| Name | Dialogue |
| 白き獅子の記憶 | |
| | ラザリスの作り出した新世界エンテレスティア── |
| | その中心である帝都シャングレイスには精鋭の騎士団がいる |
| | 天帝ラザリスの忠実な部下である彼らは、エンテレスティアの人々の憧れの存在でもあった |
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| ロアー | 誇り高き帝都騎士団──白き獅子の諸君。多忙な中、よくぞ集まってくれた |
| ロアー | これより、近く行われる生誕祭に備え全隊合同の戦闘訓練を行う |
| ロアー | 誰を相手に選んでも構わない。隊長相手でも、分不相応などと思うな |
| ロアー | 諸君は一人一人が天帝を守るという使命を果たせるだけの実力を持った強い騎士でなければならないのだ |
| ロアー | ならば隊長達とも対等に渡り合えて当然のはず。出来ない者は、出来るまで鍛錬を積め |
| ロアー | 以上だ。クロー、ファング、何かあるか? |
| クロー | ロアーらしい挨拶だな。だけどまぁ、ちぃとばかし厳しすぎねぇか? |
| ファング | ああ。気楽に、みんなで強くなろうぜってぐらいでいいじゃねぇか |
| ロアー | ふむ。我らの背負う使命の重大さを伝えたつもりだったが、何かまずかっただろうか? |
| クロー | そりゃ使命は大切だけど、もうちっと肩の力を抜けって |
| クロー | でないと、本当に力を出さなきゃならない時まで、体力がもたねぇぞ |
| ファング | 俺は全力でやる事には賛成だ。でも難しく考えすぎなくてもいいって思うんだよ |
| ファング | 楽しく強くなれるならそれが一番だからな |
| ロアー | 勿論、体力の温存も、楽しく──つまり士気を上げる事も大切だ |
| ロアー | 私は体力を使いきれとも楽しんではいけないとも言ってはいないぞ |
| クロー | 連中の顔を見て見ろよ。死ぬ気で頑張るって奴か、もう終わりだって奴ばっかりだぜ |
| ロアー | …ふむ。難しいな。気分を和らげる言葉か… |
| ファング | ほら、おまえも難しく考えるなって |
| クロー | あー、おまえら。とにかく怪我のないようにな |
| ファング | そうそう。それと、この合同訓練は俺達がみんなの事をよく知るためのものでもあるんだ |
| ファング | 今後、所属の隊以外からも任務の声がかかるかもしれねぇからそん時はよろしくな! |
| ロアー | …ふむ、二人が話すとみな、肩の力が抜けて希望に満ちた顔になったな |
| ロアー | さすがだ。では早速、合同訓練開始といこう! |
| クロー | オレ達も、部下に後れを取らねぇようにしねぇとな |
| ファング | 俺はすげぇ強い奴がいた方が嬉しいぞ。どんな奴がいるか、今から楽しみだ! |
| ロアー隊の遠征任務 | scene1 |
| ロアー | …どうだ、まだ歩けるか? |
| 騎士団員1 | はい。少し痛みますが、平気です。遠征任務の最中だというのにご心配をおかけして申し訳ありません |
| ロアー | 無理はするな。今は傷を治す事に専念しろ |
| ロアー | だが、治ったら特訓だぞ。魔物に後れを取るようでは今後が心配だからな |
| 騎士団員1 | はい。重々承知しております。ロアー様のように強くなれるよう鍛えてやってください |
| 騎士団員2 | ロアー様、お言葉ですが彼は決して弱いわけではありません。怪我をしたのは私を庇ったからです |
| ロアー | そうか。ならばお前も特訓だ。厳しいかもしれないが私達の使命はラザリス様をお守りする事… |
| ロアー | 仲間に頼らずともあらゆる事態に一人で対応出来る強さが必要なのだと心得よ |
| 騎士団員2 | はっ。肝に銘じておきます…! |
| ロアー | うむ。では先に進もう。ナムザ街はもうすぐだったな |
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| ロアー | …そうか、咎人が出たというのは誤報だったのだな |
| 町長 | はい、騒ぎがあったのは事実ですが誤解だったとわかりまして |
| 町長 | 街の誰かが既に白き獅子に通報していたとは…。ご足労いただいたのに申し訳ない |
| ロアー | 気に病む必要はない。咎人がいなかったのならそれに越した事はないからな |
| 町長 | お忙しいでしょうが、よかったら街で旅の疲れを癒して行ってください |
| ロアー | 気遣い感謝する。怪我をした隊員もいる事だ、今日はここで休ませてもらおう |
| 町長 | よかった、街のみんなも喜びます!宿は私の方で手配させていただきます |
| 町長 | そうだ、もしよろしければ是非、ガイアスの道場に寄ってやっていただけませんか |
| ロアー | 道場に?別に構わないが、何かあるのか? |
| 町長 | 彼の道場には白き獅子を目指す子ども達が大勢通っているのです。きっと喜びますよ |
| ロアー | そういう事か。わかった、その道場の場所を教えてくれ |
| 町長 | はい。すぐに地図をご用意いたします! |
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| ガイアス | よし、模擬戦開始だ。陣形を崩すな |
| 子ども達 | はい! |
| ガイアス | そこ、前に出過ぎだ!自分の役割を意識して連携しろ |
| 子ども1 | はい、師匠! |
| ガイアス | そっちは下がりすぎだ。縮こまらず、仲間が守ってくれる事を信じて攻めろ |
| 子ども2 | は、はい! |
| ロアー | ほう、集団戦か。粗削りだが見事な陣形だ |
| ガイアス | 見物か。危ないからもう少し離れて── |
| ガイアス | む、その格好…まさか… |
| 子ども3 | あっ、あの人って…白き獅子のロアー様じゃない!? |
| 子ども4 | 嘘!?どうしてこんなところに… |
| 子ども5 | 本物か? |
| 子ども3 | 聞いて見ればわかるよ。おーい、ロアー様ー! |
| ロアー | 何だ? |
| 子ども5 | 返事した!やっぱり本物だ! |
| 子ども4 | 白き獅子だ!ロアー様だ! |
