ。確かに俺も甘かったな。ここで帰らせてもらう |
ルーク | 待った待った!本気にすんなって!せっかくなんだ、一緒に行こうぜ |
アッシュ | 全く── |
| |
| ゴゴゴゴゴゴゴ!! |
| |
ルーク | うおっ!?じ、地震か!? |
アッシュ | …大きいな。それに、妙な感じが… |
アッシュ | …!これは… |
ルーク | アッシュ!? |
アッシュ | …… |
アッシュ | ルーク。やはりこの先は一人で行ってもらう事になりそうだ |
ルーク | 一人でって…アッシュ、お前は… |
アッシュ | 俺の事は心配するな。それよりも親善大使の役目を果たす事だけを考えろ |
アッシュ | ……。お前なら、一人でも── |
ルーク | アッシュ…! |
ルーク | き、消えちまった…何だよ、いきなり! |
ルーク | 意味わかんねぇっつーの! |
ルーク | けど…俺一人で、親善大使の役目、立派に果たせばいいんだろ…! |
ルーク | こっちは心配すんなよ、アッシュ! |
| |
ルドガー | …止まったのか? |
キール | そのようだが…観測装置は反応し続けている。まだ何か… |
| |
エル | わっ、まぶしい! |
リタ | 何よ、この光…! |
??? | 何が起こっているんだ!?スレイは… |
??? | バイバ!キール… |
??? | … |
ルドガー | …! |
| |
ミクリオ | 光が収まった… |
メルディ | ここは… |
アッシュ | …見慣れない場所だな |
ルドガー | ミクリオ!メルディ!アッシュ! |
ミクリオ | ルドガー!? |
アッシュ | …?どうなっている? |
キール | メルディ!?何でここに!? |
メルディ | キール!よかった、一緒に来られたか!? |
キール | な、何の話だ!?それに、その服装は一体… |
メルディ | …?キール、メルディが知ってるキール違う |
エル | もしかして…お姫様のメルディ!? |
メルディ | あっ、エル!元気してたか!? |
ルドガー | やっぱり…分史のみんな、だよな…? |
ミクリオ | ここは…ルドガー達の世界なのか? |
ルドガー | さっきの異変でみんなここに来たのか…一体どういう事なんだ…? |
ユリウス | わからない… |
ユリウス | そもそも骸殻能力を持つ者がいなければ世界を超える事自体、出来ないはず… |
ルドガー | あの時…クロノスが暴走した時も、時空の裂け目が開いてみんなが世界を移動したけど… |
ユリウス | クロノス… |
ユリウス | …!そうか!オリジンの審判だ! |
ユリウス | これで四つの道標が正史世界に揃った事になる! |
ルドガー | そうか…!という事は… |
| |
| ビー、ビー、ビー |
エル | わっ、また!? |
キール | さっきとは別の反応だ!だけど、とても大きい… |
リタ | また地震でも起きるの!? |
| |
キール | わからないが…影響範囲は…世界中!? |
ルドガー | 世界規模の異変だって…!? |
キール | 発生の中心点は、バロニア郊外…すぐ近くだ! |
ユリウス | ここに道標が揃った事と何か関係があるかも知れないな… |
ルドガー | 見に行こう。悪いけど、三人もついて来てくれ |
アッシュ | …仕方ない。だが、説明はしてもらうぞ |
ミクリオ | 全てが突然すぎて理解が追いつかないからね |
メルディ | メルディも混乱してるよぅ |
ルドガー | わかった。行きながら事情を話すよ |
ルドガー | みんなに宿った道標の事…それに負の因子をみんなの世界に持ち込んだ、もう一人の俺の事も |
| |
キール | 観測装置の示す座標はこの辺りだが… |
ルドガー | …!見てくれ、あそこ…! |
| |
| |
| ヒュン |
| |
エル | 時空の裂け目! |
ルドガー | いや、何だか様子が違う…あれは… |
??? | 「世界の楔」に通じる道だよ |
ルドガー | …!あなたは…! |
| |
ロンドリーネ | あれが、ダオスが言ってた世界の楔への道…? |
ダオス | やつらにたどり着かせるわけにはいかぬ… |
ロンドリーネ | …どうするつもりなの? |
ダオス | 止めるのだ。世界の終わりを |
Name | Dialogue |
| 拓かれし道 |
ルドガー | あなた達も来ていたのか |
ルドガー | ヴィクトル、エル |
ヴィクトル | さっきぶりだね |
エル | … |
エル | 二人も、メルディ達と一緒に来ちゃったの? |
ヴィクトル | 違うよ、エル。私達は自分でここに来たんだ |
ルドガー | 自分で…?どういう事だ? |
ヴィクトル | …当事者である君達は知っておくべきか |
ヴィクトル | 君達を分史から転移させここに集めたのは私だ |
エル | パパ達が…!? |
ルドガー | 一体、どういう事だ…?この時空の裂け目と関係あるのか? |
ヴィクトル | ああ。さっきも言ったが、それは「世界の楔」に通じる道だ |
ヴィクトル | 私の計画は全てこの瞬間のためにあった… |
ルドガー | 計画だって…? |
ヴィクトル | 私が分史でどれだけ足掻こうとも正史にある「世界の楔」へは至れない |
ヴィクトル | だから正史のルドガー──君に「世界の楔」への道を開かせたのだ |
ヴィクトル | 道標を負の因子に変え、順番に回収出来るよう各分史にばら撒いてね |
アッシュ | …貴様が諸悪の根源か |
ルドガー | どうして世界の楔へ…? |
ヴィクトル | 質問に答えてやりたいが…今は一刻も早く為さねばならない事がある |
ヴィクトル | 対話の時間はその後だ。失礼する |
ルドガー | なっ…! |
エル | …じゃあね |
| シュンッ |
ルドガー | 待ってくれ…! |
エル | 行っちゃった… |
リタ | あいつ、何だったの?意味わかんないんだけど |
キール | 随分と急いでいたな… |
ユリウス | ヴィクトル…世界の楔で一体何をするつもりなんだ? |
ルドガー | わからない。でも、嫌な予感がする…俺達も行こう! |
| |
ルドガー | …!中は広いな…ヴィクトル達の姿はもう見えない… |
ルドガー | これが…世界の楔への道か… |
エル | なんか…怖い。でも、パパはこの先にいるんだよね… |
ミクリオ | …不思議な空間だ。こんな遺構は見た事も聞いた事もない |
ユリウス | そうだろうな。おそらくこの地に到達した人類は我々が始めてだ |
ユリウス | 何が起こるかわからない。なるべく固まってはぐれないように… |
ユリウス | ちょっと待て。キールとリタはどうした? |
メルディ | そういえばいないな?迷子か? |
ルドガー | 入って来た時空の裂け目はすぐそこだ。はぐれるような距離じゃないはず… |
アッシュ | 入った際、別の場所に飛ばされたという可能性は? |
ミクリオ | どうだろう…でも、他のみんなは一緒にいるからその可能性は低いと思うな |
ミクリオ | 単純にここに入れていないのかも知れない。一度戻って確認しよう |
| |
| グガアアァッ! |
| |
エル | わわっ!? |
ルドガー | 危ない! |
| ザシュッ |
| グルルウゥ… |
| バシュウゥゥ──… |
メルディ | バイバ!消えちゃったな!…幻だったか? |
ルドガー | いや、確かに手応えはあった。それと、今の魔物… |
ユリウス | 見慣れない魔物だったな。何か気になるのか? |
ルドガー | 世界が晶化した時、ラザリスの宮殿にいた魔物なんだ。もういなくなったはずなのに… |
ユリウス | …やはりここでは何が起こるかわからない。一度外に出て状況を整理しよう |
ルドガー | そうだな。一旦ここから出よう |
| それぞれの使命 |
リタ | 駄目ね、入ろうとしても弾かれる。何かしらの特殊な力が働いてるみたいね… |
キール | ルドガー達は入れて僕達は入れない…。何故だ…? |
| シュンッ |
ルドガー | …よし、みんな無事に出られたな |
リタ | うわっ!急に出てこないでよ。びっくりするじゃない! |
キール | ルドガー!よかった、無事だったか |
キール | 僕達は入れなくて、どうしようかと思っていたんだ |
ユリウス | 入れない…か |
ユリウス | これは推測だが、入るのには資格がいるのかもしれないな |
リタ | 資格? |
ユリウス | 先に入った二人とルドガー、エル、俺の三人はクルスニクの一族だ |
ユリウス | そして分史の三人は道標…つまり入れた者は、オリジンの審判に関わりのある者なんだ |
リタ | 部外者立ち入り禁止って事ね。どうにか出来ないの? |
ルドガー | …何か方法があればいいけど… |
キール | まだ情報が足りないな…。中の様子を教えてくれないか |
ルドガー | ああ、中は── |
リタ | 晶化現象の時に現れた魔物…ね |
エル | ラザリスって人がフッカツしたのかな? |
ルドガー | いや…おそらく違うと思う。それなら魔物だけじゃなく世界ごと晶化するはずだ |
ユリウス | だとすると…命を失った魔物達の魂だったのかもしれないな |
リタ | 魂?…まさか、幽霊だなんて言うつもりじゃないでしょうね |
ユリウス | 実体はあったから幽霊というわけではないだろう |
ユリウス | 伝承の中で、世界の楔は全ての世界のマナと魂を循環させる場所だと語られている |
ユリウス | 命を失った者達の魂は世界の楔に集まる。人も、魔物もな |
キール | その魂が何らかの理由で実体化していた…という事か? |
ユリウス | ああ。あくまで伝承を元にした憶測でしかないがな |
ルドガー | ヴィクトル達なら何か知っているだろうか… |
ユリウス | 我々よりは詳しいだろうが…話を聞くためには追いつかなくてはな |
ルドガー | すぐに追いかけよう |
ルドガー | …何が起こるかわからない場所だ。エルは危険だから── |
エル | 留守番しろ、なんて言わないよね。エルはルドガーのアイボーだし |
ルドガー | …本当に危険なんだ。俺がエルを守り切れないかもしれない |
エル | その時は、エルがルドガーを守る!それがアイボーでしょ! |
エル | それに、中にはパパがいる…。エル、パパが何をしようとしてるのかちゃんと聞きたい! |
エル | もしルドガーに置いて行かれてもエル、一人でパパを捜しに行くよ!それでもいいの!? |
ルドガー | それは… |
リタ | ルドガー、これはあんたの負けよ。置いてったらこの子本気で一人で行っちゃうわよ |
キール | もしそうなったら、僕達は追いかけようにも世界の楔には入れないぞ |
ルドガー | …そうだな。それに、エルの意志の強さもよくわかった |
ルドガー | すまなかった、エル。アイボーとして、一緒に来てくれるか? |
エル | もちろん! |
ミクリオ | 話はまとまったようだね |
メルディ | メルディ達はルドガーと行くよ!キール達、どうするか? |
キール | ぼく達は、今ある情報を元にどうにか中に入れないか方法を探ってみる |
リタ | 一度研究施設に戻った方がいいわね。何らかの方法で資格ってやつがあると認識させられれば── |
| |
研究員 | はぁ、はぁっ!キールさん、リタさぁん! |
キール | ?何だ? |
リタ | あんた確か、研究施設にいた…。慌てて、どうしたの? |
研究員 | …き、緊急事態です!この観測結果、見てください! |
| ペラッ |
| |
キール | これは…! |
リタ | 嘘でしょ…!この数字、見覚えあるわ。確か前に時空の亀裂が出来た時の… |
研究員 | その通りです!実際に、東の山の方で時空の亀裂が観測されています! |
ルドガー | クロノスが暴走していた時のような現象が起きてるのか!?大勢の人が亀裂に飲み込まれるぞ |
リタ | どうすればいいのよ。亀裂への対応にも骸殻の力が必要なんでしょ!? |
ユリウス | …手分けすればいい。新しく発生した亀裂には俺が向かおう |
ルドガー | 兄さん…? |
ユリウス | ヴィクトル達を追うのはルドガーが適任だろうからな |
ルドガー | …兄さん、ありがとう。こっちの事は任せるよ |
ユリウス | 気を付けてな |
ルドガー | ああ。兄さんも |
リタ | あたし達は研究施設に戻って、亀裂が出来た原因を探るわ。あと、世界の楔への入り方もね |
キール | 忙しくなりそうだな |
メルディ | キールなら出来るよ!頑張ってな! |
キール | ああ。ありがとう |
ルドガー | よし…それじゃ改めて向かおう。世界の楔の、その奥に |
エル | おー! |
scene1 | 最奥を目指して |
ミクリオ | 世界の楔…前人未到の地か。改めて見てもやっぱり独特な景色だね |
メルディ | また突然、魔物が出るかも。気を付けるよぅ |
アッシュ | どんな景色だろうと、何が起ころうと道が続いているのなら進むのみだ。…急ぐぞ |
エル | うん。パパ達に追いついて、何をしようとしてるかちゃんと聞かないとだもんね! |
ルドガー | ああ。行こう! |
scene2 | 最奥を目指して |
アッシュ | 穿衝破! |
ミクリオ | 六行六連! |
| グギャア! |
| |
| バシュウゥゥ──… |
| |
アッシュ | 流れるような六連撃…見事だ |
ミクリオ | 君が隙を作ってくれたお蔭だよ。それに、剣士と一緒に戦うのは経験があるからね |
アッシュ | だとしても初対面で俺の動きに合わせられる奴はそう多くない |
ルドガー | この辺りの魔物はあらかた片付いたみたいだ。戦い続きだし、少し息を整えよう |
ミクリオ | それじゃ君も小さい頃から弟と剣の練習をしていたんだね |
アッシュ | ああ。あいつも負けず嫌いで、ほぼ毎日手合わせしていたからな。練習相手には事欠かなかった |
ミクリオ | そうか。僕も君もそんな繋がりがある人に負の因子が憑りついたんだね |
アッシュ | ヴィクトルの計画か… |
ミクリオ | ああ。彼は仮面の男…ヴィクトルにこう吹き込まれていたらしいんだ |
ミクリオ | 平和のためには犠牲が必要だ、と… |
ルドガー | 今にして思えばその情報は負の因子の影響を強めるためのエサだったのかもしれないな |
メルディ | はいな。メルディが世界では、キールに分史が知識教えてた |
メルディ | あの時がキールにとって悪い心、揺さぶられた気がするよ |
アッシュ | …。俺の世界では、ルークに負の因子は道標、という言葉を残した |
ルドガー | 負の因子を破壊した者は世界の楔へと続く道標になる… |
アッシュ | ルドガーに回収させる事まで含めて全部、奴の計画の内だったという事だ |
ミクリオ | みんな、彼の掌の上で踊らされていたのか… |
メルディ | そこまでして、何したいか見つけ出して、聞かなきゃな! |
メルディ | キールが事、利用したのは、許せないけど… |
メルディ | 互いの考え知るため話し合うの、とっても大事 |
メルディ | そうしないと悪い考えばっかり大きくなる。気持ち、すれ違っちゃうよ |
エル | うん。パパと、ちゃんと話ししたい |
エル | …エル、パパは悪い事したいわけじゃないって信じてるから |
ルドガー | そうだな…。ヴィクトルのやり方は確かに正しくなかったけど… |
ルドガー | そんな事をしたのには何か事情があるはずだ。その話はしっかり聞きたいと思う |