| 子ども3 | みんなに知らせろ! |
| ガイアス | 模擬戦どころではなくなったな |
| ロアー | 邪魔をしたようだな。すまなかった |
| ガイアス | いえ、この集中力のなさは問題です。後でみっちりお説教だな |
| ガイアス | …して、白き獅子がいらっしゃるとは何かありましたか? |
| ロアー | 用というほどでもないのだ。町長から道場の話を聞いて少し気になってな |
| ロアー | 練習を見学させてもらっても構わないだろうか |
| ガイアス | ええ、勿論です |
| 子ども1 | 聞いた!?ロアー様が僕達の練習を見てくれるって! |
| 子ども2 | よーし、みんな、頑張ろう! |
| 子ども達 | おーっ! |
| ロアー隊の遠征任務 | scene2 |
| ガイアス | よし、今日はここまでだ! |
| 子ども達 | ありがとうございました! |
| ロアー | ふむ。息のあった素晴らしい集団戦だった |
| 子ども1 | ねぇ、ロアー様!練習見てたでしょ?ボク、白き獅子になれるかな? |
| 子ども2 | あ、抜け駆けはズルいよ! |
| 子ども3 | ロアー様、僕は!? |
| 子ども4 | ねぇ、僕の家でご飯食べない? |
| 子ども5 | ロアー様、サインしてー! |
| ガイアス | お前達、失礼だぞ |
| ロアー | まぁ気にするな。私は構わない |
| ガイアス | すみません。こいつらにとって白き獅子は憧れの存在ですから |
| 子ども3 | 早く強くなって、ロアー様と一緒にラザリス様をお守りしたいな! |
| 子ども4 | 僕も!よーし、帰って剣の素振りだ!みんなに差をつけるぞ! |
| 子ども1 | 僕だって負けないからな!みんな、自主練しようぜ! |
| 子ども2 | うん! |
| 子ども5 | よし、ご飯食べたら広場に集合だね! |
| 子ども達 | おーっ! |
| ガイアス | 強くなるには休息も必要だ。くれぐれも無理しすぎないようにな |
| 子ども達 | はーい! |
| ロアー | いい生徒達だな。さて…少し、話を聞いてもいいか |
| ガイアス | 勿論 |
| ロアー | 子ども達は白き獅子を目指していると言っていたな |
| ガイアス | ええ。ほとんどの生徒が白き獅子になるべく精進しています |
| ロアー | ただの憧れでなく真剣な目標だという事は今日の練習を見ていてよくわかった |
| ロアー | それと町長から聞いたのだが自警団としても活躍しているそうだな |
| ガイアス | ええ。といっても、街の近くの魔物退治ぐらいです |
| ロアー | それでも危険ではないか?私達はここに来る途中、魔物と戦い怪我人も出した |
| ガイアス | 幸い、今のところ怪我人は出ていません。安全最優先の陣が功を奏したようで |
| ロアー | あの集団戦法か。確かにあれは強いが、一人一人の実力はまだまだだな |
| ガイアス | だからこその集団戦法です |
| ロアー | …なぜ弱点を克服させない? |
| ガイアス | …?仰る事がわかりませんな。弱点は補うように指導していますが… |
| ロアー | ああ、見ていたよ。だがお前の教え方は、弱点を無くそうとはしていなかった |
| ロアー | 弱点を弱点として放置したまま長所でそれを補おうとしていた |
| ロアー | 集団戦法においては他人との連携でお互いの弱点を補っている。それは本当の強さと言えるのか? |
| ガイアス | 弱点を補い合う事で、互いの長所を活かしやすくするべしといつも教えています |
| ガイアス | 実際にそれであいつらは実力以上の力を発揮している。これは強さとは言えませんか |
| ロアー | つまり、個々の実力は弱いまま…ではないのか |
| ガイアス | ………… |
| ロアー | 彼らの目指す白き獅子の使命は、他ならぬラザリス様をお守りする事だ |
| ロアー | この重大な使命を背負うには相応の実力が必要だ。私はそう思って研鑽してきた |
| ロアー | 例え仲間が全て倒れ、最後の一人になろうとも使命を果たせるだけの力が必要なのだ |
| ロアー | 集団でなければ力が発揮できない…陣形の一部が欠けただけで弱体化する戦法は白き獅子には相応しくない |
| ガイアス | なるほど。ロアー様の考えはわかりました |
| ガイアス | 同じ使命を背負うのなら同じように強くなければならない…少なくともそう努力をするべきだ |
| ガイアス | そういう事でしょう |
| ロアー | そうだ。当然だろう? |
| ガイアス | 俺は少し考え方が違います。弱い者は、いくら鍛えても弱い…誰にでも限界というものがある |
| ガイアス | だが同時に、誰にでも長所がある。なら人より秀でた部分で、他者の弱い部分を補えばいい |
| ガイアス | そうすれば補い合った双方が長所を普段以上に発揮出来る強い戦士となれる |
| ロアー | …お前は、まさか弱い者まで白き獅子に入れるつもりなのか? |
| ガイアス | ええ。俺の道場では決して脱落者を生まぬと決めています |
| ロアー | 甘いな…。それは弱さから目を背けているだけではないのか |
| ガイアス | 弱さと向き合うからこそ出来る事です |
| ロアー | …なるほど、そうとも言えるか… |
| ロアー | ふむ…、そうだな… |
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| ロアー | ガイアスよ、頼みがある。私と手合わせをしてくれないか? |
| ガイアス | …突然ですね。手合わせは構いませんが、理由をお聞かせいただけますか? |
| ロアー | 私には、お前の言う事は己の限界を超えられぬ者の言い訳のように思える |
| ロアー | だがお前はそんな言い訳をする男には見えない。だから実力を見極めたいのだ |
| ガイアス | …わかりました。そういう事なら全力で参ります |
| ガイアス | 白き獅子を相手に、俺の実力を全てぶつけさせてもらう! |
| ロアー | ああ。遠慮はいらない。いざ、尋常に…! |
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| | ガキィン── |
| ロアー | くっ…!やるな、だが…! |
| ロアー | はぁっ! |
| | ガキィッ──! |
| ガイアス | くっ、重い…!ならば、これで! |
| | ガキィン── |
| ロアー | 何のっ…! |
| ガイアス | さすが白き獅子…!技を出し尽くしてもまだ決着がつかぬとは…! |
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| ロアー | お前こそ、さすがだ。手合わせはここまでにしよう。これ以上はどちらかが倒れるまで続く |
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| ガイアス | 俺はそれでも構いませんが |
| ロアー | その気概は嬉しいが、私には白き獅子としての使命がある。ここで命を削るわけにはいかん |
| ロアー | それに、お前の実力はこれではっきりわかったからな |
| ガイアス | ふ…合格ですか? |
| ロアー | ああ。お前は強い |
| ロアー | お前なら、同じように強くなれるようみなを導く事も出来るはずだ。なぜそれをしない? |
| ガイアス | さっき言った通りです。俺の道場からは決して脱落者を生まぬ |
| ガイアス | 厳しい鍛錬は強い者を作るがついて来られぬ者も出てきます。それは弱い者を切り捨てるのと同じだ |
| ガイアス | 誰もが必要な力を発揮出来る方法を考えて辿り着いた答え…それがあの集団戦法です |
| ガイアス | 個の強さだけに頼らず、弱さを認めて補い合う事で本来の何倍もの力を出せる… |
| ガイアス | 弱さを自覚して他者を頼る。ロアー様のように強い人には受け入れ難いかもしれませんが… |
| ガイアス | 仲間を頼るから弱いのではなく頼れる仲間がいるから強いのだと俺は考えるようになりました |
| ロアー | …なるほど。その見方は私にはなかった。目からウロコ、というやつだな |
| ガイアス | この道場で子ども達と肩を並べて剣を振っていたからこそ出て来た考えです |
| ガイアス | もし俺が、ロアー様のように人を束ねる立場にあったなら結論は違っていたかもしれません |
| ロアー | なるほど。私も少し視点を変えてみるとしよう |
| ロアー | ふふ、さすが道場だ。私も一皮むけた気がするぞ |
| ガイアス | ふ…それを自分で言いなさるか |
| ロアー | 感謝するぞ、ガイアス。白き獅子はこれからもっと強くなるだろう |
| ガイアス | 貢献出来たのなら本望です |
| ロアー | ここにはまた来よう。未来の騎士達にもよろしく言っておいてくれ |
| ガイアス | はい |
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| ロアー | シャングレイスはもうすぐだな。その調子なら予定通り帰り着けるだろう |
| ロアー | 怪我をしていた者の調子はどうだ? |
| 騎士団員1 | はい、すっかりよくなりました。ナムザ街で休ませていただいたお蔭です |
| 騎士団員1 | もう足を引っ張るような事はいたしません |
| ロアー | ……飛び跳ねてみろ |
| 騎士団員1 | …え? |
| ロアー | どうした、やれ |
| 騎士団員1 | は、はい…。えいっ── |
| 騎士団員1 | うっ…!いつつ… |
| ロアー | やはり、まだ完治してないではないか |
| 騎士団員1 | 申し訳ありません。しかし、この程度…平気ですので |
| ロアー | 無理はするな。誰か、足腰に自信がある者はいるか。肩を貸してやってほしい |
| 騎士団員2 | では私が。しかし、構わないのですか?先日は、仲間に頼るなと… |
| ロアー | うむ。それについては謝ろう。私の考えが硬すぎたようだ |
| ロアー | 同じ使命を共有する仲間だ。庇いあい、助け合う事で今以上の力が出せるならそれもいい |
| ロアー | 戦闘陣形も見直すつもりだ。その時はお前達の意見も聞きたい。私に見えないものも見えるはずだ |
| ロアー | 頼めるか? |
| 騎士団員2 | はい、勿論!光栄です! |
| 騎士団員3 | ロアー様…ナムザ街で何かあったのですか? |
| ロアー | まぁ、少しな。いい好敵手と出会えた |
| 騎士団員3 | ロアー様の好敵手とは…一体… |
| ロアー | お前達の好敵手もいたぞ。次に来る事があれば紹介しよう |
| 騎士団員1 | 今度、是非、また行きましょう。そういえば、街の人から聞いた話では近くお祭りがあるそうですよ |
| ロアー | そうだな。祭りと言えば、みなも知っての通りもうすぐシャングレイスの生誕祭だ |
| ロアー | その生誕祭の警備を無事に終えたら、ナムザ街の祭りに行く時間も作れるようにしよう |
| 騎士団員1 | 本当ですか!? |
| ロアー | ああ。だからまずは生誕祭が何事もなく無事に終わるよう祈ろうか |
| ファング隊の重大任務 | scene1 |
| ファング | えーと、この辺りだな。よし、全員集合! |
| 騎士団員達 | はっ! |
| ファング | これからこの森に柵を設置し立ち入り禁止区域とする |
| ファング | まず立ち入り禁止の範囲に人がいないか確認して、俺達で封鎖する |
| ファング | その頃には資材が届くから、柵を組み立てるって段取りだ |
| ファング | これはラザリス様直々のご命令だ。みんな、頑張ろうぜ! |
| 騎士団員達 | はい! |
| 騎士団員1 | ご報告します。北方面、封鎖完了しました |
| 騎士団員2 | 続けて報告します。西方面、南方面も封鎖完了いたしました |
| ファング | 順調だな。まぁ、こんな郊外の森の奥、誰もいないか |
| 騎士団員3 | 失礼します。ファング様、東方面で少し問題が… |
| ファング | どうした? |
| 騎士団員3 | この森を通りたいという者が…とにかく来ていただけますか |
| ファング | わかった |
| | |
| ルーティ | だから、通るだけだって。工事が始まってないなら、あたしが通るまでぐらい待てるでしょ |
| 騎士団員4 | 何度も言ってるだろう。柵がないだけで現在はもう立ち入り禁止なんだ |