アッシュ | 対話の必要性か…全く、耳の痛い話だ |
メルディ | 対話の仕方も大事な。メルディとおカーサン、女王と王女として話すとダメだった |
メルディ | でも親子として話したらすぐわかり合えたよ |
アッシュ | … |
ミクリオ | … |
メルディ | ?どうかしたか? |
ミクリオ | 君は、一国の王女なのかい? |
メルディ | はいな。言ってなかったか? |
アッシュ | そうだったのか。王族には珍しい純朴な人間だな |
メルディ | それ、褒めてるか? |
アッシュ | 勿論だ。王宮という魔窟では人を信じる気持ちを忘れがちだ |
アッシュ | 俺も見習う必要があるかもしれないな… |
ルドガー | そうか、そういえばお互いの自己紹介もまだだったもんな。そんな暇が今はないんだけど… |
ミクリオ | 僕達の間にも対話は必要かもしれないね |
ミクリオ | 例えば、ルドガー…君に確認しておきたいんだが |
ミクリオ | ヴィクトルと対話した結果、もし受け入れられないような話だった場合… |
ミクリオ | 君達は、ヴィクトルと戦うのか? |
ルドガー | …出来る限りそれは避けたい。戦うって事は、彼の事情を鑑みず力尽くでこちらの正義を通すって事だ |
ルドガー | もし戦うとしたら、話し合うために。話し合って折り合いがつかない時はお互いが納得出来るまで話すよ |
ルドガー | 別の世界の存在とはいえ彼と俺は同じ…どこかで折り合いをつけられるはずだ |
ミクリオ | それを聞いて安心したよ。僕もそうするべきだと思う |
ミクリオ | 一方にとって邪魔だからもう片方を排除する…そんな戦いは、もう見たくないからね |
アッシュ | 同感だ。主張が全く相反する者同士でも共存の道は必ずある |
メルディ | ワイール!みんな仲よく話し合うが一番! |
ルドガー | みんな…ありがとう。少し不安だったけど、お蔭で勇気が湧いて来たよ |
| |
??? | こんなところで談笑とは随分余裕だな |
ルドガー | …!誰だ…!? |
| 時空を超える力 |
ルドガー | あなたは…!? |
ダオス | 仮面の男は…まだ先か |
ルドガー | ダオス!何故ここに…!? |
ダオス | …それはこちらの台詞だ。休んでいる暇などお前達にはないはず |
ミクリオ | ダオス…?まさか、伝説の魔王…実在しているとは驚いた |
ダオス | … |
メルディ | ルドガー、知り合いか? |
ルドガー | ああ。彼は、正史のマナが減っている理由を調べていたんだ |
ルドガー | そうだ、ダオス。マナが減っていた原因はもう解決したんだ |
ルドガー | ヴィクトルという男が分史にマナを移動させてたけど、それはもう止める事が出来た |
ダオス | …そのヴィクトルというのが仮面の男だろう |
ダオス | 今まだ野放しの状況で何故、解決したと言える |
ダオス | お前は奴がここで何をしようとしているか、真意を知っているのか? |
ルドガー | それは… |
ダオス | …どうやらお前達と話していても時間の無駄のようだ |
エル | パパを追いかけてどうするの…? |
ダオス | … |
エル | 行っちゃった…なんか感じ悪いし! |
ルドガー | …追いかけよう |
メルディ | ダオスをか?それともヴィクトル達か? |
ルドガー | まずヴィクトルだ |
ルドガー | ダオスもヴィクトルを捜していた。ヴィクトルを追っていればどこかで会うだろう |
エル | うん!あの人より先にパパを見つけよう! |
| |
リタ | うーん…無理か。資格がないと入れない特殊な力…っていう線での検証はこれが限界ね |
キール | 行き詰っているみたいだな |
リタ | まぁね。情報が足りなさすぎるのよ。そっちで調べてる亀裂の方は何か進展はあった? |
キール | いや、大きな動きはない。計測器の数値は異常な数値を指したままだ |
リタ | 依然として安心は出来ないわけね… |
??? | あの、ごめん。ちょっといいかな |
リタ | ん…? |
ロンドリーネ | 忙しそうなところ申し訳ないんだけど… |
リタ | あんたはこの前の…!どうしたのよ? |
ロンドリーネ | 実はダオスがあの世界の楔ってとこに入って行っちゃったのよ… |
キール | 何だって…!? |
リタ | ちょ、ちょっと!その話詳しく聞かせなさい! |
ロンドリーネ | わ、わかった。順を追って説明するね |
ロンドリーネ | えっと、あの時空の裂け目の前から誰もいなくなるまで、私達は離れて待ってたんだけど… |
| |
ロンドリーネ | みんないなくなったね… |
ダオス | … |
ロンドリーネ | ねえ、どうするつもり?もしかして中に入るの? |
ダオス | …時空の壁か。ならば… |
ダオス | … |
ロンドリーネ | えっ?入って行っちゃった…! |
ロンドリーネ | 私も、入れるのかな…?えーい、ものは試し! |
| |
| シュン |
ロンドリーネ | 入れた…!でも、どうして… |
ダオス | …デリス・エリュシオンか |
ロンドリーネ | え?あ、本当だ。デリス・エリュシオンが光ってる… |
ダオス | だが、すぐにマナは尽きる |
ロンドリーネ | え、それって、どういう── |
| ヴォン |
ロンドリーネ | えっ、何!?吸い込まれ── |
| |
| ヴォン |
ロンドリーネ | きゃはぁっ!! |
| ドサッ |
ロンドリーネ | いてて…ここは…弾き出されちゃった?…って、私だけ? |
ロンドリーネ | も、もう一回…! |
ロンドリーネ | うーん…駄目ね、今度は全然入れない…さっきのキールやリタと一緒だ |
ロンドリーネ | ダオス、何をするつもりなんだろ…。世界の終わりを止めるって言ってたけど… |
ロンドリーネ | 何だか嫌な予感がする。どうにかして追いかけないと… |
ロンドリーネ | キールやリタならもしかしたら…ここで考えてても仕方ない、研究施設に行ってみるか |
| |
ロンドリーネ | …というわけで、二人に相談しにきたの |
リタ | 二人共、世界の楔に入れたって事?だけどあんたはすぐに弾き出されてダオスは戻ってこなかった… |
キール | 今の話だと、デリス・エリュシオンという物のマナが尽きて弾き出されたみたいだな |
キール | デリス・エリュシオンとは何だ? |
ロンドリーネ | この指輪だよ。昔、ダオスにもらったの |
キール | …見たところ、何の変哲もないただの指輪のようだが…特別な力があるのか? |
ロンドリーネ | うん。溜めたマナを使って時空を超えて移動が出来るんだ |
キール | 時空移動…!?とんでもない力だな |
キール | しかし時空を超えるという点では骸殻能力に通じる部分がある… |
キール | …時空を超える力があれば世界の楔に入る資格があると誤認させる事が出来るのか…? |
ロンドリーネ | ダオスが中に入れたのは、デリス・エリュシオンなしで時空を超える術が使えるから…? |
リタ | ちょっと、その指輪調べてもいい? |
ロンドリーネ | …わかった |
リタ | …全く未知の構造だわ。マナは自然と溜まるようになっていて膨大な量を蓄えられるみたい |
キール | 時空を超えるには相応のマナが必要という事か。今はどのぐらいのマナが入ってるんだ? |
リタ | すっからかんよ。自然に溜まるマナだけで満たすのは時間がかかりすぎるわね |
キール | 世界の楔に入るために全てのマナを消費してしまったという事か |
ロンドリーネ | ダオスの口ぶりからしてもきっとそうだと思う。何とかならないかな…? |
リタ | …上手く行くかはわかんないけどここにある機材を使えば指輪にマナを充填出来ると思うわ |
ロンドリーネ | ほんと!?私、どうしてもダオスを追いかけたいの!お願い出来ないかな…? |
リタ | 任せなさい!…って言いたいところだけど、あんたも手伝ってくれる? |
リタ | マナの大量急速充填には人手が必要なの |
ロンドリーネ | 勿論!何をすればいいか教えて! |
リタ | そうね…じゃあ、こっちに来て |
キール | ふう。忙しくなってきたな。だが、これで── |
| |
キール | …… |
| |
キール | 何だ?妙な胸騒ぎがする |
キール | (この感覚… メルディに危機が迫る悪夢を 見た時に似ている気がする…) |
キール | (まさか、また何か──) |
| |
??? | キール! |
キール | うわぁ…っ! |
| |
メルディ | わっ!どうしたか!? |
キール | …メルディか。驚かさないでくれ |
メルディ | ごめんな |
キール | いや…それで、どうかしたのか?今、大変な状況なんだ。急用でないなら後にしてほしい |
メルディ | そうだった。お客さん連れてきたよぅ! |
キール | …客だって? |
メルディ | はいな!みんな変な夢見たり、胸騒ぎがして集まったって言ってるよ! |
キール | 変な夢?胸騒ぎ?まさか── |
scene1 | 仮面の裏側 |
エル | あっ!いた! |
ルドガー | 追いついたか…! |
ヴィクトル | …… |
エル | もう来たの!?魔物がたくさんいたはずでしょ |
ルドガー | みんなの助けがあったからな |
ルドガー | それより…ダオスはどうした? |
ヴィクトル | 何の事だ。…もしや、かの魔王がここに来ているのか? |
ミクリオ | 本当に知らないようだね。という事は、途中の分かれ道で別の方に行ったのかもしれない |
ルドガー | そうだな… |
ヴィクトル | …それより、何故エルを連れて来た。危険だろう |
エル | ルドガーのアイボーだもん!それに、パパの事だって心配だし |
エル | ねぇ、パパ。ここで何しようとしてるの?ちゃんと教えて |
ヴィクトル | …エル。……わかった。全て教えよう |
エル | ヴィクトル…!?でも… |
ヴィクトル | 私がここで話をしていても何も問題はない |
エル | …そういう事ね。わかった |
ヴィクトル | …さて、私の目的だったか。そもそも君達はどうしてそこまで知りたがるんだ |
ヴィクトル | もしかして私が世界征服でも企んでいると考えているのか? |
ルドガー | そういうわけじゃないけど… |
アッシュ | ご託はいい。さっさと話せ |
ヴィクトル | 私の目的はごくありふれた事…娘と平穏に暮らしたい。ただそれだけだ |
メルディ | そのため、道標が必要か?メルディ達が世界に負の因子、持ってくる必要あったか? |
ヴィクトル | ああ、勿論だ。私は世界の楔に辿り着き…オリジンの審判を達成する必要がある |
ルドガー | …やっぱりオリジンの審判が目的だったのか |
ヴィクトル | そうだ |
ヴィクトル | ルドガーは知っているだろうが、私の世界はマナが枯渇し滅亡の危機に瀕している |
ヴィクトル | オリジンの審判を達成し願いを叶えれば、私の世界にマナを取り戻せる |
ヴィクトル | ルドガー。君の言っていた、何も犠牲にしない方法というやつだよ |
ミクリオ | …悪い話には聞こえないな |
エル | うん。それだったら、エルも賛成 |
ルドガー | …ああ。だけど…何かおかしい |
ヴィクトル | …何か疑問があるのか? |
ルドガー | 最初からそれが狙いだったら負の因子を使ってマナを集める必要はなかったはずだ |
ルドガー | わざわざ負の因子を改造までして他の世界からマナを奪っていた…その意味は何だ? |
ヴィクトル | マナを奪えば正史に異変が起こり、君は異変をたどって道標を集める。その誘導のためだ |
ヴィクトル | 何せ正史の住人である君に道標を集めてもらわないと世界の楔へは至れないのだからね |
ルドガー | …なるほど…筋は通る… |
ヴィクトル | 納得したかい? |
ルドガー | …もう一つ |
ヴィクトル | …何だい? |
ルドガー | エルが正史にいた事だ。エルと一緒に暮らす事が目的ならどうしてエルを迎えに来なかった? |
ヴィクトル | …君も聞いた事があるだろう。正史世界では、同一の存在が共存する事は出来ないと |
ルドガー | ああ。兄さんが言っていた… |
ヴィクトル | 私はルドガーだ。正史世界に君がいる限り同一存在である私は正史に入れない |
ルドガー | それなら、今ここにヴィクトルと大人のエルがいる事はおかしい… |
ミクリオ | 僕達もだ。この世界にも僕はいるんだろう?なのにここにいられる… |
ルドガー | もしかして、同一存在が共存出来ないという伝承は間違いなのか…? |
ヴィクトル | …いや。伝承は間違っていない。そうでなければ私はエルと共に正史世界に住めばいいだけだからね |
ヴィクトル | …それが出来ないのは、ルドガーと私という同一存在が正史世界に共存出来ないからだ |
ルドガー | …だったら、何故、今── |
| |
ヴィクトル | …ここが正史世界ではなくなり始めているからだ |
| |
ルドガー | …!どういう事だ!? |
ヴィクトル | 君が疑問に思った負の因子を使ってマナを奪っていた理由の一つだよ |
ヴィクトル | この世界のマナを分史に移し替え、正史世界としての法則が機能しなくなるようにしていたのだ |
ヴィクトル | 最初は、エルに持たせた懐中時計とルドガーの持つ時計がやっと共存出来る程度だった |
ルドガー | …そうか、この時計…エルが持っているのはヴィクトルの…つまり俺の時計と同一存在なのか |
ヴィクトル | ああ。それから徐々にマナを移し続け正史世界のマナの半分近くを私の世界に移し替えた |
ヴィクトル | 今やこの世界は正史世界としての完全性を失い、同一存在が共存出来るまでになっている |
ヴィクトル | あとは世界の楔だけだ。この世界の楔を正史から外し、私の分史に繋ぎかえれば── |
ヴィクトル | 私の世界が正史となる |
ルドガー | 何、だと…!? |
ミクリオ | 君の世界の問題はマナの枯渇だったんだろう?なのに、正史にする意味は何だ |
ヴィクトル | 何度も言っているだろう。娘と平穏に暮らし続けるためだ |
ヴィクトル | マナの枯渇は、オリジンの審判を達成した時に願いを叶えれば解決するだろう |
ヴィクトル | しかし…私の世界が分史である限り、突然世界が消える恐れが付きまとう |
ルドガー | …!時歪の因子か! |
ヴィクトル | そうだ。私の世界の時歪の因子が破壊されれば、全ては水の泡だ |
ヴィクトル | だが、私の世界が正史となれば時歪の因子の破壊による世界破壊の心配がなくなる |
メルディ | 時歪の因子の破壊…キールも同じ事心配してた |
ヴィクトル | ああ。分史の人間にとっては、いつ自分の世界が消えるかも知れない |
ヴィクトル | それを解決しない限り、平穏な生活は送れない |
ルドガー | その時、正史…俺達の世界はどうなる? |
ヴィクトル | 推測でしかないが… |
ヴィクトル | 分史と同じ法則になるとすれば、世界の核となる時歪の因子がないため消滅してしまうだろう |
ヴィクトル | ただ、分史とは根本的に世界の造りが異なる |
ヴィクトル | 私の見立てだと…正史世界は、時間をかけてゆっくり溶けるように崩壊していく… |
ヴィクトル | その間に、お前とエルの力を使えば仲間や家族──大切な人達を別の分史に避難させられるだろう |
ルドガー | …だが、世界中全ての人を避難させる事は出来ない。違うか? |
ヴィクトル | …その通りだ。しかし、その事がお前にどんな影響がある? |
ヴィクトル | 身の回りの人間が全て今まで通り一緒にいるのなら元の世界と何が違うんだ? |
ルドガー | 何が違うか、だって…!?大勢の人が犠牲になるんだぞ! |
ヴィクトル | 元々、顔も名前も知らない者達だ。お前の人生と接点もない。心を痛める必要はないだろう |
ルドガー | 本気で言ってるのか…?知らない誰かなら犠牲になっても平気だって… |
エル | そんなのダメだよ、パパ! |
ヴィクトル | …普段、私達が笑って過ごしている間にも、世界のどこかで人は死んでいる |
ヴィクトル | 今こうしてる間にもだ。病で、事故で…だが、そんな事知る由もないだろう |
ヴィクトル | 知らなければ平気だ。心が痛む事もない。…それと同じだ |
ルドガー | 同じじゃない…!お前の都合で死を押し付ける事が問題なんだ! |
ヴィクトル | …それを言うなら、ルドガー。お前もこれまでに分史世界を破壊した事があるだろう |
ルドガー | …っ! |
メルディ | …ルドガー…? |
ルドガー | …ある。だけど好きでそうしたわけじゃない |
ヴィクトル | つまり、自分や大切な者を守るため仕方がないから、時歪の因子を破壊し分史世界を消したという事だ |
ヴィクトル | 私も同じだよ。大切なエルとの平穏な日常を守るために犠牲は厭わない |
ルドガー | それをエルが望まなくてもか? |
ヴィクトル | …っ! |
エル | …ルドガーの言う通りだよ。エル、パパの言う事むずかしくてまだよくわかんないけど… |
エル | 誰かをギセイにしたくない!その気持ちは、変わらないよ! |
ヴィクトル | … |
ヴィクトル | …今はわからなくても構わない。いずれ、理解してくれるさ |
メルディ | それじゃダメな。エルの気持ち、無視するのよくない! |
メルディ | きちんと話し合わないとお互いに後悔する! |
ミクリオ | 犠牲の上に造られた世界で、何事もなかったかのように平穏に暮らす事は難しいよ |
ミクリオ | 時間は痛みや罪の記憶を薄れさせてくれるけれど…消えるわけでは、決してない |
ミクリオ | 幸せな日常を過ごせば過ごすほど彼女は犠牲になった人々を想い、罪の意識に苛まれるだろう |
アッシュ | それに、他の分史を破壊した事を指摘してルドガーを黙らせたようだがそれとこれとは話が別だ |
アッシュ | 過去にどんな罪を背負ってようと今、新たな犠牲を出さないように動いている事とは関係ない |
アッシュ | ルドガーもだ。理屈ではなく、今自分が何を正しいと思うかを考えろ |
ルドガー | …そうだな。みんな、ありがとう |
ヴィクトル | …滅ぶのは正史だけだ。分史に生きる者達には無関係…何故、口を挟む? |
ミクリオ | ルドガーは僕の大切な友人を救う手助けをしてくれた。その恩を返したいと思うのは当然だ |
メルディ | メルディも助けてもらった、次は助けたい! |
アッシュ | 俺は国と弟が世話になった。生きる世界が違う程度の事、黙っている理由にはならん |
ルドガー | みんな… |
ヴィクトル | ふふ…なるほど |
ルドガー | 何がおかしい |
ヴィクトル | 私が道標を集めた時は情など深める余裕はなかった。何しろ急いでいたのでね |
ヴィクトル | 犠牲を出さないなどという甘い考えにもなるわけだ |
ヴィクトル | 私達は同じ存在…話せば考えも通じると思ったがどうやら間違いだったようだ |
ルドガー | …… |
ヴィクトル | 世界が…環境が違えばここまで違うか |
ヴィクトル | 結局、私達はどこまでも相容れないようだ。ここで消えてもらおう |
ルドガー | 待ってくれ、ヴィクトル!今は相容れないかもしれないが、じっくり話し合えばきっと… |
| |
ヴィクトル | 話し合うよりもこの方が早い! |
| |
ミクリオ | 駄目だルドガー!向こうは何か使おうとしてる! |
ルドガー | あれは…何かの、魔導器か!? |
| ヴォン |
メルディ | バイバ! |
ミクリオ | これは、時空の──!? |
アッシュ | くっ…吸い込まれるぞ…! |
エル | きゃあぁぁっ! |
| シュン |
ルドガー | みんな!!!エルまで…! |
ヴィクトル | 殺しはしない。別の場所へ飛ばしただけだ。このように… |
| ヴォン |
エル | きゃあっ! |
ヴィクトル | おっと |
| ガシッ |
ヴィクトル | 怪我はないかい? |
エル | パパ…!どうして、こんな事するの…? |
ヴィクトル | そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。全部、エルのためなんだよ |
ヴィクトル | ここは危険だ。パパと一緒に行こう |
エル | 行くってどこに!?ルドガーは!? |
ヴィクトル | …残念だが、彼らはここまでだ |
エル | それって… |
ルドガー | …!? |
| |
| グゥルルル…!! |
| |
ルドガー | なっ…でかい!こんな魔物も呼び出せるのか!? |
ヴィクトル | この空間を漂う魂に形を与えただけだ。創造の力を使ってね |
ルドガー | 創造の力…そうか!ここまで襲ってきた魔物もお前の仕業だったのか! |
エル | パパ、やめてよ!あんな大きいの、ルドガー死んじゃう! |
ヴィクトル | 何、ルドガーなら大丈夫さ。一度は私に勝った実力者だからね |
ヴィクトル | だが巻き込まれると危ない。エルはこっちに来るんだ |
エル | パパ、放して…! |
エル | ルドガー…! |
ルドガー | エル…! |
ルドガー | 待て、ヴィクトル!! |
| ウガアァァッ!! |
| ドゴォォォン! |
ルドガー | くっ…!まずはこいつをどうにかしないと! |
scene2 | 仮面の裏側 |
| ズウゥゥン… |
ルドガー | ふぅ…やっと倒れてくれたか |
ルドガー | 今までの魔物のように消滅しない…。気絶しただけなのかもしれないな |
ルドガー | …みんなは無事だろうか。他の場所に飛ばしただけって言っていたけど… |
ルドガー | …居場所がわからない以上、合流するのは難しいな |
ルドガー | ただ待つわけにもいかない。合流出来ないなら、奥を目指して進んでくれるはずだ |
ルドガー | みんなを信じて…今はヴィクトルを追いかけよう |
| |
ミクリオ | ここは… |
ミクリオ | みんなとは別の場所に飛ばされてしまったのか… |
ミクリオ | 早く合流しなければ。だが、どっちに── |
| ズズゥゥゥンッ!! |
| グオオオォォォッ!! |
ミクリオ | こいつは…! |
ミクリオ | 本で見た事がある。魔界ニブルヘイムに棲むとされるギガントモンスター…! |
ミクリオ | まさか実在したとは… |
| グァアアッ! |
ミクリオ | …どうやら、こいつを何とかしないと先に進めないようだな |
| |
メルディ | いたぁ…お尻打ったよー |
メルディ | …バイバ!あれは… |
| グァァァァッ!! |
| グルルゥ… |
メルディ | はぁ、はぁ…上手く隠れられたな。近くに四角いのあって助かったよぅ |
| グルルルル… |
メルディ | メルディが事、捜してる。ここなら見つからないけど… |
メルディ | ……。道、塞がってる…。何とかしないと進めないな |
メルディ | うーん…大きい魔物、怖いけど…。ルドガーが事、助けて力になるため進まないといけないな |
メルディ | メルディはもう、じっと守られてるだけのお姫様違うから…! |
メルディ | こっちだよ! |
| ガルル!? |
メルディ | 目を狙って──レイ! |
| グギャアアアッ!!? |
メルディ | グレイブ!ライトニング! |
| グゥゥ…ギャオオオォン!!! |
メルディ | そこどいてくれるまで、撃ち続けるよぅ! |
| |
アッシュ | この景色…外に出されたわけではなさそうだな。目的は分断か…? |
アッシュ | …!あれは…! |
| グオオォォッ! |
アッシュ | ちっ、面倒そうな奴が出てきやがった |
| ブオンッ! |
アッシュ | ふん、大振りだな |
アッシュ | 悪いが先を急ぐ。すぐに片付けさせてもらう! |
| グオオォォォッ! |
| 己が信念と共に |
| ウガアアッ!!! |
ルドガー | くっ、やっぱりまた動き出した…! |
| ブンッ! |
| ガキィッ! |
ルドガー | くっ…重い…!受け止め…きれない…! |
ルドガー | このままじゃ…! |
| |
??? | あと3秒持ちこたえて! |
ルドガー | …!この声は…! |
ロンドリーネ | はあっ! |
| ザシュザシュ、ジャキン! |
| グルァアッ!! |
| |
ロンドリーネ | 思ったより硬いね~!けど、よろけさせたよ! |
ルドガー | ありがとう、助かった!けど、どうしてここに… |
ロンドリーネ | 話はあと!一気にやるよ! |
ルドガー | ああ!! |
ルドガー | 全力で行く! |
ロンドリーネ | 逃がさない!貫け、槍よ!デモンズランスレイン!! |
ルドガー | うぉぉぉっ!マター・デストラクト!! |
| グ、グガアァァァ… |
| ズズウゥゥゥン…!! |
| バシュウゥゥ──… |
ルドガー | ありがとう、助かったよ |
ルドガー | もしかして、ダオスと一緒に来たのか?でも、どうやって… |
ロンドリーネ | もう、ダオスと会ったんだね |
ロンドリーネ | 私はダオスとは別で来たんだ。説明すると長くなるんだけど、このデリス・エリュシオンのお蔭なの |
ロンドリーネ | ダオスも、デリス・エリュシオンも時空を超える力を持ってるから… |
ルドガー | 時空を…そういう事だったのか |
ロンドリーネ | でも、あまり時間はないんだ。マナはたくさん充填したけど、力をみんなと分け合ってるから… |
ルドガー | みんな? |
ロンドリーネ | うん。みんな呼ばれてる気がするって途中であちこちに分かれて行っちゃったけどね |
ルドガー | あちこちに…それって、もしかして── |
| |
ミクリオ | ツインフロウ! |
| バシュゥッ! |
| グガァァッ! |
ミクリオ | はぁ、はぁ…駄目だ…効いてはいるみたいだけど、この程度じゃ…! |
| グオォッ! |
ミクリオ | …っ!しまった、避けられな── |
??? | ルズローシヴ=レレイ! |
スレイ・ミクリオ | 蒼の四連! |
| バシュ! |
| グアアッ!! |
ミクリオ | …!スレイ…と、僕か!? |
スレイ | 間に合ってよかった! |
| グルルル… |
スレイ | 行こう、ミクリオ! |
ミクリオ | ああ…! |
ミクリオ | 水神招来! |
ミクリオ | 流れを見切る! |
スレイ・ミクリオ | 蒼き渦に慙愧せよ! |
ミクリオ | 手は抜かないぞ!そこだ! |
スレイ・ミクリオ | アクアリムス! |
ミクリオ | クリアレスト・ロッド! |
| ズバァァァァッ!! |
| ギャアアアアアッ!! |
| ズズウゥゥゥン…!! |
| バシュウゥゥ──… |
スレイ | ふぅ… |
ミクリオ | お見事。息ぴったりだったね |
ミクリオ | まあね。何度合わせて来た動きかわからない |
ミクリオ | 君達は──正史世界の僕とスレイ…だね |
スレイ | ああ。会えて嬉しいよ |
ミクリオ | 僕もだ。…増援が来た…という事はもしかして他にも誰か来てるのか? |
ミクリオ | よくわかったね。僕達と一緒に入ったのは── |
| |
メルディ | 白き御手よ、清冽なる棺に── |
| グアァァァッ!! |
| ドゴォッ! |
メルディ | あうっ!! |
メルディ | うぅ…詠唱、間に合わないな…でもアイスニードルとかじゃ全然効かない… |
??? | フリーズランサー! |
??? | サンダーブレード! |
| グギャアアァァッ!! |
メルディ | え… |
メルディ | 大丈夫か? |
キール | 助けに来たぞ! |
メルディ | キールに…メルディ!?バイバ!正史世界のメルディか!? |
キール | 話は後だ!この隙に畳みかけるぞ! |
メルディ | はいな! |
メルディ・メルディ | 白き御手よ、清冽なる棺に封じよ |
キール | 死の顎、全てを喰らいて闇へと帰さん |
メルディ・メルディ | アブソリュート! |
キール | ブラッディハウリング! |
| グギャアアアアァァァッ!!! |
| ズズウゥゥゥン…!! |
| バシュウゥゥ──… |
メルディ | ワイール!やったな! |
メルディ | はいな!二人共、ありがとな! |
キール | やはり胸騒ぎは気のせいじゃなかったな… |
キール | 間に合ってよかった。ぼくの計算では、ここにいられる時間は殆ど残っていないはずだ |
メルディ | 時間?すぐ帰っちゃうか? |
キール | ああ。間もなく、ぼく達はここから弾き出されるだろう |
メルディ | 手伝えなくてごめんな |
メルディ | そうか…。残念だけど、仕方ないな。後はメルディ頑張るよ! |
キール | …頼もしいな。任せたぞ |
メルディ | はいな! |
| |
アッシュ | フンっ! |
| ザシュッ! |
| グルルルッ…! |
アッシュ | チッ、硬い上に再生までしやがる。いくら斬っても終わらねぇ |
??? | だったら一撃で倒しゃ問題ねぇな! |
アッシュ | …! |
アッシュ | フッ、同時に行くぞ。ついて来れるか? |
ルーク | それはこっちの台詞だぜ! |
アッシュ&ルーク | 魔王絶炎煌! |
| ドォォォォォン…! |
| グギャアアアアァァァッ!!! |
| ズズウゥゥゥン…!! |
| バシュウゥゥ──… |
アッシュ | フン、手こずらせやがって |
アッシュ | また借りを作っちまったな、ルーク |
ルーク | アッシュ。また会えるとは思わなかったぜ |
アッシュ | …お前が来たという事は、キール達が何か方法を見つけたか |
アッシュ | しかし、お前は何故ここに…?知らせを聞いてキムラスカから来たにしては、早すぎるだろう |
ルーク | それが…何日か前から変な夢を見てよ。すげぇ呼ばれてるような気がしたんだ |
ルーク | いてもたってもいられなくて呼ばれる方にたどって行ったらバロニアに着いたんだよ |
ルーク | そしたら、スレイ達も同じような感じでバロニアに来たって言ってて… |
ルーク | キールが言うには道標がどーたらで負の因子と絆が引き寄せ合って何とかだってよ |
アッシュ | …何の説明にもなってないな。かろうじて言いたい事は推測出来るが |
ルーク | そんで、ロディの持ってた時空を超える指輪ってやつでここに入って来た |
ルーク | そしたら呼ばれる感じがもっと強くなって、それをたどったらここに着いたんだ |
アッシュ | …時空を超える指輪。そんな物があるのか |
ルーク | おう。で、その指輪でここに残れる時間が── |
| ヴォン |
ルーク | っと、悪い。ちょうどここまでみたいだ |
アッシュ | 時間に制限があるのか |
ルーク | そういう事だ |
ルーク | 最後まで戦えねぇのは悔しいけどな。何が起きてんのかはわかんねぇけど、後の事は頼んだぜ! |
| シュン |
アッシュ | …フン。言われなくとも |
| |