| ルーティ | 困るのよ。シャングレイスに商品を納入するのにここを通れないと |
| 騎士団員4 | だからシャングレイス方面なら森を迂回して行ってくれと… |
| ルーティ | あんた、簡単に言うけどね。迂回したらどれだけ遠回りになるかわかってるの? |
| ルーティ | 商品には食べ物だってあるのよ!もし腐ったりしたら、白き獅子が弁償してくれるんでしょうね!? |
| 騎士団員4 | そうは言っても… |
| ルーティ | あー、もう、まどろっこしいわね。責任者を出しなさいよ |
| ファング | 俺が責任者だけど、どうしたんだ? |
| 騎士団員4 | ああ、ファング様!助かりました! |
| ルーティ | ファング様…って、随分と大物が出て来たわね。でも、こっちも商売だし、譲れないわ |
| ファング | 状況がわかんねぇんだけど、どうすりゃいいんだ? |
| ルーティ | シャングレイスまで急ぐのよ。だからこの森を通りたいの |
| ルーティ | この森はあたし達商人にとって重要な近道なのよ。急に封鎖なんて冗談じゃないわよ |
| ファング | うーん、悪いけどこればかりはラザリス様から強く言われてる事だからなぁ |
| ルーティ | ラザリス様が!?あんた、それを早く言いなさいよ。じゃあ絶対、ダメじゃない…困ったわ |
| ??? | 山道の方を通ったらどうかな? |
| ファング | ん?お前は… |
| ジーニアス | ごめん、立ち聞きするつもりはなかったんだけど、ボクもここを通りたくて |
| ジーニアス | それで、どうかな?山の方を通れば、森を迂回するよりはずっと早く着くと思うけど |
| ルーティ | でも山の方は魔物が出るでしょ?商品を守りながら魔物と戦うなんてそうそう出来る事じゃないわよ |
| ルーティ | まぁ、白き獅子が護衛でもしてくれるって言うのなら話は別だけど? |
| ファング | ああ、いいぞ! |
| ルーティ | ほんと!?やりぃ!言ってみるものね♪ |
| ジーニアス | 驚いたな…白き獅子のそれもファング様程の人が二つ返事なんて…! |
| ファング | だって、そうしないと困るんだろ? |
| ファング | 今回は護衛をつけるし、帰りまでに安全な道にしておくから、今後は山の方を通るようにしてくれ |
| ルーティ | それなら文句ないわ。交渉成立ね |
| ファング | じゃあ、お前、警護を頼めるか? |
| 騎士団員4 | はっ!承知いたしました! |
| ルーティ | よろしくねー♪ |
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| ファング | さて、問題は魔物退治か… |
| ジーニアス | あの、ファング様。それについて提案があるんですけど… |
| ファング | ファングでいいよ。話し方も普通でいい。堅苦しいの好きじゃないんだ |
| ジーニアス | 何だか恐縮だけど…そう言うなら… |
| ジーニアス | ファング。魔物を全部退治するっていうのは難しいと思うんだ |
| ファング | そうなのか? |
| ジーニアス | うん。あの山は魔物の巣になってるしちょっと追っ払って終わりってわけにいかない |
| ジーニアス | そこで提案なんだけど、退治するんじゃなくて人も共存させてもらうのはどうかな |
| ファング | きょうぞん…? |
| ジーニアス | というより、棲み分けだね |
| ジーニアス | まず山道に街道を敷くんだ。そうして、人が通る場所を明確にしておく |
| ジーニアス | 次に魔物達の餌場を用意する。そしたら魔物達は街道を避け、餌場の近くに住むようになるはず |
| ジーニアス | 安全な街道があれば人はそっちを通るから、この森の封鎖も上手く進むと思うよ |
| ファング | えーと、とにかく山の方に安全な道を作ったらみんな喜んで解決って事だな! |
| ファング | さっそく手配しよう! |
| ジーニアス | 本当に!?ボクの案を、白き獅子が採用してくれるの!? |
| ジーニアス | 何だか感激だなぁ…! |
| ファング | いい案なんだから採用して当然だろ? |
| ファング | 他にも何か思いついたら教えてくれ! |
| ジーニアス | 勿論!あ、そうだ。もう一つ提案があるんだけど… |
| ファング | お、何だ何だ? |
| ジーニアス | 街道を作るとなると、人員を割かなきゃいけないでしょ? |
| ジーニアス | だったら森を封鎖して柵を作るのも効率的に出来た方がきっといいよね |
| ファング | あーっ、そうか。そうだな。人が足りなくなるか… |
| ジーニアス | まさか、気が付いてなかった? |
| ファング | いや、何となく大変そうだと思ってはいたけど、まぁ頑張ればいいかって思って |
| ジーニアス | 頑張ってどうにかなるほど街道の敷設は簡単じゃないと思うけど… |
| ファング | とにかく対策があるんだろ?教えてくれよ |
| ジーニアス | うん。何か書くものを貸してくれる?図にして説明したいんだ |
| ファング | わかった。あっちに休憩所の小屋があるからそこで聞こう |
| | |
| ジーニアス | …と、こういう感じ。この形の物をたくさん作れば簡単に柵が建てられると思うんだ |
| ファング | すげぇな。でも簡単に作った柵だと簡単に壊されたりしないか? |
| ジーニアス | 大丈夫だよ。一度はめ込んでしまえば、ここがしっかり組み合わさるから… |
| ファング | おお、なるほどな! |
| ジーニアス | というわけで理論上はこれで上手くいくはずなんだ。ただ… |
| ファング | 何かあるのか? |
| ジーニアス | うん。この図面と同じ物をたくさん作るとなると、精工な型が必要なんだ |
| ジーニアス | 型さえ出来れば、材料は山に落ちてる鉱物が使えるから街道を作ってる内に集まるんだけど… |
| ファング | そういう事なら任せてくれ!俺こう見えて、そういう細工は得意なんだ! |
| ファング | バッチリ図面通りの型を作ってやるぜ! |
| ジーニアス | 本当!?それなら実現出来るよ! |
| ファング | よーし、じゃあ早速取り掛かるぜ! |
| ファング隊の重大任務 | scene2 |
| ファング | ここがジーニアスの言ってた山道だな |
| ジーニアス | うん。魔物さえいなければシャングレイスまで一番の近道なんだ |
| ジーニアス | …ねぇ、今更だけど本当にやるの?白き獅子とはいえ危険じゃないかな。通るだけならともかく… |
| ファング | 大丈夫だって。な、みんな? |
| 騎士団員1 | ええ。毎日厳しく鍛えられてますから |
| 騎士団員2 | ここを通るみんなのためにも頑張りますよ! |
| ファング | な?それに全滅させるわけじゃなく新しく作った餌場に移住してくれって頼むだけだし、大丈夫だって |
| ジーニアス | 頼むって…相手は魔物だよ?きっと戦闘になるよ |
| ファング | その時は戦えばいい。魔物だって自分を負かした相手に言われたら素直に移住してくれるって |
| ジーニアス | 縄張りをもつ野生動物の習性としてはその通りだけど… |
| ファング | ジーニアスの提案してくれた柵の作り方も、餌場の設置も、全部上手く行ってるんだ |
| ファング | 今度もきっと大丈夫。心配すんなって |
| ジーニアス | う、うん…!それじゃあ僭越ながらボクも一緒に魔物と戦うよ |
| ファング | いいのか?でも白き獅子として一般人を危険に晒すわけには… |
| ジーニアス | 大丈夫って言ったのはファングでしょ |
| ジーニアス | 森の封鎖に人員を割いてて魔物退治できる人は少ないんだから一人でも多い方がいいと思うし… |
| ジーニアス | 何より、提案者はボクだ。一般人かもしれないけど部外者じゃないよ |
| ファング | …だな。わかった。力を貸してくれ |
| ジーニアス | うん! |
| | |
| | グルルル── |
| | |
| ジーニアス | …!噂をすれば…! |
| ファング | みんな、戦闘準備だ! |
| 騎士団員達 | はっ! |
| ファング | たぁっ! |
| | バシュッ── |
| | グオオ… |
| ファング | くそ、キリがないな。もう何十匹も倒したってのに |
| ジーニアス | なら、これでまとめてやっつけるよ!詠唱するから時間を稼いで! |
| ファング | わかった! |
| ジーニアス | 悠久の時を巡る優しき風よ。我が前に集いて裂刃と成せ── |
| | ギギィィィィ──! |
| ジーニアス | …あれ? |
| ファング | 魔物が逃げてったぞ。ジーニアスの術に恐れをなしたのか? |
| ジーニアス | まさか── |
| | |
| | フォォォォ… |
| ファング | ん?何だ、今の声… |
| ジーニアス | これって、まさか…! |
| | |
| | フォォォォォォンッ!! |
| ファング | 何だ!?でっけぇ! |
| ジーニアス | 山の主だ!しかも、すごく怒ってる! |
| 騎士団員1 | ば、化け物だぁぁぁ…! |
| 騎士団員2 | こ、こんな奴と戦うのか…!? |
| ファング | 俺がやる!手負いの者は退避しろ! |
| | フォォォォォォンッ!! |
| ファング | 来る…!ジーニアス、援護頼めるか!? |
| ジーニアス | 任せて!ファイアーボール! |
| | ボンッ! |
| | フォォォッ!? |
| ジーニアス | 今だ、ファング! |
| ファング | 悪いけど、まずは大人しくなってもらうぜ! |
| ファング | この一撃で決める!くらえ!焔牙翔双斬!! |
| | ズバズバズバッ! |
| | フォォォォ… |
| | ドーンッ! |
| ジーニアス | 倒れた! |
| ファング | やべぇ、やりすぎちまったか? |
| | フォ、フォォォォ…! |
| ジーニアス | 起き上がったよ!何てタフなんだ…! |
| ファング | すげぇ、さすが山の主だな。けどちょっとは弱ってるみてぇだ。今なら…! |
| | フォォォォォォンッ!! |
| ファング | 待て!聞いてくれ!これ以上、戦いたくないんだ! |
| | フォ…? |
| ジーニアス | 無茶だよ、ファング。魔物に話が通じるわけない |
| ファング | わからねぇだろ。言葉は通じなくても、心は通じるかもしれねぇし |
| | |
| ファング | なぁ、山の主!これは魔物も人間も傷つけないために必要な事なんだ! |
| ファング | これから人間はこの山を通らせてもらわなきゃならない |
| ファング | 人と魔物が出会うって事は、人にとっても魔物にとっても危険な事なんだ |
| ファング | だから俺達で、魔物が安心して暮らしていけるような餌場を用意したんだ |
| ファング | 悪いけど、みんなでそっちに移住してほしい!頼む、わかってくれ! |
| | フォォ…… |
| ジーニアス | これってもしかして…ファングの言葉を聞いてる…? |
| | フォォォォォォォォッ!!! |
| ジーニアス | わっ、な、何!? |
| ファング | どうしたんだ、急に叫び出したぞ! |
| | フォォォォォォォォッ!!!フォォ、フォォォォン!! |
| | |
| | ズシーン、ズシーン |
| | |
| ジーニアス | 歩いて行っちゃった… |
| ファング | 見ろ、気持ちが通じたんだ!きっとあの雄叫びは、魔物達に移住の事を知らせてるんだぜ! |
| ジーニアス | ほ、ほんとなの…!? |
| ファング | ああ!これで問題は全部解決だ! |
| | |
| ジーニアス | 街道も随分完成してきたけど…本当に魔物は出てこないね |
| ファング | だから言っただろ?気持ちが通じたんだって |
| ファング | 工事が終わったら、山の主のとこに礼を言いに行かなきゃな |
| ジーニアス | もう、まるで友達だね |
| ファング | 友達か。魔物と友達になれたら、面白そうだな! |
| ジーニアス | ファングが言うと冗談に聞こえないよ |
| ジーニアス | ふふ…それにしてもファングって変な人だよね |
| ファング | 何だよ。悪かったな |
| ジーニアス | いや、悪い意味じゃなくてさ。白き獅子の偉い人なのに、全然そんな感じしないなって |
| ファング | どういう意味だ? |