ルドガー | ──そうか。みんな来てくれてるんだな |
ロンドリーネ | うん。だけど、もう時間がない… |
ロンドリーネ | デリス・エリュシオンのマナがまた空になっちゃった…。ダオスには追いつけなかったな |
ルドガー | ダオス…。彼の目的が何か、ロディは知っているのか? |
ロンドリーネ | …ううん |
ロンドリーネ | ダオスは…あの人は何を考えてるか私にもわからない… |
ロンドリーネ | いつだって、一人で抱え込んじゃうから… |
ロンドリーネ | 侵略者や魔王なんて呼ばれて大戦争になった事もある |
ロンドリーネ | 今も…あの時と同じ胸騒ぎがする… |
ルドガー | …心配し過ぎだって言いたいけど… |
ロンドリーネ | 本当は自分でダオスを追いたい。でも、出来ない…。だから… |
ロンドリーネ | ルドガー、お願い。ダオスが何をしようとしているのか確かめて! |
ロンドリーネ | もし危ない事をしてるようなら止めてほしい。そして、こう伝えて… |
ロンドリーネ | 一人で抱え込まないでって。みんなでなら出来る事だって沢山あるはずだから… |
ロンドリーネ | もしみんなが協力しなくても…私がいるからって |
ルドガー | ロディ… |
ロンドリーネ | それでも彼が…また魔王と呼ばれるような事をしてしまうのなら── |
| ヴォン |
ルドガー | …!時空の裂け目が…! |
ロンドリーネ | お願い、ルドガー。彼を── |
ロンドリーネ | 止めて── |
| シュン |
ルドガー | ロディ…! |
ルドガー | …わかった、ロディ。ダオスが何を考えていようと魔王になんてさせない…! |
ルドガー | …先を急がないと。ヴィクトルを追っていればダオスにも会えるはずだ |
scene1 | 最強の骸殻能力者 |
エル | パパ、放して!どうしてルドガーと話してくれないの! |
エル | おとなのエルもパパを説得してよ!あの樹の後ろにいるんでしょ!? |
ヴィクトル | 静かに。彼女は今、世界の楔を繋ぎ変えようと集中しているんだ |
エル | …!それって、エル達の分史を正史にしようとしてるってこと!? |
ヴィクトル | …よくわかったね。正解したご褒美に、この場所について教えてあげよう |
エル | そんなのいい! |
ヴィクトル | そう拗ねないでくれ。私から聞いた情報をルドガーに伝えれば助けになるかもしれないぞ |
エル | …そんな大事な話なの? |
ヴィクトル | ああ。きっとルドガーの助けになる |
エル | …わかった。聞く |
ヴィクトル | いい子だ |
ヴィクトル | まず…ここは正史と分史、全ての世界のマナと魂の循環を管理する場所なんだ |
ヴィクトル | 見てごらん。この満天の星々…美しいだろう? |
ヴィクトル | あの輝き一つ一つが分史世界なんだ。私達の世界も、あの中にあるんだよ |
エル | …どれがエル達の世界なの? |
ヴィクトル | うーん、この中から探すのはさすがに骨が折れるね。何しろ数がとても多いんだ |
ヴィクトル | いくつあるか、わかるかい? |
エル | えっと…ひとつ、ふたつ──数えられないよ |
ヴィクトル | そうだね。正確な数はわからないが…実は手がかりはあるんだ |
ヴィクトル | ほら、あれを見てごらん。大きな樹に機械があって、そこに数字が刻まれてるだろう? |
エル | うん…いち、じゅう、ひゃく、せん…すごい数だね |
ヴィクトル | あれは今までに作られた分史世界の数を数えているんだ。破壊された世界も含めてね |
エル | 数えて…どうするの? |
ヴィクトル | …オリジンの審判は、分史世界が100万個作られると失敗になるとされている |
ヴィクトル | そのためにあの機械で数えているんだ |
ヴィクトル | あの数字が100万になる前に、精霊オリジンに審判の達成を認めさせる必要がある |
エル | …もし、失敗したらどうなるの? |
ヴィクトル | 伝承によると…全ての世界の人間が滅んでしまうんだ |
エル | みんな死んじゃうの…? |
ヴィクトル | ああ。だけど平気だよ。世界の繋ぎ変えが終わったらオリジンの審判はパパが達成する |
ヴィクトル | そうすれば審判の失敗によって人間が滅ぼされるという事はなくなるからね |
エル | じゃあ、早く達成しようよ |
ヴィクトル | それは、もう少し後でだ |
ヴィクトル | 先に審判を終わらせてしまうと世界の楔から追い出されるかも知れないからね |
??? | 安心したよ。オリジンの審判はまだ達成してないんだな |
ヴィクトル | …来たか |
エル | ルドガー! |
ヴィクトル | …想定よりも速い到着だな。一体どんな手を使った? |
ルドガー | 仲間が助けてくれたんだ。少しの時間だけここに入ってくる方法があったらしい |
ヴィクトル | ほう…。だが今はその仲間もいない。一人でどうするつもりだ? |
ルドガー | 一人じゃない。お前に飛ばされたみんながきっと来てくれる! |
ヴィクトル | …つまりお前は、仲間達を助けに行く事もせず、自分が助けてもらう事だけを考えてここに来たんだな |
ルドガー | 違う…!俺は、みんなを信じて… |
ヴィクトル | 認めたくはないだろう。だが受け入れるがいい |
ヴィクトル | 私はお前を責めたりはしない。私も同じ選択をしてきたのだ。目的のために、仲間を見捨てる選択を |
ルドガー | 見捨てたんじゃない。みんななら、無事にここに来ると信じているだけだ |
ヴィクトル | そうかも知れないな。だが、もし来なかったらどうする? |
ヴィクトル | 目的のために犠牲を出すとはそういう事だ。私とて犠牲を出したいわけではない |
ヴィクトル | だが物事には優先順位がある。お前が私を追う事を優先して仲間との合流を諦めたように… |
ヴィクトル | 私は娘と生きる事を優先し、かつては仲間だった者達を殺した。今は正史世界を消そうとしている |
ルドガー | …他の人の命は優先度が低いと言うのか |
ヴィクトル | …娘の命よりはずっと低い |
ルドガー | 同じように家族を大切にしている人も世界にはたくさんいるんだ。犠牲にして、心は痛まないのか |
ヴィクトル | 何度もした問答だな。心は痛むが、それを受け入れてでも私は娘との平穏な日常を手に入れる |
ヴィクトル | 自分勝手だと思うなら思うがいい。それでも私は止まらない |
エル | パパのうそつき!ルドガーと約束してたでしょ!何も犠牲にしない方法を探すって! |
ヴィクトル | … |
ルドガー | ヴィクトル…頼む、もう一度考え直してくれ |
ヴィクトル | …わかった |
エル | パパ…! |
ヴィクトル | では、今、ここで示してくれ。この世界も、他の世界も何も犠牲にせず世界を守る方法を |
ルドガー | 今ここで…だって? |
ヴィクトル | ああ。今、すぐにだ |
ルドガー | なっ… |
ヴィクトル | 私だって他の方法を探したいという気持ちはあるんだ。出来る限りの事はしたい |
ヴィクトル | だが、時間切れだ。道標は揃い、世界の楔への道は拓かれた |
ヴィクトル | 世界の楔を繋ぎ変え、オリジンの審判を達成する計画は今すぐ実行しなければならないのだ |
ヴィクトル | 他の者にオリジンの審判の権利を奪われない内にな |
ヴィクトル | 私はこの機会を逃すつもりはない。止めたいのなら、今すぐに他の方法とやらを示してくれ |
ルドガー | くっ…! |
エル | パパ、急すぎるよ… |
ヴィクトル | ではいつまで待てばいい?考える考えると、そんな宣言だけで先延ばしに出来る問題ではないんだ |
エル | そうかも…しれないけど… |
ルドガー | …ヴィクトルの方法は間違ってる。どうしても止めなきゃいけないんだ。でも…だけど…代わりの方法は… |
ヴィクトル | …出ないだろう。私も長い時間をかけて導き出せなかった答えだ |
ヴィクトル | なんの答えも出せずにただ私の邪魔をするだけならここで退場してもらおう |
| |
| チャキ |
| |
ルドガー | 待ってくれ…!俺は話し合いたいんだ! |
ヴィクトル | 話し合ったところで私の望む答えは出てこない時間は有限なんだ |
ヴィクトル | 戦いを望まないのならば帰るといい。ここにいる限り、邪魔をする意図があるものと判断する |
エル | パパ…!やめてよ!どうして… |
ヴィクトル | 殺しはしないさ、エル |
エル | パパ…!お願い…! |
ヴィクトル | …危ないから下がっていなさい |
エル | でも… |
ルドガー | …エル、ありがとう。だけどヴィクトルの言う通りだ。危ないから、下がっていてくれ |
| チャキ |
エル | ルドガーまで…! |
ルドガー | 話し合いが出来ないって言うならその気になるまで戦うさ |
ルドガー | 確かに答えは出せていないけど、俺は最後まで諦めない。そう決めたからな |
エル | ルドガー…わかった…けど、二人とも気を付けてね… |
ヴィクトル | さあ…行くぞ |
ルドガー | 来いっ! |
scene2 | 最強の骸殻能力者 |
ルドガー | そこだ! |
ヴィクトル | はぁっ! |
| キィン! |
ルドガー | くっ…!以前よりも攻め込み辛い…! |
ヴィクトル | 一度戦ったんだ。君の動きの癖は理解している |
ルドガー | …それは俺だって同じだ。だからわかる…! |
ルドガー | わざと攻撃の機会を逃しているな。守りに徹して、あなたらしくない── |
エル | あっ…!そっか! |
エル | ルドガー!パパは、時間稼ぎしてる!おとなのエルを捜して! |
ルドガー | …!時間稼ぎだって…!? |
ヴィクトル | …気付いたか。だが、もう遅い |
ヴィクトル | 少し時間がかかっているようだが──既に世界の楔を正史世界から切り離す作業は進んでいる |
ルドガー | …姿が見えないと思ったら大人のエルがそれを進めているのか |
ヴィクトル | そうだ。そして私は相棒として、お前を彼女のところには行かせない |
ヴィクトル | 私を倒せたとしても…その時には世界の繋ぎ変えは終わっているだろう |
ルドガー | くっ…本当に手遅れなのか… |
| |
??? | 貴様の覚悟はその程度か |
ルドガー | …! |
エル | ヴィクトル、よけて! |
ヴィクトル | 何!? |
| |
| ズガアアァンッ! |
エル | パパ!! |
ルドガー | ダオス…! |
| |
エル | くぅっ…放してよ! |
ヴィクトル | エル、繋ぎ変えは…!? |
エル | …ごめんなさい。もう少しだったんだけど… |
ダオス | 世界の楔を奪おうとするとはな。だが、その計画もここまでだ |
| 選択の刻 |
ルドガー | ダオス。その子を放してくれ。ここなら世界の繋ぎ変えは出来ないはずだ |
ダオス | … |
ルドガー | ダオスの目的を聞きたい。話して平和的に解決出来るならその方がいいだろ? |
ダオス | …いいだろう |
エル | …ありがとう、ルドガー |
エル | 大丈夫…? |
エル | うん、私は大丈夫。それより、ヴィクトルは…? |
ヴィクトル | 心配いらない。声をかけてくれたお蔭で致命傷は避けられた |
ルドガー | みんな無事でよかった |
ルドガー | ダオス。改めて聞く。ここに来た目的は何だ? |
ダオス | それを聞いてどうする |
ルドガー | ロディに頼まれたんだ。何をしようとしてるか確かめてほしいって |
ダオス | … |
ダオス | 分史世界に奪われたマナを正史世界に取り戻す。それが私の目的だ |
ルドガー | ヴィクトルが奪ったマナの事か…その事についてなんだが、協力を頼めないか |
ルドガー | ヴィクトルの世界のマナ枯渇問題が解決しない事には返してもらう事も出来ないんだ… |
ダオス | …そうではない |
ダオス | ヴィクトルと言ったか。お前なら知っているだろう |
ダオス | 分史世界が増える時…その世界に必要なマナは正史世界から奪われる |
ダオス | …違うか? |
ヴィクトル | …なるほど。その仮説は当たらずとも遠からずだ |
ヴィクトル | マナの総量は決まっており全ての世界で共有している |
ヴィクトル | 分史が増えれば、一つあたりの世界がもつマナの量は当然、減る |
ヴィクトル | それを正史からマナを奪ったのだと表現する事も出来るだろう |
エル | マナはみんなのもので、世界が増えたら、みんなで分けた時にもらえる量が減っちゃうって事? |
ヴィクトル | そういう事だね |
ダオス | 問題はそこだ |
ダオス | 元より分史は存在せず、全てのマナは正史世界にあったはずだ |
ダオス | だが、分史が増え、正史世界にあるべきだったマナは減っている |
ルドガー | …それを取り戻すって言うのか?それはつまり… |
| |
ダオス | …そうだ |
| |
ダオス | 全ての分史世界を破壊し、散り散りになったマナを正史世界に再び集約させる |
ルドガー | …! |
ダオス | そのため私はオリジンの審判にて、全ての分史世界の破壊を望む |
ヴィクトル | 不可能だな…オリジンの審判を達成出来るのはクルスニクの一族だけだ |
ヴィクトル | これはクルスニク一族とオリジンとの間で交わされた契約…膨大な精霊術のようなものだ |
ヴィクトル | お前が何者であろうと、オリジンの審判に挑む資格はない |
ダオス | …問題はない。オリジンに願うのはお前達の誰かだ |
ルドガー | な…!どういう── |
ダオス | …従わなければその娘を殺す…と言ったらどうだ? |
エル | えっ…エルの事!? |
ヴィクトル | 貴様…! |
| チャキ |
ルドガー | ヴィクトル落ち着け!脅してるだけだ |
エル | だといいけど…あの目、本気に見えるよ |
ヴィクトル | ああ。それに…話し合いの余地はないと見える |
ダオス | その通りだ。だが、お前は選ぶ事が出来る |
ダオス | 全ての分史を破壊するか── |
ダオス | その娘もろとも死ぬかだ |
| |
ヴィクトル | その前に── |
| |
ヴィクトル | 貴様を止める! |
ダオス | …愚かな |
ダオス | 力なき存在に第三の選択肢などない |
ルドガー | やめてくれ、二人共!戦ったって、正史か分史のどちらかが犠牲になるだけだ! |
ルドガー | それよりも、正史も分史も残せる道を探そう!力を合わせれば、必ず方法はある! |
ダオス | …この期に及んで甘い事を |
ダオス | お前がそうして対話を試みている間に正史世界は滅ぶところだったのだ |
ダオス | そして何もかもが手遅れになる。何も救えない |
ルドガー | …俺は、ただ… |
ダオス | これ以上邪魔をするなら、お前から消えてもらおう |
| シュウゥゥ… |
エル | …!さっきと同じ技! |
ヴィクトル | お前の相手は私だ! |
| ドカッ! |
ダオス | …その力は… |
ヴィクトル | 私はルドガーのように甘くないぞ |
ダオス | そうらしいな |
ヴィクトル | ルドガー!ダオスと戦うつもりがないならせめてエルを守れ |
ルドガー | 俺は… |
ヴィクトル | …っ |
エル | 私に任せて! |
エル | 小さいエル、こっちだよ! |
エル | う、うん… |
ダオス | テトラスペル! |
| ズドドドッ! |
ヴィクトル | くらうかっ!舞斑雪!! |