| ジーニアス | ボク、ファングと会うまで白き獅子って、もっと雲の上の存在だと思ってたんだ |
| ジーニアス | だからボクみたいな一市民の提案をここまで採用してくれるとは思わなかった |
| ジーニアス | 呼び捨てでいいって言ってくれた時は誰とでも仲良くなれる人なんだって尊敬したぐらいだったけど… |
| ジーニアス | ついに魔物とまで友達になっちゃうんだもん。驚いたよ |
| ファング | 何だよ。それって全部、ジーニアスが考えた作戦のお蔭じゃないか |
| ジーニアス | さすがに友達になるのは作戦に入ってなかったよ |
| ファング | ま、いいじゃないか。お蔭で街道が出来てみんな喜んでるし |
| ファング | …それにしても、ここを通ってシャングレイスに行く人、増えてないか? |
| ジーニアス | きっとみんな、生誕祭に行くんだよ。ボクもそのつもりで森を通りかかったし |
| ファング | 生誕祭って、まだ何日も先だろ? |
| ジーニアス | うん。だけどせっかくだから早めに行ってシャングレイスを観光したいと思ってさ |
| ファング | なるほどなー。随分と長い間引き留めちまって悪かったな |
| ジーニアス | ううん。ファングと仲良くなれたし、よかったよ |
| ジーニアス | でも、そろそろ行くね。名残は尽きないけど… |
| ファング | 寂しくなるな。でも、また会えるさ |
| ジーニアス | あ、そっか。生誕祭の時にはさすがにシャングレイスに戻るもんね |
| ファング | その時はさすがに警備とかで会ってる時間はねぇかもしれないけど |
| ファング | 生誕祭、楽しんでくれよな |
| ジーニアス | うん。それじゃあ、またね! |
| クロー隊の極秘任務 | scene1 |
| レイヴン | よーう。来たね |
| クロー | 話って何だ。あんま時間取れねぇぞ |
| レイヴン | まぁ、そうつれない事言わないでここの新作パフェでも食べなよ。もう注文しといたからさ |
| クロー | あのなぁ、おっさん… |
| レイヴン | 生誕祭に向けて作ったラザリス様パフェだと。美味しいって評判よ? |
| クロー | こっちの話は聞く気なしかよ。ったく… |
| レイヴン | 聞いても一緒。甘い物、嫌いじゃないでしょ? |
| クロー | まぁな。ただし、パフェを食べ終わるまでだ |
| クロー | それまでに用件を言わねぇとすぐに帰るからな |
| レイヴン | はいはい |
| クロー | ところで、どうしてテラス席なんだ?これでも有名人なんだ、出来れば人目を避け── |
| | |
| | ガシャーン! |
| | |
| クロー | 何の音だ!? |
| レイヴン | さぁねぇ。店内で誰かが暴れてんじゃない?ほら、この店ってお酒も出してるし |
| クロー | …最初からその酔っ払いをオレに取り押さえさせる魂胆か。普通に通報すりゃいいのに |
| レイヴン | 普通に通報出来るなら、この店の店員も、何でも屋に相談なんてしないでしょ |
| クロー | わけありか。…オレは止めに入ってもいいのか? |
| レイヴン | よろしく頼むよ、クロー様 |
| クロー | ったく。後で事情は聞かせてもらうからな! |
| | |
| クロー | …つまり、夜勤を終えた神兵が毎日ここで酔って暴れてた…と |
| レイヴン | そう。んで、相手は士官らしいから、通報しても揉み消されるかもって店員は悩んでたわけよ |
| クロー | 白き獅子に通報すりゃよかったんだ。神兵とは指揮関係が違うからな。士官だとしても関係ない |
| クロー | 神兵はヴァン宰相が指揮を執るシャングレイスの衛兵で、白き獅子は、ラザリス様直属の騎士 |
| クロー | オレ達はヴァン宰相や神兵とはほとんど無関係なんだぞ |
| レイヴン | そうかもしんないけど、世間一般にその違いはなかなか理解出来ないもんよ |
| クロー | おまえは理解してんだろ?どうして最初から言わなかった |
| レイヴン | 事情を話してても、クロー様が直々に来てくれたわけ? |
| レイヴン | 相手が神兵の士官って事に店員は不安を感じてるんだからもっと上の味方が必要でしょうよ |
| クロー | ……なるほどな。よく考えりゃ、あいつ一人ぐらいならレイヴンだけで取り押さえられるか |
| レイヴン | ノーマちゃんが言ってたのよね。何でも屋の仕事は、悩みを解決する事── |
| レイヴン | だから事件だけ解決しても悩みや不安が残ってちゃ意味がないってさ |
| クロー | 事情はよくわかった。レイヴン、おまえのやり方もな |
| レイヴン | …ホントにそう? |
| クロー | ああ。オレを引っ張り出すためにはとんでもねぇ搦め手を使いやがる |
| クロー | …パフェがまだ来ねぇ。おまえ、注文してないだろ |
| クロー | オレが、パフェを食い終わるまでは話を聞くって言ったからか?まだ何かあるんだな |
| レイヴン | あらら、お見通しなのね。ホントにおっさんのやり方、理解されてるわ |
| クロー | 回りくどい事はやめろ。オレは忙しいんだ |
| | |
| レイヴン | その忙しいのって…今度連行されてくるっていう咎人のせい? |
| | |
| クロー | ……レイヴン。どうしてその情報を |
| レイヴン | それを今から説明するんだけど、ここで話しても大丈夫? |
| クロー | …機密事項だ。何でも屋の事務所で聞こうか |
| レイヴン | あいよ。一名様、ご案内~…っと |
| | |
| レイヴン | ま、散らかってるけど入った入った |
| クロー | 散らかってるのはいつもの事だろ |
| クロー | …ん? |
| ??? | あっ… |
| レイヴン | 彼女はセレスちゃん。今回の依頼人よ |
| レイヴン | セレスちゃん、お待たせ。この人は…まぁ知ってるわよね |
| セレス | はい。でもまさか、本当に来ていただけるとは思いませんでしたわ |
| クロー | 一体、どういう事なんだ? |
| レイヴン | じゃ、単刀直入に。今度連行されてくる咎人… |
| レイヴン | 名前はゼロス…赤髪の青年で間違いないわね? |
| クロー | ………… |
| セレス | あの方は…ゼロスは… |