| ガキィンッ! |
ヴィクトル | 魔力の壁…?こんなもの…! |
| パリィィン! |
ダオス | ほう…大した力だ。 |
ダオス | 分史は正史のマナを奪う。その上、貴様のような者が現れれば正史を乗っ取ろうとする… |
ダオス | やはり全て消し去る他はないな |
ヴィクトル | 傲慢だな。分史にも生きている人間がいる。正史と何も変わらないんだ |
ヴィクトル | いずれかの世界しか残れないのなら…私は、私と娘の暮す世界を生き延びさせる! |
ダオス | 笑止!貴様はこの場所から生きて帰さん! |
ダオス | エクスプロード! |
ヴィクトル | 何人たりとも…私の願いの、邪魔はさせない!! |
| ドドォォォォン…!! |
ヴィクトル | はぁ、はぁっ… |
ダオス | しぶとい奴だ… |
ルドガー | …この戦い…どちらかが死ぬしか…解決出来ないのか…? |
ルドガー | ダオスとヴィクトル…正史と分史…どうしてどっちかが滅びなくちゃいけないんだ |
ルドガー | どっちも守りたい何かのために戦っているだけなんだ!それなのに…! |
ルドガー | 二人共、やめてくれ!殺しあう以外にも方法があるはずだ! |
ヴィクトル | くどい!先程も言ったはずだ。その方法を示せと! |
ダオス | 必要ない。分史の存在は害悪…全て消し去る。それだけだ |
ルドガー | それは極論だ!三人で話し合って、互いに譲歩すれば方法だって見つかるかもしれない! |
ヴィクトル | この期に及んで「かもしれない」など… |
ヴィクトル | 口ばかりで何も選べずにいる半端者が間に入るな! |
| ドカッ!! |
ルドガー | ぐわあぁっ!! |
| ドサッ |
エル | ルドガー!!大丈夫!? |
ルドガー | くっ…ああ…平気だ… |
エル | ……。一度はヴィクトルに勝ったルドガーとは思えないね |
エル | どうしてちゃんと戦わないの?もしかして…どっちに味方しようか迷ってるとか? |
ルドガー | …そうじゃない。俺はどっちのやり方も間違ってると思う…けど… |
エル | 何それ。そんなどっちつかずの半端な気持ちであそこにいたの? |
ルドガー | 俺は、半端…なのか? |
ルドガー | (確かに俺は…あの二人のように 自分が正しいと思える答えを 出せてはいない…) |
ルドガー | (何も犠牲にしたくない… あの二人を止めたい… その意志は確かなものだ) |
ルドガー | (だが…それだけじゃ足りないのか。 俺は…) |
エル | ルドガー… |
エル | ヴィクトルが押されてる…。…ルドガーはここでこの子を守ってて |
エル | ルドガーが戦わないなら、私がヴィクトルに加勢する! |
ヴィクトル | …!よせ、来るなエル! |
ヴィクトル | お前に何かあったら世界の繋ぎ変えが出来なくなる! |
エル | でも…! |
エル | じゃあ、せめてこれ! |
エル | 受け取って! |
ヴィクトル | これは…! |
ダオス | 何を足搔こうと無駄だ。ここで朽ち果てるがいい!! |
ダオス | テトラスペル! |
| ズドドドッ! |
ヴィクトル | くっ…!間に合え…! |
| |
ダオス | …… |
ダオス | …術をかき消したのか何だ、それは |
| |
??? | 準備運動にしては激しい術でしたね。いきなり呼び出してこれとは、主は精霊使いが荒い |
??? | 俺達を実体化したって事は、全力でやっちまっていいんだな? |
ヴィクトル | ああ。力を抑えて勝てる相手じゃないからな |
ルドガー | な、何だ…?急に何か出て来たけど… |
エル | ヴィクトルが用意していた最終手段…人造精霊のオリジンとクロノスだよ |
エル | ジンゾーセイレイ? |
エル | 元はジュードが開発した精霊の力を核として動くマナを消費しない魔導器… |
エル | その技術を応用して分史には存在しない精霊…クロノスとオリジンを作ったんだ |
ルドガー | 原初の精霊を、人の手で作り出したっていうのか…! |
エル | …未完成、だけどね |
ダオス | 骸殻能力者に精霊か…相手にとって不足はない |
人造クロノス | 余裕ぶっこいていられるのも今の内だ!くらえ、テトラスペル! |
ダオス | …!テトラスペル! |
| バシュバシュバシュウ…! |
人造オリジン | へぇ、相殺とはやりますね |
ヴィクトル | 今が好機…!そこだ! |
ダオス | 甘い! |
| ガキィン! |
人造オリジン | 動きが止まりましたね!これならどうです! |
人造オリジン | メテオスウォーム! |
ダオス | …くっ |
| ドゴォォォォンッ! |
人造オリジン | むぅ…あれを避けるとは… |
ダオス | 確かに強力な精霊のようだな。だが戦闘経験が足りていない |
人造クロノス | 減らず口を! |
ルドガー | …すごい力だ。あれで本当に未完成なのか? |
エル | うん。本物のオリジンとクロノスの7割ぐらいの力しか出せないはずだよ |
エル | クロノスはヴィクトル、オリジンは私の力にマナを注ぎ込んで増幅させた存在… |
エル | けど原初の精霊の力を再現するには私達の世界にあるマナじゃ足りなかったんだ |
ルドガー | それでもあの強さか…完成したらどれほど強くなるんだ… |
エル | それだけじゃないよ。彼らは本物のクロノスやオリジンと同じように世界の楔の管理が出来る |
エル | 世界の楔を繋ぎ変えた後、今度はここを奪われないように守ってもらうつもりだよ |
ルドガー | …… |
エル | どうかした? |
ルドガー | ヴィクトルがいかに入念に準備してきたのか…その年月と苦労をひしひしと感じたんだ… |
エル | …当然でしょ。世界を賭けた計画なんだから |
ルドガー | ダオスだってそうだ。ずっと前から世界のマナの事を気にかけて、調べ続けていた |
ルドガー | …なのに俺は、何の覚悟もせずその方法を否定していただけなのか… |
エル | …ルドガー? |
エル | …何が言いたいの? |
ルドガー | 俺には知識も何もかもが足りない…。ここにいて口を出すべきじゃなかったんだ |
エル | 何言ってるの!ルドガーが止めてくれなきゃ世界がどっちか滅ぶんだよ! |
ルドガー | それは… |
| |
エル | …情けない |
| |
ルドガー | え…? |
エル | そうやってただ悩んでるだけなのが一番情けないよ |
エル | ヴィクトルは悩みながらも行動し続けた。だから人造精霊だって完成した |
エル | あなたもヴィクトルの分史に来た時は、そうだったんじゃないの?なのに今更、足を止めるわけ? |
ルドガー | …っ |
エル | 別にヴィクトルの邪魔をしないなら私はそれでいいけど…さすがに見てらんないよ |
ルドガー | …… |
エル | ねぇ、ルドガー。ルドガーの考えは正しいんでしょ?パパは間違ってるんだよね |
ルドガー | エル… |
エル | ルドガー、自分を信じて。エルは、パパのやり方よりルドガーの考えの方が好きだよ |
エル | ほら、ルドガー。小さい私にここまで言われてもまだ自分は半端で駄目だなんて思う? |
ルドガー | いや…目が覚めたよ。ありがとう、二人共 |
ルドガー | エルは…俺と同じ気持ちでいてくれるんだよな |
エル | 当たり前でしょ!エルもギセイはない方がいいもん。別の世界とか関係ないし! |
ルドガー | …そうか、そうだよな。わかったよ、エル。俺、大事な事を見逃してたみたいだ |
エル | えっ、なに? |
ルドガー | ロディが言ってたんだ。一人で抱え込まないようにって。みんなでなら出来る事もあるって |
ルドガー | これはダオスに向けられた言葉だったけど… |
ルドガー | 何もダオスだけの話じゃない…ヴィクトルだってエルがいるから世界の楔を繋ぎ変えられる |
ルドガー | 俺には同じ気持ちで寄り添ってくれる相棒がいるから…挫けてしまっても、立ち上がれる! |
エル | ルドガー…もしかして、パパと戦うの? |
ルドガー | 違うよ。思いついたんだ。あの二人を納得させられる方法を |
エル | 本当!? |
エル | こんな土壇場で閃いた案なんて検証も出来ないでしょ |
エル | 今すぐ確実な解決を求めるヴィクトルが受け入れるとは思えないけど |
ルドガー | 思いつきじゃない。気付いたんだ |
ルドガー | 俺達はもう、その答えを実践していた事に |
エル | …どういうこと? |
ルドガー | 俺達は分史世界でいろんな事件に出会ってきた… |
ルドガー | ミクリオの分史世界ではスレイを救う方法が何百年も見つからずにいた… |
ルドガー | メルディの分史世界では、長く続く外交摩擦から戦争が起ころうとしていた… |
ルドガー | アッシュの分史世界では、何年もすれ違っていた兄弟がついに命の取り合いを始めていた… |
ルドガー | だけどその事件は全部、別の世界から来た俺達── |
ルドガー | ライフィセットや、リチャード、エル、ファラ、ルークやミュウが彼らと出会った事で状況が変わった |
ルドガー | 本来接するはずのなかった人達が協力し合う事で、解決に導けたんだ |
エル | 道標集めに時間かかってると思ったら負の因子を破壊するだけじゃなく周りの事まで解決してたんだ… |
エル | 私達の時は急いでたからそんな余裕もなかった… |
エル | 負の因子は見つけ次第破壊して、道標は全てヴィクトルが回収…すぐに帰る…の繰り返しだった |
ルドガー | そうか…。だからヴィクトルは気付けなかったのかもしれないな |
ルドガー | その世界だけでは解決できない問題も他の世界と手を取り合えば、道が拓けるという事に |
エル | そっか。一人で出来ない事は、誰かにお願いすればいいんだ |
ルドガー | そうだ。何かを犠牲にする必要なんてない。もし他の方法を思いつかなくても… |
ルドガー | どこかの世界にはきっと、いい方法を知ってる人がいる |
エル | でも、他の世界から知恵を借りても元の世界に戻るためには分史世界を破壊する必要があるでしょ |
エル | やっぱり、たくさんの分史世界が犠牲になるよ |
ルドガー | …それについては考えがある。オリジンの審判だ |
エル | 審判…? |
エル | …あ、そうか!オリジンが願いを叶えてくれれば…! |
ルドガー | ああ!これが、俺の出した──何も犠牲にしない方法の答えだ |
ルドガー | ヴィクトルとダオスに伝えたい!二人共、戦いを止めるのを手伝ってくれるか |
エル | うん、わかった! |
エル | 任せて! |
| |
| ガキィンッ! |
ダオス | …こしゃくな |
人造クロノス | そっちこそ。あんた本当に人間か?俺達三人がかりでようやく対等だぜ… |
人造オリジン | 長期戦なら数の多いこちらが有利です |
ヴィクトル | ああ、だが… |
ダオス | …それが狙いか。ならば残念だったな |
ダオス | これで終わりにしよう |
| シュオオオ… |
人造オリジン | …!とてつもない量のマナが凝縮されていく…! |
人造クロノス | あんなの喰らったらひとたまりもないぞ |
ヴィクトル | くっ…! |
ルドガー | 待ってくれ!! |
エル | 戦うの、やめて! |
エル | ヴィクトルも、そこまで! |
ヴィクトル | なっ…! |
ダオス | …そこをどけ。死にたいか |
ルドガー | 今撃てば、ここにいるクルスニク一族は全滅する。オリジンの審判が超えられないぞ! |
ダオス | … |
ヴィクトル | お前達、何のつもりだ! |
エル | 正史も分史も、何も犠牲にしない答えを見つけたの! |
エル | だからパパも、ダオスも、戦うのやめてー! |
ダオス | …まだそんな戯言を言っているのか |
ルドガー | ダオス、頼む。戦うのはこの話を聞いてからでも遅くはないはずだ |
ルドガー | ダオスだって、多くの犠牲を望んでいるわけじゃないだろ!? |
ダオス | … |
エル | パパも、お願い…! |
ヴィクトル | … |
| |
ヴィクトル | わかった。一時休戦だ、話を聞こう |
ダオス | …言ってみろ。甘い主張を繰り返すなら滅ぼすのみだ |
ルドガー | ありがとう、二人共 |
ルドガー | 全てを解決する方法、俺の出した答えは… |
ルドガー | 全ての分史と正史で力を合わせ、あらゆる問題を解決していく事 |
ルドガー | そのためにオリジンに願って全ての世界を繋ぎ、自由に行き来できるようにするんだ |
ヴィクトル | 何…!? |
ダオス | それで何が変わるというのだ |
ルドガー | 何もかも変わる。自分達以外にも文明を持った世界が沢山あるとみんなが知るんだ |
ルドガー | 自分達の世界では手に余る問題も、他の知識や経験が解決してくれる。俺はそんな場面をいくつも見てきた |
ルドガー | 例えばヴィクトルの分史世界はマナの消費を抑える技術に長けているだろう? |
ヴィクトル | 当然だ、私の世界にとってマナの枯渇は存亡を賭けた重大な問題だったからな |
ルドガー | その技術を他の世界に伝えれば全ての分史で共有しているマナを大きく節約出来るはずだ |
ルドガー | …その代わり、マナが豊富な世界からマナを必要としている世界に少しずつわけてもらうんだ |
ダオス | …全ての世界で消費するマナが減れば正史のマナが不足する事もなくなる…私の故郷を救う事にも繋がる…か |
ヴィクトル | そのためにオリジンの審判の願いで骸殻能力の有無に関係なく世界を行き来できるようにするのか |
ヴィクトル | そうなれば分史世界を破壊しなくても元の世界に帰る事も出来る…。確かに犠牲は出ないな |
ルドガー | ああ。多くの世界に聞いてみればいいんだ。想像もつかない解決策が出るはずだ |
ヴィクトル | …理想論だな。問題点も多い |
ヴィクトル | だが…私とダオスの抱える問題は、同時に解決するか。確実とは言えないが… |
人造オリジン | …主。僭越ながら申し上げます。私達は世界の楔を管理する事を使命として創り出されました |
人造オリジン | 同じ管理するのであれば…彼の言う世界を管理したく存じます |
人造クロノス | 同じく。どうせ見守るなら、そっちの方が楽しそうだ |
人造クロノス | 人が行き来するとか、世界の管理は尋常じゃないほど大変になるだろうけどな |
ヴィクトル | …私も同じ気持ちだ。だが、気持ちだけで決めていい問題ではない |
ヴィクトル | ルドガー。現実的な問題として、歴史も立場も違う別世界の人々が手を取り合う事が出来ると思うか? |
ルドガー | ああ、出来る |
ダオス | 即答、か… |
ルドガー | ミクリオ、メルディ、アッシュ…彼らは今、この世界のために力を貸してくれている |
ルドガー | それに彼らの分史にあった問題も正史の知識や経験が解決への糸口になった |
ヴィクトル | …確かに彼らは、その恩返しとして今度はお前を助けるのだと言っていたな |
ダオス | …なるほど。手を取り合う事は出来るのだろう |
ダオス | だが…それが永久に続く保証などどこにもない |
ダオス | いずれ必ず争いは起こる。同じ平和を望む世界の中ですら意見がわかれるのだ |
ルドガー | 確かにそうだ。お互い譲れないものがあって衝突する事はあるだろう |
ルドガー | 今のダオスと、ヴィクトルのように… |
ヴィクトル | … |
ルドガー | でも、それは意見の衝突であって修復不可能な分断ではないはずだ |