| セレス | 私の恩人なのですわ |
| クロー | ………… |
| セレス | えっと… |
| レイヴン | 大丈夫、話続けて。こう見えて偉~い騎士様って立場上肯定も否定も出来ないだけだから |
| クロー | 別に偉ぶってるつもりはねぇよ |
| レイヴン | ほら、文句がある時はすぐ言うでしょ。黙ってる間は話してていいのよ |
| セレス | わかりましたわ |
| クロー | はぁ、もういい。そこまでぶっちゃけられたら黙ってる意味なんてねぇだろ |
| クロー | でも先にはっきり言っておくぞ。恩人だろうと何だろうと咎人は咎人だ |
| クロー | 見逃してくれって話なら悪い事は言わねぇから、何も言わないまま帰った方がいい |
| セレス | いえ、違います。そこは私も理解していますわ。ラザリス様のお達しですから |
| セレス | 辛い事ですが、あの方は咎人になってしまわれた…それは受け入れたつもりですわ |
| クロー | それじゃあ、何だってんだ? |
| セレス | 私、あの方に命を助けられたんですの |
| セレス | 魔物に襲われて…逃げようとしたのですけれど咳込んで走れなくなってしまって… |
| セレス | その時でしたわ。あの方が身を挺して助けてくれたんですの |
| セレス | けれど…私はそのまま倒れてしまってちゃんとお礼も言えなかったんですの |
| セレス | 体調が快復してから調べて回ってやっと見つけたと思ったら咎人として捕まっていて… |
| セレス | お礼を言いたくても咎人と話してはいけないって近づく事さえ許されませんでしたわ |
| レイヴン | そこで何でも屋に相談に来たわけ。クロー様の権限で何とかならない? |
| クロー | 事情はわかったし同情はするがこればかりは聞けねぇな |
| クロー | 咎人との会話禁止ってのもラザリス様からのお達しだ。白き獅子として許容は出来ない |
| レイヴン | あら?それって正確には「咎人の声に耳を傾けてはいけない」じゃなかった? |
| レイヴン | あと「咎人と接触してはいけない」…咎人にこちらの声を聴かせてはならないとは言われてないよねぇ |
| クロー | …何が言いたい |
| レイヴン | じゃあ、例えば、咎人が連行される通り道の近くに、偶然、セレスちゃんがいて… |
| レイヴン | 咎人が通るタイミングで、偶然、セレスちゃんが大声でお礼の言葉を叫んだとして |
| レイヴン | それが咎人の耳に入ったら何か問題がある? |
| クロー | おい、レイヴン |
| セレス | どうなんですの?問題あるんですの?はっきり言ってください! |
| クロー | さっき、はっきり言っただろ。白き獅子として許可は出来ないって |
| レイヴン | あら?あらら?おっかしいわねぇ |
| レイヴン | 道端でお礼の言葉を叫ぶのに白き獅子の許可が必要なんだっけ?知ってた、セレスちゃん? |
| セレス | 私も初耳ですわ |
| クロー | はぁ…わかったよ、勝手にしろ。オレは何も聞いてねぇ。おまえ達が勝手に叫ぶだけだ |
| クロー | ま、でかい声が出るよう発声練習しとくんだな |
| クロー | 明後日、ちょうど今ぐらいの時間に東の三番通りあたりなら大声出すのにぴったりなんじゃねぇか |
| レイヴン | 東の三番ね。ありがとさん |
| クロー | じゃ、オレは咎人を迎え入れる準備で忙しいんだ。またな |
| セレス | あっ…帰ってしまわれましたわ |
| レイヴン | いいんでない?必要な情報はもうもらったし |
| レイヴン | 明後日、晴れるといいわね |
| セレス | 明後日…?あっ… |
| セレス | はい! |
| クロー隊の極秘任務 | scene2 |
| クロー | どういう事だ |
| ヴァン | 今言った通りだ。今日の咎人の護送は私の率いる神兵が行う |
| クロー | 白き獅子の仕事だ。そのための厳しい訓練も受けている。宰相も受けていたとは知らなかったぜ |
| ヴァン | …あの咎人は普通ではない。特別に保護せねばならんのだ |
| クロー | 天帝からそんな話は聞いていないが |
| ヴァン | 今、私が伝えた。それで充分だろう |
| クロー | 護送ルートの選定や人員配置、その他諸々、こっちは何日も前から準備してきてんだ |
| クロー | はいそうですかって渡せるわけねぇだろ? |
| ヴァン | 急ごしらえではあるがこちらも護送計画を立てている。この書類を見るといい |
| クロー | ………… |
| ヴァン | まだ何か問題があるか? |
| クロー | (準備は万全のようだな。 文句のつけようがねぇ。 ただ…) |
| クロー | (ヴァンのルートだと 東の三番は通らねぇな…) |
| ヴァン | 何もないならいいだろう。このまま引継ぎを… |
| クロー | いや、問題はある |
| ヴァン | 何? |
| クロー | 咎人との接触は堅く禁じられている。例え宰相といえどそれは同じだ |
| クロー | それに白き獅子では、咎人を天帝以外に引き渡さないよう決めている |
| クロー | 少なくとも事情が何も説明されてねぇ今の段階で宰相に咎人を引き渡す道理はねぇ |
| ヴァン | ………… |
| クロー | おいおい、そんな怖い目で見ないでくれよ。こっちも規則なんだって |
| | |
| ??? | うおーい、大変だー! |
| ??? | 咎人が逃げたぞー! |
| | |
| ヴァン | 何!? |
| クロー | (…! あの声…) |
| ヴァン | ふん、だから白き獅子には任せられぬのだ |
| ヴァン | 神兵は私に続け |
| 神兵達 | はっ! |
| 騎士団員1 | クロー様!我々も行きましょう! |
| クロー | いや、持ち場を離れるな。全員にそう伝えろ |
| 騎士団員1 | しかし…! |
| クロー | よく考えろ。事前の計画では、到着時に伝令が来る手はずだっただろ |
| クロー | 咎人は本当に到着していたのか? |
| 騎士団員1 | す、すぐに確認します! |
| クロー | (さっきの声…何でも屋のノーマと レイヴンだったよな…) |
| クロー | (まったく、無茶な事してくれるぜ) |
| 騎士団員2 | クロー様!報告です!たった今、咎人が到着したと伝令が! |
| クロー | やっぱり、まだだったか |
| 騎士団員2 | はい。勿論、逃げ出した事実はありません。しかし、それならこの騒ぎは一体… |
| クロー | 大丈夫だ。混乱を治めるから、話を合わせるよう全員に通達してくれ |
| 騎士団員2 | はっ! |
| クロー | さて…と |
| クロー | みんな、落ち着いてくれ!咎人は白き獅子が捕えた!もう大丈夫だ! |
| | ザワザワザワ── |
| クロー | 咎人はこのまま『予定通り』に白き獅子が護送する!近づかないよう、道を空けてくれ! |
| 騎士団員3 | クロー様。ヴァン宰相の事はよろしいのですか |
| クロー | ああ。咎人の護送は速やかに行え。宰相には話をつけてくる |
| 騎士団員3 | 承知いたしました! |
| クロー | さて…と。結局、オレが貧乏くじか |
| | |
| ヴァン | …騒ぎが収まったようだな。どうやら先を越されたか… |
| クロー | よう、宰相。咎人の件は片付いたぜ。今、予定通り護送中だ |
| ヴァン | クロー。一時的とはいえ咎人を逃した責任は重いぞ。今からでも我々に引き渡すのだ |
| クロー | そもそも逃げられてねぇよ。あの騒ぎはイタズラだったみてぇだぜ |
| ヴァン | 何…? |
| クロー | いろいろ計画立てたって言ったろ。こまめな伝令計画のお蔭で誰かさんみてぇに慌てずに済んだぜ |
| ヴァン | ………… |
| クロー | つーわけで、護送は引き続きオレの隊で行うって事で、異論はないよな、宰相? |
| ヴァン | くっ… |
| | |
| 騎士団員1 | もうすぐ宮殿だ。大人しく歩けよ |
| ゼロス | ………… |
| 騎士団員2 | しかし回り道だよなぁ。人通りの少ないところを選ぶ必要があったとはいえ… |
| 騎士団員1 | おい、ぼやくな。これは最重要任務だ、気を引き締めろ |
| 騎士団員2 | ああ、悪い |
| | |
| セレスの声 | ゼーロースーさーまー!!! |
| ゼロス | …!? |
| 騎士団員1 | 誰だ!?咎人に話しかけるな! |
| 騎士団員2 | どこだ、姿が見えないぞ!? |
| | |
| セレスの声 | 私、どうしてもお伝えしたかったんです! |
| ゼロス | (この声…まさか…) |
| セレスの声 | 助けてくださって──…けほっけほっ…! |
| ゼロス | (セレス…! 無理するな! 聞こえてるから…!) |
| セレスの声 | ありがとうございました! |
| ゼロス | (セレス…!) |
| 騎士団員1 | おい、やめろ!話しかけるな! |
| 騎士団員2 | 咎人、絶対に返事をするなよ! |
| ゼロス | (わかってる…。 セレスを咎人と会話した罪人に するわけにいかねぇもんな) |
| ゼロス | (セレス…ありがとな。 けど…今のお前は本当のセレスじゃ ねぇんだよな) |
| ゼロス | (俺は捕まっちまったけど… まだスレイ達が残ってる) |
| ゼロス | (必ず世界を取り戻して… 今度は元通りになったセレスに もう一度言ってもらうぜ…!) |
| 騎士団員1 | …もう声は聞こえないみたいだな |
| 騎士団員2 | 急ごうぜ。また何かあったら面倒だ |
| 騎士団員1 | ああ。ほら、さっさと歩け |
| ゼロス | ………… |
| ゼロス | (ありがとな、セレス…) |
| | |
| レイヴン | …ってわけで、上手く行ったわよ。セレスちゃんがお前に「ありがとう」だってさ |
| クロー | オレは任務をこなしただけだ。礼を言われる道理はねぇよ |
| レイヴン | じゃあ、パフェも奢らなくていい? |
| クロー | それは別の話だ。これはおっさんが奢るって言ったんだからな |
| レイヴン | へいへい |
| 店員 | お待たせいたしました。ラザリス様パフェとサバみそ定食でございます |
| レイヴン | サバみそはこっちね!いただきまーす! |
| クロー | パフェにしなくてよかったのか? |
| レイヴン | いいの。昼食まだだったし。これでも結構、忙しいのよ |
| クロー | ふうん。ま、いいけど。…ん?このパフェ、えらく豪華だな |
| 店員 | 当店からのサービスです。あの…クロー様。先日は本当にありがとうございました |
| クロー | 何、あれも仕事の内だ。その後、どうだ?酔っ払いはまだ来るのか? |
| 店員 | はい、謝りに来てくださいました。それに、もうお酒は飲まれません。禁酒してくださるそうです |
| 店員 | 今ではいい常連さんですよ |
| クロー | そいつはよかった |
| レイヴン | でも、もうすぐ生誕祭でしょ?他の街から来る人も増えてるし、羽目を外し過ぎる人も出てくるかもよ |
| クロー | そん時は、その神兵の士官が何とかすんだろ。罪滅ぼしにもなるしな |
| レイヴン | それもそうね |
| 店員 | ふふ。ではごゆっくりどうぞ |
| レイヴン | ありがとね~ |
| レイヴン | …なぁ、クロー様よ。おっさんずっと気になってたんだけど |
| クロー | 何だ? |
| レイヴン | 騎士団をやめて、何でも屋になる気はない?そっちの方が合ってる気がするのよね |
| クロー | はぁ?本気で言ってんのか? |
| レイヴン | 本気よ。じゃないと、パフェを奢ったりしないって |
| クロー | ふーん。なら、真面目に答えるとするか |
| クロー | 確かに何でも屋の活動は面白そうだなって思うぜ。性に合ってそうな気もする |
| クロー | でも、天帝の下で市民を守るっていう今の活動にも不満はねぇんだ |
| クロー | 筋の通らねぇ事をする偉いやつにガツンと言ってやれる立場ってのも捨てがたいしな |
| レイヴン | それって酔っ払いの士官の話?それとも、この前の宰相様? |
| クロー | さぁな。ま、いずれにせよ… |
| クロー | 何でも屋には、おまえがいる。ならオレは騎士団でいいじゃねぇか |
| レイヴン | なるほどね。わかったよ、ダメ元だったし、勧誘はスッパリ諦めましょう |
| クロー | さて、パフェご馳走さん!また何かあったらよろしくな |