ルドガー | ミクリオの分史では天族と人間が争っていたけれど、今はお互いを受け入れて平和に暮らしている… |
ルドガー | メルディの分史ではメルディと母親のシゼルは国を守る方法で衝突したけど憎み合ってはいなかった |
ルドガー | アッシュの分史でも、敵対勢力の主張も一つの意見としてアレクセイを受け入れ、許した |
ルドガー | …俺は知っている。人間は、話せばわかり合えるって事 |
ダオス | …貴様の主張は理解した |
ルドガー | よかった…!それじゃあ、これで解決だな! |
ダオス | …… |
scene1 | 絆を束ねて |
ルドガー | みんなが賛成してくれてよかった。それじゃあ、早速── |
| |
ダオス | 賛成?私は理解したと言っただけだ |
| |
ダオス | 貴様の言う方法は有効だろう。だが…分史世界を全て破壊する方がより確実だ |
ルドガー | なっ…! |
ダオス | 人間は話し合える…確かにそういう者もいるだろう |
ダオス | だが、全ての世界の全ての者が貴様達のように善意に満ちた人間だとでも? |
ダオス | 人を痛めつける事に悦びを覚える者もいる |
ダオス | 自らの危険すら省みず世界を滅ぼすほどの兵器で戦争を行う者もいる |
ダオス | その仮面の男のように、自らの目的のためなら、他の世界を犠牲にする者も現れるだろう |
ヴィクトル | …… |
ダオス | 貴様の方法で起こる事はマナの譲り合いではない |
ダオス | いずれマナの奪い合いが始まり──やがて戦争による世界の奪い合いへと発展するだろう |
ルドガー | それは、可能性の話だ! |
ダオス | 全ての分史を破壊すればその可能性の芽を摘める |
ルドガー | それは、手を取り合ってよりよい世界になる可能性をも捨てるって事だぞ! |
ダオス | 何の問題がある |
ダオス | 私はデリス・カーラーンを救いたい。そのために正史にマナを取り戻す。それだけだ |
| |
ヴィクトル | …それだけが目的だと言うのなら口を挟まず見ているといい |
ダオス | 何…? |
| |
ヴィクトル | 私達が全ての世界を繋ぎ、正史にも十分なマナが戻るよう取り計らおう |
エル | エルも手伝う! |
エル | 勿論、私も! |
ヴィクトル | 今まで誰も辿り着けなかった世界の楔への道を拓いた四人だ。何だって成し遂げられる |
ルドガー | …!それじゃあ… |
ヴィクトル | ありがとう、ルドガー。私には考え付かない手法だ |
ヴィクトル | 都合がいいように聞こえるだろうが、私にも手伝わせてほしい |
ルドガー | ああ! |
ダオス | ……。貴様もその夢物語を信じるというのか |
ヴィクトル | 夢物語などではない。私達が現実にする |
ダオス | …そうか |
ダオス | …これ以上の対話は無意味だ。先も言った通り、私はより確実な方法を取る |
ダオス | 貴様ら四人なら何でも出来ると言ったな。ではまず、私を倒してみせろ |
ダオス | それが出来なければ、貴様らを屈服させ、分史世界の滅亡を願わせるのみ! |
| |
| シュウウゥゥ… |
| |
人造オリジン | …!またです!とてつもないマナの量が…! |
ダオス | 消し炭にならんよう身を守るのだな |
ダオス | ダオスレーザー──!! |
| バシュウウゥッ!!! |
エル | えっ── |
エル | まずいっ!避けられない…! |
ルドガー | くっ…! |
ヴィクトル | 離れてろ! |
| ドカドカッ |
エル | あうっ! |
ルドガー | くっ…!ヴィクトル…!? |
ヴィクトル | エル───!! |
| |
ヴィクトル | ぐっ…うおおぉぉぉぉっ…!! |
エル | パパ──── |
| ドォォォォォォン──! |
ヴィクトル | ぐ、おおおぉぉっ!!! |
| |
ヴィクトル | …エル、怪我は…ないか… |
エル | エルは大丈夫。でも、パパは… |
ヴィクトル | よかっ── |
ヴィクトル | ──た… |
| ドサッ |
エル | パパっ!! |
エル | ヴィクトル!! |
人造オリジン | 主…!まずい── |
人造クロノス | 魔導器が、止ま── |
| シュン |
ルドガー | 人造精霊が消えた!?ヴィクトル!! |
エル | 大丈夫、気絶してるだけ。でも…しばらく目を覚まさないかも… |
エル | パパ… |
ダオス | …これが現実だ。手を取り合うといっても、結局は対等ではない |
ダオス | 助け合う事を理想としようとも、その能力には差がある |
ダオス | 強者は足を引っ張られ血を流し、弱者はいつしか与えられる事に慣れ、傲慢になって行くものだ |
ダオス | そして…見ろ。その男は戦えず、人造精霊とやらも消えてしまった |
ダオス | 力を合わせるなどとぬかしたところで超えられぬ限界はある。貴様らが私に勝てぬようにな |
ルドガー | …だったら乗り越えてやる。その限界を…! |
ダオス | この期に及んでまだ現実が受け入れられぬと見える |
ダオス | 貴様らだけで私に勝てると本気で思っているのか |
ルドガー | くっ… |
エル | 次にあの技がまた来たら、今度は防ぎきれない…。勝ち目ないかも… |
エル | ルドガー…… |
ルドガー | …何か打開策は… |
ルドガー | …!あそこに見えるのは… |
エル | ルドガー? |
ルドガー | …大丈夫だ |
ルドガー | 俺達にはまだ、仲間がいる |
エル | えっ…? |
ダオス | …そろそろ幕引きだ |
| シュウウゥゥ… |
エル | またあの技…! |
ルドガー | くっ…! |
| |
ルドガー | 手を貸してくれ──みんな! |
ダオス | …む |
??? | ──天光満つるところ、我は在り |
エル | え、この声── |
??? | 黄泉の門、開くところに汝在り |
ダオス | 何…!それは── |
メルディ | 出でよ、神の雷! |
メルディ | インディグネイション! |
| |
| ドゴォォォォンッ!! |
ダオス | くっ…! |
| |
ミクリオ | ルドガー!無事か!? |
アッシュ | どうやら間に合ったようだな |
エル | みんな! |
メルディ | 大丈夫か!? |
アッシュ | ヴィクトルは…倒れてやがるのか |
ミクリオ | そして、魔王ダオス…彼は敵だったんだな。一体、どういう状況なんだ |
ルドガー | 話すと長くなるんだが…今は戦わないと収まらない状況だ |
ルドガー | ダオスを止めないと全ての分史世界が破壊されてしまう! |
アッシュ | なるほど。緊急事態だという事はよくわかった |
ミクリオ | 僕達の世界はやっと平和になったんだ。消させるわけにはいかない! |
メルディ | キールやおカーサン…他の世界がみんなも、メルディが守る! |
| |
ダオス | …何人増えようと同じだ。まとめてかかってくるがいい |
ダオス | 理想だけでは覆せぬ絶望という名の現実を貴様達の魂に刻んでくれる! |
ルドガー | …エル、二人でヴィクトルを連れて安全な場所へ |
エル | うん! |
エル | わかった…! |
ルドガー | 来い、ダオス!お前の言う限界を、超えてみせる! |
scene2 | 絆を束ねて |
ルドガー | はぁっ! |
| ガキィンッ! |
ダオス | ここまでやるとはな… |
ダオス | だが…私とて、諦めるわけにはいかんのだ! |
| ドカッ! |
ルドガー | くぅっ…! |
アッシュ | ちっ…隙のない奴だ |
ミクリオ | 四人で攻めても全く引かないとはね |
メルディ | 強い術、たくさん使ってるのに威力ずっと下がらない…!どれだけ魔力あるか! |
ダオス | …そろそろ終わりにしよう。ブラックホ── |
| |
人造クロノス | タイムストップ! |
ダオス | 何っ──! |
ルドガー | 人造クロノス!? |
| |
エル | ルドガー!今だよ! |
エル | いつの間に…!? |
ルドガー | エル…!わかった!みんな、行こう! |
ダオス | ──! |
ミクリオ | ヴァイオレットハイ!! |
アッシュ | 閃光墜刃牙!! |
メルディ | インディグネイション!! |
エル | 逃れられぬ運命に、抗う術なく果てろ!ブラッドカスケードッ!! |
ルドガー | うぉぉぉっ!マター・デストラクト!! |
人造クロノス | ──時間だ |
| |
ダオス | ぐあああぁぁぁぁっ!!! |
| |
ダオス | くっ…私が、このような子どもに後れを取るとは… |
ルドガー | これが力を合わせるって事だ。一人一人では小さい力でも重なりあえば大きな力になる |
ルドガー | お前はエルの事を弱者だと言った。でも俺達は、エルの力があったから今のこの結果を生み出したんだ |
ダオス | ふっ…偶然上手く行ったからと大きく出たものだ |
ルドガー | 偶然じゃない。エルはいつだって俺に力をくれる存在だ |
ルドガー | それが手を取り合う仲間──相棒だからな |
エル | えっへん! |
エル | ふふ、いい事言うね、ルドガー |
ルドガー | ダオス。認めてくれないか。確かに争う事もあるかもしれないけどそれ以上に助け合う事は強い力になる |
ルドガー | それから、ロディからの言伝もあるんだ。一人で背負い込まないでって |
ダオス | … |
ダオス | …好きにしろ |
ルドガー | わかった。なら── |
ダオス | …何だ、この手は |
ルドガー | 俺達と一緒にこれからの世界の事を考えてほしいんだ |
ルドガー | ダオスが懸念してた事ももっともだと思うし…その対策を考えたい |
ダオス | …何を言うかと思えば。どこまでも甘いな |
アッシュ | ふっ、敵を受け入れる覚悟が甘いだけの男に出来るはずがない。ルドガーを見くびるなよ |
メルディ | それ、ルドガーがいいところな! |
ミクリオ | 世界の平和を望む者同士、方法論は違ってもいがみ合う必要はないからね |
ダオス | …ふん。その甘い考えで他の世界と渡り合えるとでも── |
| |
| グラッ |
エル | ん?なんか、揺れてる!? |
| |
| グラグラッズゴゴゴゴ… |
エル | わわっ!? |
ヴィクトル | うぅ…これは… |
エル | ヴィクトル!気が付いたの!? |
ヴィクトル | あぁ…寝ている場合ではない…どうやら…まずい事になったようだ |
scene1 | 明日へ |
| ゴゴゴゴゴゴ── |
ルドガー | 一体何が起ころうとしているんだ!? |
??? | 世界の楔が崩壊を始めたのだ |
クロノス | そして全ての世界が滅ぶ |
ルドガー | クロノス!? |
人造クロノス | 本物…か。今頃出て来たのかよ |
クロノス | 我は初めからここにいた。審判を見届けるのも我の使命だ |
クロノス | だが、それどころではなくなった |
アッシュ | 世界が滅ぶと言ったな。どういう意味だ? |
クロノス | 言葉の通りだ |
クロノス | そこにいるクルスニクの鍵が世界の楔を正史から別の分史へと繋ぎ変えようとしていただろう |
エル | え、うん…。ダオスの横やりが入ったから、中断されちゃったけど… |
クロノス | 世界の楔は今、どの世界とも繋がりを持たぬ不安定な状態にある |
クロノス | そこにお前達の戦いだ。この空間を保つ力は乱れ、形を保てなくなっているのだ |
クロノス | このまま世界の楔が崩壊すればマナと魂の循環が行われなくなり全ての世界は滅びに向かう |
メルディ | バイバ!一大事だよぅ! |
ミクリオ | あなたの力でどうにか出来ないのか? |
クロノス | 本来ならば我とオリジンの力で世界の楔を再生出来る |
クロノス | だが…今、我々は世界の楔に干渉出来ないようにされている |
人造精霊クロノス | 俺達が権限を奪ったんだ。途中であんたらに干渉されたら世界の繋ぎ変えなんて出来ねえからな |
ヴィクトル | それが裏目に出たか… |
エル | 私がもう一度、世界を戻す!ヴィクトル、小さいエル、魔導器を貸して! |
ヴィクトル | エル、頼む…! |
エル | わ、わかった!はい…! |
エル | オリジン! |
人造オリジン | …状況は、聞いていました。クロノス、世界の楔の修復作業を行いましょう |
人造クロノス | ああ。時間がねぇ。大樹のところまで急ぐぜ |
ルドガー | 俺達も行こう。何か出来る事があるかもしれない |
ミクリオ | ああ。任せきりというわけにいかないからね |
アッシュ | 何か手伝える事もあるだろう |
メルディ | みんなで力合わせればきっと大丈夫な! |
エル | パパとダオスも行こう! |
ヴィクトル | 私は勿論行くが… |
ダオス | …ここで待っていても無意味だ。行くぞ |
エル | …… |
人造クロノス | …… |
人造オリジン | …… |
メルディ | 上手く行きそうか? |
エル | …… |
ヴィクトル | 今は見守る他ない… |
エル | 集中、してるんだよね… |
ヴィクトル | ああ。私達に出来る事は何も── |
| ゴゴゴゴゴ…!! |
| ガサッ── |
ミクリオ | …!まずい、大樹の枝が落ち──! |
ヴィクトル・ルドガー | はぁっ! |
| ザシュッ |
エル | すご…息ぴったり。コッパミジン! |
ヴィクトル | …今出来る事は、こうして集中出来るように身を守ってやる事ぐらいだ |
クロノス | …その程度では無意味だ |
ルドガー | クロノス…!どういう事だ? |
クロノス | この地の中心であり最も堅牢な大樹が崩壊を始めた… |
クロノス | このままでは間に合わぬ。だが… |
クロノス | 間に合わせる方法はある。…そこの精霊達にもわかっているはずだ |
人造オリジン | …ええ。私達が調整すれば今の三倍は速く進められます |
人造クロノス | …十倍だ |
人造オリジン | クロノス… |
人造クロノス | ここで嘘を言っても仕方ねぇだろ。間に合わせるのに必要な速度は十倍だ |
アッシュ | だったら、何故そうしない |
人造クロノス | …それは… |
クロノス | この期に及んで決断出来んか。所詮は人に作られた存在…劣化複製よ |
ミクリオ | …何か出来ない理由があるのか |
人造オリジン | …… |
| |
クロノス | 我が答えてやろう。速度を速めればクルスニクの鍵に負荷がかかる |
| |
クロノス | 人の身で耐えられる負荷ではない。そいつは間違いなく死ぬだろう |
エル | そんな…! |
ルドガー | 他に方法はないのか!?せっかく…誰も犠牲にしない世界が実現しそうなのに… |
ダオス | …結局、そのような世界はなかったという事だ |
ダオス | その娘を犠牲にするか、その娘を生かすために全世界を犠牲にするか… |
ダオス | もっとも…世界を犠牲にすれば我々やその娘も共に滅びる事になる。迷う余地はない |
ヴィクトル | …… |
| |
エル | …いいよ |
ヴィクトル | エル…!しかし… |
| |
エル | ヴィクトルらしくないなぁ。小さい私との平穏な暮らしのためにどんな犠牲でも受け入れて来たでしょ |
ヴィクトル | そう…だが… |
エル | ねぇ、ヴィクトル。私、ヴィクトルがいなかったら自分の世界でとっくに死んでたんだよ |
エル | だけどヴィクトルに助けられて…一緒に旅をしたり、たくさん友達が出来たりした… |
エル | これって、すっごく贅沢な事だよね |
ヴィクトル | 何言ってるんだ。まだ、これからだって… |
エル | ううん。ヴィクトル…もう、十分だよ |
エル | とっくに失っていたはずの命…この命でヴィクトルと小さい私が幸せに暮らせるなら、すごく嬉しい |
エル | ねぇ、小さい私。私がパパと出来なかった事…たくさんしてもらうんだよ |
エル | エル…おとなのエルも一緒じゃないと、やだよ! |
エル | ……ありがと |
エル | 私の分も、あなたが幸せになって。そして…私よりも長生きして…綺麗なお姉さんになるんだよ |
エル | そんな… |
エル | …ヴィクトル |
エル | 私をアイボーにしてくれて、ありがとう |
ヴィクトル | エル…!! |
エル | オリジン、クロノス。お願い |
人造オリジン | …その覚悟、見届けました |
人造クロノス | 行くぞ…! |
エル | うあっ…ああああぁぁぁっ…! |
人造クロノス | よし…これならいける! |
人造オリジン | 必ずやりとげましょう。彼女の犠牲を無駄にしないために |
エル | うぅぅっ…ぐぅ…っ!あああっ…!! |
ルドガー | …くっ、見てられない |
メルディ | すごく苦しそうな… |
エル | …… |
| ダッ |
ルドガー | エル!?何を… |
| |
エル | エルも、一緒にやる!エルも、クルスニクの鍵だもん!手伝えるよ! |
エル | おとなのエルの苦しいの、エルと半分こすれば助かるかもでしょ!? |
エル | ぐぅぅぅっ…!無茶だよ、小さい、私…っ!下手したら、あなたまで…! |
エル | いいから…! |
エル | ううぅっ…! |
ヴィクトル | …ルドガー。私達も力を貸すぞ |
ルドガー | ヴィクトル…? |
ヴィクトル | 私達はそれぞれの相棒のエルを介して時計と契約し、クルスニクの鍵の力と繋がっている |
ヴィクトル | ならば逆に、私達の力をクルスニクの鍵へと貸す事も出来るはずだ! |
ルドガー | そうか…!よし! |
ミクリオ | …僕達も何か出来ないか? |
人造オリジン | …可能なら、僕達にマナを分けてください! |
人造クロノス | 四人に負担を分散するには俺達に力が必要なんだ! |
ミクリオ | わかった!任せてくれ! |
アッシュ | その程度なら俺にも出来る |
メルディ | メルディがマナ、全部使っていいよぅ! |
| ゴゴゴゴゴ……!!! |
エル | ううぅぅぅっ…! |
ヴィクトル | ここまでしてまだダメなのか…! |
人造オリジン | 僕達に出せる速度はこれが限界… |
人造クロノス | 悪い、俺が手間取ってる。時空が乱れて安定しねぇ |
ルドガー | 諦めるな!最後まで希望を捨てるな!! |
ダオス | …ふん。希望とやらで解決すれば苦労はすまい |
ルドガー | ダオス…! |
ダオス | …… |
人造クロノス | …!新たなマナが流れ込んでくる… |
ヴィクトル | 手伝ってくれるのか |
ダオス | …デリス・カーラーンの存在する正史が崩壊するのは私にとっても不都合だ |
エル | これなら、間に合いそう…! |
エル | はぁ、はぁ… |
ルドガー | エル、大丈夫か!? |
エル | うん…!もうちょっとだもん。頑張る…! |
人造クロノス | 仕上げに入るぞ! |
人造オリジン | 堪えどころです。どうか、無事でいてください…! |
エル | うぐっ、うううっ…!あああああっ…! |
| |
エル | うああああぁぁぁぁぁっ…!!! |
| |
ルドガー | はぁ、はぁ……どうなったんだ…? |
ヴィクトル | 揺れが止まった。という事は… |
クロノス | …確認した。世界の楔は正史に繋がっている |
| |
クロノス | 世界の崩壊は免れた |
ルドガー | そうか…! |
エル | よかったぁ…! |
ヴィクトル | 上手く行ったか。やったな、エル── |
ヴィクトル | …エル? |
エル | …… |
エル | …おとなのエル…?どうしちゃったの? |
エル | ねぇ、目を開けて?起きてよ! |
ヴィクトル | エル…! |
ルドガー | まさか…! |
ダオス | 人造精霊の姿がない…使用者が力尽きたか |
メルディ | そんな… |
アッシュ | 負荷は分散されていたはずだ。それでもまだ耐えられなかったのか… |
ミクリオ | 分散したといっても主体となって力を使う彼女にやはり負荷が集中したのかも知れない |
ヴィクトル | エル…!目を覚ましてくれ…! |
ヴィクトル | 頼む… |
エル | …… |
エル | …うぅ… |
エル | あっ…! |
エル | …ヴィクトル…?何、泣きそうな声出してんの… |
エル | …あはは…おかしい… |
ヴィクトル | エル…! |
ルドガー | よかった…! |
エル | みんなのお蔭で、何とかね… |
エル | ありがとう、みんな |
メルディ | ワイール!よかったな! |
アッシュ | 上手くいったか… |
ミクリオ | 無事で何よりだ。気休め程度だけど、僕が治癒術で体力を戻そう |
ダオス | …… |
ダオス | 我が故郷を守るためとはいえ私は貴様らに力を貸し、結果として難局を乗り越えた… |
ダオス | 立場も目的も違う者同士が争い合ったとしても、最後には力を合わせる… |
ダオス | 貴様の提唱するその甘言を私自らが体現したという事か |
ルドガー | …ああ。手を貸してくれてありがとう |
ダオス | …… |
ダオス | …貴様のやり方で正史世界にマナが戻るのならば異存はない。後は好きにするがいい |
ダオス | だが、無理だと判断した時は私はまた貴様の前に現れる。胆に銘じておく事だ… |
ルドガー | …… |
エル | あれ?ダオス、帰っちゃったの? |
ルドガー | ああ。…彼の期待を裏切らないようにしないとな |
ヴィクトル | さて、改めてこれからの事だが…提唱者であり正史の存在であるルドガーに進めてもらいたい |
エル | まずは、オリジンの審判だね |
クロノス | …審判はとっくに達成されている。願いを叶える者が決まったのならオリジンにそれを伝えよ |
ルドガー | オリジン…?どこにいるんだ? |
エル | あの大きな樹の中だよ!ね、パパ! |
ヴィクトル | ああ。伝承ではそう言われている |
クロノス | オリジンはあの中で魂の浄化と循環を行っている |
クロノス | 姿を見せる事は出来ないが声は聞こえているはずだ |
ルドガー | わかった |
ルドガー | 俺の願いは…全ての世界を正史に繋げ、自由に移動出来るようにしてほしい! |
オリジンの声 | …ルドガーと言ったかな |
ルドガー | …! |
エル | 樹の中から声がする! |
オリジンの声 | 今の願い…そのままでは叶えられない |
ルドガー | なっ…どうして…!?願いに条件があるのか!? |
オリジンの声 | 条件はない。どんな願いでも叶えるよ |
オリジンの声 | ただ…願いは一つだけだ |
ミクリオ | …なるほど。世界を繋げる事と、行き来を自由にするのは、別の願いという事か |
メルディ | どっちか片方しか出来ないか? |
エル | でも、片方だけだったら意味ないよね…どうしよう |
ヴィクトル | …迷う必要はない。ルドガー、こう願え |
ヴィクトル | 全ての世界を維持したまま時歪の因子を消してくれ…と |
ルドガー | 時歪の因子を…? |
ヴィクトル | 時歪の因子がなくなれば分史世界は破壊される心配がなくなる |
ヴィクトル | その上で、世界と世界が時空の歪みによって繋がっている形は変わらない |
ヴィクトル | それならば人造精霊クロノスの力を用いれば、自由な行き来が可能になるだろう |
ヴィクトル | 人造クロノスの力なら、意図的に時空の裂け目を作り出す事も可能なはずだ |
エル | それなら骸殻能力者は自由に移動出来るね! |
エル | それに人造オリジンなら、クルスニクの鍵の力を再現して他の人や物を移動させる事も出来るよ |
ミクリオ | 限定的ではあるけど、ルドガーのやりたかった事は始められそうだね |
アッシュ | 誰が人造精霊を呼びだすのかは慎重に検討する必要がありそうだな。課題は山積みだ |
メルディ | メルディが世界のキール、骸殻に代わって世界を移動する方法研究しはじめてるよぅ |
メルディ | それ完成したらもっと自由になるな! |
ルドガー | そうか…。みんなで力を合わせればこの事も何とかなりそうだな |
ルドガー | そしてそのためには、まず全ての世界を対等にしないと始まらない |
ルドガー | よし、決めた── |
ルドガー | オリジン。俺の願いは、「全ての世界を維持したまま、 時歪の因子を消滅させる」だ! |
オリジンの声 | その願いなら問題ないね |
クロノス | …待て。確かに願いは問題ない。しかし… |
クロノス | 人間の都合による分史世界間の自由移動は認められない |
ヴィクトル | 何だと…! |
クロノス | 分史世界間の移動は我の管轄だ。貴様らクルスニクの一族は特別に認めていただけにすぎない |
クロノス | 我の領域に人間風情が勝手をするなど… |
オリジンの声 | それは残念だな… |
オリジンの声 | オリジンの審判が終了すれば骸殻能力から因子化という制約は消え分史は今後、増えなくなる… |
オリジンの声 | だけどルドガーの願いを叶えると分史が減る事もなくなるよね |
オリジンの声 | 世界中で生じる負の感情やそこから発生する瘴気はこれまで通り…ずっと減りはしない |
オリジンの声 | でもルドガー達なら…他の世界の負の感情や瘴気を徐々に減らしてくれるかもしれない |
オリジンの声 | そして瘴気の量がこの大樹で浄化出来る範囲に収まれば… |
クロノス | …回りくどい言い方をするな |
クロノス | 要は、この者達の考え通りになるよう時空の移動を黙認しろと言いたいのだろう |
オリジンの声 | そうは言ってないよ。時空に関してはクロノスの管轄だ。君に任せるよ |
クロノス | …まったく。仕方あるまい |
ルドガー | …!それじゃあ…! |
クロノス | …我は時空間の移動を監視している。何か不用意な行動を起こした人間は世界ごと消す事も辞さぬ |
クロノス | その事をゆめゆめ忘れぬようにな |
ルドガー | 勿論だ! |
ルドガー | そんな事にならないように、考えていくよ。世界中のみんなで |
オリジンの声 | …話はまとまったね。それでは── |
オリジンの声 | 君の願い、聞き届けよう |
| |
ルドガー | …これは… |
エル | 星が見えなくなっちゃった… |
ヴィクトル | あの星は一つ一つが分史世界だったはずだ。…一体、どうなったんだ…? |
オリジンの声 | 安心して。消えたわけじゃない。一つになったんだ |
オリジンの声 | この正史世界と… |
ヴィクトル | そうか…元より、空を見上げても自分達の住む星は見えない |
ヴィクトル | もはや全ての世界は手の届かぬ空の星ではなく地続きの身近なものになったのか |
エル | あれだけの星が一つに…改めて考えると滅茶苦茶な事してるよね |
ルドガー | でも、誰も犠牲になっていない丸く収まって大団円…これ以上はないだろ? |
ヴィクトル | 終わりじゃない、始まりだこれからが大変だぞ |
ルドガー | ああ。まずは俺達の力でいろいろな世界と協力関係を結んでいかないとな |
メルディ | 戻ったら、キールにもここであった事、伝えるよぅ! |
ミクリオ | まずは自分達の世界への説明と説得だね。そこから輪を広げていこう |
アッシュ | ああ。反発もあるだろうが、話し合えばわかりあえる…。親善大使の腕の見せどころだ |
ルドガー | それじゃあ、一度解散だな。それぞれの世界の様子も気になるだろう |
ヴィクトル | エルは…ルドガーと一緒に行くんだろう? |
エル | …うん。ルドガー、これから大変だと思うしエルはアイボーだから |
エル | それに…世界が繋がったんだから、パパにはいつでも会えるもん!…だよね? |
ヴィクトル | ああ、そうだな…冒険を頑張れ、応援してるよ |
エル | また寂しそうな顔して。ヴィクトルには相棒の私がいるでしょ |
エル | 私だってこれからも、相棒と一緒にどこまでも行くよ |
ヴィクトル | そうか…ありがとう、エル。これからもよろしくな |
ルドガー | …それじゃ、まずはみんなを分史世界に帰さなくちゃいけないな |
メルディ | そういえばどうやって帰るか? |
ヴィクトル | 私が送り届けよう。正史に集めた時と同じく、人造精霊の力を使えば出来るはずだ |
ミクリオ | あの現象も人造精霊の力だったのか。…あとでその原理について是非聞かせてくれないか |
アッシュ | 俺も聞きたい。マナを消費しない魔導器の技術はきっと欲しがる世界が多いだろう |
ヴィクトル | 勿論だ。私の世界に戻ったら、資料をまとめて必要とする世界に渡せるようにしよう |
ルドガー | …こうして、全部の世界がよくなっていくのか。ワクワクするな |
エル | うん!これから、頑張ろうね! |
クロノス | 手を取り合う、か…。いつまで持つか見物だな |
オリジンの声 | 相変わらずだね、クロノスは |
クロノス | 人間がどれだけ愚かな生き物か、一番よく知っているのはお前だろう |
クロノス | 奴らの負の感情がどれだけお前を苦しめていると思うんだ |
オリジンの声 | …わかってる。でも、人間は時に僕達の予想を超えた奇跡を起こす事もある |
オリジンの声 | 彼らの絆を信じる気持ちが僕の審判をも乗り越えたんだ |
オリジンの声 | 僕はその力を信じてみたいと思うよ |
クロノス | …… |
クロノス | 奇跡か。人間に期待はしていないが…お前がそこまで言うんだ |
クロノス | 我も見届けてやるとしよう… |
scene2 | 明日へ |
| トンテンカンテン… |
エル | ここがミクリオの世界なんだ。あちこちからトントン聞こえて音楽みたいだね |
ルドガー | みんなが復興を頑張ってる音だ。心なしか希望に満ちているように聞こえるな |
ライフィセット | 僕達が飛ばされた世界に、まさかまた来る事が出来るなんて… |
ルドガー | みんなが分史に帰る時に約束したんだ。きっとまた会いに行くって |
ルドガー | 世界が一つになった事を四大国に説明したりで忙しくて随分と時間が空いてしまったけど… |
ライフィセット | 僕も初めて聞いた時は驚いたよ。でも意外と世間は落ち着いて受け入れてたね |
ルドガー | ああ。これまでにも天啓や晶化現象、アヴァロン島といろんな事件があったからな |
ルドガー | 不思議な現象もすぐ受け入れてくれたんだと思う |
ルドガー | 四大国の重鎮達も、平和のために必要な事として前向きに捉えてくれたよ |
??? | 来てくれたんだね |
エル | あっ! |
ミクリオ | やあ、久しぶり |
スレイ | 会えて嬉しいよ!改めてお礼をしたいと思ってたんだ |
ライフィセット | そんな…あれは負の因子が憑りついたせいだし気にしないでよ |
エル | …あれ?ミクリオ、あそこにあるのってもしかして魔導器…? |
ミクリオ | ああ。マティス式魔導器だよ |
エル | パパが使ってたやつ…!でも、どうしてここに? |
ミクリオ | ヴィクトルからもらった資料で作り出したんだ |
ミクリオ | 資材の加工に使ったり、医療や生活にも大いに役立っている |
ミクリオ | マナを消費しないから天族からも評判がいいんだ |
エル | エルの世界のギジュツが…なんか、嬉しい! |
ライフィセット | ルドガーの言ってた全ての世界で手を取り合うって話、早速成果が出てるね! |
ルドガー | ああ。これで復興が効率的に進めば成功例として他の世界にも説明しやすくなる |
スレイ | 復興は勿論だけど、この魔導器を使えばこれからの生活が一変しそうだ |
ミクリオ | まるで歴史書で見る、文明の転換期のようだね |
ルドガー | …これから、いろんな世界でそういう転換期を迎える事になるんだ |
ルドガー | 上手く行く事ばかりではないと思う。そういう時は歴史に詳しいミクリオ達の知恵を借りに来るよ |
ミクリオ | ああ。いつでも来てくれ |
ライフィセット | 僕も来ていいかな?天族と人間の付き合い方を学んで他の世界に伝えたりしたいんだ |
ミクリオ | 勿論。ライフィセットも、いつでも歓迎するよ |
スレイ | これからは他の世界の人達や天族とも交流していきたいと思ってるんだ |
スレイ | いつか正史にも行くから、その時は案内をお願いしてもいいかな |
ライフィセット | うん、わかった。こっちも、いつでも歓迎するよ |
| |
ファラ | わぁ…綺麗! |
リチャード | 本当に綺麗だね。…しかし、この花畑は魔導器の実験で枯れ果てたと言っていなかったかい? |
??? | それはな。メルディお願いして、キールに戻してもらったんだよぅ! |
エル | あっ、メルディ!久しぶりー! |
メルディ | みんな!元気してたか? |
ファラ | うん!メルディも元気そうでよかった |
キール | …やあ |
ルドガー | キール。すごいな。確か何年も命の芽生えない土地になったって聞いてたのに… |
キール | ああ。それが新発見でね。別の世界の同じ場所の土を混ぜると生命力が戻る事がわかったんだ |
キール | ヴィクトルが別の世界で見つけた方法だと言って教えてくれたよ |
ルドガー | ヴィクトルはこの世界の事も手伝ってるのか |
エル | パパがみんなと仲良くしてくれて嬉しい! |
ルドガー | 同じ場所の土を使う…その方法ってもしかして同一存在同士で影響し合っているって事か? |
ルドガー | 負の因子が正史の同一存在に影響を与えていたように… |
キール | まだ詳しい原理は不明だが、関連性はあると睨んでる |
キール | …他の世界でも魔導器の濫用で土地が枯れたり疫病が流行るような被害が出ているかもしれない |
キール | ヴィクトルがマティス式魔導器を広めれば今後はなくなるだろうけど、これまでに出た被害はそのままだ |
キール | その被害を少しでも元に戻せるよう今後も研究を続けて行こうと思うよ |
ルドガー | それが出来ればすごいよ |
キール | 罪滅ぼしにもならないけどな…それにメルディの方がすごい事をしてる |
ファラ | メルディが?何をしたの? |
キール | 四大国協定を成立させたんだ。今、この世界には大きな争いもない。これは偉業だと思う |
メルディ | んー?大した事してないな。最初にみんな仲よくしようってメルディが言っただけ! |
リチャード | それで実際に世界を動かしたんだ。本当にすごいよ |
ファラ | うんうん、メルディはすごい!とっても立派だよ! |
メルディ | 何だか照れくさいよぅ… |
メルディ | けど、これはルドガーがお蔭。反対されても話し合えばわかるって信じたからだよ |
ルドガー | 俺はメルディに教えてもらった事だ。だから、お互い様だな |
メルディ | それから、リチャードやアッシュと手紙やり取りしてて国同士の話し方、教えてもらったな |
リチャード | 僕も大した事はしていないよ。だけど役に立てたのならよかった |
キール | 僕もメルディも、他の分史世界には随分助けてもらっているし、早く恩返しをしたいと思ってる |
キール | 完成まではまだかかるけど、多くの人や物資を乗せて分史間を移動する船を開発中だ |
ファラ | 船?海に出るの? |
キール | 本当の船じゃない。時空間を航行する乗り物を便宜上そう呼んでいるんだ |
メルディ | キール、今度はみんなが喜ぶもの、作れるな! |
キール | ま、まあな… |
メルディ | 船出来たら、他の世界と貿易できる!リチャード、その時はアッシュと貿易協定が話するよ! |
リチャード | わかった。その日が来る事を心待ちにしているよ |
| |
ルーク | …ったく。何でこんな森の中で密会しなきゃなんねぇんだよ |
ルドガー | …はは、仕方ないさ。俺達、この世界では逃亡した犯罪者なんだから |
ミュウ | ミュウはこの森、好きですの。故郷の森に似ていて何だか落ち着くですの |
??? | この森にはチーグル族が住んでいるから、それでだろうな |
エル | あっ!アッシュ来た!ルークも! |
アッシュ | 待たせたな |
ルーク | 仕方ないとはいえ、もてなせなくて悪いな |
ルーク | いや、まあいいけどよ…元気でやってんのか? |
ルーク | そうだな、お蔭様で…キムラスカの王位継承者として対外的に認められたよ |
ルーク | おー、やるじゃねえか!さすがこの世界の俺! |
ルーク | あと、今は親善大使としてチーグル族との共存関係を築こうとしているんだ |
エル | チーグル族って、ミュウの仲間の事だよね? |
ミュウ | はいですの! |
ルドガー | それでこの森を待ち合わせ場所にしたのか? |
アッシュ | ああ。ミュウと接しているところを見せ警戒心を解く狙いもある |
アッシュ | ルークが考えたんだ。こいつにしては珍しく交渉事の要領を掴んでやがる |
ルーク | 俺だって成長してんだ。ぼやぼやしてっと追い抜くからな |
アッシュ | ふん。外交も剣も、まだまだお前に後れは取らねぇ |
ルーク | あんな事言われてんぞ。絶対見返してやれよ |
ルーク | 当然だ。剣だって、今度の── |
ルーク | ああ、そうだ!今度「全世界闘技会」を開くんだ。お前達も参加してみないか? |
ルドガー | 全世界…という事はもしかして他の分史や正史から… |
ルーク | そうだ。交流を持てた各世界にはすでに案内を送っている |
ルーク | そこでなら例の件の犯人ではなく別世界の俺として堂々と迎え入れられるはずだ |
ルーク | なるほど、悪くねぇな。他に誰が参加するんだ? |
アッシュ | まだ募集を始めたばかりだが…既にいくつかの世界から参加表明があった |
アッシュ | ガイアスというア・ジュールの王とアーストという名の剣士── |
ルドガー | その二人って…! |
アッシュ | 知っている名か? |
ルドガー | ああ、まぁ… |
ルドガー | (違う世界の同一人物だよな…。 偶然の一致かも知れないけど…) |
ルドガー | 俺の知ってるその人は、とても強い剣士だ。きっと強敵だぞ |
アッシュ | そうか。面白い大会になりそうで何よりだ |
ルーク | よーし、俺は参加するぜ!全世界の中で最強は誰か教えてやる! |
ルドガー | 俺は遠慮しておくよ。その代わり、試合は必ず応援しに行く |
エル | エルも試合見に行く! |
ルーク | わかった。大規模な大会だから試合は数日に渡って行う予定だ |
ルーク | 試合日程はまた連絡する。よかったら俺達の試合の時も応援しに来てくれ |
ルドガー | 勿論だ |
ルーク | おーし、そうと決まれば試合の日まで特訓だ!ミュウ、お前も手伝えよ! |
ミュウ | はいですの! |
ルドガー | …闘技大会という形の交流か…。やっぱり世界が違うといろんな可能性を見られていいな |
| |
エル | ついたー!パパ、ただいまー! |
人造オリジン | おかえりなさい |
エル | …家間違えた!? |
人造クロノス | 間違ってないが。というかこの辺り他に家はねえぞ |
ユリウス | これが話に聞いた人造精霊か… |
人造オリジン | ルドガーさんのお兄さんですね。はじめまして、オリジンと申します |
ユリウス | あ…これはご丁寧に。ユリウス・ウィル・クルスニクです |
ルドガー | 兄さんが畏まってる… |
ユリウス | …人造とはいえオリジン相手…なのに腰の低い話し方をするから距離感を掴み損ねた |
エル | あ、もう来ちゃったの?ごめん、お出迎え出来なくて |
エル | おとなのエルだ!向こうからいい匂いするし、ご飯作ってたの? |
エル | そうだよ。ヴィクトルと一緒に腕によりをかけて作ってるとこ |
エル | やったー!パパのご飯だ! |
エル | ちょっと!私とクロノスも手伝ってるんだからね |
ユリウス | まさか…クロノスが料理を…? |
エル | そう。調理時間を正確に測ってくれる優秀な料理人なんだよ |
エル | みんな手伝ってるの!?エルも手伝うー! |
ルドガー | 俺も手伝うよ。ヴィクトルの技術を盗ませてもらいたいからな |
人造オリジン | お待ちください。あなたは調理場に入れないように言われています |
人造オリジン | 10年かけて、この味に辿り着け…との事です |
ルドガー | 手厳しいな… |
ユリウス | こう言われてしまったら修行あるのみだな、ルドガー |
ルドガー | 兄さんは俺に料理させたいだけだろう?別に構わないけど… |
人造オリジン | そういうわけですから、お二人は席におかけになってお待ちください |
ルドガー | わかった |
エル | いっただきまーす! |
ヴィクトル | 熱いから気を付けて |
エル | うん!ふー、ふーっ! |
ルドガー | …これは美味いな |
ヴィクトル | 今日は君達が来るからいつもより気合いが入ってしまってね |
人造クロノス | 煮込み時間も完璧なはずだ |
エル | それに、この世界にマナが戻ってきたお蔭かトマトがすごく新鮮なの |
ユリウス | …そうか。マナは回復しつつあるんだな |
ヴィクトル | ああ。魔導器の技術提供の代わりに多くの世界からマナを少しずつ分けてもらったんだ |
ヴィクトル | 負の因子を使って無理やりマナを奪った世界にも借りた分を返し終わったよ |
ヴィクトル | 勿論、正史世界にもね |
ルドガー | これで全部元通り…いや、この世界にとっては環境がよくなったと思っていいのかな |
ヴィクトル | ああ。未完成だった人造精霊もこれだけマナがあればいずれ完成させられるだろう |
人造クロノス | とはいえ、本来の使命である世界の楔の管理は必要なくなってしまったがな |
ルドガー | そうか。世界の楔の繋ぎ変えは結局してないもんな |
人造オリジン | 今の私達の使命は世界間をつなぐ流通手段の研究開発をしているんです |
人造クロノス | ああ。人や物を任意の世界に安全に転移させるんだ |
エル | メルディの世界でもそんな研究してるって言ってたよね |
人造オリジン | ええ。その世界のキールとは意見を交換しながら研究を進めているんです |
エル | じゃあ、パパも研究してるの? |
ヴィクトル | いや。研究は人造精霊に任せている。私はいろんな世界を巡る旅をしているんだ |
ヴィクトル | そしてその世界に問題があれば解決する。ルドガーのようにね |
エル | 前はそんな余裕なかったけど今回はちゃんとその世界の人達と向き合いながら旅してるんだよ |
ユリウス | …いい心がけじゃないか。ルドガーらしいよ |
ヴィクトル | 別世界とはいえ兄さんにそう言われると照れるな… |
ヴィクトル | …私にとっては贖罪の旅も兼ねているんだ |
ヴィクトル | 世界の状況が落ち着いてエルが私の元に帰ってくるまではこの旅を続けようと思っている |
エル | いいなー…エルもショクザイの旅したい!美味しい食べ物探すの! |
ルドガー | ショクザイ違いだぞ、それは… |
エル | あながち間違いでもないかも。いろんな世界のご飯を食べてヴィクトルは料理の腕を上げてるし |
エル | へー、そうなんだ!いろんな世界のごはん食べてみたいな! |
エル | …あっ、そうだ!友達をよんでパーティーする約束!パパ、覚えてる? |
ヴィクトル | 勿論だよ。…今なら他の世界の友達もみんな呼べるな |
エル | うん!たくさんお友達呼んでパーティーしよ! |
ヴィクトル | …わかった。今度集まる時は盛大にやろう |
エル | やったー!みんなに招待状書かなくちゃ! |
ユリウス | エルの交友範囲は正史世界だけでもかなり広いだろう。これは大人数になりそうだな |
ルドガー | いいのか、そんなに安請け合いして |
ヴィクトル | 安請け合いなんかじゃないさ。エルが世話になっている友達だ。最高のおもてなしをさせてもらうよ |
| |
キール | ん?分史巡りから帰ってきたのか? |
リタ | 久々じゃない。さっきまでロディも来てたのよ。あんた達にお礼を言いたがってたわ |
ルドガー | ロディか…お礼が言いたいのはこっちだ。世界の楔で助けてもらって以来だしな |
リタ | また来ると思うわよ。この研究施設の設備を使ってマナを異星に送りたいって言ってたし |
ルドガー | 異星…ダオスの故郷だな。正史にマナが戻った今ならそれも可能なのか? |
リタ | 理論上はね。マナを送り込むための装置の開発にはしばらくかかりそうだわ |
ルドガー | そうか。それでも解決に向かってるようでよかったよ |
エル | キールとリタは、ここでその装置を作ってるの? |
リタ | あたしはそうよ。キールは別の研究をしてるみたいだけど |
キール | …本当はぼくも別の世界を旅してみたいんだが、研究員達からどうしても必要だと言われてね |
キール | だけどお蔭で、ヴィクトルから聞いた別世界を座標として捉える仕組みがようやく形になりそうだよ |
エル | 別世界を…ザヒョー…?それって何? |
リタ | 簡単に言うと、全部の世界に行ける地図が作れるようになるの |
リタ | ここにメルディの世界があってその近くにアッシュの世界が…とかね |
エル | へー、すごい! |
キール | メルディの世界のぼくが開発している、時空を移動する船の航路を決めるのにも使えるはずだ |
ルドガー | 本当に、力を合わせる事で問題がどんどん解決していくな |
キール | ああ。何かに行き詰っても他の世界ではとっくに解決済の問題だったりする… |
キール | 研究の進展の速さはこれまでの比じゃない |
ルドガー | そうか…。これからもっと世界を旅して交流の輪を広げていくよ |
ルドガー | さぁ、エル。今度はどこの世界に行こうか |
エル | どこでもついて行くよ!だってアイボーだもん! |
エル | だけど…ちょっとだけ心配 |
ルドガー | うん?何だ? |
エル | ルドガーにもそろそろ落ち着いてもらわないとこの世界のエルが生まれないよね |
ルドガー | えっ…!そ、それは…! |
ルドガー | …善処するよ |
エル | うん。そしたら今度はエルが、おとなのエルとしていろいろ教えてあげるんだ! |
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エル | 楽しみだなー |
エル | その時、世界はどんな風になってるのかなー |
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